発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法、及び、藻場造成方法
【課題】製鋼スラグを、水産残渣を原料とする発酵魚粉の製造工程から活用することで、藻場造成用の肥料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を簡便に製造し、低価格にて供給するための発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法であって、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする。また、前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする。
【解決手段】藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法であって、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする。また、前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、我が国の沿岸域における藻場造成方法の一助となる、海域に必要な栄養塩分を供給する施肥材料として利用することができる物の製造方法および藻場造成方法に関し、特に、藻場造成用施肥材料とすることができる、各地の漁港や水産加工工場等で発生する水産残渣を原料とした発酵生成物(以下、発酵魚粉と称す)と表面改質製鋼スラグとの混合物の効率的な製造方法、および、その方法で製造された混合物を使用した藻場造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の沿岸域では、ここ約20年間、「磯焼け」とも呼ばれる、ワカメやコンブといった有用な藻類が減少する現象が各地で広がり、漁獲高減少の一因となっている。この磯焼けの原因には諸説があるが、これまでの対策として、例えば、藻類が付着可能な基質となる割り石やブロック等を海中に投入して藻場を形成するという取り組みなどが行われてきた。しかし、割り石投入の当初は藻類繁茂の効果が見られるものの、1〜2年後にはそれらの表面が有用藻類の生育を阻害する石灰藻に覆われてしまう結果、継続的な藻場の形成には至らず、新たな投石という繰り返しの措置が必要となっている。
【0003】
一方、各地の漁港周辺地域では、水揚げした水産品の加工等に伴い、魚の内臓や中骨・貝殻・ウロといった水産残渣が発生するが、これらは昭和45年に施工された海洋汚染防止法(昭和四十五年法律第百三十六号)によって、元の海域への投入が禁止されてしまったため、その大半は廃棄物として処理・処分せざるを得ず、元来の水産加工製品の製造コスト高の要因となっている。
【0004】
この廃棄物処理業者に委託処理された水産加工残渣は、魚粉製造プラントや魚油製造装置、フィッシュソリュブル(魚粉飼料)製造装置などにかけられて加工される。この概略の加工方法は、水産加工残渣を蒸煮(加熱減要)した後、圧搾して煮汁と圧搾ミールに分離し、煮汁の方はさらに遠心分離や濃縮工程を経て魚油やフィッシュソリュブルに加工される。圧搾ミールの方は、乾燥して魚粉(魚粕)に加工されて、肥料などに用いられる。
【0005】
上記、一連の水産加工残渣処理において重要なのは乾燥工程であり、乾燥装置において100℃以上の高温で連続運転しながら圧搾ミールを熱風乾燥するが、効率よくこの乾燥装置を稼働するためには大量の水産加工残渣が必要となり、そのため残渣の広範囲からの集荷が生じ、残渣の鮮度低下や腐敗をもたらす。
そこで鮮度低下を避けるためには、残渣の発生現場での加工が最も有効であるが、そうなると処理が小規模にならざるをえず高価な乾燥装置の使用は困難となる。
【0006】
この問題の解決には、残渣の鮮度が低下しないようにその発生現場において、高温をかけずに微生物処理による発酵を行う方法(例えば、非特許文献1参照)や、穀物などを低温で乾燥できる製麹方法に基づく小規模な製造方法(例えば、特許文献1参照)、あるいは残渣の破砕・加熱分解・発酵を同一の加熱釜内で短時間に密閉処理する方法(バイオメスクシステム、例えば、非特許文献2参照)などが提案されてきた。
【0007】
しかしながら、微生物処理による発酵の場合、非特許文献1には、発酵槽内の残渣の堆積高さが20cm以上になると通気性が悪くなり微生物の生育が抑制されるため、現実には通気性を非常によくした発酵槽や、堆積高さが20cm以下になるような広い発酵面積を持つ大型発酵装置が必要になると記載されている。
【0008】
また、製麹方法の場合には、特許文献1に記載のように、製麹中において食中毒菌などの有害細菌の発育を阻止するため、例えば圧搾ミールに単糖及び/又はブドウ糖を50重量%以上含む糖を添加して粒状の基質を製造し、この基質に麹菌を接種するという、コスト高となる糖添加が必要で、且つ、複雑な工程を取らざるを得ないことが記載されている。
【0009】
さらに、バイオメスク処理では、非特許文献2に記載のように、破砕・加熱分解・発酵を同一釜内で連続処理するため、長時間(40時間程度)、釜を占有して稼働せねばならず、生産効率が低く、事実上、処理コスト高をもたらさざるを得ない、というさらなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−357581号公報
【特許文献2】特開2006−345738号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】加藤富民雄ら、:日本農芸化学会誌 Vol.60、No.4 p−287(1986)
【非特許文献2】萱場工業株式会社ホームページ http://www.kayaba−ind.co.jp/nogyo.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、冒頭に記述した磯焼け海域におけるより有効な藻場造成技術として、例えば、特許文献2に記載のように、鉄鋼スラグから供給される二価鉄(Fe2+) とアンモニア化成する窒素化合物から供給されるアンモニア(NH3)との間でつくられる可溶性の錯イオン[Fe(NH3)6]2+ からなる鉄系肥料分と、窒素化合物中のリン、窒素からなる有機系肥料分とを、同時に供給する施肥技術を開発してきた。
具体的な例としては、特許文献2の実施例に記載のように、水産残渣を原料とする発酵魚粉(水産残渣を発酵させた加工品)や腐植土等の腐植物質と、鉄鋼製造時に副生する製鋼スラグ等の鉄鋼スラグとを、同時に磯焼け海域への海の肥料として投入(施肥)することにより、発酵魚粉からの窒素やリンといった栄養塩分と同時に、鉄鋼スラグから藻類の光合成成長に必須の元素である鉄分を同時に供給し、藻場を造成・再生するというものである。
【0013】
しかしながら、前述のように水産加工残渣の発生現場における従来方法に基づく発酵魚粉の製造では、製造装置(加熱装置や発酵槽など)の規模にもよるが、1回に処理できる量(ロット)が少量のため生産性が低く、設備費は元より、長時間、加熱・熟成させるための光熱費等のランニングコストもかかることから、製造コストが高くなるという問題を抱えており、地域からは水産加工残渣をより安価に高効率に発酵させる新たな手段が求められていた。
【0014】
また、藻場造成用の施肥材料の効果を高めるためには、鉄鋼スラグのうち、鉄分を比較的多く含む製鋼スラグを使用することが有効であるが、製鋼スラグは海中においてその表面から海水中へのアルカリ溶出が多い場合、海水のpH上昇に伴う水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の析出による白濁が生じることもあり、それを抑制することが好ましい。そのためには、製鉄所において事前に製鋼スラグの表面をコンクリート構造物と同様に大量の水で洗い流す灰汁抜き処理や、炭酸ガスを用いた炭酸化処理を施して表面改質製鋼スラグとする必要があるが、この表面改質処理のための手間やコストが嵩むという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明においては、藻場造成用の肥料とすることができる発酵魚粉と鉄鋼スラグとの混合物を、簡便に製造し、低価格にて供給するための製造方法を提供することを目的とする。特に、鉄鋼製造の副産物である鉄鋼スラグの一種の製鋼スラグを、水産残渣を原料とする発酵魚粉の製造工程から活用することで、藻場造成用の肥料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を簡便に製造し、低価格にて供給するための発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的のため、藻場造成実験のために磯焼け海域に投入する施肥用材料の事前準備段階として、従来方法で製造された発酵魚粉と鉄鋼スラグや腐植物質とを混合する作業を観察して、鋭意研究を重ねた結果、水産残渣と鉄鋼スラグ、中でも製鋼工程で発生する製鋼スラグを、発酵処理前の水産残渣または発酵中の水産残渣魚粉と混合することで、水産残渣の発酵が促進されることを見出した。また、非常に興味深いことに、水産加工残渣の発酵と並行して、製鋼スラグの表面で炭酸化反応が進行することが判った。
【0017】
これらの知見により、簡便に、かつ高効率に、藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を製造できることを見出して本発明を為すに至った。
【0018】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(2)前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする(1)に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(3)水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置した後、当該放置後の混合物に、更に、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することを繰り返して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする(1)又は(2)に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(4)前記水産残渣は、事前に加熱又は煮沸され、その後、前記製鋼スラグと混合されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(5)水産残渣と製鋼スラグに、更に(1)〜(4)のいずれか1つの製造方法により製造された発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を加えて混合して放置し、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法で製造した発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を、藻場造成用施肥材料として海域に投与することを特徴とする藻場造成方法。
【0019】
また、本発明においては、水産残渣と製鋼スラグを混合して生じた混合物を放置する際、既設のコンクリート製ピットやヤード(土間)にて堆積させて発酵させる堆肥盤方式を採用することによって、より簡便に、かつ高効率に、藻場造成用施肥材料として使用できる大量の発酵魚粉と表面改質された製鋼スラグの混合物を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法によれば、製麹のために糖を添加して粒状基質を製造して麹菌を接種する特殊な工程や、特段の大型発酵槽等を用いることもなく、あるいは専用の釜を発酵段階まで拘束するといった装置稼働効率の低下もなく、藻場造成用の施肥肥料に使用できる材料を、簡便に低価格にて供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の稲わらなど乾燥植物残渣材料の堆肥製造方法を示す流れ図である。
【図2】従来の牛糞堆肥製造方法(戻し堆肥による連続製造)を示す流れ図である。
【図3】本発明による藻場造成用施肥材料の製造方法を示す流れ図である。
