説明

皮膚の色素沈着を抑制する組成物およびその利用

【課題】本発明は、皮膚の色素沈着を抑制する組成物を提供する。
【解決手段】
該組成物は、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の茎部分から分離した2種の化合物、リンデラノリドB(linderanolide B)およびスバモリドA(subamolide A)を含む。この2種の化合物は抗チロシナーゼ作用を有し、細胞または個体のメラニン生成を抑制し、美白化粧品に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)抽出物およびその利用に関する。キナモムム・スバベニウム抽出物は、メラニン生成を抑制する美白効果を有する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のメラニンは、メラニン細胞(melanocyte)で生成され、表皮の基底層(stratum)に存在する。ヒトの皮膚は、通常ほぼ同じ濃度のメラニン細胞を有するが、異なる民族では、メラニンに関わる遺伝子の発現に違いがある。メラニンの分子構造は緊密で、不溶性高分子の重合体であり、常にタンパク質と結合している。構造によりユーメラニン(eumelanins)、フェオメラニン(pheomelanins)、アロメラニン(allomelanins)に分けられる。哺乳類のメラニンは、ユーメラニン(eumelanins)およびフェオメラニン(pheomelanins)の2種の成分によって、異なる比率で構成される。この2種のメラニンの数および型は、4〜6個の遺伝子が不完全優性遺伝するものであり、遺伝子の複製はすべて父母双方からである。結合後、極めて種類の多い、異なる肌色を発現する。
【0003】
メラニンの形成は、いくつかの酵素および分子が生化学反応に関与する必要があり、それぞれチロシン、チロシナーゼ(tyrosinase)および酸素分子である。チロシナーゼは、チロシンをジヒドロキシフェニルアラニン(dihydroxyphenylalanine)に酸化した後、ドパクロム(dopachrome)に変換する。さらにインドール(indoles)を形成し、最後にメラニン(melanin)に変化する(Wulf他、Skin aging and natural photoprotection、2004年、Micron、35、185〜191ページ)。チロシナーゼが、ジヒドロキシフェニルアラニンをドパクロムに変換するのを促進する段階は、律速段階である。ドパクロムは自動酸化反応によってメラニンを形成する。チロシナーゼは銅を含む金属酵素であり、メラニン細胞で合成され、メラニン生成の過程で非常に重要な役割を担う。チロシナーゼ活性が上昇すると、メラニンの生産量が増加し、チロシナーゼ活性が抑制されると、メラニン細胞のメラニン生成能力が、それに呼応して低下する。
【0004】
メラニン沈着を引き起こす原因は多い。皮膚が紫外線照射を受けると、細胞内のチロシナーゼ活性が増強し、メラニン合成が促進される。他に、血液中の銅イオン濃度の上昇によってもチロシナーゼ活性が増強されることがある。したがって、チロシナーゼ活性の抑制は、メラニン生成を減少させる方法の1つとなる。
【0005】
メラニン形成を抑制するメカニズムは以下の4種類に分類される。1、チロシナーゼ活性を減少させ、メラニン合成を抑制する。これはチロシナーゼ阻害剤によるものである。2、メラニン細胞の機能を低下させる。細胞毒性(cytotoxic)を有する物質を使用して、メラニン細胞の増殖を低下させる。または、メラニン生成を阻害する。3、抗酸化剤などを用いて、ジヒドロキシフェニルアラニンの自動酸化を、抑制または予防する。4、皮膚の炎症反応、日焼け後に生じる炎症反応などを抑制する。したがって、皮膚の美白に関して、UV遮断、フリーラジカル除去、チロシナーゼ合成抑制、チロシナーゼ活性抑制、およびメラニン生成阻害またはその代謝促進など、いくつかの側面から着手する。
【0006】
第1のメカニズムである、チロシナーゼ阻害剤に関する特許は比較的多い。以下に順を追って簡潔に述べる。米国特許第5723109号は、サリチル酸誘導体(Salicylic acid derivative)を利用して、チロシナーゼ阻害剤としており、米国特許第5730962号は、合成ベンゾフラン(benzofuran)およびその誘導体も、チロシナーゼ活性抑制効果を有することを開示している。
【0007】
