説明

白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】加熱を必要としない短時間の処理で、同一電流密度で輝度低下が少なく、長寿命化した白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子を得る製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に少なくとも1層のリン光発光ドーパントを含む発光層を有する白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、駆動時の5〜50倍の電流密度の直流電流を1秒以上10分以下印加することでエージングすることを特徴とする白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色発光有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子とも言う)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とも言う)が挙げられる。
【0003】
無機EL素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0004】
一方、有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・リン光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0005】
しかしながら、薄膜有機層を積層した有機EL素子は経時での素子性能が安定しないという問題がある。これに対して、エージング処理により素子性能を安定化させるという方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
しかし、従来技術に使用されるエージング処理では、処理による輝度低下が大きく発光効率が低下してしまうという問題点があった。
【0007】
例えば、特許文献1においては、駆動時の電流密度の5〜100倍の電流密度でエージング処理することで長寿命化できるとの記載があるが、エージングにより輝度は30〜50%も低下するためせっかく初期性能を向上させても無駄になってしまい、有機エレクトロルミネッセンス素子の特徴の一つである低消費電力化が図れない。
【0008】
また、寿命評価時の初期輝度50〜120cd/cmは、有機EL素子の用途の一つであるディスプレイとしては距離が近く直接見るという状態で200〜500cd/cm、更に距離が離れる場合もある照明用途では400〜2000cd/cm、もしくはそれ以上の輝度を必要とされているのに対して非常に低い輝度であり、実際に使用される輝度を1000cd/cmと仮定して駆動寿命に換算すると100時間程度と短いものになってしまう。更に、エージング処理時間として1〜5時間を要しているのは、素子製造工程の効率化という点でも問題である。
【0009】
一方、特許文献2においては、駆動経時による色度変化について、予め変化量の50%までエージングすることで以降の色度変化を安定化させるとしているが、やはりエージングによる発光特性の劣化は避けられず、初期輝度から約60%と劣化しているのは、特許文献1と同様である。また、エージング時の環境を駆動環境よりも高温にすることでエージング時間の短縮を図っているが、それでも100℃、25時間と長時間となっており、製造上の問題点と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3552317号公報
【特許文献2】特開2002−93577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、加熱を必要としない短時間の処理で、同一電流密度で輝度低下が少なく、長寿命化した白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子を得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0013】
1.基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に少なくとも1層のリン光発光ドーパントを含む発光層を有する白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、駆動時の5〜50倍の電流密度の直流電流を1秒以上10分以下印加することでエージングすることを特徴とする白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0014】
2.電流印加時間が1秒以上1分以下であることを特徴とする前記1に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0015】
3.電流印加時間が1秒以上10秒以下であることを特徴とする前記1または2に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0016】
4.前記エージング時の環境温度が5〜35℃であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0017】
5.前記白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動時の輝度が400〜2000cd/mであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
6.前記発光層に含まれるリン光発光ドーパントがIr化合物であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0019】
7.前記発光層の少なくとも1層がウェットプロセスにより形成されることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
8.前記白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子が搬送ウェブ上にて連続製造され、該ウェブ上にて前記エージングが施されることを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法により、同一電流密度で輝度低下が少なく、長寿命化した白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができた。また、加熱を必要としない短時間の処理であるため、製造工程への組込みが容易であり製造コストの低減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【図2】表示部Aの模式図である。
【図3】画素の模式図である。
【図4】パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置の模式図である。
【図5】照明装置の概略図である。
【図6】照明装置の模式図である。
【図7】白色発光有機EL素子101、A1、A7の初期特性を示す図である。
【図8】白色発光有機EL素子101、A1、A7の駆動特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳述する。
【0024】
《エージング処理方法》
本発明において、エージング処理とは、白色発光有機EL素子を通電駆動することで通常駆動初期に大きいとされる輝度低下を予め変化させ、その後の性能変動を低減させるものである。
【0025】
本発明の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法では、請求項1に記載のように、白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子を形成した後、駆動時の5〜50倍の電流密度の直流電流を1秒以上10分以下の間印加することでエージングすることを特徴とする。
【0026】
エージング時の電流密度が50倍を越えて大きくなると、短時間であっても素子性能を劣化させたり、場合によっては素子を破壊してしまうこともあるため好ましくない。また、エージング時間は生産工程からは短いほど好ましいが、1秒未満の短時間では所望の効果が得られないことがあるため、好ましくは1秒以上1分以下であり、より好ましくは1秒以上10秒以下である。また、10分を超すエージング時間では、駆動時の輝度低下が大きくなる。
【0027】
更に本発明によるエージング処理においては、加熱せず5〜35℃で処理されることがより好ましく、加熱により有機層や素子自体が劣化することを防ぐことができる。
