説明

皮膚に薬物を放出するための皮膚膜形成液体製剤

本発明は、皮膚表面の角質層に活性剤を送達するのに有用である、皮膚への適用後皮膚膜を形成する、キトサン、キトサン誘導体、または生理学的に許容できるそれらの塩を含む液体組成物を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面上および角質層中に活性剤を送達するのに有用である、皮膚への適用後に皮膚膜を形成する、薬物または医療器具または衛生製品または化粧品を調製するための、キトサン、キトサン誘導体、または生理学的に許容できるそれらの塩を含む液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物、衛生製品、界面活性剤、または化粧品に含まれている有効成分の皮膚への送達は、クリーム、軟膏、ゲル、粉末、またはフォームなどの通常の製剤が皮膚表面に持続的に接触することができず、皮膚への浸透性を改善するために密封的薬物適用を必要とすることが多いという点で、しばしば問題となる。密封的薬物適用は、活性剤の皮膚への浸透性を改善するが、角質層の表面層に損傷を与え、皮膚は化学的、物理的、または微生物学的な損傷の侵襲に対して耐性が低くなる。刺激作用または感作現象が生じ、患者が処置を中止することがある。
【0003】
キトサン誘導体は、甲殻類の外骨格から抽出されるキチンに由来するアミノ多糖であり、当技術分野で、キトサン誘導体が様々な調製物において使用されていることで知られている。特許文献1は、タンパク質またはペプチドを分離するための担体として有用である、微粒子の成分としてキトサンを開示している。特許文献2は、有効成分としてパラフィン蝋を含む、皮膚のマッサージのためのパック組成物の成分としてキトサンを報告している。特許文献3は、ボツリヌス毒素のゲル様またはスポンジ状の調製物の成分として、しわ治療薬を得るためのキトサンの使用を教示している。特許文献4は、空洞充填性の創傷包帯に有用なヒドロゲルの成分としてキトサン誘導体を報告している。特許文献5は、多孔性のスポンジ状の触感を有する担体シートの成分として、脱アセチル化度の高いキトサンの組成物を教示している。特許文献6は、ナノサイズの繊維の網状構造の形態のキトサンを含む組成物を開示している。特許文献7は、長時間薬物を保持する規則的な層状構造を有するキトサンの、多層のエアギャップシートを開示している。特許文献8は、皮膚に適用するための薬物における分散安定化剤または乳化剤として用いることができる両親媒性のキトサン誘導体を教示している。最後に、特許文献9は、少なくとも1つの抗真菌薬およびヒドロキシプロピルキトサンを含む爪ワニス組成物を開示している。特許文献10は、ヒドロキシプロピルキトサンと組み合わせたトクサ属(Equisetum)からの1つの薬草の抽出物をベースにした爪の再構成組成物を開示している。
【0004】
爪表面にネイルラッカーを適用した後に得られる膜は一般に強固であり、誤って皮膚に適用した場合、容易に固定し、患者の皮膚に煩わしい感覚を与える。
【0005】
現在、驚くべきことに、キトサン誘導体の液体調製物は、爪に適用するのに有用である他に、皮膚への適用後、揮発性の溶媒が蒸発した後に、薬物および他の活性剤と皮膚表面の緊密な接触を維持するのに適する弾性の膜を形成できることが見出された。キトサン、薬学的活性物質、および揮発性溶媒を含む膜形成溶液は揮発性溶媒を速やかに蒸発させ、弾性の膜を容易に形成させることによって、体幹全体に抗真菌薬を適用することを必要とする表皮の角質層の感染症である癜風などにおいて広い皮膚表面を処置しようとする場合に、一例として、クリーム、ローション、および軟膏に比べて油性の皮膚の煩わしい感覚を避け、乾燥の間の長い待ち時間を避け、皮膚表面に容易にスプレーすることができる。キトサンまたはキトサン誘導体の膜形成溶液はやさしくマッサージすることによって皮膚に適用してもよく、これは、例えば、鼠径部の感染である股部白癬、または頭皮の真菌感染である頭部白癬を処置するために、外陰上または頭皮上にこれを適用する場合に推奨される。キトサンの膜形成溶液は、活性剤が皮膚の深層に速やかに浸透するのを可能にし、したがって、真菌の菌糸が角質層および皮膚の深層に浸透する糸状菌感染などの皮膚の状態だけではなく、皮膚の深層のケラチノサイトが関与する皮膚疾患である、乾癬、扁平紅色苔癬、またはアトピー性皮膚炎の安全な処置に対する有用性をもたらす。さらに、液体キトサン組成物の溶媒が蒸発した後に形成される皮膚膜は、皮膚表面との持続的で緊密な接触を可能にし、適用後長時間、薬物または他の活性剤の持続的な放出を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国特許出願公開第20020084672号明細書
