説明

発熱源が樹脂部材で覆われている電子機器の放熱効率を向上させる方法、波長選択性熱放射材料及びその製造方法

【課題】樹脂の熱に対する透過性を向上(透明化)させ、発熱源が樹脂部材で覆われている電子機器の放熱効率を向上させる方法、波長選択性熱放射材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を、前記発熱源と樹脂部材との間に該発熱源を覆うように配置し、発熱源からの熱エネルギーを伝熱または熱放射により波長選択性熱放射材料へ投入し、そして前記波長選択性熱放射材料の熱放射面から前記樹脂部材へ向けて、樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射させることにより、電子機器の放熱効率を向上させる方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の放熱効率を向上させる方法、波長選択性熱放射材料及びその製造方法に関し、特に発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器に対し、周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を適用することにより電子機器の放熱効率を向上させる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、電子機器特に最近の情報処理機器の小型軽量化・高速化・多機能化の動きは、半導体素子の高速、高集積化を促進し、このことにより、各素子の発熱密度が増大し、局所発熱の集中が生じてきている。このため、このような温度上昇により半導体部品の故障率が上昇し、各部品の寿命が短くなるなどの問題が発生している。
【0003】
さらに、環境性を重視するという観点より、機器の密閉化冷却ファンの騒音問題など、従来から実施されていたファンによる放熱だけで上記の問題を解決することは困難な状況となっており、他の放熱手段として熱伝導あるいは熱放射を利用した新しい放熱対策が要望されている。
【0004】
しかしながら、最近の傾向として、電子機器関係の部品には各種の樹脂が使用されるため、樹脂の熱伝導性が悪いという特性の影響により、熱伝導のみでは十分な放熱等の熱対策を講ずることは困難な状況にある。すなわち、プラスチック素材などの熱伝導性の悪い素材の中に収められた電子機器の発熱源は、効率良く熱放射光を放射させても該発熱源を覆う樹脂製のカバーに捕捉されて蓄熱を起こしてしまうため、発熱源による機器の温度上昇を十分に抑えられないといった問題があった。
【0005】
一方、近年では、特許第3472838号公報、特開2002−069961号公報及び特開2004−238230号公報(以下、「特許文献1」、「特許文献2」及び「特許文献3」という)に記載されているように、波長選択性熱放射材料を用いて放射される熱エネルギーを特定の波長へ選択して集中化を図り、これにより熱の利用効率等を向上させる技術が開発されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術は、原則として機器等に対し効率良く“熱エネルギーを供給”するために利用可能な技術であると考えられていたため、その適用によって機器等の熱の蓄積を助長することはあっても、機器等における熱の蓄積を抑制し、放熱などにより機器等から効率良く“熱エネルギーを放出”させるために使用することは不利であると考えられていた。
【特許文献1】特許第3472838号公報
【特許文献2】特開2002−069961号公報
【特許文献3】特開2004−238230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、プラスチック素材などの熱伝導性の悪い素材の中に収められた電子機器の発熱源の熱を効率良く効果的に放出させる手段として、特許文献1−3に記載されているような波長選択性熱放射材料を用いてプラスチック素材など樹脂の熱に対する透過性を向上(透明化)させ、発熱源が樹脂部材で覆われている電子機器の放熱効率を向上させる方法、波長選択性熱放射材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、波長選択性熱放射材料、及び該波長選択性熱放射材料と樹脂部材で覆われている電子機器の構造などについて鋭意検討を重ねた結果、プラスチック素材などの熱伝導性の悪い素材の中に収められた電子機器の発熱源の熱を効果的に放出させる手段として、波長選択性熱放射材料を用いて特定の熱放射光を放射する技術を利用し、該発熱源より放射される熱放射光(赤外線)の波長範囲を特定波長域に制御することにより、樹脂の赤外線吸収による蓄熱を防止(透明化)し、発熱源が樹脂部材で覆われている電子機器の放熱効率を向上できることを見い出した。
【0009】
図1及び2は、横軸に照射した赤外線の波数(νcm−1)をとり、縦軸に赤外線の透過度(T%)をとり、赤外分光法により電子機器の部品として用いられるエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂材料について赤外線吸収スペクトルを調べた結果を示している。エポキシ樹脂あるいはポリカーボネート樹脂の赤外線吸収スペクトルを観察すると、図1及び2に示されるように赤外線波長6〜7μmを境として、これより大きい波長域では赤外線は吸収され、これ以下の波長域では殆んど吸収されずに透過する傾向が認められる。
