説明

皮剥ぎ器

【課題】既存の回転駆動用の遠隔操作棒との連結状態をロックし、安定した状態で電線への設置ができ、しかも、他の工具を用いることなく容易にロック解除することができる皮剥ぎ器を低コストの構成にて提供する。
【解決手段】皮剥ぎ器1に回転力を伝達する遠隔操作棒を連結する連結体2は、固定部4と可動部6とから構成される。固定部4の入力軸4aが嵌入される軸受部6aが可動部6に形成され、軸受部6a内で入力軸4aは、止ネジ6eが貫通長孔4dに挿入され遊嵌状態となる。操作棒連結部6dに連結された遠隔操作棒により押し込まれると、磁石部6bに突設されたボルト6cが、固定部4側の凹部に嵌入すると共に磁石6fが固定部4に吸着し、軸回りの可動部6の回転が抑止される。また、遠隔操作棒を手前に引くと、磁石6fが固定部4から離脱すると共に、ボルト6cの凹部に対する係合が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作棒を回転させることにより、送電状態における架空電線の回りに被覆剥取具を回転させて被覆を剥ぎ取る皮剥ぎ器に関する。
【背景技術】
【0002】
活線作業において、電線の延びる方向に進みながら、遠隔操作により被覆を剥ぎ取る皮剥ぎ器が知られている。このような皮剥ぎ器を電線に設置する際、通常は、回転力を伝達するための遠隔操作棒に接続された状態で、その遠隔操作棒により遠隔位置の電線まで運ばれる。図9は従来の皮剥ぎ器を示した図である。
【0003】
この図9に示される皮剥ぎ器101は、電線108に対して本体の姿勢を保持する支持部103と、この支持部103に対して相対回転可能な回転部102とから構成されている。そして、この回転部102に皮剥ぎ刃(図示せず)が設けられており、回転部102の回転により電線108の被覆を剥ぎ取ることができる。
【0004】
この皮剥ぎ器101には、遠隔操作棒等(図示せず)により回転駆動力が伝達される。この遠隔操作棒は、皮剥ぎ器101の下方に設けられた操作棒連結部106に連結される。そして、遠隔操作棒から伝達される回転駆動力は、操作棒連結部106の内側に突設された入力軸から入力される。
【0005】
ところで、この図9に示すように、皮剥ぎ器101に回転力を伝達するために連結される遠隔操作棒の回転軸の中心(入力軸104の中心に同じ)は、皮剥ぎ器101の重心の位置から外れている。つまり、遠隔操作棒が皮剥ぎ器101に対して相対回転可能な状態で、この遠隔操作棒を支持棒として皮剥ぎ器101を持ち上げた場合、遠隔操作棒を中心に皮剥ぎ器101は回動し易い状態となる。このため、電線108への移動の際、不安定な状態となり、また、電線108に対する位置合わせが困難となり、作業効率が低下する。
【0006】
したがって、回転駆動力を与える遠隔操作棒とは別に、皮剥ぎ器101の姿勢を安定させるための支持用の遠隔操作棒が必要となる。これには、例えば、先端に絶縁ヤットコ等が接続された遠隔操作棒が用いられ、この絶縁ヤットコに把持された状態で皮剥ぎ器は電線に設置される。
【0007】
なお、上述のような皮剥ぎ器の構成については、特許文献1に開示例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−131844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような回転駆動式の皮剥ぎ器は、一般に高重量のものが多い。したがって、高所にいる作業員が空中を移動させる設置段階では、作業が不安定となり危険を伴う。
【0010】
このように、皮剥ぎ器は重量物であるので、上述の、支持用の遠隔操作棒を別途用いる作業では、回転駆動用の遠隔操作棒と支持用の遠隔操作棒とを単独の作業員が操作するこ
とは難しい。そのため、通常は、複数の作業員がそれぞれ遠隔操作棒を持ち、共同で設置することとなるが、高所における重量物の設置作業は容易ではなく、熟練を要する。
【0011】
一方、絶縁ヤットコにより把持して皮剥ぎ器の姿勢を保つ構成とは異なり、回転駆動用の遠隔操作棒を皮剥ぎ器に対してロックし、回転を抑止する構成が考えられるが、皮剥ぎ器側でロックする構成では、電線に設置した後に、その遠隔位置にある皮剥ぎ器のロックを遠隔操作により解除する必要があるが、手の感覚が伝わり難い作業であるため作業効率は低下する。そして、遠隔操作棒自体にロック機構を設ける場合は、構造が複雑なものとなるため、コストが増大する。
