説明

白血球の分類計数方法、白血球分類試薬キット及び白血球分類試薬

【課題】正常白血球を分類計数することができ、且つ芽球と異型リンパ球との判別を可能にする白血球の分類計数方法、または、上記方法を可能にする白血球分類試薬キット及び白血球分類試薬を提供する。
【解決手段】生体試料と、核酸を染色する第1試薬と、赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に前記蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤、ならびに20mM以上50mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する第2試薬とを混合して測定試料を調製する工程;調製された測定試料に光を照射し、そのときに生じる散乱光情報および蛍光情報を取得する工程;並びに取得された散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記生体試料中の白血球を分類するとともに、芽球と異型リンパ球とを区別して検出する工程;を含む白血球の分類計数方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の白血球を分類計数する方法に関する。また、本発明は、生体試料中の白血球を分類計数するための白血球分類試薬キット及び白血球分類試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
正常な白血球は、通常、リンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類に分類される。正常な末梢血においては、これらの血球がそれぞれ一定の割合で存在している。しかし、被験者に疾患が存在する場合、特定の血球数が増加または減少することがある。それゆえ、臨床検査の分野においては、白血球の分類計数を行うことにより、疾患の診断に極めて有用な情報を得ることができる。
【0003】
造血器腫瘍、ウイルス感染症等の疾患においては、正常な末梢血液中には存在しない細胞が出現する。例えば、急性の白血病では、未成熟な白血球である「芽球(骨髄芽球:myeloblast、リンパ芽球:lymphoblast)」が末梢血液中に出現する。一方、ウイルス感染症、薬物アレルギー等では、抗原刺激により活性化したリンパ球である「異型リンパ球(atypical lymphocyte)」が末梢血液中に出現する。末梢血液中から異型リンパ球と芽球とを区別して検出することは、疾患のスクリーニング又は診断を行う上で極めて有用である。
【0004】
近年、フローサイトメトリーの原理を応用した種々の自動血球計数装置が市販されている。そのような装置によれば、試料中の血球の分類計数を自動で行うことができる。また、自動血球計数装置による測定のための血球分類試薬も市販されている。このような試薬を用いて検体を自動血球計数装置で測定すると、検出された各血球のシグナルはそれぞれスキャッタグラム上の所定の領域に出現する。
【0005】
上記のような血球分類試薬は、当該技術においていくつか知られている。例えば、特許文献1には、異常白血球と正常白血球の両方を分類計数することができる方法が記載されている。該方法では、RNAを特異的に染色する染色液と、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含む溶血剤との組み合わせからなる試薬キットを用いている。また、特許文献2には、正常白血球を分類計数し、且つ異常白血球を検出する方法が記載されている。該方法では、所定の蛍光色素を含む染色液と、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含む溶血剤を含有する試薬を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4248017号公報
【特許文献2】米国特許出願第2009/0023129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、被験者から得た検体中には、正常白血球の他に芽球や異型リンパ球といった異常白血球が含まれている場合がある。
しかしながら、特許文献1や特許文献2の試薬を用いた方法では、異常白血球である芽球や異型リンパ球のシグナルが、いずれもスキャッタグラム上のほぼ同じ領域に出現するので、芽球と異型リンパ球とを区別して検出することが困難な場合があった。
【0008】
本発明は、正常白血球を分類計数することができ、且つ芽球と異型リンパ球とを区別して検出することが可能な白血球の分類計数方法を提供することを目的とする。また、本発明は、正常白血球を分類計数することができ、且つ芽球と異型リンパ球とを区別して検出することが可能な白血球分類試薬キット及び白血球分類試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来の白血球分類試薬を用いたフローサイトメメータによる測定では、芽球および異型リンパ球のシグナルはスキャッタグラム上で、正常リンパ球および正常単球のシグナルが出現する領域の近辺または該領域と重複する領域に出現する。本発明者らは、正常リンパ球のシグナルが出現する領域と正常単球のシグナルが出現する領域とを隔てることにより、異常白血球のシグナルと正常白血球のシグナルとを分離でき、異常白血球の検出感度を高めることができるのではないかと考えた。
【0010】
そこで、本発明者らは、正常リンパ球のシグナルが出現する領域と正常単球のシグナルが出現する領域とを隔てることが可能な白血球分類方法について検討した。その結果、驚くべきことに、芳香族の有機酸の濃度と試薬のpHを所定の組合せにすることで、異常白血球の検出精度を高め、芽球と異型リンパ球とを区別して検出することが可能になることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
生体試料と、核酸を染色する第1試薬と、赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に前記蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤、ならびに20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する第2試薬とを混合して測定試料を調製する工程;