【0010】
そこで、本発明では、発熱源から放射される赤外線に対し上記のような樹脂材料の赤外線透過波長域内にある赤外線のみを放射する波長選択性熱放射材料を適用し、そして前記波長選択性熱放射材料を介して発熱源から放射される赤外線に対し電子機器の発熱源を覆う樹脂材料を実質的に透明化することにより、発熱源から放射される熱エネルギーを効率良く放熱できるようにした。
【0011】
具体的には、本発明は、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を、前記発熱源と前記樹脂部材との間に該発熱源を覆うように配置し、発熱源が放射する熱放射光を波長選択性熱放射材料へ投入し、そして波長選択性熱放射材料の熱放射面から樹脂部材へ向けて、前記樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する波長の熱放射光を選択的に放射させることにより電子機器の放熱効率を向上させる方法であり、好ましくは、前記熱放射光は熱の伝達において影響力の大きい赤外線を対象とする。
【0012】
また、本発明の他の一面によれば、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において発熱源の放熱効率を向上させるために使用される波長選択性熱放射材料であって、平面上に周期的に繰り返される微細凹凸パターンを形成するように実質的に二次元配列された多数のマイクロキャビティと、前記マイクロキャビティの上にそれを覆うように形成される被覆層とからなる熱放射面を備え、該熱放射面は、樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射することを特徴とする波長選択性熱放射材料が提供される。
【0013】
なお、本発明において前記波長選択性熱放射材料は、発熱源の放熱効率を最大限にするために発熱源と樹脂部材との間に該発熱源を覆うように配置されることが好ましく、さらに、前記熱放射光は熱の伝達において影響力の大きい赤外線を対象としていることが好ましい。
【0014】
本発明材料の熱放射面には、表面テクスチャー化(surface texturing)された多数のマイクロキャビティが存在する。これらのマイクロキャビティは、所定の開口比及び所定のアスペクト比を有するように矩形状または円形状に開口し、かつ前記発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長と実質的に同じ周期か又は1μm短い周期に形成されていることが好ましい。
【0015】
マイクロキャビティの周期を、発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長と実質的に同じ周期にすると、その周期構造と熱放射光の電磁場とで表面プラズモン共鳴を生じるので、樹脂製部材の赤外線透過波長帯域での放射率が増加するからである(共鳴効果)。
【0016】
また、マイクロキャビティの周期を、発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長よりも1μm短い周期にすると、マイクロキャビティ内に閉じ込められた電磁波の中で最も強い強度を持つモードの波長と樹脂部材の赤外線透過波長域の波長とを一致させることが出来る。その結果、樹脂部材の赤外線透過波長域で放射率が増加するからである(キャビティ効果)。
【0017】
マイクロキャビティは、平面視野において放射面に格子状に配列されていることが好ましい。格子状の配列は熱エネルギー線の放射率を効率よく増加させるからである。なお、本発明は格子状配列のみに限定されるものではなく、ハニカム構造などの他の配列としてもよい。
【0018】
また、被覆層(マイクロキャビティの表面物質)は、波長1〜10μmの赤外領域の放射率が0.4以下の金属材料からなることが好ましい。赤外領域の放射率が0.4を超えると、選択放射特性が低下する不都合を生じるからである。
【0019】
マイクロキヤビティの周期は4〜7μmとし、発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の赤外線のみを選択的に放出できるようにすることが好ましい。樹脂の種類によって若干赤外線の吸収波長域と透過波長域が異なる場合もあるが、現在電子機器用部材として使用されている樹脂材料においては、ほぼ上記の波長域を示すことが多いからである。
【0020】
キャビティの開口比a/Λ(図2参照)を0.5〜0.9の範囲とすることが好ましい。開口比a/Λが0.5を下回ると熱放射の選択性が低下する不都合を生じるからである。一方、開口比a/Λが0.9を上回ると微細構造の熱安定性が低下する不都合を生じるからである。
【0021】
また、マイクロキャビティのアスペクト比d/a(図2参照)を0.8〜3.0の範囲とすることが好ましい。アスペクト比d/aが0.8を下回ると選択放射強度が低下するという不都合を生じるからである。一方、アスペクト比d/aが3.0を上回ると材料の製作上著しい困難を伴うという不都合を生じるからである。
【0022】
本発明に使用される波長選択性熱放射材料の半導体基板は、Si、Geなどの単体半導体、あるいはW、Mo、Ta、Nbなどの高融点金属が良い、しかし必ずしも高融点金属である必要はない。Si等の半導体やタングステン等の金属は可視光および赤外線領域において固有の熱放射バンドを有するからである。
【0023】