他に、多くの天然植物または食物抽出物も、チロシナーゼ抑制効果を有する。米国特許第5824320号は、アフロイア(Aphloia)またはマンゴーの葉(Mangifera leaf)の抽出物およびその誘導体が、チロシナーゼ活性の抑制およびコラゲナーゼ活性の抑制効果を有することを開示している。米国特許第5968487号は、合成コウジ酸誘導体[5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−イル]メチル−2−オキソチアゾリジン−4−カルボキシラート([5−hydroxy−4−oxo−4H−pyran−2−ylmethyl]2−oxothiazolidine−4−carboxylate)が、皮膚美白剤としてヒトのメラニン合成を抑制することを開示している。米国特許第6750229号は、大豆から抽出した大豆トリプシン阻害剤(STI)およびボーマンバークプロテアーゼインヒビターを提供する。ボーマンバークプロテアーゼインヒビターは表皮上層で作用し、濃度の増加に伴って、メラニンの抑制は顕著になる。また、2種の抽出物をブタに作用させると、メラニンの抑制は40%以上に達する。
【0008】
以上に述べたように、複数種の薬物を美白剤とすることができるが、これらの美白剤を配合するだけの美白化粧原料の効果は非常に弱い。製剤の安定性または皮膚刺激に対する安全性の面でも不十分であり、市場のニーズを満たすことができない。アスコルビン酸の安定性は悪く、皮膚炎を誘発しやすいことがすでに知られている。コウジ酸およびその誘導体は、美白作用は強いが、光や熱によって容易に分解する。ハイドロキノンも美白作用は強いが不安定であり、いわゆるミセル(micelle)および乳液の化粧品の製造方法において、脱色しやすい問題が生じる。低濃度であってもアレルギー性接触皮膚炎を誘発する問題もある。広東人参などの生薬は、それ自体が高価なため、廉価な美白剤を製造して、一般の消費者に提供する問題も有する。
【0009】
以上を総合すると、市場では、低配合量で優れた美白効果を有する化合物、皮膚刺激が無いなど、安全性および安定性に優れた化合物、さらに該化合物を投与した摂取しやすい飲食物、香料、化粧品、医薬品が、依然として求められていることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5723109号
【特許文献2】米国特許第5730962号
【特許文献3】米国特許第5824320号
【特許文献4】米国特許第5968487号
【特許文献5】米国特許第6750229号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wulf他、Skin aging and natural photoprotection、2004年、Micron、35、185〜191ページ
【非特許文献2】Mosmann T.、Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival:application to proliferation and cytotoxicity assays、J Immunol Methods、1983年、16、65(1〜2)、55〜63ページ
【非特許文献3】Yoshimura他、Effects of all−trans retinoic acid on melanogenesis in pigmented skin equivalents and monolayer culture of melanocytes、2001年、J.Dermatol.Sci.、27 Suppl1、S68〜75ページ
【非特許文献4】Lin他、Constituents from the Formosan apple reduce tyrosinase activity in human epidermal melanocytes、2007年、Phytochemistry、68巻、8号、1189〜1199ページ
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)抽出物を提供する。以下の段階により得られる。
【0013】
キナモムム・スバベニウム(Cinnamoumum subavenium)抽出物は、以下の段階により得られる。
【0014】
有機溶剤を用いて、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の茎を抽出する。
【0015】
前段階の産物を水に加えて、懸濁液を形成する。
【0016】
クロロホルム水溶液を懸濁液に添加して、懸濁液を分離させる。
【0017】
該分離液からクロロホルムの分離層を分離する。
【0018】
さらにクロロホルムの分離層を液体カラムクロマトグラフィーによって、アルキル類およびエステル類の混合液を用いて、抽出物を溶離する。本発明のアルキル類はノルマルヘキサンを、エステル類は酢酸エチルを含む。
【0019】
また本発明は、該抽出物を、皮膚の色素沈着を抑制する薬物に調製する利用方法を提供する。該薬物は個体のチロシナーゼ活性を抑制し、メラニン生成をコントロールする。該薬物の有効成分は以下の化学構造(I)または(II)の化合物、
【0020】
【化1】


