白金族元素の分離回収方法
【課題】2種類以上の白金族元素を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出でき、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる、白金族元素の工業的分離方法を提供する。
【解決手段】白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラム11a−hを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂である。
【解決手段】白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラム11a−hを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石や自動車排ガス処理触媒に代表される貴金属触媒や携帯電話などの家電製品は白金族元素を含有しているが、これらの貴金属資源は世界的に極めて少なく、また採掘地も偏在しており、我が国の資源確保の点からこれらを回収して利用することは大変重要である。
精錬やメッキ産業においては白金族含有廃液から白金族元素を分離することが求められており、原子力産業では使用済核燃料の高レベル放射性硝酸廃液中にも白金族元素が含まれているので、溶融ガラスでの固化処理の前に高レベル放射性硝酸廃液から回収する技術が求められている。
一般的には白金族含有物を高温炉で溶融して合金にする乾式法が知られているが、特殊な炉が必要であり、様々な金属が混合、合金化した状態で得られると、水溶液にして各金属の相互分離を行うことが必要になるため、省エネルギーの観点からも湿式分離方法が求められている。しかしながら、湿式法においても、白金族含有物に強酸、酸化剤、還元剤を加えて溶解させた溶液と、微粉砕した岩石やセラミック担体、基板のスラリーは、ヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題がある。
【0003】
近年、抽出残渣との分離、抽出溶剤と白金族錯体との分離が容易な超臨界流体を用いて白金族を錯体として抽出する研究がなされている。超臨界水では374℃以上、221bar以上の高温高圧状態と高い腐食性の問題があるが、超臨界二酸化炭素を用いるとその心配はなく、錯化剤、酸化剤添加により白金族錯体を抽出する方法が研究されている(特許文献1〜2)。しかし白金族含有物から複数の白金族錯体を抽出することはできても、さらに各白金族元素を相互分離することが必要である。
白金族の相互分離回収方法としては、塩や錯体形成による沈殿と溶解を繰り返す古典的沈殿法や電解法などがあるが、近年では、高選択性の白金族抽出剤が開発され、その白金族抽出剤を用いた溶媒抽出法による特許が多数出願されている。また白金族錯体を陰イオン交換樹脂に吸着後、溶離方法の工夫で選択的溶離を行う方法、キレート樹脂であるキトサン誘導体に吸着後、選択的溶離を行う方法などが提案されているが、いずれも手間と時間が掛かるという問題を抱えている。
クロマト分離法により白金族のクロロ錯体やニトロ錯体をODSやイオン交換樹脂カラムを使用して逆相クロマト分離する方法があるが、塩酸や危険性の高い亜硝酸塩を使用し、安全性や装置の材質に問題が生じている。
様々な錯化剤の中でもアセチルアセトンは比較的毒性も少なく、安価で使用しやすいので、アセチルアセトナト錯体を逆相クロマト分離する方法は報告されているが、水溶液への溶解度が低いため、主に分析にしか適用できないとの問題がある。一方、順相クロマト分離する方法ならば、錯体も溶解しやすくなり工業的には処理量を充分確保できる。順相クロマトの充填剤にシリカゲルやアルミナを使用する方法は報告されている(非特許文献1〜2)が、その他の充填剤についてはこれまでに報告されていない。
クロマト分離法は、分離に要する時間が長い上に、精製を多数回繰り返す必要があるという問題があったが、連続的な擬似移動床方式を適用する方法が優れている。溶離液としてハロゲン溶液を用い、充填剤としてポリサッカライドやポリアクリルアミド等の親水性ゲルを用いて、白金族を含む金属ハロゲノ錯体や金属ハロゲン化物から白金族を逆相クロマト分離する方法が提案されているが、耐酸性装置が必要となる問題がある。一方、白金族を順相系擬似移動床方式で分離した報告はこれまでになされていない。
抽出から相互分離までの連続プロセスとしては、白金族含有物から超臨界抽出してオンライン系でHPLC定量をする方法(非特許文献3)や超臨界抽出して擬似移動床法で相互分離する方法(特許文献3)が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の超臨界抽出法において、アセチルアセトンで抽出した白金族錯体が複数金属を含む場合には、それらの相互分離について具体的相互分離方法が示されていないという問題がある。
特許文献2に記載の超臨界抽出法では、β-ジケトン等のキレート化剤(錯化剤)で抽出する際に、調節剤(改質剤)として低級アルキルアルコール等を供給することにより、溶媒特性を改善して収率を上げられる利点を有するが、抽出した錯体が複数金属を含む場合はそれらの相互分離ができないという欠点を有している。
非特許文献1及び2は、アセチルアセトナト錯体をシリカゲル、アルミナ等の充填剤を用いた順相クロマトまたは超臨界クロマト分離であるが、非特許文献1ではRuとRhのアセチルアセトナト錯体の分離が良くなく、またいずれの文献にもPtとPdとRhのアセチルアセトナト錯体の内から2種類以上の相互分離については記載されていない。
非特許文献3は、PdとRhのβ-ジケトナト錯体を超臨界抽出し、固相抽出による濃縮を経てから超臨界クロマトでオンライン系で定量することを開示しているが、定量目的であるからODS充填剤を使用した逆相クロマトであり、これでは溶解度からしても工業的な大量処理はできないとの問題がある。
特許文献3は、超臨界抽出の際に改質剤を添加することについては記載がなく、また具体的クロマト分離条件と実施例が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−316058号公報
【特許文献2】特表2000−515932号公報
【特許文献3】特開2006−183106号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】TOLLINCHE C A,RISBY T H,J Chromatogr Sci,16,(10),448-454,(1978)
【非特許文献2】BICKMANN F,WENCLAWIAK B, Fresenius Z Anal Chem,320,(3),261-264,(1985)
【非特許文献3】WENCLAWIAK B W,HEES T,ZOELLER C E,KABUS H-P, Fresenius J Anal Chem,358,(4),471-474,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、2種類以上の白金族元素を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出でき、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる、白金族元素の工業的分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラムを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、
順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ
前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂であることを特徴とする白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、クロマト分離手段が、超臨界クロマトグラフィーである上記1に記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、クロマト分離手段が、擬似移動床式分離手段である請求項1又は2に記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有物を、超臨界流体と改質剤である炭素数3以下のアルコールまたは/およびβ-ジケトンと接触させてβ-ジケトナト錯体を抽出した後、該抽出液を順相クロマト分離する上記1〜3のいずれかに記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の白金族元素(金属)の分離回収方法では、Pt、Pd、Rhのうち2種類以上を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出し、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる、白金族元素の工業的分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超臨界抽出装置の一例の概略図を示す。
【図2】クロマト分離手段の一例の概略図を示す。
【図3】擬似移動床式分離手段の一例の概略図を示す。
【図4】比較例A-1〜3及び実施例A-1〜4の抽出結果を示す。
【図5】比較例B-1の逆相クロマトの結果を示す。
【図6】比較例B-2の逆相クロマトの結果を示す。
【図7】比較例B-3の順相クロマトの結果を示す。
【図8】比較例B-4の順相クロマトの結果を示す。
【図9】比較例B-5の順相クロマトの結果を示す。
【図10】比較例B-6の順相クロマトの結果を示す。
【図11】比較例B-7の順相クロマトの結果を示す。
【図12】実施例B-1の順相クロマトの結果を示す。
【図13】実施例B-2の順相クロマトの結果を示す。
【図14】実施例B-3の順相クロマト(超臨界クロマト)の結果を示す。
【図15】実施例B-4の順相クロマトの結果を示す。
【図16】実施例B-5の順相クロマトの結果を示す。
【図17】実施例B-6の順相クロマトの結果を示す。
