説明

白血球の血管外遊出またはガン細胞の成長及び/もしくは転移を抑制するポリペプチドまたはその融合蛋白質

本発明は、膜貫通蛋白質の一種であるCD99及びその同族体、すなわち、CD99、CD99L2及びPBDX(またはXG)の細胞外部位のうち、高度保存領域(HCR)I−IIIに由来するポリペプチドまたはその融合蛋白質に関する。前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質は白血球の血管外遊出の抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移の抑制活性を有する。また本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、これを含むベクター、及び前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。また本発明は、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物を提供する。また本発明は、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白血球の血管外遊出に対する抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移に対する抑制活性を有するポリペプチドまたはその融合蛋白質であって、CD99及びその同族体、すなわち、CD99、CD99L2及びPBDX(またはXG)の細胞外領域のうち、高度保存領域(HCR)I−IIIに由来するポリペプチドまたはその融合蛋白質に関する。また本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、これを含むベクター、及び前記ベクターで形質転換された形質転換体に関する。また本発明は、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物に関する。また本発明は、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症反応は、感染、外傷などによって損傷した組織の構造及び機能を復元するための生体の防御反応として知られている。炎症部位への白血球細胞の移動は、感染の迅速な治癒及び多様な外傷から発生する組織損傷の修復に重要である。しかし、誤った炎症反応や持続的な炎症反応は、人体組織の損傷及び疾患を引き起こす。例えば、炎症疾患は、脳脊髓膜炎、腸炎、皮膚炎、ブドウ膜炎、脳炎、成人性呼吸困難症候群のような細菌やウィルスによる感染や、外傷、自家免疫疾患、または臓器移植拒絶反応のような非感染要因によって発生する。炎症疾患は、症状や病理学的特徴によって、急性炎症疾患と慢性炎症疾患とに分類される。アレルギーや細菌/ウィルス感染のような急性炎症は、血流、血管サイズ及び血管透過性の変化、並びに白血球の浸潤などの局所的症状として現れる。これに対して、リューマチ性関節炎、粥状動脈硬化症、慢性腎臓炎、肝硬化症などの慢性炎症の主要な病理学的特徴は、炎症誘発因子の持続的存在による、炎症部位への大食細胞、リンパ球、形質細胞などの持続的な浸潤であり、その結果、炎症反応は長期にわたって続く。
【0003】
炎症反応の誘導には、炎症部位への白血球の浸潤が必須である。多くの細胞接着分子が白血球の浸潤に関与する。すなわち、白血球の浸潤は、白血球が、炎症部位から分泌されるケモカインによって、炎症部位の血管に動員された後、移動速度を落としつつ、血管内皮細胞表面で回転するローリング段階、白血球が回転を止めて内皮細胞壁にしっかりと付着する接着段階、及び白血球が毛細血管と基底膜とを通過する遊出段階を含む。前記最後の段階、すなわち遊出段階は、「漏出」または「経内皮血管外遊出」とも呼ばれる。
【0004】
発ガン物質によって誘導されたガン細胞は、正常細胞より急速に増殖し、腫瘍塊を形成し、周辺の組織に浸潤して正常な身体機能を阻害する。ガン細胞は、血管新生を誘導することによって栄養分と酸素の供給を得るが、ガン細胞の転移もまた血管新生によって引き起こされる。ガン細胞は、特定部位で無限成長を行うだけではなく、原発部位を離脱して新しい部位へと移動し、そこで成長する。この過程を転移という。転移は、いくつかの主要段階:ガン細胞から移動能の高い間葉細胞への転換、前記間葉細胞の腫瘍原発部位からの離脱、周囲の結合組織及び毛細血管への浸潤と拡散、血管を介した移動、血管外への遊出、結合組織を介した移動並びに第2の部位での増殖、を含む。
【0005】
腫瘍細胞表面における細胞接着分子の発現と活性化は、腫瘍転移において非常に重要な役割を果たす(Zetter, B. R. (1993). Adhesion molecules in tumor metastasis. Semin Cancer Biol. 4: 219)。腫瘍転移は、腫瘍細胞表面における細胞接着分子の発現パターン及び活性の調節を介して誘導される。腫瘍細胞の転移を理解するためには、細胞接着分子及びそれらの発現と機能とを調節する物質について理解することが必須である(Bailly, M., Yan, L., Whitesides, G. M., Condeelis, J. S., and Segall, J. E. (1998). Regulation of protusion shape and adhesion to the sustratum during chemoacic responses of mammalian carcinoma cells. Exp Cell Res. 241: 285; Frisch, S. M., Vuori, K., Ruoslahti, E., and Chan-Hui., P. (1996). Control of adhesion-dependent cell survival by focal adhesion kinase. J Cell Biol 134: 793; and Hannigan, G. E., Leung-Hagesteijn, C., Fitz-Gibbon, L., Coppolino, M. G., Radeva, G., Filmus, J., Bell, J. C., and Dedhar, S. (1996). Regulation of cell adhesion and anchorage-dependent growth by a new β1-integrin-linked protein kinase. Nature 379: 91)。
【0006】
