説明

皮脂モデルおよび頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法

【課題】頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を、簡便な操作で的確に評価することができる皮脂モデルおよび前記皮脂に対する洗浄性を簡便な操作で的確に評価することができる頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法を提供すること。
【解決手段】トリグリセリドと脂肪酸とを含有し、トリグリセリド/脂肪酸(質量比)が0.57/1以上である皮脂モデル、並びに前記皮脂モデルが毛髪、人工毛髪またはケラチン繊維基材に塗布されてなる被検体と頭髪用洗浄剤とを接触させた後、前記被検体上に残存している皮脂モデルに含まれる脂質の量を測定し、前記脂質の量によって頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価する頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮脂モデルおよび頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、頭部にべたつき感がある使用者、特に中高年の使用者に適した頭髪用洗浄剤などの開発などに有用な皮脂モデルおよび頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、清潔志向の高まりに伴い、頭部のべたつき感を気にするヒトが増えている。特に、40歳以上のヒトの頭部は、見た目のべたつき感が強い傾向がある。前記頭部のべたつき感は、一般に頭皮から分泌される皮脂や汗が原因で発生すると考えられている。
【0003】
頭部の皮脂や汗を落としたり、皮脂や汗の分泌を抑えたりするために、頭髪用洗浄剤などが用いられている。しかしながら、従来の頭髪用洗浄剤では、頭部のべたつき感を十分に改善することができない。
【0004】
頭髪用洗浄剤による皮脂の洗浄性の評価は、例えば、ヒトの頭を用いる方法(以下、「人頭法」という)、人工皮脂が塗布されたケラチン布の洗浄前後での重量変化を測定する方法(以下、「重量変化測定法」という)などによって行なわれている(例えば、特許文献1〜3など参照)。
【0005】
前記人頭法では、例えば、モニターにより官能評価を行なうこと、被検者の頭皮の洗浄後の状態をマイクロスコープで確認することなどにより、洗浄性の評価が行なわれる。しかしながら、これらの方法には、被検者に負担をかけることから、被検者の生理的な現象の変動をまねきやすく、評価の誤差が生じやすいという欠点や、評価をする際に時間およびコストがかかるという欠点がある。
【0006】
また、前記重量変化測定法には、人工皮脂として、綿実油、動物脂などが用いられていることから、ヒトの皮脂の状態を十分に再現することができないため、ヒトに使用する場合の洗浄性を的確に評価することが困難であるという欠点がある。
【0007】
一方、本発明者らは、皮脂の組成と年齢との関連性、皮脂の組成と頭部のべたつき感との関連性やこれらの関連性を利用して、頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を、簡便な操作で的確に評価する方法が具体的に記載された文献を現時点では発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−154354号公報
【特許文献2】特開2007−161906号公報
【特許文献3】特開2007−282681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、頭部のべたつき感の低減効果または頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を簡便な操作で的確に評価することができる皮脂モデルを提供することを目的とする。また、本発明は、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を簡便な操作で的確に評価することができる頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、
(1) 頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を評価するための皮脂モデルであって、トリグリセリドと脂肪酸とを含有し、トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)が0.57/1以上であることを特徴とする皮脂モデル、
(2) トリグリセリドを20〜55質量%含有してなる前記(1)に記載の皮脂モデル、
(3) 前記トリグリセリドが、炭素数7〜26のアシル基を有するトリグリセリドである前記(1)または(2)に記載の皮脂モデル、
(4) 前記トリグリセリドが、トリステアリン、トリパルミチン、トリミリスチンおよびトリオレインを含有する混合物である前記(3)に記載の皮脂モデル、
(5) 前記脂肪酸が、炭素数7〜26の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である前記(1)〜(4)に記載の皮脂モデル、
(6) 前記脂肪酸が、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸を含有する混合物である前記(5)に記載の皮脂モデル、
(7) 頭部にべたつき感を与える皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法であって、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の皮脂モデルが毛髪、人工毛髪またはケラチン繊維基材に塗布されてなる被検体を頭髪用洗浄剤で洗浄した後、前記被検体上に残存している皮脂モデルに含まれる脂質の量を測定し、前記脂質の量によって頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価することを特徴とする頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法、ならびに
