説明

白血球結合性化合物およびその標識化合物を有効成分とする医薬組成物

白血球のホルミルペプチド受容体FPRとの結合部位であるMetまたはNle−Leu−Phe−、全白血球中の単球、リンパ球への結合率を向上させるSerまたはThrからなる結合部分、放射性金属または常磁性金属で標識可能な基、およびこれらを結合する役割を荷うスペーサーから構成される白血球結合性化合物は、生体内外ですべての白血球、すなわち好中球、単球、リンパ球に対して特異的な結合性を示し、かつ放射性金属または常磁性金属で標識可能であり、従って個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行うSPECT画像診断、PET画像診断、MRI画像診断などに極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、個体の免疫応答反応を伴う疾患を診断もしくは治療するにあたり、異常部位を標的化すると共に、その活動性状態を的確に把握するための白血球結合性化合物とその標識化合物を有効成分とする医薬品組成物に関する。更に詳細には、本発明は生体内および生体外で白血球に対して特異的な結合性を示す化合物であって、放射性金属および常磁性金属によって標識可能であって、哺乳動物体内の感染症、炎症、癌およびアテローム性動脈硬化症の病巣部位を含めた、病理学的病巣部位をイメージするのに有用な新規な白血球結合性化合物、およびその標識化合物を有効成分とする、放射性診断、SPECT画像診断、PET画像診断、MRI画像診断あるいは放射性治療などに有用な医薬組成物に関する。
【背景技術】
ヒトを含めた動物は、その個体を取り巻く環境から生命維持活動に影響を及ぼす因子の作用を絶えず受けている。その影響を及ぼす因子には大気や太陽光、食物といった正の作用をもたらすものの他に、微生物の侵襲、有害化学物質、熱、放射線などの負の作用をもたらす因子もある。その負の作用を持つ因子の影響に対し、個体は生命活動を維持させようと様々な防御機構を働かせ対処している。
この防御機構は生物学的には免疫と定義され、免疫に関わる生体内反応を免疫応答反応と言う。その反応を引き起こすものとしては、細菌やマイコプラズマなどの微生物、ウイルス、生体組織もしくは器官の異種移植片、有害化学物質、高温な熱、過度な冷却、高エネルギーをもった放射線、電気的あるいは物理的な組織障害などが知られている。免疫応答反応は炎症反応を含めた個体の「自己」と「非自己」の認識の結果において起こる生体反応であり、発熱、白血球活性化と移動、「自己」以外全ての除去反応など広義の防御機構の作用であり、炎症反応は個体に侵入した異物の除去、侵された組織の破壊、破壊された組織の修復といった免疫応答反応の一部の結果において起こる現象である。
免疫応答反応における重要な因子の一つとして白血球が挙げられる。組織は浸潤する白血球種を特定したり、その程度や期間を調節したりする様々なメディエーターを産出し、また血液を含む体液中に存在するメディエーターや他の分子と結合して応答し得る様々な受容体をそれら細胞膜表面上に有する。受容体は対応するメディエーターと結合することによりその白血球を活性化し、白血球の種別により種々の異なる受容体が発現する、その結果、組織へ浸潤する白血球の種類は存在するメディエーターにより規定される。
一般に炎症などの局部の免疫応答は、組織を破壊する何らかの刺激を受けた後、数時間程度は補体などの免疫関連蛋白質がその刺激の除去に対処する。その後補体の分解物や破壊を受けた組織から放出されるサイトカインなどのメディエーターが血液などの体液に放出され、好中球を主とする顆粒球が受容体を介して活性化され、組織への浸潤をメディエーターの密度勾配を基に開始する。このときのメディエーターは一般的に走化性因子と呼ばれる。顆粒球の浸潤は最初の刺激を受けてから通常十数時間でピークを迎える。続いて単球由来を中心としたマクロファージの浸潤が徐々に増え、顆粒球と共に、刺激を起こす元を取り除く。傷害を受けた組織のほか、活性化された顆粒球やマクロファージからもサイトカインなどが放出され、抗体産生などの免疫応答反応を効率的に行うことのできる、あるいは破壊された組織を修復できる、あるいは免疫応答反応を制御できるT細胞やB細胞などからなるリンパ球の浸潤が、その後増加し、最初の刺激を受けてから通常数十時間でピークを迎える。
こうした免疫応答反応は個体の生命活動を維持していく上で、極めて大切な作用であるのだが、生命活動の維持を目的とした場合、個体によるその反応の制御が不完全である点において、時には致命的な負の作用をおよぼす。その代表的な事象が自己免疫疾患と呼ばれる疾患群の発症である。この疾患群には、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、クローン病、橋本病、そのほか膠原病などの疾患が知られている。感染症などの異物の侵襲や火傷などの組織破壊のような炎症では、原因がそれぞれ特定されているが、これら自己免疫疾患は特定された原因因子がないかもしくは未だ見出されておらず、原因不明の難病である。しかしながら、これら疾患群に共通して起こる現象は各疾患固有の組織への白血球の浸潤、特にリンパ球や単球およびマクロファージであることが周知の事実である。
このように自己免疫疾患や慢性化した炎症および感染症ではリンパ球や単球が免疫応答反応における白血球浸潤の中心であり、また普遍的である。したがって、リンパ球や単球および好中球を含む白血球の浸潤の有無を検索あるいは検出しその程度を的確に把握することが、効果的な治療を施し、無駄な投薬等を避け患者の精神的苦痛や費用負担の軽減および医療保険における費用軽減を行う上で極めて重要である。
そこで、白血球の浸潤の有無を検索あるいは検出しその程度を的確に把握するには画像診断が有用であることから、核医学においては種々の放射性薬剤及びその使用が研究された。
ガリウム−67(67Ga)クエン酸塩は、炎症シンチグラフィー薬剤として古くから用いられている(例えば、Ebright,JR.et al.,Arch.Int.Med.,142,246−254(1982)参照)。しかし、この化合物は感染症または炎症の部位に特異的でない。また、67Gaのガンマ線の放射エネルギーは、通常のガンマカメラにおいて良好な画像を得るためには十分には適していない。さらに、放射性薬剤の注射からイメージングまでに72時間程度の待機時間が必要である。
感染部位をイメージングする核医学的方法として、次に、In−111標識白血球(以下111In−白血球)(例えば、Peters,AM.et al.,J.Nucl.Med.,33,65−67(1992)参照)が用いられた。Thakurらは、生体外における好中球の放射性核種標識とその利用を広範囲にわたり分析して論じている(Sem.Nucl.Med.,14,10−17(1984))。この方法では、個体の好中球を生体外でインジウム−111(以下In−111)で標識し、その標識好中球を生体外における動力学的研究に、また個体における急性期の炎症性病巣の画像化に使用することができた。
しかし、111In−白血球を用いる際、放射性標識化合物の調製が、自己血液の滅菌取出、白血球の血液からの滅菌単離、白血球の滅菌標識および放射性核種標識白血球を患者へ再注射する各段階を要し、この調製には2時間以上というかなりの時間が必要である。また、最適イメージ画像を得るには、この標識白血球の再注射から撮像までに12ないし48時間の待機が必要と考えられている。さらに、通常イメージング検討にて実施される白血球数1×10個あたり200μCiという放射能量において、In−111の放出放射能エネルギーが強いために、白血球種のうち好中球を主とした顆粒球は標識に耐えうるが、リンパ球などは標識後直ちに死滅してしまう(Chianelli,M.et al.,Nucl.Med.Comm.,18,437−455(1997))ために、リンパ球および単球の動態をモニターすることが困難である。さらにまた、被曝線量の見地から投与できる放射能量が制限される結果、イメージの質が悪くなることが多い。
次に、開発されたTc−99m標識白血球は、上記111In−白血球で問題であった撮像までの待機時間を短縮でき、かつリンパ球および単球の動態をモニターすることが可能で、さらにIn−111よりもかなり多い放射能量を投与することができる(例えば、Vorne,M.et al.,J.Nucl.Med.,30,1332−1336(1989)参照)。しかし、標識安定性が劣るために、非標的の代謝臓器への蓄積が問題となる。また長い調製時間と血液の取り扱いの問題は、111In−白血球と変わらない(Chianelli,M.et al.Nucl.Med.Comm.,18,437−455(1997))。
単球、好中球、顆粒球その他を含めたヒト白血球に対して結合性を示す放射性核種で標識されたモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体についても開発の試みが行われている。例えば、99mTc標識抗顆粒球モノクローナル抗体(例えば、Lind,P.et al.,J.Nucl.Med.,31,417〜473(1990)参照)および111In標識非特異的ヒト免疫グロブリン(111In−HIG、例えば、LaMuraglia,GM.Et al.,1989,J.Vasc.Surg.,10,20〜28(1989)参照)は、感染によって起こった炎症の検出について検討を行っている。111In−HIGは、投与と最適イメージ撮像との間に24〜48時間を要する点で111In−白血球と同様の短所を有する。
また、111In−HIGは、炎症部位に集積し、それを描出することが可能とされる(例えば、Rubin,R.et al.,J.Nucl.Med.,29,651−656(1988))が、その集積機序は炎症部位へ浸潤する白血球細胞表面上に存在するFc受容体に結合することにより、炎症部位へ集積するとする考え方(Fischman,A.et al.,J.Nucl.Med.,31,1199−1205(1990))と、白血球浸潤とは別に、アルブミンなどの蛋白質などと同じような血管透過性亢進による血管外漏出によるものとする考え方(Morrel,E.et al.,J.Nucl.Med.,30,1538−1545(1989))とがある。
その他の蛋白質を用い、白血球に対して結合作用を示す生体分子を用いた検討もこれまでに報告されている。
van der Laken,CJ.らは放射性ヨウ素で標識した炎症性サイトカインであるインターロイキン1を報告している(van der Laken,CJ.et al.,European J.Nucl.Med.,22,1249−1255(1995))。
Signoreらは放射性ヨウ素標識した炎症性サイトカインであるインターロイキン2を用いた慢性炎症疾患に対する検討を報告している(Signore,A.et al.,Nucl.Med.Comm.,13,713−722(1992))。
Hay RV.らは放射性ヨウ素標識した炎症性サイトカインであるインターロイキン8を用いた化学起炎炎症に対する検討を報告している(Hay RV.et al.,Nucl.Med.Comm.,18,367−378(1997))。
これらの放射性標識化合物は、感染症などの急性炎症、あるいは自己免疫疾患などの慢性炎症を描出することに成功している。
しかしながらこのような蛋白質や抗体は、分子量が大きいという点において、急性炎症にみられる血管透過性亢進による血液成分の血管外漏出が問題となる(Roitt.I.et al.,Essential Immunology,8thedn.Oxford,Blackwell Scientific(1994))。分子量2000程度の分子は、血管外に漏出してもその場に長く留まることはないのだが、アルブミン(分子量約64000)などの蛋白質は、その分子の大きさのために、低分子よりも留まりやすく、炎症特異的な集積かの判断が難しい(Morrel,E.et al.,J.Nucl.Med.,30,1538−1545(1989))。
小さくて、容易に合成できる分子が、日常的に用いる放射性薬剤として好ましい。全血中の白血球に対して選択的に標識することが可能で、患者に直接注射でき、かつ白血球が蓄積する部位を位置決定することによって感染症および炎症の病巣部位をイメージングすることが可能となる低分子量の合成化合物として、放射性核種標識ペプチドが適当と考えられる。
例えば、Moyerらは、ヘパリンなどの多硫酸化グリカンと結合する血小板第4因子(PF−4)カルボキシル末端のペプチドを利用した化合物をTc−99m標識し、炎症に対する集積性について報告している(Moyer,BR.et al.,J.Nucl.Med.,37,673−679(1996))。この化合物(PF−4ペプチドヘパリン)はTc−99mキレートアミノ酸配列を含む23残基のペプチド(分子量約2600)にヘパリン(分子量約7、000から25、000)が結合した様式を取っており、一つの分子としてその分子量が約1万から3万程度になる。
PF−4ペプチドヘパリンも蛋白質と同様に分子量が大きいという点で、白血球浸潤部位への集積のみを表す製剤とはいえず、血管透過性亢進による非特異的集積が少ない低分子量の化合物を用いた、真に白血球浸潤のみを表す製剤が必要とされていた。またヘパリンの使用は、ヘパリンが持つ生理的作用により、その使用が制限される場合がありうる。
Dahlman,T.ら、あるいはRinge,JD.らは、ヘパリンの副作用として、ヘパリン投与による骨密度の低下および長期投与による骨粗鬆症の発症の危険性を報告している。(Br.J.Obstet Gynaecol 1990 Mar,97,3,221−228およびRinge et al.,Geburtshilfe Frauenheilkd.,52,7,426−429(1992))。その他にも、抗トロンビン作用、トロンボプラスチンの生成抑制、血小板の凝集抑制などのヘパリンが持つ生理的作用により、副作用のおそれがあり、あるいは、出血している場合や出血する可能性のある疾患、重得な肝障害・腎障害がある場合は慎重な処置が必要であるなどの使用上の注意点が多い。
