説明

発芽種子製造方法並びに発芽種子ペーストの製造方法並びにこれらの装置

【課題】発芽玄米等の発芽種子を製造する際に、発芽水に対して添加物を加えることなく雑菌の増殖を抑えることができるとともに、種子が発芽する際に増強されるGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1を有効活用することのできる新規な発芽種子製造方法並びに発芽種子ペーストの製造方法並びにこれらの装置を提供する。
【解決手段】発芽槽1に種子S0と発芽用水W0を投入し、種子S0の発芽を促して発芽種子を製造する方法において、前記発芽用水W0を発芽槽1と外部との間で循環させるものであり、発芽槽1の外部に取り出された発芽用水W0を、加熱殺菌し、冷却し、更に種子S0の発芽に適した温度に調温した後、発芽槽1に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穀物、菽穀、擬穀等の種子を発芽させるための方法並びに発芽種子を原料としたペーストの製造方法並びにこれらの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、玄米等を水(以下、発芽水と呼ぶ。)に漬けることにより、24時間程かけて胚芽の部分を0.5〜1mm程度発芽させた発芽玄米等の発芽種子が注目されている。このうち発芽玄米は、発芽していない玄米よりも栄養価が高くなっているものであり、食物繊維が白米の約4倍となり、ビタミンB1が白米の約5倍となり、ビタミンEが白米の約4倍となり、マグネシウムが白米の約4倍となる等、栄養価が増強されることが確認されているものである。また特にGABA(γ−アミノ酪酸)については、白米の約10倍、玄米の約3倍に増加することが確認されている。
【0003】
そして上述のような発芽を行うためには、発芽水に漬けた玄米を、30〜35℃の温度条件下におくことが好ましいが、この温度帯は雑菌が繁殖し易いものでもあるため、発芽が完了するまでの間にこまめな水換えが必要があった。
そこでこのような水換えの手間を省くために、発芽水に対して雑菌の繁殖を抑えるための物質を混入することが行われているものであり、前記発芽水に塩分を加えたり、前記発芽水に、細片化した葱類等を含有させることにより、発芽を促進するとともに、雑菌の繁殖を抑えることも試みられている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながらこれらの手法によって製造された発芽玄米は、塩分や葱成分が含まれたものであるため、独特の風味が備わったものとなってしまい、塩むすび、炊き込みご飯、混ぜご飯等には適しているものの、主食として日常的に食するご飯としては、副菜との相性の問題もあるため、不向きなものとなってしまう。
【0005】
また特に玄米が発芽する際に増強されるGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1は水溶性であるため、前記発芽水に取り込まれてしまうことは避けられず、従来は発芽水とともに廃棄されてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−24472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、特に発芽玄米等の発芽種子を製造する際に、発芽水に対して添加物を加えることなく雑菌の増殖を抑えることができるとともに、種子が発芽する際に増強されるGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1を有効活用することのできる新規な発芽種子製造方法並びに発芽種子ペーストの製造方法並びにこれらの装置の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち請求項1記載の発芽種子製造方法は、発芽槽に種子と発芽用水を投入し、種子の発芽を促して発芽種子を製造する方法において、前記発芽用水を発芽槽と外部との間で循環させるものであり、発芽槽の外部に取り出された発芽用水を、加熱殺菌し、冷却し、更に種子の発芽に適した温度に調温した後、発芽槽に戻すことを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項2記載の発芽種子製造方法は、前記要件に加え、前記発芽槽の外部に取り出された発芽用水を、60〜90℃に加熱することにより殺菌処理することを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項3記載の発芽種子製造方法は、前記要件に加え、前記発芽槽に戻される発芽用水の温度を35〜50℃とすることを特徴として成るものである。
