説明

皮膚のバリア機能を改善するための、FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤の化粧上の使用

本発明は、FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための少なくとも1種の有効薬剤を含む組成物を皮膚に局所適用することを含む、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、ヒトの皮膚をケアするための化粧方法に関する。本発明は、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、この有効薬剤の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルクトサミン−3−キナーゼ(FN3K)、またはフルクトサミン−3−キナーゼに関連するタンパク質(FN3KRP)の発現を刺激するための有効薬剤を含む組成物を皮膚に局所適用することを含む、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、ヒトの皮膚をケアするための化粧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、主に3つの層、すなわち最上層から順に、表皮、真皮、および皮下組織からなる。
【0003】
表皮は、特に、ケラチノサイト(大部分)、メラノサイト(皮膚の着色に関与する)、およびランゲルハンス細胞からなる。その機能は、身体を外部環境から保護すること、その完全な状態を確保すること、特に微生物または化学物質の浸透を停止すること、皮膚に含まれる水分の蒸発を防ぐこと、外部の攻撃に対して、特に紫外線(UV)に対してバリアを構成することである。
【0004】
これを行うために、ケラチノサイトは、表皮の基底層に位置する間に増殖のプロセス、次いで持続的な定方向の成熟のプロセスを経て、その分化の最終段階で、タンパク質およびセラミドなどの脂質からなる角質鞘の形態の全体的に角質化された死細胞である角質細胞を形成する。この分化プロセスの間、角質細胞間の表皮脂質も形成され、次いで角質層における二重層(ラメラ)の形成において組織化され、これらは上記に記載した角質鞘とともに表皮のバリア機能に関与する。
【0005】
しかし、表皮のバリア機能は、ある種の気候条件下で(例えば、寒さおよび/または風の影響下で)、またはストレスもしくは疲労の影響下で乱れることがあり、特に、それによりアレルゲン、刺激物質、もしくは微生物の浸透を促進し、その結果皮膚の乾燥を生じ(皮膚はその透過性を失い、脱水状態になり、系皮水分喪失が増大し)、ヒリヒリ感、つっぱり、かゆみ、熱感、または発赤などの不快感を生じやすくし、肌の輝きおよび皮膚の柔軟さも損なう。皮膚のバリアの損傷は、微小ひび割れ(microchapping)または微小亀裂(microcracks)の出現も促進することがある。さらに、増殖および分化プロセスの損傷に起因する、粗悪に形成されたバリアは、UV照射またはあらゆる他のタイプの外部の攻撃から最早皮膚を保護しない。
【0006】
この現象を予防し、または治すために、皮膚中に存在する水分を取り込み、その蒸発を阻止するために、糖または多価アルコールなどの吸湿性物質を含む化粧用組成物を皮膚に適用するのは公知のプラクティスである。水分の蒸発を阻止するのに貢献する、閉塞性のフィルムを皮膚上に形成させる脂肪物質の使用も、慣例的になされている。さらに、これらの組成物は、皮膚の再生プロセスにおいて(特に、ケラチノサイトの分化、表皮の脂質合成、および角質細胞の接着において)、または皮膚の天然保湿因子(NMF)の構成成分の内因性の合成において(特に、プロテオグリカンの合成において)のいずれかに関与する様々な生物学的標的の1つまたは複数に対して作用する有効薬剤を頻繁に取り入れている。
【0007】
このような有効薬剤の例は、特に、α−およびβ−ヒドロキシ酸、特に乳酸、グリコール酸、およびサリチル酸;尿素、ならびにアミノスルホン化合物である。
【発明の概要】
【0008】
しかし、皮膚のバリア機能を強化して、皮膚の不快感、ヒリヒリ感、つっぱり、かゆみ、熱感、または発赤、および/または微小ひび割れもしくは微小亀裂の出現、および/または肌の輝きの喪失もしくはくぐもった肌、および/または皮膚の柔軟さの喪失を予防するための、および/または低減するための、かつ/あるいはUVに対する表皮の保護を改善するための、新規な化粧上の有効薬剤提案に対するニーズが、常に残っている。
【0009】
