説明

白血球分画回収装置

【課題】血液から比重差選別によらず、吸引操作を用いて短時間で容易に幹細胞を含む白血球成分を濃縮する装置を開発する。
【解決手段】原血液バッグ(1)/回収バック(7)と血漿バッグ(4)と、原血液バック(1)側から順に白血球捕捉器(2)と赤血球捕捉器(3)の2種類の血球分画捕捉器が両バックの間に介在配置された主回路(a)を備え、赤血球捕捉器(3)を経由しないバイパス回路(b)、及び、血液送液用のシリンジ(5)を設けた原血液から白血球分画を濃縮し回収する白血球分画回収装置(10)であって、白血球捕捉器(2)は、多数の微細孔が形成されたフィルタ膜が備えられており、微細孔は赤血球が変形して通過できる大きさである赤血球の平均直径よりも小さな孔径である白血球捕捉フィルタを備えており、赤血球捕捉器(3)は、赤血球が通過不能な微細孔であって、血漿成分を通過させる赤血球捕捉フィルタを備えていること白血球分画回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から有核細胞を含む成分を濃縮する装置に関する。有核細胞を含む成分を本明細書では白血球で代表して表現する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞やiPS細胞などの未分化な幹細胞は、再生医療に応用可能な細胞源として注目されている。例えば、臍帯血に含まれる造血幹細胞は、白血病の治療法である造血幹細胞移植に利用される頻度が高まっている。このような背景から、臍帯血などを保管する方法や施設を整備することも、細胞移植による治療成績を向上させるためには重要である。臍帯血の保管に関しては、公的、あるいは私的な臍帯血バンクに保存される仕組みがある。日本では提供者が少なく保存数が伸びないのが現状である。問題点としては、費用と技術的な側面が考えられる。
臍帯血は、採取できる量が少なく、一つの臍帯からは、30〜150cc程度、平均で70〜80ccが採取される。骨髄の場合は、一人あたり800〜1000cc程度採取可能である。移植に用いる臍帯血は、患者の体重1kgあたり3〜5cc程度必要とされているため、現在日本では、移植対象が子供であることが多い。
臍帯血中の成分のうち、保存の対象となるのは、血漿や赤血球を除いた有核細胞成分であり、この中に造血幹細胞などの幹細胞成分が含まれる。有核細胞として白血球が主であるので、白血球を含む成分ともいわれる。この白血球成分を濃縮する技術として、臍帯血バンクで普及している技術は、比重選別である。二回の遠心処理を行い、白血球成分を多く含む層を回収する方法である。この方法では、視認できるほど明確な白血球層が生じないことが度々あり、また、採血された臍帯血の量によって途中で加える試薬の量も異なることから、その都度計算して、決定する必要がある。以上のことから、担当者の技量に左右されることが多く、処理には時間がかかり、白血球成分の品質が一定しないのが現状である。
【0003】
臍帯血の処理工程は、(1)採血→(2)濃縮→(3)凍結保護液の添加→(4)凍結保存である。
濃縮工程は、採取した臍帯血から、赤血球と血漿を除去することによって有核細胞成分を濃縮する。赤血球の除去は、赤血球沈降剤を採血バッグ内の臍帯血に20容量%添加し、その後軽遠心をして、赤血球を沈降させる。このとき、白血球層は赤血球層の最上部、つまり上清である血漿との界面にうっすらと形成される。遠心後、上清の血漿から赤血球層の上部までを採血バッグから分離バッグに移送することで、富白血球層を分離バッグに移す。次に、分離バッグの遠心を行って血球を沈降させ、上清の血漿を排出して、造血幹細胞を含む白血球含有成分を濃縮する。
この濃縮方法では、臍帯血の量は試料毎に異なるので赤血球沈降剤の添加量は毎回計算する必要がある。また、血漿層と赤血球層の界面にある白血球層は明瞭に形成されないこともあるので、不要成分の採取や回収率が変動することとなる。遠心沈降による層形成に必要な時間や熟練が必要などの問題があり、コストや品質に関する制約条件となっている。
【0004】
特許文献1(特許第4061715号公報)には、軽遠心により分画された白血球層をさらに軽遠心して、血漿層と白血球濃厚液層に分画して、白血球濃縮液を回収し、凍結する方法が開示されている。