【0011】
更にまた請求項4記載の発芽種子製造方法は、前記の要件に加え、前記種子の発芽が所望の状態となった時点で、発芽槽から発芽用水を排出し、その後、発芽種子の中心温度を5℃以下に冷却することを特徴として成るものである。
【0012】
更にまた請求項5記載の発芽種子製造方法は、前記要件に加え、前記種子として、穀物、菽穀、擬穀のうちのいずれか一種または複数が適用されることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項6記載の発芽種子ペーストの製造方法は、前記請求項1乃至5記載の方法によって得られた発芽種子を、同じく請求項1乃至5記載の方法に用いられた発芽用水とともに磨砕することにより、発芽用水に溶出した水溶性物質が含まれたペースト状物質とすることを特徴として成るものである。
【0014】
更にまた請求項7記載の発芽種子製造装置は、発芽槽に種子と発芽用水を投入し、種子の発芽を促して発芽種子を製造する装置において、前記発芽用水を発芽槽と外部との間で循環させるための構成と、発芽槽の外部に取り出された発芽用水を加熱殺菌するための構成と、加熱殺菌された発芽用水を冷却するための構成と、冷却された発芽用水を種子の発芽に適した温度に調温するための構成とが具えられていることを特徴として成るものである。
【0015】
更にまた請求項8記載の発芽種子製造装置は、前記請求項7記載の要件に加え、前記発芽槽の外周部にはジャケットが具えられていることを特徴として成るものである。
【0016】
更にまた請求項9記載の発芽種子ペーストの製造装置は、前記請求項7または8記載の発芽種子製造装置と、発芽種子を発芽用水とともに磨砕するための構成とが具えられてることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0017】
まず請求項1記載の発明によれば、循環使用される発芽用水に雑菌が繁殖してしまうのを防止することができるため、GABA等の水溶性成分を余すことなく取り込んで、これらの外部流出を防止することができる。また発芽用水は適温で発芽槽に戻されるため、種子の発芽を好適に行うことができる。
【0018】
また請求項2記載の発明によれば、アミノ酸分解酵素や酵母の失活を防ぎながら、発芽用水の殺菌状態を好適なものとすることができる。
【0019】
また請求項3記載の発明によれば、種子の発芽状態を個的なものとすることができる。
【0020】
また請求項4記載の発明によれば、発芽種子を冷却することにより、雑菌の繁殖を防ぐことができるとともに、発芽種子の内部で活性化しているアミノ酸分解酵素や酵母等を失活することができ、更に水分含有量の多い食品等を保管する際に発生し易いムレ臭を防ぐことができる。
【0021】
また請求項5記載の発明によれば、主要穀類の発芽種子を提供することが可能となる。
【0022】
また請求項6記載の発明によれば、種子が発芽する際に増強されるGABA等の水溶性成分が余すことなく取り込まれた発芽種子ペーストを得ることができる。
【0023】
また請求項7記載の発明によれば、循環使用される発芽用水に雑菌が繁殖してしまうのを防止することができるため、GABA等の水溶性成分を余すことなく取り込んで、これらの外部流出を防止することができる。また発芽用水は適温で発芽槽に戻されるため、種子の発芽を好適に行うことができる。
【0024】
また請求項8記載の発明によれば、発芽槽内に投入される種子と、発芽用水または冷却水とを、所望の温度に安定して維持することができる。
【0025】
また請求項9記載の発明によれば、種子が発芽する際に増強されるGABA等の水溶性成分が余すことなく取り込まれた発芽種子ペーストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】発芽種子製造装置及び発芽種子ペースト製造装置の通常運転の状態を示すブロック図である。
【図2】発芽槽を一部透視して示す側面図である。
【図3】発芽種子製造装置及び発芽種子ペースト製造装置の少量運転の状態を示すブロック図である。
【図4】発芽種子製造装置及び発芽種子ペースト製造装置の発芽用水回収時の状態を示すブロック図である。
【図5】発芽種子製造装置及び発芽種子ペースト製造装置の発芽種子冷却時の状態を示すブロック図である。