【0012】
そこで、本発明の皮剥ぎ器では、既存の回転駆動用の遠隔操作棒との連結状態をロックし、安定した状態で電線への設置ができ、しかも、他の工具を用いることなく容易にロック解除することができる皮剥ぎ器を低コストの構成にて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の皮剥ぎ器は、連結体を介して連結された遠隔操作棒の軸回転により回転駆動力が伝達され、架空電線の回りに皮剥ぎ刃を回転させて被覆を剥ぎ取る遠隔操作用の皮剥ぎ器であって、連結体は固定部と可動部とからなり、固定部には、前記回転駆動力が入力される入力軸が突設されると共に、可動部が当接可能となる位置に磁性体で形成された着座部が設けられ、可動部には、入力軸が嵌入される軸受部と、着座部に着脱可能な磁石部とを備えると共に、入力軸と同軸上に遠隔操作棒が連結可能となる操作棒連結部を有し、入力軸と可動部とは、軸回りに一体に回転可能であり、且つ軸方向には所定範囲内で遊嵌状態となるように接続されており、固定部に設けられた固定部側係合部と、可動部に設けられた可動部側係合部とが、着座部及び磁石部の当接状態において、入力軸回りの可動部の回動をロックするように係合し、離間状態で係合が解除されることを特徴とする。
【0014】
このように構成すると、着座部と磁石部とが当接状態となる場合、固定部側係合部と可動部側係合部とが、可動部の軸回りの回動をロックするので、棒受部を介して連結された遠隔操作棒の軸を中心とした皮剥ぎ器の回転が抑止される。また、着座部と磁石部とが離間状態となる場合、固定部側係合部と可動部側係合部との係合が解除されるので、可動部の軸回りの回動が可能となり、これにより、皮剥ぎ器に対して遠隔操作棒が回転可能な状態となる。
【0015】
このように本発明では、着座部と磁石部とが当接状態で、遠隔操作棒に対して皮剥ぎ器が回動不可能にロックされ安定した状態で、電線に皮剥ぎ器をセットすることができる。また、着座部と磁石部とを離間することにより、皮剥ぎ器に対する遠隔操作棒の回転のロックを解除することができるので、電線にセット後の皮剥ぎ器に対して遠隔操作棒を引き寄せて着座部と磁石部とを離間させ、ロックを解除することが可能となる。
【0016】
また、本発明の皮剥ぎ器は、上記構成に加え、着座部及び磁石部は、それぞれ、入力軸に略垂直な面に形成され、可動側係合部は、磁石部上の着座部側に突設された突起部であり、固定側係合部は、着座部上の磁石部側に凹設され、突出部が嵌入可能な凹部であることを特徴とする。
【0017】
このように構成すると、着座部と磁石部とが当接状態のとき、磁石部上の突出部が着座部上の凹部に嵌入されるので、突出部と凹部との係合により入力軸回りの可動部の回転が抑止される。また、着座部と磁石部とが離間状態のとき、突出部は凹部から離脱するので、突出部及び凹部の係合による可動部の回転抑止が解除される。
【0018】
このように本発明では、突出部と凹部のような簡単な構造により、遠隔操作棒に対する皮剥ぎ器のロック及びロック解除が可能となる。
【0019】
また、本発明の皮剥ぎ器は、上記構成に加え、被覆剥取具は、互いに対向する内面により電線摺接部が形成される1対の摺接部材と、1対の摺接部材の一方に取り付けられ、摺接する被覆電線に対して所定の前進角をもって突設される皮剥ぎ刃と、1対の摺接部材を、それぞれ、被覆電線に平行で互いに直交するよう形成される2つの吸着面へ脱着可能に磁気吸着し、被覆電線を中心として鏡面対称に離接が可能な1対の挟持部材とを備えたことを特徴とする。
【0020】
このように構成すると、1対の挟持部材に対して1対の摺接部材が簡易に脱着可能になる。また、脱着可能な1対の挟持部材が、正確に定位置に吸着され、挟持される被覆電線と電線摺接部との間に常に良好な平行状態が得られる。
【0021】
これにより、径の異なる被覆電線に応じて、適当な径を有する1対の摺接部材に交換することができるので、2種以上の径を有する電線にも柔軟に対応でき、作業対象の幅が広がる。また、被覆電線と電線摺接部との間に常に良好な平行状態が得られるので、被覆電線との摺接による摩擦が最小限に抑えられ、回転駆動に対する負荷を低減することができる。
【0022】
