説明

百日咳毒素を精製する方法およびそれに有用なペプチド

【課題】百日咳毒素(PT)を精製するための試薬および方法を提供する。
【解決手段】アミノ酸配列NVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDを含むペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、百日咳毒素(PT)を精製するための試薬および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
百日咳菌(Bordetella pertussis)によって産生される百日咳毒素(PT)は、百日咳に対する全てのワクチンの主成分である。PTは典型的には破傷風トキソイドおよびジフテリアトキソイドと併用される。PTの工業生産は、典型的には百日咳菌を規定の培地で培養することによって達成される。PTは次いで周知の技術(すなわち、特許文献1;特許文献2;および非特許文献1; 非特許文献2)を用いて上清から単離および精製される。公知の方法の多くはそれぞれ、マトリクス結合ウシフェチュイン(BF)またはアシアロフェチュインの使用を必要とし、その起源および純度が重要である。ウシ由来試薬の使用は、ウシ海綿状脳症(BSE)といったウシ関連疾患に関する幾分の懸念に結びついている。
【0003】
従って、当業者は、BFに依存しなでPTを精製する方法を求めている。1つのそのような方法は、Bogdanら(非特許文献2)によって記載されている。PTを結合させることによってウシフェチュインのグリコシド部分を模倣する能力を有するペプチドが、ファージディスプレイシステムを用いて同定された。共通配列XGSFSGX(Xは任意のアミノ酸である)を有する3つのペプチド(3G5:NGSFSGF;3G8:NGSFSGC;および、3G2:DGSFSGF)が、PT−結合能を有するとして同定された。3G2は、部分精製されたPT調製物からPTを精製するためのアフィニティカラムにおも利用された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,399,076号明細書
【特許文献2】米国特許第5,877,298号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sekura,et al.J.Biol.Chem.258: 14647-14651,1983
【非特許文献2】Bogdan,et al.Appl.Env.Micro.69 (10): 6272-6279,Oct.2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウシ製品の不在下でPTを精製するためのペプチドを設計および使用するための他の方法が当業者に望まれている。いずれの形態でもフェチュインを使用しない、PTのアフィニティ精製のための試薬および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は百日咳毒素(PT)を精製するための方法に関する。一実施形態では、ペプチド受容体に結合した核酸逆転写プライマーをRNAに共有結合させ、そのRNAを翻訳してタンパク質産物がプライマーに共有結合するようにペプチド産物を生じさせ、RNAを逆転写してDNA−タンパク質融合物を生じさせ、さらにその融合産物を試験してPT結合ペプチドを含有する融合産物を同定することによって、DNA−タンパク質融合物を作製する方法を提供する。その後、ペプチドの配列を配列決定によって同定する。他の実施形態では、PT−結合能を有し、かつ複雑な生物液からPTを精製するのに有用であるペプチドを提供する。また、複雑な生物液からPTを精製するのに使用するための固相担体および/またはクロマトグラフィー媒体に結合したペプチド、およびそのような精製を実施する方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】A)グルマリンライブラリの模式図。ライブラリのアミノ酸配列に翻訳される位置が強調表示されている。タンパク質部分の配列(アミノ酸59個の長さ)は1文字アミノ酸コードで表され、Xは任意のアミノ酸を示す。ライブラリの翻訳されない部分は灰色の囲みで示す。(a)T7−ライブラリの最適なin vitro転写のためのプロモーター、(b) TMV−ライブラリの完全なin vitro翻訳のためのタバコモザイクウイルス翻訳開始配列、(c)PROfusion(登録商標)ライブラリの効率的なアフィニティ精製のためのHisタグ、(d)構造的な柔軟なリンカー、(e)アミノ酸をそれぞれ5個および9個含む2つのランダム化ループを有するグルマリンコア、(f)構造的な柔軟なリンカーおよび(g)ピューロマイシン受容体分子との効率的なカップリングのための最適化されたリンカー。B)グルマリンPROfusionライブラリの構築は下記の反応を含む多段階工程である:PCR、in vitro転写、RNAのピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーとの化学的ライゲーション、in vitro翻訳、オリゴdT精製、逆転写およびHisタグ精製。
【図2−1】PROfusion(登録商標)選択サイクルの略図。
【図2−2】グルマリンPROfusion(登録商標)ライブラリを用いて実施した、固定化PTに対する連続した6回の選択を示す(表1)。
【図3】PTに対する結合活性を試験すべき選択されたグルマリン変異体。保存された配列モチーフが色付き囲みで強調表示されている。
【図4】PTに対する第4回のグルマリン選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域およびグルマリン足場の定常領域が強調表示されている。ランダム化ループ1および2の位置が示されている。
【図5】PT(エポキシ)に対する第5a回のグルマリン選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域およびグルマリン足場の定常領域が強調表示されている。ランダム化ループ1および2の位置が示されている。
【図6】PT(strep)に対する第5b回のグルマリン選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域およびグルマリン足場の定常領域が強調表示されている。ランダム化ループ1および2の位置が示されている。
【図7】PT(strep)に対する第6a回のグルマリン選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域およびグルマリン足場の定常領域が強調表示されている。ランダム化ループ1および2の位置が示されている。
【図8−1】PT(strep)に対する第6b回のグルマリン選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域およびグルマリン足場の定常領域が強調表示されている。ランダム化ループ1および2の位置が示されている。
【図8−2】PP26PROfusion(登録商標)ライブラリについて実施した、固定化PTに対する連続6回の選択を示す(表2)。
【図9】PTに対する結合活性を試験すべき選択されたPP26変異体。保存された配列モチーフが強調表示されている。
【図10】PTに対する第4回のPP26選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域が強調表示されている。
【図11】PT(エポキシ)に対する第5a回のPP26選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域を淡黄色囲みで示す。保存された配列モチーフが強調表示されている。
【図12】PT(strep)に対する第5b回のPP26選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域を淡黄色囲みで示す。保存された配列モチーフが強調表示されている。
【図13】PTに対する第6a回のPP26選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域を淡黄色囲みで示す。保存された配列モチーフが強調表示されている。
【図14】PTに対する第6b回のPP26選択の配列分析。各変異体のアミノ酸配列を1文字アミノ酸コードで示す。ライブラリの定常隣接領域が強調表示されている。
【図15】合成ビオチン化コアペプチドのストレプトアビジンセファロースへの固定化および精製PTとの結合の確認。PTの非結合画分を、結合後の上清の1/40容の12%NuPageゲルでのMES泳動緩衝液を用いた分離によって分析した(上側ゲル)。セファロースに結合したPTを分析するため、溶出液の50%を12%NuPageゲルでMES泳動緩衝液を用いて分離した(下側ゲル)。検出は銀染色によって実施した。グルマリンペプチド15および9を除いて、規定量の精製PTを定量の標準として使用した。
【図16】試料A(左側ゲル)および試料B(右側ゲル)からのPTの精製。セファロースに結合したPTを分析するため、溶出液の50%を12%NuPageゲルでMES泳動緩衝液を用いて分離した(下側ゲル)。検出は銀染色によって実施した。グルマリンペプチド9を除いて、規定量の精製PTを定量の標準として使用した。
【図17】試料AまたはBから固定化ペプチドpp26クローン9および15およびグルマリンクローン9および15に結合したPTの洗浄条件の、50mM Tris/HCl、pH7.5または50mM酢酸、pH6の洗浄3回を用いた最適化。PTを12%BisTrisゲルで分析しおよび銀染色によって可視化した。PPM:protein perfectマーカー。
【図18】試料Bから固定化ペプチドpp26クローン9に結合したPTの洗浄条件の、50mM Tris/HCl、pH7.5または50mM酢酸、pH6の洗浄3〜20回を用いた最適化。を12%BisTrisゲルで分析しおよび銀染色によって可視化した。
【図19】ペプチドストレプトアビジンセファロースからの、0.2から2.0M MgClを含む50mM Tris/HClを用いたPTの溶出。ペプチドに結合したPTをペプチド−ストレプトアビジンセファロースから、表示の溶出緩衝液(各20μl)での3回連続洗浄によって置換した。残存物質を続いてゲル装填緩衝液で溶出した。全ての溶出液を12%BisTrisゲル(1×MES泳動緩衝液)で分析しおよび銀染色によって可視化した。
【図20】酸性(50mMグリシン、pH2.5)または塩基性(100mM炭酸緩衝液pH10.5)条件下でのペプチドストレプトアビジンセファロースからのPTの溶出。ペプチドに結合したPTをペプチドストレプトアビジンセファロース(1種類のペプチド200pmolまでを含む20μl)から、表示の溶出緩衝液(各40μl)での3回連続洗浄によって置換した。残存物質を続いてゲル装填緩衝液で溶出した。全ての溶出液を12%BisTrisゲル(1×MES泳動緩衝液)で分析しおよび銀染色によって可視化した。ペプチドストレプトアビジンセファロースの試料Aとのインキュベート後の素通り画分の1/40容を、各ペプチドについて同一ゲルで分析した。
【図21】アフィニティリガンドとして固定化pp26ペプチド9を有するストレプトアビジンセファロースでの、試料BからのPTの小スケールカラム精製(A)、精製PTの収量のゲル推定(B)。
【図22】アフィニティリガンドとしてグルマリンペプチド15を有するストレプトアビジンセファロースでの、試料BからのPTの小スケールカラム精製(A)、精製PTの収量のゲル推定(B)。
【図23】ストレプトアビジンセファロース(1ml当たり)への固定化に用いられたさまざまな量のペプチド(表示の通り)に依存する、ペプチドストレプトアビジンセファロースへのPT結合。結合したPTの量は、同一ゲル上の規定量の精製PTとの直接比較によって定量した。例として、pp26/9を、ml当たりのストレプトアビジンセファロースに固定化に用いたペプチドの量に対してプロットする。最高の結合はPT約100〜150pmolで生じると推定された。
【図24】ペプチドストレプトアビジンセファロース1μl当たり、または6.85RIアシアロフェチュインセファロース6.85μl当たりの、さまざまな量のインプット材料(試料B)の関数としてのPT収量。溶出したPTの量は同一ゲル上の規定量の精製PTとの直接比較を基礎として計算し、および表12に列記する。
【図25】繰り返しPT結合および溶出のためのペプチドセファロース再使用。ストレプトアビジンセファロースに結合したPTを、100mM炭酸緩衝液pH10.5を用いて4回溶出し、およびカラムマトリクスを10mMHClで再生した。
【図26】試料Bからのpp26/9ペプチドストレプトアビジンセファロース(0.5ml)でのFPLCカラム精製後のPT溶出画分。溶出画分(溶出液各500μlのうち0.5μl)をPAGE(12%Bis−Tris−ゲル、MES泳動緩衝液)および銀染色によって分析した。規定量の精製PTを直接比較のために同一ゲル上で分離した。PTの濃度は溶出画分の280nmでの吸収(A280)を測定することによって測定し、および精製PT標準と比較した(表参照)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、百日咳毒素(PT)を精製するための新規な方法のための試薬および方法論を提供する。上記の通り、1つのそのような方法はBogdan,et al.によって示されている。その方法では、ファージディスプレイがPT結合ペプチドを特定するために利用されている。本発明を実施する上で、PTは、自然に発現されたPT、無毒化PT(遺伝子組換えによりまたはその他)、天然またはその他のPT変異体、組換えPT、PT断片、または他の種類のPTを含む(例えば、米国特許第6,399,076号;第6,168,928号;第6,018,022号;第5,977,304号;第5,965,385号;第5,856,122号;第5,877,298号;第5,433,945号;第5,358,868号;第5,332,583号;第5,244,657号;第5,221,618号;第5,085,862号;第4,997,915号明細書を参照)。ほとんどの場合において、PTの精製後に化学的無毒化が実施される。任意の形態のPTが、本明細書に記載の試薬がその特定の形態のPTを結合させる能力を有する限り、本発明の実施における使用に適している。本明細書中では、全ての引用文献、特許、および出願特許は参照により本開示に含まれる。
【0010】
本発明はまた、PT−結合ペプチドを同定するための組換え技術の使用に関する。本発明は、当業界で既に公知である方法を越える効果をもたらす。加えて、PTの精製に有用である新規なペプチドを提供する。一実施形態では、ペプチド受容体に結合した核酸逆転写プライマーをRNAに結合させ、そのRNAを翻訳してタンパク質産物がプライマーに共有結合しているようにペプチド産物を生じさせ、RNAを逆転写してDNA−タンパク質融合物を生じさせ、さらに融合産物を試験してPT結合ペプチドを含む産物を同定することによって、DNA−タンパク質融合物を作製する方法を提供する。その後、ペプチドの配列を配列決定によって同定する。一部の実施形態では、RNase HといったRNA分解化合物を用いた処理によって、RNA部分を複合体から除去することができる。光架橋試薬およびペプチド受容体もまた本発明の実施に有用である。この系および関係する試薬は他では例えば、米国特許第6,416,950号(Lohse,et al);第6,429,300号(Kurz,et al.);第6,436,665号(Kuimelis,et al.);第6,602,685号(Lohse,et al);および,第6,623,926号明細書(Lohse,et al)に記載されている。
本発明の実施において、核酸、ペプチド、融合、リガンド、アフィニティ複合体などの試薬は、拡散しないように固相担体に結合または付着させてもよい。拡散しないように結合または接着させるために、試薬が液体の存在下で試薬の高濃度の領域から試薬の低濃度の領域へ移動しないように試薬を固相担体と化学的または物理的に結合させる。固相担体は任意のカラム(すなわち、非充填または充填クロマトグラフィー媒体、カラム材料)、ビーズ、試験管、マイクロタイタープレート、固相粒子(すなわち、アガロースまたはセファロース)、マイクロチップ(すなわち、シリコン、シリコンガラス、または金チップ)、膜(すなわち、リポソームまたは小胞の膜)、あるいは、直接的または間接的に(例えば、抗体、プロテインA、プロテインG、ストレプトアビジン、ビオチンといった他の結合パートナー媒介物を介して)試薬を結合または付着させることができる他の媒体である。
【0011】
好ましい実施形態では、試薬はPTを結合させる能力を有する物質または化合物である。より好ましくは、試薬はPTを可逆的に結合させる能力を有する物質または化合物である。さらにより好ましくは、試薬は、PT以外の成分を含む液体中で、PTを少なくとも結合させ、さらに好ましくは可逆的に結合させる能力を有するペプチドである。PTを可逆的に結合させる試薬は、一定の条件下でPTを結合(吸着)させ、さらに別の条件下でPTを遊離(脱離)させるものである。例えば、その試薬は、中性pH条件に曝露されたときにPTを結合させ、かつ酸性または塩基性pHの条件への曝露の後PTを遊離させることができる。従って、試薬がPTを結合させる能力(すなわち、平衡解離定数またはK)は、試薬をPTと接触させる条件を変化させることによって操作することができる。本分野で公知な他の条件でも特に、温度、イオン強度(すなわち、例えば塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムといったイオン塩の濃度)、溶媒濃度、競合試薬/遊離リガンド/アナログの存在または不在、イオン化特性などの、他の条件を変化させてもよい。
【0012】
一部の実施形態では、アフィニティマトリクス(すなわち、固相担体に結合したPT結合ペプチド)を利用して目的成分(すなわち、PT)を生物学的液体またはその他の液体中に見出される複雑な混合物から分離する。一部の場合には、(例えばSDS−PAGEによって測定して)PTが液体中の主成分を構成しない細菌溶解物またはその他の組成物といった複雑な生物学的液体からPTを精製することが好ましい場合がある。別の場合には、PTは、液体中の成分の大半がPTで表されるようにPTについて部分精製された組成物(PT約50%以上から成る組成物)から単離してもよい。例えば、SDS−PAGEで測定してPTが組成物中の総タンパク質の約50%以上から成る組成物は、殆どの状況下で、部分精製されていると考えられる。
【0013】
PTを精製するために、PTを含む組成物を、固相担体に結合しているPT結合試薬、好ましくは可逆的に結合させるPT結合試薬と、PTとPT結合試薬とが互いに結合して複合体を形成するように十分な時間接触させる。次に非PT成分を洗浄除去する。その後、PT−PT結合試薬の結合のKが増大するように1つ以上の条件(すなわち、pH)を変化させ、PTが複合体から遊離される。次に、遊離されたPTを回収し、さらなる使用のために調製する。そのような分離はアフィニティ精製と称され、そのように精製された産物はアフィニティ精製されていると称される。
【0014】
アフィニティ精製法よりも選択性が低いと当業者に一般的に考えられているクロマトグラフィー法もまた、本発明の実施に用いることができる。本分野で公知であるように、そのような方法は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む。これらの方法のうちの任意のもの(アフィニティ精製を含む)は、例えば低圧クロマトグラフィー(LPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、またはFast Protein liquid Chromatography(FPLC)に設置した適当な固相担体を用いて実施できる。そのような方法を実施するための適当な固相担体および装置は本分野で広く利用可能である。本発明の実施において、アフィニティクロマトグラフィーおよびより一般化された方法の両方を必要に応じて組み合わせて、開始材料(すなわち、細菌溶解物といった複雑な生物学的液体)を部分精製したり、材料を精製したり、あるいはアフィニティ精製または他の方法で精製された材料(すなわち、アフィニティ精製PT)をさらに精製することができる。
【0015】
PTを結合させるペプチドが同定されており、本明細書で開示されている。ある種のペプチドは高い親和性でPTを結合させることが分かっている。そのような好ましいPT結合ペプチドとして、下記のペプチドが挙げられる:
RSSHCRHRNCHTITRGNMRIETPNNIRKDA (pp26−5);
STMNTNRMDIQRLMTNHVKRDSSPGSIDA (pp26−6);
RSNVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDDA (pp26−9);
RSWRDTRKLHMRHYFPLAIDSYWDHTLRDA (pp26−15);
SGCVKKDELCARWDLVCCEPLECIYTSELYATCG (G−9);
SGCVKKDELCELAVDECCEPLECFQMGHGFKRCG (G−10)
SGCVKKDELCSQSVPMCCEPLECKWFNENYGICGS (G−15); および、
SGCVKKDELCELAIDECCEPLECTKGDLGFRKCG (G−19)。
これらのうち、特に好ましいペプチドは下記を含む:
RSNVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDDA (pp26−9); および、
SGCVKKDELCSQSVPMCCEPLECKWFNENYGICGS (G−15)。
例えば、ペプチドの少なくとも1つの特徴または活性(すなわち、活性、抗原性)を有する、例えば、断片、変異体オルソログ、ホモログ、および誘導体といった関連ペプチドもさらに考慮される。断片は、ペプチドの配列(すなわち、核酸またはポリペプチド)の、アミノ末端(リーダー配列を有するかまたは有しない)および/またはカルボキシ末端での切断を含む。断片はまた、変異体、オルソログ、ホモログ、および親配列と比較して1つ以上のアミノ酸付加または置換または内部欠失を有する他の変異体を含む。好ましい実施形態では、切断および/または欠失は、アミノ酸約11個、アミノ酸2個、アミノ酸5個、アミノ酸10個、アミノ酸20個、アミノ酸30個、アミノ酸40個、アミノ酸50個、またはそれ以上を含む。変異体とは、親配列と比較して1つ以上の配列の置換、欠失および/または付加を有する配列である。変異体は、天然に存在するかまたは人工的に構築できる。そのような変異体は、対応する核酸分子から調製できる。好ましい実施形態では、変異体は、1から3、または1から5、または1から10、または1から15、または1から20、または1から25、または1から30、または1から40、または1から50、または50を超えるアミノ酸の置換、挿入、付加および/または欠失を有する。
【0016】
置換は、保存的、または非保存的、またはその任意の組み合わせであってよい。ポリペプチドの配列への保存的アミノ酸修飾(およびそれをコードするヌクレオチドへの対応する修飾)は、親ポリペプチドと同様の機能的および化学的特徴を有するポリペプチドを生じ得る。例えば、「保存的アミノ酸置換」は、その位置でのアミノ酸残基のサイズ、極性、電荷、疎水性、または親水性に対して影響がほとんどまたはまったく無い、および特に免疫原性の低下を結果として生じないような、天然アミノ酸残基の非天然残基での置換を含む。適当な保存的アミノ酸置換を表Iに示す:

