説明

発電入力装置および前記発電入力装置を使用した電子機器

【課題】 過大な操作力を必要とせず、大きな出力の起電力を発生できる発電入力装置および前記発電入力装置を使用した電子機器を提供する。
【解決手段】 発電コイルが巻かれた磁路形成部材3に第1の対向端部4aと第2の対向端部4bが形成されている。回動体10が、永久磁石21と第1の磁化部材22および第2の磁化部材23を有している。操作部材15に操作力が作用していないと、第1の磁化部材22の端面22aが第1の対向端部4aに隙間を介して対向し、第2の磁化部材23の端面23aが第2の対向端面4bに隙間を介して対向する。操作部材15が押されると回動体10が回動し、操作部材15への力が解除されると操作部材15と回動体10が復帰する。回動体10と磁路形成部材3が接触しないので操作部材15の操作に要する力が比較的弱く、回動体10が磁気吸着で瞬時に回動するため、大きな起電力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの操作力によって発電することができる発電入力装置、および前記発電入力装置が操作されたときの起電力によって送信動作などが行われる電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図7に、自己発電型のキー入力装置の基本的な構造が記載されている。
このキー入力装置は、磁路を形成するコアと、コアに巻かれたコイル部が設けられている。コアの両端部が空間を介して対向しており、この空間内に棒状の磁石が介入できるようになっている。磁石が前記空間内に介入するときのコア内の磁束の変化と、磁石が前記空間内から離脱するときのコア内の磁束の変化とから、前記コイルに起電力を生じさせるというものである。
【0003】
特許文献1に記載されたキー入力装置は、磁石をその磁極の向きを変えることなく、空間内に出し入れするだけである。そのため、コア内で磁束の向きが反転することがなく、コア内の磁束の変化量が小さく、発電効率が悪い。
【0004】
この構造では、磁石が空間内に挿入されるときは、磁石がコアの端部に吸引されて比較的速い速度で移動するが、磁石を空間内から離脱させるときは、磁石に対してその離脱を阻止する向きの力が作用するため、離脱速度を速くするのに限界がある。起電力は単位時間あたりのコア内の磁束の変化量に比例するため、磁石を空間内に向けて移動させるときに誘導される起電力に対して、磁石を空間から離脱させるときに誘導される起電力が大幅に低下してしまう。起電力を大きくするためには、磁石を空間内から離脱させるための強い力を発揮する復帰ばねを使用することが必要となるが、この復帰ばねの力が操作力に対して抵抗力として作用することになり操作しにくいものとなる。
【0005】
特許文献2の図3と図4に記載されたトランスデューサは、コイルが巻かれた軟磁性部材の両端部に、互いに対向するストップポイントが設けられている。軟磁性部材の間に、永久磁石が軸を中心として回動自在に支持されており、永久磁石の両面に第1の磁石層と第2の磁石層が重ねられている。第1の磁石層の両端部と第2の磁石層の両端部は平行に対向しており、その間に前記軟磁性部材のストップポイントが入り込んでいる。
【0006】
永久磁石が時計方向へ回動すると、第1の磁石層の一方の端部と第2の磁石層の一方の端部が軟磁性部材のストップポイントに磁気吸着されて固定され、反時計方向へ回動すると、第1の磁石層の他方の端部と第2の磁石層の他方の端部が軟磁性部材のストップストップに磁気吸着されて固定される。このトランスデューサも、永久磁石が時計方向へ回動するときの軟磁性部材内の磁束の変化と、反時計方向へ回動するときの軟磁性部材内の磁束の変化とで、コイルに起電力を発生させている。
【0007】
特許文献2に記載されたトランスデューサは、永久磁石が時計方向へ回動したときと反時計方向へ回動したときの双方で、第1の磁石層と第2の磁石層が軟磁性部材に吸着されて固定されてしまうため、この吸着固定状態から永久磁石を逆向きに回転させるために非常に大きな力が必要になる。トランスデューサには、永久磁石を同じ姿勢へ戻すための戻しばねが設けられているが、この点に関して、特許文献2では、ストップポイントでの磁気保持力よりも大きい力を発揮する戻しばねを使用しなくてはならないと説明されている。したがって、永久磁石を回動させるときは、第1の磁石層と第2の磁石層をストップポイントから引き離すのに必要となる力と、戻しばねに対抗する力を合算させた力が必要になり、過大な操作力を与えないと動作させることができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−199961号公報
【特許文献2】米国特許公開2006/0091984A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、過大な操作力が不要で操作が容易であり、しかも比較的大きな起電力を得ることができる発電入力装置を提供することを目的としている。
