発酵肥料の製造方法および発酵肥料
【課題】イネ科植物など難分解性有機資源を迅速に発酵・分解できる有機肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】下水処理水を酵素・酵母処理して得た酵素液によって、籾殻の珪酸層を可溶化し、外壁を脆くする。次いで、米糠と酵素・酵母混合物を添加して好気的条件下に置くことによって発酵・分解を促進させる。稲藁、トウモロコシの芯、竹等のイネ科植物の粉砕物も同様に発酵・分解することが出来る。発酵籾殻には菌類が生存し各種酵素も残留しているので魚、肉などを含む生ゴミ、家畜糞等の有機資源を循環利用させるための効率的な発酵・分解処理剤としても利用できる。
【解決手段】下水処理水を酵素・酵母処理して得た酵素液によって、籾殻の珪酸層を可溶化し、外壁を脆くする。次いで、米糠と酵素・酵母混合物を添加して好気的条件下に置くことによって発酵・分解を促進させる。稲藁、トウモロコシの芯、竹等のイネ科植物の粉砕物も同様に発酵・分解することが出来る。発酵籾殻には菌類が生存し各種酵素も残留しているので魚、肉などを含む生ゴミ、家畜糞等の有機資源を循環利用させるための効率的な発酵・分解処理剤としても利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設から排出される下水処理水を加工することによって、難分解性の有機資源、とくにイネ科植物を迅速に発酵・分解する技術である。
【0002】
また本発明は、発酵分解されたイネ科植物によって、生ゴミや畜糞等の未利用有機資源を迅速に処理する技術である
【0003】
さらに本発明は、水溶性ケイ酸含量の多い有機発酵肥料の製造方法である。
【背景技術】
【0004】
イネ科植物はその生長過程でケイ酸を多量に吸収するためにケイ酸植物とも呼称され,根から吸収されたケイ酸は表皮細胞の外壁にケイ酸層(図1)として集積し、もみ殻のケイ酸含有率は20.3%に達する。
イネのもみ殻は収穫した子実から食用とする玄米をのぞいた残渣であり、開花時における内穎と外穎に由来する。内外穎の厚壁組織は強くリグニン化するとともに、外表皮には多量のケイ酸が蓄積し、さらにこれらをクチクラ膜が覆って強固な外壁を形成している(図1)ために土壌中の微生物に分解され難く、堆肥として利用するためには1〜2年を要する。
一方、もみ殻に含まれるケイ酸は植物の細胞壁を強化する作用があり、イネ以外の作物においてもケイ酸質肥料の施用によって「うどん粉病」などの病害発生を抑制することが知られている(図2)。
日本の米生産量は年間約1000万トンであり、精米時には約200万トンのもみ殻が排出される。そして、そのうちの35%にあたる約70万トンが未利用のまま焼却処分されているとされている(平成16年:農林水産省生産局農産振興課)(図3)
もみ殻の焼却は煤煙による周囲環境へ影響を与えるばかりか、地球温暖化へつながる愚かな行為であり、もみ殻の持つ機能を生かす利用法の開発が期待されている。地球規模では1億2千万トンのもみ殻が排出されており、本発明の技術は日本国内にとどまらず、世界的にも注目されるだろう。
【0005】
もみ殻の利用についての特許は少なく、もみ殻を好気性の雰囲気下で発酵させて肥料とする幾つかの方法が提案されてきている。その一例は、糞尿排泄物(鶏糞、牛糞、豚糞等)に、粉砕したもみ殻(平均35メッシュ)を混合して培地を調製し、この混合培地を1日一回攪拌しながら好気性条件下での発酵および熟成を経て有機発酵肥料とする方法である(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、11日目以後臭気が消失し、ほぼ一カ月程度で無臭化された有機発酵肥料となり、これを配合肥料として施肥すると、通常の肥料で栽培したものに比べて3倍の大きさの胡瓜が収穫されたと報告されている。
【0006】
また、加水しながら粉砕したもみ殻を加熱膨軟化したものに、雑草あるいは雑木を混合したものを高温発酵菌によって1次発酵し、これに、セルロースとアミロースを分解する放線菌、リグニン等を分解する白色腐朽菌等によって2次発酵を行った後、熟成及び土壌中で植物に有効な作用をするVA菌根菌と根粒菌を加えたもみ殻堆肥が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記、特許文献1および特許文献2に記載された有機発酵肥料(もみ殻堆肥)は、いずれも細かく粉砕したもみ殻を使用しているが、もみ殻はケイ酸層に加えて強くリグニン化された厚壁細胞とクチクラ層を持つ表皮組織であり、その粉砕は容易ではない。(図2)
