発酵処理装置
【課題】培養液の酸化還元電位を培養対象微生物の至適範囲に制御しながら培養を行う電気培養発酵処理装置において、作用電極の数を増やしても複雑にならない装置を提供する。
【解決手段】発酵液1を貯める処理槽2と、処理槽2内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極3と、処理槽2内に設けられ、作用電極3の配列の中心に設けられた対電極4と、作用電極3と対電極4との間に電圧を印加する電源5を備えている、電気培養発酵処理装置。
【解決手段】発酵液1を貯める処理槽2と、処理槽2内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極3と、処理槽2内に設けられ、作用電極3の配列の中心に設けられた対電極4と、作用電極3と対電極4との間に電圧を印加する電源5を備えている、電気培養発酵処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の新たな培養技術として、発酵処理を行いながら微生物を電気培養する電気培養技術の研究が進められている。電気培養とは、培養液の酸化還元電位を培養対象たる微生物の至適範囲に制御しながら微生物の培養を行う手法である(特許文献1参照)。培養液の酸化還元電位を培養対象たる微生物の至適範囲に制御することによって、その微生物のみを選択的に活性化させて、増殖の促進や物質分解能等といった微生物の諸機能を向上させることができる。また、電気培養には、微生物により酸化された物質を還元したり、逆に還元された物質を酸化したりすることにより微生物に必要な物質を再生し続けながら培養を行う方法も含まれる(特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
電気培養手法を実施するための発酵処理装置の具体例として、例えば図7に示す電気培養装置が知られている(特許文献1参照)。図7に示す電気培養装置101は、イオン交換膜106によって仕切られた二つの槽(培養槽107と対電極槽108)と、作用電極109及び対電極110と、作用電極109と対電極110との間に電位差を与える電源112とを有し、培養槽107には酸化還元物質103を含む培養液104が収容されると共に作用電極109が培養液104に浸され、対電極槽108には電解液104aが収容されると共に対電極110が電解液104aに浸され、培養液104に培養対象たる微生物102が添加されて、電源112により作用電極109と対電極110との間に電位差が与えられながら微生物102が培養される。尚、図7に示す電気培養装置101では、培養液104に参照電極111が浸され、作用電極109、対電極110及び参照電極111は3電極式の電位制御装置であるポテンシオスタット112に結線され、培養槽107内の培養液104の酸化還元電位を厳密に設定可能としている。
【0004】
この電気培養装置101では、例えば板状の作用電極109と対電極110が1枚ずつ設けられており、これらは向かい合わせるように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−54646号公報
【特許文献2】特開2006−55134号公報
【特許文献3】特開2007−89580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の電気培養装置101では板状の作用電極109と対電極110とを1枚ずつ組にすると共に、2枚の電極109,110を平行に配置して使用するため、作用電極109の数を増やす場合には対電極110の数も増やすことになり、装置構成が複雑化してしまう。
【0007】
本発明は、作用電極の数を増やしても装置の構成が複雑化するのを抑制することができる発酵処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発酵処理装置は、発酵液を貯める処理槽と、処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えるものである。
【0009】
したがって、リング状に並べられた複数の作用電極と、作用電極のリング状の配列の中心に設けられた対電極との間に電圧が印加され、発酵液中の微生物が活性化されて発酵処理が行われる。この電極の配置では作用電極と対電極との間の距離は全ての作用電極について等しくなるので、処理槽内の電位勾配は全周にわたりほぼ等しくなる。中心の対電極は全ての作用電極と組になるので、作用電極の数を増やしても対電極の数を増やす必要はない。また、各作用電極を処理槽の内壁から離して配置することで、各作用電極の裏面も発酵液に接触させることができるので、反応を生じさせることができる面積が広範囲に確保される。
【0010】
また、請求項2記載の発酵処理装置は、電源は定電位設定装置であり、作用電極の配列と対電極の間に参照電極を設けると共に、参照電極を電源に接続したものである。したがって、作用電極の電位を3電極方式で制御することができる。
【0011】
また、請求項3記載の発酵処理装置は、処理槽に水素生成菌を含む発酵液を貯めると共に、処理槽の上方に処理槽で発生した水素ガスを回収する回収手段を設けたものである。したがって、処理槽内で水素ガスを含むガスが発生し、これを回収し分離することで水素ガスを製造することができる。
【0012】
また、請求項4記載の発酵処理装置は、作用電極を微生物を担持し得る疎水性の導電性担体とし、処理槽にメタン生成菌を含む発酵液を貯めると共に、イオン交換膜を少なくとも一部に備える対電極槽を設けて、この電極槽に電解液を貯めて対電極を電解液に接触させ、対電極槽を発酵液に浸して発酵液と電解液をイオン交換膜を介して接触させ、処理槽の上方に処理槽で発生したメタンガスを回収する回収手段を設けたものである。したがって、処理槽内でメタンガスを含むガスが発生し、これを回収し分離することでメタンガスを製造することができる。
【0013】
ここで、請求項4記載の発酵処理装置において、請求項5に記載のように、前記対電極槽の前記発酵液及び前記電解液と接する部分に開放部が設けられ、前記開放部には前記開放部を塞ぐ面の少なくとも一部に開口部が設けられた蓋体が着脱可能に取り付けられ、前記イオン交換膜が前記開放部を塞ぐように前記蓋体にて固定されているものとすることが好ましい。このように、対電極槽の開放部に着脱可能な蓋体でイオン交換膜を固定することにより対電極槽の開放部を塞ぐことで、メタン発酵処理の過程でイオン交換膜が劣化した場合に、これを簡単に交換することができる。
【0014】
また、請求項5記載の発酵処理装置において、請求項6に記載のように、蓋体の開口部が設けられた面に、開口部から蓋体の側面に向けて1又は2以上のスリットが形成されているものとすることが好ましい。この場合、メタン発酵処理の過程で蓋体の開口部に気泡が滞留することに起因する電位制御不良を防ぐことができる。
【0015】
さらに、請求項7記載の発酵処理装置は、請求項3記載の発酵処理装置と、請求項4〜6記載の発酵処理装置と、請求項3記載の発酵処理装置の処理槽内と請求項4〜6記載の発酵処理装置の処理槽内とを連通し、請求項3記載の発酵処理装置によって水素発酵処理された発酵液を請求項4〜6記載の発酵処理装置の処理槽内に移送する移送手段を備えるものである。したがって、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発酵処理装置では、作用電極の数を増やしても対電極の数を増やす必要がないので、作用電極の数を増やしても装置構成が複雑になるのを防止できる。また、作用電極をリング状に配置し、その中心に対電極を配置するので、作用電極と対電極との間の距離を全ての作用電極について等しくすることができる。そのため、処理槽内の電位勾配を全周にわたりほぼ等しくすることができ、処理槽内を広く有効に使用することができる。また、各作用電極を処理槽の壁から離して配置することで、各作用電極の対電極との対向面及び側面のみならず、裏面も発酵液に接触させることができるので、反応を生じさせることができる面積を広く確保することができる。
【0017】
また、請求項2記載の発酵処理装置では、作用電極の電位を3電極方式で制御することができ、電位制御を精確に行うことができる。
【0018】
また、請求項3記載の発酵処理装置では、処理槽内で水素ガスを含むガスが発生するので、これを回収し分離することで水素ガスを製造することができる。
【0019】
また、請求項4記載の発酵処理装置では、処理槽内でメタンガスを含むガスが発生するので、これを回収し分離することでメタンガスを製造することができる。
【0020】
さらに、請求項5記載の発酵処理装置では、着脱可能な蓋体により対電極槽の開放部にイオン交換膜を固定して塞ぐようにしているので、メタン発酵処理の過程でイオン交換膜が劣化した場合に、これを簡単に交換することができる。
【0021】
また、請求項6記載の発酵処理装置では、開口部に滞留する気泡を蓋体に備えられたスリットで逃がして、開口部に気泡が滞留するのを防ぐことができるので、メタン発酵処理の過程で蓋体の開口部に気泡が滞留することに起因する電位制御不良を防ぐことができる。
【0022】
さらに、請求項7記載の発酵処理装置では、前段の発酵処理装置(水素発酵装置)で水素発酵処理を行った発酵液をそのまま後段の発酵処理装置(メタン発酵装置)に移送してメタン発酵処理を行うことができるので、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理を続けて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の発酵処理装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同発酵処理装置の各電極等を外した状態の平面図である。
【図3】同発酵処理装置の概略構成図である。
【図4】本発明の発酵処理装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】同発酵処理装置の概略構成図である。
【図6】本発明の発酵処理装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】従来の発酵処理装置を示す断面図である。
【図8A】筒状隔壁にイオン交換膜を取り付ける前の状態を示す図である。
【図8B】筒状隔壁にイオン交換膜を取り付けた後の状態を示す図である。
【図9】比較例1において使用した実験装置を示す図である。
【図10】比較例1における有機物負荷量(OLR)、水理学的滞留時間(HRT)、及びガス生成速度の測定結果を示す図である。
【図11】実施例1における有機物負荷量(OLR)及び水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図12】実施例1におけるガス生成速度の測定結果を示す図である。
【図13】実施例1における低級脂肪酸濃度の測定結果を示す図である。
【図14】実施例1におけるガス組成分析結果を示す図である。
【図15】実施例1におけるCOD除去率とSS除去率の測定結果を示す図である。
【図16】参考例1で用いた装置の形態を示す断面図である。
【図17】参考例1における試験期間中の発酵液のpHの変動を示す図である。
【図18】参考例1における試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図19】参考例1における試験期間中の作用電極の電流値の経時変化を示す図である。
【図20】参考例2における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図21】参考例2における試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図22】参考例2における試験期間中の有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を示す図である。
【図23】参考例2における試験期間中の発酵液のpHの変動を示す図である。
【図24A】参考例2の試験1における有機物負荷量(OLR)に対する発酵液(作用電極槽側)のVFA濃度を示す図である。
【図24B】参考例2の試験2における発酵液の有機物負荷量(OLR)9780mg/l/日におけるVFA濃度を示す図である。
【図25】参考例2の試験1の結果から、水素回収率(γca)とエネルギー回収率(WH2)を計算した結果を示す図である。
【図26】参考例2において、作用電極の設定電位を−1.2Vとして試験1と同様の試験を行った場合の有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を示す図である。
【図27】参考例3における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図28】参考例3における試験期間中の有機物負荷量(OLR)に対するバイオガス生成速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
本発明の発酵処理装置は、発酵液1を貯める処理槽2と、処理槽2内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極3と、処理槽2内に設けられ、作用電極3の配列の中心に設けられた対電極4と、作用電極3と対電極4との間に電圧を印加する電源5を備えるものである。
【0026】
<第1の実施形態:水素発酵装置>
図1〜図3に、本発明の発酵処理装置の第1の実施形態を示す。本実施形態の発酵処理装置は水素発酵処理を行う水素発酵装置であり、処理槽2に水素生成菌を含む発酵液1を貯めると共に、処理槽2の上方に処理槽2で発生した水素ガスを回収する回収手段6を設けている。
【0027】
本実施形態では、有底の円筒形状を成す容器7内を処理槽2にしている。この形状の容器7を使用することで、複数の作用電極3をリング状に配置した場合に容器7の大きさを最小にできると共に、後述する撹拌翼34によって発酵液1を回転させて撹拌するのに都合が良い。容器7の容量は発酵液1の処理量に応じて適宜決定される。なお、必ずしも容器7の形状は有底円筒形状に限るものではない。容器7の上部開口は蓋8によって塞がれており、処理槽2内を密閉することができる。蓋8は複数の蝶ねじ9によって容器7に取り外し可能に取り付けられている。蓋8には1対の取っ手10が設けられている。発酵液1は所定の高さまで貯められており、発酵液1の上には発生したガスが溜まる上部空間11が設けられている。
【0028】
容器7及び蓋8の材質としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0029】
容器7の周壁7aの底部近傍には、処理後の発酵液1を排出する排出ポート12が設けられている。排出ポート12は例えば水平に向けて形成され、パイプ13が挿入されている。ただし、排出ポート12を必ずしも水平に向けて形成する必要はなく、例えば斜め下向きに形成しても良く、その他の向きでも良い。また、必ずしもパイプ13を挿入する必要はない。
【0030】
蓋8には対電極用孔8a、作用電極用孔8bが設けられている。また、これらの孔8a,8bの他に予備用の孔を設けることが好ましい。本実施形態では、蓋8の中央に対電極用孔8aを設け、対電極用孔8aのまわりに8つの孔を同一円周上に等間隔で設けている。そして、8つの孔のうちの1つを参照電極14用の孔8c、1つを回収手段6用の孔8d、1つを温度センサ15用の孔8e、1つを発酵液供給用の孔8fにしており、残りを予備用の孔8gにしている。予備用孔8gは例えばゴム製の栓16によって塞がれている。また、作用電極用孔8bは8つの孔8c〜8gのまわりに設けられている。本実施形態では、4本の作用電極用リード線17を処理槽2から引き出すので、4つの作用電極用孔8bを同一円周上に等間隔で設けている。各作用電極用孔8bは作用電極3のリング配列とほぼ同径になるように設けられている。
【0031】
作用電極3は例えば板状の電極であり、容器7の周壁7aとの間に間隔をあけて且つ上から見てリング状(円形状)に複数配置されている。ただし、作用電極3の形状は必ずしも板状に限るものではなく、棒状、網状等であっても良い。各作用電極3の間には隙間が設けられており、発酵液1を作用電極3の周囲に接触させることができる。本実施形態では作用電極3を8枚設けている。ただし、作用電極3の枚数は8枚に限るものではなく、処理槽2の大きさ、作用電極3の大きさ等に応じて適宜変更可能である。
【0032】
作用電極3として例えば炭素電極を使用することが好ましいが、必ずしも炭素電極に限るものではない。
【0033】
各作用電極3は発酵液1を撹拌しても移動しないように係止手段によって動き止めされている。本実施形態では上下2つの係止手段18,19を備えている。上側の係止手段18は作用電極3のリング配列とほぼ同径のワイヤリング20と、ワイヤリング20と作用電極3を接続する接続ワイヤ21より構成されている。ワイヤリング20は全部で1本だけ設けられており、接続ワイヤ21は作用電極3毎に1本ずつ設けられている。ワイヤリング20,接続ワイヤ21は例えば電気抵抗の低い金属等の導電体であり、ある程度の硬さを有しており、各作用電極3の上端のリング配列を維持することができる。つまり、上側の係止手段18は各作用電極3を電源5に接続する導電路であると共に、各作用電極3の上端のリング配列を維持する機能も有している。接続ワイヤ21の下端は鉤状に成形され、作用電極3の上部に設けられた孔に引っ掛けられて接続されている。接続ワイヤ21の上端はワイヤリング20に接続されている。ワイヤリング20には作用電極用リード線17が接続されている。作用電極用リード線17は蓋8に設けられた作用電極用孔8bから容器7の外に引き出されており、電源5に接続されている。本実施形態では、4本の作用電極用リード線17をワイヤリング20に接続しており、容器7の外に引き出された4本の作用電極用リード線17は1本にまとめられた後、電源5に接続されている。したがって、各作用電極3には作用電極用リード線17→1本のワイヤリング20→接続ワイヤ21を介して電源5から電位が付与される。ただし、必ずしも作用電極用リード線17の本数は4本に限るものではなく、各作用電極3に電圧を等しく印加できれば特に限定されない。
【0034】
下側の係止手段19は作用電極3のリング配列とほぼ同径の円周溝19aを有する環状部材(以下、環状部材19という)であり、処理槽2内に沈められている。各作用電極3の下端を円周溝19aに挿入することで、各作用電極3の下端は一定の間隔をあけてリング状に保持される。環状部材19は容器7の底板に固定されることが好ましいが、発酵液1を撹拌してもぐらつかない場合や、ぐらついたとしても問題にならない程度のぐらつきの場合には環状部材19を固定しなくても良い。環状部材19は例えばフッ素樹脂等の絶縁性の材料によって形成されている。
【0035】
対電極4は例えば線状電極である。ただし、必ずしも線状電極に限るものではなく、例えば棒状電極、板状電極等でも良い。対電極4は各作用電極3のリング配列の中心に1本設けられている。ただし、必ずしも1本に限る必要はなく、対電極4の表面積を増やしたい場合等には複数の対電極4を設けても良い。なお、対電極4を複数設ける場合には各作用電極3のリング配列の中心付近に各対電極4を集合させるように設けることが好ましい。
【0036】
本実施形態では対電極4の周囲を筒状隔壁22で覆っている。筒状隔壁22の下端は開口となっており、筒状隔壁22内には処理槽2内の発酵液1が浸入し、対電極4は発酵液1に浸漬されている。ただし、開口は筒状隔壁22の側面に設けてもよいし、本実施形態のように発酵処理装置を水素発酵装置として使用する場合には筒状隔壁22を省略しても良い。筒状隔壁22の材料としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0037】
筒状隔壁22の上端開口は例えばゴム製の栓部材23によって塞がれており、対電極4の上端はこの栓部材23に嵌め込まれて固定されている。対電極4に接続された対電極用リード線24は栓部材23から引き出されて電源5に接続されている。筒状隔壁22の上部は下部よりも細くなっており、この細い部分が蓋8の中心に設けられた対電極用孔8aに挿入されている。対電極用孔8aにはスリーブ25が嵌め込まれている。筒状隔壁22はスリーブ25の上端開口を塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入されて固定されている。
【0038】
本実施形態の発酵処理装置は作用電極3の配列と対電極4の間に参照電極14を有している。より具体的には、作用電極3の配列と筒状隔壁22との間に参照電極14を配置している。参照電極14は蓋8に設けられた参照電極用孔8cに挿入され、発酵液1に浸されている。参照電極用孔8cにはスリーブ26が取り付けられている。参照電極14はスリーブ26の上端開口を塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。参照電極14は作用電極3と対電極4の間に設けられている。本実施形態では、参照電極14を1本設け、1枚の作用電極3の近傍に配置している。ただし、参照電極14の数は1本に限るものではなく、複数本設けても良い。参照電極14のリード線27は電源5に接続されている。なお、参照電極14は必ずしも必要ではなく、参照電極14を使用しなくても作用電極3の電位を所望の値に制御可能な場合や作用電極3の電位の正確な制御が不要な場合等には参照電極14を省略しても良い。参照電極14を省略する場合には参照電極用孔8cは予備用の孔となり、栓によって塞がれる。
【0039】
電源5は、例えば定電位設定装置(ポテンシオスタット)である。作用電極3と対電極4と参照電極14は定電位設定装置に結線され、作用電極3の電位が3電極方式で制御される。電源5は、作用電極3の電位を発酵液1中で水素発酵が促進される電位に制御する。このように、3電極方式で作用電極3の電位を制御することで、作用電極3の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)5により、作用電極3と参照電極14との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極3と対電極4との間に電流を流し、基準となる参照電極14には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。ただし、電源5は必ずしも定電位設定装置に限るものではなく、参照電極14を使用しない場合には作用電極3と対電極4との間に電位差を与えることができる電源5を使用すれば良い。
【0040】
回収手段6は、処理槽2内に発生した水素ガスを貯める容器28と、処理槽2から容器28へと水素ガスを導くガス通路29を備えている。本実施形態では、ガス通路29をチューブによって形成している。ガス通路29は蓋8に設けられた回収手段用孔8dを塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。ガス通路29を形成するチューブの材質としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、ゴム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。本実施形態では、ガス通路29の途中に冷却器30を設けており、発生した水素ガスを冷却すると共に、発酵液1から蒸発した水分を凝縮させて処理槽2内に戻している。冷却器30としては、例えばリービッヒ冷却器の使用が可能である。ただし、冷却器30としては必ずしもリービッヒ冷却器に限るものではなく、その他の種類の冷却器を使用しても良い。また、冷却器30を設けなくても良い。この場合、蒸発した水分を別途処理槽2内に供給するようにしてもよい。ガス通路29の冷却器30よりも上流側の位置には開閉弁31が設けられている。開閉弁31を開けることで、処理槽2の上部空間11内の水素ガス等を回収する。
【0041】
本実施形態の発酵処理装置は発酵液1を撹拌する撹拌手段を備えている。本実施形態では、撹拌手段として発酵液1を水平方向に回転させる第1の撹拌手段32と、発酵液1を上下方向に撹拌させる第2の撹拌手段33を備えている。ただし、必ずしも第1の撹拌手段32と第2の撹拌手段33の両方を設ける必要なく、どちらか一方のみを設けても良い。また、撹拌手段32,33を設けなくても良い。
【0042】
第1の撹拌手段32は例えば撹拌装置である。撹拌装置は、例えば処理槽2内に沈められる撹拌翼34と、容器7の外から撹拌翼34を磁気吸着して回転させる回転駆動装置35より構成されている。処理槽2内の撹拌翼34を回転させることで、発酵液1を水平に回転させて撹拌することができる。撹拌翼34は例えば環状部材19の内側に配置された籠36内に設けられ、発酵液1の排出時に撹拌翼34が流されるのを防止されている。籠36は容器7の底板に固定されることが好ましいが、発酵液1を撹拌したり排出してもぐらつかない場合やぐらついたとしても問題にならない程度のぐらつきの場合には籠36を固定しなくても良い。また、撹拌翼34の流出が問題にならない場合等には籠36を設けなくても良い。容器7は回転駆動装置35の上に載せられている。
【0043】
第2の撹拌手段33は例えば発酵液1を循環させる循環装置である。この循環装置は、例えば処理槽2内から発酵液1を抜いて処理槽2内に戻す循環路37と、循環路37の途中に設けられたポンプ38より構成されている。容器7の周壁7aの底部近傍には流出ポート39が、発酵液1の液面より若干高い位置には流入ポート40がそれぞれ設けられている。流出ポート39は水平に向けて形成されている。ただし、流出ポート39を必ずしも水平に向けて形成する必要はなく、例えは斜め下方に向けて形成しても良く、その他の方向に向けて形成しても良い。また、流入ポート40は斜め上方に向けて形成されている。ただし、流入ポート40を必ずしも斜め上方に向けて形成する必要はなく、例えば水平に向けて形成しても良く、その他の方向に向けて形成しても良い。
【0044】
各ポート39,40にはパイプ41,42が挿入されている。流入ポート40のパイプ42の内側端は下向きに湾曲されている。循環路37の上流端は流出ポート39のパイプ41に、下流端は流入ポート40のパイプ42に接続されている。ポンプ38を作動させると、処理槽2の底部の発酵液1が流出ポート39から循環路37に吸い込まれ、流入ポート40から処理槽2内に戻される。このように処理槽2の底の部分から抜いた発酵液1を液面よりも高い位置から落下させて処理槽2内に戻すことで、発酵液1を上から下に向けて循環させて撹拌することができる。ただし、発酵液1を循環させる方向は上から下に限るものではなく、流出ポート39と流入ポート40を逆にすると共に流出ポート39を発酵液1の液面よりも低い位置に設け、発酵液1を下から上に向けて循環させて撹拌するようにしても良い。また、本実施形態は第2の撹拌手段33を1組設けているが、第2の撹拌手段33を複数組設けても良い。
【0045】
本実施形態の発酵処理装置は処理槽2内に発酵液1を入れる発酵液供給用孔8fを蓋8に設けており、蓋8を閉めた状態で発酵液供給用孔8fから発酵液1を供給することができる。ただし、必ずしも発酵液供給用孔8fは必要ではなく、例えば流入ポート40を利用して発酵液1を供給する場合や、蓋8を開けて容器7の上から直接発酵液1を供給する場合等には発酵液供給用孔8fを省略しても良い。
【0046】
本実施形態の発酵処理装置は発酵液1を加熱するヒータ43を備えている。ただし、発酵液1を加熱する必要が無い場合等にはヒータ43を省略しても良い。本実施形態ではヒータ43としてバンドヒータを設けている。バンドヒータ43は容器7の周壁7aの外面の発酵液1に対向する位置に設けられている。ただし、ヒータ43としてはバンドヒータに限るものではなく、発酵液1を加熱できるものであればその他の種類のヒータを使用しても良い。
【0047】
本実施形態の発酵処理装置は温度センサ15を備えている。温度センサ15のプローブ15aは蓋8に設けられた温度センサ用孔8eを塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。プローブ15aは発酵液1に浸されている。ただし、発酵液1の温度管理が不要な場合等には温度センサ15を省略しても良い。
【0048】