(8) 前記頭部にべたつき感を与える皮脂が、中高年のヒトの頭皮皮脂である前記(7)に記載の方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮脂モデルは、頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を、簡便な操作で的確に評価することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法によれば、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を、簡便な操作で的確に評価することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実験例2において、見た目のべたつき感と頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図2】実験例3において、頭皮の部位と頭皮におけるトリグリセリドの量との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図3】実験例3において、頭皮の部位と頭皮における脂肪酸の量との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図4】実験例3において、頭皮の部位と頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図5】実験例3において、頭皮の部位と頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図6】試験例1において、成分の種類と残存率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図7】試験例4において、皮脂モデルの種類およびシャンプーの種類とトリグリセリドの残存率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図8】試験例5において、皮脂モデルの種類およびシャンプーの種類とトリグリセリドの残存率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の皮脂モデルは、頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を評価するための皮脂モデルであって、トリグリセリドと脂肪酸とを含有し、トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)が0.57/1以上であることを特徴としている。
【0014】
本発明の皮脂モデルは、トリグリセリドと脂肪酸とを含有し、トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)が0.57/1以上であるので、ヒトの頭部のべたつき感、とりわけ中高年の男性に多く見られる頭部のべたつき感を再現することができる。したがって、本発明の皮脂モデルは、頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性の評価に有用である。
【0015】
なお、本明細書において、「中高年」とは、35歳以上をいう。前記中高年は、好ましくは40〜59歳である。
【0016】
前記トリグリセリドとしては、例えば、炭素数7〜26のアシル基を有するトリグリセリドなどが挙げられる。前記アシル基の炭素数は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、7以上、好ましくは13以上、より好ましくは14以上であり、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、26以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。前記トリクリセリドは、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、トリステアリンとトリパルミチンとトリミリスチンとトリオレインとを含有する混合物であることが好ましい。
【0017】
前記混合物中におけるトリステアリン、トリパルミチン、トリミリスチンおよびトリオレインの各含有率は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で設定することが好ましい。例えば、前記混合物中におけるトリステアリン、トリパルミチン、トリミリスチンおよびトリオレインの各含有率は、ヒトの皮脂中に含まれているトリグリセリド中におけるトリステアリン、トリパルミチン、トリミリスチンおよびトリオレインの各含有率と同様になるように適宜設定することができる。通常、前記混合物中におけるトリステアリンの含有率は、1〜13質量%、前記混合物中におけるトリパルミチンの含有率は、19〜44質量%、前記混合物中におけるトリミリスチンの含有率は、9〜52質量%、前記混合物中におけるトリオレインの含有率は、20〜56質量%である。
【0018】
前記脂肪酸としては、例えば、炭素数7〜26の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸などが挙げられる。前記炭素数は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくは7以上、より好ましくは13以上、さらに好ましくは14以上であり、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくは26以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。前記脂肪酸は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、ミリスチン酸とパルミチン酸とステアリン酸とオレイン酸とを含有する混合物であることが好ましい。
【0019】
前記混合物中におけるミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸の各含有率は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で設定することが好ましい。例えば、前記混合物中におけるミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸の各含有率は、ヒトの皮脂中に含まれる脂肪酸中におけるミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸の各含有率と同様になるように設定することができる。通常、前記混合物中におけるミリスチン酸の含有率は、9〜52質量%、前記混合物中におけるパルミチン酸の含有率は、19〜44質量%、前記混合物中におけるステアリン酸の含有率は、1〜13質量%、前記混合物中におけるオレイン酸の含有率は、20〜56質量%であることが好ましい。
