説明

発芽処理大豆を原料とする豆乳

【課題】更年期障害を予防又は低減し、かつ、長期間飲用しても副作用の心配が無く安全性も高い豆乳を提供する。
【解決手段】発芽処理大豆を原料とする豆乳であって、更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられる。また、この豆乳は、更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示が付されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更年期障害を改善または予防するために用いられる、発芽処理大豆を原料とする豆乳に関する。
【背景技術】
【0002】
更年期障害は、閉経期を迎えエストロゲンが低下することによるホルモンバランスの乱れを原因とする諸症状と考えられ、閉経期までの数年間継続する症状である。更年期障害は、卵巣機能の低下、環境的要因、心因的要因などに起因する症状であり、主に血管運動神経障害様症状、精神神経障害様症状、知覚障害症状、泌尿生殖系障害症状、運動器官障害症状、皮膚泌尿系障害症状、消化器系障害症状およびその他の症状に分類されている。これらの症状に対して、エストロゲンなどのホルモンを補充するホルモン補充療法が行われている。しかし、ホルモン療法は症状が複数あっても、劇的な改善が得られる場合も多いが、乳がん、子宮ガンなどの発ガン性のリスク等の副作用の心配がある。また、更年期障害には非エストロゲン依存性のものがあり、その患者にはホルモン療法は改善効果が期待できず、さらに他覚的所見に乏しい不定愁訴を訴える患者も非常に多い。
【0003】
更年期は女性が必ず経験する時期であり、更年期の種々の症状は程度の強弱に関わらず女性にとって精神的な苦痛となっている。こうした状況の中で、更年期症状または障害を予防または改善低減することにより、女性のQOL(Quality of Life)を向上させることが求められている。
【0004】
ところで、イソフラボンは主に大豆に含まれる女性ホルモンに似た働きをするフラボノイドで、女性ホルモンの乱れからくる諸症状、例えば、更年期障害、骨粗鬆症、高脂血症、肥満等の症状の改善に用いることが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、γ−アミノ酪酸(以後、GABAということがある)は、グルタミン酸から生合成されるアミノ酸の一種であり、主に動物では脳髄に存在し、神経の主要な抑制性伝達物質であり、優れた更年期障害の予防改善作用を有することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0006】
更に、更年期障害を予防または改善しうる量のγ−アミノ酪酸とイソフラボンとを含有する更年期障害の予防改善剤が開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、豆類は炭水化物、蛋白質、脂肪などの栄養価に富むので古くからの食用として利用されている。とりわけ豆類の中でも特に大豆に関しては、畑の肉ともいわれ、たん白質が豊富であり、また必須脂肪酸を含む大豆油も多く含まれている。さらに最近では、大豆たん白の心臓病疾患のリスク低減作用、コレステロール低下作用等が科学的に立証され、その他の栄養素として、大豆イソフラボンが骨粗しょう症予防作用等も研究されている。そして、大豆を原料とした大豆加工食品は、味噌、納豆、豆腐、豆乳等のように伝統的食品として古くから日本の食生活のなかに存在している。一方、豆乳は、食事と健康の意識の高まりに加えて、狂牛病の影響から豆乳飲料市場が拡大し、各種豆乳飲料が開発されている。
【特許文献1】特開2003−2831号公報
【特許文献2】特開2005−139135号公報
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、2000年8月、第47巻、第8号、P596〜603
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の大豆イソフラボンによる更年期障害に対する予防または改善効果は充分とはいえない。また、特許文献2には、γ−アミノ酪酸が更年期障害の予防または改善に効果を奏することを見出して、イソフラボンとγ−アミノ酪酸を併用することが開示されているが、使用するγ−アミノ酪酸はグルタミン酸から乳酸菌発酵したものであって、発芽処理した大豆を原料とした豆乳(発芽豆乳)を更年期障害の改善または予防に利用することは検討されていない。また、非特許文献1は、γ−アミノ酪酸蓄積の脱脂コメ胚芽を用いて、従来食物からの自然摂取には量的限界があったγ−アミノ酪酸を、生理作用が期待できる量まで高めて摂取することができることが研究されているが、やはり、発芽処理した大豆を原料とした豆乳を更年期障害の改善または予防に利用することは開示されていない。
