説明

皮脂取りクロスおよびその製造方法

【課題】単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含む布帛で構成され、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取りクロスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛にバフ加工を施すことにより、クロス表面における表面粗さが算術平均高さRaで30μm以下である皮脂取りクロスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含む布帛で構成され、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取りクロスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活において顔面に皮脂が分泌されて、テカリやべとつきが発生するのは、男女を問わず不快である。これに対して、従来脂取り紙が多く用いられてきたが、1度使用すると廃棄しゴミとなる環境問題や、明らかに皮脂を除去していることが他人から見ても分かるといった問題があった(例えば、特許文献1参照)。また、脂取り紙では、素材そのものが硬いため、顔面の凹凸に沿いにくく十分に皮脂を除去できなかったり、肌を傷つけたりする問題もあった。
【0003】
このため、自然に生活の中で分泌された皮脂を除去できるハンカチ等が求められおり、使い捨てではなく、マイクロファイバーを用いた皮脂取りクロスが提供されてきた(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、かかる皮脂取りクロスの皮脂取り性能は十分ではなく、脂取り紙のように押し当てるだけで十分な皮脂除去性は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−158293号公報
【特許文献2】特開2004−293010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含む布帛で構成され、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取りクロスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、超極細繊維を用いて伸縮性の良好な皮脂取り用布帛を得ると、肌へのフィット性が高まり優れた皮脂取り性能を呈することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛で構成される皮脂取りクロスであって、クロス表面における表面粗さが算術平均高さRaで30μm以下であることを特徴とする皮脂取りクロス。」が提供される。
【0008】
その際、前記布帛が編物組織を有することが好ましい。前記フィラメント糸Aがポリエステルからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aのフィラメント数が3000本以上であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記布帛に前記フィラメント糸Aが50重量%以上含まれることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛にバフ加工を施すことを特徴とする、前記の皮脂取りクロスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含む布帛で構成され、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取りクロスおよびその製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、十分な皮脂取り性能が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。
【0012】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、優れた皮脂取り性を得る上で3000本以上(より好ましくは5000〜10000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0014】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、ポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0015】
本発明の皮脂取りクロスを構成する布帛は、前記のフィラメント糸Aのみで構成されることが最も好ましく、前記フィラメント糸Aが50重量%以上含まれることが好ましい。該布帛に他の糸条が1種類または複数種類含まれていてもよい。その際、かかる他の糸条としては、単繊維径が1000nmより大の、前記のようなポリエステルからなるポリエスエテル糸条や弾性繊維糸が好ましい。特に、他の糸条として弾性繊維糸が含まれていると、布帛にさらに優れた伸縮性が付加され好ましい。
【0016】
ここで、かかる弾性繊維糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる非吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリウレタン弾性繊維糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、合成ゴム系弾性繊維糸、天然ゴム系弾性繊維糸などが好適に例示される。
【0017】
前記弾性繊維糸の総繊度としては、5〜100dtex(より好ましくは10〜40dtex)の範囲内であることが好ましい。前記弾性繊維糸の破断伸度は200%以上のものが好ましく、染色加工時の熱処理によって性能を損なわないものが好ましい。
【0018】