【0020】
前記トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、0.57/1以上、好ましくは0.68/1以上、より好ましくは0.81/1以上である。なお、前記トリグリセリドと脂肪酸との質量比の上限値は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で設定することが好ましい。通常、前記トリグリセリドと脂肪酸との質量比の上限値は、50/1以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の皮脂モデル中におけるトリグリセリドおよび脂肪酸の合計の含有率は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0022】
本発明の皮脂モデルは、ヒトの皮脂に含まれる他の成分を含有していてもよい。本発明の皮脂モデルは、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、炭素数15〜30の常温(25℃)で液状の飽和炭化水素化合物と、スクワレンまたはスクアランと、ワックスエステルと、コレステロールと、セラミドとを含有することが好ましい。
【0023】
前記液状の飽和炭化水素化合物の炭素数は、揮発による皮脂モデルの変質を抑制する観点から、好ましくは8以上、より好ましくは15以上であり、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下である。前記液状の飽和炭化水素化合物としては、例えば、流動パラフィン、イソパラフィン、エイコサンなどが挙げられる。前記液状の飽和炭化水素化合物は、単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。これらのなかでは、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、流動パラフィンが好ましい。本発明の皮脂モデル中における前記液状の飽和炭化水素化合物の含有量は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で適宜設定することが好ましい。
【0024】
本発明の皮脂モデル中におけるスクワレンまたはスクワランの含有率は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で適宜設定することが好ましい。
【0025】
前記ワックスエステルとしては、例えば、炭素数7〜26の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸と炭素数7〜26のアルコールとのエステルなどが挙げられる。前記ワックスエステルは、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、パルミチン酸ヘキサデシルとミリスチン酸ミリスチルとオレイン酸オレイルとを含有する混合物であることが好ましい。本発明の皮脂モデル中における前記ワックスエステルの含有量は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で設定することが好ましい。
【0026】
前記混合物中におけるパルミチン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸ミリスチルおよびオレイン酸オレイルの各含有率は、ヒトの皮脂中に含まれるワックスエステル中におけるパルミチン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸ミリスチルおよびオレイン酸オレイルの各含有率と同様になるように設定することができる。通常、前記混合物中におけるパルミチン酸ヘキサデシルの含有率は、20〜57質量%、前記混合物中におけるミリスチン酸ミリスチルの含有率は、9〜52質量%、前記混合物中におけるオレイン酸オレイルの含有率は、20〜56質量%であることが好ましい。
【0027】
本発明の皮脂モデル中におけるコレステロールの含有率は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で設定することが好ましい。
【0028】
前記セラミドは、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現する観点から、好ましくはセラミド2である。本発明の皮脂モデル中における前記セラミドの含有量は、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができる範囲で適宜設定することが好ましい。
【0029】
本発明の皮脂モデルは、本発明の目的を妨げない範囲で、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、皮脂中に含まれる成分、汗中に含まれる成分などが挙げられる。前記皮脂中に含まれる成分としては、特に限定されないが、例えば、コレステロールエステル、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドなどが挙げられる。前記汗中に含まれる成分としては、特に限定されないが、例えば、乳酸、ピルビン酸などの有機酸、アミノ酸、無機塩、水などが挙げられる。
【0030】
本発明の皮脂モデルは、トリグリセリドと脂肪酸とを、トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)が0.57/1以上となるように配合することにより得ることができる。
【0031】
本発明の皮脂モデルは、前述したように、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができることから、頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を評価するのに有用である。したがって、本発明の皮脂モデルを用いて、頭部のべたつき感を与える皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価することができる。