また、本発明の皮剥ぎ器は、上記構成に加え、1対の挟持部材には、それぞれ、1対の摺接部材を磁気吸着する2つの吸着面のうち少なくとも1面側に貫通孔が形成され、1対の摺接部材には、それぞれ、1対の挟持部材に対する磁気吸着状態において貫通孔を貫通して反対側に端部を露出する突出部が形成され、突出部は、端部に対して、突出する方向に直交する方向へスライドする、挟持部材に設けられたスライド爪が係合することにより固定されていることを特徴とする。
【0023】
このように構成すると、磁気吸着される摺接部材の、突出部の突出方向へのずれがその端部とこれに係合するスライド爪とにより抑止され、また、突出方向に直交する方向へのずれが貫通孔と突出部とにより抑止される。
【0024】
このように、少なくとも1組の突出部、貫通孔及びスライド爪からなる簡易な構成により、磁気吸着が大幅に補強される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の皮剥ぎ器によれば、連結体を構成する可動部及び固定部内に設けられた磁石部と着座部とが磁気吸着するように、遠隔操作棒が皮剥ぎ器側に押し込まれたとき、磁石部に突設されたボルトが、着座部に凹設された凹部に嵌入されるので、固定部に対する可動部の回転、すなわち、皮剥ぎ器に対する遠隔操作棒の相対回転が抑止される。これにより、安定して皮剥ぎ器を電線に引っ掛けて設置することが可能となる。また、このとき、回転駆動用の遠隔操作棒のみで皮剥ぎ器を運ぶことができるので、別途把持用の遠隔操作棒を用いる必要もなく、作業効率が向上する。
【0026】
そして、電線に皮剥ぎ器を引っ掛けた後は、遠隔操作棒を手前に引き寄せることで、簡単に固定部に対する可動部のロックを解除することができる。このため、別途、ロック解除用の遠隔操作棒を備える必要がなくなり、作業効率が向上すると共に、装備を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態における皮剥ぎ器の使用状態を示す斜視図である。
【図2】図1の皮剥ぎ器の連結部を分解した状態を示す斜視図である。
【図3】図2の連結部のうち固定部に接続される側から見た可動部を示す斜視図である。
【図4】図1の連結部を、入力軸の軸中心を通る平面で切断した断面図であり、(a)は可動部が固定部にロックされている状態を示し、(b)は可動部が固定部に対してロック解除された状態を示している。
【図5】本発明の第1の実施の形態における被覆剥取具の使用状態を示す斜視図である。
【図6】図5の被覆剥取具の開放状態を示した斜視図である。
【図7】図5の被覆剥取具の分解状態を示した斜視図である。
【図8】図5の被覆剥取具のバイト部材の収納状態を示した斜視図である。
【図9】従来の皮剥ぎ器を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0029】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における皮剥ぎ器の使用状態を示している。この皮剥ぎ器1は、電線8に対して本体の姿勢を安定した状態に支持する支持部1aと、電線8の回りに皮剥ぎ刃1cを回転させる回転部1bとから構成されている。この皮剥ぎ器1の回転部1bに回転駆動力を伝達する遠隔操作棒10は、支持部1a側に設けられた連結体2に連結されている。
【0030】
支持部1aには、その中央にU字状の切欠きが形成されたギヤ本体部1eが配置されている。このギヤ本体部1eは、支持部1aの内側で回転可能であり、このギヤ本体部1eの側面に回転部1bが連結されている。そして、このギヤ本体部1eは、傘型歯車部1dに連結され、連結体2から入力される回転駆動力を受けることができる。本実施の形態において示す遠隔操作棒には、手元側の端部に工具12を取り付けることができる。これにより、容易に軸回り方向への回転力を与えることができ、回転部1bを電線8の回りに回転させることが可能となる。
【0031】
なお、このギヤ本体部1eは、切欠きの開口側の一端に遥動可能となるように部分ギヤ1fが取り付けられている。皮剥ぎ器1を電線8に引っ掛けて設置する際には、この部分ギヤ1fを開いた状態にする。そして、電線8がU字状の切欠き内に収まった後、遠隔操作棒10を回転させると、ギヤ本体部1eの回転に伴って、遥動端が引き込まれ、部分ギヤ1fがU字状の開口を閉じるようにブリッジ状に配置される。これにより、部分ギヤ1fの歯とギヤ本体部1eの外周の歯とが連続した状態が形成され、連続回転可能な状態となる。
【0032】