発酵液1の液面は、例えばバンドヒータ43よりも高く、且つ流入ポート40よりも低くなっている。この高さまで発酵液1が貯められることで、各電極3,4,14は発酵液1に十分に浸漬される。発酵液1には水素生成菌が含まれる。発酵液1としては、例えば有機性廃棄物があるがこれに限定されるものではない。また、発酵液1として、メタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水で希釈して調製したもの等を用いることもできる。メタン発酵液にも水素生成菌が含まれていることから、これの発酵液を用いることでも、水素生成菌を活性化させて、水素発酵を実施し得る。
【0049】
また、本実施形態では、pH検出手段51を備えている。pH検出手段51は、プローブ51a(図1の温度センサ15のプローブ15aの背後に存在)を例えば蓋8の予備用孔8gを利用して備えて処理槽2内に挿入して備えるようにしている。
【0050】
そして、蓋8の予備用孔8gの1つをpH調節用孔とし、処理槽2内の発酵液1が酸性側にシフトした場合にpH調節用孔から例えば水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して発酵液1のpHを調節するようにしても良い。
【0051】
具体的には、pH検出手段により検出された発酵液のpHはpH調整手段に送られ、pH調整手段では、pH検出手段により検出されたpHに基づいて発酵液にpH調整用孔を介してアルカリが添加され、発酵液のpHが水素発酵に適した値に維持される。また、処理槽2内の発酵液1がアルカリ性側にシフトした場合にpH調節用孔から酸性溶液を添加してpHを調節するようにしても良い。
【0052】
次に、発酵処理装置の作動について説明する。
【0053】
電源5によって作用電極3に電位が与えられると、発酵液1中の水素生成菌が活性化され、処理槽2内に水素を含んだガスが発生する。発生したガスは処理槽2の上部空間11に溜まり、回収手段6によって回収される。
【0054】
処理槽2内の発酵液1は、ヒータ43によって加熱され、発酵処理に適した温度に維持される。ヒータ43は温度センサ15によって検出された温度に基づいてオン・オフ操作され、発酵液1の温度を一定の温度範囲に保つ。
【0055】
また、処理槽2内の発酵液1は、pH検出手段により検出された発酵液のpHがpH調整手段に送られ、pH検出手段により検出されたpHに基づいて発酵液にpH調整用孔を介してアルカリが添加され、発酵液のpHが水素発酵に適した値に維持される。
【0056】
また、処理槽2内の発酵液1は第1の撹拌手段32と第2の撹拌手段33によって撹拌されている。そのため、発酵の進行が部分的になるのを防止され、全体として効率よく発酵を進行させることができる。
【0057】
処理後の発酵液1は排出ポート12から排出される。
【0058】
この発酵処理装置では、各作用電極3は対電極4を中心にリング状に配置されているので、作用電極3と対電極4との間の距離は全ての作用電極3についてほぼ等しくなる。そのため、処理槽2内の電位勾配は全周にわたりほぼ等しくなり、反応が生じる範囲が部分的になるのを防いで広い範囲で反応を進行させることができ、処理槽2内を広く有効に使用することができる。
【0059】
また、中心の対電極4は全ての作用電極3と組になるので、作用電極3の数を増やしても対電極4の数を増やす必要はなく、作用電極3を複数設けても装置が複雑になるのを防止することができる。また、作用電極3の表面積に対する装置の大きさを小さくすることができる。
【0060】
<第2の実施形態:メタン発酵装置>
次に、本発明の発酵処理装置の第2の実施形態について説明する。なお、上述の発酵処理装置と同一の部材又は対応する部材には同一の符号を付し、それらの説明を省略する(以下、同様。)。
【0061】
図4及び図5に、本実施形態の発酵処理装置を示す。この発酵処理装置はメタン発酵処理を行うメタン発酵装置であり、処理槽2にメタン生成菌を含む発酵液1を貯めると共に、
イオン交換膜46を少なくとも一部に備える対電極槽45を設けて、対電極槽45に電解液44を貯めて対電極4を電解液44に接触させ、対電極槽45を発酵液1に浸して発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させ、処理槽2の上方に処理槽2で発生したメタンガスを回収する回収手段6を設けている。
【0062】
つまり、図1の発酵処理装置(水素発酵装置)では、筒状隔壁22の底部を開放し、筒状隔壁22内に発酵液1を浸入させて対電極4に接触させるようにしているが、本実施形態の発酵処理装置(メタン発酵装置)では、筒状隔壁22の底部の開放部をイオン交換膜46で塞ぎ、筒状隔壁22内を対電極槽45にしている。この対電極槽45には、電解液44が貯められている。電解液44は、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含むものとすればよい。なお、通常、発酵液1にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液44として発酵液1を用いることも可能である。
【0063】
但し、イオン交換膜46を備える方法は、上記の形態には限定されない。即ち、イオン交換膜46は対電極槽たる管状隔壁22の少なくとも一部に備えられて、発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させることができればよく、管状隔壁22の側面の一部に開放部を設けて、この開放部をイオン交換膜46で塞ぐようにしてもよいし、管状隔壁22の全体をイオン交換膜46で形成してもよい。また、管状隔壁22の2以上の箇所に開放部を設けて、この複数の開放部をイオン交換膜46で塞ぐようにしてもよい。
【0064】
ここで、開放部には、図8Aに示すように、開放部22aを塞ぐ面の少なくとも一部に開口部50aが設けられた蓋体50が脱着可能に取り付けられ、イオン交換膜46が開放部22aを塞ぐように蓋体50にて固定されていることが好ましい。メタン発酵処理は複数種の微生物群や有機物が複雑に機能している系内にて行われ、メタン発酵処理の過程で硫化水素などのイオン交換膜46を腐食し得る成分が微量ではあるが発生する場合がある。したがって、イオン交換膜46が経時的に劣化することがある。そこで、このように開放部22aを塞ぐ面の少なくとも一部に開口部50aが設けられた蓋体50が脱着可能に取り付けられ、イオン交換膜46が開放部22aを塞ぐように蓋体50にて固定されているものとすることで、蓋体50を開放部から取り外すだけで、イオン交換膜46を簡単に取り外して新たなイオン交換膜と容易に交換することが可能となる。
【0065】
尚、図8A及び図8Bでは、筒状隔壁22の開放部22aと蓋体50との間に、筒状隔壁22側から順に、第一シール材52a、第二シール材52b、イオン交換膜46、第三シール材52c、第四シール材52dが備えられている。第一シール材52aはシリコーンゴム製パッキンである。第二シール材52bはプラスチック製の十字パッキンである。本実施形態では、第二シール材52bの筒状隔壁22側に管状の突出部が設けられており、この突出部が筒状隔壁22の開放部22に嵌合するようにしている。そして、第一シール材52aは第二シール材52bの鍔部に載せられる。これにより、蓋体50を筒状隔壁22に取り付ける際に、第一シール材52aをよじらせることなく、第一シール材52aを筒状隔壁22に密着させて固定することが可能となる。イオン交換膜46は第二シール材52bと第三シール材52cとの間に挟持される。第三シール材52cはプラスチック製の十字パッキンである。そして、蓋体50と第三シール材52cの間には第四シール材52dが備えられている。第四シール材はテフロン(登録商標)製のパッキンである。そして、本実施形態では、蓋体50がねじ蓋であり、蓋体50を筒状隔壁22の下端部のねじ山との螺合により締め付けることで、各シール材が押圧されてシールされる。尚、第四シール52dを備えることで、蓋体50を回転させて締め付ける際の摩擦が軽減される。したがって、イオン交換膜46をよじれさせることなく、第二シール材52bと第三シール際52cとの間に良好に介在させることができる。但し、イオン交換膜46の固定方法はこのような方法には限定されない。例えば、シール材をさらに多く用いてもよいし、3枚以下としてもよい。また、シール材を設けることなく、対電極槽内の電解液44を密閉できる場合には、必ずしもシール材を設けずともよい。また、蓋体50はねじ蓋で限定されるものではなく、例えば蓋体50の側面の内周に沿ってシール材を備えて、筒状隔壁22を蓋体50に嵌め込むようにしてもよい。また、蓋体50の開口部50aにイオン交換膜46を貼り付けて一体とし、イオン交換膜46が劣化したときに蓋体50ごと交換するようにしても構わない。また、図8A及び図8Bでは、筒状隔壁22の底部を開放して、開放部22aにイオン交換膜46を介して蓋体50を取り付けるようにしているが、開放部22aを筒状隔壁22の側面に設けて、側面の開放部22aにイオン交換膜46を介して蓋体50を取り付けるようにしてもよい。また、開放部22aを複数設けて、蓋体50によるイオン交換膜46の固定を複数箇所で実施しても構わない。
【0066】
ここで、図8に示すように、特に蓋体50を筒状隔壁22の底部の開放部22aに取り付ける場合には、蓋体50の開口部50aから蓋体50の側面に向けて1又は2以上のスリット50bが形成されていることが好ましい。メタン発酵処理においては、メタンガスを含むバイオガスが発生し、このガスが蓋体50の開口部50aに滞留して、作用電極3と対電極4との間での電流の流れを妨害し、電位制御不良が生じる場合がある。蓋体50にスリット50bを形成しておくことで、このスリット50bからバイオガスを逃がして開口部50aにおけるバイオガスの滞留を防ぎ、電位制御不良が生じることを防止することができる。
【0067】
尚、開口部50aにおけるバイオガスの滞留抑制手段は、上記構成には限定されない。例えば、開口部50aが設けられている蓋体50の面の厚みを薄くし、開口部50aの深さを、バイオガスの滞留が起こらない深さ(例えば3mm以下)とするようにしてもよい。
【0068】
また、蓋体50を取り外すことでイオン交換膜46を簡単に取り外せる構成とすることで、対電極槽と処理槽2を簡単に連通できる。したがって、メタン発酵処理装置として使用していた本発明の発酵処理装置を水素発酵処理装置として使用したくなったときには、イオン交換膜46を取り外して、水素発酵処理に移行させることが容易である。つまり、メタン発酵処理装置としての使用と水素発酵処理装置としての使用の切り換えを容易に行うことが可能である。
【0069】
メタンガスを回収する回収手段6としては、図1の水素ガスを回収する回収手段6と共通のものが使用される。
【0070】
発酵液1にはメタン生成菌が含まれる。発酵液1として、例えば有機性廃棄物がある。より具体的には、発酵液1は、メタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液1や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水で希釈して調製したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
電源5は、メタン発酵が促進される電位に作用電極3を制御する。また、処理槽2内の発酵液1はメタン発酵処理に適した温度に維持される。
【0072】
本実施形態の発酵処理装置では、電源5によって作用電極3に電位が与えられると、発酵液1中のメタン生成菌が活性化され、処理槽2内にメタンガスを含んだガスが発生する。発生したガスは処理槽2の上部空間11に溜まり、回収手段6によって回収される。
【0073】
本実施形態において、作用電極3としては、微生物を担持し得る疎水性の導電性担体、例えば炭素電極を使用することが好ましいが、必ずしも炭素電極に限るものではない。また、微生物を担持し得る疎水性の導電性担体としての作用電極3は、通電性が確保される範囲内で繊維状や多孔質体等の三次元構造として表面積を増大させ、微生物の担持量を増大することのできる形態としてもよい。また、作用電極3の表面の少なくとも一部、好ましくは全面に微生物を担持し得る疎水性担体、例えば炭素繊維、炭素粒状物等を設けることにより、作用電極3では導電性を確保しつつ、作用電極3の表面に微生物を担持させ得る領域を広く確保するようにしてもよい。微生物を担持し得る疎水性の担体としては、繊維や多孔質体等が挙げられ、具体的には炭素繊維が好適に用いることができるが、これに限定されず、ポリエチレン製やポリプロピレン製のものを用いることもできる。
【0074】
ここで、微生物を担持し得る疎水性の担体は、作用電極3と発酵液1との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができると共に、電極近傍の電位の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極3と発酵液1との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たす発酵液1の電位が制御されて担体の電位環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0075】
本実施形態においては、作用電極3はリング状に間隔をあけて並べられて配置され、且つ処理槽2の内壁から離して配置されている。したがって、対電極4と対向する作用電極3の表面のみならず、側面、裏面をも微生物を担持し得る領域として使用することができる。したがって、有機物負荷量を高めても、それに耐えうる安定且つ高効率なメタン発酵処理装置とできる。
【0076】
本実施形態の発酵処理装置(メタン発酵装置)は図1の発酵処理装置(水素発酵装置)と殆どの部品が共通しており、僅かな変更でメタン発酵装置としても水素発酵装置としても使用できる。即ち、本発明の発酵処理装置は汎用性に優れている。
【0077】
<第3の実施形態:水素発酵装置とメタン発酵装置の接続>
次に、本発明の発酵処理装置の第3の実施形態について説明する。図6に、本実施形態の発酵処理装置を示す。この発酵処理装置は、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理を行う二段階発酵処理装置であり、図1の発酵処理装置(水素発酵装置H)と、図4の発酵処理装置(メタン発酵装置M)と、水素発酵装置Hの処理槽2内とメタン発酵装置Mの処理槽2内とを連通し、水素発酵装置Hによって水素発酵処理された発酵液1をメタン発酵装置Mの処理槽2内に移送する移送手段47を備えるものである。
【0078】
移送手段47は、例えば水素発酵装置Hの排出ポート12とメタン発酵装置Mの発酵液供給用孔8fとを接続する流路である。本実施形態では、水素発酵装置Hをメタン発酵装置Mよりも高い位置に設け、重力を利用して発酵液1を流すようにしている。ただし、発酵液1を流す手段はこれに限るものではなく、例えば流路の途中にポンプを設けて強制的に流すようにしても良い。
【0079】
本実施形態では、流路の排出ポート12近傍と発酵液供給用孔8f近傍に開閉弁48,49を設けている。2つの開閉弁48,49を開くことで、水素発酵装置Hの処理槽2内の発酵液1が排出ポート12から流路内に流れ込み、流路を流れてメタン発酵装置Mの発酵液供給用孔8fから処理槽2内に供給される。
【0080】
水素発酵装置Hで水素発酵処理を行った発酵液1を移送手段47によってメタン発酵装置Mに移送することで、水素発酵処理とメタン発酵処理を続けて行うことができる。即ち、メタン発酵処理の前処理として水素発酵処理を行い、そのままメタン発酵処理を行うことができる。
【0081】
以下、水素発酵処理、メタン発酵処理、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理について詳細に説明する。
【0082】
(水素発酵処理)
まず最初に、水素発酵処理について説明する。水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階にて発酵処理を実施する場合には、この水素発酵処理方法は前段にて水素発酵装置Hを使用して実施される。
【0083】
水素発酵処理は、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液に電極(作用電極)を浸漬し、発酵液に有機性基質を投入すると共に電極(作用電極)の電位を制御して水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させるようにしている。
【0084】
水素発酵を行う微生物群を含む発酵液としては、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水または培養液等で希釈して調製したメタン発酵液を使用するのが好適であるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、有機性廃棄物等の水素発酵処理が行われている一般的な水素発酵槽中の水素発酵液や、水素発酵槽から採取した汚泥を水または培養液等で希釈して調製した水素発酵液、さらには水素発酵に関与する微生物群(例えばクロストリジウム属の微生物群等)を培養液等に添加した水素発酵液を用いることも可能である。また、メタン発酵槽から採取した汚泥を水等で希釈せずにそのまま用いることもできるし、水素発酵処理槽から採取した汚泥を水等で希釈せずにそのまま用いることもできる。水素発酵に使用する発酵液には、このような汚泥自体も含まれる。
【0085】
水素発酵処理方法において、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液としてメタン発酵液を用いた場合には、メタン発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させて、発酵液中において水素発酵反応を支配的に安定に進行させることができる。また、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液として水素発酵液を用いた場合には、水素発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群を活性化させて、発酵液中において水素発酵反応を安定に進行させることができる。
【0086】
発酵液に浸漬する電極(作用電極)としては、疎水性の電極を用いることが好適であり、特に炭素板等の炭素製電極を用いることが好適であるが、必ずしもこれらの電極に限定されるものではなく、水素発酵反応を阻害することのない各種電極を用いることができる。尚、従来より、水素を製造する一般的な技術として電気分解を利用した方法が周知であり、電気分解法においては電極として白金等の貴金属(触媒)電極を用いるのが一般的である。この水素発酵処理方法は電気分解法と同様に水素を製造できる技術でありながら、電極としては炭素板のような低コスト材料を用いることができ、この点においても従来の水素発酵処理方法と比較して極めて利点が大きい。また、炭素板のように微生物を担持し得る電極を用いると、電位制御初期段階で電極表面に微生物が付着して電極表面に電流が流れやすくなり、投入した電気エネルギーの損失を抑えて、水素発酵反応の優占化を促進する効果も期待できる。
【0087】
有機性基質としては、畜産廃棄物、生ごみ、廃水処理汚泥、各種バイオマス(例えば稲藁等の藁類)、紙ごみなどの有機性廃棄物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、単純に水素ガスを生成することを目的として水素生成菌群が利用しやすい有機性基質を発酵液に投入するようにしてもよい。尚、有機性廃棄物等の有機性基質は、その性状により、必要に応じて、破砕や分別などの前処理を適宜行ってから水素発酵処理に供することが好適である。ここで、本願発明者等の実験によれば、電極(作用電極)への通電によって、ドッグフードを含む模擬生ごみスラリーを有機性基質とした場合にも、水素発酵反応を優占的に安定して進行させることができたことから、電極(作用電極)への通電によって、様々な有機性基質を広範囲に利用して水素発酵を優占的に安定して進行させることができる効果も奏され得る。
【0088】
電極(作用電極)の電位制御は、水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させることができれば、電位制御方法は特に限定されるものではないが、発酵液に電極(以下、作用電極と呼ぶこともある)と共に作用電極と対を成す対電極を浸漬し、作用電極の電位A(単位:V)を制御することが好適である。そして作用電極の電位Aは、銀・塩化銀電極電位基準でA≦−1.0とすればよいが、−1.4<A≦−1.0とするのが好適であり、−1.3≦A≦−1.0とするのがより好適であり、−1.2≦A≦−1.0とするのがさらに好適である。この電位制御方法を採用した場合、A>−1.0とすると、水素発酵反応の優占化が起こらない。また、A≦−1.4とすると、投入する電力量が大きくなって水素製造効率が低下したり、発酵槽内に硫酸還元菌が優占化して水素が消費されたりする虞がある。また、作用電極を炭素製電極とした場合に関して言えば、水分解による水素生成が支配的になる。
【0089】
尚、水素発酵を行う微生物群の優占的な活性化とは、水素発酵を行う微生物群の増殖による機能の向上及び水素発酵を行う微生物自体の機能の向上のいずれか一方あるいは双方を意味している。
【0090】
ここで、この水素発酵処理においては、発酵液のpHを酸性側またはアルカリ性側に極端に偏らせ過ぎると、多くの微生物反応系と同様に、水素発酵反応が阻害される虞がある。したがって、発酵液のpHは微生物反応系における常識的なpH域に維持するのが好ましく、具体的には、発酵液のpHを5.5〜8に維持することが好適であり、pH6〜8程度に維持することがより好適である。尚、水素発酵反応が進行すると、発酵液中に水素発酵の生成物たる低級脂肪酸(乳酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸等)が溶け出して発酵液のpHが酸性側に偏る虞があるので、発酵液には水酸化ナトリウム等のpH調整剤を定期的にあるいは随意に添加して、pHを上記範囲に維持することが好ましい。また、このように発酵液のpHを上記範囲に維持することによって、後述する水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理方法において、メタン発酵処理槽に送液される発酵物(処理液)のpHを中性付近とできるので、メタン発酵液の酸性シフトによる後段のメタン発酵処理効率の低下を防ぐこともできる。
【0091】
この水素発酵処理方法によれば、有機性廃棄物等の有機性基質を原料として、水素を生成することができると共に、有機性廃棄物等の減容化も図ることができる。換言すれば、有機性廃棄物を水素に変換して回収することができる。したがって、有機性廃棄物に水素生成源としての付加価値を与えることのできる水素回収方法として活用し得る。
【0092】
容器7の温度(発酵液1の温度)は、4℃〜100℃未満とすればよいが、好適には40℃〜70℃、より好適には50℃〜60℃、さらに好適には55℃である。
【0093】
また、発酵液1のpHは、5.5〜8に維持することが好適であり、pH6〜8程度に維持することがより好適である。このように発酵液のpHを上記範囲に維持することによって、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理方法において、メタン発酵処理槽に送液される発酵物(処理液)のpHを中性付近とできるので、メタン発酵液の酸性シフトによる後段のメタン発酵処理効率の低下を防ぐこともできる。
【0094】
ここで、酸化還元物質を発酵液1に添加することで、発酵液1の溶液電位の制御性を高めて、発酵液1の溶液電位、特に作用電極3の近傍の溶液電位を作用電極3の電位に近づけ易くなる。これにより、水素発酵を行う微生物群(発酵液1としてメタン発酵液を用いた場合にはメタン発酵から水素発酵への移行(水素発酵を行う微生物群の優占化))が起こり易くなる場合がある。
【0095】
酸化還元物質としては、発酵液1に浸されている作用電極3と可逆的に酸化還元反応を生じ得る物質であり、且つ発酵液1に生息している微生物に対して毒性を呈しない物質を用いることができる。例えば、上記のように、土壌成分として一般的な鉄イオンが挙げられる。ここで、鉄イオンを発酵液中で安定に存在させるためには、鉄イオンをキレート剤に配位させて発酵液中に添加することが好ましい。キレート剤としては、鉄イオンを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができる。また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲンを用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。特に、キノン化合物は土壌成分の一つとして知られている物質であり、好ましい。つまり、土壌そのものを発酵液に添加することで、土壌に含まれている酸化還元物質により発酵液の酸化還元電位が制御できる場合がある。但し、酸化還元物質は上記した物質に限定されるものではない。
【0096】
尚、発酵液1として使用し得るメタン発酵液や水素発酵液には、通常、酸化還元物質が含まれていることが多いので、酸化還元物質3を別途添加することなく元々発酵液に含まれている酸化還元物質を利用するようにしてもよい。また、酸化還元物質3を添加せずとも水素発酵は優占的に安定して進行することが本発明者等の実験により確認されているので、酸化還元物質3を添加することは必須条件ではない。
【0097】
ここで、この水素発酵処理では、容器7の発酵液1の液面よりも上部の空間11(ヘッドスペース)に滞留する水素ガスを含むバイオガスを容器7の外へ導く回収手段6を備え、この回収手段6により、容器7の内部のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法には限定されない。回収手段6として、例えば、容器7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、容器7からバイオガスが漏れ出すことがない。また、バイオガスには二酸化炭素が混在しているので、回収手段6またはその後段に二酸化炭素を除去する手段を設けてもよい。具体的には、例えばバイオガスを水酸化ナトリウム溶液に通過させて二酸化炭素を水酸化ナトリウム溶液に溶解させて水素ガスのみを取り出すようにしてもよい。
【0098】
また、水素発酵装置では、容器7の発酵液1の液面よりも下部に、容器7内の発酵液1を容器7の外に導く排出ポート12を備え、この排出ポート12から発酵液1を採取(排出)するようにしている。但し、発酵液1の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、容器7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺して発酵液1を採取するようにしてもよい。
【0099】
さらに、発酵液1に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、容器7の外部から発酵液1に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、蓋8の予備用孔8gから物質導入管を容器7内に挿入するようにしても良い。この場合には、発酵液1に栄養源、中和剤、発酵汚泥等の物質を必要に応じて添加することができる。勿論、有機性廃棄物等の有機性基質をこの導入管から供給することもできる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできる。但し、発酵液1に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、回収手段6や各ポート12,39,40等を発酵液1に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで発酵液1に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0100】
また、筒状隔壁22の内側に発生したガスを容器7の外に排出する回収手段を設けても良い。
【0101】