【0009】
このように、γ―アミノ酪酸やイソフラボンを更年期障害の改善または予防に利用することの開発は行われているが、大豆を発芽させて、大豆中のγ−アミノ酪酸を富化させて、該大豆を加工して製造された豆乳を更年期障害の改善または予防に利用することはこれまでに検討されていない。
【0010】
以上の課題に鑑み、本発明の目的は、更年期障害を予防または低減し、かつ長期飲用しても副作用の心配が無いなど安全性が高い更年期障害の改善または予防のために用いられる豆乳を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記した課題の解決のために鋭意研究した結果、大豆を発芽処理してγ−アミノ酪酸を富化させた大豆を原料とし、該大豆を加工して製造された豆乳を更年期障害から生じる諸症状を有する好ましくは女性に摂取させることにより、更年期障害を効果的に改善または予防しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) 更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられる、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
(2) 更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示を付した、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
(3) 更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものである旨の表示を付した、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
(4) γ−アミノ酪酸とイソフラボンとを含有し、前記γ−アミノ酪酸の含有量が、豆乳100ml当たり8mg以上であり、かつ、前記イソフラボンの含有量が、豆乳100ml当たり15mg以上である(1)から(3)いずれかに記載の発芽処理大豆を原料とする豆乳。
【発明の効果】
【0014】
上記の本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳によれば、更年期障害の身体的および精神的な種々の症状を予防またはその症状を改善することができ、且つ長期飲用しても副作用の心配がなく安全性が高い。
【0015】
すなわち、本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳(本願では、発芽豆乳ということがある)は、発芽させてγ-アミノ酪酸が富化された大豆を原料として製造されているので、γ−アミノ酪酸の含有量が高く、また、大豆に含有される大豆イソフラボンも含有しているので、更年期障害の予防やその症状の改善に必要な量のγ−アミノ酪酸およびイソフラボンを日常的に摂取できる。そして、γ−アミノ酪酸およびイソフラボンに加えて、豆乳には、種々の遊離アミノ酸に代表される他の成分も含有する。このため、これら成分との相乗効果により、更年期障害の予防やその症状の改善により優れた効果を発揮することを見出したことに本発明の特徴がある。このため、本発明は、好ましくは閉経前後の長期間にわたり女性のQOLを向上させるために極めて有用である。そして、更に、本発明は種々の更年期障害のなかでも、特に、血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防に有効であることを見出したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳についての実施形態を具体的に説明する。
【0017】
本発明において、発芽処理大豆を原料とする豆乳とは、以下の発芽処理を施して発芽処理大豆を原料として加工することで製造される。
【0018】
先ず、本発明に使用する発芽処理大豆について説明する。
【0019】
(発芽処理大豆)
発芽処理大豆とは、水による浸漬等により発芽反応に必要な水を含む大豆を、水切り後または浸漬等の工程中に、空気または酸素に接触させ、温度、湿度を保ちながら発芽反応を促進させた大豆を意味し、実際に発芽しているか否かを問わない。具体的には、例えば、水切りした大豆を発芽床に移し間欠的に散水したり、湿らせた布で包んだりして発芽反応を進行させる。なお、本発明に用いる発芽装置としては、一般的に用いられている発芽床を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0020】