本発明者らは、CD99分子が活性化されると、βインテグリンの機能が変化し、ガン細胞の細胞外基質(ECM)への付着が抑制されることを開示した。これは、CD99がガン細胞の転移に関与しうることを示唆する(Suh JS., 2001. Control of invasiveness of human breast carcinoma cell line MCF-7 by CD99 molecule. Kangwon National University)。また、本発明者らは、CD99に由来するポリペプチド、すなわちCD99の94番〜97番のペプチドを含むポリペプチドが、CD99を効果的に活性化させ、それによって、白血球の血管外遊出またはガン細胞の成長及び/もしくは転移を抑制することができることを開示した(国際特許公開第2007/037601号)。
【0007】
一方、CD99は、CD99L2及びPBDX(またはXG)と共にCD99同族体を構成する(Fouchet C, Gane P, Huet M, Fellous M, Rouger P, Banting G, Cartron JP, Lopez C. 2000. A study of the coregulation and tissue specificity of XG and MIC2 gene expression in eukaryotic cells. Blood 95:1819; Suh YH, Shin YK, Kook MC, Oh KI, Park WS, Kim SH, Lee IS, Park HJ, Huh TL, Park SH. 2003. Cloning, genomic organization, alternative transcripts and expression analysis of CD99L2, a novel paralog of human CD99, and identification of evolutionary conserved motifs. Gene 307:63; Park SH, Shin YK, Suh YH, Park WS, Ban YL, Choi HS, Park HJ, Jung KC. 2005. Rapid divergency of rodent CD99 orthologs: implications for the evolution of the pseudoautosomal region. Gene 353(2):177)。前記CD99同族体は、1型膜貫通蛋白質の1つであり、糖化された細胞外領域、細胞膜貫通領域及び細胞内領域から構成されている。CD99及びCD99L2の保存領域であるHCRI−IIIは、細胞外領域に位置し、CD99蛋白質間の相互結合、及びCD99のβインテグリンの非活性化に重要な役割を果たす(Suh JS., 2009. CD99 activation attenuates the adhesion of MCF-7 cells to laminin, fibronectin, and collagen IV by reducing β1 integrin activity. Kangwon National University)。HCRIIは、PBDX(またはXG)にも存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、CD99及びその同族体、すなわち、CD99、CD99L2及びPBDX(またはXG)の高度保存領域(HCR)に由来する特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその融合蛋白質が、白血球の血管外遊出を抑制することによって炎症反応を抑制でき、また血管新生及びガン細胞の経内皮血管外遊出を抑制することによってガン細胞の成長及び/または転移を抑制することができることを発見した。
【0009】
従って、本発明は、白血球の血管外遊出に対する抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移に対する抑制活性を有するポリペプチドまたはその融合蛋白質であって、CD99、CD99L2及びPBDX(またはXG)のHCRに由来するポリペプチドまたはその融合蛋白質を提供する。
【0010】
また本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及びそれを含むベクターを提供する。
【0011】
また本発明は、前記ベクターで宿主細胞を形質転換させることにより得られる形質転換体を提供する。
【0012】
また本発明は、有効成分としての前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物を提供する。
【0013】
また本発明は、 有効成分としての前記ポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によって、白血球の血管外遊出に対する抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移に対する抑制活性を有するポリペプチドであって、配列番号1の28〜30番または55〜57番のペプチドを含む、配列番号1のポリペプチドに由来する3〜96個のアミノ酸からなるポリペプチド(ただし、配列番号1の94〜97番のペプチドを含むポリペプチドは除外する)と;配列番号2の32〜34番、73〜75番、121〜123番または150〜152番のペプチドを含む、配列番号2のポリペプチドに由来する3〜200個のアミノ酸からなるポリペプチドと;配列番号3の27〜29番のペプチドを含む、配列番号3のポリペプチドに由来する3〜130個のアミノ酸からなるポリペプチドと、からなる群から選択されたポリペプチドが提供される。
【0015】
本発明の別の一態様によって、前記ポリペプチドとポリヒスチジン(poly−His)領域との融合蛋白質、または前記ポリペプチドとFc領域との融合蛋白質が提供される。
【0016】
本発明のさらにまた別の一態様によって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0017】
本発明のさらにまた別の一態様によって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。
【0018】
本発明のさらにまた別の一態様によって、前記ベクターで宿主細胞を形質転換させることにより得られる形質転換体が提供される。
【0019】