【0028】
本発明に係る白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動時の輝度が400〜2000cd/mであり、駆動時の5〜50倍の電流密度の直流電流を1秒以上10分以下の間印加することで、その輝度を長時間維持することができる。
【0029】
《白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法》
本発明に係る白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子は、現在のところ単一の発光材料で白色発光を示すものがないため、複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を有する発光材料を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を有する発光材料を含有したものでもよい。勿論4以上の発光極大波長を有する発光材料を組み合わせても構わない。
【0030】
例えば、発光材料としてリン光発光ドーパントを用いる場合には、発光波長の異なる前記の関係を有する複数のドーパントを用いて混色により白色発光を得る。
【0031】
本発明の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法について説明する。なお、本発明の白色発光有機EL素子の層構成(構成層とも言う)の詳細は後に詳細に説明する。
【0032】
本発明の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法では、陽極側電極、陰極側電極に挟まれた少なくとも1層の発光層を有し、該発光層の少なくとも1層が、層形成材料を溶剤に溶解した溶液を用いて、ウェットプロセス(塗布方法とも言う)により形成された発光層であることを特徴とする。
【0033】
本発明に用いられるウェットプロセスとしては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法等が挙げられる。均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、本発明においては、スピンコート法、インクジェット法、スプレー法、印刷法等の塗布法による成膜が好ましい。
【0034】
本発明に係る塗布液の調製に用いられる塗布溶剤(単に溶媒、溶剤等とも言う)としては、例えば、塩化メチレン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン(m体、o体、p体)等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン(o体、m体、p体)、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン(cis体、trans体)、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0035】
《本発明に係る白色発光有機EL素子の製造の一態様》
本発明に係る白色発光有機EL素子の製造の一態様(一例)として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる白色発光有機EL素子の製造方法を説明する。
【0036】
まず、適当な基体上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ陽極側電極(単に、陽極とも言う)を作製する。
【0037】
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層等の有機化合物薄膜(有機層)を形成させる。
【0038】
これら各層の形成方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、本発明においてはスピンコート法、インクジェット法、スプレー法、印刷法等の塗布法による成膜が好ましい。
【0039】
また、各々別の溶液として調製したホスト化合物溶液とリン光発光ドーパント溶液を基板上で混合させるために、インクジェット法またはスプレー法を用いる場合は、各々の溶液を吐出することで基板上に形成された液滴が互いに接触し混合するように、ノズルと基板のいずれか、または両者を移動しながら吐出することが好ましい。
【0040】
本発明においては、塗布液調製(分散液調製の場合もある)時の有機EL素子材料を溶解または分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0041】
有機EL素子材料の分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0042】
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の白色発光有機EL素子が得られる。
【0043】
また、作製順序を逆にして、陰極、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0044】
以下、本発明に係る白色発光有機EL素子の各構成要素の詳細について、順次説明する。
【0045】
《白色発光有機EL素子の層構成》
次に、本発明に係る白色発光有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0046】
(i)陽極/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極。
【0047】
《発光層》
ここでは、本発明に係る発光層に含有される発光材料(例えば、ホスト化合物、リン光発光ドーパント等)を中心に説明する。
【0048】
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0049】
発光層の膜厚は特に制限はないが、形成する膜の均質性や発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは5〜100nmの範囲に調整される。
【0050】
本発明に係る白色発光有機EL素子の発光層には、ホスト化合物とゲスト材料としてのリン光発光ドーパントを含有する。発光層の発光色として白色を得るには、発光色の異なる発光層を積層するか、発光色の異なるリン光発光ドーパントを同一発光層に含有することで達成できる。
【0051】
以下に発光層に含まれるホスト化合物とリン光発光ドーパントについて説明する。
【0052】
(リン光発光ドーパント)
本発明に係るリン光発光ドーパントとしては、より発光効率の高い白色発光有機EL素子を得る観点からは、本発明に係る白色発光有機EL素子の発光層や発光ユニットに使用されるリン光発光ドーパントしては、上記のホスト化合物を含有すると同時にリン光発光ドーパントを含有することが好ましい。
【0053】
本発明に係るリン光発光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0054】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光発光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0055】
リン光発光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光発光ドーパントに移動させることでリン光発光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光発光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光発光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光発光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、リン光発光ドーパントの励起状態のエネルギーは、ホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0056】
リン光発光ドーパントは、白色発光有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0057】
本発明に係るリン光発光ドーパントとしては、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0058】
また、リン光発光ドーパントしては、下記に示す従来公知の化合物を併用することができる。
【0059】
【化1】