【図18】実施例B-7の順相クロマトの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(白金族含有物)
白金族元素とは、Pt、Pd、Rhのうち2種類以上を含有するものが最適であり、これらを含むものは、固体でも液体でもスラリー、スラッジでも構わない。また白金族元素であるほか、白金族化合物や白金族塩、白金族錯体などであっても構わない。また白金族以外の金属を含有していても構わない。
上記白金族元素の含有物としては、例えば固体では、白金族元素を含有する鉱石あるいは白金族元素が担体に担持された燃料電池用電極触媒を含む不均一系触媒、使用済み家電製品の基板、宝飾品、使用済み核燃料などがあげられるが、これらに限定されない。自動車排ガス処理用触媒を代表とする不均一系触媒は、粒状またはモノリス(ハニカム状)に分けられるが、粒状触媒はアルミナ等の粒状担体表面にPt、Pd、Rh等の白金族元素が担持されている。モノリス触媒はコージェライト等のハニカム状担体に、アルミナを主成分とするウォッシュコート層およびここに担持されるPt、Pd、Rh等の白金族元素から成る。これらをジェットミルなどで粉砕したものを用いることができる。製造過程で生じた不良品や焼成前のものでも良い。
また液状物やスラリー、スラッジでは触媒製造、精錬、メッキ、現像、軽水炉や高速炉における使用済核燃料の再処理工場などから発生する廃液、または触媒反応液、また上記白金族元素を含む固体を粉砕し、王水等で溶解したものなどが挙げられる。
【0012】
(錯化剤)
白金族含有物から白金族元素を超臨界抽出するには、白金族元素を錯体化する必要がある。錯化剤としては多種あるものの、β-ジケトナト錯体を形成する錯化剤、例えば、アセチルアセトン(Hacac)、3-メチルアセチルアセトン(Hmaa)、プロピオニルアセトン(Hpra)、ベンゾイルアセトン(Hbza)、トリフルオロアセチルアセトン(Htfa)などを用いるが、特にアセチルアセトン(Hacac)が各白金族元素と錯体を形成し、異性体を作らず、かつ安価なので、最も好ましい。
【0013】
白金族元素は錯化剤だけでは錯体化しにくい場合があるため、予め酸化剤を添加しても良い。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過塩素酸、塩素などが挙げられるが、抽出容器にステンレス鋼を使用でき、低コスト化を図れるということからも硝酸、過酸化水素が好ましい。アセチルアセトナト錯体溶液を作る方法の一例を挙げれば、白金族錯体含有物に水と硝酸を添加し、80℃で1時間撹拌し、その後、アセチルアセトンをモル比で充分な量を添加し、そのまま2時間還流すると二相分離し、上相に白金族アセチルアセトナト錯体が移行する。
酸化剤の量は、白金族元素が錯化剤に錯化されるようになる量であればよく、例えば、白金族含有物が元素状態の場合は全体量に対して0〜60wt%、白金族含有物がもともと錯体や塩の場合は0〜10wt%が良い。
【0014】
(アセチルアセトナト錯体)
白金族元素2種類以上、特にPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の内の2種類以上を含むものが最も好ましい。
【0015】
本発明では、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液の調製(抽出)には、超臨界流体を用いるのが好ましい。
(超臨界流体)
超臨界流体は、気体の拡散性と液体の溶解性を併せ持ち、超臨界抽出後、常圧に戻した際の溶解物質の分離が容易であるという利点をもつ。水、窒素、二酸化炭素、アンモニア、エタン、プロパン、一酸化二窒素、クロロトリフルオロメタンなどを用いることができるが、二酸化炭素が無害で安価、また比較的低温、低圧で使用できるため取り扱いやすく、好ましい。温度と圧力は臨界点以上であればよく、温度31〜300℃、より好ましく40〜100℃、圧力73〜400気圧、より好ましくは100〜200気圧である。
【0016】
(改質剤)
錯体を超臨界抽出する際には超臨界流体単独よりも、改質剤を添加して抽出するほうが抽出率が上がることが知られている。よく使用されるのはエタノール等のアルコールであるが、これは錯体とアルコールが水素結合をして抽出しやすくなるためと解釈されている(例えば仁井田純一ほか,日本化学会講演予稿集,1A2-43,(2003))。超臨界流体に溶解しやすいのは疎水性有機溶剤であるが、抽出率が上がるのは親水性有機溶剤の方である。したがって使用する改質剤としては例えばメタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数3以下のアルコールまたは錯化剤として使用するアセチルアセトン、およびこれらの混合液が最も適している。
改質剤の使用量は任意とすることができるが、超臨界流体の液化液、例えば液体二酸化炭素に対し、容量として0.01〜10倍量で用いるのが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1倍量である。
【0017】
(超臨界抽出装置)
図1に超臨界抽出装置の一例を示す。本装置は送液装置P、恒温槽O、抽出容器E、背圧装置V、捕集装置Sからなる。ボンベから導入された液状の抽出溶剤Gは冷却管Cにより冷却液化されたあと、送液装置Pにより圧送され、途中改質剤Mが混合されて恒温槽Oに設置された抽出容器Eに送液される。またOへ導入される前に予熱管Hがあればなお良いが、HまたはOで抽出溶剤は超臨界流体となり、Eへ導入される。Eへの導入方法は上昇流が良いが、上面や側面からEのヘッドスペースまたは液中へ導入して抜き出しても良い。Eには白金族錯体含有物が投入されているが、それは固体状、粉末状、液状、スラリー状のいずれでも構わない。Eには偏流防止装置や攪拌装置が設置されていればなお良い。白金族含有物のうち白金族錯体や改質剤を含む有機物は超臨界流体に溶解する。抽出済みの超臨界流体は背圧装置Vで圧力が常圧にされ、抽出溶剤Gはガス状となり、白金族錯体は、固体、有機物は液体または固体となって捕集装置Sに捕集される。抽出ガスGはリサイクル使用するのが好ましい。またVの前には抽出を監視する検出器、例えば紫外/可視(UV/VIS)分光光度計Dがあると良い。
Eの抽出時間は任意である。Eは複数槽設けて並列抽出操作を行っても良い。その際、全槽を同操作にした回分操作や、抽出操作と抜き出し操作、再充填操作を、例えば3グループに分けて全体として連続抽出操作となるようにしても良い。
Vのあとは白金族錯体や有機物は液体として得られるが、これを次工程で分離精製する。またVやSを設けず、超臨界流体に溶解したまま超臨界流体を溶離液とした超臨界クロマト工程へ接続すれば連続運転できるのでより好ましい。
また次工程へ入る前に濃縮操作を入れても良い。
自動車触媒等の不均一系触媒からの白金族元素の回収では、ジェットミルなどで粉砕した担体とのスラリーはヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題があり、通常1μm以上であれば濾過が可能であるが、それ以下の微粒子となると分離困難である。
超臨界抽出容器内の空塔速度が微粒子の終末速度を越える場合、微粒子は舞い上がって超臨界流体に同伴して排出されてしまう。
粉砕した担体微粒子との分離は、微粒子を錯化剤や改質剤に浸漬させ続けることにより液相に留まるため、超臨界流体相に舞い上がってくることがなく、非常に簡単に分離できる。
【0018】
(白金族元素の分離装置)
白金族元素の分離装置は、クロマト分離手段または擬似移動床式分離手段を有するものである。
クロマト分離手段とは、充填剤が充填された単一または複数のカラムが接続され、一端からカラムに溶離液と超臨界抽出で得られた液を導入し、他端から液を排出する装置のことである。カラムの後にUV/VIS検出器などがあれば、錯体が含まれているか判別できる。一度に注入できる量は限られるため何度も繰り返して各錯体のフラクションをフラクションコレクタまたはスプリッタにより分取する。
図2にクロマト分離手段の一例を示す。本装置は、送液装置P、恒温槽O、カラムCL、背圧装置V、捕集装置Sからなる。P(ポンプ)により溶離液ELを流し、白金族錯体含有液PGをインジェクトし、CLで分離する。超臨界クロマトの場合は二酸化炭素GをクーラーCで液化し、ポンプPで送液、途中、ELと混合する。
【0019】
(擬似移動床式分離手段)
擬似移動床式分離手段とは、充填剤が充填された複数のカラムが直列無端状に接続され、各カラムに液を導入できつつ各カラムから液を排出できるものである。
図3に、擬似移動床式分離手段の一例を示す。この擬似移動床式分離手段は、充填剤が充填され、直列無端状に接続された8個のカラム(充填床)11a〜11hと、白金族元素含有溶液を移送する白金族元素含有溶液移送管21と、溶離液を移送する溶離液移送管22と、各カラムから排出したエクストラクトを移送するエクストラクト移送管23と、各カラムから排出したラフィネートを移送するラフィネート移送管24と、カラム11aとカラム11hとを接続し、カラム11hから排出された液をカラム11aに導くリサイクル管25と、隣接するカラム同士を接続する接続管40a〜40gと、リサイクル管25に設けられたポンプ50とを具備して構成される。なお、カラム11a〜11hとリサイクル管25と接続管40a〜40gとから形成される流路のことを循環流路70という。
ここで、溶離液とは、ポンプ50により循環流路70を移動して、循環流路70内に導入した白金族元素含有溶液を流動させる移動相のことであり、エクストラクトとは、充填剤に吸着しやすい成分を含有する溶液のことであり、ラフィネートとは、充填剤に吸着しにくい成分を含有する溶液のことである。
【0020】
また、白金族元素含有溶液移送管21とカラム11a〜11hとは、それぞれ白金族元素含有溶液導入管31a〜31hで接続され、溶離液移送管22とカラム11a〜11hとは、それぞれ溶離液導入管32a〜32hで接続され、エクストラクト移送管23とカラム11a〜11hとは、それぞれエクストラクト排出管33a〜33hで接続され、ラフィネート移送管24とカラム11a〜11hとは、それぞれラフィネート排出管34a〜34hで接続されている。さらに、白金族元素含有溶液導入管31a〜31h、溶離液導入管32a〜32h、エクストラクト排出管33a〜33h、ラフィネート排出管34a〜34hのそれぞれには、シークエンス制御等によって適宜開閉するように設定された電磁弁35a〜35h(白金族元素含有溶液導入用電磁弁)、36a〜36h(溶離液導入用電磁弁)、37a〜37h(エクストラクト排出用電磁弁)、38a〜38h(ラフィネート排出用電磁弁)が設けられている。リサイクル管25には、その内部を流れる溶液の紫外/可視(UV/VIS)吸収などを測定する測定器60が設置されていると良い。