また、この水素発酵方法は、作用電極3と対電極4との間にイオン交換膜を設けずに実施される。換言すれば、作用電極3と対電極4との間でイオン交換膜を介することなく、作用電極3と対電極4との間で直接イオン電流が流れるように実施される。これにより、発酵液中に棲息する水素発酵を行う微生物群を確実に優占化・活性化させて、水素発酵処理を確実且つ良好に進行させ得る。
【0102】
尚、図1の水素発酵装置は、作用電極3の表面全体を利用することができるので、炭素板のように微生物を担持し得る電極を用いると、電位制御初期段階で電極表面に微生物が付着して電極表面に電流が流れやすくなり、投入した電気エネルギーの損失を抑えて、水素発酵反応の優占化を促進する効果も期待できる。
【0103】
尚、筒状管壁22は、水素発酵処理においては省略しても構わないが、対電極を安定に保持する観点からは、筒状管壁22を備えておくことが好適であるし、また、筒状管壁22を備えておいても特に水素発酵処理においては不都合は生じない。また、筒状管壁22を備えておけば、筒状管壁22の開放部22aをイオン交換膜46を介して蓋体50で塞げばメタン発酵処理を実施できるという利便性も生まれる。
【0104】
この水素発酵処理方法により排出される発酵物(処理液)は、通常のメタン発酵槽、例えば炭素繊維等をメタン発酵液に充填した固定床式メタン発酵槽でメタン発酵処理するようにしてもよいが、以下に説明する通電を利用したメタン発酵処理方法を採用することによって、さらに効率よくメタン発酵処理を進行させることができ、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理を極めて効率よく進行させ得るものとなる。
【0105】
(メタン発酵処理)
次に、メタン発酵処理について説明する。水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階にて発酵処理を実施する場合には、このメタン発酵処理方法は後段にてメタン発酵装置Mを使用して実施される。
【0106】
具他的には、このメタン発酵処理方法は、作用電極3と対電極4と参照電極14とを定電位設定装置5に結線し、メタン発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させ、メタン発酵液1に作用電極3と共に参照電極14を接触させ、電解液44に対電極4を接触させ、作用電極3の電位を3電極方式で制御するようにして、作用電極3の電位を水の電気分解が生じることなく作用電極3にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御して行うようにしている。
【0107】
このメタン発酵処理では、処理槽2と対電極槽45とをイオン交換膜46によって仕切り、処理槽2にはメタン発酵液1が収容されると共に作用電極3と参照電極14が浸され、対電極槽45には電解液44が収容されると共に対電極4が浸され、作用電極3と対電極4と参照電極14は定電位設定装置5に結線され、作用電極3の電位を3電極方式で制御するようにしている。但し、作用電極3と対電極4の極間電圧のみで作用電極3の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0108】
通電を利用したメタン発酵処理は、メタン発酵液1に電極(作用電極3)を浸漬し、電極(作用電極3)の電位を制御してメタン発酵液1中のメタン生成菌群を優占的に活性化させることにより実施される。
【0109】
メタン発酵液1としては、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水または培養液で希釈して調製したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、メタン発酵槽から採取した汚泥そのものを用いてもよい。
【0110】
電解液44としては、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含む溶液等を用いることができる。尚、通常、メタン発酵液にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液44としてメタン発酵液1を用いることも可能である。
【0111】
作用電極3及び対電極4としては、例えば炭素板等の導電性材料を適宜使用することができる。対電極4では、作用電極3における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応が進行する。ここで、メタン発酵処理を行う場合には、作用電極3は、その表面の少なくとも一部に疎水性担体を備えた担体保持電極とすることが好ましい。疎水性担体としては、例えば、炭素繊維を用いることが好適であり、空隙率が25%〜98%の炭素繊維、好適には空隙率が50〜98%の炭素繊維、より好適には空隙率が98%の炭素繊維を使用することができるが、疎水性担体は炭素繊維に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン製やポリプロピレン製の繊維等の担体を用いてもよい。尚、炭素繊維は、高い空隙率の確保が容易であり、例えば炭素繊維不織布は、高い空隙率(98%)を確保し易く、しかも安価に入手でき、好適である。尚、本発明において用いられる担体保持電極は、電極表面の少なくとも一部に担体が備えられていれば良いが、電極表面の片面に備えられていることが好適であり、電極表面の全体に備えられていることが最も好適である。電極表面における担体保持面積を高めれば高める程、微生物を担持させやすくなる。担体を電極表面に備える方法としては、接着剤による接着や、担体を袋状や筒状にして電極に被せて覆う方法などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。ここで、微生物を担持し得る担体は、電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができると共に、電極近傍の電位の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たすメタン発酵液の電位が制御されて担体の電位環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0112】
メタン発酵液1には、有機性基質として有機性廃棄物が投入される。有機性廃棄物としては、畜産廃棄物、生ゴミ、廃水処理汚泥、稲藁や麦藁等の藁類、紙ごみ、各種バイオマス等などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、有機性廃棄物は、その性状により、必要に応じて、破砕や分別などの前処理を行ってからメタン発酵処理に供される。
【0113】
作用電極3の電位BをB<X(Xはメタン発酵液自体の酸化還元電位)とすることで、作用電極3上にて還元反応が生じ、メタン発酵に関与する微生物群に電子が与えられて活性化する。これにより、メタン発酵が促進される。したがって、作用電極3の電位BはXよりもマイナス側に大きくする分には、メタン発酵反応が促進され得ることになるが、作用電極3の電位Bの電位をマイナス側に大きくし過ぎると、水の電気分解が起こりやすくなり、メタン発酵を阻害する可能性がある。したがって、作用電極3の電位Bは、−1.4<B<−0.5とするのが好適であり、−1.2≦B≦−0.6とするのがより好適であり、−1.0≦B≦−0.6とするのがさらに好適であり、−1.0≦B≦−0.8とするのがなお好適であり、B=−0.8とするのが最も好適である。B≧−0.5では、作用電極3において還元反応が進行し難く、メタン発酵の促進が起こり難い。但し、B=+0.3では例外的にメタン発酵の促進が起こり得る。
【0114】
容器7の温度(メタン発酵液1の温度)は、メタン発酵液1に存在するメタン発酵を行う微生物群の至適温度に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば4℃〜100℃未満とすればよいが、好適には40℃〜70℃、より好適には50℃〜60℃、さらに好適には55℃である。
【0115】
ここで、このメタン発酵処理においては、イオン交換膜46を備えるようにしている。これにより、メタン発酵液1に存在する微生物を対電極槽45に移動(拡散)させることなく、処理層2側に留めることができる。したがって、対電極4の酸化反応に伴う微生物からの電子の引き抜きを防ぎながら、作用電極3から微生物へ電子を供給することができるので、本発明の効果をより得られ易くなる。さらには、対電極槽4に電解液を入れておくことで、対電極槽4による電子の引き抜き反応が電解液との間で完結するので、微生物からの電子の引き抜きが確実に防止される。
【0116】
また、イオン交換膜46を備えることで、作用電極3の電位を制御したときに、メタン発酵液1と電解液44との間でのイオン電流の流れが許容されるので、メタン発酵液1の電荷バランスを維持しながら、作用電極3の電位を制御し続けることができる。
【0117】
さらに、酸化還元物質をメタン発酵液1に添加することで、メタン発酵液1の溶液電位の制御性を高めて、メタン発酵液1の溶液電位を作用電極3の電位に近づけ易くなる。そして、イオン交換膜46を備えることで、メタン発酵液1に含まれている酸化還元物質の電解液44への透過を防ぐことができる。例えば、イオン交換膜46として、一価の陽イオンのみを透過する膜であるナフィオン膜を用いることで、酸化還元物質が鉄イオンである場合に、二価の鉄イオンや三価の鉄イオンはイオン交換膜46を透過しないことから、酸化還元物質を電解液44に透過させることなく、メタン発酵液1中に留まらせることができる。したがって、作用電極3の電位を制御すると、それに応じてメタン発酵液1中の酸化還元物質の酸化体と還元体の濃度比が変化し、作用電極3の電位によるメタン発酵液1の溶液電位の追随性が向上する。したがって、メタン発酵液1に存在する微生物を活性化させてその機能を向上させやすくなる。
【0118】
酸化還元物質としては、メタン発酵液1に浸されている作用電極3と可逆的に酸化還元反応を生じ得る物質であり、且つメタン発酵液1に生息している微生物に対して毒性を呈しない物質を用いることができる。例えば、上記のように、土壌成分として一般的な鉄イオンが挙げられる。ここで、鉄イオンをメタン発酵液中で安定に存在させるためには、鉄イオンをキレート剤に配位させてメタン発酵液中に添加することが好ましい。キレート剤としては、鉄イオンを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができる。また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲンを用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。特に、キノン化合物は土壌成分の一つとして知られている物質であり、好ましい。つまり、土壌そのものをメタン発酵液に添加することで、土壌に含まれている酸化還元物質によりメタン発酵液の酸化還元電位が制御できる場合がある。但し、酸化還元物質は上記した物質に限定されるものではない。
【0119】
尚、メタン発酵液1には、通常、酸化還元物質が含まれていることから、上記の酸化還元物質を添加せずともよい。特に、このメタン発酵処理方法では、少なくとも作用電極3の近傍のメタン発酵液1の溶液電位を制御できれば、作用電極3から微生物への電子の供給が生じてメタン発酵処理の促進効果が得られるので、酸化還元物質の添加は必須ではない。
【0120】
また、このメタン発酵処理では、処理槽2内のメタン発酵液1の液面よりも上部の空間11(ヘッドスペース)に滞留するメタンガスを含むバイオガスを処理槽2の外(処理装置の外)へ導く回収手段6を備え、この回収手段6により、処理槽2内のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法に限定されない。回収手段6として、例えば、処理槽2の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、処理槽2からバイオガスが漏れ出すことがない。
【0121】
さらに、メタン発酵装置では、処理槽2内のメタン発酵液1の液面よりも下部に、処理槽2内のメタン発酵液1を処理槽2の外に導く排出ポート12を備え、この排出ポート12からメタン発酵液1を採取(排出)するようにしている。但し、メタン発酵液1の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、処理槽2に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺してメタン発酵液1を採取するようにしてもよい。
【0122】
また、メタン発酵液1に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、処理槽2の外部からメタン発酵液1に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、蓋8の予備用孔8gから物質導入管を容器7内に挿入するようにしても良い。この場合には、メタン発酵液に栄養源、中和剤、メタン発酵汚泥等の物質を必要に応じて添加することができる。勿論、紙ごみをこの導入管から供給することもできる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできる。但し、メタン発酵液1に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、回収手段6や各ポート12,39,40等をメタン発酵液1に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んでメタン発酵液1に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0123】
尚、図1の水素発酵装置は、対電極4を発酵液1に浸漬するようにしているので、作用電極3の表面全体を使用することができる。したがって、作用電極3から微生物への電子の供給が行われやすくなり、メタン発酵処理が極めて安定且つ効率よく進行する。
【0124】
(二段階発酵処理)
【0125】
本発明の発酵処理装置(水素発酵装置Hとメタン発酵装置Mとの組み合わせ)を使用して、例えば以下の二段階発酵処理方法が実施される。
【0126】
前段の水素発酵処理は、メタン発酵処理と組み合わせて二段階発酵処理を行うのに好適な水素発酵処理である。水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせて二段階発酵処理を行うことにより、水素発酵に関与する微生物とメタン発酵に関与する微生物をそれぞれの処理槽で最適な条件で維持して、有機性廃棄物を迅速且つ高効率に処理することができる。
【0127】
ここで、水素発酵処理とは、嫌気性微生物が有機性基質を酸発酵する過程で同時に水素ガスを生成する働きを利用したものである。有機性基質として有機性廃棄物を用いれば、有機性廃棄物の処理を行いながらエネルギー源として水素ガスを回収することができる。
【0128】
後段のメタン発酵処理では、前端の水素発酵処理により得られる発酵物を原料としてメタン発酵処理するようにしている。
【0129】
水素発酵装置Hでの水素発酵により得られる発酵物は、移送手段47により、メタン発酵装置Mに移送される。水素発酵装置Hで水素発酵処理を行った発酵液1を移送手段47によってメタン発酵装置Mに移送することで、水素発酵処理とメタン発酵処理を続けて行うことができる。即ち、メタン発酵処理の前処理として水素発酵処理を行い、そのままメタン発酵処理を行うことができる。
【0130】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0131】
例えば、上述の実施形態では、複数の作用電極を、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにしていたが、処理槽の内壁面に接触させて配置させてもよい。この場合には、作用電極を処理槽の内壁面から離して配置した場合よりも使用できる作用電極の面積が減少することから、作用電極を処理槽の内壁面から離して配置した場合よりも処理能力が劣るものになるとは言え、従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。また、複数の作用電極を間隔を開けずに並べ、且つ処理槽の内壁面に接触させて配置させてもよい。この場合にも、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにした場合よりも使用できる作用電極の面積が減少することから、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにした場合よりも処理能力が劣るものになるとは言え、従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。
【0132】
また、複数の作用電極を設置するのではなく、作用電極をリング状に一体に形成し、これを処理槽内に配置してもよい。この際、この作用電極を処理槽の内壁に接触させて配置するようにしてもよいし、リング状に一体に形成された作用電極に1又は複数の発酵液の通液孔を設けるようにして、この作用電極を処理槽の内壁に接触させて、あるいは処理槽の内壁から離して配置するようにしてもよい。これらの場合にも従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。
【実施例】
【0133】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。 尚、実施例に記載した電位の値は、特にことわりのない限り、銀・塩化銀電極電位基準における電位の値を意味している。
【0134】
[比較例1]
対電極に対して一対の作用電極を有する実験装置を用いて、メタン発酵反応の促進効果について検討した。
<実験装置及び実験方法>
本比較例において使用した実験装置の断面図を図9に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(Duran製)のうちの一方をメタン発酵槽126aとし、他方を対電極槽126bとし、下部開口部において陽イオン交換膜(ナフィオンK、デュポン製)106を介して2つのバイアル瓶を接続し、H字型の容器126とした。また、メタン発酵槽126aには排出部152と供給部151を設けた。メタン発酵槽126aには蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極を通した際の密閉製を確保した。また、蓋の上面のシリコーンゴム栓に管133を通し、メタン発酵槽126aの発酵液104の液面の上部の空間(ヘッドスペース)のガスを管133の一端から排出して、管の他端に接続された袋134にガスを回収するようにした。
【0135】
対電極槽126bには、電解液104aを収容すると共に対電極110(7.5cm×2.5cm×0.2cmの板状炭素電極)を収容して電解液104aに浸した。対電極槽126bも蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、シリコーンゴム栓にガス排出管122を貫通させた。そして、対電極110と電位制御装置112を結線するための配線131をガス排出管122に通した。ガス排出管122は両端が開口されており、一端を対電極槽126bの内部に、他端を対電極槽126bの外側に配置するようにして、対電極槽126bで発生するガスが対電極槽126bの外側に排出されるようにした。
【0136】
作用電極109(7.5cm×2.5cm×0.2cmの板状炭素電極)は、メタン発酵槽126aに収容して発酵液104に浸し、作用電極109から電位制御装置112への配線はシリコーンゴム栓を通してメタン発酵槽126aの外側に引き出した。参照電極111(銀・塩化銀電極)はメタン発酵槽126aの外側からシリコーンゴム栓に差し込んで、発酵液104と接触させた。作用電極109と対電極110と参照電極111とを3電極式の電位制御装置(ポテンシオスタット)112に結線して、作用電極109の電位を制御した。作用電極109のメタン発酵液に対する電極面積は、132cm2/Lであった。
【0137】
メタン発酵槽126aに収容される初期の発酵液104は、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lおよびアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)を終濃度0.2mMになるように添加した模擬生ゴミ基質(100g/L)でメタン発酵(55℃)を行って集積した種汚泥とした。電解液104aの組成は、NaCl 5.844 g/lとした。
【0138】
実験中は発酵液4のpHを7.4〜7.9に維持し、温度は55℃に維持した。また、発酵液104と電解液104aは攪拌子で攪拌し続けた。
【0139】
本比較例では、図10に示す負荷(有機物負荷量OLR、水理学的滞留時間HRT)をかけながら運転を行った。尚、メタン発酵槽の運転はフィルアンドドロー方式でおこなった。つまり一定量の発酵液を廃棄し、同量の基質を添加する方式で運転を行った。基質には、ドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/l(10重量%)、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lおよびアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)0.2mMを含む模擬生ごみ基質を用いた。
【0140】
作用電極109の電位は、参照電極111である銀・塩化銀電極電位基準で、−0.8Vとして、メタン発酵処理を行った。
【0141】
メタン発酵槽からのガスの生成速度の経時変化を測定した結果を図10に示す。有機物負荷量が26.8g/l/日未満では、有機物負荷量の増加に伴い、ガス生成速度が増加し続ける傾向が見られた。この傾向は、作用電極109の電位を+0.3Vとした場合、及び作用電極109の電位を作用電極109にて還元反応が生じ得る電位とした場合(例えば−0.6V)とした場合にも同様に見られた。
【0142】
これに対し、有機物負荷量が26.8g/l/日以上になると、ガス生成速度が低下し、メタン発酵不良が起こっていることが明らかとなった。
【0143】
[実施例1]
図4に示す発酵装置を用いて、比較例1と同条件で実験を行った。
【0144】
イオン交換膜46は、以下のように取り付けた。即ち、図8A及び図8Bに示すように、筒状隔壁22の開放部22aと蓋体50との間に、筒状隔壁22側から順に、第一シール材52a、第二シール材52b、イオン交換膜46、第三シール材52c、第四シール材52dを備えるようにした。第一シール材52aはシリコーンゴム製パッキンとした。第二シール材52bはプラスチック製の十字パッキンとした。第二シール材52bの突出部を筒状隔壁22の開放部22に嵌合させ、第一シール材52aは第二シール材52bの鍔部に載せた。これにより、蓋体50を筒状隔壁22に取り付ける際に、第一シール材52aをよじらせることなく、第一シール材52aを筒状隔壁22に密着させて固定させた。イオン交換膜46は第二シール材52bと第三シール材52cとの間に挟持させた。第三シール材52cはプラスチック製の十字パッキンとした。第四シール材はテフロン(登録商標)製のパッキンとし、蓋体50を回転させて締め付ける際の摩擦が軽減させて、イオン交換膜46をよじれさせることなく、第二シール材52bと第三シール際52cとの間に良好に介在させた。蓋体50はねじ蓋とし、蓋体50を筒状隔壁22の下端部のねじ山との螺合により締め付けることで、各シール材を押圧してシールした。蓋体50の開口部50aの直径は30mmとし、幅10mmのスリット5bを等間隔に4つ形成した。
【0145】
処理槽2の大きさは4L容とし、比較例1と同じ発酵液を4L収容した。
【0146】
作用電極3は、18cm×3.5cm×0.6cmの板状炭素電極とし、これを処理槽2内にリング状に等間隔で8枚並べ、且つ処理槽2の内壁から離して配置した。作用電極109のメタン発酵液に対する電極面積は、444cm2/Lであった。つまり、実施例1におけるメタン発酵液に対する電極面積は、比較例1の3.4倍とした。
【0147】
筒状隔壁22はガラス製とし、対電極(電解液)収容部分は高さ160mm、φ40mmとした。対電極4は、1cm×0.5cm×18cmの棒状炭素電極とした。
【0148】
処理槽2から排出されたガスの組成分析は、ガスクロマトグラフィー(GC390B、GLサイエンス製)により行った。
【0149】
発酵液1の低級脂肪酸濃度分析は、分析方法:液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、装置名GL-7400)により行った。
【0150】
COD(化学的酸素要求量)の分析は、分析方法:日本工業規格(JIS) K 0102-20により行った。
【0151】
SS(浮遊固形分量)の分析は、分析方法:JIS K 0102-14.1により行った。
【0152】
本実施例では、図11に示す負荷(有機物負荷量OLR、水理学的滞留時間HRT)をかけながら運転を行った。
【0153】
ガス生成速度の分析結果を図12に示し、低級脂肪酸濃度の分析結果を図13に示し、ガス組成分析結果を図14に示し、CODとSSの除去速度を図15に示す。
【0154】
図12〜図15に示す分析結果から、有機物負荷量が33.5g/l/日においても、ガス生成速度:11L/日、ガス中のメタン含有率:60%、COD除去率:65%、SS除去率:50%を示し、比較例1よりも遥かに高い有機物負荷量においても、発酵不良に陥る傾向が見られなかった。
【0155】
このことから、本発明の発酵装置の有効性が示された。即ち、発酵液を貯める処理槽と、処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えることで、有機物負荷量を大幅に向上させて、メタン発酵処理を極めて安定且つ効率的に実施し得ることが明らかとなった。
【0156】
また、蓋体50にスリット50bを形成せずに実験を行った場合には、開口部50aに気泡が滞留することに起因する電位制御不良が複数回生じたが、蓋体50にスリット50bを形成した場合には、電位制御不良が全く生じなかった。このことから、蓋体50にスリット50bを形成することが、電位制御不良を生じさせることなく、メタン発酵を安定に進行させる上で好適であることが明らかとなった。
【0157】
[参考例1]
<実験装置>
本参考例において使用した実験装置の断面図を図16に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(SHOTT製)を下部開口部で連結してH字型の容器126とした。そして、ガラスバイアル瓶の一方を作用電極槽126aとし、他方を対電極槽126bとした。作用電極槽126aには、排出部151と供給部152を設けた。作用電極槽126aには蓋をし、蓋の上面にシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極を作用電極槽126aの外から内に貫通させた際の密閉性を確保した。また、蓋の条件のシリコーンゴム栓に管133を通し、作用電極槽126aに収容された液体の液面の上部の空間(ヘッドスペース)のガスを管133の一端から排出して、管133の他端に接続された袋134にガスを回収するようにした。
【0158】
作用電極槽126aと対電極槽126bには、板状炭素電極(2.5cm×7.5cm×0.2cm)をそれぞれ配置し、作用電極109及び対電極110とした。また、容器126には発酵液104を収容して、作用電極109及び対電極110と接触させた。
【0159】
対電極槽126bも蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、シリコーンゴム栓にガス排出管122を貫通させた。そして、対電極110と定電位設定装置112を結線するための配線131をガス排出管122に通した。ガス排出管122は両端が開口されており、一端を対電極槽126bの内部に、他端を対電極槽126bの外側に配置するようにして、対電極槽126bで発生するガスが対電極槽126bの外側に排出されるようにした。
【0160】