調製された測定試料に光を照射し、そのときに生じる散乱光情報および蛍光情報を取得する工程;および
取得された散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記生体試料中の白血球を分類するとともに、芽球と異型リンパ球とを区別して検出する工程;
を含み、前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上7.0以下である、白血球の分類計数方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、核酸を染色可能な蛍光色素を含有する第1試薬と、赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に上記の蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤、ならびに20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する第2試薬とを含み、該第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合は該第2試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、該第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合は該第2試薬のpHが5.5以上7.0以下である白血球分類試薬キットを提供する。
さらに、本発明は、核酸を染色可能な蛍光色素と、カチオン性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤と、芳香族の有機酸と、を含む白血球分類試薬であって、試薬中に含まれる芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上50 mM以下であり、芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合はpHが5.5以上6.4以下であり、芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合はpHが5.5以上7.0以下であることを特徴とする白血球分類試薬を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の白血球の分類計数方法、白血球分類試薬キットおよび白血球分類試薬によれば、正常白血球を分類計数でき、且つ芽球と異型リンパ球とを区別して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の白血球分類試薬キットを用いて正常な血液検体を測定したときのスキャッタグラムおよびその模式図である。
【図2】実施例2の各試薬を用いて形態が異常なリンパ球を含む血液検体を測定したときのスキャッタグラムである。
【図3】実施例3の各試薬を用いて異常白血球を含む血液検体を測定したときのスキャッタグラムである。
【図4】実施例3の各試薬を用いて異常白血球を含む血液検体を測定したときのスキャッタグラムである。
【図5】実施例4の各試薬を用いて異常白血球を含む血液検体を測定したときのスキャッタグラムである。
【図6】実施例5の各試薬を用いて正常な血液検体を測定したときのスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態において、生体試料は、白血球を含む体液試料であれば特に限定されず、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトから採取された血液、骨髄液、尿、アフェレーシスなどで採取した試料などが挙げられる。また、生体試料は、異常白血球を含む可能性のある試料であってもよい。なお、本発明における白血球とは、正常な白血球と異常白血球とを含む。正常な白血球は、通常、リンパ球、単球、好酸球および好酸球以外の顆粒球の4種類、または、リンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類に分類される。
【0016】
本明細書において、異常白血球とは、通常は末梢血中に存在しない白血球を意味する。そのような異常白血球としては、例えば異型リンパ球や芽球などが挙げられる。異型リンパ球とは、抗原刺激により活性化したリンパ球で、刺激に反応して形態変化したものを指す。この異型リンパ球は、ウイルス感染症、薬物アレルギー等の疾患のある患者の末梢血中に出現する。芽球とは、骨髄芽球(myeloblast)やリンパ芽球(lymphblast)等の未成熟な白血球を指す。骨髄芽球は、急性骨髄性白血病の患者の末梢血中に出現し、リンパ芽球は、急性リンパ性白血病の患者の末梢血中に出現する。
【0017】
以下に本発明の白血球の分類計数方法で用いられる白血球分類試薬キットについて説明する。
【0018】
本発明の白血球分類試薬キット(以下、「試薬キット」ともいう)は、第1試薬と第2試薬とを含むキットである。以下に、試薬キットの各試薬について説明する。
【0019】
[第1試薬]
本発明の試薬キットに含まれる第1試薬は、核酸を染色可能な蛍光色素を含有する。本発明の実施形態において、第1試薬は、後述する第2試薬で処理された生体試料中の有核細胞の核酸を蛍光染色するための試薬である。生体試料を第1試薬で処理することにより、正常白血球および上記の異常白血球などの核酸を有する血球が染色される。
【0020】