【0021】
(白金族元素の分離回収方法)
次に、上述した擬似移動床式分離手段を用いて、2種類の白金族元素を含む複数白金族元素含有溶液から白金族元素を分離する方法の一例について説明する。
まず、ポンプ50を作動させて循環流路70内に溶離液を流動させる。このように循環している流体の流れ方向に沿って、(1)溶離液導入口、(2)充填剤に吸着しやすい白金族元素を含有する液(エクストラクト)を抜き出すエクストラクト抜き出し口、(3)複数白金族元素含有溶液導入口および(4)充填剤に吸着しにくい白金族元素を含有する液(ラフィネート)を抜き出すラフィネート抜き出し口をこの順に配置するよう電磁弁を開閉する。また電磁弁は、これらの各導入口ないし抜き出し口が、カラム11a〜11h内の流体の流通方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動するように開閉する。例えば、電磁弁36a,37a,35b,38bを開放し、複数の白金族元素含有溶液移送管21から複数の白金族元素含有溶液導入管31bを介して、カラム11bに複数の白金族元素含有溶液を導入する。導入した複数の白金族元素含有溶液はカラム11bに導入され、カラム11b内を流動する。その際、11b内の充填剤への吸着性が2種類の白金族元素で異なるため、吸着しにくい白金族元素を含む溶液(ラフィネート)はカラム11b内を速く流動し、吸着しやすい白金族元素を含む液(エクストラクト)は遅く流動する。このような吸着性の違いを利用して、ラフィネートとエクストラクトに分離することができる。
【0022】
次に電磁弁36a,37a,35b,38bを閉止し、接続管40bにおける電磁弁35c出口付近を、ラフィネートのピークが通過してからエクストラクトのピークが到達するまで、電磁弁36b,37b,35c,38cを開放する。そして、ラフィネートをカラム11cからエクストラクトより先に排出し、その後、ラフィネート排出管34cを介してラフィネート移送管24に抜き出す。それと同時に、カラム11bに溶離液を通し、エクストラクトを排出管33bを介してエクストラクト移送管23に抜き出す。このような一連の工程により、2種類の白金族元素を分離することができる。
【0023】
この白金族元素の分離回収方法では、上述した工程が終了した後、白金族元素の分離を行うカラムを順番に変える。すなわち、カラム11bで白金族元素を分離した後、カラム11c、カラム11d、・・・、カラム11hの順で白金族元素を分離する。なお、カラム11a〜11hは直列無端状に接続されているので、カラム11hで白金族元素を分離した後は、カラム11aで白金族元素を分離することになる。なお、ラフィネートおよびエクストラクトの排出状況はUV/VIS吸収の測定などにより確認できるので、その結果に基づいてカラムを変えるタイミングを決定することができる。
【0024】
上述のようにしてエクストラクトとラフィネートとを分離した後には、それらのそれぞれから白金族元素を回収する。エクストラクト、ラフィネートから白金族元素を回収する方法としては、例えば、電解槽での電析法、還元剤を添加して白金族ブラックとして沈殿させる方法、焼却法、これらを組み合わせた方法などを適用できる。これらのうち、還元剤を添加して沈殿させる方法では、還元剤として、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、水素化ホウ素ナトリウム、金属カリウム、水素などを使用できるが、有機溶剤中で使用できるものが良い。また燃焼法では、300℃以上、好ましくは350〜700℃で焼成し、これを水素気流中で行ってもよい。
【0025】
以上説明した実施態様では、クロマト分離手段を用いて、複数白金族元素含有溶液から複数の白金族元素を分離できるので、選択性と収率が高い。その結果、精製の処理を省くことができるとの利点がある。また擬似移動床式分離手段では、連続的に白金族元素を分離できるので、効率的である上に、白金族元素含有溶液としてハロゲン溶液を使用しなくてもよいから耐食性装置等の制限がなく、コストを低くできるとの利点がある。
【0026】
なお、本発明は、上述した実施態様に限定されるものではない。上述した実施態様では、擬似移動床式分離手段のカラムが8個であったがこれに限定されず、好ましくは4個以上で適宜選択することができる。擬似移動床としては、例えば、2成分分離を行う米国特許第2985589号明細書、特公昭42-15681号公報、特許第890042号公報、特開2002-82106号公報、多成分分離を行う特許第2740780号公報、特許第2965747号公報、特許第1954744号公報、特許第2002942号公報、カラム数を4個とする特許第2008230号公報、超臨界流体を溶離液とする特許第2964348号公報、特表平07-500771号公報、その他米国特許第5422007号明細書、米国特許第6712973号明細書に記載されたものなどを使用できる。
【0027】
(カラム充填剤)
カラム内部の充填剤は、白金族錯体溶液と溶離液の通液により、各白金族錯体が充填剤に分配しうるものでなければならない。例えば、無機充填剤としてはシリカゲルが挙げられるが、意外にもPtとPdやRuとRhのアセチルアセトナト錯体の分離は良くない。これをシランカップリング剤で表面修飾する場合、例えばオクタデシル基(ODS)やオクチル基、フェニル基により表面を疎水的に修飾して逆相クロマト分離したものは分離性がやはり良くなく、また3-アミノプロピルトリエトキシシランなどで表面修飾し、アセトンと反応させてジエチルアミノ基としたものや、アミロース(トリス3,5-ジメチルフェニルカーバメート)などのアミロース誘導体で表面修飾したもので順相クロマト分離すると分離性がやはり良くないことが分かった。一方、ジオール基、シアノ基、セルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種のシランカップリング剤で表面修飾したもので、しかもアルコールを含有する溶離液で順相クロマト分離すると分離性が良くなることが判明した。ジオール基はエポキシ基を有するシランカップリング剤を加水分解したものが良く、特に3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾し加水分解したものが挙げられる。シアノ基としては、2-シアノエチルトリエトキシシランやトリクロロ-2-シアノエチルシランなどあるが、3-シアノプロピルトリエトキシシランが最も良い。セルロースエステル誘導体基はセルローストリアセテートやセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカーバメト)、セルローストリスフェニルカーバメトなどがあるが、セルロース(トリス-4-メチルベンゾエイト)で表面修飾したものを用いるものが最も良い。代表的な市販充填剤としてはInertsil Diol、LiChrosorb DIOL、Inertsil CN-3、LiChrosorb CN、Nucleosil 100-CN、Chiralcel OJなどが挙げられる。
表面修飾の方法は乾式法と湿式法のどちらでも良い。乾式法は、一例として上記シランカップリング剤を水やアルコールで20〜50wt%としたものを、シランカップリング剤として対シリカゲル0.5〜2wt%程度添加して撹拌し、100〜150℃で乾燥する。湿式法は一例として、シリカゲルを水または酢酸水溶液でスラリーとし、シランカップリング剤をやはり対シリカゲル0.5〜2wt%程度となるよう添加して撹拌、濾過して100〜150℃で乾燥する。表面修飾された量は、濾液中のシランカップリング剤の量から逆算できる。
【0028】
有機充填剤の場合は、スチレン-ジビニルベンゼン系などではなく、表面親水性の上からメタクリル酸エステル樹脂が好ましい。ポリヒドロキシメタクリレートやポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられるが、ポリエチレングリコールジメタクリレートが最も適しており、メタクリル酸とメタクリル酸メチルを共重合してエチレングリコール等で架橋したり、架橋性モノマーであるエチレングリコールジメタクリレートを重合しても良い。代表的な市販充填剤としてはOHpak SB-803HQ、トヨパールHWシリーズ、ダイヤイオンHP2MG、MCIGEL CHP2MG、MCIGEL CHP2MGM、アンバーライトXAD7HPなどが挙げられる。
クロマト分離のメカニズムとしては充填剤と錯体間の水素結合、疎水結合に代表される分子間相互作用、また立体構造が微妙に影響し合っていると考えられ、アルコールが存在すると分離性が向上するということから、アルコールが錯体に配位して元の立体構造から変化することが考えられる。
【0029】
充填剤が粒状の場合、粒径は1〜2000μmであることが好ましく、無機充填剤では3〜20μm、有機充填剤では100〜1000μmであることが最も好ましい。カラム温度は、温度0〜100℃が好ましく、より好ましくは10〜40℃、カラム圧力は常圧〜100MPaであるのが好ましく、無機充填剤では10〜20MPa、有機充填剤では0.2〜10MPaがより好ましい。溶離液が超臨界流体の場合は、臨界点以上であればよく、二酸化炭素の場合は、温度31〜300℃が好ましく、より好ましくは40〜100℃、圧力7.3〜40MPaが好ましく、より好ましくは10〜20MPaである。
【0030】
(溶離液)
