説明

白化が防止されたココアパウダー

【課題】ブルーミング現象による白化を防止できるココアパウダー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数18以上の不飽和脂肪酸と炭素数20〜24の飽和脂肪酸からなる1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを含む、白化防止ココアパウダーと、ココアパウダーをカカオバターが融解する温度にした後、品温を1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが粉末結晶構造を維持できる温度に冷却して、1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを0.05〜5.0重量%添加混合し、前記ココアパウダーを品温5〜25℃に冷却して得られることに特徴のあるココアパウダーの製造方法およびその製造方法によって得られるココアパウダーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファットブルームによる白化が防止されたココアパウダーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、保存中保形性を失うような体温付近の温度に一定時間置かれた場合、不安定結晶に基づくファットブルーム現象を起こし、商品価値を失うことが問題となっている。しかし、それを防ぐためにBOB(1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロール)のような1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンの高融点油脂結晶を添加する方法が報告されている(特許文献1及び2)。ファットブルーム現象とは、光沢のある状態から白く粉をふいたような状態に変化することを指す。チョコレートに含まれるココアバターは結晶多形性の油脂であり、冷却固化する時の条件により、前記のような現象が起こる。ココアバターのV型の結晶は極めて小さく、結晶が大きく成長することがないため、V型結晶を析出させた状態で固化させると、ファットブルーム現象がなく非常に光沢のあるものができる。チョコレートを作る場合、このV型結晶を析出させるためにテンパリング操作を行う。チョコレートのファットブルーム現象を防止するための方法とは、チョコレート製造の常法により、混合、ロール掛け、コンチングしてチョコレート生地を50〜60℃で溶融状態に調製し、これを品温が30〜33℃まで冷却した状態で攪拌しながら、1,3ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンの粉末結晶を添加して、15℃(又は4℃)で冷却固化して製造する方法である(特許文献2及び非特許文献1)。
【特許文献1】特開昭63-240745号公報
【特許文献2】特開平7-123922号公報
【非特許文献1】蜂屋 巌ら他2名、食品工業 日本、1989年11月30日発行、32巻、22号、P44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ココアパウダーも適切なテンパリングが行われないと、ファットブルーム現象が発生し、白っぽくくすんだ色に変化してくる。しかしながら、お湯や牛乳に溶かしてしまえば、ファットブルーム現象の有無が飲用ココアとしての品質に影響するものではなく、糖や粉乳等と混合した調製ココアの状態では、ココアパウダーがファットブルームしていても見た目の違いがあまり感じられないため、チョコレートほど厳密にはテンパリングが行われていない。例えば、70℃程度の品温のココアパウダーを、冷却管中を空気輸送しながら徐々に冷却して20℃まで品温を下げる調温操作は行われているが、チョコレートで行われているテンパリング操作とは異なる。
ココアパウダーは飲用ココア以外に、製菓原料としても使用されている。すなわち、チョコレートやケーキといった菓子に振りかけて見た目をきれいにする、飾りつけ的な使われ方もされている。この場合、見た目をきれいにすることが目的であるため、ココアパウダーがファットブルーム現象により白っぽくくすんでしまうと、鮮やかな彩りにならないため好ましくない。
従って、本発明は、ココアパウダーにおいて、前記の白化が防止され、作りたての色調が保たれたココアパウダーとその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記のようなココアパウダーとその製造方法を提供することにより課題を解決した。
すなわち、
(1)炭素数18以上の不飽和脂肪酸と炭素数20〜24の飽和脂肪酸からなる1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを含む、白化防止ココアパウダー。
(2)1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが、1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロールである(1)に記載のココアパウダー。
(3)ココアパウダーをカカオバターが融解する温度にした後、品温を1,3ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが粉末結晶構造を維持できる温度に冷却して、1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを0.05〜5.0重量%添加混合し、前記ココアパウダーを品温5〜25℃に冷却して得られることに特徴のあるココアパウダーの製造方法。
(4)1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが、1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロールである(3)に記載のココアパウダーの製造方法。
(5)(3)又は(4)に記載の製造方法により、製造されるココアパウダー。
【発明の効果】
【0005】
本発明により得られたココアパウダーは、常温で保存される場合に徐々に結晶転移が起こることによるファットブルームの発生を抑えて白化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、ココアパウダーはカカオマスをココアプレスにより搾油してできたココアケーキを粉砕したもので、カカオバターが全重量の8%以上、水分が全重量の9%以下のものであって、必要により香料、粘性調整剤、ビタミン、ミネラル等を加えた物である。
本発明は、炭素数18以上の不飽和脂肪酸と炭素数20〜24の飽和脂肪酸からなる1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを必須とする。炭素数18以上の不飽和脂肪酸としては例えば、オレイン酸が挙げられ、炭素数20〜24の飽和脂肪酸としては、アラキン酸(C20:0)やベヘン酸(C22:0)などが挙げられる。1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンとしては、例えば、BOB(1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロール)が挙げられる。1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンはココアパウダーに粉末の状態で添加する。前記粉末同士が結着するのを防ぐため、粉糖等の粉体にまぶした添加剤としても使用することが可能である。
耐ブルーム性を有するチョコレートを得る場合は、融解したチョコレート生地を品温30〜33℃にして、1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを添加するが、本発明では、ココアパウダーの品温を1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンの粉状結晶構造を保持した状態で添加すれば、白化防止効果を得られる。また、1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを添加後、5〜25℃に冷却するのが好ましい。5℃より下回ると、結露のおそれがあり、25℃以下にしないと、ココアパウダー中のココアバターが十分結晶化せず、べとつき気味になる。
前記の添加量はココアパウダーに対して、0.05〜5.0重量%添加するのが好ましい。0.05重量%を下回ると十分な効果が期待できず、5.0重量%を越えて添加しても効果は変わらず、得られるココアパウダーの価格が上昇してしまう。
チョコレートでブルームを防止するメカニズムは、例えばBOB結晶を添加した場合、カカオバターが融解した状態であっても、BOB結晶が融解せずに結晶状態で残っていれば、カカオバターが固化する温度まで下がった時にBOB結晶を核としてカカオバターがV型結晶となることによる。
【実施例】
【0007】
以下実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示であり本発明を限定するものではない。
試験例1
ココアパウダー(明治製菓製:商品名ピュアココア)を品温70℃に30分間保った後、品温を33℃まで下げて30分間保った。その後チョコシードB(不二製油社製:BOB粉末50重量%、粉糖50重量%)をココアパウダーに対して各々0、0.1、0.2、0.5、1.0、2.0重量%添加混合し、品温10℃にて20分間冷却して、BOBの添加量がそれぞれ、0、0.05、0.1、0.25、0.5及び1.0重量%のココアパウダーを得た。得られたココアパウダーを使用して、32℃で6時間保持した後、23℃で6時間保持する操作を1サイクルとして、当該操作を16サイクル行うサイクルテストを行った。サイクルテストの前後で、各サンプルを色彩色差計CR−300(ミノルタ社製)にてハンター色差(L、a、b)の測定を行い、ファットブルームによる色差の変化を調べた。その結果を表1に示す。
【0008】
【表1】