本発明の実施形態において、蛍光色素は、核酸を染色できるのであれば特に限定されず、光源から照射される光の波長に応じて適宜選択することができる。そのような蛍光色素としては、例えばプロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3‐[[4‐[[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]メチレン]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐1‐イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO−1)、4‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐2(3H)‐イリデン)メチル]‐1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO−PRO−1)、N,N,N',N'‐テトラメチル‐N,N'‐ビス[3‐[4‐[3‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]‐2‐プロペニリデン]‐1,4‐ジヒドロキノリン‐1‐イル]プロピル]‐1,3‐プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO−3)、又は2‐[3‐[[1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐4‐イリデン]‐1‐プロペニル]‐3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム・ジヨージド(TO−PRO−3)および以下の一般式(I)で表される蛍光色素が挙げられる。それらの中でも、一般式(I)で表される蛍光色素が好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
上記の式(I)中、R1およびR4は互いに同一または異なって、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル鎖、エーテル基を有するアルキル鎖、エステル基を有するアルキル鎖、または置換基を有していてもよいベンジル基であり;R2およびR3は互いに同一または異なって、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基またはフェニル基であり;Zは硫黄原子、酸素原子、またはメチル基を有する炭素原子であり;nは0、1、2または3であり;X-はアニオンである。
【0023】
本発明の実施形態において、アルキル基は直鎖状または分枝鎖状のいずれであってもよい。また、本発明の実施形態においては、上記の式(I)中、R1およびR4のいずれか一方が炭素数6〜18のアルキル基である場合、他方は水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であることが好ましい。炭素数6〜18のアルキル基の中でも、炭素数が6、8または10のアルキル基が好ましい。
【0024】
本発明の実施形態においては、上記の式(I)中、R1およびR4のベンジル基の置換基として、例えば炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基または炭素数2〜20のアルキニル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
【0025】
本発明の実施形態においては、上記の式(I)中、R2およびR3のアルケニル基として、例えば炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。また、R2およびR3のアルコキシ基としては、炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。それらの中でも、特にメトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0026】
本発明の実施形態においては、上記の式(I)中、アニオンX-として、F-、Cl-、Br-及びI-のようなハロゲンイオン、CF3SO3-、BF4-などが挙げられる。
【0027】
本発明の実施形態において、第1試薬中の蛍光色素は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0028】
本発明の実施形態において、第1試薬中の蛍光色素の濃度は蛍光色素の種類に応じて適宜設定できるが、通常0.01〜100 pg/μL、好ましくは0.1〜10 pg/μLである。例えば、第1試薬の蛍光色素として上記の式(I)で表される蛍光色素を用いる場合、第1試薬中の該蛍光色素の濃度は、好ましくは0.2〜0.6 pg/μLであり、より好ましくは0.3〜0.5 pg/μLである。
【0029】
本発明の実施形態において、第1試薬は、上記の蛍光色素を上記の濃度になるように適切な溶媒に溶解させることにより得ることができる。溶媒は、上記の蛍光色素を溶解させることができれば特に限定されないが、例えば水、有機溶媒およびこれらの混合物が挙げられる。
有機溶媒としては、例えばアルコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。なお、蛍光色素は、水溶液中での保存安定性が悪い場合があるので、有機溶媒に溶解させることが好ましい。
【0030】
本発明の実施形態においては、第1試薬として、市販の白血球測定用の染色試薬を用いてもよい。そのような染色試薬としては、例えばストマトライザー4DS(シスメックス株式会社)が挙げられる。ストマトライザー4DSは、上記の式(I)で示される蛍光色素を含む染色試薬である。
【0031】
[第2試薬]
本発明の試薬キットに含まれる第2試薬は、赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に上記の蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための界面活性剤、すなわちカチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含有する。さらに、該第2試薬は、20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する。ここで、本発明の試薬キットの第2試薬は、芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合は第2試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合は該第2試薬のpHが5.5以上7.0以下であることを特徴とする。