その他の放射性核種標識ペプチドによる検討では、ホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニル(fMLF)−含有ペプチドが従来技術において報告されている。
Dayらは、125Iで放射性核種標識した走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)を報告している(Day,AR.et al.,FEBS Lett.77,291−294(1977))。
Jiangらは、125Iで放射性核種標識した走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)が生体内で炎症に集積することを報告している(例えば、Jiang,MS.et al.,Nuklearmedizin,21,110−113(1982))。
Fishmanらは、DTPAを介した111In標識走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)を開示している(特許第2931097号明細書参照)。
Verbekeらは、メルカプトアセチルグリシルグリシンを介したTc−99m標識走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)に関する報告をしている(例えば、Verbeke,K.et al.,Nuclear Medicine & Biology,27,769−779(2000)参照)。
Baidooらは、ジアミノジチオール化合物を介したTc−99m標識走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)に関する報告をしている(Baidoo,K.E.et al.,Bioconjugate Chemistry,9,208−217(1998)参照)。
また、放射性核種標識走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)の光親和性を介して身体外で白血球を放射性核種標識するための使用に関する報告もある(例えば、米国特許第4,986,979号明細書参照)。
さらにまた、放射性核種標識可能な走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)に関する報告もある(例えば、米国特許第5,792,444号明細書参照)。
走化性ホルミル化ペプチド(fMLF)はホルミル化ペプチド受容体(以下、受容体FPR)を介して介して白血球に結合するとされ(Niedel,J.E.et al.,Science,205,4413,1412−1414(1979))、受容体FPRを発現した白血球は好中球および単球であるとされる(Lewis,SL.et al.,Inflammation,4,363−375(1983))。
ヒトの血液中に存在する白血球の正常な組成は約50%が好中球、10%が単球とされる。単球は、好中球の5分の1以下でしかないために、これまでに知られている走化性ホルミル化ペプチドのアナログ体数種が結合する白血球は顆粒球が殆どであり、リンパ球および単球には弱い結合でしかないという知見が報告されている(Verbeke,K.et al.,Nucl.Med.Biol.,27,769−779(2000))。
また好中球の浸潤が盛んな菌の感染症などの急性炎症には、放射性核種標識走化性ホルミル化ペプチドは集積を示すもの(Babich,JW.et al.,J.Nucl.Med.,34,2176−2181(1993)参照)の、慢性炎症とされる病変への集積を明らかにした報告はこれまでにない。
また、臨床上の診断において、核医学検査やMRI検査を含めた画像診断が必要とされるのは、インビトロ検査などの初期診断で判断の難しい症例や慢性化した病変を伴った症例において多く使用されている。またこのような症例ではしばしばステロイド剤投与および白血球除去療法などの免疫応答および白血球浸潤を抑制する治療法が行われているために、慢性炎症を含めた免疫応答反応炎症病変を伴う疾患の画像診断が可能な、血管透過性亢進の影響を受けない低分子でかつ、免疫応答反応および白血球浸潤を画像化することのできる製剤が望まれている。
ペプチドおよびポリペプチドをTc−99mで標識する方法は既に知られている(例えば、特開平8−231587号公報参照)。
【発明の開示】
本発明は、かかる従来技術の状況に鑑み、生体内外で白血球、すなわち好中球、単球、リンパ球等に対して特異的な結合性を示し、かつ放射性金属または常磁性金属で標識可能な化合物、該標識化合物を有効成分とする、個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行うSPECT画像診断、PET画像診断、MRI画像診断あるいは放射性治療などに有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、下記式(1)
Z−Y−Leu−Phe−(X)n−Lys(NH)m−ε(−R−(T)l−U) (1)
(式(1)中、Zはアミノ基の保護基を表し;
YはMetまたはNleを表し;
(X)nにおいて、Xは1個もしくはそれ以上のアミノ酸および/または有機合成可能な化合物よりなるスペーサー、nは1または0を表し;
(NH)mにおいて、NHはLysのα位のカルボキシル基の保護基としてのアミド基、mは1または0を表し;
ε(−R−(T)l−U)において、RはLysのε−アミノ基にアミド結合したSerまたはThr、Tは1個もしくはそれ以上のアミノ酸および/または有機合成可能な化合物よりなるスペーサー、lは1または0、Uは金属標識可能な基を表し;
但し、前記XとTは同じでも異なっていてもよい)
で表される白血球結合性化合物に関する。
さらに、本発明は、上記式(1)で表される白血球結合性化合物を放射性金属または常磁性金属で標識してなる標識化合物を有効成分とする医薬組成物に関するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、Tc−99m−ペプチド4のHPLCクロマトグラムを示す。
図2は、Tc−99m−ペプチド6のHPLCクロマトグラムを示す。
図3は、Tc−99mペプチドのウサギ血液内分布を示す。
図4は、Tc−99m−ペプチド3のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後22時間のイメージである。
図5は、Tc−99m−ペプチド4のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後22時間のイメージである。
図6は、Tc−99m−ペプチド6のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後22時間のイメージである。
図7は、Tc−99m−ペプチド8のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図8は、Tc−99m−ペプチド9のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図9は、Tc−99m−ペプチド12のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後22時間のイメージである。
図10は、Tc−99m−ペプチド13のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図11は、Tc−99m−ペプチド14のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図12は、Tc−99m−ペプチド15のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図13は、Tc−99m−ペプチド16のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図14は、Tc−99m−ペプチド17のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図15は、Tc−99m−ペプチド18のウサギ感染症モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図16は、各Tc−99m−ペプチドの正常ラットにおける尿排泄率の経時変化を示す。
図17は、各Tc−99m−ペプチドの正常ラットにおける小腸への集積の経時変化を示す。
図18は、Tc−99m−ペプチドのヒト血液内分布を示す。
図19は、Tc−99m標識ペプチドのラット大腸炎モデル血液内分布を示す。
図20は、Tc−99m標識ペプチド3のラット大腸炎モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後30分、右側が投与後120分のイメージである。
図21は、Tc−99m標識ペプチド6のラット大腸炎モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後30分、右側が投与後120分のイメージである。
図22は、Tc−99m標識白血球のラット大腸炎モデルにおけるイメージを示す。左側が投与後30分、右側が投与後120分のイメージである。
図23はTc−99m標識ペプチドのラット大腸炎モデルにおける炎症/臓器比を示す。
図24は、ラット大腸炎におけるペプチド6のオートラジオグラフィと免疫染色の画像を示す。左側がオートラジオグラフ、中央が顆粒球抗体免疫染色、右側が単球抗体免疫染色である。
図25は、ラット大腸炎におけるペプチド14のオートラジオグラフィと免疫染色の画像を示す。左側がオートラジオグラフ、中央が顆粒球抗体免疫染色、右側が単球抗体免疫染色である。
図26は、ラット大腸炎におけるTc−99m標識白血球のオートラジオグラフィと免疫染色の画像を示す。左側がオートラジオグラフ、中央が顆粒球抗体免疫染色、右側が単球抗体免疫染色である。
図27は、ラット大腸炎におけるTc99m標識ペプチドとTc99m標識白血球のオートラジオグラフィの炎症/正常組織比を示す。
図28は、リコンビナントヒト受容体と[3H]−FMLPの結合に対するペプチドの阻害率を示す。
図29は、FMLP阻害無しのウサギ感染症モデルにおけるTc−99m標識ペプチド6のイメージを示す。左側が投与後2時間、右側が投与後5時間のイメージである。
図30は、FMLP阻害有りのウサギ感染症モデルにおけるTc−99m標識ペプチド6のイメージを示す。
発明の実施するための最良の形態
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書で用いるアミノ酸は全て一文字記号もしくは三文字記号で記し、特に断りのないかぎり左側をN末端側、右側をC末端側として表記した。アミノ酸に続くかっこ内は、特に断りのないかぎり側鎖に結合したペプチドならびに有機化合物を表すものである。また、かっこ内のアミノ酸配列は全体構造を把握しやすくするために、右側をN末端側、左側をC末端側として表記した。さらに、本明細書において、D体のアミノ酸はD−アミノ酸と記載した。
本発明の白血球結合性化合物は、下記式(1)
Z−Y−Leu−Phe−(X)n−Lys(NH)m−ε(−R−(T)l−U) (1)
で表される。すなわち、白血球の受容体FPRとの結合部位Z−Y−Leu−Phe−、全白血球中の単球、リンパ球への結合率を向上させるSerまたはThrからなる結合部分−R−、放射性金属、常磁性金属を標識可能な構造−U−、およびこれらを結合するスペーサー−(X)n−、−Lys(NH)m−および−(T)l−よりなっている。
具体的には、下記ような白血球結合性化合物が好ましい態様として例示できる。
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asn);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−1,4,8,11−テトラ酢酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−D−Arg−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−ジエチレントリアミンペンタ酢酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
アセチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp);
カルバミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp);
メチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
を例示できる。
上記式(1)で示される白血球結合性化合物における受容体FPRとの結合部位であるZ−Y−Leu−Phe−において、Zはアミノ基の保護基であって、例えば、ホルミル基、アセチル基などの炭素数1から9のアシル基、t−Boc基などの炭素数2から9のアシルオキシ基、メチル、エチル、プロピルなどの炭素数1から6の低級アルキル基、カルバミル基などが用いられる。YのMetやNleのN末端がホルミル基である場合、ホルミル化ペプチドを認識する白血球の受容体FPRに対し結合性を示し、ホルミル基よりも大きな分子構造をもつアセチル基やt−Boc基も同様に受容体への結合性を示す。
上記式(1)のZ−Y−Leu−Phe−において、Yはアミノ酸であるMetまたはNleを表す。白血球のうち、好中球ならびに単球の細胞膜上に恒常的に発現している受容体の一つにホルミル化ペプチドと強い結合性を示す受容体FPRが存在し、Metに対して結合性を示す。Metと空間的構造が極めて似ているNleもMetと同様の結合性を示す。