【図4】一般的な道路用路盤材の粒度分布の範囲を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(初期一括混合)を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(分割混合)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(加熱分割混合)を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例4に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(冬期加熱分割混合)を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例5に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(粉分の多いスラグ使用時)を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例6に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(粉分の少ないスラグ使用時)を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例7に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(施肥材料戻し)を示すグラフである。
【図12】比較例1に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(天然石使用)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法は、水産残渣と、鉄鋼スラグのうち製鋼工程で発生する製鋼スラグとを混合して、しばらくの間放置することで、水産残渣の発酵が著しく進行すると共に、製鋼スラグの表面で炭酸化反応が進行し、発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を簡便に製造できるものである。
【0024】
なお、本発明における発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を、以下では簡略化して藻場造成用施肥材料とも呼称する。
【0025】
本発明においては、水産加工で生じた魚の頭・中骨・内臓・アラなどの水産残渣や、商品価値に乏しい魚介残材等の水産残渣、または、これらを加熱処理した水産残渣を用いることができる。また、本発明においては、鉄鋼製造において発生する転炉スラグや電炉スラグ等の製鋼スラグを使用することができる。
【0026】
本発明においては、上述の水産残渣(非加熱・加熱の一方でも両方でもよい)と、製鋼スラグとを混合し、その後、放置することで、水産残渣は発酵が進んで発酵魚粉となり、製鋼スラグは炭酸化反応が進行して表面改質製鋼スラグとなって、発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物が製造される。
【0027】
その際、混合する方式は問わないが、例えば、鍋等の容器内で、スラリー状やケーキ状で混合することができる。その後の放置は、混合容器内で放置しても、他の場所に移動して放置してもどちらでも構わず、室内外も問わない。
【0028】
また、放置する期間は、水産残渣の発酵が進んで発酵魚粉となり、製鋼スラグの炭酸化反応が進行して表面改質製鋼スラグとなるまで放置すればよく、発酵温度のピークが過ぎるまで放置すれば、発酵が進行して発酵魚粉が生成しているだけでなく製鋼スラグの炭酸化による表面改質も進行して表面改質スラグとなっているといえる。
【0029】
また、より好ましくは、発酵の過程で温度が上昇しピーク温度(例えば60℃)が過ぎて全体の温度低下が収まってくるまで(発酵開始温度とピーク温度との中間温度程度になるまで)の期間以上放置すれば、より十分に発酵と表面改質が進行していると言える。
【0030】
さらに、本発明においては、特に、既設のコンクリート製ピットやヤード(土間)にて堆積させて発酵させる堆肥盤方式を用いると、簡便に、かつより高効率に発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を製造させることができて好ましい。
【0031】
以下に、堆肥盤方式について説明する。
【0032】
そもそも堆肥化というものは、「生物系廃棄物(有機物)をあるコントロールされた条件下で、取り扱い易く、貯蔵性良くそして環境に害を及ぼすことなく安全に土壌還元可能な状態にまで微生物分解すること」と定義されており、主に動物の排泄物(大半は大量の家畜糞である牛糞)を堆肥化生物が分解することを指す。有機物分解が不完全な状態では肥料として様々な問題を持つため、これらの問題が起こらなくなるまで人為的に分解を進めることが堆肥化ともいわれる。
【0033】
また、一般的な稲わらなどの植物残渣は、図1に示される以下の工程を経て堆肥化される
(堆肥盤方式)
1)堆肥化の材料準備 (水かけ、切断) →1日
2)積み込み(石灰乳添加)と寝かし →2週間
3)本積み(切り崩し、水かけ、硫安添加) →4週間(3〜4日で発熱、60℃2週間以上)
4)切り返し(温度低下後、積み上げ) →1か月で完熟以上、ほぼ3カ月
【0034】
また、同じく図1には、石灰乳と硫安のかわりに、窒素原として石灰窒素を使用し、製造期間を短縮する速成堆肥の従来製造方法も示した。この場合、石灰乳による寝かしを必要とせず、最初から本積みができることからより効率的といわれている。
【0035】
一方、牛糞からの堆肥製造方法を図2に示す。家畜糞は水分含量が高く、生糞水分含量の半分程度(水分含量50%台)になるまで事前に乾燥させないと堆肥化しないため、まず始めに天日乾燥の工程が必要である。ここで水分が40%程度になったら、生牛糞を重さで等量混合して堆積発酵させる。2〜3日に1回の割合で切り返し(混合)を行い、約10日で熟成したタネ堆肥が得られる。さらにこのタネ堆肥を生牛糞と等量混合させると、タネ堆肥から持ち込まれた有用微生物郡が発酵源となり数日後には60℃くらいに温度があがり、これを2〜3日に1回切り返しすれば2〜3週間で完熟した牛糞堆肥が得られる。
【0036】
ただし、生糞の天日乾燥ないし堆積発酵の初期には、排泄物特有の異臭は発生する。
【0037】
以上のように従来の堆肥盤方式においても、牛糞の水分含量低下のために乾燥させる必要があることから、同程度以上の水分含量を有し、1回の発生量が少ない水産残渣に本方式を適用することは殆ど試みられず、その結果、これまでの発酵魚粉製造、前述の製麹方式や専用釜内で発酵させるバイオメスク方式などが主流であったものと推察できる。
【0038】
次に、本発明に係る藻場造成用施肥材料の製造方法を説明する。
【0039】
図3は、本発明による製造方法の1例を示したものであり、以下にその要点を述べる。
【0040】
まずは、漁港ないしは漁港周辺の水産加工場で発生する、魚の頭・中骨・内臓・アラなどの水産残渣、あるいは商品価値に乏しい魚介残材などを一定の容器に回収し、発酵処理を施す敷地に搬送させる。
【0041】
なお、鉛といった特異的な重金属を蓄積するイカゴロやタコの頭、季節的に貝毒などを濃縮するホタテ貝のワタなど、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準に適合しない有害物質を含む恐れのある残渣などは、用いないことが好ましい。
【0042】
次に、製鉄所にて発生した製鋼スラグをフレコン(フレキシブルコンテナバッグ)などのバッグに納めて該敷地に搬入する。ここでいう製鋼スラグとは、主に高炉方式の一貫製鉄所における製鋼工程(炭素含有量の高い溶けた銑鉄に酸素を吹いて炭素含有量の低い鋼鉄に精錬させる工程)にて副産物として生成するCaOやSiO2、FeOやFe2O3といった成分からなり、さらに製鉄所構内において溶けた状態から冷却された岩石状の複合酸化物のことを指す。表1には、製鋼スラグの一般的な化学成分の分析結果を質量%表示で示す。元来、天然資源である鉄鉱石から鉄分を回収した副産物のため天然の鉱物状態に近く、これまでは破砕、分級工程を経てその粒度が調整され、主に道路用路盤材料といった土木工事用の骨材材料として多用されてきたものである。
【0043】
この製鋼スラグを、荷を解いた後に重機などを用いて山状に積み直し、最後に水産残渣を混ぜ込みやすいように、山の頂上の一部を削ってすり鉢状とする。
【0044】
【表1】
【0045】
この製鋼スラグのすり鉢状の山に、水産残渣を注ぎ、重機などを用いて製鋼スラグと水産残渣を十分に混合させ、最後に改めて該混合物を山状に積み上げて堆積させる。この際に、製鋼スラグが水産加工残渣中の水分を吸収し、余剰な水分が山すそから系外に放出しないため、このあとの腐敗等に伴う悪臭の発生を相当に抑制することができる。
【0046】
なお、この製鋼スラグは、前述のこれまで道路用路盤材料といった土木工事用材料として製造されているものをそのまま使用できるが、該用途のためにJIS A5015「道路用鉄鋼スラグ」にてその粒度分布が図4中の帯で示すような特定の範囲内に調整することが規定されている。ここで、2mm以下の砂に近いものが上述の水産残渣中の水分の吸収に効果的な役割を示すことから、全質量に対してその質量比は10%以上であることが望ましい。
【0047】
逆に、細かな塊が多すぎる場合は山全体としての通気性の低下にも結びつくことから、5mm以下の塊分の質量比は40%以下であることがさらに望ましい。但し、40%以上の場合でも、適宜、山の底部にパイプなどを挿入して空気を送り込む方法と組み合わせればその限りではない。
【0048】
この混合物の堆積作業の途中に、混合物の各部に温度ならびに必要に応じて湿度を測定できるセンサーを埋設して発酵準備を整わせる。ここで降雨が多い梅雨の時期などは、この山にシートを掛けて、混合物の水分があがらないようにすることが好ましい。
【0049】
その後は放置することで、特段の作業や加熱処理を行わなくとも、季節にもよるが1週間から2週間程度、経過すれば発酵に伴い堆積物内部で温度が上昇し、その後2週間ほどは60℃以上の温度が保持でき、この熱によって病原性微生物を死滅させることができる。
【0050】
本方法の特徴として、まずは塊状の製鋼スラグが水産残渣の水分を吸収するため、過剰水分が山の周辺に浸み出すこともなく、従来法のように事前に十分な水産残渣の乾燥を行わなくとも水産残渣自体の含水量を低下させることができることがあげられる。
【0051】
但し、水産残渣の含水率を低下させるために、事前に加熱することで水分を蒸発させる方法と組み合わせても何の遜色もない。
【0052】
さらには、先に図2にも示した従来の堆肥盤方式の製造効率を高める方法として用いられる、完成した堆肥の一部を混合して水分調整を行う「戻し堆肥」方法も本発明における発酵の促進にきわめて有効である。
【0053】
以上、この特徴の結果として、塊状製鋼スラグの表面には、比較的含水率の下がった水産残渣の内容物(半固形物)が被覆されるが、製鋼スラグの塊同士の間には十分な空隙が確保できるため、従来の堆肥盤方式のように山詰み時に丸太やビニールパイプを立てておき、後ほどそれらを抜き取って空気穴を作る、といった工夫を一切行わずとも、山全体として通気性を確保することができる。
【0054】
また、製鋼スラグには、数%程度の水に溶け出しやすいカルシウム成分が存在し(以後、遊離石灰と称す)、この遊離石灰は非常にゆっくりと溶出して有機物の微生物分解を促進しやすくするため、従来の堆肥盤方式のように初期に石灰乳や硫安ないしは石灰窒素を添加する必要もない。
【0055】
さらに製鋼スラグ中に含水する水分ならびにスラグの間隙水中に存在する水分中にはこの遊離石灰が溶解する(Ca2+)ためアルカリ性となるが、発酵に伴い微生物が生成するCO2がこのCa分と反応して炭酸化反応が起こる。この反応は発熱を伴うため、特に冬季の北海道地区のように外気温の低い場合でも、廃食油の添加や外部からの加熱などを行わなくとも、山全体の温度を高位に保つことができる。
【0056】
このように、外気温が低い場合でも安定して60℃以上の高温を2週間以上、維持することができ、この熱によって病原性微生物を死滅させることができる。
【0057】
夏季など、この発酵による発熱に伴い、山全体の温度が過剰に上昇する場合には、従来方式のように、時折、重機などによって山の一部を切り崩す、あるいは、適宜、山の底部にパイプなどを挿入し、そのパイプを介して空気を送り込む、といった抜熱処理を行うことが効果的であるのはいうまでもない。
【0058】
ここで、この反応の生成物である炭酸カルシウム(CaCO3)が水産残渣と製鋼スラグの界面に生成するが、言いかえれば製鋼スラグの表面の一部あるいは殆どをこれらの生成物が水産残渣とともに被覆することになり、製鋼スラグ表面が改質される。
