説明

発話識別方法及びこれを用いたパスワード照合装置

【課題】 発話者の発話の仕方に左右されずに発話内容の識別誤り率を低減できる発話識別方法及び発話入力されたパスワードの識別誤りを低減するパスワード照合装置を提供する。
【解決手段】 発話内容に対する唇の縦幅と横幅の変化パターンから異なる発話内容で変化パターンの類似性が高いものは同一グループ、異なる発話内容で変化パターンの類似性が低いものは別グループとし、発話内容をグループ分類に基づいて識別する。また、パスワード登録者の発話状態を撮像するカメラ2と、撮像画像から唇の縦幅と横幅の変化パターンを測定する画像処理部3と、画像処理部3の測定データとデータベース5の登録グループ分類データからパスワード登録者の発話したパスワードを認識する発話識別部4と、発話識別部4の認識結果と登録パスワードを照合する照合部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発話者の唇の動きから発話内容を識別する発話識別方法に関し、特に、発話内容の識別誤りを低減する発話識別方法に関する。また、本発明の発話識別方法を用いて発話状態から認識したパスワードと予め登録されたパスワードとを照合するパスワード照合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
唇の動きを利用して発話者の日本語発話内容を識別する従来方法として、次のような識別方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
従来方法では、図5に示すように、上唇の基準点をA1、下唇の基準点をA2、唇の左右の基準点をB1とB2、下顎の基準点をA3として唇の横幅W(B1〜B2)、縦幅H(A1〜A2)及び上唇から下顎までの距離HX(A1〜A3)を測定し、発話したときの横幅W、縦幅H及び距離HXの変化状態を算出することにより、発話内容を識別する。例えば、「あ」「い」と続けて発話する場合、「あ」と発話する場合の3つの変数を(W1,H1,HX1)、「い」と発話する場合の3つの変数を(W2,H2,HX2)とすると、2連続母音の発話パターンは、6つの変数(W1,H1,HX1)と(W2,H2,HX2)に関連付けされ、その変化状態を算出して「あ」「い」の連続発話パターンを識別する。
【非特許文献1】渡辺,「読唇による2連母音識別」,日本機械学会論文集C編,55巻,509号,1989年1月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した母音識別方法も含めて従来の発話識別方法は、「あ」、「い」や「1」、「2」等の各発話内容を全て異なるものとして取扱い、発話者の発話を識別する方法を取っている。
しかし、各発話内容を全て異なるものとして取扱って発話内容を識別する従来方法では、例えば5種類の母音の発話の仕方が安定して異なる発話者では発話内容の識別誤り率は低いが、5種類の母音の内のいくつかの発話の仕方が区別し難い発話者では発話内容の識別誤り率は高くなる。このように、従来方法では、識別の誤り率は各発話者の個人差に大きく依存するという問題がある。
【0004】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、各発話者の発話の仕方に影響されることなく識別誤り率を低減できる発話識別方法を提供することを目的とする。また、この発話識別方法を用いたパスワード照合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1の発明の発話識別方法は、発話者の各発話内容に対する少なくとも唇の縦幅と横幅の変化パターンに基づいて、異なる発話内容で前記変化パターンの類似性が高いものは同一グループとし、異なる発話内容で前記変化パターンの類似性が低いものは別グループとして各発話内容をグループに分類し、前記発話者個人の各発話内容を前記グループ分類に基づいて識別することを特徴とする。
【0006】
