皮下脂肪厚測定装置
【課題】測定電極が人体に接触したとき、人体のうち測定電極に接触する部位における脂肪の厚みを精度良く測定する。
【解決手段】脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定された電圧との位相差に基づいて、人体のうち測定電極が接触した部位における皮下脂肪厚Lfを求める。
【解決手段】脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定された電圧との位相差に基づいて、人体のうち測定電極が接触した部位における皮下脂肪厚Lfを求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮下脂肪の厚みを測定するための皮下脂肪厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手や足に測定電極を接触させて測定されるインピーダンスに基づいて、人体の皮下脂肪厚を測定するという技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−178697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、インピーダンスのみに基づいて皮下脂肪厚を測定するという技術では、脂肪の情報だけを捉えることはできず、脂肪の下に存在する筋肉の状態によって測定値が変動するため、皮下脂肪厚を正確に測定することは困難であるという問題があった。
以上の事情に鑑みて、本発明は、皮下脂肪厚を精度良く測定するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る皮下脂肪厚測定装置は、各々が、人体に接触させて測定を行うための測定電極(図1に示す第1測定電極12)である第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極と、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間を流れる交流電流を出力する電流発生部(図2に示す第1電流発生部28)と、第1の電流印加用電極に隣り合うように配置される第1の電圧測定用電極と、第2の電流印加用電極に隣り合うように配置される第2の電圧測定用電極との間の電圧を測定する電圧測定部(図2に示す第1電圧測定部30)と、測定電極が人体に接触したときに、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間における皮下脂肪厚を求める皮下脂肪厚測定部(図2に示す制御部44)とを備える。
【0006】
この態様においては、脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、測定電極が人体に接触したときに、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、人体のうち測定電極が接触した部位における皮下脂肪厚を求めている。より具体的には、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定された電圧とから算出されるインピーダンスと、位相差と、から求められるリアクタンス(インピーダンスの虚数部)およびレジスタンス(インピーダンスの実数部)に基づいて、皮下脂肪厚を求める。
【0007】
さらに詳述すると、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚が大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなる一方、皮下脂肪厚が小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる。そうすると、皮下脂肪厚が大きいほどレジスタンスに対するリアクタンスの割合は小さくなり、皮下脂肪厚が小さいほどレジスタンスに対するリアクタンスの割合は大きくなる。この関係を利用して、皮下脂肪厚測定部は、リアクタンスとレジスタンスとの比を求め、その求めた比の値に対応する皮下脂肪厚を決定する。これにより、皮下脂肪厚を精度良く測定できるという利点がある。
【0008】
また、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、当該インピーダンスと位相差とから求められるリアクタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求めることもできる。
【0009】
さらに、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、当該インピーダンスと位相差とから求められるレジスタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求めることもできる。
【0010】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極は、第1の電圧測定用電極と第2の電圧測定用電極との間に挟まれるようにして配置される。この態様によれば、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間に第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極が挟まれる態様と比べて、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さくできる。一般的に、人体における脂肪の付き方にはバラツキがあり、部位によって脂肪の付着量が異なる(すなわち皮下脂肪厚が異なる)ため、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離が大きいと、測定誤差を生じ易い。本発明の態様によれば、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さくできるから、ピンポイントで皮下脂肪厚を測定することができる。これにより、測定精度を向上させることができるという利点がある。
【0011】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極は、第1方向に沿って配列され、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の第1方向における距離は、第1の電圧測定用電極における第1方向の幅と、第2の電圧測定用電極における第1方向の幅との和よりも小さい。この態様によれば、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極を、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間に配置することはできず、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さい値に設定できる。
【0012】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、被測定者の肥満に関する情報(例えば、体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)を測定する肥満情報測定部と、脂肪厚測定部にて測定された被測定者の皮下脂肪厚と、肥満情報測定部にて測定された被測定者の肥満に関する情報と、に基いて、被測定者の体組成に関する指標(例えば内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を求める体組成指標測定部と、をさらに備える態様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の外観を示す図である。
【図2】同実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】人体の組織の概略図である。
【図5】人体の組織の等価回路を示す図である。
【図6】交流電流が人体を流れるときの様子を示す模式図である。
【図7】筋肉層および脂肪層の等価回路を示す図である。
【図8】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪厚と、超音波で測定された脂肪厚との関係を示す相関図である。
【図9】本実施形態の方法で推定された内蔵脂肪面積と、CTスキャン法で測定された内蔵脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図10】本実施形態の方法で推定された内臓脂肪量と、CTスキャン法で測定された内臓脂肪量との関係を示す相関図である。
【図11】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪面積と、CTスキャン法で測定された皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図12】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪量と、CTスキャン法で測定された皮下脂肪量との関係を示す相関図である。
【図13】本発明の変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の外観を示す図である。
【図14】同変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図15】同変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図16】インピーダンスとリアクタンスとレジスタンスと位相差との関係を示す図である。
【図17】位相差と、皮下脂肪厚との関係を示す図である。
【図18】周波数が異なる2つのインピーダンスの比と、リアクタンスとレジスタンスとの比との間の関係を示す図である。
【図19】周波数が異なる2つのインピーダンスの比と、皮下脂肪厚との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:構成>
図1は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の外観を示す図である。本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100は、被測定者の皮下脂肪厚を測定する機能だけでなく、公知の方法により被測定者の体重、体脂肪率および体脂肪量などの肥満に関する情報を測定する機能も備えている。図1に示すように、皮下脂肪厚測定装置100は、把持ユニット10と載台ユニット20とを備える。把持ユニット10は、ケーブル200を介して載台ユニット20と接続されており、その先端の面には、人体に接触させて皮下脂肪厚の測定を行うための第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が配置されている。
【0015】
第1測定電極12は、第1の電流印加用電極12a、第2の電流印加用電極12b、第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dを含む。第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置される。また、第1の電圧測定用電極12cは、第1の電流印加用電極12aに隣り合うように配置され、第2の電圧測定用電極12dは第2の電流印加用電極12bに隣り合うように配置される。より具体的には、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)は、把持ユニット10の先端の面においてY方向に沿って配列され、第1の電圧測定用電極12cは、第1の電流印加用電極12aから見てY方向の負側に隣り合うように配置され、第2の電圧測定用電極12dは第2の電流印加用電極12bから見てY方向の正側に隣り合うように配置される。
【0016】
第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間のY方向における距離Lは、第1の電圧測定用電極12cにおけるY方向の幅Wと、第2の電圧測定用電極12dにおけるY方向の幅Wとの和よりも小さくなるように値に設定されている。本実施形態では、各測定電極の寸法は同じ値に設定されており、第1の電圧測定用電極12cにおけるY方向の幅Wと、第2の電圧測定用電極12dにおけるY方向の幅Wとは同じ値である(つまりL<2W)。また、本実施形態では、各測定電極間のY方向の距離は等しくなるように設定されており、その値は、ひとつの測定電極におけるY方向の幅Wの値に等しい(つまりL=W)。ここでは、ひとつの測定電極におけるY方向の幅Wの値は5mmに設定されている。
