説明

白熱電球

【課題】
点灯初期において色度値および光束値が規格を満足し、かつガラスバルブの温度上昇が比較的低いとともに耐久性に優れる赤色フィルター膜を備えた白熱電球を提供する。
【解決手段】
白熱電球は、内部に空間が形成された気密なガラスバルブ1と、ガラスバルブの内部に配設されたフィラメント2と、ガラスバルブの内部に封入された25℃での圧力が1気圧以上の不活性ガスと、透過率が10〜30%で、かつ点灯初期の赤色色度値がCIE色度図の点C1(x:0.6500、y:0.3250)、点C2(x:0.6750、y:0.3250)、点C3(x:0.7024、y:0.2976)および点C4(x:06855、y:0.2945)で囲まれた領域内にあり、ガラスバルブの外面に形成された赤色フィルター膜4とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色フィルター膜を備えた白熱電球に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーフィルター膜を備えた白熱電球は、例えば自動車用などとして既知である(例えば、特許文献1および2参照。)。特許文献1に記載の白熱電球は、ガラスバルブの表面に、コバルト、アルミニウムの複合酸化物からなる無機系顔料およびSi−O間の共有結合体を含んでいて、ガラスバルブの表面に被着された透明質で淡青色のカラーフィルター膜をガラスバルブの表面に被着している。
【0003】
特許文献2に記載の白熱電球は、ベースダウンにて全体をカラーフィルター塗布液中にディップしてから引き上げた後、ベース部に付着した塗布液を洗浄して除去し、その後乾燥してから焼成して焼付け、冷却することによってカラーフィルター膜を形成する。形成されたカラーフィルター膜は、その膜厚が比較的均一になるという特徴を有している。
【0004】
また、自動車用電球は、SAE、ECEおよびJISに赤色光、白色光およびアンバー色光についてそれらの色度が規格化されている。SAE規格では、図1のCIE色度図に示すように、色度図中の符号Wを付した領域が白色光、符号Yを付した領域がアンバー色光、符号Aを付した領域が赤色光の色度範囲を規定している。このうち、赤色光の領域rは、図2に拡大して示すように、点A1〜点A4によって囲まれた領域であり、それら各点の色度値が次のように規定されている。すなわち、点A1がx:0.6500、y:0.3300、点A2がx:0.6700、y:0.3300、点A3がx:0.7347、y:0.2653および点A4がx:0.7210、y:0.2590である。なお、ECEおよびJIS規格においては、点A1およびA2の色度yが0.335である。したがって、SAE規格を満足すれば、自動的にECEおよびJIS規格をも満足することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−056821号公報
【特許文献2】特開2003−086148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、赤色フィルター膜を備えた赤色発光を行う自動車用白熱電球にあっては、本発明者の調査によると、現状では、以下の問題がある。すなわち、第1に色度値が規格を満足する赤色フィルター膜の製作が困難である。以下、この問題を、図3を参照して説明する。図3には、SAE規格の赤色色度値範囲Aの一部が菱形の太枠で表されているとともに、S1〜S4で示す4灯の自動車用白熱電球試料の点灯初期における色度が●で表され、かつ寿命末期時の色度が▲で表され、色度のシフトの方向が矢印で示されている。また、記号S1ないしS3は従来例、S4は本発明の例、をそれぞれ示している。
【0007】
図3から理解できるように、試料S1およびS2の従来例は、点灯初期から赤色の色度がSAE規格の範囲Aから外れている。そして、点灯時間の経過に伴って色度がますます規格から離れるようにシフトしていき、寿命末期時になると、色度が点灯初期の規格の範囲Aから大きく外れている。これに対して、試料S3の従来例は、点灯初期にはSAE規格の範囲A内であったが、寿命末期時には規格の範囲Aの上端からわずかに外れている。一方、S4は、後述する本発明の実施例であり、若干の色度のシフトは生じているものの、点灯初期から寿命末期時まで規格の範囲A内に止まっていることが分かる。
