説明

発色性に優れた制電性アクリル繊維およびその製造方法

【課題】本出願人が先に提案した制電性アクリル繊維の制電性能をさらに高めた、毛羽の発生の少ない制電性アクリル繊維、及び、かかる制電性アクリル繊維を少なくとも一部に有する発色性に優れた高品位、高性能の繊維構造体並びに、高い生産性を維持したまま生産工程上の煩雑さのない該制電性アクリル繊維の製造法を提供することを目的とする。
【解決手段】80〜100重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリロニトリル系重合体90〜99重量%と、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂1〜10重量%とからなり、アルカリ金属イオンが繊維に対して200ppm以上含有されているアクリル繊維であって、アクリル系制電性樹脂がホウ素化合物を含有することを特徴とする制電性アクリル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料、寝装、インテリア用途等多岐にわたり使用することのできる発色性、加工性、耐久性に優れた制電性アクリル繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル繊維は保温性、形態安定性、耐光性、風合い、染色性などに優れた性質を有しており、その優れた物性、天然繊維にないイージーケア性から衣料、インテリア用途に広く利用されている。しかしながら、このようなアクリル繊維にも問題点が見受けられない訳ではなく、吸湿性に乏しいため摩擦によって静電気が発生しやすく、衣服に静電気力で塵埃が付着しやすいこと、衣服の着脱時に放電して不快感を与えることなどの課題を有している。かかる課題を解決するための試みはこれまでにも種々行われてきた。最も一般的には繊維表面に帯電防止能を有する油剤を付与する方法が用いられるが、この方法では初期には優れた制電性能を示すものの、染色、繰り返し漂白、洗濯などにより著しく制電性能が低下するのが常であった。制電性能に耐久性を持たせる試みとして、例えば、特許文献1にはグリコキシル基を有するビニル単量体を共重合したアクリロニトリル系共重合体を紡糸する方法が提案されている。しかしながら、こうした方法ではアクリロニトリル系共重合体に特定の異種単量体を共重合することが必須であるため重合操作の煩雑さは避けられず、また、親水的性質の強い単量体を共重合するため、紡糸工程、特に凝固から水洗工程でこうした共重合体が溶出しやすく回収再利用する溶剤の汚染は著しいものになる。
【0003】
また、導電性を有する微粒子、例えば導電性カーボン、その他の金属化合物を繊維に練り込むことによって、所謂導電性繊維を得る方法が提案されている。例えば、特許文献2にはカーボンブラックを分散含有せしめたアクリロニトリル系共重合体有機溶剤溶液とアクリロニトリル系共重合体紡糸原液を混合、紡糸する方法が提案されている。しかしながら、こうした方法で得られる繊維はカーボンを使用するため黒または灰色となり、衣料、インテリア用としては利用範囲を著しく制約するものとなる。また、特許文献3には導電率が10-3S/cm以上の導電性物質を用いて芯鞘複合紡糸法により導電性アクリル繊維を作成する方法が提示されているが、その製造には複雑な形状を有する芯鞘紡糸設備が必要となるため、設備費用が多額となり、生産性も著しく低くなる。また、かかる方法では、芯鞘構造であるために繊度が限定されるという問題がある。また、特許文献4にはアクリロニトリル系共重合体とアクリロニトリル系制電性重合体を混合したものに、アルカリ金属塩及び水を加え有機溶剤に溶かし紡糸原液とし、紡糸する方法が提案されている。しかしながら、かかる方法で作成された繊維からなる編成物の半減期は長く制電性繊維としては不十分である。また、かかる方法ではアルカリ金属イオンは染着座席にイオン結合され、紡糸・水洗工程あるいは染色工程で容易にアルカリイオンが脱落してしまう。
【0004】
これに対し、本出願人はアクリル系制電性樹脂を含有するアクリル繊維に多量のアルカリ金属イオンを含有せしめた制電性アクリル繊維を提案した(特許文献5)。かかる制電性アクリル繊維は優れた制電性能を有していたが、より高品位、高性能の繊維製品とするため、さらなる発色性や制電性能の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−325832号公報
【特許文献2】特開平9−31747号公報
【特許文献3】特開平8−337925号公報
【特許文献4】特開昭63−211316号公報
【特許文献5】国際公開第2010/007728号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、先に提案した制電性アクリル繊維の制電性能をさらに高めた、毛羽の発生の少ない制電性アクリル繊維、及び、かかる制電性アクリル繊維を少なくとも一部に有する発色性に優れた高品位、高性能の繊維構造体を提供することにある。また、本発明の目的は、高い生産性を維持したまま生産工程上の煩雑さのない、かかる制電性アクリル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下に示す本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、80〜100重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリロニトリル系重合体90〜99重量%と、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂10〜1重量%とからなり、アルカリ金属イオンが繊維に対して200ppm以上含有されているアクリル繊維であって、アクリル系制電性樹脂がホウ素化合物を含有することを特徴とする制電性アクリル繊維である。
