説明

白色雑音生成装置

【課題】デジタル信号による白色雑音をより確実に連続的に生成できる白色雑音生成装置を提供する。
【解決手段】デジタル信号により白色雑音を生成する白色雑音生成装置において、正規乱数を生成するための所定の条件を満たす一様乱数を出力する乱数出力部1A/1Bが、複数系統設けられて成る乱数群出力部1と、乱数群出力部1によって逐次出力される複数系統の一様乱数に基づいて、Box-Muller変換により正規乱数を生成し、当該正規乱数に基づいて白色雑音を生成する白色雑音生成部3とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル信号により、白色雑音を生成する白色雑音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有線か無線かに関わらず、通信システムの開発においては、雑音に対する通信品質の評価が重要である。そこで、人工的に生成した白色雑音を通信システムに与えて、どのような現象が現れるかを検証し、問題点があれば改善する、という工程が行われる。白色雑音を用いることにより、解析によって通信システム(通信路を含む。)の特性を推定することができ、その推定に基づいて特性を改善することができる。このようにして、より完成度の高い通信システムを提供することができる。
【0003】
上記のような問題点が発生した場合には、その時の白色雑音を再現することが必要となる。そこで、再現可能な雑音源として、デジタル信号で雑音を生成することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。ここで、雑音生成には、Box-Muller 法が使用されている。Box-Muller 法は、一様乱数から正規分布を有する正規乱数を得る変換手法として知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−28298号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NUMERICAL RECIPES in C (日本語版)、第216〜217頁、技術評論社、1993年6月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
白色雑音は、通信システムの特性を推定するため、高速通信の場合でもリアルタイムに生成し続けられる必要がある。さらに、装置は小型であることが望ましい。上記特許文献1の回路では、Box-Muller 変換にR値とcosθ値の2つのテーブルが用いられている。より高速化するために同時に2つの正規乱数を生成する場合、それら2つのテーブルに加えて、sinθ値のテーブルも必要となる。このため、装置の小型化が難しい。非特許文献1に記載されている直交座標形式で生成する方法では、原点を中心とする半径1の単位円の内側の点をランダムに選ぶことで、その横座標及び縦座標から同時に2つの正規乱数を生成する。横座標及び縦座標から正規乱数を求めるときの変換関数は共通しており、同時に2つの正規乱数を生成する場合でもテーブルは1つでよい。本発明者らは高速化及び小型化を検討する上で、この点に着目した。
【0007】
しかしながら、非特許文献1の方法では、単位円に入らない場合は、正規乱数の生成を回避する。入る確率は、一様乱数の分布領域である一辺の長さ2の正方形に対する半径1の単位円の面積比となり、(π/4)すなわち、約78.5%である。生成確率78.5%で同時に2つの正規乱数を生成することで、平均1.57個の正規乱数の生成が可能になるとしても、連続して生成に失敗する確率は0にならないため、正規乱数を連続的に得られないかもしれない。
【0008】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、デジタル信号による白色雑音をより確実に連続的に生成できる白色雑音生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、デジタル信号により白色雑音を生成する白色雑音生成装置であって、正規乱数を生成するための所定の条件を満たす一様乱数を出力する乱数出力部が、複数系統設けられて成る乱数群出力部と、前記乱数群出力部によって逐次出力される複数系統の一様乱数に基づいて、Box-Muller変換により正規乱数を生成し、当該正規乱数に基づいて白色雑音を生成する白色雑音生成部とを備えたものである。
【0010】
上記のように構成された白色雑音生成装置では、乱数出力部が複数系統設けられていることによって、仮にいずれか1系統で所定の条件を満たす一様乱数が出力できないときでも、他系統から所定の条件を満たす一様乱数を出力することができる可能性が十分にある。従って、乱数群出力部から所定の条件を満たす一様乱数が出力できないという事態が起こる確率を、大幅に低減することができる。従って、実質的に、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音生成の連続性は失われない。
