説明

発酵飲食品およびその製造方法

【課題】ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株を用いて植物性原料を主原料とする培地を発酵させて得られ、該発酵物中の生菌数が1×10cfu/ml以上と十分な数のラクトバチルス ブレビスを含有し、味や香りが良好で、製造後10℃にて3週間保存しても生菌数がほとんど変化せず、味や香りが劣化することがない保存性に優れた発酵飲食品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】植物性原料をストレート換算で50%以上、リンゴ酸を0.2〜2.0質量%含有し、かつpHが4.6〜7.0に調整された培地に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株を添加して、pHが4.3以上7.0未満となるように発酵させ、次いで該発酵物のpHを、酸を用いて3.3〜4.1に調整する発酵飲食品の製造方法、および該製造法で得られる発酵飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性原料を主原料として、これを発酵させて得られる発酵飲食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、各種の発酵飲食品の製造に用いられているが、菌自体が整腸効果や病原菌抑制等の優れた生理活性を有するものがあり、このような有用な乳酸菌を発酵飲食品の製造に用いるだけでなく、発酵飲食品中に生きた状態で残すことで、健康増進を志向した優れた飲食品とすることができる。
一方、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株(以下、ラクトバチルス ブレビスと略記)は、乳酸菌の中でも特に耐ストレス性が強く、極めて広範な優れた生理作用を有することが知られており、これまでに、例えば、抗アレルギー剤、インターフェロン産生能向上剤、抗胃炎剤および抗潰瘍剤、肝炎治療・予防剤、腫瘍増殖抑制剤、抗腫瘍活性剤、γ−アミノ酪酸の生産への利用について報告されている。
【0003】
このように、ラクトバチルス ブレビスは、それ自体が極めて有用な乳酸菌であり、生きた状態で摂取すれば、容易に腸に到達して長く生存できるため、健康増進を志向した飲食品として、ラクトバチルス ブレビスを生きた状態で含有する発酵飲食品の開発が望まれている。これまでに、このような発酵飲食品を製造する方法が種々提案されており、例えば、通常の乳酸発酵で用いる乳単独を原料とした発酵培地を用いて発酵飲食品を製造する方法や、果実や野菜、果汁や野菜汁、豆乳や麦芽汁等の植物性原料を用い、これにグルタミン酸またはグルタミン酸含有物を添加して発酵させて飲食品を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−215529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、乳単独を原料とした発酵培地を用いると、ラクトバチルス ブレビスの増殖が48時間で5倍程度にとどまり発酵を十分に行うことができず、良好な品質の発酵飲食品を得ることができないという問題点があった。
また、乳単独以外のものを原料とした発酵培地を用いて、発酵が十分に進行した発酵飲食品を製造した場合でも、その飲食品中の生きた状態のラクトバチルス ブレビスは耐ストレス性が強いために、該飲食品は冷蔵保存期間中にも発酵が進行してしまい、味や香りが変化して品質が劣化してしまうという問題点があった。
さらに、特許文献1に記載の方法は、種々の有用な生理活性を有するγ−アミノ酪酸を発酵で産生し、これを含有する発酵飲食品を得ることを目的としたものであり、発酵培地中に残存するグルタミン酸や、得られた飲食品中に含有されるγ−アミノ酪酸等の影響で、味や香り等の官能面で好ましくないものができてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ラクトバチルス ブレビスを用いて植物性原料を主原料とする培地を発酵させて得られ、該発酵物中の生菌数が1×10cfu/ml以上と十分な数のラクトバチルス ブレビスを含有し、味や香りが良好で、製造後10℃にて3週間保存しても生菌数がほとんど変化せず、味や香りが劣化することがない保存性に優れた発酵飲食品およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、植物性原料をストレート換算で50%以上、リンゴ酸を0.2〜2.0質量%含有し、かつpHが4.6〜7.0に調整された培地に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株を添加して、pHが4.3以上7.0未満となるように発酵させ、次いで該発酵物のpHを、酸を用いて3.3〜4.1に調整することを特徴とする発酵飲食品の製造方法である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、発酵終了後に発酵物の温度を下げることを特徴とする請求項1に記載の発酵飲食品の製造方法である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記ラクトバチルス ブレビスに属する乳酸菌株が、ラクトバチルス ブレビスFERM