説明

発酵容器

本発明は発酵容器を備える発酵装置(10)に関し、発酵容器は、容器の底部にある開口(16)を介して容器に入るシャフト(14)と、そのシャフトに取り付けられて、容器内でシャフトとともに回転する1つ又はそれ以上の攪拌要素(18)とからなる低速攪拌器、シャフトと開口の間の隙間を密封するように設けられ、容器の底部に取り付けられている円筒形状のハウジング内に配置されているシール(20)を有し、このシールが互いに軸方向に隔置され、互いの間にチャンバ(64)が画定されている第1及び第2のシールアセンブリ(30、50)を有し、入口(66)が、処理気体の供給をチャンバに接続するようにチャンバに開口し、第1のシールアセンブリ(30)が、発酵容器とチャンバの間に配置され、かつともに回転するようにシャフトに取り付けられている座(32)及び回転に関して固定されているがハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられている嵌合リング(36)を含み、嵌合リングの密封面(44)が座の密封面(42)と係合するように弾性的に付勢され、嵌合リング及び座の一方の密封面に、シャフトが回転する際に密封面の流体力学的分離をもたらす溝(68)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵容器に関し、より詳細には、生物学的用途で細胞培養又は水中の微生物に給気するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような容器において、酸素の十分な供給は、好気性の微生物の増殖及び培養に不可欠であり、したがって水中の発酵工程を利用するバイオ技術において経済的な製品収量を達成するのに重要である。水中の発酵工程における通常の酸素の供給は、発酵容器の底部の固定された給気リングを介して酸素を含む気体を導入することにより実施されている。発酵工程の効率は、液体成長培地に対する気体/液体界面を越える酸素の移動速度に依存する。この移動速度は、容器内に導入される酸素の泡の寸法に依存する界面の総面積に主に依存し、より小さな泡により、一層大きな面積の界面となる。
【0003】
従来の発酵装置では、容器の底部に導入される気体の泡は、泡が容器を上方に移動する際、より大きな泡へと集まる傾向を有する。抗凝固薬を利用してこの効果を低減することができる。しかしながら、そのような薬剤は製品の品質に不利に作用することがある。
【0004】
現在までの、凝固の問題に対する代替的な解法は、機械的な攪拌器を使用して大きな泡を細かくすることであった。そのような攪拌器を効果的にするためには、現代のバイオ技術において使用される細胞培養に弊害をもたらすことがある高速度を必要とする。さらに、生物質量の急速な攪拌は熱を導入し、適切な動作温度を維持するために装置を冷却する必要があり、結果として高いエネルギーコストを生じる。
【0005】
欧州特許明細書EP1479758は、容器内の複数の別個の水平位置に、中空攪拌体シャフトを介して発酵容器内に酸素を導入し、低速度の攪拌手段が各水平位置にもたらされる発酵装置を開示する。この構成は、低い攪拌速度において、得られる気体/液体の総界面の増加を可能とする。しかしながら、この解法は、比較的高価であり、大規模な発酵容器に対する培地にのみ適する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凝固の問題に対して、小規模な発酵容器に適する費用効果の高い解法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、用語処理気体は、純気体又は、少なくとも1つの成分を含む気体混合物を意味し、純気体又は少なくとも1つの成分は、発酵工程において微生物により代謝され得るものである。
【0008】
