説明

発熱塗料

【課題】発熱温度が300℃以上の高温でも、塗料膜としての強度、及び基体との結合強度が確保できる。
【解決手段】粉砕した竹炭及びファインカーボンを含む炭素粉末と、珪酸カリウム、珪酸ナトリウム、ヨウ素化合物及び水を含む無機系バインダとを、所定の配合割合にて混合攪拌して製造する。製造した発熱塗料は、セラミックス又はガラスの基体表面に塗布する。無機系バインダを使用するため高温に耐える。またバインダと基体との双方に含まれる無機珪酸塩(SiO)が混合(コンポジット化)して、両者を強く結合させるので、高温発熱においても、両者間の剥離が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素粉末を含む発熱塗料に関し、特に高温に発熱できる発熱塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からパネルヒータや床暖房シートなど用として、合成樹脂等の絶縁性基体の表面に、炭素粉末をバインダで固めた発熱塗料を塗布した、いわゆる面状発熱体が使用されている。この発熱塗料について本願発明者等は、既に粉砕した竹炭と、ファインカーボンとを混合したものを、油成分からなる薄め液と植物性のニスとからなるバインダで固める発熱塗料を提案している(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−84716号公報(2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに上記従来の発熱塗料は、発熱温度が300℃以上となると、有機系のバインダが昇華して、竹炭とファインカーボンとからなる炭素粉末の結合力が低下してしまい、塗料膜としての強度が低下する。また基体にセラミックス等の300℃以上に耐える材料を使用しても、有機系のバインダが昇華すると、この基体との結合強度が低下して、剥がれ易くなるという問題があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、発熱温度が300℃以上の高温でも、塗料膜としての強度、及び基体との結合強度が確保できる発熱塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による発熱塗料の特徴は、粉砕した竹炭及びファインカーボンを含む炭素粉末と、珪酸カリウム、珪酸ナトリウム、ヨウ素化合物及び水を含む無機系バインダとを備え、セラミックス又はガラスの基体表面に塗布するものであることにある。
【0006】
上記基体表面に塗布後に、550〜750℃で焼付けを行なうことが望ましい。
【0007】
さらに、上記竹炭及びファインカーボンの粒径は、それぞれ0.15〜1.5μmであって、上記竹炭及びファインカーボンと、珪酸カリウム及び珪酸ナトリウムと、ヨウ素化合物及び水との配合割合は、それぞれ25〜35重量%、35〜65重量%及び10〜35重量%であることが、より望ましい。
【0008】
上記竹炭とファインカーボンとの配合割合は、この竹炭が60〜90重量%、このファインカーボンが10〜40重量%であって、上記珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとの配合割合は、この珪酸カリウムが60〜90重量%、この珪酸ナトリウムが10〜40重量%であることが、より望ましい。
【0009】
ここで「ガラス」とは、無機珪酸塩(SiO)を主体とする珪酸塩ガラスを意味し、たとえば石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛アルカリ珪酸塩ガラスが該当する。また「塗布する」には、塗料の刷毛塗り、塗料のスプレー噴霧、あるいは塗料液に浸漬すること等を含む。「粉砕した竹炭」とは、竹を燃焼した竹炭を粉砕したものを意味する。さらに「ファインカーボン」とは、菜種油等の植物性油、あるいは重油等の化石燃料等を燃焼させたときに得られる煤を意味する。また「ヨウ素化合物」とは、例えばヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸カリウム及びヨウ素酸ナトリウムが該当する。
【発明の効果】
【0010】
基体としてセラミックス又はガラスを使用して、基体自体の耐熱性も向上させることによって、本発明による発熱塗料を塗布した面状発熱体の耐熱性を確保することができる。炭素粉末として、バインダとの混合状態において、抵抗値が比較的大きくなる粉砕した竹炭と、抵抗値が比較的小さくなるファインカーボンとの混合物を使用することによって、発熱体として好ましい抵抗値を実現できる。無機系のバインダを使用することによって、発熱温度が高温になっても、塗料膜としての強度を確保できる。
【0011】