【0009】
本発明の制電性アクリル繊維の好ましい態様は以下の通りである。
(i)体積固有抵抗値が10〜10Ω・cmである。
(ii)アクリル系制電性樹脂が下記化1で示す共重合成分を90〜30重量%構成成分として含有し、アルカリ金属イオンがリチウムイオンである。
【化1】

(iii)カチオン染料で染色後の繊維の染色前に対するアルカリ金属イオン保持率が70%以上である。
(iv)カチオン染料で染色後のアルカリ金属イオン含有量が繊維に対して140ppm以上である。
(v)ホウ素化合物が、無水ホウ酸、ホウ酸及びその塩からなる群から選択された一つ以上である
【0010】
また、本発明は、上記制電性アクリル繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする制電性繊維構造体である。
【0011】
本発明の制電性繊維構造体の好ましい態様では、カチオン染料で染色後の摩擦帯電圧の半減期が2秒以下であり、かつ摩擦帯電圧が2kV以下である。
【0012】
また、本発明では、80〜100重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリロニトリル系重合体90〜99重量%と、10〜1重量%のアクリル系制電樹脂とからなる重合体混合物を含む紡糸原液を湿式紡糸し、得られた繊維を水洗、延伸した後にアルカリ金属塩水溶液で処理し、次いで緻密化するアクリル繊維の製造方法であって、アクリル系制電性樹脂が、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂に対しホウ素化合物を0.2〜2.0重量%添加したアクリル系制電性樹脂水分散体として紡糸原液に加えられることを特徴とする制電性アクリル繊維の製造方法である。
【0013】
本発明の制電性アクリル繊維の製造方法の好ましい態様は以下のとおりである。
(i)水洗、延伸した後の未乾燥繊維の水分率が50〜130重量%であり、水洗、延伸処理とアルカリ金属塩水溶液での処理の間に、105〜130℃の温度での湿熱処理が行われる。
(ii)緻密化処理を緊張下で行う。
(iii)緻密化処理を湿潤状態で行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた制電性およびその耐久性を有し、かつ毛羽の発生の少ない制電性アクリル繊維を簡単で効率的な方法で提供することができる。かかる制電性アクリル繊維を少なくとも一部に含有することによって、優れた制電性能を有し、かつ発色性に優れた高品位、高性能の繊維構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の制電性アクリル繊維について説明する。
本発明で使用されるアクリロニトリル系重合体は従来公知のアクリル繊維の製造に用いられるものであればよいが、構成成分としてアクリロニトリルを80〜100重量%、好ましくは88〜100重量%含有することが必要である。アクリロニトリルの含有量が上記範囲に満たない場合には、後述する繊維内部へのアルカリ金属イオンの導入が困難となる可能性がある。
【0016】
上記アクリロニトリル系重合体において、アクリロニトリル以外の使用可能な構成成分としては、ビニル化合物であればよく、代表的な例としては、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド又はこれらのN−アルキル置換体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル又はビニリデン類;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸又はこれらの塩類等を挙げることができる。なお、上記アクリロニトリル系重合体は、上述の組成を満たす限り複数種を構成成分としても構わない。
【0017】
本発明の制電性アクリル繊維を構成するアクリロニトリル系重合体はスルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を含有していることが好ましい。多くのアクリル繊維と同様にカチオン染料で染色可能なことが好ましいからである。アニオン性基を含有した重合体とする方法としては、アクリロニトリルとかかるアニオン性基を含有した単量体(即ちアニオン性基含有単量体)とを共重合させる、あるいは、アクリロニトリルを重合させる際に使用されるレドックス触媒
、殊に還元剤として酸性亜硫酸塩を使用して重合体末端にスルホン酸基等のアニオン性基を導入する方法が例示される。
【0018】