【0008】
試料S1〜S4の結果から気付くことは、次のとおりである。すなわち、点灯初期から規格の範囲Aを満足していないと、その後の色度値のシフト幅が大きくなり、淡赤色へシフトする赤抜けが生じる。また、点灯初期に規格の範囲Aを満足しても、その規格の上部に位置している場合には、寿命中に色度のy値が高くなって規格の範囲A外の淡赤色へシフトする。しかし、点灯初期に規格内であれば、点灯時間の経過に伴う色度のシフト幅が小さくなる。さらに、後述する本発明によれば、相対的に色度のシフトが一層小さくなるとともに、点灯初期から寿命末期時まで規格の範囲A内を満足する。
【0009】
一方、初期の赤色色度が規格の範囲A内のy値が相対的に低い領域にある場合には、赤色フィルター膜の透過率が小さくなりやすいために、ガラスバルブの温度上昇が大きくなり、寿命中にフィラメントのタングステンの蒸発が促進されてバルブ内面が比較的早期に黒化し、よりy値が低い濃赤色へシフトする。
【0010】
本発明者は、以上の問題を調査、分析した結果、図2に示すように赤色色度値がSAE規格を満たす範囲A内であっても、白熱電球の赤色色度の初期値が濃赤色の領域Bであると、白熱電球内での蓄熱が顕著になってガラスバルブの温度が上昇することを見出した。また、熱負荷が増加することで、ガラスバルブのガラス材の物性である歪点を超過する温度となり、ガラスバルブ膨れやガラスバルブおよび付帯構造物の損傷などが生じる場合があることも分かった。さらに、灯具選定において高耐熱性を有するポリアミド樹脂などの高価な材質が必要となる。なお、上記領域Bは、SAE規格の色度座標中の点C3を境界点とするが、これを含まないx:0.6855未満、y:0.2945未満の第1の点、同じく点C4を境界点とするがこれを含まないx:0.7024未満、y:0.2976未満の第2の点、赤色色度の規格の下右点であるx:0.7347、y:0.2653の点A3および同じく下左点であるx:0.7210、y:0.2590の点A4で囲まれたSAE規格のy値の小さい下部領域である。
【0011】
以上のような諸問題があるため、従来は、点灯初期から寿命末期までを通じて色度値を満足し、かつガラスバルブの温度上昇が低い赤色フィルター膜を備えた白熱電球を得ることができなかった。
【0012】
本発明者は、調査および研究を種々行った結果、赤色フィルター膜の光透過率および赤色色度値が所定の条件を同時に満たせば、上述の問題を克服できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0013】
本発明は、点灯初期において色度値が規格を満足し、かつガラスバルブの温度上昇が比較的低いとともに耐久性に優れる赤色フィルター膜を備えた白熱電球を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の白熱電球は、内部に空間が形成された気密なガラスバルブと;ガラスバルブの内部に配設されたフィラメントと;ガラスバルブの内部に封入された25℃での圧力が1気圧以上の不活性ガスと;透過率が10〜30%で、かつ点灯初期の赤色色度値がCIE色度図の点C1(x:0.6500、y:0.3250)、点C2(x:0.6750、y:0.3250)、点C3(x:0.7024、y:0.2976)および点C4(x:06855、y:0.2945)で囲まれた領域内にあり、ガラスバルブの外面に形成された赤色フィルター膜と;を具備していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、点灯初期の赤色色度値がCIE色度図の上記点C1、C2、点C3および点C4で囲まれた所定領域内に設定されていて、かつ光の透過率が10〜30%の赤色フィルター膜を具備していることにより、点灯初期から寿命末期に至るまでの間、色度値が規格を満足し、ガラスバルブ温度が低下して灯具の耐熱グレードの低減を許容するとともに耐久性に優れた白熱電球を提供することができるという効果を奏する。
【0016】
