説明

発酵乳及びその製造方法

【課題】特別な原料や設備を新たに使用することなく、脂肪含量が低い撹拌型発酵乳の粘度を向上させて、保形性を向上させることができる発酵乳の製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、混合工程の後に混合原料(C)を殺菌する後殺菌工程と、後殺菌工程の後に混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程と、発酵後に冷却する工程と、冷却中または冷却後に撹拌する工程を備え、発酵原料(E)に含有される脂肪含量が3.0質量%以下であり、かつ発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌型の発酵乳及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、牛乳等の獣乳を原料とし、乳酸菌あるいは酵母またはその両者により発酵させたものである。撹拌型発酵乳(前発酵タイプの発酵乳、ソフトヨーグルトとも呼ばれる。)は、発酵原料を発酵させて得られたカードを撹拌して破砕して得られる発酵乳である。
近年、消費者の低脂肪志向から、発酵乳においても低脂肪化製品の需要が高まっている。しかし、発酵乳にあっては、脂肪含量が低いと保形性が弱く低粘度になりやすい。特に撹拌型発酵乳は低粘度化の影響を受けやすく、低粘度であると、保形性が不足しスプーンですくって食べる際に食べにくいだけでなく、コクが無い風味に感じられる傾向がある。
【0003】
従来、低脂肪の発酵乳においては、ゼラチン、スターチ、増粘多糖類等の安定剤を添加し、保形性を高めようとする試みが成されている(特許文献1、非特許文献1)。
しかし近年は、天然嗜好の高まりから、安定剤の添加量が少ないかまたは無添加のものが好まれる傾向にある。
【0004】
低脂肪の発酵乳の製造において、安定剤等を添加する方法によらずに保形性を高める方法として、例えば、特許文献2では、原料ミックス中の蛋白質含有量を高めることが提案されている。具体的には、透析濾過膜(Dia Filtration)や限外濾過膜(Ultra Filtration)による膜処理で分離濃縮した乳蛋白質濃縮物と、この膜処理の透過液(パーミエート)から乳糖を除去して得られる脱乳糖パーミエートを原料ミックスに混合する方法が記載されている。
また、特許文献3では、原料ミックスに水分散性セルロースを混合して発酵させることによって、発酵乳における保形性の向上や離水の防止を図る方法が提案されている。この方法において、乳酸菌を接種する前の原料混合物は、均質化処理が行われないか、または原料混合物全体に対して弱均質化処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3811631号公報
【特許文献2】特許第3755855号公報
【特許文献3】特許第4225482号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】曽根敏麿監訳、「発酵乳 ヨーグルト」、実業図書株式会社、1980年、第132−134頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の方法では、乳蛋白濃縮物とパーミエートを得るために膜処理が必要なため、コスト高を招く問題がある。
また、特許文献3の方法では、均質化処理を行わないか、または行っても弱均質化処理とすることが必要であるため、クリーム層の分離を生じる場合がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、特別な原料や設備を新たに使用することなく、脂肪含量が低い撹拌型発酵乳の粘度を向上させて、保形性を向上させることができる発酵乳の製造方法、および該製造方法で得られる発酵乳を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発酵原料を、脂肪分を含む原料と、脂肪分を含まない原料に、特定の割合で分け、脂肪分を含む原料のみ均質化処理を行い、脂肪分を含まない原料は均質化処理を行わないことで、低脂肪タイプの撹拌型発酵乳の粘度を増大させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[4]である。