【0032】
本発明の実施形態においては、第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合、第2試薬のpHは5.5以上6.4以下が好ましく、5.5以上6.2以下がより好ましい。また、本発明の実施形態においては、第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下、好ましくは40 mM以上50 mM以下である場合、第2試薬のpHが5.5以上7.0以下である。さらに好ましくは、第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が40 mM以上50 mM以下である場合、第2試薬のpHが5.5以上6.2以下である。
【0033】
本発明の実施形態においては、第2試薬で生体試料を処理することにより、該生体試料中の赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に上記の蛍光色素が通過できる程度の損傷を与えることができる。なお、生体試料中に異常白血球が含まれる場合、第2試薬は、該異常白血球の細胞膜も上記の蛍光色素が通過できる程度の損傷を与えることができる。
第2試薬により細胞膜に損傷を受けた血球は、上記の第1試薬中の蛍光色素により染色される。また、第2試薬に含まれる芳香族の有機酸の濃度およびpHが上記の範囲であることにより、フローサイトメータなどにより検出した正常リンパ球のシグナルの出現領域と正常単球のシグナルの出現領域を、異常白血球の検出精度を高め且つ芽球と異型リンパ球との判別を可能にする程度に隔てることができる。
【0034】
本明細書において、芳香族の有機酸とは、分子中に少なくとも1つの芳香環を有する酸およびその塩を意味する。芳香族の有機酸としては、例えば芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸などが挙げられる。本発明の実施形態においては、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびそれらの塩が好適に用いられる。なお、第2試薬中の芳香族の有機酸は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。第2試薬中に芳香族の有機酸を2種類以上含む場合、それらの濃度の合計が20 mM以上50 mM以下であればよい。
【0035】
本発明の実施形態においては、カチオン性界面活性剤として、第四級アンモニウム塩型界面活性剤、または、ピリジニウム塩型界面活性剤を用いることができる。第四級アンモニウム塩型界面活性剤としては、例えば以下の式(II)で表される、全炭素数が9〜30の界面活性剤が挙げられる。
【0036】
【化2】

【0037】
上記の式(II)中、R1は炭素数6〜18のアルキル基またはアルケニル基であり;R2およびR3は互いに同一または異なって、炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基であり;R4は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基であり;X-はハロゲン原子である。
【0038】
上記の式(II)中、R1としては、炭素数が6、8、10、12および14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としてはオクチル基、デシル基およびドデシル基が挙げられる。R2およびR3としては、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。R4としては、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。
【0039】
ピリジニウム塩型界面活性剤としては、例えば以下の式(III)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
上記の式(III)中、R1は炭素数6〜18のアルキル基またはアルケニル基であり;X-はハロゲン原子である。
【0042】
上記の式(III)中、R1としては、炭素数が6、8、10、12および14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としてはオクチル基、デシル基およびドデシル基が挙げられる。
【0043】
本発明の実施形態において、第2試薬中のカチオン性界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類により適宜調節できるが、通常10〜10000 ppm、好ましくは100〜1000 ppmである。
【0044】
本発明の実施形態においては、ノニオン性界面活性剤として、以下の式(VI)で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。
1−R2−(CH2CH2O)n−H (VI)
【0045】
上記の式(VI)中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり;R2は酸素原子、−COO−または
【0046】
【化4】

であり;nは10〜50の整数である。
【0047】
上記のノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0048】
本発明の実施形態において、第2試薬中のノニオン性界面活性剤の濃度は、通常10〜100000 ppm、好ましくは100〜10000 ppm、より好ましくは1000〜5000 ppmである。
【0049】
本発明の実施形態において、第2試薬は、pHを一定に保つために緩衝剤を含んでいてもよい。そのような緩衝剤としては、例えば、クエン酸塩、HEPESおよびリン酸塩などが挙げられる。なお、上記の芳香族の有機酸が緩衝作用を示す場合がある。そのような芳香族の有機酸を用いる場合は、第2試薬への緩衝剤の添加は任意である。
【0050】