また、赤色フィルター膜が1層で形成されていれば、色度値が規格を満足するのが容易になるとともに、赤色フィルター膜の剥がれの発生を抑制し、しかも製膜が簡単、かつ安価になる白熱電球を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動車用光源のSAE規格における各色光の色度範囲を示す色度座標である。
【図2】本発明の白熱電球における赤色色度範囲とSAE規格の赤色色度範囲との関係を示す色度座標である。
【図3】自動車用光源のSAE規格の色度範囲と白熱電球の各種試料および本発明の実施例の色シフトを説明する色度座標である。
【図4】本発明を実施するための一形態に係わる自動車用白熱電球の正面図および要部拡大断面図である。
【図5】同じく赤色フィルター膜の色度と透過率の関係を示すグラフである。
【図6】同じく赤色フィルター膜の点灯時間に対する色シフトの関係を示す色度座標である。
【図7】本発明の実施例における赤色フィルター膜の点灯初期の色度を比較例のそれとともに示す色度座標である。
【図8】同じく赤色フィルター膜の透過率を示すグラフである。
【図9】本発明を実施するための一形態における赤色フィルター膜の製造工程を示す工程図である。
【図10】ベースダウンディッピングによって形成した場合の赤色フィルター膜の膜厚分布状態をベースアップディッピングのそれと対比して示す白熱電球の中央断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
図4に示すように、本発明の一形態における赤色電球は、ガラスバルブ1、フィラメント2、受電端子3および赤色フィルター膜4を具備している。
【0020】
ガラスバルブ1は、T形バルブ、P形バルブなど所望の形状を採用することができ、したがって特定の形状に制限されない。また、使用するガラスは、軟質ガラス、半硬質ガラスおよび硬質ガラスのいずれでもよいが、自動車用のランプとして好適な小形白熱電球には本発明を含めて軟質ガラスが多く用いられている。
【0021】
また、ガラスバルブ1を封止するには、ピンチシール、ビードシール、フレアシールなどの既知の封止構造を適宜採用することができる。
【0022】
本形態において、ガラスバルブ1は、包囲部1aおよびピンチシール部1bを備えている。包囲部1aは、外気に対して気密に封止された内部空間1cを有している。そして、内部空間1cの所定位置に後述するフィラメント2を配設している。また、内部空間1c内には、フィラメント2を支持するとともに電流供給電路としてのリード線などの関連部材も適宜配設されている。
【0023】
また、包囲部1aの内部には、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)またはキセノン(Xe)のような希ガスや窒素などの不活性ガスを25℃において1気圧以上の圧力で封入して、発光効率を高めているとともに、フィラメント2の蒸発、飛散を抑制して寿命を長くしている。なお、発光効率を高くするには、不活性ガスとしてキセノンを1〜2気圧程度封入するのが最適であるが、所望により5気圧程度まで封入することができる。
【0024】
なお、本形態の白熱電球は、外径が5〜20mmすなわちT5〜T20のガラスバルブ1に好適である。ピンチシール部1bは、包囲部1aの一端に隣接して一体に形成されていて、その両面に対向する一対の扁平面を有している。そして、ピンチシール部1bは、後述する受電端子3と協働して白熱電球のベース(口金)として機能する。
【0025】
また、扁平面には、後述する受電端子3および図示を省略している係止部を配設することができる。係止部は、図示しないソケット内に配設した係止舌片と係合して白熱電球がソケットから不所望に脱落しないように作用するように形成することができる。また、係止部は、ソケット内に配設した他の係止舌片と係合して白熱電球のソケット内への挿入深さを規定するように形成することもできる。そうして、係止部がピンチシール部1bの一対の扁平面に配設されていることにより、白熱電球がソケットの所定の挿入深さで装着することができる。なお、係止部は、突起および凹段部のいずれであってもよい。
【0026】
