説明

発酵製品を調製する方法及びその方法によって調製される製品

本発明は、プロセス中にオレイン酸が添加される、乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法に関する。本発明はまた、その方法によって調製される製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品の調製に関する。本発明はまた、その方法によって調製される製品に関する。本発明は特に、低脂肪製品の粘稠度及び風味を改善し、また、前記乳製品が消費されるときにバクテリアにかかるストレス因子に対してバクテリアをより強くする目的で、乳製品の発酵のために一不飽和脂肪酸を原料に添加することに関する。
【背景技術】
【0002】
西洋では、肥満及び心臓血管疾患の発症がますます問題になっている。したがって西洋では、栄養関連疾患が顕著に増大しつつあるということになる。ここ20〜30年、動物性脂肪の摂取と心臓血管疾患の発症との間には明白な関連があるという事実に注目が集まってきた。このような認識の結果として、食品産業はここ15〜20年で数々の製品を開発しており、その目的は健康に良くない脂肪を低減する、又はより健康に良いとされている脂肪源でそれを置き換えることであった。このことは、乳製品及び食肉産業にとって主要な課題であることが判っている。元々の全脂製品とほとんど同じ風味を有する低脂肪製品の開発には、数々の問題がある。例えば低脂肪チーズの場合には、業界ではあまり取り組まれてこなかった。低脂肪チーズは、乏しい芳香、望ましくない風味、及びゴム状と特徴付けられることがある粘稠度を有するのが普通である。
【0003】
発酵には、微生物転換及び/又は発酵培地中の成分の崩壊が関与する。熟成期間が製品の所望の質を生みだすための重要な因子である食品の様々な発酵の理解に関する研究は、主に炭水化物及びタンパク質に集中してきた。チーズの熟成プロセスへの理解に関心がもたれる場合、タンパク質の分解がその研究の中心的テーマであった。チーズのタンパク質分解、及びタンパク質分解生成物のさらなる転換は、チーズの熟成プロセスにとってかなり重要である。しかし、タンパク質分解に焦点を当てることのみでは、低脂肪チーズに関係する問題解決には成功していない。むしろ驚くべきことに、バクテリアと脂肪との間の作用機序、及びこれらの機序が効果的な発酵プロセスにもたらす効果を対象とする研究は殆どなされてこなかった。
【0004】
低脂肪チーズの質を高める多種多様な方法が試みられた。これらの試みは、一般に、早期熟成、後加熱(after−heating)、様々な貯蔵の温度などのチーズ製造技術因子の大部分を改変するためになされてきたといえよう。ここ10年で、チーズの微生物、特に開始培養の一部分としては添加されず、保存中に増殖する乳酸菌に注目が集まってきた。乳からの成分をベースとした脂肪代替物を使用する試みがなされ、様々な度合いの成功が収められている。脂肪代替物を使用する場合、満足のいく風味の発生を得ることは困難であることが判明している。低脂肪チーズに関連する問題を解決するこれらの試みの大部分の共通の特徴(文献に報告されている)は、一般に、個々の因子に焦点が当てられているということである。本発明者らは、脂肪がバクテリアに対してある効果を有すること、またバクテリアがチーズのタンパク質分解に貢献することも知っている。バクテリアを特定の脂肪酸にさらすことによって、チーズの質に影響を与えることが可能になるはずである。
【0005】
遊離脂肪酸、並びにメチルケトン、ラクトン、エステル、及び第2級アルコールなどの二次代謝産物は、チーズの風味にとってかなり重要である。バター脂肪又は乳脂は、良好でバランスの取れた風味を得るための、チーズの重要な成分である。バター脂肪を植物性脂肪で置き換えるための試みがなされた試験が報告されている。このような場合、チーズは満足のいく風味を生じない。バター脂肪は植物性脂肪とは違い、比較的大きい割合の短鎖脂肪酸、すなわち酪酸(C4:0)、カプロン酸(C6:0)、カプリル酸(C8:0)、カプリン酸(C10:0)、及びラウリン酸(C12:0)を含有することがその理由である。短鎖脂肪酸(炭素原子12未満)は、長鎖脂肪酸(炭素原子12個超)よりもかなり強い特徴的な風味を有する。低脂肪チーズの正しい風味及び香味を得るためには、短鎖及び中鎖脂肪酸の存在が重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳化オレイン酸及び/又はオレイン酸の主要部分を有する脂肪画分をチーズ乳に添加し、それによってチーズの粘稠度に影響を与えることに基づくものである。オレイン酸を用いたチーズ乳の濃縮は、様々な供給源から行うことができる。純オレイン酸及び/又はバター乳の低融点画分(オレイン画分)を使用することができる。また、バター乳画分を酸加水分解のベースとして使用して、オレイン酸含有量を増加させることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法に関し、その方法は、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、その原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップを含み、ステップi)でオレイン酸が添加されることを特徴とする。
【0008】
本発明はまた、乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法に関し、その方法は、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、その原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップを含み、ステップii)でオレイン酸が添加されることを特徴とする。
【0009】