無機系のバインダの成分として、珪酸カリウムと珪酸ナトリムとを使用することによって、塗料膜と、同系等の無機珪酸塩(SiO)を含むセラミックス又はガラスの基体との間に、強力な結合力を得ることができる。なおバインダに、珪酸ナトリムだけでなく、珪酸カリウムを混合することによって、発熱塗料の吸湿性を抑えて、均一で、かつ安定した発熱特性を発揮させることができる。またバインダの成分として、ヨウ素化合物を加えることによって、安定した高温発熱特性を、反復して発揮させることができる。
【0012】
上記発熱塗料を上記基体表面に塗布後に、550〜750℃で焼付けを行なうことによって、高温発熱時における発熱塗料と基体表面との結合力を確保することができる。すなわち上述したように、発熱塗料のバインダと、セラミックス又はガラスの基体とは、共に無機珪酸塩(SiO)を主体とする。したがって発熱塗料を基体表面に塗布後に高温で焼付けすると、同等成分の無機珪酸塩(SiO)が混合(コンポジット化)して、両者を強く結合させることができる。ここで焼付け温度が550℃未満では、発熱塗料と基体表面との間の結合力が低下し、他方焼付け温度が750℃を超えても、さらなる結合力の向上が期待できないからである。
【0013】
上記竹炭及びファインカーボンの粒径を、それぞれ0.15〜1.5μmにすることによって、均一で緻密な塗料膜の形成が可能となると共に、炭素粉末の密度と全表面積とを増加させて、発熱量を増加させることができる。また上記竹炭及びファインカーボンと、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムと、ヨウ素化合物及び水との配合割合を、それぞれ25〜35重量%、35〜65重量%及び10〜35重量%とすることによって、高温発熱時の塗料膜の耐久性と安定性、効果的な発熱性、及び基体との結合力を確保することができる。
【0014】
ここで上記竹炭及びファインカーボンの配合割合が25重量%未満では、発熱量が少なくなり、35重量%を越えると、バインダの配合割合が過少となって、高温発熱時の塗料膜の耐久性と安定性、及び基体との結合力が低下するからである。また珪酸カリウム及び珪酸ナトリウムの配合割合が、35重量%未満では、バインダの配合割合が過少となって、高温発熱時の塗料膜の耐久性と安定性、効果的な発熱性、及び基体との結合力が低下し、65重量%を越えると、炭素粉末の配合割合が過少となって、発熱量が少なくなるからである。またヨウ素化合物及び水の配合割合が、10重量%未満、あるいは35重量%を越えると、何度も高温発熱を繰り返すと、発熱温度が次第に低下し、高温発熱特性を継続的に発揮しなくなるからである。
【0015】
上記竹炭及びファインカーボンの配合割合を、それぞれ60〜90重量%、及び10〜40重量%にすることによって、好適な発熱特性を得ることができる。すなわち竹炭には、カーボンの他に、リン、硫黄、マグネシウム、及び鉄等の成分が含まれており、これのみをバインダに配合した場合には、電気抵抗が大きくなって、好適な発熱が得られない。一方ファインカーボンは、黒鉛の微細粉であって、高い導電性を示す。このようなファインカーボを、略1対9の重量割合にて、竹炭の微細粉と混ぜ合わせることによって、適切な抵抗値を実現することができ、好適な発熱特性を得ることができる。すなわちファインカーボンの配合割合が10重量%未満であると、ファインカーボンの配合割合が過少となって、電気抵抗が高くなりすぎて、発熱量が低下する。逆にファインカーボンの配合割合が40重量%を越えると、電気抵抗が低くなりすぎて、発熱量が低下する。
【0016】
上記珪酸カリウム及び珪酸ナトリウムの配合割合を、それぞれ65〜90重量%、及び10〜40重量%にすることによって、塗料膜の高温発熱時の耐久性、基体との結合力の向上等を発揮することができる。すなわち上記珪酸カリウムの配合割合が60重量%未満であると、吸水性を抑えることが不足して、基体との結合力が低下する。一方上記珪酸カリウムの配合割合が90重量%を越えると、安定した高温発熱が得られず、600℃を超えると蒸散してしまい、バインダとしての機能を失うからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による発熱塗料は、例えば次の手順によって得ることができる。まず竹を燃焼して得た竹炭を、粉砕機によって0.15〜1.5μmに粉砕する。また菜種油等の植物油、または重油等の化石燃料等を燃焼させて、粒径が0.15〜1.5μmの煤からなるファインカーボンを得る。この粉砕した竹炭とファインカーボンとを、略1:9の重量配分で混合する。次に珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとを、略8:2の重量配分で混合する。さらに蒸留水300ccに対して、ヨウ素酸カルシウムを0.1〜0.55g溶解した溶液を作成する。
【0018】
