説明

白金ナノ粒子を含有する活性酸素種除去材

【課題】 血液等の液体中に含まれる活性酸素種を除去できる活性酸素種除去材を提供する。
【解決手段】 樹脂基体に白金ナノ粒子を付着させた活性酸素種除去材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ナノ粒子を含有し、優れた活性酸素除去能力を示す活性酸素種除去材に関する。なお本明細書中「白金ナノ粒子」とは、白金族金属及び/又は白金族金属以外の貴金属からなり、白金を25質量%以上含有するナノメートルサイズの粒子であって、90%以上の粒子が粒径0.1〜10 nmに分布するものを言う。
【背景技術】
【0002】
従来、腎機能が損なわれた患者、例えば腎不全等により血液中の老廃物除去機能等が損なわれた患者の治療のために、血液透析等の血液浄化による治療が行われている。血液浄化治療においては、血液を透析器内の半透膜を介して透析液に接触させることにより、血液中に蓄積した尿素、クレアチニン、尿酸、低分子量タンパク質、水等の低分子物質が主に除去される。
【0003】
近年、長期透析患者の増加に伴い、手根管症候群等の長期透析合併症が注目されるようになっており、血液透析による除去対象物質は尿素、クレアチニン等の低分子物質のみでなく、低分子蛋白質等の中分子量から高分子量の物質まで広がっている。そのため、従来のものより大きな孔径を有する透析膜(ハイパフォーマンス膜)が治療に用いられるようになってきている。
【0004】
ところで、低分子蛋白質が蓄積する場合のみならず、体内に活性酸素種が蓄積する場合も、老化や生活習慣病の他、アルツハイマー等多くの病気の要因となることが知られている。人が呼吸により体内に取り入れた酸素の95質量%以上は、通常の代謝過程を経て水になるが、残りの数%はミトコンドリアやミクロソームの電子伝達系において活性酸素種となる。発生した活性酸素種は、多くの場合、スーパーオキシドデスミューターゼ(superoxide dismutase、SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ等の抗酸化酵素により除去されている。しかしながら、これらの抗酸化酵素により活性酸素種の全てを体内から除去することはできず、活性酸素種の一部はタンパク質、脂質、核酸等を酸化してしまう。これら酸化された物質のうち、一部は生体防衛機構により修復されるものの、酸化損傷された状態のままになってしまうものもある。この酸化損傷された物質が体内に蓄積することが、疾病や老化に繋がるとされている。
【0005】
血液浄化治療によって血液中の活性酸素種を除去できれば、様々な疾病の予防に繋がると考えられる。しかし、活性酸素種は血液中に単体として存在しているわけではなく、大きな分子に吸着した状態となっており、透析膜の細孔を通過し得ない。そのため浸透圧を利用した血液浄化治療によって活性酸素種を除去することはできず、活性酸素種によって誘引される疾病を予防し得ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、血液等の液体中に含まれる活性酸素種を除去できる活性酸素種除去材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、白金ナノ粒子を樹脂基体に付着させた活性酸素種除去材は、活性酸素種を含む液体との接触によって活性酸素種を除去しうることを発見し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の活性酸素種除去材は、樹脂基体に白金ナノ粒子が付着していることを特徴とする。
【0009】
活性酸素種除去材は、前記白金ナノ粒子及び保護材を含有する溶液が前記樹脂基体に接触してなるものであるのが好ましい。前記白金ナノ粒子と保護材とを含有する溶液は、(a) 白金塩と、前記保護材と、アルコールと水とを含有する溶液を還流した後、(b) 前記溶液から前記アルコール及び前記水を一部が残留するように蒸発させ、(c) アルコールを加えた後、(d) 再度前記アルコール及び前記水を蒸発させ、希釈してなるものであるのが好ましい。前記保護材はポリアクリル酸塩であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の活性酸素種除去材は、樹脂基体に白金ナノ粒子を付着させたものである。白金ナノ粒子は活性酸素種の消去能に優れており、活性酸素種に接触させるだけで触媒的に作用して活性酸素種を除去しうる。したがって、活性酸素種を含む液体が活性酸素種除去材を通過するようにすることにより、効率よく活性酸素種を除去することができるので、血液浄化治療用の透析膜に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1] 活性酸素種除去材