本発明のさらにまた別の一態様によって、有効成分としての前記ポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物が提供される。
【0020】
本発明のさらにまた別の一態様によって、有効成分としての前記ポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるポリペプチドまたはその融合蛋白質は、白血球の血管外遊出を抑制することができるため、炎症抑制用薬学組成物に有用に適用される。また、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質は、血管新生及びガン細胞の血管外遊出を抑制することができるため、ガン細胞の成長及び転移を抑制することができる。従って、前記ポリペプチドまたはその融合蛋白質は、ガンの予防用または治療用の薬学組成物に有用に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】CD99蛋白質のHCRを示す図面である。
【図2】βインテグリン非活性化に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図3】βインテグリン非活性化に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図4】βインテグリン非活性化に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図5】ヒト単核球(U937)とヒト臍帯静脈内皮細胞との接着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図6】ヒト単核球(U937)とヒト臍帯静脈内皮細胞との接着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図7】ヒト単核球(U937)とヒト臍帯静脈内皮細胞との接着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図8】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト単核球(U937)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【図9】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト単核球(U937)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【図10】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト単核球(U937)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【図11】急性接触性皮膚炎が誘発されたマウスに本発明のポリペプチドを注入した後の、耳重量の比較値を示すグラフである。
【図12】IgE依存性即時型過敏反応が誘発されたマウスに本発明のポリペプチドを注入した後、耳厚の変化を測定して得られた結果である。
【図13】コラーゲン誘導関節炎(CIA)が誘発されたマウスに本発明のポリペプチドを投与した後、平均関節炎スコアを測定して得られた結果である。
【図14】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のフィブロネクチンへの付着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図15】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のフィブロネクチンへの付着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図16】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のフィブロネクチンへの付着に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図17】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管新生に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図18】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管新生に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図19】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管新生に対する本発明のポリペプチドの影響を評価して得られた結果である。
【図20】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)を浸潤分析した結果である。
【図21】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)を浸潤分析した結果である。
【図22】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)を浸潤分析した結果である。
【図23】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【図24】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【図25】本発明のポリペプチドを用いて処理した後の、ヒト乳ガン細胞(MCF−7)の経内皮血管外遊出分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「炎症」または「炎症性疾患」は、急性及び/または慢性の炎症性疾患を含み、例えば、リューマチ性関節炎、癒着性関節包炎、滑膜炎、股関節炎、骨関節炎、骨粗しょう症、関節周囲炎、多発性硬化症、骨髄炎、全身紅班性狼瘡、リューマチ性多発筋肉痛(PMR)、シェーグレン症候群、進行性全身硬化症(強皮症)、強直性脊椎炎、多発筋炎、皮膚筋炎、天疱瘡、類天疱瘡、1型糖尿病、重症筋無力症、橋本甲状腺炎、バセドウ病、グッドパスチャー症候群、混合結合組織病、硬化性胆管炎、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)、炎症性皮膚病、炎症性呼吸気疾患[通常型間質性肺炎(UIP)、リンパ性間質性肺炎、巨細胞間質性肺炎、細胞性間質性肺炎、剥離性間質性肺炎、石綿症、珪肺症、ベリリウム中毒症、滑石症、塵肺症、成人性呼吸困難症候群及び外因性アレルギー性肺胞炎を含む]、即時型過敏反応(喘息及び花粉症を含む)、サルコイドーシス、ウェゲナー肉芽腫症、多様な血管炎、慢性活動性肝炎、遅延型過敏反応(漆皮膚炎を含む)、皮膚アレルギー、乾癬性関節炎、ライター症候群、即時型過敏反応、リューマチ熱、急性または慢性の糸球体腎炎、急性憎悪、腎盂腎炎、蜂窩織炎、膀胱炎、急性胆嚢炎、炎症性大動脈瘤、粥状動脈硬化症、スティル病、パーキンソン病、アルツハイマー病などを含む。