【図6】発芽種子製造装置及び発芽種子ペースト製造装置の発芽種子ペースト製造時の状態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の「発芽種子製造方法並びに発芽種子ペーストの製造方法並びにこれらの装置」を実施するための形態は、以下に示すものを最良の形態の一つとするとともに、この技術思想に基づき改変される形態も含むものである。
以下、はじめに発芽種子製造装置D及び発芽種子ペースト製造装置D1について説明を行い、続いてこれらの装置の作動態様と併せて発芽種子S1及び発芽種子ペーストPAの製造方法について説明を行う。
なお本明細書において種子S0とは、玄米、米、トウモロコシ、マイロ、小麦、大麦等のイネ科の穀物や、大豆、小豆等のマメ科の菽穀や、ソバ等の擬穀等のうちの、いずれか一種または複数が適用されるものであるが、これら以外の植物種子を適用することも可能である。
また発芽種子S1とは、前記種子S0の胚芽の部分が、0.5〜1mm程度発芽した状態のものである。
更に発芽用水W0とは、前記種子S0が発芽種子S1となる際に必要とされる水分である。そしてこの水分(発芽用水W0)に、種子S0が発芽する際に増強されるGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1等の水溶性成分が取り込まれたものを発芽用水W1と呼ぶものとする。
更にまた発芽種子ペーストPAとは、前記発芽種子S1を前記発芽用水W1とともに磨砕することにより得られるペースト状の物質である。
【0028】
まず前記発芽種子製造装置Dについて説明すると、このものは主要機器として、発芽槽1と、発芽用水循環装置2と、保温機構3と、タンク4と制御盤5とを具えて構成されるものであり、発芽槽1に種子S0と発芽用水W0とを投入するとともに、発芽用水W0の温度を発芽に好適な状態として種子S0を発芽させ、発芽種子S1を得ることができる装置である。
また発芽種子ペースト製造装置D1は、前記発芽種子製造装置Dと磨砕機6とを具えて構成されるものであり、発芽種子S1を粒径5〜30μm程に磨砕するとともに、このものと発芽用水W1中に分散させたペースト状の物質とすることができるものである。
【0029】
以下、発芽種子製造装置D及び発芽種子ペースト製造装置D1の構成要素と、その接続態様について詳しく説明する。
まず発芽槽1は図2に示すように、上下面を開口した中空逆円錐台状の部位と、円筒状の部位とが組み合わされて槽本体10が形成されるものであり、この槽本体10の外側ほぼ全域に対して、適宜の間隔をあけて同様の形状のジャケット外体11が具えられて成るものである。そして、これら槽本体10及びジャケット外体11の上部開口部を天板12によって塞ぐことにより、前記槽本体10の内部空間が発芽処理のための処理空間とされている。また前記天板12に対しては投入口12aが形成されている。
また前記槽本体10の下部開口部を排出口13とするものであり、この排出口13を囲繞するようにフランジ13aが具えられている。
【0030】
また前記槽本体10とジャケット外体11との間には適宜ジャマ板11aが設けられることにより両部材の連結が図られるとともに、温水、蒸気、油等の熱媒体Hの循環経路が形成される。このため前記ジャケット外体11の下部に流入管11bが取り付けられ、一方、ジャケット外体11の上部に流出管11cが取り付けられている。
また前記ジャケット外体11の下部に、ジャケット外体11を貫通して槽本体10と連通状態となるように給液管10aが取り付けられ、同様にジャケット外体11の上部に排液管10bが取り付けられている。
【0031】
そして前記槽本体10内には平面視ほぼ中央に回転軸14が配されるとともに、この回転軸14の長手方向に沿って適宜の間隔を空けて具えられた複数の支持杆14aの先端部にブレード14bが具えられている。
そして前記天板12上にはモータM及び減速機15が具えられるとともに、減速機15の出力軸に前記回転軸14が接続されている。
【0032】
次いで前記発芽用水循環装置2について説明すると、このものは図1に示すように、発芽槽1における排液管10bから排出された発芽用水W0を加熱殺菌し、冷却し、更に種子S0の発芽に適した温度に調温した後に、給液管10aに戻すことができるように構成された機構であって、排液管10bと給液管10aとの間に、加熱器21、空冷器22、水冷器23及び温調器24を具えて構成される装置である。