本発明の実施形態において、第2試薬の浸透圧は特に限定されないが、赤血球を効率よく溶血させる観点から20〜150 mOsm/kgであることが好ましい。
【0051】
本発明の実施形態において、第2試薬は、上記の界面活性剤および芳香族の有機酸またはその塩と、所望により上記の緩衝剤とを、上記の芳香族の有機酸濃度になるように適切な溶媒に溶解し、pHをNaOH、HClなどを用いて調整することにより得ることができる。
溶媒としては、上記の成分を溶解させることができれば特に限定されないが、例えば水、有機溶媒およびそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、例えばアルコール、エチレングリコール、DMSOなどが挙げられる。
【0052】
なお、上述した試薬キットは、第1試薬と第2試薬とに分かれているが、本発明はこれに限らず、第1試薬と第2試薬の組成を含む試薬であれば特に限定されない。
【0053】
[白血球の分類計数方法]
本発明の白血球分類試薬キットまたは試薬を用いれば、生体試料中の白血球を分類計数することができる。以下に、本発明の試薬キットを用いた場合の白血球の分類計数方法(以下、単に「方法」ともいう)について説明する。
本発明の方法では、まず、生体試料と上記の試薬キットの第1試薬および第2試薬とを混合して、該生体試料中の赤血球を溶解させるとともに白血球の核酸を染色することにより測定試料を調製する(調製工程)。
【0054】
本発明の実施形態において、生体試料と第1試薬および第2試薬との混合は、生体試料:第1試薬:第2試薬の体積比が1:1〜1:1000、好ましくは1:10〜1:100となるように行うことが好ましい。生体試料に対する第1試薬と第2試薬の混合液の比率は、生体試料:混合液の体積比が1:5〜1:1000、好ましくは1:10〜1:100となるように行うことが好ましい。このような比で生体試料と第1試薬および第2試薬とを混合することにより、赤血球の溶血が速やかに進行し、白血球の核酸を染色することができる。また、生体試料中に異常白血球が存在する場合、この工程では該異常白血球の核酸も染色される。なお、生体試料の量は5〜500μL程度で測定に十分である。
【0055】
上記の調製工程において、生体試料と第1試薬および第2試薬とを混合する順序は特に限定されない。例えば、第1試薬と第2試薬を先に混合し、この混合液と生体試料を混合してもよい。また、第2試薬と生体試料を先に混合し、この混合液と第1試薬とを混合してもよい。本発明の実施形態においては、いずれの順序で混合しても同等の結果を得ることができる。
【0056】
本発明の実施形態においては、生体試料と第1試薬および第2試薬とを混合した後に、15〜50℃、好ましくは30〜45℃の温度で5〜120秒間、好ましくは5〜30秒間インキュベーションすることが好ましい。
【0057】
本発明の方法では、上記の工程で調製された測定試料に光を照射して散乱光情報および蛍光情報を取得する(測定工程)。
本発明の実施形態において、測定工程はフローサイトメータにより行われることが好ましい。フローサイトメータによる測定では、染色された白血球がフローサイトメータのフローセルを通過する際に該白血球に光を照射することにより、該白血球から発せられるシグナルとして散乱光情報および蛍光情報を得ることができる。
【0058】
本発明の実施形態において、散乱光情報は、一般に市販されるフローサイトメータで測定できる散乱光であれば特に限定されず、例えば前方散乱光(例えば、受光角度0〜20度付近)、側方散乱光(受光角度90度付近)などの散乱光のパルス幅、散乱光強度などが挙げられる。
当該技術においては、側方散乱光は細胞の核や顆粒などの内部情報を反映し、前方散乱光は細胞の大きさの情報を反映することが知られている。本発明の実施形態においては、散乱光情報として側方散乱光強度を用いることが好ましい。
【0059】
蛍光情報とは、適当な波長の励起光を染色された白血球に照射して、励起された蛍光を測定して得られる情報である。この蛍光は、第1試薬に含まれる蛍光色素によって染色された細胞内の核酸などから発せられる。なお、受光波長は、第1試薬に含まれる蛍光色素に応じて適宜選択することができる。
【0060】
本発明の実施形態において、フローサイトメータの光源は特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源が選ばれる。例えば、赤色半導体レーザ、青色半導体レーザ、アルゴンレーザ、He-Neレーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは、気体レーザに比べて非常に安価であるので好適である。
【0061】
本発明の方法では、上記の散乱光情報および蛍光情報に基づいて、生体試料中の白血球を分類計数する(分類計数工程)。
本発明の実施形態において、白血球の分類計数は、側方散乱光情報と蛍光情報を二軸とするスキャッタグラムを作成し、得られたスキャッタグラムを適当な解析ソフトを用いて解析することにより行われることが好ましい。例えば、X軸に側方散乱光強度、Y軸に蛍光強度をとってスキャッタグラムを描いた場合、図1の右パネルに示されるように、白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団(クラスター)に分類される。そして、解析ソフトによって、スキャッタグラム上で各集団を囲むウィンドウを設け、その中の細胞数を計数することができる。
なお、図1では、白血球を5種類の集団に分類しているが、これに限られない。例えば、好中球と好塩基球を1つの集団として分類することにより、白血球を4種類の集団に分類してもよい。
【0062】
本発明の実施形態においては、上記の生体試料が異常白血球を含む可能性のある試料であってもよい。上述したように、本発明の試薬キットを用いれば、フローサイトメータにより検出した正常リンパ球のシグナルの出現領域と正常単球のシグナルの出現領域をスキャッタグラム上で隔てることができる。したがって、生体試料中に異常白血球が含まれる場合、本発明の方法では、白血球を分類計数する工程において、そのような異常白血球のうち、芽球と異型リンパ球とを区別して検出することができる。この芽球と異型リンパ球との区別は、例えば、スキャッタグラム上における芽球のシグナル出現領域と異型リンパ球のシグナル出現領域を、スキャッタグラム上に予め設定することにより行われる。芽球と異型リンパ球の検出は、例えば、予め設定された芽球のシグナル出現領域にシグナルが検出された場合、生体試料中には芽球が含まれていると判定し、予め設定された異型リンパ球のシグナル出現領域にシグナルが検出された場合、生体試料中には異型リンパ球が含まれていると判定することにより行われる。