【0017】
載台ユニット20は、外観上に、表示部22と、入力部(26a,26b,26c,26d)と、第2測定電極23(23a,23b,23c,23d)とを備える。第2測定電極23は、被測定者の足に接触させて被測定者の体脂肪率の測定を行うための電極である。第2測定電極23は、第3の電流印加用電極23a、第4の電流印加用電極23b、第3の電圧測定用電極23cおよび第4の電圧測定用電極23dを含む。第3の電流印加用電極23aと第4の電流印加用電極23bとは、互いにX方向に離れた位置に配置される。より具体的には、第3の電流印加用電極23aは被測定者の左足が載せられる位置に対応して配置され、第4の電流印加用電極23bは被測定者の右足が載せられる位置に対応して配置される。また、第3の電圧測定用電極23cは、第3の電流印加用電極23aから見てY方向の正側に隣り合うように配置され、被測定者の左足が載せられる位置に対応して配置される。第4の電圧測定用電極23dは、第4の電流印加用電極23bから見てY方向の正側に隣り合うように配置され、被測定者の右足が載せられる位置に対応して配置される。
【0018】
入力部(26a,26b,26c,26d)は、設定キー26aと、アップキー26bと、ダウンキー26cと、スタートキー26dとを含む。ここで、アップキー26bおよびダウンキー26cは、情報の選択や数値の切り替えを行い、設定キー26aは、選択した情報や切り替えた数値の設定をする。スタートキー26dは、一連の測定のために載台ユニット20に対して電力供給を開始させるための手段である。なお、載台ユニット20の詳細な構成については後述する。
【0019】
図2は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の詳細な構成を示すブロック図である。図2に示すように、載台ユニット20は、前述の表示部22、第2測定電極23および入力部26の他、第1電流発生部28と、第1電圧測定部30と、第2電流発生部32と、第2電圧測定部34と、重量測定部36と、電源部38と、メモリ42と、制御部44とを備える。
【0020】
第1電流発生部28は、把持ユニット10における第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に流れる交流電流を出力する手段である。本実施形態では、第1電流発生部28から出力される交流電流の周波数は50kHZに設定される(後述の第2電流発生部32から出力される交流電流も同様)。第1電圧測定部30は、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間の電圧を測定する手段である。第2電流発生部32は、第3の電流印加用電極23aと第4の電流印加用電極23bとの間に流れる交流電流を出力する手段である。第2電圧測定部34は、第3の電圧測定用電極23cと第4の電圧測定用電極23dとの間の電圧を測定する手段である。重量測定部36は、載台ユニット20に乗った被測定者の重量を測定して重量データを出力する手段である。電源部38は、載台ユニット20の電気系統各部に電力を供給する手段である。メモリ42は、被測定者の体脂肪率、体脂肪量、皮下脂肪厚、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量などを演算するための各種の演算式、入力部26によって入力される身体特定情報(性別、身長、年齢など)や結果情報などを記憶する手段である。制御部44は、各種の制御処理を実行する手段である。
【0021】
<B:皮下脂肪厚測定装置の動作>
次に、皮下脂肪厚測定装置100の動作について説明する。本実施形態では、被測定者は、把持ユニット10を持って載台ユニット20の第2測定電極23に素足で乗った後、自身の体のうち皮下脂肪厚を測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てる。そして、各種の測定結果(皮下脂肪厚等)が表示部22に表示される。以下、図3を参照しながら、その具体的な内容について説明する。図3は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の具体的な動作を示すフローチャートである。
【0022】
先ず、被測定者によってスタートキー26dがオンされると(ステップS1)、電源部38からの電源供給が開始され、皮下脂肪厚測定装置100は測定モードになる。なお、スタートキー26dがオンされていない状態で(電源オフのとき)、設定キー26aがオンされると設定モードになり、身体特定情報の設定が可能になる。このとき、表示部22に表示された性別、身長、年齢の何れかの位置にカーソルが出現し、被測定者が、アップキー26b、ダウンキー26c、設定キー26aを操作することにより、これらの情報や数値の切り替えや設定を行うことができる。このようにして設定された身体特定情報はメモリ42に保存される。過去に身体特定情報の設定を行っていない場合は新規登録となり、過去に身体特定情報の設定を行っている場合は更新登録となる。
【0023】
次に、被測定者が載台ユニット20に乗ると、制御部44は、被測定者の体重を測定する(ステップS2)。
【0024】
より具体的には以下のとおりである。被測定者が載台ユニット20に乗ると、重量測定部36は被測定者の重量に応じた重量データを出力する。制御部44は、重量測定部36から出力された重量データから被測定者の体重を求め、その値をメモリ42に保存する。
【0025】
続いて、制御部44は、被測定者の体脂肪率および体脂肪量を測定する(ステップS3)。より具体的には以下のとおりである。いま、被測定者の左足の裏は第3の電流印加用電極23aおよび第3の電圧測定用電極23cに接触している。また、右足の裏は第4の電流印加用電極23bおよび第4の電圧測定用電極23dに接触している。これにより、第3の電流印加用電極23aおよび第4の電流印加用電極23bのうちの何れか一方の電極から被測定者を介して他方の電極へ至る電流経路が形成される。そして、当該電流経路には、第2電流発生部32から出力される交流電流が流れる。このとき、制御部44は、当該電流経路を流れる電流の値と、第2電圧測定部34によって測定される電圧の値とから被測定者の両脚間のインピーダンスを求め、その結果をメモリ42に保存する。
【0026】
そして、制御部44は、被測定者の体重、両脚間のインピーダンス、性別、身長および年齢を、メモリ42に保存されている体脂肪率の演算式に代入することで、体脂肪率を求める。体脂肪率の演算式は、以下の式(1)で表される。
fp=α×Zle50+β×体重+γ×身長+δ×年齢+ε×性別+ζ ・・・(1)
上記式(1)において、fpは体脂肪率、Zle50は両脚間のインピーダンス、α〜ζは定数である。
【0027】
また、制御部44は、上記式(1)から求めた体脂肪率fpと被測定者の体重とを、メモリ42に保存されている体脂肪量の演算式に代入することで、体脂肪量を求める。体脂肪量の演算式は、以下の式(2)で表される。
fa=fp×体重 ・・・(2)
上記式(2)において、faは体脂肪量である。
以上のように、制御部44は、重量測定部36から出力された重量データに基づいて被測定者の体重を求める。また、制御部44は、そのようにして求めた体重と、第2測定電極23と第2電流発生部32と第2電圧測定部34とを用いて測定したインピーダンスと、に基づいて、体脂肪率fpおよび体脂肪量faを求める。すなわち、制御部44、重量測定部36、第2測定電極23、第2電流発生部32および第2電圧測定部34は、被測定者の肥満に関する情報(例えば体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)を測定する肥満情報測定部として機能する。
【0028】
次に、被測定者が、自身の体のうち皮下脂肪厚を測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てると、制御部44は、被測定者の体のうち第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が接触する部位における皮下脂肪厚を測定する(ステップS4)。より具体的には、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が被測定者に接触すると、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から被測定者を介して他方の電極へ至る電流経路が形成される。そして、当該電流経路には、第1電流発生部28から出力される交流電流が流れる。制御部44は、当該電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定される電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚を求める。
【0029】
ここで、第1電流発生部28から出力される交流電流が被測定者の筋肉層を流れるときに生じる位相差と、脂肪層を流れるときに生じる位相差との違いについて詳細に説明する。図4に示すように、人体の組織(筋肉組織および脂肪組織)は、各々が細胞内液50を含有する複数の細胞膜52と、各細胞膜52間に介在する細胞外液54とを有する。細胞膜52の容量成分をCm、細胞内液50の抵抗成分をRi、細胞外液54の抵抗成分をReとすると、筋肉組織および脂肪組織は、図5に示す等価回路で表すことができる。
【0030】
脂肪組織においては、細胞膜52内に細胞内液50が殆ど含有されていないため、細胞内液50の抵抗Riの値は、細胞外液54の抵抗Reの値に比べて非常に大きい値となる(Re<<Ri)。このため、第1電流発生部28から出力される交流電流が脂肪組織を流れると、その電流の大部分は細胞外液の抵抗成分Reを流れるから、当該電流と第1電圧測定部30にて測定される電圧との位相差は殆ど生じない。一方、筋肉組織においては、細胞膜52内に細胞内液50が含有されているから、第1電流発生部28から出力される交流電流が筋肉組織を流れると、その電流は細胞外液の抵抗成分Reだけでなく、細胞膜52の容量成分Cmおよび細胞内液50の抵抗成分Riを流れる。したがって、第1電流発生部28から出力される交流電流と第1電圧測定部30にて測定される電圧との間には位相差が生じる。
【0031】
すなわち、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚が大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなる一方、皮下脂肪厚が小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる傾向を示す。本実施形態では、このことを利用して皮下脂肪厚を測定する。
【0032】
より具体的には、以下のとおりである。制御部44は、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が人体に接触したときに、第1電流発生部28から出力される電流と、第1電圧測定部30にて測定される電圧とから、両者の位相差を求めるとともに、インピーダンスを算出する。さらに、制御部44は、位相差とインピーダンスとから、インピーダンスの実数部分であるレジスタンスRと、インピーダンスの虚数部分であるリアクタンスXとを求めたうえで、リアクタンスXとレジスタンスRとの比であるR/Xを求める。位相差が小さいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は小さくなる一方、位相差が大きいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる。そして、制御部44は、求めたR/Xの値に対応する皮下脂肪厚を決定する。
【0033】
ここで、上述のR/Xと、皮下脂肪厚との関係について説明する。図6は、第1測定電極12が被測定者に接触したときに、第1電流発生部28から出力される交流電流が被測定者の脂肪層および筋肉層を流れるときの様子を模式的に示した図である。図6に示す斜線部分は交流電流の電流経路を示す。また、図6に示すLfは、脂肪層の厚み(皮下脂肪厚)である。図7は、このときの脂肪層および筋肉層の等価回路を示す図である。図7に示すRfは、脂肪層の抵抗成分である。前述したように、脂肪層においては容量成分を殆ど無視することができる。また、Zmは筋肉層に相当する部分を示し、Rjは筋肉層の細胞外液54の抵抗成分を示し、Rkは筋肉層の細胞内液50の抵抗成分を示し、Clは筋肉層の細胞膜52の容量成分を示す。このとき、被測定者の体のうち測定電極が接触する部位におけるリアクタンスXとレジスタンスRとの比であるR/Xは、以下の式(3)で表される。
