説明

白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法

【課題】 室温(常温)且つ非密閉状態での保存で酸化劣化を防止することのできる白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法を得る。
【解決手段】 白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することにより、空気中の酸素と反応してイオン化した白金ナノコロイドをパラジウムナノコロイドで還元することによって白金ナノコロイドに戻し、白金ナノコロイドの酸化劣化を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ナノコロイドが酸化し劣化することを防止する白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素が生体の疾患を引き起こす原因の一つであることが判明して以来、この活性酸素を分解消去する物質の研究がなされている。そのなかで、白金ナノコロイドはスーパーオキシドアニオンや過酸化水素水などの活性酸素を消去する能力があると考えられており、有用な新規抗酸化物質として注目を集めている。
【0003】
そして、白金ナノコロイドは、医薬や化粧品の分野でその利用について数多く提案されており、例えば、医薬の分野では、白金ナノコロイドを抗腫瘍剤として利用することが開示されており(例えば、特許文献1参照。)、また化粧品の分野では、白金ナノコロイドをパーマ液やカラー液などの化粧液に混合することが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−514724号公報
【特許文献2】特開2009−29782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、白金ナノコロイドに活性酸素を消去する能力があると考えられ、医薬や化粧品の分野でその利用について数多く提案されているものの、その反応機構として電子移動が想定されてはいるが、その詳細は必ずしも明らかとなっていない。
本発明者は、この研究の過程で、白金コロイドが室温で保存中に黒褐色から徐々に黒色に変化することに着目し、その原因とそれによる他の物質との反応の変化について調べた。
【0006】
白金コロイドが経時的に黒褐色から徐々に黒色に変化するのは、白金コロイドが空気中の酸素と反応してイオン化し、いわゆる酸化劣化した結果と考えた。そして、白金コロイドの酸化劣化する前と、酸化劣化した後の他の物質との反応の変化について、他の物質として同じ抗酸化物質として知られているビタミンC(アスコルビン酸)との反応を調べたところ、酸化劣化した白金ナノコロイドが、ビタミンCを分解してしまうことを認めた。
【0007】
これは、白金コロイドが酸素と反応して白金カチオンを生成し、生成された白金カチオンは白金2価カチオンになりやすく、そしてこの両カチオンはビタミンCの還元を受けやすくなるのでその分解活性が増大するものと推定される。このことは、白金ナノコロイドは、医薬や化粧品に利用しても、白金ナノコロイドが酸化劣化すると、体内にあるビタミンCを分解してしまい、害をなす結果ともなりかねない。
また、酸化劣化した白金ナノコロイドは、白金コロイド自体の有用な能力を消滅させてしまうことにもなると推定される。
【0008】
このようなことから、白金ナノコロイドの酸化劣化を防止する必要がある。白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法として、白金ナノコロイドの密閉、低温保存といったことが考えられるが、実用上の取り扱いとして難があるといったことから、室温(常温)で且つ非密閉状態での保存での酸化劣化防止が求められる。
そこで、本発明者は、白金ナノコロイドを室温(常温)且つ非密閉状態での保存で酸化劣化を防止することについて試験研究を重ねた結果、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
本発明の目的とするところは、室温(常温)且つ非密閉状態での保存で酸化劣化を防止することのできる白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することで、空気中の酸素と反応してイオン化した白金ナノコロイドをパラジウムナノコロイドで還元することによって白金ナノコロイドに戻ることにより、白金ナノコロイドの酸化劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】調整直後の白金ナノコロイドとビタミンCを反応させたときの経時変化によるビタミンCの残存率を試験した試験結果を示すグラフである。
【図2】調整後4週間保存した白金ナノコロイドとビタミンCを反応させたときの経時変化によるビタミンCの残存率を試験した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法は、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加する。白金ナノコロイドとパラジウムナノコロイドは、公知の方法で製造される。また、白金ナノコロイドへのパラジウムナノコロイドの添加量にあっては特に限定させるものではないが、その配合比で、白金ナノコロイドが1に対しパラジウムナノコロイドが0.05以上、10以下であることが好ましい。
【0014】
このように、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加すると、白金ナノコロイドを空気中に保存したとき、白金ナノコロイドは空気中の酸素と反応してイオン化するが、このイオン化した白金ナノコロイドがパラジウムナノコロイドにより酸化還元して白金ナノコロイドに戻る。これにより、白金ナノコロイドの酸化劣化が防止されることとなる。一方パラジウムナノコロイドはパラジウムイオンとなる。