また、特許文献1の製造法では、糞尿排泄物を使用しており、7日程度で無臭になるとはいうものの臭気の発生は避けられず、環境衛生的にも問題がある。
さらに、特許文献2のもみ殻堆肥は、糞尿排泄物等を用いない方法ではあるが、もみ殻の粉砕が容易でないことに加えて、加熱後膨軟化処理という手間のかかる前処理を必要としている。すなわち、1次発酵から2次、3次発酵に加えて、石灰乳、栄養剤あるいは、VA菌根菌及び根粒菌を混合するという複雑な工程によっている。このために経済性の点で実用化には問題があり、前記特許文献1および特許文献2に記載の技術は実用化されるまでには至っていない。
【0008】
また、もみ殻を粉砕することなく、曝気した屎尿に浸漬することによって極めて短時間でもみ殻を分解したものが、有機発酵肥料として商品化(商品名「もみがら物語」)されている。(非特許文献1参照)。この方法は、曝気処理した屎尿槽に袋詰したもみ殻を漬け込んだ後に、もみ殻を取り出し、米糠、酵素および酵母菌を加えて発酵させ、ほぼ一ヶ月程度で有機発酵肥料とするものである
【0009】
【特許文献1】特開昭60−137888号公報
【特許文献2】特開平9−268088号公報
【非特許文献1】現代農業 84巻11月号、P96〜103(2005)(参考資料1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
【0011】
本発明は農業分野で効果が期待されながら、難分解性であるために利用が限られていたもみ殻を迅速に発酵・分解させる技術の開発である。従来の堆肥化技術では複雑な工程、不十分な臭気対策、衛生面での対策等の問題があり、簡便な技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、下水処理施設での処理工程で使用されている活性汚泥法に着目し、処理後塩素殺菌されて排出される下水処理水にもみ殻を浸漬したところ、2〜3ヶ月の間に緩慢ではあるが徐々にもみ殻外壁が脆くなっていることを走査電子顕微鏡によって確認した。(図4)
そこで、処理水を曝気しながら各種の酵素と酵母を添加した酵素液を製造し、この酵素液にもみ殻を浸漬または/および噴霧することによってケイ酸層を可溶化し、外壁を脆くして発酵分解を促進することに成功した。(図5)
【0013】
酵素液に浸漬したもみ殻を引き上げて水分を50〜60%に調整し、米糠と酵素・酵母混合物を添加して好気条件で数時間撹拌すると、もみ殻は50〜60℃に達する。
【0014】
その後、撹拌を停止して円錐形に堆積すると発酵が始まり60〜70℃以上に発熱するので、適宜切り返しを行えば14日間程度で耕地へ施用できる程度まで分解を進めることができる。(図6)
【0015】
本発明はもみ殻の迅速な発酵・分解を目的として見いだされたものであるが、付随的にいくつかの新発見を見いだした。
(1)酵素液を使用してケイ酸層の破壊と可溶化を図った結果、発酵もみ殻に含まれる可溶性ケイ酸を増加させることが出来る。(図7)
ケイ酸肥料の効果はすでに知られていることも多いが、発酵もみ殻に含まれる可溶性ケイ酸は植物であるもみ殻に由来するものであり、仮に過剰施用が行われても安全性に問題がない。
ケイ酸の吸収が速やかに行われ、表皮細胞を強化することによって、作物栽培、とくにイチゴやトマト、キウリなどの果菜類、イモ類、ブドウなどの果樹類ではうどんこ病や線虫、果面汚点症などの被害を軽減することが出来る。また、ホウレンソウやレタスでは糖度上昇効果が認められた。(図2)
(2)発酵もみ殻には各種酵素や酵母、菌類が残存しており、水分を与えることによって再度発酵・分解を進めることが出来る。
発酵による発熱はもみ殻の水分を蒸発させ、その含量が30%以下になると発酵は緩慢となり温度も低下して、各種の微生物は乾燥菌体となって残存する現象は一般に知られていることである。
このため、イネ科の草本類に限らず、水分を調整することによって生ゴミ、各種汚泥等の未利用有機資源の発酵・分解の処理剤として応用できる。