具体的な発芽処理の方法としては、特に限定はしないが、10〜45℃、好ましくは20〜45℃、より好ましくは30〜42℃の水又は温水に、0.5〜36時間、好ましくは1〜10時間、より好ましくは1〜5時間浸漬させ、この浸漬工程中、又は浸漬工程後に、大豆を空気又は酸素中に、例えば25〜45℃、より好ましくは25〜35℃で、19〜36時間、好ましくは20〜30時間、より好ましくは20〜24時間さらす気体接触工程を行う方法を挙げることができる。
【0021】
使用する大豆としては、国産大豆、IOMなどの米国産大豆、遺伝子組み替え大豆、又は非遺伝子組み替え大豆のいずれも用いることができる。
【0022】
このような発芽処理大豆としては、例えば、WO2005/004633号国際公開パンフレットに記載のものが好ましく利用できる。
【0023】
(豆乳の製造)
次に、上記の発芽処理した大豆を用いて常法に従い豆乳を製造する。具体的には、例えば、上記で得られた発芽処理大豆に水を加えながら摩砕し、必要によりおからを分離して得られた液(尚、おからを分離しない場合には、さらに撹拌機等を用いて粒子を細かくした液)を、直接蒸気吹き込み式瞬間加熱装置で加熱殺菌して製造する。また、上記で得られた発芽処理大豆を乾燥させ摩砕し、全粒大豆粉とした後、水に溶かしたものを加熱殺菌して製造する。尚、加熱殺菌する前に飲み易くするために糖類や果実の搾汁等を加えて、豆乳の味を調整してもよい。こうすることで、嗜好性に優れた商品価値の高い豆乳を製造することができる。
【0024】
尚、本願でいう豆乳は、JAS規格に含まれるものはもちろんのこと、JAS規格に限定されず、豆を原料として豆乳状にしたものをすべていう。例えば、おからを分離しないものや、豆を乾燥させ、一度粉末にした後、その粉を水に溶かしたものも含まれる。
【0025】
(γ−アミノ酪酸、イソフラボンの含量)
上記の発芽処理大豆を用いて製造した本発明に係る豆乳は、大豆固形分が4%以上、好ましくは8%以上であって、大豆の発芽処理によってγ−アミノ酪酸が富化されている。γ−アミノ酪酸の含有量は特に限定されないが、好ましくは豆乳100ml中にはγ−アミノ酪酸を8mg以上、より好ましくは10mg以上、更に好ましくは12mg以上含有する。
【0026】
ここで、豆乳中のγ−アミノ酪酸含量は、自動アミノ酸分析装置を用いて分析して求めることができる。具体的には、該豆乳と5%トリクロロ酢酸を混合攪拌後、遠心処理し、上清をフィルターでろ過して、ろ液を得る。得られたろ液を、自動アミノ酸分析装置を用いて分析する。
【0027】
また、イソフラボンとは、マメ科大豆に含まれるフラボノイド化合物をいう。具体的には、ダイジン、ダイゼイン、ゲニスチン、ゲニステイン、グリシチン、グリシテイン、アセチルダイジン、アセチルゲニスチン、アセチルグリシチン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチンから選ばれる一種又は二種以上のものをいい、一般には骨粗鬆症、更年期障害等の予防効果を有することがわかっている。イソフラボンの含有量は特に限定されないが、上記発芽処理大豆を用いて製造した本発明に係る豆乳には、このイソフラボンが、好ましくは豆乳100ml中に15mg以上、より好ましくは20mg以上、更に好ましくは25mg以上含有する。ここで、イソフラボン含量(mg)は、従来公知のHPLC(液体クロマトグラフ)法で分析することにより求めることができる。
【0028】
(その他の成分)
また、大豆の発芽処理によって、上記のγ−アミノ酪酸以外にも、セリン、メチオニン、フェニルアラニン等の遊離アミノ酸が富化され、これらの成分は精神安定剤としての効果を奏するので、更年期障害の精神症状に対しても有効に作用する。セリン、メチオニン、フェニルアラニンの含有量は特に限定されないが、上記発芽処理大豆を用いて製造した本発明に係る豆乳には、豆乳100ml中に好ましくはセリンが2mg以上、より好ましくは2.25mg以上、更に好ましくは2.5mg以上含有する。また、豆乳100ml中に好ましくはメチオニンが1mg以上、より好ましくは1.15mg以上、更に好ましくは1.3mg以上含有する。また、豆乳100ml中に好ましくはフェニルアラニンが2mg以上、より好ましくは2.25mg以上、更に好ましくは2.5mg以上含有している。
【0029】
(有効摂取量)
