説明

皮下埋め込み型薬液注入具

【課題】患者が上体を起こした状態にて、穿刺針を穿刺し、薬液注入具の薬液流入空間に液体を注入しても、薬液流入空間内の血液滞留部の形成がなく、少ない量の液体にて、薬液流入空間内の血液を流入液体と置換できる薬液注入具を提供する。
【解決手段】皮下埋め込み型薬液注入具1は、薬液流入空間23を形成する凹部と、排出ポート5とを有する注入具本体と、注入具本体の凹部の開口部を封止するとともに薬液注入用針の薬液流入空間23への刺入が可能なシール部材4とを備える。注入具本体は、排出ポートと薬液流入空間とを連通する薬液流路7を備え、薬液流路は、薬液流入空間に対して排出ポートと向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する流通口71を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を患者の体内に注入する薬液注入具に関するものであり、詳しくは、化学療法等の治療に際して用いる皮下埋め込み型の薬液注入具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌などの治療で、体内に薬液を注入する薬液注入療法が行われている。そして、このような薬液注入療法に用いるため薬液注入具が利用されている。
従来の皮下埋め込み型薬液注入具は、凝血塊や血栓などの発生の原因となるため、逆血確認をしない、採血を行わないようにしているのが通常である。しかし、癌化学療法患者は、治療のたびに血液検査を行うのが通常であり、その際、採血は別の静脈血管から行われている。しかし、このような、静脈への穿刺を必要とする採血が、患者に与える苦痛も大きい。
しかし、従来の皮下埋め込み型薬液注入具では、採血のため、薬液注入具の薬液流入空間内に血液を流入させた場合、採血後に、薬液流入空間内の血液を除去するために多量の生理食塩液等の液体の注入が必要であった。また、血液の除去が完全に出来なかった場合、リザーバー部で血液が凝固し、薬液注入が出来なくなることもあった。
【0003】
そして、薬液注入具の薬液流入空間内での血液等の滞留対策を考慮した薬液注入具としては、例えば、実用新案登録第3142990号公報(特許文献1)、特表2010−500887(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3142990号公報
【特許文献2】特表2010−500887
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のアクセスポートは、本体(2)を長さ方向に長く形成し、当該本体(2)の天面に穿刺部(4)を配置し、当該本体(2)の内部に空間(S)を形成し、当該本体(2)の長さ方向の一端部に接続部(5)を形成し、前記穿刺部(4)は、前記接続部(5)と同方向に位置する端部(E)に向けて下方向に傾斜させて配置し、当該穿刺部(4)に穿通した針の先端位置が、前記接続部(5)と遠位側に配置されるように形成されている。
特許文献1のアクセスポートでは、従来のものに比べて、ポート内での滞留は改善される可能性があるが、特許文献1の図3に示すように穿刺針の刃先が、内部空間(S)の広くなっている部分に位置するように穿刺されるものとは限らない。もし、穿刺針の刃先が、接続部方向に向いた状態にて穿刺された場合には、穿刺針より注入される液体により、ポート内の液体の置換が良好に行われず、滞留が生じる可能性が高い。
【0006】
また、特許文献2の静脈アクセスポート(100、100A)は、ポート本体(102)と、隔壁(104)と、チャンバー(112、112A)と、該チャンバーから外側に貫通して延在する流路(110)を有する排出ポート(108)とを備えている。該チャンバー底部の周辺部には過流路(116、116A)が形成されているとともに、チャンバー(112、112A)の中央部は、チャンバー底面について、チャンバーの側壁と近接している部分から凸状、あるいは、円錐状に隆起している。
特許文献2の静脈アクセスポートでは、チャンバー底部中央部での液体の滞留は、ある程度防止できる。しかし、底部周縁部では、液体が滞留する可能性が高い。さらに、薬液注入具(アクセスポート)は、底部が下面となる水平状態(患者が仰向け状態)で穿刺針が穿刺されるものとは限らず、患者が上体を起こした状態(排出ポートが上側となる状態)にて、穿刺針が穿刺される場合もある。特に、後者の場合に、排出ポートの向かい合う部位での液体(血液)の滞留が生じやすい。
本発明の目的は、患者が上体を起こした状態にて、穿刺針を穿刺し、薬液注入具の薬液流入空間に液体を注入しても、薬液流入空間内の液体の滞留部の形成がなく、かつ、少ない量の液体にて、薬液流入空間内の液体(血液)を流入液体と置換でき、逆血確認による血管確保確認および採血を行うことを可能とする薬液注入具(アクセスポート)を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 皮下埋め込み型薬液注入具であって、