【特許文献2】韓国特許出願公開第20020048534号明細書
【特許文献3】特開2005−306746号公報
【特許文献4】国際公開第2005055924号
【特許文献5】特開2004−231604号公報
【特許文献6】国際公開第03042251号
【特許文献7】国際公開第02057983号
【特許文献8】特開平11−060605号公報
【特許文献9】欧州特許第1303249号明細書
【特許文献10】国際公開第2004/112814号
【特許文献11】米国特許第5,120,530号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gummer,C.L.ら、The skin penetration cell: design update. Int. J. Pharm.、1987年、40巻、101〜104頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、皮膚表面の角質層に活性剤を送達するのに有用である、キトサン、キトサン誘導体、または生理学的に許容できるそれらの塩を含む液体製剤の形の組成物である。キトサン誘導体の中でも、ヒドロキシプロピルキトサン、または他の水溶性キトサンが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
より詳しくは、本発明の組成物の目的は、皮膚への適用後に皮膚膜を形成する、薬物または医療器具または衛生製品または化粧品によって代表される。0.1重量%から10重量%まで、より好ましくは0.2重量%から5重量%まで、最も好ましくは0.25%から2.0%までのキトサンまたはキトサン誘導体の含量、および0.001重量%から15重量%まで、より好ましくは0.2重量%から10重量%まで、最も好ましくは0.4%から5.0%までの少なくとも1つの医薬品活性物質もしくは化粧品活性物質、または植物抽出物を含む溶液、エマルジョン、コロイド、または懸濁液の形態の、キトサンまたはその誘導体の液体調製物は、溶剤の蒸発後、皮膚表面に弾性の膜を形成するのに適しており、前記膜は皮膚表面と緊密に接触し、前記活性剤の角質層中への速やかで、長時間持続する浸透を可能にする。本発明に従って得られた組成物は、皮膚表面にスプレーすることができ、均一で目に見えない膜を残すという点で従来の製剤より優れている。さらに、本発明による組成物は、クリームまたは軟膏のように油性ではないので包帯を汚さず、粉末のシェイク製品のように包帯上に白色または着色した粉末を残さない。さらに、本発明による組成物は、ゲルおよびローションのように皮膚を乾燥させることがなく、ワニスまたは他の弾性の膜形成調製物のように皮膚に適用したときに煩わしい感覚を与えない。
【0010】
薬剤組成物は、適合性の賦形剤および薬学的に許容できる担体を用いて従来の技術に従って調製され、補足的な、または、いずれの場合でも有用な活性を有する他の有効成分を組み合わせて含んでもよい。本発明に従って調製されるこれらの組成物の例には、裸の皮膚または有毛皮膚、頭皮、外陰、間擦部位、指趾間部に適用するための溶液、エマルジョン、懸濁液、コロイドが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は実施例5の6つの実験において無毛マウスの皮膚を通して浸透したシクロピロックスを示す。
【図2】図2は対照の足上にスプレーし、乾燥させた後の、実施例7によるトルナフテート1%組成物(左足)、および参照組成物(右足)の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による組成物は、コルチコステロイド、免疫賦活薬、免疫抑制薬、抗ウイルス薬、細胞増殖抑制薬、抗真菌薬、抗生物質、抗乾癬薬、角質溶解薬、レチノイド、保存剤、昆虫忌避剤、抗酸化剤、植物抽出物からの活性物質を1つまたは複数含み、湿疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、皮膚癌、真菌症、および他の感染症などの皮膚疾患を処置するのに適している。
【0013】