溶離液としては、抽出された錯体・有機物を溶解し、かつ充填剤に吸着したものを溶離・分配できる流体であって、充填剤を溶解または膨潤させて圧損を大きくさせないもので、超臨界流体でも構わない。逆相クロマトでは分離が良くなかったり、錯体の溶解度が小さく処理量が限定されるため適さない。順相クロマトの溶離液としては、例えば、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、イソプロピルアルコール等の粘度が高くない炭素数3以下のアルコール、錯化剤として使用するβ-ジケトンであるアセチルアセトン、もしくはそれらの混合液を好適に用いることができる。これをアセトニトリル、アセトン、n-ヘキサン、ジクロロメタン、液体二酸化炭素等の有機溶剤と混合する。混合割合は炭素数3以下のアルコールまたは/およびアセチルアセトンの合計が溶離液全体に対して0.01〜50容量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10容量%である。超臨界クロマトの場合には、超臨界抽出で使用したものと同じ二酸化炭素が無害で安価、また比較的低温、低圧で使用できるため好ましい。この超臨界二酸化炭素に上記の溶離液を混合して用いる。混合割合は任意である。溶離液の流速はカラム圧力が上記の範囲となるならば任意である。
超臨界抽出の改質剤とクロマト溶離液が同一種類の溶剤を含むと作業効率が良い。例えば改質剤にエタノールを使用したら、溶離液としてエタノール/n-ヘキサン系の順相クロマトとすれば、使用する溶剤の種類をできるだけ少なくして分離の手間を省くという効果がある。アセチルアセトンを使用すれば、更に溶剤を1種類減らすことができる。例えば改質剤にアセチルアセトンを使用し、溶離液としてアセチルアセトン/n−ヘキサン系の順相クロマトで分離すれば、もともと錯化剤がアセチルアセトンなので、大変都合が良い。
【0031】
(検出器)
UV/VIS吸収の検出波長は200〜260nmまたは300〜350nmが好ましい。溶離液にアセチルアセトンやアセトンを含む場合は300〜350nmが好ましく、より好ましくは320〜330nmであるが、検出方法はこれらに限られない。
【0032】
クロマト法によるPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の相互分離は、(i)ODS充填剤による逆相クロマトでは溶離液の如何に関わらず分離困難で、(ii)特定の充填剤を使用し、かつ溶離液にアルコールを含有するならば分離可能であることが判明したので、これを考慮して分離を行うことを要する。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
図1に示す超臨界抽出装置を用いた。図中の配管の材質はすべてSUS316であり、Gは液化二酸化炭素ボンベ(大陽日酸製)、Cはエチレングリコール水を冷媒としたクーリングポンプCH-401AF(タイテック製)、Pは高圧ポンプPU-2086plus(日本分光製)、Mは改質剤供給ポンプPU-980(日本分光製)で送液、Oはアルミ鋳込みヒーター(日東高圧製)、Eは材質SUS316、内径36mmφ、深さ110mm、内容積0.11L、設計圧力30MPa、設計温度300℃のオートクレーブ(日東高圧製)、Dは耐圧セル仕様のUV/VIS検出器UV-970(日本分光製)、Vは自動圧力調整弁SCF-Bpg-M(日本分光製)、捕集装置SはトラップカラムTrap PES-50-1/16(日本分光製)と氷冷したトラップ瓶であり、UV/VISデータは解析ソフトChromNAV-01(日本分光製)で解析を行った。
【0034】
図2に示すクロマト分離手段を用いた。図中、ELは溶離液供給ポンプPU-980(日本分光製)で送液、Oはカラムオーブン(日本分光製)であり、その他の記号は図1と同様である。
【0035】
比較例A-1〜3及び実施例A-1〜6 白金族アセチルアセトナト錯体の超臨界抽出
ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロジアンミンパラジウム(II)(以上、石福金属興業製)、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウムn水和物(関東化学製)の10〜20mgを50mlサンプル瓶に精秤した。イオン交換水を1g入れて80℃で1時間溶解し、さらにアセチルアセトン(和光純薬工業製)5gを入れ2時間80℃で溶解した。
冷却後、サンプル瓶をオートクレーブ内に設置し、所定の温度(表A-1に記載の温度)となったら二酸化炭素を送液して所定の圧(表A-1に記載の圧力)に加圧した。温度が所定温度に上がったところから1時間静置し、その後、二酸化炭素と改質剤を所定流量で所定時間(それぞれ表A-1に記載)流した。二酸化炭素流量はトラップ瓶の後に流量計DC-1(シナガワ製)を設置して確認した。
抽出条件を表A-1に示した。
【0036】
表A-1 抽出条件
【0037】
抽出液中のPt、Pd及びRh元素の量は、王水分解後、ICP発光分光分析法で定量分析し、仕込み元素量に対する抽出液中の元素量から抽出率を計算した。比較例A-1〜3、実施例A-1〜4の抽出結果を図4に示す。改質剤を使うと三元素の抽出率が上がるが、その効果はアルコール類、とりわけエタノールの効果が高い。
実施例A-5における抽出率は、Pt86%、Pd88%、Rh87%であり、実施例A-6における抽出率はPt85%、Pd69%、Rh88%であった。こうして超臨界抽出したものを以下に示す実施例B-1〜7の方法などで相互分離することができた。
【0038】
比較例B-1〜7及び実施例B-1〜7 白金族アセチルアセトナト錯体のクロマト分離
クロマト分離装置は図2に示した通りであり、Pt(acac)2、Pd(acac)2(以上、和光純薬工業製)、Rh(acac)3(アヅマックス製)の分離を行った。分離性を良くするには特定の条件を要し、クロマト分離できるならば、その条件で擬似移動床分離手段でも分離することができる。
比較例B-1〜7および実施例B-1〜7における結果を表B-1に示す。ただし表中のEtOHはエタノール、Acetoneはアセトン、Hexはn-ヘキサン、L-CO2は液体二酸化炭素、SC-CO2は超臨界二酸化炭素を示し、SC-CO2の流量はL-CO2としての値。分離温度は室温、超臨界クロマトでは40℃以上。溶出順序は元素で書いてあるが各元素のアセチルアセトナト錯体である。比較例の条件では分離できず、実施例の条件で分離できたことを示すが、分離の可否は分離度Rs≧1が目安となる。
分離度: RS=2(TA−TB)/(WA+WB)
T:保持時間、 W:ピーク幅、 A,B:溶質
【0039】
表B-1
【0040】
(表B-1続き)
【0041】
比較例B-1のように、溶離液をエタノール/水系の逆相クロマト分離で行う場合、充填剤がODS等の疎水性充填剤を用いるとPt(acac)2とPd(acac)2の分離がうまくいかず、アセトン/水系の逆相クロマト分離では全く分離できないことがわかる。
図5は比較例B-1のクロマトグラムで、ODSカラムTsk-GEL ODS-80Ts(東ソー製)を用いて溶離液EtOH/H2O=3/7を流速0.5ml/minで流し、濃度0.4wt%の試料20μlをUV225nmで検出した結果である。溶出順序はRh(acac)3、{Pt(acac)2+Pd(acac)2}で、PtとPdの錯体はピークが重なった。これはODS充填剤ではPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の分離が困難であることを示している。注入量が増えればさらに分離困難となる。
比較例B-2の結果を図6示すが、最初のピークは溶媒のピークである。
比較例B-3は、エタノール/n−ヘキサン系の順相クロマト分離であるが、完全分離には至らない。図7は比較例B-3のクロマトグラムで、シリカカラムInertsil SIL-100A(ジーエルサイエンス製)を用いて溶離液EtOH/n-Hex=1/9を流速0.5ml/minで流し、試料5μlをUV225nmで検出した結果を示す。溶出順序は{Pd(acac)2+Pt(acac)2} 、Rh(acac)3で、PtとPdの錯体はピークが重なった。注入量が増えればさらに分離困難となる。
同様に比較例B-4〜7の結果を図8〜11に示す。ただし図9〜11の最初のピークは溶媒のピークである。
【0042】
特定の充填剤を用い、溶離液にエタノールを使用する順相クロマト、または超臨界クロマトにより、Pt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の分離が可能である。実施例B-1〜7の順相クロマト、超臨界クロマトの結果をそれぞれ図12〜18に示す。溶出順序は、表B-1に記載の通りであるが、アセチルアセトナト錯体Pt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の相互分離ができたことを示している。ただし図13、14及び18の最初のピークは溶媒のピーク、図14の溶媒に重なるピークはアセチルアセトン、図18の負ピークは注入液のアセチルアセトン濃度が溶離液より小さいことによるものである。
以上のように本発明によれば、2種類以上の白金族元素を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出でき、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石や自動車排ガス処理触媒に代表される貴金属触媒や携帯電話などの家電製品は白金族元素を含有しているが、これらの貴金属資源は世界的に極めて少なく、また採掘地も偏在しており、我が国の資源確保の点からこれらを回収して利用することは大変重要である。
精錬やメッキ産業においては白金族含有廃液から白金族元素を分離することが求められており、原子力産業では使用済核燃料の高レベル放射性硝酸廃液中にも白金族元素が含まれているので、溶融ガラスでの固化処理の前に高レベル放射性硝酸廃液から回収する技術が求められている。
一般的には白金族含有物を高温炉で溶融して合金にする乾式法が知られているが、特殊な炉が必要であり、様々な金属が混合、合金化した状態で得られると、水溶液にして各金属の相互分離を行うことが必要になるため、省エネルギーの観点からも湿式分離方法が求められている。しかしながら、湿式法においても、白金族含有物に強酸、酸化剤、還元剤を加えて溶解させた溶液と、微粉砕した岩石やセラミック担体、基板のスラリーは、ヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題がある。