R/X=-ωClRk-{(ωClRk)2+1}/(ωClRj)-{(ωClRk)2+1}/(ωClRf) ・・・(3)
また、脂肪層の抵抗成分Rfは皮下脂肪厚Lfに反比例するため、両者の関係は以下の式(4)で表される。
Rf=k/Lf ・・・(4)
上記式(4)においてkは定数である。
【0034】
上述の式(3)および式(4)から、皮下脂肪厚Lfは以下の式(5)で表される。
Lf=-ωClk/{(ωClRk)2+1}×[(ωClRk)+{(ωClRk)2+1}/(ωClRj)+R/X]
=-a-b×R/X ・・・(5)
上記式(5)においてaおよびbは定数である。上記式(5)からも理解されるように、皮下脂肪厚LfとR/Xとは比例関係にある。つまり、皮下脂肪厚Lfが大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなるから、レジスタンスRに対するリアクタンスXの割合が小さくなり(R/Xの値は大きくなる)、皮下脂肪厚Lfが小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差が大きくなるから、レジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる(R/Xの値は小さくなる)ことが分かる。
【0035】
本実施形態では、上記式(5)は予めメモリ42に保存されている。そして、制御部44は、先に求めたR/Xの値を、メモリ42に保存されている皮下脂肪厚の演算式(上述の式(5))に代入することで、皮下脂肪厚Lfの値を決定する。
【0036】
図8は、上記式(5)を用いた皮下脂肪厚の演算値と、超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値との関係を示す相関図である。図8に示すように、上記式(5)を用いた皮下脂肪厚の演算値と超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値とは相関係数r=0.973という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEE(standard error estimation)は1.44mmとなり、上記式(5)を用いた演算値が誤差1.44mmの範囲に収まることから、超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(5)を用いた推定方法によれば、R/Xの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0037】
次に、制御部44は、被測定者の体組成に関する指標の演算を実行する(図3のステップS5)。本実施形態では、「体組成に関する指標」として、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量が該当する。以下、その具体的な内容について説明する。
【0038】
制御部44は、先に求めた被測定者の皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの各々を、メモリ42に保存されている内臓脂肪面積の演算式に代入することで、内臓脂肪面積を求める。内臓脂肪面積の演算式は、以下の式(6)で表される。
内臓脂肪面積=−c+(d×fa)+(e×Lf) ・・・(6)
上記式(6)において、c〜eは定数である。
【0039】
図9は、上記式(6)を用いた内臓脂肪面積の演算値と、一般的に測定精度が高いとされるCT(Computed Tomography)スキャン法により測定された内臓脂肪面積の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図9に示すように、上記式(6)を用いた内蔵脂肪面積の演算値とCTスキャン法で測定された内臓脂肪面積とは相関係数r=0.907という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは24.1cm2となり、上記式(6)を用いた演算値が誤差24.1cm2の範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された内臓脂肪面積との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(6)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0040】
また、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、メモリ42に保存された被測定者の身長の各々を、メモリ42に保存されている内蔵脂肪量の演算式に代入することで、内臓脂肪量を求める。内臓脂肪量の演算式は、以下の式(7)で表される。
内臓脂肪量=f+(g×fa)+(h×身長)-(i×Lf) ・・・(7)
上記式(7)において、f〜iは定数である。
【0041】
図10は、上記式(7)を用いた内臓脂肪量の演算値と、CTスキャン法により測定された内臓脂肪量の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図10に示すように、上記式(7)を用いた内臓脂肪量の演算値とCTスキャン法で測定された内臓脂肪量とは相関係数r=0.852という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは365.1gとなり、上記式(7)を用いた演算値が誤差365.1gの範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された内臓脂肪量との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(7)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、身長の値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0042】
また、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの各々を、メモリ42に保存されている皮下脂肪面積の演算式に代入することで、皮下脂肪面積を求める。皮下脂肪面積の演算式は、以下の式(8)で表される。
皮下脂肪面積=j+(k×fa)+(l×Lf) ・・・(8)
上記式(7)において、j〜lは定数である。
【0043】
図11は、上記式(8)を用いた皮下脂肪面積の演算値と、CTスキャン法により測定された皮下脂肪面積の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図11に示すように、上記式(8)を用いた皮下脂肪面積の演算値とCTスキャン法で測定された皮下脂肪面積とは相関係数r=0.955という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは18.0cm2となり、上記式(8)を用いた演算値が誤差18.0cm2の範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された皮下脂肪面積との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(8)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量faの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0044】
さらに、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lf、体脂肪量faおよび身長の各々を、メモリ42に保存されている皮下脂肪量の演算式に代入することで、皮下脂肪量を求める。皮下脂肪量の演算式は、以下の式(9)で表される。
皮下脂肪量=m+(n×fa)+(o×身長)+(p×Lf) ・・・(9)
上記式(9)において、m〜pは定数である。
【0045】
図12は、上記式(9)を用いた皮下脂肪量の演算値と、CTスキャン法により測定された皮下脂肪量の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図12に示すように、上記式(9)を用いた皮下脂肪量の演算値とCTスキャン法で測定された皮下脂肪量とは相関係数r=0.957という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは221.34gとなり、上記式(9)を用いた演算値が誤差221.34gの範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された皮下脂肪量との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(9)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、身長の値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
このように、制御部44は、被測定者の肥満に関する情報(例えば体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)と、被測定者の皮下脂肪厚Lfとに基づいて、被測定者の体組成に関する指標(例えば内蔵脂肪面積、内蔵脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を求める体組成指標測定部として機能する。
【0046】
図3のステップS5の処理が終了すると、制御部44は、前述のようにして求めた各種結果(体脂肪率fp、体脂肪量fa、皮下脂肪厚Lf、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を表示部22に表示させるように制御する(図3のステップS6)。これにより、一連の動作が終了する。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態においては、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が人体に接触したときに、脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定された電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚Lfを求めている。
【0048】
さらに詳述すると、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚Lfが大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなり、皮下脂肪厚Lfが小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる。そうすると、皮下脂肪厚Lfが大きいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は小さくなり、皮下脂肪厚Lfが小さいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる。この関係を利用して、本実施形態では、リアクタンスXとレジスタンスRとの比(R/X)を求め、その求めた比の値を上記式(5)に代入することで、対応する皮下脂肪厚Lfを決定している。この態様によれば、皮下脂肪厚Lfを精度良く測定できるという利点がある。
【0049】
また、本実施形態においては、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置されるから、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dが挟まれる態様(以下、「対比例」という)に比べて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12dとの間の距離Lを小さくできる。一般的に、人体における脂肪の付き方にはバラツキがあり、部位によって脂肪の付着量が異なる(すなわち皮下脂肪厚Lfが異なる)ため、人体に接触させて測定を行うための第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間の距離Lが大きいと、測定誤差が生じ易い。本実施形態によれば、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12dとの間の距離Lを対比例に比べて小さくできるから、ピンポイントで皮下脂肪厚Lfを測定することができる。このため、対比例に比べて皮下脂肪厚Lfの測定精度が向上するという利点がある。