【0010】
また、本発明は、前記発電入力装置を使用して信号の送信などを行なうことができる電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発電入力装置は、磁性材料で形成された磁路形成部材と、前記磁路形成部材の一部であって空間を介して対向する第1の対向端面および第2の対向端面と、前記第1の対向端部と前記第2の対向端部との間で前記磁路形成部材に巻かれた発電用コイルと、前記空間内に位置して前記第1の対向端部と前記第2の対向端部との対向方向と直交する軸を支点として回動する回動体と、前記回動体に回動力を与える操作部材とを有しており、
前記回動体は、互いに逆の磁極となる第1の着磁面と第2の着磁面を有する磁石と、前記第1の着磁面に固着された磁性材料製の第1の磁化部材と、前記第2の着磁面に固着された磁性材料製の第2の磁化部材とを有し、
前記操作部材によって、前記回動体が、前記第1の磁化部材の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向し且つ前記第2の磁化部材の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向する第1の姿勢と、前記第1の磁化部材の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向し且つ前記第2の磁化部材の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向する第2の姿勢との間で往復回動させられることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の発電入力装置は、回動体が、第1の姿勢へ向けて回動するときと、第2の姿勢に向けて回動するときの双方において、第1の磁化部材と第2の磁化部材が、磁路形成部材の2つの対向端部に磁気吸引されるため、回動体の回動速度が自然と加速されることなる。そのため、磁路形成部材の内部の単位時間当たりに磁束の変化量が大きくなり、発電効率が高くなる。
【0013】
また、回動体が第1の姿勢と第2の姿勢に回動したときに、第1の磁化部材および第2の磁化部材と磁路形成部材の対向端部との間に隙間が形成されているため、回動体を第1の姿勢から回動させ、または第2の姿勢から回動させるときに過大な操作力が必要とならない。したがって、操作がきわめて容易である。
【0014】
本発明は、詳しくは、前記磁石と前記第1の磁化部材および前記第2の磁化部材が、前記軸の延びる方向と直交する方向に重ねられており、
第1の姿勢では、前記第1の磁化部材の一方の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向して、他方の端部が前記第2の対向端部に対向せず、且つ前記第2の磁化部材の一方の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向して、他方の端部が前記第1の対向端部に対向せず、
第2の姿勢では、前記第1の磁化部材の一方の端部が前記第1の対向端部に対向せずに、他方の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向し、且つ前記第2の磁化部材の一方の端部が前記第2の対向端部に対向せずに、他方の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向するものである。
【0015】
そして、前記第1の姿勢で、前記第1の磁化部材が前記第1の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され、且つ前記第2の磁化部材が前記第2の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され、
前記第2の姿勢で、前記第1の磁化部材が前記第2の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され且つ前記第2の磁化部材が前記第1の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引されるものである。
【0016】
本発明の発電入力装置は、前記第2の姿勢での磁気吸引力に打ち勝って、前記回動体を第1の姿勢に復帰させる復帰ばねが設けられているものとして構成できる。
【0017】
回動体を第1の姿勢または第2の姿勢から回動させるのに必要な力が過大ではないため、前記復帰ばねの力を適度なものにでき、操作しやすいものとなる。
【0018】