また、本発明の蛋白質または融合蛋白質は、炎症疾患を伴う疾患、例えば、再潅流損傷、自己免疫疾患、臓器移植または組織同種移植の拒絶反応などの患者にも投与可能である。従って、本明細書における「炎症」または「炎症疾患」は、前記の炎症疾患を伴う疾患を含むものであると理解せねばならない。本発明の蛋白質または融合蛋白質は、望ましくは、リューマチ性関節炎、骨粗しょう症、呼吸器炎症、自己免疫疾患及び/または臓器移植の拒絶反応であり、さらに望ましくは、リューマチ性関節炎、自己免疫疾患及び/または臓器移植の拒絶反応に適用可能であり、特に望ましくは、急性接触性皮膚炎、アレルギー性炎症またはリューマチ性関節炎に使用される。
【0024】
CD99及びその同族体、すなわち、CD99(配列番号1)、CD99L2(配列番号2)、PBDX(またはXG)(配列番号3)の高度保存領域(HCRs)に由来する多様な長さのリガンドが、CD99分子との結合を介して、βインテグリンを非活性化できることが、本発明によって新たに発見された。また、CD99及びその同族体のHCRに由来する特定の配列を含むポリペプチドが、内皮細胞及びガン細胞のβインテグリンの非活性化を介して、血管新生及びガン細胞の経内皮移動を抑制することによって、抗ガン活性を示すことが、本発明によって新たに発見された。
【0025】
特に、前記ポリペプチドの配列を分析した結果、Leu−Xaa−Aspの配列が、βインテグリン非活性化に必要な最小単位であることもまた、新たに明らかになった。前記Xaaは、任意のアミノ酸であってよいが、望ましくは、Ser、Gly、AlaまたはGluであって、これらはそれぞれ配列番号11〜14のペプチドに当たる。従って、前記Leu−Xaa−Aspの配列を含むCD99、CD99L2またはPBDX(またはXG)に由来する蛋白質が、βインテグリンの非活性化を介して、白血球の経内皮移動を遮断することによって抗炎症活性を示し、また内皮細胞の血管新生及びガン細胞の移動を抑制することによって抗ガン活性を示すことが、本発明によって明らかになった。望ましくは、本発明の蛋白質またはその融合蛋白質は、乳ガン、胃ガン、大腸ガン、結腸ガン、直腸ガン、膵臓ガンのような固形ガンまたはリンパ腫に適用可能である。
【0026】
本発明は、白血球の血管外遊出に対する抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移に対する抑制活性を有するポリペプチドであって、配列番号1の28〜30番または55〜57番のペプチドを含む、配列番号1のポリペプチドに由来する3〜96個のアミノ酸からなるポリペプチド(ただし、配列番号1の94〜97番のペプチドを含むポリペプチドは除外する)と;配列番号2の32〜34番、73〜75番、121〜123番または150〜152番のペプチドを含む、配列番号2のポリペプチドに由来する3〜200個のアミノ酸からなるポリペプチドと;配列番号3の27〜29番のペプチドを含む、配列番号3のポリペプチドに由来する3〜130個のアミノ酸からなるポリペプチドと、からなる群から選択されたポリペプチドを提供する。望ましくは、本発明のポリペプチドは配列番号4〜14のポリペプチドからなる群から選択される。
【0027】
本発明はまた、前記ポリペプチドとポリヒスチジン(poly−His)領域との融合蛋白質、または前記ポリペプチドとFc領域との融合蛋白質を含む。前記ポリヒスチジン(poly−His)領域は、タグペプチドであって、ヒスチジン結合樹脂との結合によって本発明のポリペプチドを分離及び精製するために使用できる。本発明の融合蛋白質において、前記ポリヒスチジン(poly−His)領域は、配列番号15のアミノ酸配列を有してもよい。前記Fc領域は、ポリペプチドの血中安定性を増大させるために使用できる。本発明の融合蛋白質において、前記Fc領域は、配列番号16のアミノ酸配列を有してもよい。
【0028】
本発明はまた、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。前記ポリヌクレオチドは、CD99、CD99L2またはPBDX(またはXG)をコードする核酸配列から公知の方法によって作製可能である。前記ポリヌクレオチドは、配列番号20〜33のヌクレオチド配列を有してもよい。
【0029】
本発明はまた、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む。公知の多様なベクター、例えば、pPICZα A,B,C(Invitrogen社、米国)などをクローニング・ベクターとして使用してもよい。望ましくは、ポリヒスチジン(poly−His)領域をコードするDNA(例えば、配列番号34)を含むベクター、例えば、pET28a(+)ベクター(Novagene社、米国)などをクローニング・ベクターとして使用してもよい。また、Fc領域をコードするDNA(例えば、配列番号35のヌクレオチド配列から構成されたcDNA)を通常のベクター、例えば、pET28a(+)ベクター(Novagene社、米国)に挿入して得られたベクターを、クローニング・ベクターとして使用してもよい。本発明のベクターは、前記ポリペプチドをコードする遺伝子を適切な制限酵素部位を有するクローニング・ベクターに公知の方法で挿入することにより構築できる。本発明のベクターは、遺伝子治療を目的とする遺伝子治療用組成物に直接使用してもよく、形質転換体の作製のために使用してもよい。
【0030】
本発明はまた、前記ベクターを用いて宿主細胞を形質転換させることにより得られた形質転換体を含む。前記宿主細胞は、前記のポリペプチドが効果的に発現可能であるならば、特に限定されるものではない。望ましくは、前記宿主細胞は、エスケリチア属(Escherichia genus)(例えば、エスケリチアコリ(Escherichia coli))、ピキア属(Pichia genus)(例えば、X−33 Pichia;Invitrogen社、米国)などから選択されてもよい。
