説明

発火温度測定装置および発火温度測定方法

【課題】酸素濃度が空気とは異なる条件下で試料の発火温度を測定し得る発火温度測定装置および発火温度測定方法を提供する。
【解決手段】試料が投入されるフラスコと、フラスコを加熱するフラスコ加熱手段と、フラスコ内の温度を測定する温度測定手段と、フラスコ内の炎の有無を検出する炎検出手段と、を備える発火温度測定装置であって、更に、フラスコ内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の発火温度を測定するための発火温度測定装置および発火温度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体状または固体状の試料の発火温度を測定するために、標準試験法に準拠した発火温度測定装置および発火温度測定方法が用いられている(例えば、非特許文献1のASTM E659−78参照)。
【0003】
従来の発火温度測定装置は、図2に示すように、フラスコ102、フラスコ102を所定の温度にまで加熱する加熱炉103、フラスコ102の内部温度を測定・記録する熱電対104、熱電対104の電位差を記録する電位差記録計105、フラスコ102内に試料を導入するための注射器106、および、フラスコ102内の炎の有無を確認するための鏡108を備えている。
【0004】
上記従来の発火温度測定装置では、注射器106または漏斗(図示せず)を用いて、加熱されたフラスコ102の上部から当該フラスコ102内へ、試料が投入される。そして、当該試料は、フラスコ102内で加熱される。
【0005】
フラスコ102内の温度が上昇するに従って試料中の成分が蒸発し、気化した当該成分と空気とが混合気体を形成する。フラスコ102内の温度が十分に高い場合には、上記混合気体が発火する。つまり、フラスコ102内の温度が急激に上昇するとともに、フラスコ102内で炎が発生する。一方、フラスコ102内の温度が低い場合には、上記混合気体は発火しない。
【0006】
フラスコ102内の温度が急激に上昇することは、熱電対104によって観測される。一方、炎が発生することは、鏡108によって観測される。つまり、熱電対104および鏡108によって、発火の有無が観測される。そして、上記従来の発火温度測定装置では、加熱炉103によってフラスコ102を様々な温度に設定し、各条件下で試料の発火の有無を観測することによって、試料の発火温度を測定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ASTM規格E659−78、液体薬品の自然発火温度に関する標準試験方法(刊行日:1978年11月、再認可日:1989年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の発火温度測定装置および発火温度測定方法は、空気中での試料の発火温度の測定はできるが、酸素濃度が空気とは異なる条件下で試料の発火温度を測定することができないという問題点を有している。
【0009】
上述した非特許文献1は、米国材料試験協会(ASTM)によって定められた液体薬品の自然発火温度に関する標準試験方法を記載している(非特許文献1のASTM E659−78参照)。そして、当該非特許文献1には、空気中で試料の発火温度を測定する方法が、試料の発火温度を測定するための標準試験方法として記載されている。
【0010】
従来の発火温度測定装置は、非特許文献1に記載されているように空気中での試料の発火温度を測定することを前提にしているので、酸素濃度が空気とは異なる条件下(空気よりも酸素濃度が低い条件下、または、空気よりも酸素濃度が高い条件下)で試料の発火温度を測定することができる構成にはなっていない。
【0011】
しかしながら、空気以外の条件下にて試料の発火温度を測定することは、試料を安全に取り扱う上で非常に重要である。
【0012】
例えば、酸素濃度が空気とは異なる条件下における試料の発火温度を測定できれば、酸素濃度が空気とは異なる条件下で試料を取り扱う必要のある化学プロセスにおいて、当該化学プロセスの温度を調節することによって、化学プロセスの安全性を確保することが可能となるからである。
【0013】
また、所定の温度条件下における試料の発火に必要な最低の酸素濃度(限界酸素濃度)を測定できれば、所定の温度条件下を試料が通過する化学プロセスにおいて、当該化学プロセスに関与する気体の酸素濃度を調節することによって、試料の発火に起因する火災または爆発等のトラブルを防止することができるからである。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、酸素濃度が空気とは異なる条件下で試料の発火温度を測定し得る発火温度測定装置および発火温度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発火温度測定装置は、上記課題を解決するために、試料が投入されるフラスコと、上記フラスコを加熱するフラスコ加熱手段と、上記フラスコ内の温度を測定する温度測定手段と、上記フラスコ内の炎の有無を検出する炎検出手段と、を備える発火温度測定装置であって、上記フラスコ内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段を備えることを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、酸素濃度調節手段によってフラスコ内の酸素濃度が所望の濃度に調節される。当該フラスコはフラスコ加熱手段によって加熱され、当該フラスコ内へ試料が投入される。つまり、所望の酸素濃度条件下および温度条件下にて、試料が加熱される。なお、上記温度測定手段によって、フラスコ内の温度が測定される。
【0017】
