説明

白金族元素の回収方法

【課題】高レベル放射性廃液からの高放射線場に対応した遠隔操作による白金族元素の分別が可能であり、2次放射性廃棄物となる分離剤の使用を極力抑え、再利用のために金属として白金族元素を回収でき、且つ高い選択性を有する分別と高い回収率が達成できる、白金族元素の回収方法を提供する。
【解決手段】白金族元素イオン含有溶液に紫外線領域波長レーザーを照射することにより前記白金族元素イオンを還元し、生成した白金族元素を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素の回収方法に関する。さらに詳しくは、湿式の元素分離において、白金族元素イオンを含む複数種類の元素正イオンが共存する水溶液から白金族元素を選択的に分別し回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への負荷軽減の観点から、放射性廃棄物の放射能の低減及び処理処分における負担軽減が要求されており、これらの分離・変換に関する研究が進められている。軽水型原子炉や高速増殖炉等の原子力発電施設からの使用済核燃料は、再処理施設で再処理される。この再処理施設で発生する高レベル放射性廃液中には多くの長寿命の放射性核種が存在する。高レベル放射性廃棄物中の核分裂生成物は、マイナーアクチノイド、ランタノイド元素の他に、白金族元素であるルテニウム、ロジウム、パラジウム等という有用な希少元素を含んでおり、これら希少元素を放射性廃棄物から分別回収することにより、環境負荷軽減のみならず、資源として有効に再利用することが考えられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
マイナーアクチノイド、ランタノイド元素を含む高レベル放射性廃液から白金族元素を分離する方法としては、白金族元素イオンが陰イオン交換樹脂に強く吸着する性質を利用したイオン交換分離法(例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照)や白金族元素イオンの電解還元・酸化を利用した電気化学法(例えば、非特許文献1および特許文献1を参照)が提案されている。さらに、高レベル放射性廃液は通常硝酸イオンを含む水溶液として調整されているが、塩素イオンを含む水溶液として調整し、白金族元素を分別回収する可能性についても研究が進められている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、上述の手法では、イオン交換法ではイオン交換樹脂を、電気化学法では電極を高レベル放射性廃液に長時間浸漬させて分離を行うため、イオン交換樹脂や電極は高い放射線耐性を有する材料が必要である。また、高レベル放射性廃液にイオン交換樹脂や電極などを長時間浸漬させておくことによって、新たな放射性廃棄物が発生するという問題がある。さらに、実用的な分離・変換技術においては希少金属の回収率は99%以上であることが目標値として設定されているにもかかわらず、イオン交換法では吸着したイオン交換樹脂からの白金族元素の溶離が困難であって回収に問題があり、特許文献1の電気化学法ではパラジウムに関して高い回収率を達成するには多数回の分離工程が必要である。
【0005】
以上のことから、(1)高レベル放射性廃液からの高放射線場に対応した遠隔操作による白金族元素の分別が可能であり、(2)2次放射性廃棄物となる分離剤の使用を極力抑え、(3)再利用のために金属として白金族元素を回収でき、且つ(4)高い選択性を有する分別と高い回収率が達成できる、新しい白金族元素の回収方法の提案が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−161798号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JAEA-Review 2008-083.