本発明で使用されるアクリル系制電性樹脂は、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリエーテルアミド鎖、ポリエーテルエステル鎖などのエーテル酸素を多く含有する有機高分子化合物である。また、アクリル制電樹脂は、10〜70重量%、より好ましくは15〜50重量%、さらに好ましくは15〜30重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有することが必要である。アクリロニトリルの含有量が上記範囲に満たない場合には、上記アクリロニトリル系重合体との相溶性が悪化する為、相分離により繊維の機械的物性の低下を引き起こす原因となる。また、本発明の繊維に含有されるアルカリ金属イオンは樹脂内のエーテル酸素と配位結合することで繊維内部に保持され、制電性を発揮するため、アクリロニトリルの含有量が上記範囲を超える場合には、アルカリ金属イオンが十分に保持されず繊維内部から溶出してしまい、十分な制電性が得られない可能性がある。
【0019】
上記アクリル系制電性樹脂にエーテル酸素を多く含有させる方法としては、側鎖上にエーテル酸素が組み込まれたビニル単量体をアクリロニトリルと共重合させる方法や、反応性官能基を有するビニル単量体をアクリロニトリルと共重合させた後、エーテル酸素を含有する反応性化合物をグラフト反応させる方法などが挙げられる。前者の方法においては、アクリロニトリルと共重合させるビニル単量体として、好ましくは上述の化1で示される単量体を30〜90重量%、好ましくは50〜85重量%、さらに好ましくは70〜85重量%使用することが望ましい。また、アクリロニトリルとの共重合に際しては、上記のビニル単量体に加えて他のビニル化合物を共重合しても構わない。その例として、例えば少量の架橋性単量体を後述する樹脂の水膨潤度の調整に用いることが推奨される。
【0020】
側鎖上に上記エーテル酸素が多く組み込まれたビニル単量体の好適な例としては、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとポリエチレングリコールモノメチルエーテルの反応生成物などが挙げられ、化1で示される単量体の好適な例としては、メトキシポリエチレングリコール(30モル)メタアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(30モル)アクリレート、ポリエチレングリコール−2,4,6−トリス−1−フェニルエチルフェニルエーテルメタアクリレート(数平均分子量約1600)などが挙げられる。また、後者の方法であるグラフト反応させる場合において、反応性官能基を有するビニル単量体の好適な例としては、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、アクリル酸、メタアクリル酸、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられ、エーテル酸素を多く含有する反応性化合物の好適な例としては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0021】
かかるアクリル系制電性樹脂は、10〜300g/g、好ましくは20〜150g/gの水膨潤度を有し、水及びアクリロニトリル系重合体の溶剤に不溶ではあるが、溶剤中では微分散し得るような物理的性質を有することが本発明の目的を達成する上で望ましい。なお、水膨潤度の調整には様々な方法を用いうるが、前記したように架橋性単量体を共重合する方法や、化1で示される単量体のlあるいはmの数値を変更するなどの方法が例示できる。
【0022】
さらに本願発明においては、アクリル系制電性樹脂がホウ素化合物を含有していることが必要である。上述したようにアクリル系制電性樹脂内に保持されたアルカリ金属イオンにより制電性能を発現するが、ホウ素系化合物をアクリル系制電性樹脂に含有せしめておくことで制電性能が向上する。即ち、アルカリ金属イオンの量が同じであれば、ホウ素化合物を含まない場合に比べて、体積固有抵抗の値を低下させることができる。また、染色によるアルカリ金属イオンの脱落や紡績等での毛羽の発生を大幅に減少でき、染色した際に優れた発色性を有する高品位の繊維構造体とすることができる。
【0023】
かかるホウ素化合物としては、電子吸引性の低いものであればよく、ホウ酸、無水ホウ酸、ホウ砂や八ホウ酸二ナトリウムなどのホウ酸塩があげられる。またアクリル系制電性樹脂にホウ素化合物を含有せしめる方法についても制限はなく、重合時にホウ素化合物を混在させておく方法、重合後の水分散体にホウ素化合物を添加する方法、紡糸直前に水分散体にミキサーなどで混合する方法などがあげられる。
【0024】
アクリロニトリル系重合体を合成する方法としては、特に制限はなく、周知の重合手段である懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法などを利用することができる。また、アクリル系制電性樹脂を合成する方法としても上記重合方法が利用でき、場合によっては、上述のごとく、エーテル酸素を導入するためにグラフト反応を利用することもできる。
【0025】
本発明の制電性アクリル繊維に占めるアクリロニトリル系重合体及びアクリル系制電性樹脂の割合については、アクリロニトリル系重合体を90〜99重量%、アクリル系制電性樹脂を10〜1重量%とする必要がある。この範囲を外れる場合には、紡糸時におけるノズル詰まり、糸切れ等の製造上の問題が発生しうる。
【0026】