フラスコ内の温度および酸素濃度に応じて、フラスコ内の試料は発火する。そして、試料の発火は、フラスコ内の急激な温度上昇と、フラスコ内の炎の発生とを引き起こす。フラスコ内の急激な温度変化は、上記温度測定手段によって測定され、フラスコ内の炎の発生は、上記炎検出手段によって検出される。そして、急激な温度上昇と炎の発生との両方が観察された時が、試料が発火した時となる。
【0018】
上述したように、温度測定手段によってフラスコ内の温度が測定されているので、少なくとも試料が発火する前後のフラスコ内の温度を測定することができる。そして、急激な温度上昇と炎の発生とが観察された場合、試料投入時のフラスコ内の温度が、試料の発火温度として検出される。
【0019】
本発明の発火温度測定装置では、上記酸素濃度調節手段は、酸素濃度が調節された気体を上記フラスコ内に導入するものであることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、フラスコ内の酸素濃度を容易に調節することができる。
【0021】
本発明の発火温度測定装置では、上記酸素濃度が調節された気体は、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1つと酸素との混合気体であることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、混合気体中に含まれる酸素以外の成分を、不活性ガスにすることができる。そして、不活性ガスは試料を発火させる作用がないので、上記構成であれば、ある温度において試料を発火させるために必要な酸素濃度を正確に測定することができる。また、上記構成によれば、酸素濃度が空気よりも低い条件下における試料の発火温度を測定することができる。
【0023】
本発明の発火温度測定装置は、上記フラスコ内に導入される前の前記酸素濃度が調節された気体を加熱するための気体加熱手段を備えることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、予め加熱された気体をフラスコ内に導入することができる。それ故、フラスコ内の試料近傍に存在する気体の温度が低下することを防止することができるので、試料の発火温度を正確に測定することができる。
【0025】
本発明の発火温度測定装置は、上記フラスコ内に導入される上記酸素濃度が調節された気体の量を調節するための気体流量調節手段を備えることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、フラスコ内に導入する気体の量を調節することができるので、フラスコ内の酸素濃度を一定に維持することができる。また、上記構成によれば過剰量の気体がフラスコ内へ導入されることを防止することができるので、その結果、フラスコ内の温度が低下することを防止することができる。
【0027】
本発明の発火温度測定装置は、上記フラスコ内の酸素濃度を測定するための酸素濃度測定手段を備えることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、フラスコ内の気体の酸素濃度を測定することができるので、フラスコ内の気体の酸素濃度を所望の濃度に維持することができる。例えば、酸素濃度測定手段の測定結果に基づいて上述した酸素濃度調節手段または気体流量調節手段などの動作を制御すれば、更に正確に試料の発火温度を測定することができる。
【0029】
本発明の発火温度測定方法は、上記課題を解決するために、フラスコを加熱する工程と、上記フラスコ内の酸素濃度を調節する工程と、上記フラスコ内に試料を投入する工程と、上記試料が発する炎を検出する工程と、上記フラスコ内の温度を測定する工程と、を含むことを特徴としている。
【0030】
上記構成によれば、フラスコ内の酸素濃度が所望の濃度に調節される。当該フラスコは加熱されるとともに、当該フラスコ内へ試料が投入される。つまり、所望の酸素濃度条件下および温度条件下にて、試料が加熱される。なお、フラスコ内の温度は、少なくとも試料が発火する前後において測定されている。
【0031】
フラスコ内の温度および酸素濃度に応じて、フラスコ内の試料は発火する。そして、試料の発火は、フラスコ内の急激な温度上昇と、フラスコ内の炎の発生とを引き起こす。そして、上記構成によれば、フラスコ内の急激な温度上昇とフラスコ内の炎の発生とを測定することができるので、試料が発火したことを検知することができる。そして、急激な温度上昇と炎の発生とが観察された場合、試料投入時のフラスコ内の温度が、試料の発火温度として検出される。
【0032】
本発明の発火温度測定方法では、上記フラスコ内の酸素濃度を調節する工程では、酸素濃度が調節された気体が上記フラスコ内へ導入されることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、フラスコ内の酸素濃度を容易に調節することができる。
【0034】
本発明の発火温度測定方法では、上記酸素濃度が調節された気体は、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1つと酸素との混合気体であることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、混合気体中に含まれる酸素以外の成分を、不活性ガスにすることができる。そして、不活性ガスは試料を発火させる作用がないので、上記構成であれば、ある温度における試料を発火させるために必要な酸素濃度を正確に測定することができる。また、上記構成によれば、酸素濃度が空気よりも低い条件下における試料の発火温度を測定することができる。また、上記構成によれば、ある温度において試料が発火し難い酸素濃度を容易に決定することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の発火温度測定装置は、以上のように、試料が投入されるフラスコと、上記フラスコを加熱するフラスコ加熱手段と、上記フラスコ内の温度を測定する温度測定手段と、上記フラスコ内の炎の有無を検出する炎検出手段と、を備える発火温度測定装置であって、上記フラスコ内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段を備えるものである。