特許文献2(特許第3938973号公報)には、赤血球、血小板およびCD34陽性細胞を含む白血球から成る骨髄、末梢血、臍帯血あるいはこれらを粗分離した細胞集団から、該白血球またはCD34陽性細胞を回収することを特徴とする細胞分離方法が、開示されている。この方法では、該白血球またはCD34陽性細胞は捕捉するのに対して、赤血球および血小板は実質的に通過させる特性を持つ不織布のフィルタを充填した容器に細胞集団を導入し、次に該フィルタにデキストランを含む生理的溶液を導入して、該フィルタに捕捉されている該白血球またはCD34陽性細胞を選択的に回収することを特徴とする。この先行文献では、細胞分離フィルタとして、ポリエステル製不織布25枚を積層して用いられている。不織布を積層したフィルタでは、繊維の絡みによってできる隙間のバラツキが大きく、白血球などが繊維の間に絡まってしまい、逆流させても回収した細胞の品質が安定しない可能性が高い。また、回収率を高めるためには、多くのフィルタと大量の回収液が必要になると考えられる。
特許文献3(再公表2007−046501号公報)には、不織布を幹細胞分離フィルタに使用する方法が開示されている。
特許文献4(特開2009‐5655号公報)では、赤血球を重力により比重選別したのちの血液成分をフィルタを用いて有核細胞成分を分離・回収する装置および方法が開示されている。この装置および方法では、細胞分離フィルタとして不織布を積層したものが用いられている。不織布をフィルタに用いる問題点は前記特許文献に開示されたと同様の問題がある。デキストランを含む生理食塩水などを回収液として、逆洗による有核細胞の回収を特徴としているが、回収率を高めるためには、不織布製フィルタから有核細胞を分離するためには大量の回収液が必要になる。また、フィルタを通す前に、血液容器を10〜30分間懸架することにより、比重の違いによって赤血球と有核細胞成分を分離するとしているが、界面は明確ではなく、識別するには熟練を要すること、界面を容器ごとクリップして赤血球画分を分離する方法では明確な分離は困難であり、残す部分に赤血球成分が混じる恐れや有核細胞を赤血球分画に含むことになり、有核細胞を分離する前工程において、時間と品質、回収歩留まりに課題を残す装置である。この装置および方法では、赤血球の排除に一定の習熟を要することや、その後の細胞分離および細胞回収の操作まで含めると時間がかかる。なお、有核細胞回収においては、遠心分離操作は静置する比重選別を促進するために行われるのであるから、この特許文献に記載された方法では、遠心分離を用いた方法よりも全体として調整時間は長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4061715号公報
【特許文献2】特許第3938973号公報
【特許文献3】再公表2007−046501号公報
【特許文献4】特開2009‐5655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濃縮技術として、比重選別や遠心処理による濃縮では、調製後の成分が安定せず、調製に時間がかかり、操作に熟練を要するという欠点がある。また、不織布をフィルタに用いて、フィルタに絡め取られた白血球などを回収する方法では、まず、フィルタへの白血球の付着量を増やして白血球の回収率を高めるために、不織布を多数積層し、厚くする必要がある。その一方で、付着した白血球を回収する際には、不織布フィルタの内部にまで侵入して絡まった白血球を効率的に分離・回収する必要があることから、これら2つの要求を同時に満たすことは極めて困難である。さらに、繊維間に形成される隙間にはバラツキが生じることから再現性も得られにくい。
本発明は、血液から比重差選別によらずに短時間に容易に幹細胞を含む白血球成分を濃縮する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、赤血球の変形能に着目して、微細孔を有する膜フィルタを赤血球や血漿などを通過させ、白血球を含む成分を非ろ過成分として回収する手段を用いた幹細胞を含む白血球成分を濃縮する装置を提供する。赤血球の変形能に着目して、第1のフィルタ(以下、白血球捕捉フィルタと称することがある)で赤血球や血漿などを通過させたのち、第2のフィルタ(以下、赤血球捕捉フィルタと称することがある)で赤血球を除去し、白血球を含む成分を非ろ過成分として2つのフィルタでろ過成分として得られた血漿を用いて回収する装置を提案する。
本発明の主な構成は次のとおりである。
1.原血液バッグ(1)/回収バック(7)と血漿バッグ(4)と、原血液バック(1)側から順に白血球捕捉器(2)と赤血球捕捉器(3)の2種類の血球分画捕捉器が両バックの間に介在配置された主回路(a) を備え、赤血球捕捉器(3)を経由しないバイパス回路(b)、及び、血液送液用のシリンジ(5)を設けた原血液から白血球分画を濃縮し回収する白血球分画回収装置(10)であって、
白血球捕捉器(2)は、多数の微細孔が形成されたフィルタ膜が備えられており、微細孔は赤血球が変形して通過できる大きさである赤血球の平均直径よりも小さな孔径である白血球捕捉フィルタを備えており、
