説明

白焼パンの製造方法

【課題】焼き色を極力つけることなく焼き上げたクラストが白いパン、すなわち白焼パンにおいて、糖アルコールや高甘味度甘味料を多く使用した場合や、たんぱく質を減量したパン生地を使用した場合であっても、彩度の高い白色の表皮(クラスト)と内相(クラム)を有する白焼パンの製造方法を提供すること。
【解決手段】白焼パン生地を製造する際に、黄色色素、好ましくは油溶性色素、さらに好ましくは、油相に油溶性の黄色色素を使用した水中油型乳化物を添加することを特徴とする白焼パンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白焼パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市場に定番商品として認知された「白焼パン」はその名の通り、焼き色を極力つけることなく焼き上げたクラストが白いパンである。このような白焼パンを得るためには、焼成中にメイラード反応(アミノカルボニル反応)を起こさないようにして焼成する必要がある。
そのため、一般的には、糖類や蛋白質の配合量を最小限に抑え、焼成温度は通常のパンの焼成温度である200℃よりやや低い160〜170℃とし、メイラード反応を起こすことのない糖アルコールや高甘味度甘味料を使用することが行われる。
【0003】
しかし、糖類の配合量が少ないということはイーストの十分な発酵が行われないということであるから良好な発酵風味が得られないということであり、また、メイラード反応が起きないということは良好なパンの旨味が出ない、ということである。そのため白焼パンは一般的にアルコール臭やイースト臭が強く感じられ、また、甘味についても違和感を感じるものであることに加え、表皮(クラスト)や内相(クラム)は彩度の低い灰黄色となってしまう問題があった。
【0004】
これらの点を改良するため、乳酸発酵物を添加する方法(例えば特許文献1参照)、乳糖含量が低くカリウム含量の高い特定の乳蛋白質を使用する方法(例えば特許文献2参照)、大豆たんぱく質を使用する方法(例えば特許文献3参照)など、白焼パンの風味の面からの改良が最近提案されるようになってきている。
【0005】
しかし、これらの方法においては、たしかに風味の面での改良はなされているものの、これら特定の乳酸発酵物やたんぱく質などのメイラード反応の制御では、通常のパンに比べて、さらにくすんだ色のクラストやクラムになってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−299196号公報
【特許文献2】特開2003−102366号公報
【特許文献3】特開2006−280204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、彩度の高い淡黄色の表皮(クラスト)と内相(クラム)を有する白焼パンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、意外にも、白焼パンにおいて少量の黄色色素、とくにカロチン系の油溶性色素を、好ましくは水中油型乳化物の形で使用することにより、彩度の高い白色の表皮(クラスト)と内相(クラム)となることを見だした。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、黄色色素を添加することを特徴とする白焼パンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の白焼パンの製造方法によれば、糖アルコールや高甘味度甘味料を多く使用した場合や、蛋白質を減量したパン生地であっても、彩度の高い淡黄色の良好な発色のクラストと、淡黄色の内相(クラム)を持つ白焼パンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の白焼パンの製造方法について詳述する。
本発明でいうパンとは、穀粉類、イースト類、食塩及び水を主原料とし、油脂類、糖類、乳や乳製品、卵類、イーストフード、乳化剤、香料、呈味剤等の副原料を必要に応じて添加し、混捏して得られた生地を発酵した後、焼成及び/又はフライ等の加熱処理をして得られるものの総称であり、その種類としては、例えば、食パン、フランスパン、ロールパン、ハードブレッド、バンズ、バラエティブレッド、菓子パン、スイートロール、ブリオッシュ、パネトーネ、デニッシュ、ピザ、イーストドーナツ等が挙げられる。
【0012】
ここで、本発明でいう白焼パンとは、糖類、及び/または蛋白質を、通常のパンに比べて配合量を減じ、必要に応じ、焼成温度を下げることによって、焼成時のクラスト部分のメイラード反応による着色を抑制したパンである。
すなわち、上記原材料のうち、糖類、乳や乳製品、卵類については、合計して穀粉類100質量部に対し好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下にすることが好ましい。
【0013】
なお、上記「糖類」とは、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、シクロデキストリン、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、モラセス等が挙げられる。
【0014】