【0037】
本発明の発火温度測定方法は、以上のように、フラスコを加熱する工程と、上記フラスコ内の酸素濃度を調節する工程と、上記フラスコ内に試料を投入する工程と、上記試料が発する炎を検出する工程と、上記フラスコ内の温度を測定する工程と、を含む方法である。
【0038】
それ故、酸素濃度が空気とは異なる条件下での各種試料の発火温度を測定することができるという効果を奏する。
【0039】
また、本発明はフラスコ内の温度を固定した状態で酸素濃度を変化させることができるので、特定の温度条件下で試料が発火する最低の酸素濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明における発火温度測定装置の実施の一形態を示す模式図である。
【図2】従来の発火温度測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の一実施形態について図1に基づいて説明すれば以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
〔1.発火温度測定装置〕
図1に示すように、本実施の形態の発火温度測定装置は、大まかにいえば、試料が投入されるフラスコ2、フラスコ2を所定の温度にまで加熱する加熱炉3(フラスコ加熱手段)、フラスコ2内の温度を測定する熱電対4(温度測定手段)、フラスコ2内の炎の有無を検出する窓22(炎検出手段)、フラスコ2内の酸素濃度を調節するための酸素濃度調節部1(酸素濃度調節手段)、フラスコ2内の酸素濃度を測定するための酸素センサー12(酸素濃度測定手段)、フラスコ2内に導入される気体の量を調節するためのバルブ10(気体流量調節手段)、バルブ17、および、フラスコ2内に導入される前の気体を加熱するための気体加熱器11(気体加熱手段)を備えている。以下に、各構成について説明する。
【0043】
上記フラスコ2としては特に限定されず、その内部で試料を発火させることが可能であるとともに、他の構成を適切に配置できるものであればよい。
【0044】
上記フラスコ2の形状としては特に限定されないが、丸底フラスコを用いることが好ましい。上記構成であれば、フラスコ2内の試料を均一かつ効果的に加熱することができる。
【0045】
上記フラスコ2の材質としては特に限定されないが、例えば、硼珪酸ガラスまたは石英ガラスであることが好ましい。上記構成は耐熱性および透明性が高いので、非常に高温にまで加熱することができ、また、透明であるので、フラスコ2内の炎の有無を目視することが容易となる。
【0046】
上記フラスコ2の容量としては特に限定されないが、例えば、300mL、500mL、1000mL、2000mL、3000mLまたは5000mLであることが好ましい。上記構成であれば、フラスコ2内の温度を容易に制御することができる。
【0047】
上記フラスコ2の外表面を、アルミ箔で覆うことも可能である。上記構成によれば、フラスコ2内の温度を、より一定に維持することができる。
【0048】
上記加熱炉3としては特に限定されず、フラスコ2を所定の温度にまで加熱することができるものであればよい。例えば、上記加熱炉3としては、フラスコ2を600℃以上の温度にまで加熱し得るものであることが好ましい。
【0049】
上記加熱炉3の更に具体的な構成は、例えば、350℃以下の温度において、フラスコ2内の温度を、±1℃以下の誤差範囲内で制御可能な構成であることが好ましい。また、350℃以上の温度において、フラスコ2内の温度を、±2℃以下の誤差範囲内で制御可能な構成であることが好ましい。また、上記加熱炉3は、上記異なる温度範囲の制御の両方をなし得るものであることが好ましい。上記構成によれば、試料の発火温度をより正確に測定することができる。
【0050】
上記加熱炉3の更に具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、電気加熱炉またはサンドバスであることが好ましいが、これらに限定されない。
【0051】
例えば、図1に示すように、加熱炉3は、加熱器20および送風器21を備えるものであることが好ましい。上記加熱器20は加熱炉3の内部を加熱するための構成であって、その具体的な構成は特に限定されない。加熱器20としては、適宜公知のヒーターを用いることが可能である。また、上記送風器21は、加熱炉3の内部の気体を循環させるための構成であって、その具体的な構成は特に限定されない。送風器21としては、適宜公知の送風器を用いることが可能である。
【0052】
図1に示すように、フラスコ2内には、当該フラスコ2の開口部を介して熱電対4が挿入されている。そして、当該熱電対4によってフラスコ2内の温度が測定されている。なお、当該フラスコ2内の温度の測定は、少なくとも試料の発火直前から発火直後にかけてのフラスコ2内の温度がわかるように行われればよい。そして、試料の発火時にはフラスコ2内で炎が検出されるとともにフラスコ2内の温度が急激に上昇するが、当該熱電対4によって測定された試料投入時のフラスコ2内の温度が、試料の発火温度として認識され得る。
【0053】
上記熱電対4はフラスコ2内の温度を正確に測定できるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。上記熱電対4としては、例えば、クロメル−アルメル熱電対を用いることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2内の温度を正確に測定することができる。
【0054】