フィラメント2は、タングステンなどの耐火性金属線などの2重コイルまたは1重コイルからなり、その単一または複数を適宜配設することができる。そして、フィラメントは、ガラスバルブ1内において一対の内部導入線間に継線して支持され、通電により白熱して発光するが、印加電圧、定格消費電力、発光の色温度などに応じて適宜に設計することができる。また、フィラメント形状は、例えばC−6形、C−8形、C−2V形、C−2R形など所望の形状にすることができる。
【0027】
また、フィラメント2のサグや振動を防止するために、所望により関連部材としてアンカーワイヤを用いてフィラメント2の中間部を吊持することができる。
【0028】
なお、フィラメント2が主複一対のフィラメントからなる場合、そのそれぞれが包囲部1aの内部空間1cの所定位置に離間して配設される。そして、各フィラメントへの通電を外部回路側で選択して切り換えることにより、選択されたフィラメントが個別に通電されて、白熱状態を呈して白色発光する。
【0029】
受電端子3は、フィラメント2に給電するための手段であるが、ピンチシール部1bの扁平面に沿って添設されている。
【0030】
赤色フィルター膜4は、透過率10〜30%で、かつ点灯初期における赤色色度値が図2に示すCIE色度図のSAE規格の領域C内に位置するように設定されていて、ガラスバルブ1の外面に形成されている。なお、ここでいう透過率とは、波長380〜760nmの透過率の平均で、クリアバルブの透過率を100%としたものである。また、赤色フィルター膜4は、被膜形成材料および赤色顔料を含んで構成されている。被膜形成材料および後述する赤色顔料の具体的な材質は特段限定されない。例えば、被膜形成材料としてSi−O間の共有結合体を含み、顔料を上記共有結合体の網目状の部分に捕らえた構成などを用いることができる。
【0031】
赤色顔料としては、上述の条件を満たすのであれば、特段限定されないが、好適には酸化鉄Feを主成分とする有機顔料および無機顔料の少なくとも一方を用いるのがよい。しかし、有機顔料および無機顔料の混合体を用いることにより、上記透過率条件を満たすとともに赤色フィルター膜の耐久性を高めるのに好都合である。
【0032】
CIE色度図の領域Cは、図2に示すように、SAE規格の赤色色度領域中の点C1(x:0.6500、y:0.3250)、点C2(x:0.6750、y:0.3250)、点C3(x:0.7024、y:0.2976)および点C4(x:06855、y:0.2945)で囲まれた領域である。この領域Cは、SAE規格の赤色色度範囲A内の所定のy値およびx値によって構成されている。なお、上記範囲Aは、点A1(x:0.6500、y:0.3300)、点A2(x:0.6700、y:0.3300)、点A3(x:0.7347、y:0.2653)および点A4(x:0.7210、y:0.2590)で囲まれた領域である。
【0033】
赤色フィルター膜4の色度値が、領域C内であれば、透過率10〜30%で、かつ点灯初期から寿命末期までの間の赤色色度値がCIE色度図の領域Cに位置するように設定するのが容易になる。
【0034】
これに対して、範囲Aから領域Cを除いた後に残る領域Dは、色度がx:0.6500、y:0.3300の点A1、色度がx:0.6700、y:0.3300の点A2、点C1に連続するがこれを含まない色度がx:0.6500未満、y:0.3250超の点および同じく点C2に連続するがこれを含まない色度がx:0.6750超、y:0.3250超の点によって囲まれた領域である。この領域Dは、色度のxが0.0050、yが0.050の幅である。点灯初期の赤色フィルター膜4の赤色色度が領域Dに位置していると、図3の試料S3に示すように、寿命中に色度が淡赤色側へシフトして、SAE規格の範囲Aから色度が外れる可能性が大きくなる。換言すれば、本発明において、赤色フィルター膜4は、少なくとも領域Cの色度座標の上側境界付近において、寿命中の色度のシフトが領域Dより小さい。
【0035】
CIE色度図の赤色色度値を示す範囲Aから上記領域CおよびDを除いた後に残る領域Bは、赤色の中でも濃赤色である。この領域Bの色度値を有する赤色フィルター膜は、その光透過率が10%以下になってしまい、その結果光束値が規格を満たさなくなる。
【実施例1】
【0036】
実施例1は、図4に示す赤色電球である。
【0037】
ガラスバルブ:T20形バルブ
定格 :12V、25W