LeuおよびPheは、好中球ならびに単球に対する高い結合性を示す。ホルミル化ペプチドと強い結合性を示す受容体FPRは、ホルミル−Met、ホルミル−Met−Met、ホルミル−Met−Met−Leu、ホルミル−Met−Leu−Leuなどのペプチドに対しても結合性を示すがホルミル−Met−Leu−Pheが最も強い結合性を示す。
本発明における最大の特徴は、上記式(1)におけるZ−Y−Leu−Phe−に、スペーサーであるX、および−Lys(NH)m−のεアミノ基を介して結合したRであり、Rは水酸基を側鎖にもつアミノ酸であるSerまたはThrから選ばれる。このSerまたはThrの付加した金属標識可能な構造を利用することにより、従来の低分子の白血球結合性化合物ではみられなかった、リンパ球および単球への著明な結合が初めて可能になった。従来の受容体FPRとの結合部位Z−Y−Leu−Phe−単独からなるペプチドの白血球への結合は、好中球、単球への結合は見られるものの、リンパ球への結合は殆ど見られなかった。この受容体FPRとの結合部位Z−Y−Leu−Phe−と金属標識可能な構造とがLysのεアミノ基に結合したSerまたはThrをを介して結合することにより、単球およびリンパ球への結合率が著しく向上した。この結果、本発明の上記式(1)で示される白血球結合性化合物は、すべての白血球すなわち、好中球、単球およびリンパ球に結合することが可能になったのである。例えば、従来の血球結合性化合物の、全白血球に対するリンパ球および単球への結合の割合はおよそ12%から35%の範囲であるのに対し、本発明の血球結合性化合物の全白血球に対するリンパ球および単球への結合の割合はおよそ18%から65%にまで上昇する。このことは、白血球浸潤の盛んな部位を標的化することが可能になったことを示しており、本発明の化合物が白血球浸潤を伴う疾患の診断用あるいは治療用医薬としての有用性を示すものある。
本発明の白血球結合性化合物において、受容体FPRとの結合部位Z−Y−Leu−Phe−、特にリンパ球および単球の受容体との結合部位RのSerまたはThrおよび放射性金属や常磁性金属の標識部位Uのそれぞれの間の距離を、スペーサーであるX、−Lys(NH)m−のεアミノ基およびスペーサーであるTを介してそれぞれ結合することにより、適切に取ることができる。このことにより、空間的構造が大きな影響を及ぼす受容体との結合性を保ちつつ、それぞれを結合することができる。すなわちZ−Y−Leu−Phe−のC末端に、RのSerまたはThrのC末端とを結合させるためには、Z−Y−Leu−Phe−のC末端部分構造に、側鎖に炭素数4からなるアルキル基にアミノ基が結合しているLysを付加して、そのεアミノ基にSerまたはThrを結合するのが好ましい。さらにより空間的距離を必要とする場合は、スペーサーXを付加するとよい。
XおよびTは、それぞれ、1もしくはそれ以上のアミノ酸および/または有機合成可能な化合物よりなるスペーサーで、必要に応じて本発明の白血球結合性化合物の分子の構成成分とすることができ、XとYは同じものでも異なっていてもよい。しかし、Cys残基は、スルファニル基が分子内または分子間でジスルフィド結合を形成するために二量体などの多量体を形成しやすく、その構造変化から受容体への結合性に大きく影響するため、XまたはTを構成するアミノ酸としては不適である。さらに、XまたはTがProを含む場合は、立体構造が限定されるため、空間自由度が少なく受容体への結合性に好ましくない。したがって、XまたはTを構成する配列構造に含まれるアミノ酸からは、CysおよびProは除外するのが望ましい。
具体的には、Xに用いるアミノ酸としては、受容体への結合性に影響を与えにくいGly、Ala、Val、Leu、Ileなどの非荷電性アミノ酸やNle、Tyr、Nle‐Tyr等が例示される。Tとしては、受容体との結合部分から放射性金属や常磁性金属を標識した構造との距離をとる場合や、生体内ににおける体内動態を制御する場合や、生体内における代謝への抵抗性を持たせる等の目的で、上記と同様のアミノ酸や、非アミノ酸化合物、あるいはその組み合わせを使用することができる。また、上記以外のL体およびD体アミノ酸、Glyなどの疏水性アミノ酸、Arg、Asp、Glu、Lysなどの極性アミノ酸および荷電性アミノ酸(酸性、塩基性)のいずれも適用が可能である。
スペーサーを構成する有機合成可能な化合物としては、メチル基、エチル基、ベンジル基などの疎水性官能基を含む、1,5−ヘキサジエン、トランス−2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル3−ニトロアセトフェノンなどの化合物;水酸基、アミド基などの極性官能基を含む、(±)−2−メチル−2,4−ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオールなどの化合物;カルボキシル基、アミノ基、イミノ基などの荷電性官能基を含む、メチレンスクシン酸、4−マレイミド酪酸、6−マレイミドカプロン酸などの化合物などが挙げられる。
金属標識の可能な基であるUとしては、1個もしくはそれ以上のアミノ酸からなる基または非アミノ酸からなる金属標識可能な基を用いることができる。1個もしくはそれ以上のアミノ酸からなる基としては、−Cys−A1−A2で表されるペプチド(ただし、A1およびA2はCysおよびProを除くアミノ酸)が用いられる。例えば、−Cys−Gly−Asp、−Cys−Asp−Asp、−Cys−Asp−Gly、−Cys−Gly−Glu、−Cys−Glu−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−Gly−Asn、−Cys−Asn−Asn、−Cys−Asn−Gly、−Cys−Gly−Gln、−Cys−Gln−Gln、−Cys−Gln−Gly、−Cys−Gly−Lys、−Cys−Lys−Lys、−Cys−Lys−Gly、−Cys−Gly−Arg、−Cys−Arg−Arg、−Cys−Arg−Gly等が例示できる。
非アミノ酸からなる金属標識可能な基としては、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(Cyclen)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン(Cyclam)、1,4,8,12−テトラアザシクロペンタデカン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−5,7−ジオン(Dioxocycam)などの炭素数8から20の窒素含有環状化合物;1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−1,4,8,11−テトラ酢酸(TETA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−テトラ酢酸(DOTA)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−5,7−ジオン−N,N’,N’’,N’’’−テトラ酢酸、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−酪酸、1,4,8,10−テトラアザシクロドデカン−酪酸などの炭素数8から20の窒素含有環状カルボン酸化合物;1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1−アミノエチルカルバモイルメチル−4,7,10−トリス〔R,S〕−メチル酢酸(DO3MA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−α,α’,α’’,α’’’−テトラメチル酢酸(DOTMA)などの炭素数8から20の窒素含有環状カルボン酸化合物の誘導体;エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、エチレングリコール−(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−テトラ酢酸(EGTA)などの炭素数4から10のアルキレンアミンカルボン酸等の化合物から構成される基などが挙げられる。
本発明の白血球結合性化合物を画像診断用の医薬組成物として用いる際、目的とする診断または治療部位に応じて、体内動態を制御して不要代謝物の排泄を速やかに行い、生体への無用な被曝の軽減、画像診断を行う場合のバックグラウンドの影響を少なくして、診断部位のイメージングを速やかに行うことができる。例えば、スペーサーX、Tの構成に用いるアミノ酸等について、消化管への代謝に移行させるためにはGly、Ala、Ile、Leu、Val等の脂肪族アミノ酸、Phe、Trp、Tyr等の芳香族アミノ酸、Met等の含硫アミノ酸、もしくはメチル基、エチル基、ベンジル基などの疎水性官能基を含む化合物の利用が可能である。尿および腎臓への代謝に移行させるためにはSer、Thr等のヒドロキシアミノ酸、Asn、Gln等の酸性アミノ酸アミド、Arg、Asp、Glu、Lys等の荷電性アミノ酸(酸性、塩基性)を選択したり、合成可能な化合物として、水酸基、アミド基などの極性官能基を含む化合物、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基などの荷電性官能基を含む化合物を選択したりすることにより、荷電性アミノ酸もしくは荷電性官能基を有する化合物の利用が可能である。その他、受容体との結合部分と金属標識された構造との距離をとる必要がある場合は、1個以上のアミノ酸、またはアルキルなどの直鎖の有機合成可能な化合物が利用できる。
金属標識可能な基Uに含まれるアミノ酸についても、上記と同様なことが言える。例えば、AspまたはLysを選択した場合、もしくはカルボキシル基またはアミノ基を含む化合物を選択した場合には、最終的に得られる放射性金属標識物の投与後の代謝物の主要な排泄経路を腎臓に制御することができる。また、アミノ酸としてGlyなどの疎水性アミノ酸を選択した場合には、代謝物の主要な排泄経路を消化管に制御することができる。
さらにスペーサーX、Tの構成に用いるアミノ酸等について,生体内における代謝への抵抗性を持たせるためには、D体アミノ酸ならびに人工アミノ酸および非アミノ酸の利用が考えられる。D体アミノ酸から構成されるスペーサーとしては、具体的には、D−Arg−Asp、Arg−D−Asp、D−Arg−D−Asp、D−Asp−Arg、Asp−D−Arg、D−Asp−D−Arg、Ser−D−Arg、D−Ser−Arg、D−Ser−D−Arg、D−Arg−Ser、Arg−D−Ser、D−Arg−D−Ser、Ser−D−Asp、D−Ser−Asp、D−Ser−D−Asp、D−Asp−Ser、Asp−D−Ser、D−Asp−D−Ser等のアミノ酸配列を挙げることができる。
本発明の白血球結合性化合物は、以下に説明する方法により合成することができる。
(1)全てアミノ酸から構成される場合は、アプライドバイオシステムズ社製ペプチド自動合成機等の汎用的に使用されているペプチド自動合成装置によりBoc法、あるいはFmoc法等により合成することができる。合成された複合体は、固相用樹脂担体に結合した状態から脱保護基と樹脂担体切り放しを同時に行い、その後、逆相系カラム等を用いた高速液体クロマトグラフ法(以下、HPLC法という)にて精製することができる。その他、ペプチド液相合成法により調製してもよく、また、動物等から採取してもよい。
(2)非アミノ酸化合物を含んでいる場合は、その多くの場合、上記した同様の方法によって合成できる。例えば、固相用樹脂担体にLys残基またはその保護誘導体を結合させ、そのN末端にXのアミノ酸残基またはその保護誘導体、あるいはスペーサーとしての機能を有する化合物またはその保護誘導体、Pheまたはその保護誘導体、Leuまたはその保護誘導体、Yのアミノ酸またはその保護誘導体を順次結合させ、続いて固相用樹脂担体に結合したLysの側鎖であるεアミノ基を活性化させて、RのSerあるいはThrまたはその保護誘導体を結合させ、それにスペーサーTのアミノ酸またはその保護誘導体、あるいはスペーサーとしての機能を有する化合物またはその保護誘導体、次いで、Uの金属標識可能な基となりうる化合物またはその保護誘導体を結合させ、その後に樹脂担体から合成された上記式(1)の合成物を切り放すことによって合成できる。
本発明の白血球結合性化合物に放射性金属または常磁性金属を標識することにより得られる標識化合物を有効成分とする医薬組成物は、放射性診断剤あるいは放射性治療剤等に用いられ、特に個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位の画像診断、治療に好適に用いられる。すなわち、好中球または単球またはリンパ球あるいは2種類以上の白血球系細胞の浸潤が盛んな活動性部位を有する疾患に対して、その白血球集積部位の検出および集積程度を所定の検出器を用いて検出することができる。
個体の免疫応答反応を伴う疾患としては、哺乳動物体内の感染症、炎症、およびアテローム性動脈硬化症からなる疾患群が挙げられる。すなわち疾患群には、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、膠原病、膠原病以外の自己免疫疾患が含まれる。また、日本人の肝炎の8割はウイルス感染によるウイルス性肝炎であり、その他の多くは自己免疫性肝炎であるため、肝臓における炎症性疾患の多くは好中球の浸潤量に対してリンパ球・単球浸潤が多い疾患である。このような好中球の浸潤が相対的に少ない疾患などの場合において、従来のfMLFのアナログ体では、リンパ球・単球への結合性が好中球への結合性と比較して弱いために、病変の白血球浸潤を過小評価してしまう可能性が指摘されるが、本発明による白血球結合性化合物は、好中球への結合性のみならずリンパ球や単球への結合性が高いために、多くの自己免疫疾患やリーシュマニア症などの好中球浸潤が殆んど観察されない疾患に対しても白血球浸潤を的確に把握することが可能である。