赤血球捕捉器(3)は、赤血球が通過不能な微細孔であって、血漿成分を通過させる赤血球捕捉フィルタを備えていること白血球分画回収装置。
2.白血球捕捉フィルタの孔径は、2μm〜赤血球よりも小さな径であることを特徴とする1.記載の白血球分画回収装置。
3.白血球捕捉フィルタ孔径は、5〜8μmであることを特徴とする2.記載の白血球分画回収装置。
4.白血球捕捉フィルタは、面積が1〜1000cmである1.〜3.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
5.血液送液用のシリンジ(5)は、バイパス回路より血漿バック(4)側に配置されており、
原血液バック(1)から2種類の血球分画捕捉器及びシリンジ(5)を経由して血漿成分を血漿バック(4)に回収する主回路の系を用いた血球分離回路と、
血漿バック(4)から血漿成分をシリンジ(5)、バイパス回路(b)、白血球捕捉器(2)の順に経由して回収バック(7)に血漿を含む白血球分画回収する白血球分画回収回路を構成すること
を特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
6.血液送液用のシリンジ(5)は、原血液バッグ(1)と白血球捕捉器(2)の間に配置されており、
原血液バック(1)からシリンジ(5)及び2種類の血球分画捕捉器を経由して血漿成分を血漿バック(4)に回収する主回路の系を用いた血球と血漿との分離回路と、
血漿バック(4)から血漿成分をバイパス回路(b)、白血球捕捉器(2)、シリンジ(5)の順に経由して回収バック(7)に血漿を含む白血球分画回収する白血球分画回収回路を構成すること
を特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
7.原血液から白血球分画回収過程を閉鎖系で構成されたことを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
8.白血球分画回収回路を構成する系において、血漿バック(4)から白血球捕捉器(2)の間に補助ポートを備えたことを特徴とする5.又は6.記載の白血球分画回収装置。
9.処理する原血液が、20〜150ccであることを特徴とする1.〜8.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
10.回収される白血球分画を含む血液量が、5〜50ccであることを特徴とする1.〜9.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
11.ろ過工程の吸引速度が、0.01〜4.0ml/cm/minであることを特徴とする1.〜10.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
12.処理する血液が、臍帯血、骨髄液、末梢血のいずれかであることを特徴とする1.〜11.のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記特徴を具備することにより、主として次の効果を奏するものである。
(1)採取した原血液を装着し、シリンジを操作することにより有核細胞を含む濃縮した白血球分画成分を回収することができる。フィルタ径やシリンジのスピードなど機械的操作に依存し、界面の判別など感覚を必要としない装置である。基本的には閉鎖系処理できるので、汚染される危険が少ない。比重分離や遠心分離が必要なく、短時間で処理できる。遠心や、重力を利用しないので上下反転などの操作が不要であり、省スペースの装置である。
(2)熟練を必要とせず閉鎖系で処理できるので、産婦人科などの病院に設置することができる。原血液の採取から濃縮白血球分画を短時間に新鮮な状態で回収し、冷凍保存にすることができるので、保存される白血球分画の活性を低下させることなく保存できる。
(3)本発明は、微細孔を備えたフィルタを用いることにより、血液から比重差選別によらずに短時間に容易に幹細胞を含む有核細胞成分を濃縮する技術を提供することができる。特に、赤血球の変形能を利用して、赤血球よりも小さな孔径のフィルタを用いて、赤血球及び血漿成分等を通過させ、残った有核細胞分画を回収することができる。回収液を逆流させることにより容易に回収することができる。
(4)細孔フィルタを用いたろ過であるので、赤血球沈降剤の添加や不鮮明な層分画の選別を人的に行う必要が無い。基本的にはフィルタの微細孔の径に沿った、有核細胞成分を得ることができ、品質を一定にすることができる。
(5)遠心操作や層分離の安定化などに要する時間が不要であるので、短時間に分離回収の調製を完了することができる。臍帯血などの血液採取から分離調製を短時間で行うことができるので、汚染など血液成分の劣化のリスクを抑制することができる。