まず前記加熱器21としては、一例としてヒートポンプ式の装置が適用されるものであり、発芽槽1から排出された25〜50℃の発芽用水W0を、60〜90℃まで加熱することによりその殺菌を行うことができるものである。
【0033】
次に前記空冷器22は、一例としてフィンブロックに埋設された管路中を流体が通過する際に、その熱をフィンを通じて外気中に放散することにより、流体を冷却することができるように構成された機器である。
【0034】
次に前記水冷器23は、一例としてチラー23aによって冷却された水を用いて、流体を冷却することができるように構成された機器である。
【0035】
次に前記温調器24は、一例として電熱器が適用されるものであり、前記水冷器23から送られてくる温度の低下した発芽用水W0を、25〜50℃まで再度昇温するための装置である。
なお発芽用水循環装置2には、フィルタ25、水位センサ26、27が具えられるが、これらについては後ほど説明する。
【0036】
次に前記保温機構3について説明すると、このものは昇温機31及び降温機32を備えて構成されるものであり、発芽槽1における槽本体10内に位置する発芽用水W0、W1や冷却水W2の温度を所定の値に維持するための機構である。
具体的には、ジャケット外体11における流入管11bと流出管11cとを管路によって結ぶことにより閉路を形成し、この閉路内に熱媒体Hを循環させるとともに、昇温機31または降温機32によって水等の熱媒体Hを所望の値に昇温または降温させることにより、熱媒体Hと発芽用水W0、W1や冷却水W2との間で熱交換を行うものである。
【0037】
ここで上述した発芽種子製造装置Dを構成する格要素の接続形態について、その一例を説明する。具体的には図1に示すように、排液管10bと給液管10aとを結ぶ管路に対して、加熱器21、空冷器22、水冷器23及び温調器24が具えられており、更に排液管10bと加熱器21との間には、バルブV1、フィルタ25、ポンプP1、三方弁V2が具えられている。また空冷器22と水冷器23との間には三方弁V3が具えられており、前記三方弁V2と三方弁V3との間にバイパス用の管路が接続されている。
また前記発芽槽1における給液管10aと温調器24とを結ぶ管路には、三方弁V4が具えられており、この三方弁V4と温調器24とを結ぶ管路に対して、ポンプP2及び三方弁V5を介在させた状態でタンク4が接続されている。なお三方弁V5によって選択されるタンク4とは異なる流路は、外部への排水経路として機能するものである。また前記タンク4には、内容物を冷却するための適宜の冷却機構が具えられている。
更に前記水冷器23と温調器24との間には三方弁V6が具えられており、この三方弁V6に接続された管路が、前記三方弁V4と温調器24とを結ぶ管路と、ポンプP2とを結ぶ管路に接続されている。更にこの管路は発芽槽1内に位置する散水管16に接続されており、ここにはバルブV7、三方弁V8、ポンプP3が具えられている。
【0038】
またジャケット外体11における流入管11bと流出管11cとを結ぶ管路には、ポンプP4が具えられており、更に昇温機31及び降温機32が三方弁V9に接続された状態で並列状態で具えられている。
また流出管11cと三方弁V9とを結ぶ管路は、散水管16とポンプP3とを結ぶ管路に対して、バルブV10が具えられた管路によって接続されている。
更にまた流入管11bとポンプP4とを結ぶ管路には、バルブV11が具えられた管路が接続されており、これにより熱媒体Hの排水経路が形成されている。
【0039】
そして上述したように構成された発芽種子製造装置Dに対して、磨砕機6が接続されることにより発芽種子ペースト製造装置D1が構成されるものである。
具体的には、発芽槽1における排出口13に対してバルブV12が具えられた管路が接続されるとともに、その下方に搬送装置7が配されるものであり、更に搬送装置7の排出端が磨砕機6の投入口61に臨むものである。また前記タンク4と磨砕機6に形成される給液口62とは、バルブV13を具えた管路によって接続される。
なお前記三方弁V2、V3、V4、V5、V6、V8、V9については、二方弁を組み合わせて代替することもできる。
【0040】
なおこの実施の形態では、前記磨砕機6として、一例として増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー(MKCA6−2)を採用した。
この装置は、石臼が上下に重ねられ、その間に発芽種子S1及び発芽用水W1を導いて石臼の回転によりすり潰すように粉挽きするものである。