なお、金属基板を微細表面加工する場合は、高速原子線(Fast Atom Beam)エッチング技術を用いる。高速原子線エッチング技術はY.Kanamori,K.Hane,H.Sai and H.Yugami,100nm period silicon antireflection structures fabricated using a porous alumina membrane mask, Appl.Phys.Lett.78 (2001) 142−143などの文献に記載されている。
【0024】
被覆層は、Pt,Au,Ag,Cr,Cu,Al,Znなどの電気伝導性に優れた低抵抗率の金属、あるいはこれらの金属を主成分とする合金を用いることが好ましい。
【0025】
本発明に係る波長選択性熱放射材料の製造方法は、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、前記発熱源の放熱効率を向上させるために使用される波長選択性熱放射材料を製造する方法であって、
(a)フォトリソグラフィプロセスを用いて金属薄膜シートに開口する多数の周期配列孔を開口形成し、これにより多孔金属マスクを得るステップと、
(b)半導体基板にレジストを塗布し、このレジスト塗膜と向き合うように前記多孔金属マスクを配置し、前記周期配列孔を介して前記レジスト塗膜に所定波長の光を照射してパターン露光するステップと、
(c)前記レジスト塗膜に現像液を接触させ、該レジスト塗膜中のパターン露光潜像を現像するステップと、
(d)所定のエッチング法を用いて前記半導体基板をパターンエッチングし、これにより該半導体基板の表面に微細凹凸パターンを形成するステップと、そして
(e)前記半導体基板から前記レジスト塗膜を除去し、物理的気相成長法又は化学的気相成長法を用いて前記半導体基板表面の微細凹凸パターンの上に金属被覆膜を積層し、これにより前記半導体基板の上に周期的に二次元配列されたマイクロキャビティを得るステップと、
からなることを特徴とする。
【0026】
上記のステップ(a)において、多孔金属マスクの周期配列孔は、発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長と実質的に同じ周期か又は1μm短く形成されていることが好ましい。このような周期配列孔をもつマスクを用いてマイクロキャビティを形成すると、上述の共鳴効果とキャビティ効果とにより特定波長の熱輻射を発現させることができるからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器に対し、周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を適用することにより電子機器の放熱効率を向上させる方法、波長選択性熱放射材料及びその製造方法が提供される。
【0028】
その結果、本発明によれば、冷却ファンなどの特別な装置を用いることなく発熱源を有する電子機器を十分に放熱及び冷却することができ、コンパクトで設計の自由度の高い電子機器の製作を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0030】
図1及び2は、電子機器の部品として用いられるエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂に赤外線を照射して透過光を分光することにより、前記樹脂材料の赤外線吸収スペクトルを調べたものである。横軸は照射した赤外線の波数(νcm−1)を表し、縦軸は赤外線の透過度(T%)を表す。この結果、エポキシ樹脂あるいはポリカーボネート樹脂は、図1及び2に示されるように赤外線波長6〜7μmを境として、これより大きい波長域では赤外線を吸収し、これ以下の波長域では殆んど吸収せずに透過させる傾向があることが判る。
【0031】
マイクロキャビティ周期構造の熱放射特性をシミュレーションするために、RCWA(Rigorous Coupled−Wave Analysis)法に基づく数値解析を実施した。その結果、マイクロキャビティ周期構造が、赤外線に対し樹脂部材を実質的に透明化するための熱放射に適したスペクトル選択性を有することを示すことが実証された。観測された放射バンドは、電磁波と表面の定常波との共鳴効果およびマイクロキャビティ内で発生する定常波モードから発生すると推察される。
【0032】
次に、RCWA法に基づく数値解析の概要について説明する。
【0033】
数値解析
周期的な表面微細構造により波長選択的な吸収特性が得られる現象は、周期構造により誘起される表面プラズモンによる吸収やキャビティ構造による定在波モードの吸収などで説明されているが、材料物性も関係してくる複雑な事象であるため、定量的な説明はまだなされておらず、解析的に特性を評価することは困難である。
【0034】
[解析モデル]
そこで、本発明者等は、マクスウェル方程式の厳密解法であるRigorous Coupled−Wave Analysis(以下、RCWA法という)を用いてマイクロキャビティ周期構造の最適形状モデルの決定を行った。図3に示すように、最適形状モデル1は、開口径aと深さdを有する矩形のマイクロキャビティ2が、周期Λで縦横に二次元配列された構造である。これらのマイクロキャビティ2はシリコン基板3の片面に形成され、これに白金4が被覆されている。
【0035】
[計算条件]