上記熱電対4の直径は特に限定されないが、可能な限り細いことが好ましい。例えば、少なくともフラスコ2の開口部に配置される部分の直径が0.5mm以下である熱電対4を用いることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2内の温度を正確に測定することが可能であるとともに、他の構成(例えば、別の熱電対4や後述する注射器6など)を設けることが容易になる。
【0055】
1つのフラスコ2内に設けられる熱電対4の数は特に限定されず、複数設けることも可能である。例えば、熱電対4がフラスコ2の底面、側面、および頸部の各々の近傍に存在するように(換言すれば、各々に隣接するように)、少なくとも3つの熱電対4が設けられることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2内の温度をより正確に測定することができる。
【0056】
本実施の形態の発火温度測定装置では、上記熱電対4は、補償導線を介して記録装置5に接続されていることが好ましい。上記構成によれば、随時フラスコ2内の温度を測定・記録することができるので、試料の発火温度を正確に知ることができる。なお、上記記録装置5は熱電対4によって測定されたフラスコ2内の温度を記録できるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。
【0057】
本実施の形態の発火温度測定装置では、フラスコ2内の炎の有無を検出する炎検出部(炎検出手段)が設けられている。当該炎検出部の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、炎の有無をフラスコ2内の輝度の変化に基づいて判定し得るものであることが好ましい。
【0058】
例えば、上記炎検出部は、加熱炉3の壁面に設けられるとともに、加熱炉3の内部が観察可能な程度に透明な窓22であることが好ましい。上記構成によれば窓22を介して加熱炉3内のフラスコ2を観察することができるので、フラスコ2内の炎の有無を目視によって容易に判定することが可能となる。窓22の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、耐熱性の高い透明な材料(例えば、硼珪酸ガラスや石英)によって形成されていることが好ましい。上記構成であれば、フラスコ2の温度を所望の温度に保ちながら、試料の発火の有無を容易に検出することができる。
【0059】
上記炎検出部の別の構成としては、例えば、鏡(図示せず)を用いることも可能である。炎検出部として鏡を用いる場合には、フラスコ2内を観察することができるように、上記鏡をフラスコ2の開口部の上に設けることが好ましい。上記構成によれば、鏡を介して発火の有無を容易に検出することができる。
【0060】
上述した窓22および鏡を用いる場合には、炎の有無を目視にて確認するもとが可能であるが、窓22または鏡を介して検出されるフラスコ2内の輝度の変化を公知の輝度測定装置を用いて確認することも可能である。なお、上記輝度測定装置の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0061】
本実施の形態の発火温度測定装置には、フラスコ2内へ試料を投入するための注射器6が備えられていることが好ましい。上記構成によれば、安全かつ確実に、フラスコ2内へ適量の試料(特に、液体状の試料)を投入することができる。
【0062】
上記注射器6としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。例えば、500μL容量または1000μL容量の注射器を用いることが可能であるが、これらに限定されない。また、上記注射器6に接続された針を介して、当該注射器6からフラスコ2内へ試料が投入されるが、当該針を45度〜90度曲げることも可能である。上記構成によれば、フラスコ2の開口部の真上に注射器6が配置されることが無い。その結果、注射器6および当該注射器6の操作者の指を、上記開口部から漏れ出る高温気体から守ることができる。
【0063】
上記注射器6は、粉末漏斗に置換することも可能である。上記構成によれば、安全かつ確実に、フラスコ2内へ適量の試料(特に、固体状の試料)を投入することができる。なお、粉末漏斗を用いてフラスコ2内へ材料を投入する場合には、予め適量の試料を秤量しておくことが好ましい。
【0064】
上記粉末漏斗の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。また、当該粉末漏斗についても上述した注射器6と同様に、フラスコ2の開口部の真上に配置されないことが好ましい。このため、粉末漏斗とフラスコ2とを適切な連結部材にて接続することが好ましい。
【0065】
以上の説明からも理解できるように、本実施の形態の発火温度測定装置であれば、液体状の試料および固体状の試料の両方について、発火温度を測定することができる。
【0066】
本実施の形態の発火温度測定装置は、フラスコ2内の酸素濃度を調節するための酸素濃度調節部1(酸素濃度調節手段)が設けられている。上記酸素濃度調節部1はフラスコ2内の酸素濃度を調節可能なものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。以下に、酸素濃度調節部1の一例について説明する。
【0067】
酸素濃度調節部1には、配管15および配管16が連結されている。そして、上記配管15を介して、酸素が酸素濃度調節部1へと供給され、上記配管16を介して、酸素とは別の気体が酸素濃度調節部1へと供給される。そして、これらの気体は酸素濃度調節部1内で混合され、その結果、混合気体が形成される。なお、本実施の形態の発火温度測定装置は酸素濃度調節部1内で異なる気体を混合する構成であるが、本願発明はこれに限定されない。例えば、配管15のみを備えた構成であって、予め作製した混合気体を、当該配管15を介して酸素濃度調節部1へと供給する構成であってもよい。
【0068】
