説明

発熱を抑えた基礎杭構造

【課題】大径の根固め部の発熱を抑えて、根固め部の品質を高める。
【解決手段】セメントミルクは、低熱セメントと水を混ぜて生成する。 杭穴軸部11を掘削して(a)、続き下端部を拡径して杭穴根固め部12を有する杭穴10を形成する(b)。続いて、杭穴根固め部12の穴底13からセメントミルク16を充填して、杭穴根固め部12の掘削泥土をセメントミルク22に置換する(b)。続いて、杭穴10内に既製杭1を下降して、既製杭1の下端部を杭穴根固め部12内に位置させ、セメントミルク16が固化したならば、基礎杭20を構成する(c)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎杭の根固め部液に低熱セメントを使用したことを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造、発熱を抑えた基礎杭の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる先掘り形式の基礎杭構造では、支持地盤に至る杭穴の下端部に根固め液を充填して根固め部として、既製杭を杭穴内に沈設して、下端部を根固め層内に位置させていた。
【0003】
この場合、通常は、杭穴の下端部にセメントミルクを充填して、掘削泥土と撹拌混合して、根固め部を形成していた。また、根固め部の品質をより高める場合には、杭穴底からセメントミルクを充填して、杭穴の下端部の掘削泥土を比重の重いセメントミルクに置換していた。
【0004】
この場合、使用するセメントは一般的に普通セメントを使用して、早期に固化をさせるために、早強セメントを使用したり、各種添加物を加えることはなされていた。
【0005】
一方、ダムなどの大量にコンクリートを打設する構造物では、セメントの水和反応による発熱を抑えた低温セメントを使用する場合もあった。また、地盤改良の分野では、温度を上げて地盤改良効果を高める場合(特許文献2)、低温セメントを使用する場合もあった(特許文献1)。
【0006】
従来の技術では、既製杭を埋設する場合には、早期に固化させる必要はあったが、低熱セメントを使用すると、固化発現が遅れ、さらに価格も高いので、根固め部で低熱セメント採用することはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−239829
【特許文献2】特開平11−92205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、根固め部における発熱については、一切着目されてこなかった。その理由として、上記の価格面に加えて、根固め部の体積が、ダムなどのコンクリート構造物と異なり、そう大きな体積であるとの認識がなかったと考えられる。
【0009】
また、他の理由は、基礎杭構造の根固め部では、外周及び底は地盤に接しているので、ダム等のコンクリート構造物と違って、根固め部で出された水和反応熱は土に放出されると漠然と考えれていた。
【0010】
従来の根固め部は、例えば、杭径φ40cm、根固め部の外径60cm、 根固め部の高さ100cm程度であり、この場合には、根固め部の体積は、0.57m程度に過ぎなかった。ところが、従来に比べ高支持力化が進み、根固め部が巨大化し、杭径φ120cm、根固め部の径210cm、根固め部の高さ330cmの場合も多く見られ、この場合には根固め部の体積は11.43mにもなり、従来の20倍程度にもなっていた。従って、マスコンクリート同様に、コンクリートの発熱を考慮する必要がでてきた。
【0011】
また、このような根固め部を有する基礎杭では、極力土砂混入の少ない根固め部を築造するなど品質管理も重要であり、併せて温度の管理が重要となっていた。
【0012】
また、セメントミルクでは、一般のコンクリートに較べて骨材が無いので、単位体積当たりのセメント量が1.5〜4倍程度となるため、非常に大きな発熱が生じる可能性もあった。また、杭穴充填物として一般に使用されるソイルセメントに較べても同じくらいのセメント量の多さとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、根固め部の発熱を考慮して、低温セメントを使用するので、根固め部の品質をより高めることができる。
【0014】
即ちこの発明は、拡大根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設し、前記拡大根固め部内に、低発熱セメントを使用したセメントミルクを充填して固化させたセメントミルク層を形成したことを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造である。
【0015】
また、他の発明は、以下のようにして、拡大根固め部を形成した杭穴内に、既製杭を埋設して基礎杭を形成する発熱を抑えた基礎杭の構築方法である。
(1) 拡大根固め部を有する杭穴を形成する。
(2) 前記拡大根固め部に、セメントミルクを充填して、セメントミルクの温度が予め設定した温度以下になるように管理する。