作用電極槽126aの作用電極109から定電位設定装置112への配線はシリコーンゴム栓を通して処理槽126aの外側に引き出した。参照電極111(銀・塩化銀電極、HS−205C、東亜ディーケーケー社製)は作用電極槽126aの外側からシリコーンゴム栓に差し込んで、発酵液104と接触させた。作用電極109と対電極110と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット、PS−08P、東方技研製)112に結線して、作用電極109の電位を制御した。
【0161】
<発酵液組成と運転方式>
発酵液104は、以下の組成を有する溶液250mLに、模擬生ゴミでメタン発酵(55℃)を行って集積した汚泥を2mL添加して準備した。容器126の内部は窒素充填した。尚、酵母エキスは和光純薬工業株式会社製のものを使用し、DSMZミディアム131微量元素溶液(以下、微量元素溶液と呼ぶ)及びDSMZミディアム141ビタミン溶液(以下、ビタミン溶液と呼ぶ)はDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen)製のものを使用した。実験中は発酵液104の温度を55℃とした。また、実験期間中は、攪拌子により発酵液104を攪拌し続けた。
(溶液の組成)
KH2PO4 : 0.8g/L
K2HPO4 : 1.6g/L
NH4Cl : 1g/L
NaHCO3 : 2g/L
MgCl2・6H2O: 0.1g/L
CaCl2・2H2O: 0.2g/L
NaCl : 0.8g/L
酵母エキス : 1g/L
微量元素溶液 : 10mL/L
ビタミン溶液 : 10mL/L
【0162】
また、発酵液104には、2,6−アントラキノンジスルホン酸(2,6-anthraquinone disulfonate :AQDS)を0.2mMとなるように添加した。
【0163】
さらに、発酵液104には、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.8に調整した。
【0164】
運転方式はフィルアンドドロー方式とした。つまり一定量の発酵液104を廃棄し、同量の基質を添加する方式で運転を行った。基質には、上記組成の溶液にドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/L(10重量%)混濁させた模擬生ごみ基質を用いた。
【0165】
容器126には、上記組成の発酵液104を500mL収容して実験を行った。
【0166】
<分析方法>
生成ガス中の組成(メタン、水素、二酸化炭素)は、熱伝導率検出器と活性炭充填ステンレス鋼カラムを備えたガスクロマトグラフィー(GC390B、GLサイエンス製)により測定した。
【0167】
VFA(揮発性(低級)脂肪酸)の分析は、液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、GL-7400)により実施した。
【0168】
COD(化学的酸素要求量)の分析は、JIS K 0102-20により行った。
【0169】
<試験条件>
作用電極109の設定電位を−1.0Vにして14日間試験を行った。試験期間の有機物負荷量(OLR)は、8日目までは2445mg/L/日とし、その後は4890mg/L/日とした。水理学的滞留時間(HRT)は、8日目までは50日とし、その後は25日とした。
【0170】
<試験結果>
(1)pH
試験期間中のpHの変動結果を図17に示す。pHの変動は7.8〜6.6の間でしか見られず、試験期間中はpHが中性領域に維持されていることが確認された。
【0171】
(2)バイオガス生成速度とバイオガス組成
試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を図18に示す。試験開始から8日目までの間で徐々にバイオガス生成速度が低下し、その後、最終日までは徐々にバイオガス生成速度が上昇する傾向が見られた。
【0172】
また、4日目と最終日のバイオガス組成を分析したところ、以下の通り、4日目では全く生成されていなかった水素ガスが、最終日には多量に生成され、逆に4日目では多量に生成されていたメタンガスが最終日には殆ど生成されていないことが明らかとなった。
(4日目のガス組成)
・H2 : 0vol%
・CH4 : 52.27vol%
・CO2 : 47.73vol%
(最終日のガス組成)
・H2 : 35.20vol%
・CH4 : 1.40vol%
・CO2 : 63.39vol%
【0173】
ここで、上記の通り、試験期間中のpHは中性領域内で変動していたことから、通常はメタン発酵によるメタン生成が見られるはずである。しかしながら、最終日にはメタン生成が殆ど見られなかったことから、メタン発酵は殆ど停止しているものと考えられた。これに対し、最終日には、メタンのかわりに水素の生成がみられたことから、水素発酵が優占的に起こっている可能性が示唆された。
【0174】
また、バイオガス生成速度は、試験開始から8日目までの間で徐々に低下し、その後、最終日までは徐々に上昇したことから、試験開始から8日目までの間で徐々にメタン発酵が停止していき、その後最終日までは水素発酵が起こって徐々にバイオガス生成速度が上昇したものと考えられた。
【0175】
(3)作用電極9の電流値
作用電極109の電流値の経時変化を図19に示す。7〜8日目を境に、電流値(絶対値)が徐々に増加することが明らかとなった。
【0176】
尚、14日目の水素変換効率を、図19に示される電流値に基づきファラデーの法則を利用して計算した。具体的には、1モルの水素を発生させるためにはファラデー定数の2倍の電気量が必要であり、全ての電流が水素生成に使用されたと仮定して理論的水素発生量を計算した。そして、理論的水素発生量に対する実際の水素発生量を水素変換効率とした。その結果、水素変換効率は87.6%となった。
【0177】
(4)COD除去速度とCOD除去率
8日目から14日目について、COD除去速度とCOD除去率を求めた。
【0178】
COD除去速度は以下の式(1)により求めた。
X=(d/250)[S−C0−(Cn−C0)/{1−(1−d/250)n}]・・・・(1)
ここで、Xは1日当たりのCOD除去速度(mgCOD/L/日)であり、dはメタン発酵液の交換量であり、Sは基質のCOD(mg/L)である。また、C0は0日目のCOD(mg/L)であり、Cnはn日目のCOD(mg/L)である。
【0179】
式(1)について詳細に説明する。まず、1日目のCOD(C1)と2日目のCOD(C2)とn日目のCOD(Cn)とn+1日目のCOD(Cn+1)は、CODの除去速度が一定であると仮定すると、以下の様に表すことができる。尚、X×1は、1日で除去されるCOD(mg/L)を意味している。
C1=(1−d/250)C0+(d/250)S−X×1 ・・・・(2)
C2=(1−d/250)C1+(d/250)S−X×1 ・・・・(3)
Cn=(1−d/250)Cn−1+(d/250)S−X×1 ・・・・(4)
Cn+1=(1−d/250)Cn+(d/250)S−X×1 ・・・・(5)
【0180】
(5)式から(4)式を引くと、以下の式が得られる。
Cn+1−Cn=(1−d/250)(Cn−Cn−1)・・・・(6)
【0181】
ここで、式(6)は、以下の式に変形することができる。
Cn+1−Cn=(1−d/250)n(C1−C0)・・・・(7)
【0182】
したがって、n=n−1、n−2、・・・1、0の場合の式(7)は、以下の様に表される。
Cn−Cn−1=(1−d/250)n−1(C1−C0)・・・・(8)
Cn−1−Cn−2=(1−d/250)n−2(C1−C0)・・・・(9)
C2−C1=(1−d/250)(C1−C0)・・・・(10)
C1−C0=(1−d/250)0(C1−C0)・・・・(11)
【0183】
よって、式(7)について、n=n−1、n−2、・・・1、0として総和をとると、以下の式が導かれる。
Cn−C0={(1−d/250)n−1+(1−d/250)n−2+・・・・+(1−d/250)+1}(C1−C0)・・・・(12)
【0184】
そして、式(12)に式(2)を代入し、C1を消去して整理することで、式(1)が導かれる。
【0185】
本参考例では、8日目のメタン発酵液のCODが32200mg/Lであった。また14日目のメタン発酵液のCODが49100mg/Lであった。また、基質CODは122250mg/Lであった。そして、8日目からはメタン発酵液を10mL取り出して新たに基質を10mL添加した。したがって、S=122250、d=10、Cn=49100、C0=32200としてCOD除去速度Xを計算すると、X=882(mg/L/日)となった。
【0186】
ここで、1日の有機物負荷量が4890mg/L/日であるから、計算したXの値をこの値で割ってCOD除去率を計算した。その結果、COD除去率は18%であった。
【0187】
この計算結果から、8日目から14日目までにおいて、基質由来のCODが確実に除去されていることが明らかとなった。
【0188】
(5)VFA濃度
14日目にメタン発酵液のVFA濃度を測定した結果、酢酸82mM、プロピオン酸9mM、酪酸25mMであり、VFA濃度は115mMであることが明らかとなった。これをCODに換算すると、10961mg/Lとなる。14日目のメタン発酵液のCODは49100mg/Lであったことから、基質の多くがVFAとして残存していると考えられた。尚、4日目にメタン発酵液のVFA濃度を測定した結果、酢酸47mM、プロピオン酸3.3mM、酪酸3.6mMであり、VFA濃度は54mMであった。
【0189】
(6)まとめ
以上、8日目から14日目までにおいて、基質由来のCODが確実に除去されていると共に、VFAの蓄積(特に水素発酵における主要代謝産物である酢酸と酪酸の蓄積)も見られたことから、水素発酵によって基質由来のCODが除去された結果として水素が生成されているものと考えられた。尚、4日目においては、水素が生成されなかったことから、本参考例で印加した電圧では水の電気分解はほとんど起こらず、投入した電気エネルギーが水素発酵を促進する結果として水素生成が生じたものと考えられた。
【0190】
[参考例2]
参考例1の実験結果に基づき、さらに詳細な検討を行った。
【0191】
<実験装置>
基本構成は参考例1と同様の実験装置とした。但し、対電極槽126bで発生するガスを袋で回収して、作用電極槽126aからのガス(カソードガス)と対電極槽126bからのガス(アノードガス)の双方を回収して分析に供した。
【0192】
<発酵液組成と運転方式>
発酵液104は、模擬生ゴミでメタン発酵(55℃)を行って集積した汚泥を500mL収容して使用した。容器126の内部は窒素充填した。酸化還元物質として機能するAQDSは本参考例では使用しなかった。また、水酸化ナトリウム(5N)を添加して、発酵液104の初期pHを7.2に調整した。
【0193】
運転方式は、参考例1と同様とした。但し、基質には、以下の組成の溶液にドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/L(10重量%)混濁させた模擬生ごみ基質を用いた。
(溶液の組成)
KH2PO4 : 1.1g/L
K2HPO4 : 1.7g/L
NiCl2・6H2O: 0.004g/L
CoCl2・6H2O: 0.005g/L
【0194】
尚、模擬生ごみ基質のCODcr(dichromate chemical oxygen demand)は122.3gCODcr/Lであり、SS(suspended solid)は53.3g/Lであった。
【0195】
また、試験期間中は、1日1回、発酵液に水酸化ナトリウム(5N)を添加して、pHを7.2に調整した。
【0196】
<分析方法>
参考例1と同様とした。
【0197】
<試験条件>
(1)試験1
作用電極109の設定電位を−1.0Vとして64日間試験を行った。試験期間中の有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)は図20に示す通りとした。具体的には、1〜9日目では模擬生ごみを5mL/日投入し(HRT:50日、OLR:2445mg/l/日)、10〜17日目では模擬生ごみを10mL/日投入し(HRT:25日、OLR:4890mg/l/日)、18〜24日目では模擬生ごみを20mL/日投入し(HRT:12.5日、OLR:9780mg/l/日)、25〜38日目では模擬生ごみを40mL/日投入し(HRT:6.25日、OLR: 19560mg/l/日)、39〜47日目では模擬生ごみを60mL/日投入し(HRT:4.17日、OLR:29340mg/l/日)、48〜54日目では模擬生ごみを80mL/日投入し(HRT:3.13日、OLR:39120mg/l/日)、55〜59日目では模擬生ごみを100mL/日投入し(HRT:2.5日、OLR:48900mg/l/日)、60〜64日目では模擬生ごみを120mL/日投入した(HRT:2.1日、OLR:58680mg/l/日)。試験は3連で実施し、試験結果はその平均値、標準偏差のエラーバーにて示した。
【0198】
(2)試験2(比較試験A)
250mL容の容器に試験1と同様の発酵液を収容し、窒素充填して密閉して、通電を行うことなく試験を実施し、これを比較試験Aとした。但し、塩酸(1N)を添加して初期pHを5.5とし、その後はpHの調整を行うことなく試験を実施した。バイオガスは容器内のヘッドスペースから回収した。
【0199】
(3)試験3(比較試験B)
発酵液104に存在している微生物を失活させて、微生物不存在下での通電試験を比較試験Bとして実施した。具体的には、試験1と同様の条件で模擬生ごみ基質を5mL添加した状態で実験装置ごとオートクレーブ処理(120℃、15分)し、作用電極109の設定電位を−1.0Vまたは−1.4Vとしてカソードガスを回収した。通電期間はそれぞれ1日とした。
【0200】
<試験結果>
(1)バイオガス生成速度
試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を図21に示す。図21中、●が試験1のカソードガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示し、■が試験1のアノードガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示し、×が試験2のバイオガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示している。作用電極109を−1.0Vとして通電を行った試験1では、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、バイオガス生成速度も上昇する傾向が見られ、この傾向は最終日まで継続して見られた。これに対し、通電を行っていない試験2では、24日目以降はバイオガスの生成が見られなくなった。
【0201】
(2)水素生成速度
バイオガス中の水素含有量の測定結果に基づき、有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を求めた結果を図22に示す。図22中、●が試験1のカソードガス生成量に基づく水素生成速度を示し、■が試験1のアノードガス生成量に基づく水素生成速度を示し、▲が試験2のバイオガス生成量に基づく水素生成速度を示している。作用電極109を−1.0Vとして通電を行った試験1では、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、徐々に水素生成速度が上昇する傾向が見られ、この傾向が最後まで継続して見られた。最終的な水素生成速度(有機物負荷量:58680mg/l/日)は、作用電極槽側(カソード槽側)で2445mL/L/日であり、対電極槽側(アノード槽側)で2130mL/L/日であった。これに対し、通電を行っていない試験2では、水素の生成が殆ど見られなかった。
【0202】
(3)pH
試験期間中の発酵液のpHの変動を図23に示す。図23中、●が試験1の作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液のpHを示し、■が試験1の対電極槽側(アノード槽側)の発酵液のpHを示し、×が試験2の発酵液のpHを示している。尚、試験1において、pH測定は、水酸化ナトリウム添加による1日1回のpH調整の直前に実施した。図23に示される結果から、試験1では、作用電極槽側及び対電極槽側の発酵液ともに25日目以降(有機物負荷量:19560mg/l/日以上)の運転においては、1日でpHが7.2→5.5〜6.4程度まで低下する傾向が見られた。通電を行っていない試験2においては、pHが4.7〜5.5程度に維持されており、水素発酵が生じうるpHが維持されていたが、上記の通り水素生成は殆ど見られなかった。
【0203】
(4)VFA濃度
試験期間中の発酵液のVFA濃度の経時変化を図24Aと図24Bに示す。図24Aが試験例1の作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液の有機物負荷量(OLR)に対するVFA濃度であり、図24Bが試験2の発酵液の有機物負荷量(OLR)9780mg/l/日におけるVFA濃度である。また、図中、■はトータルのVFA濃度(乳酸+酢酸+プロピオン酸+酪酸)を示し、×は乳酸濃度を示し、○は酢酸濃度を示し、△はプロピオン酸濃度を示し、●は酪酸濃度を示している。尚、試験例1において、作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液は、対電極槽(アノード槽側)の発酵液とほぼ同様のVFA濃度及びVFA組成(乳酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の組成)を有していた。
【0204】
図24Aに示される結果から、試験1の発酵液では、主に酢酸と酪酸の生成が見られ、乳酸の生成は殆ど見られなかった。これに対し、図24Bに示される結果から、試験2の発酵液では、主に乳酸の生成が見られた。尚、発酵液のpHの低下は、VFA成分の生成によって生じたものであると考えられた。
【0205】
ここで、水素発酵は、以下の式に示すように、グルコース等の基質を分解する過程で、水素、二酸化炭素、酢酸、酪酸が生成される反応系である(参考文献1:Liu, D., Liu, D., Zeng, R.J., Angelidaki, I. 2006. Water Res. 40, 2230-2236.、参考文献2:Ueno, Y., Sasaki, D., Fukui, H., Haruta, S., Ishii, M., Igarashi, Y. 2006. J. Appl. Microbiol. 101, 331-343.)
C6H12O6+2H2O→4H2+2CH3COOH+2CO2 ・・・・(化学式1)
C6H12O6→2H2+CH3CH2CH2COOH+2CO2 ・・・・(化学式2)
また、乳酸発酵は、ホモ乳酸発酵とヘテロ乳酸発酵の二つの発酵形式が存在する。
ホモ乳酸発酵は、グルコース等の基質を以下の式にしたがって分解し乳酸を生成する。この際、副産物は殆ど生成されない(東京化学同人、生化学辞典、第3版)。
C6H12O6→2CH3CH(OH)COOH ・・・・(化学式3)
ヘテロ乳酸発酵では、乳酸以外に、エタノール、酢酸、グリセロール、炭酸ガス等が生成される。副産物の生成比率は必ずしも一定ではないが、代表的には以下の二つの物質収支式が挙げられる。
C6H12O6→CH3CH(OH)COOH+C2H5OH+CO2 ・・・・(化学式4)
2C6H12O6+H2O→2CH3CH(OH)COOH+CH3COOH+C2H5OH+2CO2+2H2・・・・(化学式5)
以上の発酵過程を考慮すると、上記試験結果から、酢酸と酪酸の生成が主に見られた試験1の発酵液中では水素発酵が優占的に進行しており、乳酸の生成が主に見られた試験2の発酵液中では、乳酸発酵が優占的に進行しているものと考えられた。つまり、試験1では、水素を生成する上でより有利な発酵形態である水素発酵が優占的に進行しているものと考えられた。
【0206】
(5)試験3について
試験3を実施した結果、作用電極109の設定電位を−1.0Vとしても、カソードガス及びアノードガスともに水素の生成は殆ど見られなかった。このことから、試験1において得られた結果は、水の電気分解によって生じた水素に起因するものではなく、発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群が優占的に活性化されて生じた水素に起因するものであることが明らかとなった。尚、作用電極109の設定電位を−1.4Vとした場合には、作用電極槽側(カソード槽側)から多量の水素が回収され(110.9mL/L/日)、水の電気分解が生じることが確認された。但し、−1.4Vよりも絶対値基準で小さい電位とすれば(例えば−1.3Vや−1.2V等)とすれば、水の電気分解は殆ど起こらなかった。
【0207】
(6)水素回収率とエネルギー回収率
カソード槽側の水素回収率(γcat)を参考文献3(Call, D., Logan, B.E. 2008. Environ. Sci. Technol. 42, 3401-3406.)に基づき計算した。具体的には、以下の式を用いて計算を行った。
γcat=nH2/nCE ・・・・ (a)
式(a)中、nH2は回収された水素のモル数であり、nCEは測定された電流値(I)から生成され得る水素のモル数である。
【0208】
エネルギー回収率は、以下の式に示す電気的入力に基づいて計算した。
ηW=WH2/Win ・・・・ (b)
式(b)中、WH2(単位:J)は生成された水素の燃焼熱であり(水素1モル当たり285.83kJの熱量)、Win(単位:J)は以下の式により決定される電気的入力である。
Win=IEap ・・・・ (c)
式(c)中、Eapはポテンシオスタットを用いて印加された電圧である。
【0209】
水素回収率とエネルギー回収率について計算した結果を図25に示す。図25中、◆が水素回収率を示し、■がエネルギー回収率を示している。
【0210】
図25に示される結果から、有機物負荷量(OLR)の増加に伴って、水素回収率が増加することがわかった。そして、仮に作用電極からの全ての電子が水素生成のための電気分解に使用されている場合には、水素回収率は100%となるが、本参考例の計算結果では、有機物負荷量58680mg/l/日における水素回収率が4987%であったことから、生成された水素の殆どが発酵液に投入した模擬生ごみ基質に由来するものであることもわかった。
【0211】
また、図25に示される結果から、有機物負荷量(OLR)の増加に伴って、エネルギー回収率が増加し、有機物負荷量58680mg/l/日においては、エネルギー回収率が3887%となった。
【0212】
以上の結果から、試験1において発生した水素の殆どは、電気化学的な反応から直接生成されたものではないことが明らかとなった。
【0213】
(7)まとめ
以上の結果から、メタン発酵槽から採取したメタン発酵汚泥を利用して、水素発酵を優占的に進行させることが可能であることが明らかとなった。また、図26(図中、●がカソードガスであり、□がアノードガスである。)に示す通り、作用電極の電位を−1.2Vとした場合にも、−1.0Vとした場合と同様に水素発酵を優占的に進行させることができることが確認できた。このことから、作用電極の電位A(単位:V)をA≦−1.0とすれば、水素発酵を優占的に進行させることが可能であると考えられた。但し、作用電極の電位Aをマイナス側に大きくし過ぎると、投入する電力量が大きくなる結果として水素製造効率が低下したり、水の電気分解が激しく起こることによる電極の劣化が生じたり、硫酸還元菌の優占化を招いて硫酸還元菌に水素が消費されたりする場合があるので、−1.4<A≦−1.0とするのが好適であり、−1.2≦A≦−1.0とするのがより好適であると考えられた。
【0214】
[参考例3]
参考例1及び2で使用したような2つの容器を連結したH型の装置ではなく、1つの容器120内に発酵液104を250mL収容し、発酵液に作用電極109と対電極110と参照電極112を浸漬した型の装置を使用した以外は、参考例2の試験1と同様の条件で試験を実施し、使用する装置の形状等に依らず、通電により水素発酵反応を優占的に進行させられるか否かを検討した。参考例3の試験における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を図27に示す。
【0215】
参考例2と同様、バイオガス中の水素含有量の測定結果に基づき、有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を求めた結果を図28に示す。参考例2と同様に、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、徐々に水素生成速度が上昇する傾向が見られ、この傾向が最後まで継続して見られた。最終的な水素生成速度(有機物負荷量:58680mg/l/日)は、2288mL/L/日であった。また、通電を行わなかった場合には、水素の生成は殆ど見られなかった。以上の結果から、参考例3の試験においても、参考例2と同様に、水素発酵反応が優占的に進行していることが確認できた。
【0216】
したがって、使用する装置の形状等によらず、通電により水素発酵反応を優占的に進行させられることが確認できた。また、参考例3のような単純な構成の装置でも水素発酵反応の優占化が可能であることからすれば、要は発酵液に作用電極と対電極とを浸漬して、作用電極の電位を一定の範囲に制御すれば、装置構成に限定されることなく、水素発酵反応を優占的に進行させることが可能であることも明らかとなった。
【0217】
[参考例1〜3のまとめ]
以上、参考例1〜3に示される結果から、本発明の発酵装置のように、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えた発酵装置を用いた場合にも、水素発酵を行う微生物群を活性化させて、水素発酵処理を安定且つ効率よく実施し得るものと考えられた。また、本発明の発酵装置を用いることで、処理槽内に収容される発酵液の量に対して、作用電極の面積を高められると共に、電位制御も良好に行い得るので、水素発酵処理をより安定且つ効率よく実施し得るものと考えられた。
【符号の説明】
【0218】
1 発酵液
2 処理槽
3 作用電極
4 対電極
5 電源
6 回収手段
44 電解液
45 対電極槽
46 イオン交換膜
47 移送手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の新たな培養技術として、発酵処理を行いながら微生物を電気培養する電気培養技術の研究が進められている。電気培養とは、培養液の酸化還元電位を培養対象たる微生物の至適範囲に制御しながら微生物の培養を行う手法である(特許文献1参照)。培養液の酸化還元電位を培養対象たる微生物の至適範囲に制御することによって、その微生物のみを選択的に活性化させて、増殖の促進や物質分解能等といった微生物の諸機能を向上させることができる。また、電気培養には、微生物により酸化された物質を還元したり、逆に還元された物質を酸化したりすることにより微生物に必要な物質を再生し続けながら培養を行う方法も含まれる(特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
電気培養手法を実施するための発酵処理装置の具体例として、例えば図7に示す電気培養装置が知られている(特許文献1参照)。図7に示す電気培養装置101は、イオン交換膜106によって仕切られた二つの槽(培養槽107と対電極槽108)と、作用電極109及び対電極110と、作用電極109と対電極110との間に電位差を与える電源112とを有し、培養槽107には酸化還元物質103を含む培養液104が収容されると共に作用電極109が培養液104に浸され、対電極槽108には電解液104aが収容されると共に対電極110が電解液104aに浸され、培養液104に培養対象たる微生物102が添加されて、電源112により作用電極109と対電極110との間に電位差が与えられながら微生物102が培養される。尚、図7に示す電気培養装置101では、培養液104に参照電極111が浸され、作用電極109、対電極110及び参照電極111は3電極式の電位制御装置であるポテンシオスタット112に結線され、培養槽107内の培養液104の酸化還元電位を厳密に設定可能としている。
【0004】
この電気培養装置101では、例えば板状の作用電極109と対電極110が1枚ずつ設けられており、これらは向かい合わせるように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−54646号公報