BP−4693株であることを特徴とする請求項1または2に記載の発酵飲食品の製造方法である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記培地が、乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵飲食品の製造方法である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記培地が、リンゴ酸を0.2〜0.45質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の発酵飲食品の製造方法である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法で得られることを特徴とする発酵飲食品である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、動物用飼料であることを特徴とする請求項6に記載の発酵飲食品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、得られた発酵物中のラクトバチルス ブレビスの生菌数を1×10cfu/ml以上とすることができ、該発酵物を製造後10℃にて3週間保存しても、ラクトバチルス ブレビスの生菌数の変化を抑制することができ、保存性に優れた味や香りの良い発酵飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明で用いる植物性原料としては、具体的には、野菜、果実、穀類および豆類を挙げることができる。
野菜としては、例えば、トマト、赤ピーマン、ニンジン、キャベツ、はくさい、レタス、大根、ほうれん草、ケール、玉葱、なす、プチヴェール(登録商標)(ケールと芽キャベツの交雑種)、しいたけ、シメジ等を挙げることができる。
果実としては、例えば、グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、イチゴ、パイナップル、キウイ、グアバ、マンゴー、アセロラ、ブルーベリー、ザクロ、モモ、洋なし、パパイヤ、メロン、スイカ、バナナ、イチジク等を挙げることができる。
穀類としては、例えば、麦(麦芽)、米等を、豆類としてはダイズ、エンドウ等を挙げることができる。
本発明においては、これら植物性原料を単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。目的とする製品にあわせて、適宜最適な組み合わせを選択することができる。
【0015】
本発明においては、前記植物性原料を、搾汁液、磨砕物または破砕物、あるいはこれらを濃縮物、希釈物または乾燥物等に加工した形態で用いることができる。例えば、ダイズであれば、豆乳の形態で用いることもできる。
【0016】
本発明で用いる植物性原料は、pHおよびリンゴ酸含量の値を考慮すると、前記の中でも、ニンジン、プチヴェール(登録商標)から選ばれる一種以上を用いることが好ましい。これらは、リンゴ酸を適量含有し、その加工物のpHは、発酵前の発酵培地に必要なpHに近く、したがってこれらを用いることで、発酵培地のpHおよびリンゴ酸含量の調整が容易となる。
また、発酵性や発酵液の汎用性を考慮すると、ニンジン、プチヴェール(登録商標)から選ばれる一種以上の清澄果汁を用いることが好ましい。果汁であれば、濃縮果汁、非濃縮果汁、清澄果汁等のいずれも用いることができるが、清澄果汁を用いると、発酵飲食品の製造に際して種々のものを混合することができ汎用性が高く好ましい。なお、ここで清澄果汁とは、透明で濁りのないもののことを指し、例えば、UF膜でろ過処理することにより得られる。
【0017】
本発明において、前記植物性原料は、発酵培地中にストレート換算で50%以上含有されるが、75%以上含有されることが好ましい。ここで、ストレート換算とは、濃縮、希釈等の濃度変化を伴う加工を行っていない植物性原料の濃度への換算を指す。したがって、植物性原料として濃縮物を用いる場合には、ストレート換算で100%以上含有させることもでき、目的に応じて適宜調整すれば良い。
【0018】
本発明においては、発酵培地中のリンゴ酸含量を0.2〜2.0質量%とするが、0.2〜0.45質量%とすることが好ましい。発酵物中には、発酵培地中のリンゴ酸含量に依存して発酵で生じた炭酸が含有されるが、リンゴ酸含量を0.2〜0.45質量%とすることで、発酵物中の炭酸ガスの量を少なくすることができ、得られる発酵飲食品は、刺激感が少なく官能上より好ましいものとなる。またリンゴ酸含量は、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈することにより、植物性原料に含有されるリンゴ酸で前記範囲に調整することが好ましい。植物性原料だけでリンゴ酸含量を調整することが困難な場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、リンゴ酸を別途添加して調整しても良い。リンゴ酸を別途添加する場合には、リンゴ酸の水溶液を用いることが好ましい。
ラクトバチルス ブレビスは、リンゴ酸資化性を有するため、上記のように培地中に適度な量のリンゴ酸を含有させることで、発酵を良好に行うことができる。
【0019】
本発明においては、前記発酵培地に乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有させて発酵を行っても良い。このように乳を添加することで、ラクトバチルス ブレビスによる発酵をより良好に行うことができ、発酵物中の生菌数を増やすことができる。この時用いる乳としては、例えば、獣乳、脱脂粉乳、発酵乳、またはこれらの酵素処理物等を挙げることができ、これらの中でも脱脂粉乳を用いることが好ましい。
乳の添加量は、無脂乳固形分として0.1質量%よりも少ないと添加効果が見られなくなり、20質量%よりも多くなるとラクトバチルス ブレビスがストレスを受けて発酵が良好に進行しにくく、得られる発酵飲食品の味や香りも悪くなりやすく、発酵培地の調製自体も困難となる場合がある。
【0020】
本発明においては、発酵前の発酵培地のpHを4.6〜7.0の範囲に調整するが、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈して、pH調整剤を用いることなく、植物性原料の種類あるいは量を適宜調整することで前記範囲に調整することが好ましい。pH調整剤を用いる必要がある場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、食品用に一般的に用いられているものを添加して調整すれば良く、その種類は特に限定されない。例えば、好ましい酸としてはクエン酸を、好ましい塩基としては炭酸カリウムを挙げることができる。用いるpH調整剤が結晶である場合には、水溶液として添加することが好ましい。