本発明の一局面によれば、発酵装置は発酵容器からなり、その発酵容器は、容器の底部の開口を介して容器に入るシャフト、シャフトに取り付けられてともに回転する1つ又はそれ以上の攪拌要素からなり、1つ又は各攪拌要素が容器内に配置されている低速攪拌器と、シャフトと開口の間の隙間を密封するように設けられている密封手段とを有し、密封手段が、容器の底部を介してシャフトが通過するように、容器の外側かつシャフトを取り囲んで容器の底部に取り付けられている円筒形状のハウジングを有し、シャフトとハウジングの間で機能する第1及び第2のシールアセンブリが軸方向で隔置されて設けられて互いの間にチャンバを画定し、入口がチャンバに開口して、処理気体の供給をチャンバに接続し、発酵容器とチャンバの間に配置されている第1のシールアセンブリが、シャフトとともに回転するようにシャフトに取り付けられている座と、回転に関して固定されているが、ハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられている嵌合リングとを含み、嵌合リングの密封面が、座の密封面と係合するように弾性的に付勢され、嵌合リング及び座の一方の密封面が溝を有し、その溝が、シャフトが回転する際、密封面の流体力学的分離をもたらし、チャンバ内の処理気体が密封面を横切る内部へのかつ発酵容器内への流れを可能とし、溝が嵌合リング又は座の外側周囲に隣接した連続的なダム構造体により境界付けられ、それによってシャフトが静止しているとき、一方の密封面のダム構造体が他方の密封面と密封するように係合する。
【0009】
座及び嵌合リングの面が、使用される微生物の要求を満足するように、発酵容器内への処理気体の最適な通路を可能とするのに十分な密封面間の流体静力学的及び/又は流体動力学的分離をもたらす。
【0010】
上記した装置では、シャフトが回転すると、流体静力学的/流体動力学的効果により、密封面が離れて運動し、チャンバから発酵容器内へと密封面間を気体が流れる。シールハウジングにより画定されるチャンバに送られる処理気体は、したがって発酵容器に送られる。密封面間に形成されている狭い隙間と高いせん断力のため、このようにして、非常に小さな泡が形成され、座の回転により生じる遠心力が、発酵容器内の液体と泡を効果的に混合する。これらの効果の双方により、発酵容器内で気体/液体界面が増大し、したがって、低速においてさえも、処理気体の移動速度が増大する。また、密封面は、チャンバ内の圧力が所定値を越えると、流体静力学的な力により離れて運動し、それにより、シャフトが回転していなくとも、チャンバ内に十分な圧力が存在し、処理気体は発酵容器に送られる。シャフトが回転を停止し、チャンバ内の流体の圧力が所定値を下回ると、シールリングの弾性的な付勢により、一方のリングのダム構造体が他方のリングと密封して係合するように押し付けられ、流体密封のシールが形成される。
【0011】
本発明による流体動力学的シールの利用は、また、シャフトが回転しているとき、密封面が分離し、それによって密封面の磨耗が生じることがないという利点を有し、そうでなければ密封面の破片が発酵工程による製品を汚染する。
【0012】
本発明の好適な実施形態によれば、発酵容器内の泡の分配を高めるために、偏向した構造体が、密封面に隣接する座の外側周囲に設けられている。
【0013】
さらに、添付の図面を参照して、一例として本発明を記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、発酵装置10は、例えば液体微生物増殖培地が収容されている発酵容器12を含む。シャフト14は、容器12の底部の開口16を介して回転可能に取り付けられている。混合要素18が、容器12内でシャフト14に取り付けられ、シャフト14は容器12の外部の駆動手段(図示せず)に接続され、駆動手段により、シャフト14は低速で回転し、微生物増殖培地を低エネルギーで攪拌する。
【0015】
開口16は、流体動力学的密封手段20により閉鎖され、シャフト14と容器20の間にシールがもたらされる。密封手段20は、容器12の底部に固定され、シャフト14が容器12に入るようにシャフト14を取り囲む円筒形状のハウジング22を含む。第1のシールアセンブリは、発酵容器12内で、シャフト14が回転するように取り付けられている座32を有する。座32はエラストマー製のリング34によりシャフト14に対して密封されている。嵌合リング36が、ハウジングの内側端部に隣接して、ハウジング22に取り付けられている。嵌合リング36は、ハウジングに対する回転が防止されてハウジングに対して固定されているが、ハウジング22の軸方向に移動可能である。シールリング38は、ハウジング22に対して嵌合リング36を滑動可能に密封し、角度に関して隔置されている一連の圧縮コイルばね40が、ハウジング22と嵌合リング36の間で軸方向に作用し、座32の密封面44と密封して係合するように嵌合リング36の密封面42を付勢する。
【0016】