【0032】
本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法は、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法であり、本発明の皮脂モデルが毛髪、人工毛髪またはケラチン繊維基材に塗布された被検体を頭髪用洗浄剤で洗浄した後、前記被検体上に残存している皮脂モデルに含まれる脂質の量を測定し、前記脂質の量によって頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価することを特徴とする方法である。
【0033】
本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法は、このように頭部にべたつき感を与える皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価に、本発明の皮脂モデルを用いる点に1つの大きな特徴がある。本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法によれば、前記皮脂モデルによってヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができることから、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を簡便な操作で的確に評価することができる。
【0034】
なお、本明細書において、頭髪用洗浄剤の概念には、洗浄性の有無を調べる対象となる物質を含有する液体も含まれる。
【0035】
前記被検体は、毛髪、人工毛髪またはケラチン繊維基材に本発明の皮脂モデルが塗布されたものである。前記毛髪としては、例えば、ヒトから得られた毛髪などが挙げられる。前記人工毛髪としては、例えば、ウィッグなどに用いられているモダクリル繊維などからなる人工毛髪などが挙げられる。前記ケラチン繊維基材としては、ケラチンからなる布(以下、「ケラチン布」ともいう)などが挙げられる。
【0036】
頭髪用洗浄剤による被検体の洗浄は、例えば、頭髪用洗浄剤中に被検体を浸漬させること、頭髪用洗浄剤を含浸させた布などで被検体を拭うこと、頭髪用洗浄剤を被検体に直接塗布した後に揉みこむことなどによって行なうことができる。
【0037】
被検体上に残存している皮脂モデルに含まれる脂質は、例えば、前記皮脂モデルに含まれる脂質を抽出溶媒で抽出することなどにより、回収することができる。ここで、前記脂質とは、本発明の皮脂モデル中に含まれる脂質成分(例えば、トリグリセリド、脂肪酸、スクワレンまたはスクワラン、ワックスエステルなど)をいう。前記抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、クロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサン、ジメチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0038】
脂質の量の測定方法は、特に限定されるものではないが、本発明においては、水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー(以下、「GC−FID」という)を用いることができる。
【0039】
本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法では、例えば、頭髪用洗浄剤で洗浄する前後の被検体上における脂質の量の変化または頭髪用洗浄剤で洗浄した後の被検体上における脂質の残存率に基づいて、頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価することができる。ここで、頭髪用洗浄剤で洗浄する前の被検体上における脂質の量と比べて、頭髪用洗浄剤で洗浄した後の被検体上における脂質の量が少なくなっている場合、頭髪用洗浄剤は、頭部にべたつき感を与える皮脂に対して良好な洗浄性を有するという判断をすることができる。
【0040】
本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法では、前記脂質の残存率により、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性(洗浄力の大きさ)を評価することもできる。この場合、残存率が低いほど、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性が高いという判断をすることができる。
【0041】
以上説明したように、本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法によれば、頭部にべたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を簡便な操作で的確に評価することができる。したがって、本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法は、頭部にべたつき感がある使用者、特に中高年の使用者に適した頭髪用洗浄剤などを開発する際などに有用である。また、本発明の頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法では、前記皮脂モデルを用いることにより、人頭を用いなくてもヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができることから、前記皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性を簡便な操作で評価することができる。
【実施例】
【0042】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実験例1)
被検者〔40〜50歳代の男性10人および20歳代の男性16人〕それぞれの頭髪および頭皮を無香料シャンプーで洗浄した。洗浄終了から24時間経過時に、前記ヘキサン−エタノール溶液〔ヘキサン:エタノール(体積比)=60:40〕を含浸させた脱脂綿を用いて、被検者の頭皮の表面540mmの範囲を拭き取った。つぎに、前記ヘキサン−エタノール溶液を用いて前記脱脂綿に吸着した頭皮皮脂を抽出した。その後、得られた抽出物を濃縮乾固させ、頭皮皮脂を得た。