本発明による組成物に含まれ得るコルチコステロイドの例には、21−アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾンまたはそのジプロピオン酸塩、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾンまたはそのジプロピオン酸塩、ベタメタゾンおよびその塩(例えば、安息香酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、リン酸ナトリウムベタメタゾン、リン酸ナトリウムおよび酢酸塩ベタメタゾン、ならびに吉草酸ベタメタゾンを含む)、クロベタゾールまたはそのプロピオン酸塩、ピバル酸クロコルトロン、ヒドロコルチゾンおよびその塩(例えば、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、シピオン酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾン、リン酸ナトリウムヒドロコルチゾン、コハク酸ナトリウムヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンテブタート、および吉草酸ヒドロコルチゾンを含む)、酢酸コルチゾン、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、およびこれらの塩(例えば、酢酸塩およびリン酸ナトリウム)、二酢酸ジフロラゾン、酢酸フルドロコルチゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオロメトロン、フルランドレノリド、ハルシノニド、メドリゾン、メチルプレドニソロンおよびその塩(例えば、酢酸塩、コハク酸ナトリウム)、フロ酸モメタゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニソロンおよびその塩(例えば、酢酸塩、ジエチルアミノアセテート、リン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、テブタート、トリメチルアセテート)、プレドニソン、トリアムシノロンおよびその誘導体(例えば、アセトニド、ベネトニド、ジアセテート、ヘキサアセトニド)が含まれる。
【0014】
本発明による組成物に含まれ得る免疫賦活薬の例には、スクエア酸、イミキモドが含まれる。
【0015】
本発明による組成物に含まれ得る免疫抑制薬の例には、シクロスポリン、タクロリムス、ピメクロリムス、およびシロリムスが含まれる。
【0016】
本発明による組成物に含まれ得る抗ウイルス薬の例には、アシクロビル、ガンシクロビル、リバビリン、バラシクロビル、イミキモド、イドクスウリジン、トロマンタジン、ペンシクロビル、エドクスジン、ドコサノールが含まれる。
【0017】
本発明による組成物に含まれ得る細胞増殖抑制薬の例には、フルオロウラシル、メトトレキセート、ポドフィロトキシンが含まれる。
【0018】
抗真菌薬の例には、1−ヒドロキシ−2−ピリドン化合物およびその塩(例えば、シクロピロックス、リロピロックス、ピロクトン、シクロピロックスオラミン)、イミダゾール誘導体およびその塩(例えば、クロトリマゾール、エコナゾール、イソコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、チオコナゾール、ビフォナゾール、フェンチコナゾール、およびオキシコナゾール)、ポリエン誘導体およびその塩(例えば、ナイスタチン、ナタマイシン、およびアムホテリシン)、アリルアミン誘導体およびその塩(例えば、ナフチフィンおよびテルビナフィン)、トリアゾール誘導体およびその塩(例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール、テルコナゾール、およびボリコナゾール)、モルホリン誘導体およびその塩(例えば、アモロルフィン、および特許文献11で論じられるモルホリン)、グリセオフルビンおよび関連化合物(例えば、グリセオフルビン)、ウンデシレン酸およびその塩(特に、ウンデシレン酸の亜鉛塩およびカルシウム塩)、トルナフテートおよびその塩、ならびにフルシトシンおよびその塩が含まれる。
【0019】
抗真菌薬を天然源、特に植物抽出物から選択することもできる。これらの抽出物の例には、ティーツリー油(ティーツリー(Melaleuca attemifolia))、ラベンダー油(真正ラベンダー(Lavandula officianalis chaix))、およびニームツリー(インドセンダン(Azadirachta indica))の葉の抽出物が含まれる。
【0020】
本発明による組成物に含まれ得る抗生物質の例には、アモキシシリン、アンピシリン、ベンジルペニシリン、セファクロル、セファドロキシル、セファテキシン(cefatexin)、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クラブラン酸、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、エノキサシン、フルクロキサシリン、カナマイシン、リンコマイシン、ミノサイクリン、ナフシリン、ナリジクス酸、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキサシリン、フェノキシメチルペニシリン、テトラサイクリン、およびスルホサリチル酸メクロサイクリンが含まれる。