PTのような成分は、もともと共存しているタンパク質、脂質、糖質、または他の材料(すなわち、細菌溶解物)の少なくとも約50%から分離されている場合に、精製されていると称される。成分は、例えば、SDS−PAGEで測定して組成物の総タンパク質含量の少なくとも約95〜100%、90〜95%、80〜90%、70〜80%、60〜70%または50〜60%から分離されていることが好ましい。一部の実施形態では、精製成分とは、その成分が単独でまたは他の物質と組み合わせて投与された宿主において免疫反応を誘導するのに有用なものである。免疫反応は、例えば、PTまたは百日咳菌の少なくとも1つのエピトープに結合する抗体の産生および/またはPTを発現する細胞に対する細胞性免疫反応の誘導を含むであろう。免疫反応は、例えば、抗体産生の増加、抗原に対するより高い親和性を有する抗体の産生、または細胞性反応の増大(すなわち、T細胞の増加)を生じることによる、現在の免疫反応の増進である。免疫反応の他の指標は本分野で公知であり、免疫反応が生じているかどうかを判定するのに適している。
【0017】
本明細書に記載の方法を用いて単離されたPTは、医薬組成物として調製することができる。好ましい医薬組成物は、例えば、懸濁剤、シロップ剤、またはエリキシル剤といった液体調製物中にPTを含む。好ましい注射用調製物は、例えば、滅菌懸濁剤または乳剤といった、非経口、皮下、皮内、筋肉内または静脈内投与に適したペプチドを含む。例えば、PTは、滅菌水、生理食塩水、グルコースなどといった、適当なキャリヤー、希釈剤、または添加物と混合した組成物として調製することができる。組成物はまた、例えば、等張水性生理食塩水緩衝液中での再構成のための凍結乾燥形で提供してもよい。そのような組成物はまた、例えば、米国特許第5,877,298号および第6,399,076号明細書(Vose,et al.)および国際出願番号第PCT/CA96/00278号に記載のようなワクチンとして調製および利用することができる。本明細書に記載のように調製されたPTはまた、本分野で公知である他のものの中でも特に、コリネバクテリウム(すなわち、ジフテリア)、クロストリジウム(すなわち、破傷風)、ポリオウイルス(すなわち、IPV、OPV)、肝炎ウイルス、ナイセリア(すなわち、髄膜炎菌)、ストレプトコッカス、ヘモフィルス、または他の百日咳抗原(すなわち、繊維状赤血球凝集素、パータクチン、および凝集原)といった疾患の原因となる生物に由来する他の抗原と組み合わせてもよい。
【0018】
本発明およびその多数の利点は、例示として示される下記の実施例からより詳細に理解できるであろう。
【実施例】
【0019】
材料および方法
A.百日咳毒素(PT)
PTはMW109kDのヘテロオリゴマータンパク質複合体である(6個のサブユニットS1、S2、S3、S4×2、S5から成る)。硫酸アンモニウム沈澱物として調製された高純度(>99.99%)調製物を使用した。天然の六量体複合体を認識するPT特異的リガンド(アシアロフェチュイン)もまた使用した。アシアロフェチュインは可溶化型およびセファロース固定化型で入手可能である。
【0020】
B.グマリンライブラリ選択
グルマリンは、ガガイモ科のつる性植物Gymnea sylvestreに由来する35残基のポリペプチドである。グルマリンは、ラットにおいて甘味物質に対する神経反応を選択的に阻害する能力のため、甘味伝達の研究における薬理学的手段として利用されている。グルマリンはヒトにおいて明らかな作用を持たない。グルマリンの味覚抑制は、甘味受容体に直接結合するかまたは甘味伝達系の下流標的と相互作用することによって、そのペプチドが原因となり得ることが示唆されている(1)。
【0021】
グルマリンは、通常40残基未満の長さの構造的に関連するタンパク質の群である「ノッチン(knottins)」ファミリーに属する。ノッチンはタンパク質、糖質および脂質を含む幅広い分子標的に結合するが、しかし小さい三重鎖逆平行βシートおよびジスルフィド結合骨格を含む共通の足場(scaffold)を共有する(2,3)。
下記の通り、15個のランダム化されたアミノ酸位置を有する特殊なグルマリンライブラリを設計した:
野生型グマリン:qqCVKKDELCIPYYLDCCEPLECKKVNWWDHKCig
グマリンコア:CVKKDELCXXXXXXCCEPLECXXXXXXXXXC
グマリンコア配列中で、Xは任意のアミノ酸を表す。このライブラリは、タンパク質標的に対する高親和性結合物質(binder)をもたらすことが確認された。グルマリンライブラリは、少なくとも下記の理由のために、PT毒素に対する選択のための最良の選択肢となる一連の利点を併せ持つ:制限された自由度(flexibility):標的トポロジーへの適合における高エントロピーコストを埋め合わせる;リニアライブラリよりも理論的に少数のアミノ酸で高い親和性;プロテアーゼに対する耐性;および下流用途における酸化還元溶出条件に対する感受性。グルマリンライブラリは図1に示す工程を用いて構築された。
【0022】
1.開始オリゴヌクレオチドのPCR
3種類のゲル精製オリゴを用いて、2つのランダム化ループを有するグルマリンライブラリを構築した。1nmolのグルマリンテンプレート(≒約6×1014配列)5'−AGT GGC TCA AGC TCA GGA TCA GGC TGC GTC AAG AAA GAC GAG CTC TGC NNS NNS NNS NNS NNS NNS TGC TGT GAG CCC CTC GAG TGC NNS NNS NNS NNS NNS NNS NNS NNS NNS TGC GGC AGC GGC AGT TCT GGG TCT AGC−3'を、1μMの5'−Hisタグプライマー5'−TAA TAC GAC TCA CTA TAG GGA CAA TTA CTA TTT ACA ATT ACA ATG CAC CAT CAC CAT CAC CAT AGT GGC TCA AGC TCA GGA TCA−3'および1μMの3'−プライマー5'−TTT TAA ATA GCG GAT GCT ACT AGG CTA GAC CCA GAA CTG CCG CT−3'を使用して、Taq−ポリメラーゼを用いて、6回のPCR(94℃で1分間;65℃で1分間;72℃で1分間)で増幅し、さらに2%アガロースゲルで分析し、ゲルは代表的ライブラリが構築されていたことを示した。
【0023】
2.In vitro転写
dsDNAを、Promega社のRiboMax Express In vitro転写キットを用いてRNAに転写した。37℃で45分間インキュベート後、DNaseIを添加し、さらに37℃でインキュベートをさらに15分間続けた。この混合物にフェノール/クロロホルム抽出を施した。過剰のNTPは、NAP−5ゲルろ過(Pharmacia)によって除去した。RNAを6%−TBU−ゲルで分析し、dsDNAが効率的に転写されたことが示唆された。
【0024】
3.RNAとピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーとの化学カップリング
精製RNAを、1.5倍過剰のピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーPEG2A18:5'−ソラレン−UAG CGG AUG C A18 (PEG−9) CC ピューロマイシン (斜体で示されるヌクレオチドは2'−O−メチル−誘導体を表す)にアニーリングさせる(85℃で1分間、0.3℃/秒のペースで25℃まで冷却)。共有結合カップリングは、室温で(RT)15分間、UV光(365nm)照射によって実施した。反応産物を6%−TBUゲルで分析し、結合反応が効率的に進んだことが示唆された。
【0025】
4.In vitro翻訳
ライゲーションしたRNAを、Promega社のウサギ網状赤血球溶解物を用いて15μCi35S−メチオニン(1000Ci/mmol)の存在下で翻訳した。30℃で30分間インキュベートした後、KClおよびMgClをそれぞれ終濃度530mMおよび150mMになるように添加し、さらに試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。ゲルは翻訳反応が成功したことを示唆した。
【0026】
5.オリゴdT精製
分子(mRNA−タンパク質融合物)を、オリゴdT磁気ビーズ(Miltenyi)を含むインキュベート緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.0、10mM EDTA、1mM NaClおよび0.25%TritonX−100)と共に4℃で5分間インキュベートすることによって単離した。PROfusion(登録商標)分子は、MiniMACS−カラム(Miltenyi)を介したろ過、インキュベート緩衝液での洗浄および水での溶出によって単離した。試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析し、反応が成功したことが示唆された。
【0027】
6.逆転写
対応するcDNA鎖は、SuperScriptII逆転写酵素(GibcoBRL)を用いた逆転写によって取扱説明書の条件下で、5倍過剰の3'−プライマーを用いて作製した。試料を4〜20% Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析し、反応が成功したことが示唆された。
【0028】
7.Hisタグ精製
逆転写されたPROfusion(登録商標)分子を、Ni−NTA−アガロース(50μl/10pmol PROfusion)(QIAGEN)を含むHBS緩衝液(20mM HEPES pH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX−100、100μg/ml断片化サケ精子DNA、1mg/ml BSA)と混合し、さらに室温で60分間緩やかに振とうさせながらインキュベートした。次に、Ni−NTAをろ過し、HBS/5mMイミダゾールで洗浄し、さらにPROfusionをHBS/150mMイミダゾールで溶出した。試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析し、精製が成功したことが示唆された。20pmol(≒約1×1013種の配列)の分子を、各選択についてインプット(投入)として用いる。
【0029】
B.選択用リニアペプチドライブラリPP26
下記の構造を用いて、26個のランダム化されたアミノ酸位置を有する特殊なリニアペプチドライブラリPP26を設計した:
T7−TMV−MGRGS−HHHHHH−ARS−XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX−DANAPK−ASAI
タンパク質部分の配列(長さ50アミノ酸)は1文字アミノ酸コードで示され、ここでXは任意のアミノ酸を表す。ライブラリの翻訳されない部分は下記を含む:(a)T7:ライブラリの最適なin vitro転写のためのT7プロモーター;および(b)TMV:ライブラリの完全なin vitro翻訳のためのタバコモザイクウイルス翻訳開始配列。MGRGSは構造的な柔軟なリンカーを表す。HHHHHHはPROfusionライブラリの効率的なアフィニティ精製のためのHisタグを表す。ARSは第二の構造的な柔軟なリンカー(structural, flexible linker)を表す。DANAPKは第三の構造的な柔軟なリンカーを表す。ASAIはピューロマイシン受容体分子との効率的なカップリングのために最適化されたリンカーを表す。
【0030】
このライブラリは、タンパク質標的に対する高親和性結合物質をもたらすことが確認された。PP26ライブラリは、クロマトグラフィーアフィニティ試薬の選択に関して優れた選択肢となる2つの主な長所を併せ持つ:高い自由度:標的のトポロジーに適合できる;および保存構造の不在による頑健性、結果として生じる結合物質は厳しい生物物理学的条件に耐性である。
【0031】
1.開始オリゴヌクレオチドのPCR
3種類のゲル精製オリゴを用いて、2つのランダム化ループを有するグルマリンライブラリを構築した。1nmolのPP26 テンプレート(≒約6×1014種の配列)5'−AGC GGA TGC CTT CGG AGC GTT AGC GTC SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN SNN AGA TCT AGC ATG ATG ATG ATG A−3'を、1μMの5'−Hisタグプライマー5'−TAA TAC GAC TCA TAG GGA CAA TTA CTA TTT ACA ATT ACA ATG GGA CGT GGC TCA CAT CAT CAT CAT CAT CAT GCT AGA TCT −3'および1μMの3'−プライマー5'−AA TTA AAT AGC GGA TGC CTT CGG AGC GTT AGC −3'を使用して、6回のPCR(94℃1分間;65℃1分間;72℃1分間)でTaq−ポリメラーゼを用いて増幅し、さらに2%アガロースゲルで分析した。
【0032】
2.In vitro転写
dsDNAを、Promega社のRiboMax Express In vitro転写キットを用いてRNAに転写した。37℃で45分間インキュベートした後、DNaseIを添加し、さらに37℃でインキュベートをさらに15分間続けた。この混合物にフェノール/クロロホルム抽出を施した。過剰のNTPを、NAP−5ゲルろ過(Pharmacia)によって除去した。RNAの転写を、6%−TBU−ゲルでの分析によって確認した。
【0033】
3.RNAおよびピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーの化学カップリング
精製RNAを、1.5倍過剰のピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーPEG2A18:5'−ソラレン−UAG CGG AUG C A18 (PEG−9) CC ピューロマイシン(斜体で示されるヌクレオチドは2'−O−メチル−誘導体を表す)とアニーリングさせた(85℃で1分間、0.3℃/秒のペースで25℃まで冷却)。共有カップリングは、室温(RT)で15分間UV光(365nm)照射によって実施した。反応を6%−TBU−ゲルでの反応産物の分析によって確認した。
【0034】
4.In vitro翻訳
ライゲーションしたRNAを、Promega社のウサギ網状赤血球溶解物を用いて、15μCi35S−メチオニン(1000Ci/mmol)の存在下で翻訳した。30℃で30分間インキュベートした後、KClおよびMgClをそれぞれ終濃度530mMおよび150mMになるように添加し、さらに翻訳を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEでの分析によって確認した。
【0035】
5.オリゴdT精製
分子(mRNA−タンパク質融合物)を、オリゴdT磁気ビーズ(Miltenyi)を含むインキュベート緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.0、10mM EDTA、1mM NaClおよび0.25%TritonX−100)と共に4℃で5分間インキュベートすることによって単離した。PROfusion(登録商標)分子は、MiniMACS−カラム(Miltenyi)を介したろ過、インキュベート緩衝液での洗浄および水での溶出によって単離した。反応を確認するために、試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。
【0036】
6.逆転写
対応するcDNA鎖は、取扱説明書の条件下で、5倍過剰の3'−プライマーを用いて、SuperScriptII逆転写酵素(GibcoBRL)を用いた逆転写によって作製した。転写を確認するために、試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。
【0037】
7.Hisタグ精製
逆転写されたPROfusion(登録商標)分子を、Ni−NTA−アガロース(50μl/10pmol PROfusion)(QIAGEN)を含むHBS緩衝液(20mM HEPES pH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX−100、100μg/ml断片化サケ精子DNA、1mg/ml BSA)と混合し、さらに室温で60分間緩やかに振とうさせながらインキュベートした。次に、Ni−NTAをろ過し、HBS/5mMイミダゾールで洗浄し、さらにPROfusionをHBS/150mMイミダゾールで溶出した。反応を確認するために、試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。20pmol(≒約1×1013種の配列)の分子を、各選択についてインプット(投入)として用いる。
【0038】
C.標的調製
PROfusion(登録商標)技術では、最大1013種の異なるPROfusion分子(mRNA−タンパク質融合物)から成る高度に多様な物質ライブラリが、高アフィニティ結合に関して所望の標的(タンパク質、糖質または脂質)に対して選択される。この工程で、標的は通常、固相に固定化される。これらの固相は好ましくは、選択処理中の迅速および効率的な取り扱いを可能にしさらに低バックグラウンドをもたらす磁気ビーズである。
【0039】
1.ヌクレアーゼ活性に関して標的を試験
標的(5μgのPRPおよび0.5μgのPT)を、0.12pmolの放射性標識化PROfusionライブラリ分子とそれぞれ4℃および室温(RT)で接触させ、次いで1時間および16時間インキュベートした。インキュベート後の分子の完全性は、4〜20%Tris/グリシンSDS−PAGEおよび続くオートラジオグラフィーによって確認した。PROfusion分子の分解は検出されず、従って標的はヌクレアーゼを含まないことが実証された。
【0040】
2.プロテアーゼ活性に関して標的を試験
標的(5μgのPRPおよび0.5μgのPT)を、1μgの精製GST−タンパク質とそれぞれ4℃および室温で接触させ、次いで1時間および16時間インキュベートした。インキュベート後のGST−タンパク質の完全性は、4〜20%Tris/グリシンSDS−PAGEおよび続くクマシーブリリアントブルー染色によって分析した。GST−タンパク質分子の分解は検出されず、従って標的はプロテアーゼを含まないことが実証された。
【0041】
D.PTの固定化
1.PTの再構成
Aventis Pasteur社から入手した沈澱物500μl(2.26mg/ml)を21.400xgで室温にて45分間遠心分離した。上清を廃棄し;沈澱を1100μlのCTW緩衝液(0.286g NaHCO、0.170 g NaCO、50μl Tween−80、50 mlのMilliQ HOに加える)に溶解させた。このPT調製物の品質を検査するため、一連の希釈物(250ng、500ng、1μg、2.5μg、5μgおよび15μg)を、MES緩衝液で泳動する4〜12%BisTrisSDS−PAGEで分離した。少なくとも4本のバンドが明瞭に分離でき、サブユニットS1(28kD)、S2(23kD)、S3(22kD)およびS4(11.7kD)に対応した。PT−複合体中の最小のタンパク質5(9.3kD)は見られなかった。おそらく、このバンドはこのゲルシステム中で、わずかだけ大きいS4サブユニットと共に移動する。
【0042】
2.カップリング戦略
磁気粒子へのタンパク質の固定化のためのいくつかの方法が確立された。原理的に二つの主な戦略が用いられる:標的タンパク質の一級アミン基およびスルフヒドリル基をエポキシ活性化磁気ビーズ(Dynal)に共有結合でつなぎ、安定なアミド結合またはチオエーテル結合を形成する。この反応は、反応を促進するため硫酸アンモニウムの存在下で実施され、さらに通常、標的タンパク質の非常に効率的なカップリングを結果として生じる。いずれにしろ、ある種のタンパク質はこれらの条件下で構造変化を受けるように思われ、結合しているが天然でないおよび/または不活性な立体構造を結果として生じる;さらに、標的タンパク質の一級アミノ基およびスルフヒドリル基を、NHSエステル活性化ビオチン誘導体(Pierce)に共有結合によってつなぎ、その後、ビオチン化されたタンパク質をストレプトアビジン磁気ビーズ(Dynal)に固定化させる。
【0043】
通常、所定の標的に反応条件が適している場合は、エポキシビーズへの標的タンパク質のカップリングが好ましく、それはビーズ上に標的だけが提示されることをこの方法が確実にするからである。ビオチン/ストレプトアビジンカップリングの場合は、ビーズはストレプトアビジンも提示し、選択中に抗ストレプトアビジン結合物質の濃縮をもたらし得る。従って、Phylosは、PROfusionライブラリからストレプトアビジン結合物質を予め除いて、所定の標的について高品質の結果を得るための特化した方法を確立している。しかし全体として、共有結合カップリングは通常、標的特異的結合物質のより迅速な濃縮を結果として生じる。具体的にPTの場合には、硫酸アンモニウムインキュベートはPT−タンパク質の機能に影響しないことが知られているため、共有結合カップリング戦略で開始するのが非常に合理的である。
【0044】
3.エポキシビーズ(Dynal)へのカップリング条件の最適化
PTのためのカップリング条件をいくつかの独立した実験で最適化した(様々な硫酸アンモニウム濃度(0.5〜2.0M)および様々なビーズ/標的比、ならびに時間および温度依存性(2分間〜16時間;8℃〜RT)を用いて)。下記の反応条件で最良の結果が観察された:PT100μg、ビーズ3.3×10個および硫酸アンモニウム終濃度1Mから成る終容量300μlを室温で2分間から60分間2mlエッペンドルフチューブ中でインキュベートした。インキュベート後、チューブを磁石中に4分間置いてビーズを落とし、さらに上清を続くゲル分析のために保存した。ビーズを1mlのHEPES緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX100)で1回洗浄し、さらにビーズの一部(ビーズの5%)を4〜12%BisTrisSDS−PAGEで分析して、結合したタンパク質の量を測定した。PTのエポキシビーズへのカップリングは、ほんの2分間の反応後でさえ非常に効率的に生じることが認められた。
【0045】
4.エポキシビーズへのPTの半予備カップリング
2.6mgの乾燥エポキシ活性化ビーズ(M−270、Dynal)(〜ビーズ1.7×10個)を1mlリン酸緩衝液(19mM NaHPO、81mM NaHPO、pH7.4)に再懸濁させ、さらに10分間平衡化させた。新しいリン酸緩衝液を用いて平衡化を2回繰り返した。続いてビーズを、480pmolの再構成PT(1μg/μlを含むCTW緩衝液)を含む1M硫酸アンモニウム(終容量157μl)とのカップリング反応に直接用いた。室温で15分間連続攪拌しながらインキュベートした後、ビーズを300μlのHBS緩衝液で洗浄し、次いでHEPES緩衝液での3回の洗浄工程を実施し、さらに最後に240μlのHEPES緩衝液に再懸濁させ、小分けして4℃で保存した。カップリング反応の効率は、全ての洗浄画分、カップリング反応の上清、および洗浄したビーズからSDS装填緩衝液(loading buffer)によって除去可能なPTの画分の、SDS−ポリアクリルアミドゲル分析によって確認した。
【0046】
5.エポキシ−ビーズ固定化PTのアシアロフェチュインへの結合についての分析
40μlのPT誘導体化ビーズを、320pmolのアシアロフェチュインを含むHEPES緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、0.025%Triton−X100)と室温で1時間インキュベートし(反応終容量200μl)、200μlのHEPES緩衝液で2〜7回洗浄し、さらに最後に30μlのHEPES緩衝液に再懸濁させた。ビーズの50%をSDS−PAGEで分析して反応を確認した。
【0047】
4℃で1週間保存後のこれらのPT誘導体化ビーズの試験は、アシアロフェチュイン結合能の低下を示し、材料が長期保存によってその性能を失うことを示した。従って、 PT誘導体化ビーズは、選択の各回について新しく調製および品質管理しなければならない。この 手順は非常に時間がかかるため、PTのビオチン化を含む代替的な固定化戦略を調べた。
【0048】
6.PTの半予備ビオチン化
ビオチン化反応は、0.4mg(〜3.65nmol)の再構成PT(1μg/μlを含むCTW緩衝液)を、25μgのEZ−リンカー−スルホ−NHS−LC−LC−ビオチン(PIERCE)と、終容量740μl(50mM HEPES、150mM NaCl、0.2%Triton−X100)中でインキュベートすることによって実施した。2時間氷上で連続攪拌しながらインキュベート後、ビオチン化反応を74μlの1M Tris/HCl pH7.0の添加によって停止した。続いて、タンパク質をHEPES緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX100)に対して4℃でSlide−a−lyzerカセット(PIERCE、3500 MWCO0.5〜3ml)を用いて透析し、過剰のビオチン化試薬を除去した。ビオチン化PTを透析カセットから取り出し、さらに小分けにして−20℃で保存した。
【0049】
7.BIAcore装置を用いたビオチン化PTの品質管理
ビオチン化反応の品質は、ビオチン化PTとBIAcoreストレプトアビジンチップとの相互作用を、BIAcore装置(BIAcore2000)を用いて分析することによって管理した。チップに固定化されたビオチン化PTへのアシアロフェチュインの結合を検出することもまた可能であった(固定化PTへの結合シグナル〜400RU;対照細胞への非特異的結合〜100RU)。
【0050】
F.ストレプトアビジン磁気ビーズおよびアシアロフェチュインへの結合についてのビオチン化PTの分析
1.ストレプトアビジン磁気ビーズへのビオチン化PTの結合
20μlのストレプトアビジン磁気ビーズ(Dynal)を、20pmolのビオチン化PTを含む1xHBS緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、1mg/mlBSA、100、μg/mlサケ精子DNA、0.025%Triton−X100)と室温で1時間インキュベートし、HEPES緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX100)で3回洗浄し、さらに16μlのSDS−ゲル装填緩衝液に再懸濁させた。8μlをSDS−PAGEによって分析して結合を確認した。同等の条件下での陰性対照実験で、遊離PT(非ビオチン化)はストレプトアビジン磁気ビーズと相互作用しなかった。
【0051】
2.ビーズ固定化されたビオチン化PTへのアシアロフェチュインの結合
20μlのストレプトアビジン磁気ビーズ(Dynal)を、20pmolのビオチン化PTを含む1xHBS緩衝液と室温で1時間インキュベートし、HEPES緩衝液(20mM HEPESpH7.0、150mM NaCl、0.025%TritonX100)で4回洗浄した。続いて、ビオチン化PTを担持するビーズを、40pmolのアシアロフェチュインを含むHEPES緩衝液と室温で1時間インキュベートした。HEPES緩衝液で4回洗浄後、ビーズを16μlのSDS−ゲル装填緩衝液に再懸濁させた。8μlをSDS−PAGEで分析して、結合を確認した。ビオチン化PTおよびアシアロフェチュインの、ストレプトアビジン磁気ビーズに対する連続インキュベートでなく同時インキュベートは、同じくアシアロフェチュインのビオチン化PTへの結合を結果として生じた。同等の対照実験で、アシアロフェチュインはストレプトアビジン磁気ビーズと非特異的に相互作用しないと判定された。1週間−20℃にて保存されていたビオチン化PTを用いた同様の品質対照は、ストレプトアビジンおよび/またはアシアロフェチュイン結合能に有意な低下を示さなかった。従って、その後の選択ではビオチン化PTが標準の標的として用いられた。
【0052】
実施例2
PTに対して選択的なペプチドの単離
グルマリンPROfusionライブラリおよび磁気ビーズに固定化されたPTを、精密に調節された厳しい条件下で接触させた。これらの条件は、PTに対する親和性の上昇を示すPROfusionライブラリの変異体が標的に結合するのを可能にする。望ましくない非特異的結合変異体を希釈する多数の洗浄後、結合したPROfusion−分子をビーズから溶出し、さらに図2に示すように、新しいPROfusion形成サイクルを施す。厳しい条件を細かく適合させると共に、選択および再増幅を連続して実施することによって、所定の標的への高度に特異的な結合分子の集団が濃縮される(10)。続いて、この集団のDNA部分をE.coliプラスミドベクターにクローニングし、配列決定によって詳細に分析できる個々の変異体を単離する。
【0053】
固定化PTに対する連続した6回の選択を、グルマリンPROfusion(登録商標)ライブラリを用いて実施した。上記の概念に従って、ストレプトアビジンビーズに固定化されたビオチン化PTを、これらの選択に用いた(表1)。4回目の選択で、グルマリンプールのストレプトアビジンビーズへの低バックグラウンド結合が観察され、ビーズおよび/またはストレプトアビジン結合グルマリン変異体の濃縮開始が示唆された。従って、続く5回目の選択では、ビオチン/ストレプトアビジン固定化PTをそれぞれ標的およびエポキシビーズカップリングPTとして用いて、2つの個別の選択を実施した。両方の選択で、標的結合の明らかなバックグラウンド修正された濃縮が観察された(表1)。この傾向は、ビオチン/ストレプトアビジン固定化PTを用いた6回目の選択で確認され、PT結合変異体の蓄積を明らかに示した(表1)。
【表1】