本発明の実施形態において、芽球としては、例えば骨髄芽球が挙げられる。
【0063】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1
本実施例では、正常リンパ球と正常単球のシグナルが出現する位置をスキャッタグラム上で分離するために、第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度と第2試薬のpHを検討した。
【0065】
第1試薬として、ストマトライザー4DS(シスメックス株式会社)を用いた。第2試薬は、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(LTAC:東京化成工業株式会社)、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル(BC30TX:日光ケミカルズ株式会社)、フタル酸水素カリウム(以下、フタル酸という:和光純薬工業株式会社)およびEDTA-2K(中部キレスト株式会社)を、以下の表1に示される組成となるように混合して調製した。また、pHの調整にはNaOH溶液を用いた。
なお、LTACはカチオン性界面活性剤であり、BC30TXはノニオン性界面活性剤であり、フタル酸は芳香族の有機酸である。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、第2試薬AおよびBのみ、バッファーとしてHEPES(株式会社同仁化学研究所)を含む。また、第2試薬AおよびBは、従来の白血球分類試薬の溶血剤に相当する。
【0068】
本実施例で用いた生体試料は、18名の健常人から採取した血液検体(18検体)である。以下、各検体をそれぞれ検体No.1〜18という。
【0069】
検体20μL、第1試薬20μLおよび第2試薬1000μLを混合し、40℃で20秒間インキュベーションして測定用試料を調製した。なお、検体No.1〜10については第2試薬A〜DおよびG〜Qを用い、検体No. 11〜18については第2試薬BおよびE〜Gを用いて測定用試料を調製した。
各測定用試料にフローサイトメータ(以下、FCMという)により光を照射して、該試料中の細胞から発せられる側方散乱光シグナル、前方散乱光シグナルおよび蛍光シグナルを検出した。得られたシグナルを解析して測定用試料中の正常白血球を測定した。なお、FCMの光源として、励起波長633 nmの赤色半導体レーザを用いた。また、蛍光シグナルは、600 nm以上の波長の蛍光(赤蛍光)を検出した。
【0070】
各測定用試料について、側方散乱光強度をX軸とし、蛍光強度をY軸とするスキャッタグラムを作成した場合、各白血球細胞は細胞毎に集団を形成する。この集団を適当な解析ソフトで解析することにより、各白血球集団を特定し、各白血球集団に含まれる細胞数と、全細胞数に占める各白血球集団に含まれる細胞数の割合と各白血球集団の重心位置を算出する。各白血球集団の重心位置から、重心間の距離(以下、重心距離という)を算出する。
【0071】
重心距離についての参考として、図1を示す。なお、図1の左パネルは、健常人の検体を上記の第1試薬および第2試薬Oを用いて測定して得たスキャッタグラムである。図1の左パネルから、検体中の正常白血球がリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類に分類されたことが示される。図1の右パネルは、分類された各血球の集団を特定し、リンパ球の集団と単球の集団の重心(●)を示している。2つの●の間の距離が重心距離である。
【0072】
第2試薬A(フタル酸濃度20 mM、pH7.2)を用いて10検体(検体No.1〜10)を測定したときの重心距離の平均値は、36.4であった。また、第2試薬B(フタル酸濃度20 mM、pH7.0)を用いて18検体(検体No.1〜18)を測定したときの重心距離の平均値は、38.3であった。
【0073】
第2試薬C、DおよびH〜Qを用いて10検体(検体No.1〜10)を測定したときの重心距離の平均値、第2試薬Gを用いて18検体(検体No.1〜18)を測定したときの重心距離の平均値および第2試薬EおよびFを用いて8検体(検体No.11〜18)を測定したときの重心距離の平均値を、以下の表2に示す。また、表2に示される結果を、各第2試薬のフタル酸濃度およびpHにより重心距離を分類した表を、以下に表3として示す。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
表3より、第2試薬のフタル酸濃度およびpHを特定の組み合わせにすることによって、従来の試薬である第2試薬AおよびBに比べて、単球のシグナルとリンパ球のシグナルが出現する領域が大きく離れることがわかった。そのようなフタル酸濃度とpHの組み合わせは、フタル酸の濃度が20 mM以上30 mM未満であり、且つpHが5.5以上6.4以下である組み合わせ、またはフタル酸の濃度が30 mM以上50 mM以下であり、且つpHが5.5以上7.0以下である組み合わせである。
【0077】
実施例2
本実施例では、実施例1の第1試薬と第2試薬B、GおよびOを用いて、形態が異常なリンパ球を含む血液検体(以下、異常検体1という)を測定した。なお、FCMによる測定および重心距離の算出は、実施例1と同様にして行った。
【0078】
各試薬を用いたFCMによる測定から作成されたスキャッタグラム(X軸:側方散乱光強度、Y軸:蛍光強度)を、図2に示す。図2において、Lymphはリンパ球を、Monoは単球を、Eoは好酸球を、Neutは好中球を、Ghostは赤血球ゴーストを表す。
【0079】
第2試薬B(フタル酸濃度20 mM、pH7.0)を用いて異常検体1を測定したときの重心距離は62.9であった。第2試薬G(フタル酸濃度20 mM、pH6.0)を用いて異常検体1を測定したときの重心距離は69.7であった。第2試薬O(フタル酸濃度40 mM、pH6.0)を用いて異常検体1を測定したときの重心距離は80.6であった。