こうした好中球の浸潤量に対してリンパ球・単球浸潤が多い疾患群、もしくはリンパ球・単球浸潤が白血球浸潤の多数を占める疾患群は、ウイルス感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、膠原病、膠原病以外の自己免疫疾患が含まれる。本発明は白血球浸潤などの免疫応答を伴う疾患群に対して有効と考えられるが、好中球の浸潤量に対してリンパ球・単球浸潤が多い疾患群、もしくはリンパ球・単球浸潤が白血球浸潤の多数を占める疾患群に対して、特に有効であると考えられる。
さらに本発明は、従来技術で示された、好中球に対する結合性を併せ持つことから、リンパ球・単球の浸潤量に対して好中球浸潤が多い疾患群、もしくは好中球浸潤が白血球浸潤の多数を占める疾患群に対してもまた有効である。こうした疾患群としては、細菌性心内膜炎、心筋梗塞、気管支肺炎、大葉性肺炎、浸出性結核、急性胃炎、偽膜性大腸炎、エルシニア感染症、潰瘍性大腸炎、急性虫垂炎、急性胆管炎、胆嚢炎、管内増殖性糸球体腎炎、浸出性糸球体腎炎、急性腎盂腎炎、急性卵管炎、急性頸管炎、急性乳腺炎、急性睾丸炎、急性前立腺炎、アレルギー性血管炎、急性化膿性炎、結核性髄膜炎、化膿性髄膜炎、急性化膿性骨髄炎、急性リンパ節炎、結節性動脈周囲炎等が挙げられる。
放射性診断剤として用いる場合には、本発明の白血球結合性化合物をTc−99m、In−111、Ga−67、Sn−117m、Sm−153、Re−186などのSPECT用放射性金属または、Cu−64またはGa−68などのPET用放射性金属で標識した放射性金属標識化合物が好ましい態様である。放射性治療剤として用いる場合には、該白血球結合性化合物にY−90、Re−186またはRe−188などの放射性金属で標識した放射性金属標識化合物が好ましい態様である。MRI造影剤として用いる場合には、該白血球結合性化合物にCu、FeまたはGdなどの常磁性金属を配位させた常磁性金属標識化合物が好ましい態様である。
Tc−99m、Re−186およびRe−188で標識する場合は、本発明の白血球結合性化合物を生理食塩液および水性緩衝液等に溶解し、塩化第一スズ等の還元剤を加え、過テクネチウム酸ナトリウム溶液、または過レニウム酸ナトリウム溶液と混合する常套の方法により標識化合物を調製することができる。Cu、Cu−64、Fe、Mn、Gd、In−111で標識された標識化合物の場合は、本発明の白血球結合性化合物とCu、Cu−64、Fe、Mn、Gd、In−111イオンを含む弱酸性水溶性溶液とを混合することで調製できる。Ga−67、Ga−68またはY−90で標識された標識化合物は、該白血球結合性化合物とGa−67、Ga−68またはY−90イオンを含む弱酸性ないし弱アルカリ性の水溶性溶液とを混合することで調製が可能である。
放射性金属標識化合物を放射性診断剤または放射性治療剤として供する場合、および常磁性金属標識化合物をMRI造影剤として供する場合は、上述した方法によって調製される標識化合物を更にHPLC法により精製し不純物および未反応の過テクネチウム酸イオン、過レニウム酸イオン、In−111イオン、Cuイオン、Cu−64イオン、Ga−67イオン、Ga−68イオン、Feイオン、Mnイオン、GdイオンおよびY−90イオンを取り除いた後に使用してもよい。
放射性金属または常磁性金属で標識された標識化合物は、薬学的に許容される添加物と混合することにより、放射性診断剤、放射性治療剤またはMRI造影剤に調製することができる。かかる添加物としては、薬学的に許容されるアスコルビン酸、p−アミノ安息香酸等の安定化剤、水性緩衝液等のpH調整剤、D−マンニトール等の賦形剤、および放射化学的純度を改良するのに役立つクエン酸、酒石酸、マロン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコヘプトン酸ナトリウム等が挙げられる。また、これらの添加物を加えた凍結乾燥品である用時調製用キットの形態でも提供が可能であり、本発明の放射性診断剤に特に有用である。
本発明の白血球結合性化合物を放射性金属で標識した標識化合物を含有してなる放射性診断剤、放射性治療剤またはMRI造影剤は、静脈内投与等の一般的に用いられる非経口手段により投与でき、その投与量は患者の体重、年令、適当な放射線イメージング装置、MRI測定装置および対象疾患状態等の諸条件を考慮し、イメージングおよび治療が可能と考えられる放射能および投与量が決定される。
ヒトを対象とする場合、Tc−99m標識化合物を用いた診断剤の投与量は、Tc−99mの放射能量として37MBq〜1110MBqの範囲であり、好ましくは185MBq〜1110MBqである。Re−186またはRe−188標識化合物を用いた治療剤の場合は、放射能量として37MBq〜18500MBqの範囲であり、好ましくは370MBq〜7400MBqである。Y−90標識化合物を用いた治療剤の場合は、放射能量として37MBq〜3700MBqの範囲であり、好ましくは37MBq〜1110MBqの範囲である。他の放射性金属で標識した標識化合物の投与量もほぼ同様である。また、Gd、Fe、Mn、Cuなどの常磁性金属で標識した標識化合物を用いた診断剤の投与量は、処置される宿主、MR画像化装置の感度、画像実験の標的組織、投与の特定の様式および使用の意図される効果に応じて変化する。しかし、特定の患者に対する特定の投薬処方は、使用される特定の試薬の活性(誘導された緩和性)、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬剤の組み合わせ、および担当医の判断を包含する種々の因子に依存する。
標識化合物は1日当たり約0.1μmol/kg体重と約1000μmol/kg体重との間、好ましくは1日当たり約0.5μmol/kg体重と約300μmol/kg体重との間である投薬レベルが有用である。代表的な調製物は、約1mM〜1000mMの間の標識化合物を含む。好ましくは、このような調製物は約10mM〜500mMの間の標識化合物を含む。
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、得られた物質の測定方法、使用した試薬等を下記に示す。
(1)ガンマカウンター:血液内分布の測定用としてオートウェルガンマカウンター(アロカ社製)を用いて測定した。体内分布検討の測定用として、NaIシングルチャンネルアナライザー(応用光研社製)を用いて測定した。
(2)ガンマカメラ:GMS−550U(東芝社製)を用いて測定した。
(3)逆相HPLC:逆相カラムMillipore puresil 5μm C18(4.6×150mm)を用いた。
(4)ペプチド化合物は全て、固相合成法により作製した。
(5)99mTcO99Mo/99mTcシェネレーター(メジテック;日本メジフィジックス社製)を用い、生理食塩液として溶出したものを用いた。
(6)試薬はすべて特級試薬以上の製品を用いた。
(7)すべての実験動物は実験に先立ち1週間12時間毎の明暗サイクル条件下で飼育した。その期間、餌および水は自由に摂取させた。
【実施例1】
ペプチドの合成
下記のペプチドを、固相合成法により製造し、以下の実施例に用いた。
本発明の白血球結合性化合物
ペプチド3:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asn)
ペプチド4:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Asp−Asp)
ペプチド5:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asp)
ペプチド6:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
ペプチド7:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−シクラムテトラカルボン酸体)
ペプチド8:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−D−Arg−Cys−Asp−Asp)
ペプチド9:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−DTPA)
ペプチド13:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−シクラム酪酸)
ベプチド14:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−シクラム酪酸)
ペプチド15:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−シクラム酪酸)
ペプチド16:アセチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
ペプチド17:カルバミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
ペプチド18:メチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
上記のペプチドにおいて、シクラムテトラカルボン酸体は1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−1,4,8,11−テトラ酢酸、DTPAはジエチレントリアミンペンタ酢酸、シクラム酪酸は1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸を意味する。
対照ペプチド
ペプチド1:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys−Glu−Cys
ペプチド2:ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Cys−Asn−Asp)
ペプチド10:ホルミル−Met−Leu−Phe−Lys−ε(−Gly−Gly−Cys)
ペプチド11:ホルミル−Met−Leu−Phe−Lys−ε(−Gly−Gly−Ac−S−Bzl)
ペプチド12:ホルミル−Met−Leu−Phe−Lys−ε(−Gly−Asp−Ac−S−Bzl)
ペプチド3の合成
アプライドバイオシステムズ社製ペプチド合成機(モデル430A)を用い、Boc法によりMBHA樹脂(p−Methoxy−Benzhydrylamine Resin hydrochloride,1% Divinylbenzene−polystyrene copolymer)樹脂を用いて0.5mMスケールの条件で合成を行った。この際C末端、Lys残基の側鎖はFmoc基で保護した。ペプチド鎖を伸長、N末端アミノ基をホルミル化した後、Lys残基の側鎖Fmoc基を20%ピペリジン/DMFで切断し、側鎖側にペプチド鎖を伸長した。ペプチドの切出しは、無水フッ化水素:p−クレゾール(80:20)中、−2℃から−5℃において1.0時間反応させて行った。
精製は、カラム:YMC−Pack ODS−A SH−365−5(30×250mm)、溶出速度:20ml/分、溶出液A:0.1%TFA/精製水、溶出液B:0.1%TFA/アセトニトリル、AからBへの濃度勾配条件の下、液体クロマトグラフ法(HPLC法)を用いて行った。主ピーク分画を集め凍結乾燥して目的のペプチドを得た。得られたペプチドの純度は逆相HPLCにて検定した。
なお、MBHA樹脂のかわりにプレロードレジンを用いても同様に合成が可能であった。
さらに、6Mの塩酸内にて110℃、22時間の加水分解を行った後、得られた主ピークに対するアミノ酸組成を求め、目的のペプチド3であることを確認した後、アミノ酸組成の一致したピークを凍結乾燥し、目的のペプチド3を得た。また、分子量を求めるためのマススペクトル質量分析(以下、ESI−MS)で、理論値と一致することを確認した。以下に得られたペプチド3のアミノ酸組成の分析値(分子当たりの個数)を示す。丸かっこ内は、目的ペプチドのアミノ酸組成の理論値(分子当たりの個数)を示す。
ペプチド3=Asp:(1)1.02、Ser:(1)0.93、Gly:(1)1.03、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.01、Lys:(1)1.00、NH(2)2.10、Cys:(1)0.86、Leu(1)+Nle(2)2.88
また、得られたペプチド3のESI−MSの分析値を示す。丸かっこ内は、目的ペプチドの分子量の理論値を示す。
ESI−MS:MW=1183.9(1184.4)
その他のペプチドの合成
その他のペプチドも、同様にして合成し同定した。ペプチド1、ペプチド10、ペプチド11およびペプチド12はC末端がアミド化されていないペプチドであるため、MBHA樹脂の替わりにHMP(4−Hydroxy−Methyl−Phenoxy Methyl−Copolystyrene−1%Divinyl−Benzene Resin)樹脂を用いてペプチド3の合成で示した同様の方法にて合成した。それぞれの同定のためのアミノ酸組成分析値およびESI−MS分析値を以下に示した。ペプチド1およびペプチド10はアミノ酸組成のみ記載した。
ペプチド1=Glu:(1)1.04、Leu(1)0.99、Tyr:(1)0.98、Phe:(1)0.99、Lys:(1)1.00、Cys:(1)0.97、Nle(2)2.03
ペプチド2=Asp:(2)2.00、Leu(1)0.86、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.01、Lys:(1)1.00、NH(2)1.94+Nle(2)2.84、Cys:(1)0.88、Nle(2)2.10、ESI−MS:MW=1155.0(1155.4)