このように連続回転可能な状態となった後、電線8の被覆8bを剥ぎ取ることができるように、回転部1bの皮剥ぎ刃1cが設定されるが、ここでは詳細な説明を省略する。図1では、皮剥ぎ刃1cが設定され、被覆8bの剥ぎ取りが進み、芯線8aが現われた状態が示されている。
【0033】
ここで、図1にて明らかなように、皮剥ぎ器1は、中心から外れた位置に偏って遠隔操作棒10が配置されている。このため、遠隔操作棒10により皮剥ぎ器1を持ち上げ、電線8に運ぶ際、遠隔操作棒10の回転をロックした状態でないと、遠隔操作棒10の軸を中心として、皮剥ぎ器1が回動してしまう。次に、遠隔操作棒10を皮剥ぎ器1に連結している連結体2の詳細な構造について図2及び図3を用いて説明する。
【0034】
図2は、図1の連結体2を分解し、遠隔操作棒10(ここでは図示せず)側から見た状態を示した拡大図である。また、図3は、図1の連結体2を分解し、皮剥ぎ器1の傘型歯
車部1d側から見た状態を示した拡大図である。
【0035】
図2から判るように、連結体2は、傘型歯車部1dに固定された固定部4と、これに接続される可動部6とから構成されている。固定部4の中央には、傘型歯車から延びる入力軸4aが突設されている。そして、この入力軸4aには、側面方向に貫通する貫通長孔4dが形成されている。また、傘型歯車部1dの側面に沿って、入力軸4aの延びる方向と略垂直に円板状の着座部4bが設けられている。さらに、この円板状の着座部4bには、入力軸4aを挟んだ2箇所に凹部4c(固定部側係合部)が形成されている。
【0036】
一方、可動部6には、中央付近に止ネジ6eが挿入可能な貫通孔が形成されている。そして、遠隔操作棒10を連結することのできる操作棒連結部6dが形成されている。ここで、図3を参照すると、可動部6の内側中央に、固定部4の入力軸4aが嵌入可能な軸受部6aが形成されているのが判る。この軸受部6aの内壁面は、入力軸4aと同じ六角形状に形成されている。これにより、可動部6が固定部4に接続され、入力軸4aが軸受部6aに嵌入状態となったとき、可動部6の回転と一体に入力軸4aが回転することができる。そして、可動部6と固定部4とが接続された状態では、軸受部6aに嵌入された入力軸4aは、その貫通長孔4d内に、可動部6の外方から挿入される2本の止ネジ6eの先端が挿入される。これにより、可動部6が固定部4から離脱することを防止することができる。しかも、貫通長孔4dは、軸方向に所定長さの余裕を持たせて形成されているので、可動部6は固定部4に接続された状態であっても、軸方向に所定の範囲内、すなわち、貫通長孔4dの長さ分だけ、スライド可能な遊嵌可能な状態となる。
【0037】
可動部6の軸受部6aの周囲には、軸受部6aの長手方向と垂直に、すなわち、入力軸4aと垂直な着座部4bと略平行となるように、磁石部6bが設けられている。この磁石部6bには、円筒型の磁石を埋設可能な磁石収納部6gが6箇所形成されている。図3では、このうち、一部に磁石6fが埋設設置されている例が示されている。このような構成により、皮剥ぎ器1の重量等に応じて磁石6fの数を増減させ、磁気吸着力を変化させることが可能である。
【0038】
また、この磁石部6bには、2本のボルト6c(可動部側係合部、突出部)が突設されている。次に、可動部6と固定部4との接続状態における、これら2本のボルト6cの位置について、図4を用いて説明する。
【0039】
図4は、入力軸4aの軸中心で切断した断面図であり、(a)は、固定部4に可動部6がロックされた状態を示し、(b)は、固定部4と可動部6とのロックが解除された状態が示されている。図4(a)のロック状態では、可動部6の磁石部6bが、固定部4の着座部4bに着座状態となり、磁石6fが、磁性体で形成された着座部4bの表面に磁気吸着状態となっている。このとき、可動部6側のボルト6cは、着座部4b側の凹部4cの中に嵌入状態となっている。そして、入力軸4aの貫通長孔4dの中に挿入状態となっている止ネジ6eは、固定部4側に移動している。
【0040】
このように、、ボルト6cが凹部4cに嵌入されているので、入力軸4aの軸回りの回転が抑止されている。そして、磁石6fが着座部4bに吸着することにより、この可動部6の固定部4に対するロック状態が良好に保持されている。
【0041】