前記薬液注入具は、薬液流入空間を形成する凹部と、排出ポートとを有する注入具本体と、前記注入具本体の前記凹部の開口部を封止するとともに薬液注入用針の前記薬液流入空間への刺入が可能なシール部材とを備え、
さらに、前記注入具本体は、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する薬液流路を備え、前記薬液流路は、前記薬液流入空間に対して前記排出ポートと向かい合う位置付近に設けられた前記薬液流入空間と連通する流通口を備える皮下埋め込み型薬液注入具。
【0008】
(2) 前記薬液流路は、前記薬液流入空間の一方もしくは両方の側部を取り囲むように形成された円弧状の液体流路である上記(1)に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
(3) 前記薬液流路は、一端が前記排出ポートと連通し、前記薬液流入空間の底面部を形成する壁部内をほぼ直線状にかつ前記薬液流入空間の中央部を通過するように延び、前記流通口は、前記薬液流入空間の底面部の周縁部に位置している上記(1)に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
(4) 前記注入具本体は、前記凹部を形成する環状壁部と、前記環状壁部の内側に設けられた円弧状壁部とを有し、前記円弧状壁部の一端部は、前記排出ポートと前記薬液流入空間との連通を阻害する連通阻害壁部となっており、前記円弧状壁部の他端部は、前記排出ポートと向かい合う位置付近にて終端しており、前記円弧状壁部と前記環状壁部間により、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する半円弧状の前記薬液流路が形成されている上記(1)に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
(5) 前記注入具本体は、前記凹部を形成する環状壁部と、前記環状壁部内に設けられた部分欠損部を有する円筒状壁部とを有し、前記部分欠損部は、前記排出ポートと向かい合う位置付近に設けられており、前記円筒状壁部と前記環状壁部間により、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する2本の前記薬液流路が形成されている上記(1)に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
(6) 前記薬液流入空間の底面部は、前記流通口に向かって低くなるように傾斜している上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
(7) 前記薬液流入空間の側部は、前記流通口に向かって幅が狭くなっている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮下埋め込み型薬液注入具は、薬液流入空間を形成する凹部と、排出ポートとを有する注入具本体と、注入具本体の凹部の開口部を封止するとともに薬液注入用針の薬液流入空間への刺入が可能なシール部材とを備え、さらに、注入具本体は、排出ポートと薬液流入空間とを連通する薬液流路を備え、薬液流路は、薬液流入空間に対して排出ポートと向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する開口を備えている。
【0010】
皮下埋め込み型薬液注入具は、通常、排出ポートが中心静脈側(言い換えれば、頭部側)となるように、皮下に埋め込まれるため、埋め込まれた患者が起き上がった状態では、排出ポート側が上となる。そして、その状態にて、薬液注入具のシール部材に皮膚表面より穿刺針を穿刺し、採血することにより、薬液注入具の薬液流入空間内は血液にて満たされたものとなる。そして、穿刺針より、生理食塩水を少量低流量にて注入することにより、薬液流入空間内の血液は、置換用液体(例えば、生理食塩水)と置換されるとともに、生理食塩水より比重が高い血球成分は、排出ポートと向かい側である薬液流入空間の下方側に移動する。本発明の薬液注入具では、排出ポートと薬液流入空間とを連通する薬液流路を備え、薬液流路は、薬液流入空間に対して排出ポートと向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する流通口を備えているため、血球成分は、排出ポートと向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する流通口付近に良好に移動するとともに、注入される生理食塩水により、確実に押し出され、押し出された血球成分は、薬液流路、排出ポートを通過して、薬液注入具より排出される。