【0021】
本発明による組成物に含まれ得る抗乾癬薬の例には、アントラセン誘導体(ジスラノールなど)、ソラレン(トリオキサレン、またはメトキサレンなど)、ビタミンD3類似体(カルシトリオール、カルシポトリオール、またはタカルシトールなど)、レチノイド(タザロテン、アシトレチン、またはエトレチナートなど)、フマル酸およびそのエステル(例えば、モノメチルエステル、ジメチルエステル)が含まれる。
【0022】
角質溶解薬は、皮膚の外側角質層を除去するのに、すなわち角質層からの死んだ皮膚細胞の除去を促進するのに有用な皮膚剥離剤である。本発明による組成物に含まれ得る角質溶解薬の例には、サリチル酸、過酸化ベンゾイルが含まれる。
【0023】
本発明による組成物に含まれ得るレチノイドの例には、レチノイン酸、トレチノイン、イソトレチノイン、エトレチナートおよびアシトレチン、タザロテンが含まれる。
【0024】
本発明による組成物に含まれ得る保存剤の例には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、クロルヘキシジン、塩化デカリニウム、トリクロカルバン、トリクロサン、サリチル酸、安息香酸およびそれらの塩、p−ヒドロキシ安息香酸およびそのエステルが含まれる。
【0025】
本発明による組成物に含まれ得る昆虫忌避剤の例には、p−メンタン−3,8−ジオール、N,N−ジエチル−メタ−トルアミド(DEET)、3−[N−ブチル−N−アセチル]−アミノプロピオン酸およびそのエステル(特にエチルエステル)、ピレトロイド(特にペルメトリン)、ピペリジン誘導体(特に2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシル酸およびその1−メチルプロピルエステル(ピカリジン))が含まれる。昆虫忌避剤を、植物抽出物から選択してもよい。これらの抽出物の例には、ユーカリプタス(Eucaliptus)油、シトロネラ(カルカヤ属の種(Cymbopogon spp))油、カンファーブッシュ(Tarchonanthus camphoratus)抽出物が含まれる。
【0026】
本発明による組成物に含まれ得る抗酸化剤の例には、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオンが含まれる。
【0027】
本発明による組成物を、関与する領域にやさしくマッサージすることによって、またはスプレーによって皮膚表面に適用する。蒸発後、長時間または何日間も皮膚に活性剤を持続的に送達するのを可能にする弾性の膜が皮膚表面に形成される。さらに、本発明による組成物を靴の内側表面にスプレーして、例えば抗真菌性の膜を形成させてもよい。
【実施例】
【0028】
本発明の薬剤組成物および使用を、次に、以下の実施例によってさらに十分に記載する。しかし、このような実施例は、例示によって示され、限定的なものではないことに留意すべきである。
【0029】
(実施例1)
以下の重量/重量%組成を有する膜形成溶液を調製した。
1.脱イオン水 29.0%
2.エタノール 70.0%
3.ヒドロキシプロピルキトサン(HPCH) 0.5%
4.ピロクトンオラミン 0.5%
調製
スターラーを備えた適切な密封容器を用いて製剤を調製した。この容器に、エタノール、脱イオン水、およびピロクトンオラミンを加えて混合液を形成した。最後に、ヒドロキシプロピルキトサンを加え、得られた混合液を溶解するまで撹拌した。
【0030】
得られた組成物は、長時間貯蔵した後でも透明で均一な外観を有していた。さらに、液体は、皮膚表面に強力に接着することができる、無光沢で、非粘着性で、弾性の膜を形成することができた。
【0031】
(実施例2)
単純盲検の条件下で、対照臨床試験を行い、参照膜形成溶液(水29.5%、エタノール70.0%、およびHPCH0.5%)によって処置した対照の領域に対する実施例1による膜形成溶液の局所の安全性プロファイルを評価した。
【0032】
年齢範囲14〜47歳(平均年齢=26歳)の健常志願者20人(女性15人および男性5人)を試験に登録した。志願者は、予め規定された無作為化リストに従って、背中のそれぞれ右側および左側上にローラーボールによって、両方の生成物を1日2回(朝および夕)4週間適用した。対象には、生成物を乾燥皮膚に適用し、1日1回、朝、適用前にシャワーを浴びるよう求めた。1日1回洗浄することによって膜は除去されたので、除去の必要はなかった。
【0033】