【0080】
本実施例で用いた異常検体1は、形態が異常なリンパ球のシグナルが正常リンパ球のシグナルと同じ領域に出現する検体である。それゆえ、スキャッタグラム上でリンパ球の集団が非常に大きく膨れ上がる。異常検体1を従来の溶血剤である第2試薬Bを用いて測定すると、形態が異常なリンパ球を含む集団と単球の集団とが重なってしまい、形態が異常なリンパ球を精度よく検出することが困難である。
これに対して、本発明の試薬キットの第2試薬GおよびOを用いた測定では、リンパ球の集団と単球の集団とが大きく離れるので、本実施例のように異常検体を測定した場合でも、形態が異常なリンパ球を含む集団と単球の集団とを精度よく分けることができるようになる。これにより、従来試薬よりも精度よく形態が異常なリンパ球を検出することができる。
【0081】
実施例3
本実施例では、実施例1の第1試薬と第2試薬B、G、MおよびOを用いて、形態が異常なリンパ球を含む生体試料(以下、異常検体2という)および骨髄芽球を含む生体試料(以下、異常検体3という)を測定した。
【0082】
本実施例で用いた生体試料は、従来の試薬による測定では異常白血球が形態が異常なリンパ球であるか骨髄芽球であるかを判別できない2つの血液検体である。これは、形態が異常なリンパ球および骨髄芽球の各シグナルはいずれもスキャッタグラム上のほぼ同じ領域に出現することに起因する。なお、FCMによる測定および重心距離の算出は、実施例1と同様にして行った。
【0083】
各試薬を用いたFCMによる測定から作成されたスキャッタグラム(X軸:側方散乱光強度、Y軸:蛍光強度)を、図3および図4に示す。
【0084】
図3より、従来試薬である第2試薬Bを用いて異常検体2を測定すると、該検体に含まれる形態が異常なリンパ球の集団は、リンパ球の集団と単球の集団との間の領域からその領域の上方(蛍光強度の高い方)にかけて出現することがわかる。また、図4より、第2試薬Bを用いて異常検体3を測定すると、該検体に含まれる骨髄芽球の集団も、異常検体2に含まれる形態が異常なリンパ球の集団と同様の領域に出現することがわかる。
すなわち、異常検体2および3に含まれる異常白血球の集団はいずれもリンパ球および単球の集団と一部分が重なっている。また、異常検体2および3に含まれる異常白血球の集団は、スキャッタグラム上での分布の様子が互いに類似している。
したがって、従来試薬である第2試薬Bを用いた測定の結果からは、検体中に形態が異常なリンパ球および骨髄芽球のいずれが含まれているのか判別できない。さらに、形態が異常なリンパ球の集団の一部分がリンパ球および単球の集団と重なっているので、正常なリンパ球および単球を精度よく分類計数することが困難である。
【0085】
図3および4より、本発明の試薬キットの第2試薬である第2試薬I、K、MおよびOを用いた測定では、リンパ球の集団と単球の集団とがスキャッタグラム上で離れて出現することがわかる。これにより、異常検体2に含まれる形態が異常なリンパ球はリンパ球の集団の方へ偏って出現し、単球の集団と精度よく分けることができるようになる。また、異常検体3に含まれる骨髄芽球は単球の集団の方へ偏って出現し、リンパ球の集団と精度よく分けることができるようになる。
したがって、本発明の試薬キットの第2試薬を用いて測定すれば、形態が異常なリンパ球と骨髄芽球の出現位置に明確な差が現れるので、いずれの異常白血球が検体に含まれているのかを正確に判断することができる。さらに、異常白血球の集団はリンパ球または単球の集団と精度良く分けることができるようになるので、従来の試薬と比べて、正常単球または正常リンパ球をより正確に分類計数することができる。
【0086】
実施例4
本実施例では、実施例1の第1試薬と第2試薬AまたはOとを用いて、形態が異常なリンパ球を含む生体試料を測定した。ここで、本実施例の生体試料に含まれている形態が異常なリンパ球は、形態学検査により異型リンパ球であると確認されたリンパ球である。
本実施例で用いた生体試料は、従来の試薬による測定では異常白血球が異型リンパ球であるか芽球であるかを判別できない2つの血液検体(以下、それぞれ異常検体4および異常検体5という)である。これは、上述したように、異型リンパ球芽球の各シグナルはいずれもスキャッタグラム上のほぼ同じ領域に出現することに起因する。なお、FCMによる測定は、実施例1と同様にして行った。
【0087】
各試薬を用いたFCMによる測定から作成されたスキャッタグラム(横軸:側方散乱光強度、縦軸:蛍光強度)を、図5に示す。従来の試薬である第2試薬Aを用いて異常検体4および5を測定すると、検体に含まれる異型リンパ球の集団は、リンパ球の集団と単球の集団との間の領域からその領域の上方(蛍光強度の高い方)にかけて出現することがわかる。しかし、芽球の集団もほぼ同じ領域に出現するため(図示せず)、異型リンパ球の集団と芽球の集団とを区別して検出することはできない。
これに対して、第2試薬Oを用いて異常検体4および5を測定すると、単球の集団とリンパ球の集団とが離れるとともに、異型リンパ球の集団はリンパ球の集団へ偏って出現した。上記の実施例3の図4で示したように、第2試薬Oを用いて芽球を含む異常検体を測定した場合、芽球は単球の集団へ偏って出現する。これにより、異型リンパ球の集団と芽球の集団とを区別して検出することができる。
【0088】
実施例5
本実施例では、実施例1の第1試薬、第2試薬AおよびG、ならびに芳香族の有機酸としてフタル酸および安息香酸を含む第2試薬RおよびSを用いて生体試料を測定した。なお、第2試薬RおよびSは、LTAC、BC30TX、フタル酸、安息香酸およびEDTA-2Kを、以下の表4に示される組成となるように混合して調製した。
【0089】
【表4】

【0090】
本実施例で用いた生体試料は、健常人から採取した血液検体である。FCMによる測定および重心距離の算出は、実施例1と同様にして行った。
【0091】
各試薬を用いたFCMによる測定から作成されたスキャッタグラム(横軸:側方散乱光強度、縦軸:蛍光強度)を、図6に示す。また、各試薬を用いて検体を測定したときの重心距離ならびに各試薬の芳香族の有機酸の濃度およびpHを、以下の表5に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