よって、本発明の薬液注入具によれば、患者が上体を起こした状態にて、穿刺針を穿刺し、薬液注入具の薬液流入空間に液体を注入することにより、少ない量の液体にて、薬液流入空間内の血液を残留させることなく置換できる。また、本発明の薬液注入具によれば、患者が仰向けの状態にて、穿刺針を穿刺した場合においても、薬液注入具に注入される液体が、穿刺針の刃先開口より排出ポートに短絡的に流れることがなく、薬液流入空間内に滞留部を形成することが極めて少なく、少ない量の液体にて、薬液流入空間内の血液を残留させることなく置換できる。よって、本発明の薬液注入具によれば、逆血確認による血管確保確認および採血を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の薬液注入具の正面図である。
【図2】図2は、図1に示した薬液注入具の右側面図である。
【図3】図3は、図1のA−A線断面図である。
【図4】図4は、図1に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施例の薬液注入具の正面図である。
【図6】図6は、図5に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
【図7】図7は、本発明の他の実施例の薬液注入具の縦断面図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施例の薬液注入具の正面図である。
【図9】図9は、図8のB−B線断面図である。
【図10】図10は、図8に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
【図11】図11は、本発明の他の実施例の薬液注入具の縦断面図である。
【図12】図12は、本発明の他の実施例の薬液注入具の正面図である。
【図13】図13は、図12に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
【図14】図14は、カテーテルを装着した状態の本発明の薬液注入具の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の医療用容器への薬液注入具を図示する実施例の薬液注入具を用いて説明する。
本発明の皮下埋め込み型薬液注入具1は、薬液流入空間23を形成する凹部と、排出ポート5とを有する注入具本体と、注入具本体の凹部の開口部を封止するとともに薬液注入用針(図示せず)の薬液流入空間23への刺入が可能なシール部材4とを備える。さらに、注入具本体は、排出ポート5と薬液流入空間23とを連通する薬液流路7を備え、薬液流路7は、薬液流入空間23に対して排出ポート5と向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する流通口71を備えている。
【0013】
この実施例の皮下埋め込み型薬液注入具1は、図1ないし図4に示すように、注入具本体と、シール部材4とにより構成されている。そして、注入具本体は、薬液流入空間23を形成する凹部を有する底部部材2と、底部部材2の上面側に装着されるリング状の上部部材3と、上部部材3の側部に取り付けられた排出ポート5とを備える。そして、シール部材4は、底部部材2と上部部材3間に配置されており、周縁部が、底部部材2と上部部材3により挟圧され、底部部材2と上部部材3間を液密にシールしている。
【0014】
そして、注入具本体は、排出ポート5と薬液流入空間23とを連通する薬液流路7を備えている。特に、この実施例の薬液注入具1では、薬液流路7は、薬液流入空間23の一方の側部を取り囲むように形成された円弧状の液体流路となっている。また、この実施例の薬液注入具1では、注入具本体は、凹部を形成する環状壁部22と、環状壁部22の内側に設けられた円弧状壁部24とを有し、円弧状壁部24の一端部26は、排出ポート5(具体的には、排出ポート5の基部開口50)と薬液流入空間23との連通を阻害する連通阻害壁部となっており、円弧状壁部24の他端部25は、排出ポート5(具体的には、排出ポート5の基部開口50)と向かい合う位置付近にて終端しており、円弧状壁部24と環状壁部22間により、排出ポート5(具体的には、排出ポート5の基部開口50)と薬液流入空間23とを連通する半円弧状の薬液流路7を備えている。
【0015】