【0050】
<C:変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。また、以下に示す変形例のうちの2以上の変形例を組み合わせることもできる。
【0051】
(1)変形例1
上述の実施形態では、皮下脂肪厚測定装置100は、被測定者の皮下脂肪厚Lfを測定する機能に加えて、被測定者の体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量faなどの肥満に関する情報を測定する機能や、これらの測定結果を利用することで、被測定者の体組成に関する指標(内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を測定する機能を備えている。しかしながら、本発明に係る皮下脂肪厚測定装置100の形態は、上述の実施形態には限定されず、例えば皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備えるという態様とすることもできる。
【0052】
図13は、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の外観を示す図であり、図14は、当該皮下脂肪厚測定装置100の詳細な構成を示すブロック図である。図13および図14において、把持ユニット10の構成は上述の実施形態と同じである。載台ユニット20は、表示部22と、スタートキー26dと、第1電流発生部28と、第1電圧測定部30と、電源部38と、メモリ42と、制御部44とを有するが、第2測定電極23(23a,23b,23c,23d)や重量測定部36などの被測定者の体脂肪率や体重などを求めるのに必要な手段は有していない。また、同様にして、制御部44も、被測定者の体脂肪率や体重などを求めるのに必要な機能は有していない。なお、把持ユニット10が載台ユニット20の構成を備えることにより、両者が一体化されるという構成を採用することもできる。
【0053】
図15は、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の動作を示すフローチャートである。図15を参照しながら、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の動作について簡単に説明する。先ず、被測定者によってスタートキー26dがオンされると、電源部38からの電源供給が開始され、皮下脂肪厚測定装置100は動作可能な状態となる。そして、被測定者が、自身の体のうち皮下脂肪厚Lfを測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てると、制御部44は、上述の実施形態と同じ方法で、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚Lfを測定する(ステップS1)。ステップS2の処理が終了すると、制御部44は、ステップS2で求めた皮下脂肪厚Lfを表示部22に表示させるように制御する(ステップS2)。これにより、一連の動作が終了するという具合である。
【0054】
(2)変形例2
上述の実施形態では、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置されるという態様が例示されているが、これに限らず、例えば第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dが、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に挟まれるという態様とすることもできる。
【0055】
(3)変形例3
上述の実施形態では、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間のY方向における距離Lは5mmに設定されているが、これに限らず、当該距離Lは2mm〜20mmの範囲内で任意に設定可能である。要するに、当該距離Lは、皮下脂肪厚Lfを精度良く測定することができる値であればよい。
また、第1の電流印加用電極12aと第1の電圧測定用電極12cとの間のY方向における距離、および、第2の電流印加用電極12bと第2の電圧測定用電極12dとの間のY方向における距離の各々も5mmに設定されているが、これに限らず、当該距離は2mm〜30mmの範囲内で任意に設定可能である。要するに、電流印加用電極と電圧測定用電極との間のY方向における距離は、人体のうち測定電極と接触する部位におけるインピーダンスを精度良く測定することができる値であればよい。
【0056】
(4)変形例4
上述の実施形態では、リアクタンスXおよびレジスタンスRに基づいて、皮下脂肪厚Lfを求める態様が例示されているが、これに限定されるものではない。図16は、インピーダンスとリアクタンスXとレジスタンスRと位相差との関係を示す図である。図16では、インピーダンスをZ、位相差をphaseと表記している。
図16からも理解されるように、R=(Z2−X2)1/2と表すことができるので、上記式(5)におけるR/Xは、{(Z/X)2−1}1/2と変形できる。つまり、Z/Xの値に応じて皮下脂肪厚保Lfを決定することもできる。
また、図16からも理解されるように、X=(Z2−R2)1/2と表すことができるので、上記式(5)におけるR/Xは、1/{(Z/R)2−1}1/2と変形できる。つまり、Z/Rの値に応じて皮下脂肪厚保Lfを決定してもよい。
要するに、インピーダンスZとリアクタンスXとに基づいて皮下脂肪厚Lfを求めることもできるし、インピーダンスZとレジスタンスRとに基づいて皮下脂肪厚Lfを求めることもできる。
【0057】
また、位相差phase=arctan(R/X)と表すことができる。人体を計測する場合、インピーダンスZの値とレジスタンスRとの値はほぼ等しくなるので、位相差phase≒arctan(Z/X)と表すこともできる。図17は、位相差phaseと、皮下脂肪厚Lfとの関係を示す図であり、位相差phaseのみに基づいて、皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。
【0058】
さらに、周波数が異なる2つのインピーダンスZの値を用いて皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。生体インピーダンス計測において周波数を変化させると、インピーダンスZの値の軌跡は、公知のCole-Coleプロットを描く。つまり、周波数が異なる2つのインピーダンスZ値を求めれば、Cole-Coleプロットの円の大きさを推定することができる。ここで、周波数が変化すると、インピーダンスZ、リアクタンスX、レジスタンスRおよび位相差phaseの各値は変化するが、R/Xは一定である。
【0059】
図18は、周波数が異なる2つのインピーダンスZの比と、R/Xとの間の関係を示す図である。図18では、一例として、250kHZの周波数を用いて得られたインピーダンスZ250と50KHZの周波数を用いて得られたインピーダンスZ50との比(Z250/Z50)と、R/Xとの関係が示されている。また、図19は、周波数が異なる2つのインピーダンスZの比(ここではZ250/Z50)と、皮下脂肪厚Lfとの間の関係を示す図である。図18および図19からも理解されるように、周波数が異なる2つのインピーダンスZの値に基づいて、皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。
【0060】
(5)変形例5
上述の実施形態では、皮下脂肪厚測定装置100は、体組成に関する指標として、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積および皮下脂肪量を測定しているが、これに限らず、例えば皮下脂肪厚測定装置100は、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積および皮下脂肪量のうちの少なくとも1つを測定するものであればよい。この態様では、被測定者が所望の指標を指定することもできるし、予め定められた少なくとも1つの指標が測定されてもよい。
【0061】
(6)変形例6
上述の実施形態では、被測定者本人が皮下脂肪厚測定装置100を用いているが、これに限らず、被測定者以外のユーザー(例えば介護者)が被測定者の皮下脂肪厚Lfを測定してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10……把持ユニット、12a……第1の電流印加用電極、12b……第2の電流印加用電極、12c……第1の電圧測定用電極、12d……第2の電圧測定用電極、20……載台ユニット、22……表示部、23a……第3の電流印加用電極、23b……第4の電流印加用電極、23c……第3の電圧測定用電極、23d……第4の電圧測定用電極、26……入力部、28……第1電流発生部、30……第1電圧測定部、32……第2電流発生部、34……第2電圧測定部、36……重量測定部、38……電源部、42……メモリ、44……制御部、100……皮下脂肪厚測定装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮下脂肪の厚みを測定するための皮下脂肪厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手や足に測定電極を接触させて測定されるインピーダンスに基づいて、人体の皮下脂肪厚を測定するという技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−178697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、インピーダンスのみに基づいて皮下脂肪厚を測定するという技術では、脂肪の情報だけを捉えることはできず、脂肪の下に存在する筋肉の状態によって測定値が変動するため、皮下脂肪厚を正確に測定することは困難であるという問題があった。
以上の事情に鑑みて、本発明は、皮下脂肪厚を精度良く測定するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る皮下脂肪厚測定装置は、各々が、人体に接触させて測定を行うための測定電極(図1に示す第1測定電極12)である第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極と、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間を流れる交流電流を出力する電流発生部(図2に示す第1電流発生部28)と、第1の電流印加用電極に隣り合うように配置される第1の電圧測定用電極と、第2の電流印加用電極に隣り合うように配置される第2の電圧測定用電極との間の電圧を測定する電圧測定部(図2に示す第1電圧測定部30)と、測定電極が人体に接触したときに、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間における皮下脂肪厚を求める皮下脂肪厚測定部(図2に示す制御部44)とを備える。
【0006】
この態様においては、脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、測定電極が人体に接触したときに、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、人体のうち測定電極が接触した部位における皮下脂肪厚を求めている。より具体的には、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定された電圧とから算出されるインピーダンスと、位相差と、から求められるリアクタンス(インピーダンスの虚数部)およびレジスタンス(インピーダンスの実数部)に基づいて、皮下脂肪厚を求める。
【0007】
さらに詳述すると、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚が大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなる一方、皮下脂肪厚が小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる。そうすると、皮下脂肪厚が大きいほどレジスタンスに対するリアクタンスの割合は小さくなり、皮下脂肪厚が小さいほどレジスタンスに対するリアクタンスの割合は大きくなる。この関係を利用して、皮下脂肪厚測定部は、リアクタンスとレジスタンスとの比を求め、その求めた比の値に対応する皮下脂肪厚を決定する。これにより、皮下脂肪厚を精度良く測定できるという利点がある。
