説明

皮脂取り用布帛および皮脂取り製品

【課題】単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含み、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とする皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含み、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮脂取りシートは、化粧用品として広く用いられており、使用方法は、化粧前あるいは化粧後に顔や首などに滲み出た皮脂を、肌の表面に軽く押しあてて皮脂を吸い取るものである。皮脂取りシートの例としては紙製のシートがある(例えば、特許文献1参照)。該シートは皮脂が取れたことを、使用部分と未使用部分との色の変化から十分に確認できるが、紙製であるためにシート表面が平坦で空隙が少ないこと、および柔軟性がないため肌に十分にフィットせず、皮脂取り性能が不十分という問題があった。また、厚みが薄いため吸い取った皮脂がシートの裏面から滲み出して手がべとつくという問題もあった。また、該シートは紙製のため肌に押しあてた際に粗硬感があるという欠点もあった。
【0003】
また、最近では、極細繊維で構成された平織りクロスが提案されている(例えば、特許文献2参照)。該クロスでは、粗硬感は改善されているが、肌へのフィット性に劣り、結果として皮脂取り量が不足するという問題があった。さらには、厚みが薄いため、吸い取った皮脂がシートの裏面から滲み出して手がべとつくという問題もあった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−158293号公報
【特許文献2】特開2004−293010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含み、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、超極細繊維を用いて伸縮性の良好な皮脂取り用布帛を得ると、肌へのフィット性が高まり優れた皮脂取り性能を呈することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とする皮脂取り用布帛。」が提供される。
【0008】
その際、前記フィラメント糸Aがポリエステルからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、他の糸として、単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸が布帛に含まれることが好ましい。
【0009】
本発明の皮脂取り用布帛において、布帛が編物組織を有することが好ましい。また、布帛に染色加工が施されていることが好ましい。また、布帛の表面および裏面において、前記フィラメント糸Aのみが露出していることが好ましい。また、布帛の厚さが0.2〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。また、布帛の目付けが100〜250g/mの範囲内であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の皮脂取り用布帛を用いてなる、美容用具、ヘルスケア用具からなる群より選択されるいずれかの皮脂取り製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含み、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、十分な皮脂取り性能が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、優れた密着性を得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、ポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0016】
本発明の皮脂取り用布帛は、前記のフィラメント糸Aのみで構成されていてもよいが、布帛重量に対して30重量%以下であれば、他の糸条が1種類または複数種類含まれていてもよい。その際、かかる他の糸条としては、単繊維径が1000nmより大の、前記のようなポリエステルからなるポリエスエテル糸条や弾性繊維糸が好ましい。特に、他の糸条として弾性繊維糸が含まれていると、布帛にさらに優れた伸縮性が付加され好ましい。
【0017】
ここで、かかる弾性繊維糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる非吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリウレタン弾性繊維糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、合成ゴム系弾性繊維糸、天然ゴム系弾性繊維糸などが好適に例示される。
【0018】
前記弾性繊維糸の総繊度としては、5〜100dtex(より好ましくは10〜40dtex)の範囲内であることが好ましい。前記弾性繊維糸の破断伸度は200%以上のものが好ましく、染色加工時の熱処理によって性能を損なわないものが好ましい。
【0019】
本発明の皮脂取り用布帛は、前記のフィラメント糸Aを含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上(好ましくは200〜600%)であることが肝要である。特に経方向および緯方向ともに、伸度が150%以上(好ましくは200〜600%)であることが好ましい。布帛の伸度が150%以上であることにより肌へのフィット性が高まり、優れた皮脂取り性能が得られる。該伸度が150%未満では、十分な皮脂取り性能が得られないおそれがある。
【0020】
このように、布帛の伸度を前記のように150%以上とするためには、前記フィラメント糸Aと弾性繊維糸で布帛を構成するとよい。その際、前記フィラメント糸Aと弾性繊維糸とが複合糸として含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交織や交編されていてもよい。また、必要に応じて、さらに他の繊維として単繊維径が1000nmより大のポリエステル繊維などが含まれていてもさしつかえない。