[1]脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、混合工程の後に、混合原料(C)を殺菌する後殺菌工程と、後殺菌工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程と、発酵後に冷却する工程と、冷却中または冷却後に撹拌する工程を備え、発酵原料(E)に含有される脂肪含量が3.0質量%以下であり、かつ発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【0010】
[2]脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、混合工程に先立ち、均質化工程後の原料(A)と、原料(B)を、各々殺菌する前殺菌工程と、混合工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程と、発酵後に冷却する工程と、冷却中または冷却後に撹拌する工程を備え、発酵原料(E)に含有される脂肪含量が3.0質量%以下であり、かつ発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【0011】
[3]スターター(D)として乳酸菌スターターを用いる、[1]または[2]の発酵乳の製造方法。
[4][1]〜[3]の発酵乳の製造方法により製造された、発酵乳。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発酵乳の製造方法によれば、特別な原料や設備を新たに使用することなく、脂肪含量が低い撹拌型発酵乳の粘度を増大させて、保形性を向上させることができる。
本発明によれば、低脂肪でありながら、適度な粘度を有し、保形性が良好な撹拌型発酵乳が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示(質量%)である。
【0014】
[発酵乳]
本発明における発酵乳は、撹拌型発酵乳である。撹拌型発酵乳は、発酵原料をタンク等の中で予め発酵させ、得られたカードを撹拌して破砕し、該破砕物を飲食用の容器(小売り容器)等に充填して市販に供される発酵乳(ヨーグルト)である。フルーツ、香料等を含有してもよい。
【0015】
[発酵原料]
本発明では、発酵に供する全原料(発酵原料)を、脂肪分を含む原料(A)と、脂肪分を含まない原料(B)とスターター(D)に分け、脂肪分を含む原料(A)のみ均質化した後に原料(A)と原料(B)を混合して、混合原料(C)とする。混合原料(C)は脂肪分とスターターのほかに、少なくとも獣乳由来の蛋白質を含む。
そして、混合原料(C)にスターター(D)を加えて得られる発酵原料(E)を、発酵させる。
脂肪分を含む原料(A)とは、均質化処理を行わずに発酵させると、表面にクリーム層の分離を生じる原料をいう。また、脂肪分を含まない原料(B)とは、均質化処理を行わずに発酵させても、表面にクリーム層の分離を生じない原料をいう。
【0016】
脂肪分を含む原料(A)としては、生乳、部分脱脂乳、バター、植物性油脂、クリーム、クリーミングパウダーなどが挙げられる。
クリームは、生クリームであってもよく、植物油脂、乳化剤、安定剤などを用いて合成された合成クリームであってもよい。クリーミングパウダーは、生クリームを乾燥させたものでも、合成クリームを乾燥させたものでもよい。
脂肪分を含む原料(A)は2種以上の原料の混合物であってもよい。該混合物に用いる原料は、混合物全体を均質化処理を行わずに発酵させると、表面にクリーム層の分離を生じるようなものであればよい。したがって、脂肪分を含む原料(A)には、後述の脂肪分を含まない原料(B)に該当する原料が含まれていてもよい。
【0017】
特に、脂肪分を含む原料(A)が、バターやクリーム等の脂肪分を含む原料のほかに、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳等の無脂乳固形分を含む原料を含有すると、均質化工程において脂肪分の乳化が促進されるため好ましい。