上記酸素とは別の気体としては特に限定されないが、反応性の低い不活性ガスであることが好ましい。例えば、当該気体としては、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群から選択される少なくとも1つの気体であることが好ましい。上記構成によれば酸素以外に試料を発火させる気体が無いので、試料の発火に及ぼす酸素の影響を正確に検討することができる。また、上記気体として窒素を用いれば、本願発明の発火温度測定装置を低コストにて作製することができる。
【0069】
上記配管15および配管16の各々には、バルブ10が設けられていることが好ましい。上記構成によれば、混合気体中の酸素の量を容易に調節することができる。例えば、配管15に設けられたバルブ10を閉じることによって、混合気体中の酸素濃度を低下させることができる。逆に、配管15に設けられたバルブ10を開くことによって、混合気体中の酸素濃度を上昇させることができる。また、バルブ10の開閉動作を調節することによって、フラスコ2へ導入する気体の量を調節することも可能になる。
【0070】
上記酸素濃度調節部1内で作製される混合気体の酸素濃度は特に限定されない。本実施の形態の発火温度測定装置であれば、試料の発火を防止することができる酸素濃度を効率よく決定することができる。
【0071】
また、上記酸素濃度調節部1内で作製される混合気体の酸素濃度としては、空気の酸素濃度よりも高い濃度を選択することも可能である。上記構成によれば、試料を発火させるために必要な最低酸素濃度を効率よく決定することができる。
【0072】
なお、上述したように、当該酸素濃度の調節は、例えばバルブ10の開閉動作を制御することによって可能となる。また、配管15のみを用いて混合気体を酸素濃度調節部1へと供給する場合には、予め混合気体を作製し、当該混合気体を酸素濃度調節部1へ供給すればよい。
【0073】
本実施の形態の発火温度測定装置は、フラスコ2内に導入される前の混合気体を加熱するための気体加熱器11(気体加熱手段)を備えていることが好ましい。図1では、上記気体加熱器11は酸素濃度調節部1内に設けられているが、当該構成に限定されるものではない。例えば、気体加熱器11は、酸素濃度調節部1と別個に構成することも可能である。この場合、気体加熱器11は、酸素濃度調節部1よりも上流側に設けられることも可能であるし、酸素濃度調節部1よりも下流側(換言すれば、フラスコ2側)に設けられることも可能である。更に具体的には、配管15、配管16または配管9に気体加熱器11を設けることも可能である。なお、加熱された混合気体の温度を低下させることなく当該混合気体をフラスコ2内へ導入することを考慮すれば、上記配管の中では、配管9に気体加熱器11を設けることが好ましい。
【0074】
予め加熱していない混合気体をフラスコ2内へ導入すれば、フラスコ2内の試料近傍に存在する気体の温度が低下するので、試料の発火温度を正確に測定することが困難になる傾向を示す。一方、本実施の形態であれば予め加熱した混合気体をフラスコ2内へ導入するので、フラスコ2内の試料近傍に存在する気体の温度が低下することなく、その結果、試料の発火温度を正確に測定することができる。
【0075】
上記気体加熱器11によって加熱される混合気体の温度としては特に限定されないが、加熱炉3によるフラスコ2の加熱温度とほぼ同じであることが好ましい。更に具体的には、加熱炉3によるフラスコ2の加熱温度との差が、5℃以下であることが好ましく、3℃以下であることが更に好ましく、1℃以下であることが最も好ましい。上記構成によれば、試料近傍に存在する気体の温度が低下することを防止することができるのみならず、不必要に高温である混合気体によって生じる試料の発火を防止することができる。そして、その結果、試料の発火温度を正確に測定することが可能となる。また、気体加熱器11によって加熱された混合気体は、気体加熱器11からフラスコ2内へと移動する間に温度が低下する。したがって、気体加熱器11からフラスコ2までの距離などを考慮して、気体加熱器11による混合気体の加熱温度を決定することも可能である。例えば、温度が低下することを考慮して、加熱炉3によるフラスコ2の加熱温度よりは若干高めに、気体加熱器11によって混合気体を加熱することも可能である。
【0076】
上記気体加熱器11の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。上記気体加熱器11としては、例えば、電気ヒーター、上記加熱式の熱交換器、または熱媒加熱式の熱交換器などを用いることが好ましいが、これらに限定されない。
【0077】
上記酸素濃度調節部1には配管9が連結され、当該配管9の一方の端は、フラスコ2内へと伸びている。そして、上記配管9を介して、酸素濃度調節部1からフラスコ2内へと混合気体が供給される。
【0078】
このとき、フラスコ2内へと混合気体を送り込む動力源としては特に限定されない。例えば、酸素濃度調節部1に対してポンプまたはブロアー(図示せず)を設けることが可能である。また、配管15または配管16によって供給される気体によって上昇する酸素濃度調節部1内の圧力を利用して、酸素濃度調節部1からフラスコ2内へ混合気体を導入することも可能である。
【0079】
上記配管9は、その内部を通過する混合気体の温度が低下することを防止するために、断熱部材によって覆われているか、または、加熱されていることが好ましい。これらの具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。配管9を加熱する場合には、フラスコ2内の温度と同じ温度に配管9を加熱することが好ましい。
【0080】
上記配管9には、迅速な操作を実現するためにバルブ17が設けられることが好ましい。上記構成によれば、当該フラスコ2内の酸素濃度を一定に維持することができる。なお、上記バルブ17の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知のバルブを用いることが可能である。また、当該バルブ17の開閉動作の制御方法も特に限定されず、適宜公知の制御装置を用いて制御することが可能である。