上記のような構造を有する解析モデルを用いてRCWA法に基づく数値解析を行い、表面にサブミクロン周期構造を持つ材料の光学特性をシミュレーション評価した。RCWA法では材料の誘電率分布をフーリエ級数展開により表現するため、任意の周期構造の解析が可能である。幾何形状及び材料の光学定数(複素屈折率)を入力し、マクスウェル方程式を厳密に解くことにより入射波の応答を求めることができる。RCWA法は一般的な三次元の回折格子問題を分析する方法である。微細構造領域での誘電率分布は、フーリエ展開によって表現される。解析精度は電磁場の空間的な調和展開項の数に依存する。本発明では2次元周期構造が解析対象であるが、x軸とy軸方向にそれぞれプラスマイナス7次まで、合計で225個の回折波を考慮して計算を行い、解が十分収束することを確認した。
【0036】
プラスマイナス7次までの回折次数はx軸およびy軸方向に考慮され、従って、本発明では225個の各回折次数についての回折効率を各波長について計算した。本発明者等はこれらの条件で解が充分収束することを確認した。入力データには、入射波の条件、構造上のプロファイル、および材料の光学定数(n, k)の状態のみが含まれ、可変パラメータは計算に用いない。各回折次数のための回折効率は、D.W.Lynch and W.R.Hunter, Handbook of Optical Constants of SolidsI,E.D.Palik, ed.(Academic Press, New York, 1985), pp.333−341、及びD.F.Edwards, Handbook of Optical Constants of SolidsI, E.D.Palik, ed.(AcademicPress, New York, 1985), pp.547−569、においてそれぞれ報告された室温での白金及びSiの光学定数を用いて計算される。その計算は、本発明者等が先の出願した特願2002−131833号の明細書に記載した手順に従っている。
【0037】
図4は、横軸に波長λ(μm)をとり、縦軸にスペクトル放射率をとって、図3に示す構造モデルをRCWA法で数値解析した結果を示すスペクトル放射特性線図である。
【0038】
スペクトル放射率は、矩形マイクロキャビティの周期Λを(1)4.8μm,(2)6.3μm,(3)7.0μmと変更してシミュレーションを行った。すなわち、(1)周期Λ=4.8μmは、樹脂の吸収がもっとも少ない波長域に波長選択性熱放射材料の放射ピークを設定したものであり、(2)周期Λ=6.3μmは、樹脂の吸収が少なくまた設定温度における黒体の放射ピークの近くで放射エネルギーが大きい波長域に波長選択性熱放射材料の放射ピークを設定したものであり、そして(3)周期Λ=7.0μmは、樹脂の吸収ピークに波長選択性熱放射材料の放射ピークを設定したものである。
【0039】
[計算結果]
計算結果より、放射ピークは周期Λと同程度の波長と周期Λより1μm程度大きい波長に現れ、また、計算結果からは周期Λ=6.3μmΛ=あるいはΛ=4.8μmにするとエポキシの赤外線吸収係数が小さくなる波長域にほぼ制御できることが判った。
【0040】
実施例
次に、波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の製造に用いるためのマスク(レチクル)を作製し、そして該マスク(レチクル)を用いて本発明による波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)を作製した。
【0041】
具体的には、(a)フォトリソグラフィプロセスを用いて金属薄膜シートに開口する多数の周期配列孔を開口形成し、これにより多孔金属マスクを得るステップと、(b)シリコン基板にレジストを塗布し、このレジスト塗膜と向き合うように前記多孔金属マスクを配置し、前記周期配列孔を介して前記レジスト塗膜に所定波長の光を照射してパターン露光するステップと、(c)前記レジスト塗膜に現像液を接触させ、該レジスト塗膜中のパターン露光潜像を現像するステップと、(d)所定のエッチング法を用いて前記半導体基板をパターンエッチングし、これにより当該シリコン基板の表面に微細凹凸パターンを形成するステップと、そして(e)前記シリコン基板から前記レジスト塗膜を除去し、物理的気相成長法又は化学的気相成長法を用いて前記シリコン基板表面の微細凹凸パターンの上に白金からなる金属被覆膜を積層し、これにより前記シリコン基板の上に周期的に二次元配列されたマイクロキャビティを得るステップにより、本発明による波長選択性熱放射材料を作製した。
【0042】
なお、より具体的なマスク(レチクル)の作製方法及び波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の作製方法は、本発明者等が先の出願した特願2004−238230号(特許文献3)の明細書の中に詳しく記載されているので、ここでは、参照として特許文献3に記載のマスクの作製方法及び波長選択性熱放射材料の作製方法を採り入れる。
【0043】
図5及び6は、本発明による波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の表面を約一万倍の倍率(1×10)に拡大した走査型電子顕微鏡写真であり、図5は周期Λ=6.3μm,開口径a=4.80μm、図6は周期Λ=4.8μm,開口径a=3.84μmの設定条件で作製したものである。図5及び6において、両マイクロキャビティは略矩形の形状をなし、縦横格子状に周期配列されていることを確認できる。
【0044】
