説明

発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法

高価な酵素を必要とせず、安価で安易な操作で短時間で検出することができ、更に、リニア増幅法やPCR法を用いないため、元のRNAの長さや発現量に対応した検出を可能とする発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法を提供する。逆転写反応及びオリゴヌクレオチド・プローブの自己集合により自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法に関し、更に詳しくは、オリゴヌクレオチドによる自己集合反応を利用して、検出感度を向上させ、標的RNAの長さ及び発現量に応じて目的遺伝子を検出することができる発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法に関する。
【背景技術】
通常、DNAチップを用いた発現遺伝子の検出は、ポリdTのみを有するプライマーもしくはランダムプライマーを用い、逆転写反応により、Cy3やCy5等の蛍光物質でラベルした核酸を取り込ませた標識cDNAをプローブとしている。また、微量のサンプルに対しては、リニア増幅法を用いアンチセンスRNAを合成することが一般的である(例えば、林崎良英監修、「DNAマイクロアレイ実戦マニュアル」羊土社、2000年12月1日、p.80−90参照。)。しかし、リニア増幅法は、第1鎖cDNA合成後、RNaseH、DNAポリメラーゼI、DNAリガーゼの3種類の酵素を用いて第二鎖cDNAを合成し、最終的にRNAポリメラーゼによりin vitro転写反応を行いアンチセンスRNAを増幅するという方法であるが、高額な酵素を多種用いなければならず、その上操作も非常に煩雑であるという欠点がある。また、サンプルが極微量である場合、このリニア増幅法を複数回繰り返さなければならない。リニア増幅法で得られたアンチセンスRNAは、元のRNAより短くなる傾向があり、もとのRNAの長さを正確には反映していないという問題点があった。
一方、本発明者等は酵素を使用しない新規な等温核酸増幅法を報告した(例えば、米国特許第6,261,846号公報、特許第3267576号公報、及び欧州特許出願公開第1,002,877A号明細書参照。)。この方法は、3個所の領域から構成される1対のオリゴヌクレオチド(HoneyComb Probe、以下、HCPと称する)を用いる方法であり、第1HCPと第2HCPの各々の3個所の領域は互いに相補的な塩基配列を有し、両者を反応させた場合、領域の1個所のみとハイブリダイズする様に塩基配列を工夫したものである。この工夫により、複数の一対のHCPを反応させた場合、互いにハイブリダイズし、HCPの自己集合反応により集合体を形成させることができる(Probe alternation link self−assembly reaction、以下、このHCPの自己集合反応による集合体の形成法をPALSAR法と称する)。
【発明の開示】
本発明は、高価な酵素を必要とせず、安価で安易な操作で短時間で検出することができ、更に、リニア増幅法やPCR法を用いないため、元のRNAの長さや発現量に対応した検出を可能とする発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の第1の態様は、逆転写反応及びオリゴヌクレオチド・プローブの自己集合により自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップ、DNAマイクロアレイ、マイクロウェル又は球状ビーズ(本発明では、DNAテップ、DNAマイクロアレイ、マイクロウェル又は球状ビーズをDNAチップと総称する。)における発現遺伝子の検出感度を向上させることを特徴とする。
本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の第2の態様は、逆転写反応及びオリゴヌクレオチド・プローブの自己集合により自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させる方法であって、3’末端にポリdTを有し且つ前記オリゴヌクレオチド・プローブにハイブリダイズすることが可能な領域を有する第1プローブをプライマーとして用いてmRNAの逆転写反応を行い、cDNA領域を有する第2プローブを形成させる工程、前記mRNAを前記第2プローブから解離させる工程、前記第2プローブを、標的mRNAのcDNA領域に相補的な領域を有する捕捉用プローブにハイブリダイズさせる工程、及び前記第2プローブと前記オリゴヌクレオチド・プローブを用いた自己集合反応により自己集合体を形成させる工程を有することを特徴とする。
上記自己集合反応により自己集合体を形成させる工程を行う段階は、特に限定されないが、上記第2プローブを上記捕捉用プローブにハイブリダイズさせる工程の後に行うことが望ましい。
上記自己集合反応として、第1に、互いに相補的な塩基配列領域がn(n≧3)カ所の数から構成される一対のオリゴヌクレオチド・プローブの複数対を用いて、互い違いに交差するようにハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合し、二本鎖の自己集合体を形成させる自己集合反応を用いることができる。