【0059】
従来の藻場造成用施肥材料の製造では、それぞれに用意した個別原料を混合すると先に述べたが、遊離石灰が多い製鋼スラグを用いる場合には、表面から海水へのアルカリ溶出を抑制する目的で、製鉄所において大量の水による洗浄や、この炭酸化反応などを用いた表面改質処理を施す必要があった。一方、本発明においては、このような製鋼スラグの事前改質処理も不要となり、こうして製造された藻場造成用施肥材を海域に投与した場合の周辺の海水のpHを、従来法の発酵魚粉と表面改質製鋼スラグを混合した施肥材料を海域投与した場合の数値と遜色なく安定させることができる。
【0060】
なお、製鋼スラグが表面改質されたことを確認するには、化学分析によって遊離石灰が減少していることで、あるいはより具体的には、炭酸化によりCaCO3が生じるため、混合前の製鋼スラグと混合して放置した後の製鋼スラグとを粉末X線回折にて測定し、放置後の製鋼スラグの方がCaCO3のピーク強度が強くなっていることを見ることにより確認できる。あるいは、EPMA測定により、放置後の製鋼スラグ表面のC成分が増加していることにより確認してもよい。
【0061】
また、発酵の進捗状況については、適宜、山の温度や、内部から採取したガスのアンモニア濃度を測定することにより、一次発酵(高温期における易分解性有機物の分解)ならびに二次発酵(完熟度の醸成)の状況を管理することができる。
【0062】
すなわち、品温の推移と有機物指標の低下から見ると、品温60℃が1〜2週間程度維持されれば有機物の分解が十分に進行すると考えられ、このときアンモニアの発生も低減することから、堆肥の品質及び環境配慮の観点からも、品温の維持は重要であるといえる。
【0063】
本方式で発生するアンモニアは、堆肥近傍からサンプリングするため測定値としては幾分、高いが、敷地境界線では大気により希釈され、特に臭気が気になるようなことにはならない。また、畜産糞尿を処理する堆肥化施設での測定値に比べて格段に高いものではないことも確認された。
【0064】
このように、本発明の藻場造成用施肥材料の製造方法によれば、製麹のために糖を添加して粒状基質を製造して麹菌を接種する特殊な工程や、特段の大型発酵槽等を用いることもなく、あるいは専用の釜を発酵段階まで拘束するといった装置稼働効率の低下もなく、藻場造成用肥料を低価格にて供給することができる。
【0065】
具体的には、煮沸ボイラーを用いて水産残渣を加熱し、その後に同一の釜内で水分を飛ばしながら密閉条件で発酵を行わせる従来のバイオメスク方法と、当該釜で水産残渣の加熱のみを行い製鋼スラグと混合させる本発明の方法による製造可能量を試算比較した結果、本発明では釜で加熱のみを実施し、占有率が低いため、約3倍の生産が可能であり、原燃料や人件費など製造に必要なコストは従来の1/2以下に抑制できるということが判った。
【0066】
また、このようにして製造した藻場造成材料は、従来技術である、発酵魚粉、製鋼スラグおよび/または腐植物質といった各種原料をそれぞれ用意した後に混合する方法で製造した藻場造成材料と比べて、製造時に発生する粉塵や臭気の発生も抑制されて、製造時の作業性が非常に良好である。
【0067】
さらには、海域への施肥材料の施工作業に際しても、本発明の製造方法による藻場造成用施肥材料は製鋼スラグの塊のまわりに発酵魚粉が固着していることから、従来技術で見られた海水への投入時に軽くて粉体である発酵魚粉のみが飛散するという問題もなく、歩留りがよいという効果も得られた。
【0068】
更にまた、本発明の製造方法による藻場造成用施肥材料は、従来のそれぞれの混合品によるそれと遜色ない藻場造成に関する施肥効果を有することを、実際の磯焼け海域への施肥実験においても確認している。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例をもって本発明をさらに詳細に説明する。
【0070】
(実施例1)
製鉄所から搬入して、すり鉢状の山に積上げた製鋼スラグ約10トンに、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約4トンを注ぎこみ、重機を用いてこれらをよく混合し、新たな山を積み上げた。ここで用いた製鋼スラグは、元来、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整されたもので、2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%であった。
【0071】
この混合物の山の頂点(深さ200mm)と中腹、ならびに山すその数箇所に温度計ならびに湿度計をセットした後に、全体をブルーシートで覆い発酵準備を完了した。この混合作業時に、水産残渣の水分はほとんど全て製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0072】
この後、適宜、温度や湿度の観測、ならびに適宜、ブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0073】
図5に、水産残渣と製鋼スラグを混合、山積みした日からの経過日数に対する、外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、放置後しばらくは山内の温度は外気温とほぼ同じだが、図中に点線で示した10日を過ぎた頃から、発酵が活発となり山内部の温度が上昇しだし、20日すぎには60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上で推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0074】
20日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、温度が60℃となった発酵初期には約200ppm程度であったが、30日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目以降の温度の低下に伴いその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。この間、ブルーシートの外側では特段の異臭は感知されなかった。
【0075】
また、切り返しの時点で山内の材料を採取し、蒸留水によるしん透抽出・遠心分離法によって上透水を分離し、TOC(全有機炭素)や易分解性有機物の指標としての生物化学的酸素要求量(BOD)などの分析も実施したが、日数の経過とともにBODが低下し、有機物の分解が進行していることも確認できた。
【0076】
さらに当該試料の一部を樹脂に埋め込み、研磨作業によってその断面を磨きだし、EPMA測定を実施した結果、製鋼スラグ表面にC成分が薄い膜状に存在することも検出され改質状況を確認できた。
【0077】
このようにして製造された藻場造成用施肥材料をさらに1カ月ほど静置して完熟させたうえで、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準の評価方法に基づき溶出試験を実施したところ、重金属など全ての元素について判定基準を満たしていることが確認できたため、約2トンを透水性の袋に小分けしながら鋼製の箱に充填し、藻類の成長が芳しくない海域(海底)に春先に設置した。
【0078】
設置に際して、設置前後の海水のpHを測定したが、いずれも約8.2を示し著しい変化は認められなかった。その後、該海域の藻場状況について観察を実施したところ、周辺海域に比べ、鋼製の箱の周辺の藻類の成長が良好なことも確認できた。
【0079】
(実施例2)
実施例1では数日間かけて近隣から搬入した水産残渣4トンをまとめて一括混合したが、現実的には1日あたりに発生する水産残渣の量には差もあることから、都度、発生する新鮮な残渣を追加投入する処理を行った。実施例1と同じ、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げ、そこに近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を2日おきに注ぎこみ、重機を用いてこれらをよく混合した。
【0080】
処理開始から8日目に約4トンの水産残渣の混合が完了したので、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0081】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0082】
図6に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図5に示した初期一括混合に比べると、必要な水産残渣の充填完了までに日数を要したために発酵開始が遅れた分、温度の上昇開始が数日、遅れたものの、しばらくは山内の温度は外気温とほぼ同じだが、2週間を過ぎた頃から発酵に伴い山内部の温度が上昇、25日目すぎには60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上で推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0083】
25日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、45日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。
【0084】
(実施例3)
発明者らは本発明を検討するまでは、破砕・加熱分解・発酵を同一釜内で連続処理するバイオメスク処理方式を用いて水産残渣から発酵魚粉の製造を行っていた。この方式では、蒸気加熱を用いて水産残渣を加熱、煮沸処理することで、水産残渣中の水分を減らすと同時に、内容物中の固形分を軟化させることができる。そこで、実施例3においては、実施例2に述べた分割混合処理に、この水産残渣の加熱を組み合わせる処理を実施した。
【0085】
具体的には、実施例1や2と同様に、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0086】
処理開始から8日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了し、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0087】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0088】
図7に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図6に示した加熱なしの分割混合に比べ、初日から水産残渣の熱分により山の温度が30℃程度となり、必要な水産残渣量の充填が完了した翌日から発酵に伴う山内部温度が上昇し、14日目には60℃に達して、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間も、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0089】
15日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、30日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、35日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了できた。
【0090】
(実施例4)
これまでの実施例は、春から夏にかけての外気温が良好な状態での処理に関するものであるが、秋から冬場にかけて、特に寒冷地で温度が低い地域においては、従来の牛糞堆肥製造などでも補助的な加熱などに伴う発酵促進処理が必要と言われている。実施例3で述べた水産残渣の加熱を行ったケースがこのような寒冷地で有効かどうか、積雪前の10月から11月にかけて処理を実施した。
【0091】
これまでの実施例と同様の、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0092】
処理開始から10日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0093】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0094】