さらに、消費者による、できるだけ少ない合成成分を含む天然生成物に対するかつてないほど高い探求、および化学産業に由来する化合物に対するますます負担が増す規制上の制約を考えると、これらの化粧上の有効薬剤が植物起源であることが望ましい。
【0010】
現在、本出願人は、本出願人の功績であるが、意外なことに、バリア機能の損傷を抑制するために、2つの新規な生物学的標的、すなわち、フルクトサミン−3−キナーゼおよびフルクトサミン−3−キナーゼ関連タンパク質に対して作用することは可能であることを見出した。本出願人は、皮膚におけるFN3Kは、加齢とともに減少し、再構成皮膚においてFN3Kが存在しないということは、カタラーゼ発現に対する、および表皮の厚さに対する糖化の効果と同じ結果を有することも見出した。本出願人は、また、本出願人の功績であるが、この標的に対して作用する有効薬剤を選択するのに好適な、およびこの試験に反応する植物抽出物を同定するのに好適なスクリーニング試験を開発し、それにより上記に記載したニーズを満たすことが可能になっている。
【0011】
フルクトサミン−3−キナーゼ(以降FN3Kと呼ぶ)は、肝臓において発現される酵素であり、ヒト赤血球から単離され、タンパク質のグルコースとの非酵素的な反応(メイラード反応または糖化)によって生成されたフルクトサミンをリン酸化して、非糖化のアミンの再生をもたらす不安定な生成物を形成することができる(Delpierre Gら、Biochem.Soc.Trans.、203、12月、31巻(Pt6)、1354〜7頁)。FN3KRPも、脱糖化プロセスに関与する。ゆえに、これらの酵素は、特に、糖尿病の合併症、骨関節炎の合併症(軟骨の変性)、およびアミロイドーシスの一因となる、タンパク質の糖化および後期糖化生成物(AGE)の形成を抑制するための潜在的な標的として考えられている。しかし、本出願人が知る限り、この酵素が表皮において発現されることは示唆されておらず、この酵素がケラチノサイトの成熟プロセス(増殖、次いで分化)において介入する可能性があることは、ますます示唆されていない。
【0012】
このように、フルクトサミン−3−キナーゼ(FN3K)またはその関連タンパク質(FN3KRP)の発現を刺激する化粧上の有効薬剤は、今までに開示されておらず、ヒトの皮膚上の局所適用におけるその使用はなおのこと示唆されていない。
【0013】
したがって、本発明の主題の一つは、フルクトサミン−3−キナーゼおよび/またはその関連タンパク質(FN3KRP)の発現を刺激するための少なくとも1つの有効薬剤を含む組成物を皮膚に局所適用することを含む、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、ヒトの皮膚をケアするための化粧方法である。
【0014】
また、本発明の主題は、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、フルクトサミン−3−キナーゼおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤の化粧上の使用である。
【0015】
前提として、「FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤」との表現は、特に、以下の実施例において記載するように、細胞または再構成皮膚でのリアルタイムポリメラーゼ連鎖増幅法(RT−PCR)によって決定される、非処置のコントロールに比べてFN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激することができる化合物、または(特に植物抽出物の場合は)化合物の混合物を意味する。
【0016】
FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤は、組成物の全重量に対して、0.00001重量%から10重量%までの割合において、好ましくは0.0001重量%から5重量%までの割合において、より好ましくは0.001重量%から1重量%までの割合において用いることができる。
【0017】
本発明に従って用いることができる有効薬剤は、有利には植物抽出物であり、すなわち、例えば、樹皮、木部、根、根茎、茎、葉、果実、または花などの植物のあらゆる部分の、あらゆるタイプの溶媒を用いて、抽出によって得られる有効薬剤である。
【0018】
このような有効薬剤の例は、特にハナモツヤクノキ(Butea frondosa)の花のアルコール抽出物を含む。この抽出物は、任意選択によって水と混合した、少なくとも1種のモノアルコール(例えば、エタノール、メタノール、もしくはイソプロパノール)および/または少なくとも1種のグリコール(例えば、プロピレングリコール、もしくはジプロピレングリコール)を用いてアルコール抽出によって得ることができる。次いで、あらゆる他の溶媒の非存在下で抽出を行う。一般的に、水−アルコール溶媒の場合は、アルコールの水に対する体積比が70%と96%の間であるのが好ましい。