具体的には、図1ないし図4(特に、図4)示すように、注入具本体の底部部材2は、円盤状の底板部21と、底板部21の周縁より、所定長中央部側となる位置から突出する環状壁部22を備えている。また、環状壁部22には、排出ポート5の基端部が挿入可能な開口20が設けられている。このため、排出ポート5の基部開口50は、環状壁部22部分にて露出している。さらに、この実施例の薬液注入具1では、環状壁部22の内部側(具体的には、環状壁部より薬液流入空間23の中心側)となる部位の底板部21の表面より突出する円弧状壁部24を有している。そして、円弧状壁部24の一端部26は、排出ポート5(具体的には、排出ポート5の基部開口50)付近にて終端し、環状壁部22に接続されている。このため、円弧状壁部24の一端部26は、排出ポート5の基部開口50と薬液流入空間23との連通を阻害する連通阻害壁部を形成している。また、円弧状壁部24の他端部25は、排出ポート5(基部開口50)と向かい合う位置付近にて終端している。そして、円弧状壁部24と環状壁部22間により、排出ポート5(排出ポート5の基部開口)と薬液流入空間23とを連通する半円弧状の薬液流路7が形成されており、薬液流路7は、円弧状壁部24の他端部25付近に流通口71を有し、排出ポート5の基部開口50付近に流出部72を有している。
【0016】
この実施例では、円弧状壁部24は、ほぼ半円状のものなっている。また、薬液流路7の幅(円弧状壁部24と環状壁部22間の距離)としては、0.5〜3.0mmが好ましく、特に、1.0〜2.0mmが好ましい。また、底板部21の周縁部であり、かつ、排出ポート5の基端部挿入用の開口20付近には、生体縫着用開口28,29が設けられており、開口28,29形成部は、他の部分より、環状壁部22より延出する幅が広いものとなっている。また、底板部21の底面は、平坦面となっている。
底部部材2の上面側に装着されるリング状の上部部材3は、図1ないし図3に示すように、シール部材の中央部が露出する状態にてシール部材を収納する本体部31と、シール部材の周縁部を押圧するための開口部に設けられた環状リブ32と、排出ポート5の基端部が装着される排出ポート装着口33を備えている。本体部31は、内径が、上述した底部部材の環状壁部の外径とほぼ同じものとなっており、底部部材2の環状壁部22は、上部部材3の本体部31内に収納され、底部部材2の平板部の周縁部(環状壁部22より延出する部分)は、上部部材3の本体部31の底面に当接している。また、上部部材3は、図1に示すように、上部部材3の周縁部であり、かつ、排出ポート5の装着口33の両側部には、生体縫着用開口8,9が設けられており、生体縫着用開口8,9は、上述した底部部材の開口28,29と合致する位置に設けられている。また、生体縫着用開口8,9が形成されている部分は、肉薄の平板状となっている。
【0017】
注入具本体(底部部材2,上部部材3)の形成材料としては、ある程度の透明性を有する材料が好ましく、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、エポキシ樹脂、ポリアセタールなどが用いられる。
シール部材4は、薬液注入用針の刺通が可能であり、薬液注入用針の抜去後に刺通部がシールされるものとなっている。シール部材4は、弾性材料により形成されている。シール部材4の形成材料としては、シリコーンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム等の各種ゴム類、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエン、軟質塩化ビニル等の各種樹脂、またはこれらのうち2以上を組み合わせたもの等が挙げられるが、そのなかでも特に、生体に対し不活性で、比較的物性変化の少ないシリコーンゴムが好ましい。
シール部材4は、図1ないし3に示すように、本体部41と、本体部41の周縁部により形成されるフランジ部43と、フランジ部43より突出するとともに、外径が本体部より小さい突出部42とを備えている。言い換えれば、シール部材4は、上部が小径部(突出部)42となっており、この小径部(突出部)42が、リング状の上部部材3の開口部内に進入し、その表面が露出するものとなっており、露出部は、穿刺針による穿刺可能部位を形成している。
そして、シール部材4は、上述した上部部材3と底部部材2間に周縁部(フランジ部43)が挟圧された状態にて、収納されており、上部部材3と底部部材2間を液密状態にシールしている。
【0018】
さらに、この実施例のものでは、図1ないし図3に示すように、シール部材4の底面は、底部部材2の環状壁部22の上面および円弧状壁部24の上面により押圧されており、薬液通路7の流通口71を通過することなく、薬液流入空間23から排出ポート5の基部開口50に液体が流れることを阻止している。言い換えれば、シール部材4の周縁部(フランジ部43)の一部が、薬液通路7の上部開口を封止している。さらに、上部部材3の環状リブ32は、シール部材4の周縁部(フランジ部43)を被包しているため、シール部材の周縁部(フランジ部43)が露出しておらず、シール部材4のフランジ部43への穿刺針(図示せず)の穿刺を不能としている。このため、穿刺針が、薬液流路7に刺入することを阻止している。
