説明

白金るつぼの温度測定方法、温度測定装置およびガラスビード作製装置

【課題】 蛍光X線分析を目的として、高周波誘導加熱によりガラスビードを作製する際に、高温状態にある白金るつぼの温度を非接触で正確に測定することができる。
【解決手段】 白金るつぼ5と、白金るつぼ5を加熱する高周波誘導加熱コイル4を備えた高周波誘導加熱装置と、白金るつぼ5の近くにこれと接触させずに配置される、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れた板状セラミック体9と、セラミック体9の温度を測定する放射温度計8と、放射温度計8による温度出力値に基づいて、前記高周波誘導加熱装置の設定電力を制御する制御手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、白金るつぼの温度測定方法、温度測定装置およびガラスビード作製装置、特に、蛍光X線分析を目的として、高周波誘導加熱によりガラスビードを作製する際に、高温状態にある白金るつぼの温度を非接触で正確に測定することができる、白金るつぼの温度測定方法、温度測定装置およびこれを利用したガラスビード作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料の含有成分量の分析方法に、ガラスビードによる蛍光X線分析がある。この分析方法は、試料と融剤とをそれぞれ一定重量に秤量し、この後、これらを白金るつぼに入れ、JIS M8205に示されている通り、1000℃〜1150℃の範囲内の温度に加熱し、この温度範囲内に可能な限り保持して高温溶融状態で均一に混合し、次いで、自然冷却により溶融物を固化させてガラスビードを作製し、そして、このガラスビードを蛍光X線分析装置にかけて試料の含有成分量を分析する方法である。
【0003】
この分析方法において分析精度を良くするには、試料と融剤とを高温溶融状態で均一に混合するときの温度制御が重要である。もし試料と融剤との混合物の温度制御が良好に行えないと、試料と融剤との蒸発量が温度により変化するため、分析精度が悪くなる。
【0004】
図2に、ガラスビード作製のための温度制御のブロック図を示す。図2に示すように、ガラスビード温度は、以下のようにして制御される。
【0005】
ガラスビード温度を検出し、目標温度との差を求め、目標温度となるように温度コントローラ1から電力指令を高周波誘導加熱装置2に発する。これによってガラスビード温度が目標値に維持される。
【0006】
ガラスビード作製のための加熱方法には、電気炉加熱、ガスバーナー加熱、高周波誘導加熱等があるが、短時間でガラスビードを作製するためには、温度制御の応答性が最も良い高周波誘導加熱が最適である。
【0007】
高周波誘導加熱方法によるガラスビード作製装置の一例が特許文献1に開示されている。このガラスビード作製装置は、図3に示すように、高周波誘導加熱コイル3にるつぼ受け円板4を介して白金るつぼ5を乗せ、高周波誘導加熱コイル3に通電して白金るつぼ5を誘導加熱し、これにより白金るつぼ5内の試料と融剤との混合物を加熱溶融させるものである。
【0008】
上述したガラスビード作製の際に、試料と融剤との混合物の温度を直接測定できれば良いが、一般的に混合物は、10g以下と少量であり、また、均一に混合あるいは加熱するために、白金るつぼ5を回転させたり、図4に示すように、傾動させる必要がある。このため、白金るつぼ5中の混合物の温度を直接測定することは困難である。ただし、白金るつぼ5とるつぼ内の混合物の温度とはほぼ同一であるため、白金るつぼ5の温度を正確に測定できれば、るつぼ内の混合物の温度制御が可能である。
【0009】
白金るつぼの温度測定の従来技術としては、以下の2つの方法がある。
【0010】
従来技術1は、図5に示すように、白金るつぼ5の近くにこれと離して熱電対6を設置し、熱電対6により混合物7が入れられた白金るつぼ5の温度を測定する方法である。
【0011】
従来技術2は、図6に示すように、放射温度計8により混合物7が入れられた白金るつぼ5の温度を測定する方法である。
【0012】
【特許文献1】特開平7−20019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した従来技術は、以下のような問題があった。
【0014】
従来技術1は、もし熱電対6が高温の白金るつぼ5に接触すると、接触部が合金化して白金るつぼ5が腐食するため、熱電対6を白金るつぼ5に接触させることはできない。白金るつぼ5の近くに熱電対6を設置した場合、白金るつぼ5近くの空気温度を測定することになるが、ガラスビード作製装置に接続しているダクトへの排気等の空気対流の影響もあり、白金るつぼ5の温度を正確に計算できるとは言い難い。
【0015】
従来技術2は、白金るつぼ5の表面性状が変化するため、すなわち、硫黄や重金属との化合物の形成により変化するため、白金るつぼ5底面の放射率が変化して、白金るつぼ5の温度を正確に測定することができない。
【0016】
従って、この発明の目的は、蛍光X線分析を目的として、高周波誘導加熱によりガラスビードを作製する際に、高温状態にある白金るつぼの温度を非接触で正確に測定することができる、白金るつぼの温度測定方法、温度測定装置およびこれを利用したガラスビード作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者等は、上述した目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、以下のような知見を得た。