上記自己集合反応として、第2に、No.1及びNo.2の一対のオリゴヌクレオチドの各オリゴヌクレオチドを3’側領域、中央領域、及び5’側領域の3つの領域に分け、各オリゴヌクレオチドの中央領域を互いに相補的な塩基配列としてダイマープローブを形成するとともに、3’側領域及び5’側領域を互いに非相補的な塩基配列とした一対のダイマー形成用プローブを複数対含む第1の系と、No.3及びNo.4の一対のオリゴヌクレオチドの各オリゴヌクレオチドを3’側領域及び5’側領域の2つの領域に分け、各オリゴヌクレオチドの3’側領域及び5’側領域を互いに非相補的な塩基配列とした一対の架橋プローブを複数対含む第2の系とを有し、該架橋プローブを該ダイマー形成用プローブより形成されるダイマーを架橋することが可能な塩基配列とし、該プローブをハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合し、自己集合体を形成させる自己集合反応を用いることができる。
上記プローブの塩基配列を、第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの3’側領域、第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの5’側領域、第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの3’側領域、第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの5’側領域をそれぞれ相補的な塩基配列とすることができる。
上記プローブの塩基配列を、第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの3’側領域、第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの5’側領域、第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの3’側領域、第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの5’側領域をそれぞれ相補的な塩基配列とすることができる。
本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の第3の態様は、逆転写反応及び互いに相補的な塩基配列領域がn(n≧3)カ所の数から構成される一対のオリゴヌクレオチド・プローブである第1HCP及び第2HCPの複数対を用いて、互い違いに交差するようにハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合して自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させる方法であって、3’末端にポリdTを有し且つ前記第1HCPの塩基配列領域を少なくとも一部分有する第1プローブをmRNAに結合させ、逆転写酵素を用いて逆転写反応させ、cDNA領域及び前記第1HCPの塩基配列領域を少なくとも一部分有する第2プローブを形成させ、mRNAを除去した後、前記第2プローブを標的mRNAのcDNA領域に相補的な領域を有する捕捉用プローブにハイブリダイゼーションさせ、前記第1HCP及び前記第2HCP又は前記第2HCPを添加し、オリゴヌクレオチドの自己集合反応による自己集合体を形成させ、シグナルを増幅させることを特徴とする。
本発明のシグナル増幅方法において、標的発現遺伝子としては、末端にポリAを含むmRNAを用いることができる。
上記DNAチップが、ターゲット遺伝子を捕捉するための捕捉用プローブを結合する支持体を有し、該支持体として、マイクロプレート型、スライドグラス型、微粒子型、又は電気伝導性の基板型等の支持体を用いることが好適である。上記マイクロプレート型と微粒子型の支持体の材質にはプラスチックやポリスチレン等を使用することができる。また、スライドグラス型の支持体では、ガラスやプラスチック等の素材を使用することができる。電気伝導性の基板型の支持体には、金電極やITO電極(indium oxide電極)などを使用することができる。
上記自己集合体に対して、標識プローブをハイブリダイゼーションさせることによりより上記自己集合体の存在を検出することができる。
上記標識プローブが、発色系酵素、発光系酵素、又はラジオアイソトープで標識した標識プローブであることが好適である。
上記自己集合体に対して、核酸と結合する性質を持った蛍光物質を加え、その蛍光物質の光化学的な変化により上記自己集合体の存在を検出することができる。
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドを蛍光物質で標識し、上記自己集合体の存在を蛍光物質の光化学的な変化により検出することができる。