【0011】
(2)また、上記(1)の白色雑音生成装置において、前記複数系統の一様乱数と自己の空き容量とに基づいて、記憶可能な一様乱数を逐次記憶する記憶部を備え、白色雑音生成部は、逐次、記憶部に記憶された一様乱数を消費して、白色雑音を生成する、という構成であってもよい。
この場合、複数系統から所定の条件を満たす一様乱数の出力を行うことに加えて、一様乱数を記憶部へ蓄積することができるので、全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が生じても、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音生成の連続性は失われない。
【0012】
(3)また、上記(2)の白色雑音生成装置において、記憶部は、所定量の一様乱数を記憶可能なFIFOメモリであってもよい。
この場合、全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が連続して発生しても、既に記憶している一様乱数によって、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音生成の連続性は失われない。
【0013】
(4)また、上記(3)の白色雑音生成装置において、白色雑音の生成開始前に予めFIFOメモリに一定量の一様乱数を記憶させておくこともできる。
この場合、白色雑音の生成開始直後に全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が連続して発生しても、既に記憶している一様乱数によって、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音は連続的に生成される。
【0014】
(5)また、上記(1)〜(4)のいずれかの白色雑音生成装置において、白色雑音生成部は、2つの正規乱数を生成し、当該2つの正規乱数を用いて白色雑音を生成するようにしてもよい。
この場合、例えば2つの正規乱数の和を取ること(または、重み付けした和を取ること)により、正規分布の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の白色雑音生成装置によれば、デジタル信号による白色雑音を、より確実に連続的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る白色雑音生成装置のブロック図である。
【図2】乱数出力部の動作をフローチャートで示したものである。
【図3】一様乱数v及びvの分布範囲を直交座標で示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る白色雑音生成装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態に係る白色雑音生成装置のブロック図である。当該白色雑音生成装置は、デジタル信号により白色雑音を生成する装置であり、デジタル回路によって構成される。図において、白色雑音生成装置は、主として、乱数群出力部1と、記憶部としてのFIFOメモリ2と、白色雑音生成部3とを備えている。
【0018】
乱数群出力部1は、複数系統(ここでは2系統)の乱数出力部1A,1Bによって構成されている。なお、図示する2系統は、実用上合理的な「複数」の典型例であるが、必ずしも2系統に限定されない。乱数出力部1A,1Bの各々は、正規乱数を生成するための所定の条件を満たす一様乱数を出力する条件判断の機能を有する。一様乱数とは、ある区間内(ここでは−1から1まで)で全ての実数が同じ確率で現れるような乱数である。
【0019】
図2は、乱数出力部1A(乱数出力部1Bも同様。)の動作をフローチャートで示したものである。また、図3は、一様乱数v及びvの分布範囲を直交座標で示す図である。図2において、まず、乱数出力部1Aは、2つの一様乱数v及びvを生成する(ステップS1)。2つの一様乱数v及びvは、図3における正方形内に一様に分布する。そして、図2において、乱数出力部1Aは、2つの一様乱数v及びvからr=v+vを演算し(ステップS2)、rが0<r<1の範囲内にあるかどうかをチェックする(ステップS3)。その結果、0<r<1の条件を満たせば、それらの一様乱数v及びvを出力し(ステップS4)、条件を満たさなければ再度、別の一様乱数v及びvを生成して(ステップS1)、以下同様の処理を繰り返す。
【0020】