なお石臼の作用による加工時間は、例えば石臼の回転数が1500rpmの場合、発芽種子S1を700g、発芽用水W1を700g投入したときには、10秒〜2分ほどで全量が発芽種子ペーストPAとして排出される程度であった。
【0041】
なお前記発芽槽1における槽本体10内の上部と下部とには、水位センサ26、27が具えられるものであり、これらの検出信号は制御盤5に送信されるものとする。
また前記バルブV1、V7、V10、V11、V12、V13及び三方弁V2、V3、V4、V5、V6、V8、V9の開閉操作、ポンプP1、P2、P3、P4の駆動操作、モータMの駆動操作は、前記制御盤5によって制御されるものとするが、その一部を人力によって行うようにしてもよい。
【0042】
本発明の発芽種子製造装置D及び発芽種子ペースト製造装置D1は一例として上述したように構成されるものであり、以下、これらの装置を用いた「発芽種子の製造方法」並びに「発芽種子ペーストの製造方法」について説明する。
【0043】
I.〔発芽種子の製造〕
1.〔種子及び発芽用水の投入〕
まずバルブV1、V7、V10、V11、V12、V13及び三方弁V2、V3、V4、V5、V6、V8、V9の状態を図1に示すようなものとして、ポンプP3を起動することにより、水道水を発芽用水W0として散水管16から槽本体10内に給水する。
次いで水位センサ26によって、発芽用水W0が槽本体10の上部にまで給水されたことが検知された時点でポンプP3を止めて給水を停止するとともに、槽本体10内に種子S0を投入する。
またモータMを起動して回転軸14を回転させることにより、支持杆14aに具えられたブレード14bを、槽本体10内の発芽用水W0及び種子S0に作用させ、これらを槽本体10内において攪拌する。
【0044】
2.〔発芽用水の循環と温度調節(通常運転)〕
次いでポンプP1を起動して発芽用水循環装置2を機能させるものであり、槽本体10内に位置する発芽用水W0は排液管10bから流出し、フィルタ25によって濾過された後、加熱器21に至ることとなる。
そして発芽用水W0は加熱器21において加熱されて60〜90℃となるものであり、このためアミノ酸分解酵素や酵母の活性を妨げることなく、各種雑菌が死滅して殺菌処理が施されることとなる。なお加熱温度を80〜90℃とすることにより、より確実な殺菌処理を行うことができる。
次いで発芽用水W0は空冷器22に送られて、ここで粗熱が除去されて温度が低下した後、水冷器23に至ることとなる。
水冷器23において、発芽用水W0はチラー23aから供給される冷水によって効果的に冷却されて、その温度が更に低下した後、温調器24に至ることとなる。
次いで発芽用水W0は温調器24において、25〜50℃、好ましくは35〜50℃に温度調節されるものであり、給液管10aから槽本体10内に戻されて、種子S0の発芽を促進することとなる。そして槽本体10内において種子S0と接した発芽用水W0は排液管10bから排出されて、以降、上述した一連の操作が繰り返されることとなり、種子S0の発芽が進行することとなる。
なお前記温調器24によって調節される温度は、種子S0の種類に応じて、それぞれ発芽に適した温度に設定されるものとする。
【0045】
3.〔保温機構の稼動〕
また上述した発芽用水循環装置2の稼動と同時に、保温機構3も稼動状態とされるものであり、ポンプP4を起動して、ジャケット外体11における流入管11bと流出管11cとを結ぶ閉路内に充填された熱媒体Hを循環させるとともに、昇温機31によって熱媒体Hを所望の値(25〜50℃)に昇度させるとともに、熱媒体Hと、槽本体10内に位置する発芽用水W0との間で熱交換を行い、発芽用水W0の保温を図るものである。
【0046】
4.〔少量運転〕
ここで種子S0が少量である場合の運転について説明する。具体的には図1に示した通常運転の状態と比較して、バルブV1、V4、V7、V8を図3に示すように切り替えた状態で運転を行うものである。この少量運転と図1に示した通常運転との相違点は、通常運転時には、排液管10bから排出される発芽用水W0を、発芽用水循環装置2を通過させた後、給液管10aを通じて槽本体10内に戻しているのに対し、少量運転時には、給液管10aから排出される発芽用水W0を、発芽用水循環装置2を通過させた後、散水管16を通じて槽本体10内に戻す点である。なおその他の操作は通常運転と同様に行われるものである。
【0047】
5.〔発芽用水の排出〕