本発明の電子機器は、前記発電入力装置と、前記回動体が回動したときに前記発電コイルから得られる起電力によって駆動される信号処理回路とを有していることを特徴とするものである。
【0019】
また本発明の電子機器は、前記起電力で駆動される送信回路を有しており、前記信号処理回路は、前記回動体が第1の姿勢から第2の姿勢に回動して前記発電コイルから第1の起電力が与えられたときと、前記回動体が第2の姿勢から第1の姿勢に回動して前記発電コイルから第2の起電力が与えられたときに、前記送信回路の切換えを行うものである。
【0020】
本発明の電子機器は、前記発電入力装置が複数設けられており、それぞれの発電入力装置から得られる第1の起電力が、個別に前記信号処理回路に与えられ、複数の発電入力装置から得られる第2の起電力が、共通のラインから前記信号処理部に与えられるものにできる。
【0021】
この場合に、共通の前記ラインに、第2の起電力を通過させるダイオードが設けられているものが好ましい。
【0022】
上記のように、複数の発電入力装置の第2の起電力を同じラインにして信号処理回路に与えることで、回路構成を簡単にできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の発電入力装置は、回動体が、第1の姿勢へ向けて回動するときと、第2の姿勢に向けて回動するときの双方において、第1の磁化部材と第2の磁化部材が、磁路形成部材の2つの対向端部に磁気吸引される。そのため、回動体の回動速度が自然と加速されることなり、磁路形成部材の内部の単位時間当たりに磁束の変化量が大きくなって、発電効率を向上させることが可能になる。
【0024】
また、回動体が第1の姿勢と第2の姿勢に回動したときに、第1の磁化部材および第2の磁化部材と磁路形成部材の対向端部との間に隙間が形成されている。そのため、回動体を第1の姿勢と第2の姿勢のそれぞれの姿勢から回動させるときに過大な操作力が必要とならず、操作がきわめて容易である。
【0025】
さらに、前記発電入力装置を用いて、送信回路などを有する電子機器を、無電力で動作させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態の発電入力装置の全体構造を示す斜視図、
【図2】発電入力装置の、磁路形成部材とコイルと磁束発生部の位置関係を示す部分斜視図、
【図3】回動体が第1の姿勢のときの発電入力装置の側面図、
【図4】回動体が第2の姿勢のときの発電入力装置の側面図、
【図5】磁気吸引力と復帰ばねの弾性力と操作反力の関係を示す線図、
【図6】本発明の実施の形態の電子機器の回路図、
【図7】電子機器の起電力の波形を示す線図、
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示す発電入力装置1は、筐体2を有している。図1に示す筐体2は下部筐体であり、筐体2の上に図示しない上部筐体が設置されている。
【0028】
筐体2に磁路形成部材3が保持されている。図2に示すように、磁路形成部材3は、第1の腕部3aと第2の腕部3bおよび連結部3cとが連続して一体に形成されている。磁路形成部材3は軟磁性の金属板でU字形状に形成されて、連結部3cが上向きにほぼ直角に折り曲げられている。第1の腕部3aが第1の対向端部4aを有し、第2の腕部3bが第2の対向端部4bを有している。
【0029】
図1ないし図4では、第1の腕部3aと第2の腕部3bの板面に沿う対向方向がX方向で示され、第1の腕部3aと第2の腕部3bの板厚方向がX方向と直交するY方向として示されている。第1の腕部3aと第2の腕部3b内での磁束の誘導方法がさらにZ方向として示されている。
【0030】
第1の腕部3aの第1の対向端部4aと、第2の腕部の第2の対向端部4bは、誘導方向(Z方向)に向けて互いに平行に延びている。第1の対向端面4aと第2の対向端面4bは、Y−Z平面に平行で平坦な端面を有している。
【0031】
磁路形成部材3の第1の腕部3aの外周に第1のボビン5aが設けられ、第1のボビン5aに第1の発電コイル6aが巻かれている。第2の腕部3bの外周に第2のボビン5bが設けられ、第2のボビン5bに第2の発電コイル6bが巻かれている。
【0032】
図1に示すように、筐体2に保持凹部2aが形成されており、磁路形成部材3ならびに第1のボビン5aと第2のボビン5bが、保持凹部2aの内部に嵌合し、位置決めされて固定されている。
【0033】
第1の発電コイル6aの巻き導線と第2の発電コイル6bの巻き導線は直列に接続されており、導線の両端部が、筐体2に固定された一対の発電端子7に個別に接続されている。
【0034】
図1に示すように、筐体2の内部に回動体10が設けられている。回動体10は、磁気的な絶縁材料である合成樹脂材料で形成された回動ホルダ11を有している。回動ホルダ11には、Z1方向とZ2方向に突出する回動軸12が一体に形成されている。筐体2に軸受部2bが形成されており、回動軸12が軸受部2bに回動自在に保持されて、回動体10が、Z方向に延びる軸芯Oを中心として回動自在に支持されている。