【0081】
本実施の形態の発火温度測定装置では、バルブ17を設けること無く、フラスコ2内に導入される混合気体の量を調節することも可能である。この場合には、例えば、上記バルブ10の開閉動作を調節することによって、フラスコ2内に導入される混合気体の量が調節され得る。更に具体的には、バルブ10を閉めることによって、配管9を通過する混合気体の量を少なくすることができ、その結果、フラスコ2内に導入される混合気体の量を減少させることができる。一方、バルブ10を開けることによって、配管9を通過する混合気体の量を多くすることができ、その結果、フラスコ2内に導入される混合気体の量を増加させることができる。
【0082】
本実施の形態の発火温度測定装置は、フラスコ2内の酸素濃度を測定するための酸素センサー12(酸素濃度測定手段)を備えることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2内の気体の酸素濃度を所望の濃度に設定することが容易となる。上記酸素センサー12の測定値に基づいて、例えば、バルブ10、バルブ17、または酸素濃度調節部1の動作を調節すれば、フラスコ2内の気体の酸素濃度を所望の濃度に設定することが容易となる。
【0083】
上記酸素センサー12の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の構成を用いることができる。上記酸素センサー12としては、例えば、磁気式の酸素センサー、ジルコニア式の酸素センサー、ガルバニ電池式の酸素センサー、または、限界電池式の酸素センサーを用いることが好ましいが、これらに限定されない。
【0084】
上記酸素センサー12は、当該酸素センサー12の信号を記録するための記録装置(図示せず)に接続されていることが好ましい。なお、当該記録装置は酸素センサー12の信号を記録することができるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。また、上記酸素センサー12には配管8が連結され、当該配管8の端部の1つはフラスコ2内へ挿入され、当該配管8を介してフラスコ2から酸素センサー12へと気体が送られることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2内の気体の酸素濃度を絶えず測定することができる。
【0085】
本実施の形態の発火温度測定装置は、フラスコ2から酸素センサー12へと気体を供給するためのポンプまたはブロアー(図示せず)を備えていることが好ましい。上記構成によれば、フラスコ2と酸素センサー12とを離れた位置に設けることが可能となる。そして、高温のために酸素センサー12が故障することを防止することができる。上記ポンプおよびブロアーの具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知のポンプまたはブロアーを用いることが可能である。
【0086】
上述したように、配管9によってフラスコ2内へ気体が導入され、配管8によってフラスコ2内の気体が採取される。このとき、フラスコ2内における配管9の気体導入口および配管8の気体採取口の位置は、離れていることが好ましい。更に具体的には、上記気体導入口および気体採取口の位置は、フラスコ2の横断面を円形とした場合、当該円における同一直径上において、可能な限り離れた位置であることが好ましい。上記構成によれば、気体導入口と気体採取口とが離れているので、気体導入口からフラスコ2内へ導入された気体が、気体採取口によって直接採取されることがない。その結果、フラスコ2内の酸素濃度を正確に測定することができる。
【0087】
〔2.発火温度測定方法〕
本願発明の発火温度測定方法は、上述した本願発明の発火温度測定装置を用いてなし得る発火温度測定方法である。以下に、本願発明の発火温度測定方法の一実施形態について説明するが、本願発明はこれに限定されない。
【0088】
本実施の形態の発火温度測定方法は、フラスコを加熱する工程(第1工程と呼ぶ)と、フラスコ内の酸素濃度を調節する工程(第2工程と呼ぶ)と、フラスコ内に試料を投入する工程(第3工程と呼ぶ)と、試料が発する炎を検出する工程(第4工程と呼ぶ)と、フラスコ内の温度を測定する工程(第5工程と呼ぶ)と、を含む方法である。
【0089】
上記第1工程は、例えば上述した加熱炉3によってフラスコ2を加熱することにより、行うことが可能である。なお、加熱炉3およびフラスコ2の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0090】
上記加熱炉3によってフラスコ2を加熱する温度は特に限定されない。フラスコ2を加熱する温度は、試料に応じて適宜設定することができる。
【0091】
上記第2工程は、酸素濃度が調節された気体を、例えば上述した酸素濃度調節部1によってフラスコ2内へ導入することにより、行うことが可能である。なお、酸素濃度調節部1の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0092】
上記気体の酸素濃度は特に限定されないが、例えば、大気中の酸素濃度よりも低い濃度を選択することが可能である。本実施の形態の発火温度測定方法であれば、試料の発火を防止することができる酸素濃度を効率よく決定することができる。
【0093】
また、上記酸素濃度としては、空気の酸素濃度よりも高い濃度を選択することも可能である。上記構成によれば、試料を発火させるために必要な最低酸素濃度を効率よく決定することができる。
【0094】
上記気体は、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1つの気体と酸素との混合気体であることが好ましい。上記構成によれば酸素以外に試料を発火させる気体が無いので、試料の発火に及ぼす酸素の影響を正確に検討することができる。また、上記気体として窒素を用いれば、低コストにて試料の発火温度を測定することができる。