本発明の制電性アクリル繊維は、十分な制電性を発揮させるために、繊維内部にアルカリ金属イオンが200ppm以上、好ましくは250ppm以上残存していることが必要である。また、アルカリ金属イオンが多すぎる場合、染着座席と反応する量が多くなり染色性の低下を招く恐れがあるため、500ppm以下であることが好ましい。また、繊維の体積固有抵抗値が10〜10Ω・cmであることが好ましい。かかる範囲であれば十分な制電性が発現できる。
【0027】
さらに、本発明の制電性アクリル繊維は、十分な制電性を発揮させるために、カチオン染料で染色後の繊維の染色前の繊維に対するアルカリイオン金属イオンの保持率が70%以上であることが好ましい。また、染色後のアルカリ金属イオンの絶対量が繊維に対して、140ppm以上であることが好ましく、より好ましくは160ppm以上、さらに好ましくは180ppm以上である。本発明で使用されるアルカリ金属イオンとしては、Li、Na、Kが好ましく、特にイオン半径の小さいリチウムイオンが好ましい。また、そのアルカリ金属塩としては、水での解離性の高いものであればよく、過塩素酸塩、炭酸塩、過酸化塩が好ましく、過塩素酸塩が特に好ましい。
【0028】
次に、本発明の制電性アクリル繊維の製造方法について説明する。
本発明の制電性アクリル繊維は、アルカリ金属イオンを繊維に含有せしめることが必要であり、できるだけ多くのアルカリ金属イオンが、ホウ素化合物を含有するアクリル系制電性樹脂に局在化していることが好ましい。さらに、アルカリ金属イオンが脱落しないよう、アルカリ金属イオンを含有せしめた後、繊維に存在するボイドを極力減少させることが望ましい。このことから、本発明の製造方法は、上述したアクリロニトリル系重合体とアクリル系制電性樹脂とからなる重合体混合物を含む紡糸原液を通常の方法で湿式紡糸し、水洗、延伸した後、緻密化前の繊維をアルカリ金属塩水溶液で処理し、その後緻密化する方法であって、アクリル系制電性樹脂が、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂に対しホウ素化合物を0.2〜2.0重量%、より好ましくは、0.3〜1.0重量%添加したアクリル系制電性樹脂水分散体として紡糸原液に加えられることを特徴とする。
【0029】
緻密化前の繊維は、繊維中にボイドが存在しており、そのボイドを通じてアルカリ金属イオンを繊維中のアクリル系制電性樹脂に局在化せしめることができる。その後、緻密化することにより、繊維中のアルカリ金属イオン、特にアクリル系制電性樹脂に局在化したアルカリ金属イオンの脱落が抑制され、染色や洗濯における耐久性が向上し、十分な制電性能が得られる。
【0030】
アクリル繊維の製造工程では、延伸後、高温調湿熱での一次緻密化や弛緩状態で湿熱処理を行う場合があるが、本発明でいう緻密化とは、これらの処理とは異なり、一次緻密化や湿熱処理の温度より高温のスチームや熱水等による湿潤緻密化処理や、一次緻密化や湿熱処理の温度より高温での乾燥緻密化処理を意味する。かかる湿潤緻密化には、オートクレーブ、オーバーマイヤー染色機等の圧力容器などを利用することができ、乾燥緻密化には熱風乾燥機やローラー乾燥機などを利用することができる。
【0031】
本発明の製造方法において、アルカリ金属塩水溶液での処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維中に含有せしめるアルカリ金属塩を目標量添加した処理槽中にディップし、プレスローラー等で一定に絞る方法、アルカリ金属塩水溶液をスプレーにて付与する方法、あるいは、オーバーマイヤー染色機等を利用し浸漬法により処理する方法が挙げられる。また、アルカリ金属塩水溶液での処理は、緻密化前であればよく、延伸後のいわゆるゲル膨潤状態にある繊維に対してでも、一次緻密化後や湿熱処理後の繊維でも構わない。
【0032】
例えば、一次緻密化後の繊維に対して、クリンパー予熱槽等を利用した一例としての処方を示せば次の通りである。すなわち、アルカリ金属塩をトウまたはフィラメントに対して吸着せしめる目標量添加した処理液をクリンパー予熱槽に投入し、該処理液中にトウまたはフィラメントをディップし、次にクリンパー等を利用して一定に絞ることにより、トウまたはフィラメントにアルカリ金属イオンを目標量含有せしめ、その後、湿熱処理、緻密化処理することによりアルカリ金属イオンを封鎖する。
【0033】
また、湿熱処理後の繊維に対して、オーバーマイヤー染色機を利用した一例としての処方を示せば次の通りである。すなわち、アルカリ金属塩をトウまたはフィラメントに対して吸着せしめる目標量添加した処理液を染色機に投入し、該処理液中にトウまたはフィラメントを浸漬して処理を行い、トウまたはフィラメントにアルカリ金属イオンを目標量含有せしめ、その後、該処理液の温度を上げ高温処理液中で湿潤緻密化処理することによりアルカリ金属イオンを封鎖する。その後、必要に応じ紡績油剤を付与、熱風乾燥機等で乾燥を行う。
【0034】
また、湿熱処理後の繊維に対して、油剤処理槽を利用した一例としての処方を示せば次の通りである。すなわち、アルカリ金属塩をトウまたはフィラメントに対して吸着せしめる目標量添加した処理液を油剤処理槽に投入し、該処理液中にトウまたはフィラメントをディップし、ニップローラー等を利用して一定に絞ることにより、トウまたはフィラメントにアルカリ金属イオンを目標量含有せしめ、必要に応じ紡績油剤を付与し、その後、緻密化処理することによりアルカリ金属イオンを封鎖する。
【0035】