【0054】
A.選択されたグルマリン結合物質プールのクローニング
選択回数R4、R5およびR6の結果として得られたグルマリンDNA−プールを、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)ベクターに、TOPO TA Cloning(登録商標)キット(Invitrogen)を用いてクローニングした。グルマリンDNAを、pCR(登録商標)2.1−TOPOベクターに異なる濃度でライゲーションした。6μlの反応に、0.5μl、2μlおよび4μlのグルマリンプールDNAをそれぞれ用いた。ライゲーションは取扱説明書に従って実施した。
【0055】
これらのライゲーション溶液2μlで、20μlのE.coli Top10F'コンピテント細胞(Invitrogen)を形質転換し、さらに、50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むLB平板へ播種した。これらの形質転換させた試料のそれぞれから、150個の単一コロニーを、T7依存性タンパク質発現を抑制する50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むマスタープレート、およびブルーホワイトスクリーニングのためのX−GalおよびIPTGを含む第2のプレートに採取した。形質転換のそれぞれについて、ブルーホワイト試験からのホワイトコロニーに対応する抑制マスタープレート由来のコロニー96個を用いて96ウェルLB寒天平板および500μl液体培養(50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むLB)に播種した。96ウェル寒天平板は委託配列決定に送付した。液体培養は500μlの40%グリセロールと混合し、液体窒素中において凍結させさらに−80℃で保存した。
【0056】
個々の各クローンから、プラスミドDNAを調製し、さらにM13−プライマー5'−TGT AAA ACG ACG GCC AGT−3'を用いた自動化DNA配列決定手順に供した。図3〜8に示す通り、単一のグルマリン配列変異体が4回目の選択で顕著に濃縮され始め、さらに6回目の選択後には全配列の90%超に相当する。これは、この変異体がおそらく最高の親和性でPTを結合させることを明らかに示す。この最も重要な配列変異体に加えて、共通配列モチーフを部分的に共有するさまざまな他のグルマリン配列が濃縮されている。この知見は、これらの他の配列がPTへの親和性を同様に示すことを示唆する。
【0057】
B.固定化PTに対するPP26アフィニティ選択
グルマリン選択と平行して、固定化PTに対する連続6回の選択を、PP26PROfusion(登録商標)ライブラリについて実施した。ストレプトアビジンビーズに固定化されたビオチン化PTを、これらの選択に用いた(表2)。4回目の選択で、グルマリンプールのストレプトアビジンビーズへの低バックグラウンド結合が観察され、ビーズおよび/またはストレプトアビジン結合PP26変異体の濃縮開始が示唆された。従って、続く5回目の選択では、2つの個別の選択を、一方でビオチン/ストレプトアビジン固定化PTを標的としておよび他方でエポキシビーズカップリングPTとしてそれぞれ用いて実施した。両方の選択で、標的結合の明らかなバックグラウンド修正された濃縮が観察された(表2)。この傾向は、ビオチン/ストレプトアビジン固定化PTを用いた6回目の選択で確認され、従って、PT結合変異体の蓄積を明らかに示した。
【表2】