(3)もみ殻は最も発酵・分解の困難な有機質資源として知られており、酵素液への浸漬に始まる、もみ殻の発酵・分解工程は竹や木材などの長大な有機物などでも、粉砕処理をすることによって発酵・分解を進めることができる。
(4)酵素液はもみ殻の浸漬を続けている間に発酵を続けながら酸化されて濃い茶褐色となり、可溶性ケイ酸濃度も増加する。この液は液肥として利用できるので、有害な排出物は生じない。
【発明の効果】
【0016】
下水処理施設で処理され、環境基準(図8)を満たして排出される安全な処理水を原料にすることによって、悪臭のない作業環境が可能になるとともに、周辺の環境に悪影響を与えることなく、イネ科植物から植物性ケイ酸を含む有機発酵肥料を短期間で大量に生産することが可能になった。本発明によって大量に発生するもみ殻を焼却などの廃棄処分にする必要がなくなり、加えて畜糞、生ゴミ、竹や樹木のチップ、汚泥などが有効に利用されうるので、環境問題の解消のみならず、農業生産に寄与する効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の意義と方法について詳細に説明する。
本発明において、酵素液とは下水処理施設において活性汚泥処理を経て塩素殺菌され、河川の環境基準(図8)を満たした下水処理水に、セルロース、デンプン、脂質およびタンパク質を分解する酵素と有機物を餌とする酵母や菌類を配合して曝気処理したものであり、汚泥や下水のにおいは殆ど感じない。
塩素殺菌された下水処理水にもみ殻のケイ酸層を分解し脆くする働き(図5,6)があることや塩素殺菌されたものに漬け込んだ有機物が発酵することはこれまで想像し得なかったことである。
【0018】
本発明において処理の対象となる植物と未利用有機資源は、イネ科のセルロースあるいはリグニン等を構成成分としているもみ殻、わら、あるいは竹チップ等と、デンプンや糖質、脂質、タンパク質を蓄積している茎や根、果実、子実、動物の肉や魚など、殆どの有機物が含まれる。
特に、もみ殻は農業用に堆肥化するためには1年以上の歳月を必要とすることはよく知られていることであり、本発明によって短時間で分解し、かつ、臭気の少ない方法が見出されたことは、有機資源の循環と環境に優しい農業育成のためにきわめて重要な意味を持つ。
【0019】
本発明の製造方法において使用する酵素はアミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等という、きわめて一般的な酵素であり、菌類はキノコ菌床由来の木材腐朽菌、酵母菌は米ぬかに由来するものである。
添加量は、もみ殻100に対して酵素・酵母混合物5%、米糠30%である。米糠が不足すると発酵温度の上昇が緩慢となる。
【0020】
混合撹拌して堆積した後の切り返しは、中心部温度が70℃程度の時に行うと全体に均質な発酵もみ殻を製造することが出来る。また、高さが3mを超えるような大きな堆積を行うと腐敗が生じやすく、悪臭が発生することがあるので、小型の円錐形に堆積することが望ましいが、やむを得ない場合には温度低下に留意しながら空気の導入を行わなければならない。
【0021】
また、本発明技術で製造した発酵もみ殻は、畜糞や汚泥、あるいは生ゴミ等に添加することによって、堆肥化や減量化を図ることが出来る。その添加量は、もみ殻100に対して、20〜50%程度が適当である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明したように、本技術は環境に優しい農業を振興させるためにきわめて重要、画期的な技術である。これまで利用困難であったもみ殻や藁、トウモロコシの芯、あるいは竹や有機物等を耕地へ戻すことによって、地域における資源循環システムを支え、有機農業の推進にも寄与することが出来る。
また、生ゴミ等の未利用有機資源の処理にも適用できるので、各地の行政府が苦慮している有機資源(バイオマス)の有効利用や自然再生、環境保護技術等による循環型社会の構築にも寄与できる。(図9)
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】もみ殻の断面図(3図)
【図2】ケイ酸効果の一例
【図3】もみ殻の利用
【図4】下水道処理水で処理し、多湿状態で3ヶ月経過後のもみ殻表面組織
【図5】酵素液に24時間浸漬して2週間発酵させたもみ殻表面組織