【0044】
得られた頭皮皮脂10μgをクロロホルム−ヘキサン溶液〔クロロホルム:ヘキサン(体積比)=2:1〕1μLに溶解させ、試料を得た。得られた試料を、高性能薄層クロマトグラフィープレート(以下、「HPTLCプレート」という)に展着させ、展開溶媒〔クロロホルム:メタノール:水(体積比)=95:20:1〕で展開して、さらに展開溶媒〔ヘキサン:ジエチルエーテル:氷酢酸(体積比)=80:20:10〕で展開し、頭皮皮脂を構成する脂質を分離した。
【0045】
その後、10質量%硫酸銅水溶液をHPTLCプレートに均一に噴霧した。つぎに、前記HPTLCプレートを180℃に加熱することにより、前記HPTLCプレート上の脂質を発色させた。得られた脂質に対応するスポットの濃度および面積をデンシトメーターで解析した。デンシトメーターによる解析結果と、既知量の脂質の標準品の混合標準溶液を用いて作成された検量線とに基づき、各脂質の量(質量)を算出した。なお、脂質の標準品として、炭素数15〜30の常温(25℃)で液状の飽和炭化水素化合物〔和光純薬工業(株)製、商品名:エイコサン〕、スクワレン〔和光純薬工業(株)製、商品名:スクアレン〕、ワックスエステル〔和光純薬工業(株)製、商品名:パルミチン酸ヘキサデシル〕、トリグリセリド〔シグマ・アルドリッチ・ジャパン(株)製、商品名:トリオレイン〕、脂肪酸〔東京化成工業(株)製、商品名:オレイン酸〕、セラミド〔ケイマン社製、商品名:C−2 セラミド〕、コレステロール〔和光純薬工業(株)製、商品名:コレステロール〕を用いた。
【0046】
被検者それぞれの頭皮皮脂中に含まれる各脂質の量(質量)の平均値および20歳代の男性の被検者16人の頭皮皮脂中に含まれる各脂質の量(質量)の平均値を算出した。そして、HPTLCプレート上に分離された脂質の総質量を100として、各脂質の含有率を求めた。また、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂および20歳代の男性の頭皮皮脂それぞれにおけるトリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)を算出した。
【0047】
その結果、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂の組成と、20歳代の男性の頭皮皮脂の組成とは、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率が20歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率と比べて多い傾向がある点および40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率が20歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率と比べて少ない傾向がある点が大きく異なっていることが見出された。
【0048】
(実験例2)
パネラー4人により、実験例1で用いた被検者(40〜50歳代の男性10人および20歳代の男性16人)の頭部の見た目のべたつき感を評価させた。見た目のべたつき感の評価基準は、以下のとおりである。
〔評価基準〕
5点:べたついている
4点:ややべたついている
3点:普通
2点:ややべたついていない
1点:全くべたついていない
【0049】
つぎに、見た目のべたつき感と実験例1で算出された頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率との関係を調べた。
【0050】
実験例2において、見た目のべたつき感と頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率との関係を調べた結果を図1に示す。図1中、黒三角は40〜50歳代の男性、白丸は20歳代の男性を示す。
【0051】
図1に示された結果から、頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率が多いほど、見た目のべたつき感が大きくなる傾向があることがわかる。また、図1に示された結果から、20歳代の男性と比べ、40〜50歳代の男性のほうが、頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率が多く、見た目のべたつき感が大きい傾向があることがわかる。
【0052】
(実験例3)
実験例1において、被検者(40〜50歳代の男性10人および20歳代の男性16人)それぞれの前頭部、頭頂部、後頭部または側頭部の頭皮皮脂を採取したことを除き、実験例1と同様の操作を行ない、各脂質の量(質量)を算出した。40〜50歳代の男性の頭皮1cmあたりのトリグリセリドの量の平均値、40〜50歳代の男性の頭皮1cmあたりの脂肪酸の量の平均値、20歳代の男性の頭皮1cmあたりのトリグリセリドの量の平均値および20歳代の男性の頭皮1cmあたりの脂肪酸の量の平均値を算出した。また、HPTLCプレート上に分離された脂質の総質量を100として、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率、20歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率および20歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率を算出した。
【0053】
実験例3において、頭皮の部位と頭皮におけるトリグリセリドの量との関係を調べた結果を図2に示す。実験例3において、頭皮の部位と頭皮における脂肪酸の量との関係を調べた結果を図3に示す。実験例3において、頭皮の部位と頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率との関係を調べた結果を図4に示す。実験例3において、頭皮の部位と頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率との関係を調べた結果を図5に示す。図2において、白色バーは20歳代の男性の頭皮におけるトリグリセリドの量および黒色バーは40〜50歳代の男性の頭皮におけるトリグリセリドの量を示す。図3において、白色バーは20歳代の男性の頭皮における脂肪酸の量および黒色バーは40〜50歳代の男性の頭皮における脂肪酸の量を示す。図4において、白色バーは20歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率および黒色バーは40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率を示す。図5において、白色バーは20歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率および黒色バーは40〜50歳代の男性の頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率を示す。
