説明

白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法

【課題】白色度の高い有機皮膜鋼板を安定して製造することができる技術を提供する。
【解決手段】電気亜鉛メッキ層の上に有機皮膜を被覆して有機皮膜鋼板を製造するにあたり、鉄よりも貴であり、かつ亜鉛よりも水素発生過電圧が高いSnなどの金属元素を添加した亜鉛メッキ浴中で鋼板を電気亜鉛メッキすることにより、メッキ結晶サイズが0.4〜10μmであり、(0002)面の結晶配向が20%以上の電気亜鉛メッキ皮膜を形成し、その上面に有機皮膜を被覆する。これによりメッキ表面での鏡面反射強度を強くし、有機皮膜と空気との界面で全反射して外部に出ない光線の比率を減少させて、有機皮膜鋼板としての白色度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気亜鉛メッキ鋼板の表面に有機皮膜を被覆した白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法に関するものである。ここでメッキ皮膜は必ずしも連続している必要はない。
【背景技術】
【0002】
上記のような電気亜鉛メッキ皮膜の上に有機皮膜を被覆した有機皮膜鋼板は、人目につく場所に使用されることが多いため、疵、色調などの鋼板外観に対する需要家の要求は非常に厳しい。その為電気亜鉛メッキ工程において、メッキ特性値である白色度(L値)の管理範囲を定めている。
【0003】
しかし電気亜鉛メッキ鋼板の色調を積極的に制御できる技術が不十分であり、特にFe-Znの合金メッキ製品では白色度が低下する問題もあった。しかも電気亜鉛メッキ鋼板の表面に有機皮膜を被覆すると、元の電気亜鉛メッキ鋼板の白色度よりも色調が大幅に低下する傾向にある。このため従来は、十分に白色度の高い有機皮膜鋼板を安定して製造することができなかった。
【0004】
なお、特許文献1には明度(白色度)と光沢に優れた電気亜鉛メッキ鋼板の製造方法が開示されている。しかし特許文献1の発明は、電気亜鉛メッキ鋼板そのものの色調向上を狙ったものであり、その上層に被覆される有機皮膜の影響を考慮して白色度を向上させるものではない。
【特許文献1】特開平10−72692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、電気亜鉛メッキ皮膜とその上に被覆される有機皮膜との関係を考慮し、白色度の高い有機皮膜鋼板を安定して製造することができる技術を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法は、亜鉛よりも貴であり、かつ鉄よりも水素発生過電圧が高い金属イオンを含む亜鉛メッキ浴中で鋼板を電気亜鉛メッキすることにより、メッキ結晶サイズが0.4〜10μmであり、(0002)面の結晶配向が20%以上の電気亜鉛メッキ皮膜を形成し、その上面に有機皮膜を被覆することを特徴とするものである。
【0007】
なお、亜鉛よりも貴であり、かつ鉄よりも水素発生過電圧が高い金属イオンとしては、Sn、Mo、Crが好ましく、そのメッキ浴中の金属イオン量を、0.1〜1000ppmとすることが好ましい。更に好ましくは、10<100×Sn+Cr+Mo<1000(ppm)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気亜鉛メッキ層のメッキ結晶を0.4〜10μmに粗大化させてメッキ面の粗度を低下させるとともに、メッキ結晶面を有機皮膜面に対して鏡面化させることによって、メッキ表面での鏡面反射強度を強くする。これによってメッキ表面からの反射光のうち、有機皮膜と空気との界面で全反射して外部に出ない光線の比率が減少し、有機皮膜鋼板としての白色度を高めることができる。なお、この理由については以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
先ず、有機皮膜鋼板の白色度について説明する。白色度は物体表面における光の反射量の割合を示したもので、黒体を0、酸化マグネシウム標準白板を100とするL値で表される。図1に示すように、物体の表面への入射光は一部が反射光となり、残部は物体内部への吸収光となるが、反射光はさらに、入射角と等しい角度に反射する鏡面反射光と、乱反射による拡散反射光とに分かれる。
【0010】
本発明のような電気亜鉛メッキ層の上に有機皮膜を被覆した有機皮膜鋼板の場合には、図2に示すようにメッキ層の表面からの反射光は有機皮膜を通過して外部に出る。空気に比較して有機皮膜の屈折率は大きいため、拡散反射光のうち法線に対する反射角度の大きい反射光は空気との界面で全反射し、外部に出ない。このため有機皮膜鋼板のL値を向上させるためには特に、反射光のうちの拡散反射光を減少させ、鏡面反射光の比率を高める必要がある。
【0011】
そこで図2のように微細なメッキ結晶を析出させるよりも、図3のように粗大化したメッキ結晶を析出させる方が、鏡面反射光の比率が高まりL値が向上すると考えられる。このようにメッキ結晶粒を粗大化させるためには、メッキ結晶析出の起点となる電析核の生成数を抑制することが必要である。このためにはメッキ析出過電圧を低下させる必要がある。
【0012】
またメッキ結晶面を有機皮膜面に対して平滑化させることが、L値向上に有利であると考えられる。本発明者は、メッキ結晶面を平滑化させるためには亜鉛メッキ結晶の配向性を積極的にコントロールすることが重要であることを見出した。すなわち、亜鉛結晶の代表的な配向面を図4に示すが、配向面が(0002)であると有機皮膜に対してメッキ結晶が平行となり、鏡面反射光の強度が大きくなる。
【0013】