【0019】
一般的に、抽出は、任意選択により、通常の方法で切り刻み、または粉砕した、新鮮な、または乾燥した花に対して行うことができる。抽出は、一般的に、例えば、室温から100℃まで、有利には30℃から70℃までの範囲の温度で、約30分から12時間、好ましくは1時間から8時間の時間、上記で言及した1種または2種以上の溶媒中に花を浸漬し、または穏やかに振盪することによって行う。次いで、植物の不溶性の物質を除去するために、溶液をろ過するのが好ましい。溶媒も、好適な場合には、それが揮発性溶媒、例えば、エタノール、メタノール、またはイソプロパノールである場合には除去する。この抽出ステップは、植物抽出物の分野では一般的であり、当業者であれば、その一般的知識に基づいて、その反応パラメータを調節することができる。
【0020】
この抽出ステップの後、ハナモツヤクノキの花の抽出物が得られ、これを、次いで、本発明の有利な一態様に従って、特に溶媒の存在下において活性炭を用いて、脱色ステップにかけてもよい。活性炭の重量は、抽出物の重量の0.5%と50%の間であるのが好ましい。水、C〜Cアルコール(例えば、メタノール、エタノール、もしくはイソプロパノール)、極性有機溶媒(例えば、プロピレングリコール、もしくはジプロピレングリコール)、または当技術分野において一般的であるあらゆる他の溶媒から選択される1種または複数の溶媒を、特に用いることができる。次いで、揮発性溶媒を、減圧下で除去してもよい。
【0021】
FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤を、化粧上の目的で、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するために、本発明に従って用いる。したがって、本発明による方法は、特に、皮膚のバリアを保護および/または強化するために、特に、皮膚のざらつき、発赤、つっぱり、ヒリヒリ感、およびかゆみを含む不快感、微小ひび割れもしくは微小亀裂の出現、肌の輝きの喪失もしくはくぐもった肌、皮膚の柔軟さの喪失を含む、かく乱されているが非病理的なバリア機能に起因する皮膚の徴候を抑制するために、また、UVに対する表皮の保護を改善するために用いることができる。これは、皮膚を保湿するために、および/または乾燥から保護するために用いると有利であり得る。本発明に従って用いられる組成物の保湿効果は、特に、当業者にはよく知られている通常の技術に従ってコルネオメトリーによって測定することができる。
【0022】
本発明に従って用いられる有効薬剤、または本発明による方法において用いられる組成物は、非病理的な乾燥皮膚に適用するのが好ましい。これらは、顔面、クビ、およびおそらくはネックライン、または変形として身体のあらゆる部分の皮膚に適用すると有利であり得る。
【0023】
この有効薬剤を含む組成物は、朝および/または夕に、顔面全体、クビ、および場合によりネックライン、または身体にも適用することができる。
【0024】
本発明に従って用いられる組成物は、一般的に、先に記載した有効薬剤の他に、生理学的に許容でき、好ましくは化粧上許容できる媒体、すなわち毒性、不適合性、不安定性、またはアレルギー反応のあらゆる危険性なしに、特に、使用者が許容できないあらゆる不快な感覚(発赤、つっぱり、ヒリヒリ感など)を引き起こさずに、ヒトの皮膚と接触して用いるのに適する媒体を含む。
【0025】
この媒体は、一般的に水を含み、場合によりエタノールなどの他の溶媒を含む。
【0026】
本発明に従って用いられる組成物は、皮膚に対する局所適用に適するあらゆる形態、特に、水中油型、油中水型、または多層エマルジョン(W/O/WもしくはO/W/O)の形態(場合によりマイクロエマルジョンもしくはナノエマルジョンであってよい)、または水性分散液、溶液、水性ゲル、もしくは粉末の形態であってよい。本組成物が、水中油型エマルジョンの形態であるのが好ましい。
【0027】
本組成物は、顔面および/または身体の皮膚に対するケアおよび/またはクレンジング製品として用いるのが好ましく、特に、例えば、ポンプ−ディスペンサーボトル、エアロゾルもしくはチューブにおいて調整された流体、ゲルもしくはムース、または例えば、広口ビンにおいて調整されたクリームの形態であってよい。変形として、これはメーキャップ製品の形態、特にファンデーション、またはルースパウダーもしくはコンパクトパウダーの形態であってよい。
【0028】
これは様々な補助剤、例えば、以下から選択される少なくとも1つの化合物を含むことができる。