【0058】
C.選択されたPP26結合物質プールのクローニング
選択の回R4、R5およびR6の結果として得られたPP26DNA−プールを、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)ベクターに、TOPO TA Cloning(登録商標)キット(Invitrogen)を用いてクローニングした。PP26DNAをpCR(登録商標)2.1−TOPOベクターに異なる濃度でライゲーションした。6μlの反応に、0.5μl、2μlおよび4μlのグルマリンプールDNAをそれぞれ用いた。ライゲーションは取扱説明書に従って実施した。これらのライゲーション溶液の2μlで、20μlのE.coli Top10F'コンピテント細胞(Invitrogen)を形質転換し、さらに、50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むLB平板へ播種した。これらの形質転換のそれぞれから、150個の単一コロニーを、T7依存性タンパク質発現を抑制する50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むマスタープレート、およびブルーホワイトスクリーニングのためのX−GalおよびIPTGを含む第2のプレートに採取した。形質転換のそれぞれについて、ブルーホワイト試験からのホワイトコロニーに対応する抑制マスタープレート由来のコロニー96個を用いて96ウェルLB寒天平板および500μl液体培養(50μg/mlカナマイシンおよび0.5%グルコースを含むLB)に播種した。96ウェル寒天平板は委託配列決定に送付した。液体培養は500μlの40%グリセロールと混合し、液体窒素中で凍結し、さらに−80℃で保存した。
【0059】
D.各結合物質変異体の配列決定
個々の各クローンから、プラスミドDNAを調製し、さらにM13−プライマー5'−TGT AAA ACG ACG GCC AGT−3'を用いる自動化DNA配列決定手順に供した。図9〜14に示す通り、2つの主な変異体が各回の選択中に濃縮された。両方の変異体は保存された配列モチーフを共有する。この知見は、保存されたアミノ酸の側鎖がPT表面領域の一部と直接の相互作用を確立すると推定されることを示す。さらに、少なくとも4種類の別の変異体がより低い程度で濃縮されている。これらの変異体は上述の保存された配列モチーフを含まないため、これらの変異体はPTの異なる表面領域に結合する可能性があると結論できる。
【0060】
E.選択されたPT結合グルマリン−およびPP26−変異体の確認
選択はPROfusion(登録商標)分子−mRNA−ペプチド融合物を用いて実施したため、選択後分析の第一段階に、標的に結合する能力について遊離ペプチドを検査する必要がある。次の段階で、核酸部分でなくペプチドを介した標的結合を確認した変異体を、AP処理液の存在下で特異性試験に供する。この方法によって、AP処理に最も適した変異体が特定される。
【0061】
1.PTへの結合能に関する遊離ペプチドの試験
グルマリン−およびPP26−結合物質変異体の単一の濃縮された遊離ペプチドの定性的結合検定のために、TNT T7カップリングReticolocyte Lysat System(Promega社、品番L5540)を下記の通り用いた。単一の結合物質候補のDNAを、コロニーPCRによって、結合物質クローンのグリセロールストックから増幅させた。PCR中の突然変異を回避するために、プルーフリーディングポリメラーゼ(Pwo)を使用した。PCR産物を2%アガロースゲルで分析した。PCR産物5.0μlを、TNT系を用いたカップリングin vitro転写/翻訳反応のテンプレートとして、終容量53μlで取扱説明書に従って用いた。発現された結合物質候補を続いてNi−NTAキレートクロマトグラフィー(QIAGEN)によって精製した。放射性標識化したHisタグ精製結合物質候補(各ペプチドの〜40〜70fmol)を、ストレプトアビジン−磁気ビーズ上に固定化したビオチン化PTと室温で1時間インキュベートした。ビーズをHBS緩衝液で3回洗浄し、次いで水に再懸濁させ、さらに液体シンチレーションカウンターで分析した。対照実験では各候補をストレプトアビジンビーズのみ(PT無し)とインキュベートした。PP26およびグルマリンの最良の結合物質候補を特定し(表3および4、下記)および以降の特異性試験に供した。
【0062】
2.処理液の存在下でのグルマリンおよびPP26変異体の特異性試験
Aventis Pasteur処理液の存在下での遊離グルマリンおよびPP26ペプチドの半定量的結合および特異性検定のために、ペプチドをまずPROfusionとして作製し,精製して均一にし、さらに次いでS1−ヌクレアーゼ消化によって遊離ペプチドとした。選択された結合物質変異体(10種類のグルマリンクローンおよび7種類のPP26クローン)のDNAの十分量の増幅のため、TNT発現に由来するPCR産物をテンプレートとして用いてPCRを実施した。10サイクルのPCR(94℃30秒間;60℃30秒間;72℃30秒間)の後、試料を2%アガロースゲルで分析した。dsDNA(PCR産物)を、Promega社のRiboMax Express In vitro転写キットを用いてRNAへ転写した。45分間37℃にてインキュベート後、DNaseIを添加し、さらに37℃にてインキュベートをさらに15分間続けた。この混合物をフェノール/クロロホルム抽出に供した。過剰のNTPはNAP−5ゲルろ過(Pharmacia)によって除去した。RNAを6%−TBU−ゲルで分析した。
【0063】
精製RNAを1.5倍過剰のピューロマイシン−オリゴヌクレオチドリンカーPEG2A18:5'−ソラレン−UAG CGG AUG C A18 (PEG−9) CC ピューロマイシン (斜体で示されるヌクレオチドは2'−O−メチル−誘導体を表す)とアニーリングさせた(85℃1分間、25℃へ0.3℃/秒の傾きで冷却)。共有結合カップリングは15分間室温にて(RT)UV光(365nm)照射によって実施した。反応産物を6%−TBUゲルで分析した。ライゲーションしたRNAを、Promega社のウサギ網状赤血球溶解物を用いて15μCi35S−メチオニン(1000Ci/mmol)の存在下で翻訳した。30分間30℃にてインキュベート後、KClおよびMgClをそれぞれ終濃度530mMおよび150mMとなるよう加え、さらに試料を4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。mRNA−タンパク質融合物(PROfusion(登録商標))を、オリゴdT磁気ビーズ(Miltenyi)を含むインキュベート緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.0、10mM EDTA、1mM NaClおよび0.25%TritonX−100)と4℃で5分間インキュベートすることによって単離した。分子は、MiniMACS−カラム(Miltenyi)を介したろ過、インキュベート緩衝液での洗浄および水での溶出によって単離した。試料は4〜20%Tris/グリシン−SDS−PAGEで分析した。
【0064】
RNA−タンパク質融合物のRNA部分を除去するため、オリゴdT精製分子をS1−ヌクレアーゼ(S1−ヌクレアーゼはピューロマイシンリンカーのDNA部分を切断する)で取扱説明書に従って消化した。S1消化の前および後のPROfusion分子の試料を4〜12%Bis/TrisSDS−PAGEで分析した。ストレプトアビジンビーズ(M280Dynal)をHBSで洗浄し、さらに4℃で一晩インキュベートした。ビオチン化PT(900pmol)を900μlのStrepbeads(HBS緩衝液で予備ブロックした)と共に室温で1時間インキュベートした。PTの固定化後、ビーズをビオチン(2mMビオチンを含むHBS)で1分間ブロックし、さらに直ちにHBS緩衝液で4回洗浄してビオチンの痕跡を除去した。対照ビーズ(PT無し)をビオチンで同様にブロックした。
【0065】
選択されたペプチドの結合分析のために、いくつかの平行反応を下記の通り設定した:ビオチンブロックしたストレプトアビジンビーズのみを用いる陰性対照;ストレプトアビジンビーズ上に固定化したPTを用いる陽性対照;ビオチンブロックしたビーズを1/4容のAventisPasteur試料溶液C(素通り1.AFカラム)と組み合わせて用いるバックグラウンド対照;1/4容の試料溶液Cと組み合わせたPTの混合物;ビオチンブロックビーズを1/4容のAventisPasteur試料溶液E(培地)と組み合わせて用いるバックグラウンド対照;1/4容の試料溶液Eと組み合わせたPTの混合物;反応3〜6は、選択されたペプチドがAventis Pasteurによって提供される試料の存在下でPTと特異的に結合する能力を評価するために実施した。結合は、室温で1時間、ペプチドの分解を回避するためプロテアーゼ阻害剤混合物(complete mini(登録商標)ROCHE社)の存在下で実施した。HBS溶液で洗浄後、ビーズをシンチレーションカウンターによって分析した。
【0066】
表3に示す通り、試験した10種類のグルマリン変異体のうち3つ(9、10、19番)が、AP処理液のどれにも影響されないPTへの標的結合を示す。これらの変異体は、AP処理中のアフィニティクロマトグラフィー用途のための最も有望な候補である。
【0067】
表4に示す通り、試験した7種類のPP26変異体のうち3つ(5、6、9番)が、AP処理液によって低下しないPTへの標的結合を示す。これらの変異体は、AP処理中のさらなるアフィニティクロマトグラフィー用途のための最も有望な候補である。
【表3】