L値は、数値が大きいほど白く、小さいほど黒いことを示し、a値は、数値が大きいほど赤く、小さいほど緑であることを、b値は、数値が大きいほど黄色く、小さいほど青いことを示す。チョコシードBを添加したものは、どのサンプルもL、a、b値に目立った変化がなく、チョコシードB無添加のサンプルのみ、大きくL値が増加して白っぽくなるとともに、やや赤みが少なくなっている。
従って、BOBを添加したココアパウダーは保存中の白化が防止され、作りたての色調が保たれた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを粉末結晶構造を有する状態で添加して得られたココアパウダーは保存時におけるブルーミング現象により起こるココアパウダーの白化を防止でき、ケーキ等のトッピングに使用されるココアパウダーの商品価値を高めることができる。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数18以上の不飽和脂肪酸と炭素数20〜24の飽和脂肪酸からなる1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを含む、白化防止ココアパウダー。
【請求項2】
1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが、1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロールである請求項1に記載のココアパウダー。
【請求項3】
ココアパウダーをカカオバターが融解する温度にした後、品温を1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが粉末結晶構造を維持できる温度に冷却して、1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンを0.05〜5.0重量%添加混合し、前記ココアパウダーを品温5〜25℃に冷却して得られることに特徴のあるココアパウダーの製造方法。
【請求項4】
1,3-ジ飽和アシル-2−不飽和アシル−グリセリンが、1,3−ジベヘノイル−2−オレオイル−sn−グリセロールである請求項3に記載のココアパウダーの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法により、製造されるココアパウダー。


























【公開番号】特開2006−345736(P2006−345736A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174014(P2005−174014)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】