【0060】
【化2】

【0061】
【化3】

【0062】
【化4】

【0063】
【化5】

【0064】
【化6】

【0065】
(ホスト化合物)
ここで、本発明においてホスト化合物とは、室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が0.1未満の化合物である。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0066】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、白色発光有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光ドーパントを複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0067】
また、本発明に用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0068】
併用してもよい公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、なお且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0069】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0070】
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0071】
次に、本発明に係る白色発光有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0072】
《注入層:電子注入層、正孔注入層》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0073】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0074】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0075】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0076】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0077】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0078】
本発明に係る白色発光有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0079】
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げたアザカルバゾール誘導体を含有することが好ましい。
【0080】
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。
【0081】
更には、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対しそのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
【0082】
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法により求めることができる。
【0083】
(1)米国Gaussian製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)の小数点第2位を四捨五入した値としてイオン化ポテンシャルを求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
【0084】
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
【0085】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては、好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。
【0086】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0087】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0088】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0089】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0090】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0091】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、所謂p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
【0092】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については、5nm〜5μmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0093】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0094】
本発明においては、このようなp性の高い正孔輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0095】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0096】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。
【0097】
更に上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0098】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0099】
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
【0100】
また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0101】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
【0102】
電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0103】
また、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0104】
本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0105】
(重合架橋性の有機EL素子材料:反応性有機EL素子材料とも言う)
本発明では、重合架橋性の有機EL素子材料として、塗布後に重合架橋させることのできる反応性基をもつ有機化合物(反応性有機化合物とも言う)を用いることもできる。重合架橋性の有機EL素子材料(反応性有機EL素子材料)を用いる層としては特に制限はなく、各層に用いることができる。
【0106】
反応性有機EL素子材料を基板上で重合架橋させ、有機分子によるネットワークポリマーを形成させる。ネットワークポリマーを形成することで、構成層のTg(ガラス転移点)調整により素子劣化を抑制することができる。
【0107】
また、素子使用中の活性ラジカルを用いて分子の共役系の切断または生成を伴う反応を調整することにより、白色発光有機EL素子の発光波長を変えたり、特定波長の劣化を抑制すること等も可能である。
【0108】
一方、製造工程においては、例えば、複数の有機層を塗布で積層する場合、下層が上層の塗布液に溶解しないことが好ましく、下層を架橋重合し溶剤溶解性を劣化させることで、上層塗布を可能とすることができる。
【0109】
ガラス転移温度(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0110】
本発明に用いることのできる反応性基の一例を示す。
【0111】
【化7】

【0112】
また、以下に、本発明に用いられる重合架橋性の有機EL素子材料の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0113】
【化8】