かかる方法により、すぐれた染色耐久性を有する制電性繊維が得られるが、さらに、繊維中のアクリル系制電性樹脂にできるだけ多くのアルカリ金属イオンを局在化させることが好ましいことから、アルカリ金属塩水溶液で処理する繊維が親水性のミクロボイドを有し、かつ、各ミクロボイドが繊維内部で連結し、表面に連通している構造を有していることが望ましい。かかる構造とすることによりアルカリ金属塩水溶液を、毛細管現象を利用し繊維内部まで効率的に浸透させることができる。その後、かかるミクロボイドを封鎖するため緻密化を行うが、かかる緻密化を緊張下で行うことで、さらに優れた耐久性が付与でき、従来の制電性繊維をはるかに超える制電性能を有する繊維が得られる。また、湿潤状態ではミクロボイドが潰れやすいことから、湿潤緻密化も有効な手段である。以下、かかる方法について、ロダン酸ソーダ等の無機塩を溶剤に用いた場合を一例として、本発明の製造方法を詳述する。
【0036】
まず、上述のアクリロニトリル系重合体を溶解した後に、上述のホウ素化合物を含有したアクリル系制電性樹脂を水分散体として添加混合した紡糸原液を作製し、ノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経た後、延伸後の未乾燥繊維の水分率を50〜130重量%、好ましくは55〜100重量%とする。続いて湿熱処理を100℃〜130℃、好ましくは105℃〜115℃で行う。延伸後の未乾燥繊維の水分率が上記範囲未満の場合には、各々のミクロボイドを繊維内部で連結させ、且つ繊維表面に連通させることができず、上記範囲を超える場合には繊維内部に多数の大きなボイドが形成され、可紡性が低下し好ましくない。なお、延伸後の未乾燥繊維の水分率を制御する方法は多数あるが、上記範囲内に制御するには、凝固浴温度としては0℃〜15℃程度、延伸倍率としては7〜15倍程度とすることが望ましい。湿熱処理については上記範囲未満の場合には、熱的に安定な繊維を得ることができず、上記範囲を越えると、短時間の処理で後述するアルカリ金属イオンを十分に浸透させるためのミクロボイドが不足する場合がある。ここで湿熱処理とは、飽和水蒸気や過熱水蒸気の雰囲気下で加熱を行う処理を意味する。
【0037】
次にこのようにして得られたトウまたはフィラメントをアルカリ金属塩水溶液で処理しアルカリ金属イオンを含有させる。その方法は、特に限定されるものでなく、上述した方法等が利用できる。ここでアルカリ金属イオンを繊維内部に含浸するためには60〜100℃、好ましくは80〜98℃で1〜30分処理を行うことが望ましい。
【0038】
また、緻密化処理の条件としては、一次緻密化や湿熱処理の温度より高温であればよく、具体的には110〜210℃で熱処理が行われることが望ましく、120〜210℃がより好ましい。さらに好ましくはローラー乾燥機等を用い緊張下で、もしくは湿潤状態で処理を行う。110℃以上の熱処理を行うことで繊維に存在していたミクロボイドが閉塞し、アルカリ金属イオンが繊維内部に封入され脱落に対する耐久性が向上する。多孔質である場合には静電気がおきやすく、加工時に扱いにくいという問題があるが、ミクロボイドを閉塞することにより表面は滑らかとなり静電気がおきにくく加工時に扱いやすい制電性繊維となる。
【0039】
更に必要であれば緻密化処理後に、クリンプ、カット等の後処理を行い本発明の制電性アクリル繊維を得る。紡績油剤はアクリル繊維用の紡績油剤であれば特に限定されるものではない。
【0040】
なお、本発明において公知の添加剤を加えることは何ら差し支えない。例えば、難燃剤、耐光剤、紫外線吸収剤、顔料などが具体的な添加剤として挙げられる。
【0041】
かくして得られた本発明の制電性アクリル繊維は200ppm以上のアルカリ金属イオンを含有しており、カチオン染料での染色後の繊維の染色前の繊維に対するアルカリ金属イオン保持率が70%以上、また、カチオン染料で染色後のアルカリ金属含有量が140ppm以上である。したがって、本発明の繊維は、最終製品としての繰り返し洗濯等によっても制電性能は殆ど低下せず、恒久的制電性アクリル繊維と呼べるものである。
【0042】
本発明は、かかる制電性アクリル繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体である。本発明の繊維構造体は、カチオン染料で染色後の摩擦帯電圧の半減期が2秒以下であり、摩擦帯電圧が2kV以下であるという優れた制電性能を有しており、また、5回洗濯後でも摩擦帯電圧の半減期は2秒以下、摩擦帯電圧は2kV以下という耐久性にも優れた制電性を有するものである。
【0043】
また、本発明の繊維構造体において制電性アクリル繊維と混合する他の繊維としては、特に限定されるものではなく天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、更には無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。特に好ましい各種繊維を例示すれば、羊毛、木綿、絹、麻等の天然繊維、ビニロン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル繊維等の合成繊維あるいはビスコース、アセテート繊維、繊維素繊維等である。
【0044】