臨床試験の間に有害事象は生じなかった。適用時、膜形成溶液は発熱せず、または適用した皮膚に刺激を生じなかった。志願者によって行われた耐容性の評価は、試験生成物の良好な局所の安全性プロファイルを示していた。
【0034】
(実施例3)
マラセチアフルフル(Malassezia furfur)の株によって引き起こされる皮膚感染症である癜風(pityriasis versicolor)に罹患している患者に対して、実施例1による膜形成溶液の有効性および安全性を評価するための、オープンの臨床試験を行った。
【0035】
マラセチアフルフルに対する微生物学的試験(ラクトフェノール試験)に陽性の患者、ならびに血色素減少、血色素増加、発赤、および/または皮膚の落屑、掻痒感の臨床徴候を有する患者16人が試験に登録した。患者は、スプレーポンプによって1日2回、連続21日間、体幹全体にスプレーすることによって膜形成溶液を適用した。
【0036】
処置の終わりに評価された主な目標、すなわちマラセチアフルフルに対する微生物学的試験の陰性への転換は、患者の75%によって達成された。症状および徴候(血色素増加、皮膚の発赤および落屑、掻痒感)の全スコアを、各徴候/症状に対して4ポイントスケール(0=なし、1=軽度、2=中程度、3=重度)に従って評価し、次いで加算し、ベースライン時の4.3から終了時には1.2に低減した。
【0037】
忍容性は全症例において優れており、副作用は報告されなかった。
【0038】
(実施例4)
以下の重量/重量%組成を有する膜形成溶液を調製した。
1.純水 13.0%
2.エタノール 73.0%
3.酢酸エチル 4.0%
4.ヒドロキシプロピルキトサン(HPCH) 1.0%
5.シクロピロックス 8.0%
6.セトステアリルアルコール 1.0%
調製
スターラー付きの密封容器を用いて、実施例1における通りに製剤を調製した。この容器に、エタノール、脱イオン水、および酢酸エチルを加えて混合液を形成した。その後、セトステアリルアルコールを加え、それが溶解した後、シクロピロックスを加えた。最後に、ヒドロキシプロピルキトサンを加え、得られた混合液を24時間または溶解するまで撹拌した。
【0039】
得られた組成物は、長時間貯蔵した後でも透明で均一な外観を有していた。さらに、液体は、皮膚表面に強力に接着することができる、無光沢で、非粘着性で、弾性の膜を形成することができた。
【0040】
(実施例5)
実施例4による膜形成溶液を、7〜10週令のオス無毛マウス(MF1−hr−hr/Ola系統、Nossan srl、Correzzana、Milan、Italy)の背部または腹部の皮膚から得た、無毛マウスの皮膚の切除したものに適用することによって、in vitroの浸透試験を行った。皮膚の部分(約9cm2)の接着している脂肪および皮下組織を除去した後、Gummer浸透垂直細胞(非特許文献1)の2つの区画間のバリアとして配置した。下の区画中に受け取り相を導入し、実施例4による組成物75.0μLを曝露された皮膚表面に計画通りに分配した。予め決定された時間間隔(1、2、3、4、および5時間)に、受け取り溶液5.0mLを分析用に収集し、速やかに同体積の新鮮なバッファーによって置き換えた。実験を6回繰り返した。
【0041】
6つの実験において無毛マウスの皮膚を通して浸透したシクロピロックスを、表1および図1に報告する。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例4によるヒドロキシプロピルキトサンの膜形成溶液を適用した後、シクロピロックスは、速やかに、長時間継続する方法でマウスの皮膚を浸透することができたと結論づけられる。
【0044】
(実施例6)
以下の重量/重量%組成を有する膜形成溶液を調製した。
1.純水 28.0%
2.エタノール 95% 70.0%
3.ヒドロキシプロピルキトサン(HPCH) 0.5%
4.ピロクトンオラミン 0.5%
5.クリンバゾール 0.5%
6.Croduret40DL(登録商標)(1) 0.5%
(1)PEG−40硬化ヒマシ油
調製
ヒドロキシプロピルキトサンを最終成分として加え、混合液を24時間または溶解するまで撹拌することによって、実施例1および4における通りに製剤を調製した。
【0045】
得られた組成物は、長時間貯蔵した後でも透明で均一な外観を有していた。さらに、液体は、皮膚表面に強力に接着することができる、無光沢で、非粘着性で、弾性の膜を形成することができた。
【0046】
(実施例7)
以下の重量/重量%組成を有する膜形成液体懸濁液を調製した。
1.純水 24.5%
2.エタノール 68.0%
3.ヒドロキシプロピルキトサン(HPCH) 0.5%
4.トルナフテート 1.0%
5.Transcutol P(登録商標)(1) 6.0%