【0114】
【化9】

【0115】
【化10】

【0116】
【化11】

【0117】
【化12】

【0118】
【化13】

【0119】
【化14】

【0120】
【化15】

【0121】
【化16】

【0122】
【化17】

【0123】
【化18】

【0124】
【化19】

【0125】
上記の重合架橋性の有機EL素子材料の合成は、例えば、新高分子実験学2高分子の合成・反応(共立出版株式会社)等に記載の方法を参照することにより合成可能である。
【0126】
(重合架橋性の有機EL素子材料の重合架橋方法)
本発明に用いられる重合架橋性の有機EL素子材料の重合架橋方法としては、種々のエネルギー線が用いられる。ここで、エネルギー線としては、X線、中性子線、電子線、紫外線等があるが、好ましくは紫外線、電子線である。紫外線の光源としては、紫外線ランプ(例えば、0.5kPa〜1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ)、キセノンランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ等が用いられ、1〜500mW/cm程度の強度を有する紫外線が好ましく照射される。
【0127】
重合架橋(硬化とも言う)に要するエネルギー量としては、0.01〜30kJ/cmの範囲が好ましい。
【0128】
《陽極》
白色発光有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0129】
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0130】
あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
【0131】
更に膜厚は材料にもよるが、10〜1000nmの範囲が好ましく、更に好ましくは10〜200nmの範囲である。
【0132】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
【0133】
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0134】
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0135】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は10nm〜5μmの範囲が好ましく、更に好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0136】
なお、発光した光を透過させるため、白色発光有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0137】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0138】
《基板》
本発明に係る白色発光有機EL素子に用いることのできる基板(以下、基体、基材、支持基板、支持体等とも言う)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。基板側から光を取り出す場合には、基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい基板は、白色発光有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0139】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(JSR製)あるいはアペル(三井化学製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0140】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更にはJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10−3ml/(m・24h・MPa)以下、水蒸気透過度が10−5g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0141】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0142】
更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0143】
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0144】
不透明な基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0145】
本発明に係る白色発光有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。
【0146】
ここに、外部取り出し量子効率(%)=白色発光有機EL素子外部に発光した光子数/白色発光有機EL素子に流した電子数×100である。
【0147】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、白色発光有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、白色発光有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0148】
《封止》
本発明に用いられる白色発光有機EL素子の封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0149】
封止部材としては、白色発光有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0150】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0151】
本発明においては、白色発光有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
【0152】
更には、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m/24h以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m/24h)以下のものであることが好ましい。
【0153】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0154】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0155】
なお、白色発光有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0156】
また、有機層を挟み基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0157】
更に、該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0158】
封止部材と白色発光有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0159】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0160】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み基板と対向する側の前記封止膜、あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量且つ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0161】
《光取り出し》
白色発光有機EL素子は空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7〜2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げるためである。
【0162】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、白色発光有機EL素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等がある。
【0163】
本発明においては、これらの方法を本発明に係る白色発光有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
【0164】
本発明はこれらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた白色発光有機EL素子を得ることができる。
【0165】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚みで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど外部への取り出し効率が高くなる。
【0166】
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましいく、更に好ましくは1.35以下であることが好ましい。
【0167】
また、低屈折率媒質の厚みは媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは低屈折率媒質の厚みが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。
【0168】
この方法は回折格子が1次の回折や2次の回折といった所謂ブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0169】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な1次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
【0170】
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0171】
回折格子を導入する位置としては前述の通り、いずれかの層間もしくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である発光層の近傍が望ましい。
【0172】
このとき、回折格子の周期は媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度が好ましい。
【0173】
回折格子の配列は正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、2次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0174】
《集光シート》
本発明に係る白色発光有機EL素子は基板の光取り出し側に、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工し、あるいは所謂集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
【0175】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。
【0176】
これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0177】
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば、住友スリーエム製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。
【0178】