本発明の制電性アクリル繊維及び、繊維構造体は、制電性が望まれる様々な分野で利用でき、例えば、下着、肌着、ランジェリー、パジャマ、乳児製品、ガードル、ブラジャー、靴下、タイツ、レオタード、トランクス等衣料品全般、セーター、トレーナー、スーツ、スポーツウェア、スカーフ、ハンカチ、マフラー、人工毛皮、乳児製品等の中外衣料用途、布団地、布団、枕、クッション、ぬいぐるみ、マスク、失禁ショーツ、濡れティッシュ等の衛生材料、車のシート、内装等の車内用品、トイレカバー、トイレマット、ペット用トイレ等のトイレ用品、ガス処理フィルター、バグフィルター等の資材用途、靴の中敷き、スリッパ、手袋、タオル、雑巾、サポーター、不織布等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。実施例中の部および百分率は断りのない限り重量基準で示す。なお、実施例において記述する染色条件、洗濯条件、特性値の測定方法は以下の通りである。
【0046】
(1)染色条件 カチオン染料(保土谷化学工業(株)社製Cath.Red 7BNH)、4級アンモニウム塩系のカチオン緩染剤(Bayer社製Astragal PAN)、酢酸、及び酢酸ナトリウムを各々繊維重量に対して0.02%、1.8%、2%、1%となるよう調製した染色液を60℃まで昇温した。この染色液に試料繊維を投入し、攪拌しながら20分かけて100℃まで昇温した。その後100℃の状態を保ちながら30分間染色し、徐冷、水洗、乾燥した。
【0047】
(2)アルカリ金属イオン含有量の測定 アルカリ金属塩処理した繊維の酸分解を行い、IPC発光分光分析法により繊維中に含有されるアルカリ金属イオン量を測定した。
【0048】
(3)染色性評価 試料繊維を51mmの定長にカットし、カチオン染料(Malachite Green)2%omf(%omfは繊維質量に対する百分率)および酢酸2%omf含有する染色浴に75℃×60分浸漬した後、ソーピング、水洗、乾燥を行った。得られた繊維0.1gをγ−ブチロラクトン25mlに溶解させ、分光光度計にて吸光度(A)を測定した。一方、ボイルすることによりカチオン染料(Malachite
Green) 1%omfを完全に吸収させたアクリル繊維0.1gをγ−ブチロラクトン25mlに溶解させ、分光光度計にて吸光度(B)を測定した。以上の測定値を次式に代入して染料飽和値を計算した。染料飽和値は高いほどよいが1.5以上あれば良好とされる。
染料飽和値(%omf)=A/B
【0049】
(4)体積固有抵抗値の測定 予め、繊維の繊度(Tテックスとする)及び比重dを常法で測定する。次に、繊維を0.1%ノイゲンHC水溶液中で浴比1:100として60℃×30分間スコアリング処理し、流水で洗浄後、70℃で1時間乾燥する。この繊維を6〜7cm程度の長さに切断し、20℃、相対湿度65%の雰囲気下に3時間以上放置する。得られた繊維(フィラメント)を5本束とし、繊維束の一方の端に導電性接着剤を5mm程度塗布する。この繊維束に900mg/テックスの荷重を加えた状態で、導電性接着剤が塗布された位置から5cm程度離れた位置に上記導電性接着剤を塗布し(このときの導電性接着剤間距離をL(cm)とする)、測定試料とする。該測定試料に900mg/テックスの荷重を加えた状態で導電性接着剤塗布部に電極を接続し、直流500Vを印加したときの抵抗R(Ω)をHigh RESISTANCE METER 4329A(YOKOGAWA−HEWLETT−PACKARD製)で測定し、次式より体積固有抵抗を算出した。
体積固有抵抗(Ω・cm)=(R×T×10−5)/(L×d)
【0050】
(5)洗濯条件 JIS−L−0217の103法(家庭用洗濯機用)に従い、花王株式会社製アタックを洗剤として使用して試料編地を5回繰り返し洗濯した。
【0051】
(6)摩擦帯電圧の測定 JIS−L−1094(摩擦帯電圧測定法)に従い、京大化研式ロータリースターティックテスター(興亜商会社製)により試料編地の染色後の摩擦帯電圧、及び染色後に5回洗濯後の摩擦帯電圧を評価した。ロータリースターティックテスターの使用条件は、ドラム回転数400rpm,摩擦時間60秒,摩擦布綿である。
【0052】
(7)摩擦帯電圧の半減期の測定 JIS−L−1094(摩擦帯電圧測定法)に従い、スタティックオネストメーター(宍戸商会社製)により試料編地の染色後の摩擦帯電圧、及び染色後に5回洗濯後の摩擦帯電圧を評価した。スタティックオネストメーターの使用条件は、印加電圧 1000V ,印加時間30秒,試料回転数1000rpmである。
【0053】
(8)延伸後の未乾燥繊維の水分率測定 延伸後、湿熱処理前の未乾燥繊維を純水中に浸漬した後、遠心脱水機(国産遠心機(株)社製TYPE H−770A)で遠心加速度1100G(Gは重力加速度を示す)下2分間脱水する。脱水後重量(W3とする)を測定した後、該未乾燥繊維を120℃で15分間乾燥して重量(W2とする)を測定し、次式により計算する。
延伸後の未乾燥繊維の水分率(%)=(W3−W2)/W2×100
【0054】
(9)発色性評価 カチオン染料(日成化成(株)社製Black G 200%)、酢酸、及び酢酸ナトリウムを各々編地重量に対して2.5%、2%、1%となるよう調製した染色液を60℃まで昇温した。この染色液に試料編地を投入し、攪拌しながら20分かけて100℃まで昇温した。その後100℃の状態を保ちながら30分間染色し、徐冷、水洗、乾燥した。通常のアクリル繊維であるK8−1.7T51を100%使用した編地も同様に染色を行い、編地のチラツキ、毛羽の量、見た目の黒さを比較することで発色性を評価した。
◎:チラツキ感もなく、黒色の発色性は良好