【0035】
図1に示すように、回動ホルダ11のZ2側の端部に回動アーム13が一体に形成され、その先部に軸方向がZ方向に延びる連結ピン14が一体に形成されている。筐体2には、垂直方向であるY方向に貫通する摺動軸受部2cが形成されており、この摺動軸受部2c内に、操作部材15が摺動自在に保持されている。操作部材15にX方向に延びる連結長穴16が形成されており、前記連結ピン14が連結長穴16の内部に摺動自在に挿入されている。
【0036】
前記連結ピン14と前記連結長穴16とで、操作部材15の垂直方向(Y方向)の移動力を、回動体10の軸芯Oを中心とした回動力に変換する連結機構が構成されている。
【0037】
図3と図4に示すように、筐体2の内部に復帰ばね17が設けられており、この復帰ばね17によって、操作部材15がY1方向(復帰方向)へ常に付勢されている。
【0038】
回動体10では、回動ホルダ11に磁束発生部20が固定されている。磁束発生部20は、磁路形成部材3の第1の対向端部4aと第2の対向端部4bとが対向する空間8の内部に位置している。図3と図4に示すように、磁束発生部20は永久磁石21を有している。永久磁石21は、板状の磁石であり、上下に対向する一方の平面が第1の着磁面21aで他方の平面が第2の着磁面21bである。第1の着磁面21aと第2の着磁面21bは互いに逆の極性に着磁されている。図3と図4に示す例では、第1の着磁面21aがS極で、第2の着磁面21bがN極に着磁されている。
【0039】
第1の着磁面21aに第1の磁化部材22が固定され、第2の着磁面21bに第2の磁化部材23が固定されている。第1の磁化部材22と第2の磁化部材23は、軟磁性の金属板である。第1の磁化部材22はX2側に向く第1の端面22aとX1側に向く第2の端面22bを有している。第2の磁化部材23は、X1側に向く第1の端面23aとX2側に向く第2の端面23bを有している。
【0040】
図3と図4に示すように、各端面22a,22b,23a,23bは、回転軸12の中心である軸芯Oを中心とする円筒面に一致するように、曲面形状に形成されている。図3と図4に示すように、第1の磁化部材22の端面22aまたは第2の磁化部材23の端面23bが第1の対向端面4aに対向したときに、端面22aまたは端面23bと第1の対向端面4aとが接触することがなく対向部に微細な隙間が形成される。同様に、第1の磁化部材22の端面22bまたは第2の磁化部材23の端面23aが第2の対向端面4bに対向したときに、端面22bまたは端面23aと第2の対向端面4bとが接触することがなく対向部に微細な隙間が形成される。
【0041】
図3に示すように、第1の磁化部材22の厚さ寸法T2は、磁路形成部材3の厚さ寸法T1と同じがそれよりも大きく、第1の磁化部材22の第1の端面22aが第1の対向端面4aに対向したときに、その対向面積が、第1の対向端面4aの面積よりも狭くならない。これは、第1の磁化部材22の第2の端面22bと第2の対向端面4bとが対向するときも同じである。また、第2の磁化部材23の厚さ寸法もT2であり、端面23aまたは端面23bが対向端面4a,4bと対向するときに、その対向面積が、対向端面4a,4bの面積よりも狭くなることがない。
【0042】
厚さ寸法T1,T2が上記の関係となることで、第1の磁化部材22および第2の磁化部材23から磁路形成部材3への磁束の伝達効率が高くなる。
【0043】
次に、前記発電入力装置1の動作について説明する。
図3に示すように、操作部材15に外力が作用していないときは、復帰ばね17の付勢力で操作部材15がY1方向へ戻されており、操作部材15の連結長穴16によって連結ピン14が持ち上げられ、回動体10が図3において時計方向へ回動させられた第1の姿勢となっている。回動体10が第1の姿勢のとき、第1の磁化部材22の第1の端面22aが磁路形成部材3の第1の対向端面4aに微小な隙間を介して対向し、第2の磁化部材23の第1の端面23aが第2の対向端面4bに微小な隙間を介して対向している。また、第1の磁化部材22の第2の端面22bが第2の対向端面4bから離れ、第2の磁化部材23の第2の端面23bが第1の対向端面4aから離れている。
【0044】
図3に示す状態では、永久磁石21の磁力により、第1の端面22aと第1の対向端面4aとが磁気吸引され、第1の端面23aと第2の対向端面4bとが磁気吸引されて、回動体10が第1の姿勢で安定しようとする。
【0045】