また、上記「乳や乳製品」としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、クリームチーズ、バター、チーズ、濃縮ホエイ、ホイップクリーム、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料等、脱脂粉乳、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエープロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等が挙げられる。
【0015】
また、上記「卵類」としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられる。
【0016】
ただし、本発明では少量の卵黄を併用することで、より良好な発色のクラムが得られるため、全卵(正味)換算で、穀粉類100質量部に対し、卵類を好ましくは2〜12質量部、より好ましくは2〜7質量部添加することが好ましい。
【0017】
また、本発明では、甘味成分として、糖アルコール及び/または高甘味度甘味料を使用することが好ましい。これらの含有量は、穀粉類100質量部に対し、甘味度を考慮したショ糖換算で好ましくは2〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。すなわち、糖アルコールの場合は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部となる含量である。高甘味度甘味料の場合は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは0.005〜10質量部、より好ましくは0.05〜3質量部である。
【0018】
なお、甘味度とは、甘味の強さを示す尺度のことであり、通常、基準にショ糖溶液を用い、ショ糖の甘味を1として、ショ糖以外の甘味料の甘さの強さをショ糖の甘さの強さに対する倍率で示したものである。
なお、上記糖アルコールとしては、還元澱粉糖化物、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトールが挙げられる。
また、上記高甘味度甘味料としてはスクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム、ネオテーム等が挙げられる。
【0019】
なお、本発明の白焼パンで用いる上記穀粉類としては、特に限定されるものではないが、小麦粉、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等をあげることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよい。
【0020】
パン生地の製法については、特に限定されず、直捏法、中種法、湯種法等、公知の方法を使用することができる。
成温度は、好ましくは140〜180℃、さらに好ましくは160〜175℃である。焼成温度が140℃より低いとパンの骨格形成に時間がかかりボリュームのないパンとなりやすく、180℃よりも高いと目的とする白色のパンが得られにくい。
【0021】
次に、本発明で使用する黄色色素について詳述する。
黄色色素としては合成着色料、天然着色料のどちらであってもよい。合成着色料としては、具体的には、黄色4号、黄色5号等が挙げられる。天然着色料としては、アナトー色素、クチナシ黄色素、イモカロチン、デュナリエラカロチン、ニンジンカロチン、パーム油カロチン、トマト色素、パプリカ色素、マリーゴールド色素、ビキシン、ノルビキシン、クロシン、クロセチン、カロテノイド(β-カロテン等)、カロテン、リコピン、カプサンチン類、ルテイン、クチナシ色素、ベニコウジ色素、エンジュ色素、柿色素、トウモロコシ色素、ベニバナ黄色素、マリーゴールド色素などがあげられる。
【0022】
本発明では上記黄色色素の中でも、油脂への溶解性が良好である点で、アナトー色素、クチナシ黄色素、イモカロチン、デュナリエラカロチン、ニンジンカロチン、パーム油カロチン、トマト色素、パプリカ色素、マリーゴールド色素、ビキシン、ノルビキシン、クロシン、クロセチン、カロテノイド(β-カロテン等)、カロテン、リコピン、カプサンチン類、ルテイン等の油溶性色素であるカロチノイド系色素であることが好ましく、パン生地への高い着色性と高い油脂への溶解性をあわせ持つ点でパーム油カロチンであることが最も好ましい。
【0023】
なお、パーム油カロチンを油脂に溶解使用する代わりに、真空蒸留または低温水蒸気蒸留により精製したパーム油を使用することもできる。このパーム油は、通常の精製パーム油に比べてカロチノイド含量が高いことに加え、酸化防止機能も有する。また、このパーム油を使用すると、白焼パンのコク味を向上させることもできる。
【0024】
本発明で使用する上記黄色色素の添加量は、使用する黄色色素の発色強度に応じて適宜設定可能であるが、パーム油カロチンである場合を例に採ると、パン生地で使用する穀粉類100質量部に対し、好ましくは0.00001〜1質量部、より好ましくは0.0001〜0.01質量部である。
【0025】