第2のシールアセンブリ50が、ハウジング22の外側端部に隣接して取り付けられている。第2のシールアセンブリ50は、ハウジング22に対して回転及び軸方向に固定した関係で取り付けられ、エラストマー製のリング54によりハウジングに対して密封されている。嵌合リング56は、シャフト14の支持リング58に取り付けられ、嵌合リングは、シャフトに対して回転方向で固定されているが、シャフトの軸方向に移動可能であり、嵌合リングは、シールリング60により支持リング58に対して滑動可能に密封されている。角度に関して隔置されている一連の圧縮コイルばね62が、支持リング58と嵌合リング56の間で軸方向に作用し、座52と密封して係合するように嵌合リング56を付勢する。
【0017】
したがって、第1及び第2のシールアセンブリ30、50は、発酵容器12の外部にチャンバ64を画定する。入口66がチャンバに設けられ、入口66は、処理気体の源に接続されている。
【0018】
座32の密封面44は、角度に関して隔置されている一連の螺線状の溝68を有する。溝68は、嵌合リング36の密封面42の内径の直径方向内側から密封面42、44の外径の直径方向内側へと外側に延伸し、溝68は、シャフト14の回転方向に対して鈍角に傾斜している。このようにして、連続的なダム構造体70が、密封面44にもたらされ、シャフト14が静止し、チャンバ60内の圧力が所定値を下回る場合、密封面44は、密封面42と係合し、発酵容器12から微生物増殖培地の漏れることが防止される。
【0019】
シャフト14が回転すると、チャンバ64内の処理気体が溝68内に押し込まれ、ダム構造体70に隣接する高圧領域を生成し、密封面42、44を分離させて、密封面42、44の間に狭い隙間が形成される。狭い隙間によって、密封面の間に気体が流れ、微生物増殖培地に小さな泡が生じ、泡は、座32の遠心作用により容器12全体にわたって分配される。シャフト14が静止している場合でさえも、チャンバ60内にもたらされる気体の圧力が所定値、例えば2.5×105Pa(2.5bar)を上回れば、流体静力学的な力により密封面42、44が開き、容器12に気体を浸入させる。
【0020】
図2に示すように、軸方向に延伸する羽72が、混合要素18を増やし又は置き換えるように座32の周表面に設けられ、遠心作用が強化され、増殖培地全体にわたる泡の分配が改善される。
【0021】
図3及び4に示す実施形態では、楔形状の環状構造体74、76が、密封面44に隣接して、座32の周表面に設けられている。楔形状の構造体74、76は、座32から泡が離れる、したがって増殖培地全体にわたって泡が分配される位置の直径を増大させる。楔形状の構造体74、76は、座32と一体化して形成することもでき、又はPTFEのような低摩擦材料から別個に形成することもできる。
【0022】
気体の泡が密封面にまとわりつくことを阻止するために、座32及び嵌合リング36を表面エネルギーの低い材料から形成することが好ましく、又は、その密封面は表面エネルギーの低い材料で覆われる。そのような材料には、PTFEのようなフッ化炭素、又はダイアモンド、ダイアモンド状の材料が含まれる。
【0023】
本発明から逸脱することなく、種々の変更が含まれる。例えば、上記の実施形態では、密封面44の溝68が流体静力学的及び流体動力学的な分離をもたらすが、代替的に、密封面42、44に角を付けることにより、チャンバ64内の圧力が所定値を超えると、面42、44の流体静力学的分離がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による発酵装置の、側断面の概略図である。
【図2】図1に示す実施形態に対する変更を示す図である。
【図3】図1に示す装置に対するさらなる変更を示す図である。
【図4】図1に示す装置に対するさらなる変更を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵容器(12)からなる発酵装置(10)であって、
該発酵容器(12)が、前記容器(12)と同軸に取り付けられて、当該容器(12)の底部の開口(16)を介して当該容器(12)に入るシャフト(14)と、該シャフト(14)に取り付けられてともに回転する、前記容器(12)内に配置されている1つ又はそれ以上の攪拌要素(18;72)とからなる低速度攪拌器、
前記容器(12)の底部を介して前記シャフト(14)が通過するように前記シャフト(14)を取り囲むとともに、前記容器(12)の外部で、当該容器(12)の底部に取り付けられている円筒形状のハウジング(22)を有して、前記シャフト(14)と開口(16)の間の隙間を密封するように設けられている密封手段(20)を備えているものにおいて、