− 直鎖または環状の、揮発性または不揮発性のシリコーン油(例えば、ポリジメチルシロキサン(ジメチコーン)、ポリアルキルシクロシロキサン(シクロメチコーン)、およびポリアルキルフェニルシロキサン(フェニルジメチコーン))、合成油(例えば、フッ素油)、安息香酸アルキルおよび分枝鎖炭化水素(例えば、ポリイソブチレン)、植物油、特にダイズ油、またはホホバ油、ならびに鉱物油(例えば、液状石油ゼリー(liquid petroleum jelly))から選択することができる油
− ロウ、例えば、オゾケライト、ポリエチレンロウ、蜜ロウ、またはカルナウバロウ、
− 特に、触媒の存在下で、少なくとも1つの反応基(特に、水素またはビニル)を含み、末端および/または側鎖の位置において、少なくとも1つのアルキル基(特にメチル)またはフェニルを保有するポリシロキサンの、オルガノヒドロゲノポリシロキサンなどの有機シリコーンとの反応によって得られるシリコーンエラストマー
− 界面活性剤、好ましくは非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、または両性の乳化性界面活性剤、特に多価アルコールの脂肪酸エステル、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、およびショ糖の脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル;アルキルポリグルコシド;ポリシロキサン変性ポリエーテル;ベタインおよびその誘導体;ポリクオタニウム;エトキシ化脂肪アルキル硫酸塩;スルホサクシネート;サルコシナート;アルキルホスフェートおよびジアルキルホスフェート、ならびにこれらの塩、ならびに脂肪酸石鹸
− コサーファクタント、例えば、直鎖脂肪アルコール、特にセチルアルコールおよびステアリルアルコール
− 増粘剤および/またはゲル化剤、ならびに、特にアクリロイルメチルプロパンスルホン酸(AMPS)の、および/またはアクリルアミドの、および/またはアクリル酸の、および/またはアクリル酸の塩もしくはエステルの、架橋の、または非架橋の、親水性の、または両親媒性のホモポリマーおよび共重合体;キサンタンゴムまたはグアーゴム;セルロース誘導体;ならびにシリコーンゴム(ジメチコノール)
− 有機スクリーニング剤、例えば、ジベンゾイルメタン誘導体(ブチルメトキシジベンゾイルメタンを含む)、ケイ皮酸誘導体(ケイ皮酸エチルヘキシルメトキシを含む)、サリチル酸塩、パラアミノ安息香酸、β,β’−ジフェニルアクリレート、ベンゾフェノン、ベンジリデンカンファー誘導体、フェニルベンズイミダゾール、トリアジン、フェニルベンゾトリアゾール、およびアントラニル誘導体
− 被覆もしくは非被覆顔料、またはナノ顔料の形態の鉱物酸化物をベースとした、特に二酸化チタンもしくは酸化亜鉛をベースとした、無機スクリーニング剤
− 色素
− 保存剤
− 充填剤、特にソフトフォーカス効果を有する粉末(特に、ポリアミド、シリカ、タルク、雲母、および繊維(特に、ポリアミド繊維またはセルロース繊維)から選択することができるもの)
− 金属イオン封鎖剤、例えばEDTA塩
− 香料
− ならびにこれらの混合、ただしこのリストに限定されない。
【0029】
これらの補助剤の例は、特に、本発明による組成物における付加成分として用いるのに適している、スキンケア業界において通常用いられている化粧用成分および薬剤成分を、制限なく、広範囲に記載しているCTFA辞典(化粧品工業会(The Cosmetic,Toiletry and Fragfrance Association)が発行する国際化粧品原料事典(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook)、第11版、2006年)において言及されている。
【0030】
本発明に従って用いる組成物は、鎮静もしくは抗炎症活性、漂白もしくは脱色素活性、アンチエイジング活性、および/または清浄活性を含めたさらなる利点ももたらすことができる。
【0031】
