説明

白血球の機能の改変

白血球の機能を改変または調節する薬剤の製造のためのPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白血球の機能、例えばリンパ細胞の機能、詳細には細胞毒性Tリンパ球(CTL)の機能を含むがそれに限定されない機能の改変に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞毒性Tリンパ球(CTL)は、単純性疱疹ウイルス感染等の種々の急性および慢性のウイルス感染を含む様々な人の病気を抑制するのに重大な役割を果たしている。CTLは癌の監視、すなわち、既に疾患を患っている患者の癌の広がりを予防すると共に、散発性癌細胞が腫瘤へと発展することを予防するのにも役割を果たしていると考えられている。しかしながら、CTLは、移植拒絶、移植片対宿主疾患および自己免疫等の命にかかわる病気を引き起こす可能性もある。したがって、CTLは疾患の予防のみならず多くの疾患の発現にも重要な役割を果たしている。
【0003】
CTLの機能を特異的に調整する能力が多くの状態の治療に有益であろうことは明らかである。
CTLは多くのうまく行われている免疫反応の重要な要素であるが、宿主を損傷させる可能性を有している。したがって、CTLの活動は、多数の受容体−リガンド相互作用により綿密に制御されている。エフェクタとして機能できる前に、CTLは抗原提示細胞(APC)により活性化され、標的細胞によりトリガされなければならない。一旦活性化されると、免疫系は、CTL反応を制御すると共に健康な宿主細胞の破壊を防ぐための機構を有する。代わりに、活性化CTLはアネルギーになるか、機能障害、無反応、またはメモリ様の状態に分化する場合もある。
(発明の開示)
本発明の目的の一つは、CTLの活動を調節または改変する手段を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明の第1態様は、PREPSおよびL粒子のうちの一方または両方に白血球(例えばCTL)を暴露することにより白血球の機能を調節または改変することを含む、白血球の機能の過活動または機能不全により例示される疾患を治療する方法を提供する。
【0005】
本発明の第2態様は、PREPSおよびL粒子のうちの一方または両方に白血球(例えばCTL)を暴露することにより白血球の機能を改変または調節する方法を提供する。
本発明の第3態様は、白血球(例えばCTL)の機能を改変または調節する薬剤の製造のためのPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方の使用方法を提供する。
【0006】
本発明の第4の態様は、白血球(例えばCTL)の機能の過活動または機能不全により例示される状態を治療する薬剤の製造のためのPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方の使用方法を提供する。
【0007】
疾患または状態は以下の1または複数を含み得る。
移植片対宿主疾患、
急性臓器拒絶反応、
橋本甲状腺炎、
原発性粘液水腫、
甲状腺機能亢進症、
悪性貧血、
アジソン病、
インシュリン依存性糖尿病、
グッドパスチャー症候群、
尋常性天疱瘡、
類天疱瘡、
交感性眼炎、
自己免疫溶血性貧血、
特発性血小板減少性紫斑病、
特発性白血球減少症、
原発性胆汁性肝硬変、
活動性慢性肝炎、
潰瘍性大腸炎、
シェーグレン症候群、
関節リウマチ、
皮膚筋炎、
強皮症、
円盤状エリテマトーデス、
全身性エリテマトーデス。
【0008】
PREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方は免疫療法薬およびワクチンとして使用されてもよい。
賦形剤および担体のうちの少なくとも一方が含まれてもよい。任意の薬剤にアルミニウム塩、MPLおよびRC−529(いずれもCorixia社により供給)等のアジュバントが含まれてもよい。薬剤は、外用投与、局所投与、又は全身投与用に構成され得る。
【0009】
米国特許第5,384,122号(本願出願人に譲渡されている)は、ヘルペスウイルス感染細胞により産生されるL粒子と呼ばれる非感染粒子について開示している。L粒子はエンベロープにより包囲された外被から成るが、ウイルスキャプシドおよびDNAが無いため非感染性である。
【0010】
米国特許第5,384,122号(その開示全体が参照により本明細書に組込まれる)は、L粒子がヘルペスウイルスの治療に使用されるワクチンの有効効分として使用され得ることを開示している。さらに、外来タンパク質またはペプチドをコードするDNAを含む組換えヘルペスウイルスを使用して、L粒子を外来タンパク質またはペプチドを含むように調製し、そのようなL粒子をヘルペスウイルス感染以外の感染性疾患と格闘するのに使用することが可能である。
【0011】
米国特許第5,994,116号(本願出願人に譲渡されている)は、プレウイルスDNA複製エンベロープ粒子(PREPS)と呼ばれるさらなるタイプのヘルペスウイルス粒子について開示している。PREPSにはウイルスカプシドおよびDNAが無く、L粒子と比較して減少した数の特定のタンパク質を含むと共に、L粒子と比較して増大した数の他のタンパク質を含んでいる。
【0012】