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドをラジオアイソトープで標識し、上記自己集合体の存在をラジオアイソトープにより検出することができる。
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドを発色系酵素又は発光系酵素で標識し、上記自己集合体の存在を光化学的な変化により検出することができる。
上記オリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、PNAまたはLNAのいずれかから選ばれる塩基から構成される。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の一例を示すフローチャートである。
図2は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ200を原理的に示す模式図である。
図3は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ202を原理的に示す模式図である。
図4は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ204を原理的に示す模式図である。
図5は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ206を原理的に示す模式図である。
図6は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ210を原理的に示す模式図である。
図7は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ212を原理的に示す模式図である。
図8は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第1の例におけるステップ214を原理的に示す模式図である。
図9は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第2の例におけるステップ300を原理的に示す模式図である。
図10は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第2の例におけるステップ302を原理的に示す模式図である。
図11は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第2の例におけるステップ304を原理的に示す模式図である。
図12は、本発明のシグナル増幅方法の工程順の第2の例におけるステップ306を原理的に示す模式図である。
図13は、実施例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、これらの実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能であることはいうまでもない。
図1は、本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の工程順の一例を示すフローチャートである。
図1に示したように、まず、3’末端にポリdTを有し且つ自己集合反応に用いられるオリゴヌクレオチド・プローブの少なくとも一つとハイブリダイズすることが可能な領域を有する第1プローブを準備する。該第1プローブをプライマーとして用いて、ポリAを含むmRNAに結合させ、逆転写酵素によりmRNAの逆転写反応を行い(ステップ100)、該第1プローブ及び該mRNAのcDNA領域からなる第2プローブを形成させる。上記第1プローブの5’側の塩基配列を、上記自己集合反応に用いられるオリゴヌクレオチド・プローブの塩基配列を少なくとも一部分有するように構成することが好適である。
次に、mRNAを第2プローブから解離させる(ステップ102)。mRNAを解離する方法としては、特に限定されず、例えば、熱変性、アルカリ変性、RNaseHによるRNA消化等を用いた方法が挙げられる。
解離後の第2プローブを、標的mRNAのcDNA領域に相補的な領域を有する捕捉用プローブにハイブリダイズさせ、第2プローブを捕捉させる(ステップ104)。捕捉用プローブを予め支持体に結合させておくことが好ましい。
オリゴヌクレオチド・プローブを添加し、自己集合反応により、第2プローブとハイブリダイズした自己集合体を形成させ(ステップ106)、シグナルを増幅させることができる。
試料中に標的mRNAが存在しない場合、第2プローブは、捕捉用プローブと結合しないため、シグナル増幅は行われない。よって、本発明のシグナル増幅方法により標的mRNAの存在を確認することができる。また、本発明のシグナル増幅方法は、リニア増幅法を用いないため、元のRNAの長さに対応した検出が可能であり、更にPCR法を用いないため、発現量に対応したシグナル増幅を行うことができる。
自己集合反応としては、互いに相補的な3領域から構成され、自ら自己集合して集合体を形成することができる一対のHCPによる自己集合反応(特許第3267576号公報、特許第3310662号公報等参照。)を用いることができる。また、自らダイマーを形成する一対のダイマー形成用プローブ及び該ダイマー形成用プローブより形成されるダイマーを架橋することが可能な一対の架橋プローブによる自己集合反応(特開2002−355081号公報等参照。)を用いることも可能である。