フィラメント:C-6形
フィラメント;直流13.5V、1.85A
赤色フィルター膜:Si−O間の共有結合体を含む被膜形成材料およびFeを主成分とする有機顔料および無機顔料の混合体
口金 :WB形
図5は、本発明における赤色フィルター膜の色度と透過率の関係を示す。図において、横軸は色度を、縦軸は透過率を、それぞれ示す。色度C2はx:0.6750、y:0.3250、C2.5はx:0.6887、y:0.3113、色度C3はx:0.7024、y:0.2976である。
【0038】
図5から理解できるように、本発明において、赤色フィルター膜4は、その色度と透過率がトレードオフの関係にある。すなわち、赤色フィルター膜4の透過率が10%以上、30%以下であれば、色度がCIE色度図の赤色色度の範囲A内において、領域Cの内部に入る。これに対して、赤色フィルター膜4の透過率が10%未満であると、色度が領域B内に入る。また、赤色フィルター膜4の透過率が30%超であると、点灯初期にSAE規格内であっても点灯中に色度がシフトして規格から外れてしまうか、または点灯初期からSAE規格を満足しない。
【0039】
図6は、本発明における赤色フィルター膜の点灯時間に対する色シフトの大きさをIEC色度座標に表している。図中の●は、矢印方向に全部で5個あり、下から上に向かって点灯初期、点灯100時間、同200時間、300時間および400時間におけるそれぞれの色度点に位置している。
【0040】
図6から理解できるように、点灯初期の色度値が領域Cのほぼ点C2に位置しているが、その色シフトの幅はxが約0.050程度、y値が約0.030程度であり、点灯初期から寿命末期までSAE規格の赤色色度の規格を満足する。点灯初期の色度値が領域Cのy値が上記よりさらに低い領域にあっては色シフトの幅が少なくとも上記と同程度になる。
【0041】
図7は、本発明の実施例における赤色フィルター膜の点灯初期における色度を比較例のそれとともに示している。C2、2.5およびC3の各試料は、本発明の実施例であり、その色度がいずれも領域C内に位置している。これに対して、A2´、A2およびC3´の各資料は、比較例であり、その色度がいずれも領域C外に位置している。
【0042】
図8は、図7に示す各試料の透過率を示している。なお、横軸が試料、縦軸が透過率(%)である。本発明の実施例であるC2、2.5およびC3の各試料は、図5と同じ色度および透過率であり、本発明の10〜30%の範囲内である。比較例のうち、A2´は、色度がx:0.665、y:0.333、透過率が約36%である。A2は、色度がx:0.668、y:0.330、透過率が約33%である。C3´は、色度がx:0.704、y:0.293、透過率が5%である。
【0043】
なお、以上の各説明において、測光方法はJIS Z 8724による。
【0044】
次に、上記実施例の灯具に与える影響についての測定結果について表1を参照して説明する。表1は、実施例のガラスバルブ表面温度、ガラスバルブ10mm上方の温度および灯具天面20mm上方の温度の測定結果をそれぞれ単位℃で示しているとともに、実施例の参考データとして図7に示す色度位置、赤色の態様および赤色フィルター膜の透過率を併せて示している。なお、灯具は、SAEの自動車用電球規格に準じる灯具を用いて測定している。
【0045】
【表1】

表1から理解できるように、本発明においては、ガラスバルブ10mm上方の温度が240℃以下になるので、赤色フィルター膜の耐熱性に優れている。そのため、灯具天面20mm上方の温度が130℃以下になるので、ポリフェニレンサルファイド(PPS)のような高価な耐熱性プラスチックスを灯具に用いる必要性がなくなり、比較的安価なポロメチルメチアクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)およびポリアミド66ナイロン(PA)などの比較的安価なプラスチックスを赤色フィルター膜の色度に応じて用いることが可能になる。
【0046】
図10は、本発明を実施するための一形態における赤色フィルター膜の製造工程を示している。図示の製造工程は、特許文献1に記載されているのと同じである。
【0047】