【0031】
また本発明は、有効成分としての前記ポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物を提供する。
【0032】
また本発明は、有効成分としての前記ポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物を提供する。
【0033】
本発明の薬学組成物は、ラクトース、トウモロコシ澱粉などの賦形剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;入手可能な乳化剤;懸濁剤;緩衝剤;等張化剤などを含んでもよい。本発明の薬学組成物は、経口または非経口の投与が可能である。望ましくは、本発明の薬学組成物は、非経口投与形態で製剤化される。筋肉内、腹腔内、皮下及び静脈内の投与のために、一般的に有効成分の滅菌溶液が調製される。その場合、前記滅菌溶液は、所望のpH値を達成するための緩衝液を含んでもよい。静脈内投与用製剤に関しては、製剤に等張性が付与されるように、等張化剤を使用してもよい。また、本発明の薬学組成物は、pH7.4の生理食塩水のような薬学的に許容される担体を含む水性溶液の形態で製剤化することができる。前記水性溶液は、局所的ボーラス注射によって、患者の筋肉内血流に導入できる。
【0034】
本発明の薬学組成物は、多様な炎症疾患、(乳ガン、胃ガン、大腸ガン、結腸ガン、直腸ガン、膵臓ガンのような)固形ガンまたはリンパ腫を患う患者に、1日に約1〜2,000mg/kgの用量で投与可能である。一般的に、適切な投与量は、患者の年齢、体重及び症状によって変わる。
【0035】
以下、本発明について実施例により、さらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、説明のためだけに提供されるものであり、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0036】
実施例1.ポリペプチドの合成
配列番号4及び5のポリペプチドをそれぞれコードする配列番号20及び21のcDNA断片を、pET28a(+)−Fcベクター(ヒト免疫グロブリンのFc領域をコードする配列番号35のcDNAをpET28a(+)ベクターに挿入して作製したベクター)に挿入し、pET28a−CD99L2EXT−FcベクターとpET28a−PBDX(またはXG)EXT−Fcベクターとを作製した。すなわち、配列番号20及び21のcDNA断片をPCRにより単離し、EcoRIで消化した後、結合酵素を利用してpET28a(+)−FcベクターのEcoRI部位に挿入し、pET28a−CD99L2EXT−FcベクターとpET28a−PBDX(またはXG)EXT−Fcベクターとを作製した。
【0037】
得られた発現ベクターでBL21(DE3)細胞を形質転換させて得られたコロニーを、LB培地で約4〜6時間培養した。培養物の吸光度(A600)が0.4〜0.6になった時点で、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)(1.4mM)を用いて7〜9時間蛋白質の発現を誘導した。細胞を遠心分離して沈殿させ、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した後、さらに沈殿させて培地から不純物を除去した。分画物をSDS−PAGEゲルで分析して蛋白質発現を確認した。
【0038】
発現した蛋白質の精製のために、8M尿素緩衝液(8M尿素、0.01M Tris−Cl、0.1M NaHPO)を使用した。精製段階によって、尿素緩衝液のpHを8.0、6.3、4.5などに調節した。蛋白質分解酵素阻害剤(1mM PMSF、10μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチン、1μg/mlアプロチニン)を含むpH8.0の尿素緩衝液で細胞を溶解させた後、4℃、13,000rpmで20分間で遠心分離した。上澄み液を、ヒスチジン結合樹脂であるNi−NTA His Bind Resin(Novagen社、米国)と、1mlのエッペンドルフチューブ内で混合した後、4℃で16時間インキュベーションして発現した蛋白質のヒスチジン残基と樹脂との結合を誘導した。反応溶液を遠心分離し、上澄み液を捨て、ペレットをpH6.3尿素緩衝液で洗浄した。蛋白質をPBSで透析した後、分注単位ごとに冷蔵保管した。
【0039】
配列番号6〜14のペプチドは、自動ペプチド合成器(PeptrEx−R48、Peptron社、大田、大韓民国)を用いて、FMOC固相法によって合成した。合成されたペプチドは、C18分析用RPカラム(資生堂カプセルパック)を使用した逆相高速液体クロマトグラフィ(Prominence LC−20AB、島津製作所)で精製及び分析し、質量分析器(HP 1100 Series LC/MSD、Hewlett−Packard社、Roseville、米国)を利用して単離した。
【0040】
【表1】

FL:全長、
EXT:細胞外領域、
HCR:高度保存領域
【0041】
実施例2.ポリペプチドを含む組成物の調製
配列番号4〜14のポリペプチドを、3μg/100μlの濃度になるように、PBSに溶解させた。得られた蛋白質溶液を、下記試験例で使用した。
【0042】
試験例1.ヒト単核球(U937)で発現するβインテグリンの非活性化試験
ヒト単核球(U937)で発現するβインテグリンの非活性化に対する配列番号6〜14のペプチド断片の効果を試験した。
【0043】
U937細胞(5×10)を各ウェルに添加した後、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14のそれぞれのペプチドを含む蛋白質溶液(5〜30μg/ml)で処理した。1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで3回洗浄し、0.1μMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSP)、1μg/mlペプスタチンA、10μg/mlロイペプチン、1μg/mlアプロチニン及び1mM NaVOが添加された1%NP40溶解緩衝液(1%ノニデット P40、0.1M NaCl、0.05Mトリス(pH8.0)、5mM EDTA)で溶解させた。
【0044】