【0018】
(1)白金るつぼの温度と相関のある別の物体の温度を測定できれば、白金るつぼの温度を正確に計算できる。すなわち、白金るつぼの近くにこれと接触させずに、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体を配置することにより、高温の白金るつぼからセラミックへ伝熱し、白金るつぼ温度とセラミック温度との間に一次式で表わされる相関が生じる。従って、このセラミック体の温度を測定することにより、白金るつぼ温度を間接的に正確に求めることができる。
【0019】
(2)白金るつぼの温度と、白金るつぼの近くに配置するセラミック体の温度との相関をもたせるため、白金るつぼの下にセラミック体を接触させることが望ましいが、白金るつぼを回転、傾動させる必要があるため、接触させることができない。従って、伝熱性を確保するため、セラミック体は、白金るつぼのなるべく近くに設置する。
【0020】
(3)白金るつぼの近くに配置したセラミック体の温度は、放射温度計により測定するのが好ましい。高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れるセラミック体を使用するため、セラミック体の表面温度分布がほぼ均一になり、また、セラミック体の表面の放射率の変化はほとんど無い。従って、セラミック体の温度を正確に測定でき、白金るつぼ温度を正確に求めることができる。
【0021】
この発明は、上述した知見に基づきなされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0022】
請求項1記載の発明は、白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに被加熱体を配置し、前記被加熱体の温度を温度計により測定することによって、前記白金るつぼの温度を間接的に測定することに特徴を有するものである。
【0023】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明は、被加熱体は、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体からなり、温度計は、放射温度計からなることに特徴を有するものである。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、セラミック体は、窒化ホウ素を板状に成形したものからなることに特徴を有するものである。
【0025】
請求項4記載の発明は、白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに配置される被加熱体と、前記被加熱体の温度を測定する温度計とを備えたことに特徴を有するものである。
【0026】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、被加熱体は、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体からなり、温度計は、放射温度計からなることに特徴を有するものである。
【0027】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、セラミック体は、窒化ホウ素を板状に成形したものからなることに特徴を有するものである。
【0028】
請求項7記載の発明は、白金るつぼと、前記白金るつぼを加熱する高周波誘導加熱装置と、前記白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに配置される、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体と、前記セラミック体の温度を測定する放射温度計と、前記放射温度計による温度出力値に基づいて、前記高周波誘導加熱装置の設定電力を制御する制御手段とを備えたことに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、白金るつぼの近くに、これと接触させずに配置された、高温安定性、熱伝導性、耐食性に優れたセラミックの温度は、白金るつぼの温度と相関があるため、放射温度計によりセラミックの温度を測定することによって白金るつぼの温度が計算できる。これにより、白金るつぼの正確な温度制御が可能になり、最終的には含有成分量の蛍光X線分析を精度良く行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の、白金るつぼの温度測定方法を利用したガラスビード作製装置の一実施態様を図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、この発明のガラスビード作製装置を示す概略図である。
【0032】
図1に示すように、この発明のガラスビード作製装置は、試料と融剤との混合物7が入れられる白金るつぼ5と、白金るつぼ5を加熱する、高周波誘導加熱装置(図示せず)から供給される電流により励磁される高周波誘導加熱コイル3と、白金るつぼ5の近くにこれと接触させずに配置される、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体9と、セラミック体9の温度を測定する放射温度計8と、放射温度計8による温度出力値に基づいて、前記高周波誘導加熱装置の設定電力を制御する制御手段(図示せず)とを備えている。