【非特許文献2】T. Suzuki et al., Progress in Nuclear Energy 50 (2008) 456-461.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、(1)高レベル放射性廃液からの高放射線場に対応した遠隔操作による白金族元素の分別が可能であり、(2)2次放射性廃棄物となる分離剤の使用を極力抑え、(3)再利用のために金属として白金族元素を回収でき、且つ(4)高い選択性を有する分別と高い回収率が達成できる、白金族元素の回収方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは鋭意研究の結果、負イオン共存下で溶液中の元素正イオンの電荷移動吸収帯を光励起することにより、元素正イオンを還元できることに着目し、試験により確認して以下の発明を完成した。すなわち、
本発明は、第1には、白金族元素イオン含有溶液に紫外線領域波長レーザーを照射することにより前記白金族元素イオンを還元し、生成した白金族元素を回収する。
【0010】
第2には、上記第1の発明において、白金族元素イオン含有溶液が塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液、またはアルコール類を添加した塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液である。
【0011】
第3には、上記第2の発明において、アルコール類が、エタノール、メタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
第4には、上記第2または第3の発明において、アルコール類を添加した塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液での、アルコール類の体積パーセント濃度が10〜50%である。
【0013】
第5には、上記第1から第4のいずれかの発明において、紫外線領域波長レーザーが、193nm〜355nmの波長を有するレーザーである。
【0014】
第6には、上記第5の発明において、紫外線領域波長レーザーが、Nd:YAG4倍高調波レーザー(波長266nm)である。
【0015】
第7には、上記第1から第6のいずれかの発明において、白金族元素の回収は、紫外線領域波長レーザー照射後の白金族元素イオン含有溶液を孔径25nm〜800nmのフィルターでろ過することにより行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、希土類元素が含まれる高レベル放射性廃液中の白金族元素(パラジウム、ロジウム、ルテニウム等)を、レーザーを用いた遠隔操作により、特にパラジウムおよびロジウムに関しては99%以上の効率で金属微粒子として分別回収することが可能である。また、本発明によれば、白金族元素イオン含有溶液の溶媒として水性溶媒を用いたときのアルコール類の体積パーセント濃度、レーザー光照射強度、照射時間等を制御することにより、白金族元素の回収率を調整することもできる。さらに本発明により、白金族元素回収過程における高レベル放射性廃液と回収装置との接触時間が1分以下となり、放射能汚染による2次廃棄物の発生を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】白金族元素の回収方法の概念説明図である。
【図2】分別回収装置の構成を示す図である。
【図3】パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ネオジム混合溶液の吸光度の波長依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、白金族元素の回収方法の概念説明図である。図1(a)は、本発明が対象にしている白金族元素イオン含有溶液の一実施形態を示しており、白金族元素イオンをはじめ、マイナーアクチノイドイオン、ランタノイドイオンなど複数種類の元素正イオンが負イオンと共に溶液中に存在している。溶液中での元素正イオンは電荷移動吸収帯と呼ばれる光吸収帯を持つ。この吸収帯を光励起することにより、溶液中の負イオンから元素正イオンへ電子を移動させて元素正イオンを還元することができる。光還元により元素正イオンが中性化すると、溶液中では凝集し、微粒子を形成することがある。白金族元素(パラジウム、ロジウム、ルテニウム等)イオンは紫外線領域波長(200-400nm)に電荷移動吸収帯を持っているので、白金族元素イオンを含む複数種類の元素正イオン含有溶液に紫外線領域波長レーザーを照射することにより効率的に白金族元素イオンを選択的に光還元することができる。白金族元素イオンが還元すると、図1(b)に示すように、サブミクロン程度(0.1μm〜1μm)の粒径をもつ微粒子が溶液中に形成される。そして、図1(c)に示すように、この溶液を適当な孔径を有するフィルターでろ過することにより、微粒子化した白金族元素だけを分別し、回収することができる。
【0020】