米国特許第5,994,116号(その開示全体が参照により本明細書に組込まれる)は、PREPSがワクチン治療に使用されるワクチンの有効成分として使用され得ることを開示している。さらに、組み換え技術を使用して、外来タンパク質またはペプチドが組み込まれたPREPSを生産し、そのようなPREPSをヘルペスウイルス以外の感染症と格闘するのに使用することが可能である。
【0013】
CTLが単純ペルペスウイルス(HSV)感染の急性の溶解期および持続性の潜伏期の
制御に関与するため、HSVは、その生き残り戦略の一部として、CTLを回避するための多数の機構を発展させた。
【0014】
Sloanらによる研究(J. Immunol. (2003) 171 pp 6733-6741)では、HSVに感
染した繊維芽細胞が、CTLを感染させたりCTLにアポトーシスを引き起こしたりすることなく、CTLに機能阻害シグナルを送信することが実証された。その研究者らはかかるプロセスを不活動化と称している。不活動化シグナルは、CTLの細胞毒性機能およびサイトカインエフェクタ機能を著しく減少させ、CTLがHSV感染細胞から除去されIL−2で処理した後でも、不活動化された表現型は維持される。
【0015】
CTL機能に対してL粒子およびPREPS粒子が影響を及ぼすために、CTLの不活動化が生じると提唱されている。かかる性質を利用することにより、CTL機能疾患の治療用の免疫治療ツールとして、PREPS粒子およびL粒子が使用される。
【0016】
PREPSおよびL粒子は上記に識別した特許に従って作製することができる。
CTL媒介性疾患の治療としてのα−ヘルペスウイルス粒子の特異的使用方法は以下の通りである。
【0017】
角膜移植の急性拒絶の予防
移植床における白血球濃度が高い場合に人での角膜移植拒絶の危険性が最も高いことは15年以上にわたって知られている(Ophthalmol. 1989 96(1) pp38-44)。角膜の拒絶はCTLによって媒介され、従って、外用投与またはボーラス注射もしくは送達装置による角膜床または新しく移植された角膜へのL粒子またはPREPS粒子の適用は、それらのCTLを不活動化させ、従って急性臓器拒絶の危険性を減らす。
【0018】
腎移植の急性拒絶の予防
(適合性が低い移植片を受けた)非ヒト霊長類での腎移植を検討する長年の研究は、外科手術の直前に免疫機能を阻害することにより移植片の存続率が増加され得ることを示した。この研究は、先天性免疫系が同種移植寛容誘導に打ち勝つように準備されており、寛容原性環境の発達を可能にするには先天性免疫の有効な封鎖を早期に実施しなければならないことを示している(Transpl. Immunol. 2003 11(3-4): pp335-44)。
【0019】
したがって、全身注射(静脈内または皮下)または移植の排水領域のリンパ節の部位(例えば腹内移植が計画された場合には鼠径リンパ節)や任意の適切な部位への局所注射により、外科手術前(例えば外科手術の数日前)に、即時の移植拒絶の危険を減らすために、PREPSまたはL粒子を投与することが適している。
【0020】
急性関節リウマチに罹患した関節の注射
関節リウマチは、痛みを伴って機能障害となり、かつ疾患による構造が変化する、重篤に炎症を起こした関節により特徴づけられた状態である。
【0021】
最近の研究(Clin. Exp. Rheumatol. 2005;23(2):pp185-92)は、CTLにより重度に湿
潤している関節が、正常な構造の損失を伴う疾患の進行につながる可能性があることを実証した。PREPSまたはL粒子の直接の関節内投与による適用で、CTL反応が阻害され、したがって炎症と、組織の破壊反応が減少した。
【0022】
CTLの過活動または機能障害により引き起こされる全身性疾患の予防
これは「結合組織障害」と称される多くの状態を含み、それには皮膚筋炎、強皮症、SLE等、およびC型肝炎およびB型肝炎等の急性または慢性のウイルス感染が含まれる。造血系(骨髄/肝臓/脾臓/胸腺)へのPREPSまたはL粒子の送達はCTL機能の調
節における有用な方法である。
【0023】
特異的免疫調節PREPSまたはL粒子の開発
ここまで述べてきた本発明は、全体がヘルペスウイルスの要素から構成されたL粒子またはPREPSに関するものであるが、無関係なウイルス、他のタイプのヘルペスウイルス、または他の有機体から生じた外来タンパク質またはエピトープペプチドがL粒子またはPREPSに組み込まれるように挿入外来DNAを発現する組換えヘルペスウイルスを生産することにより、広範囲の保護が提供され得る。(ここで「外来の」という用語は、L粒子またはPREPSが由来するヘルペスウイルス株に固有でない手段を指す)。
【0024】
外来DNAは、それがただ別の株または種類のHSVに由来するという意味で、外来であり、外来DNAを含む組換えHSVはかかる外来DNAをほとんどの場合困難なく発現すると期待され、その結果、そのようにして生じたタンパク質はL粒子またはPREPS(例えばエンベロープ中または外被中の)に組み込まれるようになる。外来タンパク質を発現する組換えウイルスは、一方の野生型HSV−1ウイルスまたはDNA複製陰性HSV−1のいずれかのゲノム内の適切なHSVシグナルの制御下で、標準法を使用してかかる外来タンパク質に対する遺伝子を挿入することにより構築することができる(Rixon and McLauchlan, 1993, In: Molecular Virology, A Practical Approach, p.285-307;ed. Davison A. J. and Elliott, R. M. IRL Press, Oxford)外来遺伝子を担持する野生型ウイルスは、DNA複製阻害剤(上記参照)と共に使用され得るか、またはそれがDNA複製陰性となるようさらに遺伝子組み換えされ得る。DNA複製陰性HSV−1を用いるかDNA複製阻害剤の存在下で野生型HSVを用いて適切なヘルペスウイルスシグナルを担持した状態で、外来遺伝子を発現するよう細胞を遺伝し組換えすることにより、外来タンパク質を含むPREPSまたはL粒子を産生することも可能である。