(I)リンデラノリドB
【0021】
【化2】


(II)スバモリドA
およびその塩類、エステル類、または溶媒和物を含む。個体は動物またはヒトを含む。
【0022】
本発明は、他に皮膚の色素沈着を抑制する組成物を提供する。この組成物は以下の化学構造(I)または(II)の化合物、
【0023】
【化3】


(I)リンデラノリドB
【0024】
【化4】


(II)スバモリドA
およびその塩類、エステル類、または溶媒和物を含む。
【0025】
該溶媒和物は、化合物が結晶化過程にあることを示す。溶媒分子を加えることで、結晶格子が変化し、得られた結晶が化合物の溶媒和物である。
【0026】
2種の化合物は、ともにチロシナーゼ活性抑制作用を有する。
【0027】
本発明の組成物または抽出物は、それぞれ飲料、化粧品または医薬品に添加される。
【0028】
飲料は、例えばスポーツ飲料、炭酸飲料、果汁を含む各種ジュース、または紅茶飲料などの清涼飲料水である。ケーキ、ビスケット、パン、ゼリーもしくはアイスクリームなどの菓子類、うどん、麺、ラーメン、麺食、そばなどの麺類、味噌、醤油、酢、サラダ油、ゴマ油、バター、チーズ、豆乳または牛乳など、種類または形態に関わらず、すべて飲食物として摂取される。本発明の美白有効成分を飲食物に溶解、混合して製造することができる。
【0029】
化粧品は、化粧水、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、乳液、乳液状またはクリーム状のファンデーション、口紅、おしろい、洗顔フォーム、ヘアローションなどの液体、固体、ゾル体、クリーム体であり、すべて外用に適している。口の中で崩れるソフトカプセル、または口中への噴霧器などもある。本発明は、美白有効成分を含む以外に、その他の材料を使用して、周知の方法により製造することができる。通常使用されるその他の材料は、油脂類(例えば蜜ロウおよびブラジルヤシロウなどの蝋、ホホバ油、ミンク油、カカオ脂、ヤシ油、パームオイル、ツバキ油、ゴマ油、ヒマシ油、オリーブオイルなど)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセロール脂肪酸エステルなど)、低級または高級アルコール類(例えばセタノール、イソオクタデカノール、ラウリルアルコール、ヘキサデカノール、ベヘニルアルコール、オクチルドデシルアルコールなど)、脂肪酸類(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸など)、水溶性高分子(例えばカルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、セルロース、アルギン酸カルシウムなど)、多糖類(例えばヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)、ペプチド類(例えばコラーゲンなど)、防腐剤(例えば安息香酸およびその塩類、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン(chlorhexidine)、オルトフェニルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロメチルフェノール、クロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロブタノール、ソルビン酸およびその塩類、デヒドロ酢酸およびその塩類、パラオキシエチレン安息香酸エステル(paraoxy ethylene benzoate ester)、3−トリフルオロメチル−4,4−ジクロロカルバニリドなど)、増粘剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸カルシウム、多糖類など)、保湿剤(例えばグリセリン、キシリトール、ソルビトール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール200〜600、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、マルチトール、マンニトールなど)、色素、香料、水、またはpH調整剤などである。
【0030】
医薬品は塗布薬、湿布薬、軟膏、ゾル状塗布薬などの外用品以外に、経口摂取の顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル、シロップ、または液剤などを含む。本発明は美白有効成分を含む以外に、その他の材料を使用して、周知の方法により製造することができる。通常使用されるその他の材料は各種添加剤、例えば賦形剤(例えば乳糖、砂糖、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロースなど)、結合剤(例えばデンプン溶液、ヒドロキシプロピルセルロース液、カルボキシメチルセルロース液、アラビアガム液、ゼラチン液、アルギン酸ナトリウム液など)、崩壊剤(例えばデンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、炭酸カルシウムなど)、潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウムなど)、界面活性剤(例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)、または増粘剤(例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど)などである。経口用医薬品の剤形は、咀嚼錠または口腔錠などを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、2つの化合物、リンデラノリドB(linderanolide B)およびスバモリドA(subamolide A)を、抽出および精製する工程を示す。
【図2A】図2は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、ヒトのメラニン細胞に対する試験結果を示す。他に、コウジ酸、N−フェニルチオ尿素、およびメラニン細胞刺激ホルモンを含む。図2Aは、細胞毒性試験である。コントロール群を100%とする。
【図2B】図2は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、ヒトのメラニン細胞に対する試験結果を示す。他に、コウジ酸、N−フェニルチオ尿素、およびメラニン細胞刺激ホルモンを含む。図2Bは、チロシナーゼ酵素活性の実験結果である。コントロール群を100%とする。
【図2C】図2は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、ヒトのメラニン細胞に対する試験結果を示す。他に、コウジ酸、N−フェニルチオ尿素、およびメラニン細胞刺激ホルモンを含む。図2Cは、ヒト細胞のメラニン含量率である。コントロール群を100%とする。
【図3】図3は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、細胞成長に対する影響を示す。明視野顕微鏡で200倍に拡大して観察した。矢印が示す部分は、双極(bipolar)の外観を示す初代ヒト新生児メラニン形成細胞(HEMn−MP)である。
【図4】図4は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、ゼブラフィッシュの色素含量に対する影響を示す。他にN−フェニルチオ尿素およびアルブチンの試験結果を含む。いずれもコントロール群を100%とする。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の抽出物によって、メラニン生成を抑制する。さらに、細胞実験およびゼブラフィッシュの生体システムを利用して、該抽出物が抗チロシナーゼ活性およびメラニン発現を低下させる機能を有することを証明する。図および以下の説明を参照されたい。その目的は、本発明を説明するための好適な実施例であり、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0033】
実験材料
キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)は、ニッケイ属(Cinnamomum)に属し、台湾原生の常緑高木の1種である。主に海抜500〜1500メートルの間に分布している。その樹皮はニッケイの香りを有し、香料として使用される。葉から抽出した葉油は、食品、タバコの香料とされ、または殺菌剤として使用される。
【実施例2】
【0034】
抽出および精製
キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の茎から2種の化合物、リンデラノリドBおよびスバモリドAを分離した。以下化合物(I)および(II)と略す。
【0035】
【化5】