(1)ジエチレングリコールモノエチルエーテル
調製
スターラーを備えた適切な密封容器を用いて製剤を調製した。この容器に、Transcutol Pおよびトルナフテートを加えた。混合液を撹拌し、最終懸濁液にエタノールおよび水を加えた。短時間撹拌した後、ヒドロキシプロピルキトサンを加えた。混合液を、ヒドロキシプロピルキトサンが完全に分散するまで2時間撹拌した。得られた組成物はデカントする傾向があるが、短時間振盪後容易に再懸濁する、トルナフテートの微細懸濁液である。
【0047】
(実施例8)
実施例7による膜形成組成物を対象の左足の背面領域にスプレーすることによって、許容性の試験を行った。比較として、製造元による以下の組成:トルナフテート1重量%、コーンスターチ、芳香剤、タルク、を有する市販の参照生成物(ラミシール(Lamisil)(登録商標)AF ディフェンス(Defense)トルナフテート1%抗真菌シェイクパウダー)を、右足の同じ領域に適用した。両方の懸濁液とも、使用前に振盪しなければならなかった。
【0048】
左足の皮膚にスプレーすると、実施例7による組成物は、皮膚表面に強力に接着することができる、目に見えない弾性の膜を形成することによって1〜2分で蒸発した。それとは対照的に、参照(ラミシール(Lamisil)(登録商標))生成物を右足の皮膚にスプレーすると、乾燥直後に全体に亀裂が入った粉末の白色層を残すことによって約2〜3分で蒸発した。
【0049】
スプレーおよび乾燥後の2つの生成物の様子を図2に報告する。
【0050】
(実施例9)
以下の重量/重量%組成を有する膜形成溶液を調製した。
1.脱イオン水 23.7%
2.エタノール 95 70.0%
3.ヒドロキシプロピルキトサン(HPCH) 0.3%
4.ティーツリー抽出物 5.0%
5.硬化ヒマシ油 1.0%
調製
ヒドロキシプロピルキトサンを最終成分として加え、混合液を24時間または溶解するまで撹拌することによって、実施例1および4における通りに製剤を調製した。
【0051】
得られた組成物は、長時間貯蔵した後でも透明で均一な外観を有していた。さらに、液体は、皮膚表面に強力に接着することができる、無光沢で、非粘着性で、弾性の膜を形成することができた。
【0052】
(実施例10)
以下の重量/重量%組成を有する調製物を調製した。
1.純水 19.45%
2.プロピレングリコール 10.00%
2.イソプロパノール 70.00%
3.キトサン 0.50%
4.ジプロピオン酸ベクロメタゾン 0.05%
調製
キトサンおよびジプロピオン酸ベクロメタゾンをプロピレングリコールに溶解し、次いで他の成分を加え、混合液を溶解するまで撹拌することによって製剤を調製した。得られた液体は、皮膚表面に強力に接着することができる弾性の膜を形成することができた。
【0053】
(実施例11)
以下の重量/重量%組成を有する調製物を調製した。
1.純水 33.6%
2.エタノール 65.0%
3.ヒドロキシプロピルキトサン 0.5%
4.カンファーブッシュ精油 0.3%
5.ティーツリー精油 0.5%
6.メンチルラクテート 0.1%
調製
撹拌中のエタノールに、メンチルラクテート、ティーツリー精油、およびカンファーブッシュ精油を加えた。完全に溶解した後、水を徐々に加えた。撹拌中の透明な混合液にヒドロキシプロピルキトサンを加えた。ポリマーが完全に分散した後、無色透明で、特徴的なアルコール性の芳香臭のある溶液が得られた。
【0054】
(実施例12)
夏の間、蚊の虫刺されに曝露されたヒトに対して、実施例11による膜形成溶液の昆虫忌避剤の有効性および安全性プロファイルを評価するために、オープンの臨床試験を行った。試験の有効性のエンドポイントは、昆虫忌避効果、虫刺され後の緩和効果、および美容上の許容性であった。試験を、インフォームドコンセントを提出した、21歳と65歳の間の年齢の女性19人および男性2人の21人の対象に対して行った。
【0055】
対象は全員、実施例11による試験生成物で、少なくとも1日1回10日間、局所処置を行った。昆虫忌避剤としての有効性は、処置した対象の48%で陽性と判定された。虫刺され後の緩和効果は、対象の80%で陽性と判定され、すなわち40%が顕著な/非常に顕著な低減、30%が平均の低減、10%がわずかな低減と判定された。
【0056】
美容上の許容性は、概ね良好と判定された。試験の間、有害事象は生じず、実施例11による生成物の耐容性は、患者の62%で最適、38%で良好と判定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚への適用後、揮発性溶媒(c)が蒸発した後に皮膚膜を形成する液体組成物を製造するための、
(a)キトサン、キトサン誘導体、または生理学的に許容できるそれらの塩、