細胞溶解物を10%ポリアクリルアミド・ゲル上で電気泳動した。活性化形態のβインテグリンを認識するために、β−メルカプトエタノールのない非還元状態で電気泳動を実施した。分離された蛋白質をニトロセルロース膜に転写した後、ブロッキング溶液(0.05% Tween20と3%ウシ血清アルブミンとが含まれたトリス緩衝生理食塩水(TBS))を用いて室温で約1時間処理した。活性化形態のβインテグリンに特異的な抗βインテグリンモノクローナル抗体(Chemicon Co.;cat.No.MAB2259Z)が添加されたTBS緩衝液中で2時間インキュベーションした。0.05% Tween20を含むTBS緩衝液で洗浄した後、蛋白質を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(DiNonA Co.;cat.No.80019F)を用いて室温で1時間処理した。0.05% Tween20を含むTBS緩衝液で5回洗浄した後、抗体検出キット(iNtRON Biotechnology,Inc)を使用して可視化した。同量の細胞溶解物を対照として本実験を確認するために、抗βアクチンモノクローナル抗体(Sigma−Aldrich Ltd.;cat No.A54441)を使用してアクチンを検出した。その結果は、図2〜図4の通りである。
【0045】
図2〜図4から分かるように、CD99の細胞内ドメインに由来するQKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。図2〜図4によれば、本発明のポリペプチドで処理した群では、用量依存的にβインテグリンが非活性化された。しかし、配列番号11〜14のアミノ酸を含まないポリペプチドで処理した場合には、このような減少は観察されなかった(データ示さず)。
【0046】
試験例2.ヒト単核球(U937)とHUVECとの接着に対する抑制活性試験
ヒト単核球(U937)とヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)との接着に対する配列番号6〜14のペプチド断片の効果を試験した。96ウェル細胞培養板の各ウェルに、HUVEC(5×10)を添加した。5%CO中、37℃で24時間インキュベーションした後、HUVECをIL−1βで4時間処理して活性化させた後、無血清培地で洗浄した。U937細胞(1×10)を、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14の各ペプチドを含む蛋白質溶液(5〜30μg/ml)で1時間処理した。得られたU937細胞を無血清培地で3回洗浄した後、HUVECを含むそれぞれのウェルに添加した。37℃で1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで1回洗浄し、トリプシン−EDTAを利用して細胞外基質から分離した。HUVECとは異なる、小さな円形状のU937細胞の数を、倒立顕微鏡下、血球計算機を使用して測定した。その結果は、図5〜図7の通りである。図5〜図7では、QKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。
【0047】
図5〜図7から分かるように、本発明のポリペプチドを用いて処理した群では、HUVECに接着した単核球の数が、対照群に比べて、約30〜60%減少している。また、融合蛋白質であるpET28a−hCD99L2−Fc及びpET28a−PBDX−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(データ示さず)。しかし、配列番号11〜14のアミノ酸を含まないポリペプチドで処理した群では、かような減少は観察されなかった。従って、配列番号11〜14のアミノ酸を含むポリペプチドは、単核球の経内皮血管外遊出を抑制できることが期待される。
【0048】
試験例3.単核球の試験管内(in vitro)血管外遊出に対する抑制活性試験
HUVECをボイデンチャンバーの上室で培養した。上澄み液を除去し、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で1時間処理したかまたは処理していないヒト単核球(U937)を、5×10細胞/チャンバーとなるように接種した。このとき、NIH/3T3マウス線維母細胞を、0.005%ビタミンC及び0.1%ウシ血清アルブミンを含むDMEM無血清培地で16時間培養して得られた培養物を遠心分離して得られた上澄み液を含む培養液を、前記チャンバーの下室に入れ、単核球の浸潤を誘導した。前記チャンバーを6時間培養し、浸潤して下室に移動した細胞数を測定した。前記試験を5回反復した。結果を図8〜図10に示す。対照ペプチドは、QKKKLCFまたはLCFからなるペプチドである。
【0049】
図8〜図10から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した群での単核球の血管外への遊出は、対照群に比べて、有意に減少(約25〜40%減少)した。白血球が血管を通って炎症部位に移動するためには、経内皮血管外遊出が必須であることを考慮すると、本発明によるポリペプチドは、効果的に炎症反応を抑制できることが期待される。
【0050】
試験例4.急性接触性皮膚炎に対する抑制活性試験
本発明によるポリペプチドの抵炎症活性を試験した。250μM PMA(ホルボール12−ミリステート13−アセテート)を、Balb/cマウス(約6週齢)の一方の耳に塗布して接触性皮膚炎を誘導した。同時に、配列番号11〜14のペプチド断片(100μg)をPBS(100μl)に溶解させて調製した蛋白質溶液(100μl)を、皮膚炎を誘導したマウスの尾静脈を介して注入した。対照ペプチド(すなわち、QKKKLCF)(100μg)をPBS(100μl)に溶解させて調製した溶液(100μl)を、同じ方法で注入した。6時間後、耳重量を測定することによって、皮膚炎誘発及び疾患の程度を評価した。耳重量測定は、パンチング器を使用して耳の3カ所で同じサイズの耳サンプルを採取した後、得られたサンプルを称量して行った。
【0051】
図11は、本発明のポリペプチドで処理した試験群マウスの耳重量を、該ペプチドで処理していない対照群マウスと比較して得られたグラフである。図11によれば、本発明によるポリペプチドで処理した群では、耳重量が対照群に比べて約15〜30%減少している。従って、配列番号11〜14のペプチドを含んだ本発明のポリペプチドは、炎症反応を効果的に抑制できることが期待される。
【0052】
試験例5.IgE依存性即時型過敏反応に対する抑制活性試験