更年期障害の症状の改善及び予防に必要なγ−アミノ酪酸やイソフラボンの1日当たりの摂取量は特に限定されるものでないが、γ−アミノ酪酸は、通常10〜50mgの範囲、好ましくは20〜40mgの範囲である。また、大豆イソフラボンの1日あたりの摂取量は、総イソフラボンとして通常20〜150mgの範囲、好ましくは30〜100mgの範囲である。上記の量のγ−アミノ酪酸やイソフラボンを1日あたり摂取することで、更年期障害の症状の改善や予防に効果があった。
【0030】
本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳としての有効摂取量は、被験者の状態、予防改善すべき症状の程度などを考慮して適宜決定することができる。有効摂取量としては、上記1日当たりの摂取量を満たせば、特に限定しないが、上記の豆乳を例えば100〜500ml/日の範囲で摂取することが好ましい。
【0031】
(更年期症状)
本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳又は食品により改善される更年期症状としては、熱感、冷え性、のぼせ、心悸亢進感、頻脈、徐脈などの血管運動神経障害様症状、頭痛、めまい、不眠、耳鳴、恐怖感、圧迫感、記憶力減退などの精神神経障害様症状、肩こり、腰痛、関節痛、脊柱痛、筋痛、座骨痛などの運動器官障害症状、しびれ感、知覚過敏、知覚麻痺、蟻走感などの知覚障害症状頻尿、排尿痛などの泌尿生殖系障害症状、発汗亢進、口内乾燥感、唾液分泌増加などの皮膚泌尿系障害症状、食欲不振、悪心、嘔吐、便秘、下痢などの消化器系障害症状、並びにその他の症状として、疲労感、腹痛などが含まれる。このような更年期障害の不快な症状の緩和によって、更年期を快適に過ごすことができる。この「更年期を快適に過ごす」指標としては、例えば、実施例にて後述するQOLの向上が挙げられる。そして、本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳又は食品は、上記のうち、特に、血管運動神経障害様症状や精神神経障害様症状の改善または予防に対する効果に優れる。したがって、本発明の豆乳は更年期障害の血管運動神経障害様症状又は/及び精神神経障害様症状を改善または予防する予防改善剤として用いることができる。
【0032】
また、上記豆乳又は食品は、それを摂取するだけで、実施例にて後述するQOLを向上させる効果を発揮するため、日常生活の質の向上のために大変有効である。
【0033】
(表示)
本発明における、血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示は、主として特定保健用食品として表示可能な表記であり、例えば、「更年期の不快な症状を緩和します」、「閉経前後の不快な症状でお困りの方」、「更年期を快適に過ごすために」、「更年期のほてり、発汗、息切れ動悸や、不眠、いらいら、うつ、頭痛が気になる方」なとの表示が挙げられる。
【0034】
また、本発明における、更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものである旨の表示は、主として非特定保健用食品として表示可能な表記をも含むものである。例えば、「はればれ」、「ほってりすっきり」、「ぽかぽか」、「ぐうぐう」、「こころ」などの表示が挙げられる。
【0035】
なお、この更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものである旨の表示は、上記の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示より広い概念である。このため、本発明においては、更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものである旨の表示を単独で表記してもよく、上記の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示と併用表記してもよい。
【0036】
なお、これらの表示は、従来公知の方法で、容器包装手段に付すことができ、これによって、本発明の発芽処理大豆を原料とする豆乳は、更年期障害における精神神経障害様症状の改善又は予防、又は、更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものであることが明示されるので、通常の豆乳との区別が明確になる。
【0037】
(当該豆乳を使用した加工食品及び当該豆乳または加工食品を含んだ食品)