○:若干チラツキ感があるが、黒色の発色性は良好
△:チラツキ感があり、黒色の発色性はやや不良
×:黒色の発色性が不十分
【0055】
(実施例1)
アクリロニトリル系重合体の組成をアクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチル9重量%、メタアリルスルホン酸ナトリウム1重量%を水系懸濁重合することによってアクリロニトリル系重合体を作成した。また、アクリロニトリル30重量%、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート70重量%を水系懸濁重合しアクリル系制電性樹脂を作成した。かかるアクリル系制電性樹脂に対し0.3重量%の無水ホウ酸を添加することによってアクリル系制電性樹脂水分散体を作成した。アクリロニトリル系重合体を濃度45重量%のロダンソーダ水溶液に溶解した後、ホウ素化合物を含有するアクリル系制電性樹脂水分散体を添加混合し、アクリロニトリル系重合体とアクリル系制電樹脂の重量比が95:5である紡糸原液を作成した。該原液を15重量%、1.5℃のロダンソーダ水溶液中に押出し、次いで水洗し、12倍延伸後110℃×10分間湿熱処理することにより1.7dtexの原料繊維を作成した。この原料繊維を過塩素酸リチウム0.03重量%浴に浸漬し98℃×30分間処理した後、ニップローラーにて一定に絞り、130℃ローラー乾燥機で乾燥緻密化し、発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例1の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。また、かかる制電性アクリル繊維を紡績した紡績糸の毛羽の発生を評価した結果も表1に含めた。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例2)
アクリロニトリル系重合体の組成を、アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%とした以外は実施例1と同様にして原料繊維を作成した。この原料繊維を過塩素酸リチウム0.03重量%浴に浸漬し98℃×30分間処理した後、ニップローラーにて一定に絞り、130℃ローラー乾燥機で乾燥緻密化し、発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例2の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例2と同様にして原料繊維を作成した。この原料繊維を過塩素酸リチウム0.1重量%浴に浸漬し98℃×1分間処理した後、120℃のスチームで10分間湿熱処理を行い湿潤緻密化し、その後、熱風乾燥機で乾燥し、発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例3の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
ローラー乾燥機のローラー速度を変更して繊維を緊張させた状態で、170℃で乾燥緻密化を行うこと以外は実施例2と同様にして発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例4の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
実施例2と同様にして原料繊維を作成した。この原料繊維を過塩素酸リチウム0.03重量%浴に浸漬し98℃×10分間処理した後、さらに、120℃×10分間処理液中で湿潤緻密化し、その後、熱風乾燥機で乾燥し、発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例5の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
アクリロニトリル系重合体とアクリル系制電樹脂の重量比を97:3とする以外は実施例4と同様にして発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例6の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例7〜9)
アクリル系制電性樹脂水分散体への無水ホウ酸の添加量を表1に記載の通りとする以外は実施例6と同様にして発色性に優れた制電性アクリル繊維を得た。実施例7〜9の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1〜6)
アクリル系制電性樹脂に無水ホウ酸を加えない以外は、それぞれ実施例1〜6と同様の方法で紡糸原液を作成し、紡糸・アルカリ金属塩処理・湿潤緻密化をおこない、比較例1〜6のアクリル繊維を得た。比較例1〜6の繊維の構成の詳細と評価結果を表1に示す。
【0064】
表1より実施例1〜9では、アクリル系制電樹脂へ無水ホウ酸を添加することで多くのアルカリ金属イオンを含有させることができ、染色後も70%以上という高い保持率を有していた。また、染色後のアルカリ金属イオンの含有量が同等の場合、ホウ素化合物を加えていないものに比べ、優れた体積固有抵抗値を有しており、紡績糸の毛羽の発生も少ないものであった。特に、アクリル系制電樹脂を減少させた実施例6と比較例6において、その差は顕著に現れ、ホウ素化合物を含有させた実施例6は、実用上十分な制電性能を有しており、しかも制電性樹脂が少ないことにより、毛羽の発生も少なくバランスの良い制電性繊維となっている。また、ホウ素化合物の添加量を2.0重量%とした実施例9はホウ素化合物の添加量が多すぎるため、工程でのホウ素化合物が脱落により凝固浴や水洗水が汚染されるという問題はあるが、すぐれた制電性能を有していた。