(I)リンデラノリドB
【0036】
【化6】


(II)スバモリドA
【0037】
図1を参照されたい。キナモムム・スバベニウムの乾燥茎(8キログラム)を、メタノール(MeOH、80リットル)を用いて、抽出を6回行った。室温、減圧条件下で、抽出物を合計202.5グラム回収した。抽出物を1リットルの水中に懸濁し、さらに5回に分けてクロロホルム(CHCl、2リットル)を加えて、溶液を分離させた。分離後、クロロホルム層に溶解した抽出物は123.5グラム、水層に溶解したのは74.1グラムであった。クロロホルム層の抽出物123.5グラムを、シリカゲル(800グラム、70〜230メッシュ(mesh))を用いてクロマトグラフ分析を行った。ノルマルヘキサン(n−hexane)、酢酸エチル(EtOAc)およびメタノールを混合して溶離液とし、合計5組の溶出液を分離した。
【0038】
第1次溶出液の一部の7.46グラム(第1次の第1画分、1−1で表す)を、ノルマルヘキサン−酢酸エチル(30:1)で溶離し、その後十分量の酢酸エチルを加えてクロマトグラフィーを行い、溶出液を合計10画分(1−1〜1−10)採取した。第1次の第3画分(4.02グラム)を、ノルマルヘキサン−酢酸エチル(40:1)で溶離し、続けて酢酸エチルを加えて、溶出液を3画分(1−3−1〜1−3−3)得た。1−3−2溶出液の重量は4.11グラムであった。ノルマルヘキサン−酢酸エチル(40:1)で溶離し、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。さらに薄層クロマトグラフィー(ノルマルヘキサン−酢酸エチル(30:1))を用いて調製し、第1次のクロマトグラフィー結果は、合計でイソリンデラノリドB(isolinderanolideB)を2.31グラム、およびリンデラノリドBを134ミリグラム得た。
【0039】
第2次溶出液(9.31グラム)のシリカゲルクロマトグラフィーを行った。ノルマルヘキサン−酢酸エチル(10:1)で溶離し、続けて酢酸エチルを加えて、溶出液を5画分(2−1〜2−5)得た。2−4溶出液の重量は1.31グラムであった。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、ノルマルヘキサン−酢酸エチル(40:1)で溶離し、続けて酢酸エチルを加えて、溶出液を4画分(2−4−1〜2−4−4)得た。溶出液2−4−2(1.06グラム)を、ノルマルヘキサン−酢酸エチル(10:1)で溶離し、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。薄層クロマトグラフィー(ノルマルヘキサン−酢酸エチル(30:1))で調製し、スバモリドA(subamolideA)38ミリグラムを分離した。
【実施例3】
【0040】
細胞実験
本実施例は、ヒトの皮膚のメラニン細胞を用いて、2つの化合物がチロシナーゼを抑制する効果を測定した。
【0041】
細胞培養
初代ヒト新生児メラニン形成細胞(neonatal foreskin primary human epidermal melanocytes、HEMn−MP)は、Cascade Biologics(登録商標)から購入し、培地254(Cascade Biologics(登録商標))で培養した。ヒトメラニン細胞増殖添加剤(human melanocyte growth supplement、HMGS、cat.No.S−002−5)を添加し、37℃の湿潤環境(5%二酸化炭素)下、初代ヒト新生児メラニン形成細胞(HEMn−MP)を、24ウェル培養プレートを用いて、細胞密度は10個/ウェルで培養した。
【0042】
毒性試験
異なる濃度の化合物(I)および(II)(0.01μM、0.1μM、1μM、5μMおよび10μM)、コウジ酸(kojic acid)100μM、N−フェニルチオ尿素phenylthiourea(PTU)100μM、メラニン細胞刺激ホルモンα−Melanocyte−Stimulating Hormone(MSH)0.1μMを細胞培養プレートに添加し、MTSアッセイ(Mosmann T.、Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival:application to proliferation and cytotoxicity assays、J Immunol Methods、1983年、16、65(1〜2)、55〜63ページ)によって、細胞毒性試験を行った。コウジ酸およびN−フェニルチオ尿素が、メラニン阻害剤であることはすでに知られており、メラニン細胞刺激ホルモンはメラニン生成を刺激する。ここで同時に実験を行い、化合物(I)および(II)の効果との比較に用いた。実験結果は、表1および図2Aに示すとおりである。コントロール群のデータを100%とし、結果はすべて、3回以上の独立した実験によって得られた。
【0043】
細胞活性
【0044】
【表1】