操作部材15の上部に押釦(図示せず)が固定されている。押釦の押圧操作によって、操作部材15が図3の状態からY2方向へ向けて押されると、操作部材15の連結長穴16によって連結ピン14が下向きに押され、回動体10が反時計方向へ回動させられる。操作部材15が下向きの最終端まで押されると、回動体10は図4に示す第2の姿勢となる。第2の姿勢では、第1の磁化部材22の第2の端面22bが、磁路形成部材3の第2の対向端面4bに微小な隙間を介して対向し、第1の端面22aが第1の対向端面23bから離れる。また、第2の磁化部材23の第2の端面23bが第1の対向端面4aに微小な隙間を介して対向し、第1の端面23aは第2の対向端面4bから離れる。
【0046】
図4に示す状態では、永久磁石21の磁力により、第2の端面22bと第2の対向端面4bとが磁気吸引され、第2の端面23bと第1の対向端面4aとが磁気吸引されて、回動体10が第2の姿勢で安定しようとする。
【0047】
通常の押釦の押圧操作では、操作部材15がY2方向の最終端まで押された直後に、下向きの押圧力が解除される。押圧力が解除されると、操作部材15が復帰ばね17の付勢力によってY1方向へ押し戻され、回動体10に時計方向への復帰回動力が与えられる。このとき、回動体10は、図4に示す第2の姿勢での安定状態から時計方向へ回動し、図3に示す第1の姿勢に復帰する。
【0048】
図5の線図に示す曲線αは、復帰ばね17の弾性力を無視したときの、操作部材15のストローク(mm)と、操作部材15に作用する反力(N)との関係を示している。縦軸の反力のプラス側は、操作部材15に対して上向きに作用する力の大きさであり、縦軸の反力のマイナス側は、操作部材15に対して下向きに作用する力の大きさである。
【0049】
曲線αでは、(i)が回動体10を図3に示す第1の姿勢で安定させている力であり、(ii)が、回動体10を第1の姿勢の安定状態から脱却させて反時計方向へ回動させるときに必要な力の極大値である。(iii)は、回動体10を図4に示す第2の姿勢で安定させている力であり、(iv)は、回動体1を第2の姿勢から脱却させて時計方向へ回動させるときに必要となる力の極大値である。
【0050】
図5の直線βは、磁束発生部20の磁気吸着力を無視したときに、復帰ばね17から操作部材15に与えられる復帰力の変化のみを示している。曲線γは、曲線αと直線βとを加算したものであり、実施の形態の発電入力装置1において操作部材15を操作するときに作用する反力の変化を示している。復帰ばね17の弾性力を直線βのように設定することで、操作反力を常に上向きに作用させることができる。よって、操作部材15を下方向へ押して図4の第2の姿勢となった後に、操作部材15に作用する押圧力を解除すれば、回動体10と操作部材15を、復帰ばね17の弾性力によって図3に示す第1の姿勢に復帰させることができる。
【0051】
図4に示す第2の姿勢では、第1の磁化部材22と第2の磁化部材23が、第1の対向端面4aおよび第2の対向端面4bに接触せず、微小な隙間を介して対向している。そのため、回動体10を第2の姿勢から時計方向へ復帰させるのに要する力があまり過大にならず、図5に示す直線βの特性を有する通常のばねの弾性力で回動体10を第1の姿勢に向けて復帰させることができる。
【0052】
図3に示す第1の姿勢において、第1の磁化部材22と第2の磁化部材23が、第1の対向端面4aおよび第2の対向端面4bに接触しておらず、微小な隙間を介して対向している。そのため、図3の第1の姿勢から回動体10を反時計方向へ回動させるのに要する力が過大にならない。さらに復帰ばね17の弾性力をさほど強くする必要がないので、操作部材15を下降させるのに要する最大の力は、図5において(v)で示すように、大きすぎることがなく、よって、操作部材15を操作しやすい。
【0053】
図3に示す第1の姿勢のとき、永久磁石21から発せられる磁束φ1が、第2の磁化部材23の端面23aから第2の対向端面4bを介して磁路形成部材3の第2の腕部3bに与えられる。磁束φ1は、磁路形成部材3の連結部3cを介して第1の腕部3aに至る経路を辿り、第1の対向端面4aから端面22aを介して第1の磁化部材22に戻る。図4に示す第2の姿勢になると、永久磁石21から発せられる磁束φ2が、第1の腕部3aから連結部3cを介して第2の腕部3bに至る経路を辿る。
【0054】
図5の曲線γの(vi)で示すように、図1に示す発電入力装置1では、操作部材15がY2方向へ押し込まれるときに、回動体10が図4に示す第2の姿勢に向けて磁気吸引力によって急速に回転する。また、操作部材15が下向きに押し込まれた後に押し込み力が除去されると、回転体20が図3に示す第1の姿勢に向けて磁気吸引力および復帰ばね17の弾性力によって急速に回転する。
【0055】
そのため、操作部材15がY2方向へ向けて押されるときに、磁路形成部材3内で磁束φ1からφ2に変化するときの、単位時間当たりの磁束の変化量が大きく、発電コイル6a,6bから大きな誘導起電力を得ることができる。同様に、操作部材15がY1方向へ戻るときに、磁路形成部材3内で磁束φ2からφ1に変化するときの、単位時間当たりの磁束の変化量が大きく、発電コイル6a,6bから大きな誘導起電力を得ることができる。