+Pt→O-+Pt
+Pt→O-+Pt2+
Pt2++Pd→Pt+Pd2+
【0015】
以下、本発明の白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法の作用を、白金ナノコロイドと生体内の最重要な抗酸化物質であるビタミンCを反応させたときの経時変化によるビタミンCの残存率を試験した試験結果により例証する。
【0016】
[資料の調整]
資料1:白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・密封・保存前
資料2:白金ナノコロイド溶液(500μM)を4℃・密封・保存前
資料3:白金ナノコロイド溶液(500μM)を−20℃・密封・保存前
資料4:白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・一日5分間だけ開放・保存前
資料5:白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・密封・4週間保存したもの
資料6:白金ナノコロイド溶液(500μM)を4℃・密封・4週間保存したもの
資料7:白金ナノコロイド溶液(500μM)を−20℃・密封・4週間保存したもの
資料8:白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・一日5分間だけ開放・4週間保 存したもの
資料9:白金ナノコロイド・パラジウムナノコロイド混合溶液を(混合モル比1:1) 室温・一日5分間だけ開放・4週間保存したもの
ビタミンC水溶液 100μM
室温温度 約20℃
【0017】
[試験方法]
ビタミンC水溶液の濃度は分光光度計を用いて、その265nmにおける吸光度から求めた。
〈試験1〉
資料1〜4を最終濃度5μMとなるように100μMビタミンC水溶液に添加し、1分毎のビタミンCの残存率を10分間測定した。
〈試験2〉
資料5〜9を最終濃度5μMとなるように100μMビタミンC水溶液に添加し、1分毎のビタミンCの残存率を10分間測定した。
【0018】
[試験結果]
試験1の結果を図1に、試験2の結果を図2に示す。図1、図2において付されている符号1〜9は資料1〜9に対応している。
図1から明らかなように、試験1によれば、調整したばかりの白金ナノコロイドはその保存状態に関係なくビタミンCをほとんど分解しなかった。
図2から明らかなように、試験2によれば、白金ナノコロイド(500μM)・パラジウムナノコロイド(500μM混合液を室温・開放・4週間保存したもの9(資料9)、白金ナノコロイド溶液(500μM)を−20℃・密封・4週間保存したもの7(資料7)、白金ナノコロイド溶液(500μM)を2.4℃・密封・4週間保存したもの6(資料6)、白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・密封・4週間保存したもの5(資料5)、白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・開放・4週間保存したもの8(資料8)の順に分解活性が増大した。しかも、白金ナノコロイド溶液(500μM)を室温・開放・4週間保存したもの8(資料8)では5μMの白金ナノコロイドが10分以内に100μMのビタミンCを90%以上分解し、反応は触媒的であった。
これは、白金ナノコロイドは酸化劣化により、少量であっても大量のビタミンCを分解することを意味する。これに対し、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを共存させた資料9では、ビタミンCの分解を劇的に抑制することができた。
【0019】
[評価]
上記の結果から、パラジウムナノコロイドは白金ナノコロイドの酸化劣化を抑制する作用があると評価される。
以上のように、本発明に係る白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法によれば、白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することで白金ナノコロイドの酸化劣化を防止することができ、しかも、特殊な保存形態を用いることなく、室温(常温)で且つ非密閉状態での保存で白金ナノコロイドの酸化劣化を防止することができるので、実施が容易であり実用性に優れるものである。、
そして、本発明に係る白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法によって白金ナノコロイドの酸化劣化を防止することにより、抗酸化物質の一つであるビタミンCの分解を抑制することができ、また白金ナノコロイドが酸化劣化することによって生じる弊害を防止することができるので、白金コロイド自体の有用な能力を有効に活用することができることとなる。
【符号の説明】
【0020】
1 資料1
2 資料2
3 資料3
4 資料4
5 資料5
6 資料6
7 資料7
8 資料8
9 資料9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金ナノコロイドにパラジウムナノコロイドを添加することを特徴とする白金ナノコロイドの酸化劣化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74312(P2011−74312A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229723(P2009−229723)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(397044393)
【出願人】(502120181)
【出願人】(509273400)
【出願人】(509274359)
【出願人】(509274360)
【Fターム(参考)】