本発明はさらに、乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法を含み、その方法は、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、その原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップを含み、ステップiii)でオレイン酸が添加されることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、本発明による方法の1つによって調製されることを特徴とする製品に関する。
【0011】
バター脂肪中に見られる短鎖及び中鎖脂肪酸を有することが重要である。バター脂肪又は乳脂肪が画分化される場合、低融点画分(オレイン画分)は、高濃度の短鎖不飽和脂肪酸を含有する。チーズ乳を、遊離オレイン酸及びオレイン画分と組み合わせて、又はオレイン画分だけと組み合わせて低脂肪チーズに添加した、本発明に関連して行った低脂肪チーズ試験では、そのチーズは、天然バター脂肪を含有する対照よりも良好な粘稠度を有することが見出された。感覚評価では粘稠度について、対照のチーズよりも、オレイン画分を脂肪源として含有するチーズが選択された。
【0012】
天然バター脂肪、バター脂肪の画分、改変されたバター脂肪、及び異なる供給源のオレイン酸の様々な組合せを、脂肪源として使用することができる。天然バター脂肪は別として、脂肪/油源は乳化する必要がある。脂肪/油源を、ホモジナイザー又はマイクロ流動化装置(microfluidiser)を使用して乳化する。脂肪の組成に応じて、15〜60℃の範囲の温度及び20〜1000バールのホモジナイズ圧力が使用される。脂肪が乳中で乳化される場合、元々の乳脂肪を0.01%以下含有する脱脂乳が使用される。また乳化剤として、バター乳又はバター乳からの成分を使用するのが適切である。
【0013】
チーズの質感は、熟成中にタンパク質分解によって部分的に変化する。チーズの熟成中、マトリックス中に糸状の網目が形成される。本発明者らが撮影した電子顕微鏡像に基づくと、チーズ中の脂肪とタンパク質マトリックスとの間の液層中に網目のようなものが見出されるはずである。図1を参照されたい。網目の広がりは、熟成プロセスが進行するにつれて増大する。バクテリアは、しばしばその網目の中に捕捉され又はそれと結合する。文献では、バクテリアが、電子顕微鏡のサンプル処理中の脱水を理由として網目を形成する細胞外多糖類を生成するという事実によって、これらの網目が説明されている。オレイン酸の影響下でバクテリアが培養される場合、糸状材料に関してチーズ中でなされた観測について関連性があり得る細胞外材料が形成されることを記録した。
【0014】
本発明者らは、いくつかの異なるバクテリア(乳酸球菌(lactococci)、乳酸菌(lactobacilli)、及びプロピオン酸)の培養中に、オレイン酸の影響下で、糸状材料が培地で形成されることを観測した。培養が進行するにつれて、バクテリア及び細胞外材料が絡み合う凝集体が形成された。図2及び3を参照されたい。このことは、様々なバクテリアが、細胞外成分を形成することによってオレイン酸と反応することを示唆している。本発明者らは、バクテリアに応じて、オレイン酸濃度が0.1〜12mMの倍地で細胞外材料を記録した。熟成プロセスの経過中、チーズ中の遊離脂肪酸の量が増加し、チーズのタイプに応じて濃度に大きなばらつきが生じる。チーズの遊離オレイン酸の濃度は、0.05〜107mMの範囲にあると報告された。
【0015】
チーズの粘稠度に関して好ましい細胞外材料の形成に加えて、高い割合のオレイン酸を有する脂肪画分も、様々なバクテリアの増殖及び代謝に効果を有する。本発明者らは、融点が13℃であり且つ純オレイン酸を有するバター脂肪のオレイン画分でバター脂肪の大部分が置き換えられた低脂肪スイスチーズ(DM中脂肪17%)を製造した。チーズ中の微生物増殖及び有機酸の濃度は、脂肪の組成によって影響を受けた。表1は、3カ月の保存後の様々なチーズ中の乳酸菌、乳酸球菌、及びプロピオン酸バクテリアの濃度を示している。この差異は、表2に示される有機酸の濃度にも見出される。プロピオン酸バクテリアは乳酸塩をエネルギー源として使用し、したがって「異質脂肪(alien fat)」を有するチーズ中に最小の乳酸塩が存在し、そこではプロピオン酸バクテリアの濃度が最も高い。また表2から、これらのチーズが最も高い濃度のプロピオン酸を有することが分かる。
【0016】
チーズの製造に使用される脂肪の組成を変えることによって、本発明者らは、チーズの粘稠度及び風味に影響を与えることができる。本発明者らがこれを行うやり方は、トリグリセリド中のオレイン酸の割合を増加させるというものである。この変化が、短鎖及び中鎖脂肪酸の割合を減少せずに起こることが重要である。様々なチーズに適応する脂肪を得るために、元々のバター脂肪と、オレイン酸含有量を増加させるために添加される画分との間の様々な比が使用される。本発明者らはまた、脂肪の乳化を、脂肪球の寸法と、脂肪を乳化させるのに使用される培地との両方について制御することによって、チーズの粘稠度及び風味の発生に影響を与える。
【0017】
本発明を、実施例を用いて以下により詳細に説明する。実施例は、本発明の実施形態のみを開示し、したがって本発明は実施例として与えられるものに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
バター脂肪のある部分が、バター脂肪(オレイン画分)及び遊離オレイン酸の低融点画分によって置き換えられた低脂肪スイスチーズ(DM中脂肪17%)を製造する。
【0019】
オレイン画分及び遊離オレイン酸を、脱脂乳中、60バール及び50℃の条件下でホモジナイズすることによって乳化する。次いで混合物を低温殺菌し、予め脱脂し低温殺菌したチーズ乳に添加する。
【0020】
チーズ乳は、脂肪1.5%を含有するべきである。チーズ乳の脂肪組成は、バター脂肪0.2%、オレイン酸0.3%、及びオレイン画分1.0%である。
【0021】
実際のチーズ製造及びチーズの熟成は、スイスチーズの従来の製造技術に従う。
【0022】
表1.異なる脂肪組成を有する3カ月経過した低脂肪スイスチーズ中のプロピオン酸バクテリア、乳酸菌、及び乳酸球菌含有量。
【表1】