プリズムシートの形状としては、例えば、基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
【0179】
また、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0180】
《用途》
本発明の白色発光有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0181】
本発明の白色発光有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0182】
本発明に係る白色発光有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0183】
また、本発明に係る白色発光有機EL素子の白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/mでの色温度が7000K〜2500K(黒体軌跡からの偏差Δuv=±0.02)の領域内にあることを言う。
【0184】
《表示装置》
本発明の表示装置について説明する。本発明の表示装置は、本発明の白色発光有機EL素子を具備したものである。
【0185】
表示装置に具備される白色発光有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の白色発光有機EL素子の構成例の中から選択される。
【0186】
また、白色発光有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の白色発光有機EL素子の製造の一態様に示した通りである。
【0187】
得られた表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2V〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0188】
表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
【0189】
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0190】
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0191】
以下、本発明に係る白色発光有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
【0192】
図1は白色発光有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。白色発光有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0193】
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0194】
制御部Bは表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0195】
図2は表示部Aの模式図である。
【0196】
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
【0197】
図においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0198】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
【0199】
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
【0200】
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0201】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
【0202】
図3は画素の模式図である。
【0203】
画素は白色発光有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサ13等を備えている。複数の画素に白色発光有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の白色発光有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0204】
図3において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサ13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0205】
画像データ信号の伝達により、コンデンサ13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが白色発光有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から白色発光有機EL素子10に電流が供給される。
【0206】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサ13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで白色発光有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して白色発光有機EL素子10が発光する。
【0207】
即ち、白色発光有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの白色発光有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの白色発光有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0208】
ここで、白色発光有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサ13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0209】
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて白色発光有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0210】
図4はパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図4において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0211】
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
【0212】
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
【0213】
《照明装置》
本発明の照明装置について説明する。本発明に係る照明装置は上記白色発光有機EL素子を有する。本発明に係る白色発光有機EL素子に共振器構造を持たせた白色発光有機EL素子として用いてもよく、このような共振器構造を有した白色発光有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
【0214】
また、本発明に係る白色発光有機EL素子は照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
【0215】
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の白色発光有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0216】
また、本発明に係る有機EL材料は照明装置として、実質白色の発光を生じる白色発光有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0217】
また複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係る白色発光有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせ混合するだけでよい。発光層、正孔輸送層あるいは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよく、他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。
【0218】
この方法によれば、複数色の発光素子をアレイ状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
【0219】
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係る金属錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
【0220】
《本発明に係る照明装置の一態様》
本発明に係る白色発光有機EL素子を具備した、本発明に係る照明装置の一態様について説明する。
【0221】
本発明に係る白色発光有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚み300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図5、図6に示すような照明装置を形成することができる。
【0222】
図5は、照明装置の概略図を示し、本発明に係る白色発光有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、白色発光有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
【0223】
図6は照明装置の断面図を示し、図6において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【実施例】
【0224】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0225】
また、実施例に用いる化合物の構造式を下記に示す。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0226】
実施例1
《白色発光有機EL素子の作製》
〔白色発光有機EL素子101の作製〕
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm製膜した基板にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0227】
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer製、Baytron P AI 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により製膜した後、180℃にて30分乾燥し、膜厚30nmの正孔注入層を設けた。
【0228】
この基板を窒素雰囲気下に移し、20mgの化合物4−16を4mlのトルエンに溶解した溶液を1500rpm、30秒でスピンコート法により製膜した後、80℃で30分間乾燥した。次に出力35mW/cmのUVランプを30秒照射して、重合・架橋し、膜厚20nmの正孔輸送層とした。
【0229】
更に、下記組成の発光層組成物を1500rpm、30秒でスピンコート法により製膜した後、80℃で30分間乾燥して膜厚50nmの発光層を形成した。
【0230】
(発光層組成物)
H−A 87.5質量部
Ir−A 12.0質量部
Ir−1 0.25質量部
Ir−14 0.25質量部
トルエン 8000質量部
【0231】
【化20】