脂肪分を含む原料(A)中の無脂乳固形分濃度は、5〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。該無脂乳固形分濃度が前記範囲の下限値以上であると、脂肪分の乳化を促進する効果が充分に得られやすい。前記範囲の上限値以下であると発酵乳の粘度向上効果が得られやすい。
なお、無脂乳固形分とは、乳由来の蛋白質、乳糖、およびミネラルの合計を意味する。
【0018】
脂肪分を含まない原料(B)には、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱脂粉乳溶解液等の無脂乳固形分を含む原料が含まれる。その他に、ショ糖、澱粉、デキストリンなどを含んでいてもよい。
脂肪分を含まない原料(B)が2種以上の原料の混合物である場合、該混合物に用いる原料は、混合物全体を均質化処理を行わずに発酵させても、表面にクリーム層の分離を生じないようなものであればよい。したがって、クリーム層の分離を引き起こさない程度の、若干の脂肪分を含んでいてもよい。
【0019】
発酵原料(E)に含有される蛋白質量は、原料(A)の蛋白質量と原料(B)の蛋白質量と、スターター(C)の蛋白質量の合計量に等しい。本発明において、該発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合、すなわち均質化された蛋白質の割合は50質量%以下であり、25質量%以下であることがより好ましい。また下限は2.5質量%以上であることが好ましい。
原料(A)由来の蛋白質量の割合が低いほど、発酵乳の粘度向上効果が得られやすい。一方、原料(A)由来の蛋白質量の割合が2.5質量%以上であると、脂肪分の良好な乳化状態が得られやすい。
【0020】
発酵原料(E)の脂肪含量は、原料(A)に含まれる脂肪量にほぼ等しく、原料(B)にも若干の脂肪分が含まれる場合には、それを含む合計量である。該発酵原料(E)の脂肪含量は3.0質量%以下である。該脂肪含量が3.0質量%を超える発酵乳は、もともと粘度が高く、本発明の効果が見込みにくい。
発酵原料(E)の脂肪含量の下限はゼロ超であればよいが、良好な風味が得られやすい点で、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましい。
特に、本発明による発酵乳の粘度上昇効果が良好に得られるとともに、良好な食感と風味が得られやすい発酵乳として、部分脱脂ヨーグルト(例えば脂肪含量が1.5〜3.0%)がより好ましい。
【0021】
発酵原料(E)の無脂乳固形分濃度は、特に限定されないが、8〜15質量%が好ましく、10〜13質量%がより好ましい。
発酵原料(E)は、寒天、ゼラチン、及びペクチンから選択される安定剤を含んでもよい。風味や食感をより向上させる点からは安定剤の使用量は少ない方が好ましい。例えば安定剤の使用量が少ないと、良好な口どけが得られやすい。例えば、発酵原料(E)中に含まれる安定剤の量(2種以上の場合は合計量)は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、ゼロが最も好ましい。
原料(A)が合成クリーム又は合成クリームを乾燥させたクリーミングパウダーを含む場合、合成クリームの合成に用いられる安定剤としては、寒天、ゼラチン、及びペクチンから選択される安定剤以外の安定剤、例えばレシチンを用いることが好ましい。
【0022】
[均質化工程]
均質化工程では、原料(A)のみを均質化する。原料(B)の均質化は行わない。
均質化は、予め原料(A)を加温し、当該加温した温度で行うことが好ましい。加温により、乳化を促進できる。
加温条件は、60〜85℃とすることが好ましい。
均質圧は、10〜20MPaとすることが好ましい。20MPa以下であれば、通常の高圧ホモゲナイザーを使用できる。また、10MPa以上であれば、原料(A)を充分に均質化できる。なお、超高圧ホモゲナイザーを使用し、20MPaを超える均質圧で均質化してもよい。
【0023】
[混合工程]
混合工程では、予め均質化した原料(A)と、均質化をしていない原料(B)とを混合し、混合原料(C)を得る。
混合工程は、後述の後殺菌工程前に行っても、前殺菌工程後に行ってもよい。
【0024】
[殺菌工程]
殺菌工程は、前殺菌工程でも後殺菌工程でもよい。
前殺菌工程は、混合工程に先立ち、予め均質化した原料(A)と、均質化をしていない原料(B)とを、各々別個に殺菌する工程である。後殺菌工程は、混合工程後に、混合原料(C)を殺菌する工程である。