【0021】
本発明の布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0022】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0023】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0024】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0025】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtex(好ましくは30〜100dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0026】
次いで、かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸を単独で用いるか、必要に応じて単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸など他の糸とともに用いて、布帛を製編または製織する。その際、布帛の組織は特に限定されず、通常の方法で得られた、織物または編物または不織布でよい。特に、前記のような布帛の伸度を得る上で編物が好ましい。
【0027】
ここで、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0028】
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、天竺、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。天竺の編組織で2種の糸条で複合ループを形成したプレーテイング天竺、その際、一方の糸条を弾性繊維糸条としたベア天竺などが好適に例示される。たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0029】
次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度1〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜70℃の温度で処理するとよい。
【0030】
また、常法の染色加工、起毛加工、撥水加工、吸水加工、バッフィング加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。特に、布帛に染色加工(例えば明度が10〜90の範囲内。)が施されていると、皮脂取り前後の色の変化により皮脂が取れたことを目で確認することができ好ましい。
【0031】
かくして得られた皮脂取り用布帛には、超極細繊維である前記フィラメント糸Aが含まれており、しかも伸度が大きいので、肌へのフィット性がよく、優れた皮脂取り性能が得られる。その際、布帛の表面および裏面に前記フィラメント糸Aのみが露出していると、表面および裏面がフラットとなり、肌への刺激が少なく、優れた皮脂取り性能が得られる。
【0032】
また、かかる皮脂取り用布帛において、布帛の厚さが0.2〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。布帛の厚さが0.2mmよりも小さいと拭取った皮脂が布帛裏面にしみだし、手が汚れるおそれがある。逆に、布帛の厚さが1.0mmよりも大きいと、厚さが厚すぎて収納が困難になるおそれがある。
また、かかる皮脂取り用布帛において、布帛の目付けとしては100〜250g/mの範囲内であることが好ましい。
【0033】
次に、本発明の皮脂取り製品は、前記の皮脂取り用布帛を用いてなる、美容用具、ヘルスケア用具からなる群より選択されるいずれかの皮脂取り製品である。
ここで、本発明で言う美容用具とは、美容のために使用する用具全般のことを言い、例えば、マスカラやマニキュア、メイクアップのための筆などのメイク用具、洗顔布やメイク落としのための布やパフ、またスキンケアのためのパック、布、ブラシなどだけにととどまらず、保湿成分や美白成分などを肌表面に滞留、また浸透させるためのマッサージャーやパッチ、インナーウエアなど多岐にわたるものである。ここで、美容とは、容姿を美しく整えること全般を言い、具体的にはメイクや化粧落としなどのメイクと呼ばれる分野、スキンケア、ヘアケア、ネイルケア、ボディケアなどのケア分野がある。また、効能としては容姿を一時的に美しく整えるだけでなく、老化防止や若返りなども含まれる。対象とする層は、成人女性だけでなく、男性も含まれ、性別も問わない。
【0034】
また、本発明で言うヘルスケア用具とは、肌の汚れ落としのためのパフ、拭き布、ブラシや薬効成分などを肌表面に滞留させるためのパックやパッチ、インナーウエア、また紙おむつや生理用品など多岐にわたるものである。ここでヘルスケアとは、美容を除く全ての分野であるが、日常生活一般、健康増進、体質改善、介護などが対象分野となる。このため、対象とする層も、乳児、幼児、学童、生徒、学生、大人、高齢者と年齢層や性別を問わない。また、特に乾燥肌や汗疹、ニキビ、吹き出物、黒ずみのような日常生活は可能であるが、肌にケアが必要な人、あるいはアトピー性皮膚炎や床ずれのような、場合によっては重症の肌疾患患者なども対象となる。
【0035】
また、本発明の美容用具あるいはヘルスケア用具においては、ワイピング機能を前記の布帛が担当するものである。これらの用具は前記の布帛からだけで成り立っていても、マッサージャーやブラシ、筆、パッチ、インナーウエアなどのように用具の一部にナノファイバーが搭載されている物でも良い。さらには、布帛周辺反末を飾りミシンで縫製すると、ホツレ防止にもなり、また、高級感も得られる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0037】
<単繊維径と繊維径の均一性>
透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維の横断面を撮影することにより測定した。n数5で測定しその平均値を求めた。
<伸度>
JIS L 1096 8.12に従って測定した。
<厚み>
JIS L 1096 8.5に従って測定した。
<目付>
JIS L 1096 8.4.2に従って測定した。
【0038】
<皮脂取り性能の評価方法>