【0003】
近年、抽出残渣との分離、抽出溶剤と白金族錯体との分離が容易な超臨界流体を用いて白金族を錯体として抽出する研究がなされている。超臨界水では374℃以上、221bar以上の高温高圧状態と高い腐食性の問題があるが、超臨界二酸化炭素を用いるとその心配はなく、錯化剤、酸化剤添加により白金族錯体を抽出する方法が研究されている(特許文献1〜2)。しかし白金族含有物から複数の白金族錯体を抽出することはできても、さらに各白金族元素を相互分離することが必要である。
白金族の相互分離回収方法としては、塩や錯体形成による沈殿と溶解を繰り返す古典的沈殿法や電解法などがあるが、近年では、高選択性の白金族抽出剤が開発され、その白金族抽出剤を用いた溶媒抽出法による特許が多数出願されている。また白金族錯体を陰イオン交換樹脂に吸着後、溶離方法の工夫で選択的溶離を行う方法、キレート樹脂であるキトサン誘導体に吸着後、選択的溶離を行う方法などが提案されているが、いずれも手間と時間が掛かるという問題を抱えている。
クロマト分離法により白金族のクロロ錯体やニトロ錯体をODSやイオン交換樹脂カラムを使用して逆相クロマト分離する方法があるが、塩酸や危険性の高い亜硝酸塩を使用し、安全性や装置の材質に問題が生じている。
様々な錯化剤の中でもアセチルアセトンは比較的毒性も少なく、安価で使用しやすいので、アセチルアセトナト錯体を逆相クロマト分離する方法は報告されているが、水溶液への溶解度が低いため、主に分析にしか適用できないとの問題がある。一方、順相クロマト分離する方法ならば、錯体も溶解しやすくなり工業的には処理量を充分確保できる。順相クロマトの充填剤にシリカゲルやアルミナを使用する方法は報告されている(非特許文献1〜2)が、その他の充填剤についてはこれまでに報告されていない。
クロマト分離法は、分離に要する時間が長い上に、精製を多数回繰り返す必要があるという問題があったが、連続的な擬似移動床方式を適用する方法が優れている。溶離液としてハロゲン溶液を用い、充填剤としてポリサッカライドやポリアクリルアミド等の親水性ゲルを用いて、白金族を含む金属ハロゲノ錯体や金属ハロゲン化物から白金族を逆相クロマト分離する方法が提案されているが、耐酸性装置が必要となる問題がある。一方、白金族を順相系擬似移動床方式で分離した報告はこれまでになされていない。
抽出から相互分離までの連続プロセスとしては、白金族含有物から超臨界抽出してオンライン系でHPLC定量をする方法(非特許文献3)や超臨界抽出して擬似移動床法で相互分離する方法(特許文献3)が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の超臨界抽出法において、アセチルアセトンで抽出した白金族錯体が複数金属を含む場合には、それらの相互分離について具体的相互分離方法が示されていないという問題がある。
特許文献2に記載の超臨界抽出法では、β-ジケトン等のキレート化剤(錯化剤)で抽出する際に、調節剤(改質剤)として低級アルキルアルコール等を供給することにより、溶媒特性を改善して収率を上げられる利点を有するが、抽出した錯体が複数金属を含む場合はそれらの相互分離ができないという欠点を有している。
非特許文献1及び2は、アセチルアセトナト錯体をシリカゲル、アルミナ等の充填剤を用いた順相クロマトまたは超臨界クロマト分離であるが、非特許文献1ではRuとRhのアセチルアセトナト錯体の分離が良くなく、またいずれの文献にもPtとPdとRhのアセチルアセトナト錯体の内から2種類以上の相互分離については記載されていない。
非特許文献3は、PdとRhのβ-ジケトナト錯体を超臨界抽出し、固相抽出による濃縮を経てから超臨界クロマトでオンライン系で定量することを開示しているが、定量目的であるからODS充填剤を使用した逆相クロマトであり、これでは溶解度からしても工業的な大量処理はできないとの問題がある。
特許文献3は、超臨界抽出の際に改質剤を添加することについては記載がなく、また具体的クロマト分離条件と実施例が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−316058号公報
【特許文献2】特表2000−515932号公報
【特許文献3】特開2006−183106号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】TOLLINCHE C A,RISBY T H,J Chromatogr Sci,16,(10),448-454,(1978)
【非特許文献2】BICKMANN F,WENCLAWIAK B, Fresenius Z Anal Chem,320,(3),261-264,(1985)
【非特許文献3】WENCLAWIAK B W,HEES T,ZOELLER C E,KABUS H-P, Fresenius J Anal Chem,358,(4),471-474,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、2種類以上の白金族元素を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出でき、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる、白金族元素の工業的分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラムを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、
順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ
前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂であることを特徴とする白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、クロマト分離手段が、超臨界クロマトグラフィーである上記1に記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、クロマト分離手段が、擬似移動床式分離手段である請求項1又は2に記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
本発明は、又、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有物を、超臨界流体と改質剤である炭素数3以下のアルコールまたは/およびβ-ジケトンと接触させてβ-ジケトナト錯体を抽出した後、該抽出液を順相クロマト分離する上記1〜3のいずれかに記載の白金族元素の分離回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の白金族元素(金属)の分離回収方法では、Pt、Pd、Rhのうち2種類以上を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出し、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる、白金族元素の工業的分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超臨界抽出装置の一例の概略図を示す。
【図2】クロマト分離手段の一例の概略図を示す。
【図3】擬似移動床式分離手段の一例の概略図を示す。
【図4】比較例A-1〜3及び実施例A-1〜4の抽出結果を示す。
【図5】比較例B-1の逆相クロマトの結果を示す。
【図6】比較例B-2の逆相クロマトの結果を示す。
【図7】比較例B-3の順相クロマトの結果を示す。
【図8】比較例B-4の順相クロマトの結果を示す。
【図9】比較例B-5の順相クロマトの結果を示す。
【図10】比較例B-6の順相クロマトの結果を示す。
【図11】比較例B-7の順相クロマトの結果を示す。
【図12】実施例B-1の順相クロマトの結果を示す。
【図13】実施例B-2の順相クロマトの結果を示す。
【図14】実施例B-3の順相クロマト(超臨界クロマト)の結果を示す。
【図15】実施例B-4の順相クロマトの結果を示す。
【図16】実施例B-5の順相クロマトの結果を示す。
【図17】実施例B-6の順相クロマトの結果を示す。
【図18】実施例B-7の順相クロマトの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(白金族含有物)
白金族元素とは、Pt、Pd、Rhのうち2種類以上を含有するものが最適であり、これらを含むものは、固体でも液体でもスラリー、スラッジでも構わない。また白金族元素であるほか、白金族化合物や白金族塩、白金族錯体などであっても構わない。また白金族以外の金属を含有していても構わない。
上記白金族元素の含有物としては、例えば固体では、白金族元素を含有する鉱石あるいは白金族元素が担体に担持された燃料電池用電極触媒を含む不均一系触媒、使用済み家電製品の基板、宝飾品、使用済み核燃料などがあげられるが、これらに限定されない。自動車排ガス処理用触媒を代表とする不均一系触媒は、粒状またはモノリス(ハニカム状)に分けられるが、粒状触媒はアルミナ等の粒状担体表面にPt、Pd、Rh等の白金族元素が担持されている。モノリス触媒はコージェライト等のハニカム状担体に、アルミナを主成分とするウォッシュコート層およびここに担持されるPt、Pd、Rh等の白金族元素から成る。これらをジェットミルなどで粉砕したものを用いることができる。製造過程で生じた不良品や焼成前のものでも良い。
また液状物やスラリー、スラッジでは触媒製造、精錬、メッキ、現像、軽水炉や高速炉における使用済核燃料の再処理工場などから発生する廃液、または触媒反応液、また上記白金族元素を含む固体を粉砕し、王水等で溶解したものなどが挙げられる。
【0012】
(錯化剤)
白金族含有物から白金族元素を超臨界抽出するには、白金族元素を錯体化する必要がある。錯化剤としては多種あるものの、β-ジケトナト錯体を形成する錯化剤、例えば、アセチルアセトン(Hacac)、3-メチルアセチルアセトン(Hmaa)、プロピオニルアセトン(Hpra)、ベンゾイルアセトン(Hbza)、トリフルオロアセチルアセトン(Htfa)などを用いるが、特にアセチルアセトン(Hacac)が各白金族元素と錯体を形成し、異性体を作らず、かつ安価なので、最も好ましい。