前殺菌工程、後殺菌工程共に、プレート式殺菌機、チューブラー式殺菌機、直接加熱式殺菌機、ジャケット付きタンク等を用いることができる。殺菌条件は、85〜95℃で1〜15分間とすることが好ましい。
【0025】
[発酵工程]
発酵工程では、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる。発酵工程は、混合工程と殺菌工程(前殺菌工程または後殺菌工程)の双方が終了した後に行う。
スターター(D)としては、乳酸菌スターター、酵母が挙げられるが、乳酸菌スターターを用いることが好ましい。乳酸菌スターターとしては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等のヨーグルト製造に通常用いられている乳酸菌スターターが挙げられる。また、乳酸菌スターターを用いる場合、ビフィズス菌スターター、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)等を添加してもよい。また、市販の乳酸菌スターターも用いることができる。
【0026】
乳酸菌スターターを用いる場合、混合原料(C)を、35〜45℃に冷却してから、スターター(D)を添加する。スターター(D)の添加量は、混合原料(C)に対して0.4〜2.5質量%であることが好ましい。
発酵時は、当該スターター(D)の生育に好適な温度に保持する。好適な温度は、菌種によって異なるが、上記で例示した乳酸菌であれば、37〜40℃が好ましい。
pHが4.6〜4.7に達した時点で、15℃まで速やかに冷却して発酵を終了させる。
スターター(D)の添加から発酵終了までに要する時間(発酵時間)は、通常4〜6時間である。
【0027】
[撹拌工程]
発酵後の冷却中または冷却後に撹拌を行うことによって、撹拌型発酵乳が得られる。
すなわち、発酵はタンク中などで行い、タンク中などで凝固したカードを、冷却中または冷却後に撹拌して破砕する。撹拌は公知の方法で行うことができる。
こうして得られた破砕物を容器等に充填して製品形態とする。必要に応じてフルーツ、香料等を公知の方法で含有させてもよい。
【0028】
[粘度と官能特性]
本発明の製造方法によれば、特別な原料や設備を新たに使用することなく、脂肪含量が低い撹拌型発酵乳の粘度を向上させることができる。粘度が向上することにより保形性が向上する。また粘度が高いほどコクが感じられやすい。
すなわち、後述の実施例に示されるように、本発明の製造方法を用いると、発酵原料(E)の全部を一括的に均質化処理した場合に比べて、粘度が高く、組織が安定した撹拌型発酵乳が得られる。これは、発酵原料(E)に含まれる蛋白質の相当量を均質化しないことによって得られる効果であると考えられる。
すなわち、均質化処理は、クリーム層分離抑制のため必須の工程ではあるものの、蛋白質にとっては、必ずしも良い影響を与えていないと考えられる。つまり、均質化処理により蛋白質の構造が一部破壊されると、ネットワークが弱められ、これが粘度低下の原因になっているものと推測される。
また後述の実施例に示されるように、本発明の製造方法を用いることにより、撹拌型発酵乳のコク、滑らかさ、またはおいしさが向上する。
【実施例】
【0029】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
(1)発酵乳の調製
〔原料〕
以下の試験例で用いた原料は下記のとおりである。
クリーム:森永乳業株式会社にて、生乳を遠心分離して製造した生クリーム。脂肪含量45.5%、蛋白質含量1.6%、無脂乳固形分4.5%。
脱脂濃縮乳:森永乳業株式会社にて、生乳を遠心分離して脱脂乳を調製し、これを減圧濃縮して製造した脱脂濃縮乳。脂肪含量0.3%、蛋白質含量12.4%、無脂乳固形分34.6%。
脱脂粉乳:森永乳業株式会社にて、前記脱脂濃縮乳を噴霧乾燥して製造した脱脂粉乳。脂肪含量1.0%、蛋白質含量34.0%、無脂乳固形分95.2%。
スターター:ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)の混合培養物(乳酸菌スターター)。脂肪含量0.1%、蛋白質含量4.1%、無脂乳固形分10%。
【0030】
〔原料(A)の調製〕