【0054】
図2および図3に示された結果から、40〜50歳代の男性は、20歳代の男性と比べ、前頭部、頭頂部、後頭部および側頭部のいずれの部位においても、頭皮におけるトリグリセリドの量が多く、頭皮における脂肪酸の量が少ない傾向があることがわかる。また、図4および図5に示された結果から、40〜50歳代の男性は、20歳代の男性と比べ、前頭部、頭頂部、後頭部および側頭部のいずれの部位においても、頭皮皮脂中におけるトリグリセリドの含有率が高く、頭皮皮脂中における脂肪酸の含有率が低い傾向があることがわかる。
【0055】
(実施例1および比較例1)
炭化水素化合物と、スクワレンと、ワックスエステルと、トリグリセリドと、脂肪酸と、コレステロールと、セラミドとを、表1に示される組成となるように配合して、トリグリセリド/脂肪酸(質量比)が0.81/1である皮脂モデルを調製した(実施例1)。実施例1で得られた皮脂モデルは、頭部の見た目のべたつき感を与える傾向があり、かつ40〜50歳代の男性に多く見られる頭皮皮脂のモデルである。
【0056】
また、炭化水素化合物と、スクワレンと、ワックスエステルと、トリグリセリドと、脂肪酸と、コレステロールと、セラミドとを、表1に示される組成となるように配合して、トリグリセリド/脂肪酸(質量比)が0.34/1である皮脂モデル(比較例1)を調製した。比較例1で得られた皮脂モデルは、頭部の見た目のべたつき感を与えない傾向があり、かつ20歳代の男性に多く見られる頭皮皮脂のモデルである。
【0057】
前記炭化水素化合物として、常温(25℃)で液状の飽和炭化水素化合物である流動パラフィン〔ゾンネボーン・インク(Sonneborn Inc.)製、商品名:KAYDOL〕を用いた。また、前記スクワレンとして、和光純薬工業(株)製、商品名:スクワレンを用いた。前記ワックスエステルとして、パルミチン酸ヘキサデシル〔和光純薬工業(株)製、商品名:パルミチン酸ヘキサデシル〕とミリスチン酸ミリスチル〔花王(株)製、商品名:エキセパールMY−M〕とオレイン酸オレイル〔コグニスジャパン(株)製、商品名:CETIOL〕との混合物〔パルミチン酸ヘキサデシル:ミリスチン酸ミリスチル:オレイン酸オレイル(質量比)=7:2:5〕を用いた。前記トリグリセリドとして、トリステアリン〔ナカライテスク(株)製、商品名:トリステアリン〕とトリパルミチン〔和光純薬工業(株)製、商品名:トリパルミチン〕とトリミリスチン〔和光純薬工業(株)製、商品名:トリミリスチン〕とトリオレイン〔和光純薬工業(株)製、商品名:トリオレイン〕との混合物〔トリステアリン:トリパルミチン:トリミリスチン:トリオレイン(質量比)=1:8:3:9〕を用いた。前記脂肪酸として、ミリスチン酸〔ナカライテスク(株)製、商品名:ミリスチン酸〕とパルミチン酸〔ナカライテスク(株)製、商品名:パルミチン酸〕とステアリン酸〔和光純薬工業(株)製、商品名:ステアリン酸〕とオレイン酸〔和光純薬工業(株)製、商品名:オレイン酸〕との混合物〔ミリスチン酸:パルミチン酸:ステアリン酸:オレイン酸(質量比)=4:10:2:10〕を用いた。前記コレステロールとして、和光純薬工業(株)製、商品名:コレステロールを用いた。前記セラミドとして、セラミド2〔(2S,3R)−2−オクタデカノイルアミノオクタデカン−1,3−ジオール、高砂香料工業(株)製、商品名:セラミド TIC−001〕を用いた。
【0058】
【表1】

【0059】
(試験例1)
市販のシャンプーをその濃度が7質量%となるように精製水に溶解させ、シャンプー水溶液を得た。
【0060】
実施例1または比較例1で得られた皮脂モデルを60℃に加熱して液化させた。得られた皮脂モデル0.25gをケラチン布(20mm×20mm)に均一に塗布した。皮脂モデル塗布後のケラチン布を35℃で12時間以上静置した。
【0061】
つぎに、液温が45℃に保たれた前記シャンプー水溶液100mLが入った容器に、皮脂モデル塗布後のケラチン布を入れた。振動数60min-1、振幅15mmとなるように前記容器を60分間振盪させることにより、皮脂モデル塗布後のケラチン布を洗浄した。
【0062】
洗浄後のケラチン布に残存した皮脂モデルをクロロホルムで抽出した。得られた抽出物を、GC−FIDに供し、皮脂モデルに含まれる成分(脂肪酸、スクワレン、ワックスエステルまたはトリグリセリド)に対応するピークの面積(以下、「面積A」という)を求めた。また、洗浄後のケラチン布に残存した皮脂モデルの代わりに洗浄前のケラチン布に付着した皮脂モデルを用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、前記成分に対応するピークの面積(以下、「面積B」という)を求めた。つぎに、前記脂質の残存率〔(面積A/面積B)×100〕を算出した。試験例1において、成分の種類と残存率との関係を調べた結果を図6に示す。図6中、白色バーは実施例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率および黒色バーは比較例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率を示す。
【0063】
図6に示された結果から、実施例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率は、比較例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率と比べて高いことがわかる。これらの結果から、実施例1で得られた皮脂モデルは、前記市販のシャンプーでは十分に洗浄することができないことがわかる。したがって、かかる結果から、40〜50歳代の男性の頭皮皮脂は、前記市販のシャンプーでは十分に洗浄することができないことが示唆される。
【0064】
(試験例2)
実施例1で得られた皮脂モデルおよび比較例1で得られた皮脂モデルにより、頭部のべたつき感が生じるかどうかを検証した。
【0065】