【0021】
発酵培地の糖度(以下、Brix.と略記)は、特に限定されないが、6〜24%であることが好ましい。
【0022】
発酵に用いる培地は、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈することにより、リンゴ酸含量およびpHを前記の範囲に調整すれば良いが、この方法に限定されない。この時、必要であれば、リンゴ酸あるいはpH調整剤を別途添加することもできる。このように調製した発酵培地は、ラクトバチルス ブレビスを植菌する前に、所定の条件で加熱殺菌することが好ましい。
【0023】
本発明で用いる水としては、蒸留水、イオン交換水等を挙げることができる。
【0024】
本発明で用いるラクトバチルス ブレビスとしては、例えば、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)FERM BP−4693株(以下、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株と略記)、ラクトバチルス ブレビスJCM1059(Lactobacillus brevis JCM1059)株(以下、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株と略記)等を挙げることができる。なかでも、発酵がより良好に進行し、発酵物中に十分な数の生菌をより得やすい点等から、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株が好ましい。また、これらラクトバチルス ブレビスは、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
ラクトバチルス ブレビスBP−4693株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターより、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより、それぞれ入手することができる。
【0025】
ラクトバチルス ブレビスは、前培養してから培地の発酵に用いることが好ましい。前培養は、従来公知の方法で行えば良く、例えば、市販の乳酸菌用培地を、所定の濃度となるように蒸留水に溶解させ、オートクレーブ滅菌した後、ラクトバチルス ブレビスを植菌して、所定時間前培養する方法が挙げられる。
【0026】
ラクトバチルス ブレビスを用いた培地の発酵は、従来公知の方法に従って行えば良く、例えば、培地に前記前培養物を植菌し、ラクトバチルス ブレビスを培養すれば良い。この時の植菌量は0.1〜10容量%であることが好ましく、培養時の温度は20〜40℃であることが好ましく、時間は12〜72時間であることが好ましい。本発明においては、味や香り、保存性に優れた発酵飲食品を得る上で、発酵の度合いを制御することは重要であり、上記範囲であれば、より優れた品質の発酵飲食品を得ることができる。
【0027】
本発明においては、発酵終了時の発酵物のpHを4.3以上7.0未満とする。pHがこの範囲であれば、発酵の度合いが、味や香り、保全性に優れた発酵飲食品を得る上で適した状態となる。
【0028】
さらに本発明においては、発酵終了後の発酵物のpHを、酸を用いて3.3〜4.1に調整する。また、pH3.6〜4.0に調整することが好ましい。このように発酵物のpHを調整することで、培地の発酵を停止させ、保存中における発酵飲食品の味や香りの変質を抑制することができる。
この時用いる酸としては、食品用として一般的に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、乳酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の酸性の有機化合物、リン酸等の酸性の無機化合物を挙げることができ、これらから選択される一種以上を用いることができる。ただし、前記のように、発酵培地に乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有させる場合には、乳酸を用いることが好ましい。また、用いる酸が結晶である場合には、水溶液として発酵物に添加することが好ましい。
【0029】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、発酵飲食品の味や香り、あるいは保存安定性を調整する目的で、発酵後の発酵物に副資材を添加しても良い。この場合、副資材の添加は、発酵物のpH調整の前後いずれにおいても行うことができる。用いる副資材としては、食品用として一般的に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、香料、糖液等を挙げることができる。また、これら副資材は一種以上を用いることができる。
【0030】
さらに、発酵終了後は、発酵物の温度を下げることが好ましい。発酵物の温度を下げることで、培地の発酵を停止させ、保存中における発酵飲食品の味や香りの変質をより効果的に抑制することができる。この時の温度は0〜15℃であることが好ましい。具体的には、例えば、30℃にて培養を行った場合には、10℃まで冷却すれば良い。また、冷却は、発酵終了後速やかに行うことが好ましい。
また、発酵物の冷却を行う場合には、pH調整および冷却を行う順番はいずれでも良いが、得られる発酵飲食品の保存安定性の観点から、冷却を行ってからpH調整を行うことが好ましい。また、前記副資材の添加は、冷却の前後いずれにおいても行うことができる。
【0031】