【0019】
そして、この実施例の薬液注入具1では、薬液流入空間23は、シール部材4の内面、環状壁部22の一部、円弧状壁部24と、底板部21の上面(薬液流入空間23の底面23a)により、形成された若干変形した所定の高さを有する円柱状空間となっている。
さらに、この実施例の薬液注入具1には、図1ないし図3に示すように、排出ポート5が装着されている。排出ポート5は、筒状体であり、先端側に設けられたカテーテル基端部装着部52と、基端側に設けられた上部部材装着部53と、内部に設けられた流通路51とを備えている。また、基端開口50は、流通路51の基端であり、上部部材装着部53の基端に位置している。そして、カテーテル基端部装着部52の外面には、カテーテル抜け止め用の環状突出部が設けられている。上部部材装着部53は、上部部材3の排出ポート装着口33内に挿入され、液密に固定されている。また、この実施例の薬液注入具1では、排出ポート5の上部部材装着部53の基端部は、底部部材2の環状壁部22に設けられた開口20内に進入している。
また、本発明の薬液注入具1は、使用時に、図14に示すようなカテーテル15およびプロテクター6が接続される。カテーテル15の基端部は、カテーテル基端部装着部を被包するように排出ポート5に装着され、プロテクター6は、カテーテル基端部装着部に装着されたカテーテル15の基端部を被嵌するとともに圧迫し、カテーテルの離脱を防止している。カテーテル15としては、少なくとも先端部が体内(具体的には、血管(静脈または動脈)、胆管、尿管などの脈管、硬膜外、くも膜下、腹腔)に挿入可能なものが用いられる。
【0020】
カテーテル15は、先端側開口部と内部ルーメン16とを有するチューブ体であり、ほぼ全体に渡り同一外径および同一内径を有するものとなっている。カテーテルの外径は、0.3〜5mmが好ましく、特に、0.9〜2.8mmが好ましい。また、カテーテルの内径は、0.1〜2.6mmが好ましく、特に、0.6〜1.8mmが好ましい。
また、カテーテル15は、可撓性、好ましくはある程度の弾性を有するものが用いられる。カテーテルの形成材料としては、例えば、オレフィン系エラストマー(例えば、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー)、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタンおよびウレタン系エラストマー、ポリアミドおよびアミド系エラストマー(例えば、ポリアミドエラストマー)、フッ素樹脂エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、シリコーンゴム等の可撓性を有する高分子材料により形成される。
【0021】
また、本発明の薬液注入具としては、図5および図6に示すような形態の薬液流路を有するものであってもよい。図5は、本発明の他の実施例の薬液注入具の正面図である。図6は、図5に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
この実施例の薬液注入具1aでは、薬液流路は、薬液流入空間の両方の側部を取り囲むように形成された円弧状の液体流路7a,7bを備えている。この実施例の薬液注入具と上述した薬液注入具1との相違は、注入具本体の底部部材2aに形成された薬液流路およびそれを形成する円弧状壁部の形状のみであり、その他は、上述したものと同じである。
図5および図6に示す薬液注入具1aでは、注入具本体(底部部材2a)は、凹部を形成する環状壁部22と、環状壁部22の内側(具体的には、環状壁部より薬液流入空間23の中心側)に設けられた部分欠損部27を有する円筒状壁部24a(円弧状壁部)とを有し、部分欠損部27は、排出ポート5と向かい合う位置に設けられており、円筒状壁部24aと環状壁部22間により、排出ポート5と薬液流入空23間とを連通する2本の薬液流路7a,7bを備えている。部分欠損部27付近に、薬液流路7aへの流通口71a、薬液流路7bへの流通口71bが形成されている。
【0022】
特に、この実施例の薬液注入具1aでは、薬液流入空間23の両方の側部を取り囲むように、言い換えれば、ほぼ全周を取り囲むように形成された2本の円弧状の薬液流路7a、7bを備えている。また、この実施例の薬液注入具1aでは、注入具本体は、凹部を形成する環状壁部22と、環状壁部22の内側に設けられた部分欠損部27を有する円筒状壁部(円弧状壁部)24aとを有する。部分欠損部27は、排出ポート5の基部開口50と向かい合う位置に設けられており、部分欠損部は、円筒状壁部の円周の1/20〜1/6の大きさであることが好ましい。また、この実施例では、薬液通路は、二股状に分岐する形状となっており、両者の中央部に排出ポート5の基部開口50が位置している。