一方、図4(b)のロック解除状態では、磁石部6bと着座部4bとは離間した状態となっている。このとき、ボルト6cは、凹部4cから離脱した状態となっている。また、入力軸4aの貫通長孔4d内に挿入された止ネジ6eは、遠隔操作棒10側に移動している。
【0042】
この状態では、ボルト6cと凹部4cとは離間した状態となっているので、固定部4に対して可動部6は、軸回りに自由に回転可能な状態となる。
【0043】
すなわち、皮剥ぎ器1を遠隔位置にある電線8に運び、引っ掛けるまでは、図4(a)の状態にしておくと、遠隔操作棒10に対する皮剥ぎ器1の回動を抑止することができるので、安定した状態で作業をすることが可能となる。そして、皮剥ぎ器1のギヤ本体部1eのU字状の切欠き内に電線8が入るように配置された状態で、遠隔操作棒10を手前に引き寄せると、磁石6fにより吸着していた磁石部6bを着座部4bから離間させ、固定部4に対する可動部6のロックを容易に解除することができる。この後は、従来通りの作業にて皮剥ぎ刃1cをセットし、被覆8bの剥ぎ取り作業を開始することができる。
【0044】
以上のように、本実施の形態における皮剥ぎ器によれば、電線への設置の際に、別途、支持用の遠隔操作棒を用いることなく安定して配置することができる。また、電線への配置後は、単に、回転駆動用の遠隔操作棒を手前に引き寄せるだけで、ロックの解除を容易に行うことができる。しかも、このような構成を、既存の回転駆動用の遠隔操作棒に対して用いることができるので、低コストで実現することが可能である。
【0045】
尚、上記実施の形態では、固定部に対する可動部のロック機構として、ボルトと凹部との組合せによる係合部材を例として示したが、入力軸回りの回転を抑止する係合構造であれば、これ以外の構成であっても構わない。
【0046】
また、上記実施の形態では、磁石部と着座部とが入力軸に対して略垂直な面に形成されている例を示したが、ロック状態で両者が当接状態となる位置関係であれば、これ以外の構成であっても構わない。
【0047】
(第2の実施の形態)
先ず、本発明の第2の実施の形態に係る被覆剥取具の全体構造について、図5を用いて説明する。図5は、本発明の第2の実施の形態に係る被覆剥取具を用いた皮剥ぎ器の使用状態について示した斜視図である。なお、ここでは、説明の便宜のため、回転駆動力を伝達する遠隔操作棒等の構成については、図示を省略している。
【0048】
図5に示すように、皮剥ぎ器51は、電線54に対する姿勢を一定の状態に保持すると共に、回転駆動力を仲介する回転装置52と、電線54の中心軸54bの回りに回転する被覆剥取具53とから構成されている。回転装置52の中央には、外部から伝達される回転駆動力により回転する回転板52aが収納されている。この回転板52aの中央はU字状の切欠きが形成され、電線54を収納した状態で回転可能な構成となっている。被覆剥取具53は、この回転板52aと接続されており、回転板52aと一体に回転できるようになっている。
【0049】
被覆剥取具53は、互いに対向する内面により電線摺接部が形成される1対の摺接部材55を備えている。この1対の摺接部材55は、中心軸54bに垂直な方向に切断した断面コ字状の1対の挟持部材により外側面を保持されている。すなわち、1対の摺接部材55の構成のうち、図中、上側に位置している上部摺接部材55aは、1対の挟持部材57の構成の上側の上部挟持部材57aにより保持されている。また、下側も同様に、下部摺接部材55bは下部挟持部材57bにより保持されている。このように、上部摺接部材55a及び下部摺接部材55bは、それぞれ、電線54に平行で互いに直交する外側の2つの平面にて、上部挟持部材57a及び下部挟持部材57bに接している。この両者の接触状態については、後に図を用いて詳説する。
【0050】
上部摺接部材55aの側面には、剥ぎ取り後の被覆を導出する窓が設けられていると共
に、この窓内に皮剥ぎ刃59が設けられている。この皮剥ぎ刃59は、摺接する電線54に対して所定の前進角をもって配置されている。図5では、電線54の被覆54aが剥ぎ取られ、芯線54cが現れている様子が示されている。
【0051】
次に、被覆剥取具53のみを取り出した状態を図6に示す。図6では、1対の挟持部材57と共に1対の摺接部材55が分離した状態が示されている。このように、本実施の形態における被覆剥取具53の挟持部材57及び摺接部材55は、アイナット61を回転操作することにより、電線54を中心として鏡面対称に離接可能となる。ここで、上部及び下部の摺接部材55a、55bは、それぞれ、上部及び下部の挟持部材57a、57bに対して、磁気吸着により保持されている。この構成の詳細は、図7に示されている。