上記黄色色素の、パン生地への添加の方法は、特に限定されず、パン生地原料に均質に混合することができれば特に添加方法については制限されないが、パン生地への分散が容易である点とパン生地への高い着色性で、好ましくは、水中油型乳化物の油相に含有する形態で添加することが好ましい。
上記水中油型乳化物とする場合、その油相含量は好ましくは10〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0026】
なお、上記黄色色素は、パン生地製造のどの段階で添加することも可能であるが、パン生地により均一に分散する点、及び、醗酵中のカロチンの分解の可能性を防止できる点で、中種法の場合は、本捏段階で添加することが好ましい。
【0027】
さらに上記パン生地は必要に応じて、以下のような材料を必要により用いてもよい。例えば、でんぷん、キサンタンガム・アルギン酸ナトリウム・グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・アラビアガム・ペクチン・プルラン・タマリンドシードガム・結晶セルロース・カルボキシメチルセルロース・メチルセルロース・寒天・グルコマンナン・ゼラチン・ファーセルラン・タラガム・カラヤガム、トラガントガム・ジェランガム・大豆多糖類等の増粘安定剤、カラメル等の黄色色素以外の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、アルコール類、膨張剤、無機塩類、ベーキングパウダー、ハーブ、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、コンソメ、ブイヨン、植物および動物エキス、食品添加物等をあげることができ、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0029】
<水中油型乳化物の製造>
〔製造例1〕
水78.5質量%を60℃に昇温し攪拌しながら、カゼインカリウム0.5質量%、食塩0.5質量%、リン酸一カリウム0.5質量%、還元水飴(固形分70質量%含有)8質量%を溶解させた水性相を調製した。この水性相に、パーム硬化油(融点29℃)11.98質量%、パーム油カロチン0.02質量%からなる油相を加え、混合攪拌して、予備乳化物を調製した。該予備乳化物を143℃で5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、水中油型乳化脂Aを得た。
【0030】
〔製造例2〕
製造例1における、パーム硬化油(融点29℃)11.98質量%、パーム油カロチン0.02質量%からなる油相を、パーム硬化油(融点29℃)12質量%のみからなる油相に変更した以外は製造例1の配合・製法に従い、水中油型乳化脂Bを得た。
【0031】
<白焼パンの製造>
〔実施例1〕
強力粉(イーグル:日本製粉製)70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度80%の恒温室で2時間、加糖中種醗酵を行なった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉(イーグル:日本製粉製)30質量部、上白糖10質量部、食塩1.5質量部、全卵(正味)5質量部、還元水あめ5質量部、水中油型乳化脂A10質量部を添加し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここでショートニング15質量部を投入し、さらに低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、パン生地を得た。得られたパン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。ここで、フロアタイムを30分とった後、40gに分割・丸めを行なった。次いで、ベンチタイムを30分とった後、 再まるめ成形し、直径100mmの円形焼型に3個入れ、38℃、相対湿度80%で50分ホイロをとった後、170℃に設定した固定オーブンに入れ15分焼成して白焼パンを得た。
得られた白焼パンのクラストは淡黄色で良好な彩度であった。なお、クラム部分についても、良好な淡黄色であった。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1で使用した、水中油型乳化脂Aに代えて水中油型乳化脂Bを使用し、パーム油カロチン0.002質量部をショートニング15質量部に混合してからパン生地に添加した以外は実施例1と同様の配合・製法で白焼パンを得た。
得られた白焼パンのクラストは淡黄色で良好な彩度であった。なお、クラム部分についても、実施例1よりもやや彩度が劣るが良好な淡黄色であった。
【0033】
〔比較例1〕
実施例1で使用した、水中油型乳化物Aに代えて水中油型乳化物Bを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で白焼パンを得た。
得られた白焼パンのクラストは灰黄色でくすんだ色調であった。なお、クラム部分についても、灰黄色でくすんだ色調であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色色素を添加することを特徴とする白焼パンの製造方法。
【請求項2】
黄色色素が油溶性色素であることを特徴とする請求項1に記載の白焼パンの製造方法。