【図6】堆積時の発酵温度の時系列変化
【図7】無処理もみ殻、処理液散布処理後の発酵もみ殻、および酵素液浸漬処理後の発酵もみ殻におけるケイ酸含有量の相違
【図8】下水処理施設の排出基準例(茨城県土木部ホームページより引用)
【図9】有機質資材の資源循環活用(関東農政局バイオマス・ニッポンホームページより引用)
【0024】
参考資料1.現代農業,第84巻11月号,p94〜103,2005(農文協)
参考資料2.「発酵もみがら」による栽培試験結果,「株式会社アイオム」ホームページより引用
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設から排出される下水処理水を加工することによって、難分解性の有機資源、とくにイネ科植物を迅速に発酵・分解する技術である。
【0002】
また本発明は、発酵分解されたイネ科植物によって、生ゴミや畜糞等の未利用有機資源を迅速に処理する技術である
【0003】
さらに本発明は、水溶性ケイ酸含量の多い有機発酵肥料の製造方法である。
【背景技術】
【0004】
イネ科植物はその生長過程でケイ酸を多量に吸収するためにケイ酸植物とも呼称され,根から吸収されたケイ酸は表皮細胞の外壁にケイ酸層(図1)として集積し、もみ殻のケイ酸含有率は20.3%に達する。
イネのもみ殻は収穫した子実から食用とする玄米をのぞいた残渣であり、開花時における内穎と外穎に由来する。内外穎の厚壁組織は強くリグニン化するとともに、外表皮には多量のケイ酸が蓄積し、さらにこれらをクチクラ膜が覆って強固な外壁を形成している(図1)ために土壌中の微生物に分解され難く、堆肥として利用するためには1〜2年を要する。
一方、もみ殻に含まれるケイ酸は植物の細胞壁を強化する作用があり、イネ以外の作物においてもケイ酸質肥料の施用によって「うどん粉病」などの病害発生を抑制することが知られている(図2)。
日本の米生産量は年間約1000万トンであり、精米時には約200万トンのもみ殻が排出される。そして、そのうちの35%にあたる約70万トンが未利用のまま焼却処分されているとされている(平成16年:農林水産省生産局農産振興課)(図3)
もみ殻の焼却は煤煙による周囲環境へ影響を与えるばかりか、地球温暖化へつながる愚かな行為であり、もみ殻の持つ機能を生かす利用法の開発が期待されている。地球規模では1億2千万トンのもみ殻が排出されており、本発明の技術は日本国内にとどまらず、世界的にも注目されるだろう。
【0005】
もみ殻の利用についての特許は少なく、もみ殻を好気性の雰囲気下で発酵させて肥料とする幾つかの方法が提案されてきている。その一例は、糞尿排泄物(鶏糞、牛糞、豚糞等)に、粉砕したもみ殻(平均35メッシュ)を混合して培地を調製し、この混合培地を1日一回攪拌しながら好気性条件下での発酵および熟成を経て有機発酵肥料とする方法である(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、11日目以後臭気が消失し、ほぼ一カ月程度で無臭化された有機発酵肥料となり、これを配合肥料として施肥すると、通常の肥料で栽培したものに比べて3倍の大きさの胡瓜が収穫されたと報告されている。
【0006】
また、加水しながら粉砕したもみ殻を加熱膨軟化したものに、雑草あるいは雑木を混合したものを高温発酵菌によって1次発酵し、これに、セルロースとアミロースを分解する放線菌、リグニン等を分解する白色腐朽菌等によって2次発酵を行った後、熟成及び土壌中で植物に有効な作用をするVA菌根菌と根粒菌を加えたもみ殻堆肥が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記、特許文献1および特許文献2に記載された有機発酵肥料(もみ殻堆肥)は、いずれも細かく粉砕したもみ殻を使用しているが、もみ殻はケイ酸層に加えて強くリグニン化された厚壁細胞とクチクラ層を持つ表皮組織であり、その粉砕は容易ではない。(図2)
また、特許文献1の製造法では、糞尿排泄物を使用しており、7日程度で無臭になるとはいうものの臭気の発生は避けられず、環境衛生的にも問題がある。