請求項1の発明において、請求項2のように、複数個の発話内容をそれぞれ一定回数づつ発話させ、前記複数個の各発話内容に関してそれぞれ一定回数の前記変化パターンを測定し、各発話内容毎に、前記測定データの内から任意の個数のデータを抽出してグループ分類作成用データとし、残りの測定データを評価用データとし、前記抽出した各グループ分類作成用データに基づいて算出した各発話内容の各統計的分布状態に基づいて各発話内容に関して他の発話内容との重なり率を算出し、該算出した重なり率と予め設定した閾値を比較して前記類似性を判定して各発話内容をグループ分けして前記グループ分類を作成し、作成したグループ分類に基づいて前記評価用データの識別を行い識別誤り率を算出し、算出した識別誤り率が予め設定した許容値以下の時に前記作成したグループ分類はOKとしてグループ分類を確定するようにするとよい。
【0007】
前記発話者の各発話内容は、請求項3のように、前記変化パターンにおける唇の縦幅と横幅の時間的な変化の少ない部分を用いて検出するようにするとよい。
請求項4のように、請求項3の発話内容は、数字である。
【0008】
また、請求項5の本発明のパスワード照合装置は、パスワード登録者が発話したパスワードの発話状態を検出する検出部と、該検出部の検出した発話状態から少なくとも唇の縦幅と横幅の変化パターンを測定する変化パターン測定部と、各パスワード登録者毎の各発話内容に関するグループ分類データを予め登録したデータベースと、前記変化パターン測定部の測定した変化パターンと前記データベースの登録データに基づいて、請求項1〜3のいずれかに記載の発話識別方法を用いて前記パスワード登録者の発話したパスワードを認識する発話識別部と、該発話識別部が認識したパスワードと予め登録されたパスワードを照合し、一致/不一致の判定出力を発生する照合部とを備えて構成した。
【0009】
かかる構成では、検出部がパスワード登録者の発話したパスワードの発話状態を検出すると、変化パターン測定部は、検出された発話状態から例えば唇の縦幅と横幅の変化パターンを測定する。発話識別部は、変化パターン測定部の測定した変化パターンとデータベースの登録データに基づいて本発明の発話識別方法を用いてパスワード登録者の発話したパスワードを認識する。照合部は、発話識別部が認識したパスワードと予め登録されたパスワードを照合して一致/不一致の判定する。
【0010】
請求項6のように、パスワード登録時に、パスワード登録者に関する前記データベースに登録するグループ分類データに基づいて、登録しようとするパスワードの一致確率を算出して当該登録しようとするパスワードの有効性を判定するようにするとよい。この場合、請求項7のように、前記算出した一致確率が所定の値より高い時は、一致確率が前記所定の値以下となるようパスワードの登録内容の変更を指示するようにするとよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明の発話識別方法によれば、唇の縦幅と横幅の変化パターンの類似性が高く識別し難い異なる発話内容は同一グループとして識別しないようにしたので、発話の仕方の個人差に影響されることなく発話内容の識別誤りを低減できる。
【0012】
また、本発明のパスワード照合装置によれば、パスワードの識別誤りを低減できるので、発話状態を検出して登録者の認識を行う認証装置の信頼性を向上できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る発話識別方法の一実施形態について説明する。
本発明の発話識別方法は、発話者個人の各発話内容(五十音や数字等)に対する少なくとも唇の縦幅Wと横幅Hの変化パターンに基づいて、異なる発話内容で変化パターンの類似性が高いものは同一グループとし、異なる発話内容で変化パターンの類似性が低いものは別グループとするように各発話内容をグループに分類する。そして、発話者の各発話内容をグループ分類で選択して識別するものである。尚、本発明における「発話」は、必ずしも音声を伴わなくともよいものとする。
【0014】
例えば、5つの数字「1」、「2」、「3」、「4」、「5」について、ある発話者は「1」、「2」、「3」、「4」、「5」を発話した時の唇の変化パターンが安定して異なり、別の発話者は「1」、「2」を発話した時の唇の変化パターンの類似性が高く識別し難く、他の「3」、「4」、「5」を発話した時の唇の変化パターンの類似性は低く識別し易いとする。この場合、ある発話者については、「1」〜「5」はそれぞれ別々のグループとする。また、別の発話者については「1」と「2」を同一グループとし、「3」〜「5」はそれぞれ別々のグループとする。そして、発話者の発話内容が分類したどのグループに属するかを判断して発話内容を識別する。
【0015】