次に上述した粉砕した竹炭とファインカーボンとを混合したもの300g、及び珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとを混合したもの600gを適当な容器に投入後、さらにヨウ素酸カルシウムを溶解した溶液300gを投入して、10〜30℃において、最少15分間攪拌する。この手順によって本発明の発熱塗料を製造する。
【0019】
本発明による発熱塗料は、無機珪酸塩(SiO)を含むセラミックスまたはガラスの基体表面に塗布するものであり、例えば次の手順によって塗布する。板状のセラミックスについて、その表面を洗浄して乾燥した後に、本発明による発熱塗料を、50μm〜1mmの膜厚さに、刷毛塗りによって塗布する。次に、例えばオ−ブン等の加熱器に入れて、550〜750℃にて、10〜30分間加熱し、発熱塗料のバインダに含まれる無機珪酸塩(SiO)と、セラミックスを構成する無機珪酸塩とを結合させる。このように発熱塗料の焼付けを行なうことによって、発熱塗料と基板であるセラミックスが、強固に結合して、300〜1200℃の高温に発熱させても、両者が剥がれないようにすることができる。
【0020】
なお上述した焼付けは、1回行なえば足りる。またこの焼付けを、予め行なわない場合であっても、発熱塗料を塗布後に、同程度の温度に発熱させれば、同等の結合力が得られる。
【実施例】
【0021】
本発明による発熱塗料を、平板ガラスの表面に塗布した試験体を作成し、発熱特性を調べた。
(1) 試験体:
平板ガラスの表面に、発熱塗料を、幅10cm、長さ11cm、厚さ80μmの面状に塗布し、オーブン内に収納して、温度650℃で、20分間加熱した。
(2) 発熱塗料:
イ.組成
(a) 粉砕した竹炭とファインカーボンとを混合したものを300g(竹炭とファインカーボンとの混合重量割合は、9:1。)。
(b) 珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとを混合したものを300g(珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとの混合重量割合は、略8:2。)。
(c) ヨウ素酸カルシウム0.3gを、300ccの蒸留水に溶解した溶液を300g。
ロ.製造方法
上記竹炭とファインカーボンとの混合体と、珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとの混合体を容器に入れて混合後、さらに上記ヨウ素酸カルシウムの溶液を加えて、20℃にて20分間攪拌した。
【0022】
(3) 試験体の発熱特性
イ.塗布した発熱塗料の両端の抵抗値は、11Ωであった。
ロ.塗布した発熱塗料の両端に、100Vの交流電圧を掛けたところ、発熱塗料の温度は、23秒間で、470℃まで上昇した。
ハ.上記470℃の発熱温度において、10時間保持した。塗料膜の亀裂、縮み及び劣化、並びに基板であるガラス板からの剥離は、検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
発熱温度が300℃以上の高温でも、塗料膜としての強度、及び基体との結合力が確保できるため、パネルヒータや床暖房シート等に関する産業に、広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスまたはガラスの基体表面に塗布する発熱塗料であって、
炭素粉末と無機系バインダとを備え、
上記炭素粉末は、粉砕した竹炭とファインカーボンとを含み
上記無機系バインダは、珪酸カリウム、珪酸ナトリウム、ヨウ素化合物及び水を含む
ことを特徴とする発熱塗料。
【請求項2】
請求項1において、上記基体表面に塗布後に、550〜750℃で焼付けを行なうことを特徴とする発熱塗料。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、上記竹炭及びファインカーボンの粒径は、それぞれ0.15〜1.5μmであって、
上記竹炭及びファインカーボンと、珪酸カリウム及び珪酸ナトリウムと、ヨウ素化合物及び水との配合割合は、それぞれ25〜35重量%、35〜65重量%及び10〜35重量%である
ことを特徴とする発熱塗料。
【請求項4】
請求項3において、上記竹炭とファインカーボンとの配合割合は、この竹炭が60〜90重量%、このファインカーボンが10〜40重量%であって、
上記珪酸カリウムと珪酸ナトリウムとの配合割合は、この珪酸カリウムが60〜90重量%、この珪酸ナトリウムが10〜40重量%である
ことを特徴とする発熱塗料。

【公開番号】特開2010−106054(P2010−106054A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276421(P2008−276421)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【出願人】(594109934)
【Fターム(参考)】