(6)吸引や孔径の変更により、濃縮精度を容易にコントロールすることができる。
(7)熟練技術者でなくとも操作の可能な装置である。
(8)品質の一定した有核細胞成分を濃縮した分画を短時間に得ることができるので、低コストで実用化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】白血球分画回収装置の一例を示す図
【図2】白血球分画回収装置の濃縮工程の概略を示す図。
【図3】白血球分画回収装置の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、微細孔を備えたフィルタを用いることにより、血液から比重差選別によらずに短時間で容易に幹細胞を含む有核細胞成分を濃縮する装置である。特に、赤血球の変形能を利用して、赤血球よりも小さな孔径のフィルタを用いて、赤血球及び血漿成分等を通過させ、残った有核細胞分画を回収する発明である。遠心をかけて層を形成し、富白血球層を回収する方法や、不織布に白血球成分が吸着することを利用した白血球回収方法とは異なり、短時間に一定品質の有核細胞成分を濃縮した分画を回収することができる。非ろ過物である有核細胞成分を回収するに当たり、赤血球を除去した血漿などを用いて、逆流させて回収する。なお、本明細書にて、幹細胞を含む有核細胞成分を便宜上「白血球」と称することがある。
【0011】
本発明の白血球分画を濃縮し回収する白血球分画回収装置構成は、採取した原血液を入れた原血液バッグ/回収バックと血漿バッグと、原血液バック側から順に白血球捕捉器と赤血球捕捉器の2種類の血球分画捕捉器が両バックの間に介在配置された主回路(a) を備えている。また、赤血球捕捉器を経由しないバイパス回路(b)が設けられている。装置には血液送液用にシリンジを設けている。白血球捕捉器は、多数の微細孔が形成されたフィルタ膜が備えられており、微細孔は赤血球が変形して通過できる大きさである赤血球の平均直径よりも小さな孔径である白血球捕捉フィルタを備えている。赤血球捕捉器は、赤血球が通過不能な微細孔であって、血漿成分を通過させる赤血球捕捉フィルタを備えている。これらの構成機器を連結する部分には弁が設けられている。
血漿バック−白血球捕捉器−赤血球捕捉器−血漿バックの径路によって、原血液から白血球分画、赤血球分画、血漿を分離する血球分離系回路を構成する。
血漿バック−白血球捕捉器−回収バックの径路によって、血漿を利用して逆洗して白血球を回収する白血球分画回収系回路を構成する。
この2つの系で血液を移送させる手段としてシリンジを回路中に設けてある。
シリンジを駆動源として用いるので、白血球分画回収装置は静置タイプであり、構成機器の配置方向を問わない。上下反転などの姿勢変更が不用である。
【0012】
処理対象血液は、骨髄液、末梢血、臍帯血があげられる。
【0013】
本発明の装置は、ろ過工程において、赤血球の変形能を利用して、赤血球よりも小さな孔径のフィルタを用いて、赤血球及び血漿成分等を通過させることに特徴がある。赤血球の変形能を活用するには、ろ過工程の吸引速度は、0.01〜4.0ml/cm/minの範囲にあることが望ましい。
【0014】
<白血球捕捉器>
白血球捕捉器は、小容器形状であって微細孔を設けた膜フィルタを備えており、白血球分画を一旦貯留し、逆洗によって、白血球を回収バックへ送り出す機能を果たす。本発明ではフィルタは、臍帯血など数十ml以上の血液の処理能力とする。
本微細孔を設けた膜フィルタは、1枚あるいは複数枚を重ねて用いることもできる。赤血球と白血球をおおまかに分離する。結果的に白血球が濃縮される。
赤血球は、短時間に変形することができるので、赤血球よりも小さな孔をすり抜けることができる。白血球も変形能を有するが赤血球の変形よりも時間を要する。本発明は、この赤血球と白血球の変形能の違いに着目し、赤血球のみを通過させ、白血球を通過させずに回収する発明である。
分離に用いる膜は、均一な孔径をもつ細孔が平行に多数開いている構造を持つフィルタである。孔径は、白血球よりも小さい径であって、赤血球よりも小さな径が好ましい。ヒトの赤血球は7.8μmとされるので、8.0μm未満が好ましい。赤血球の大きさと変形能力を考慮すると、フィルタに設けられる微細孔の最小孔径は2μm程度である。実験的には、3μmでも赤血球を通過させ、白血球をトラップすることができることが確認できた。さらに好ましくは、フィルタに設けられる微細孔の孔径は5μm以上8.0μm未満である。
微細孔フィルタを複層にする場合は、全体として赤血球成分を通過できる微細孔に設計する。ただし、3枚以下で十分に機能することが多い。
このフィルタの大きさは、処理血液量及び処理スピードなどを勘案して決めることができる。白血球捕捉フィルタの面積は、1〜1000cmの範囲から適宜設計される。