【0232】
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにET−AとCsFをそれぞれ入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、前記ボートに通電して加熱してET−Aを蒸着速度0.2nm/秒、CsFを0.03nm/秒で前記発光層上に共蒸着して、膜厚20nmの電子輸送層を形成した。引き続き、アルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、白色発光有機EL素子101を作製した。
【0233】
次いで、白色発光有機EL素子101を大気に接触させることなく、窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で白色発光有機EL素子101の非発光面をガラスカバー102で覆った。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【0234】
同様にして、同じ構成の白色発光有機EL素子101を合計8個作製した。
【0235】
《エージング処理》
〔エージング処理−1〕
白色発光有機EL素子101のうち1つに、20℃の環境下で電流密度35mA/cmの直流電流を5秒間印加し、白色発光有機EL素子A1とした。
【0236】
〔エージング処理−2〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度150mA/cmの直流電流を1秒間印加し、白色発光有機EL素子A2とした。
【0237】
〔エージング処理−3〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度15mA/cmの直流電流を1分間印加し、白色発光有機EL素子A3とした。
【0238】
〔エージング処理−4〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度150mA/cmの直流電流を1分間印加し、白色発光有機EL素子A4とした。
【0239】
〔エージング処理−5〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度15mA/cmの直流電流を10分間印加し、白色発光有機EL素子A5とした。
【0240】
〔エージング処理−6〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度150mA/cmの直流電流を10分間印加し、白色発光有機EL素子A6とした。
【0241】
〔エージング処理−7〕
白色発光有機EL素子101の別の1つに、20℃の環境下で電流密度150mA/cmの直流電流を3時間印加し、白色発光有機EL素子A7とした。
【0242】
《白色発光有機EL素子の初期性能評価》
白色発光有機EL素子101、白色発光有機EL素子A1、白色発光有機EL素子A7について、直流電源を用いて1〜10Vまで0.5Vずつ電圧を上げて印加したときの電流値と、発光輝度を分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)により測定した結果を図7に示す。
【0243】
図7から、エージング処理なしの素子101、本発明によるエージング処理を施した素子A1は同等の初期性能、例えば、正面輝度1000cd/mを与える電流密度はいずれも3mA/cmであることがわかる。一方、本発明外のエージング処理を施した素子A7は同じ輝度を与える電流密度が倍(正面輝度1000cd/mを与える電流密度は6mA/cm)となり、電流効率が半分に下がっている、即ち初期性能が落ちていることがわかる。
【0244】
なお、本発明によるエージング処理を施した素子A2〜A6についても、同様の結果であった。
【0245】
《白色発光有機EL素子の駆動寿命評価》
白色発光有機EL素子101、白色発光有機EL素子A1、白色発光有機EL素子A7について、正面輝度1000cd/mを初期輝度として与える電流密度の直流電流を印加して、連続駆動させたときの輝度変動を追跡し、輝度が50%に到達する時間tを半減寿命として評価した。駆動寿命評価の結果を図8に示す。
【0246】
この結果から、本発明によるエージング処理を施した素子A1は、エージング処理を施していない素子101、本発明外のエージング処理を施した素子A7に対して、長寿命化していることがわかる(図8から、半減時間はそれぞれ2000hr、1500hr、1300hr)。
【0247】
本発明によるエージング処理を施した素子A2〜A6についても同様に、正面輝度1000cd/mを初期輝度として駆動寿命評価した結果を表1に示す。
【0248】
【表1】

【0249】
この結果から、本発明によるエージング処理を施した白色発光有機EL素子は、初期性能を落とすことなく長寿命化していることがわかる。
【符号の説明】
【0250】
1 ディスプレイ
3 画素
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 白色発光有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサ
A 表示部
B 制御部
101 白色発光有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機EL層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に少なくとも1層のリン光発光ドーパントを含む発光層を有する白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、駆動時の5〜50倍の電流密度の直流電流を1秒以上10分以下印加することでエージングすることを特徴とする白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
電流印加時間が1秒以上1分以下であることを特徴とする請求項1に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
電流印加時間が1秒以上10秒以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記エージング時の環境温度が5〜35℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動時の輝度が400〜2000cd/mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記発光層に含まれるリン光発光ドーパントがIr化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記発光層の少なくとも1層がウェットプロセスにより形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子が搬送ウェブ上にて連続製造され、該ウェブ上にて前記エージングが施されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−272286(P2010−272286A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121793(P2009−121793)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】