(b)少なくとも1つの医薬品有効成分または化粧品有効成分、および
(c)少なくとも1つの揮発性溶媒
の使用。
【請求項2】
前記組成物は皮膚表面に有効成分を送達することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
成分a)は組成物の全重量に対して0.1重量%から10重量%までの量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
成分a)は組成物の全重量に対して0.2重量%から5重量%まで、好ましくは0.25%から2.0%までの量で存在することを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
成分a)は水溶性キトサン誘導体またはその塩であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記水溶性キトサン誘導体はヒドロキシプロピルキトサンであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
成分b)は、コルチコステロイド、免疫賦活薬、免疫抑制薬、抗ウイルス薬、細胞増殖抑制薬、抗真菌薬、抗生物質、抗乾癬薬、角質溶解薬、レチノイド、保存剤、昆虫忌避剤、抗酸化剤、植物抽出物、またはこれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
成分b)は、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、クロベタゾール、ピロクトンおよびその塩、シクロピロックスおよびその塩、テルビナフィンおよびその塩、クリンバゾール、トルナフテート、クロトリマゾール、シクロスポリン、イミキモド、アシクロビル、カルシポトリオール、タザロテン、サリチル酸、カンファーブッシュ(Tarconanthus camphoratus)および/またはティーツリー(Melaleuca alternifolia)からの植物抽出物を含む群からの1つまたは複数であることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
成分b)は組成物の全重量に対して0.001重量%から15重量%まで、より好ましくは0.2重量%から10重量%まで、最も好ましくは0.4%から5.0%までの量で存在することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
成分c)は低級アルカノールであることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
低級アルカノールはエタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
水は溶媒または共溶媒であることを特徴とする、請求項10および11に記載の使用。
【請求項13】
前記液体製剤は慣例の賦形剤および/または補助剤を含むことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記液体製剤は、フケ、湿疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、真菌症、癜風、および他の感染症などの皮膚の状態および疾患を処置するのに適していることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記液体製剤は、裸の皮膚または有毛皮膚、頭皮、外陰、間擦部位、指趾間部に適用するのに適する形であることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記液体製剤は溶液、エマルジョン、または懸濁液を含むことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記液体製剤はスプレーによって適用されることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−518130(P2010−518130A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549363(P2009−549363)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063869
【国際公開番号】WO2008/098634
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(503459992)ポリケム・エスエイ (16)
【Fターム(参考)】