【0013】
白金族元素は錯化剤だけでは錯体化しにくい場合があるため、予め酸化剤を添加しても良い。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過塩素酸、塩素などが挙げられるが、抽出容器にステンレス鋼を使用でき、低コスト化を図れるということからも硝酸、過酸化水素が好ましい。アセチルアセトナト錯体溶液を作る方法の一例を挙げれば、白金族錯体含有物に水と硝酸を添加し、80℃で1時間撹拌し、その後、アセチルアセトンをモル比で充分な量を添加し、そのまま2時間還流すると二相分離し、上相に白金族アセチルアセトナト錯体が移行する。
酸化剤の量は、白金族元素が錯化剤に錯化されるようになる量であればよく、例えば、白金族含有物が元素状態の場合は全体量に対して0〜60wt%、白金族含有物がもともと錯体や塩の場合は0〜10wt%が良い。
【0014】
(アセチルアセトナト錯体)
白金族元素2種類以上、特にPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の内の2種類以上を含むものが最も好ましい。
【0015】
本発明では、白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液の調製(抽出)には、超臨界流体を用いるのが好ましい。
(超臨界流体)
超臨界流体は、気体の拡散性と液体の溶解性を併せ持ち、超臨界抽出後、常圧に戻した際の溶解物質の分離が容易であるという利点をもつ。水、窒素、二酸化炭素、アンモニア、エタン、プロパン、一酸化二窒素、クロロトリフルオロメタンなどを用いることができるが、二酸化炭素が無害で安価、また比較的低温、低圧で使用できるため取り扱いやすく、好ましい。温度と圧力は臨界点以上であればよく、温度31〜300℃、より好ましく40〜100℃、圧力73〜400気圧、より好ましくは100〜200気圧である。
【0016】
(改質剤)
錯体を超臨界抽出する際には超臨界流体単独よりも、改質剤を添加して抽出するほうが抽出率が上がることが知られている。よく使用されるのはエタノール等のアルコールであるが、これは錯体とアルコールが水素結合をして抽出しやすくなるためと解釈されている(例えば仁井田純一ほか,日本化学会講演予稿集,1A2-43,(2003))。超臨界流体に溶解しやすいのは疎水性有機溶剤であるが、抽出率が上がるのは親水性有機溶剤の方である。したがって使用する改質剤としては例えばメタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数3以下のアルコールまたは錯化剤として使用するアセチルアセトン、およびこれらの混合液が最も適している。
改質剤の使用量は任意とすることができるが、超臨界流体の液化液、例えば液体二酸化炭素に対し、容量として0.01〜10倍量で用いるのが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1倍量である。
【0017】
(超臨界抽出装置)
図1に超臨界抽出装置の一例を示す。本装置は送液装置P、恒温槽O、抽出容器E、背圧装置V、捕集装置Sからなる。ボンベから導入された液状の抽出溶剤Gは冷却管Cにより冷却液化されたあと、送液装置Pにより圧送され、途中改質剤Mが混合されて恒温槽Oに設置された抽出容器Eに送液される。またOへ導入される前に予熱管Hがあればなお良いが、HまたはOで抽出溶剤は超臨界流体となり、Eへ導入される。Eへの導入方法は上昇流が良いが、上面や側面からEのヘッドスペースまたは液中へ導入して抜き出しても良い。Eには白金族錯体含有物が投入されているが、それは固体状、粉末状、液状、スラリー状のいずれでも構わない。Eには偏流防止装置や攪拌装置が設置されていればなお良い。白金族含有物のうち白金族錯体や改質剤を含む有機物は超臨界流体に溶解する。抽出済みの超臨界流体は背圧装置Vで圧力が常圧にされ、抽出溶剤Gはガス状となり、白金族錯体は、固体、有機物は液体または固体となって捕集装置Sに捕集される。抽出ガスGはリサイクル使用するのが好ましい。またVの前には抽出を監視する検出器、例えば紫外/可視(UV/VIS)分光光度計Dがあると良い。
Eの抽出時間は任意である。Eは複数槽設けて並列抽出操作を行っても良い。その際、全槽を同操作にした回分操作や、抽出操作と抜き出し操作、再充填操作を、例えば3グループに分けて全体として連続抽出操作となるようにしても良い。
Vのあとは白金族錯体や有機物は液体として得られるが、これを次工程で分離精製する。またVやSを設けず、超臨界流体に溶解したまま超臨界流体を溶離液とした超臨界クロマト工程へ接続すれば連続運転できるのでより好ましい。
また次工程へ入る前に濃縮操作を入れても良い。
自動車触媒等の不均一系触媒からの白金族元素の回収では、ジェットミルなどで粉砕した担体とのスラリーはヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題があり、通常1μm以上であれば濾過が可能であるが、それ以下の微粒子となると分離困難である。
超臨界抽出容器内の空塔速度が微粒子の終末速度を越える場合、微粒子は舞い上がって超臨界流体に同伴して排出されてしまう。
粉砕した担体微粒子との分離は、微粒子を錯化剤や改質剤に浸漬させ続けることにより液相に留まるため、超臨界流体相に舞い上がってくることがなく、非常に簡単に分離できる。
【0018】
(白金族元素の分離装置)
白金族元素の分離装置は、クロマト分離手段または擬似移動床式分離手段を有するものである。
クロマト分離手段とは、充填剤が充填された単一または複数のカラムが接続され、一端からカラムに溶離液と超臨界抽出で得られた液を導入し、他端から液を排出する装置のことである。カラムの後にUV/VIS検出器などがあれば、錯体が含まれているか判別できる。一度に注入できる量は限られるため何度も繰り返して各錯体のフラクションをフラクションコレクタまたはスプリッタにより分取する。
図2にクロマト分離手段の一例を示す。本装置は、送液装置P、恒温槽O、カラムCL、背圧装置V、捕集装置Sからなる。P(ポンプ)により溶離液ELを流し、白金族錯体含有液PGをインジェクトし、CLで分離する。超臨界クロマトの場合は二酸化炭素GをクーラーCで液化し、ポンプPで送液、途中、ELと混合する。
【0019】
(擬似移動床式分離手段)
擬似移動床式分離手段とは、充填剤が充填された複数のカラムが直列無端状に接続され、各カラムに液を導入できつつ各カラムから液を排出できるものである。
図3に、擬似移動床式分離手段の一例を示す。この擬似移動床式分離手段は、充填剤が充填され、直列無端状に接続された8個のカラム(充填床)11a〜11hと、白金族元素含有溶液を移送する白金族元素含有溶液移送管21と、溶離液を移送する溶離液移送管22と、各カラムから排出したエクストラクトを移送するエクストラクト移送管23と、各カラムから排出したラフィネートを移送するラフィネート移送管24と、カラム11aとカラム11hとを接続し、カラム11hから排出された液をカラム11aに導くリサイクル管25と、隣接するカラム同士を接続する接続管40a〜40gと、リサイクル管25に設けられたポンプ50とを具備して構成される。なお、カラム11a〜11hとリサイクル管25と接続管40a〜40gとから形成される流路のことを循環流路70という。
ここで、溶離液とは、ポンプ50により循環流路70を移動して、循環流路70内に導入した白金族元素含有溶液を流動させる移動相のことであり、エクストラクトとは、充填剤に吸着しやすい成分を含有する溶液のことであり、ラフィネートとは、充填剤に吸着しにくい成分を含有する溶液のことである。
【0020】
また、白金族元素含有溶液移送管21とカラム11a〜11hとは、それぞれ白金族元素含有溶液導入管31a〜31hで接続され、溶離液移送管22とカラム11a〜11hとは、それぞれ溶離液導入管32a〜32hで接続され、エクストラクト移送管23とカラム11a〜11hとは、それぞれエクストラクト排出管33a〜33hで接続され、ラフィネート移送管24とカラム11a〜11hとは、それぞれラフィネート排出管34a〜34hで接続されている。さらに、白金族元素含有溶液導入管31a〜31h、溶離液導入管32a〜32h、エクストラクト排出管33a〜33h、ラフィネート排出管34a〜34hのそれぞれには、シークエンス制御等によって適宜開閉するように設定された電磁弁35a〜35h(白金族元素含有溶液導入用電磁弁)、36a〜36h(溶離液導入用電磁弁)、37a〜37h(エクストラクト排出用電磁弁)、38a〜38h(ラフィネート排出用電磁弁)が設けられている。リサイクル管25には、その内部を流れる溶液の紫外/可視(UV/VIS)吸収などを測定する測定器60が設置されていると良い。
【0021】
(白金族元素の分離回収方法)
次に、上述した擬似移動床式分離手段を用いて、2種類の白金族元素を含む複数白金族元素含有溶液から白金族元素を分離する方法の一例について説明する。
まず、ポンプ50を作動させて循環流路70内に溶離液を流動させる。このように循環している流体の流れ方向に沿って、(1)溶離液導入口、(2)充填剤に吸着しやすい白金族元素を含有する液(エクストラクト)を抜き出すエクストラクト抜き出し口、(3)複数白金族元素含有溶液導入口および(4)充填剤に吸着しにくい白金族元素を含有する液(ラフィネート)を抜き出すラフィネート抜き出し口をこの順に配置するよう電磁弁を開閉する。また電磁弁は、これらの各導入口ないし抜き出し口が、カラム11a〜11h内の流体の流通方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動するように開閉する。例えば、電磁弁36a,37a,35b,38bを開放し、複数の白金族元素含有溶液移送管21から複数の白金族元素含有溶液導入管31bを介して、カラム11bに複数の白金族元素含有溶液を導入する。導入した複数の白金族元素含有溶液はカラム11bに導入され、カラム11b内を流動する。その際、11b内の充填剤への吸着性が2種類の白金族元素で異なるため、吸着しにくい白金族元素を含む溶液(ラフィネート)はカラム11b内を速く流動し、吸着しやすい白金族元素を含む液(エクストラクト)は遅く流動する。このような吸着性の違いを利用して、ラフィネートとエクストラクトに分離することができる。