そして槽本体10内において種子S0は、回転軸14に具えられたブレード14bの作用によって、25〜50℃の発芽用水W0中に満遍なく分散した状態となるため、やがて24時間程で発芽が起こるものであり、芽が0.5〜1mm程度に成長した発芽種子S1となった時点で発芽用水W1の排出が行われる。なお所望の発芽状態となったときには、GABAやビタミンB1等の水溶性成分が発芽用水W0中に取り込まれることとなるものであり、これを発芽用水W1と呼ぶ。
そして図1または図3に示した状態から、図4に示す状態となるようにバルブV5を切り替えるとともに、ポンプP2を起動することにより、槽本体10及び管路内に位置する発芽用水W1をタンク4に回収するとともに、雑菌や一般生菌が増殖することのない、5℃以下の凍結しない温度に冷却する。
このようにして回収された発芽用水W1には、種子S0が発芽する際に増強されるGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1(水溶性物質)が取り込まれており、これらの成分を余すことなく回収することができるものである。
また保温機構3内に位置する25〜50℃の熱媒体Hについては、バルブV11を開放することにより外部に排出した後、保温機構3内に新たに水道水等(15〜20℃程度)を充填する。
【0048】
6.〔発芽種子の冷却〕
次いで図示は省略するがバルブV8、V4を操作して槽本体10内に水道水等を供給して発芽種子S1の粗熱を除去するものであり、発芽種子S1の温度を一気に15〜20℃程度にまで低下させた後、粗熱除去に用いた水道水を排出する。なおこのような水道水による粗熱の除去は、発芽種子S1の温度変化の状況に応じて実施回数が調整されるものである。
その後、図5に示すように水道水等を冷却水W2として供給するものであり、一例として水位センサ27の高さにまで給水されたことが検知された時点でポンプP3を止めて給水を停止する。
次いで図5に示すようにバルブ類を設定し、給液管10aを通じて槽本体10から排出される冷却水W2を、発芽用水循環装置2を通過させた後、散水管16を通じて槽本体10内に戻すようにする。この際、バルブV2及びV3を操作して冷却水W2が加熱器21を通過することなく、水冷器23に到達させることにより、冷却水W2の冷却を無駄なく行うことができる。因みに図5に示した実施例では、バルブV3を空冷器22と水冷器23との間に設けたが、バルブV3を加熱器21と空冷器22との間に設けるようにしてもよい。
またこの際、保温機構3においては、バルブV9を降温機32側に開放して、降温機32によって熱媒体Hを5℃以下の凍結しない温度、好ましくは0〜4℃にすることにより、熱媒体Hと、槽本体10内に位置する冷却水W2との間で熱交換を行い、冷却水W2の温度を、雑菌や一般生菌が増殖することのない5℃以下に維持して、発芽種子S1の冷却を持続するものである。
以上のような操作が行われることにより、発芽種子S1の中心温度は25〜50℃から急速に5℃以下となるため、雑菌の繁殖を防ぐことができるとともに、発芽種子S1の内部で活性化しているアミノ酸分解酵素や酵母等の活性を抑えることができ、更に水分含有量の多い食品等を保管する際に発生し易いムレ臭を防ぐことができる。
【0049】
II. 〔発芽種子ペーストの製造〕
次いで図6に示すように、冷却水W2を槽本体10から排出するものであり、更にバルブV5を操作して冷却水W2を外部に排出する。
そしてバルブV12を操作して発芽種子S1を槽本体10から排出するとともに、搬送装置7によって発芽種子S1を磨砕機6に投入する。更にバルブV13を操作して、タンク4内に貯留されていた発芽用水W1を磨砕機6に投入し、発芽種子S1を発芽用水W1とともに磨砕することにより、発芽種子ペーストPAが得られるものである。
このようにして得られた発芽種子ペーストPAは、発芽用水W1に取り込まれていたGABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1(水溶性物質)が、余すことなく全て含まれたものとなる。
【0050】
III.〔発芽種子ペーストの活用〕
なお上述したようにして得られた発芽種子ペーストPAは、一例として以下のようにして食材として活用されるものである。
【0051】
まず、発芽種子ペーストPAをパン生地の素材として適用した場合には、GABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1が豊富に含まれたパンを製造することができるものである。
【0052】