本発明に従って用いられる組成物は、FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するもの以外の有効薬剤、特に、この列挙は限定的なものではないが、角質溶解薬、特にα−ヒドロキシ酸、例えば、グリコール酸、乳酸、およびクエン酸、ならびにこれらのエステルまたは塩;β−ヒドロキシ酸、例えばサリチル酸およびその誘導体;ケラチノサイトの分化および/または角質化を、直接または刺激(例えば、β−エンドルフィンの生成)によって間接的にのいずれかで増大するための薬物、例えば、高度好熱菌(Thermus thermophilus)抽出物、またはカカオ(Theobroma cacao)の豆殻抽出物、トウモロコシの水溶性抽出物、バンバラマメ(Voandzeia substerranea)のペプチド抽出物、およびナイアシンアミド;表皮脂質、および表皮脂質の合成を、直接、またはグルコシルセラミドなどの脂質前駆物質の、セラミドへの脱グリコシル化を変調するある種のβ−グルコシダーゼを刺激することによってのいずれかで増大するための薬剤(例えば、リン脂質、セラミド、ルピナスタンパク質水解物、およびジヒドロジャスモン酸誘導体);湿潤剤、例えば、多価アルコール、特に、グリセロール、ヒアルロン酸などのグルコサミノグリカン、それらの糖およびアルキルエステル、アミノ酸、例えば、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、スレオニン、リジン、グルタミン酸、タウリン、プロリン、セリン、およびこれらの誘導体、ピロリドンカルボキシル酸(PCA)およびその塩、尿素およびその誘導体、エクトイン、グルコサミン、クレアチン、コリン、ベタイン、無機塩、例えば、塩素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、またはリン酸塩、ならびに湿潤剤合成ポリマー、例えば、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンホモポリマーおよび共重合体、ならびにグリセリル(メタ)アクリレートホモポリマーおよび共重合体、またはマトリプターゼMT/SP1の発現を刺激する少なくとも1つの有効成分、例えば、イランイランノキ(Cananga odorata hook)、もしくはカタフレ(Cedrelopsis grevei)、またはシストローズ(Cistus ladeniferus L.)、またはカローバ果肉(イナゴマメ(Ceratonia siliqua)の抽出物;抗酸化剤、および/またはフリーラジカルスカベンジャー、ならびに/または汚染防止(anti-pollution)剤、例えば、トコフェロールおよびそのエステル、アスコルビン酸、およびそのアルキルおよびホスホリルエステル、ならびに植物または藻類のある種の抽出物、特に、高熱菌の抽出物;ならびにこれらの混合物から選択される少なくとも1つの有効薬剤も含むことができる。
【0032】
FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤を、上記に記載する1種または2種以上の薬剤と組み合わせることにより、同じ処方において、有利には、これらの2種類の有効薬剤の効果を組み合わせることが可能になり、それにより、皮膚の最大かつ持続的な保湿効果を得ることが可能になる。
【0033】
本発明を、次に、以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
ハナモツヤクノキ抽出物の調製
1)水−アルコール抽出
ハナモツヤクノキの花1.110kgを、ナイフミル(Retsch)を用いて粉砕し、還流冷却器を装備した20lガラス製反応器中に充填する。
96%(体積/体積)エタノール7.8lを加える。
反応器の加熱を50℃で開始する。加熱を5時間継続する。
次いで、ハナモツヤクノキの花の粉砕した材料を除去するために、材料をろ過する。ろ液を回収する。
次いで、溶媒を、ロータリーエバポレーターを用いて、真空下で留去する。
このようにして、ハナモツヤクノキの花の抽出物0.183kgを回収する。
この操作に対する収率は16.5%である。
【0035】
2)抽出物の脱色
含油樹脂を、96%(体積/体積)エタノールおよび活性炭でホットウォッシュする。
含油樹脂183gを96%エタノール1500mlおよび活性炭24gと混合する。混合物を50〜60℃で2時間、激しく攪拌し、次いで、室温に2時間放置する。溶液をブフナー漏斗を通してろ過した後、最初のろ液を回収する。
次いで、このろ液を、活性炭の最終的な残渣を除去するために、円錐形のろ紙上で再びろ過し、次いで、真空下、ロータリーエバポレーターを用いてエタノールを留去する。
この脱色操作に対する収率は68%である。
上記プロセスに対する全体の収率は11.2%である。
皮膚細胞に対して試験する前に、以下の実施例2から5までに記載したように、抽出物をプロピレングリコール中20%に希釈する。
【0036】
[実施例2]
ハナモツヤクノキ抽出物を用いた、正常ケラチノサイトにおけるFN3KおよびFN3KRPのメッセンジャーRNA(mRNA)発現刺激試験
プロトコール:
実施例1の植物抽出物の、FN3Kおよび/またはFN3KRPのmRNAの発現に対する効果を、ケラチノサイトに対して評価した。
【0037】