【0052】
図7は、1対の摺接部材55のそれぞれが、1対の挟持部材57から分離された状態を示している。図8にて判るように、上部摺接部材55a、下部摺接部材55bはそれぞれ3箇所に磁石60が埋設されている。上部摺接部材55aでは、上部挟持部材57aに対向する側面に2箇所、上面中央に1箇所磁石60が配置されている。また、下部摺接部材55bでは、下部挟持部材57bに対向する側面に2箇所、下面中央に1箇所配置されている。そして、上部挟持部材57a及び下部挟持部材57b側にも、上部摺接部材55a及び下部摺接部材55bに設けられた磁石60と当接可能な位置に磁石60が埋設されている。
【0053】
そして、上部摺接部材55aの上面には、上方に突出するように突出部55dが形成されており、下部摺接部材55bの下面には、下方に突出するように突出部55dが形成されている。
【0054】
一方、使用状態において上部及び下部摺接部材55a、55bの突出部55dが配置される上部及び下部挟持部材57a、57bの位置には、それぞれ、貫通孔57dが形成されている。これにより、摺接部材55の挟持部材57への取り付け状態において、突出部55dは、内側から外側へ向かってそれぞれの端部55eを貫通突出した状態で配置される。ここで、この貫通突出により挿入側から反対側へ露出した端部55eには、周方向に溝が形成されている。そして、上部挟持部材57aの上面及び下部挟持部材57bの下面には、面に沿った方向に、すなわち、突出部55dの突出方向に対して直交する方向へスライド可能なスライド爪57eが設けられている。このような構成により、端部55eの側面に形成された溝にスライド爪57eの先端が係合可能となり、係合した状態で位置固定ボルト57fを締結することにより、1対の摺接部材55を1対の挟持部材57に対して安定した状態で固定することが可能となる。
【0055】
このように、本実施の形態における被覆剥取具53によれば、摺接部材55及び挟持部材57の側面に設けられた磁石60により、挟持部材57の側面に密着状態で配置することができるので、電線54の中心軸54bに対して、常に正確に平行状態を保持することが可能である。例えば、ボルト締結により挟持部材57を外側から貫通して、摺接部材をボルト固定する構成と、本実施の形態に係る被覆剥取具とを比較すると、ボルトを用いる場合は、僅かではあるが、挿入されるボルト穴に公差が含まれる。このため、締結状態により、僅かに傾いて固定される場合がある。そして、このように傾いて固定されると、摺接部材と挟持部材との吸着面間に隙間が生じてしまい、電線に対して良好な平行状態を形成できない。これに比べ、本実施の形態の被覆剥取具では、磁気吸着されるので、隙間が生じることはない。
【0056】
また、突出部55dとスライド爪57eとにより摺接部材55と挟持部材57とが係合状態を構成することにより、電線54の延びる方向への両者間のずれを防止することができ、さらに、端部55eの溝とスライド爪57eとの係合により、上下方向への両者間の
ずれも防止することができる。
【0057】
加えて、上記の図7から明らかなように、1対の摺接部材55を1対の挟持部材57へ固定するために、別途締結部材等を必要としない。したがって、交換作業が容易となり、作業効率の向上が図られる。そして、部品点数が少ないことにより部品管理の負担が軽減される。
【0058】
また、複数の径を有する電線54に応じて複数組の交換用の摺接部材55を保有する場合であっても、側面に磁石60が設けられていることにより、図8に示すように背中合わせで吸着させて収納することができる。
【0059】
尚、上記実施の形態において図5に示した皮剥ぎ器では、1対の摺接部材のそれぞれに突出部が形成されており、この突出部が、1対の挟持部材に形成された貫通孔を貫通突出した構成を例として示した。しかし、これら突出部及び貫通孔は設けられていなくても構わない。
【0060】
また、突出部の端部に周方向に溝が形成され、この溝に対してスライド爪が係合する構成を例として示したが、これ以外の係合の構成を採用しても構わない。例えば、端部を突出方向に直交する方向に貫通する貫通孔に、スライド爪が挿入されるような構成でも良い。
【0061】