ペプチド4=Asp:(2)2.00、Ser:(1)0.90、Tyr:(1)0.99、Phe:(1)1.01、Lys:(1)1.00、NH(1)1.10、Leu(1)+Nle(2)2.84、Cys:(1)0.92、ESI−MS:MW=1243.0(1243.4)
ペプチド5=Asp:(1)1.00、Ser:(1)0.90、Gly:(1)1.01、Tyr:(1)0.97、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.03、NH(1)1.18、Leu(1)+Nle(2)2.86、Cys:(1)0.91、ESI−MS:MW=1185.1(1185.4)
ペプチド6=Asp:(3)3.19、Ser:(1)0.97、Tyr:(1)0.97、Phe:(1)0.98、Lys:(1)1.00、NH(1)1.20、Leu(1)+Nle(2)2.80、Arg:(1)1.06、Cys:(1)0.92、ESI−MS:MW=1514.4(1514.7)
ペプチド7=Ser:(1)0.92、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.02、Lys:(1)1.00、NH(1)1.15、Leu(1)+Nle(2)2.89、ESI−MS:MW=1324.3(1324.6)
ペプチド8=Asp(3)2.94,Ser:(2)1.80、Leu:(1)1.01、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.01、NH(2)2.10、Nle(1)0.95、Cys(1)1.01,ESI−MS:MW=1324.1(1324.5)
ペプチド9=Ser:(1)0.91、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)0.99、Lys:(1)1.00、NH(1)1.23、Leu(1)+Nle(2)2.87、Arg(1)1.00,ESI−MS:MW=1441.4(1441.6)
ペプチド10=Gly:(2)1.88、Met:(1)0.98、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.02、Leu(1)1.04
ペプチド11=Gly:(2)1.94、Met:(1)0.91、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.02、Leu(1)1.01、ESI−MS:MW=842.5(842.4)
ペプチド12=Asp:(1)0.94、Gly:(1)0.92、Met:(1)0.96、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.01、Leu(1)1.00、ESI−MS:MW=901.5(902.1)
ペプチド13=Ser:(1)0.92、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.01、Lys:(1)1.01、NH(1)1.11、Leu(1)+Nle(2)2.88、ESI−MS:MW=1178.3(1178.5)
ペプチド14=Asp(1)1.01,Ser:(1)0.91、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.01、NH(1)1.06、Leu(1)+Nle(2)2.89、Arg(1)1.00,ESI−MS:MW=1449.6(1449.8)
ペプチド15=Asp(1)1.01,Ser:(2)1.77、Tyr:(1)0.98、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.01、NH(2)2.09、Leu(1)+Nle(2)2.87、ESI−MS:MW=1379.5(1379.7)
ペプチド16=Asp(3)3.02,Ser:(1)0.93、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.00、NH(1)1.10、Leu(1)+Nle(2)2.86、Arg:(1)1.01、Cys:(1)1.07、ESI−MS:MW=1528.3(1528.7)
ペプチド17=Asp(3)2.95,Ser:(1)0.91、Tyr:(1)1.00、Phe:(1)1.00、Lys:(1)1.00、NH(1)1.79、Leu(1)+Nle(2)2.58、Arg:(1)1.00、Cys:(1)1.00、ESI−MS:MW=1529.4(1529.7)
ペプチド18=Asp(3)2.99,Ser:(1)0.92、Tyr:(1)0.88、Phe:(1)0.97、Lys:(1)0.97、NH(1)1.12、Leu(1)+Nle(1)1.85、Arg:(1)1.00、Cys:(1)1.03、MeNle(1)0.95,ESI−MS:MW=1500.5(1500.7)
【実施例2】
ペプチド1、ペプチド2、ペプチド3、ペプチド4、ペプチド5、ペプチド6、ペプチド7、ペプチド8、ペプチド9、ペプチド10、ペプチド13、ペプチド14、ペプチド15、ペプチド16、ペプチド17、ペプチド18のTc−99m標識
(1)方法
グルコヘプトン酸40.3μmol/300μLと塩化第一スズ溶液130nmol/50μLの混合液を含有するバイアル中にTc−99m−過テクネチウム酸ナトリウム(以下99mTcO)溶液1.1〜3.0GBqを加え、全量を1.35mLとした。時折転倒させることにより撹拌しながら室温で30分間反応させ、その一部を取り、セルロースアセテート膜電気泳動法にてTc−99m−グルコヘプトン酸のTc−99m標識率が95%以上であることを確認した。次に、実施例1で得た16種のペプチドを、それぞれジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、ついで純水または0.9%NaClを含む10mM燐酸緩衝液pH7.4(以下PBS)、あるいは10mM炭酸緩衝液pH10.0(以下CB)を用い0.25〜12.5nmol/200μlの濃度に調製した。この溶液に、Tc−99mグルコヘプトン酸溶液200μlを各々加え、混合攪拌し、100℃から120℃に加熱して10分間反応させた。標識後、その一部を取り、HPLCにより各Tc−99m標識率を求めた。HPLC条件は以下の通りである。カラム:Millipore puresil 5μm C18(4.6×150mm)、溶出速度:1mL/min、検出波長:220nm、放射能検出器:NaIシングルチャンネルアナライザー、溶出液A:0.1%トリフルオロ酢酸(以下TFA)/精製水、溶出液B:0.1%TFA/アセトニトリル、濃度勾配:0分(20%B)→20分(50%B)。
(2)結果
表1に16種のTc−99m標識ペプチドの標識率を示す。得られた標識化合物のHPLC分析の代表的クロマトグラムとしてを図1にペプチド4、図2にペプチド6の結果を示す。いずれのペプチドも単一の標識生成物を認めた。表1に示した標識率の結果から上記による標識条件で、80%以上の高いTc−99m標識が可能であることが示された。

【実施例3】
ウサギ血液内分布
(1)実施例2においてTc−99m標識したペプチド3、ペプチド4、ペプチド6、ペプチド8、ペプチド9、ペプチド12、ペプチド13、ペプチド14、ペプチド15、ペプチド16、ペプチド17およびペプチド18を、実施例2と同じHPLC条件の逆相HPLCにて未標識のペプチドと標識ペプチドの分離精製を行った。グラジエント設定は20%→50%(0.1%TFAアセトニトリル/0.1%TFA水):0→20分で行った。続いてPercoll比重勾配液を作製した。Percoll(ファルマシアバイオテク社製)原液(比重1.130g/mL)90mLに1.5MNaCl 10mLを添加し、生理食塩液と等浸透圧とした。この溶液を生理食塩液で希釈し、1.096、1.077、1.063g/mLのPercoll溶液を調製した。調製した1.096、1.077、1.063g/mLのPercoll溶液を15mL管に各々1mLずつ重層した。比重マーカービーズ(赤:1.062、青:1.075、橙:1.087、緑:1.098)により目的の相度であることを確認した。試験に用いる血液は、病原菌の接触の無いSPF(Specific Pathogen Free)でかつ健康なニュージーランドホワイト(NZW)系ウサギ雄2kg前後の耳静脈より採血を行い、検討に供した。
また、急性炎症である感染症を伴ったウサギ血液における血液内分布を確認するため、健康なウサギの血液の代わりに、黄色ブドウ球菌にて起炎されたウサギの血液を用いて行った。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の約10個の生菌を生理食塩液1mLに懸濁させ、その内の100μlをニュージーランドホワイト(NZW)系ウサギ雄2kg前後の右ふくらはぎに筋肉内投与した。その24時間後にウサギの耳静脈より血液採血を行い、検討に供した。
さらに慢性炎症である潰瘍性大腸炎モデルウサギの血液における血液内分布を確認するため、健康なウサギの血液の代わりに、2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)にて起炎されたウサギの血液を用いて行った。アンソニーらの方法(Anthony et al.Int.J.Exp.Path.,76,215−224(1995))に基づいて、ウサギ潰瘍性大腸炎モデルを作製した。即ち、TNBS 360mgを純水4mLに溶解し、その後エタノール3.2mL加え、50.0mg/mL46%エタノール/生理食塩液とした。1日前に絶食を行ったネンブタール麻酔下のニュージーランドホワイト(NZW)ウサギ7週齢(1.3〜1.4kg)雄の肛門部より、チューブを約15cm挿入し、空気を3mL注入した。次に、TNBS/46%エタノール/生理食塩液を0.8mL注入し、2分間マッサージおよび体位変更を行った。4〜5日後にウサギの耳静脈より血液採血を行い、検討に供した。
ウサギ血液2mLを37℃湯浴中にて5分加温した。続いてHPLC精製を行ったTc−99m−ペプチド4種の試料液3μL(111MBq/mL、Tc−99m−ペプチドとして1.8×10−11mol/mL)を加えた後、30分インキュベーションを行った。その血液試料を調製したPercoll比重勾配液に静かに重層した。2000rpm(800×g)15分間の遠心分離を行い、分離後チューブを凍結させた後、各画分をカッターで切断し、それぞれをオートウェルガンマカウンターにて放射能量を測定し、Tc−99m−ペプチド4種の血液に占める各成分の放射能分布を求めた。
(2)結果
ウサギの血液学的パラメーターから白血球数1000〜8000cell/μL、文献でみられる受容体FPR数100,000〜120,000/cellの数値を基に、ウサギ血液の受容体FPRの推定量は0.17〜1.6×10−1mol/mLと計算され、ウサギにおけるペプチド/受容体比は0.01〜0.11であった。全血液中の放射能量に対する各血液成分の放射能量の百分率を示した結果を図3に示す。また、全白血球の放射能量に対する顆粒球画分の放射能量とリンパ球および単球画分の放射能量の百分率を示した結果を表2および表3に示す。
健康なSPFウサギ血液において、Tc−99m−ペプチド3およびTc−99m−ペプチド12は、顆粒球画分ならびにリンパ球および単球画分への分布は共に全血液中の放射能の5%以下で、強い結合はみられなかった。
黄色ブドウ球菌による感染症を伴ったウサギ血液においては、Tc−99m−ペプチド4は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能量の10.78%が分布し、リンパ球および単球画分には10.22%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は50.22%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は49.78%であった。Tc−99m−ペプチド6は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能量の18.27%が分布し、リンパ球および単球画分には20.21%分布した。また全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は47.65%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は52.35%であった。ペプチド8、ペプチド9、ペプチド12、ペプチド13、ペプチド14、ペプチド15、ペプチド16ペプチド17およびペプチド18の各Tc−99m標識化合物は、全血液中の放射能量の10%以上が白血球に分布し、またリンパ球および単球画分には全白血球の放射能量に対して約27%から約77%の範囲で分布していた。
比較対照のTc−99m−ペプチド12は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の39.73%が分布し、リンパ球および単球画分には8.89%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は81.58%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は18.42%であった。これらの結果から、本発明の一部であるペプチド4、ペプチド6、ペプチド8、ペプチド9、ペプチド12、ペプチド13、ペプチド14、ペプチド15、ペプチド16、ペプチド17およびペプチド18の各Tc−99m標識化合物は、黄色ブドウ球菌による感染症を伴ったウサギ血液において従来技術のペプチドTc−99m−ペプチド12よりもリンパ球および単球画分により多く分布していたことが明らかとなった。