【0008】
また、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、当該インピーダンスと位相差とから求められるリアクタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求めることもできる。
【0009】
さらに、皮下脂肪厚測定部は、電流経路を流れる電流と電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、当該インピーダンスと位相差とから求められるレジスタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求めることもできる。
【0010】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、第1の電流印加用電極および第2の電流印加用電極は、第1の電圧測定用電極と第2の電圧測定用電極との間に挟まれるようにして配置される。この態様によれば、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間に第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極が挟まれる態様と比べて、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さくできる。一般的に、人体における脂肪の付き方にはバラツキがあり、部位によって脂肪の付着量が異なる(すなわち皮下脂肪厚が異なる)ため、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離が大きいと、測定誤差を生じ易い。本発明の態様によれば、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さくできるから、ピンポイントで皮下脂肪厚を測定することができる。これにより、測定精度を向上させることができるという利点がある。
【0011】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極は、第1方向に沿って配列され、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の第1方向における距離は、第1の電圧測定用電極における第1方向の幅と、第2の電圧測定用電極における第1方向の幅との和よりも小さい。この態様によれば、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極を、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間に配置することはできず、第1の電流印加用電極と第2の電流印加用電極との間の距離を小さい値に設定できる。
【0012】
本発明に係る皮下脂肪厚測定装置の好適な態様として、被測定者の肥満に関する情報(例えば、体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)を測定する肥満情報測定部と、脂肪厚測定部にて測定された被測定者の皮下脂肪厚と、肥満情報測定部にて測定された被測定者の肥満に関する情報と、に基いて、被測定者の体組成に関する指標(例えば内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を求める体組成指標測定部と、をさらに備える態様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の外観を示す図である。
【図2】同実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】人体の組織の概略図である。
【図5】人体の組織の等価回路を示す図である。
【図6】交流電流が人体を流れるときの様子を示す模式図である。
【図7】筋肉層および脂肪層の等価回路を示す図である。
【図8】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪厚と、超音波で測定された脂肪厚との関係を示す相関図である。
【図9】本実施形態の方法で推定された内蔵脂肪面積と、CTスキャン法で測定された内蔵脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図10】本実施形態の方法で推定された内臓脂肪量と、CTスキャン法で測定された内臓脂肪量との関係を示す相関図である。
【図11】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪面積と、CTスキャン法で測定された皮下脂肪面積との関係を示す相関図である。
【図12】本実施形態の方法で推定された皮下脂肪量と、CTスキャン法で測定された皮下脂肪量との関係を示す相関図である。
【図13】本発明の変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の外観を示す図である。
【図14】同変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図15】同変形例に係る皮下脂肪厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図16】インピーダンスとリアクタンスとレジスタンスと位相差との関係を示す図である。
【図17】位相差と、皮下脂肪厚との関係を示す図である。
【図18】周波数が異なる2つのインピーダンスの比と、リアクタンスとレジスタンスとの比との間の関係を示す図である。
【図19】周波数が異なる2つのインピーダンスの比と、皮下脂肪厚との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:構成>
図1は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の外観を示す図である。本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100は、被測定者の皮下脂肪厚を測定する機能だけでなく、公知の方法により被測定者の体重、体脂肪率および体脂肪量などの肥満に関する情報を測定する機能も備えている。図1に示すように、皮下脂肪厚測定装置100は、把持ユニット10と載台ユニット20とを備える。把持ユニット10は、ケーブル200を介して載台ユニット20と接続されており、その先端の面には、人体に接触させて皮下脂肪厚の測定を行うための第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が配置されている。
【0015】
第1測定電極12は、第1の電流印加用電極12a、第2の電流印加用電極12b、第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dを含む。第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置される。また、第1の電圧測定用電極12cは、第1の電流印加用電極12aに隣り合うように配置され、第2の電圧測定用電極12dは第2の電流印加用電極12bに隣り合うように配置される。より具体的には、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)は、把持ユニット10の先端の面においてY方向に沿って配列され、第1の電圧測定用電極12cは、第1の電流印加用電極12aから見てY方向の負側に隣り合うように配置され、第2の電圧測定用電極12dは第2の電流印加用電極12bから見てY方向の正側に隣り合うように配置される。
【0016】
第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間のY方向における距離Lは、第1の電圧測定用電極12cにおけるY方向の幅Wと、第2の電圧測定用電極12dにおけるY方向の幅Wとの和よりも小さくなるように値に設定されている。本実施形態では、各測定電極の寸法は同じ値に設定されており、第1の電圧測定用電極12cにおけるY方向の幅Wと、第2の電圧測定用電極12dにおけるY方向の幅Wとは同じ値である(つまりL<2W)。また、本実施形態では、各測定電極間のY方向の距離は等しくなるように設定されており、その値は、ひとつの測定電極におけるY方向の幅Wの値に等しい(つまりL=W)。ここでは、ひとつの測定電極におけるY方向の幅Wの値は5mmに設定されている。
【0017】
載台ユニット20は、外観上に、表示部22と、入力部(26a,26b,26c,26d)と、第2測定電極23(23a,23b,23c,23d)とを備える。第2測定電極23は、被測定者の足に接触させて被測定者の体脂肪率の測定を行うための電極である。第2測定電極23は、第3の電流印加用電極23a、第4の電流印加用電極23b、第3の電圧測定用電極23cおよび第4の電圧測定用電極23dを含む。第3の電流印加用電極23aと第4の電流印加用電極23bとは、互いにX方向に離れた位置に配置される。より具体的には、第3の電流印加用電極23aは被測定者の左足が載せられる位置に対応して配置され、第4の電流印加用電極23bは被測定者の右足が載せられる位置に対応して配置される。また、第3の電圧測定用電極23cは、第3の電流印加用電極23aから見てY方向の正側に隣り合うように配置され、被測定者の左足が載せられる位置に対応して配置される。第4の電圧測定用電極23dは、第4の電流印加用電極23bから見てY方向の正側に隣り合うように配置され、被測定者の右足が載せられる位置に対応して配置される。
【0018】
入力部(26a,26b,26c,26d)は、設定キー26aと、アップキー26bと、ダウンキー26cと、スタートキー26dとを含む。ここで、アップキー26bおよびダウンキー26cは、情報の選択や数値の切り替えを行い、設定キー26aは、選択した情報や切り替えた数値の設定をする。スタートキー26dは、一連の測定のために載台ユニット20に対して電力供給を開始させるための手段である。なお、載台ユニット20の詳細な構成については後述する。
【0019】
図2は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の詳細な構成を示すブロック図である。図2に示すように、載台ユニット20は、前述の表示部22、第2測定電極23および入力部26の他、第1電流発生部28と、第1電圧測定部30と、第2電流発生部32と、第2電圧測定部34と、重量測定部36と、電源部38と、メモリ42と、制御部44とを備える。
【0020】
第1電流発生部28は、把持ユニット10における第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に流れる交流電流を出力する手段である。本実施形態では、第1電流発生部28から出力される交流電流の周波数は50kHZに設定される(後述の第2電流発生部32から出力される交流電流も同様)。第1電圧測定部30は、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間の電圧を測定する手段である。第2電流発生部32は、第3の電流印加用電極23aと第4の電流印加用電極23bとの間に流れる交流電流を出力する手段である。第2電圧測定部34は、第3の電圧測定用電極23cと第4の電圧測定用電極23dとの間の電圧を測定する手段である。重量測定部36は、載台ユニット20に乗った被測定者の重量を測定して重量データを出力する手段である。電源部38は、載台ユニット20の電気系統各部に電力を供給する手段である。メモリ42は、被測定者の体脂肪率、体脂肪量、皮下脂肪厚、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量などを演算するための各種の演算式、入力部26によって入力される身体特定情報(性別、身長、年齢など)や結果情報などを記憶する手段である。制御部44は、各種の制御処理を実行する手段である。
【0021】
<B:皮下脂肪厚測定装置の動作>
次に、皮下脂肪厚測定装置100の動作について説明する。本実施形態では、被測定者は、把持ユニット10を持って載台ユニット20の第2測定電極23に素足で乗った後、自身の体のうち皮下脂肪厚を測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てる。そして、各種の測定結果(皮下脂肪厚等)が表示部22に表示される。以下、図3を参照しながら、その具体的な内容について説明する。図3は、本実施形態に係る皮下脂肪厚測定装置100の具体的な動作を示すフローチャートである。
【0022】