また発芽種子ペーストPAを、おもゆ、おかゆ等のペースト状の介護食の素材として適用した場合には、GABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1が含まれるとともに、舌触りが滑らかな介護食を製造することができるものである。
【0053】
更にまた発芽種子ペーストPAを醗酵飲料の素材として適用した場合には、発芽種子ペーストPAの粒径は5〜30μm程と微細であるため、醗酵が良好且つ迅速に進行することとなり、独自の風味を有するとともに、GABA(γ−アミノ酪酸)やビタミンB1が豊富に含まれる醗酵飲料を製造することができる。
【符号の説明】
【0054】
D 発芽種子製造装置
D1 発芽種子ペースト製造装置
1 発芽槽
10 槽本体
11 ジャケット外体
11a ジャマ板
11b 流入管
11c 流出管
12 天板
12a 投入口
13 排出口
13a フランジ
14 回転軸
14a 支持杆
14b ブレード
15 減速機
16 散水管
M モータ
2 発芽用水循環装置
21 加熱器
22 空冷器
23 水冷器
23a チラー
24 温調器
25 フィルタ
26 水位センサ
27 水位センサ
3 保温機構
31 昇温機
32 降温機
4 タンク
5 制御盤
6 磨砕機
61 投入口
62 給液口
7 搬送装置
S0 種子
S1 発芽種子
W0 発芽用水
W1 発芽用水(浸出液)
W2 冷却水
PA 発芽種子ペースト
H 熱媒体
P1 ポンプ
P2 ポンプ
P3 ポンプ
P4 ポンプ
V1 バルブ
V7 バルブ
V10 バルブ
V11 バルブ
V12 バルブ
V13 バルブ
V2 三方弁
V3 三方弁
V4 三方弁
V5 三方弁
V6 三方弁
V8 三方弁
V9 三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽槽に種子と発芽用水を投入し、種子の発芽を促して発芽種子を製造する方法において、前記発芽用水を発芽槽と外部との間で循環させるものであり、発芽槽の外部に取り出された発芽用水を、加熱殺菌し、冷却し、更に種子の発芽に適した温度に調温した後、発芽槽に戻すことを特徴とする発芽種子製造方法。
【請求項2】
前記発芽槽の外部に取り出された発芽用水を、60〜90℃に加熱することにより殺菌処理することを特徴とする請求項1記載の発芽種子製造方法。
【請求項3】
前記発芽槽に戻される発芽用水の温度が25〜50℃となるようにすることを特徴とする請求項1または2記載の発芽種子製造方法。
【請求項4】
前記種子の発芽が所望の状態となった時点で、発芽槽から発芽用水を排出し、その後、発芽種子の中心温度を5℃以下に冷却することを特徴とする請求項1、2または3記載の発芽種子製造方法。
【請求項5】
前記種子として、穀物、菽穀、擬穀のうちのいずれか一種または複数が適用されることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の発芽種子製造方法。
【請求項6】
前記請求項1乃至5記載の方法によって得られた発芽種子を、同じく請求項1乃至5記載の方法に用いられた発芽用水とともに磨砕することにより、発芽用水に溶出した水溶性物質が含まれたペースト状物質とすることを特徴とする発芽種子ペーストの製造方法。
【請求項7】
発芽槽に種子と発芽用水を投入し、種子の発芽を促して発芽種子を製造する装置において、前記発芽用水を発芽槽と外部との間で循環させるための構成と、発芽槽の外部に取り出された発芽用水を加熱殺菌するための構成と、加熱殺菌された発芽用水を冷却するための構成と、冷却された発芽用水を種子の発芽に適した温度に調温するための構成とが具えられていることを特徴とする発芽種子製造装置。
【請求項8】
前記発芽槽における槽本体の外周部にはジャケットが具えられており、このジャケットと槽本体の外周部との間に形成される空間に、熱媒体が供給されるものであることを特徴とする請求項7記載の発芽種子製造装置。
【請求項9】
前記請求項7または8記載の発芽種子製造装置と、発芽種子を発芽用水とともに磨砕するための構成とが具えられてることを特徴とする発芽種子ペーストの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70667(P2013−70667A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212288(P2011−212288)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(591152425)株式会社いちまる (1)
【Fターム(参考)】