一方、TNBSによる潰瘍性大腸炎モデルのウサギ血液においては、図3に示されたように、Tc−99m−ペプチド3は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の18.44%が分布し、リンパ球および単球画分には15.94%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は表3に示されたように、53.72%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は46.28%であった。Tc−99m−ペプチド6は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の45.44%が分布し、リンパ球および単球画分には12.60%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は78.27%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は21.73%であった。比較対照のTc−99m標識ペプチド12は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の15.10%が分布し、リンパ球および単球画分には8.34%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は64.66%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は35.34%であった。
これらの結果から、本発明の一部であるTc−99m−ペプチド3およびTc−99m−ペプチド6は、TNBSによる潰瘍性大腸炎モデルのウサギ血液において従来技術のペプチドTc−99m−ペプチド12よりもリンパ球および単球画分により多く分布していたことが明らかとなった。
以上のことから、本発明のペプチドが、従来技術であるTc−99m−ペプチド12と比べて、顆粒球への結合よりもリンパ球および単球により強く結合することが示され、リンパ球および単球が多く浸潤する慢性炎症に本発明のペプチドが有効であることが確認された。


【実施例4】
ペプチド3、ペプチド4、ペプチド6、ペプチド12のTc−99m標識化合物のウサギ感染症モデルによるイメージング、急性期および亜急性期炎症に対する有用性
(1)方法
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の約10個の生菌を生理食塩液1mLに懸濁させ、その内の100μlをニュージーランドホワイト(NZW)系ウサギ2kg前後の右ふくらはぎに筋肉内投与し、24時間経過後、明らかに炎症が認められたモデルウサギにペントバルビタール麻酔を施し、実施例2で得られたTc−99mで標識したペプチド3、ペプチド4、ペプチド5、ペプチド6、ペプチド7、ペプチド8、ペプチド9、ペプチド12、ペプチド13、ペプチド14、ペプチド15、ペプチド16、ペプチド17、およびペプチド18の37〜74MBqを耳静脈内投与し、投与後5分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間及び22時間にガンマカメラにてイメージを撮像した。投与後5分から5時間までの時間点は起炎開始後約24時間から29時間であり、急性期炎症に相当する。また投与後22時間は起炎開始後約46時間であり、亜急性期炎症に相当する。
(2)結果
得られた結果の代表図を、図4、図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、及び図15に示す。イメージ上に関心領域を設定し、全身カウントに対する各関心領域1000画素あたりのカウントの割合(%投与量/Kpixel)を求めた結果を表4に示す。また、その割合から〔炎症〕/〔正常筋肉〕比([A]/[M]比)を求めた結果を表5に示す。
その結果、従来技術のTc−99m−ペプチド12は、投与後2時間(起炎後26時間、急性期炎症)の[A]/[M]比は10.34±3.34(以下平均値±標準誤差の順で示す)(n=3)、投与後22時間(起炎後46時間、亜急性期炎症)の[A]/[M]比は33.94±20.76(n=3)を示したが、炎症部位への集積は投与後2時間(起炎後26時間)の1.66±0.63%投与量/K pixelから、投与後22時間(起炎後46時間)では0.90±0.29%投与量/Kpixelと減少した。
これに対し、本発明であるTc−99m−ペプチド3は、投与後2時間(起炎後26時間)の[A]/[M]比は6.55±2.06(n=5)、投与後22時間(起炎後46時間)の[A]/[M]比は54.16±32.86(n=5)を示し、さらに炎症への集積は投与後2時間(起炎後26時間)の0.93±0.31%投与量/K pixelから、投与後22時間(起炎後46時間)では3.70±2.67%投与量/K pixelと増大した。また、Tc−99m−ペプチド4は、投与後2時間(起炎後26時間)の[A]/[M]比は6.75±2.71(n=3)、投与後22時間(起炎後46時間)の[A]/[M]比は29.07±19.97(n=3)を示し、従来技術のTc−99m−ペプチド12よりも低い値を示したが、炎症への集積は投与後2時間(起炎後26時間)の1.09±0.22%投与量/K pixelから、投与後22時間(起炎後46時間)では1.85±0.34%投与量/K pixelと増大した。また、Tc−99m−ペプチド6は、投与後2時間(起炎後26時間)の[A]/[M]比は14.25±0.31(n=3)、投与後22時間(起炎後46時間)の[A]/[M]比は43.84±12.58(n=3)を示し、炎症への集積は投与後2時間(起炎後26時間)の1.22±0.05%投与量/K pixelから、投与後22時間(起炎後46時間)では1.77±0.07%投与量/K pixelと増大した。
一般的に、感染後およそ24時間程度までは炎症巣へ浸潤する白血球の多くが好中球(顆粒球の大部分を占める)から構成されるが、その後徐々に減少し、浸潤する白血球の主体はマクロファージをはじめとする単球およびリンパ球となる。臨床上、核医学検査を必要とする炎症の多くは、単球およびリンパ球の浸潤が顕著となった亜急性期以降の炎症である。この検討の結果により、本発明のペプチドが起炎後26時間(投与後2時間)の急性期のみならず、亜急性期にあたる起炎後46時間(投与後22時間)でも極めて有用であることが示された。


【実施例5】
ペプチド3、ペプチド4、ペプチド6、ペプチド12のTc−99m標識化合物の体内動態
(1)方法
実施例2で得たTc−99m−ペプチド3、Tc−99m−ペプチド4、Tc−99m−ペプチド6及びTc−99m−ペプチド12の4種のTc−99m標識化合物のラット体内分布実験を行った。体内分布実験は、当業者の行う通常の方法で行った。即ち、試料の3.0〜3.7MBqを非絶食下のSD(Sprague−Dawley)ラット(体重140〜200g)にラボナール麻酔下尾静脈より投与し、投与後5分、30分、60分及び180分にラットを腹部大動脈より放血屠殺し、各臓器を摘出しそれぞれの臓器の放射能カウントをNaIシングルチャンネルアナライザーにて測定した。また、重量を測定し、これらにより体内分布を算出した。各臓器の放射能の割合を、臓器あたりの値(%ID/臓器)、またはグラムあたりの値(%ID/g臓器)で表した。
(2)結果
表6、表7、表8及び表9にその結果を示す。また、表6、表7、表8及び表9の結果から尿および小腸の経時変化をそれぞれ図16および図17に示す。
表6、表7、表8、表9、図16および図17より、Tc−99m標識ペプチドの正常ラット体内分布は、ZおよびWのアミノ酸残基の違いで大きく体内動態が異なることが認められた。即ち、従来技術のTc−99m−ペプチド12の代謝経路は、投与後5分における肝臓への高い集積、各時間点における胃への他ペプチドに対する高い集積、小腸への各時間点における高い集積、小腸から続く盲腸への180分点での高い集積がみられることから、肝胆道系排泄経路が主流であった(図17)。また小腸への集積が高いことは、炎症性腸疾患などの腹部炎症を描出することは困難である。
これに対し、本発明のペプチドのうち、請求項1記載の式におけるTおよびUを荷電性アミノ酸および酸性アミノ酸アミドなどの親水性アミノ酸に変更あるいは付加したペプチド3、ペプチド4およびペプチド6のTc−99m標識化合物は、Tc−99m−ペプチド12でみられる動態とは異なり、尿への排泄が促進された(図16)。特にTc−99m−ペプチド6でその傾向が顕著であった。この特徴は、炎症性腸疾患などの腹部炎症を描出することにおいて極めて重要であり、本発明によるペプチドは、従来技術であるペプチド12に比べて、腹部、特に小腸への分布が低く、腹部の白血球浸潤が起こっている部位などをみる上で、より有効となることが示唆された。




【実施例6】
ラット潰瘍性大腸炎モデルにおける体内動態、慢性炎症に対する有用性
(1)方法
炎症モデル作製:アンソニーらの方法(Anthony et al.Int.J.Exp.Path.,76,215−224(1995))に基づいて、ラット潰瘍性大腸炎モデルを作製した。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)360mgを純水4mLに溶解し、その後エタノール3.2mL加え、50.0mg/mL46%エタノール/生理食塩液とした。24時間前に絶食を行ったエーテル麻砕下のSD系ラット(Splague Dawley,Specific Pathogen Free)雌7週齢(164〜177g)の肛門部より、チューブを7〜8cm挿入し、空気を0.1mL注入した。次に、TNBS/46%エタノール/生理食塩液を0.2mL注入し、2分間マッサージおよび本位変更を行った5日後に実験に供した。
実施例2で得られたTc−99m−ペプチド3、Tc−99m−ペプチド4、Tc−99m−ペプチド6および比較対照として従来技術のTc−99m−ペプチド12それぞれ1匹あたり約7.4MBqを尾静脈内投与し、5分後、30分後、60分後、180分後に屠殺し各臓器の放射能分布をNaIシングルチャンネルアナライザーにて測定し、各臓器あたりの%投与量、臓器1gあたりの%投与量を求めた。起炎個所をもつ直腸を炎症部位として、臓器1gあたりの%投与量を基に[直腸(炎症)]/[筋肉]比([A]/[M]比)および[直腸(炎症)]/[血液]比(「A]/[B]比)を求めた。
(2)結果
結果を、表10、表11、表12および表13に示す。
Tc−99m−ペプチド3は、投与後5分では[A]/[M]比3.36±0.58、投与後180分では7.91±1.16を示し、非炎症部位である筋肉に対して炎症部位は高い放射能を示すとともに[A]/[M]比の経時的増加傾向を示した。また投与後60分以降、[A]/[B]比は1を超え、投与後180分では2.00±1.50を示し、増加傾向がみられた。これは血流増加を反映した非特異的集積ではなく、炎症への特異的集積によるものと考えられる。
Tc−99m−ペプチド4は、投与後5分では[A]/[M]比4.37±0.68、投与後180分では9.29±2.82を示し、非炎症部位である筋肉に対して炎症部位は高い放射能を示すとともに[A]/[M]比の経時的増加傾向を示した。また投与後60分以降、[A]/[B]比は1を超え、投与後180分では1.51±0.41を示し、増加傾向がみられた。これは血流増加を反映した非特異的集積ではなく、炎症への特異的集積によるものと考えられる。
Tc−99m−ペプチド6は、投与後5分では[A]/[M]比4.41±0.97、投与後180分では16.50±11.08を示し、非炎症部位である筋肉に対して炎症部位は高い放射能を示すとともに[A]/[M]比の経時的増加傾向を示した。また投与後30分以降、[A]/[B]比は1を超え、投与後180分では2.74±1.72を示し、増加傾向がみられた。これは血流増加を反映した非特異的集積ではなく、炎症への特異的集積によるものと考えられる。
Tc−99m−ペプチド12は投与後5分では[A]/[M]比4.66±3.13、投与後180分では6.22±4.61を示し、本発明のペプチドと比較して低い[A]/[M]比であった。
また[A]/[M]比は投与後60分で最大値11.10±12.33を示したものの、その後減少した。[A]/[B]比では、投与後60分で、1.89±2.39を示したものの、その後減少し、投与後180分では1.00±0.89であった。
本検討から、従来技術のペプチド12よりも、リンパ球および単球の浸潤が多い慢性期の炎症部位への集積性および滞留性などの点でも本発明のペプチドが優れ、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症に対しても有用であることが示された。




【実施例7】
Tc−99m標識されたペプチド3、ペプチド6のヒト血液内分布
(1)方法
本発明がヒトを対象とした臨床においても有効であるかを確認するため、ヒト血液を用いた検討で、本発明のペプチド2種について白血球に対する結合性を確認した。実施例2にてTc−99m標識されたペプチド3、ペプチド6を、実施例2と同じHPLC条件の逆相HPLCにて未標識のペプチドと標識ペプチドの分離精製を行った。グラジエント設定は20%→80%(0.1%TFAアセトニトリル/0.1%TFA水):0→20分で行った。(ペプチド6の精製後の放射能量は111MBq/mLであった。)
また従来技術のペプチドとして、Tc−99m−ペプチド11、Tc−99m−ペプチド12の調製を行った。ペプチド11とペプチド12をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、濃度0.1mg/500μLに調製した。酒石酸/PBS液(5mg/200mL)にSnCl/10mM塩酸溶液(5mg/10mL)50mLを添加し、ペプチド溶液を加えて直ちに99mTcO溶液(2738MBq/mL)を0.25mL注入した。数秒振盪後120℃10分の標識反応を行った。終濃度は〜855.6MBq/125mg/mLであった。分取精製および放射化学的純度の測定をHPLCを用い行った。分析条件は、実施例2と同様の条件で、グラジエント設定は20%→50%(0.1%TFAアセトニトリル/0.1%TFA水):0→20分で行った。精製後の放射能濃度は287〜311MBq/mLであった。