【0045】
図2Aを参照されたい。コントロール群のデータを100%とした。細胞活性は、化合物(I)および(II)の濃度が上昇するにつれて低下した。N−フェニルチオ尿素およびコウジ酸の細胞活性に対する影響は、比較的小さかった。
【0046】
チロシナーゼ活性試験
Yoshimuraが行った方法(Yoshimura他、Effects of all−trans retinoic acid on melanogenesis in pigmented skin equivalents and monolayer culture of melanocytes、2001年、J.Dermatol.Sci.、27 Suppl1、S68〜75ページ)に基づき、ドパクロム(dopachrome)生成速度を利用して、チロシナーゼ活性を測定した。HEMn−MP細胞(10個/ウェル)を24ウェル培養プレートで培養し、すべてのウェルに500μlDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培養液を加え、実験する化合物(I)、(II)、コウジ酸、N−フェニルチオ尿素およびメラニン細胞刺激ホルモンをそれぞれ加えて、3日間培養した。
【0047】
培養後、仔牛血清(Fetal Bovine Serum、FBS)で細胞を洗い、細胞を1%トリトン(Triton)X−100/PBSに溶解した。細胞溶解物を回収し、L−ドーパ(L−Dopa)およびL−チロシン(L−tyrosine)10μl(10mMを0.1Mリン酸緩衝液、pH6.8に溶解した)を添加し、37℃で3時間培養した。反応後、サンプルの490ナノメートルの吸光度を測定した。結果は表2および図2Bのとおりである。コントロール群のデータを100%とし、結果はすべて3回以上の独立した実験により得られた。
【0048】
図2Bを参照されたい。チロシナーゼ活性は、化合物(I)および(II)の濃度の上昇に伴い低下した。N−フェニルチオ尿素およびコウジ酸のチロシナーゼ活性に対する影響は、比較的小さかった。
【0049】
チロシナーゼ活性
【0050】
【表2】

【0051】
メラニンの定量分析
Linの方法によって、メラニンを測定した(Lin他、Constituents from the Formosan apple reduce tyrosinase activity in human epidermal melanocytes、2007年、Phytochemistry、68巻、8号、1189〜1199ページ)。細胞を1N水酸化ナトリウムおよびジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide、DMSO)に溶解し、1時間80℃で加熱した。10,000rpmで10分間遠心し、上澄液を吸光度405ナノメートルで測定した。結果は表3および図2Cのとおりである。コントロール群のデータを100%とし、結果はすべて3回以上の独立した実験により得られた。化合物(I)および(II)濃度の増加に伴い、細胞のメラニン含量が低下した。コウジ酸およびN−フェニルチオ尿素も、メラニン含量を減少させる効果を示したが、メラニン細胞刺激ホルモンはメラニン含量を増加させた。
【0052】
細胞メラニン濃度
【0053】
【表3】