【特許文献2】特開2006−55134号公報
【特許文献3】特開2007−89580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の電気培養装置101では板状の作用電極109と対電極110とを1枚ずつ組にすると共に、2枚の電極109,110を平行に配置して使用するため、作用電極109の数を増やす場合には対電極110の数も増やすことになり、装置構成が複雑化してしまう。
【0007】
本発明は、作用電極の数を増やしても装置の構成が複雑化するのを抑制することができる発酵処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発酵処理装置は、発酵液を貯める処理槽と、処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えるものである。
【0009】
したがって、リング状に並べられた複数の作用電極と、作用電極のリング状の配列の中心に設けられた対電極との間に電圧が印加され、発酵液中の微生物が活性化されて発酵処理が行われる。この電極の配置では作用電極と対電極との間の距離は全ての作用電極について等しくなるので、処理槽内の電位勾配は全周にわたりほぼ等しくなる。中心の対電極は全ての作用電極と組になるので、作用電極の数を増やしても対電極の数を増やす必要はない。また、各作用電極を処理槽の内壁から離して配置することで、各作用電極の裏面も発酵液に接触させることができるので、反応を生じさせることができる面積が広範囲に確保される。
【0010】
また、請求項2記載の発酵処理装置は、電源は定電位設定装置であり、作用電極の配列と対電極の間に参照電極を設けると共に、参照電極を電源に接続したものである。したがって、作用電極の電位を3電極方式で制御することができる。
【0011】
また、請求項3記載の発酵処理装置は、処理槽に水素生成菌を含む発酵液を貯めると共に、処理槽の上方に処理槽で発生した水素ガスを回収する回収手段を設けたものである。したがって、処理槽内で水素ガスを含むガスが発生し、これを回収し分離することで水素ガスを製造することができる。
【0012】
また、請求項4記載の発酵処理装置は、作用電極を微生物を担持し得る疎水性の導電性担体とし、処理槽にメタン生成菌を含む発酵液を貯めると共に、イオン交換膜を少なくとも一部に備える対電極槽を設けて、この電極槽に電解液を貯めて対電極を電解液に接触させ、対電極槽を発酵液に浸して発酵液と電解液をイオン交換膜を介して接触させ、処理槽の上方に処理槽で発生したメタンガスを回収する回収手段を設けたものである。したがって、処理槽内でメタンガスを含むガスが発生し、これを回収し分離することでメタンガスを製造することができる。
【0013】
ここで、請求項4記載の発酵処理装置において、請求項5に記載のように、前記対電極槽の前記発酵液及び前記電解液と接する部分に開放部が設けられ、前記開放部には前記開放部を塞ぐ面の少なくとも一部に開口部が設けられた蓋体が着脱可能に取り付けられ、前記イオン交換膜が前記開放部を塞ぐように前記蓋体にて固定されているものとすることが好ましい。このように、対電極槽の開放部に着脱可能な蓋体でイオン交換膜を固定することにより対電極槽の開放部を塞ぐことで、メタン発酵処理の過程でイオン交換膜が劣化した場合に、これを簡単に交換することができる。
【0014】
また、請求項5記載の発酵処理装置において、請求項6に記載のように、蓋体の開口部が設けられた面に、開口部から蓋体の側面に向けて1又は2以上のスリットが形成されているものとすることが好ましい。この場合、メタン発酵処理の過程で蓋体の開口部に気泡が滞留することに起因する電位制御不良を防ぐことができる。
【0015】
さらに、請求項7記載の発酵処理装置は、請求項3記載の発酵処理装置と、請求項4〜6記載の発酵処理装置と、請求項3記載の発酵処理装置の処理槽内と請求項4〜6記載の発酵処理装置の処理槽内とを連通し、請求項3記載の発酵処理装置によって水素発酵処理された発酵液を請求項4〜6記載の発酵処理装置の処理槽内に移送する移送手段を備えるものである。したがって、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発酵処理装置では、作用電極の数を増やしても対電極の数を増やす必要がないので、作用電極の数を増やしても装置構成が複雑になるのを防止できる。また、作用電極をリング状に配置し、その中心に対電極を配置するので、作用電極と対電極との間の距離を全ての作用電極について等しくすることができる。そのため、処理槽内の電位勾配を全周にわたりほぼ等しくすることができ、処理槽内を広く有効に使用することができる。また、各作用電極を処理槽の壁から離して配置することで、各作用電極の対電極との対向面及び側面のみならず、裏面も発酵液に接触させることができるので、反応を生じさせることができる面積を広く確保することができる。
【0017】
また、請求項2記載の発酵処理装置では、作用電極の電位を3電極方式で制御することができ、電位制御を精確に行うことができる。
【0018】
また、請求項3記載の発酵処理装置では、処理槽内で水素ガスを含むガスが発生するので、これを回収し分離することで水素ガスを製造することができる。
【0019】
また、請求項4記載の発酵処理装置では、処理槽内でメタンガスを含むガスが発生するので、これを回収し分離することでメタンガスを製造することができる。
【0020】
さらに、請求項5記載の発酵処理装置では、着脱可能な蓋体により対電極槽の開放部にイオン交換膜を固定して塞ぐようにしているので、メタン発酵処理の過程でイオン交換膜が劣化した場合に、これを簡単に交換することができる。
【0021】
また、請求項6記載の発酵処理装置では、開口部に滞留する気泡を蓋体に備えられたスリットで逃がして、開口部に気泡が滞留するのを防ぐことができるので、メタン発酵処理の過程で蓋体の開口部に気泡が滞留することに起因する電位制御不良を防ぐことができる。
【0022】
さらに、請求項7記載の発酵処理装置では、前段の発酵処理装置(水素発酵装置)で水素発酵処理を行った発酵液をそのまま後段の発酵処理装置(メタン発酵装置)に移送してメタン発酵処理を行うことができるので、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理を続けて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の発酵処理装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】同発酵処理装置の各電極等を外した状態の平面図である。
【図3】同発酵処理装置の概略構成図である。
【図4】本発明の発酵処理装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】同発酵処理装置の概略構成図である。
【図6】本発明の発酵処理装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】従来の発酵処理装置を示す断面図である。
【図8A】筒状隔壁にイオン交換膜を取り付ける前の状態を示す図である。
【図8B】筒状隔壁にイオン交換膜を取り付けた後の状態を示す図である。
【図9】比較例1において使用した実験装置を示す図である。
【図10】比較例1における有機物負荷量(OLR)、水理学的滞留時間(HRT)、及びガス生成速度の測定結果を示す図である。
【図11】実施例1における有機物負荷量(OLR)及び水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図12】実施例1におけるガス生成速度の測定結果を示す図である。
【図13】実施例1における低級脂肪酸濃度の測定結果を示す図である。
【図14】実施例1におけるガス組成分析結果を示す図である。
【図15】実施例1におけるCOD除去率とSS除去率の測定結果を示す図である。
【図16】参考例1で用いた装置の形態を示す断面図である。
【図17】参考例1における試験期間中の発酵液のpHの変動を示す図である。
【図18】参考例1における試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図19】参考例1における試験期間中の作用電極の電流値の経時変化を示す図である。
【図20】参考例2における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図21】参考例2における試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図22】参考例2における試験期間中の有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を示す図である。
【図23】参考例2における試験期間中の発酵液のpHの変動を示す図である。
【図24A】参考例2の試験1における有機物負荷量(OLR)に対する発酵液(作用電極槽側)のVFA濃度を示す図である。
【図24B】参考例2の試験2における発酵液の有機物負荷量(OLR)9780mg/l/日におけるVFA濃度を示す図である。
【図25】参考例2の試験1の結果から、水素回収率(γca)とエネルギー回収率(WH2)を計算した結果を示す図である。
【図26】参考例2において、作用電極の設定電位を−1.2Vとして試験1と同様の試験を行った場合の有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を示す図である。
【図27】参考例3における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を示す図である。
【図28】参考例3における試験期間中の有機物負荷量(OLR)に対するバイオガス生成速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
本発明の発酵処理装置は、発酵液1を貯める処理槽2と、処理槽2内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極3と、処理槽2内に設けられ、作用電極3の配列の中心に設けられた対電極4と、作用電極3と対電極4との間に電圧を印加する電源5を備えるものである。
【0026】
<第1の実施形態:水素発酵装置>
図1〜図3に、本発明の発酵処理装置の第1の実施形態を示す。本実施形態の発酵処理装置は水素発酵処理を行う水素発酵装置であり、処理槽2に水素生成菌を含む発酵液1を貯めると共に、処理槽2の上方に処理槽2で発生した水素ガスを回収する回収手段6を設けている。
【0027】
本実施形態では、有底の円筒形状を成す容器7内を処理槽2にしている。この形状の容器7を使用することで、複数の作用電極3をリング状に配置した場合に容器7の大きさを最小にできると共に、後述する撹拌翼34によって発酵液1を回転させて撹拌するのに都合が良い。容器7の容量は発酵液1の処理量に応じて適宜決定される。なお、必ずしも容器7の形状は有底円筒形状に限るものではない。容器7の上部開口は蓋8によって塞がれており、処理槽2内を密閉することができる。蓋8は複数の蝶ねじ9によって容器7に取り外し可能に取り付けられている。蓋8には1対の取っ手10が設けられている。発酵液1は所定の高さまで貯められており、発酵液1の上には発生したガスが溜まる上部空間11が設けられている。
【0028】
容器7及び蓋8の材質としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0029】
容器7の周壁7aの底部近傍には、処理後の発酵液1を排出する排出ポート12が設けられている。排出ポート12は例えば水平に向けて形成され、パイプ13が挿入されている。ただし、排出ポート12を必ずしも水平に向けて形成する必要はなく、例えば斜め下向きに形成しても良く、その他の向きでも良い。また、必ずしもパイプ13を挿入する必要はない。
【0030】
蓋8には対電極用孔8a、作用電極用孔8bが設けられている。また、これらの孔8a,8bの他に予備用の孔を設けることが好ましい。本実施形態では、蓋8の中央に対電極用孔8aを設け、対電極用孔8aのまわりに8つの孔を同一円周上に等間隔で設けている。そして、8つの孔のうちの1つを参照電極14用の孔8c、1つを回収手段6用の孔8d、1つを温度センサ15用の孔8e、1つを発酵液供給用の孔8fにしており、残りを予備用の孔8gにしている。予備用孔8gは例えばゴム製の栓16によって塞がれている。また、作用電極用孔8bは8つの孔8c〜8gのまわりに設けられている。本実施形態では、4本の作用電極用リード線17を処理槽2から引き出すので、4つの作用電極用孔8bを同一円周上に等間隔で設けている。各作用電極用孔8bは作用電極3のリング配列とほぼ同径になるように設けられている。
【0031】
作用電極3は例えば板状の電極であり、容器7の周壁7aとの間に間隔をあけて且つ上から見てリング状(円形状)に複数配置されている。ただし、作用電極3の形状は必ずしも板状に限るものではなく、棒状、網状等であっても良い。各作用電極3の間には隙間が設けられており、発酵液1を作用電極3の周囲に接触させることができる。本実施形態では作用電極3を8枚設けている。ただし、作用電極3の枚数は8枚に限るものではなく、処理槽2の大きさ、作用電極3の大きさ等に応じて適宜変更可能である。
【0032】
作用電極3として例えば炭素電極を使用することが好ましいが、必ずしも炭素電極に限るものではない。
【0033】
各作用電極3は発酵液1を撹拌しても移動しないように係止手段によって動き止めされている。本実施形態では上下2つの係止手段18,19を備えている。上側の係止手段18は作用電極3のリング配列とほぼ同径のワイヤリング20と、ワイヤリング20と作用電極3を接続する接続ワイヤ21より構成されている。ワイヤリング20は全部で1本だけ設けられており、接続ワイヤ21は作用電極3毎に1本ずつ設けられている。ワイヤリング20,接続ワイヤ21は例えば電気抵抗の低い金属等の導電体であり、ある程度の硬さを有しており、各作用電極3の上端のリング配列を維持することができる。つまり、上側の係止手段18は各作用電極3を電源5に接続する導電路であると共に、各作用電極3の上端のリング配列を維持する機能も有している。接続ワイヤ21の下端は鉤状に成形され、作用電極3の上部に設けられた孔に引っ掛けられて接続されている。接続ワイヤ21の上端はワイヤリング20に接続されている。ワイヤリング20には作用電極用リード線17が接続されている。作用電極用リード線17は蓋8に設けられた作用電極用孔8bから容器7の外に引き出されており、電源5に接続されている。本実施形態では、4本の作用電極用リード線17をワイヤリング20に接続しており、容器7の外に引き出された4本の作用電極用リード線17は1本にまとめられた後、電源5に接続されている。したがって、各作用電極3には作用電極用リード線17→1本のワイヤリング20→接続ワイヤ21を介して電源5から電位が付与される。ただし、必ずしも作用電極用リード線17の本数は4本に限るものではなく、各作用電極3に電圧を等しく印加できれば特に限定されない。
【0034】
下側の係止手段19は作用電極3のリング配列とほぼ同径の円周溝19aを有する環状部材(以下、環状部材19という)であり、処理槽2内に沈められている。各作用電極3の下端を円周溝19aに挿入することで、各作用電極3の下端は一定の間隔をあけてリング状に保持される。環状部材19は容器7の底板に固定されることが好ましいが、発酵液1を撹拌してもぐらつかない場合や、ぐらついたとしても問題にならない程度のぐらつきの場合には環状部材19を固定しなくても良い。環状部材19は例えばフッ素樹脂等の絶縁性の材料によって形成されている。
【0035】
対電極4は例えば線状電極である。ただし、必ずしも線状電極に限るものではなく、例えば棒状電極、板状電極等でも良い。対電極4は各作用電極3のリング配列の中心に1本設けられている。ただし、必ずしも1本に限る必要はなく、対電極4の表面積を増やしたい場合等には複数の対電極4を設けても良い。なお、対電極4を複数設ける場合には各作用電極3のリング配列の中心付近に各対電極4を集合させるように設けることが好ましい。
【0036】
本実施形態では対電極4の周囲を筒状隔壁22で覆っている。筒状隔壁22の下端は開口となっており、筒状隔壁22内には処理槽2内の発酵液1が浸入し、対電極4は発酵液1に浸漬されている。ただし、開口は筒状隔壁22の側面に設けてもよいし、本実施形態のように発酵処理装置を水素発酵装置として使用する場合には筒状隔壁22を省略しても良い。筒状隔壁22の材料としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0037】
筒状隔壁22の上端開口は例えばゴム製の栓部材23によって塞がれており、対電極4の上端はこの栓部材23に嵌め込まれて固定されている。対電極4に接続された対電極用リード線24は栓部材23から引き出されて電源5に接続されている。筒状隔壁22の上部は下部よりも細くなっており、この細い部分が蓋8の中心に設けられた対電極用孔8aに挿入されている。対電極用孔8aにはスリーブ25が嵌め込まれている。筒状隔壁22はスリーブ25の上端開口を塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入されて固定されている。
【0038】
本実施形態の発酵処理装置は作用電極3の配列と対電極4の間に参照電極14を有している。より具体的には、作用電極3の配列と筒状隔壁22との間に参照電極14を配置している。参照電極14は蓋8に設けられた参照電極用孔8cに挿入され、発酵液1に浸されている。参照電極用孔8cにはスリーブ26が取り付けられている。参照電極14はスリーブ26の上端開口を塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。参照電極14は作用電極3と対電極4の間に設けられている。本実施形態では、参照電極14を1本設け、1枚の作用電極3の近傍に配置している。ただし、参照電極14の数は1本に限るものではなく、複数本設けても良い。参照電極14のリード線27は電源5に接続されている。なお、参照電極14は必ずしも必要ではなく、参照電極14を使用しなくても作用電極3の電位を所望の値に制御可能な場合や作用電極3の電位の正確な制御が不要な場合等には参照電極14を省略しても良い。参照電極14を省略する場合には参照電極用孔8cは予備用の孔となり、栓によって塞がれる。
【0039】
電源5は、例えば定電位設定装置(ポテンシオスタット)である。作用電極3と対電極4と参照電極14は定電位設定装置に結線され、作用電極3の電位が3電極方式で制御される。電源5は、作用電極3の電位を発酵液1中で水素発酵が促進される電位に制御する。このように、3電極方式で作用電極3の電位を制御することで、作用電極3の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)5により、作用電極3と参照電極14との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極3と対電極4との間に電流を流し、基準となる参照電極14には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。ただし、電源5は必ずしも定電位設定装置に限るものではなく、参照電極14を使用しない場合には作用電極3と対電極4との間に電位差を与えることができる電源5を使用すれば良い。
【0040】
回収手段6は、処理槽2内に発生した水素ガスを貯める容器28と、処理槽2から容器28へと水素ガスを導くガス通路29を備えている。本実施形態では、ガス通路29をチューブによって形成している。ガス通路29は蓋8に設けられた回収手段用孔8dを塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。ガス通路29を形成するチューブの材質としては、例えばガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、ゴム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。本実施形態では、ガス通路29の途中に冷却器30を設けており、発生した水素ガスを冷却すると共に、発酵液1から蒸発した水分を凝縮させて処理槽2内に戻している。冷却器30としては、例えばリービッヒ冷却器の使用が可能である。ただし、冷却器30としては必ずしもリービッヒ冷却器に限るものではなく、その他の種類の冷却器を使用しても良い。また、冷却器30を設けなくても良い。この場合、蒸発した水分を別途処理槽2内に供給するようにしてもよい。ガス通路29の冷却器30よりも上流側の位置には開閉弁31が設けられている。開閉弁31を開けることで、処理槽2の上部空間11内の水素ガス等を回収する。
【0041】
本実施形態の発酵処理装置は発酵液1を撹拌する撹拌手段を備えている。本実施形態では、撹拌手段として発酵液1を水平方向に回転させる第1の撹拌手段32と、発酵液1を上下方向に撹拌させる第2の撹拌手段33を備えている。ただし、必ずしも第1の撹拌手段32と第2の撹拌手段33の両方を設ける必要なく、どちらか一方のみを設けても良い。また、撹拌手段32,33を設けなくても良い。
【0042】
第1の撹拌手段32は例えば撹拌装置である。撹拌装置は、例えば処理槽2内に沈められる撹拌翼34と、容器7の外から撹拌翼34を磁気吸着して回転させる回転駆動装置35より構成されている。処理槽2内の撹拌翼34を回転させることで、発酵液1を水平に回転させて撹拌することができる。撹拌翼34は例えば環状部材19の内側に配置された籠36内に設けられ、発酵液1の排出時に撹拌翼34が流されるのを防止されている。籠36は容器7の底板に固定されることが好ましいが、発酵液1を撹拌したり排出してもぐらつかない場合やぐらついたとしても問題にならない程度のぐらつきの場合には籠36を固定しなくても良い。また、撹拌翼34の流出が問題にならない場合等には籠36を設けなくても良い。容器7は回転駆動装置35の上に載せられている。
【0043】
第2の撹拌手段33は例えば発酵液1を循環させる循環装置である。この循環装置は、例えば処理槽2内から発酵液1を抜いて処理槽2内に戻す循環路37と、循環路37の途中に設けられたポンプ38より構成されている。容器7の周壁7aの底部近傍には流出ポート39が、発酵液1の液面より若干高い位置には流入ポート40がそれぞれ設けられている。流出ポート39は水平に向けて形成されている。ただし、流出ポート39を必ずしも水平に向けて形成する必要はなく、例えは斜め下方に向けて形成しても良く、その他の方向に向けて形成しても良い。また、流入ポート40は斜め上方に向けて形成されている。ただし、流入ポート40を必ずしも斜め上方に向けて形成する必要はなく、例えば水平に向けて形成しても良く、その他の方向に向けて形成しても良い。
【0044】
各ポート39,40にはパイプ41,42が挿入されている。流入ポート40のパイプ42の内側端は下向きに湾曲されている。循環路37の上流端は流出ポート39のパイプ41に、下流端は流入ポート40のパイプ42に接続されている。ポンプ38を作動させると、処理槽2の底部の発酵液1が流出ポート39から循環路37に吸い込まれ、流入ポート40から処理槽2内に戻される。このように処理槽2の底の部分から抜いた発酵液1を液面よりも高い位置から落下させて処理槽2内に戻すことで、発酵液1を上から下に向けて循環させて撹拌することができる。ただし、発酵液1を循環させる方向は上から下に限るものではなく、流出ポート39と流入ポート40を逆にすると共に流出ポート39を発酵液1の液面よりも低い位置に設け、発酵液1を下から上に向けて循環させて撹拌するようにしても良い。また、本実施形態は第2の撹拌手段33を1組設けているが、第2の撹拌手段33を複数組設けても良い。
【0045】
本実施形態の発酵処理装置は処理槽2内に発酵液1を入れる発酵液供給用孔8fを蓋8に設けており、蓋8を閉めた状態で発酵液供給用孔8fから発酵液1を供給することができる。ただし、必ずしも発酵液供給用孔8fは必要ではなく、例えば流入ポート40を利用して発酵液1を供給する場合や、蓋8を開けて容器7の上から直接発酵液1を供給する場合等には発酵液供給用孔8fを省略しても良い。
【0046】
本実施形態の発酵処理装置は発酵液1を加熱するヒータ43を備えている。ただし、発酵液1を加熱する必要が無い場合等にはヒータ43を省略しても良い。本実施形態ではヒータ43としてバンドヒータを設けている。バンドヒータ43は容器7の周壁7aの外面の発酵液1に対向する位置に設けられている。ただし、ヒータ43としてはバンドヒータに限るものではなく、発酵液1を加熱できるものであればその他の種類のヒータを使用しても良い。
【0047】
本実施形態の発酵処理装置は温度センサ15を備えている。温度センサ15のプローブ15aは蓋8に設けられた温度センサ用孔8eを塞ぐ例えばゴム製の栓16に挿入され固定されている。プローブ15aは発酵液1に浸されている。ただし、発酵液1の温度管理が不要な場合等には温度センサ15を省略しても良い。
【0048】
発酵液1の液面は、例えばバンドヒータ43よりも高く、且つ流入ポート40よりも低くなっている。この高さまで発酵液1が貯められることで、各電極3,4,14は発酵液1に十分に浸漬される。発酵液1には水素生成菌が含まれる。発酵液1としては、例えば有機性廃棄物があるがこれに限定されるものではない。また、発酵液1として、メタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水で希釈して調製したもの等を用いることもできる。メタン発酵液にも水素生成菌が含まれていることから、これの発酵液を用いることでも、水素生成菌を活性化させて、水素発酵を実施し得る。
【0049】
また、本実施形態では、pH検出手段51を備えている。pH検出手段51は、プローブ51a(図1の温度センサ15のプローブ15aの背後に存在)を例えば蓋8の予備用孔8gを利用して備えて処理槽2内に挿入して備えるようにしている。
【0050】
そして、蓋8の予備用孔8gの1つをpH調節用孔とし、処理槽2内の発酵液1が酸性側にシフトした場合にpH調節用孔から例えば水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して発酵液1のpHを調節するようにしても良い。
【0051】
具体的には、pH検出手段により検出された発酵液のpHはpH調整手段に送られ、pH調整手段では、pH検出手段により検出されたpHに基づいて発酵液にpH調整用孔を介してアルカリが添加され、発酵液のpHが水素発酵に適した値に維持される。また、処理槽2内の発酵液1がアルカリ性側にシフトした場合にpH調節用孔から酸性溶液を添加してpHを調節するようにしても良い。
【0052】
次に、発酵処理装置の作動について説明する。
【0053】
電源5によって作用電極3に電位が与えられると、発酵液1中の水素生成菌が活性化され、処理槽2内に水素を含んだガスが発生する。発生したガスは処理槽2の上部空間11に溜まり、回収手段6によって回収される。
【0054】
処理槽2内の発酵液1は、ヒータ43によって加熱され、発酵処理に適した温度に維持される。ヒータ43は温度センサ15によって検出された温度に基づいてオン・オフ操作され、発酵液1の温度を一定の温度範囲に保つ。
【0055】
また、処理槽2内の発酵液1は、pH検出手段により検出された発酵液のpHがpH調整手段に送られ、pH検出手段により検出されたpHに基づいて発酵液にpH調整用孔を介してアルカリが添加され、発酵液のpHが水素発酵に適した値に維持される。
【0056】
また、処理槽2内の発酵液1は第1の撹拌手段32と第2の撹拌手段33によって撹拌されている。そのため、発酵の進行が部分的になるのを防止され、全体として効率よく発酵を進行させることができる。
【0057】
処理後の発酵液1は排出ポート12から排出される。
【0058】
この発酵処理装置では、各作用電極3は対電極4を中心にリング状に配置されているので、作用電極3と対電極4との間の距離は全ての作用電極3についてほぼ等しくなる。そのため、処理槽2内の電位勾配は全周にわたりほぼ等しくなり、反応が生じる範囲が部分的になるのを防いで広い範囲で反応を進行させることができ、処理槽2内を広く有効に使用することができる。
【0059】