【0025】
細胞毒性Tリンパ球(CTL)は、細胞内病原体および腫瘍からの保護を与えることができる。抗原エピトープに特異的なCTLの活性化により媒介される保護抗ウイルス免疫は、外因性抗原を抗原提示細胞の細胞質ゾル内へ送達することにより達成することができる。しかしながら、ワクチン抗原の細胞質ゾルへの導入は、膜障壁が細胞質ゾルへの巨大分子のアクセスを限定しているために、特殊な送達戦略を必要とし、L粒子およびPREPSがかかる技術を提供する。そのような技術を使用する重要性は、T細胞への非ウイルスタンパク質または抗原の送達により特異的T細胞反応が影響を受ける可能性があり、これは、適切なタンパク質および抗原の使用によるT細胞反応の特異的ダウンレギュレーションを含めて、そのような1または複数の抗原に対する細胞免疫機能を修正するだろう。
【0026】
上記の説明はCTL機能の改変について詳述しているが、他のリンパ細胞(例えばB細胞、ナチュラルキラー細胞)や好ましくは動物血液系のすべてのまたは少なくとも一部の白血球の機能を修正するためにPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方を使用することは本発明の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血球の機能を改変または調節する薬剤の製造のためのPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方の使用方法。
【請求項2】
Tリンパ球の機能、例えばCTL(細胞毒性Tリンパ球)の機能を改変または調節するための請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
CTLの機能の過活動または機能不全により例示される状態を治療する薬剤の製造のためのPREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方の使用方法。
【請求項4】
前記状態が、
移植片対宿主疾患、
急性臓器拒絶反応、
橋本甲状腺炎、
原発性粘液水腫、
甲状腺機能亢進症、
悪性貧血、
アジソン病、
インシュリン依存性糖尿病、
グッドパスチャー症候群、
尋常性天疱瘡、
類天疱瘡、
交感性眼炎、
自己免疫溶血性貧血、
特発性血小板減少性紫斑病、
特発性白血球減少症、
原発性胆汁性肝硬変、
活動性慢性肝炎、
潰瘍性大腸炎、
シェーグレン症候群、
関節リウマチ、
皮膚筋炎、
強皮症、
円盤状エリテマトーデス、
全身性エリテマトーデス、
から選択される請求項3に記載の使用方法。
【請求項5】
前記薬剤は免疫療法薬およびワクチンのうちの少なくとも一つの形式をしている請求項1〜4のいずれかに記載の使用方法。
【請求項6】
前記薬剤は1または複数の賦形剤、担体およびアジュバントのうちの少なくとも一つを含む請求項1〜5のいずれかに記載の使用方法。
【請求項7】
前記薬剤は外用投与、局所投与、又は全身投与用に構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の使用方法。
【請求項8】
PREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方に白血球を暴露することにより白血球の機能を調節または改変することを含む、白血球の機能の過活動または機能不全により例証される疾患を治療する方法。
【請求項9】
前記疾患が、
移植片対宿主疾患、
急性臓器拒絶反応、
橋本甲状腺炎、
原発性粘液水腫、
甲状腺機能亢進症、
悪性貧血、
アジソン病、
インシュリン依存性糖尿病、
グッドパスチャー症候群、
尋常性天疱瘡、
類天疱瘡、
交感性眼炎、
自己免疫溶血性貧血、
特発性血小板減少性紫斑病、
特発性白血球減少症、
原発性胆汁性肝硬変、
活動性慢性肝炎、
潰瘍性大腸炎、
シェーグレン症候群、
関節リウマチ、
皮膚筋炎、
強皮症、
円盤状エリテマトーデス、
全身性エリテマトーデス、
から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
PREPSおよびL粒子のうちの少なくとも一方に白血球を暴露することを含む白血球の機能を調節または改変する方法。

【公表番号】特表2009−508927(P2009−508927A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531790(P2008−531790)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003554
【国際公開番号】WO2007/034219
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508065802)ヘンダーソン モーリー パブリック リミテッド カンパニー (3)
【氏名又は名称原語表記】HENDERSON MORLEY PLC
【Fターム(参考)】