【0022】
次に電磁弁36a,37a,35b,38bを閉止し、接続管40bにおける電磁弁35c出口付近を、ラフィネートのピークが通過してからエクストラクトのピークが到達するまで、電磁弁36b,37b,35c,38cを開放する。そして、ラフィネートをカラム11cからエクストラクトより先に排出し、その後、ラフィネート排出管34cを介してラフィネート移送管24に抜き出す。それと同時に、カラム11bに溶離液を通し、エクストラクトを排出管33bを介してエクストラクト移送管23に抜き出す。このような一連の工程により、2種類の白金族元素を分離することができる。
【0023】
この白金族元素の分離回収方法では、上述した工程が終了した後、白金族元素の分離を行うカラムを順番に変える。すなわち、カラム11bで白金族元素を分離した後、カラム11c、カラム11d、・・・、カラム11hの順で白金族元素を分離する。なお、カラム11a〜11hは直列無端状に接続されているので、カラム11hで白金族元素を分離した後は、カラム11aで白金族元素を分離することになる。なお、ラフィネートおよびエクストラクトの排出状況はUV/VIS吸収の測定などにより確認できるので、その結果に基づいてカラムを変えるタイミングを決定することができる。
【0024】
上述のようにしてエクストラクトとラフィネートとを分離した後には、それらのそれぞれから白金族元素を回収する。エクストラクト、ラフィネートから白金族元素を回収する方法としては、例えば、電解槽での電析法、還元剤を添加して白金族ブラックとして沈殿させる方法、焼却法、これらを組み合わせた方法などを適用できる。これらのうち、還元剤を添加して沈殿させる方法では、還元剤として、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、水素化ホウ素ナトリウム、金属カリウム、水素などを使用できるが、有機溶剤中で使用できるものが良い。また燃焼法では、300℃以上、好ましくは350〜700℃で焼成し、これを水素気流中で行ってもよい。
【0025】
以上説明した実施態様では、クロマト分離手段を用いて、複数白金族元素含有溶液から複数の白金族元素を分離できるので、選択性と収率が高い。その結果、精製の処理を省くことができるとの利点がある。また擬似移動床式分離手段では、連続的に白金族元素を分離できるので、効率的である上に、白金族元素含有溶液としてハロゲン溶液を使用しなくてもよいから耐食性装置等の制限がなく、コストを低くできるとの利点がある。
【0026】
なお、本発明は、上述した実施態様に限定されるものではない。上述した実施態様では、擬似移動床式分離手段のカラムが8個であったがこれに限定されず、好ましくは4個以上で適宜選択することができる。擬似移動床としては、例えば、2成分分離を行う米国特許第2985589号明細書、特公昭42-15681号公報、特許第890042号公報、特開2002-82106号公報、多成分分離を行う特許第2740780号公報、特許第2965747号公報、特許第1954744号公報、特許第2002942号公報、カラム数を4個とする特許第2008230号公報、超臨界流体を溶離液とする特許第2964348号公報、特表平07-500771号公報、その他米国特許第5422007号明細書、米国特許第6712973号明細書に記載されたものなどを使用できる。
【0027】
(カラム充填剤)
カラム内部の充填剤は、白金族錯体溶液と溶離液の通液により、各白金族錯体が充填剤に分配しうるものでなければならない。例えば、無機充填剤としてはシリカゲルが挙げられるが、意外にもPtとPdやRuとRhのアセチルアセトナト錯体の分離は良くない。これをシランカップリング剤で表面修飾する場合、例えばオクタデシル基(ODS)やオクチル基、フェニル基により表面を疎水的に修飾して逆相クロマト分離したものは分離性がやはり良くなく、また3-アミノプロピルトリエトキシシランなどで表面修飾し、アセトンと反応させてジエチルアミノ基としたものや、アミロース(トリス3,5-ジメチルフェニルカーバメート)などのアミロース誘導体で表面修飾したもので順相クロマト分離すると分離性がやはり良くないことが分かった。一方、ジオール基、シアノ基、セルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種のシランカップリング剤で表面修飾したもので、しかもアルコールを含有する溶離液で順相クロマト分離すると分離性が良くなることが判明した。ジオール基はエポキシ基を有するシランカップリング剤を加水分解したものが良く、特に3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾し加水分解したものが挙げられる。シアノ基としては、2-シアノエチルトリエトキシシランやトリクロロ-2-シアノエチルシランなどあるが、3-シアノプロピルトリエトキシシランが最も良い。セルロースエステル誘導体基はセルローストリアセテートやセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカーバメト)、セルローストリスフェニルカーバメトなどがあるが、セルロース(トリス-4-メチルベンゾエイト)で表面修飾したものを用いるものが最も良い。代表的な市販充填剤としてはInertsil Diol、LiChrosorb DIOL、Inertsil CN-3、LiChrosorb CN、Nucleosil 100-CN、Chiralcel OJなどが挙げられる。
表面修飾の方法は乾式法と湿式法のどちらでも良い。乾式法は、一例として上記シランカップリング剤を水やアルコールで20〜50wt%としたものを、シランカップリング剤として対シリカゲル0.5〜2wt%程度添加して撹拌し、100〜150℃で乾燥する。湿式法は一例として、シリカゲルを水または酢酸水溶液でスラリーとし、シランカップリング剤をやはり対シリカゲル0.5〜2wt%程度となるよう添加して撹拌、濾過して100〜150℃で乾燥する。表面修飾された量は、濾液中のシランカップリング剤の量から逆算できる。
【0028】
有機充填剤の場合は、スチレン-ジビニルベンゼン系などではなく、表面親水性の上からメタクリル酸エステル樹脂が好ましい。ポリヒドロキシメタクリレートやポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられるが、ポリエチレングリコールジメタクリレートが最も適しており、メタクリル酸とメタクリル酸メチルを共重合してエチレングリコール等で架橋したり、架橋性モノマーであるエチレングリコールジメタクリレートを重合しても良い。代表的な市販充填剤としてはOHpak SB-803HQ、トヨパールHWシリーズ、ダイヤイオンHP2MG、MCIGEL CHP2MG、MCIGEL CHP2MGM、アンバーライトXAD7HPなどが挙げられる。
クロマト分離のメカニズムとしては充填剤と錯体間の水素結合、疎水結合に代表される分子間相互作用、また立体構造が微妙に影響し合っていると考えられ、アルコールが存在すると分離性が向上するということから、アルコールが錯体に配位して元の立体構造から変化することが考えられる。
【0029】
充填剤が粒状の場合、粒径は1〜2000μmであることが好ましく、無機充填剤では3〜20μm、有機充填剤では100〜1000μmであることが最も好ましい。カラム温度は、温度0〜100℃が好ましく、より好ましくは10〜40℃、カラム圧力は常圧〜100MPaであるのが好ましく、無機充填剤では10〜20MPa、有機充填剤では0.2〜10MPaがより好ましい。溶離液が超臨界流体の場合は、臨界点以上であればよく、二酸化炭素の場合は、温度31〜300℃が好ましく、より好ましくは40〜100℃、圧力7.3〜40MPaが好ましく、より好ましくは10〜20MPaである。
【0030】
(溶離液)
溶離液としては、抽出された錯体・有機物を溶解し、かつ充填剤に吸着したものを溶離・分配できる流体であって、充填剤を溶解または膨潤させて圧損を大きくさせないもので、超臨界流体でも構わない。逆相クロマトでは分離が良くなかったり、錯体の溶解度が小さく処理量が限定されるため適さない。順相クロマトの溶離液としては、例えば、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、イソプロピルアルコール等の粘度が高くない炭素数3以下のアルコール、錯化剤として使用するβ-ジケトンであるアセチルアセトン、もしくはそれらの混合液を好適に用いることができる。これをアセトニトリル、アセトン、n-ヘキサン、ジクロロメタン、液体二酸化炭素等の有機溶剤と混合する。混合割合は炭素数3以下のアルコールまたは/およびアセチルアセトンの合計が溶離液全体に対して0.01〜50容量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10容量%である。超臨界クロマトの場合には、超臨界抽出で使用したものと同じ二酸化炭素が無害で安価、また比較的低温、低圧で使用できるため好ましい。この超臨界二酸化炭素に上記の溶離液を混合して用いる。混合割合は任意である。溶離液の流速はカラム圧力が上記の範囲となるならば任意である。
超臨界抽出の改質剤とクロマト溶離液が同一種類の溶剤を含むと作業効率が良い。例えば改質剤にエタノールを使用したら、溶離液としてエタノール/n-ヘキサン系の順相クロマトとすれば、使用する溶剤の種類をできるだけ少なくして分離の手間を省くという効果がある。アセチルアセトンを使用すれば、更に溶剤を1種類減らすことができる。例えば改質剤にアセチルアセトンを使用し、溶離液としてアセチルアセトン/n−ヘキサン系の順相クロマトで分離すれば、もともと錯化剤がアセチルアセトンなので、大変都合が良い。
【0031】
(検出器)
UV/VIS吸収の検出波長は200〜260nmまたは300〜350nmが好ましい。溶離液にアセチルアセトンやアセトンを含む場合は300〜350nmが好ましく、より好ましくは320〜330nmであるが、検出方法はこれらに限られない。
【0032】