新生児包皮に由来するケラチノサイト(Clonetics、CA、USA)を、6ウェルプレート中に接種し、ケラチノサイト増殖培地(KBM、Clonetics)すなわち、ヒト組換えEGF、インスリン、ヒドロコルチゾン、ウシ下垂体抽出物、ゲンタマイシン、およびアムホテリシンBを補った改変培地において培養した。37℃のオーブンにおいて24時間培養後、コンフルエントの細胞をPBSバッファー(Invitrogen、CA)で洗浄し、試験する抽出物を含む特異的な基礎培地(KBM、Clonetics)と24時間、増大する濃度でインキュベートした。抽出物の細胞毒性を試験した後、その活性を評価した。
【0038】
非処理の試料に対する、処理した試料におけるFN3KおよびFN3KRPのメッセンジャーRNAの発現を相対的に定量するために、リアルタイムポリメラーゼ連鎖増幅(RT−PCR)を用いた。結果を、これらの試料の自前の遺伝子の発現に対して正規化し、PCRの効果における違いに関して補正した。結果を、処置試料における標的遺伝子FN3KまたはFN3KRPの発現の増大または低減が何倍になるかで表した。
【0039】
調査した遺伝子のcDNA/mRNA配列はGenbankから得た。
【0040】
自前の遺伝子:PBGD
PCRプライマーはすべて、Conner,J.ら、2005年、Ann.N.Y.Acad.Sci、1043:824:836の科学出版物を用いて得た。ケラチノサイトを様々な濃度の抽出物で、1濃度3個ずつ、24時間処理した。mRNAを、Qiagen RNeasyキット試薬を用いて単離し、QuantItキット(Invitrogen、CA)を用いて定量した。
【0041】
逆転写を、遺伝子AmpRNA PCRキット(Applied Biosystems)を用いて、製造元の推奨に従って行った。
【0042】
リアルタイムPCR測定を、SYBR Green I検出により、iCYCLER IQ機器(Bio−Rad、CA)を用いて行った。
【0043】
すべての試験において、cDNAを標準化したプログラムを用いて増幅した。各試料に、スーパーミックスIQ SYBR Green I、水、およびプライマー(貯蔵)を充填した。反応あたりのcDNAの最終量は、逆転写に用いた全RNAの75ngに相当していた。
【0044】
標的遺伝子の発現の相対的な定量を、Pfaffl数学モデル(Pfaffl、MW、Nucleic Acids Res.、29巻(9)、E45頁、2001年)を用いて行った。
【0045】
ポジティブな結果を、2人の異なるドナーからの細胞を用いて確認した。
【0046】
結果:
結果を、以下の表1および2において示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
この試験より、ハナモツヤクノキ抽出物は、正常ケラチノサイトにおけるFN3KおよびFN3KRPのmRNAの発現を刺激するのを可能にすることが明らかである。
【0050】
[実施例3]
ハナモツヤクノキの抽出物での皮膚同等物におけるタンパク質FN3Kの発現の刺激の試験
プロトコール:
実施例1の植物抽出物の、フルクトサミン−3−キナーゼ(FN3K)の発現に対する効果を、再構成皮膚のモデルにおいて評価した。
【0051】
以下のやり方で本モデルを調製した:ラット尻尾からのI型コラーゲン(BD、CA)、10×DMEM培地(Invitrogen、CA)、炭酸水素ナトリウム(Invitrogen)、および繊維芽細胞を含むコラーゲン溶液を、24mm細胞培養インサート(Falcon、Becton Dickinson、Schwechat、Austria)中に注ぎ、これを6ウェルプレート(Falcon)中に配置した。37℃で2時間後、ゲルを、加湿したインキュベーターにおいて、37℃で、5%CO/95%空気を含む環境中、KGM(Clonetics)中で平衡化した。2時間後、ケラチノサイトを含むKGMをゲルに加えた。培養物を一夜浸漬した後、培地を、インサートの外側で、無血清のケラチノサイト培地(SKDM、ウシ下垂体抽出物を含まないKGM、Sigmaからのトランスフェリン、SigmaからのBSA、およびSigmaからのL−アスコルビン酸からなり、Ca2+に富む培地である)で置き換え、ケラチノサイトを空気−液体界面に維持した。再構成皮膚の培地を、予め加熱した新鮮SKDMで2日毎に置き換え、様々な濃度の有効薬剤あり、またはなしで最高7日、培養を継続した。
【0052】