さらに、特許文献2のもみ殻堆肥は、糞尿排泄物等を用いない方法ではあるが、もみ殻の粉砕が容易でないことに加えて、加熱後膨軟化処理という手間のかかる前処理を必要としている。すなわち、1次発酵から2次、3次発酵に加えて、石灰乳、栄養剤あるいは、VA菌根菌及び根粒菌を混合するという複雑な工程によっている。このために経済性の点で実用化には問題があり、前記特許文献1および特許文献2に記載の技術は実用化されるまでには至っていない。
【0008】
また、もみ殻を粉砕することなく、曝気した屎尿に浸漬することによって極めて短時間でもみ殻を分解したものが、有機発酵肥料として商品化(商品名「もみがら物語」)されている。(非特許文献1参照)。この方法は、曝気処理した屎尿槽に袋詰したもみ殻を漬け込んだ後に、もみ殻を取り出し、米糠、酵素および酵母菌を加えて発酵させ、ほぼ一ヶ月程度で有機発酵肥料とするものである
【0009】
【特許文献1】特開昭60−137888号公報
【特許文献2】特開平9−268088号公報
【非特許文献1】現代農業 84巻11月号、P96〜103(2005)(参考資料1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
【0011】
本発明は農業分野で効果が期待されながら、難分解性であるために利用が限られていたもみ殻を迅速に発酵・分解させる技術の開発である。従来の堆肥化技術では複雑な工程、不十分な臭気対策、衛生面での対策等の問題があり、簡便な技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、下水処理施設での処理工程で使用されている活性汚泥法に着目し、処理後塩素殺菌されて排出される下水処理水にもみ殻を浸漬したところ、2〜3ヶ月の間に緩慢ではあるが徐々にもみ殻外壁が脆くなっていることを走査電子顕微鏡によって確認した。(図4)
そこで、処理水を曝気しながら各種の酵素と酵母を添加した酵素液を製造し、この酵素液にもみ殻を浸漬または/および噴霧することによってケイ酸層を可溶化し、外壁を脆くして発酵分解を促進することに成功した。(図5)
【0013】
酵素液に浸漬したもみ殻を引き上げて水分を50〜60%に調整し、米糠と酵素・酵母混合物を添加して好気条件で数時間撹拌すると、もみ殻は50〜60℃に達する。
【0014】
その後、撹拌を停止して円錐形に堆積すると発酵が始まり60〜70℃以上に発熱するので、適宜切り返しを行えば14日間程度で耕地へ施用できる程度まで分解を進めることができる。(図6)
【0015】
本発明はもみ殻の迅速な発酵・分解を目的として見いだされたものであるが、付随的にいくつかの新発見を見いだした。
(1)酵素液を使用してケイ酸層の破壊と可溶化を図った結果、発酵もみ殻に含まれる可溶性ケイ酸を増加させることが出来る。(図7)
ケイ酸肥料の効果はすでに知られていることも多いが、発酵もみ殻に含まれる可溶性ケイ酸は植物であるもみ殻に由来するものであり、仮に過剰施用が行われても安全性に問題がない。
ケイ酸の吸収が速やかに行われ、表皮細胞を強化することによって、作物栽培、とくにイチゴやトマト、キウリなどの果菜類、イモ類、ブドウなどの果樹類ではうどんこ病や線虫、果面汚点症などの被害を軽減することが出来る。また、ホウレンソウやレタスでは糖度上昇効果が認められた。(図2)
(2)発酵もみ殻には各種酵素や酵母、菌類が残存しており、水分を与えることによって再度発酵・分解を進めることが出来る。
発酵による発熱はもみ殻の水分を蒸発させ、その含量が30%以下になると発酵は緩慢となり温度も低下して、各種の微生物は乾燥菌体となって残存する現象は一般に知られていることである。
このため、イネ科の草本類に限らず、水分を調整することによって生ゴミ、各種汚泥等の未利用有機資源の発酵・分解の処理剤として応用できる。
(3)もみ殻は最も発酵・分解の困難な有機質資源として知られており、酵素液への浸漬に始まる、もみ殻の発酵・分解工程は竹や木材などの長大な有機物などでも、粉砕処理をすることによって発酵・分解を進めることができる。
(4)酵素液はもみ殻の浸漬を続けている間に発酵を続けながら酸化されて濃い茶褐色となり、可溶性ケイ酸濃度も増加する。この液は液肥として利用できるので、有害な排出物は生じない。
【発明の効果】
【0016】