図8に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図7に示した夏季の加熱・分割混合に比べると、初日から山の温度が20℃程度であり、必要な水産残渣量の充填が完了した10日目以降も山内の温度は上昇せず発酵が開始しない状態であった。日数の経過とともに外気温も低下してきたため、約2週間後に山の底部に、内径20mmのSUS製パイプに穴あけしたもの3本を山すそから差込み、昼間の間、ブロアーを用いて送風を行った。
【0095】
この結果、外気温の低下にもかかわらず、送風開始から約1週間経過したあたりから温度があがりはじめ、30日経過時には山内温度は60℃に達して、そこから約20日間、外気温度が0℃を下回る日があるにもかかわらず山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。
【0096】
適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、30日目あたりでは約200ppm程度であったが、40日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、45日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、送風を停止し発酵作業を終了させた。
【0097】
(実施例5)
本発明で用いる製鋼スラグは、先に図3にも示したように道路用路盤材向けの骨材として粒度調整されたものであり、先の実施例では2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%のものを用いたが、山内の通気性の観点から2mm以下の粉分が多い場合に適正な処理が可能かどうかを確認するために、別途、製鉄所にて2mm以下のスラグ塊の質量比が約30%、5mm以下の質量比は約45%という製鋼スラグ、約10トンを調整して搬入し、それをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0098】
混合処理開始から8日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了し、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0099】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0100】
図9に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温(○印)ならびに山の頂点部の温度の推移(▲印)を示す。この図には、先に図7に示した粉分が適度な実施例3の測定結果も示したが(●印)、やはり粉分が多く通気性が低下するためか、10日を経過しても山の温度は実施例3ほどは上昇しない。但し、15日を経過したあたりから徐々にではあるが温度が上がり始めたため、20日目にブルーシートをめくり、重機にて山の切り崩しを行ったところ、その翌日から山内部温度が上昇し、25日目には60℃に到達、そこから約20日の間、山内温度は60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。
【0101】
25日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。
【0102】
(実施例6)
先に実施例5で、製鋼スラグの粉分が多い場合でも、切り返しなどの処理により本発明で発酵処理が行えることが確認されたが、逆に粉分が少ない場合にはどのようになるかの確認も実施した。
【0103】
製鉄所において、これまで用いてきた道路用路盤材向け骨材として粒度調整された製鋼スラグを、一端、5mmの篩で篩い分けて5mm以下を分級し、この篩下のスラグをさらに2mmの篩で篩い分けたうえで、2mm以下の粉状スラグをスラグ全体に対して質量比で5%、5mm以下のスラグは実施例5と同様の質量比で約35%となるように、再度、混合し直したものを準備し、搬入した。この2mm以下の質量比が約5%の製鋼スラグ、約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0104】
この混合作業時に、2mm以下の質量比が約5%の製鋼スラグの山の場合、やはり粉分が少ないため水分の吸収能が低下し、混合初期には山すそから幾分、外に漏れ出す水分が観察されたが、この水分を製鋼スラグで覆うようにしてこれらをうまく吸収させて混合を完了させ、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆った。
【0105】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0106】
図10に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、粉分が少ないことに起因すると考えられる遊離石灰分の減少のためか、先に図7に示した粉分が適度な実施例3の測定結果に比べると、山の温度が30℃程度と期間が少し長くなったが、12日目から温度の上昇がみられ、18日目には60℃に達して、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間も、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0107】
20日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了できた。
【0108】
こうして製造された藻場造成用施肥材料をさらに1カ月ほど静置して完熟させたうえ、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準の評価方法に基づき溶出試験を実施し、重金属など全ての元素について判定基準を満たしていることを確認したうえで、約1.5トンの該施肥材料と、別途準備した0.5トンの腐植物質とを混合しながら透水性の袋に小分けしつつ鋼製の箱に充填し、藻類が繁茂していない磯焼け海域に秋に設置した。設置に際し、設置前後の海水のpHを測定したが、いずれも約8.2を示し変化は認められなかった。海水の白濁も全く生じなかった。その後、冬季を経て翌年の春には、鋼製の箱の周辺に新たな藻類の繁殖(再生)が確認できた。
【0109】
(実施例7)
牛糞の堆肥化において、すでに発酵が完了したタネ堆肥を用いて効率を高める戻し堆肥の方法が有効であることは図2にも示したが、この方法が本発明にも有効かどうかの処理を実施した。
【0110】
道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約5トンと、本発明方法で先に製造を行った藻場造成用施肥材料3トンを混ぜ合わせたうえですり鉢状の山に積上げで、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)4トンを、該山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。
【0111】
混合完了後に、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0112】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0113】
図11に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、加熱を行っていない水産残渣にもかかわらず、混合から2日後には山の温度が上昇しはじめ1週間後には60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0114】
8日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、2週間目には約200ppm程度であったが、20日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、25日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、30日目にブルーシートを取って作業を終了した。
【0115】
(比較例1)
本発明のポイントは、水産残渣の発酵処理時に製鋼スラグを用いて、通気性確保ならびに適度なアルカリ溶出にともなう発酵ならびに発熱(保熱)促進をもたらす点にある。この効果を見極めるため、製鋼スラグの代わりに、ほぼ類似の粒度分布(2mm以下の塊分の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%)となるように天然骨材(大半がケイ砂ならびに花崗岩)を混合調整したものを準備し、処理を行った。
【0116】
粒度調整を行った天然骨材 約10トンをすり鉢状の山に積上げで、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0117】
この混合作業時に、天然骨材は製鋼スラグに比べて緻密質で吸水率が低いためか、水産残渣の水分はさほど吸収されず、山すそから殆どが外に漏れ出してしまった。この混合完了後に、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆った。
【0118】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0119】
図12に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、混合時には水産残渣の熱分により山の温度が30℃程度となり、必要な水産残渣量の充填完了まではほぼ同温度で推移したが、混合が完了した10日目以降も山の温度上昇はほとんど見られず、むしろ外気温と同じレベルまで温度が低下してしまい、切り返しを実施しても現象に変化はなく、発酵はほとんど進まなかった。
【0120】
10日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したが、いつまでも約200ppm程度で、有機物の分解は観察できなかった。
【0121】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法によって製造された混合物は、海域における藻場造成用施肥材料としてだけでなく、陸域における植物における施肥材料としても利用できる可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、我が国の沿岸域における藻場造成方法の一助となる、海域に必要な栄養塩分を供給する施肥材料として利用することができる物の製造方法および藻場造成方法に関し、特に、藻場造成用施肥材料とすることができる、各地の漁港や水産加工工場等で発生する水産残渣を原料とした発酵生成物(以下、発酵魚粉と称す)と表面改質製鋼スラグとの混合物の効率的な製造方法、および、その方法で製造された混合物を使用した藻場造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の沿岸域では、ここ約20年間、「磯焼け」とも呼ばれる、ワカメやコンブといった有用な藻類が減少する現象が各地で広がり、漁獲高減少の一因となっている。この磯焼けの原因には諸説があるが、これまでの対策として、例えば、藻類が付着可能な基質となる割り石やブロック等を海中に投入して藻場を形成するという取り組みなどが行われてきた。しかし、割り石投入の当初は藻類繁茂の効果が見られるものの、1〜2年後にはそれらの表面が有用藻類の生育を阻害する石灰藻に覆われてしまう結果、継続的な藻場の形成には至らず、新たな投石という繰り返しの措置が必要となっている。
【0003】
一方、各地の漁港周辺地域では、水揚げした水産品の加工等に伴い、魚の内臓や中骨・貝殻・ウロといった水産残渣が発生するが、これらは昭和45年に施工された海洋汚染防止法(昭和四十五年法律第百三十六号)によって、元の海域への投入が禁止されてしまったため、その大半は廃棄物として処理・処分せざるを得ず、元来の水産加工製品の製造コスト高の要因となっている。
【0004】
この廃棄物処理業者に委託処理された水産加工残渣は、魚粉製造プラントや魚油製造装置、フィッシュソリュブル(魚粉飼料)製造装置などにかけられて加工される。この概略の加工方法は、水産加工残渣を蒸煮(加熱減要)した後、圧搾して煮汁と圧搾ミールに分離し、煮汁の方はさらに遠心分離や濃縮工程を経て魚油やフィッシュソリュブルに加工される。圧搾ミールの方は、乾燥して魚粉(魚粕)に加工されて、肥料などに用いられる。
【0005】