次いで、免疫蛍光法によって分析するために、再構成皮膚を調製した。再構成皮膚から7μmの厚さの切片を切り、パラホルムアルデヒドで固定し、次いで冷凍した。切片の非特異的な結合を血清(ウシ血清アルブミン)でブロックした。このように調製した再構成皮膚の試料を、抗FN3K抗体(Santa Cruz、CA)とインキュベートし、次いで、第2ステップにおいて、蛍光薬剤(Alexa Fluor564抗ウサギ抗体、Molecular Probes、UK)と複合した2次抗体で標識した。検出を免疫蛍光法で行った。Leica顕微鏡を用いてスライドを検査した。
【0053】
結果:
0.02%のハナモツヤクノキの抽出物は、皮膚同等物の生存表皮上でFN3Kの発現を刺激し、再現性があったことが目視で観察された。これらの結果を、2人のドナーから得た再構成皮膚を用いて確認した。
【0054】
[実施例4]
年齢によるFN3Kの発現の評価
プロトコール:
FN3Kタンパク質の発現における変動を、様々な年齢のドナー3人から5人までの皮膚凍結試料を用いて、免疫組織化学(IHC)によって評価した。2つの年齢グループ(30〜40歳および60〜70歳)からの5μmの凍結切片に対して、抗FN3K抗体(Santa Cruz、CA)および2次抗体(Jackson Immunoreasearch Labs、PA)で染色を行った。
【0055】
染色の程度を、各ドナーからの切片6個に対して評価し、切片の目視評価を、絶対値における0.5から5までのスケールを用いて行った。
【0056】
結果:
若い皮膚におけるFN3K染色の評価は、4.67(±0.33)であり、老齢の皮膚における評価は1.83(±0.66)であった。これは、FN3Kの量は、年齢の増加とともに低減することを実証している。
【0057】
[実施例5]
ケラチノサイトの増殖に対するFN3KおよびFN3KRPサイレンシングの効果
単一のドナーの新生児包皮に由来するケラチノサイト(Clonetics、CA)を、加湿したインキュベーター、およびケラチノサイトを増殖するのに適する増殖培地(KFM、Clonetic)において、37℃で、5%CO/95%空気を含む環境において培養した。次いで、これらのケラチノサイトに、形質移入体であるNeoFXを用いて、およびサイレンサーRNAの供給元(Ambion、TX)が記載したsiPORT NeoFXトランスフェクションプロトコールを行うことによって、FN3KおよびFN3KRPに特異的なサイレンサーRNAをトランスフェクトした。FN3KまたはFN3KRPを不活性化する3つの異なるRNAを試験した。トランスフェクトした、または非トランスフェクトの細胞(陰性コントロール)を5日間再培養し、次いで、実施例2において記載したのと同じ方法を用いてRT−PCRによって分析した。
【0058】
得られた結果により、FN3Kがサイレンスされる場合、FN3Kおよび/またはFN3KRPのサイレンサーRNAによるそれぞれの発現の不活性化は、正常ヒトケラチノサイトの増殖の強力な低減を誘発し、FN3KRPがサイレンスされる場合、あまり重要ではない低減であることを実証するのが可能となった。
【0059】
[実施例6]
FN3Kなしで再構成皮膚の表皮厚さの試験(サイレンスされたFN3K)
プロトコール:
表皮の再構成皮膚を、siRNA技術を用いて、または実験コントロールとしてスクランブルsiRNAでトランスフェクトして、正常またはFN3Kサイレンスしたヒトケラチノサイトから生成した。培養6日後、再構成皮膚をH&E(ヘマトキシリンおよびエオジン)で染色して、再構成皮膚の形態を評価した。次いで、表皮の厚さを測定した。各点に対して、2人の異なるドナーのケラチノサイトから調製した3つの異なる皮膚の測定を150回行った。
【0060】
結果:
FN3KsiRNAのサイレンシングは、再構成皮膚の増殖および生存性の低減を示す表皮の厚さの低減をもたらす。このように、FN3Kは、表皮の形成における必須要素である。
【0061】
【表3】

【0062】
[実施例7]
糖化誘発性の再構成皮膚と比較した、FN3Kがサイレンスした再構成皮膚におけるカタラーゼの発現
プロトコール:
メチルグリオキサール250μgを加えることによって、培養した再構成皮膚において糖化を誘発した。糖化およびFN3K−サイレンシングの、再構成皮膚におけるカタラーゼ発現に対する効果を、免疫組織化学によって評価した。
【0063】
結果:
カタラーゼの発現は、糖化された再構成皮膚、およびFN3K−サイレンスした皮膚において有意に低減した。これは、表皮の正常機能、およびラジカルに対するその保護効果におけるFN3Kの重要性を実証するものである。
【0064】
[実施例8]
UVB光線で処置した正常ケラチノサイトにおけるFN3KメッセンジャーRNAの刺激