例えばパスワードを「1234」としたとき、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」が別グループに分類された発話者の場合は、「1234」と発話したときにパスワード一致と判定される。また、「1」、「2」が同一グループで「3」、「4」、「5」が別グループに分類された発話者の場合は、「1」と「2」は同一グループで同じものとして扱い、「1234」、「2234」、「2134」、「1134」と発話した場合でも、「1」と「2」は識別せずパスワード一致と判定される。
【0016】
従って、本発明の発話識別方法によれば、各発話者に応じて発話内容をグループに分類し、識別困難な発話内容は同一グループとして無理に識別しないようにしたので、発話時の唇の変化パターンの個人差に影響されることなく発話内容の識別誤りを低減できる。
【0017】
次に、本発明の発話識別方法において所定の発話内容識別率を達成するグループの作成方法の一実施形態を、図1のフローチャートを参照して説明する。
ステップ1(図中S1で示し、以下同様とする)では、発話者にk通りの発話内容を各々M回発話させ、その時の唇の横幅Wと縦幅Hの変化パターンを測定して発話データとする。
ステップ2では、ステップ1で測定した発話データを登録する。
ステップ3では、後述の発話内容のグループ分類段階で使用する閾値として重なり率Pの初期値を設定する。この場合、重なり率Pの初期値は大きな値に設定し、類似性の高い異なる発話内容でも別グループに分類されるようにする。
【0018】
ステップ4では、ステップ2で登録したk通りの各発話内容の各M個の発話データから無作為にN個づつサンプリグしてグループ分類の作成用データとする。ここで、残りのN′(M−N)×k個の発話データは、作成したグループ分類の評価用データとする。
ステップ5では、ステップ4で抽出したk通りの各発話内容の各N個の発話データから各発話内容の統計的分布(確率密度)を算出し、各発話内容に関して他の発話内容との統計的分布間の重なり率Qを算出する。
【0019】
図2に統計的分布の例を示す。例えば統計的分布間の重なり率Qを算出する発話内容をA,Bとして、図のFA(x)は発話内容Aの統計的分布とし、FB(x)は発話内容Bの統計的分布とする。互いの分布が重なった部分のQab部分は発話内容Aが発話内容Bと誤って識別される確率を示し、他のQba部分は発話内容Bが発話内容Aと誤って識別される確率を示している。このQabとQbaを、重なり率Qとして算出する。
【0020】
ステップ6では、ステップ5で算出した重なり率Qとステップ2で設定した重なり率Pを比較し、比較結果に基づいてk通りの各発話内容についてグループ分けする。例えば、図2の例で説明すると、Qab、QbaとPとの大小関係で以下のようにグループ分けする。
(1)Qab>P、Qba>Pのとき、AとBは同一グループとする。
(2)Qab>P、Qba≦Pのとき、BはAと区別し、AはA又はBのいずれかとする。
(3)Qab≦P、Qba>Pのとき、AはBと区別し、BはA又はBのいずれかとする。
(4)Qab≦P、Qba≦Pのとき、AとBは別グループとする。
【0021】
ステップ7では、ステップ6で作成したグループ分類を用いて、(N′×k)個の評価用データを識別し、識別誤り率を算出する。
ステップ8では、ステップ7で得られた識別誤り率を予め設定した所望の識別誤り率の許容値と比較する。ステップ7で算出した識別誤り率が許容値以下であればステップ6で作成したグループ分類はOKとして、ステップ9に進み、ステップ1で測定したk通りの発話内容に関するグループ分類を確定する。一方、ステップ7で算出した識別誤り率が許容値より大きい場合は、ステップ10に進む。
【0022】
ステップ10では、識別誤り率が高かった発話内容について閾値である重なり率Pの設定値を小さくし、類似性の低い発話内容でも同一グループとなるよう、分類するグループ数が減少するようにして、ステップ4以下の処理を繰り返し実行する。このようにして、所望以下の識別誤り率となるようなグループ分類を設定する。
【0023】
以上のように本発明の発話識別方法は、各発話者毎に発話内容をグループに分類し、発話者個々に設定したグループ分類に基づいて各発話者の発話内容を識別するので、従来のように各発話内容を全て区別して識別しようとする方法に比較して、発話内容の識別誤り率を低減できる。言い換えれば、発話内容の識別率を高めることができる。