放熱効果評価テスト
[評価装置]
次に、図7に示される放熱効果評価装置5を製作し、樹脂部材で覆われるヒーターに対し、該ヒーターを本発明による波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)で覆った場合の放熱効果を評価した。
【0045】
図7に示される放熱効果評価装置5は、ヒーターの表面に波長選択性熱放射材料等が適用された、外側が樹脂部材で覆われた発熱体10と、該発熱体10を外部雰囲気から断熱するためにその周囲を覆う断熱ボックス20と、そして発熱体10からの熱放射強度(温度)を測定するためのサーモトレーサー30及び熱電対31a−31dから構成される。
【0046】
発熱体10は、2枚のアルミニウム板12で挟まれたヒーター11を備え、前記ヒーターのアルミニウム板12の表面を、マイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料等13で覆い、さらにその外側をエポキシ樹脂からなる樹脂部材14で取り囲んだ構造を有する。また、サーモトレーサー30は発熱体10を覆う樹脂部材14の表面温度を測定し、熱電対31a−31dでは、それぞれ筺体内温度,樹脂部材内面温度,樹脂部材外面温度を測定する。
【0047】
[評価材料]
樹脂部材14に対し赤外線の透過を促進させるため、ヒーター部11を覆う部材の表面条件としては、波長選択性熱放射材料を適用せずにヒーター部11のアルミニウム板12をそのまま樹脂部材14の内面に対して露出させたもの(比較例1)と、波長選択性熱放射材料として赤外線の波長全域にわたって高い放射率を示す高放射塗料(商品名:クールテック,オキツモ株式会社)を塗布したシリコン基板を適用したもの(比較例2)を準備し、本発明による波長選択性熱放射材料としては、上述された方法により作製した矩形マイクロキャビティの周期Λが4.8μmの熱放射材料(実施例1),6.3μmの熱放射材料(実施例2),及び7.0μmの熱放射材料(実施例3)を準備した。
【0048】
[テスト結果]
上記の評価材料のそれぞれを、ヒーター入力60mA,36Vの条件で加熱した場合(結果として、その時のヒーター部11の温度は略90℃となる)の各測定部位の温度(熱放射強度)を測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、本発明による実施例1−3の波長選択性熱放射材料は、比較例1の波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)を適用しなかったもの、及び比較例2の高い放射率を示す高放射塗料を塗布したシリコン基板と比較しても、発熱体10を覆っている樹脂部材14の温度を上昇させることなく、発熱源の高い放熱効果を有していることが判った。特に、樹脂部材14で覆われている発熱体10に対して、実施例1の矩形マイクロキャビティの周期Λが4.8μmである場合が、ヒーター部11からの熱放射光を最も効果的に放熱できることが判った。
【0051】
以上詳述したように、本発明者等は、二次元表面微細構造(マイクロキャビティ)が発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域で選択的に熱エネルギー線を放射することを実証した。また、RCWAアルゴリズムに基づく数値解析により、矩形マイクロキャビティを有する表面微細構造が良好なスペクトル選択性を有することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】赤外分光法によるエポキシ樹脂の赤外線吸収スペクトル特性線図である。
【図2】赤外分光法によるポリカーボネート樹脂の赤外線吸収スペクトル特性線図である。
【図3】コンピュータシミュレーション数値解析法(RCWA法)に用いた解析モデルの概要図である。
【図4】矩形キャビティの周期Λを変えたときの解析モデルについて数値解析して得た波長/スペクトル放射率の相関をそれぞれ示す特性線図である。
【図5】設定周期Λ=6.0μmの本発明の波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の表面を拡大した走査型電子顕微鏡(SEM;倍率10000倍)写真である。
【図6】設定周期Λ=4.8μmの本発明の波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の表面を拡大した走査型電子顕微鏡(SEM;倍率10000倍)写真である。
【図7】本発明の波長選択性熱放射材料(選択エミッタ)の放熱効果評価装置の概要図(一部断面図を含む)である。
【符号の説明】
【0053】
1… 最適形状モデル
2… 矩形のマイクロキャビティ
3… シリコン基板
4… 白金被覆層
5… 放熱効果評価装置
10… 発熱体
11… ヒーター部材
12… アルミニウム板
13… 波長選択性熱放射材料
14… 樹脂部材
20… 断熱ボックス
30… サーモトレーサー
31a…熱電対(ヒーター)
31b…熱電対(筺体内)
31c…熱電対(樹脂部材内面)
31d…熱電対(樹脂部材外面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、
周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を、前記発熱源と前記樹脂部材との間に該発熱源を覆うように配置し、