なお、図1においては、ステップ104の後にステップ106を行った場合の例を示したが、ステップ104の前もしくはステップ104と同時にステップ106を行うことも可能である。
図2〜図8は、本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の工程順の第1の例を原理的に示す模式図である。第1の例は、自己集合反応として、予め蛍光物質22で標識した一対のHCPを用いたPALSAR法を利用したシグナル増幅法であり、第1プローブ12aとして、3’末端にポリdTを含むHCPを用いた場合の例を示す。
図2に示した如く、ターゲット遺伝子のmRNA10aを検出するために、第1プローブ12aとして、3’末端にポリdTを含み、5’側にHCPの3領域を有するオリゴヌクレオチド・プローブ(HCP−1)を準備し(ステップ200)、図3に示した如く、mRNA10aのポリAテール部分に3’末端にポリdTを含むHCP−1(12a)を結合させる(ステップ202)。その後、図4に示した如く、逆転写酵素を用いて逆転写反応させ、mRNAの相補配列を有するHCPである第2プローブ14aを作製した後(ステップ204)、図5に示した如く、mRNA10aを解離し、cDNA領域とHCP領域からなる一本鎖のオリゴヌクレオチドとする(ステップ206)。
図6に示した如く、支持体18上にターゲット遺伝子のcDNAと相補的な領域を持つ捕捉用プローブ16aを結合させておき(ステップ210)図7に示した如く、上記形成されたcDNA領域を有するHCPである第2プローブ14aを捕捉用プローブ16aにハイブリダイゼーションさせ(ステップ212)、図8に示した如く、一対のもう一方のHCP(HCP−2)を加え、自己集合反応により自己集合体20aを形成させ(ステップ214)、シグナル増幅を行うことができる。なお、上記ステップ206の標的mRNAを除去する際、洗浄操作を行った場合は、上記ステップ214において、一対のHCPを添加する必要がある。
上記第1の例では、HCP−1の3領域中の3’側領域の一部をポリdTとした一対のHCPを用いた例を示したが、HCP−1の3’側領域を全てポリdTとし、HCP−2の3領域中の3’側領域を全てポリAとした一対のHCPを用いることもできる。
図9〜図12は、本発明の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法の工程順の第2の例を原理的に示す模式図である。第2の例は、自己集合反応として、蛍光物質で標識されていない一対のHCPを用いたPALSAR法を利用したシグナル増幅法であり、第1プローブ12bとして、3’末端にポリdTを含み且つHCPの相補領域を1つ含んでいるオリゴヌクレオチド・プローブを用いた場合の例を示す。
図9に示した如く、ターゲット遺伝子のmRNA10bを検出するために、第1プローブ12bとして、3’末端にポリdTを含み、5’側にHCPの相補領域を一つ有するオリゴヌクレオチド・プローブを準備し(ステップ300)、図10に示した如く、mRNA10bのポリAテール部分に該オリゴヌクレオチド・プローブ12bを結合させ、逆転写酵素を用いて逆転写反応させ、mRNAの相補配列を有する第2プローブ14bを作製する(ステップ302)。mRNA10bを解離し、cDNA領域とHCP領域を含む一本鎖のオリゴヌクレオチドとする。
図11に示した如く、上記第2プローブ14bを支持体18に結合した捕捉用プローブ16bにハイブリダイゼーションさせ(ステップ304)、図12に示した如く、一対のHCPを添加し、自己集合反応により自己集合体20bを形成させ(ステップ306)、形成された自己集合体20bに対してインターカレーター24等を挿入し(ステップ308)、シグナル増幅を行うことができる。なお、ステップ306とステップ308を同時に行うことも可能である。
一対のオリゴヌクレオチド・プローブに、あらかじめ検出のための標識物質として、例えば、I125やP32等のラジオアイソトープ、ジゴキシゲニンやアクリジニウム・エステル等の発光物質やCy3・Cy5等の蛍光物質、4−メチルウンベリフェリルリン酸等の蛍光物質を利用するためのビオチン等、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を利用するためのドナー蛍光色素とアクセプター蛍光色素を付加させておき、標的遺伝子を検出することも可能である。
また、核酸と結合する性質を有する色素を添加することにより、標的遺伝子を検出することも可能である。インターカレーターのような核酸と結合する性質を有する蛍光物質を用いてターゲット遺伝子を検出することが好適である。蛍光物質としては、核酸と結合する性質を有する蛍光物質であれば、特に限定されないが、例えば、SYBR Green I stain、SYBR Green II stain、SYBR Green Gold stain、Vistra Green stain、Gelstar stain、Radlant Red stain、PicoGreen、RiboGreen、OllGreen、Hoechst 33258(Bis−Benzimide)、Propidium lodide、YO−PRO−1 lodide、YO−PRO−3 lodide(以上、Molecular Probes社製)、臭化エチジウム、Distamycin A、TOTO、Psoralen、アクリジニウムオレンジ(Acridine Orange)、AOAO(homodimer)等が使用できる。