白血球捕捉フィルタのろ過工程の吸引速度は、0.01〜4.0ml/cm/minの範囲が好ましい。白血球捕捉フィルタのろ過スピードを実現するためには、微細孔の大きさ及びフィルタの面積及びシリンジの操作スピードによって決定する。
【0015】
フィルタの材料としては、成型性、滅菌性や細胞毒性が低いという点で好ましいものを例示する。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリビニリデンフロライド、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の合成高分子、セルロースアセテート、再生セルロース、セルロース混合エステル等のセルロース系材料、ステンレス、銀、チタン等の金属があげられる。
フィルタの微細孔の加工は、レーザービームを用いた穿孔操作によって均一な膜孔形成ができる。膜厚、フィルタの複層設計も容易である。
【0016】
なお、従来の不織布は、分厚くして、隙間に絡めるという方式であるので不織布繊維に付着してしまい回収残が多く回収率には限度がある。また、白血球は、体内にて異物に接触して活性化して生体を防御する機能を果たしているので、白血球が不織布繊維に接触する機会が多くなることは、活性化してしまう危険があって、回収された白血球は使用できない状態に劣化するリスクもある。
本発明で使用する膜フィルタは、従来から白血球除去フィルタとして用いられている不織布を用いた「綿状」のフィルタとは、その構造が大きく異なっている。細孔が平行に開いている構造を持つフィルタは、医療分野ではこれまで「赤血球変形能測定用フィルタ」として、限られた目的で用いられてきた。また、血液から血漿成分のみを取り出す「血漿分離フィルタ」としても使用されてきた。しかし「赤血球と白血球を分離して、白血球を回収するためのフィルタ」としての報告がない。「赤血球変形能測定用」として用いられてきた例はあるが、白血球を通過させず回収に用いることは、知られていない。また、「赤血球変形能測定」において用いられる血液量は1ml程度である。本発明ではフィルタには臍帯血など数十ml以上の血液を処理できることが求められる。
【0017】
<赤血球捕捉器>
赤血球捕捉器は、白血球捕捉器を通過した成分から赤血球分画を捕捉し、血漿成分を通過させる機能を有する。赤血球捕捉器には、フィルタが設けられている。フィルタは、微細孔を有する膜フィルタあるいは不織布製のフィルタでも使用することができる。ここで捕捉された赤血球は廃棄されるので、フィルタの種類は問わないが、処理時間などを考慮して設計される。赤血球分離フィルタは、赤血球が変形しても通過困難な2.0μm以下の径の微細孔が用いられる。例えば、約0.2〜0.6μmが適している。
【0018】
<原血液バック>
原血液バックは、臍帯などから採取した未調整の全成分血が入っているバックである。このバックは柔軟性のある縮小/膨張が自由な合成樹脂製などである。既存の血液バックに用いられているものを使用することができる。縮小/膨張が自由である袋状のバックは、処理される血液の移動を阻害することがない。これは、血漿バック及び回収バックでも同様である。剛性のある箱状の容器では、血液成分の出入りに伴い空気の吸排を行う必要があり、処理操作を閉鎖系で行うことが困難である。
この原血液バックから血液は白血球捕捉器の入り口側へ導入される。空になった原血液バックは逆洗されて回収される白血球分画の回収用バックとして用いることができる。
【0019】
<血漿バック>
血漿バックは、赤血球捕捉器を通過した血漿成分を貯留するバックである。このバックは柔軟性のある合成樹脂製などである。既存の血液バックに用いられているものを使用することができる。あるいは、血漿バックの機能をシリンジに持たせることもできる。
この貯留された血漿成分は、赤血球捕捉器を迂回して白血球捕捉器の出口側から導入されて、白血球分画を回収バックに送り出す逆洗用液成分として使用される。
【0020】
<回収バック>
回収バックは、逆洗によって回収される白血球分画を収容するバックであって、柔軟性のある合成樹脂製などである。既存の血液バックに用いられているものを使用することができる。柔軟性のあるバックが適していることは原血液バックと同様である。原血液バックを兼用することができる。剛性のプラスチック容器やガラス製容器を使用することもできる。回収された白血球成分は、必要な後処理を経て冷凍保存される。
回収バックの取り付け位置は、原血液バックと交換することもできる。あるいは、原血液バックの直下流側に設けることもできる。
【0021】
<シリンジ>