表1に示す原料組成で、クリームと、脱脂粉乳を含み、残部が水である原料を混合して70℃まで加温し、均質圧15MPaで均質化処理を行った。均質化装置としては、三丸機械工業(株)製ホモジナイザーを用いた。その後、10℃以下(0℃超)まで冷却して、表1に示す各原料(A)(A−1〜A−4)を得た。
表1に、原料組成から計算した各原料(A)の脂肪含量、蛋白質含量、無脂乳固形分を併せて示す。
【0031】
【表1】

【0032】
〔発酵乳の製造〕
本発明の発酵乳の製造方法である下記の調製法Xにて、本発明の発酵乳を製造した。
(調製法X)
表2に示す配合割合で、表1の原料(A)、脱脂濃縮乳、水を混合し、無脂乳固形分10%の混合原料(C)を調製した。
これらの混合原料(C)を、90℃で10分間殺菌し、38℃まで冷却し、これにスターター(D)(乳酸菌スターター)を1.9%となるように添加して、発酵原料(E)を調製した。
この発酵原料(E)をステンレスバットに入れ、38℃でpHが4.7になるまで培養発酵した後、氷浴中で15℃まで速やかに冷却して発酵を終了させた。冷却の開始から終了まで、ステンレスバット内の発酵乳を撹拌した。
こうして得られた発酵乳を直径7cm(底5.5cm)高さ5.5cmの逆円錐台状の紙カップに100gずつ入れ、10℃の冷蔵庫にて冷却し、試験試料1〜8の発酵乳を製造した。
表2に、原料組成から計算した発酵原料(E)の脂肪含量、「均質化した蛋白質(%)」を併せて示す。調製法Xの場合の「均質化した蛋白質(%)」は、発酵原料(E)全体に含まれる蛋白質に占める、原料(A)由来の蛋白質の割合である。
例えば、試験試料3の蛋白質含量は、以下のようにして求めた値である。
発酵原料(E)100g中の原料(A)由来の蛋白質
=2.7×0.153=0.413g
発酵原料(E)100g中の脱脂濃縮乳由来の蛋白質
=12.4×0.25=3.1g
発酵原料(E)100g中のスターター由来の蛋白質
=4.1×0.019=0.078g
均質化した蛋白質(%)
={0.413/(0.413+3.1+0.078)}×100=11.5%
【0033】
【表2】

【0034】
一方、従来の、脂肪を含む原料と脂肪を含まない原料を分けずに均質化処理する方法である下記の調製法Yにて、対照試料となる発酵乳を製造した。
(調製法Y)
表3に示す配合割合で、クリーム、脱脂濃縮乳、水を混合して無脂乳固形分10%の混合原料(C)を調製した。
これらの混合原料を、70℃まで加温し、均質圧15MPaで均質化処理を行った。均質化装置としては、三丸機械工業(株)製ホモジナイザーを用いた。その後、90℃で10分間殺菌し、38℃まで冷却し、これにスターター(D)(乳酸菌スターター)を1.9%となるように添加して、発酵原料(E)を調製した。
この発酵原料(E)をステンレスバットに入れ、38℃でpHが4.7になるまで培養発酵した後、氷浴中で15℃まで速やかに冷却して発酵を終了させた。冷却の開始から終了まで、ステンレスバット内の発酵乳を撹拌した。
こうして得られた発酵乳を直径7cm(底5.5cm)高さ5.5cmの逆円錐台状の紙カップに100gずつ入れ、10℃の冷蔵庫にて冷却し、対照試料1〜4の発酵乳を製造した。
表3に、原料組成から計算した各発酵乳の脂肪含量、「均質化した蛋白質(%)」を併せて示す。調製法Yの場合の「均質化した蛋白質(%)」は、発酵原料全体に含まれる蛋白質に占める、混合原料由来の蛋白質(クリーム及び脱脂濃縮乳由来の蛋白質)の割合である。
例えば、対照試料2の蛋白質含量は、以下のようにして求めた値である。
発酵原料(E)100g中のクリーム由来の蛋白質
=1.6×0.031=0.05g
発酵原料(E)100g中の脱脂濃縮乳由来の蛋白質
=12.4×0.279=3.46g
発酵原料(E)100g中のスターター由来の蛋白質
=4.1×0.019=0.078g
均質化した蛋白質(%)
={(0.05+3.46)/(0.05+3.46+0.078)}×100
=97.8%
【0035】
【表3】

【0036】
(2)評価
[粘度]
撹拌後の発酵乳を紙カップに充填した後、10℃で20時間保管して粘度を安定させたものを粘度測定用の試料とした。該試料の粘度を、B型粘度計(東京計器社製)を使用し、4番ローターを用いて、60回転/分、試料温度10℃の条件によりそれぞれ3回ずつ測定して、平均値を算出した。