先ず、被測定者によってスタートキー26dがオンされると(ステップS1)、電源部38からの電源供給が開始され、皮下脂肪厚測定装置100は測定モードになる。なお、スタートキー26dがオンされていない状態で(電源オフのとき)、設定キー26aがオンされると設定モードになり、身体特定情報の設定が可能になる。このとき、表示部22に表示された性別、身長、年齢の何れかの位置にカーソルが出現し、被測定者が、アップキー26b、ダウンキー26c、設定キー26aを操作することにより、これらの情報や数値の切り替えや設定を行うことができる。このようにして設定された身体特定情報はメモリ42に保存される。過去に身体特定情報の設定を行っていない場合は新規登録となり、過去に身体特定情報の設定を行っている場合は更新登録となる。
【0023】
次に、被測定者が載台ユニット20に乗ると、制御部44は、被測定者の体重を測定する(ステップS2)。
【0024】
より具体的には以下のとおりである。被測定者が載台ユニット20に乗ると、重量測定部36は被測定者の重量に応じた重量データを出力する。制御部44は、重量測定部36から出力された重量データから被測定者の体重を求め、その値をメモリ42に保存する。
【0025】
続いて、制御部44は、被測定者の体脂肪率および体脂肪量を測定する(ステップS3)。より具体的には以下のとおりである。いま、被測定者の左足の裏は第3の電流印加用電極23aおよび第3の電圧測定用電極23cに接触している。また、右足の裏は第4の電流印加用電極23bおよび第4の電圧測定用電極23dに接触している。これにより、第3の電流印加用電極23aおよび第4の電流印加用電極23bのうちの何れか一方の電極から被測定者を介して他方の電極へ至る電流経路が形成される。そして、当該電流経路には、第2電流発生部32から出力される交流電流が流れる。このとき、制御部44は、当該電流経路を流れる電流の値と、第2電圧測定部34によって測定される電圧の値とから被測定者の両脚間のインピーダンスを求め、その結果をメモリ42に保存する。
【0026】
そして、制御部44は、被測定者の体重、両脚間のインピーダンス、性別、身長および年齢を、メモリ42に保存されている体脂肪率の演算式に代入することで、体脂肪率を求める。体脂肪率の演算式は、以下の式(1)で表される。
fp=α×Zle50+β×体重+γ×身長+δ×年齢+ε×性別+ζ ・・・(1)
上記式(1)において、fpは体脂肪率、Zle50は両脚間のインピーダンス、α〜ζは定数である。
【0027】
また、制御部44は、上記式(1)から求めた体脂肪率fpと被測定者の体重とを、メモリ42に保存されている体脂肪量の演算式に代入することで、体脂肪量を求める。体脂肪量の演算式は、以下の式(2)で表される。
fa=fp×体重 ・・・(2)
上記式(2)において、faは体脂肪量である。
以上のように、制御部44は、重量測定部36から出力された重量データに基づいて被測定者の体重を求める。また、制御部44は、そのようにして求めた体重と、第2測定電極23と第2電流発生部32と第2電圧測定部34とを用いて測定したインピーダンスと、に基づいて、体脂肪率fpおよび体脂肪量faを求める。すなわち、制御部44、重量測定部36、第2測定電極23、第2電流発生部32および第2電圧測定部34は、被測定者の肥満に関する情報(例えば体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)を測定する肥満情報測定部として機能する。
【0028】
次に、被測定者が、自身の体のうち皮下脂肪厚を測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てると、制御部44は、被測定者の体のうち第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が接触する部位における皮下脂肪厚を測定する(ステップS4)。より具体的には、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が被測定者に接触すると、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から被測定者を介して他方の電極へ至る電流経路が形成される。そして、当該電流経路には、第1電流発生部28から出力される交流電流が流れる。制御部44は、当該電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定される電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚を求める。
【0029】
ここで、第1電流発生部28から出力される交流電流が被測定者の筋肉層を流れるときに生じる位相差と、脂肪層を流れるときに生じる位相差との違いについて詳細に説明する。図4に示すように、人体の組織(筋肉組織および脂肪組織)は、各々が細胞内液50を含有する複数の細胞膜52と、各細胞膜52間に介在する細胞外液54とを有する。細胞膜52の容量成分をCm、細胞内液50の抵抗成分をRi、細胞外液54の抵抗成分をReとすると、筋肉組織および脂肪組織は、図5に示す等価回路で表すことができる。
【0030】
脂肪組織においては、細胞膜52内に細胞内液50が殆ど含有されていないため、細胞内液50の抵抗Riの値は、細胞外液54の抵抗Reの値に比べて非常に大きい値となる(Re<<Ri)。このため、第1電流発生部28から出力される交流電流が脂肪組織を流れると、その電流の大部分は細胞外液の抵抗成分Reを流れるから、当該電流と第1電圧測定部30にて測定される電圧との位相差は殆ど生じない。一方、筋肉組織においては、細胞膜52内に細胞内液50が含有されているから、第1電流発生部28から出力される交流電流が筋肉組織を流れると、その電流は細胞外液の抵抗成分Reだけでなく、細胞膜52の容量成分Cmおよび細胞内液50の抵抗成分Riを流れる。したがって、第1電流発生部28から出力される交流電流と第1電圧測定部30にて測定される電圧との間には位相差が生じる。
【0031】
すなわち、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚が大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなる一方、皮下脂肪厚が小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる傾向を示す。本実施形態では、このことを利用して皮下脂肪厚を測定する。
【0032】
より具体的には、以下のとおりである。制御部44は、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が人体に接触したときに、第1電流発生部28から出力される電流と、第1電圧測定部30にて測定される電圧とから、両者の位相差を求めるとともに、インピーダンスを算出する。さらに、制御部44は、位相差とインピーダンスとから、インピーダンスの実数部分であるレジスタンスRと、インピーダンスの虚数部分であるリアクタンスXとを求めたうえで、リアクタンスXとレジスタンスRとの比であるR/Xを求める。位相差が小さいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は小さくなる一方、位相差が大きいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる。そして、制御部44は、求めたR/Xの値に対応する皮下脂肪厚を決定する。
【0033】
ここで、上述のR/Xと、皮下脂肪厚との関係について説明する。図6は、第1測定電極12が被測定者に接触したときに、第1電流発生部28から出力される交流電流が被測定者の脂肪層および筋肉層を流れるときの様子を模式的に示した図である。図6に示す斜線部分は交流電流の電流経路を示す。また、図6に示すLfは、脂肪層の厚み(皮下脂肪厚)である。図7は、このときの脂肪層および筋肉層の等価回路を示す図である。図7に示すRfは、脂肪層の抵抗成分である。前述したように、脂肪層においては容量成分を殆ど無視することができる。また、Zmは筋肉層に相当する部分を示し、Rjは筋肉層の細胞外液54の抵抗成分を示し、Rkは筋肉層の細胞内液50の抵抗成分を示し、Clは筋肉層の細胞膜52の容量成分を示す。このとき、被測定者の体のうち測定電極が接触する部位におけるリアクタンスXとレジスタンスRとの比であるR/Xは、以下の式(3)で表される。
R/X=-ωClRk-{(ωClRk)2+1}/(ωClRj)-{(ωClRk)2+1}/(ωClRf) ・・・(3)
また、脂肪層の抵抗成分Rfは皮下脂肪厚Lfに反比例するため、両者の関係は以下の式(4)で表される。
Rf=k/Lf ・・・(4)
上記式(4)においてkは定数である。
【0034】
上述の式(3)および式(4)から、皮下脂肪厚Lfは以下の式(5)で表される。
Lf=-ωClk/{(ωClRk)2+1}×[(ωClRk)+{(ωClRk)2+1}/(ωClRj)+R/X]
=-a-b×R/X ・・・(5)
上記式(5)においてaおよびbは定数である。上記式(5)からも理解されるように、皮下脂肪厚LfとR/Xとは比例関係にある。つまり、皮下脂肪厚Lfが大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなるから、レジスタンスRに対するリアクタンスXの割合が小さくなり(R/Xの値は大きくなる)、皮下脂肪厚Lfが小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差が大きくなるから、レジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる(R/Xの値は小さくなる)ことが分かる。
【0035】
本実施形態では、上記式(5)は予めメモリ42に保存されている。そして、制御部44は、先に求めたR/Xの値を、メモリ42に保存されている皮下脂肪厚の演算式(上述の式(5))に代入することで、皮下脂肪厚Lfの値を決定する。
【0036】
図8は、上記式(5)を用いた皮下脂肪厚の演算値と、超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値との関係を示す相関図である。図8に示すように、上記式(5)を用いた皮下脂肪厚の演算値と超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値とは相関係数r=0.973という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEE(standard error estimation)は1.44mmとなり、上記式(5)を用いた演算値が誤差1.44mmの範囲に収まることから、超音波で計測した皮下脂肪厚の実測値との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(5)を用いた推定方法によれば、R/Xの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0037】
次に、制御部44は、被測定者の体組成に関する指標の演算を実行する(図3のステップS5)。本実施形態では、「体組成に関する指標」として、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量が該当する。以下、その具体的な内容について説明する。
【0038】
制御部44は、先に求めた被測定者の皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの各々を、メモリ42に保存されている内臓脂肪面積の演算式に代入することで、内臓脂肪面積を求める。内臓脂肪面積の演算式は、以下の式(6)で表される。
内臓脂肪面積=−c+(d×fa)+(e×Lf) ・・・(6)
上記式(6)において、c〜eは定数である。
【0039】
図9は、上記式(6)を用いた内臓脂肪面積の演算値と、一般的に測定精度が高いとされるCT(Computed Tomography)スキャン法により測定された内臓脂肪面積の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図9に示すように、上記式(6)を用いた内蔵脂肪面積の演算値とCTスキャン法で測定された内臓脂肪面積とは相関係数r=0.907という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは24.1cm2となり、上記式(6)を用いた演算値が誤差24.1cm2の範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された内臓脂肪面積との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(6)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0040】