【0095】
上述した第1工程と第2工程とは別々に行うことも可能であるが、同時に行うことが好ましい。上記構成によれば第2工程中もフラスコ2の温度を一定に保つことができるので、より正確に試料の発火温度を測定することができる。
【0096】
上記第3工程は、例えば上述した注射器6または粉末漏斗によってフラスコ2内へ試料を投入することにより、行うことが可能である。なお、注射器6および粉末漏斗の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0097】
上記フラスコ2内へ投入される試料の量は特に限定されないが、発火するために必要な量である必要がある。投入量が少な過ぎる場合には、試料ガスの濃度が爆発下限濃度未満となるために発火しないことがある。また、投入量が多すぎる場合には、試料ガスの濃度が爆発上限濃度を超えるために発火しないことがある。それゆえ、試料の投入量は、ガス化した試料の濃度が爆発混合気体を形成するために必要な量を投入する必要がある。上記構成によれば、試料の発火温度を正確に測定することができる。なお、フラスコ2内へ投入する試料の量は、予め予備実験を行うことによって決定することが可能である。
【0098】
上記第1工程と第3工程とは別々に行うことも可能であるが、同時に行うことが好ましい。上記構成によれば第3工程中もフラスコ2の温度を一定に保つことができるので、より正確に試料の発火温度を測定することができる。最も好ましくは、第1工程と第2工程とを同時に行った後に第2工程のみを終了し、引き続き第1工程と第3工程とを同時に行うことが好ましい。上記構成によればフラスコ2内に気体が導入されていないので試料近傍の温度をより一定に保つことが可能となり、その結果、より正確に試料の発火温度を測定することができる。
【0099】
上記第4工程は、例えば上述した窓22または鏡によってフラスコ2内の試料が発する炎を検出することにより、行うことが可能である。なお、窓22および鏡の具体的な構成については既に説明したので、ここではその具体的な説明を省略する。
【0100】
上記第1工程、第3工程および第4工程は別々に行うことも可能であるが、同時に行うことが好ましい。上記構成によれば第4工程中もフラスコ2の温度を一定に保つことができるので、より正確に試料の発火温度を測定することができる。また、上記構成によれば、フラスコ2内へ試料を投入する時から炎を検出することができるので、より正確に試料の発火温度を測定することができる。
【0101】
上記第4工程において炎が検出されなかった場合(換言すれば、試料が発火しなかった場合)には、加熱炉3によるフラスコ2の加熱温度を更に上昇させた後、新たに第1工程〜第4を行えばよい。このとき、上記加熱温度は前回の第1工程における加熱温度よりも高いものであればよく、特に限定されない。前回の加熱温度からの上昇温度が低ければ低いほど、より正確な試料の発火温度を測定することができる。
【0102】
上記フラスコ2内へ試料を投入した場合、投入直後に試料が発火する場合もあれば、投入から発火までに時間がかかる場合もある。特に限定するものではないが、試料をフラスコ2内へ投入してから10分間経過しても炎が検出されない場合には、その条件下では試料は発火しないと解釈することが好ましいといえる。
【0103】
上記第5工程は、例えば上述した熱電対4によってフラスコ2内の温度を測定することにより、行うことが可能である。なお、熱電対4の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0104】
上記第5工程では、上記熱電対4によってフラスコ2内の温度が、少なくとも試料の発火直前から発火直後にかけて測定されていればよい。上記構成によれば、試料が発火する前のフラスコ2内の温度を測定することが可能であるばかりでなく、試料が発火してフラスコ2内の温度が急激に上昇することも検出することができる。
【0105】
以下に、本実施の形態の発火温度測定方法について更に具体的な例を示すが、本願発明は、これに限定されない。
【0106】
まず、酸素濃度調節部1にて所定量の窒素と酸素とを混合した後、当該混合気体をフラスコ2内へ導入しながら、加熱炉3を所定の温度にまで加熱する。混合気体の酸素濃度が低い場合には、フラスコ2内へ混合気体を導入する前に、フラスコ2内を窒素置換することが好ましい。
【0107】
記録装置5にて、フラスコ2の温度が所望の温度に安定していることを確認するとともに、酸素センサー12にて、フラスコ2内の気体の酸素濃度が所望の濃度に安定していることを確認する。温度および酸素濃度が所望の値に安定していれば、フラスコ2内への混合気体の導入を中止する。
【0108】
あらかじめ所定量の試料を採取した注射器6の針をすばやくフラスコ2の上部からフラスコ2内へ挿入して、所定量の試料をフラスコ2内に滴下する。
【0109】
加熱炉3に設けられた窓22を介してフラスコ2内で炎が生じるか否かを確認するとともに、熱電対4にてフラスコ2内の温度が急激に上昇するか否かを確認する。そして、当該2つの確認事項に基づいて、試料が発火したか否かを判定する。
【0110】
試料の発火が確認できない場合は、加熱炉3の温度を上昇して再び試験を行い、発火が確認できるまで試験を繰り返す。そして、発火が確認できたときのフラスコ2内の温度を試料の発火温度とする。
【実施例】
【0111】
内寸800H×800W×600Hの電気加熱式恒温槽内(ADVANTEC社製の高温電気炉FJ−650)に、内容量5000mLである石英製の透明のフラスコを設置した。当該フラスコに、酸素と窒素との混合気体を流入するための直径6mmの配管、フラスコ内の温度を測定するための直径0.5mmのクロメル−アルメル熱電対(三晃電気工業社製の熱電対S35型Kタイプ)、フラスコ内の気体を吸入するために直径4mmのステンレス製配管を接続した。また、当該ステンレス製配管には、吸引した気体の酸素濃度を測定するための酸素センサー(島津製作所社製のポータブル酸素計POT−101)を接続した。