続いて、実施例3に記載された方法に基づいてPercoll比重勾配液を作製した。
40歳までの成人ボランティアより20〜30mLの血液を採取した。続いてTc−99m標識ペプチドそれぞれを30μL(111MBq/mL、Tc−ペプチドとして1.8×10−11mol/mL)加えた後、30分インキュベーションを行った。その血液試料2〜3mLを抜き取り、調製したPercoll比重勾配液に静かに重層した。2000rpm(800×g)15分間の遠心を行い、チューブを凍結させた後、各画分をカッターで切断し、それぞれをオートウェルガンマカウンターにて放射能量を測定し各血液成分中のTc−99m標識ペプチドの放射能分布を求めた。
(2)結果
ヒトの血液学的パラメーターから白血球数4100〜6100cell/mL、文献でみられる受容体FPR数100,000〜120,000/cellの数値を基に、ヒト血液の受容体FPRの推定量は0.68〜1.2×10−12mol/mLと計算され、ヒトにおけるペプチド/受容体比は0.03〜0.01であった。Tc−99m−ペプチド4種及び陰性対照(Tc−99m−グルコヘプトン酸)のヒト血液内分布の結果を図18に示す。また、Tc−99m−ペプチド4種の全白血球の放射能量に対する顆粒球画分の放射能量とリンパ球および単球画分の放射能量の百分率を示した結果を表14に示す。Tc−99m−ペプチド3、Tc−99m−ペプチド11、Tc−99m−ペプチド12のn数は1、Tc−99m−ペプチド6のn数は3である。
Tc−99m−ペプチド3は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の21.91%が分布し、リンパ球および単球画分には39.98%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は35.41%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は64.59%であった。この結果から、本発明の一部であるTc−99m−ペプチド3は、健常なヒト血液において従来技術のペプチドTc−99m−ペプチド11およびペプチドTc−99m−ペプチド12よりもリンパ球および単球画分により多く分布していたことが明らかとなった。
Tc−99m−ペプチド6は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の29.45%が分布し、リンパ球および単球画分には6.59%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は81.94±8.67%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は18.07±8.67%であった。この結果から、本発明の一部であるTc−99m−ペプチド6は、健常なヒト血液において従来技術のペプチドTc−99m−ペプチド11よりもリンパ球および単球画分により多く分布していたことが明らかとなった。
一方、陰性対照のTc−99m−グルコヘプトン酸は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の1.11%が分布し、リンパ球および単球画分には2.52%分布した。血漿画分には95.39%が分布した。白血球結合の起こらない陰性対照であるため、全白血球の放射能量に対する顆粒球画分ならびにリンパ球および単球画分の放射能量の割合は算出しない。
Tc−99m−ペプチド11はヒト血液において、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の58.70%が分布し、リンパ球および単球画分には8.02%が分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は87.98%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は12.03%であった。
Tc−99m−ペプチド12はヒト血液において、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の25.09%が分布し、リンパ球および単球画分には13.77%が分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は64.57%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は35.43%であった。
以上の結果から、本発明のペプチドは、陰性対照のTc−99m−グルコヘプトン酸および従来技術であるTc−99m−ペプチド11あるいはTc−99m−ペプチド12と比べて、顆粒球への結合よりもリンパ球および単球により強く結合することが示された。また、実施例4および実施例6の結果を勘案しても、リンパ球および単球が多く浸潤する慢性炎症に本発明のペプチドが有効であることが確認された。

【実施例8】
Tc−99m標識されたペプチド3、ペプチド6のラット血液内分布
(1)方法
炎症モデル作製:アンソニーらの方法(Anthony et al.Int.J.Exp.Path.,76,215−224(1995))に基づいて、ラット潰瘍性大腸炎モデルを作製した。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)360mgを純水4mLに溶解し、その後エタノール3.2mL加え、50.0mg/mL46%エタノール/生理食塩液とした。24時間前に絶食を行ったエーテル麻酔下のSD系ラット(Splague Dawley、Specific Pathogen Free)雌7週齢(164〜184g)の肛門部より、チューブを7〜8cm挿入し、空気を0.1mL注入した次に、TNBS/46%エタノール/生理食塩液を0.2mL注入し、2分間マッサージおよび体位変更を行った。これを3日連続して行い、最終投与日の4日後に実験に供し、血液を採取した。採取した血液2mLを37℃湯浴中にて5分加温した。続いてHPLC精製を行ったTc−99m−ペプチド3,Tc−99m−ペプチド6の試料液3μL(111MBq/mL、Tc−99m−ペプチドとして1.8×10−11mol/mL)を加えた後、30分インキュベーションを行った。その血液試料を調製したPercoll比重勾配液に静かに重層した。2000rpm(800×g)15分間の遠心分離を行い、分離後チューブを凍結させた後、各画分をカッターで切断し、それぞれをオートウェルガンマカウンターにて放射能量を測定し、Tc−99m−ペプチド3,Tc−99m−ペプチド6の血液に占める各成分の放射能分布を求めた。
(2)結果
ラット雌の血液学的パラメーターから白血球数6600〜12600cell/μL、文献でみられる受容体FPR数100,000〜120,000/cellの数値を基に、ラット血液の受容体FPRの推定量は1.1〜2.5×10−12mol/mLと計算され、ラットにおけるペプチド/受容体比は0.02〜0.05であった。全血液中の放射能量に対する各血液成分の放射能量の百分率を示した結果を図19に示す。また、全白血球の放射能量に対する顆粒球画分の放射能量とリンパ球および単球画分の放射能量の百分率を示した結果を表15に示す。TNBSによる潰瘍性大腸炎モデルのラット血液において、Tc−99m−ペプチド3は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の7.82%が分布し、リンパ球および単球画分には10.00%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は43.69%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は56.31%であった。Tc−99m−ペプチド6は、30分のインキュベーション後顆粒球画分に全血液中の放射能の18.34%が分布し、リンパ球および単球画分には6.57%分布した。また、全白血球の放射能量に対して顆粒球画分の放射能量は74.08%であり、リンパ球および単球画分の放射能量は25.92%であった。
これらの結果から、本発明の一部であるTc−99m−ペプチド3およびTc−99m−ペプチド6は、TNBSによる潰瘍性大腸炎モデルのラット血液において、リンパ球および単球画分にも多く分布していたことが明らかとなった。
以上のことから、本発明のペプチドが、リンパ球および単球が多く浸潤する慢性炎症に本発明のペプチドが有効であることが確認された。

【実施例9】
ペプチド3、ペプチド6のTc−99m標識化合物のラット大腸炎モデルによるイメージング、慢性期炎症に対する有用性
(1)方法
炎症モデル作製:アンソニーらの方法(Anthony et al.Int.J.Exp.Path.,76,215−224(1995))に基づいて、ラット潰瘍性大腸炎モデルを作製した。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)360mgを純水4mLに溶解し、その後エタノール3.2mL加え、50.0mg/mL46%エタノール/生理食塩液とした。24時間前に絶食を行ったエーテル麻酔下のSD系ラット(Splague Dawley,Specific Pathogen Free)雌7週齢(164〜184g)の肛門部より、チューブを7〜8cm挿入し、空気を0.1mL注入した。次に、TNBS/46%エタノール/生理食塩液を0.2mL注入し、2分間マッサージおよび体位変更を行った。これを3日連続して行い、最終投与日の4日後に実験実験に供した。実施例2で得られたTc−99m−ペプチド3、Tc−99m−ペプチド6をそれぞれ1匹あたり約37MBqの放射能量で尾静脈内投与し、5分後、30分後、60分後、120分後にガンマカメラにてイメージを撮像した。比較対照として、ヒトにおいて潰瘍性大腸炎を診断するのに利用されるTc−99m標識白血球をロカらの方法(M.Roca et al.Eur J Nucl Med 1998 25,797−799)を基に調製して、これを1匹あたり約37MBqの放射能量で尾静脈内投与し、5分後、30分後、60分後、120分後にガンマカメラにてイメージを撮像した。Tc−99m標識白血球は、顆粒球、リンパ球および単球などの全ての白血球を含んで調製された。また撮像終了後、つまり投与後130分にて腹部大動脈より脱血した後、各臓器を取り出し、重量および放射能量をそれぞれ測定し、組織1gあたりの放射能量(%ID/g)を算出した。さらに算出された数値を用いて〔炎症〕/〔筋肉〕比([A]/[M]比),〔炎症〕/〔血液〕比([A]/[BL]比),〔炎症〕/〔骨〕比([A]/[BO]比),〔炎症〕/〔盲腸〕比([A]/[AP]比),〔炎症〕/〔結腸〕比([A]/[C]比),〔炎症〕/〔直腸〕比([A]/[R]比)を求めた。
(2)結果
得られた結果の代表図を、図20、図21及び図22に示す。イメージ上に関心領域を設定し、全身カウントに対する各関心領域1画素あたりのカウントの割合(%投与量/pixel)を求めた結果を表16に示す。また、その割合から〔炎症〕/〔腹部バックグラウンド〕比([A]/[BG]比)を求めた結果を表17に示す。さらに解剖の結果得られた炎症の%ID/g,[A]/[M]比,[A]/[BL]比,[A]/[BO]比,[A]/[AP]比,[A]/[C]比,[A]/[R]比を表18および図23に示した。その結果、比較対照のTc−99m標識白血球は、投与後30分の%投与量/pixelは0.111±0.025(以下平均値±標準誤差の順で示す)(n=5)、[A]/[BG]比は3.21±1.96(n=5)を示した。また投与後130分に脱血し解剖を行った結果得られた炎症1gあたりの放射能量(%ID/g)は0.71±0.33であったが、[A]/[BO]比は2.08±1.37を示し、また[A]/[BL]比は0.25±0.17を示し、炎症よりも血液に多く分布していた。
これに対し、本発明であるTc−99m−ペプチド3は、投与後30分の%投与量/pixelは0.043±0.015(n=5)、[A]/[BG]比は2.23±0.77(n=5)を示した。また投与後130分に脱血し解剖を行った結果得られた炎症1gあたりの放射能量(%ID/g)は0.13±0.12であったが、[A]/[BO]比は3.40±2.78を示し、また[A]/[BL]比は2.33±2.22を示した。これは血液よりも炎症部位により多く放射能が分布していることを示している。また、Tc−99m−ペプチド6は、投与後30分の%投与量/pixelは0.093±0.048(n=5)、[A]/[BG]比は2.15±0.53(n=5)を示した。また投与後130分に脱血し解剖を行った結果得られた炎症1gあたりの放射能量(%ID/g)は0.55±0.51であったが、[A]/[BO]比は4.44±2.74を示し、また[A]/[BL]比は2.88±1.61を示した。これはペプチド3と同様に血液よりも炎症部位により多く放射能が分布していることを示している。これらのことより比較対照のTc−99m標識白血球よりも、血液の影響を受けやすい、肝臓、脾臓、心臓、腎臓、脳、骨などの血流の多い臓器において特に炎症の描出に優れていると判断された。特にペプチド6は、[A]/[M]比,[A]/[BL]比,[A]/[BO]比,[A]/[AP]比,[A]/[C]比,[A]/[R]比において,比較対照のTc−99m標識白血球よりも優れた数値を示し,本発明のペプチドが、慢性炎症である潰瘍性大腸炎においても優れていることが確認された。



【実施例10】