上記、一連の水産加工残渣処理において重要なのは乾燥工程であり、乾燥装置において100℃以上の高温で連続運転しながら圧搾ミールを熱風乾燥するが、効率よくこの乾燥装置を稼働するためには大量の水産加工残渣が必要となり、そのため残渣の広範囲からの集荷が生じ、残渣の鮮度低下や腐敗をもたらす。
そこで鮮度低下を避けるためには、残渣の発生現場での加工が最も有効であるが、そうなると処理が小規模にならざるをえず高価な乾燥装置の使用は困難となる。
【0006】
この問題の解決には、残渣の鮮度が低下しないようにその発生現場において、高温をかけずに微生物処理による発酵を行う方法(例えば、非特許文献1参照)や、穀物などを低温で乾燥できる製麹方法に基づく小規模な製造方法(例えば、特許文献1参照)、あるいは残渣の破砕・加熱分解・発酵を同一の加熱釜内で短時間に密閉処理する方法(バイオメスクシステム、例えば、非特許文献2参照)などが提案されてきた。
【0007】
しかしながら、微生物処理による発酵の場合、非特許文献1には、発酵槽内の残渣の堆積高さが20cm以上になると通気性が悪くなり微生物の生育が抑制されるため、現実には通気性を非常によくした発酵槽や、堆積高さが20cm以下になるような広い発酵面積を持つ大型発酵装置が必要になると記載されている。
【0008】
また、製麹方法の場合には、特許文献1に記載のように、製麹中において食中毒菌などの有害細菌の発育を阻止するため、例えば圧搾ミールに単糖及び/又はブドウ糖を50重量%以上含む糖を添加して粒状の基質を製造し、この基質に麹菌を接種するという、コスト高となる糖添加が必要で、且つ、複雑な工程を取らざるを得ないことが記載されている。
【0009】
さらに、バイオメスク処理では、非特許文献2に記載のように、破砕・加熱分解・発酵を同一釜内で連続処理するため、長時間(40時間程度)、釜を占有して稼働せねばならず、生産効率が低く、事実上、処理コスト高をもたらさざるを得ない、というさらなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−357581号公報
【特許文献2】特開2006−345738号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】加藤富民雄ら、:日本農芸化学会誌 Vol.60、No.4 p−287(1986)
【非特許文献2】萱場工業株式会社ホームページ http://www.kayaba−ind.co.jp/nogyo.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、冒頭に記述した磯焼け海域におけるより有効な藻場造成技術として、例えば、特許文献2に記載のように、鉄鋼スラグから供給される二価鉄(Fe2+) とアンモニア化成する窒素化合物から供給されるアンモニア(NH3)との間でつくられる可溶性の錯イオン[Fe(NH3)6]2+ からなる鉄系肥料分と、窒素化合物中のリン、窒素からなる有機系肥料分とを、同時に供給する施肥技術を開発してきた。
具体的な例としては、特許文献2の実施例に記載のように、水産残渣を原料とする発酵魚粉(水産残渣を発酵させた加工品)や腐植土等の腐植物質と、鉄鋼製造時に副生する製鋼スラグ等の鉄鋼スラグとを、同時に磯焼け海域への海の肥料として投入(施肥)することにより、発酵魚粉からの窒素やリンといった栄養塩分と同時に、鉄鋼スラグから藻類の光合成成長に必須の元素である鉄分を同時に供給し、藻場を造成・再生するというものである。
【0013】
しかしながら、前述のように水産加工残渣の発生現場における従来方法に基づく発酵魚粉の製造では、製造装置(加熱装置や発酵槽など)の規模にもよるが、1回に処理できる量(ロット)が少量のため生産性が低く、設備費は元より、長時間、加熱・熟成させるための光熱費等のランニングコストもかかることから、製造コストが高くなるという問題を抱えており、地域からは水産加工残渣をより安価に高効率に発酵させる新たな手段が求められていた。
【0014】
また、藻場造成用の施肥材料の効果を高めるためには、鉄鋼スラグのうち、鉄分を比較的多く含む製鋼スラグを使用することが有効であるが、製鋼スラグは海中においてその表面から海水中へのアルカリ溶出が多い場合、海水のpH上昇に伴う水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の析出による白濁が生じることもあり、それを抑制することが好ましい。そのためには、製鉄所において事前に製鋼スラグの表面をコンクリート構造物と同様に大量の水で洗い流す灰汁抜き処理や、炭酸ガスを用いた炭酸化処理を施して表面改質製鋼スラグとする必要があるが、この表面改質処理のための手間やコストが嵩むという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明においては、藻場造成用の肥料とすることができる発酵魚粉と鉄鋼スラグとの混合物を、簡便に製造し、低価格にて供給するための製造方法を提供することを目的とする。特に、鉄鋼製造の副産物である鉄鋼スラグの一種の製鋼スラグを、水産残渣を原料とする発酵魚粉の製造工程から活用することで、藻場造成用の肥料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を簡便に製造し、低価格にて供給するための発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的のため、藻場造成実験のために磯焼け海域に投入する施肥用材料の事前準備段階として、従来方法で製造された発酵魚粉と鉄鋼スラグや腐植物質とを混合する作業を観察して、鋭意研究を重ねた結果、水産残渣と鉄鋼スラグ、中でも製鋼工程で発生する製鋼スラグを、発酵処理前の水産残渣または発酵中の水産残渣魚粉と混合することで、水産残渣の発酵が促進されることを見出した。また、非常に興味深いことに、水産加工残渣の発酵と並行して、製鋼スラグの表面で炭酸化反応が進行することが判った。
【0017】
これらの知見により、簡便に、かつ高効率に、藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を製造できることを見出して本発明を為すに至った。
【0018】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(2)前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする(1)に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(3)水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置した後、当該放置後の混合物に、更に、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することを繰り返して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする(1)又は(2)に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(4)前記水産残渣は、事前に加熱又は煮沸され、その後、前記製鋼スラグと混合されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(5)水産残渣と製鋼スラグに、更に(1)〜(4)のいずれか1つの製造方法により製造された発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を加えて混合して放置し、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法で製造した発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を、藻場造成用施肥材料として海域に投与することを特徴とする藻場造成方法。
【0019】
また、本発明においては、水産残渣と製鋼スラグを混合して生じた混合物を放置する際、既設のコンクリート製ピットやヤード(土間)にて堆積させて発酵させる堆肥盤方式を採用することによって、より簡便に、かつ高効率に、藻場造成用施肥材料として使用できる大量の発酵魚粉と表面改質された製鋼スラグの混合物を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法によれば、製麹のために糖を添加して粒状基質を製造して麹菌を接種する特殊な工程や、特段の大型発酵槽等を用いることもなく、あるいは専用の釜を発酵段階まで拘束するといった装置稼働効率の低下もなく、藻場造成用の施肥肥料に使用できる材料を、簡便に低価格にて供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の稲わらなど乾燥植物残渣材料の堆肥製造方法を示す流れ図である。
【図2】従来の牛糞堆肥製造方法(戻し堆肥による連続製造)を示す流れ図である。
【図3】本発明による藻場造成用施肥材料の製造方法を示す流れ図である。
【図4】一般的な道路用路盤材の粒度分布の範囲を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(初期一括混合)を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(分割混合)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(加熱分割混合)を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例4に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(冬期加熱分割混合)を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例5に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(粉分の多いスラグ使用時)を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例6に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(粉分の少ないスラグ使用時)を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例7に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(施肥材料戻し)を示すグラフである。
【図12】比較例1に係る藻場造成用施肥材料製造時の品温の推移(天然石使用)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る藻場造成用施肥材料とすることができる発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物の製造方法は、水産残渣と、鉄鋼スラグのうち製鋼工程で発生する製鋼スラグとを混合して、しばらくの間放置することで、水産残渣の発酵が著しく進行すると共に、製鋼スラグの表面で炭酸化反応が進行し、発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を簡便に製造できるものである。
【0024】
なお、本発明における発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を、以下では簡略化して藻場造成用施肥材料とも呼称する。
【0025】
本発明においては、水産加工で生じた魚の頭・中骨・内臓・アラなどの水産残渣や、商品価値に乏しい魚介残材等の水産残渣、または、これらを加熱処理した水産残渣を用いることができる。また、本発明においては、鉄鋼製造において発生する転炉スラグや電炉スラグ等の製鋼スラグを使用することができる。
【0026】
本発明においては、上述の水産残渣(非加熱・加熱の一方でも両方でもよい)と、製鋼スラグとを混合し、その後、放置することで、水産残渣は発酵が進んで発酵魚粉となり、製鋼スラグは炭酸化反応が進行して表面改質製鋼スラグとなって、発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物が製造される。
【0027】
その際、混合する方式は問わないが、例えば、鍋等の容器内で、スラリー状やケーキ状で混合することができる。その後の放置は、混合容器内で放置しても、他の場所に移動して放置してもどちらでも構わず、室内外も問わない。
【0028】