【0112】
気体流量制御器にて、所定濃度の酸素を含む混合気体を1000mL/分にてフラスコ内に流入させた。また、当該フラスコ内の気体を、ブロアーを用いて、上記ステンレス製配管を介して酸素センサーへと送った。そして、フラスコ内の気体の酸素濃度を測定しながら、電気加熱式恒温槽を用いてフラスコを所定の温度にまで加熱した。
【0113】
フラスコ内の温度と酸素濃度とが所定の値にて安定したことを確認してから、混合気体のフラスコ内への流入と、フラスコ内の気体の酸素センサーへの吸入を中断した。
【0114】
予め0.25mLの灯油(試料)を採取した注射器の針を、フラスコ上部の隙間からすばやくフラスコ内へ挿入し、注射器からフラスコ内へ試料を注入した。電気加熱式恒温槽に設けられた窓を介して、試料の発火の有無を確認するとともに、クロメル−アルメル熱電対を用いてフラスコ内の温度の上昇を確認した。そして、試料の発火が確認できない場合には、発火が確認できるまで、加熱式恒温槽の温度を5℃ずつ上昇させた。
【0115】
実験結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示すように、酸素濃度18%の条件下では、215℃までは試料は発火せず、220℃以上になると試料が発火することが明らかになった。つまり、酸素濃度18%の条件下では発火温度が220℃であることが明らかになった。
【0118】
また、酸素濃度15%の条件下では、230℃までは試料は発火せず、235℃以上になると試料が発火することが明らかになった。つまり、酸素濃度15%の条件下では発火温度が235℃であることが明らかになった。
【0119】
以上のことから、本実施例の発火温度測定装置であれば、酸素濃度が空気とは異なる条件下(例えば、空気よりも低い条件下)でも、試料の発火温度を正確に測定することができることが明らかになった。
【0120】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、試料の発火温度を測定するための発火温度測定装置に利用することができる。また、本発明は、試料の発火に必要な酸素濃度を測定するための酸素濃度測定装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 酸素濃度調節部(酸素濃度調節手段)
2 フラスコ
3 加熱炉(フラスコ加熱手段)
4 熱電対(温度測定手段)
5 記録装置
6 注射器
8 配管
9 配管
11 気体加熱器(気体加熱手段)
12 酸素センサー(酸素濃度測定手段)
15 配管
16 配管
17 バルブ
20 加熱器
21 送風器
22 窓(炎検出手段)
102 フラスコ
103 加熱炉
104 熱電
105 電位差記録計
106 注射器
108 鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が投入されるフラスコと、
前記フラスコを加熱するフラスコ加熱手段と、
前記フラスコ内の温度を測定する温度測定手段と、
前記フラスコ内の炎の有無を検出する炎検出手段と、を備える発火温度測定装置であって、
前記フラスコ内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段を備えることを特徴とする発火温度測定装置。
【請求項2】
前記酸素濃度調節手段は、酸素濃度が調節された気体を前記フラスコ内に導入するものであることを特徴とする請求項1に記載の発火温度測定装置。
【請求項3】
前記酸素濃度が調節された気体は、窒素、アルゴン、ヘリウム、および二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1つと酸素との混合気体であることを特徴とする請求項2に記載の発火温度測定装置。
【請求項4】
前記フラスコ内に導入される前の前記酸素濃度が調節された気体を加熱するための気体加熱手段を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の発火温度測定装置。
【請求項5】
前記フラスコ内に導入される前記酸素濃度が調節された気体の量を調節するための気体流量調節手段を備えることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の発火温度測定装置。
【請求項6】
前記フラスコ内の酸素濃度を測定するための酸素濃度測定手段を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の発火温度測定装置。
【請求項7】
フラスコを加熱する工程と、
前記フラスコ内の酸素濃度を調節する工程と、
前記フラスコ内に試料を投入する工程と、
前記試料が発する炎を検出する工程と、
前記フラスコ内の温度を測定する工程と、を含むことを特徴とする発火温度測定方法。
【請求項8】
前記フラスコ内の酸素濃度を調節する工程では、酸素濃度が調節された気体が前記フラスコ内へ導入されることを特徴とする請求項7に記載の発火温度測定方法。
【請求項9】
前記酸素濃度が調節された気体は、窒素、アルゴン、ヘリウム、および二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1つと酸素との混合気体であることを特徴とする請求項8に記載の発火温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−216916(P2010−216916A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62513(P2009−62513)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】