新生児包皮に由来するケラチノサイト(Clonetics、CA)を6ウェルプレート中に接種し、ケラチノサイト増殖用培地(KBM、Clonetics)、すなわち、ヒト組換えEGF、インスリン、ヒドロコルチゾン、ウシ下垂体抽出物、ゲンタマイシン、およびアムホテリシンBを添加した修飾培地において培養した。37℃のオーブンにおいて24時間培養後、コンフルエントの細胞をPBSバッファー(Gibco)で洗浄し、次いで、様々な照射量のUVBを有するBioSun機器(Vilber Lourmat)を用いてUVBを照射し、最後に、標準ケラチノサイト培地(Cambex、MD)において24時間インキュベートした。
【0065】
FN3KmRNAの発現を定量するために、実施例2に記載したものと同一のプロトコールを用いた。
【0066】
2人の異なるドナーからの細胞を用いて、ポジティブな結果を確認した。
【0067】
結果:
結果を、以下の表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
この試験から、UVB照射により、正常ケラチノサイトにおけるFN3KmRNAの発現の刺激が可能であること、及びこの刺激がケラチノサイトが受けるUVBの照射量に比例することがわかる。したがって、ケラチノサイトによるFN3Kの合成の増大は、皮膚が、UV光線から保護するために皮膚が確立した第一の防御手段である。
【0070】
[実施例9]
化粧用組成物
以下の組成物は、当業者に慣例的な方法で調製され得る。以下に示す量は、重量パーセント値として表される。大文字で記載した成分は、INCI名に従って確認されるものである。
【0071】
【表5】

【0072】
水中油型エマルジョンの形態の本組成物を、毎日、朝、および/または夕に適用して、顔面の皮膚を保湿し、柔軟にし、滑らかにし、輝きを与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトサミン−3−キナーゼ(FN3K)および/またはその関連タンパク質(FN3KRP)の発現を刺激するための少なくとも1種の有効薬剤を含む組成物を皮膚に局所適用することを含む、バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、および/またはそれを抑制するための、ヒトの皮膚をケアするための化粧方法。
【請求項2】
FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤が植物抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効薬剤がハナモツヤクノキの花のアルコール抽出物であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抽出物が、任意に水と混合された、少なくとも1種のモノアルコールおよび/または少なくとも1種のグリコールを用いた抽出によって得られることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
皮膚のバリアを保護および/または強化するためのものであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
皮膚を保湿し、および/または乾燥から保護するためのものであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記徴候が、皮膚のざらつき、発赤、つっぱり、ヒリヒリ感、かゆみ、微小ひび割れまたは微小亀裂の出現、肌の輝きの喪失、および/または皮膚の柔軟さの喪失から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
UV光線に対する表皮の保護を改善するためのものであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
非病理的な乾燥皮膚上に用いることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
バリア機能の非病理的な損傷に起因する皮膚の徴候を予防し、またはそれを抑制するための、FN3Kおよび/またはFN3KRPの発現を刺激するための有効薬剤の化粧上の使用。

【公表番号】特表2011−520768(P2011−520768A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511562(P2010−511562)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055862
【国際公開番号】WO2008/151891
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(508283406)シャネル パフュームズ ビューテ (23)
【Fターム(参考)】