また、放置する期間は、水産残渣の発酵が進んで発酵魚粉となり、製鋼スラグの炭酸化反応が進行して表面改質製鋼スラグとなるまで放置すればよく、発酵温度のピークが過ぎるまで放置すれば、発酵が進行して発酵魚粉が生成しているだけでなく製鋼スラグの炭酸化による表面改質も進行して表面改質スラグとなっているといえる。
【0029】
また、より好ましくは、発酵の過程で温度が上昇しピーク温度(例えば60℃)が過ぎて全体の温度低下が収まってくるまで(発酵開始温度とピーク温度との中間温度程度になるまで)の期間以上放置すれば、より十分に発酵と表面改質が進行していると言える。
【0030】
さらに、本発明においては、特に、既設のコンクリート製ピットやヤード(土間)にて堆積させて発酵させる堆肥盤方式を用いると、簡便に、かつより高効率に発酵魚粉と表面改質製鋼スラグの混合物を製造させることができて好ましい。
【0031】
以下に、堆肥盤方式について説明する。
【0032】
そもそも堆肥化というものは、「生物系廃棄物(有機物)をあるコントロールされた条件下で、取り扱い易く、貯蔵性良くそして環境に害を及ぼすことなく安全に土壌還元可能な状態にまで微生物分解すること」と定義されており、主に動物の排泄物(大半は大量の家畜糞である牛糞)を堆肥化生物が分解することを指す。有機物分解が不完全な状態では肥料として様々な問題を持つため、これらの問題が起こらなくなるまで人為的に分解を進めることが堆肥化ともいわれる。
【0033】
また、一般的な稲わらなどの植物残渣は、図1に示される以下の工程を経て堆肥化される
(堆肥盤方式)
1)堆肥化の材料準備 (水かけ、切断) →1日
2)積み込み(石灰乳添加)と寝かし →2週間
3)本積み(切り崩し、水かけ、硫安添加) →4週間(3〜4日で発熱、60℃2週間以上)
4)切り返し(温度低下後、積み上げ) →1か月で完熟以上、ほぼ3カ月
【0034】
また、同じく図1には、石灰乳と硫安のかわりに、窒素原として石灰窒素を使用し、製造期間を短縮する速成堆肥の従来製造方法も示した。この場合、石灰乳による寝かしを必要とせず、最初から本積みができることからより効率的といわれている。
【0035】
一方、牛糞からの堆肥製造方法を図2に示す。家畜糞は水分含量が高く、生糞水分含量の半分程度(水分含量50%台)になるまで事前に乾燥させないと堆肥化しないため、まず始めに天日乾燥の工程が必要である。ここで水分が40%程度になったら、生牛糞を重さで等量混合して堆積発酵させる。2〜3日に1回の割合で切り返し(混合)を行い、約10日で熟成したタネ堆肥が得られる。さらにこのタネ堆肥を生牛糞と等量混合させると、タネ堆肥から持ち込まれた有用微生物郡が発酵源となり数日後には60℃くらいに温度があがり、これを2〜3日に1回切り返しすれば2〜3週間で完熟した牛糞堆肥が得られる。
【0036】
ただし、生糞の天日乾燥ないし堆積発酵の初期には、排泄物特有の異臭は発生する。
【0037】
以上のように従来の堆肥盤方式においても、牛糞の水分含量低下のために乾燥させる必要があることから、同程度以上の水分含量を有し、1回の発生量が少ない水産残渣に本方式を適用することは殆ど試みられず、その結果、これまでの発酵魚粉製造、前述の製麹方式や専用釜内で発酵させるバイオメスク方式などが主流であったものと推察できる。
【0038】
次に、本発明に係る藻場造成用施肥材料の製造方法を説明する。
【0039】
図3は、本発明による製造方法の1例を示したものであり、以下にその要点を述べる。
【0040】
まずは、漁港ないしは漁港周辺の水産加工場で発生する、魚の頭・中骨・内臓・アラなどの水産残渣、あるいは商品価値に乏しい魚介残材などを一定の容器に回収し、発酵処理を施す敷地に搬送させる。
【0041】
なお、鉛といった特異的な重金属を蓄積するイカゴロやタコの頭、季節的に貝毒などを濃縮するホタテ貝のワタなど、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準に適合しない有害物質を含む恐れのある残渣などは、用いないことが好ましい。
【0042】
次に、製鉄所にて発生した製鋼スラグをフレコン(フレキシブルコンテナバッグ)などのバッグに納めて該敷地に搬入する。ここでいう製鋼スラグとは、主に高炉方式の一貫製鉄所における製鋼工程(炭素含有量の高い溶けた銑鉄に酸素を吹いて炭素含有量の低い鋼鉄に精錬させる工程)にて副産物として生成するCaOやSiO2、FeOやFe2O3といった成分からなり、さらに製鉄所構内において溶けた状態から冷却された岩石状の複合酸化物のことを指す。表1には、製鋼スラグの一般的な化学成分の分析結果を質量%表示で示す。元来、天然資源である鉄鉱石から鉄分を回収した副産物のため天然の鉱物状態に近く、これまでは破砕、分級工程を経てその粒度が調整され、主に道路用路盤材料といった土木工事用の骨材材料として多用されてきたものである。
【0043】
この製鋼スラグを、荷を解いた後に重機などを用いて山状に積み直し、最後に水産残渣を混ぜ込みやすいように、山の頂上の一部を削ってすり鉢状とする。
【0044】
【表1】
【0045】
この製鋼スラグのすり鉢状の山に、水産残渣を注ぎ、重機などを用いて製鋼スラグと水産残渣を十分に混合させ、最後に改めて該混合物を山状に積み上げて堆積させる。この際に、製鋼スラグが水産加工残渣中の水分を吸収し、余剰な水分が山すそから系外に放出しないため、このあとの腐敗等に伴う悪臭の発生を相当に抑制することができる。
【0046】
なお、この製鋼スラグは、前述のこれまで道路用路盤材料といった土木工事用材料として製造されているものをそのまま使用できるが、該用途のためにJIS A5015「道路用鉄鋼スラグ」にてその粒度分布が図4中の帯で示すような特定の範囲内に調整することが規定されている。ここで、2mm以下の砂に近いものが上述の水産残渣中の水分の吸収に効果的な役割を示すことから、全質量に対してその質量比は10%以上であることが望ましい。
【0047】
逆に、細かな塊が多すぎる場合は山全体としての通気性の低下にも結びつくことから、5mm以下の塊分の質量比は40%以下であることがさらに望ましい。但し、40%以上の場合でも、適宜、山の底部にパイプなどを挿入して空気を送り込む方法と組み合わせればその限りではない。
【0048】
この混合物の堆積作業の途中に、混合物の各部に温度ならびに必要に応じて湿度を測定できるセンサーを埋設して発酵準備を整わせる。ここで降雨が多い梅雨の時期などは、この山にシートを掛けて、混合物の水分があがらないようにすることが好ましい。
【0049】
その後は放置することで、特段の作業や加熱処理を行わなくとも、季節にもよるが1週間から2週間程度、経過すれば発酵に伴い堆積物内部で温度が上昇し、その後2週間ほどは60℃以上の温度が保持でき、この熱によって病原性微生物を死滅させることができる。
【0050】
本方法の特徴として、まずは塊状の製鋼スラグが水産残渣の水分を吸収するため、過剰水分が山の周辺に浸み出すこともなく、従来法のように事前に十分な水産残渣の乾燥を行わなくとも水産残渣自体の含水量を低下させることができることがあげられる。
【0051】
但し、水産残渣の含水率を低下させるために、事前に加熱することで水分を蒸発させる方法と組み合わせても何の遜色もない。
【0052】
さらには、先に図2にも示した従来の堆肥盤方式の製造効率を高める方法として用いられる、完成した堆肥の一部を混合して水分調整を行う「戻し堆肥」方法も本発明における発酵の促進にきわめて有効である。
【0053】
以上、この特徴の結果として、塊状製鋼スラグの表面には、比較的含水率の下がった水産残渣の内容物(半固形物)が被覆されるが、製鋼スラグの塊同士の間には十分な空隙が確保できるため、従来の堆肥盤方式のように山詰み時に丸太やビニールパイプを立てておき、後ほどそれらを抜き取って空気穴を作る、といった工夫を一切行わずとも、山全体として通気性を確保することができる。
【0054】
また、製鋼スラグには、数%程度の水に溶け出しやすいカルシウム成分が存在し(以後、遊離石灰と称す)、この遊離石灰は非常にゆっくりと溶出して有機物の微生物分解を促進しやすくするため、従来の堆肥盤方式のように初期に石灰乳や硫安ないしは石灰窒素を添加する必要もない。
【0055】
さらに製鋼スラグ中に含水する水分ならびにスラグの間隙水中に存在する水分中にはこの遊離石灰が溶解する(Ca2+)ためアルカリ性となるが、発酵に伴い微生物が生成するCO2がこのCa分と反応して炭酸化反応が起こる。この反応は発熱を伴うため、特に冬季の北海道地区のように外気温の低い場合でも、廃食油の添加や外部からの加熱などを行わなくとも、山全体の温度を高位に保つことができる。
【0056】
このように、外気温が低い場合でも安定して60℃以上の高温を2週間以上、維持することができ、この熱によって病原性微生物を死滅させることができる。
【0057】
夏季など、この発酵による発熱に伴い、山全体の温度が過剰に上昇する場合には、従来方式のように、時折、重機などによって山の一部を切り崩す、あるいは、適宜、山の底部にパイプなどを挿入し、そのパイプを介して空気を送り込む、といった抜熱処理を行うことが効果的であるのはいうまでもない。
【0058】
ここで、この反応の生成物である炭酸カルシウム(CaCO3)が水産残渣と製鋼スラグの界面に生成するが、言いかえれば製鋼スラグの表面の一部あるいは殆どをこれらの生成物が水産残渣とともに被覆することになり、製鋼スラグ表面が改質される。
【0059】
従来の藻場造成用施肥材料の製造では、それぞれに用意した個別原料を混合すると先に述べたが、遊離石灰が多い製鋼スラグを用いる場合には、表面から海水へのアルカリ溶出を抑制する目的で、製鉄所において大量の水による洗浄や、この炭酸化反応などを用いた表面改質処理を施す必要があった。一方、本発明においては、このような製鋼スラグの事前改質処理も不要となり、こうして製造された藻場造成用施肥材を海域に投与した場合の周辺の海水のpHを、従来法の発酵魚粉と表面改質製鋼スラグを混合した施肥材料を海域投与した場合の数値と遜色なく安定させることができる。
【0060】
なお、製鋼スラグが表面改質されたことを確認するには、化学分析によって遊離石灰が減少していることで、あるいはより具体的には、炭酸化によりCaCO3が生じるため、混合前の製鋼スラグと混合して放置した後の製鋼スラグとを粉末X線回折にて測定し、放置後の製鋼スラグの方がCaCO3のピーク強度が強くなっていることを見ることにより確認できる。あるいは、EPMA測定により、放置後の製鋼スラグ表面のC成分が増加していることにより確認してもよい。
【0061】
また、発酵の進捗状況については、適宜、山の温度や、内部から採取したガスのアンモニア濃度を測定することにより、一次発酵(高温期における易分解性有機物の分解)ならびに二次発酵(完熟度の醸成)の状況を管理することができる。
【0062】
すなわち、品温の推移と有機物指標の低下から見ると、品温60℃が1〜2週間程度維持されれば有機物の分解が十分に進行すると考えられ、このときアンモニアの発生も低減することから、堆肥の品質及び環境配慮の観点からも、品温の維持は重要であるといえる。
【0063】
本方式で発生するアンモニアは、堆肥近傍からサンプリングするため測定値としては幾分、高いが、敷地境界線では大気により希釈され、特に臭気が気になるようなことにはならない。また、畜産糞尿を処理する堆肥化施設での測定値に比べて格段に高いものではないことも確認された。
【0064】
このように、本発明の藻場造成用施肥材料の製造方法によれば、製麹のために糖を添加して粒状基質を製造して麹菌を接種する特殊な工程や、特段の大型発酵槽等を用いることもなく、あるいは専用の釜を発酵段階まで拘束するといった装置稼働効率の低下もなく、藻場造成用肥料を低価格にて供給することができる。
【0065】
具体的には、煮沸ボイラーを用いて水産残渣を加熱し、その後に同一の釜内で水分を飛ばしながら密閉条件で発酵を行わせる従来のバイオメスク方法と、当該釜で水産残渣の加熱のみを行い製鋼スラグと混合させる本発明の方法による製造可能量を試算比較した結果、本発明では釜で加熱のみを実施し、占有率が低いため、約3倍の生産が可能であり、原燃料や人件費など製造に必要なコストは従来の1/2以下に抑制できるということが判った。
【0066】
また、このようにして製造した藻場造成材料は、従来技術である、発酵魚粉、製鋼スラグおよび/または腐植物質といった各種原料をそれぞれ用意した後に混合する方法で製造した藻場造成材料と比べて、製造時に発生する粉塵や臭気の発生も抑制されて、製造時の作業性が非常に良好である。
【0067】
さらには、海域への施肥材料の施工作業に際しても、本発明の製造方法による藻場造成用施肥材料は製鋼スラグの塊のまわりに発酵魚粉が固着していることから、従来技術で見られた海水への投入時に軽くて粉体である発酵魚粉のみが飛散するという問題もなく、歩留りがよいという効果も得られた。