【表4】

【0068】
F.化学合成によるペプチド作製
8種類の異なるペプチドが化学合成によってN末端ビオチン化ペプチドの形で作製された。ビオチン基は短い親水性リンカー(PEG2=8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸)をスペーサーとした。これらの8つのペプチドのうち2つ(PP26−5cおよびグマリン−9c)をさらに、C末端タグ化ビオチン化ペプチド(追加のC末端リジンを介して)の形で合成した。ペプチドはSheppardに従ってFmoc/But戦略を用いて自動合成し、HPLCによって精製し、さらに続いて凍結乾燥した。全ての精製ペプチドの品質は質量分析によって確認した。各ペプチド合成の標的量は精製ペプチド5mgであった。精製後の合成ペプチドの収量および純度についての概要を表5に示す。
【表5】

【0069】
全てのpp26ペプチドを、100mM HEPES、pH7.4、200mM NaClに終濃度100μMで溶解させた。全てのグルマリンペプチドを、100mM HEPES、pH7.4、200mM NaCl、2mMGSH、1mMGSSGに終濃度100μMで溶解させ、さらに続いて窒素下で少なくとも48時間インキュベートして構造的折りたたみを可能にした。
【0070】
G.細菌発現によるペプチド産生
百日咳毒素に対する結合物質として同定されたペプチドを、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)の読み枠内にサブクローニングし、さらに細菌で発現させた。GSTタグは溶解度を高め、さらにグルタチオンセファロースを用いる精製を可能にする。特異的PreScission(登録商標)プロテアーゼによって認識される遺伝子組換えによるプロテアーゼ切断部位は、GSTタグの除去を可能にし、ペプチドを遊離させる。PreScissionプロテアーゼ自体がGSTおよびヒトライノウイルス(HRV)14型3Cプロテアーゼの融合物タンパク質であり、さらに配列Leu−Phe−Gln*Gly−Proを特異的に認識してGlnおよびGly残基の間を切断する。切断後、切断されない産物およびプロテアーゼは、グルタチオンセファロースを用いて切断反応物から除去できる。
【0071】
H.発現ベクターの構築
1.pp26変異体についてGST融合物の構築
PCR用のテンプレートとして、PTに対する同定されたpp26結合物質の配列を含むpCR2.1ベクターを用いた。オリゴヌクレオチド467番(5'−CATGCCATGGGACGTGGCTCACATCATC−3')および468番(5'−リン酸−GGGTTAAATAGCGGATGCCTTCGGAGCGTTAGCGTC−3')をPwoDNAポリメラーゼ(Roche)と共に用いてPCRで得られた産物を、NcoI(New England Biolabs)で消化した。修飾ベクター(追加のNcoI部位を含むpGEX6P(Amersham/Pharmacia)をNcoI/SmaI(New England Biolabs)で消化し、さらにPCR産物をこのベクターのNcoI/SmaI部位へ定方向クローニングした。TOP10(Invitrogen)での形質転換後、陽性クローンをコロニーPCRによって特定し、さらに配列決定によって確認した。
【0072】
2.グルマリン変異体についてGST融合物の構築
PCR用のテンプレートとして、PTに対する同定されたグルマリン結合物質の配列を含むpCR2.1ベクターを用いた。オリゴヌクレオチド464番(5'−GGAGATCTCATATGCACCATCACCATCACCATAGTGGC−3')および465番(5'−リン酸−GGGTTAAATAGCGGATGCTACTAGGC−3')をPwoDNAポリメラーゼ(Roche)と共に用いてPCRで得られた産物を、NdeI(New England Biolabs)で消化した。修飾ベクター(追加のNdeI部位を含むpGEX6P(Amersham/Pharmacia))をNdeI/SmaI(New England Biolabs)で消化し、さらにPCR産物をこのベクターのNdeI/SmaI部位へ定方向ライゲーションした。TOP10(Invitrogen)での形質転換後、陽性クローンをコロニーPCRによって特定し、さらに配列決定によって確認した(表6)。
【表6】