本発明によりpHを3.3〜4.1に調整された発酵物は、その中に生菌数1×10cfu/ml以上のラクトバチルス ブレビスを含有し、10℃で3週間保存してもこの生菌数はほとんど変化せず、発酵直後の優れた味や香りをそのまま保持することができる。
また、得られた発酵物は、そのまま発酵飲食品としても良いし、必要に応じて適当な添加物を加えたり、加工したりするなどして発酵飲食品としても良い。
【0032】
本発明の発酵飲食品は、上述の製造方法により得られるものである。また、該発酵飲食品は、動物用の飼料としても好適である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
発酵飲食品の製造方法および官能評価試験方法を以下に示す。
◎前培養物の調製
市販の乳酸菌用培地(M.R.S培地、OXOID社製)を、濃度が62g/Lとなるように蒸留水に溶解させ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。続いて、該滅菌済み培地にラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株を植菌し、30℃で18時間前培養した。
【0034】
◎発酵培地の調製
pH5.5、Brix.42%のニンジン濃縮果汁を蒸留水で希釈し、pH5.7、リンゴ酸含量0.3質量%、Brix.12%に調整後、さらに表1および2に示すように、pH、リンゴ酸含量、Brix.を適宜再調整した(「発酵培地の条件」を参照)。この時、表1および2に示すように、一部の実施例において乳として脱脂粉乳を、一部の比較例において脱脂粉乳および/またはグルタミン酸を添加した。そして、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して発酵培地を調製した。植物性原料として透明ニンジン果汁を用いる場合は、前記ニンジン濃縮果汁を蒸留水で希釈した後、従来公知の方法によりUF膜処理して透明果汁としてから、pH、リンゴ酸含量およびBrix.を調整した。
【0035】
◎野菜発酵液の調製
続いて、前記前培養物を前記発酵培地に1容量%植菌し、30℃で18時間(比較例2のみ108時間)培養して発酵を行った。発酵終了後、得られた発酵培地を直ちに10℃に冷却して、野菜発酵液を得た。該野菜発酵液のpHは表1および2に示す通りであった(「発酵後培地pH」を参照)。
なお、表1および2に示すリンゴ酸および乳(無脂乳固形分)の含有量、表2に示すグルタミン酸の含有量は、いずれも培地中における質量%表示である。また、乳およびグルタミン酸が「×」であることは、培地中にこれらを別途添加していないことを示す。
【0036】
◎野菜発酵液のpH調整
pH調整剤であるクエン酸を、40質量%となるように蒸留水に溶解させ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。続いて、該滅菌済みクエン酸水溶液を用いて、前記野菜発酵液を表1および2に示すpHに調整し(「発酵後pH調整」を参照)、各実施例および比較例の野菜発酵液を得た。そして、pH調整済みの該野菜発酵液を容器に充填して密封し、10℃で3週間保存した。
なお、一部の比較例においては野菜発酵液のpH調整を行わず、そのまま10℃で3週間保存した。この場合は、表2において、「発酵後pH調整」を「×」と表示した。
【0037】
◎官能評価
発酵後のpH調整直後(pH調整を行わない場合は発酵終了直後)の野菜発酵液を別途凍結保存しておき、その解凍品と前記10℃保存発酵液とを比較して、どちらが好ましいかを、男性25名、女性25名、合計50名の評価員により官能評価した(評価1)。
また、前記10℃保存発酵液を各実施例および比較例の間で比較して、どちらが好ましいかを、男性25名、女性25名、合計50名の評価員により官能評価した(評価2)。
結果を表1および2に示す。なお、表1および2には、野菜発酵液の発酵直後および保存後のラクトバチルス ブレビスの菌数をあわせて表示した。
【0038】
製造方法の特徴となる部分を、各実施例および比較例ごとに以下に示す。
(実施例1−1〜1−13)
植物質原料として、ニンジン果汁(実施例1−1〜1−6、1−10〜1−13)または透明ニンジン果汁(実施例1−7〜1−9)を用いて、表1に示すpH,リンゴ酸含量に調整し、Brix.を12%(実施例1−1〜1−12)または7%(実施例1−13)に調整して発酵培地を調製し、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株を用いて発酵を行った。実施例1−2を基準1、実施例1−5を基準2、実施例1−8を基準3、実施例1−11を基準4、実施例1−13を基準5とした。
【0039】
(実施例2−1〜2−4)
乳を無脂乳固形分として表1に示す量を添加して発酵培地を調製した。実施例2−2を基準6とした。
(実施例3−1〜3−3)
野菜発酵液を、表1に示すようにpH3.3〜4.1に調整して保存した。
(実施例4−1〜4−3)
乳を無脂乳固形分として3質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、野菜発酵液を、表2に示すようにpH3.3〜4.1に調整して保存した。
(実施例5)
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。本実施例を基準7とした。
(実施例6)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。本実施例を基準8とした。
【0040】
(比較例1および2)
野菜発酵液をpH調整せずに保存した。特に比較例2では、発酵時間を108時間に延長して野菜発酵液のpHが4.0となるまで発酵させ、発酵の度合いを高めた。
(比較例3−1〜3−6)