本発明では、シリンジは系の駆動源の機能を果たす。シリンジは、配置位置によって、フィルタのろ過作用に対して吸引あるいは加圧の機能を発揮する。回路中で血漿バック側に配置された場合は、吸引機能を果たす。白血球捕捉器よりも前に配置された場合は加圧機能を果たす。
シリンジはピストンを後退させるとシリンダ内に血液成分が一旦流入し、弁の操作によって、放出方向を制御した後にピストンを前進させると次工程へ血液成分を送り出す。処理する血液量が多い場合は、複数回に分けてピストンの進退を行う。
本装置の処理時間は、シリンジのピストンの進退速度によって制御することができる。操作は機械的に行うことができるので、自動設定できる。あるいは、錘を使用して吸引あるいは加圧の負荷を一定にすることもできる。
白血球捕捉フィルタのろ過スピードは、微細孔の大きさ及びフィルタの面積によって決定する。このろ過工程の吸引速度は、0.01〜4.0ml/cm/minの範囲に設定されるので、これを実現するシリンジの操作に設定する。
血漿バックの位置にシリンジを配置して血漿の一時収容機能を兼用させることもできる。
シリンジの容量は任意であるが、臍帯血を処理する場合は、30〜200ml程度である。
【0022】
<回路>
回路は、構成機器をチューブやパイプを利用して連結する。血液の流れる方向を変更や流量を制御する必要がある部分には弁を介在させる。医療用機器に用いられるチューブを用いることができる。
【0023】
<回収血液>
回収バックに回収される血液は、原血液に含まれる有核細胞を含む白血球分画を主成分とする。臍帯血を投与する現状は、白血球成分を有効成分とし、血漿あるいは生理的食塩水などを含む白血球濃縮血液が利用されている。赤血球成分は不用であるが混入していることが避けられない。本発明でも、白血球捕捉器で白血球成分を完全に捕捉することが主眼であって、赤血球を全て通過させる必要はない。現状の凍結保存容量は、20〜30mlであるので、白血球分画をより多く回収し、血漿や赤血球が混在した状態でこの凍結保存容量内に収束させる実用的な設計範囲である。
【0024】
<バリエーション>
処理工程において、何らかの要因により、ろ液の血漿のみによる回収工程の実施が不可能になる状況が発生した場合には、補助ポート6に回収液を収容した容器またはシリンジを接続し、回収工程においてシリンジを用いて回収液を送液して白血球分画を回収することもできる。回収液として、細胞の変性が少ない液、例えば、生理食塩水、ダルベッコリン酸塩緩衝液(D−PBS)、ハンクス液等の緩衝液を用いることができる。また、効率よく回収するために一定の血液浸透圧を有する回収液を採用しても良く、デキストラン等が添加されていてもよい。
【実施例1】
【0025】
[白血球分画回収装置の例1]
図1、2に白血球分画回収装置(10)の例1を示す。
図示の方向に従って、左端に原血液バッグ(1)を右端に血漿バッグ(4)を配置し、中間に左側から白血球捕捉器(2)、赤血球捕捉器(3)、シリンジ(5)の機器を配置している。各構成機器はチューブで連結されて主回路(a)を構成する。また、赤血球捕捉器(3)を迂回するバイパス回路(b)が設けられている。バイパス回路(b)と主回路との2か所の接合箇所、シリンジ(5)の接合箇所、血漿バッグ(4)の接合箇所には、流路変更可能な方向弁(21)〜(24)が設けられている。本装置の例では回収バック(7)は原血液バック(1)が兼用する。
【0026】
この装置を用いた白血球分画の濃縮工程を図2に示す。図2(a)は、主回路(a)を用いた分離工程を示し、図2(b)は、バイパス回路(b)を用いた白血球分画回収工程を示している。
【0027】
図2(a)に示す分離工程は、原血液バック(1)から2種類の血球分画捕捉器(2)(3)及びシリンジ(5)を経由して血漿成分を血漿バック(4)に回収する主回路の系を用いて白血球分画、赤血球分画と血漿とを分離する回路を利用する。
シリンジ(5)を一定速度で引いて、原血液バック(1)に収容されている採取された血液を引き出して、富白血球分画Cを白血球捕捉器(2)で捕捉し、次いで富赤血球分画Dを赤血球捕捉器(3)で捕捉し、血漿成分Bをシリンジ(5)内へ吸引してろ過する。弁(23)の流路を血漿バック(4)側に変更し、シリンジ(5)と血漿バッグ(4)を連通させ、シリンジ(5)内のろ液Bを血漿バッグ(4)に送る。原血液がすべて濾過されるまでこの作業が繰り返される。このとき、処理血液量が少なく1回の操作で済む場合は、シリンジ(5)が血漿バッグ(4)を兼ねることができる。また、シリンジ(5)を複数のシリンジにすることにより処理量が多くなっても、シリンジが血漿バッグを兼ねることができる。
【0028】
図2(b)に示す白血球分画回収工程は、血漿バック(4)に収容されている血漿Bを一旦シリンジ(5)に吸引し、バイパス回路(b)を経て白血球捕捉器(2)を逆洗して、富白血球分画Cを回収バック(7)へ送り込む回収回路を利用する。