また、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、メモリ42に保存された被測定者の身長の各々を、メモリ42に保存されている内蔵脂肪量の演算式に代入することで、内臓脂肪量を求める。内臓脂肪量の演算式は、以下の式(7)で表される。
内臓脂肪量=f+(g×fa)+(h×身長)-(i×Lf) ・・・(7)
上記式(7)において、f〜iは定数である。
【0041】
図10は、上記式(7)を用いた内臓脂肪量の演算値と、CTスキャン法により測定された内臓脂肪量の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図10に示すように、上記式(7)を用いた内臓脂肪量の演算値とCTスキャン法で測定された内臓脂肪量とは相関係数r=0.852という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは365.1gとなり、上記式(7)を用いた演算値が誤差365.1gの範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された内臓脂肪量との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(7)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、身長の値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0042】
また、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lfおよび体脂肪量faの各々を、メモリ42に保存されている皮下脂肪面積の演算式に代入することで、皮下脂肪面積を求める。皮下脂肪面積の演算式は、以下の式(8)で表される。
皮下脂肪面積=j+(k×fa)+(l×Lf) ・・・(8)
上記式(7)において、j〜lは定数である。
【0043】
図11は、上記式(8)を用いた皮下脂肪面積の演算値と、CTスキャン法により測定された皮下脂肪面積の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図11に示すように、上記式(8)を用いた皮下脂肪面積の演算値とCTスキャン法で測定された皮下脂肪面積とは相関係数r=0.955という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは18.0cm2となり、上記式(8)を用いた演算値が誤差18.0cm2の範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された皮下脂肪面積との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(8)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量faの値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
【0044】
さらに、制御部44は、被測定者の皮下脂肪厚Lf、体脂肪量faおよび身長の各々を、メモリ42に保存されている皮下脂肪量の演算式に代入することで、皮下脂肪量を求める。皮下脂肪量の演算式は、以下の式(9)で表される。
皮下脂肪量=m+(n×fa)+(o×身長)+(p×Lf) ・・・(9)
上記式(9)において、m〜pは定数である。
【0045】
図12は、上記式(9)を用いた皮下脂肪量の演算値と、CTスキャン法により測定された皮下脂肪量の値との関係を示す相関図である。本実施形態では、図12に示すように、上記式(9)を用いた皮下脂肪量の演算値とCTスキャン法で測定された皮下脂肪量とは相関係数r=0.957という高い相関が得られる。また、標準誤差推定SEEは221.34gとなり、上記式(9)を用いた演算値が誤差221.34gの範囲に収まることから、CTスキャン法で測定された皮下脂肪量との相関が高いことが分かる。したがって、上記式(9)を用いた推定方法によれば、皮下脂肪厚Lf、体脂肪量fa、身長の値をパラメータとして用いることにより、精度の高い推定が可能になる。
このように、制御部44は、被測定者の肥満に関する情報(例えば体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量fa)と、被測定者の皮下脂肪厚Lfとに基づいて、被測定者の体組成に関する指標(例えば内蔵脂肪面積、内蔵脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を求める体組成指標測定部として機能する。
【0046】
図3のステップS5の処理が終了すると、制御部44は、前述のようにして求めた各種結果(体脂肪率fp、体脂肪量fa、皮下脂肪厚Lf、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を表示部22に表示させるように制御する(図3のステップS6)。これにより、一連の動作が終了する。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態においては、第1測定電極12(12a,12b,12c,12d)が人体に接触したときに、脂肪層と筋肉層とでは位相差の生じ方に違いがあることに着目し、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bのうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、第1電圧測定部30にて測定された電圧との位相差に基づいて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚Lfを求めている。
【0048】
さらに詳述すると、筋肉層は位相差を生じさせやすいという性質を有する一方、脂肪層は位相差を生じさせにくいという性質を有するから、皮下脂肪厚Lfが大きいほど脂肪層の性質が支配的となって位相差は小さくなり、皮下脂肪厚Lfが小さいほど筋肉層の性質が支配的となって位相差は大きくなる。そうすると、皮下脂肪厚Lfが大きいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は小さくなり、皮下脂肪厚Lfが小さいほどレジスタンスRに対するリアクタンスXの割合は大きくなる。この関係を利用して、本実施形態では、リアクタンスXとレジスタンスRとの比(R/X)を求め、その求めた比の値を上記式(5)に代入することで、対応する皮下脂肪厚Lfを決定している。この態様によれば、皮下脂肪厚Lfを精度良く測定できるという利点がある。
【0049】
また、本実施形態においては、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置されるから、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dが挟まれる態様(以下、「対比例」という)に比べて、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12dとの間の距離Lを小さくできる。一般的に、人体における脂肪の付き方にはバラツキがあり、部位によって脂肪の付着量が異なる(すなわち皮下脂肪厚Lfが異なる)ため、人体に接触させて測定を行うための第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間の距離Lが大きいと、測定誤差が生じ易い。本実施形態によれば、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12dとの間の距離Lを対比例に比べて小さくできるから、ピンポイントで皮下脂肪厚Lfを測定することができる。このため、対比例に比べて皮下脂肪厚Lfの測定精度が向上するという利点がある。
【0050】
<C:変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。また、以下に示す変形例のうちの2以上の変形例を組み合わせることもできる。
【0051】
(1)変形例1
上述の実施形態では、皮下脂肪厚測定装置100は、被測定者の皮下脂肪厚Lfを測定する機能に加えて、被測定者の体重、体脂肪率fpおよび体脂肪量faなどの肥満に関する情報を測定する機能や、これらの測定結果を利用することで、被測定者の体組成に関する指標(内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積、皮下脂肪量)を測定する機能を備えている。しかしながら、本発明に係る皮下脂肪厚測定装置100の形態は、上述の実施形態には限定されず、例えば皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備えるという態様とすることもできる。
【0052】
図13は、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の外観を示す図であり、図14は、当該皮下脂肪厚測定装置100の詳細な構成を示すブロック図である。図13および図14において、把持ユニット10の構成は上述の実施形態と同じである。載台ユニット20は、表示部22と、スタートキー26dと、第1電流発生部28と、第1電圧測定部30と、電源部38と、メモリ42と、制御部44とを有するが、第2測定電極23(23a,23b,23c,23d)や重量測定部36などの被測定者の体脂肪率や体重などを求めるのに必要な手段は有していない。また、同様にして、制御部44も、被測定者の体脂肪率や体重などを求めるのに必要な機能は有していない。なお、把持ユニット10が載台ユニット20の構成を備えることにより、両者が一体化されるという構成を採用することもできる。
【0053】
図15は、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の動作を示すフローチャートである。図15を参照しながら、皮下脂肪厚Lfを測定する機能のみを備える皮下脂肪厚測定装置100の動作について簡単に説明する。先ず、被測定者によってスタートキー26dがオンされると、電源部38からの電源供給が開始され、皮下脂肪厚測定装置100は動作可能な状態となる。そして、被測定者が、自身の体のうち皮下脂肪厚Lfを測定しようとする部位に把持ユニット10の先端部を押し当てると、制御部44は、上述の実施形態と同じ方法で、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間における皮下脂肪厚Lfを測定する(ステップS1)。ステップS2の処理が終了すると、制御部44は、ステップS2で求めた皮下脂肪厚Lfを表示部22に表示させるように制御する(ステップS2)。これにより、一連の動作が終了するという具合である。
【0054】
(2)変形例2
上述の実施形態では、第1の電流印加用電極12aおよび第2の電流印加用電極12bは、第1の電圧測定用電極12cと第2の電圧測定用電極12dとの間に挟まれるようにして配置されるという態様が例示されているが、これに限らず、例えば第1の電圧測定用電極12cおよび第2の電圧測定用電極12dが、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間に挟まれるという態様とすることもできる。
【0055】
(3)変形例3
上述の実施形態では、第1の電流印加用電極12aと第2の電流印加用電極12bとの間のY方向における距離Lは5mmに設定されているが、これに限らず、当該距離Lは2mm〜20mmの範囲内で任意に設定可能である。要するに、当該距離Lは、皮下脂肪厚Lfを精度良く測定することができる値であればよい。
また、第1の電流印加用電極12aと第1の電圧測定用電極12cとの間のY方向における距離、および、第2の電流印加用電極12bと第2の電圧測定用電極12dとの間のY方向における距離の各々も5mmに設定されているが、これに限らず、当該距離は2mm〜30mmの範囲内で任意に設定可能である。要するに、電流印加用電極と電圧測定用電極との間のY方向における距離は、人体のうち測定電極と接触する部位におけるインピーダンスを精度良く測定することができる値であればよい。
【0056】
(4)変形例4
上述の実施形態では、リアクタンスXおよびレジスタンスRに基づいて、皮下脂肪厚Lfを求める態様が例示されているが、これに限定されるものではない。図16は、インピーダンスとリアクタンスXとレジスタンスRと位相差との関係を示す図である。図16では、インピーダンスをZ、位相差をphaseと表記している。