前記シャフト(14)とハウジング(22)の間で機能する第1及び第2のシールアセンブリ(30、50)が軸方向に隔置されて、それらの間にチャンバ(60)が画定されるように設けられ、
入口(62)が処理気体の供給を前記チャンバと接続するように前記チャンバ(64)内に開口し、
前記発酵容器(12)と前記チャンバ(64)の間に配置されている前記第1のシールアセンブリ(30)が、ともに回転するように前記シャフト(14)に取り付けられている第1のシールリング(32)と、前記ハウジング(22)と回転に関して固定されて取り付けられている第2のシールリング(36)を含み、
前記第1及び第2のシールリングが、互いに対して軸方向に移動可能であり、かつ互いに対して弾性的に付勢され、それによって前記第1のシールリング(36)の密封面(44)が前記第2のシールリング(32)の密封面(42)と係合するように付勢され、
前記第1及び第2のシールリング(32、34)の一方の密封面(42、44)が溝(68)を有し、当該溝が、前記シャフトの回転時に、前記密封面の流体動力学的分離をもたらし、前記チャンバ(64)内の処理気体が前記密封面(42、44)を内側に横切り、前記発酵容器(12)内に流れることが可能となり、
前記溝(68)が前記シールリング(32、34)の外側周囲に隣接する連続的なダム構造体(70)によって境界付けられ、それによって密封面(42)が密封面(44)と係合すると、1つの密封面(42、44)のダム構造体(70)が他方の密封面(44、42)と密封するように係合する発酵装置。
【請求項2】
前記シャフトが静止している場合、前記チャンバ内の圧力が所定値を上回ると、前記密封面(42、44)が流体静力学的に分離させられる請求項1に記載の発酵装置。
【請求項3】
前記溝(68)が流体静力学的分離をもたらす請求項1又は2に記載の発酵装置。
【請求項4】
前記密封面が流体静力学的分離をもたらすように角を付けられている請求項2に記載の発酵装置。
【請求項5】
前記座及び/又は嵌合リングの密封面が、表面エネルギーの低い材料から形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の発酵装置。
【請求項6】
前記嵌合リング(36)又は前記第1のシールアセンブリ(30)の座(32)が、角度に関して隔置されている一連の螺線状の溝(68)を有し、当該溝(68)が、前記シャフト(14)の回転方向に対して鈍角に傾斜し、前記溝(68)の内側端部が、前記チャンバ(64)内の処理気体に曝されている請求項1から5のいずれか1項に記載の発酵装置。
【請求項7】
構造体(71、74、76)が、前記第1のシールアセンブリ(30)の座(32)に設けられ、前記容器(12)内の液体を介する処理気体の泡の分配が高められる請求項1から6のいずれか1項に記載の発酵装置。
【請求項8】
角度に関して隔置され、軸方向に延伸する羽(72)が、混合要素(18)を増やし又は置き換えるように前記座(32)の周表面に設けられている請求項7に記載の発酵装置。
【請求項9】
楔形状の環状構造体(74、76)が前記座(32)の周表面に設けられ、当該環状構造体(74、76)が当該座(32)の密封面(44)に隣接して配置されている請求項7又は8に記載の発酵装置。
【請求項10】
前記環状構造体(76)が前記座(32)と一体的に形成されている請求項9に記載の発酵装置。
【請求項11】
前記環状構造体(74)が、前記座(32)とは別個に、低摩擦材料から形成されている請求項10に記載の発酵装置。
【請求項12】
実質的に、図1から4を参照して本文に記載され、図1から4に示されている発酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−523020(P2009−523020A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549918(P2008−549918)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004933
【国際公開番号】WO2007/080369
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(501077664)ジョン・クレーン・ユーケイ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】