【0024】
次に、前記ステップ1の発話データを測定する際の、唇の横幅Wと縦幅Hの測定方法の一例について、数字発話の例で説明する。
ここでは発話内容が「0(ZERO)」の場合で説明する。
【0025】
図3は、「0(ZERO)」を発話した場合の、唇の縦幅Hと横幅Wの変化パターンを示す。図中のH(i)は縦幅の変化パターンを示し、W(i)は横幅の変化パターンを示し、D(i)は、縦幅の変化量と横幅の変化量を合せた変化量を示す。尚、i=1,2、・・・とする。ここで、前記H(i)は、発話前の閉唇時の値をH(0)とし、発話した時の測定値をH′(i)すると、H(i)=H′(i)−H(0)である。同様に、前記W(i)は、発話前の閉唇時の値をW(0)とし、発話した時の測定値をW′(i)すると、W(i)=W′(i)−W(0)である。変化量D(i)は、D(i)=((H′(i)−H(i−1))2+(W′(i)−W(i−1))21/2である。
【0026】
また、発話前の変化量が小さい部分(図中のa部分)は閉唇状態を示し、次の変化量が小さい部分(図中のb部分)は「0(ZERO)」を発話した時の「ZE」の「E」の発話状態を示し、次の変化量が小さい部分(図中のc部分)は発話「RO」の「O」の発話状態を示す。発話後の変化量が小さい部分(図中のd部分)は閉唇状態を示し、発話の完了を検出するためのものである。
【0027】
このように、例えば母音「A」、[I]、「U」、[E]、[O]と閉唇状態は、変化量D(i)が少なく発話時の変化パターンが安定している。従って、発話内容「ZERO」の「ZE」と「RO」の各発話データを測定する場合、変化量の少ないb部分とc部分を測定して、「ZE」と「RO」を検出して発話データとする。
【0028】
本実施形態のように、各発話内容を発話した時の唇の縦幅Hと横幅Wの測定データとして、例えば母音のような変化量の少ない部分を測定すれば、同じ発話内容に関する発話データのばらつきを低減でき、同一発話者の発話毎のばらつきによる識別誤りを低減できる。また、本実施形態では、唇の縦幅と横幅の変化パターンから発話内容を識別するので、唇周辺だけを含む画像でよく、従来のような下顎の位置も用いる識別方法に比べて識別に必要な画像範囲を狭くできる。このため、従来方法より必要な画像データ量を少なくできる利点がある。
【0029】
次に、本発明の発話識別方法を用いた本発明のパスワード照合装置について説明する。
図4は、本発明のパスワード照合装置の一実施形態を示す構成図である。
図4において、本実施形態のパスワード照合装置は、発話者の個人データを入力する入力部1と、発話者を撮像する撮像手段としてのカメラ2と、カメラ2の撮像した画像を処理する画像処理部3と、画像処理部3の画像処理データに基づいて発話内容を識別して入力パスワードを認識する発話識別部4と、予め登録された各発話者の発話登録データを収納するデータベース5と、予め登録された各発話者のパスワードを記憶するメモリ6と、発話識別部4で識別した入力パスワードとメモリ6に記憶された登録パスワードを照合する照合部7とを備えて構成される。
【0030】
前記入力部1は、予め登録した発話者の個人情報を認証時に入力するためのものである。
前記カメラ2は、認証を受けようとする発話者の顔画像を撮像して発話状態を検出するものであり、検出部に相当する。
前記画像処理部3は、カメラ2の撮像画像から唇周辺の画像を抽出し、唇の縦幅Hと横幅Wの変化パターンを測定する。従って、変化パターン測定部に相当する。
前記発話識別部4は、入力部1で入力された個人データに該当する登録データをデータベース5から読み出す。また、読み出した登録データと画像処理部3から入力された変化パターンデータとに基づいて、入力された発話内容を前述の発話識別方法を用いて識別して入力パスワードを認識する。
【0031】
前記データベース5は、登録時に前述のグループ分類設定方法に基づいて分類された各発話者毎のグループ分類データを登録データとして各発話者の個人データと対応付けて記憶する。
前記メモリ6は、予め登録された各発話者の登録パスワードを発話者の個人データと対応付けて記憶するものである。
前記照合部7は、入力部1で入力された個人データに該当する登録パスワードをメモリ6から読み出し、発話識別部4で認識された入力パスワードと照合し、一致/不一致の判定出力を発生する。
【0032】
次に、本実施形態のパスワード照合装置の動作を説明する。