また、中心の対電極4は全ての作用電極3と組になるので、作用電極3の数を増やしても対電極4の数を増やす必要はなく、作用電極3を複数設けても装置が複雑になるのを防止することができる。また、作用電極3の表面積に対する装置の大きさを小さくすることができる。
【0060】
<第2の実施形態:メタン発酵装置>
次に、本発明の発酵処理装置の第2の実施形態について説明する。なお、上述の発酵処理装置と同一の部材又は対応する部材には同一の符号を付し、それらの説明を省略する(以下、同様。)。
【0061】
図4及び図5に、本実施形態の発酵処理装置を示す。この発酵処理装置はメタン発酵処理を行うメタン発酵装置であり、処理槽2にメタン生成菌を含む発酵液1を貯めると共に、
イオン交換膜46を少なくとも一部に備える対電極槽45を設けて、対電極槽45に電解液44を貯めて対電極4を電解液44に接触させ、対電極槽45を発酵液1に浸して発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させ、処理槽2の上方に処理槽2で発生したメタンガスを回収する回収手段6を設けている。
【0062】
つまり、図1の発酵処理装置(水素発酵装置)では、筒状隔壁22の底部を開放し、筒状隔壁22内に発酵液1を浸入させて対電極4に接触させるようにしているが、本実施形態の発酵処理装置(メタン発酵装置)では、筒状隔壁22の底部の開放部をイオン交換膜46で塞ぎ、筒状隔壁22内を対電極槽45にしている。この対電極槽45には、電解液44が貯められている。電解液44は、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含むものとすればよい。なお、通常、発酵液1にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液44として発酵液1を用いることも可能である。
【0063】
但し、イオン交換膜46を備える方法は、上記の形態には限定されない。即ち、イオン交換膜46は対電極槽たる管状隔壁22の少なくとも一部に備えられて、発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させることができればよく、管状隔壁22の側面の一部に開放部を設けて、この開放部をイオン交換膜46で塞ぐようにしてもよいし、管状隔壁22の全体をイオン交換膜46で形成してもよい。また、管状隔壁22の2以上の箇所に開放部を設けて、この複数の開放部をイオン交換膜46で塞ぐようにしてもよい。
【0064】
ここで、開放部には、図8Aに示すように、開放部22aを塞ぐ面の少なくとも一部に開口部50aが設けられた蓋体50が脱着可能に取り付けられ、イオン交換膜46が開放部22aを塞ぐように蓋体50にて固定されていることが好ましい。メタン発酵処理は複数種の微生物群や有機物が複雑に機能している系内にて行われ、メタン発酵処理の過程で硫化水素などのイオン交換膜46を腐食し得る成分が微量ではあるが発生する場合がある。したがって、イオン交換膜46が経時的に劣化することがある。そこで、このように開放部22aを塞ぐ面の少なくとも一部に開口部50aが設けられた蓋体50が脱着可能に取り付けられ、イオン交換膜46が開放部22aを塞ぐように蓋体50にて固定されているものとすることで、蓋体50を開放部から取り外すだけで、イオン交換膜46を簡単に取り外して新たなイオン交換膜と容易に交換することが可能となる。
【0065】
尚、図8A及び図8Bでは、筒状隔壁22の開放部22aと蓋体50との間に、筒状隔壁22側から順に、第一シール材52a、第二シール材52b、イオン交換膜46、第三シール材52c、第四シール材52dが備えられている。第一シール材52aはシリコーンゴム製パッキンである。第二シール材52bはプラスチック製の十字パッキンである。本実施形態では、第二シール材52bの筒状隔壁22側に管状の突出部が設けられており、この突出部が筒状隔壁22の開放部22に嵌合するようにしている。そして、第一シール材52aは第二シール材52bの鍔部に載せられる。これにより、蓋体50を筒状隔壁22に取り付ける際に、第一シール材52aをよじらせることなく、第一シール材52aを筒状隔壁22に密着させて固定することが可能となる。イオン交換膜46は第二シール材52bと第三シール材52cとの間に挟持される。第三シール材52cはプラスチック製の十字パッキンである。そして、蓋体50と第三シール材52cの間には第四シール材52dが備えられている。第四シール材はテフロン(登録商標)製のパッキンである。そして、本実施形態では、蓋体50がねじ蓋であり、蓋体50を筒状隔壁22の下端部のねじ山との螺合により締め付けることで、各シール材が押圧されてシールされる。尚、第四シール52dを備えることで、蓋体50を回転させて締め付ける際の摩擦が軽減される。したがって、イオン交換膜46をよじれさせることなく、第二シール材52bと第三シール際52cとの間に良好に介在させることができる。但し、イオン交換膜46の固定方法はこのような方法には限定されない。例えば、シール材をさらに多く用いてもよいし、3枚以下としてもよい。また、シール材を設けることなく、対電極槽内の電解液44を密閉できる場合には、必ずしもシール材を設けずともよい。また、蓋体50はねじ蓋で限定されるものではなく、例えば蓋体50の側面の内周に沿ってシール材を備えて、筒状隔壁22を蓋体50に嵌め込むようにしてもよい。また、蓋体50の開口部50aにイオン交換膜46を貼り付けて一体とし、イオン交換膜46が劣化したときに蓋体50ごと交換するようにしても構わない。また、図8A及び図8Bでは、筒状隔壁22の底部を開放して、開放部22aにイオン交換膜46を介して蓋体50を取り付けるようにしているが、開放部22aを筒状隔壁22の側面に設けて、側面の開放部22aにイオン交換膜46を介して蓋体50を取り付けるようにしてもよい。また、開放部22aを複数設けて、蓋体50によるイオン交換膜46の固定を複数箇所で実施しても構わない。
【0066】
ここで、図8に示すように、特に蓋体50を筒状隔壁22の底部の開放部22aに取り付ける場合には、蓋体50の開口部50aから蓋体50の側面に向けて1又は2以上のスリット50bが形成されていることが好ましい。メタン発酵処理においては、メタンガスを含むバイオガスが発生し、このガスが蓋体50の開口部50aに滞留して、作用電極3と対電極4との間での電流の流れを妨害し、電位制御不良が生じる場合がある。蓋体50にスリット50bを形成しておくことで、このスリット50bからバイオガスを逃がして開口部50aにおけるバイオガスの滞留を防ぎ、電位制御不良が生じることを防止することができる。
【0067】
尚、開口部50aにおけるバイオガスの滞留抑制手段は、上記構成には限定されない。例えば、開口部50aが設けられている蓋体50の面の厚みを薄くし、開口部50aの深さを、バイオガスの滞留が起こらない深さ(例えば3mm以下)とするようにしてもよい。
【0068】
また、蓋体50を取り外すことでイオン交換膜46を簡単に取り外せる構成とすることで、対電極槽と処理槽2を簡単に連通できる。したがって、メタン発酵処理装置として使用していた本発明の発酵処理装置を水素発酵処理装置として使用したくなったときには、イオン交換膜46を取り外して、水素発酵処理に移行させることが容易である。つまり、メタン発酵処理装置としての使用と水素発酵処理装置としての使用の切り換えを容易に行うことが可能である。
【0069】
メタンガスを回収する回収手段6としては、図1の水素ガスを回収する回収手段6と共通のものが使用される。
【0070】
発酵液1にはメタン生成菌が含まれる。発酵液1として、例えば有機性廃棄物がある。より具体的には、発酵液1は、メタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液1や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水で希釈して調製したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
電源5は、メタン発酵が促進される電位に作用電極3を制御する。また、処理槽2内の発酵液1はメタン発酵処理に適した温度に維持される。
【0072】
本実施形態の発酵処理装置では、電源5によって作用電極3に電位が与えられると、発酵液1中のメタン生成菌が活性化され、処理槽2内にメタンガスを含んだガスが発生する。発生したガスは処理槽2の上部空間11に溜まり、回収手段6によって回収される。
【0073】
本実施形態において、作用電極3としては、微生物を担持し得る疎水性の導電性担体、例えば炭素電極を使用することが好ましいが、必ずしも炭素電極に限るものではない。また、微生物を担持し得る疎水性の導電性担体としての作用電極3は、通電性が確保される範囲内で繊維状や多孔質体等の三次元構造として表面積を増大させ、微生物の担持量を増大することのできる形態としてもよい。また、作用電極3の表面の少なくとも一部、好ましくは全面に微生物を担持し得る疎水性担体、例えば炭素繊維、炭素粒状物等を設けることにより、作用電極3では導電性を確保しつつ、作用電極3の表面に微生物を担持させ得る領域を広く確保するようにしてもよい。微生物を担持し得る疎水性の担体としては、繊維や多孔質体等が挙げられ、具体的には炭素繊維が好適に用いることができるが、これに限定されず、ポリエチレン製やポリプロピレン製のものを用いることもできる。
【0074】
ここで、微生物を担持し得る疎水性の担体は、作用電極3と発酵液1との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができると共に、電極近傍の電位の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極3と発酵液1との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たす発酵液1の電位が制御されて担体の電位環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0075】
本実施形態においては、作用電極3はリング状に間隔をあけて並べられて配置され、且つ処理槽2の内壁から離して配置されている。したがって、対電極4と対向する作用電極3の表面のみならず、側面、裏面をも微生物を担持し得る領域として使用することができる。したがって、有機物負荷量を高めても、それに耐えうる安定且つ高効率なメタン発酵処理装置とできる。
【0076】
本実施形態の発酵処理装置(メタン発酵装置)は図1の発酵処理装置(水素発酵装置)と殆どの部品が共通しており、僅かな変更でメタン発酵装置としても水素発酵装置としても使用できる。即ち、本発明の発酵処理装置は汎用性に優れている。
【0077】
<第3の実施形態:水素発酵装置とメタン発酵装置の接続>
次に、本発明の発酵処理装置の第3の実施形態について説明する。図6に、本実施形態の発酵処理装置を示す。この発酵処理装置は、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理を行う二段階発酵処理装置であり、図1の発酵処理装置(水素発酵装置H)と、図4の発酵処理装置(メタン発酵装置M)と、水素発酵装置Hの処理槽2内とメタン発酵装置Mの処理槽2内とを連通し、水素発酵装置Hによって水素発酵処理された発酵液1をメタン発酵装置Mの処理槽2内に移送する移送手段47を備えるものである。
【0078】
移送手段47は、例えば水素発酵装置Hの排出ポート12とメタン発酵装置Mの発酵液供給用孔8fとを接続する流路である。本実施形態では、水素発酵装置Hをメタン発酵装置Mよりも高い位置に設け、重力を利用して発酵液1を流すようにしている。ただし、発酵液1を流す手段はこれに限るものではなく、例えば流路の途中にポンプを設けて強制的に流すようにしても良い。
【0079】
本実施形態では、流路の排出ポート12近傍と発酵液供給用孔8f近傍に開閉弁48,49を設けている。2つの開閉弁48,49を開くことで、水素発酵装置Hの処理槽2内の発酵液1が排出ポート12から流路内に流れ込み、流路を流れてメタン発酵装置Mの発酵液供給用孔8fから処理槽2内に供給される。
【0080】
水素発酵装置Hで水素発酵処理を行った発酵液1を移送手段47によってメタン発酵装置Mに移送することで、水素発酵処理とメタン発酵処理を続けて行うことができる。即ち、メタン発酵処理の前処理として水素発酵処理を行い、そのままメタン発酵処理を行うことができる。
【0081】
以下、水素発酵処理、メタン発酵処理、水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階発酵処理について詳細に説明する。
【0082】
(水素発酵処理)
まず最初に、水素発酵処理について説明する。水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階にて発酵処理を実施する場合には、この水素発酵処理方法は前段にて水素発酵装置Hを使用して実施される。
【0083】
水素発酵処理は、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液に電極(作用電極)を浸漬し、発酵液に有機性基質を投入すると共に電極(作用電極)の電位を制御して水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させるようにしている。
【0084】
水素発酵を行う微生物群を含む発酵液としては、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水または培養液等で希釈して調製したメタン発酵液を使用するのが好適であるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、有機性廃棄物等の水素発酵処理が行われている一般的な水素発酵槽中の水素発酵液や、水素発酵槽から採取した汚泥を水または培養液等で希釈して調製した水素発酵液、さらには水素発酵に関与する微生物群(例えばクロストリジウム属の微生物群等)を培養液等に添加した水素発酵液を用いることも可能である。また、メタン発酵槽から採取した汚泥を水等で希釈せずにそのまま用いることもできるし、水素発酵処理槽から採取した汚泥を水等で希釈せずにそのまま用いることもできる。水素発酵に使用する発酵液には、このような汚泥自体も含まれる。
【0085】
水素発酵処理方法において、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液としてメタン発酵液を用いた場合には、メタン発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させて、発酵液中において水素発酵反応を支配的に安定に進行させることができる。また、水素発酵を行う微生物群を含む発酵液として水素発酵液を用いた場合には、水素発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群を活性化させて、発酵液中において水素発酵反応を安定に進行させることができる。
【0086】
発酵液に浸漬する電極(作用電極)としては、疎水性の電極を用いることが好適であり、特に炭素板等の炭素製電極を用いることが好適であるが、必ずしもこれらの電極に限定されるものではなく、水素発酵反応を阻害することのない各種電極を用いることができる。尚、従来より、水素を製造する一般的な技術として電気分解を利用した方法が周知であり、電気分解法においては電極として白金等の貴金属(触媒)電極を用いるのが一般的である。この水素発酵処理方法は電気分解法と同様に水素を製造できる技術でありながら、電極としては炭素板のような低コスト材料を用いることができ、この点においても従来の水素発酵処理方法と比較して極めて利点が大きい。また、炭素板のように微生物を担持し得る電極を用いると、電位制御初期段階で電極表面に微生物が付着して電極表面に電流が流れやすくなり、投入した電気エネルギーの損失を抑えて、水素発酵反応の優占化を促進する効果も期待できる。
【0087】
有機性基質としては、畜産廃棄物、生ごみ、廃水処理汚泥、各種バイオマス(例えば稲藁等の藁類)、紙ごみなどの有機性廃棄物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、単純に水素ガスを生成することを目的として水素生成菌群が利用しやすい有機性基質を発酵液に投入するようにしてもよい。尚、有機性廃棄物等の有機性基質は、その性状により、必要に応じて、破砕や分別などの前処理を適宜行ってから水素発酵処理に供することが好適である。ここで、本願発明者等の実験によれば、電極(作用電極)への通電によって、ドッグフードを含む模擬生ごみスラリーを有機性基質とした場合にも、水素発酵反応を優占的に安定して進行させることができたことから、電極(作用電極)への通電によって、様々な有機性基質を広範囲に利用して水素発酵を優占的に安定して進行させることができる効果も奏され得る。
【0088】
電極(作用電極)の電位制御は、水素発酵を行う微生物群を優占的に活性化させることができれば、電位制御方法は特に限定されるものではないが、発酵液に電極(以下、作用電極と呼ぶこともある)と共に作用電極と対を成す対電極を浸漬し、作用電極の電位A(単位:V)を制御することが好適である。そして作用電極の電位Aは、銀・塩化銀電極電位基準でA≦−1.0とすればよいが、−1.4<A≦−1.0とするのが好適であり、−1.3≦A≦−1.0とするのがより好適であり、−1.2≦A≦−1.0とするのがさらに好適である。この電位制御方法を採用した場合、A>−1.0とすると、水素発酵反応の優占化が起こらない。また、A≦−1.4とすると、投入する電力量が大きくなって水素製造効率が低下したり、発酵槽内に硫酸還元菌が優占化して水素が消費されたりする虞がある。また、作用電極を炭素製電極とした場合に関して言えば、水分解による水素生成が支配的になる。
【0089】
尚、水素発酵を行う微生物群の優占的な活性化とは、水素発酵を行う微生物群の増殖による機能の向上及び水素発酵を行う微生物自体の機能の向上のいずれか一方あるいは双方を意味している。
【0090】
ここで、この水素発酵処理においては、発酵液のpHを酸性側またはアルカリ性側に極端に偏らせ過ぎると、多くの微生物反応系と同様に、水素発酵反応が阻害される虞がある。したがって、発酵液のpHは微生物反応系における常識的なpH域に維持するのが好ましく、具体的には、発酵液のpHを5.5〜8に維持することが好適であり、pH6〜8程度に維持することがより好適である。尚、水素発酵反応が進行すると、発酵液中に水素発酵の生成物たる低級脂肪酸(乳酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸等)が溶け出して発酵液のpHが酸性側に偏る虞があるので、発酵液には水酸化ナトリウム等のpH調整剤を定期的にあるいは随意に添加して、pHを上記範囲に維持することが好ましい。また、このように発酵液のpHを上記範囲に維持することによって、後述する水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理方法において、メタン発酵処理槽に送液される発酵物(処理液)のpHを中性付近とできるので、メタン発酵液の酸性シフトによる後段のメタン発酵処理効率の低下を防ぐこともできる。
【0091】
この水素発酵処理方法によれば、有機性廃棄物等の有機性基質を原料として、水素を生成することができると共に、有機性廃棄物等の減容化も図ることができる。換言すれば、有機性廃棄物を水素に変換して回収することができる。したがって、有機性廃棄物に水素生成源としての付加価値を与えることのできる水素回収方法として活用し得る。
【0092】
容器7の温度(発酵液1の温度)は、4℃〜100℃未満とすればよいが、好適には40℃〜70℃、より好適には50℃〜60℃、さらに好適には55℃である。
【0093】
また、発酵液1のpHは、5.5〜8に維持することが好適であり、pH6〜8程度に維持することがより好適である。このように発酵液のpHを上記範囲に維持することによって、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理方法において、メタン発酵処理槽に送液される発酵物(処理液)のpHを中性付近とできるので、メタン発酵液の酸性シフトによる後段のメタン発酵処理効率の低下を防ぐこともできる。
【0094】
ここで、酸化還元物質を発酵液1に添加することで、発酵液1の溶液電位の制御性を高めて、発酵液1の溶液電位、特に作用電極3の近傍の溶液電位を作用電極3の電位に近づけ易くなる。これにより、水素発酵を行う微生物群(発酵液1としてメタン発酵液を用いた場合にはメタン発酵から水素発酵への移行(水素発酵を行う微生物群の優占化))が起こり易くなる場合がある。
【0095】
酸化還元物質としては、発酵液1に浸されている作用電極3と可逆的に酸化還元反応を生じ得る物質であり、且つ発酵液1に生息している微生物に対して毒性を呈しない物質を用いることができる。例えば、上記のように、土壌成分として一般的な鉄イオンが挙げられる。ここで、鉄イオンを発酵液中で安定に存在させるためには、鉄イオンをキレート剤に配位させて発酵液中に添加することが好ましい。キレート剤としては、鉄イオンを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができる。また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲンを用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。特に、キノン化合物は土壌成分の一つとして知られている物質であり、好ましい。つまり、土壌そのものを発酵液に添加することで、土壌に含まれている酸化還元物質により発酵液の酸化還元電位が制御できる場合がある。但し、酸化還元物質は上記した物質に限定されるものではない。
【0096】
尚、発酵液1として使用し得るメタン発酵液や水素発酵液には、通常、酸化還元物質が含まれていることが多いので、酸化還元物質3を別途添加することなく元々発酵液に含まれている酸化還元物質を利用するようにしてもよい。また、酸化還元物質3を添加せずとも水素発酵は優占的に安定して進行することが本発明者等の実験により確認されているので、酸化還元物質3を添加することは必須条件ではない。
【0097】
ここで、この水素発酵処理では、容器7の発酵液1の液面よりも上部の空間11(ヘッドスペース)に滞留する水素ガスを含むバイオガスを容器7の外へ導く回収手段6を備え、この回収手段6により、容器7の内部のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法には限定されない。回収手段6として、例えば、容器7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、容器7からバイオガスが漏れ出すことがない。また、バイオガスには二酸化炭素が混在しているので、回収手段6またはその後段に二酸化炭素を除去する手段を設けてもよい。具体的には、例えばバイオガスを水酸化ナトリウム溶液に通過させて二酸化炭素を水酸化ナトリウム溶液に溶解させて水素ガスのみを取り出すようにしてもよい。
【0098】
また、水素発酵装置では、容器7の発酵液1の液面よりも下部に、容器7内の発酵液1を容器7の外に導く排出ポート12を備え、この排出ポート12から発酵液1を採取(排出)するようにしている。但し、発酵液1の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、容器7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺して発酵液1を採取するようにしてもよい。
【0099】
さらに、発酵液1に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、容器7の外部から発酵液1に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、蓋8の予備用孔8gから物質導入管を容器7内に挿入するようにしても良い。この場合には、発酵液1に栄養源、中和剤、発酵汚泥等の物質を必要に応じて添加することができる。勿論、有機性廃棄物等の有機性基質をこの導入管から供給することもできる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできる。但し、発酵液1に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、回収手段6や各ポート12,39,40等を発酵液1に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで発酵液1に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0100】
また、筒状隔壁22の内側に発生したガスを容器7の外に排出する回収手段を設けても良い。
【0101】
また、この水素発酵方法は、作用電極3と対電極4との間にイオン交換膜を設けずに実施される。換言すれば、作用電極3と対電極4との間でイオン交換膜を介することなく、作用電極3と対電極4との間で直接イオン電流が流れるように実施される。これにより、発酵液中に棲息する水素発酵を行う微生物群を確実に優占化・活性化させて、水素発酵処理を確実且つ良好に進行させ得る。
【0102】
尚、図1の水素発酵装置は、作用電極3の表面全体を利用することができるので、炭素板のように微生物を担持し得る電極を用いると、電位制御初期段階で電極表面に微生物が付着して電極表面に電流が流れやすくなり、投入した電気エネルギーの損失を抑えて、水素発酵反応の優占化を促進する効果も期待できる。
【0103】
尚、筒状管壁22は、水素発酵処理においては省略しても構わないが、対電極を安定に保持する観点からは、筒状管壁22を備えておくことが好適であるし、また、筒状管壁22を備えておいても特に水素発酵処理においては不都合は生じない。また、筒状管壁22を備えておけば、筒状管壁22の開放部22aをイオン交換膜46を介して蓋体50で塞げばメタン発酵処理を実施できるという利便性も生まれる。
【0104】
この水素発酵処理方法により排出される発酵物(処理液)は、通常のメタン発酵槽、例えば炭素繊維等をメタン発酵液に充填した固定床式メタン発酵槽でメタン発酵処理するようにしてもよいが、以下に説明する通電を利用したメタン発酵処理方法を採用することによって、さらに効率よくメタン発酵処理を進行させることができ、水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせた二段階発酵処理を極めて効率よく進行させ得るものとなる。
【0105】
(メタン発酵処理)
次に、メタン発酵処理について説明する。水素発酵処理とメタン発酵処理の二段階にて発酵処理を実施する場合には、このメタン発酵処理方法は後段にてメタン発酵装置Mを使用して実施される。
【0106】
具他的には、このメタン発酵処理方法は、作用電極3と対電極4と参照電極14とを定電位設定装置5に結線し、メタン発酵液1と電解液44をイオン交換膜46を介して接触させ、メタン発酵液1に作用電極3と共に参照電極14を接触させ、電解液44に対電極4を接触させ、作用電極3の電位を3電極方式で制御するようにして、作用電極3の電位を水の電気分解が生じることなく作用電極3にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御して行うようにしている。
【0107】
このメタン発酵処理では、処理槽2と対電極槽45とをイオン交換膜46によって仕切り、処理槽2にはメタン発酵液1が収容されると共に作用電極3と参照電極14が浸され、対電極槽45には電解液44が収容されると共に対電極4が浸され、作用電極3と対電極4と参照電極14は定電位設定装置5に結線され、作用電極3の電位を3電極方式で制御するようにしている。但し、作用電極3と対電極4の極間電圧のみで作用電極3の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0108】
通電を利用したメタン発酵処理は、メタン発酵液1に電極(作用電極3)を浸漬し、電極(作用電極3)の電位を制御してメタン発酵液1中のメタン生成菌群を優占的に活性化させることにより実施される。
【0109】