活性酸素種除去材は樹脂基体と、白金ナノ粒子とからなる。
(1) 樹脂基体
樹脂基体は多孔質であるのが好ましい。多孔質の樹脂基体は大きな表面積を有するので、多くの白金ナノ粒子を付着させ得る。樹脂基体の形状は特に限定されず、粒状であってもよいし、繊維状や膜状であってもよい。
【0012】
樹脂基体の材料の例として酢酸セルロース、銅アンモニアセルロース等の再生セルロース、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルナイロン、ポリエーテルアミド、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が挙げられる。溶融温度を考慮すると、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルナイロン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなるのが好ましい。
【0013】
活性酸素種除去材を血液浄化治療の透析膜に用いる場合、樹脂基体は中空糸膜である必要がある。透析膜用の中空糸膜の膜厚は5〜60μmであるのが好ましく、20〜40μmであるのがより好ましい。中空糸の内径は一般的に180〜250μmであり、200〜230μmであるのが好ましい。一般的な人工透析器と同様に、5000〜50000本の中空糸膜がハウジング内に収容されるのが好ましい。
【0014】
(2) 白金ナノ粒子
白金ナノ粒子の平均粒径は1〜5 nmであり、1〜3 nmであるのが好ましく、1.5〜2.5 nmであるのが特に好ましい。また90%以上の白金ナノ粒子の粒径が、1〜3 nmの範囲に入るのが好ましい。このように白金ナノ粒子の粒径分布が狭く、かつその平均粒径が1〜5 nmの範囲であると、体内に取り込まれて抗酸化作用を示すと考えられる。このような狭い粒径分布を有する白金ナノ粒子を含む溶液は、後述する製造方法によって調製することができる。
【0015】
白金ナノ粒子は、高い活性酸素種除去能を示す。活性酸素種を半減するのに要する白金ナノ粒子の濃度ID50は200μmol/L以下であるのが好ましく、180μmol/L以下であるのがより好ましい。ここでID50とは、スーパーオキシドアニオンの濃度を50%減少させる濃度を示す。ID50は、例えば種々の濃度の白金ナノ粒子溶液を調製し、各溶液中でスーパーオキシドアニオンを発生させ、その減少量を測定することにより求めることができる。白金ナノ粒子はスーパーオキシドアニオン以外の活性酸素種(ヒドロキシラジカル、過酸化水素等)も除去できる。
【0016】
活性酸素種の一種であるスーパーオキシドアニオンを発生させる方法としては、一般的な方法によることができる。例えばヒポキサンチン(HXN)を反応基質とし、キサンチンオキシダーゼ(XOD)を酸化酵素として酵素反応による方法や、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を電子供与体とし、フェナジンメトサルフェート(PMS)を電子転移剤とする化学反応による方法が挙げられる。HXN/XOD系で求めたID50と、NADPH/PMS系で求めたID50とが異なる場合、少なくとも一方が200μmol/L以下であるのが好ましく、両方が200μmol/L以下であるのがより好ましい。
【0017】
白金ナノ粒子によって失活することが可能な活性酸素種としては、スーパーオキシドアニオン(O2)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・HO)、一重項酸素(1O2)、過酸化脂質ラジカル、過酸化アルコールラジカル、一酸化窒素(NO)が挙げられる。下記式(1)に示すように、白金ナノ粒子は触媒的に作用して活性酸素種を還元し、水を生成させると考えられている。