白金族元素イオン含有溶液の溶媒は、水又は還元性溶媒である。還元性溶媒としてはエタノール、メタノール又はプロパノール等の水に易溶なアルコール類、又はこれらの混合液、又はこれらと水とを混合した水性溶媒が例示される。本実施形態では溶媒が水のみでも白金族元素イオンの還元は可能であるが、白金族元素の微粒子化の効率は低い。アルコール類等を還元剤として水に加えることにより還元反応を促進させ、短時間での微粒子化が可能になるので、溶媒としては水とアルコール類とを混合した水性溶媒であることが好ましい。この場合、アルコール類の体積パーセント濃度が高まると微粒子化の効率が低下し、また白金族元素の回収率が低下してしまうこともあるので、好適なアルコール類の体積パーセント濃度は10〜50%であり、より好ましくは30〜50%である。
【0021】
白金族元素イオン含有溶液の好ましい形態としては、負イオンとして塩素イオンや硝酸イオン等を含んでいる溶液である。そして、本発明が対象にしている白金族元素イオン含有溶液の具体例は、使用済み核燃料の再処理工程で発生する高レベル放射性廃液である。この高レベル放射性廃液は塩酸水溶液もしくは硝酸水溶液であり、水溶液中には白金族元素と共にマイナーアクチノイドやランタノイド元素がイオンとして溶解している。マイナーアクチノイドやランタノイドの一部の元素正イオンは紫外線領域波長に電荷移動吸収帯を持つが、紫外線領域波長レーザーの照射に加えてさらに特別な操作を施さないとこの元素正イオンの効率的な微粒子化は起こらない。よって、この高レベル放射性廃液に紫外線領域波長レーザーを照射することにより、白金族元素だけをサブミクロン程度の粒径をもつ微粒子として分別、回収することが可能である。そして、上記したように、白金族元素イオン含有溶液の好適な溶媒が水とアルコール類とを混合した水性溶媒であることを考慮すると、高レベル放射性廃液から効果的に白金族元素を分別、回収するためには、高レベル放射性廃液にアルコール類を添加することが望ましい。その際には、高レベル放射性廃液でのアルコール類の体積パーセント濃度が10〜50%になるようにアルコール類を添加することが好ましい。
【0022】
白金族元素イオン含有溶液中の白金族元素イオンの電荷移動吸収帯を励起するための紫外線領域波長レーザーとしては、193nm〜355nmの波長を有するレーザーを用いることができる。例えば、Nd:YAG4倍高調波レーザー(波長266nm)を用いることができる。また、紫外線領域の波長を有する他のレーザーとしては、例えばArF(波長193nm)やKrF(波長248nm)またはXeCl(波長308nm)、XeF(波長351nm)、Nd:YAG3倍高調波レーザー(波長355nm)でも同等の効果を得ることができる。
【0023】
白金族元素の回収に用いられるフィルターの孔径は、溶液中に形成した白金族元素の微粒子を回収できればよく、その微粒子化した白金族元素の粒径がサブミクロン程度(0.1μm〜1μm)であることを考慮すると、例えば、25nm〜800nmであることが考慮される。高レベル放射性廃液から白金族元素を分別、回収する場合、ろ過に要する時間をできるだけ少なくし、且つできるだけ高い回収率を保つことが望まれる。この場合の好ましいフィルターの孔径としては、溶媒や負イオンの種類、レーザー光照射強度、波長等によって形成される微粒子の粒径分布が異なるため一概にはいえないが、例えば、50nm〜200nm、なかでも100nm程度であることが好ましい。
【0024】
図2は、白金族元素の分別回収装置の概要図である。分別回収装置1は、石英セル2、撹拌子3、マグネットスターラー4、スリット5、紫外線領域波長レーザー光反射鏡6、レーザー光源7から構成される。
【0025】
白金族元素イオン含有溶液からの白金族元素分別は以下の手順で行う。まず、白金族元素やランタノイドなどの塩化物を純水に溶解し、そこにエタノールを添加して高レベル放射性廃液の模擬廃液を作製する。作製した模擬廃液を石英セル2に入れ、撹拌子3で撹拌しながらレーザー光源7から紫外線領域波長ナノ秒パルスレーザーを照射し、白金族元素だけを微粒子化して分別する。その後、溶液を取り出してフィルターを通して吸引ろ過し、白金族元素を金属微粒子として回収する。白金族元素回収後の模擬廃液中の金属イオン濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)で測定し、紫外線領域波長レーザー照射前の模擬廃液中の金属イオン濃度と比較することにより濃度の減少率(%)を算出し、それをもって元素の回収率(%)とした。
【0026】
本実施形態では、模擬廃液を石英セルに封入して紫外線領域波長レーザーを照射するバッチ方式での白金族元素の微粒子化による分別について記載したが、石英セル内で連続的に模擬廃液を流しながら照射するフロー方式を採用すれば、白金族元素の微粒子化からフィルターによるろ過回収まで、一貫したプロセスで元素の分別回収が完了できることは言うまでもない。
【0027】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0028】
以下、分別回収装置1を用いて白金族元素としてロジウム、ルテニウム、パラジウムを、マイナーアクチノイドおよびランタノイドの模擬金属としてネオジムを用い、これらの塩化物混合水溶液を高レベル放射性廃液の模擬廃液とみなして行った白金族元素の分別回収例について説明する。