リンゴ酸含量を0.2質量%以下(比較例3−1)、2.0質量%以上(比較例3−2)として発酵培地を調製し、あるいは、pHを4.6以下(比較例3−3、3−5)、7.0以上(比較例3−4、3−6)として発酵培地を調製し、発酵を行った。特に、比較例3−1では、発酵培地中のBrix.を7%とした。
(比較例4)
野菜発酵液のpHを3.3以下に調整して保存した。
(比較例5)
野菜発酵液のpHを4.1以上に調整して保存した。
(比較例6)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、野菜発酵液のpHを3.3以下に調整して保存した。
(比較例7)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、野菜発酵液のpHを4.1以上に調整して保存した。
(比較例8)
グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調整した。
(比較例9)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%、グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調製した。
(比較例10)
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、野菜発酵液をpH調整せずに保存した。
(比較例11)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製して、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、野菜発酵液をpH調整せずに保存した。
【0041】
◎評価結果
実施例1−1〜1−12の結果より、これらはいずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。また、野菜発酵液のpHが4.8である基準1〜4のサンプルに対して、pHが4.4あるいは6.8であるサンプルは、発酵培地中のリンゴ酸含量が0.3質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.8質量%のいずれの場合でも、官能評価結果に有意差はなく、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
また、基準1〜4のサンプルは、いずれも味や香り、保存性が良好であるが、これらの中では、発酵培地中のリンゴ酸含量が0.3質量%で、野菜発酵液中の炭酸含量が最も少ない基準1のサンプルが、刺激感が少なくて官能上最も好ましく、以下、基準2、3、4の順で官能上好ましいことが判った。
一方、実施例1−13の結果より、Brix.7%の場合も、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。
【0042】
実施例2−1〜2−4の結果より、発酵培地への乳の添加量を0.2〜20.0質量%の範囲内で変化させても、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0043】
実施例3−1〜3−3の結果より、野菜発酵液のpH調整値を3.3〜4.1の範囲内で変化させても、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。また、野菜発酵液のpH調整値が4.0である基準1のサンプルに対しても有意差は認められなかった。
【0044】
実施例4−1〜4−3の結果より、発酵培地へ乳を3.0質量%添加した場合でも、野菜発酵液のpH調整値を3.3〜4.1の範囲内で変化させても、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。また、野菜発酵液のpH調整値が4.0である基準6のサンプルに対しても有意差は認められなかった。
【0045】
実施例5および6の結果より、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0046】
比較例1のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められ、基準1のサンプルに対しても官能評価結果に有意差が認められ、味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵直後および保存後の菌数から明らかな通り、野菜発酵液のpHを調整せずに発酵後のpH4.8のまま保存したことにより、保存中に発酵が進行したことによるものであった。
また、比較例2のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、比較例1のサンプルと同様に、基準1のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、発酵直後の段階ですでに味や香りが満足できるものではなかった。これは、野菜発酵液の発酵度が高いことが原因であった。
【0047】
比較例3−1〜3−6のサンプルは、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、これらのうち、比較例3−1のサンプルは基準5のサンプルに対して有意差が認められ、比較例3−2のサンプルは基準1のサンプルに対して有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵培地中のリンゴ酸含量が0.2〜2.0質量%の範囲外であるためで、比較例3−1では、発酵直後の菌数から明らかなように、リンゴ酸含量が低いために発酵度が低く、比較例3−2では、リンゴ酸含量が高いために発酵前の発酵培地のpH調整に用いた炭酸カリウムの量が多くなり、塩の副生量が多くなったことが原因であった。