【0018】
【化1】

【0019】
白金ナノ粒子は主として中空糸膜の内面に付着しているのが好ましい。白金ナノ粒子の付着量は中空糸膜1 m2あたり10μmol〜10000 mmolであるのが好ましく、100μmol〜1000 mmolであるのがより好ましい。白金ナノ粒子は触媒的な作用によって活性酸素種を除去するものであるので、10μmol〜10000 mmolの白金ナノ粒子が中空糸膜に付着していれば、血液中の活性酸素種を十分に除去することができる。
【0020】
[2] 活性酸素種除去材の製造方法
有害な物質を包含させることなく、活性酸素種の除去に有効な量の白金ナノ粒子を中空糸膜に付着可能な方法であれば、活性酸素種除去材の製造方法は特に限定されない。例えば(a) 樹脂基体の作製の際に白金ナノ粒子を練りこんでも良いし、(b) 樹脂基体に白金ナノ粒子を含む溶液を接触させても良い。これらの方法のうち好ましいのは、白金ナノ粒子を含む溶液を樹脂基体に接触させる方法である。白金ナノ粒子を含む溶液を樹脂基体に接触させるには、溶液を含浸又はスプレーしたり、樹脂基体に通過させたりすれば良い。溶液の接触により、樹脂基体の表面に白金ナノ粒子を付着させることができる。以下、白金ナノ粒子を含む溶液を樹脂基体に接触させる方法を例にとって、活性酸素種除去材の製造方法を説明する。
【0021】
(1) 白金ナノ粒子溶液
白金ナノ粒子溶液は白金ナノ粒子と、ポリアクリル酸塩とを含有する。ポリアクリル酸塩は白金に配位し、白金の親溶媒性を向上させるコロイド保護剤となっている。本明細書中、白金ナノ粒子溶液とは白金ナノ粒子の均一分散液を言う。ポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましい。ポリアクリル酸ナトリウムは食品衛生法で許可された食品添加物であり、高い安全性を有することが知られている。したがって、ポリアクリル酸ナトリウムを保護コロイドとすると、透析膜等に使用しても安全な白金ナノ粒子溶液となる。
【0022】
白金ナノ粒子溶液中のR値は180以下であるのが好ましく、10〜150であるのがより好ましく、20〜130であるのが特に好ましい。R値とは、モノマー単位あたりに換算したポリアクリル酸塩のモル数と、白金のモル数との比率を示す。R値が80〜180であると、白金ナノ粒子が分散状態を維持することができる。「等張」とは、体液と同じ浸透圧を有する状態を示す。等張液の浸透圧は、具体的には、250〜350 mOsm・kg-1程度である。活性酸素種除去材を血液浄化治療に用いる場合、活性酸素種除去材は血液に接触するので、白金ナノ粒子は等張液中で良好な分散性を示すのが好ましい。
【0023】
(2) 白金ナノ粒子溶液の製造方法
(a) 溶液の調製
白金塩と、ポリアクリル酸塩と、アルコールと、水とを含有する溶液を調製する。白金塩は、アルコールと水からなる溶媒に可溶であるのが好ましい。白金塩としては例えばヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウム及びこれらの塩の水和物が挙げられる。こららのうち、ヘキサクロロ白金酸が好ましい。
【0024】
ポリアクリル酸塩としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。これらのうち好ましいものは、ポリアクリル酸ナトリウムである。
【0025】
アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、エチレングリコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。エタノールを使用することにより、血液浄化治療に用いても安全な白金ナノ粒子を得ることができる。
【0026】
白金塩とポリアクリル酸塩とを使用して、白金ナノ粒子溶液を作製する方法を説明する。まず、ポリアクリル酸塩を水に溶解する。溶液中のポリアクリル酸塩の濃度は、0.01〜0.5 mol/Lとするのが好ましい。別の容器に白金塩を含む水溶液を調製し、この白金塩水溶液をポリアクリル酸塩溶液に加えて白金塩−ポリアクリル酸塩溶液とする。白金塩−ポリアクリル酸塩溶液中の白金塩の濃度は、2 mmol/L以下とするのが好ましく、0.1〜2 mmol/Lとするのがより好ましい。