【0029】
本実施形態ではレーザー光源7としてNd:YAG4倍高調波レーザー(コンティニュアム社製Surelite-10、波長266nm)を用いている。レーザー出力は16mJ/パルス、繰返し周波数は10Hzである。なお、照射したレーザーの強度は50mJ/cm2である。
<実施例1>
ロジウム、ルテニウムおよびネオジムの各塩化物を純水に溶解して模擬廃液を作製し、等量のエタノールを添加して0.5mM-ロジウム塩化物、0.5mM-ルテニウム塩化物、0.5mM-ネオジム塩化物の混合試料溶液(エタノールの体積パーセント濃度 50%)を調製した。次に、調製した試料溶液を3mL取り出して石英セルに入れ、撹拌しながらレーザー光を30分間照射し、溶液中でロジウムおよびルテニウムを微粒子化させた。そして、レーザー照射後の溶液をメンブレンフィルターにより吸引ろ過し、ロジウムおよびルテニウムを金属微粒子として回収した。分別回収操作は、孔径800nm、100nm、25nmの3種類のメンブレンフィルターを用いて行い、ろ過に要する時間および元素回収率を比較した。その結果を表1に示す。なお、ここでいうろ過に要する時間とは、石英セルからろ過器に移し変えた3mLの試料溶液が滴下しなくなる時間である。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、いずれのフィルターの場合にもネオジムの回収率は測定誤差範囲内(< 3%)であり、ロジウムおよびルテニウムのみの分別・回収に成功していることが示された。特に、ロジウムに関しては85-97%という高い回収率を達成している。一方、ルテニウムの回収率は44-55%であり、1回の分別回収操作で半分程度は回収できることが示された。
【0032】
表1は、フィルターの孔径を小さくすると、ロジウムおよびルテニウムの回収率が上昇することを示している。これはレーザー照射により形成される微粒子が幅広い粒径分布をもち、フィルターの孔径を小さくすることにより、より小さい微粒子が回収できるようになることに由来する。フィルターの孔径を800nmから100nmにした場合には、ろ過に要する時間が1分以内のままで、回収率はロジウムでは10%、ルテニウムでは7%上昇する。一方、フィルターの孔径を100nmから25nmにした場合には、10分程度のろ過時間を要するようになるにも関わらず、回収率はロジウムでは2%、ルテニウムでは4%しか上昇しない。高レベル放射性廃液からの白金族分別・回収プロセスにおいては、ろ過に要する時間をできるだけ少なくし、且つできるだけ高い回収率を保つことが望まれる。このようにフィルターの孔径を変えた時の所要ろ過時間と回収率の関係から、この系では孔径100nmのフィルターを用いて回収を行うことが好ましいことが結論付けられた。
<実施例2>
ロジウム、ルテニウムおよびネオジムの各塩化物を純水に溶解して模擬廃液を作製し、様々な比率でエタノールを添加して、最終的に0.5mM-ロジウム塩化物、0.5mM-ルテニウム塩化物、0.5mM-ネオジム塩化物の混合試料溶液を調製した。次に、調製した試料溶液を3mL取り出して石英セルに入れ、撹拌しながらレーザー光を40分間照射し、溶液中でロジウムおよびルテニウムを微粒子化させた。そして、レーザー照射後の溶液を孔径100nmのメンブレンフィルターにより吸引ろ過し、ロジウムおよびルテニウムを金属微粒子として回収し、エタノール比率を変えた時の元素回収率を比較した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
ネオジムの回収率は測定誤差範囲内であり、実施例1と同様、白金族元素のみの選択的な分別・回収に成功していることがわかる。純水のみの模擬廃液では回収率はロジウムでは20%、ルテニウムでは14%とそれほど高くないが、エタノール比率が10%になるだけで回収率がロジウムおよびルテニウム共に50%程度まで上昇する。さらにエタノール比率が33%を超えるとロジウムの回収率は95%以上になり、エタノール比率が50%まで回収率はほとんど変化しない。一方、ルテニウムに関してはエタノール比率が高くなると、ロジウムほど高くはならないものの、回収率は60%まで上昇する。しかし、エタノール比率が50%を超えると、急激に回収率は減少し、エタノール比率が67%においてロジウムおよびルテニウム共に28%程度まで下がる。従って、エタノール比率は50%程度が好ましい。
【0035】
実施例1では30分間のレーザー照射、実施例2では40分間のレーザー照射により分別回収を行った。表1−実験番号2と表2−実験番号4は両者ともエタノールの体積パーセント濃度 50%、孔径100nmのメンブレンフィルターを用いて分別回収を行ったものであり、レーザー照射時間のみが異なる。照射時間の増加によりロジウムの回収率は95%から98%へ、ルテニウムの回収率は51%から60%へ上昇している。この比較はレーザー照射時間の増加により白金族元素の回収率が向上することを示している。よって、レーザー照射時間は40分以上が好ましい。
<実施例3>