【0068】
更にまた、本発明の製造方法による藻場造成用施肥材料は、従来のそれぞれの混合品によるそれと遜色ない藻場造成に関する施肥効果を有することを、実際の磯焼け海域への施肥実験においても確認している。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例をもって本発明をさらに詳細に説明する。
【0070】
(実施例1)
製鉄所から搬入して、すり鉢状の山に積上げた製鋼スラグ約10トンに、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約4トンを注ぎこみ、重機を用いてこれらをよく混合し、新たな山を積み上げた。ここで用いた製鋼スラグは、元来、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整されたもので、2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%であった。
【0071】
この混合物の山の頂点(深さ200mm)と中腹、ならびに山すその数箇所に温度計ならびに湿度計をセットした後に、全体をブルーシートで覆い発酵準備を完了した。この混合作業時に、水産残渣の水分はほとんど全て製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0072】
この後、適宜、温度や湿度の観測、ならびに適宜、ブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0073】
図5に、水産残渣と製鋼スラグを混合、山積みした日からの経過日数に対する、外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、放置後しばらくは山内の温度は外気温とほぼ同じだが、図中に点線で示した10日を過ぎた頃から、発酵が活発となり山内部の温度が上昇しだし、20日すぎには60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上で推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0074】
20日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、温度が60℃となった発酵初期には約200ppm程度であったが、30日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目以降の温度の低下に伴いその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。この間、ブルーシートの外側では特段の異臭は感知されなかった。
【0075】
また、切り返しの時点で山内の材料を採取し、蒸留水によるしん透抽出・遠心分離法によって上透水を分離し、TOC(全有機炭素)や易分解性有機物の指標としての生物化学的酸素要求量(BOD)などの分析も実施したが、日数の経過とともにBODが低下し、有機物の分解が進行していることも確認できた。
【0076】
さらに当該試料の一部を樹脂に埋め込み、研磨作業によってその断面を磨きだし、EPMA測定を実施した結果、製鋼スラグ表面にC成分が薄い膜状に存在することも検出され改質状況を確認できた。
【0077】
このようにして製造された藻場造成用施肥材料をさらに1カ月ほど静置して完熟させたうえで、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準の評価方法に基づき溶出試験を実施したところ、重金属など全ての元素について判定基準を満たしていることが確認できたため、約2トンを透水性の袋に小分けしながら鋼製の箱に充填し、藻類の成長が芳しくない海域(海底)に春先に設置した。
【0078】
設置に際して、設置前後の海水のpHを測定したが、いずれも約8.2を示し著しい変化は認められなかった。その後、該海域の藻場状況について観察を実施したところ、周辺海域に比べ、鋼製の箱の周辺の藻類の成長が良好なことも確認できた。
【0079】
(実施例2)
実施例1では数日間かけて近隣から搬入した水産残渣4トンをまとめて一括混合したが、現実的には1日あたりに発生する水産残渣の量には差もあることから、都度、発生する新鮮な残渣を追加投入する処理を行った。実施例1と同じ、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げ、そこに近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を2日おきに注ぎこみ、重機を用いてこれらをよく混合した。
【0080】
処理開始から8日目に約4トンの水産残渣の混合が完了したので、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0081】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0082】
図6に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図5に示した初期一括混合に比べると、必要な水産残渣の充填完了までに日数を要したために発酵開始が遅れた分、温度の上昇開始が数日、遅れたものの、しばらくは山内の温度は外気温とほぼ同じだが、2週間を過ぎた頃から発酵に伴い山内部の温度が上昇、25日目すぎには60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上で推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0083】
25日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、45日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。
【0084】
(実施例3)
発明者らは本発明を検討するまでは、破砕・加熱分解・発酵を同一釜内で連続処理するバイオメスク処理方式を用いて水産残渣から発酵魚粉の製造を行っていた。この方式では、蒸気加熱を用いて水産残渣を加熱、煮沸処理することで、水産残渣中の水分を減らすと同時に、内容物中の固形分を軟化させることができる。そこで、実施例3においては、実施例2に述べた分割混合処理に、この水産残渣の加熱を組み合わせる処理を実施した。
【0085】
具体的には、実施例1や2と同様に、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0086】
処理開始から8日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了し、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0087】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0088】
図7に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図6に示した加熱なしの分割混合に比べ、初日から水産残渣の熱分により山の温度が30℃程度となり、必要な水産残渣量の充填が完了した翌日から発酵に伴う山内部温度が上昇し、14日目には60℃に達して、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間も、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0089】
15日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、30日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、35日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了できた。
【0090】
(実施例4)
これまでの実施例は、春から夏にかけての外気温が良好な状態での処理に関するものであるが、秋から冬場にかけて、特に寒冷地で温度が低い地域においては、従来の牛糞堆肥製造などでも補助的な加熱などに伴う発酵促進処理が必要と言われている。実施例3で述べた水産残渣の加熱を行ったケースがこのような寒冷地で有効かどうか、積雪前の10月から11月にかけて処理を実施した。
【0091】
これまでの実施例と同様の、道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0092】
処理開始から10日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0093】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0094】
図8に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、図7に示した夏季の加熱・分割混合に比べると、初日から山の温度が20℃程度であり、必要な水産残渣量の充填が完了した10日目以降も山内の温度は上昇せず発酵が開始しない状態であった。日数の経過とともに外気温も低下してきたため、約2週間後に山の底部に、内径20mmのSUS製パイプに穴あけしたもの3本を山すそから差込み、昼間の間、ブロアーを用いて送風を行った。
【0095】
この結果、外気温の低下にもかかわらず、送風開始から約1週間経過したあたりから温度があがりはじめ、30日経過時には山内温度は60℃に達して、そこから約20日間、外気温度が0℃を下回る日があるにもかかわらず山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。
【0096】
適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、30日目あたりでは約200ppm程度であったが、40日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、45日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、送風を停止し発酵作業を終了させた。
【0097】
(実施例5)
本発明で用いる製鋼スラグは、先に図3にも示したように道路用路盤材向けの骨材として粒度調整されたものであり、先の実施例では2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%のものを用いたが、山内の通気性の観点から2mm以下の粉分が多い場合に適正な処理が可能かどうかを確認するために、別途、製鉄所にて2mm以下のスラグ塊の質量比が約30%、5mm以下の質量比は約45%という製鋼スラグ、約10トンを調整して搬入し、それをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0098】
混合処理開始から8日目に約4トンの加熱水産残渣の混合が完了し、山の頂点や中腹ならびに山すその数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この分割混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0099】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0100】
図9に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温(○印)ならびに山の頂点部の温度の推移(▲印)を示す。この図には、先に図7に示した粉分が適度な実施例3の測定結果も示したが(●印)、やはり粉分が多く通気性が低下するためか、10日を経過しても山の温度は実施例3ほどは上昇しない。但し、15日を経過したあたりから徐々にではあるが温度が上がり始めたため、20日目にブルーシートをめくり、重機にて山の切り崩しを行ったところ、その翌日から山内部温度が上昇し、25日目には60℃に到達、そこから約20日の間、山内温度は60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。
【0101】
25日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了した。
【0102】
(実施例6)