上記した一対のオリゴヌクレオチドを構成する核酸は、通常DNA又はRNAで構成されるが、核酸類似体でも構わない。核酸類似体として、たとえば、ペプチド核酸(PNA、例えば、国際公開第92/20702号パンフレット参照。)やLocked Nucleic Acid(LNA、例えば、Koshkin AA et al.Tetrahedron 1998.54,3607−3630、Koshkin AA et al.J.Am.Chem.Soc.1998.120,13252−13253、及びWahlestedt C et al.PNAS.2000.97,5633−5638.参照。)が挙げられる。また、一対のオリゴヌクレオチド・プローブは、通常、同じ種類の核酸で構成されるが、たとえばDNAプローブとRNAプローブが一対になっても差し支えない。即ち、プローブの核酸の種類はDNA、RNAまたは核酸類似体(たとえばPNAやLNA等)から選択することができる。又、一つのプローブ内での核酸組成は一種類、たとえばDNAのみから構成される必要はなく、必要に応じて、たとえば、DNAとRNAから構成されるオリゴヌクレオチド・プローブ(キメラプローブ)を使用することも可能であり、本発明に含まれる。
オリゴヌクレオチド・プローブの各相補的塩基配列領域の長さは、塩基数にして、少なくとも5塩基であり、好ましくは10〜100塩基、さらに好ましくは15〜30塩基である。
これらプローブは公知の方法により合成することができる。たとえばDNAプローブの場合、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems Inc.)のDNAシンセサイザー394型を用いて、ホスホアミダイド法により合成することができる。また、別法としてリン酸トリエステル法、H−ホスホネート法、チオホスホネート法等があるが、いかなる方法で合成されたものであってもよい。
本発明は、DNAチップで捕捉したターゲット遺伝子に対して、相補的な領域を有する一対のHCPで自己集合体を形成させるものである。使用するオリゴヌクレオチド・プローブの本数は特に限定されないが、10〜1015本の範囲で用いられる。反応緩衝液の組成、濃度は特に限定されず、核酸増幅に常用される通常の緩衝液が好適に使用できる。pHも常用の範囲で好適であり、好ましくはpH7.0〜9.0の範囲のものが使用できる。反応温度は40〜80℃、好ましくは55〜65℃である。
本発明における標的発現遺伝子(mRNA)測定用試料は、該核酸を含む可能性のあるあらゆる試料が適用できる。標的遺伝子は試料より適宜調製または単離したものでもよく、特に限定されない。たとえば、血液、血清、尿、糞便、脳脊髄液、組織液、細胞培養物等の生体由来試料、カビ等の末端にポリA鎖を含むmRNAを持つあらゆる真核生物の含有または感染した可能性のある試料等が挙げられる。また、試料中の標的遺伝子を公知の方法で増幅した核酸も使用可能である。
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
以下に実施例において用いた材料を示す。
(a)ターゲット遺伝子:培養細胞より抽出したTotalRNA
(b)キャプチャープローブ(捕捉用プローブ):

(c)プライマー:

(d)HCP:

(e)ポリスチレン製粒子ビーズ:1種類の粒子ビーズに上記2種類のキャプチャープローブを固定したもの
【実施例1】
培養細胞から抽出したTotalRNAを用い、ハウスキーピング遺伝子であるBeta−actinの検出を、PALSAR法を利用して試みた。
(1)RNAの逆転写反応及び逆転写産物の精製
上記ターゲット遺伝子、上記第1プローブ、逆転写酵素(SuperScriptII:インビトロジェン社製)、及び反応溶液(Reaction Buffer,DTT,dNTP,RNase inhibitor)を用いて逆転写反応を37℃で2時間行った。その後65℃で30分アルカリ処理を行い、塩酸を用いて中和した。逆転写産物であるcDNAをQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した。
(2)ハイブリダイゼーション
次に、[上記得られたcDNA、上記粒子ビーズ、6×SSC、0.2%SDS、5×デンハルト溶液]の組成を、全量50μLになるように調整し、42℃で2時間ハイブリダイゼーションを行った。終了後0.22μmフィルターでろ過し、未反応プローブを除去し、2×SSC+0.1%SDSで1回、0.2×SSCで1回洗浄し上記フィルターでろ過した。
その後、[上記得られた粒子ビーズ、上記HCP−1及び2(1.5pmol/μL)、1%Blocking Reagent(Roche社製)、0.1%N−lauroylsarcosine、0.02%SDS、5×SSC]の組成(全量100μL)で65℃30分間、ハイブリダイゼーションを行った。