【0056】
さらに、磁束はφ1とφ2との間で、逆向きに変化するため、磁束の変化量そのものが大きくなり、誘導起電力を大きくすることが可能である。
【0057】
このように、図1に示す発電入力装置1は、図5に示すように、操作部材15をY2方向へ押圧操作するときの反力が過大にならず、しかも、操作部材15がY2方向へ押されるときとY1方向へ復帰するときの双方において、磁路形成部材3の内部での単位時間あたりの磁束の変化量を大きくでき、発電コイル6a,6bから大きな誘導起電力を得ることができる。
【0058】
図6は、前記発電入力装置1を複数個備えた電子機器30の回路図である。この電子機器30は、個々の発電入力装置1が操作されたときに、操作信号を送信する送信機またはリモートコントローラである。
【0059】
発電入力装置1の操作部材15がY2方向へ押されると、回動体10が図3に示す第1の姿勢から図4に示す第2の姿勢に向けて回動し、このとき直列に接続されている発電コイル6a,6bの端部31と端部32との間に、図7(A)に示す第1の起電力V1(第1の誘導電流)が発生する。操作部材15への押圧力が解除されて復帰ばね17で戻されると、回動体10が第2の姿勢から第1の姿勢に向けて回動し、このとき発電コイル6a,6bの端部31と端部32との間に、第2の起電力V2(第2の誘導電流)が発生する。
【0060】
互いに極性が相違する第1の起電力V1と第2の起電力V2は、ダイオード群33を経てコンデンサ34に充電されてから放電されることで、起電力ライン35で第1の起電力V1と第2の起電力V2の波長が少し増長される。
【0061】
図6に示すように、複数の発電入力装置1のそれぞれの起電力ライン35がひとつの電力ライン36にまとめられる。電力ライン36に整流回路37が設けられており、発電入力装置1で発電された起電力が直流成分に変換されて、信号処理回路38と送信回路39の電源入力部に与えられる。
【0062】
それぞれの発電入力装置1における発電コイル6a,6bの一方の端部31から、ON信号ライン41が引き出されている。それぞれのON信号ライン41にダイオード42が設けられており、図7(B)に示すように、第1の起電力V1を通過させることが可能となっている。それぞれのON信号ライン41は、信号処理回路38に設けられた複数のON信号入力部43に個別に接続されている。いずれかの発電入力装置1が操作されて第1の起電力V1が得られると、抵抗R1で設定される電圧値のON信号が、ON信号ライン41から信号処理装置38に個別に与えられる。それぞれの発電入力装置1からのON信号が個別に入力されることにより、信号処理回路38は、どの発電入力装置1が操作されたかを識別できる。
【0063】
それぞれの発電入力装置1における発電コイル6a,6bの他方の端部32から、OFF信号ライン44が引き出されている。全ての発電入力装置1のOFF信号ライン44は、共通ライン45に集合させられている。この共通ライン45に共通ダイオード46が接続されている。どの発電入力装置1が操作されたときであっても、図7(C)に示す第2の起電力V2が共通ライン45に与えられ、共通ダイオード46を通過して、抵抗R2で決められる電圧値のOFF信号となって、信号処理回路38のOFF信号入力部47に与えられる。
【0064】
図6に示す電子機器30では、いずれかの発電入力装置1の操作部材15が押されると、その起電力が整流回路37で整流されて信号処理回路38と送信回路39に与えられ、信号処理回路38と送信回路39が動作可能な状態になる。
【0065】
また発電入力装置1から発せられる第1の起電力V1によって信号処理回路38にON信号が与えられる。信号処理回路38では、どの発電入力装置1が操作されたのかを識別し、操作された入力発電機1に対応する送信信号が送信回路39に与えられて送信される。発電入力装置1からの第2の起電力V2は、どの発電入力装置1が操作された場合であっても、共通ライン45からOFF信号として信号処理回路38に与えられる。信号処理回路38はOFF信号を受けた時点で、送信回路39への送信信号の伝送が停止され、送信動作が終了する。
【0066】
図6に示す回路では、OFF信号がひとつの共通ライン45に集約されるため、回路の配線数を削減でき、回路構成を簡単にできる。
【符号の説明】
【0067】
1 発電入力装置
2 筐体
3 磁路形成部材
4a 第1の対向端面
4b 第2の対向端面
6a 第1の発電コイル
6b 第2の発電コイル
8 空間
10 回動体
11 回動ホルダ
13 回動アーム
14 連結ピン
15 操作部材
16 連結長穴
17 復帰ばね
20 磁束発生部
21 永久磁石
21a 第1の着磁面
21b 第2の着磁面
22 第1の磁化部材
23 第2の磁化部材
30 電子機器
35 起電力ライン
36 電力ライン
37 整流回路