前記発熱源からの熱エネルギーを伝熱または熱放射により前記波長選択性熱放射材料へ投入し、そして
前記波長選択性熱放射材料の熱放射面から前記樹脂部材へ向けて、前記樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射させることにより、前記電子機器の放熱効率を向上させる方法。
【請求項2】
前記熱放射光は、赤外線であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器の放熱効率を向上させる方法。
【請求項3】
発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、前記発熱源の放熱効率を向上させるために使用される波長選択性熱放射材料であって、
平面上に周期的に繰り返される微細凹凸パターンを形成するように実質的に二次元配列された多数のマイクロキャビティと、前記マイクロキャビティの上にそれを覆うように形成される被覆層とからなる熱放射面を備え、
前記熱放射面は、前記樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射することを特徴とする前記波長選択性熱放射材料。
【請求項4】
前記波長選択性熱放射材料は、前記発熱源と前記樹脂部材との間に該発熱源を覆うように配置されることを特徴とする請求項3に記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項5】
前記熱放射光は、赤外線であることを特徴とする請求項3又は4に記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項6】
前記マイクロキャビティは、所定の開口比及び所定のアスペクト比を有するように矩形状または円形状に開口し、かつ前記発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長と実質的に同じ周期か又は1μm短い周期に形成されていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項7】
前記マイクロキャビティは、平面視野において放射面に格子状に配列されていることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか一方に記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項8】
前記被覆層は、波長1〜10μmの赤外領域の放射率が0.4以下の金属材料からなることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項9】
前記マイクロキャビティの周期は、4〜7μmであることを特徴とする請求項3ないし8のいずれかに記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項10】
前記マイクロキャビティの開口比は、0.5〜0.9の範囲内であることを特徴とする請求項3ないし9のいずれかに記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項11】
前記マイクロキャビティのアスペクト比は、0.8〜3.0の範囲内であることを特徴とする請求項3ないし10のいずれかに記載の波長選択性熱放射材料。
【請求項12】
発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、前記発熱源の放熱効率を向上させるために使用される波長選択性熱放射材料を製造する方法であって、
(a)フォトリソグラフィプロセスを用いて金属薄膜シートに開口する多数の周期配列孔を開口形成し、これにより多孔金属マスクを得るステップと、
(b)半導体基板にレジストを塗布し、このレジスト塗膜と向き合うように前記多孔金属マスクを配置し、前記周期配列孔を介して前記レジスト塗膜に所定波長の光を照射してパターン露光するステップと、
(c)前記レジスト塗膜に現像液を接触させ、該レジスト塗膜中のパターン露光潜像を現像するステップと、
(d)所定のエッチング法を用いて前記半導体基板をパターンエッチングし、これにより該半導体基板の表面に微細凹凸パターンを形成するステップと、そして
(e)前記半導体基板から前記レジスト塗膜を除去し、物理的気相成長法又は化学的気相成長法を用いて前記半導体基板表面の微細凹凸パターンの上に金属被覆膜を積層し、これにより前記半導体基板の上に周期的に二次元配列されたマイクロキャビティを得るステップと、
からなることを特徴とする波長選択性熱放射材料の製造方法。
【請求項13】
前記工程(a)において、多孔金属マスクの周期配列孔は、前記発熱源を覆っている樹脂部材の赤外線透過波長域の波長と実質的に同じ周期か又は1μm短い周期に形成されていることを特徴とする請求項12に記載の波長選択性熱放射材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−27831(P2010−27831A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186855(P2008−186855)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000103677)オキツモ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】