この実施例では、円筒状壁部24aは、ほぼ円筒状のものなっている。また、薬液流路7の幅(円筒状壁部24aと環状壁部22間の距離)としては、0.5〜3.0mmが好ましく、特に、1.0〜2.0mmが好ましい。
【0023】
さらに、この実施例の薬液注入具1aでは、図5に示すように、シール部材4の底面は、底部部材2の環状壁部22の上面および円筒状壁部24aの上面により押圧されており、薬液通路7a,7bの流通口71a、流通口71bを通過することなく、薬液流入空間23から排出ポート5の基部開口50に液体が流れることを阻止している。言い換えれば、シール部材4の周縁部(フランジ部43)の一部が、薬液通路7a,7bの上部開口を封止している。さらに、上部部材3の環状リブ32は、シール部材4の周縁部(フランジ部43)を被包しているため、シール部材の周縁部(フランジ部43)が露出しておらず、シール部材4のフランジ部43への穿刺針(図示せず)の穿刺を不能としている。このため、穿刺針が、薬液流路7a,7bに刺入することを阻止している。
【0024】
また、上述したすべての実施例の薬液注入具1,1aにおいて、薬液流入空間23の底面部は、図7に示す薬液注入具1bのように、流通口71に向かって低くなるように傾斜しているものであってもよい。図7は、本発明の他の実施例の薬液注入具の縦断面図である。薬液注入具1bは、薬液流入空間23の底面部23aの形態以外については、上述した薬液注入具1と同じである。なお、上述した薬液注入具1,1aにおいても、薬液流入空間23の底面部は、流通口71,71a,71bに向かって低くなるように傾斜させてもよい。
この実施例の薬液注入具1bでは、底部部材2bの底板部21の薬液流入空間の底面を形成する部分23a(言い換えれば、薬液流入空間23の底面部23a)は、流通口71に向かって、肉厚が薄くなるように傾斜している。このため、薬液流入空間23は、流通口71に向かって薬液流入空間が広くなるように傾斜している。このため、患者が仰向けの状態にて、穿刺針を穿刺し、置換用液体(例えば、生理食塩水)を注入した時、液体の置換の進行とともに、残留する血球成分は、置換用液体(生理食塩水)より比重が高い血球成分は、最も底部である流通口71付近に移動し、その後注入される液体により、確実に押し出され、押し出された血球成分は、薬液流路、排出ポートを通過して、薬液注入具より排出される。
【0025】
また、本発明の薬液注入具としては、図8ないし図10に示すような形態の薬液流路を有するものであってもよい。図8は、本発明の他の実施例の薬液注入具の正面図である。図9は、図8のB−B線断面図である。図10は、図8に示した薬液注入具に用いられている注入具本体の底部部材の正面図である。
この実施例の薬液注入具10では、薬液流路7cは、一端が排出ポート5と連通し、薬液流入空間23の底面部を形成する壁部内をほぼ直線状にかつ薬液流入空間23の中央部を通過するように延び、薬液流路7cの流通口71は、薬液流入空間23の底面部23aの周縁部に位置している。
この実施例の薬液注入具10と上述した薬液注入具1との相違は、注入具本体の底部部材の形態のみであり、上部部材3,シール部材4および排出ポート5などについては、上述したものと同じである。
【0026】
具体的には、図8ないし図10に示すように、注入具本体の底部部材2cは、円盤状の底板部21aと、底板部21aの周縁より、所定長中央部側となる位置から突出する環状壁部22aを備えている。さらに、底部部材2cは、底板部21aを形成する壁部内に、ほぼ直線状に延びる薬液流路7cを備えている。薬液流路7cの一端には、排出ポート5の基端部が挿入可能な開口20aが設けられている。このため、排出ポート5の基部開口50は、薬液流路7cの一端にて露出している。そして、薬液流路7cは、底部部材2cの底面部壁部内をほぼ直線状にかつ薬液流入空間23の中央部を通過するように延びており、薬液流入空間23の底面部23aの周縁部にて終端している。そして、薬液流路7cは、底面部23aに形成された流通口71により、薬液流入空間23と連通している。よって、この実施例の薬液注入具10においても薬液流路7cは、薬液流入空間23に対して排出ポート5と向かい合う位置に設けられた薬液流入空間と連通する流通口71を備えるものとなっている。そして、薬液通路7cは、断面が底面部の横方向に広い横扁平状のものとなっている。また、この実施例では、流通口71は、排出ポート方向に頂点を有する略半円状のものとなっている。
【0027】
また、上述した薬液流入空間23の底面部を形成する壁部内に薬液流路を備えるタイプの薬液注入具においても、薬液流入空間23の底面部23aは、図11に示す薬液注入具10aのように、流通口71に向かって低くなるように傾斜しているものであってもよい。底部部材2dの底板部21bの薬液流入空間の底面を形成する部分23a(言い換えれば、薬液流入空間23の底面部23a)は、流通口71に向かって、肉厚が薄くなるように傾斜している。このため、薬液流入空間23は、流通口71に向かって薬液流入空間が広くなるように傾斜している。