上記豆乳を使用した加工食品も、上記豆乳の成分をほとんど含んでいるので、同様な効果を発揮する。例えば、豆腐や豆腐プリンなどである。また、上記豆乳又は上記加工食品が、他の食品に、その効果を発揮し得る量が含まれていれば当然同様の効果を発揮する。上記豆乳又は、上記加工食品を含んだ食品としては、例えば、パン、ピザや、うどん、そば、そうめん等の麺類、アイスクリーム、プリン、ヨーグルト等の乳製品、クッキー、ビスケット、せんべい、おかき、あられ、プリン、和菓子等の菓子類等といった豆類を加工原料としない食品にも使用することができる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕(発芽処理大豆を用いた発芽豆乳の調製)
米国産IOM未発芽処理大豆300kgを30℃1000リットルの温水で2時間浸漬させた後、24時間、20℃の水を6時間ごとに散布しながら空気中で発芽を促し、発芽処理大豆690kgを得た。得られた発芽処理大豆690kgを、水を加えながら磨砕し、おからを分離して得られた液を、直接蒸気吹き込み式瞬間加熱装置で145℃、5秒間加熱後、5℃に冷却し素豆乳を得た。その後、適当量の砂糖等の添加物を加え、固形分を10%とした豆乳を得た。
【0040】
得られた豆乳について、以下の分析方法によりγ−アミノ酪酸及びイソフラボンの含量を測定した処、γ−アミノ酪酸含量は、15mg/125mL、イソフラボン含量は32mg/125mLであった。
【0041】
<γ−アミノ酪酸、イソフラボン、遊離アミノ酸の分析>
γ−アミノ酪酸、遊離アミノ酸の分析:得られた豆乳と5%トリクロール酢酸を混ぜ、撹拌、遠心分離により除蛋白した後、その上澄をろ過後、ろ液を自動アミノ酸分析装置で分析した。尚、表1に主なる遊離アミノ酸量を示す。
【0042】
イソフラボンの分析:得られた豆乳をメタノール:水(質量比)=8:2の含水メタノール中でホモジナイズして加熱還流抽出を1時間2回行い、ろ過後、得られたろ液についてHPLC分析を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
〔比較例1〕(発芽処理大豆を用いていない通常豆乳の調製)
実施例1と同様の大豆を用いて、未発芽処理大豆を、通常の熱水抽出方法により豆乳を得た。すなわち、米国産IOM未発芽処理大豆300kgを脱皮して、85℃1500リットルの熱水に入れ、約30分間攪拌しながら磨砕し、おからを分離して得られた液を、直接蒸気吹き込み式瞬間加熱装置で145℃、5秒間加熱後、5℃に冷却し素豆乳を得た。その後、適当量の砂糖等の添加物を加え固形分を10%とした豆乳を得た。得られた豆乳について、実施例1と同様の方法でγ−アミノ酪酸とイソフラボンの含量を分析した。その結果、γ−アミノ酪酸含量は0〜1mg/125mL、イソフラボン含量は32mg/125mLであった。また、実施例と同様に遊離アミノ酸の分析を行った結果を表1に示す。
【0045】
〔評価試験〕
本発明の豆乳の更年期障害の予防改善剤の効果を下記の試験により評価した。尚、以下の試験例では、実施例1で製造した発芽処理大豆を原料とした豆乳、対照として比較例1で製造した通常豆乳を用いた。
【0046】
<試験方法>
更年期障害を有する40〜59歳の女性120名を、年齢による層別化後、以下の3群に無作為に割り付け(1群40名)、それぞれの群について下記のように豆乳を飲用することで試験した。尚、試験デザインは、二重盲検による無作為比較試験で行った。ここで、「二重盲検」とは、各被験者に割り付けられた治療を、被験者及び治験実施医師だけでなく、治験依頼者、被験者の治療や臨床評価に関係する治験実施医師のスタッフも知らないことを意味する。
(A)試験群:実施例1の発芽豆乳を1日250mL(γ−アミノ酪酸1日投与量:30mg、イソフラボン1日投与量:64mg)を8週間連続飲用する試験群
(B)プラセボ群:比較例1の通常豆乳を1日250mL(γ−アミノ酪酸1日投与量:0〜2mg、イソフラボン1日投与量:64mg)を8週間連続飲用するプラセボ群
(C)非介入群:豆乳を飲用しない非介入群
【0047】
評価は、飲用開始前、飲用開始後4週間、飲用開始後8週間、飲用終了後4週間の4回行った。評価指標は、更年期症状、QOLとし、以下の評価方法、解析法により、各群の変化を分析した。
【0048】
<評価方法、データの解析法>
更年期症状:小山の簡略更年期指数により評価した。具体的には、下記の表2に示す更年期障害の症状に関するチェックリストを予め作成し、被験者にリスト表に従い、強・中・弱を記載してもらい症状を点数化し、その合計を更年期指数とし、試験開始時と各評価時の更年期指数を比較した。
【0049】