(3)検出
洗浄後の粒子ビーズをフローサイトメーター用シース液に再懸濁しフローサイトメーターで、HCPに標識されているCy3の蛍光を測定した。
(比較例1)
通常行われているポリdTプライマーによるCy3−dNTP取り込みの系を用いてターゲット遺伝子の検出を行った。
(1)RNAの逆転写反応及び解離反応
プライマーとして上記ポリdTプライマーを用い、dNTPの他に、Cy3ラベルdUTP(Amercham社製)を取り込ませた以外は実施例1と同様にして逆転写反応及び逆転写産物の精製を行った。
(2)ハイブリダイゼーション
次に、[上記得られたcDNA、上記粒子ビーズ、6×SSC、0.2%SDS、5×デンハルト溶液]の組成を、全量50μLになるように調整し、42℃で2時間ハイブリダイゼーションを行った。終了後0.22μmフィルターでろ過し、未反応プローブを除去し、2×SSC+0.1%SDSで1回洗浄ろ過した。
(3)検出
洗浄後の粒子ビーズをフローサイトメーター用シース液に再懸濁しフローサイトメーターで、粒子ビーズ上のキャプチャープローブと結合したcDNAに標識されているCy3の蛍光を測定した。
[結果]
実施例1及び比較例1の結果を図13に示した。蛍光強度は、各々の種類に対し203から504個の粒子ビーズの蛍光強度を測定しそのメジアン値を示した。図13に示した如く、比較例1と比べて実施例1の検出感度は著しく向上した。
【産業上の利用可能性】
以上述べた如く、本発明によれば、逆転写反応のみであるため、高価な酵素を必要とせず、安価で安易な操作で短時間で検出することができ、更に、リニア増幅法やPCR法を用いないため、元のRNAの長さや発現量に対応した検出が可能となるという著大なる効果を奏する。
【配列表】



【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆転写反応及びオリゴヌクレオチド・プローブの自己集合により自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させることを特徴とする発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項2】
逆転写反応及びオリゴヌクレオチド・プローブの自己集合により自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させる方法であって、
3’末端にポリdTを有し且つ前記オリゴヌクレオチド・プローブにハイブリダイズすることが可能な領域を有する第1プローブをプライマーとして用いてmRNAの逆転写反応を行い、cDNA領域を有する第2プローブを形成させる工程、
前記mRNAを前記第2プローブから解離させる工程、
前記第2プローブを、標的mRNAのcDNA領域に相補的な領域を有する捕捉用プローブにハイブリダイズさせる工程、及び
前記第2プローブと前記オリゴヌクレオチド・プローブを用いた自己集合反応により自己集合体を形成させる工程を有することを特徴とする発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項3】
前記自己集合反応が、互いに相補的な塩基配列領域がn(n≧3)カ所の数から構成される一対のオリゴヌクレオチド・プローブの複数対を用いて、互い違いに交差するようにハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合し、二本鎖の自己集合体を形成させる自己集合反応であることを特徴とする請求項1又は2記載のシグナル増幅方法。
【請求項4】
逆転写反応及び互いに相補的な塩基配列領域がn(n≧3)カ所の数から構成される一対のオリゴヌクレオチド・プローブである第1HCP及び第2HCPの複数対を用いて、互い違いに交差するようにハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合して自己集合体を形成させる自己集合反応を利用し、DNAチップにおける発現遺伝子の検出感度を向上させる方法であって、
3’末端にポリdTを有し且つ前記第1HCPの塩基配列領域を少なくとも一部分有する第1プローブをmRNAに結合させ、逆転写酵素を用いて逆転写反応させ、cDNA領域及び前記第1HCPの塩基配列領域を少なくとも一部分有する第2プローブを形成させ、mRNAを除去した後、前記第2プローブを標的mRNAのcDNA領域に相補的な領域を有する捕捉用プローブにハイブリダイゼーションさせ、前記第1HCP及び前記第2HCP又は前記第2HCPを添加し、オリゴヌクレオチドの自己集合反応による自己集合体を形成させ、シグナルを増幅させることを特徴とする発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項5】
前記自己集合反応が、No.1及びNo.2の一対のオリゴヌクレオチドの各オリゴヌクレオチドを3’側領域、中央領域、及び5’側領域の3つの領域に分け、各オリゴヌクレオチドの中央領域を互いに相補的な塩基配列としてダイマープローブを形成するとともに、3’側領域及び5’側領域を互いに非相補的な塩基配列とした一対のダイマー形成用プローブを複数対含む第1の系と、