シリンジ(5)を一定速度で引いて、血漿バッグ(4)に収容されているろ液である血漿Bを引き出して、バイパス回路(b)へ送り出し、白血球捕捉器(2)に出口側から侵入させて、捕捉されている富白血球分画Cを逆洗して、富白血球分画Cを血漿Bと共に回収バック(7)に送り込んで白血球成分を濃縮して回収する。この図示の例では、回収バック(7)は、空になった原血液バック(1)を利用している。
シリンジ(5)を複数回操作して回収することもできる。実用化されている冷凍保存量が25ml程度なので、シリンジは30ml程度で1回の操作が可能である。
なお、補助ポート6は、生理的食塩水などを逆洗用の洗浄液を使用する場合などに用いられる。
【0029】
[白血球分画回収装置の例2]
図3に白血球分画回収装置(10)の例2を示す。
図示の方向に従って、左端に原血液バッグ(1)を右端に血漿バッグ(4)を配置し、中間に左側からシリンジ(8)、白血球捕捉器(2)、赤血球捕捉器(3)、シリンジ(5)の機器を配置している。前記例1とは、シリンジ(8)を原血液バッグ(1)と白血球捕捉器(2)の間に設けた点が異なる。
この装置では、白血球分画、赤血球分画と血漿とを分離する工程において、最初に、原血液バック(1)に収容されている血液を一旦シリンジ(8)に吸引してから白血球捕捉器(2)へ供給する加圧ろ過の方式を採用することができる点である。
また、シリンジ(8)とシリンジ(5)を使い分けることにより、分離工程、回収工程とも加圧処理あるいは負圧処理を選択することができ、対象血液の性質やフィルタによって、操作に自由度ができる。
【実施例】
【0030】
図1の装置構成を用いた実施例を示す。装置構成については前記したとおりである。
原血液は、ヒトから採取した。採血時、あるいは血液処理時に、器具内部で血液が凝固しないように抗凝固剤としてヘパリンを用いた。
【0031】
[ヒトの血球の大きさ]
赤血球:7.8μm
白血球
・顆粒球:12〜15μm
・単球:12(15)〜20μm
・リンパ球 小型 6〜8μm
大型 9〜12μm
(「組織細胞生物学」内山安男監修、南江堂、p147−154参照)
【0032】
装置の各部品として、原血液バッグ(1)と血漿バッグ(4)にはニプロバッグCBC−20(ニプロ社製)、白血球捕捉器(2)に用いるフィルタとして、孔径の均一な細孔が並行に開いている構造を持つポリカーボネートフィルム(アイソポアフィルタ(登録商標)ミリポア社製、直径47mm)を2つ並列に用いた。このフィルタは、細孔径が3μm、5μm、8μm、10μmの4種類のフィルタを用いた。赤血球捕捉器(3)に用いるフィルタとしてミリポア社のグラスファイバ製APフィルタ(直径90mm)を用いた。シリンジ(5)には30mlのSS−30ESZ(テルモ製、30mL)を用いた。
【0033】
原血液バッグ(1)には、ヒト血液およそ80mlを入れ、シリンジ(5)を用いて血液(およそ60〜75ml)をろ過した。このときの血液ろ過速度は、10ml/minとした。
【0034】
ろ過が終了したのち、バイパス回路(b)を開通させて赤血球捕捉器(3)をバイパスする回路とし、シリンジ(5)を用い、ろ液(血漿)Bを血漿バッグ(4)から白血球捕捉器(2)を介して回収バック(7)に血漿を通管させ、白血球捕捉器(2)に捕捉された富白血球分画Dを回収した。回収血液の液量は20.0mlとした。ろ過の開始から回収までの工程に要した時間は、8分47秒〜15分32秒であった。
【0035】
元の血液、ろ液、および回収血液の体積を計測するとともに、各溶液中の赤血球及び白血球の濃度を自動血球計数器(セルタックMEK−5258、日本光電工業)で計測することにより、各溶液に含まれている赤血球数と白血球数を算出した。
【0036】
血液細胞の回収の評価には、以下の指標を用いた。
(1)白血球回収率A
A=(回収血液中の白血球数a1)/(元の血液中の白血球数a2)
(2)赤血球回収率B
B=(回収血液中の白血球数b1)/(元の血液中の白血球数b2)
【0037】
[試験結果]
白血球捕捉器(2)に用いるフィルタに4種類のフィルタ(細孔径3、5、8、10μm)を用いて濃縮試験を行った結果を述べる。白血球回収率Aは、細孔径3μmおよび5μmのフィルタを用いた場合には、回収率はほぼ100%であったのに対して、8μmおよび10μmのフィルタではろ液量の増加にともなって回収率が低下した。白血球の回収率は孔径8μm未満が好ましい。この試験では孔径3〜8μmが適していることが分かる。
【0038】
赤血球回収率Bは、ろ液量の増加にともなって減少した。この減少の割合は、白血球捕捉器(2)に用いるフィルタの細孔径によらずほぼ一定であった。
【0039】