38 信号処理回路
39 送信回路
41 ON信号ライン
44 OF信号ライン
45 共通ライン
46 共通ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料で形成された磁路形成部材と、前記磁路形成部材の一部であって空間を介して対向する第1の対向端面および第2の対向端面と、前記第1の対向端部と前記第2の対向端部との間で前記磁路形成部材に巻かれた発電用コイルと、前記空間内に位置して前記第1の対向端部と前記第2の対向端部との対向方向と直交する軸を支点として回動する回動体と、前記回動体に回動力を与える操作部材とを有しており、
前記回動体は、互いに逆の磁極となる第1の着磁面と第2の着磁面を有する磁石と、前記第1の着磁面に固着された磁性材料製の第1の磁化部材と、前記第2の着磁面に固着された磁性材料製の第2の磁化部材とを有し、
前記操作部材によって、前記回動体が、前記第1の磁化部材の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向し且つ前記第2の磁化部材の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向する第1の姿勢と、前記第1の磁化部材の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向し且つ前記第2の磁化部材の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向する第2の姿勢との間で往復回動させられることを特徴とする発電入力装置。
【請求項2】
前記磁石と前記第1の磁化部材および前記第2の磁化部材が、前記軸の延びる方向と直交する方向に重ねられており、
第1の姿勢では、前記第1の磁化部材の一方の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向して、他方の端部が前記第2の対向端部に対向せず、且つ前記第2の磁化部材の一方の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向して、他方の端部が前記第1の対向端部に対向せず、
第2の姿勢では、前記第1の磁化部材の一方の端部が前記第1の対向端部に対向せずに、他方の端部が前記第2の対向端部に隙間を介して対向し、且つ前記第2の磁化部材の一方の端部が前記第2の対向端部に対向せずに、他方の端部が前記第1の対向端部に隙間を介して対向する請求項1記載の発電入力装置。
【請求項3】
前記第1の姿勢で、前記第1の磁化部材が前記第1の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され、且つ前記第2の磁化部材が前記第2の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され、
前記第2の姿勢で、前記第1の磁化部材が前記第2の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引され且つ前記第2の磁化部材が前記第1の対向端部に前記隙間を介して磁気吸引される請求項1または2記載の発電入力装置。
【請求項4】
前記第2の姿勢での磁気吸引力に打ち勝って、前記回動体を第1の姿勢に復帰させる復帰ばねが設けられている請求項3記載の発電入力装置。
【請求項5】
請求項4記載の発電入力装置と、前記回動体が回動したときに前記発電コイルから得られる起電力によって駆動される信号処理回路とを有していることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
前記起電力で駆動される送信回路を有しており、前記信号処理回路は、前記回動体が第1の姿勢から第2の姿勢に回動して前記発電コイルから第1の起電力が与えられたときと、前記回動体が第2の姿勢から第1の姿勢に回動して前記発電コイルから第2の起電力が与えられたときに、前記送信回路の切換えを行う請求項5記載の電子機器。
【請求項7】
前記発電入力装置が複数設けられており、それぞれの発電入力装置から得られる第1の起電力が、個別に前記信号処理回路に与えられ、複数の発電入力装置から得られる第2の起電力が、共通のラインから前記信号処理部に与えられる請求項6記載の電子機器。
【請求項8】
共通の前記ラインに、第2の起電力を通過させるダイオードが設けられている請求項7記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−21746(P2013−21746A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150605(P2011−150605)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)