【0027】
ポリアクリル酸塩−白金塩溶液のR値(R値)は80〜180とするのが好ましく、90〜170とするのがより好ましく、100〜150とするのが特に好ましい。R値が80未満であると、コロイド溶液に陽イオン等を添加して浸透圧を250〜350 mOsm・kg-1とした場合の白金ナノ粒子の塩析効果に対する分散能が低く、凝集して沈殿し易すぎる。R値が180超であるとポリアクリル酸塩が水とアルコールとの混合溶媒に溶解しにくく、均一な溶液が得られ難い。
【0028】
白金塩水溶液を加えた後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液を撹拌する。撹拌時間は30〜40分程度とするするのが好ましい。撹拌後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液にアルコールを加え、反応溶液とする。反応溶液中のアルコール/白金塩のモル比は10〜20とするのが好ましい。
【0029】
(b) 還流
反応溶液を還流する。還流は不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。還流中にエタノール等のアルコールが白金イオンを還元して白金ナノ粒子を生成させ、アルコールは酸化されてアルデヒドになる。
【0030】
反応溶液中の白金塩の量にも依るが、2〜3時間還流すると白金イオンがほぼ消失し、白金ナノ粒子が生成する。白金イオンの消失や白金ナノ粒子の生成は、反応溶液の紫外可視吸光スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0031】
(c) アルコール溶液の調製
還流後の反応溶液を加熱及び/又は減圧することにより、反応溶液の体積が加熱及び/又は減圧前の体積の0.5〜2割程度になるまでアルコール及び水を蒸発させて濃縮液とする。例えば反応溶液をナスフラスコに入れ、ナスフラスコを室温〜30℃の湯浴に浸した状態でフラスコ内を水流アスピレータにより減圧にして60〜90分保持する。加熱及び/又は減圧前の反応溶液が50 mLの場合、水流アスピレータにより60分程度減圧し、残量5 mL程度とするのが好ましい。
【0032】
アルコール及び水の蒸発により得られた濃縮液にアルコール(例えばエタノール)を加えて撹拌し、白金のアルコール溶液とする。加えるアルコールの量は原料の白金塩に対して20〜40(アルコール/白金塩のモル比)程度とするのが好ましい。
【0033】
(d) 白金ナノ粒子溶液の調製
白金のアルコール溶液を加熱及び/又は減圧することにより溶媒を蒸発させると、ペースト状の白金ナノ粒子が得られる。この白金ナノ粒子に溶媒を加えて撹拌することにより、均一な白金ナノ粒子溶液を調製できる。溶媒としては、水、水とエタノールの混合物等が挙げられる。ペースト状の白金ナノ粒子にアルコールを加えてアルコール溶液を調製する工程を経ず、反応溶液から直接全ての溶媒を揮発させると、得られる残渣は非常に粘性が高く、べとついた状態になる。このため均一な白金ナノ粒子溶液を得ることができない。これに対し、アルコール溶液を調製して再度アルコールを蒸発する工程を経ると、優れた分散性を有する白金ナノ粒子を作製することができる。
【0034】
(3) 白金ナノ粒子溶液の樹脂基体への含浸
(a) 樹脂基体を白金ナノ粒子溶液に浸漬させたり、(b) 樹脂基体に白金ナノ粒子溶液を通過させたり、(c) 樹脂基体に白金ナノ粒子溶液をスプレーしたりすることによって、樹脂基体に白金ナノ粒子が付着する。溶液を通過させる方法による場合、白金ナノ粒子溶液の濃度は0.01〜1000 mmol/Lとするのが好ましい。白金ナノ粒子を付着させると中空糸膜は黒色になるので、白金ナノ粒子の付着を目視で確認できる。
【0035】
人工透析器に用いる場合、活性酸素種除去材をハウジングに収容してもよいし、白金ナノ粒子を含有しない人工透析器に白金ナノ粒子溶液を通過させて中空糸膜に白金ナノ粒子を付着させても良い。活性酸素種除去材に水や血液を流しても、白金ナノ粒子はほとんど脱離しない。したがって、血液浄化治療の際に透析器を通過する血液と白金ナノ粒子とを接触させ、白金ナノ粒子を触媒として作用させて血液中の活性酸素種を除去することができる。