このようにして、0<r<1の条件を満たす一様乱数v及びvのみを出力することができる。これは、図3における原点0で半径1の単位円内にある一様乱数v及びvのみ(但し、原点(0,0)及び単位円上の点は除く。)を出力することを意味する。
【0021】
図1に戻り、乱数出力部1Aから出力される一様乱数v及びvは、逐次、FIFOメモリ2の空き容量に基づいて、詰め込まれる(書き込まれる)。空き容量が無い場合には、書き込みは行われない。乱数出力部1Bについても同様である。FIFOメモリ2は、その記憶容量に基づく所定量(例えば100個)の一様乱数を記憶することができる。
【0022】
白色雑音生成部3の基本的な機能は、乱数群出力部1によって逐次出力される複数系統の一様乱数に基づいて、Box-Muller変換により正規乱数を生成し、当該正規乱数に基づいて白色雑音を生成することである。
具体的には、白色雑音生成部3は、FIFOメモリ2から1回に1組のデータ(一様乱数v及びv)ずつ取り出す。取り出されたデータはFIFOメモリ2から失われ、消費される形となる。
【0023】
一様乱数v及びvに基づいて、正規分布に従う2つの正規乱数Y1及びY2を得るとすると、Box-Muller法により、以下の関係が成り立つ。
Y1=(−2logv1/2cos2πv ・・・(1)
Y2=(−2logv1/2sin2πv ・・・(2)
ここで、r(=v+v)は、一様分布するので、vに置き換えることができる。また、点(v,v)の偏角は、ランダムな角度2πvの代わりになる。従って、上記の式(1)、(2)におけるcos2πv及びsin2πvは、それぞれ、(v/r)及び(v/r)と書ける。
【0024】
従って、以下のBox-Muller変換式が得られる。
Y1=(−2logr1/2(v/r)
=(−2logr/r1/2 ・・・(3)
Y2=(−2logr1/2(v/r)
=(−2logr/r1/2 ・・・(4)
【0025】
白色雑音生成部3は、上記式(3)、(4)の演算により2つの正規乱数Y1,Y2を生成し、さらに、2つの和(Y1+Y2)を取って、これを白色雑音とする。和を取ることにより、正規分布の精度を高めることができる。例えば、個々には正規分布の曲線の微小な歪み(凸凹)があったとしても、和を取ることで、歪みは緩和される。なお、単純な和に限らず、重みW1,W2(W1+W2=1)を用いて、重み付けした和(W1・Y1+W2・Y2)とすることもできる。
【0026】
さて、ここで、前述の1組の一様乱数v及びvの値を、FIFOメモリ2への詰め込み(書き込み)の1単位となるデータとする。また、データを詰め込むことができる確率をPとする。なおPの値は、図3における正方形に対する単位円の面積比すなわち、(π/4)である。この場合、2系統の乱数出力部1A,1Bは、以下の表1に示すように出力を提供する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1において、「1A」、「1B」は、それぞれ、乱数出力部1A,1Bを意味する。○は、出力できる状態(単位円内の条件を満たす。)を意味し、×は、出力できない状態(単位円内の条件を満たさない。)を意味する。表の上から順に、2系統の乱数出力部1A,1Bが共に出力できるという事象が起きる確率は、Pであり、この場合には、FIFOメモリ2へ詰め込むことができるデータ量は2となる。
【0029】
次に、2系統の乱数出力部1A,1Bのうち、乱数出力部1Aのみが出力できるという事象が起きる確率は、P(1−P)であり、この場合には、FIFOメモリ2へ詰め込むことができるデータ量は1となる。同様に、2系統の乱数出力部1A,1Bのうち、乱数出力部1Bのみが出力できるという事象が起きる確率は、(1−P)Pであり、この場合には、FIFOメモリ2へ詰め込むことができるデータ量は1となる。
また、2系統の乱数出力部1A,1Bが共に出力できないという事象が起きる確率は、(1−P)であり、この場合には、FIFOメモリ2へ詰め込むことができるデータ量は0となる。
【0030】
従って、平均的に、FIFOメモリ2へデータを詰め込むことができる期待値は、上記データ量に確率の重み付けをした総和すなわち、
2×P+P(1−P)+(1−P)P
=2P=(π/2)≒1.57>1
となる。
【0031】
白色雑音生成部3が、FIFOメモリ2からデータを取り出す(消費する)のは1データずつである。従って、書き込むことができるデータ量は消費されるデータより多く準備されていることになり、乱数群出力部1から所定の条件(単位円内)を満たす一様乱数が出力できないという事態が起こる確率を、大幅に低減することができる。また、予め一定量のデータがFIFOメモリ2に入っていれば、FIFOメモリ2のデータが空になることは、極めて低い確率となる。
【0032】