メタン発酵液1としては、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われている一般的なメタン発酵槽中のメタン発酵液や、メタン発酵槽から採取した汚泥を水または培養液で希釈して調製したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、メタン発酵槽から採取した汚泥そのものを用いてもよい。
【0110】
電解液44としては、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含む溶液等を用いることができる。尚、通常、メタン発酵液にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液44としてメタン発酵液1を用いることも可能である。
【0111】
作用電極3及び対電極4としては、例えば炭素板等の導電性材料を適宜使用することができる。対電極4では、作用電極3における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応が進行する。ここで、メタン発酵処理を行う場合には、作用電極3は、その表面の少なくとも一部に疎水性担体を備えた担体保持電極とすることが好ましい。疎水性担体としては、例えば、炭素繊維を用いることが好適であり、空隙率が25%〜98%の炭素繊維、好適には空隙率が50〜98%の炭素繊維、より好適には空隙率が98%の炭素繊維を使用することができるが、疎水性担体は炭素繊維に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン製やポリプロピレン製の繊維等の担体を用いてもよい。尚、炭素繊維は、高い空隙率の確保が容易であり、例えば炭素繊維不織布は、高い空隙率(98%)を確保し易く、しかも安価に入手でき、好適である。尚、本発明において用いられる担体保持電極は、電極表面の少なくとも一部に担体が備えられていれば良いが、電極表面の片面に備えられていることが好適であり、電極表面の全体に備えられていることが最も好適である。電極表面における担体保持面積を高めれば高める程、微生物を担持させやすくなる。担体を電極表面に備える方法としては、接着剤による接着や、担体を袋状や筒状にして電極に被せて覆う方法などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。ここで、微生物を担持し得る担体は、電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができると共に、電極近傍の電位の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たすメタン発酵液の電位が制御されて担体の電位環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0112】
メタン発酵液1には、有機性基質として有機性廃棄物が投入される。有機性廃棄物としては、畜産廃棄物、生ゴミ、廃水処理汚泥、稲藁や麦藁等の藁類、紙ごみ、各種バイオマス等などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、有機性廃棄物は、その性状により、必要に応じて、破砕や分別などの前処理を行ってからメタン発酵処理に供される。
【0113】
作用電極3の電位BをB<X(Xはメタン発酵液自体の酸化還元電位)とすることで、作用電極3上にて還元反応が生じ、メタン発酵に関与する微生物群に電子が与えられて活性化する。これにより、メタン発酵が促進される。したがって、作用電極3の電位BはXよりもマイナス側に大きくする分には、メタン発酵反応が促進され得ることになるが、作用電極3の電位Bの電位をマイナス側に大きくし過ぎると、水の電気分解が起こりやすくなり、メタン発酵を阻害する可能性がある。したがって、作用電極3の電位Bは、−1.4<B<−0.5とするのが好適であり、−1.2≦B≦−0.6とするのがより好適であり、−1.0≦B≦−0.6とするのがさらに好適であり、−1.0≦B≦−0.8とするのがなお好適であり、B=−0.8とするのが最も好適である。B≧−0.5では、作用電極3において還元反応が進行し難く、メタン発酵の促進が起こり難い。但し、B=+0.3では例外的にメタン発酵の促進が起こり得る。
【0114】
容器7の温度(メタン発酵液1の温度)は、メタン発酵液1に存在するメタン発酵を行う微生物群の至適温度に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば4℃〜100℃未満とすればよいが、好適には40℃〜70℃、より好適には50℃〜60℃、さらに好適には55℃である。
【0115】
ここで、このメタン発酵処理においては、イオン交換膜46を備えるようにしている。これにより、メタン発酵液1に存在する微生物を対電極槽45に移動(拡散)させることなく、処理層2側に留めることができる。したがって、対電極4の酸化反応に伴う微生物からの電子の引き抜きを防ぎながら、作用電極3から微生物へ電子を供給することができるので、本発明の効果をより得られ易くなる。さらには、対電極槽4に電解液を入れておくことで、対電極槽4による電子の引き抜き反応が電解液との間で完結するので、微生物からの電子の引き抜きが確実に防止される。
【0116】
また、イオン交換膜46を備えることで、作用電極3の電位を制御したときに、メタン発酵液1と電解液44との間でのイオン電流の流れが許容されるので、メタン発酵液1の電荷バランスを維持しながら、作用電極3の電位を制御し続けることができる。
【0117】
さらに、酸化還元物質をメタン発酵液1に添加することで、メタン発酵液1の溶液電位の制御性を高めて、メタン発酵液1の溶液電位を作用電極3の電位に近づけ易くなる。そして、イオン交換膜46を備えることで、メタン発酵液1に含まれている酸化還元物質の電解液44への透過を防ぐことができる。例えば、イオン交換膜46として、一価の陽イオンのみを透過する膜であるナフィオン膜を用いることで、酸化還元物質が鉄イオンである場合に、二価の鉄イオンや三価の鉄イオンはイオン交換膜46を透過しないことから、酸化還元物質を電解液44に透過させることなく、メタン発酵液1中に留まらせることができる。したがって、作用電極3の電位を制御すると、それに応じてメタン発酵液1中の酸化還元物質の酸化体と還元体の濃度比が変化し、作用電極3の電位によるメタン発酵液1の溶液電位の追随性が向上する。したがって、メタン発酵液1に存在する微生物を活性化させてその機能を向上させやすくなる。
【0118】
酸化還元物質としては、メタン発酵液1に浸されている作用電極3と可逆的に酸化還元反応を生じ得る物質であり、且つメタン発酵液1に生息している微生物に対して毒性を呈しない物質を用いることができる。例えば、上記のように、土壌成分として一般的な鉄イオンが挙げられる。ここで、鉄イオンをメタン発酵液中で安定に存在させるためには、鉄イオンをキレート剤に配位させてメタン発酵液中に添加することが好ましい。キレート剤としては、鉄イオンを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができる。また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲンを用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。特に、キノン化合物は土壌成分の一つとして知られている物質であり、好ましい。つまり、土壌そのものをメタン発酵液に添加することで、土壌に含まれている酸化還元物質によりメタン発酵液の酸化還元電位が制御できる場合がある。但し、酸化還元物質は上記した物質に限定されるものではない。
【0119】
尚、メタン発酵液1には、通常、酸化還元物質が含まれていることから、上記の酸化還元物質を添加せずともよい。特に、このメタン発酵処理方法では、少なくとも作用電極3の近傍のメタン発酵液1の溶液電位を制御できれば、作用電極3から微生物への電子の供給が生じてメタン発酵処理の促進効果が得られるので、酸化還元物質の添加は必須ではない。
【0120】
また、このメタン発酵処理では、処理槽2内のメタン発酵液1の液面よりも上部の空間11(ヘッドスペース)に滞留するメタンガスを含むバイオガスを処理槽2の外(処理装置の外)へ導く回収手段6を備え、この回収手段6により、処理槽2内のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法に限定されない。回収手段6として、例えば、処理槽2の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、処理槽2からバイオガスが漏れ出すことがない。
【0121】
さらに、メタン発酵装置では、処理槽2内のメタン発酵液1の液面よりも下部に、処理槽2内のメタン発酵液1を処理槽2の外に導く排出ポート12を備え、この排出ポート12からメタン発酵液1を採取(排出)するようにしている。但し、メタン発酵液1の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、処理槽2に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺してメタン発酵液1を採取するようにしてもよい。
【0122】
また、メタン発酵液1に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、処理槽2の外部からメタン発酵液1に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、蓋8の予備用孔8gから物質導入管を容器7内に挿入するようにしても良い。この場合には、メタン発酵液に栄養源、中和剤、メタン発酵汚泥等の物質を必要に応じて添加することができる。勿論、紙ごみをこの導入管から供給することもできる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできる。但し、メタン発酵液1に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、回収手段6や各ポート12,39,40等をメタン発酵液1に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んでメタン発酵液1に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0123】
尚、図1の水素発酵装置は、対電極4を発酵液1に浸漬するようにしているので、作用電極3の表面全体を使用することができる。したがって、作用電極3から微生物への電子の供給が行われやすくなり、メタン発酵処理が極めて安定且つ効率よく進行する。
【0124】
(二段階発酵処理)
【0125】
本発明の発酵処理装置(水素発酵装置Hとメタン発酵装置Mとの組み合わせ)を使用して、例えば以下の二段階発酵処理方法が実施される。
【0126】
前段の水素発酵処理は、メタン発酵処理と組み合わせて二段階発酵処理を行うのに好適な水素発酵処理である。水素発酵処理とメタン発酵処理を組み合わせて二段階発酵処理を行うことにより、水素発酵に関与する微生物とメタン発酵に関与する微生物をそれぞれの処理槽で最適な条件で維持して、有機性廃棄物を迅速且つ高効率に処理することができる。
【0127】
ここで、水素発酵処理とは、嫌気性微生物が有機性基質を酸発酵する過程で同時に水素ガスを生成する働きを利用したものである。有機性基質として有機性廃棄物を用いれば、有機性廃棄物の処理を行いながらエネルギー源として水素ガスを回収することができる。
【0128】
後段のメタン発酵処理では、前端の水素発酵処理により得られる発酵物を原料としてメタン発酵処理するようにしている。
【0129】
水素発酵装置Hでの水素発酵により得られる発酵物は、移送手段47により、メタン発酵装置Mに移送される。水素発酵装置Hで水素発酵処理を行った発酵液1を移送手段47によってメタン発酵装置Mに移送することで、水素発酵処理とメタン発酵処理を続けて行うことができる。即ち、メタン発酵処理の前処理として水素発酵処理を行い、そのままメタン発酵処理を行うことができる。
【0130】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0131】
例えば、上述の実施形態では、複数の作用電極を、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにしていたが、処理槽の内壁面に接触させて配置させてもよい。この場合には、作用電極を処理槽の内壁面から離して配置した場合よりも使用できる作用電極の面積が減少することから、作用電極を処理槽の内壁面から離して配置した場合よりも処理能力が劣るものになるとは言え、従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。また、複数の作用電極を間隔を開けずに並べ、且つ処理槽の内壁面に接触させて配置させてもよい。この場合にも、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにした場合よりも使用できる作用電極の面積が減少することから、リング状に間隔をあけて並べ、且つ処理槽の内壁面から離して配置するようにした場合よりも処理能力が劣るものになるとは言え、従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。
【0132】
また、複数の作用電極を設置するのではなく、作用電極をリング状に一体に形成し、これを処理槽内に配置してもよい。この際、この作用電極を処理槽の内壁に接触させて配置するようにしてもよいし、リング状に一体に形成された作用電極に1又は複数の発酵液の通液孔を設けるようにして、この作用電極を処理槽の内壁に接触させて、あるいは処理槽の内壁から離して配置するようにしてもよい。これらの場合にも従来の発酵装置よりも優れた処理能力が発揮され得る。
【実施例】
【0133】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。 尚、実施例に記載した電位の値は、特にことわりのない限り、銀・塩化銀電極電位基準における電位の値を意味している。
【0134】
[比較例1]
対電極に対して一対の作用電極を有する実験装置を用いて、メタン発酵反応の促進効果について検討した。
<実験装置及び実験方法>
本比較例において使用した実験装置の断面図を図9に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(Duran製)のうちの一方をメタン発酵槽126aとし、他方を対電極槽126bとし、下部開口部において陽イオン交換膜(ナフィオンK、デュポン製)106を介して2つのバイアル瓶を接続し、H字型の容器126とした。また、メタン発酵槽126aには排出部152と供給部151を設けた。メタン発酵槽126aには蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極を通した際の密閉製を確保した。また、蓋の上面のシリコーンゴム栓に管133を通し、メタン発酵槽126aの発酵液104の液面の上部の空間(ヘッドスペース)のガスを管133の一端から排出して、管の他端に接続された袋134にガスを回収するようにした。
【0135】
対電極槽126bには、電解液104aを収容すると共に対電極110(7.5cm×2.5cm×0.2cmの板状炭素電極)を収容して電解液104aに浸した。対電極槽126bも蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、シリコーンゴム栓にガス排出管122を貫通させた。そして、対電極110と電位制御装置112を結線するための配線131をガス排出管122に通した。ガス排出管122は両端が開口されており、一端を対電極槽126bの内部に、他端を対電極槽126bの外側に配置するようにして、対電極槽126bで発生するガスが対電極槽126bの外側に排出されるようにした。
【0136】
作用電極109(7.5cm×2.5cm×0.2cmの板状炭素電極)は、メタン発酵槽126aに収容して発酵液104に浸し、作用電極109から電位制御装置112への配線はシリコーンゴム栓を通してメタン発酵槽126aの外側に引き出した。参照電極111(銀・塩化銀電極)はメタン発酵槽126aの外側からシリコーンゴム栓に差し込んで、発酵液104と接触させた。作用電極109と対電極110と参照電極111とを3電極式の電位制御装置(ポテンシオスタット)112に結線して、作用電極109の電位を制御した。作用電極109のメタン発酵液に対する電極面積は、132cm2/Lであった。
【0137】
メタン発酵槽126aに収容される初期の発酵液104は、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lおよびアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)を終濃度0.2mMになるように添加した模擬生ゴミ基質(100g/L)でメタン発酵(55℃)を行って集積した種汚泥とした。電解液104aの組成は、NaCl 5.844 g/lとした。
【0138】
実験中は発酵液4のpHを7.4〜7.9に維持し、温度は55℃に維持した。また、発酵液104と電解液104aは攪拌子で攪拌し続けた。
【0139】
本比較例では、図10に示す負荷(有機物負荷量OLR、水理学的滞留時間HRT)をかけながら運転を行った。尚、メタン発酵槽の運転はフィルアンドドロー方式でおこなった。つまり一定量の発酵液を廃棄し、同量の基質を添加する方式で運転を行った。基質には、ドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/l(10重量%)、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lおよびアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)0.2mMを含む模擬生ごみ基質を用いた。
【0140】
作用電極109の電位は、参照電極111である銀・塩化銀電極電位基準で、−0.8Vとして、メタン発酵処理を行った。
【0141】
メタン発酵槽からのガスの生成速度の経時変化を測定した結果を図10に示す。有機物負荷量が26.8g/l/日未満では、有機物負荷量の増加に伴い、ガス生成速度が増加し続ける傾向が見られた。この傾向は、作用電極109の電位を+0.3Vとした場合、及び作用電極109の電位を作用電極109にて還元反応が生じ得る電位とした場合(例えば−0.6V)とした場合にも同様に見られた。
【0142】
これに対し、有機物負荷量が26.8g/l/日以上になると、ガス生成速度が低下し、メタン発酵不良が起こっていることが明らかとなった。
【0143】
[実施例1]
図4に示す発酵装置を用いて、比較例1と同条件で実験を行った。
【0144】
イオン交換膜46は、以下のように取り付けた。即ち、図8A及び図8Bに示すように、筒状隔壁22の開放部22aと蓋体50との間に、筒状隔壁22側から順に、第一シール材52a、第二シール材52b、イオン交換膜46、第三シール材52c、第四シール材52dを備えるようにした。第一シール材52aはシリコーンゴム製パッキンとした。第二シール材52bはプラスチック製の十字パッキンとした。第二シール材52bの突出部を筒状隔壁22の開放部22に嵌合させ、第一シール材52aは第二シール材52bの鍔部に載せた。これにより、蓋体50を筒状隔壁22に取り付ける際に、第一シール材52aをよじらせることなく、第一シール材52aを筒状隔壁22に密着させて固定させた。イオン交換膜46は第二シール材52bと第三シール材52cとの間に挟持させた。第三シール材52cはプラスチック製の十字パッキンとした。第四シール材はテフロン(登録商標)製のパッキンとし、蓋体50を回転させて締め付ける際の摩擦が軽減させて、イオン交換膜46をよじれさせることなく、第二シール材52bと第三シール際52cとの間に良好に介在させた。蓋体50はねじ蓋とし、蓋体50を筒状隔壁22の下端部のねじ山との螺合により締め付けることで、各シール材を押圧してシールした。蓋体50の開口部50aの直径は30mmとし、幅10mmのスリット5bを等間隔に4つ形成した。
【0145】
処理槽2の大きさは4L容とし、比較例1と同じ発酵液を4L収容した。
【0146】
作用電極3は、18cm×3.5cm×0.6cmの板状炭素電極とし、これを処理槽2内にリング状に等間隔で8枚並べ、且つ処理槽2の内壁から離して配置した。作用電極109のメタン発酵液に対する電極面積は、444cm2/Lであった。つまり、実施例1におけるメタン発酵液に対する電極面積は、比較例1の3.4倍とした。
【0147】
筒状隔壁22はガラス製とし、対電極(電解液)収容部分は高さ160mm、φ40mmとした。対電極4は、1cm×0.5cm×18cmの棒状炭素電極とした。
【0148】
処理槽2から排出されたガスの組成分析は、ガスクロマトグラフィー(GC390B、GLサイエンス製)により行った。
【0149】
発酵液1の低級脂肪酸濃度分析は、分析方法:液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、装置名GL-7400)により行った。
【0150】
COD(化学的酸素要求量)の分析は、分析方法:日本工業規格(JIS) K 0102-20により行った。
【0151】
SS(浮遊固形分量)の分析は、分析方法:JIS K 0102-14.1により行った。
【0152】
本実施例では、図11に示す負荷(有機物負荷量OLR、水理学的滞留時間HRT)をかけながら運転を行った。
【0153】
ガス生成速度の分析結果を図12に示し、低級脂肪酸濃度の分析結果を図13に示し、ガス組成分析結果を図14に示し、CODとSSの除去速度を図15に示す。
【0154】
図12〜図15に示す分析結果から、有機物負荷量が33.5g/l/日においても、ガス生成速度:11L/日、ガス中のメタン含有率:60%、COD除去率:65%、SS除去率:50%を示し、比較例1よりも遥かに高い有機物負荷量においても、発酵不良に陥る傾向が見られなかった。
【0155】
このことから、本発明の発酵装置の有効性が示された。即ち、発酵液を貯める処理槽と、処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えることで、有機物負荷量を大幅に向上させて、メタン発酵処理を極めて安定且つ効率的に実施し得ることが明らかとなった。
【0156】
また、蓋体50にスリット50bを形成せずに実験を行った場合には、開口部50aに気泡が滞留することに起因する電位制御不良が複数回生じたが、蓋体50にスリット50bを形成した場合には、電位制御不良が全く生じなかった。このことから、蓋体50にスリット50bを形成することが、電位制御不良を生じさせることなく、メタン発酵を安定に進行させる上で好適であることが明らかとなった。
【0157】
[参考例1]
<実験装置>
本参考例において使用した実験装置の断面図を図16に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(SHOTT製)を下部開口部で連結してH字型の容器126とした。そして、ガラスバイアル瓶の一方を作用電極槽126aとし、他方を対電極槽126bとした。作用電極槽126aには、排出部151と供給部152を設けた。作用電極槽126aには蓋をし、蓋の上面にシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極を作用電極槽126aの外から内に貫通させた際の密閉性を確保した。また、蓋の条件のシリコーンゴム栓に管133を通し、作用電極槽126aに収容された液体の液面の上部の空間(ヘッドスペース)のガスを管133の一端から排出して、管133の他端に接続された袋134にガスを回収するようにした。
【0158】
作用電極槽126aと対電極槽126bには、板状炭素電極(2.5cm×7.5cm×0.2cm)をそれぞれ配置し、作用電極109及び対電極110とした。また、容器126には発酵液104を収容して、作用電極109及び対電極110と接触させた。
【0159】
対電極槽126bも蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、シリコーンゴム栓にガス排出管122を貫通させた。そして、対電極110と定電位設定装置112を結線するための配線131をガス排出管122に通した。ガス排出管122は両端が開口されており、一端を対電極槽126bの内部に、他端を対電極槽126bの外側に配置するようにして、対電極槽126bで発生するガスが対電極槽126bの外側に排出されるようにした。
【0160】
作用電極槽126aの作用電極109から定電位設定装置112への配線はシリコーンゴム栓を通して処理槽126aの外側に引き出した。参照電極111(銀・塩化銀電極、HS−205C、東亜ディーケーケー社製)は作用電極槽126aの外側からシリコーンゴム栓に差し込んで、発酵液104と接触させた。作用電極109と対電極110と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット、PS−08P、東方技研製)112に結線して、作用電極109の電位を制御した。
【0161】
<発酵液組成と運転方式>
発酵液104は、以下の組成を有する溶液250mLに、模擬生ゴミでメタン発酵(55℃)を行って集積した汚泥を2mL添加して準備した。容器126の内部は窒素充填した。尚、酵母エキスは和光純薬工業株式会社製のものを使用し、DSMZミディアム131微量元素溶液(以下、微量元素溶液と呼ぶ)及びDSMZミディアム141ビタミン溶液(以下、ビタミン溶液と呼ぶ)はDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen)製のものを使用した。実験中は発酵液104の温度を55℃とした。また、実験期間中は、攪拌子により発酵液104を攪拌し続けた。
(溶液の組成)
KH2PO4 : 0.8g/L
K2HPO4 : 1.6g/L
NH4Cl : 1g/L
NaHCO3 : 2g/L
MgCl2・6H2O: 0.1g/L
CaCl2・2H2O: 0.2g/L
NaCl : 0.8g/L
酵母エキス : 1g/L
微量元素溶液 : 10mL/L
ビタミン溶液 : 10mL/L
【0162】
また、発酵液104には、2,6−アントラキノンジスルホン酸(2,6-anthraquinone disulfonate :AQDS)を0.2mMとなるように添加した。
【0163】
さらに、発酵液104には、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.8に調整した。
【0164】
運転方式はフィルアンドドロー方式とした。つまり一定量の発酵液104を廃棄し、同量の基質を添加する方式で運転を行った。基質には、上記組成の溶液にドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/L(10重量%)混濁させた模擬生ごみ基質を用いた。
【0165】
容器126には、上記組成の発酵液104を500mL収容して実験を行った。
【0166】
<分析方法>
生成ガス中の組成(メタン、水素、二酸化炭素)は、熱伝導率検出器と活性炭充填ステンレス鋼カラムを備えたガスクロマトグラフィー(GC390B、GLサイエンス製)により測定した。
【0167】
VFA(揮発性(低級)脂肪酸)の分析は、液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、GL-7400)により実施した。
【0168】
COD(化学的酸素要求量)の分析は、JIS K 0102-20により行った。
【0169】
<試験条件>
作用電極109の設定電位を−1.0Vにして14日間試験を行った。試験期間の有機物負荷量(OLR)は、8日目までは2445mg/L/日とし、その後は4890mg/L/日とした。水理学的滞留時間(HRT)は、8日目までは50日とし、その後は25日とした。
【0170】
<試験結果>
(1)pH
試験期間中のpHの変動結果を図17に示す。pHの変動は7.8〜6.6の間でしか見られず、試験期間中はpHが中性領域に維持されていることが確認された。
【0171】
(2)バイオガス生成速度とバイオガス組成