(3) 前記(2)と前後して、杭穴内に既製杭を下降して、該既製杭の下端部を前記拡大根固め部内に位置させる。
(4) 前記既製杭を、セメントミルクが固化発現するまで、地上で保持する。
【0016】
前記における低発熱セメントとは、例えば、JIS R 5210に規定された低熱ポルトランドセメントを使用する。なお、JISでは、低熱ポルトランドセメントは、ビーライト(けい酸二 カリウム)を40%以上添加したセメントである。また、前記における低発熱セメントは、その他「普通セメントに発熱を抑える各種添加剤(添加材)を混入させた」セメントも指す。
【0017】
また、前記におけるセメントミルクの管理とは、予め設定した温度を越える可能性が有る場合には、固化強度に影響を与えない程度に、遅延剤等の反応熱の上昇を抑制する添加剤を加える。
【0018】
また、前記における杭穴の根固め部は、より体積が大きな場合、例えば、セメントミルク層の厚さ50cm以上、高さ150cm以上のような場合に、特に有効である。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、拡大根固め部に充填したセメントミルクの製造に使用するセメントに、低熱セメントを使用するので、根固め部の反応熱の発生を抑制して、固化セメントミルクの品質を高めることができる。また、温度計測しながらセメントミルクを固化させるので、根固め部のセメントミルクが高温なる場合にはその悪影響を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)(b)(c)は、この発明の構築方法を説明する概略した縦断面である。
【図2】図2は、根固め部の温度測定を説明する概略した拡大断面図である。
【図3】図3は、実施例の地盤の土質柱状図である。
【図4】図4は、温度計測結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1) この発明に使用するセメントミルクは、低熱セメントと水を混ぜて、現場のプラントで生成する。
【0022】
(2) 杭穴軸部11を掘削し(図1(a))、続いて下端部を拡径して杭穴根固め部12を掘削して、杭穴10を形成する。続いて、杭穴根固め部12の穴底13からセメントミルク16を充填して、杭穴根固め部12の掘削泥土をセメントミルク22に置換する(図1(b))。
【0023】
続いて、杭穴10内に既製杭1を下降して、既製杭1の下端部を杭穴根固め部12内に位置させる。なお、この場合、既製杭1を杭穴10内に埋設した後にセメントミルク16を充填し、あるいは既製杭1を埋設しながら、杭穴根固部12内にセメントミルクを充填することもできる。
【0024】
(3) 既製杭1を、セメントミルク16が固化発現するまで、必要ならば地上22で保持して、セメントミルク16が固化したならば、基礎杭20を構成する(図1(c))。
【0025】
(4) この場合、既製杭1の内面(中空部2内)または外面に、温度センサーを取り付けた状態で既製杭1を構成して、温度を測定しながら、セメントミルク16を充填することもできる。この場合には、予め設定した温度に比較して、何らかの原因でセメントミルク16の温度が上昇した場合には、遅延剤その他のセメントミルクの反応熱を抑制する材料を注入して、温度上昇を抑制できる。また、温度センサーは既製杭とは別に、棒状の部材などに取り付けて根固め部に配置することもできる。
【0026】
(5) 前記において、予め設定した温度は、例えば、80℃以下とする。
【実施例1】
【0027】
図面に基づきこの発明の実施例を説明する。
【0028】
(1)セメントの構成
【0029】
この発明の実施に使用したセメントとして、低熱高強度セメント(ここでは、宇部三菱セメント株式会社製 L)を使用する。低熱高強度セメントの性質及び成分を表1に示す。なお、要求される強度を満たせばより発熱量を抑えた低熱セメント(宇部三菱セメント株式会社製 L)を使用することもでき、さらに条件を満たせば、通常のJIS規格の低熱セメントを使用することもできる(表1)。
この低熱セメントを使用して、構築現場のプラントでセメントミルクを製造する。
【表1】

【0030】
(2)既製杭1の構成
【0031】
この発明に使用する既製杭1は、本体軸部4の軸部径D(=60cm)の中空コンクリート杭で、下端部の下部軸部6が軸径を細く形成し、本体軸部4と下部軸部6の境界に環状突起7を形成し、それを挟んだ下本体軸部4の下部、上部軸部6にもそれぞれ環状突起7、7を形成して構成する(図1(c))。既製杭1は長さL(=11m)で形成する。なお、既製杭1は環状突起7が無いストレート状の杭など任意である。また、材料も鋼管など任意である。
【0032】
(3)基礎杭20の構築
【0033】
適用する地盤の標準貫入試験に基づく土質柱状図を図1に示す。この地盤では地上22から、10.5m〜12mの付近にN値30〜45の支持地盤を有する。また、掘削に使用する掘削ヘッドは、ヘッド本体の水平軸に、掘削腕を揺動自在に取り付けて構成する(図示していない)。