赤血球分離フィルタには、赤血球が捕捉されていることが観察された。
【0040】
以上の結果から、本発明の装置を用いることにより、白血球数をほとんど減らさずに濃縮でき、また、処理に要する時間も従来法に比べて著しく短縮できることが示された。すなわち本発明装置は、従来法より高い回収率で白血球の濃縮を実現し、簡便な操作で短時間にて処理できる。
【符号の説明】
【0041】
1 原血液バッグ
2 白血球捕捉器
3 赤血球捕捉器
4 血漿バッグ
5 シリンジ
6 補助ポート
7 血液回収バッグ
8 シリンジ
10 白血球分画回収装置
21〜25 弁
a チューブ
b バイパスチューブ
A 血液
B ろ液(血漿)
C 富白血球分画
D 富赤血球分画
E 濃縮血液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原血液バッグ(1)/回収バック(7)と血漿バッグ(4)と、原血液バック(1)側から順に白血球捕捉器(2)と赤血球捕捉器(3)の2種類の血球分画捕捉器が両バックの間に介在配置された主回路(a) を備え、赤血球捕捉器(3)を経由しないバイパス回路(b)、及び、血液送液用のシリンジ(5)を設けた原血液から白血球分画を濃縮し回収する白血球分画回収装置(10)であって、
白血球捕捉器(2)は、多数の微細孔が形成されたフィルタ膜が備えられており、微細孔は赤血球が変形して通過できる大きさである赤血球の平均直径よりも小さな孔径である白血球捕捉フィルタを備えており、
赤血球捕捉器(3)は、赤血球が通過不能な微細孔であって、血漿成分を通過させる赤血球捕捉フィルタを備えていること白血球分画回収装置。
【請求項2】
白血球捕捉フィルタの孔径は、2μm〜赤血球よりも小さな径であることを特徴とする請求項1記載の白血球分画回収装置。
【請求項3】
白血球捕捉フィルタ孔径は、5〜8μmであることを特徴とする請求項2記載の白血球分画回収装置。
【請求項4】
白血球捕捉フィルタは、面積が1〜1000cmである請求項1〜3のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項5】
血液送液用のシリンジ(5)は、バイパス回路より血漿バック(4)側に配置されており、
原血液バック(1)から2種類の血球分画捕捉器及びシリンジ(5)を経由して血漿成分を血漿バック(4)に回収する主回路の系を用いた血球分離回路と、
血漿バック(4)から血漿成分をシリンジ(5)、バイパス回路(b)、白血球捕捉器(2)の順に経由して回収バック(7)に血漿を含む白血球分画回収する白血球分画回収回路を構成すること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項6】
血液送液用のシリンジ(5)は、原血液バッグ(1)と白血球捕捉器(2)の間に配置されており、
原血液バック(1)からシリンジ(5)及び2種類の血球分画捕捉器を経由して血漿成分を血漿バック(4)に回収する主回路の系を用いた血球と血漿との分離回路と、
血漿バック(4)から血漿成分をバイパス回路(b)、白血球捕捉器(2)、シリンジ(5)の順に経由して回収バック(7)に血漿を含む白血球分画回収する白血球分画回収回路を構成すること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項7】
原血液から白血球分画回収過程を閉鎖系で構成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項8】
白血球分画回収回路を構成する系において、血漿バック(4)から白血球捕捉器(2)の間に補助ポートを備えたことを特徴とする請求項5又は6記載の白血球分画回収装置。
【請求項9】
処理する原血液が、20〜150ccであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項10】
回収される白血球分画を含む血液量が、5〜50ccであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項11】
ろ過工程の吸引速度が、0.01〜4.0ml/cm/minであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の白血球分画回収装置。
【請求項12】
処理する血液が、臍帯血、骨髄液、末梢血のいずれかであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の白血球分画回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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