例えば、FIFOメモリ2に書き込むことができるデータ量が100個であれば、表1における(1−P)の確率で起こる望ましくない事象が100回連続して起きた場合に、データが枯渇して正規乱数の生成ができず、白色雑音生成の連続性が担保できない事態になるが、この確率は限りなく0に近い。
【0033】
以上のように、上記の白色雑音生成装置では、乱数出力部(1A/1B)が複数系統設けられていることによって、仮にいずれか1系統で所定の条件を満たす一様乱数が出力できないときでも、他系統から所定の条件を満たす一様乱数を出力することができる可能性が十分にある。従って、乱数群出力部1から所定の条件を満たす一様乱数が出力できないという事態が起こる確率を、大幅に低減することができる。その結果として、当該白色雑音生成装置では、デジタル信号による白色雑音を、連続的に生成することができる。
【0034】
また、複数系統から所定の条件を満たす一様乱数の出力を行うことに加えて、一様乱数をFIFOメモリ2へ蓄積することができるので、全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が生じても、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音生成の連続性は失われない。
【0035】
さらに、予めFIFOメモリ2に一定量の一様乱数を記憶させておくことにより、仮に、全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が連続して発生しても、既に記憶している一様乱数によって、正規乱数の生成は途切れず、白色雑音生成の連続性は失われない。また、白色雑音の生成開始前に予めFIFOメモリ2に一定量の一様乱数を記憶させておくことで、白色雑音の生成開始直後に全ての系統で所定の条件を満たす一様乱数を出力することができないという事態が連続して発生しても、白色雑音は連続的に生成される。
【0036】
《第2実施形態》
図4は、本発明の第2実施形態に係る白色雑音生成装置のブロック図である。図1との違いは、乱数群出力部1及びFIFOメモリ2を複数組(2組)用意し、2つのFIFOメモリ2の出力を選択部4によって選択できるように構成した点である。
この場合、2つのFIFOメモリ2に一様乱数を蓄積することができるので、第1実施形態よりもさらに、白色雑音生成部3において必要な一様乱数を、確実に連続して供給することができる。
【0037】
また、図4の場合、2つの乱数群出力部1から出力される一様乱数が4系統もあるので、4系統全て一様乱数が出力できないという可能性は、限りなく0に近くなる。従って、2つのFIFOメモリ2を省略して4系統の出力から選択部でいずれか1系統の出力を選択する、という構成も可能である。
【0038】
《その他》
なお、上記のような白色雑音生成装置によれば、無線伝送路におけるフェージングと呼ばれる通信路モデルについても、Jakeモデルと呼ばれる白色雑音に基づいて構築することができる。これは、無線システムにおける電波伝搬について、100%の再生をすることに相当し、その結果、無線機器の完成度を飛躍的に向上させることができる。
【0039】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1:乱数群出力部
2:FIFOメモリ(記憶部)
3:白色雑音生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号により白色雑音を生成する白色雑音生成装置であって、
正規乱数を生成するための所定の条件を満たす一様乱数を出力する乱数出力部が、複数系統設けられて成る乱数群出力部と、
前記乱数群出力部によって逐次出力される複数系統の一様乱数に基づいて、Box-Muller変換により正規乱数を生成し、当該正規乱数に基づいて白色雑音を生成する白色雑音生成部と
を備えていることを特徴とする白色雑音生成装置。
【請求項2】
前記複数系統の一様乱数と自己の空き容量とに基づいて、記憶可能な一様乱数を逐次記憶する記憶部を備え、
前記白色雑音生成部は、逐次、前記記憶部に記憶された一様乱数を消費して、前記白色雑音を生成する請求項1記載の白色雑音生成装置。
【請求項3】
前記記憶部は、所定量の一様乱数を記憶可能なFIFOメモリである請求項2記載の白色雑音生成装置。
【請求項4】
前記白色雑音の生成開始前に予め前記FIFOメモリに一定量の一様乱数を記憶させておく請求項3記載の白色雑音生成装置。
【請求項5】
前記白色雑音生成部は、2つの正規乱数を生成し、当該2つの正規乱数を用いて前記白色雑音を生成する請求項1〜4のいずれか1項に記載の白色雑音生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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