ウィッグ〔スタッフス社製、商品名:ナチュラルヘアーNo.Y−600ユーカリ〕の半頭の一方に、実施例1で得られた皮脂モデル0.5gを塗布した。また、他方の半頭に、比較例1で得られた皮脂モデル0.5gを塗布した。つぎに、ウィッグを相対湿度60%、温度23℃に保たれた実験室内で24時間静置した。
【0066】
その後、パネラー20人に、実施例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭および比較例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭のどちらが見た目または触感のべたつき感を感じさせるかを判定させることにより、べたつき感の評価を行なった。また、パネラー21人に、実施例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭および比較例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭のどちらが触感のべたつき感を感じさせるかを判定させることにより、触感のべたつき感の評価を行なった。見た目のべたつき感および触感のべたつき感を評価した結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示された結果から、実施例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭に見た目のべたつき感および触感のべたつき感を感じるパネラーの人数は、比較例1で得られた皮脂モデルを塗布した半頭に見た目のべたつき感および触感のべたつき感を感じるパネラーの人数と比べて多い傾向があることがわかる。したがって、これらの結果から、また、実施例1で得られた皮脂モデルは、頭部にべたつき感を与える頭皮皮脂として用いることができることがわかる。また、試験例1および試験例2の結果から、実施例1で得られた皮脂モデルによれば、40〜50歳代の男性で多く見られるのと同様の頭部のべたつき感と、このべたつき感を与える頭皮皮脂の洗浄困難性とを再現することができることが示唆される。
【0069】
(試験例3)
(1)皮脂モデルの調製
炭化水素化合物とスクワレンとワックスエステルとトリグリセリドと脂肪酸とコレステロールとセラミドとを、表3に示される組成となるように配合して、皮脂モデルを得た。なお、炭化水素化合物、スクワレン、ワックスエステル、トリグリセリド、脂肪酸、コレステロールおよびセラミドは、実施例1で用いられた炭化水素化合物、スクワレン、ワックスエステル、トリグリセリド、脂肪酸、コレステロールおよびセラミドと同様である。
【0070】
(2)見た目のべたつき感および触感のべたつき感の評価
ウィッグの半頭の一方に、試験番号1の皮脂モデル0.5gを塗布した。つぎに、ウィッグを、相対湿度60%、温度23℃に保たれた実験室内で24時間静置した。
【0071】
その後、パネラー5人に、皮脂モデルが塗布された半頭における見た目のべたつき感と、皮脂モデルが塗布されていない半頭におけるべたつき感とを比較させることにより、見た目のべたつき感の評価を行なった。
【0072】
また、パネラー5人に、皮脂モデルが塗布された半頭における触感のべたつき感と、皮脂モデルが塗布されていない半頭における触感のべたつき感とを比較させることにより、触感のべたつき感の評価を行なった。
【0073】
見た目または触感のべたつき感の評価は、以下のとおりである。
〔評価基準〕
5点:べたついている
4点:ややべたついている
3点:普通
2点:ややべたついていない
1点:全くべたついていない
【0074】
また、試験番号1の皮脂モデルの代わりに試験番号2〜8のいずれかの皮脂モデルを用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、見た目のべたつき感および触感のべたつき感の評価を行なった。
【0075】
試験例3において、見た目のべたつき感および触感のべたつき感を評価した結果を表3に示す。なお、表中の見た目のべたつき感および触感のべたつき感それぞれの評価結果において、「A」は、パネラー5人による評価の合計点が20〜25点であること、「B」は、パネラー5人による評価の合計点が15〜19点であること、「C」はパネラー5人による評価の合計点が10〜14点であること、「D」はパネラー5人による評価の合計点が5〜9点であることを示す。
【0076】
(3)トリグリセリドの残存性の評価
図6に示された結果から、実施例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率と比較例1で得られた皮脂モデルを用いたときの成分の残存率との差のなかでも、実施例1で得られた皮脂モデルを用いたときのトリグリセリドの残存率と比較例1で得られた皮脂モデルを用いたときのトリグリセリドの残存率との差がもっとも大きくなっていることがわかる。したがって、頭皮皮脂において、トリグリセリドの含有率の増加が、頭部のべたつき感が生じる一因や、このべたつき感を与える頭皮皮脂の洗浄が困難である一因となっていると考えられる。
【0077】
そこで、皮脂モデルの有用性の評価として、以下のようにトリグリセリドの残存性を調べた。
【0078】
まず、試験例1において、実施例1または比較例1で得られた皮脂モデルの代わりに試験番号1〜8のいずれかの皮脂モデルを用いたことを除き、試験例1と同様の操作を行ない、トリグリセリドの残存率を算出した。そして、以下の評価基準により、トリグリセリドの残存性を評価した。試験例3において、トリグリセリドの残存性を評価した結果を表3に示す。なお、表中のトリグリセリドの残存性の評価結果において、「A」は残存率が100〜75%であること、「B」は残存率が74〜50%であること、「C」は残存率が49〜25%であること、「D」は残存率が24〜0%であることを示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示された結果から、試験番号3〜8の皮脂モデルを用いた場合の見た目のべたつき感が「B」または「A」、触感のべたつき感が「B」または「A」、トリグリセリドの残存性が「B」または「A」であることがわかる。したがって、炭化水素化合物とスクワレンとワックスエステルとトリグリセリドと脂肪酸とコレステロールとセラミドとを含有する皮脂モデルにおいて、トリグリセリド/脂肪酸(質量比)を0.57/1以上とすることにより、40〜50歳代の男性で多く見られるのと同様の頭部のべたつき感と、このべたつき感を与える頭皮皮脂の洗浄困難性とを再現することができることが示唆される。