【0028】
また、上述した薬液流入空間23の底面部を形成する壁部内に薬液流路を備えるタイプの薬液注入具において、図12および図13に示す薬液注入具10bのように、薬液流入空間23の側部は、流通口71に向かって幅が狭くなっているものであってもよい。この実施例の薬液注入具10bでは、底部部材2eは、底板部21aの周縁より、所定長中央部側となる位置から突出する環状壁部22bを備えている。環状壁部22aの外周面は、ほぼ円筒状壁面となっているが、内壁は、中央部付近より、流通口71に向かって幅が徐々に狭くなっている、このため、流通口71付近への血球成分の移動がより確実なものとなる。
【符号の説明】
【0029】
1,1a,1b,10,10a,10b 薬液注入具
2 底部部材
3 上部部材
5 排出ポート
4 シール部材
7 薬液流路
15 カテーテル
22 環状壁部
23 薬液流入空間
24 円弧状壁部
71 流通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下埋め込み型薬液注入具であって、
前記薬液注入具は、薬液流入空間を形成する凹部と、排出ポートとを有する注入具本体と、前記注入具本体の前記凹部の開口部を封止するとともに薬液注入用針の前記薬液流入空間への刺入が可能なシール部材とを備え、
さらに、前記注入具本体は、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する薬液流路を備え、前記薬液流路は、前記薬液流入空間に対して前記排出ポートと向かい合う位置付近に設けられた前記薬液流入空間と連通する流通口を備えることを特徴とする皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項2】
前記薬液流路は、前記薬液流入空間の一方もしくは両方の側部を取り囲むように形成された円弧状の液体流路である請求項1に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項3】
前記薬液流路は、一端が前記排出ポートと連通し、前記薬液流入空間の底面部を形成する壁部内をほぼ直線状にかつ前記薬液流入空間の中央部を通過するように延び、前記流通口は、前記薬液流入空間の底面部の周縁部に位置している請求項1に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項4】
前記注入具本体は、前記凹部を形成する環状壁部と、前記環状壁部の内側に設けられた円弧状壁部とを有し、前記円弧状壁部の一端部は、前記排出ポートと前記薬液流入空間との連通を阻害する連通阻害壁部となっており、前記円弧状壁部の他端部は、前記排出ポートと向かい合う位置付近にて終端しており、前記円弧状壁部と前記環状壁部間により、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する半円弧状の前記薬液流路が形成されている請求項1に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項5】
前記注入具本体は、前記凹部を形成する環状壁部と、前記環状壁部内に設けられた部分欠損部を有する円筒状壁部とを有し、前記部分欠損部は、前記排出ポートと向かい合う位置付近に設けられており、前記円筒状壁部と前記環状壁部間により、前記排出ポートと前記薬液流入空間とを連通する2本の前記薬液流路が形成されている請求項1に記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項6】
前記薬液流入空間の底面部は、前記流通口に向かって低くなるように傾斜している請求項1ないし5のいずれかに記載の皮下埋め込み型薬液注入具。
【請求項7】
前記薬液流入空間の側部は、前記流通口に向かって幅が狭くなっている請求項1ないし6のいずれかに記載の皮下埋め込み型薬液注入具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−78532(P2013−78532A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221214(P2011−221214)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【出願人】(591140938)テルモ・クリニカルサプライ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】