【0033】
白金るつぼ5は、高周波誘導加熱コイル3にるつぼ受け円板4を介して乗せられている。セラミック体9は、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れた窒化ホウ素を円板状に成形したものからなり、このセラミック体9が白金るつぼ5の下にこれと間隔をあけて配置されている。白金るつぼ5の熱がセラミック体9に十分伝わるようにするため、白金るつぼ5とセラミック体9とを接触させることが望ましいが、白金るつぼ5内の混合物7の均一混合や均一加熱を目的として、白金るつぼ5を回転、傾動させる必要があるため、接触させることができない。従って、伝熱性を確保するため、セラミック体9は、白金るつぼ5のなるべく近くに接触させないで配置する必要がある。白金るつぼ5とセラミック体9との間隔は、2mm以下にするのが望ましい。
【0034】
放射温度計8によりセラミック体9の底面の温度を測定することにより、白金るつぼ5とセラミック体9との相関に基づいて、正確な白金るつぼ5の温度が求められる。この結果、ガラスビード温度制御を高精度で行えるので、蛍光X線分析により精度の良い元素含有量分析が可能になる。
【0035】
図6に示す従来技術2による温度測定方法と、図1に示すこの発明の温度測定方法とを適用して、NO.1〜5の白金るつぼによりそれぞれガラスビードを作製し、ガラスビードの含有成分量を分析した結果を表1に示す。このときの試料は、焼結鉱であり、その化学成分組成を表1に併せて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、この発明の温度測定方法を適用して作製したガラスビードの方が、従来技術2の方法を適用して作製したガラスビードに比べて分析値のバラツキが小さい。この結果、この発明の温度測定方法により、精度の良い元素含有量分析が可能となることが分かった。従来技術2による温度測定方法の分析値のバラツキが大きい理由は、白金るつぼ底面の放射率が白金るつぼ毎に違うことにより、正確な温度測定ができず、ガラスビード蒸発量のバラツキが大きくなるためである。
【0038】
上記実施例では、窒化ホウ素からなるセラミック体9を採用したが、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミックであれば、他のセラミックでも使用可能である。
【0039】
なお、この発明による温度測定方法は、白金るつぼ以外の高温状態測定物においても適用可能であり、直接、熱電対で温度測定できない高温状態の測定物や、表面放射率が変化する高温状態の測定物に対して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明のガラスビード作製装置を示す概略図である。
【図2】ガラスビード作製のための温度制御のブロック図である。
【図3】高周波誘導加熱コイルにるつぼ受け円板を介して乗せられた白金るつぼを示す図である。
【図4】白金るつぼを傾動させた状態を示す図である。
【図5】従来技術1による白金るつぼの温度測定方法を示す図である。
【図6】従来技術2による白金るつぼの温度測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1:温度コントローラ
2:高周波誘導加熱装置
3:高周波誘導加熱コイル
4:るつぼ受け円板
5:白金るつぼ
6:熱電対
7:混合物
8:放射温度計
9:セラミック板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに被加熱体を配置し、前記被加熱体の温度を温度計により測定することによって、前記白金るつぼの温度を間接的に測定することを特徴とする、白金るつぼの温度測定方法。
【請求項2】
前記被加熱体は、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体からなり、前記温度計は、放射温度計からなることを特徴とする、請求項1記載の、白金るつぼの温度測定方法。
【請求項3】
前記セラミック体は、窒化ホウ素を板状に成形したものからなることを特徴とする、請求項2記載の、白金るつぼの温度測定方法。
【請求項4】
白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに配置される被加熱体と、前記被加熱体の温度を測定する温度計とを備えたことを特徴とする、白金るつぼの温度測定装置。
【請求項5】
白金るつぼと、前記白金るつぼを加熱する高周波誘導加熱装置と、前記白金るつぼの近くに前記白金るつぼと接触させずに配置される、高温安定性、熱伝導性および耐食性に優れたセラミック体と、前記セラミック体の温度を測定する放射温度計と、前記放射温度計による温度出力値に基づいて、前記高周波誘導加熱装置の設定電力を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする、蛍光X線分析に供されるガラスビードの作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−3175(P2006−3175A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178897(P2004−178897)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】