ペプチド6、ペプチド14のTc−99m標識化合物のラット大腸炎モデルによるオートラジオグラフィ、慢性期炎症に対する有用性
(1)方法
アンソニーらの方法(Anthony et al.Int.J.Exp.Path.,76,215−224(1995))に基づいて、ラット潰瘍性大腸炎モデルを作製した。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)360mgを純水4mLに溶解し、その後エタノール3.2mL加え、50.0mg/mL46%エタノール/生理食塩液とした。24時間前に絶食を行ったエーテル麻酔下のSD系ラット(Splague Dawley,Specific Pathogen Free)雌7週齢(164〜184g)の肛門部より、チューブを7〜8cm挿入し、空気を0.1mL注入した。次に、TNBS/46%エタノール/生理食塩液を0.2mL注入し、2分間マッサージおよび体位変更を行った。これを3日連続して行い、最終投与日の4日後に実験実験に供した。実施例2で得られたTc−99m−ペプチド6、Tc−99m−ペプチド14をそれぞれ1匹あたり約74MBqの放射能量で尾静脈内投与し、120分後に脱血および屠殺を行った。直ちに大腸を摘出し、内容物を取り除いた後、肉眼的評価にて炎症部位と判断される個所を凍結切片作製用のメディウムに包埋した。その後直ちに液体窒素内に容器と共に数十秒間浸して、大腸炎切除部位を含むメディウムを凍結した。−20℃の冷凍庫に数十分間静置した後、クリオスタットにて凍結切片の作成を行った。切片作製後、オートラジオグラフィ用イメージングプレート(富士フィルム社製)に12から19時間密着した。続いてイメージングアナライザーBAS2500(富士フィルム社製)にて放射能分布を画像化した。また、同様に作製した凍結切片を顆粒球抗体および単球抗体の免疫組織化学染色を行い、顆粒球および単球の組織への浸潤を確認した。
(2)結果
得られた結果の代表的な図を図24、図25、図26に示す。また、オートラジオグラフィの結果から得られたイメージ上に関心領城を設定し、各関心領域1画素あたりのカウントを求め、それを基に〔炎症〕/〔正常組織〕比([A]/[N]比)を求めた結果を図27に示す。
起炎を施したラットは、直腸部に2cmから4cm幅の炎症が腸管全周に形成されており、全てのラットに炎症部位があることを確認した。免疫組織化学染色の結果、炎症部位に顆粒球および単球の著しい浸潤が観察され、顆粒球および単球は炎症部に一致した分布を示した。比較対照のTc−99m標識白血球は、免疫染色像による顆粒球と単球の分布と一致した放射能の分布がみられた。
一方、Tc−99m標識されたペプチド6とペプチド14はどちらも比較対照のTc−99m標識白血球と同様に、免疫染色像による顆粒球と単球の分布と一致した放射能の分布がみられた。同一の切片内で得た[A]/[N]比を比較対照のTc−99m標識白血球、Tc−99m−ペプチド6およびTc−99m−ペプチド14で比較すると、Tc−99m−ペプチド6およびTc−99m−ペプチド14は比較対照のTc−99m標識白血球よりも高い[A]/[N]比を示し、本発明のペプチドが、慢性炎症である潰瘍性大腸炎においても優れていることが確認された。
【実施例11】
ペプチド3、ペプチド4、ペプチド6、ペプチド8、ペプチド9、ペプチド16ペプチド17、ペプチド18のリコンビナントヒト受容体結合阻害アッセイ)
(1)方法
CHO細胞由来リコンビナント受容体FPR(6.24pmol/mL,50mM Tris−HCl pH7.4,10%glycerol,1%BSA,Bio Signal Packard Inc.アマシャムバイオサイエンス)および[H]−FMLP(fMLF,9.25MBq/2.88〜6.25nmol,第一化学薬品(株)).を用いて実施した。一定量の受容体FPR(0.05nM,200μL/well)に各ペプチドを10−4〜10−14Mの濃度範囲で加えた後,一定量の[H]FMLP(0.3nM,25μL/well)を加えた。反応後にGF/Cフィルターにて受容体FPR未結合の[H]−FMLPと受容体FPR結合の[H]−FMLPとを分離し,受容体FPR結合の[3H]−FMLPの放射能量を測定することにより、[H]FMLPの受容体FPRへの結合量を求めた。[H]FMLPの結合を50%に阻害する各ペプチド濃度(IC50)を解析ソフト「Xlfit ver 3.0.3(CTCラボラトリーシステムズ(株))」により求め、さらに[H]FMLPのKd値から阻害定数(Ki)を求めた。試験を3回行い、各試験では測定を3回行い、平均値を求めた。
(2)結果
得られた結果を図28に示す。また算出されたIC50値およびKi値を表19に示す。比較対照であるFMLPはKi値が(2.33±0.45)×10e−10Mと算出された。これに対し、ペプチド3はKi値が(6.50±1.84)×10e−9M,ペプチド4はKi値が(8.36±3.74)×10e−10M,ペプチド6はKi値が(2.83±1.07)×10e−10M,ペプチド8はKi値が(2.33±0.91)×10e−9M,ペプチド9はKi値が(1.28±0.69)×10e−10Mと算出された.またN末端のホルミル基をアセチル基に変えたペプチド16、カルバミル基に変えたペプチド17、メチル基に変えたペプチド18のそれぞれのKi値は、(3.74±3.53)×10e−6M、(4.24±3.60)×10e−7M、(3.83±1.12)×10e−5Mを示し、本発明によるペプチドは、受容体FPRに対する親和性を有しており、受容体FPRを発現する白血球を介した炎症診断に有用であることが確認された。

【実施例12】
ペプチド6のTc−99m標識化合物のウサギ感染症モデルによる阻害イメージング、生体内での白血球結合の確認
(1)方法
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の約10個の生菌を生理食塩液1mLに懸濁させ、その内の100μlをニュージーランドホワイト(NZW)系ウサギ2kg前後の右ふくらはぎに筋肉内投与し、24時間経過後、明らかに炎症が認められたモデルウサギにペントバルビタール麻酔を施した。実施例2で得られたテクネチウム−99mで標識したペプチド6を約74MBqの投与放射能量で耳静脈内投与し、投与後5分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間にガンマカメラにてイメージを撮像した。ペプチド6の炎症集積が、FMLPにより阻害されるか確認するために設定したFMLPプレ投与群では、推定受容体最大量0.1nmol/kgの約1万倍に相当するFMLP1mgを5%DMSO/生理食塩水に溶解し、これをFMLP溶液として、テクネチウム−99mで標識したペプチド6の投与の5分前に耳静脈より投与した。FMLPを投与していない群と同様に投与後5分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間にガンマカメラにてイメージを撮像した。
(2)結果
得られた結果の代表図を、図29及び図30に示す。イメージ上に関心領域を設定し、全身カウントに対する各関心領域1000画素あたりのカウントの割合(%投与量/Kpixel)を求めた結果を表20に示す。また、その割合から〔炎症〕/〔正常筋肉〕比([A]/[M]比)を求めた結果を表21に示す。その結果、FMLP阻害無しのTc−99m−ペプチド6は、投与後2時間の炎症部位への集積は1.77±0.25%投与量/Kpixel(以下平均値±標準誤差の順で示す)(n=3)であり、投与後5時間では2.62±0.25%投与量/Kpixelと増加し、[A]/[M]比も投与後2時間の12.78±6.14から投与後5時間の21.39±5.39と増加していた。一方、FMLP阻害有りのTc−99m−ペプチド6は、[A]/[M]比は投与後2時間の3.93±0.60と「FMLP阻害無し」と比べて低く、投与後5時間の9.05±3.10と増加していたものの、炎症部位への集積は投与後2時間の0.41±0.10%投与量/Kpixelから、投与後5時間では0.30±0.04%投与量/Kpixelと減少した。
このことは、本発明の一部であるペプチド6が白血球に存在する受容体FPRに結合することにより、炎症部位を描出していることが確認され、本発明のペプチドの集積は白血球浸澗を伴う炎症が起きていることを示していると考えられた。


【産業上の利用の可能性】
本発明により、生体内外ですべての白血球、すなわち好中球、単球、リンパ球に対して特異的な結合性を示し、かつ放射性金属または常磁性金属で標識可能な化合物、該標識化合物を有効成分とするSPECT画像診断、PET画像診断、MRI画像診断に有用な医薬組成物の提供が可能となり、個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行う画像診断が可能となった。
【配列表】










【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
Z−Y−Leu−Phe−(X)n−Lys(NH)m−ε(−R−(T)l−U) (1)
(式(1)中、Zはアミノ基の保護基を表し;
YはMetまたはNleを表し;
(X)nにおいて、Xは1個もしくはそれ以上のアミノ酸および/または有機合成可能な化合物よりなるスペーサー、nは1または0を表し;
(NH)mにおいて、NHはLysのα位のカルボキシル基の保護基としてのアミド基、mは1または0を表し;
ε(−R−(T)l−U)において、RはLysのε−アミノ基にアミド結合したSerまたはThr、Tは1個もしくはそれ以上のアミノ酸および/または有機合成可能な化合物よりなるスペーサー、lは1または0、Uは金属標識可能な基を表し;
但し、前記XとTは同じでも異なっていてもよい)
で表される白血球結合性化合物。
【請求項2】
式(1)のUが−Cys−A1−A2(A1およBA2はCysおよびProを除くアミノ酸)で表されるペプチドからなる金属標識可能な基である請求項1記載の白血球結合性化合物。
【請求項3】
式(1)のUが炭素数8から20の窒素含有環状化合物、炭素数8から20の窒素含有環状カルボン酸化合物、炭素数8から20の窒素含有環状カルボン酸化合物の誘導体または炭素数4から10のアルキレンアミンカルボン酸から構成される金属標識可能な基である請求項1記載の白血球結合性化合物。
【請求項4】
式(1)で表される白血球結合性化合物が、
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asn);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−Cys−Gly−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−1,4,8,11−テトラ酢酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−D−Arg−Cys−Asp−Asp);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−ジエチレントリアミンペンタ酢酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
ホルミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Ser−Asn−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−酪酸);
アセチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp);
カルバミル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)および
メチル−Nle−Leu−Phe−Nle−Tyr−Lys(NH)−ε(−Ser−D−Arg−Asp−Cys−Asp−Asp)
よりなる群から選ばれる1である請求項1または2に記載の白血球結合性化合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の白血球結合性化合物を放射性金属または常磁性金属で標識してなる標識化合物を有効成分とする医薬組成物。
【請求項6】
放射性金属が、Tc−99m、In−111、Ga−67、である請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行うSPECT画像診断のための請求項6に記載の医薬品組成物。
【請求項8】
放射性金属が、Cu−64またはGa−68である請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行うPET画像診断のための請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
常磁性金属がGd、Fe、MnまたはCuである請求項5に記載の医薬品組成物。
【請求項11】
個体の免疫応答反応を伴う白血球浸潤の盛んな部位のイメージングを行うMRI画像診断を行うための請求項10に記載の医薬品組成物。
【請求項12】
放射性金属が、Y−90、Sn−117m、Sm−153、Re−186またはRe−188である請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項13】
放射性治療のための請求項12に記載の医薬品組成物。

【国際公開番号】WO2004/029080
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539560(P2004−539560)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012362
【国際出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】