模擬皮脂として牛脂を用いた。シリコンゴム板の上に約20mgとなるように牛脂をスポット状に滴下し、その上に布帛試料を乗せ2g/cmの一定荷重で10秒間押し当てた。その後試料を取り除き、シリコンゴム板上の牛脂の重量を測定し、次の式で皮脂の除去率を求めた。
皮脂の除去率(%)=(押し当て前の牛脂の重量(mg)−押し当て後の牛脂の重量(mg))/押し当て前の牛脂の重量(mg)×100
皮脂の除去率が80%以上を「○」、80%未満を「×」とした。
【0039】
<布帛裏面への皮脂滲みの評価方法>
前記皮脂取り性能の評価方法において、布帛試料の裏側(牛脂に押し当てる反対面)に白色のろ紙を重ね、その上から2g/cmの一定荷重で10秒間押し当てた。押し当て後のろ紙への脂移りについて5名のモニターにより官能評価を行った。モニターはろ紙を見た時の状態を次の基準により評価し、10点以上のものは「○」、10点以下のものは「×」と判定した。
3点:ろ紙に脂が殆ど付着していない。
2点:ろ紙に脂が少し付着してる。
1点:ろ紙に脂がかなり付着している。
【0040】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。該海島型複合延伸糸と、2.2倍にドラフトした市販のポリウレタン弾性糸22dtex/1filとを引きそろえて、ハーフ組織(バック:10/12、ミドル:23/10、フロント:10/23による編方)によりハーフ組織の経編生機を得た。次いで、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の染色仕上げ加工、湿熱加工、乾熱加工を行った。
【0041】
得られた編物において、フィラメント糸Aの平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し15%であった。ポリウレタン弾性糸の単繊維径は45μm、伸度は経方向250%、緯方向285%、厚みは0.44mm、目付は148g/mであった。また、得られた編物の表面および裏面にはフィラメント糸Aのみが露出しており、フラットであった。得られた編物を用いて皮脂取り試験を実施した。皮脂除去率は94%で皮脂取り性能は「○」であった。また、布帛裏面への皮脂滲みについても「○」であった。
【0042】
次いで、該布帛を裁断した後、布帛周辺反末を飾りミシンで縫製して美容用皮脂取り製品を得た。該製品を試験者が使用したところ、皮脂取り性能に優れ、また、肌への刺激が少ないものであった。
【0043】
[比較例1]
実施例1と同様に海島型複合延伸糸56dtex/10filを得た後、該糸を経糸および緯糸に全量配し、経密度128本/2.54cm、緯密度113本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。
【0044】
次いで、該織物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて36%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
【0045】
得られた織物において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの平均繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し30%であった。伸度は経方向60%、緯方向58%、厚みは0.1mm、目付は60g/mであった。得られた織物を用いて皮脂取り試験を実施した。皮脂除去率は68%で皮脂取り性能は「×」であった。また、布帛裏面への皮脂滲みについても「×」であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸を含み、優れた皮脂取り性能を有する皮脂取り用布帛、および該皮脂取り用布帛を用いてなる皮脂取り製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、経方向および緯方向のうち少なくとも一方の伸度が150%以上であることを特徴とする皮脂取り用布帛。
【請求項2】
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなる、請求項1に記載の皮脂取り用布帛。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1または請求項2に記載の皮脂取り用布帛。
【請求項4】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜3のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項5】
他の糸として、単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸が布帛に含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項6】
布帛が編物組織を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項7】
布帛に染色加工が施されている、請求項1〜6のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項8】
布帛の表面および裏面において、前記フィラメント糸Aのみが露出している、請求項1〜7のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項9】
布帛の厚さが0.2〜1.0mmの範囲内である、請求項1〜8のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項10】
布帛の目付けが100〜250g/mの範囲内である、請求項1〜9のいずれかに記載の皮脂取り用布帛。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の皮脂取り用布帛を用いてなる、美容用具、ヘルスケア用具からなる群より選択されるいずれかの皮脂取り製品。

【公開番号】特開2009−268795(P2009−268795A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123520(P2008−123520)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】