認証を受けようとする発話者は、入力部1で予め登録してある個人データを入力し、カメラ2の前で自身の登録パスワードを発話する。カメラ2は、発話者を撮像し、撮像画像を画像処理部3に送信する。画像処理部3は、入力された画像から唇周辺の画像を抽出し、唇の動きから変化パターンを測定し、測定データを発話識別部4に送信する。発話識別部4は、入力部1から入力された個人データに基づいて認証を受けようとする発話者の発話識別用のグループ分類データをデータベース5から予め読み出しておく。画像処理部3から測定データが入力すると、読み出したグループ分類データに基づいて入力された発話内容を識別し、入力パスワードを認識し、当該認識した入力パスワードを照合部7に送信する。照合部7は、入力部1から入力された個人データに基づいて認証を受けようとする発話者の登録パスワードをメモリ6から予め読み出しておく。発話識別部4から入力パスワードが入力すると、読み出した登録パスワードと照合し、一致していれば認証OKの判定出力を発生し、不一致であれば認証拒否の判定出力を発生する。
【0033】
例えば、登録パスワードとして「1234」を予め登録してある発話者の発話内容の変化パターンが、「1」と「2」が同一グループであり、「3」、「4」は互いに別グループ且つ「1」と「2」のグループとも別グループに分類されているものとする。この場合、発話者が「1234」と発話したときに、発話識別部4が「1234」の他に「1134」、「2134」、「2234」と仮に識別したとしても、「1」と「2」が同一グループであるので照合部7に送信する入力パスワードとしては「(1又は2)(1又は2)34」として照合部7に入力し、一致と判定される。これにより、照合部7における一致判定の確率を高くできる。
【0034】
ところで、本発明のように、各発話内容における唇の動きの変化パターンの類似性の大小でグループ分類して発話内容を識別する方法の場合、各発話者の発話の仕方により、例えばパスワードとしての有効な情報量が異なる。同一グループに分類される発話内容の数が多い発話の仕方をする人は、パスワードとして有効な情報量が低減する。
【0035】
具体的に、例えば0〜9の数字で説明すると、{0}、{1,2}、{3}、{4}、{5}、{6}、{7}、{8}、{9}の9種類の数字発話が安定して異なる発話の仕方をする人と、{0,3,4,6}、{1,2}、{5,9}、{7}、{8}の5種類の数字発話が異なる発話の仕方をする人の場合を例とし、0000年01月01日〜9999年12月31日までの10000年間の年月日(3.65×106通り)をパスワードとして選択するものとし、例えば1989年10月25日の数字8桁の並び(19891025)をパスワードに選択したとする。前者の場合は、(19891025)、(19891015)(29891015)(29891025)の4通りが同一として認識され、一致する確率は4/(3.65×106)で約10-6である。一方、後者の場合は、2(年の千の位)×2(年の百の位)×1(年の十の位)×2(年の一の位)×1(月の十の位)×4(月の一の位)×2(日の十の位)×2(日の一の位)=128通りが同一として認識され、一致する確率は128/(3.65×106)で約3.5×10-5となる。即ち、前者の場合は、パスワードとしての有効な情報が9種類であるが、前者に比べてグループ分類数が少ない後者の場合は、パスワードとしての有効な情報は5種類に低減し、任意に入力された8桁の数字とパスワードが一致する確率が高くなる。
【0036】
従って、上述した本発明の発話識別方法を採用する図4に示すパスワード照合装置の場合、パスワード登録者の発話の仕方を測定して得られるグループ分類データに基づいて、パスワード登録時に登録しようとするパスワードの一致確率を算出してその有効性を判別することが望ましい。また、一致確率を算出した結果、一致確率が所望する所定の一致確率より高い場合には、登録パスワードが所定以下の一致確率となるよう登録しようとするパスワードの登録内容の変更を指示するようにすることが望ましい。
【0037】
例えば、0〜9の数字に関して前述したようにグループ分類数が9種類の人に比べて、グループ分類数が5種類の人は、10000年間の内の任意の年月日をパスワードとして登録する場合、任意に入力された8桁の数字とパスワードの一致確率が高くなってしまいパスワードの有効性が低い。このような場合、グループ分類数が5種類の人に対しては、パスワードの登録時に、パスワードの一致確率を低くするために、例えば、年月日に加えて社員番号、電話番号等の登録者の覚え易い数字を追加したパスワードを登録するように案内指示するようにする。こうすることにより、本発明のパスワード照合装置の信頼性を高めることができる。