下水処理施設で処理され、環境基準(図8)を満たして排出される安全な処理水を原料にすることによって、悪臭のない作業環境が可能になるとともに、周辺の環境に悪影響を与えることなく、イネ科植物から植物性ケイ酸を含む有機発酵肥料を短期間で大量に生産することが可能になった。本発明によって大量に発生するもみ殻を焼却などの廃棄処分にする必要がなくなり、加えて畜糞、生ゴミ、竹や樹木のチップ、汚泥などが有効に利用されうるので、環境問題の解消のみならず、農業生産に寄与する効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の意義と方法について詳細に説明する。
本発明において、酵素液とは下水処理施設において活性汚泥処理を経て塩素殺菌され、河川の環境基準(図8)を満たした下水処理水に、セルロース、デンプン、脂質およびタンパク質を分解する酵素と有機物を餌とする酵母や菌類を配合して曝気処理したものであり、汚泥や下水のにおいは殆ど感じない。
塩素殺菌された下水処理水にもみ殻のケイ酸層を分解し脆くする働き(図5,6)があることや塩素殺菌されたものに漬け込んだ有機物が発酵することはこれまで想像し得なかったことである。
【0018】
本発明において処理の対象となる植物と未利用有機資源は、イネ科のセルロースあるいはリグニン等を構成成分としているもみ殻、わら、あるいは竹チップ等と、デンプンや糖質、脂質、タンパク質を蓄積している茎や根、果実、子実、動物の肉や魚など、殆どの有機物が含まれる。
特に、もみ殻は農業用に堆肥化するためには1年以上の歳月を必要とすることはよく知られていることであり、本発明によって短時間で分解し、かつ、臭気の少ない方法が見出されたことは、有機資源の循環と環境に優しい農業育成のためにきわめて重要な意味を持つ。
【0019】
本発明の製造方法において使用する酵素はアミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等という、きわめて一般的な酵素であり、菌類はキノコ菌床由来の木材腐朽菌、酵母菌は米ぬかに由来するものである。
添加量は、もみ殻100に対して酵素・酵母混合物5%、米糠30%である。米糠が不足すると発酵温度の上昇が緩慢となる。
【0020】
混合撹拌して堆積した後の切り返しは、中心部温度が70℃程度の時に行うと全体に均質な発酵もみ殻を製造することが出来る。また、高さが3mを超えるような大きな堆積を行うと腐敗が生じやすく、悪臭が発生することがあるので、小型の円錐形に堆積することが望ましいが、やむを得ない場合には温度低下に留意しながら空気の導入を行わなければならない。
【0021】
また、本発明技術で製造した発酵もみ殻は、畜糞や汚泥、あるいは生ゴミ等に添加することによって、堆肥化や減量化を図ることが出来る。その添加量は、もみ殻100に対して、20〜50%程度が適当である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明したように、本技術は環境に優しい農業を振興させるためにきわめて重要、画期的な技術である。これまで利用困難であったもみ殻や藁、トウモロコシの芯、あるいは竹や有機物等を耕地へ戻すことによって、地域における資源循環システムを支え、有機農業の推進にも寄与することが出来る。
また、生ゴミ等の未利用有機資源の処理にも適用できるので、各地の行政府が苦慮している有機資源(バイオマス)の有効利用や自然再生、環境保護技術等による循環型社会の構築にも寄与できる。(図9)
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】もみ殻の断面図(3図)
【図2】ケイ酸効果の一例
【図3】もみ殻の利用
【図4】下水道処理水で処理し、多湿状態で3ヶ月経過後のもみ殻表面組織
【図5】酵素液に24時間浸漬して2週間発酵させたもみ殻表面組織
【図6】堆積時の発酵温度の時系列変化
【図7】無処理もみ殻、処理液散布処理後の発酵もみ殻、および酵素液浸漬処理後の発酵もみ殻におけるケイ酸含有量の相違
【図8】下水処理施設の排出基準例(茨城県土木部ホームページより引用)
【図9】有機質資材の資源循環活用(関東農政局バイオマス・ニッポンホームページより引用)
【0024】
参考資料1.現代農業,第84巻11月号,p94〜103,2005(農文協)
参考資料2.「発酵もみがら」による栽培試験結果,「株式会社アイオム」ホームページより引用