[官能評価]
撹拌後発酵乳を紙カップに充填した後、10℃で7日間保管して安定させたものを官能評価用の試料とした。該試料をパネル8人に試食してもらい、コク、滑らかさ、おいしさに関して、それぞれ下記の5段階(1点〜5点)の基準で評価点をつけた。
(評価点の基準)
「とても良い」:5点。
「良い」:4点。
「どちらでもない」:3点。
「悪い」:2点。
「とても悪い」:1点。
(判定の基準)
各試料について8人の評価点の平均点を算出し、該平均点に基づいて下記の5段階(A〜E)で判定した。
A(良好):平均点が4.5点以上。
B(やや良好):平均点が4.5点未満3.5点以上。
C(どちらでもない):平均点が3.5点未満2.5点以上。
D(やや不良):平均点が2.5点未満1.5点以上。
E(不良):平均点が1.5点未満。
【0037】
(3)試験結果
本試験の結果は表4に示すとおりである。表4から明らかなとおり、同じ脂肪含量である時、調製法Yを用いた対照試料に比べて、調製法Xを用いた試験試料の方が、粘度が高く、官能評価も向上した。また、調製法Xを用いた試験試料において、脂肪含量が同じ場合は、均質化した蛋白質の量(%)が少ない方が粘度が高く、官能評価も向上した。
脂肪含量が1.5%以上であると、試験試料においてA〜Cの良好な官能評価が得られる。特に脂肪含量が2.0%以上であると、対照試料における官能評価がCまたはDであるのに対して、試験試料ではAまたはBの官能評価が得られ、顕著な風味改善効果が発揮されることが判明した。
【0038】
【表4】

【0039】
[試験例2]
(1)発酵乳の調製
〔原料〕
原料は試験例1と同じものを用いた。
〔原料(A)の調製〕
表1に示す原料組成を表5のとおりに変更したほかは、試験例1と同様にして、表5に示す各原料(A)(A−11〜A−13)を得た。
【0040】
【表5】

【0041】
〔発酵乳の製造〕
表2、3に示す配合条件を、表6のとおりに変更したほかは、試験例1と同様の調製法Xまたは調製法Yにより、発酵乳を製造した。ただし、混合原料(C)の無脂乳固形分は11%とした。
(2)評価
試験例1と同様にして粘度を測定した。その結果を表6に示す。
【0042】
【表6】

【0043】
(3)試験結果
表6から明らかなとおり、均質化した蛋白質の量(%)が41.1%である試験試料11は、対照試料11と比べて粘度が顕著に上昇した。一方、均質化した蛋白質の量(%)が60.3%または81.4%である試験試料12または13の粘度は、対照試料11とあまり変わらず、粘度の向上効果が小さいことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、
混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、
混合工程の後に、混合原料(C)を殺菌する後殺菌工程と、
後殺菌工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程と、
発酵後に冷却する工程と、
冷却中または冷却後に撹拌する工程を備え、
発酵原料(E)に含有される脂肪含量が3.0質量%以下であり、かつ
発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項2】
脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、
混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、
混合工程に先立ち、均質化工程後の原料(A)と、原料(B)を、各々殺菌する前殺菌工程と、
混合工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程と、
発酵後に冷却する工程と、
冷却中または冷却後に撹拌する工程を備え、
発酵原料(E)に含有される脂肪含量が3.0質量%以下であり、かつ
発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項3】
スターター(D)として乳酸菌スターターを用いる、請求項1または2に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の発酵乳の製造方法により製造された、発酵乳。