Pangarovの理論によれば、亜鉛メッキ結晶は最密充填型の六方晶であるから、メッキ析出過電圧が低ければメッキ結晶核生成時の基底面に核生成エネルギーが最も低い(0002)面に配向される。さらに、結晶生成過程においてもエネルギーが低い安定な面への配向が優先される。したがって、メッキ析出過電圧を低くして(0002)面に初析させ、その面に結晶を積層させることが、メッキ表面の鏡面反射強度を高めるために効果がある。
【0014】
そのための具体的手段としてはメッキ浴温の上昇、亜鉛濃度の上昇などの各種の手段が考えられるが、本発明では製造安定性、製造コストを考慮して、亜鉛メッキ浴中にイオンを添加する方法を採用した。図5は鋼板表面への亜鉛電析を示す模式図であり、陰極となる鋼板表面では次の(a)(b)の競争反応が発生している。また微量金属イオンが存在すると、(c)の反応が発生する。
(a) Zn2++2e→Zn
(b) 2H+2e→H
(c) Mn++ne→M
【0015】
微量金属元素として亜鉛よりも貴(亜鉛よりも標準電極電位が高い)であり、かつ鉄よりも水素発生過電圧が高い金属イオンを亜鉛メッキ浴中に添加しておけば、図5中の右図に示すように亜鉛よりも先に金属イオンが鋼板表面に析出する。そしてその上では水素発生過電圧が高く水素発生が抑制されるため、亜鉛の析出過電圧が低下し、(0002)面配向性が優先的となる。さらに析出過電圧が低いと電析核生成が抑制され、電析核上にエピタキシャルメッキ結晶が粗大化する。
【0016】
発明者の検討結果によれば、好ましいメッキ浴条件は次の通りである。
Zn濃度 :20〜150g/L
フリー硫酸濃度:20〜60g/L
浴温 :30〜80℃
Sn濃度 :0.1〜10ppm
Cr濃度 :1〜1000ppm
Mo濃度 :1〜1000ppm
【0017】
上記のメッキ浴条件で鋼板に電気亜鉛メッキをすることにより、メッキ結晶サイズが0.4〜10μmであり、(0002)面の結晶配向が20%以上の電気亜鉛メッキ層を形成することができる。そしてその上面に定法により有機皮膜を被覆することにより、白色度の高い有機皮膜鋼板を得ることができる。
【0018】
メッキ結晶サイズが0.4μm未満であると、図2に示したように乱反射により鏡面反射光の強度が低下し、有機皮膜鋼板の白色度が低下する。逆に10μmを超えると、次のような弊害を生ずる。
(1)平滑な結晶が形成され摺動抵抗が悪化することにより、プレス性が悪化する。
(2)メッキ表面の粗度が低下し、メッキ層と有機皮膜との界面における皮膜密着性が低下する。
(3)光沢度が上がりすぎて外観劣化する。
【0019】
また(0002)面の結晶配向が20%未満であると、やはり鏡面反射光の強度が低下し、有機皮膜鋼板の白色度が低下する。
【0020】
なお、本発明におけるメッキ結晶サイズは、鋼板メッキ結晶のSEM写真データを画像処理解析装置にかけ、濃度変化レベルを基に2値化し、接したり重なり合ったりしている粒子を分離して粒子径、粒子個数を求める方法で測定されたものである。この画像処理解析装置としては、例えばニレコ社製、型番LUZEX-FSの高速画像処理解析装置を用いることができる。
【0021】
また結晶配向の測定は、X線回折装置によって測定された結晶の配向性の割合を評価する方法で行われる。このX線回折装置としては、例えばBRUKER-axs社製の型番MXP18AHFを用いることができる。
【実施例】
【0022】
Zn濃度:20〜150g/L、フリー硫酸濃度:20〜60g/L、浴温:30〜80℃に管理された電気亜鉛メッキ浴中に、微量金属としてSnを添加した場合と、添加しない場合とにおいて、有機皮膜鋼板のL値がどのように異なるかを確認した。
【0023】
Snを添加しない従来法で電気亜鉛メッキを行った場合、亜鉛メッキ結晶の配向比率は20%が(0002)面、80%がその他の面であったが、Snを添加すると(0002)面の配向が80%に達した。また、電気亜鉛メッキ鋼板の表面に定法により有機皮膜を被覆して有機皮膜鋼板を製造し、そのL値を測定したところ、表1に示す結果となった。なお、表中のL値は1月間の平均値である。
【0024】
【表1】

【0025】
以上に説明したように、本発明によれば白色度の高い有機皮膜鋼板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】物体表面における光の反射メカニズムを示す説明図である。
【図2】L値の低い有機皮膜鋼板の表面における光の反射メカニズムを示す説明図である。
【図3】L値の高い有機皮膜鋼板の表面における光の反射メカニズムを示す説明図である。
【図4】亜鉛メッキ結晶の配向性と過電圧、有機皮膜鋼板のL値の関係の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛よりも貴であり、かつ鉄よりも水素発生過電圧が高い金属イオンを含む亜鉛メッキ浴中で鋼板を電気亜鉛メッキすることにより、メッキ結晶サイズが0.4〜10μmであり、(0002)面の結晶配向が20%以上の電気亜鉛メッキ皮膜を形成し、その上面に有機皮膜を被覆することを特徴とする白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法。
【請求項2】
亜鉛よりも貴であり、かつ鉄よりも水素発生過電圧が高い金属イオンが、Sn、Mo、Crの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法。
【請求項3】
亜鉛メッキ浴中に添加される金属イオンを0.1〜1000ppmとしたことを特徴とする請求項1記載の白色度の高い有機皮膜鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−316329(P2006−316329A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142101(P2005−142101)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】