【0073】
3.GSTpp26融合物の発現および精製
細菌株Rosetta(DE3)pLysS(Novagen)を、プラスミドDNA(表参照)を用いて形質転換した。pp26変異体の形質転換株を37℃250rpmにてOD600〜0.5まで増殖させ、さらに1mM IPTGの添加によって4時間誘導した。グルマリン−GST融合物の場合には、誘導は0.33mM IPTG.を用いて2.5時間実施した。細菌を採集後、細胞を1mM2−メルカプトエタノール、プロテアーゼ阻害剤および1mMリゾチームを含むPBS−KMT(10mMNaリン酸、pH7.5、130mM NaCl、3mM KCl、1mM MgCl、0.1%Tween−20)に再懸濁し、30分間室温にてインキュベートし、さらに超音波処理によって破壊した。遠心分離後に可溶性の上清をGSHセファロースカラムへ精製のために移した。カラムをカラムの10倍容の20mMHepes、pH7.5、150mM NaClで洗浄後、GST融合物タンパク質を20mM GSHで溶出し、さらにSDSゲルで分析して発現を確認した。
【0074】
4.PreScission(登録商標)プロテアーゼを用いた切断によるGSTタグの除去によるペプチド生成
あるペプチドのGST−ペプチド融合物からのPreScission切断の一例を下記に示す。GSTタグはPreScissionプロテアーゼ(Amersham Pharmacia)とのインキュベートによって除去された:融合物タンパク質2.5mgを160UのPreScissionとインキュベートし、さらに5℃で16時間、結合したGST融合物タンパク質を含む密封GSTrapFFカラムで消化した。一晩インキュベート後、第2のGSTrapFFカラムを接続してGSTタグ化プロテアーゼPreScissionを除去した。試料を流速0.2ml/分で加え、素通り画分を小部分試料として回収し、SDSゲル電気泳動によって分析し、さらにペプチドの量をOD280測定によって計算した(約700μg)。
【0075】
実施例3
PTのアフィニティ精製
A.変性ゲルでの発酵上清の分析
処理液は、アフィニティクロマトグラフィー処理用の可能な開始材料と考えられた:
試料A 10〜50μg/ml(〜0.09〜0.45μM)の粗PTを含む濃縮培養ろ液、発酵上清
試料B 9〜45μg/ml(〜0.08〜0.4μM)の粗PTを含む吸収クロマトグラフィー上清
これらの処理液の複雑さを視覚化するため、両方の試料を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。試料Aの主に高分子量成分が吸収クロマトグラフィーによって除去される(試料B)。
【0076】
B.合成ビオチン化コアペプチドのストレプトアビジンセファロースへの固定化および精製PTとの結合の確認
1.ストレプトアビジンセファロースへのペプチド固定化
ビオチン化ペプチドのストレプトアビジンセファロース(Amersham High Performance 71−5004−40)への結合のため、予洗浄したストレプトアビジンセファロースの50%スラリー200μlを、1nmolのペプチド(100μMペプチド溶液10μl)と1mlHEPES緩衝液(20mM HEPES、pH7.5、150mM NaCl、0.025%TritonX−100)中4℃でインキュベートした。使用した条件下では、ストレプトアビジン セファロースの高結合能はビオチン化ペプチドの100%の固定化を可能にすべきである(充填セファロース1μl当たりペプチド10pmol)。
【0077】
2.固定化ペプチドへの精製PTの結合
ペプチドを装填したセファロース200μl(10%igeスラリー、固定化ペプチド200pmolを含む)をMobicolカラム(MoBiTec、10μmフィルター)へ移し、さらに上清を1分間2000rpmでの遠心分離によって除去した。HEPES緩衝液で4回洗浄後、セファロースを、精製百日咳毒素100pmolを含む200μlのHEPES緩衝液に再懸濁し、さらに回転ホイール上で1時間室温にてインキュベートした。結合しない画分を遠心分離によって分離した(結合後の上清;ゲル分析に使用)。続いてペプチド−ストレプトアビジンセファロースを冷HEPES緩衝液(各200μl)で3回洗浄し、さらに20μlの装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%P−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)に再懸濁して、結合したPTを溶出した。95℃で5分間インキュベート後、装填緩衝液を遠心分離によって回収し、さらに続いてゲル分析に用いた(図15)。対照として、ペプチドを伴わないストレプトアビジンセファロースを同一の条件下でPTと接触させた。使用した条件下では、百日咳毒素ペプチド結合物質クローンpp265n、5c、9n、15nおよびグルマリンクローン10n、19n、15n、9nは精製PTへの明らかな結合を示す。全ての陽性な結合物質候補は、未変性六量体PTを結合させることができた。
【0078】
C.合成ビオチン化コアペプチドのストレプトアビジンセファロースへの固定化および発酵上清からのPTとの結合の確認
ストレプトアビジンセファロースへのペプチド固定化および発酵上清からのPTとの結合分析を、ペプチドストレプトアビジンセファロースを200μlの試料A(発酵上清)または200μlの試料B(吸収クロマトグラフィー上清カラム、0章参照)とインキュベートし、続いてHEPES緩衝液で4回室温で洗浄した以外は0章に記載の通り実施した。結合分析の結果を図16に示す。使用した条件下では、百日咳毒素pp26結合物質クローン9n、15nおよびグルマリンクローン9n、15nは、発酵上清試料Aおよび試料Bから未変性PT六量体を非常に効率的に結合できた。使用した条件下では、pp26結合物質クローン5およびグルマリン結合物質クローン10および19はより低い親和性でPTに結合できることに注意する。試料Aおよび試料BからこれらのペプチドへのPT結合はその条件下では検出されなかったが、これらの結合物質はアフィニティクロマトグラフィーカラムにおけるリガンドとしての用途になお適するであろう(カラムは再結合作用によるPTの保持を可能にし、従ってkoffの問題を最小化する)。
【0079】
D.固定化ペプチドに関する熱力学データ
ペプチド結合能の推定のために、セファロース固定化ペプチド20pmolを、過剰量のPT100pmolを含む容量200μlのHEPES緩衝液(PT500nMに相当)とインキュベートした。洗浄後、ペプチド−ストレプトアビジンセファロース結合PTの画分をゲル分析によって定量した。これは、使用した条件下での結合活性ペプチドの画分を直接計算するのを可能にする(PT/ペプチド結合比は1:1と仮定)。PT500nMの濃度は全てのペプチドについてBmaxに達するのに十分高いという仮定に基づく。分析の結果を表7に示す。表に示す値は、ペプチドの期待可能な結合能の推定である。大部分の適当な結合物質の結合能(Bmax)および解離定数(K)の正確な評価も実施できる。
【表7】

【0080】
E.許容されるグレードの原材料に対して保健当局の基準を用いた、規定の緩衝液条件(pH、塩濃度、界面活性剤)下での精製百日咳毒素六量体の安定性の分析
百日咳毒素六量体安定性を幅広いpHおよび塩条件下でBIAcore2000装置で試験した。この目的で、2000RUまでのビオチン化PTをストレプトアビジンチップに装填した。続いて異なる緩衝液をチップ固定化PTに、2分間流速30μl/分で加えた。各緩衝液注入の終了後に、チップをHBS/EP分析緩衝液で平衡化した(0.01M HEPESpH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%ポリソルベート20(v/v)、少なくとも2分間、流速30μl/分)。緩衝液注入の前および後の測定されたRUシグナルの差は、チップ上のPT六量体の減少と相関する。この減少は、使用した緩衝液条件下でのPT六量体の安定性の損失と解釈された。
【0081】
分析したpH範囲はpH2から10.5で下記の緩衝液を用いた:10mMグリシン緩衝液(BIAcore、pH2;2.5;3)、10mM酢酸緩衝液(BIAcore、pH4;4.5;5;5.5)、50mM Tris/HCl(pH8.5)および100mM炭酸緩衝液(pH9.6および10.5)。PT六量体安定性に及ぼすpHの影響を示すBIAcore測定図が作製され、さらにBIAcore分析の結果を表8に要約する。使用した条件下で、百日咳毒素六量体はpH2.5〜10.5の幅広いpH範囲で安定であることが示された。
【表8】

【0082】
PT六量体安定性に及ぼす異なる塩条件の影響を、NaCl、KClおよびMgClについてそれぞれpH5.0(10mM酢酸緩衝液)およびpH8.5(50mM Tris/HCl)で、BIAcore2000装置での類似の実験で調査した。使用した塩条件下でのPT六量体安定性についての概要を表9に示す。六量体は最高2.5MのNaClまたは最高2MのKClを含む緩衝液(pH5および8.5にて)中で安定であった。MgClの場合には、PT六量体は最高2MのMgClを含む緩衝液中でpH8.5にて安定であった。
【表9】

【0083】
F.発酵上清からのPTの特異的アフィニティ精製を可能にする規定の洗浄および溶出条件を設定(pH、塩濃度、界面活性剤)
百日咳毒素六量体が安定である条件の決定後、次の段階は、固定化ペプチドpp26クローン9および15およびグルマリンクローン9および15に結合した百日咳毒素についての洗浄および溶出条件を調べることであった。
【0084】
1.BIAcore2000装置を用いたPT/ペプチド安定性の評価
PT/ペプチド複合体の安定性を、BIAcore2000装置を用いて、PT六量体安定性に干渉しないことが示された異なるpHおよび塩条件下で調べた。500〜1000RUの合成ペプチドをBIAcoreストレプトアビジンチップ上に固定化した。固定化ペプチドへのPTの結合を可能にするため、20nMの精製PTを含むHEPES緩衝液を1分間注入した。HBS/EP分析緩衝液(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%ポリソルベート20(v/v))で平衡化後、PT/ペプチド複合体を、以下の緩衝液の注入によって洗浄した:
(a)100mM炭酸緩衝液pH10.5および9.5
(b)10mM酢酸緩衝液pH5.5、5.0、4.5、および4.0
(c)10mMグリシン緩衝液pH3.0および2.5
(d)0.5、1.0、1.5、2.0M NaClを含む10mM酢酸緩衝液緩衝液、pH6.0、
(e)0.5、1.0、1.5、2.0M NaClを含む50mM Tris/HCl緩衝液、pH8.5、
(f)0.5、1.0、1.5、2.0MKClを含む10mM酢酸緩衝液、pH6.0、
(g)0.5、1.0、1.5、2.0MKClを含む50mM Tris/HCl緩衝液、pH8.5、
(h)0.5、1.0、1.5、2.0M NaClを含む10mM酢酸緩衝液、pH6.0、
(i)0.5、1.0、1.5、2.0M NaClを含む50mM Tris/HCl緩衝液、pH8.5。
【0085】
各緩衝液注入の終了後にチップをHBS/EP分析緩衝液で平衡化した。使用した緩衝液条件下でのチップ上のPT六量体の損失(緩衝液注入の前および後の測定されたRUシグナルの差)はPT/ペプチド複合体安定性を反映する。全てのPT/ペプチド複合体のpH範囲安定性および塩安定性に関する概要を表10に要約する。全てのPT/ペプチド複合体は、100mM炭酸、pH10.5および10mMグリシン、pH2.5の存在下で完全に不安定化された。グルマリンペプチド9について、2.5M NaClまたは少なくとも0.5M MgClを含む緩衝液はPT/ペプチド複合体安定性に干渉する。グルマリンペプチド15とのPT複合体はさらに少なくとも1.5M MgClの存在下で50mM Tris/HCl、pH8.5中で不安定化された)。
【表10】