図16からも理解されるように、R=(Z2−X2)1/2と表すことができるので、上記式(5)におけるR/Xは、{(Z/X)2−1}1/2と変形できる。つまり、Z/Xの値に応じて皮下脂肪厚保Lfを決定することもできる。
また、図16からも理解されるように、X=(Z2−R2)1/2と表すことができるので、上記式(5)におけるR/Xは、1/{(Z/R)2−1}1/2と変形できる。つまり、Z/Rの値に応じて皮下脂肪厚保Lfを決定してもよい。
要するに、インピーダンスZとリアクタンスXとに基づいて皮下脂肪厚Lfを求めることもできるし、インピーダンスZとレジスタンスRとに基づいて皮下脂肪厚Lfを求めることもできる。
【0057】
また、位相差phase=arctan(R/X)と表すことができる。人体を計測する場合、インピーダンスZの値とレジスタンスRとの値はほぼ等しくなるので、位相差phase≒arctan(Z/X)と表すこともできる。図17は、位相差phaseと、皮下脂肪厚Lfとの関係を示す図であり、位相差phaseのみに基づいて、皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。
【0058】
さらに、周波数が異なる2つのインピーダンスZの値を用いて皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。生体インピーダンス計測において周波数を変化させると、インピーダンスZの値の軌跡は、公知のCole-Coleプロットを描く。つまり、周波数が異なる2つのインピーダンスZ値を求めれば、Cole-Coleプロットの円の大きさを推定することができる。ここで、周波数が変化すると、インピーダンスZ、リアクタンスX、レジスタンスRおよび位相差phaseの各値は変化するが、R/Xは一定である。
【0059】
図18は、周波数が異なる2つのインピーダンスZの比と、R/Xとの間の関係を示す図である。図18では、一例として、250kHZの周波数を用いて得られたインピーダンスZ250と50KHZの周波数を用いて得られたインピーダンスZ50との比(Z250/Z50)と、R/Xとの関係が示されている。また、図19は、周波数が異なる2つのインピーダンスZの比(ここではZ250/Z50)と、皮下脂肪厚Lfとの間の関係を示す図である。図18および図19からも理解されるように、周波数が異なる2つのインピーダンスZの値に基づいて、皮下脂肪厚Lfを求めることも可能である。
【0060】
(5)変形例5
上述の実施形態では、皮下脂肪厚測定装置100は、体組成に関する指標として、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積および皮下脂肪量を測定しているが、これに限らず、例えば皮下脂肪厚測定装置100は、内臓脂肪面積、内臓脂肪量、皮下脂肪面積および皮下脂肪量のうちの少なくとも1つを測定するものであればよい。この態様では、被測定者が所望の指標を指定することもできるし、予め定められた少なくとも1つの指標が測定されてもよい。
【0061】
(6)変形例6
上述の実施形態では、被測定者本人が皮下脂肪厚測定装置100を用いているが、これに限らず、被測定者以外のユーザー(例えば介護者)が被測定者の皮下脂肪厚Lfを測定してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10……把持ユニット、12a……第1の電流印加用電極、12b……第2の電流印加用電極、12c……第1の電圧測定用電極、12d……第2の電圧測定用電極、20……載台ユニット、22……表示部、23a……第3の電流印加用電極、23b……第4の電流印加用電極、23c……第3の電圧測定用電極、23d……第4の電圧測定用電極、26……入力部、28……第1電流発生部、30……第1電圧測定部、32……第2電流発生部、34……第2電圧測定部、36……重量測定部、38……電源部、42……メモリ、44……制御部、100……皮下脂肪厚測定装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が、人体に接触させて測定を行うための測定電極である第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極と、
前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間を流れる交流電流を出力する電流発生部と、
前記第1の電流印加用電極に隣り合うように配置される前記第1の電圧測定用電極と、前記第2の電流印加用電極に隣り合うように配置される前記第2の電圧測定用電極との間の電圧を測定する電圧測定部と、
前記測定電極が人体に接触したときに、前記第1の電流印加用電極および前記第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、前記電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間における皮下脂肪厚を求める皮下脂肪厚測定部と、を備える、
皮下脂肪厚測定装置。
【請求項2】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記位相差と、から求められるリアクタンスおよびレジスタンスに基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項3】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記リアクタンスと前記レジスタンスとの比を求め、その求めた比の値に対応する皮下脂肪厚を決定する、
請求項2の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項4】
前記皮下脂肪厚測定部にて求められる皮下脂肪厚は、前記レジスタンスに対する前記リアクタンスの割合が小さいほど大きい値となり、前記レジスタンスに対する前記リアクタンスの割合が大きいほど小さい値となる、
請求項3の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項5】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記インピーダンスと前記位相差とから求められるリアクタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項6】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記インピーダンスと前記位相差とから求められるレジスタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項7】
前記第1の電流印加用電極および前記第2の電流印加用電極は、前記第1の電圧測定用電極と前記第2の電圧測定用電極との間に挟まれるようにして配置される、
請求項1から請求項6の何れかの皮下脂肪厚測定装置。
【請求項8】
前記第1の電流印加用電極、前記第2の電流印加用電極、前記第1の電圧測定用電極および前記第2の電圧測定用電極は、第1方向に沿って配列され、前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間の前記第1方向における距離は、前記第1の電圧測定用電極における前記第1方向の幅と、前記第2の電圧測定用電極における前記第1方向の幅との和よりも小さい、
請求項7の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項9】
被測定者の肥満に関する情報を測定する肥満情報測定部と、
前記皮下脂肪厚測定部にて測定された被測定者の皮下脂肪厚と、前記肥満情報測定部にて測定された被測定者の肥満に関する情報と、に基いて、被測定者の体組成に関する指標を求める体組成指標測定部と、をさらに備える、
請求項1から請求項8の何れかの皮下脂肪厚測定装置。
【請求項1】
各々が、人体に接触させて測定を行うための測定電極である第1の電流印加用電極、第2の電流印加用電極、第1の電圧測定用電極および第2の電圧測定用電極と、
前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間を流れる交流電流を出力する電流発生部と、
前記第1の電流印加用電極に隣り合うように配置される前記第1の電圧測定用電極と、前記第2の電流印加用電極に隣り合うように配置される前記第2の電圧測定用電極との間の電圧を測定する電圧測定部と、
前記測定電極が人体に接触したときに、前記第1の電流印加用電極および前記第2の電流印加用電極のうちの何れか一方の電極から人体を介して他方の電極へ至る電流経路を流れる電流と、前記電圧測定部にて測定される電圧との位相差に基づいて、前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間における皮下脂肪厚を求める皮下脂肪厚測定部と、を備える、
皮下脂肪厚測定装置。
【請求項2】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記位相差と、から求められるリアクタンスおよびレジスタンスに基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項3】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記リアクタンスと前記レジスタンスとの比を求め、その求めた比の値に対応する皮下脂肪厚を決定する、
請求項2の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項4】
前記皮下脂肪厚測定部にて求められる皮下脂肪厚は、前記レジスタンスに対する前記リアクタンスの割合が小さいほど大きい値となり、前記レジスタンスに対する前記リアクタンスの割合が大きいほど小さい値となる、
請求項3の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項5】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記インピーダンスと前記位相差とから求められるリアクタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項6】
前記皮下脂肪厚測定部は、前記電流経路を流れる電流と前記電圧測定部にて測定される電圧とから算出されるインピーダンスと、前記インピーダンスと前記位相差とから求められるレジスタンスと、に基づいて、皮下脂肪厚を求める、
請求項1の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項7】
前記第1の電流印加用電極および前記第2の電流印加用電極は、前記第1の電圧測定用電極と前記第2の電圧測定用電極との間に挟まれるようにして配置される、
請求項1から請求項6の何れかの皮下脂肪厚測定装置。
【請求項8】
前記第1の電流印加用電極、前記第2の電流印加用電極、前記第1の電圧測定用電極および前記第2の電圧測定用電極は、第1方向に沿って配列され、前記第1の電流印加用電極と前記第2の電流印加用電極との間の前記第1方向における距離は、前記第1の電圧測定用電極における前記第1方向の幅と、前記第2の電圧測定用電極における前記第1方向の幅との和よりも小さい、
請求項7の皮下脂肪厚測定装置。
【請求項9】
被測定者の肥満に関する情報を測定する肥満情報測定部と、
前記皮下脂肪厚測定部にて測定された被測定者の皮下脂肪厚と、前記肥満情報測定部にて測定された被測定者の肥満に関する情報と、に基いて、被測定者の体組成に関する指標を求める体組成指標測定部と、をさらに備える、
請求項1から請求項8の何れかの皮下脂肪厚測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−251158(P2011−251158A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177953(P2011−177953)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【分割の表示】特願2010−48954(P2010−48954)の分割
【原出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【分割の表示】特願2010−48954(P2010−48954)の分割
【原出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
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