さらに、貫通孔は、摺接部材と磁気吸着される吸着面のうち、1面側のみに形成されている例を示したが、これに限らず、2面に形成されていても構わない。
【0062】
また、挟持部材と摺接部材とは、上下とも、それぞれ1組の貫通孔と突出部とが係合する構成を例として示したが、これに限らず、複数設けられていても構わない。
【符号の説明】
【0063】
1、51 皮剥ぎ器
1a 支持部
1b 回転部
1c、59 皮剥ぎ刃
2 連結体
4 固定部
4a 入力軸
4b 着座部
4c 凹部(固定部側係合部)
6 可動部
6a 軸受部
6b 磁石部
6c ボルト(可動部側係合部、突出部)
6d 操作棒連結部
6f 磁石
8、54 電線
10 遠隔操作棒
52 回転装置
52a 回転板
53 被覆剥取具
54a 被覆
54b 中心軸
55 1対の摺接部材
55c 電線摺接部
55d 突出部
55e 端部
57 1対の挟持部材
57c 吸着面
57d 貫通孔
57e スライド爪
60 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結体を介して連結された遠隔操作棒の軸回転により回転駆動力が伝達され、被覆電線の回りに被覆剥取具を回転させて被覆を剥ぎ取る遠隔操作用の皮剥ぎ器であって、
前記連結体は固定部と可動部とからなり、
前記固定部には、前記回転駆動力が入力される入力軸が突設されると共に、前記可動部が当接可能となる位置に磁性体で形成された着座部が設けられ、
前記可動部には、前記入力軸が嵌入される軸受部と、前記着座部に離接可能な磁石部とを備えると共に、前記入力軸と同軸上に前記遠隔操作棒が連結可能となる操作棒連結部を有し、
前記入力軸と前記可動部とは、軸回りに一体に回転可能であり、且つ軸方向には所定範囲内で遊嵌状態となるように接続されており、
前記固定部に設けられた固定部側係合部と、前記可動部に設けられた可動部側係合部とが、前記着座部及び前記磁石部の当接状態において、前記入力軸回りの前記可動部の回動をロックするように係合し、離間状態で係合が解除される
ことを特徴とする皮剥ぎ器。
【請求項2】
前記着座部及び前記磁石部は、それぞれ、前記入力軸に略垂直な面に形成され、
前記可動側係合部は、前記磁石部上の前記着座部側に突設された突出部であり、
前記固定側係合部は、前記着座部上の前記磁石部側に凹設され、前記突起部が嵌入可能な凹部である
ことを特徴とする請求項1に記載の皮剥ぎ器。
【請求項3】
前記被覆剥取具は、
互いに対向する内面により電線摺接部が形成される1対の摺接部材と、
前記1対の摺接部材の一方に取り付けられ、摺接する前記被覆電線に対して所定の前進角をもって突設される皮剥ぎ刃と、
前記1対の摺接部材を、それぞれ、前記被覆電線に平行で互いに直交するよう形成される2つの吸着面へ脱着可能に磁気吸着し、前記被覆電線を中心として鏡面対称に離接が可能な1対の挟持部材と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の皮剥ぎ器。
【請求項4】
前記1対の挟持部材には、それぞれ、前記1対の摺接部材を磁気吸着する2つの前記吸着面のうち少なくとも1面側に貫通孔が形成され、
前記1対の摺接部材には、それぞれ、前記1対の挟持部材に対する磁気吸着状態において前記貫通孔を貫通して反対側に端部を露出する突出部が形成され、
前記突出部は、前記端部に対して、突出する方向に直交する方向へスライドする、前記挟持部材に設けられたスライド爪が係合することにより固定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の皮剥ぎ器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−161161(P2012−161161A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19081(P2011−19081)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 :社団法人電気設備学会 刊行物名 :2010年(第28回)電気設備学会全国大会プログラム 発行年月日 : 2010年8月1日
【出願人】(591095823)株式会社九電工 (17)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】