本発明によるポリペプチドの抗アレルギー活性を試験した。Balb/cマウス(約6週齢)を、尾静脈を介してIgE抗体(5μg)を注射することにより感作した。24時間後、配列番号13のペプチド断片(100μg)を、PBS(100μl)に溶解させて調製した蛋白質溶液(100μl)を、感作したマウスの尾静脈を介して注入した。抗原として、0.15%DNFB溶液[2,4−ニトロフルオロベンゼンのアセトン:オリーブ油(4:1)溶液]をマウスの耳に塗布し、IgE依存性即時型過敏反応を誘導した。陰性対照群マウスには、0.15%DNFB溶液の処理なしに、PBS(100μl)の注入のみを行った。陽性対照群マウスには、PBS(100μl)を注入し、0.15%DNFB溶液による処理を行った。耳厚の変化を、デジタルノギスを用いて、1時間毎に12時間測定した。3日目から毎日、配列番号13のペプチド断片(100μg)を試験群マウスに腹腔注射し、対照群マウスにはPBSのみを腹腔注射した。耳厚の変化を15日間測定した。
【0053】
図12は、試験群マウス及び陽性対照群マウス(0.15%DNFB溶液処理によって耳厚増大)の耳厚の変化を、陰性対照群と比較して得たグラフである。図12から分かるように、本発明によるポリペプチドを注入した群では、耳厚増大が、陽性対照群に比べて顕著に低減した。従って、配列番号13のペプチドを含んだ本発明のポリペプチドは、IgE依存性即時型過敏反応を効果的に抑制できることが期待される。
【0054】
試験例6.コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する抑制活性試験
リューマチ性関節炎に対する本発明によるペプチドの抑制活性を試験した。CFA(完全フロイントアジュバント)とウシII型コラーゲン(2mg/ml)との1:1(v/v)混合物(50μl)を、C57BL/6マウス(オス、4週齢)の尾根部皮下に注入した。2週後、ウシII型コラーゲン(2mg/ml)と完全フロイントアジュバントとの1:1(v/v)混合物をマウスの足の裏に追加接種した。CIAが誘導され、平均関節炎スコアが9〜12点に達した時点で、マウスを無作為に試験群と対照群とに分けた。試験群には、配列番号13のペプチド断片(100μg)のPBS(100μl)溶液を経口投与し、対照群には、PBS(100μl)のみを経口投与した。この後、平均関節炎スコアを肉眼で21日間測定し、統計分析した。平均関節炎スコアは、次の基準に基づいて付与した:0=正常、1=足の指1本以下の浮腫、2=足の指2本以上の浮腫、3=足の裏及び足の指1本以下の浮腫、4=足の裏及び足の指2本以上の浮腫、または足首、足の裏及び足の指1本以下の浮腫、5=足の指の硬直。
【0055】
図13は、(PBSのみで処理した)対照群及び(本発明によるペプチドで処理した)試験群の平均関節炎スコアを測定して得られた結果である。図13から分かるように、本発明によるペプチドを経口投与群では、関節炎が有意に抑制された。
【0056】
試験例7.細胞外基質へのHUVECの付着に対する抑制活性試験
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のフィブロネクチンへの付着に対する配列番号4〜14のポリペプチドの効果を試験した。
【0057】
細胞外基質成分の一つであるフィブロネクチンで96ウェル細胞培養板の各ウェルをコーティングし、紫外線下で乾燥させた。HUVEC(5×10)を各ウェルに入れ、実施例2で調製した配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液を30μg/mlの濃度で用いて各ウェルの処理を行った。1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで3回洗浄し、トリプシン−EDTAを利用して分離した後、トリパンブルー溶液で染色した。フィブロネクチンに接着した細胞の数を血球計算機を使用して測定した。その結果を図14〜図16に示す。図14〜図16では、CD99の細胞内領域に由来するQKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。
【0058】
図14〜図16から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した試験群では、フィブロネクチンに接着したHUVECの数が、対照群に比べて、約30〜60%減少した。また、融合蛋白質であるCD99L2EXT−Fc及びPBDX(またはXG)−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(図16)。このとき、対照ペプチドはヒトIgGFc、すなわち、配列番号16の蛋白質であった。
【0059】
試験例8.試験管内(in vitro)血管新生に対する抑制活性試験
血管新生に対する本発明のポリペプチドの効果を試験した。
【0060】
一般的に、血管の基底膜成分と血管内皮細胞との相互作用は、新生血管の形成及び維持に重要な役割を果たす。基底膜成分であるマトリゲルを用いて24ウェル細胞培養板を処理すると、重合反応によりプラグが形成される。マトリゲルでコーティングした24ウェル細胞培養板に、HUVECを8×10細胞/ウェルの密度で接種した。実施例2で調製した配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)及びbFGF(塩基性線維芽細胞成長因子、150ng/ml)を前記ウェルに添加した。24時間インキュベーションした後、新生血管の形成を倒立顕微鏡を使用して観察した(×50倍)。その結果を図17〜図19に示す。対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。
【0061】
図17〜図19から分かるように、HUVECを、本発明のポリペプチドを含有する蛋白質溶液で処理すると、血管形成(すなわち、血管新生)が顕著に抑制された。また、融合蛋白質であるCD99L2EXT−Fc及びPBDX(またはXG)−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(図19)。
【0062】
試験例9.ガン細胞の浸潤に対する抑制活性試験