本発明の皮脂取りクロスは、前記の布帛で構成される皮脂取りクロスであって、クロス表面における表面粗さが算術平均高さRaで30μm以下(好ましくは1〜25μm)であることが肝要である。該算術平均高さRaが30μmより大きいと、すなわち表面粗さが大きいと充分な皮脂取り性能が得られないおそれがあり好ましくない。また、表面粗さが最大高さRzで300μm以下(より好ましくは50〜250μm)であることが、充分な皮脂取り性能を得る上で好ましい。
【0019】
本発明の皮脂取りクロスを構成する布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0020】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0021】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0022】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0023】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメントは、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維マルチフィラメントにおいて、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtex(好ましくは30〜100dtex)の範囲内であることが好ましい。ここで、
次いで、かかる海島型複合繊維マルチフィラメントを単独で用いるか、必要に応じて単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸など他の糸とともに用いて、布帛を製編または製織する。その際、布帛の組織は特に限定されず、通常の方法で得られた、織物または編物または不織布でよい。特に布帛のソフト性および肌へのフィット性を得る上で編物が好ましい。
【0024】
ここで、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0025】
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、天竺、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。天竺の編組織で2種の糸条で複合ループを形成したプレーテイング天竺、その際、一方の糸条を弾性繊維糸条としたベア天竺などが好適に例示される。たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0026】
次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維マルチフィラメントを単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度1〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜70℃の温度で処理するとよい。
【0027】
さらに、該布帛にスパンレース用のウオーターニードル装置で高圧水を噴射すると、凝集密着しているフィラメント糸Aをばらけさせ、前記のような表面粗さを有する布帛がえられ易く好ましい。
【0028】
次いで、該布帛にバフ加工を施し布帛表面を平坦にすることにより、本発明の皮脂取りクロスが得られる。ここで、布帛にバフ加工を施さない場合は、クロス表面が平坦にならないため、クロス表面における表面粗さが算術平均高さRaで30μm以下の皮脂取りクロスが得られないおそれがあり好ましくない。なお、かかるバフ加工は通常のバフ加工でよく、例えば、粒度#50〜#200番のエメリーペーパーを用いたバフ加工でよい。
【0029】
また、常法の染色加工、起毛加工、撥水加工、吸水加工、バッフィング加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を前記布帛に付加適用してもよい。特に、布帛に染色加工(例えば明度が10〜90の範囲内。)が施されていると、皮脂取り前後の色の変化により皮脂が取れたことを目で確認することができ好ましい。
【0030】
かかる布帛をそのまま用いて皮脂取りクロスとしてもよいし、適宜縫製してもよいし、アクセサリーなどの付属品を取りつけて皮脂取りクロスとしてもよい。例えば、布帛周辺反末を飾りミシンで縫製すると、ホツレ防止にもなり、高級感も得られる。
【0031】
かくして得られた皮脂取りクロスには、超極細繊維である前記フィラメント糸Aが含まれており、クロス表面が平坦なので、肌へのフィット性がよく、優れた皮脂取り性能が得られる。その際、布帛の表面および裏面に前記フィラメント糸Aのみが露出していると、表面および裏面がフラットとなり、肌への刺激が少なく、優れた皮脂取り性能が得られる。
【0032】
また、かかる皮脂取りクロスにおいて、クロスの厚さが0.2〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。クロスの厚さが0.2mmよりも小さいと拭取った皮脂が布帛裏面にしみだし、手が汚れるおそれがある。逆に、クロスの厚さが1.0mmよりも大きいと、厚さが厚すぎて収納が困難になるおそれがある。
また、かかる皮脂取りクロスにおいて、布帛の目付けとしては100〜250g/mの範囲内であることが好ましい。
【0033】
ここで、本発明で言う皮脂取りクロスとは、美容やヘルスケアのために使用する皮脂取りクロス全般のことを言い、例えば、洗顔布やメイク落としのための布やパフ、またスキンケアのためのパック、布などだけにととどまらず、保湿成分や美白成分などを肌表面に滞留、また浸透させるためのマッサージャーやパッチ、インナーウエアなど多岐にわたるものである。ここで、美容とは、容姿を美しく整えること全般を言い、具体的にはメイクや化粧落としなどのメイクと呼ばれる分野、スキンケア、ヘアケア、ネイルケア、ボディケアなどのケア分野がある。また、効能としては容姿を一時的に美しく整えるだけでなく、老化防止や若返りなども含まれる。対象とする層は、成人女性だけでなく、男性も含まれ、性別も問わない。また、ヘルスケアとは、美容を除く全ての分野であるが、日常生活一般、健康増進、体質改善、介護などが対象分野となる。このため、対象とする層も、乳児、幼児、学童、生徒、学生、大人、高齢者と年齢層や性別を問わない。また、特に乾燥肌や汗疹、ニキビ、吹き出物、黒ずみのような日常生活は可能であるが、肌にケアが必要な人、あるいはアトピー性皮膚炎や床ずれのような、場合によっては重症の肌疾患患者なども対象となる。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0035】