簡単に説明すると、(a)の第1の工程において、フィルター膜が形成されていない無地の白熱電球IL´を製作する。
【0048】
(b)の第2の工程において、赤色フィルター膜の塗布液を貯留した塗布液層11を予め用意しておき、白熱電球の全体を、そのピンチシール部1bを下向き(ベースダウン)にした状態で、下向き矢印の方向に塗布液層11内にディップ(浸漬)し、次に上向き矢印方向に引き上げる。
【0049】
その後、(c)の第3の工程において、ピンチシール部に付着した塗布液を洗浄して除去して主としてガラスバルブの包囲部が赤色フィルター膜の塗布液で被覆された未乾燥の白熱電球ILが得られる。なお、白熱電球IRのピンチシール部に付着した塗布液の除去は、図示しない塗布液除去装置を用いて行われる。また、上記ディップ処理に代えて、白熱電球ILをベースダウン状態にしておき、スプレーガン12を用いて赤色フィルター膜の塗布液を吹き付け塗装してもよい。この場合において、ピンチシール部への塗布を回避するために、マスキングを行ったり、上述と同様に塗布後に不要部の塗布液を除去したりすることもできる。
【0050】
次に、(d)の第4の工程において、未乾燥の白熱電球ILを乾燥炉13内に入れて乾燥させる。
【0051】
以上の工程を経て、乾燥後冷却して本発明の赤色フィルター膜4を備えた白熱電球ILを製造することができる。なお、赤色フィルター膜は、単一層により形成されているのがよい。そうすれば、赤色色度が前述の所定範囲内に収まりやすくなるとともに、赤色フィルター膜が剥がれにくくなる。
【0052】
図11は、ベースダウンディッピングによって形成した場合の赤色フィルター膜の膜厚分布状態をベースアップディッピングのそれと対比して示す白熱電球の中央断面正面図である。なお、(a)はベースダウンディップ品、(b)はベースアップディップ品である。
【0053】
ベースダウンディップ品は、塗布液が矢印方向に流れ落ちて塗膜が形成される際に、ガラスバルブの包囲部のバルブトップにおける赤色フィルター膜の半球状部位4aとストレートな側面部位4bの膜厚分布が比較的均一化される。その結果、バルブトップ部位4aの膜厚が約0.92μm、バルブ側面部位4bの膜厚が約0.5μmであった。このため、消灯時における色むらと点灯時の発光色むらがなくなる。
【0054】
これに対して、ベースアップディップ品は、バルブトップの半球状部位に塗布液溜り4cができてしまうために、赤色フィルター膜の半球状部位の膜厚が約30μmと著しく肉厚になるばかりでなく、側面部位の膜厚が約0.3μmと逆に著しく薄くなった。バルブトップ部が上記のように肉厚になると、消灯時の色むらが発生して外観不良となる。また、点灯時には、バルブトップ部位からの光が遮断されてしまうために、点灯時の発光色むらが発生して配光特性が乱れてしまい、白熱電球の性能を低下の原因になる。
【符号の説明】
【0055】
1…ガラスバルブ、1a…包囲部、1b…ピンチシール部、1c…内部空間、2…フィラメント、3…受電端子、4…赤色フィルター膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間が形成された気密なガラスバルブと;
ガラスバルブの内部に配設されたフィラメントと;
ガラスバルブの内部に封入された25℃での圧力が1気圧以上の不活性ガスと;
透過率が10〜30%で、かつ点灯初期の赤色色度値がCIE色度図の点C1(x:0.6500、y:0.3250)、点C2(x:0.6750、y:0.3250)、点C3(x:0.7024、y:0.2976)および点C4(x:06855、y:0.2945)で囲まれた領域内にあり、ガラスバルブの外面に形成された赤色フィルター膜と;
を具備していることを特徴とする白熱電球。
【請求項2】
赤色フィルター膜は、1層により形成されていることを特徴とする請求項1記載の白熱電球。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−8921(P2011−8921A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148260(P2009−148260)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)