【0034】
掘削ロッドの先端に掘削ヘッドを取付け、掘削ロッドを正回転させて、軸径(外径)D(=80cm)の杭穴軸部11を掘削する(図1(a))。
【0035】
続いて、掘削ロッドを逆回転して、杭穴軸部11の下端部(7.5m〜11の地点に)に外径D(=130cm)に拡径した杭穴根固め部12を、高さH(=350cm)に亘って掘削する。杭穴軸部11と杭穴根固め部12とを合わせて杭穴10とする。
【0036】
続いて、地上から掘削ロッドを通してセメントミルクを供給して、杭穴底13で、ヘッド本体の先端からセメントミルクを吐出して、杭穴根固め部12内の掘削泥土をセメントミルク16に置換する。続いて掘削ロッドを地上に引き上げながら、杭穴根固め部12の上方に掘削泥土とセメントミルクを撹拌混合して、ソイルセメント層17を形成する(図1(b)。その後、掘削ロッドを地上に引き上げる。
【0037】
続いて、既製杭1を杭穴10内に沈設して、3つの環状突起7、7を杭穴根固め部12のセメントミルク16内に納める。杭穴底13から既製杭1の下端3までの距離H(=50cm)を空けてある。この状態で、地上22で既製杭1を保持して、セメントミルク、ソイルセメントを固化したならば基礎杭20を構成する(図1(c))。
【0038】
(4)温度の測定
【0039】
既製杭1を杭穴10内に沈設して、3つの環状突起7、7を杭穴根固め部12に納めた状態で、既製杭1の中空部2に先端にセンサー(熱電対)25を取り付けたPC鋼棒24を下降する。センサー25の位置は、既製杭1の先端付近で、中空部2の中心付近に位置させる(図2)。図2中26はセンサー25から続くケーブルで、温度計測器(図示していない)に接続されている。
【0040】
この状態で、地上22のプラントでセメントミルクを製造してから、350分経過しており、温度は18.4℃であった。以降、温度を測定すると、図4に示すような変化を示し、最大で、35.8℃であり、ほぼ同じ温度で固化が進行する。従って、温度変化による影響もなく、支障なく拡大根固め部12を形成できる。
【0041】
(5)比較例
【0042】
前記実施例からセメントミルク16を構成するセメントを、早強ポルトランドセメントに変更して、比較例とする。前記実施例と同じ地盤で、同一の掘削方法で杭穴10を掘削し、杭穴根固め部12にセメントミルク22を置換して充填し、同一の既製杭1を埋設して基礎杭20を構築する(図1(c))。
【0043】
この場合も同様に、既製杭1を埋設した後に、既製杭1の中空部2に、センサー25付きのPC鋼棒24を埋設して、同様に温度を測定する(図2)。測定結果は、図4に示す通りであり、セメントミルクの製造から10分程度で急激に温度が上昇して、最大で110℃に至り、以降なだらかに温度が下がった。100℃を越える温度が30時間程度継続した。従って、条件によっては、高温により根固め部12に何らかの影響が生じるおそれもある。
【0044】
測定位置は、最も温度が上昇すると思われる既製杭1の中空部2の下端3付近として、そこに温度センサーを取り付けて計測したので、このような温度変化をしたものと考えられる。また、このような温度変化の原因として土圧による影響や、地盤によっては温度が土の中に逃げずにこもった可能性も考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 既製杭
2 既製杭の中空部
3 既製杭の下端
4 既製杭の本体軸部
6 既製杭の下部軸部
7 環状突起
10 杭穴
11 杭穴の軸部
12 杭穴の根固め部
13 杭穴の底
16 セメントミルク
17 ソイルセメント
20 基礎杭
24 PC鋼棒
25 温度センサー
26 計測ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設し、前記拡大根固め部内に、低発熱セメントを使用したセメントミルクを充填して固化させたセメントミルク層を形成したことを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造。
【請求項2】
以下のようにして、拡大根固め部を形成した杭穴内に、既製杭を埋設して基礎杭を形成する発熱を抑えた基礎杭の構築方法。
(1) 拡大根固め部を有する杭穴を形成する。
(2) 前記拡大根固め部に、セメントミルクを充填して、セメントミルクの温度が予め設定した温度以下になるように管理する。
(3) 前記(2)と前後して、杭穴内に既製杭を下降して、該既製杭の下端部を前記拡大根固め部内に位置させる。
(4) 前記既製杭を、セメントミルクが固化発現するまで、地上で保持する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275814(P2010−275814A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131139(P2009−131139)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】