トランスウェルの各ウェルを、インテグリンのリガンドであるフィブロネクチンでコーティングした。MCF−7ヒト乳ガン細胞(5×10細胞)をトランスウェルの上室に入れ、24時間インキュベーションした。細胞が約80%成長した時点で、各ウェルを、実施例2で調製したPBS中に配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で処理した。5%CO中、37℃で1時間インキュベーションした後、各ウェルを0.1%BSAで処理した。浸潤誘導培地(NIH3T3細胞を0.005%ビタミンC及び1%BSAが添加された無血清DMEM中で24時間培養して得られた培養上澄み液)をトランスウェル下室にロードした。トランスウェルの下室に移動した細胞数を24時間おきに3回測定した後、その結果を統計分析した。対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。その結果を図20〜図22に示す。
【0063】
図20〜図22から分かるように、本発明による配列番号4〜14のペプチドで処理した群では、ヒト乳ガン細胞の浸潤率が、対照ペプチドで処理した群に比べて、約60%抑制された。ガン細胞が血管外に遊出し、基底膜や周囲結合組織を浸潤した後、新しい部位に転移することを考慮すると、本発明のポリペプチドがガン細胞の転移を効果的に抑制できることが分かる。
【0064】
試験例10.ガン細胞の試験管内(in vitro)血管外遊出に対する抑制活性試験
HUVECをボイデンチャンバーの上室で培養した。上澄み液を除去し、実施例2で調製したPBS中に配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で1時間処理したかまたは処理していないMCF−7ヒト乳ガン細胞を、5×10細胞/チャンバーとなるように接種した。このとき、浸潤誘導培地を下室に入れ、乳ガン細胞の浸潤を誘導した。前記チャンバーを6時間培養し、下室に移動した細胞数を測定した。前記試験を3回以上反復した。結果を図23〜図25に示す。図23〜図25で、対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。
【0065】
図23〜図25から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した群では、ヒト乳ガン細胞の血管外遊出が、対照群の約60〜80%に低下した。ガン細胞が血管を介して臓器に転移するためには血管外への遊出が必須であることを考慮するとき、本発明のポリペプチドがガン細胞の転移を効果的に抑制できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血球の血管外遊出の抑制活性またはガン細胞の成長及び/もしくは転移の抑制活性を有するポリペプチドであって、
配列番号1の28〜30番または55〜57番のペプチドを含む、配列番号1のポリペプチドに由来する3〜96個のアミノ酸からなるポリペプチド(ただし、配列番号1の94〜97番のペプチドを含むポリペプチドは除外する)と、
配列番号2の32〜34番、73〜75番、121〜123番または150〜152番のペプチドを含む、配列番号2のポリペプチドに由来する3〜200個のアミノ酸からなるポリペプチドと、
配列番号3の27〜29番のペプチドを含む、配列番号3のポリペプチドに由来する3〜130個のアミノ酸からなるポリペプチドと、からなる群から選択されたポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、配列番号4〜14のポリペプチドからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のリペプチド。
【請求項3】
ポリヒスチジン(poly−His)領域が、請求項1または請求項2に記載のポリペプチドと融合されていることを特徴とする融合蛋白質。
【請求項4】
前記ポリヒスチジン領域が配列番号15のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項3に記載の融合蛋白質。
【請求項5】
Fc領域が、請求項1または請求項2に記載のポリペプチドと融合されていることを特徴とする融合蛋白質。
【請求項6】
前記Fc領域が、配列番号16のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項5に記載の融合蛋白質。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号20〜33のポリヌクレオチドからなる群から選択されたことを特徴とする請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項10】
ポリヒスチジン(poly−His)領域またはFc領域をコードするcDNAが挿入されていることを特徴とする請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項9に記載のベクターで宿主細胞を形質転換させて得られる形質転換体。
【請求項12】
前記宿主細胞が、エスケリチア属またはピキア属の細胞であることを特徴とする請求項11に記載の形質転換体。
【請求項13】
有効成分としての請求項1〜請求項6のうちいずれか1項に記載のポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含む炎症疾患の予防用または治療用の薬学組成物。
【請求項14】
前記炎症性疾患が、急性接触性皮膚炎、アレルギー性炎症またはリューマチ性関節炎であることを特徴とする請求項13に記載の薬学組成物。
【請求項15】
有効成分としての請求項1〜請求項6のうちいずれか1項に記載のポリペプチドまたは融合蛋白質、及び薬学的に許容可能な担体を含むガン細胞の成長抑制用及び/または転移抑制用の薬学組成物。
【請求項16】
前記ガン細胞が、乳ガン細胞、胃ガン細胞、大腸ガン細胞、結腸ガン細胞、直腸ガン細胞、膵臓ガン細胞またはリンパ腫細胞であることを特徴とする請求項15に記載の薬学組成物。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公表番号】特表2013−507954(P2013−507954A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535105(P2012−535105)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005619
【国際公開番号】WO2011/049289
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512104502)スパデリクサー インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】