【0023】
表2.異なる脂肪組成を有する3カ月経過した低脂肪スイスチーズ中の有機酸含有量。
【表2】

【0024】
【化1】


【化2】


【化3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法であって、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、前記原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップ
を含む上記方法において、
ステップi)の生成物の0.25〜2.5%の濃度のオレイン酸が、ステップi)で添加されることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法であって、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、前記原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップ
を含む上記方法において、
ステップi)の生成物の0.25〜2.5%の濃度のオレイン酸が、ステップii)で添加されることを特徴とする上記方法。
【請求項3】
乳又は乳製品が実質的な部分を構成する発酵製品を調製する方法であって、以下の
i)発酵製品のための原料を提供するステップ、
ii)場合により、前記原料に補助成分を添加し、混合するステップ、
iii)i)又は場合によってはii)の生成物を発酵させるステップ
を含む上記方法において、
ステップi)の生成物の0.25〜2.5%の濃度のオレイン酸が、ステップiii)で添加されることを特徴とする上記方法。
【請求項4】
前記オレイン酸が、ほとんど純粋な形態で、又は添加剤の一部分として添加されることを特徴とする、請求項1から3までに記載の方法。
【請求項5】
ステップi)、ii)、又はiii)で添加される前記オレイン酸が、ステップi)の生成物の約1%の濃度であることを特徴とする、請求項1から3までに記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法に従って調製されることを特徴とする製品。
【請求項7】
請求項2に記載の方法に従って調製されることを特徴とする製品。
【請求項8】
請求項3に記載の方法に従って調製されることを特徴とする製品。

【公表番号】特表2008−520201(P2008−520201A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541124(P2007−541124)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000427
【国際公開番号】WO2006/052147
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(505318558)
【Fターム(参考)】