【0086】
2.ペプチドストレプトアビジンセファロース上のPTの精製のための洗浄条件の評価
アシアロフェチュインでの百日咳毒素精製処理のための確立された条件に近い洗浄条件の適用を試みた(1M NaClを含むかまたは含まない50mM Tris/HCl、pH7.5で洗浄)。百日咳毒素精製手順はペプチドpp26クローン9および15およびグルマリンクローン9および15について最適化した。セファロース20μl上に固定化した各ペプチド200pmolを100μlの50mM Tris/HCl、pH7.5および100μlの試料Aまたは試料Bとインキュベートし、PTを結合させた。続いて結合したPT画分を有するペプチドセファロースを下記に示す3つの異なる条件下で洗浄した:
(a)200μlの50mM Tris/HCl、pH7.5で3回;
(b)200μlの50mM酢酸pH6.0で3回;および、
(c)200μlの50mM酢酸pH6.0で6回。
【0087】
洗浄後、残存物質をセファロースから、20μlの装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)で溶出した。全ての溶出液を続いてPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した(図17)。
【0088】
50mM酢酸、pH6.0での洗浄がより厳しいものでありおよび50mM Tris/HCl、pH7.5で洗浄するよりも効率的に高分子量不純物のバックグランドを低減する。しかしこれらの洗浄条件下では、特にグルマリンペプチド9および50mM酢酸、pH6.0での反復洗浄(6回洗浄)の場合には、PT/ペプチド複合体はより不安定である。50mM Tris/HCl、pH7.5とは対照的に、ペプチド固定化PTの損失は、50mM酢酸、pH6.0での洗浄を10から20回反復した際により劇的であった(例としてpp26ペプチド9について図18で示す)。
【0089】
3.ペプチドストレプトアビジンセファロース上のPTの精製のための溶出条件の評価
ペプチドセファロースからのPTの溶出を、六量体安定性と類似の条件下で試験した。
【0090】
a.MgClによる溶出
BIAcore2000測定によって上に示す通り、全てのPT/ペプチド複合体は、PT六量体安定性には決定的でないことが示された条件である2M MgClに感受性であった。規定のMgCl濃度の溶出効率を、ストレプトアビジンセファロースへ4種類の固定化合成ペプチドのうちの1つを介して結合したPTについて評価した。セファロース20μl上に固定化した各ペプチド400pmolを100μlの50mM Tris/HCl、pH7.5および100μlの試料AとインキュベートしてPTを結合させた。50mM Tris/HCl、pH7.5(各200μl)で4回洗浄後、PTの結合した画分を、下記の緩衝液の20μlを3回連続で用いて溶出した。
【0091】
(a)0.2M MgClを含む50mM Tris/HCl、pH8.5、または
(b)0.5M MgClを含む50mM Tris/HCl、pH8.5、または
(c)1.0M MgClを含む50mM Tris/HCl、pH8.5、または
(d)1.5M MgClを含む50mM Tris/HCl、pH8.5、または
(e)2.0M MgClを含む50mM Tris/HCl、pH8.5。
【0092】
残存物質をその後、ペプチドストレプトアビジンセファロースから20μlの装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%β−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)で溶出した。全ての溶出液を続いてPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した(図19)。本実験で示される通り、MgClでの溶出はグルマリンペプチドについてのほうがpp26ペプチドについてよりも効率的であったが、相当な量のPTがなおペプチドストレプトアビジンセファロース上に残存した。
【0093】
b.pH変化による溶出
BIAcore測定は、PTは全てのペプチドから、PT六量体安定性には決定的に重要でない酸性(pH2.5)または塩基性(pH10.5)緩衝液条件を用いて溶出可能であったことを明らかにした(100mM炭酸緩衝液、pH10.5よりもPT六量体安定性に穏和な50mMグリシン、pH2.5、xxxを参照)。セファロース20μl上に固定化した各ペプチド200pmolを100μlの50mM Tris/HCl、pH7.5および100μlの試料Aとインキュベートし、PTを結合させた。50mM Tris/HCl、pH7.5(各200μl)で4回洗浄後、PTをペプチドストレプトアビジンセファロースから、50mMグリシン、pH2.5、または100mM炭酸緩衝液、pH10.5での40μlの溶出の連続3回によって溶出した。残存物質を続いてペプチドストレプトアビジンセファロースから、20μlの装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%β−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)で溶出した。全ての溶出液をPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した(図20)。ほぼ全てのPTがペプチドストレプトアビジンセファロースから、50mMグリシン、pH2.5を用いておよび100mM炭酸緩衝液、pH10.5を用いて溶出可能であった。
【0094】
4.最適化された条件を小スケール精製計画に適用し、結合能を確認
a.最適化された洗浄および溶出条件下での試料BからのPTの精製(4μlカラム)
最適化された洗浄および溶出条件を組み合わせて、ペプチドストレプトアビジンセファロース上での試料BからのPTの精製を可能にした。PTの非特異的結合を低減するために、ペプチド/ストレプトアビジンセファロースの最適比を先に各ペプチドについて滴定した。続いて試料B/ペプチドストレプトアビジンセファロース比を、ペプチドの予想される高(中)インプット当たりの高回収量に関して最適化した。これらの条件を下記の小スケールカラム精製に適用した。
【0095】
pp26ペプチド9およびグルマリンペプチド15については、ストレプトアビジンセファロースへの固定化は、ストレプトアビジンセファロース16μlのペプチド1600pmolとのインキュベートによって実施した。pp26ペプチド15の場合には、ストレプトアビジンセファロース16μlをペプチド6000pmolとインキュベートした(pp26/15はストレプトアビジンセファロースとより低い効率で結合し、不完全なペプチドビオチン化によって説明されうる)。グルマリンペプチド9については、8000pmolがストレプトアビジンセファロース80μl上に固定化された。続いて洗浄したペプチドストレプトアビジンセファロースを等分し、さらに4つのMobilcomカラム(10μMフィルター付き)へ移した。
【0096】
各カラム(pp26/9およびgur/15についてはセファロース4μlとペプチド400pmol;4μlと不確定量の結合ペプチドpp26/15;gur/9については20μlとペプチド2000pmolを含む)を400μlの試料B(HClの添加によってpH7.0〜7.5に調整)とインキュベートしてPTを結合させた。50mM Tris、pH7.5(各100μl)で5回洗浄後、PTをペプチドストレプトアビジンセファロースから下記の通り連続溶出によって溶出した(pp26/9およびgur/15について3回溶出;pp26/15およびgur/9について4回溶出):
(a)カラム1の場合、50mMグリシン、pH2.5(各20μl)で、または
(b)カラム2の場合、100mM炭酸緩衝液、pH10.5(各20μl)で、または
(c)カラム3の場合、2M MgClを含む50mM Tris、pH8.5(各20μl)で。
【0097】
カラム1〜3およびカラム4上の残存物質を続いてペプチドストレプトアビジンセファロースから20μl装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)での溶出によって溶出した。全ての溶出液をPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した(図21、22)。ペプチドストレプトアビジンセファロースでの精製後のPTの収量を計算するため、プールした溶出液1〜3をPAGEおよび銀染色によって分析し、さらに同じゲル上で分離した規定量の精製PTと比較して推定を可能にした(図21Bおよび22B)。ゲル推定に基づき、精製PTの収量は表11に示す通り計算された。
【表11】

【0098】
b.アフィニティ精製中にストレプトアビジンセファロース上のさまざまなペプチド密度を用いたPT収量の測定
ペプチドストレプトアビジンセファロースに結合したPTを、ストレプトアビジンセファロース上にアフィニティリガンドとして固定化されたペプチドのさまざまな濃度への依存性について調べた。固定化のために1μl容のストレプトアビジンセファロースを漸増量のペプチドpp26/9またはグルマリン/15(ペプチド100、200、300、400、500、1000pmol)とインキュベートした。ペプチドの非結合画分をセファロースから、50mM Tris/HCl、pH7.5(カラム上)での洗浄3回によって除去した。続いて各ペプチドストレプトアビジンマトリクスを600μlの試料AとインキュベートしてPTを結合させた。80分後、各マトリクスを50mM Tris/HCl、pH7.5(各200μl)で4回洗浄し、さらに続いて20μlのゲル装填緩衝液(30mM Tris、pH6.8、1%SDS、1%β−メルカプトエタノール、12.5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー;インキュベート10分間95℃にて)で溶出した。溶出液をPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した(図23)。ペプチドストレプトアビジンセファロースに結合したPTの量をデンシトメトリー評価によって計算し、さらにストレプトアビジンセファロースへの固定化に最初に用いたペプチドの量の関数としてプロットした(pp26/9について図23に示す)。ペプチド300〜400pmolがストレプトアビジンセファロース1μlへの固定化に用いられた場合に最高のPT結合に達した。より多量のペプチドは、おそらくPTの立体障害の作用を反映して、より多いPT結合を結果として生じなかった。
【0099】
ペプチド400pmolのインプットがストレプトアビジンセファロース1μlへの固定化に用いられた場合のペプチド(pp26/9またはグルマリン/15)の有効に結合した画分を、PAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で、ゲル装填緩衝液を用いた溶出(95℃にて10分間加熱)後に評価した。溶出可能なペプチドの量は、同一ゲル上の規定量の精製PTとの直接比較によって推定した(データ記載せず):pp26/9について100〜150pmol;グルマリン/15について50pmol。
【0100】
c.アフィニティ精製中に一定濃度のペプチドセファロースにてさまざまな量の試料Bを用いたPT収量の測定
ペプチド固定化のために400pmolのpp26/9またはグルマリン/15を1μlのストレプトアビジンセファロースと1時間室温にてインキュベートした。ペプチドセファロースを200μlの50mM Tris pH7.5緩衝液で3回洗浄し、さらに続いてさまざまな量の試料B(50、66、100、200、400、600μl、HClの添加によってpH7.0〜7.5に予め調整)と1時間室温にてインキュベートした。アフィニティマトリクスを100μlの50mM Tris/HCl、pH7.5で4回洗浄し、さらに100mM炭酸緩衝液pH10.5(各20μl)での4回連続溶出によって溶出した。プールした溶出液(計80μl)のうち5μlをPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)および銀染色で分析した。溶出したPTの量は、質量標準としての同一ゲル上の規定量の精製PTとの直接比較を基礎として計算した(図24、表12)。
【表12】

【0101】
ペプチドストレプトアビジンセファロースの精製効率をアシアロフェチュインセファロースと比較するために、アシアロフェチュインセファロースを用いた滴定実験を類似の条件下で平行して実施した(セファロース上に固定化された、反応当たり等しい量のアフィニティリガンド、セファロースへ有効に結合したアフィニティリガンド100pmolに相当)。これは6.85μlのアシアロフェチュインセファロース(バッチ番号FA053198:密度1.1mg/ml、14.6pmol/l)の、さまざまな量の試料B(50、66、100、171.3、200、400μl、HClの添加によってpH7.0〜7.5に予め調整)との1時間室温にてのインキュベートによって達成された。続いてアシアロフェチュインセファロースを洗浄し、さらに結合PTを溶出し、さらに上記の通り分析した。使用した精製条件下でのストレプトアビジンセファロースのペプチド結合効率は、アシアロフェチュインセファロースの結合効率よりも有意に高かった。
【0102】
d.繰り返しPT結合および溶出のためのペプチドセファロースの再使用
PTの繰り返し結合および溶出のためのペプチド装填セファロース(pp26/9およびグルマリン/15)の再使用性を調べるため、セファロースをPT結合、溶出および再生の反復サイクルに用いた(計4回)。ペプチド固定化のために、600pmolのpp26/9またはグルマリン/15をストレプトアビジンセファロース2μlと一晩室温にてインキュベートし、さらに続いてHEPES緩衝液で3回洗浄した。PTの結合のために、各ペプチドストレプトアビジンセファロースを400μlの試料B(HClの添加によってpH7.0〜7.5に調整)と1時間室温にてインキュベートし、さらに50mM Tris/HCl、pH7.5(各200μl)で4回洗浄した。PTは100mM炭酸緩衝液pH10.5(各20μl)での4回連続溶出によって溶出した。続いてカラムマトリクスを10mMHCl(1×20μl、2×100μl)での洗浄3回によって再生し、さらにその後、200μlの50mM Tris/HCl、pH7.5での洗浄2回によって中性化した。この結合、溶出および再生手順をペプチドセファロースにさらに3回適用した。プールした溶出液(計80μl)のうち4μl、各結合/溶出/再生サイクルからの1回目の再生緩衝液のうち7μlをPAGEによって12%Bis−Tris−ゲル(MES泳動緩衝液)で分析および銀染色し、ペプチドセファロースは再使用されうることを示した(図25)。
【0103】
5.PTの大スケールFPLC精製
PT結合および溶出のための最適化された条件を、下記の通り大スケールFPLC精製(0.5mlカラム)に適用した:
A)ビオチン化ペプチドのストレプトアビジン−セファロースへの固定化:200nmolのペプチドpp26/9を1時間30分間室温にて回転ホイール上で1mlの50%ストレプトアビジン−セファロースと10ml容(HEPES緩衝液)中でインキュベートした。インキュベート後、セファロースを50mM Tris pH7.5で3回洗浄した。
【0104】
B)PTの結合(試料Bから):セファロース500μlに有効に固定化されるペプチドの推定量は50nmolであった。ペプチド−セファロースを試料B25mlと1時間30分間室温にて倒立回転機中でインキュベートした(PT推定濃度〜0.5pmol/μl、25ml中に12.5nmolに相当、固定化ペプチド対PT量の比4:1に相当)。
【0105】
C)FPLC−カラム:インキュベート後、セファロースをカラム(PharmaciaHR5/5)に移した。カラムの充填中、セファロースを50mM Tris pH7.5(2〜3ml)で洗浄した。続いてカラムを流路に接続し、さらにカラムの20倍容(10ml)の50mM Tris pH7.5で洗浄した。固定化PTを11mlの100mM炭酸緩衝液pH10.5で溶出した。溶出画分を500μl画分として回収し(PharmaciaフラクションコレクターFRAC−100)および溶出プロファイルを280nmでのUV吸収の測定によって評価した。溶出後、カラムを1.5mlの50mM Tris pH7.5で洗浄し、さらに続いて2.5mlの10mMHClで再生し、その後10mlの50mM Tris pH7.5での中性化を実施した。
【0106】
D)溶出画分の分析および収量の計算:溶出画分をPAGE(12%Bis−Tris−ゲル、MES泳動緩衝液)および銀染色によって分析した
(図26)。PTの濃度は、溶出画分の280nmでの吸収(A280)を測定、さらにこれらの結果を精製PTを用いて作製した較正曲線と比較することによって測定した(図26中の表を参照)。
【0107】
PTの量はさらに、同一ゲル上の質量標準としての規定量の精製PTとの直接比較に基づいて計算した。ゲル推定はPT8100pmolの収量を導く。これはA280を用いた濃度測定と非常に良く相関する。25mlの試料Bは1125μgのPTを含むと推定されるならば、PTの69%〜72%以上がこれらの条件下で溶出される。この結果は、再生後の同一のペプチド−セファロースを用いて25mlの試料BからPTを結合させるFPLC分析の反復によって確認された。この実験では、803μgのPTが精製された(A280)(表13)。
【表13】