症状は、(1)顔がほてったり、のぼせたりする、(2)汗をかきやすい、(3)腰や手足が冷える、(4)息切れ、動悸がする(以上、血管運動神経系症状)、(5)寝つきが悪い、または眠りが浅い、(6)怒りやすく、イライラすることが多い、(7)くよくよしたり、憂鬱になることがある、(8)頭痛、めまい、吐き気がよくある(以上、精神神経系症状)、(9)疲れやすい、(10)肩こり、腰痛、手足の痛みがある(以上、運動神経系症状)の10項目について、その症状を程度の応じて点数化した。症状がない場合は「なし」、症状の自覚はあるが日常生活にはほとんど影響しない場合は「弱」、症状がひどく、がまんできないことがある場合は「中」、症状が大変ひどく、日常生活に支障をきたす場合は「強」とし、更年期障害アンケート表に記載した各項目の点数にあてはめ、その合計を更年期指数とした。
【0050】
QOL:日常生活の快適性に関する項目(50項目)のチェックリストを予め作成し、被験者にチェックしてもらい、試験開始時と各評価時を比較した。
【0051】
【表2】

【0052】
<結果>
分析対象として、試験群28名、プラセボ群24名、非介入群24名について、更年期症状及びQOLを検証した。統計の解析方法は、対応のあるt検定で行った。そして、その結果について、開始前に対する有意差の有無を開始前と開始後4週間の比較、開始前と開始後8週間の比較、開始前と終了後4週間の比較をし、表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示すように、血管運動神経系症状については、試験群(A)は、開始後4週間で有意な症状の改善が見られた(P<0.01)。一方、プラセボ群(B)は、開始後8週間で有意な症状の改善が見られ(P<0.01)、非介入群(C)は、いずれの評価時でも有意な改善は見られなかった。
【0055】
また、精神神経系症状については、試験群(A)は、開始後4週間で有意な症状の改善が見られた(P<0.01)。一方、プラセボ群(B)は、開始後8週間でも有意な症状の改善は見られず、終了後4週間で有意な症状の改善が見られた(P<0.01)。また、非介入群(C)は、いずれの評価時でも有意な改善は見られなかった。
【0056】
また、運動神経系症状については、試験群(A)は、開始後8週間で有意な症状の改善が見られた(P<0.01)。一方、プラセボ群(B)は、開始後8週間で有意な症状の改善が見られ(P<0.01)、非介入群(C)は、いずれの評価時でも有意な改善は見られなかった。
【0057】
これらの結果から、血管運動神経系症状について、試験群(A)が、プラセボ群(B)と比して、短期間に有意な症状の改善をすることがわかった。また、精神神経系症状については、試験群(A)が、プラセボ群(B)と比して、とても短期間に有意な症状の改善をすることがわかった。一方、運動神経系症状については、試験群(A)は、プラセボ群(B)と有意な効果なかった。QOLについては、試験群(A)は、プラセボ群(B)と比して、飲用終了後においても、長期に有意な症状の改善が維持されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の発芽処理した大豆を原料とする豆乳は、更年期障害の症状の改善・予防することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられる、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
【請求項2】
更年期障害の血管運動神経障害様症状及び/又は精神神経障害様症状の改善又は予防のために用いられるものである旨の表示を付した、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
【請求項3】
更年期障害の不快な症状を緩和するために用いられるものである旨の表示を付した、発芽処理大豆を原料とする豆乳。
【請求項4】
γ−アミノ酪酸とイソフラボンとを含有し、
前記γ−アミノ酪酸の含有量が、豆乳100ml当たり8mg以上であり、かつ、前記イソフラボンの含有量が、豆乳100ml当たり15mg以上である請求項1から3いずれかに記載の発芽処理大豆を原料とする豆乳。

【公開番号】特開2007−124930(P2007−124930A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319380(P2005−319380)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年10月20日に日本更年期医学会が発行した刊行物である「日本更年期医学会雑誌 第20回 学術集会プログラム・要旨集」 145ページにて発表
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】