表5および図6から、芳香族の有機酸としてフタル酸に安息香酸をさらに加えた第2試薬を用いて測定することにより、単球の集団とリンパ球の集団との重心距離を大きくすることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料と、核酸を染色する第1試薬と、赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に前記蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤、ならびに20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する第2試薬とを混合して測定試料を調製する工程;
調製された測定試料に光を照射し、そのときに生じる散乱光情報および蛍光情報を取得する工程;および
取得された散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記生体試料中の白血球を分類するとともに、芽球と異型リンパ球とを区別して検出する工程;
を含み、
前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上7.0以下である白血球の分類計数方法。
【請求項2】
前記芳香族の有機酸が、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が、40 mM以上50 mM以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2試薬中のpHが、5.5以上6.2以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記散乱光情報が、側方散乱光情報である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記カチオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム塩型界面活性剤、またはピリジニウム塩型界面活性剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ノニオン性界面活性剤が、以下の一般式(VI):
1−R2−(CH2CH2O)n−H (VI)
(式中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり;
2は酸素原子、−COO−または
【化1】

であり;
nは10〜50の整数である)
で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
核酸を染色可能な蛍光色素を含有する第1試薬と、
赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に前記蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤、ならびに20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含有する第2試薬とを含み、
前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合は前記第2試薬のpHが5.5以上7.0以下である白血球分類試薬キット。
【請求項9】
前記芳香族の有機酸が、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つである請求項8に記載の試薬キット。
【請求項10】
前記第2試薬中の芳香族の有機酸の濃度が40 mM以上50 mM以下である、請求項8または9に記載の試薬キット。
【請求項11】
前記第2試薬中のpHが、5.5以上6.2以下である請求項8〜10のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項12】
前記カチオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム塩型界面活性剤、またはピリジニウム塩型界面活性剤である請求項8〜11のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項13】
前記ノニオン性界面活性剤が、以下の一般式(VI):
1−R2−(CH2CH2O)n−H (VI)
(式中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり;
2は酸素原子、−COO−または
【化2】

であり;
nは10〜50の整数である)
で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤である請求項8〜12のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項14】
核酸を染色可能な蛍光色素と、カチオン性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤と、芳香族の有機酸とを含む白血球分類試薬であって、
前記試薬に含まれる芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上50 mM以下であり、
前記芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合はのpHが5.5以上6.4以下であり、前記芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合はpHが5.5以上7.0以下であることを特徴とする白血球分類試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233754(P2012−233754A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101595(P2011−101595)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】