パラジウム、ロジウム、ルテニウムおよびネオジムの各塩化物を、水/エタノール混合溶液(エタノール比率50%)に溶解し、0.5mM-パラジウム塩化物、0.5mM-ロジウム塩化物、0.5mM-ルテニウム塩化物、0.5mM-ネオジム塩化物の混合模擬廃液を調製した。次に、調製した模擬廃液を3mL取り出して石英セルに入れ、撹拌しながらレーザー光を40分間照射し、溶液中でパラジウム、ロジウムおよびルテニウムを微粒子化させた。そして、レーザー照射後の溶液をメンブレンフィルターにより吸引ろ過し、パラジウム、ロジウムおよびルテニウムを金属微粒子として回収した。
【0036】
図3は,日本分光製の紫外可視分光光度計(日本分光社製 V-660)により測定した混合模擬廃液の吸光度の波長依存性(吸収スペクトル)を示す図である。図3中の実線はレーザー照射前の溶液の吸収スペクトルであり、混合溶液中の各元素イオンの電荷移動吸収帯に起因するバンドが紫外線領域波長に認められる。図3中の点線は、40分間のレーザー照射後の溶液の吸収スペクトルである。元素イオンの還元による紫外線領域波長のバンドの減少が確認できる。また、可視から近赤外線領域波長にかけては吸収スペクトルベースラインの上昇がみられる。これは散乱によるもので、元素イオンの還元によって生成した微粒子の存在を示すものである。図3中の破線は、40分間のレーザー照射後さらに孔径100nmのメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過したろ液の吸収スペクトルである。レーザー照射後のスペクトルで観測された吸収スペクトルよりベースラインが減少していることより、ろ過により微粒子が除去されたことを示している。
【0037】
パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ネオジムの回収率(%)を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3より、ネオジムの回収率は測定誤差範囲内である一方、パラジウム、ロジウムは99%以上、ルテニウムも52%の割合で回収できており、白金族元素のみの選択的な分別・回収に成功していることが示された。発明者らは、この実験により高レベル放射性廃液に含まれる白金族元素(パラジウム、ロジウム、ルテニウム)全てを、高レベル放射性廃液中では強い放射能をもつマイナーアクチノイドおよびランタノイド元素と分別し、特にパラジウム、ロジウムに関しては、1回の分離回収操作で99%以上金属微粒子として回収できることを実証した。
【符号の説明】
【0040】
1 分別回収装置
2 石英セル
3 撹拌子
4 マグネットスターラー
5 スリット
6 紫外線領域波長レーザー光反射鏡
7 レーザー光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素イオン含有溶液に紫外線領域波長レーザーを照射することにより前記白金族元素イオンを還元し、生成した白金族元素を回収することを特徴とする白金族元素の回収方法。
【請求項2】
白金族元素イオン含有溶液が、塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液、またはアルコール類を添加した塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液であることを特徴とする請求項1に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項3】
アルコール類が、エタノール、メタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項4】
アルコール類を添加した塩素イオンまたは硝酸イオンを含む高レベル放射性廃液での、アルコール類の体積パーセント濃度が10〜50%であることを特徴とする請求項2または3に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項5】
紫外線領域波長レーザーが、193nm〜355nmの波長を有するレーザーであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項6】
紫外線領域波長レーザーが、Nd:YAG4倍高調波レーザー(波長266nm)であることを特徴とする請求項5に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項7】
白金族元素の回収は、紫外線領域波長レーザー照射後の溶液を孔径25nm〜800nmのフィルターでろ過することにより行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の白金族元素の回収方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−275588(P2010−275588A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129298(P2009−129298)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】