No.3及びNo.4の一対のオリゴヌクレオチドの各オリゴヌクレオチドを3’側領域及び5’側領域の2つの領域に分け、各オリゴヌクレオチドの3’側領域及び5’側領域を互いに非相補的な塩基配列とした一対の架橋プローブを複数対含む第2の系とを有し、
該架橋プローブを該ダイマー形成用プローブより形成されるダイマーを架橋することが可能な塩基配列とし、
該プローブをハイブリダイゼーションさせることにより、オリゴヌクレオチドが自己集合し、自己集合体を形成させる自己集合反応であることを特徴とする請求項1又は2記載のシグナル増幅方法。
【請求項6】
前記プローブの塩基配列を、
第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの3’側領域、
第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの5’側領域、
第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの3’側領域、
第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの5’側領域をそれぞれ相補的な塩基配列とすることを特徴とする請求項5記載のシグナル増幅方法。
【請求項7】
前記プローブの塩基配列を、
第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの3’側領域、
第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.3−オリゴヌクレオチドの5’側領域、
第1の系のNo.2−オリゴヌクレオチドの3’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの3’側領域、
第1の系のNo.1−オリゴヌクレオチドの5’側領域と第2の系のNo.4−オリゴヌクレオチドの5’側領域をそれぞれ相補的な塩基配列とすることを特徴とする請求項5記載のシグナル増幅方法。
【請求項8】
前記捕捉用プローブが、支持体に結合していることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項記載のシグナル増幅方法。
【請求項9】
前記支持体が、マイクロプレート型、スライドグラス型、微粒子型、又は電気伝導性の基板型の支持体であることを特徴とする請求項8記載のシグナル増幅方法。
【請求項10】
前記自己集合体に対して、標識プローブをハイブリダイゼーションさせることによりより前記自己集合体の存在を検出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載のシグナル増幅方法。
【請求項11】
前記標識プローブが、発色系酵素、発光系酵素、又はラジオアイソトープで標識した標識プローブであることを特徴とする請求項10記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項12】
前記自己集合体に対して、核酸と結合する性質を持った蛍光物質を加え、その蛍光物質の光化学的な変化により前記自己集合体の存在を検出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項13】
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドを蛍光物質で標識し、前記自己集合体の存在を蛍光物質の光化学的な変化により検出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項14】
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドをラジオアイソトープで標識し、前記自己集合体の存在をラジオアイソトープにより検出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項15】
あらかじめ自己集合体を形成するオリゴヌクレオチドを発色系酵素又は発光系酵素で標識し、前記自己集合体の存在を光化学的な変化により検出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドが、DNA、RNA、PNAまたはLNAのいずれかから選ばれる塩基から構成されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1記載の発現遺伝子検出のためのシグナル増幅方法。

【国際公開番号】WO2004/072302
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505011(P2005−505011)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001588
【国際出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】