【実施例】
【0036】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(i) 白金ナノ粒子[保護剤:ポリアクリル酸(PAA)ナトリウム、R値:100]の作製
100 mlの二口ナスフラスコと、アリーン冷却管と、三方コックとからなる反応システムを組立てた。二口ナスフラスコに、ポリアクリル酸ナトリウム(アルドリッチ社製)0.31 gとmilli-Q(登録商標)水(日本ミリポア株式会社製の純水製造装置milli-Qを使用して精製した水を示す。)23 mLとを入れて溶解し、スターラーチップで10分間撹拌した。ヘキサクロロ白金酸結晶(H2PtCl6・6H2O、和光純薬工業株式会社製)を蒸留水に溶解し、濃度を1.66×10-2mol/Lとした。二口ナスフラスコ内にこのヘキサクロロ白金酸水溶液を2 mL加え、さらに30分間撹拌した。
【0038】
反応システム内を窒素置換した後、エタノール25 mLを入れ、窒素雰囲気に保ちながら100℃で2時間還流した。還流後に反応液の紫外可視吸光スペクトルを測定したところ、白金イオンのピークが消失し、金属固体特有の散乱によるピークが出現していた。
【0039】
ロータリーエバポレータを使用し、ナスフラスコを30℃の湯浴に浸しながら水流アスピレータによりフラスコ内を減圧にして60分程度保持した。反応液から水とアルコールが蒸発し、フラスコ内の反応混合物が約5 mLになったところで、減圧を開放してエタノール50 mLを加えた。得られたアルコール溶液の入ったフラスコ内を水流アスピレータにより減圧することによりアルコール溶液から再び溶媒を蒸発させると、ペースト状の白金ナノ粒子が得られた。ペースト状の白金ナノ粒子に33 mLのmilli-Q水を加え、ポリアクリル酸ナトリウムを保護剤とした1 mmol/Lの白金ナノ粒子水溶液(PAA-Pt溶液)を得た。
【0040】
(ii) 白金ナノ粒子の付着
吸引器に接続した強アニオン交換樹脂カラム(Supelco Discovery DSC-SAX、1 mL)に、工程(i) で得た1 mmol/LのPAA-Pt溶液を200μLずつ添加し、吸引器によってカラム内の溶液を吸引した。合計のPAA-Pt溶液を2 mLカラムを通過させたところで、吸引瓶内の溶液が薄い茶色になっているのが確認できた。充填材は黒色になっており、イオン交換反応によって白金ナノ粒子が付着したものと考えられた。別の強アニオン交換樹脂カラムに125 mmol/Lのポリアクリル酸ナトリウム水溶液2 mLを通過させ、コントロールカラムとした。
【0041】
(iii) O2ラジカル溶液の通過
水400μLを入れた試験管に、ヒポキサンチン(HXN)溶液[5.5 mmol/L、200 mmol/Lリン酸バッファー(pH 7.5)、HXN:和光純薬工業株式会社製]200μLと、XOD溶液[0.2 U/mL、200 mmol/Lリン酸バッファー(pH 7.5)、XOD:ロシュ社製]200μLとを加え、O2ラジカルを発生させた。HXN溶液とXOD溶液の混合から20秒後に、O2ラジカルを含む溶液を工程(ii)で作製したPAA-Pt含有カラム及びコントロールカラムにそれぞれ添加し、ろ液を採取した。HXN-XOD溶液がカラムを通過する時間は、5〜10秒であった。
【0042】
(iv) O2ラジカル消去率の算定
HXN-XOD溶液(HXNとXODとを含有する溶液)をPAA-Pt含有カラムに添加してから60秒後(HXN溶液とXOD溶液の混合によりO2ラジカルを発生させてから80秒後)に、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO、株式会社同仁化学研究所製)15μLをろ液に加えた。ろ液中に発生したDMPO−OOH(DMPOのO2ラジカル捕捉体)の量をDMPOの添加から140秒後に測定した。測定にはESRを用いた。ESRの測定条件は、以下のとおりとした。
測定機器:JES-FA100
FREQ = 9423 MHz(変動域:+/−1 MHz)
FIELD CENTER = 335.5 mT、Width =+/−5.000 mT