【表14】

【0108】
6.pp26ペプチド9/百日咳毒素複合体形成の平衡定数および速度定数の評価
pp26K9/PT複合体形成に関する平衡定数および速度定数を、BIAcore2000装置を用いてHBS/EP分析緩衝液(0.01M HEPESpH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%(v/v)ポリソルベート20)中で室温にて評価した。さまざまな濃度のpp26−K9(濃度2.5nMから100nM)の、CM5チップ上に固定化されたPT(アミンカップリング法による6000RUの固定化)への結合は、流速30μl/分にて分析した。PT結合ペプチドの定量的溶出は3mM HCl、pH 2.5を用いて得られた。推論できる平衡定数および速度定数をBIAevaluationソフトウェアを用いて分析し、その結果を下記に示す:
解離平衡定数K→7.5x10−9
結合平衡定数K→1.3x10−8−1
結合速度定数kon→1.3x10−1xs−1
解離速度定数koff→10−3−1
本発明は好ましい実施形態に関して記載されている一方、当業者は変化および修飾を考えうることが理解される。従って、付属の請求項は、請求される通りの本発明の範囲内にあるそのような同等の変化の全てを包含することが意図される。
【0109】
他の実施態様
1.下記のペプチドから選択され、百日咳毒素を結合させる能力を有することを特徴とするペプチド:
RSSHCRHRNCHTITRGNMRIETPNNIRKDA(pp26−5);
STMNTNRMDIQRLMTNHVKRDSSPGSIDA(pp26−6);
RSNVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDDA(pp26−9);
RSWRDTRKLHMRHYFPLAIDSYWDHTLRDA(pp26−15);
SGCVKKDELCARWDLVCCEPLECIYTSELYATCG(G−9);
SGCVKKDELCELAVDECCEPLECFQMGHGFKRCG(G−10)
SGCVKKDELCSQSVPMCCEPLECKWFNENYGICGS(G−15); および、
SGCVKKDELCELAIDECCEPLECTKGDLGFRKCG(G−19)。
【0110】
2.RSNVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDDA(pp26−9)またはSGCVKKDELCSQSVPMCCEPLECKWFNENYGICGS(G−15)であることを特徴とする実施態様1記載のペプチド。
【0111】
3.DNA−ペプチド融合物を作製する方法であって:
(a)ペプチド受容体に結合した核酸逆転写プライマーを、ペプチドをコードするRNAに共有結合させ;
(b)前記RNAを翻訳して、逆転写プライマーに共有結合しているペプチドを生じさせ;さらに、
(c)前記RNAを逆転写して、DNA−ペプチド融合物を生じさせる;工程を含み、
前記ペプチドが百日咳毒素に対する結合親和性を有することを特徴とする方法。
【0112】
4.DNA−ペプチド融合物を作製する方法であって:
(a)RNA−ペプチド融合物を作製し;
(b)核酸逆転写プライマーを前記融合物にハイブリダイズさせ;
(c)前記プライマーを前記融合物に共有結合させ;さらに
(d)前記RNA−ペプチド融合物のRNAを逆転写してDNA−ペプチド融合物を生じさせる;工程を含み、
前記ペプチドが百日咳毒素に対する結合親和性を有することを特徴とする方法。
【0113】
5.DNA−ペプチド融合物を作製する方法であって:
(a)ペプチド受容体に共有結合したRNA分子を提供し;
(b)核酸逆転写プライマーを前記RNA分子に共有結合させ;
(c)前記RNA分子を翻訳してペプチドを生じさせ;さらに
(d)前記RNA分子を逆転写してDNA−ペプチド融合物を生じさせる;工程を組み合わせて含み、
前記ペプチドが百日咳毒素に対する結合親和性を有することを特徴とする方法。
【0114】
6.実施態様3から5いずれか1項記載の方法を用いて調製されたDNA−ペプチド融合物。
【0115】
7.実施態様3から5いずれか1項記載の方法を用いて同定された百日咳毒素に対する親和性を有するペプチド。
【0116】
8.ビオチン化されていることを特徴とする実施態様1、2または7記載のペプチド。
【0117】
9.百日咳毒素を含む生物溶液に、固相担体に結合した実施態様1、2または7記載の少なくとも1つのペプチドを接触させて百日咳毒素−ペプチド複合体を形成し、さらにその複合体を前記生物溶液中の他の成分から単離する工程を含むことを特徴とする百日咳毒素を精製する方法。
【0118】
10.百日咳毒素を前記複合体から遊離させさらに単離することを特徴とする実施態様9記載の方法。
【0119】
11.前記複合体の周囲環境のpHを変化させることによって、百日咳毒素を該複合体から遊離させることを特徴とする実施態様10記載の方法。
【0120】
12.酸性pHを有する溶液に前記複合体をさらすことを特徴とする実施態様11記載の方法。
【0121】
13.塩基性pHを有する溶液に前記複合体をさらすことを特徴とする実施態様11記載の方法。
【0122】
14.複合体の周囲環境のイオン強度を変化させることによって、百日咳毒素を該複合体から遊離させることを特徴とする実施態様10記載の方法。
【0123】
15.高濃度の1以上のイオン塩を有する溶液に前記複合体をさらすことによって、イオン強度を変化させることを特徴とする実施態様14記載の方法。
【0124】
16.前記イオン塩が、塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムの少なくとも1つであることを特徴とする実施態様15記載の方法。
【0125】
17.前記イオン塩が塩化マグネシウムであることを特徴とする実施態様16記載の方法。
【0126】
18.前記固相担体がビーズであることを特徴とする実施態様9〜17いずれか1項記載の方法。
【0127】
19.前記固相担体がセファロースを含むことを特徴とする実施態様9〜17いずれか1項記載の方法。
【0128】
20.前記固相担体がストレプトアビジンセファロースから成ることを特徴とする実施態様19記載の方法。
【0129】
21.前記ペプチドがビオチン化されており、該ペプチド上のビオチン部分とストレプトアビジンセファロース上のストレプトアビジン部分との相互作用を介してペプチドが固相担体に結合していることを特徴とする実施態様20記載の方法。
【0130】
22.百日咳毒素に対する結合親和性を有するペプチドのDNA−ペプチド融合物を単離する方法であって:
(a)ペプチド受容体に結合した核酸逆転写プライマーを、ペプチドをコードするRNAに共有結合させ;
(b)RNAを翻訳して、逆転写プライマーに共有結合したペプチドを生じさせ;さらに
(c)RNAを逆転写して、DNA−ペプチド融合物を生じさせ;
(d)DNA−ペプチド融合物に、固相担体に結合した百日咳毒素を接触させて、DNA−ペプチド融合物−百日咳毒素複合体を形成し;
(e)前記複合体を、百日咳毒素と複合体形成しなかったDNA−ペプチド融合物から単離し;さらに
(f)DNA−ペプチド融合物をDNA−ペプチド融合物−百日咳毒素複合体から単離する;工程を組み合わせて含むことを特徴とする方法。
【0131】
23.百日咳毒素に対する結合親和性を有するペプチドを同定する方法であって、実施態様22記載の方法を実し、さらに、DNA−ペプチド融合物のペプチド部分のアミノ酸配列を特定する工程を含むことを特徴とする方法。
【0132】
24.百日咳毒素に対する結合親和性を有するペプチドをコードするDNA配列を同定する方法であって、実施態様22記載の方法を実施し、さらに、DNA−ペプチド融合物のDNA部分のヌクレオチド配列を特定する工程を含むことを特徴とする方法。
【0133】
25.実施態様10記載の方法によって単離された百日咳毒素を含む免疫組成物。
【0134】
26.百日咳毒素を結合させる能力を有し、さらに図3〜14のいずれかに示されるペプチドのアミノ酸配列を有することを特徴とするペプチド。
【0135】
27.前記百日咳毒素に対する結合親和性を有するペプチドのアミノ酸配列が、グマリンまたはPP26に由来するアミノ酸配列を含むことを特徴とする実施態様3〜5または9〜24いずれか1項記載の方法。
【0136】
28.前記百日咳毒素に対する結合親和性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列が、グマリンまたはPP26に由来するヌクレオチド配列を含むことを特徴とする実施態様3〜5または9〜24いずれか1項記載の方法。
【0137】
29.百日咳毒素を結合させる能力を有し、さらにアミノ酸配列LGHGLGYAYを含むことを特徴とするペプチド。
【0138】
30.アミノ酸配列ELAVD、ELAID、またはARWDLVをさらに含むことを特徴とする実施態様29のペプチド。
【0139】
31.百日咳毒素を結合させる能力を有し、さらにアミノ酸配列TTASKSまたはKWTNEHFGTの少なくとも1つを含むことを特徴とするペプチド。
【0140】
32.アミノ酸配列TTASKSおよびKWTNEHFGTを含むことを特徴とする実施態様31記載のペプチド。
【0141】
33.百日咳毒素を結合させる能力を有し、さらに下記の群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とするペプチド:
NVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDD;
VGTTIRIAQDTEHYRNVYHKLSQYSR;
WTSMQGETLWRTDRLATTKTSMSHPP;
LSALRRTERTWNTIHQGHHLEWYPPA;
LSRLARTERTWDRIHQGHHLEWHPPA;
TMNTNRMDIQRLMTNHVKRDSSPGSI;
LSALMRTERTWNTIHQGHHLEWYPPA;
CLATRNGFVMNTDRGTYVKRPTVLQ;および
CLATRNGFVQMNTDRGTYVKRPTVLQ。
【0142】
34.百日咳毒素を結合させる能力を有し、さらにアミノ酸配列XXAXRXXXXXXNTXXXXXXXXXT、または
XXAXRXXXXXXNTXXXXXXXXXYを含み、ここでXは任意のアミノ酸であることを特徴とするペプチド。
【0143】
35.百日咳毒素を結合する能力を有し、さらにアミノ酸配列VXXXXXXXXDTXXXXRXXXXXLSを有し、ここでXは任意のアミノ酸であることを特徴とするペプチド。
【0144】
36.少なくとも1つのアミノ酸が保存的に置換されていることを特徴とする実施態様29〜35いずれか1項記載のペプチド。
【0145】
37.ビオチン化されていることを特徴とする実施態様29〜36いずれか1項記載のペプチド。
【0146】
38.百日咳毒素を含む生物溶液に、固相担体に結合した実施態様29〜37に記載の少なくとも1つのペプチドを接触させて百日咳毒素−ペプチド複合体を形成し、さらにその複合体を前記生物溶液中の他の成分から単離する工程を含むことを特徴とする、百日咳毒素を精製する方法。
【0147】
39.前記百日咳毒素を複合体から遊離させさらに単離することを特徴とする実施態様38記載の方法。
【0148】
40.前記複合体の周囲環境のpHを変化させることによって、百日咳毒素を該複合体から遊離させることを特徴とする実施態様39記載の方法。
【0149】
41.酸性pHを有する溶液に前記複合体をさらすことを特徴とする実施態様40記載の方法。
【0150】
42.塩基性pHを有する溶液に前記複合体をさらすことを特徴とする実施態様40記載の方法。
【0151】
43.複合体の周囲環境のイオン強度を変化させることによって、百日咳毒素を該複合体から遊離させることを特徴とする実施態様39記載の方法。
【0152】
44.高濃度の1以上のイオン塩を有する溶液に前記複合体をさらすことによって、イオン強度を変化させることを特徴とする実施態様43記載の方法。
【0153】
45.前記イオン塩が、塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムの少なくとも1つであることを特徴とする実施態様44記載の方法。
【0154】
46.前記イオン塩が塩化マグネシウムであることを特徴とする実施態様45記載の方法。
【0155】
47.前記固相担体がビーズであることを特徴とする実施態様38〜46いずれか1項記載の方法。
【0156】
48.前記固相担体がセファロースを含むことを特徴とする実施態様38〜46いずれか1項記載の方法。
【0157】
49.前記固相担体がストレプトアビジンセファロースから成ることを特徴とする実施態様48記載の方法。
【0158】
50.前記ペプチドがビオチン化されており、該ペプチド上のビオチン部分とストレプトアビジンセファロース上のストレプトアビジン部分との相互作用を介してペプチドが固相担体に結合していることを特徴とする実施態様49記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列NVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDを含むペプチド。
【請求項2】
アミノ酸配列RSNVIPLNEVWYDTGWDRPHRSRLSIDDDA(配列番号7)を含むことを特徴とする請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
拡散しないように固体担体に直接または間接的に結合した請求項1または2記載のペプチドを含む試薬。
【請求項4】
前記固体担体が、非充填または充填クロマトグラフィー媒体、ビーズ、試験管、マイクロタイタープレート、固相粒子、アガロース、セファロース、マイクロチップ、シリコン、シリコンガラス、金、膜、およびリポソームよりなる群から選択されることを特徴とする請求項3記載の試薬。
【請求項5】
百日咳毒素に可逆的に結合している請求項3または4記載の試薬。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−173919(P2011−173919A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109629(P2011−109629)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2006−541372(P2006−541372)の分割
【原出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(503263001)サノフィ パストゥール インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】