また、比較例3−3および3−4のサンプルは基準1のサンプルに対して有意差が認められ、比較例3−5および3−6のサンプルは基準4のサンプルに対して有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵前の発酵培地のpHが4.6〜7.0の範囲外であるためで、比較例3−3および3−5は、発酵直後の菌数から明らかなように、pHが低いために発酵度が低く、比較例3−4および3−6は、発酵直後の菌数から明らかなように、pHが高いために発酵度が低いことに加え、発酵前の発酵培地のpH調整に用いた炭酸カリウム、野菜発酵液のpH調整に用いたクエン酸の量がいずれも多く、その結果、塩の副生量が多くなったことが原因であった。
【0048】
比較例4のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、基準1のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。同様に比較例6のサンプルも、保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
一方、比較例5のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められ、基準1のサンプルに対しても官能評価結果に有意差が認められたことから、保存中に味や香りが変質したことが確認された。同様に比較例7のサンプルも、基準6のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、保存中に味や香りが変質したことが確認された。
これは、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、野菜発酵液のpH調整値が3.3〜4.1の範囲外であるためで、比較例4および6はpHが低いために、保存前の段階で酸味が強くなってしまっていることが原因であり、さらに保存中に菌数も減少してしまっている。一方、比較例5および7はpHが高いために、保存中に発酵が進行したことが原因であった。
【0049】
比較例8および9のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、比較例8のサンプルは基準1のサンプルに対して有意差が認められ、比較例9のサンプルは基準6のサンプルに対して有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、発酵培地へ添加したグルタミン酸が野菜発酵液中に残存していることと、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株が発酵中にγ−アミノ酪酸(GABA)を産生したことが原因であった。
【0050】
比較例10のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められ、基準7のサンプルに対しても有意差が認められた。また、比較例11のサンプルも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められ、基準8のサンプルに対しても有意差が認められた。すなわち、いずれも、保存中に味や香りが変質したことが確認された。これは、用いた菌株がラクトバチルス ブレビスJCM1059株であっても、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、野菜発酵液をpH調整せずにそのまま保存したことにより、保存中に発酵が進行したことが原因であった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
以上の結果より、本発明の製造方法により製造された発酵飲食品は、味や香りに優れ、ラクトバチルス ブレビスの生菌数が1×10cfu/ml以上であって、10℃で3週間保存しても、生菌数が変化せず、味や香りも変質しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、味や香りが良く保存性に優れた、生きた乳酸菌を含有した健康増進志向の発酵飲食品を提供できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性原料をストレート換算で50%以上、リンゴ酸を0.2〜2.0質量%含有し、かつpHが4.6〜7.0に調整された培地に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株を添加して、pHが4.3以上7.0未満となるように発酵させ、次いで該発酵物のpHを、酸を用いて3.3〜4.1に調整することを特徴とする発酵飲食品の製造方法。
【請求項2】
発酵終了後に発酵物の温度を下げることを特徴とする請求項1に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項3】
前記ラクトバチルス ブレビスに属する乳酸菌株が、ラクトバチルス ブレビスFERM BP−4693株であることを特徴とする請求項1または2に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項4】
前記培地が、乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項5】
前記培地が、リンゴ酸を0.2〜0.45質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法で得られることを特徴とする発酵飲食品。
【請求項7】
動物用飼料であることを特徴とする請求項6に記載の発酵飲食品。

【公開番号】特開2007−195414(P2007−195414A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14809(P2006−14809)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000104113)カゴメ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】