クロマト法によるPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の相互分離は、(i)ODS充填剤による逆相クロマトでは溶離液の如何に関わらず分離困難で、(ii)特定の充填剤を使用し、かつ溶離液にアルコールを含有するならば分離可能であることが判明したので、これを考慮して分離を行うことを要する。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
図1に示す超臨界抽出装置を用いた。図中の配管の材質はすべてSUS316であり、Gは液化二酸化炭素ボンベ(大陽日酸製)、Cはエチレングリコール水を冷媒としたクーリングポンプCH-401AF(タイテック製)、Pは高圧ポンプPU-2086plus(日本分光製)、Mは改質剤供給ポンプPU-980(日本分光製)で送液、Oはアルミ鋳込みヒーター(日東高圧製)、Eは材質SUS316、内径36mmφ、深さ110mm、内容積0.11L、設計圧力30MPa、設計温度300℃のオートクレーブ(日東高圧製)、Dは耐圧セル仕様のUV/VIS検出器UV-970(日本分光製)、Vは自動圧力調整弁SCF-Bpg-M(日本分光製)、捕集装置SはトラップカラムTrap PES-50-1/16(日本分光製)と氷冷したトラップ瓶であり、UV/VISデータは解析ソフトChromNAV-01(日本分光製)で解析を行った。
【0034】
図2に示すクロマト分離手段を用いた。図中、ELは溶離液供給ポンプPU-980(日本分光製)で送液、Oはカラムオーブン(日本分光製)であり、その他の記号は図1と同様である。
【0035】
比較例A-1〜3及び実施例A-1〜6 白金族アセチルアセトナト錯体の超臨界抽出
ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロジアンミンパラジウム(II)(以上、石福金属興業製)、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウムn水和物(関東化学製)の10〜20mgを50mlサンプル瓶に精秤した。イオン交換水を1g入れて80℃で1時間溶解し、さらにアセチルアセトン(和光純薬工業製)5gを入れ2時間80℃で溶解した。
冷却後、サンプル瓶をオートクレーブ内に設置し、所定の温度(表A-1に記載の温度)となったら二酸化炭素を送液して所定の圧(表A-1に記載の圧力)に加圧した。温度が所定温度に上がったところから1時間静置し、その後、二酸化炭素と改質剤を所定流量で所定時間(それぞれ表A-1に記載)流した。二酸化炭素流量はトラップ瓶の後に流量計DC-1(シナガワ製)を設置して確認した。
抽出条件を表A-1に示した。
【0036】
表A-1 抽出条件
【0037】
抽出液中のPt、Pd及びRh元素の量は、王水分解後、ICP発光分光分析法で定量分析し、仕込み元素量に対する抽出液中の元素量から抽出率を計算した。比較例A-1〜3、実施例A-1〜4の抽出結果を図4に示す。改質剤を使うと三元素の抽出率が上がるが、その効果はアルコール類、とりわけエタノールの効果が高い。
実施例A-5における抽出率は、Pt86%、Pd88%、Rh87%であり、実施例A-6における抽出率はPt85%、Pd69%、Rh88%であった。こうして超臨界抽出したものを以下に示す実施例B-1〜7の方法などで相互分離することができた。
【0038】
比較例B-1〜7及び実施例B-1〜7 白金族アセチルアセトナト錯体のクロマト分離
クロマト分離装置は図2に示した通りであり、Pt(acac)2、Pd(acac)2(以上、和光純薬工業製)、Rh(acac)3(アヅマックス製)の分離を行った。分離性を良くするには特定の条件を要し、クロマト分離できるならば、その条件で擬似移動床分離手段でも分離することができる。
比較例B-1〜7および実施例B-1〜7における結果を表B-1に示す。ただし表中のEtOHはエタノール、Acetoneはアセトン、Hexはn-ヘキサン、L-CO2は液体二酸化炭素、SC-CO2は超臨界二酸化炭素を示し、SC-CO2の流量はL-CO2としての値。分離温度は室温、超臨界クロマトでは40℃以上。溶出順序は元素で書いてあるが各元素のアセチルアセトナト錯体である。比較例の条件では分離できず、実施例の条件で分離できたことを示すが、分離の可否は分離度Rs≧1が目安となる。
分離度: RS=2(TA−TB)/(WA+WB)
T:保持時間、 W:ピーク幅、 A,B:溶質
【0039】
表B-1
【0040】
(表B-1続き)
【0041】
比較例B-1のように、溶離液をエタノール/水系の逆相クロマト分離で行う場合、充填剤がODS等の疎水性充填剤を用いるとPt(acac)2とPd(acac)2の分離がうまくいかず、アセトン/水系の逆相クロマト分離では全く分離できないことがわかる。
図5は比較例B-1のクロマトグラムで、ODSカラムTsk-GEL ODS-80Ts(東ソー製)を用いて溶離液EtOH/H2O=3/7を流速0.5ml/minで流し、濃度0.4wt%の試料20μlをUV225nmで検出した結果である。溶出順序はRh(acac)3、{Pt(acac)2+Pd(acac)2}で、PtとPdの錯体はピークが重なった。これはODS充填剤ではPt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の分離が困難であることを示している。注入量が増えればさらに分離困難となる。
比較例B-2の結果を図6示すが、最初のピークは溶媒のピークである。
比較例B-3は、エタノール/n−ヘキサン系の順相クロマト分離であるが、完全分離には至らない。図7は比較例B-3のクロマトグラムで、シリカカラムInertsil SIL-100A(ジーエルサイエンス製)を用いて溶離液EtOH/n-Hex=1/9を流速0.5ml/minで流し、試料5μlをUV225nmで検出した結果を示す。溶出順序は{Pd(acac)2+Pt(acac)2} 、Rh(acac)3で、PtとPdの錯体はピークが重なった。注入量が増えればさらに分離困難となる。
同様に比較例B-4〜7の結果を図8〜11に示す。ただし図9〜11の最初のピークは溶媒のピークである。
【0042】
特定の充填剤を用い、溶離液にエタノールを使用する順相クロマト、または超臨界クロマトにより、Pt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の分離が可能である。実施例B-1〜7の順相クロマト、超臨界クロマトの結果をそれぞれ図12〜18に示す。溶出順序は、表B-1に記載の通りであるが、アセチルアセトナト錯体Pt(acac)2、Pd(acac)2、Rh(acac)3の相互分離ができたことを示している。ただし図13、14及び18の最初のピークは溶媒のピーク、図14の溶媒に重なるピークはアセチルアセトン、図18の負ピークは注入液のアセチルアセトン濃度が溶離液より小さいことによるものである。
以上のように本発明によれば、2種類以上の白金族元素を含む白金族含有物から白金族元素を容易に抽出でき、さらに各成分を連続的に相互分離して回収できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラムを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、
順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ
前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂であることを特徴とする白金族元素の分離回収方法。
【請求項2】
クロマト分離手段が、超臨界クロマトグラフィーである請求項1に記載の白金族元素の分離回収方法。
【請求項3】
クロマト分離手段が、擬似移動床式分離手段である請求項1又は2に記載の白金族元素の分離回収方法。
【請求項4】
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有物を、超臨界流体と改質剤である炭素数3以下のアルコールまたは/およびアセチルアセトンと接触させてβ-ジケトナト錯体を抽出した後、該抽出液を順相クロマト分離する請求項1〜3のいずれか1項に記載の白金族元素の分離回収方法。
【請求項1】
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液を、充填剤が充填されたカラムを用いて順相クロマト分離する白金族元素の分離回収方法であって、
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有溶液が、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)のうちの2種類以上を含むアセチルアセトナト錯体含有溶液であり、
順相クロマト溶離液が、炭素数3以下のアルコールおよび/またはアセチルアセトンを合計0.01〜50容量%含有し、かつ
前記充填剤が、(a)ジオール基、シアノ基及びセルロースエステル誘導体基からなる群から選ばれる1種により表面修飾されたシリカゲル、または(b)メタクリル酸エステル樹脂であることを特徴とする白金族元素の分離回収方法。
【請求項2】
クロマト分離手段が、超臨界クロマトグラフィーである請求項1に記載の白金族元素の分離回収方法。
【請求項3】
クロマト分離手段が、擬似移動床式分離手段である請求項1又は2に記載の白金族元素の分離回収方法。
【請求項4】
白金族元素を含む2種類以上の金属のβ-ジケトナト錯体含有物を、超臨界流体と改質剤である炭素数3以下のアルコールまたは/およびアセチルアセトンと接触させてβ-ジケトナト錯体を抽出した後、該抽出液を順相クロマト分離する請求項1〜3のいずれか1項に記載の白金族元素の分離回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−231378(P2011−231378A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103961(P2010−103961)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
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