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水道法に基づいて活性汚泥処理された下水処理水に、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加して前記下水処理水を酵素液化させ、さらに連続曝気して生成する液体状の酵素液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られた酵素液にもみ殻を浸漬または/および噴霧し、該もみ殻を発酵・分解させて生成するもみ殻の発酵肥料の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法によって得られたもみ殻発酵肥料に米糠とアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加し、該もみ殻を発酵・分解させて生成するもみ殻の発酵肥料の製造方法。
【請求項4】
竹、乾燥トウモロコシの芯、ふすま等のイネ科の植物を粉砕して粉砕物を形成し、該粉砕物を請求項1に記載の製造方法によって得られた酵素液に浸漬または/および噴霧処理した処理後の粉砕物に米糠とアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加し、前記粉砕物を発酵・分解させて生成するイネ科植物から成る粉砕物の発酵肥料の製造方法。
【請求項5】
生ゴミなどの有機廃材または/および家畜糞尿に請求項3に記載の製造方法によって得られたもみ殻発酵肥料を添加して、発酵・分解させて生成する前記生ごみなどの発酵肥料または/および家畜糞尿を発酵肥料にする製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の製造方法により得られた発酵肥料
【請求項1】
下水道法に基づいて活性汚泥処理された下水処理水に、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加して前記下水処理水を酵素液化させ、さらに連続曝気して生成する液体状の酵素液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られた酵素液にもみ殻を浸漬または/および噴霧し、該もみ殻を発酵・分解させて生成するもみ殻の発酵肥料の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法によって得られたもみ殻発酵肥料に米糠とアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加し、該もみ殻を発酵・分解させて生成するもみ殻の発酵肥料の製造方法。
【請求項4】
竹、乾燥トウモロコシの芯、ふすま等のイネ科の植物を粉砕して粉砕物を形成し、該粉砕物を請求項1に記載の製造方法によって得られた酵素液に浸漬または/および噴霧処理した処理後の粉砕物に米糠とアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼおよびリパーゼなどの酵素・酵母混合物を添加し、前記粉砕物を発酵・分解させて生成するイネ科植物から成る粉砕物の発酵肥料の製造方法。
【請求項5】
生ゴミなどの有機廃材または/および家畜糞尿に請求項3に記載の製造方法によって得られたもみ殻発酵肥料を添加して、発酵・分解させて生成する前記生ごみなどの発酵肥料または/および家畜糞尿を発酵肥料にする製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の製造方法により得られた発酵肥料
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−126776(P2009−126776A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331027(P2007−331027)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(507419208)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(507419208)
【Fターム(参考)】
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