<溶融粘度>乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
<溶解速度>海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<ナノファイバーのばらけ状態>繊維構造体を液体窒素に浸漬して固まらせた後カットした後、断面(縦61μm×横80μm、面積4880μm)を電子顕微鏡で10箇所撮影し(倍率1500倍)、100本以上のナノファイバーが凝集密着したナノファイバー塊の合計個数をカウントした。合計個数が0個の場合は合格、1個以上の場合は不合格である。
<目付>JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
<表面粗さ>室温20℃、相対湿度65%にコントロールされた人工気象室内にて、5cm角に裁断した試験片を、カラー3Dレーザー顕微鏡VK−8700(キーエンス社製)を用い、JIS B 0601−2001に準拠して、最大高さRz、算術平均粗さRaを算出した。
<皮脂除去性能>室温20℃、相対湿度50%にコントロールされた人工気象室内にて、15cm角に裁断し、4辺をオーバーロックミシンで縫製したハンカチを作成した。皮脂の計測には、油分計セブメーターSM815(CK社製)を用い、前額部と小鼻部の皮脂量を事前に計測した。その後、上記ハンカチを3秒間擦ることなく軽くそれぞれの部位に押当て、再び皮脂量をそれぞれの部位にて計測した。皮脂除去率を次の式にて算出した。
皮脂除去率(%)=(押当て前皮脂量−押当て後皮脂量)/押し当て後皮脂量×100
【0036】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用)は55dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0037】
次いで、前述の海島型複合延伸糸を28ゲージの通常の丸編ダブル機を使用して、スムース編物を編成した。そして、得られた編地を海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、25g/リットルのNAOH水溶液で、70℃にて30重量%アルカリ減量した後、常法の染色加工を行った。
次いで、この編地(布帛)に対し、スパンレース用のウオーターニードル装置(噴射孔径:0.1mm、孔ピッチ:1.0mm、孔配列:2列千鳥)にて、水圧60kg/cm2、編地の送り速度2m/分、編地の支持メッシュ:50メッシュの条件で高圧水を噴射した。
次いで、この編地に、粒度#150番のエメリーペーパーを用いてバフ加工を施すことにより、皮脂取りクロスを得た。
得られた皮脂取りクロス(編地)の密度は63コース/60ウエール、編地中のマルチフィラメント糸条の総繊度は37dtex、単繊維径が710nm、単糸数8360、目付け100g/mであった。該編物においてナノファイバー同士が凝集密着することなく、ばらけた状態で存在しており、ナノファイバー塊の個数は0個であった。また、表面粗さはRzが210、Raは18であった。該皮脂取りクロス(編物)を用いて、皮脂取り性を評価したところ、93%と極めて高い皮脂除去性を示した。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、バフ加工を施さないこと以外は実施例1と同様にした。得られた皮脂取りクロス(編地)において、表面粗さはRzが373、Raは38であった。該皮脂取りクロス(編物)を用いて、皮脂取り性を評価したところ、60%と低い皮脂除去性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含む布帛で構成され、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取りクロスおよびその製造方法が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛で構成される皮脂取りクロスであって、クロス表面における表面粗さが算術平均高さRaで30μm以下であることを特徴とする皮脂取りクロス。
【請求項2】
前記布帛が編物組織を有する、請求項1に記載の皮脂取りクロス。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなる、請求項1または請求項2に記載の皮脂取りクロス。
【請求項4】
前記フィラメント糸Aのフィラメント数が3000本以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の皮脂取りクロス。
【請求項5】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜4のいずれかに記載の皮脂取りクロス。
【請求項6】
前記布帛に前記フィラメント糸Aが50重量%以上含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の皮脂取りクロス。
【請求項7】
単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛にバフ加工を施すことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の皮脂取りクロスの製造方法。

【公開番号】特開2011−6806(P2011−6806A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149780(P2009−149780)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】