先に実施例5で、製鋼スラグの粉分が多い場合でも、切り返しなどの処理により本発明で発酵処理が行えることが確認されたが、逆に粉分が少ない場合にはどのようになるかの確認も実施した。
【0103】
製鉄所において、これまで用いてきた道路用路盤材向け骨材として粒度調整された製鋼スラグを、一端、5mmの篩で篩い分けて5mm以下を分級し、この篩下のスラグをさらに2mmの篩で篩い分けたうえで、2mm以下の粉状スラグをスラグ全体に対して質量比で5%、5mm以下のスラグは実施例5と同様の質量比で約35%となるように、再度、混合し直したものを準備し、搬入した。この2mm以下の質量比が約5%の製鋼スラグ、約10トンをすり鉢状の山に積上げた上で、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに製鋼スラグの山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0104】
この混合作業時に、2mm以下の質量比が約5%の製鋼スラグの山の場合、やはり粉分が少ないため水分の吸収能が低下し、混合初期には山すそから幾分、外に漏れ出す水分が観察されたが、この水分を製鋼スラグで覆うようにしてこれらをうまく吸収させて混合を完了させ、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆った。
【0105】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0106】
図10に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、粉分が少ないことに起因すると考えられる遊離石灰分の減少のためか、先に図7に示した粉分が適度な実施例3の測定結果に比べると、山の温度が30℃程度と期間が少し長くなったが、12日目から温度の上昇がみられ、18日目には60℃に達して、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間も、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0107】
20日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、発酵初期には約200ppm程度であったが、35日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、40日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、ブルーシートを取って発酵作業を終了できた。
【0108】
こうして製造された藻場造成用施肥材料をさらに1カ月ほど静置して完熟させたうえ、海洋汚染の防止に関する法律(環境庁告示第14号)の水底土砂判定基準の評価方法に基づき溶出試験を実施し、重金属など全ての元素について判定基準を満たしていることを確認したうえで、約1.5トンの該施肥材料と、別途準備した0.5トンの腐植物質とを混合しながら透水性の袋に小分けしつつ鋼製の箱に充填し、藻類が繁茂していない磯焼け海域に秋に設置した。設置に際し、設置前後の海水のpHを測定したが、いずれも約8.2を示し変化は認められなかった。海水の白濁も全く生じなかった。その後、冬季を経て翌年の春には、鋼製の箱の周辺に新たな藻類の繁殖(再生)が確認できた。
【0109】
(実施例7)
牛糞の堆肥化において、すでに発酵が完了したタネ堆肥を用いて効率を高める戻し堆肥の方法が有効であることは図2にも示したが、この方法が本発明にも有効かどうかの処理を実施した。
【0110】
道路用路盤材向けの骨材として粒度調整された2mm以下のスラグ塊の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%の製鋼スラグ約5トンと、本発明方法で先に製造を行った藻場造成用施肥材料3トンを混ぜ合わせたうえですり鉢状の山に積上げで、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)4トンを、該山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。
【0111】
混合完了後に、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆い発酵処理を開始した。この混合作業時にも、水産残渣の水分はほとんど全て、製鋼スラグの山に吸収され、山積み完了時も山すそからの流出は観察されなかった。
【0112】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0113】
図11に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、加熱を行っていない水産残渣にもかかわらず、混合から2日後には山の温度が上昇しはじめ1週間後には60℃に達し、そこから約20日間は山内温度が60℃以上を推移し、発酵状態の継続が見られた。この間、数回、ブルーシートをめくり、重機を用いた切り替えし(混合)も行ったが、極端な温度低下は観察されなかった。
【0114】
8日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したところ、2週間目には約200ppm程度であったが、20日を過ぎたあたりから徐々にその濃度が低下、25日目にはその濃度も50ppm以下となり有機物の分解は十分に進行したことが判明したため、30日目にブルーシートを取って作業を終了した。
【0115】
(比較例1)
本発明のポイントは、水産残渣の発酵処理時に製鋼スラグを用いて、通気性確保ならびに適度なアルカリ溶出にともなう発酵ならびに発熱(保熱)促進をもたらす点にある。この効果を見極めるため、製鋼スラグの代わりに、ほぼ類似の粒度分布(2mm以下の塊分の質量比が約20%、5mm以下の質量比は約35%)となるように天然骨材(大半がケイ砂ならびに花崗岩)を混合調整したものを準備し、処理を行った。
【0116】
粒度調整を行った天然骨材 約10トンをすり鉢状の山に積上げで、近隣の水産加工場から搬入したホッケと鮭の中骨を含む水産残渣(含水率 約85%)約1トン/回を、上述の加熱用専用釜内にて加熱・煮沸処理を施し、これを2日おきに山に注ぎこみ、重機を用いてよく混合した。なお、保熱のために混合処理後は、都度、ブルーシートで全体を覆った。
【0117】
この混合作業時に、天然骨材は製鋼スラグに比べて緻密質で吸水率が低いためか、水産残渣の水分はさほど吸収されず、山すそから殆どが外に漏れ出してしまった。この混合完了後に、山の頂点や中腹ならびに山すそ数箇所に温度計をセットし、全体をブルーシートで覆った。
【0118】
この後、適宜、温度の観測、およびブルーシートの内側に専用の臭気カバーを設置し、検知式ガス測定器を用いてアンモニア濃度を測定した。
【0119】
図12に、水産残渣を分割混合した日からの経過日数に対する外気温ならびに山の頂点部の温度の推移を示す。この図から、混合時には水産残渣の熱分により山の温度が30℃程度となり、必要な水産残渣量の充填完了まではほぼ同温度で推移したが、混合が完了した10日目以降も山の温度上昇はほとんど見られず、むしろ外気温と同じレベルまで温度が低下してしまい、切り返しを実施しても現象に変化はなく、発酵はほとんど進まなかった。
【0120】
10日目以降、適宜、山内のガス中のアンモニア濃度を測定したが、いつまでも約200ppm程度で、有機物の分解は観察できなかった。
【0121】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法によって製造された混合物は、海域における藻場造成用施肥材料としてだけでなく、陸域における植物における施肥材料としても利用できる可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項2】
前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項3】
水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置した後、当該放置後の混合物に、更に、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することを繰り返して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする請求項1又は2に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項4】
前記水産残渣は、事前に加熱又は煮沸され、その後、前記製鋼スラグと混合されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項5】
水産残渣と製鋼スラグに、更に請求項1〜4のいずれか1項の製造方法により製造された発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を加えて混合して放置し、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で製造した発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を、藻場造成用施肥材料として海域に投与することを特徴とする藻場造成方法。
【請求項1】
水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することで、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項2】
前記製鋼スラグは、粒径2mm以下のスラグ塊を10質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項3】
水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置した後、当該放置後の混合物に、更に、水産残渣と製鋼スラグとを混合して放置することを繰り返して、発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする請求項1又は2に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項4】
前記水産残渣は、事前に加熱又は煮沸され、その後、前記製鋼スラグと混合されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項5】
水産残渣と製鋼スラグに、更に請求項1〜4のいずれか1項の製造方法により製造された発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を加えて混合して放置し、前記水産残渣を発酵させると共に、前記製鋼スラグを表面改質して発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を製造することを特徴とする発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で製造した発酵魚粉と表面改質した製鋼スラグの混合物を、藻場造成用施肥材料として海域に投与することを特徴とする藻場造成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−254026(P2012−254026A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127557(P2011−127557)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業(水産未利用資源を藻場再生肥料として有効活用するための研究開発)に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(505223805)株式会社オーシャングリーン (2)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業(水産未利用資源を藻場再生肥料として有効活用するための研究開発)に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(505223805)株式会社オーシャングリーン (2)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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