試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を図18に示す。試験開始から8日目までの間で徐々にバイオガス生成速度が低下し、その後、最終日までは徐々にバイオガス生成速度が上昇する傾向が見られた。
【0172】
また、4日目と最終日のバイオガス組成を分析したところ、以下の通り、4日目では全く生成されていなかった水素ガスが、最終日には多量に生成され、逆に4日目では多量に生成されていたメタンガスが最終日には殆ど生成されていないことが明らかとなった。
(4日目のガス組成)
・H2 : 0vol%
・CH4 : 52.27vol%
・CO2 : 47.73vol%
(最終日のガス組成)
・H2 : 35.20vol%
・CH4 : 1.40vol%
・CO2 : 63.39vol%
【0173】
ここで、上記の通り、試験期間中のpHは中性領域内で変動していたことから、通常はメタン発酵によるメタン生成が見られるはずである。しかしながら、最終日にはメタン生成が殆ど見られなかったことから、メタン発酵は殆ど停止しているものと考えられた。これに対し、最終日には、メタンのかわりに水素の生成がみられたことから、水素発酵が優占的に起こっている可能性が示唆された。
【0174】
また、バイオガス生成速度は、試験開始から8日目までの間で徐々に低下し、その後、最終日までは徐々に上昇したことから、試験開始から8日目までの間で徐々にメタン発酵が停止していき、その後最終日までは水素発酵が起こって徐々にバイオガス生成速度が上昇したものと考えられた。
【0175】
(3)作用電極9の電流値
作用電極109の電流値の経時変化を図19に示す。7〜8日目を境に、電流値(絶対値)が徐々に増加することが明らかとなった。
【0176】
尚、14日目の水素変換効率を、図19に示される電流値に基づきファラデーの法則を利用して計算した。具体的には、1モルの水素を発生させるためにはファラデー定数の2倍の電気量が必要であり、全ての電流が水素生成に使用されたと仮定して理論的水素発生量を計算した。そして、理論的水素発生量に対する実際の水素発生量を水素変換効率とした。その結果、水素変換効率は87.6%となった。
【0177】
(4)COD除去速度とCOD除去率
8日目から14日目について、COD除去速度とCOD除去率を求めた。
【0178】
COD除去速度は以下の式(1)により求めた。
X=(d/250)[S−C0−(Cn−C0)/{1−(1−d/250)n}]・・・・(1)
ここで、Xは1日当たりのCOD除去速度(mgCOD/L/日)であり、dはメタン発酵液の交換量であり、Sは基質のCOD(mg/L)である。また、C0は0日目のCOD(mg/L)であり、Cnはn日目のCOD(mg/L)である。
【0179】
式(1)について詳細に説明する。まず、1日目のCOD(C1)と2日目のCOD(C2)とn日目のCOD(Cn)とn+1日目のCOD(Cn+1)は、CODの除去速度が一定であると仮定すると、以下の様に表すことができる。尚、X×1は、1日で除去されるCOD(mg/L)を意味している。
C1=(1−d/250)C0+(d/250)S−X×1 ・・・・(2)
C2=(1−d/250)C1+(d/250)S−X×1 ・・・・(3)
Cn=(1−d/250)Cn−1+(d/250)S−X×1 ・・・・(4)
Cn+1=(1−d/250)Cn+(d/250)S−X×1 ・・・・(5)
【0180】
(5)式から(4)式を引くと、以下の式が得られる。
Cn+1−Cn=(1−d/250)(Cn−Cn−1)・・・・(6)
【0181】
ここで、式(6)は、以下の式に変形することができる。
Cn+1−Cn=(1−d/250)n(C1−C0)・・・・(7)
【0182】
したがって、n=n−1、n−2、・・・1、0の場合の式(7)は、以下の様に表される。
Cn−Cn−1=(1−d/250)n−1(C1−C0)・・・・(8)
Cn−1−Cn−2=(1−d/250)n−2(C1−C0)・・・・(9)
C2−C1=(1−d/250)(C1−C0)・・・・(10)
C1−C0=(1−d/250)0(C1−C0)・・・・(11)
【0183】
よって、式(7)について、n=n−1、n−2、・・・1、0として総和をとると、以下の式が導かれる。
Cn−C0={(1−d/250)n−1+(1−d/250)n−2+・・・・+(1−d/250)+1}(C1−C0)・・・・(12)
【0184】
そして、式(12)に式(2)を代入し、C1を消去して整理することで、式(1)が導かれる。
【0185】
本参考例では、8日目のメタン発酵液のCODが32200mg/Lであった。また14日目のメタン発酵液のCODが49100mg/Lであった。また、基質CODは122250mg/Lであった。そして、8日目からはメタン発酵液を10mL取り出して新たに基質を10mL添加した。したがって、S=122250、d=10、Cn=49100、C0=32200としてCOD除去速度Xを計算すると、X=882(mg/L/日)となった。
【0186】
ここで、1日の有機物負荷量が4890mg/L/日であるから、計算したXの値をこの値で割ってCOD除去率を計算した。その結果、COD除去率は18%であった。
【0187】
この計算結果から、8日目から14日目までにおいて、基質由来のCODが確実に除去されていることが明らかとなった。
【0188】
(5)VFA濃度
14日目にメタン発酵液のVFA濃度を測定した結果、酢酸82mM、プロピオン酸9mM、酪酸25mMであり、VFA濃度は115mMであることが明らかとなった。これをCODに換算すると、10961mg/Lとなる。14日目のメタン発酵液のCODは49100mg/Lであったことから、基質の多くがVFAとして残存していると考えられた。尚、4日目にメタン発酵液のVFA濃度を測定した結果、酢酸47mM、プロピオン酸3.3mM、酪酸3.6mMであり、VFA濃度は54mMであった。
【0189】
(6)まとめ
以上、8日目から14日目までにおいて、基質由来のCODが確実に除去されていると共に、VFAの蓄積(特に水素発酵における主要代謝産物である酢酸と酪酸の蓄積)も見られたことから、水素発酵によって基質由来のCODが除去された結果として水素が生成されているものと考えられた。尚、4日目においては、水素が生成されなかったことから、本参考例で印加した電圧では水の電気分解はほとんど起こらず、投入した電気エネルギーが水素発酵を促進する結果として水素生成が生じたものと考えられた。
【0190】
[参考例2]
参考例1の実験結果に基づき、さらに詳細な検討を行った。
【0191】
<実験装置>
基本構成は参考例1と同様の実験装置とした。但し、対電極槽126bで発生するガスを袋で回収して、作用電極槽126aからのガス(カソードガス)と対電極槽126bからのガス(アノードガス)の双方を回収して分析に供した。
【0192】
<発酵液組成と運転方式>
発酵液104は、模擬生ゴミでメタン発酵(55℃)を行って集積した汚泥を500mL収容して使用した。容器126の内部は窒素充填した。酸化還元物質として機能するAQDSは本参考例では使用しなかった。また、水酸化ナトリウム(5N)を添加して、発酵液104の初期pHを7.2に調整した。
【0193】
運転方式は、参考例1と同様とした。但し、基質には、以下の組成の溶液にドッグフード(日本ペットフード製、Vita-one)を100g/L(10重量%)混濁させた模擬生ごみ基質を用いた。
(溶液の組成)
KH2PO4 : 1.1g/L
K2HPO4 : 1.7g/L
NiCl2・6H2O: 0.004g/L
CoCl2・6H2O: 0.005g/L
【0194】
尚、模擬生ごみ基質のCODcr(dichromate chemical oxygen demand)は122.3gCODcr/Lであり、SS(suspended solid)は53.3g/Lであった。
【0195】
また、試験期間中は、1日1回、発酵液に水酸化ナトリウム(5N)を添加して、pHを7.2に調整した。
【0196】
<分析方法>
参考例1と同様とした。
【0197】
<試験条件>
(1)試験1
作用電極109の設定電位を−1.0Vとして64日間試験を行った。試験期間中の有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)は図20に示す通りとした。具体的には、1〜9日目では模擬生ごみを5mL/日投入し(HRT:50日、OLR:2445mg/l/日)、10〜17日目では模擬生ごみを10mL/日投入し(HRT:25日、OLR:4890mg/l/日)、18〜24日目では模擬生ごみを20mL/日投入し(HRT:12.5日、OLR:9780mg/l/日)、25〜38日目では模擬生ごみを40mL/日投入し(HRT:6.25日、OLR: 19560mg/l/日)、39〜47日目では模擬生ごみを60mL/日投入し(HRT:4.17日、OLR:29340mg/l/日)、48〜54日目では模擬生ごみを80mL/日投入し(HRT:3.13日、OLR:39120mg/l/日)、55〜59日目では模擬生ごみを100mL/日投入し(HRT:2.5日、OLR:48900mg/l/日)、60〜64日目では模擬生ごみを120mL/日投入した(HRT:2.1日、OLR:58680mg/l/日)。試験は3連で実施し、試験結果はその平均値、標準偏差のエラーバーにて示した。
【0198】
(2)試験2(比較試験A)
250mL容の容器に試験1と同様の発酵液を収容し、窒素充填して密閉して、通電を行うことなく試験を実施し、これを比較試験Aとした。但し、塩酸(1N)を添加して初期pHを5.5とし、その後はpHの調整を行うことなく試験を実施した。バイオガスは容器内のヘッドスペースから回収した。
【0199】
(3)試験3(比較試験B)
発酵液104に存在している微生物を失活させて、微生物不存在下での通電試験を比較試験Bとして実施した。具体的には、試験1と同様の条件で模擬生ごみ基質を5mL添加した状態で実験装置ごとオートクレーブ処理(120℃、15分)し、作用電極109の設定電位を−1.0Vまたは−1.4Vとしてカソードガスを回収した。通電期間はそれぞれ1日とした。
【0200】
<試験結果>
(1)バイオガス生成速度
試験期間中のバイオガス生成速度の経時変化を図21に示す。図21中、●が試験1のカソードガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示し、■が試験1のアノードガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示し、×が試験2のバイオガス生成量に基づくバイオガス生成速度を示している。作用電極109を−1.0Vとして通電を行った試験1では、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、バイオガス生成速度も上昇する傾向が見られ、この傾向は最終日まで継続して見られた。これに対し、通電を行っていない試験2では、24日目以降はバイオガスの生成が見られなくなった。
【0201】
(2)水素生成速度
バイオガス中の水素含有量の測定結果に基づき、有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を求めた結果を図22に示す。図22中、●が試験1のカソードガス生成量に基づく水素生成速度を示し、■が試験1のアノードガス生成量に基づく水素生成速度を示し、▲が試験2のバイオガス生成量に基づく水素生成速度を示している。作用電極109を−1.0Vとして通電を行った試験1では、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、徐々に水素生成速度が上昇する傾向が見られ、この傾向が最後まで継続して見られた。最終的な水素生成速度(有機物負荷量:58680mg/l/日)は、作用電極槽側(カソード槽側)で2445mL/L/日であり、対電極槽側(アノード槽側)で2130mL/L/日であった。これに対し、通電を行っていない試験2では、水素の生成が殆ど見られなかった。
【0202】
(3)pH
試験期間中の発酵液のpHの変動を図23に示す。図23中、●が試験1の作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液のpHを示し、■が試験1の対電極槽側(アノード槽側)の発酵液のpHを示し、×が試験2の発酵液のpHを示している。尚、試験1において、pH測定は、水酸化ナトリウム添加による1日1回のpH調整の直前に実施した。図23に示される結果から、試験1では、作用電極槽側及び対電極槽側の発酵液ともに25日目以降(有機物負荷量:19560mg/l/日以上)の運転においては、1日でpHが7.2→5.5〜6.4程度まで低下する傾向が見られた。通電を行っていない試験2においては、pHが4.7〜5.5程度に維持されており、水素発酵が生じうるpHが維持されていたが、上記の通り水素生成は殆ど見られなかった。
【0203】
(4)VFA濃度
試験期間中の発酵液のVFA濃度の経時変化を図24Aと図24Bに示す。図24Aが試験例1の作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液の有機物負荷量(OLR)に対するVFA濃度であり、図24Bが試験2の発酵液の有機物負荷量(OLR)9780mg/l/日におけるVFA濃度である。また、図中、■はトータルのVFA濃度(乳酸+酢酸+プロピオン酸+酪酸)を示し、×は乳酸濃度を示し、○は酢酸濃度を示し、△はプロピオン酸濃度を示し、●は酪酸濃度を示している。尚、試験例1において、作用電極槽側(カソード槽側)の発酵液は、対電極槽(アノード槽側)の発酵液とほぼ同様のVFA濃度及びVFA組成(乳酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の組成)を有していた。
【0204】
図24Aに示される結果から、試験1の発酵液では、主に酢酸と酪酸の生成が見られ、乳酸の生成は殆ど見られなかった。これに対し、図24Bに示される結果から、試験2の発酵液では、主に乳酸の生成が見られた。尚、発酵液のpHの低下は、VFA成分の生成によって生じたものであると考えられた。
【0205】
ここで、水素発酵は、以下の式に示すように、グルコース等の基質を分解する過程で、水素、二酸化炭素、酢酸、酪酸が生成される反応系である(参考文献1:Liu, D., Liu, D., Zeng, R.J., Angelidaki, I. 2006. Water Res. 40, 2230-2236.、参考文献2:Ueno, Y., Sasaki, D., Fukui, H., Haruta, S., Ishii, M., Igarashi, Y. 2006. J. Appl. Microbiol. 101, 331-343.)
C6H12O6+2H2O→4H2+2CH3COOH+2CO2 ・・・・(化学式1)
C6H12O6→2H2+CH3CH2CH2COOH+2CO2 ・・・・(化学式2)
また、乳酸発酵は、ホモ乳酸発酵とヘテロ乳酸発酵の二つの発酵形式が存在する。
ホモ乳酸発酵は、グルコース等の基質を以下の式にしたがって分解し乳酸を生成する。この際、副産物は殆ど生成されない(東京化学同人、生化学辞典、第3版)。
C6H12O6→2CH3CH(OH)COOH ・・・・(化学式3)
ヘテロ乳酸発酵では、乳酸以外に、エタノール、酢酸、グリセロール、炭酸ガス等が生成される。副産物の生成比率は必ずしも一定ではないが、代表的には以下の二つの物質収支式が挙げられる。
C6H12O6→CH3CH(OH)COOH+C2H5OH+CO2 ・・・・(化学式4)
2C6H12O6+H2O→2CH3CH(OH)COOH+CH3COOH+C2H5OH+2CO2+2H2・・・・(化学式5)
以上の発酵過程を考慮すると、上記試験結果から、酢酸と酪酸の生成が主に見られた試験1の発酵液中では水素発酵が優占的に進行しており、乳酸の生成が主に見られた試験2の発酵液中では、乳酸発酵が優占的に進行しているものと考えられた。つまり、試験1では、水素を生成する上でより有利な発酵形態である水素発酵が優占的に進行しているものと考えられた。
【0206】
(5)試験3について
試験3を実施した結果、作用電極109の設定電位を−1.0Vとしても、カソードガス及びアノードガスともに水素の生成は殆ど見られなかった。このことから、試験1において得られた結果は、水の電気分解によって生じた水素に起因するものではなく、発酵液中に存在する水素発酵を行う微生物群が優占的に活性化されて生じた水素に起因するものであることが明らかとなった。尚、作用電極109の設定電位を−1.4Vとした場合には、作用電極槽側(カソード槽側)から多量の水素が回収され(110.9mL/L/日)、水の電気分解が生じることが確認された。但し、−1.4Vよりも絶対値基準で小さい電位とすれば(例えば−1.3Vや−1.2V等)とすれば、水の電気分解は殆ど起こらなかった。
【0207】
(6)水素回収率とエネルギー回収率
カソード槽側の水素回収率(γcat)を参考文献3(Call, D., Logan, B.E. 2008. Environ. Sci. Technol. 42, 3401-3406.)に基づき計算した。具体的には、以下の式を用いて計算を行った。
γcat=nH2/nCE ・・・・ (a)
式(a)中、nH2は回収された水素のモル数であり、nCEは測定された電流値(I)から生成され得る水素のモル数である。
【0208】
エネルギー回収率は、以下の式に示す電気的入力に基づいて計算した。
ηW=WH2/Win ・・・・ (b)
式(b)中、WH2(単位:J)は生成された水素の燃焼熱であり(水素1モル当たり285.83kJの熱量)、Win(単位:J)は以下の式により決定される電気的入力である。
Win=IEap ・・・・ (c)
式(c)中、Eapはポテンシオスタットを用いて印加された電圧である。
【0209】
水素回収率とエネルギー回収率について計算した結果を図25に示す。図25中、◆が水素回収率を示し、■がエネルギー回収率を示している。
【0210】
図25に示される結果から、有機物負荷量(OLR)の増加に伴って、水素回収率が増加することがわかった。そして、仮に作用電極からの全ての電子が水素生成のための電気分解に使用されている場合には、水素回収率は100%となるが、本参考例の計算結果では、有機物負荷量58680mg/l/日における水素回収率が4987%であったことから、生成された水素の殆どが発酵液に投入した模擬生ごみ基質に由来するものであることもわかった。
【0211】
また、図25に示される結果から、有機物負荷量(OLR)の増加に伴って、エネルギー回収率が増加し、有機物負荷量58680mg/l/日においては、エネルギー回収率が3887%となった。
【0212】
以上の結果から、試験1において発生した水素の殆どは、電気化学的な反応から直接生成されたものではないことが明らかとなった。
【0213】
(7)まとめ
以上の結果から、メタン発酵槽から採取したメタン発酵汚泥を利用して、水素発酵を優占的に進行させることが可能であることが明らかとなった。また、図26(図中、●がカソードガスであり、□がアノードガスである。)に示す通り、作用電極の電位を−1.2Vとした場合にも、−1.0Vとした場合と同様に水素発酵を優占的に進行させることができることが確認できた。このことから、作用電極の電位A(単位:V)をA≦−1.0とすれば、水素発酵を優占的に進行させることが可能であると考えられた。但し、作用電極の電位Aをマイナス側に大きくし過ぎると、投入する電力量が大きくなる結果として水素製造効率が低下したり、水の電気分解が激しく起こることによる電極の劣化が生じたり、硫酸還元菌の優占化を招いて硫酸還元菌に水素が消費されたりする場合があるので、−1.4<A≦−1.0とするのが好適であり、−1.2≦A≦−1.0とするのがより好適であると考えられた。
【0214】
[参考例3]
参考例1及び2で使用したような2つの容器を連結したH型の装置ではなく、1つの容器120内に発酵液104を250mL収容し、発酵液に作用電極109と対電極110と参照電極112を浸漬した型の装置を使用した以外は、参考例2の試験1と同様の条件で試験を実施し、使用する装置の形状等に依らず、通電により水素発酵反応を優占的に進行させられるか否かを検討した。参考例3の試験における有機物負荷量(OLR)と水理学的滞留時間(HRT)を図27に示す。
【0215】
参考例2と同様、バイオガス中の水素含有量の測定結果に基づき、有機物負荷量(OLR)に対する水素生成速度を求めた結果を図28に示す。参考例2と同様に、有機物負荷量(OLR)の増加に伴い、徐々に水素生成速度が上昇する傾向が見られ、この傾向が最後まで継続して見られた。最終的な水素生成速度(有機物負荷量:58680mg/l/日)は、2288mL/L/日であった。また、通電を行わなかった場合には、水素の生成は殆ど見られなかった。以上の結果から、参考例3の試験においても、参考例2と同様に、水素発酵反応が優占的に進行していることが確認できた。
【0216】
したがって、使用する装置の形状等によらず、通電により水素発酵反応を優占的に進行させられることが確認できた。また、参考例3のような単純な構成の装置でも水素発酵反応の優占化が可能であることからすれば、要は発酵液に作用電極と対電極とを浸漬して、作用電極の電位を一定の範囲に制御すれば、装置構成に限定されることなく、水素発酵反応を優占的に進行させることが可能であることも明らかとなった。
【0217】
[参考例1〜3のまとめ]
以上、参考例1〜3に示される結果から、本発明の発酵装置のように、リング状に間隔をあけて並べられると共に処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、処理槽内に設けられ、作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電源を備えた発酵装置を用いた場合にも、水素発酵を行う微生物群を活性化させて、水素発酵処理を安定且つ効率よく実施し得るものと考えられた。また、本発明の発酵装置を用いることで、処理槽内に収容される発酵液の量に対して、作用電極の面積を高められると共に、電位制御も良好に行い得るので、水素発酵処理をより安定且つ効率よく実施し得るものと考えられた。
【符号の説明】
【0218】
1 発酵液
2 処理槽
3 作用電極
4 対電極
5 電源
6 回収手段
44 電解液
45 対電極槽
46 イオン交換膜
47 移送手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵液を貯める処理槽と、前記処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、前記処理槽内に設けられ、前記作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加する電源を備えることを特徴とする発酵処理装置。
【請求項2】
前記電源は定電位設定装置であり、前記作用電極の配列と前記対電極の間に参照電極を設け、前記参照電極を前記電源に接続したことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項3】
前記処理槽に水素生成菌を含む発酵液を貯めると共に、前記処理槽の上方に前記処理槽で発生した水素ガスを回収する回収手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項4】
前記作用電極を微生物を担持し得る疎水性の導電性担体とし、前記処理槽にメタン生成菌を含む発酵液を貯めると共に、イオン交換膜を少なくとも一部に備える対電極槽を設けて、前記対電極槽に電解液を貯めて前記対電極を前記電解液に接触させ、前記対電極槽を前記発酵液に浸して前記発酵液と前記電解液をイオン交換膜を介して接触させ、前記処理槽の上方に前記処理槽で発生したメタンガスを回収する回収手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項5】
前記対電極槽の前記発酵液及び前記電解液と接する部分に開放部が設けられ、前記開放部には前記開放部を塞ぐ面の少なくとも一部に開口部が設けられた蓋体が着脱可能に取り付けられ、前記イオン交換膜が前記開放部を塞ぐように前記蓋体にて固定されている請求項4記載の発酵処理装置。
【請求項6】
前記蓋体の前記開口部から前記蓋体の側面に向けて1又は2以上のスリットが形成されている請求項5記載の発酵処理装置。
【請求項7】
請求項3記載の発酵処理装置と、請求項4〜6記載の発酵処理装置と、請求項3記載の発酵処理装置の処理槽内と請求項4記載の発酵処理装置の処理槽内とを連通し、請求項3記載の発酵処理装置によって水素発酵処理された発酵液を請求項4記載の発酵処理装置の処理槽内に移送する移送手段を備えることを特徴とする発酵処理装置。
【請求項1】
発酵液を貯める処理槽と、前記処理槽内に設けられ、リング状に間隔をあけて並べられると共に前記処理槽の内壁面から離して配置された複数の作用電極と、前記処理槽内に設けられ、前記作用電極の配列の中心に設けられた対電極と、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加する電源を備えることを特徴とする発酵処理装置。
【請求項2】
前記電源は定電位設定装置であり、前記作用電極の配列と前記対電極の間に参照電極を設け、前記参照電極を前記電源に接続したことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項3】
前記処理槽に水素生成菌を含む発酵液を貯めると共に、前記処理槽の上方に前記処理槽で発生した水素ガスを回収する回収手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項4】
前記作用電極を微生物を担持し得る疎水性の導電性担体とし、前記処理槽にメタン生成菌を含む発酵液を貯めると共に、イオン交換膜を少なくとも一部に備える対電極槽を設けて、前記対電極槽に電解液を貯めて前記対電極を前記電解液に接触させ、前記対電極槽を前記発酵液に浸して前記発酵液と前記電解液をイオン交換膜を介して接触させ、前記処理槽の上方に前記処理槽で発生したメタンガスを回収する回収手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の発酵処理装置。
【請求項5】
前記対電極槽の前記発酵液及び前記電解液と接する部分に開放部が設けられ、前記開放部には前記開放部を塞ぐ面の少なくとも一部に開口部が設けられた蓋体が着脱可能に取り付けられ、前記イオン交換膜が前記開放部を塞ぐように前記蓋体にて固定されている請求項4記載の発酵処理装置。
【請求項6】
前記蓋体の前記開口部から前記蓋体の側面に向けて1又は2以上のスリットが形成されている請求項5記載の発酵処理装置。
【請求項7】
請求項3記載の発酵処理装置と、請求項4〜6記載の発酵処理装置と、請求項3記載の発酵処理装置の処理槽内と請求項4記載の発酵処理装置の処理槽内とを連通し、請求項3記載の発酵処理装置によって水素発酵処理された発酵液を請求項4記載の発酵処理装置の処理槽内に移送する移送手段を備えることを特徴とする発酵処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24A】
【図24B】
【図25】
【図26】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24A】
【図24B】
【図25】
【図26】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−223988(P2011−223988A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46382(P2011−46382)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物群のデザイン化による高効率型環境バイオ処理技術開発/デザイン化微生物群を用いた高効率型固定床メタン発酵の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物群のデザイン化による高効率型環境バイオ処理技術開発/デザイン化微生物群を用いた高効率型固定床メタン発酵の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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