【0065】
(実施例10〜17、比較例7〜12)
実施例10〜17及び比較例7〜12の制電性アクリル繊維を用いて常法に従い紡績し、番手1/48、撚り数660、任意の混率のアクリル混燃糸を得た。混紡相手としては通常のアクリル繊維であるK8−1.7T51(日本エクスラン工業株式会社製)を使用した。更に14G2Pゴム編みにて実施例10〜17及び、比較例7〜12のアクリル編地試料を得た。また、かかるアクリル編地試料の染色後、及び染色後に5回洗濯後の摩擦帯電圧を評価し、制電性能及び耐久性を評価した。また、染色後に発色性評価を行った結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2からわかるように実施例10〜17では低混率であっても編地中に本発明の制電性アクリル繊維を含むことで、比較例7〜12に比べ、染色後、さらに染色後洗濯を5回繰り返した後においても優れた制電性を発揮することができ、耐久性に関しても十分であった。また、ホウ素化合物を含有させたことにより毛羽の発生が抑えられ、発色性の評価において、ホウ素化合物を含有させなかったものに比べ、チラツキ感が少なく、高品位の編地が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80〜100重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリロニトリル系重合体90〜99重量%と、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂10〜1重量%とからなり、アルカリ金属イオンが繊維に対して200ppm以上含有されているアクリル繊維であって、アクリル系制電性樹脂がホウ素化合物を含有することを特徴とする制電性アクリル繊維。
【請求項2】
体積固有抵抗値が10〜10Ω・cmであることを特徴とする請求項1に記載の制電性アクリル繊維。
【請求項3】
アクリル系制電性樹脂が下記化1で示す共重合成分を30〜90重量%結合含有するアクリル系重合体であり、アルカリ金属イオンがリチウムイオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の制電性アクリル繊維。
【化1】

【請求項4】
カチオン染料で染色後の繊維の、染色前の繊維に対するアルカリ金属イオン保持率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制電性アクリル繊維。
【請求項5】
カチオン染料で染色後の繊維の、アルカリ金属イオンの含有量が繊維に対して140ppm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン可染性制電性アクリル繊維。
【請求項6】
ホウ素化合物が、無水ホウ酸、ホウ酸及びその塩からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の制電性アクリル繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の制電性アクリル繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする制電性繊維構造体。
【請求項8】
カチオン染料で染色後の摩擦帯電圧の半減期が2秒以下であり、かつ摩擦帯電圧が2kV以下であることを特徴とする請求項7に記載の制電性繊維構造体。
【請求項9】
80〜100重量%のアクリロニトリルを構成成分とするアクリロニトリル系重合体90〜99重量%と、10〜1重量%のアクリル系制電樹脂とからなる重合体混合物を含む紡糸原液を湿式紡糸し、得られた繊維を水洗、延伸した後にアルカリ金属塩水溶液で処理し、次いで緻密化するアクリル繊維の製造方法であって、アクリル系制電性樹脂が、10〜70重量%のアクリロニトリルを構成成分として含有するアクリル系制電性樹脂に対しホウ素化合物を0.2〜2.0重量%添加したアクリル系制電性樹脂水分散体として紡糸原液に加えられることを特徴とする制電性アクリル繊維の製造方法。
【請求項10】
水洗、延伸した後の未乾燥繊維の水分率が50〜130重量%であること、及び水洗、延伸処理とアルカリ金属塩水溶液での処理との間に、105〜130℃での湿熱処理が行われることを特徴とする請求項9に記載の制電性アクリル繊維の製造方法。
【請求項11】
緻密化処理を緊張下で行うことを特徴とする請求項9又は10に記載の制電性アクリル繊維の製造方法。
【請求項12】
緻密化処理を湿潤状態で行うことを特徴とする請求項9又は10に記載の制電性アクリル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−82565(P2012−82565A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178679(P2011−178679)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】