【0081】
(試験例4)
試験例1において、無香料シャンプーの代わりに市販のシャンプー(シャンプーA、シャンプーBまたはシャンプーC)を用いたことを除き、試験例1と同様の操作を行ない、トリグリセリドの残存率を算出した。試験例4において、皮脂モデルの種類およびシャンプーの種類とトリグリセリドの残存率との関係を調べた結果を図7に示す。
【0082】
図7に示された結果から、実施例1で得られた皮脂モデルを用いた場合、市販のシャンプーAは、市販のシャンプーBおよびシャンプーCと比べ、トリグリセリドの残存率が低いことがわかる。かかる結果から、市販のシャンプーAは、市販のシャンプーBおよびCと比べ、実施例1で得られた皮脂モデルに対する洗浄性に優れることから、頭部のべたつき感を与える頭皮皮脂、特に40〜50歳代の男性で多く見られる頭皮皮脂に対する洗浄性にも優れていることが示唆される。
【0083】
一方、比較例1で得られた皮脂モデルを用いた場合、市販のシャンプーAは、市販シャンプーBおよびCと比べ、トリグリセリドの残存率が高くなっており、比較例1で得られた皮脂モデルに対する洗浄性が低いことがわかる。かかる結果から、比較例1で得られた皮脂モデルでは、頭部のべたつき感を与える頭皮皮脂、特に、40〜50歳代の男性で多く見られる頭皮皮脂に対する洗浄性を正確に評価することができないことがわかる。
【0084】
したがって、実施例1で得られた皮脂モデルを用いることにより、40〜50歳代の男性で多く見られるのと同様の頭部のべたつき感を与える頭皮皮脂に対するシャンプーなどの洗浄性を評価することができることがわかる。
【0085】
(製造例1)
アニオン界面活性剤〔新日本理化(株)製、商品名:リカマイルド ES−100、30質量%ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム〕25gを精製水125gに溶解させ、界面活性剤を5質量%含有している擬似シャンプー組成物(シャンプーD)を得た。
【0086】
(製造例2)
両性界面活性剤〔花王(株)製、商品名:アンヒトール20HD、30質量%ラウリルヒドロキシスルホベタイン〕25gを精製水125gに溶解させ、界面活性剤を5質量%含有している擬似シャンプー組成物(シャンプーE)を得た。
【0087】
(試験例5)
試験例1において、無香料シャンプーの代わりに製造例1で得られたシャンプーDまたは製造例2で得られたシャンプーEを用いたことを除き、試験例1と同様の操作を行ない、トリグリセリドの残存率を算出した。試験例5において、皮脂モデルの種類およびシャンプーの種類とトリグリセリドの残存率との関係を調べた結果を図8に示す。
【0088】
図8に示された結果から、実施例1で得られた皮脂モデルを用いた場合、シャンプーDおよびシャンプーEそれぞれでの洗浄後のトリグリセリドの残存率の間で、差が見られることがわかる。したがって、実施例1で得られた皮脂モデルを用いることにより、頭部のべたつき感を与える頭皮皮脂、特に、40〜50歳代の男性で多く見られる頭皮皮脂に対するシャンプーなどの洗浄力の大きさを評価することができることがわかる。これに対して、比較例1で得られた皮脂モデルを用いた場合には、シャンプーDおよびシャンプーEそれぞれでの洗浄後に、トリグリセリドがほとんど残存していないことから、洗浄力の大きさを評価するのには適していないことがわかる。
【0089】
以上説明したように、炭化水素化合物とスクワレンとワックスエステルとトリグリセリドと脂肪酸とコレステロールとセラミドとを含有し、トリグリセリド/脂肪酸(質量比)が0.57/1以上である皮脂モデルを用いることにより、ヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができることがわかる。したがって、前記皮脂モデルによれば、べたつき感を与える皮脂、特に、40〜50歳代の男性で多く見られる皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性を的確に評価することができることがわかる。また、前記皮脂モデルを用いることにより、人頭を用いなくてもヒトの頭部のべたつき感を的確に再現することができることから、前記皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性を簡便な操作で評価することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部のべたつき感の低減効果または頭部に前記べたつき感を与える皮脂に対する洗浄性を評価するための皮脂モデルであって、トリグリセリドと脂肪酸とを含有し、トリグリセリドと脂肪酸との質量比(トリグリセリド/脂肪酸)が0.57/1以上であることを特徴とする皮脂モデル。
【請求項2】
トリグリセリドを20〜55質量%含有してなる請求項1に記載の皮脂モデル。
【請求項3】
前記トリグリセリドが、炭素数7〜26のアシル基を有するトリグリセリドである請求項1または2に記載の皮脂モデル。
【請求項4】
前記トリグリセリドが、トリステアリン、トリパルミチン、トリミリスチンおよびトリオレインを含有する混合物である請求項3に記載の皮脂モデル。
【請求項5】
前記脂肪酸が、炭素数7〜26の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である請求項1〜4に記載の皮脂モデル。
【請求項6】
前記脂肪酸が、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸を含有する混合物である請求項5に記載の皮脂モデル。
【請求項7】
頭部にべたつき感を与える皮脂に対する頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載の皮脂モデルが毛髪、人工毛髪またはケラチン繊維基材に塗布されてなる被検体を頭髪用洗浄剤で洗浄した後、前記被検体上に残存している皮脂モデルに含まれる脂質の量を測定し、前記脂質の量によって頭髪用洗浄剤の洗浄性を評価することを特徴とする頭髪用洗浄剤の洗浄性の評価方法。
【請求項8】
前記頭部にべたつき感を与える皮脂が、中高年のヒトの頭皮皮脂である請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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