【0038】
尚、上記実施形態では、発話時の唇の縦幅と横幅の変化パターンを用いて発話内容のグループ分類を行うようにしたが、唇の縦幅と横幅に加えて上唇から下顎までの距離も用いるようにしてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る発話識別方法のグループ分類確定方法の一実施形態を説明するフローチャート
【図2】統計的分布の例を示す図
【図3】数字発話時の唇の縦幅Hと横幅Wの変化パターンの一例を示す図
【図4】本発明に係るパスワード照合装置の一実施形態を示す構成図
【図5】従来の発話識別方法の説明図
【符号の説明】
【0040】
1 入力部
2 カメラ
3 画像処理部
4 発話識別部
5 データベース
6 メモリ
7 照合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発話者の各発話内容に対する少なくとも唇の縦幅と横幅の変化パターンに基づいて、異なる発話内容で前記変化パターンの類似性が高いものは同一グループとし、異なる発話内容で前記変化パターンの類似性が低いものは別グループとして各発話内容をグループに分類し、前記発話者個人の各発話内容を前記グループ分類に基づいて識別することを特徴とする発話識別方法。
【請求項2】
複数個の発話内容をそれぞれ一定回数づつ発話させ、前記複数個の各発話内容に関してそれぞれ一定回数の前記変化パターンを測定し、各発話内容毎に、前記測定データの内から任意の個数のデータを抽出してグループ分類作成用データとし、残りの測定データを評価用データとし、前記抽出した各グループ分類作成用データに基づいて算出した各発話内容の各統計的分布状態に基づいて各発話内容に関して他の発話内容との重なり率を算出し、該算出した重なり率と予め設定した閾値を比較して前記類似性を判定して各発話内容をグループ分けして前記グループ分類を作成し、作成したグループ分類に基づいて前記評価用データの識別を行い識別誤り率を算出し、算出した識別誤り率が予め設定した許容値以下の時に前記作成したグループ分類はOKとしてグループ分類を確定するようにした請求項1に記載の発話識別方法。
【請求項3】
前記発話者の各発話内容は、前記変化パターンにおける唇の縦幅と横幅の時間的な変化の少ない部分を用いて検出するようにした請求項1又は2に記載の発話識別方法。
【請求項4】
前記発話内容は、数字である請求項3に記載の発話識別方法。
【請求項5】
パスワード登録者が発話したパスワードの発話状態を検出する検出部と、
該検出部の検出した発話状態から少なくとも唇の縦幅と横幅の変化パターンを測定する変化パターン測定部と、
各パスワード登録者毎の各発話内容に関するグループ分類データを予め登録したデータベースと、
前記変化パターン測定部の測定した変化パターンと前記データベースの登録データに基づいて、請求項1〜3のいずれかに記載の発話識別方法を用いて前記パスワード登録者の発話したパスワードを認識する発話識別部と、
該発話識別部が認識したパスワードと予め登録されたパスワードを照合し、一致/不一致の判定出力を発生する照合部と、
を備えて構成したことを特徴とするパスワード照合装置。
【請求項6】
パスワード登録時に、パスワード登録者に関する前記データベースに登録するグループ分類データに基づいて、登録しようとするパスワードの一致確率を算出して当該登録しようとするパスワードの有効性を判定するようにした請求項5に記載のパスワード照合装置。
【請求項7】
前記算出した一致確率が所定の値より高い時は、一致確率が前記所定の値以下となるようパスワードの登録内容の変更を指示するようにした請求項6に記載のパスワード照合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−79456(P2006−79456A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264506(P2004−264506)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】