POWER = 4.000000 mW、SWEEP TIME = 1.0 min
Mn(マーカー): 500
【0043】
測定に当たっては、同じカラムを4回繰り返して用い、HXN-XOD溶液を通して各回のろ液を採取し、それぞれのESRスペクトル、スピンアダクト比及び消去率を求めた。DMPO−OOHは酸化酵素であるXODによって生成したO2ラジカルを捕捉することにより生成したと考えられる。結果を表1に示す。O2ラジカルの消去率は50%前後であり、繰り返し使用しても消去能の低下はほとんど見られなかった。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例2
(i) 白金ナノ粒子の付着
実施例1工程(i) で得た1 mmol/LのPAA-Pt溶液を200μLずつ市販のダイアライザー(1 mL)に通したところ、合計2 mL通したところでろ液が薄い茶褐色になった。ダイアライザーの中空糸膜は黒色になっており、白金ナノ粒子が付着したことが確認できた。この透析器に水を通過させても色落ち及びろ液の着色は見られなかった。またコントロールとして、1 mmol/Lのポリアクリル酸ナトリウム水溶液をダイアライザーに通過させたものを作製した。コントロールの中空糸膜は白色のままであった。
【0046】
(ii) O2ラジカル溶液の通過
水400μLを入れた試験管に、実施例1工程(ii) で得たHXN溶液及びXOD溶液を200μLずつ混合し、O2ラジカルを発生させた。HXN溶液とXOD溶液の混合から20秒後に、O2ラジカルを含む溶液を工程(ii)で作製したPAA-Pt含有透析器に通し、ろ液を採取した。
【0047】
HXN-XOD溶液(HXNとXODとを含有する溶液)をPAA-Pt含有透析器に添加してから60秒後(HXN溶液とXOD溶液の混合によりO2ラジカルを発生させてから80秒後)に、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO、株式会社同仁化学研究所製)15μLをろ液に加えた。ろ液中に発生したDMPO−OOH(DMPOのO2ラジカル捕捉体)の量をDMPOの添加から140秒後に測定した。測定にはESRを用い、ESRの測定条件は実施例1と同じにした。
【0048】
(iii) O2ラジカル消去率の算定
コントロール(白金ナノ粒子を含有しない透析器)に、工程(ii)と同様に調製したHXN溶液とXOD溶液の混合溶液を通過させた後、ろ液にDMPOを添加し、ESRを用いてコントロールから流出したろ液に含まれるO2ラジカル捕捉体量を測定した。コントロールの測定値を消去率ゼロとして、実施例2の透析器を通過させたろ液のO2ラジカル消去率を求めた。消去率は47.9%以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基体に白金ナノ粒子を付着させたことを特徴とする活性酸素種除去材。
【請求項2】
請求項1に記載の活性酸素種除去材において、前記白金ナノ粒子と保護材とを含有する溶液が前記樹脂基体に接触してなることを特徴とする活性酸素種除去材。
【請求項3】
請求項2に記載の活性酸素種除去材において、前記保護材がポリアクリル酸塩であることを特徴とする活性酸素種除去材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の活性酸素種除去材において、前記白金ナノ粒子と保護材とを含有する溶液が、(a) 白金塩と、前記保護材と、アルコールと水とを含有する溶液を還流した後、(b) 前記溶液から前記アルコール及び前記水を一部が残留するように蒸発させ、(c) アルコールを加えた後、(d) 再度前記アルコール及び前記水を蒸発させ、希釈してなるものであることを特徴とする活性酸素種除去材。

【公開番号】特開2006−290840(P2006−290840A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116970(P2005−116970)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(503304234)株式会社シーテック (6)
【Fターム(参考)】