【0054】
図3は、異なる濃度のリンデラノリドBおよびスバモリドAの、HEMn−MP細胞の成長に対する影響を示す。明視野顕微鏡により、200倍に拡大して観察すると、コントロール群と、低濃度の化合物(I)および(II)処理の細胞(図3A、3H、3I、3Mおよび3N)は、細胞の配列が緊密で、かつ細長い双極(bipolar)の外観を呈した。他に、α−MSH処理の細胞(図3B)も同様の成長状態を示した。
【0055】
N−フェニルチオ尿素、コウジ酸、比較的高濃度の化合物(I)および(II)処理の細胞は、比較的配列が乱れ、かつある細胞はすでに双極の特性を失っており、細胞の構造が破壊されたことを示した(図3C、3D、3F、3G、3Kおよび3L)。高濃度の化合物(I)および(II)処理では、細胞は不規則な配列を呈し、ある細胞の外観は変化し、化合物が細胞に対して部分的に有毒作用を引き起こすことを示した(図3Eおよび3J)。
【実施例4】
【0056】
ゼブラフィッシュ動物実験
本実施例は、ゼブラフィッシュの生体試験を利用して、2つの化合物の美白効果を、またその投与量がゼブラフィッシュに対して有害性または致死性がないことを検査した。異なる濃度の2つの化合物(1μM、5μMおよび10μM)、N−フェニルチオ尿素10μM、アルブチン(arbutin)50μMを、それぞれゼブラフィッシュ胎児の培養環境に加えた。すべての実験群は4〜9個の胎児を含む。図4からわかるように、10μMの2つの化合物はゼブラフィッシュの色素を20%〜30%減少させた。またゼブラフィッシュに対して毒性を示さなかったが、その効果は濃度が比較的高いN−フェニルチオ尿素およびアルブチン(arbutin)にわずかに劣った。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の技術は化粧品業界、バイオ医療技術業界などで応用することができる。発明の主な目的は、全世界で紫外線含量が非常に高く、皮膚を刺激することで、メラニン生成が加速され、それに伴う皮膚癌罹患率に対応することである。本発明は、抽出された化合物がチロシナーゼ活性を抑制することができ、良好なメラニン生成抑制効果を有し、なおかつ人体の正常な皮膚細胞に使用した研究プラットホームとすることを確認した。
【符号の説明】
【0058】
10 メタノールを加える
20 クロロホルムおよび水の分離液に溶解する
30 クロマトグラフ分析を行う。ノルマルヘキサン、酢酸エチルおよびメタノールを溶離液とする

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の抽出物であって、以下の
有機溶剤により、キナモムム・スバベニウム(Cinnamomum subavenium)の茎を抽出する段階と、
前段階の産物を水に加えて、懸濁液を形成する段階と、
クロロホルム水溶液を該懸濁液に添加して、該懸濁液を分離させる段階と、
該分離液からクロロホルムの分離層を分離する段階と、
クロロホルムの分離層を液体カラムクロマトグラフィーによって、アルキル類およびエステル類の混合液を用いて、該抽出物を溶離する段階、
により得られることを特徴とする、抽出物。
【請求項2】
該アルキル類が、ノルマルヘキサンを、該エステル類が、酢酸エチルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
飲料、化粧品または医薬品に添加されることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
該飲料が各種ジュース、茶類、麺類、乳製品、または調味料を含み、該化粧品が化粧水、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、乳液、乳液状もしくはクリーム状のファンデーション、口紅、おしろい、洗顔フォーム、ヘアローションなどの液体、固体、ゾル体、またはその他周知の方法で製造される化粧品を含み、該医薬品が粉、カプセル、噴霧剤、ゲル、軟膏、タブレット、座薬、顆粒、パッチ、丸薬、トローチ、注射薬、点滴薬、懸濁剤、静脈内乳剤、徐放製剤、放出制御製剤、またはその他周知の方法で製造される医薬品を含むことを特徴とする、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
請求項1に記載の抽出物を、皮膚の色素沈着を抑制する薬物に調製する利用方法であって、該薬物が個体のチロシナーゼ活性を抑制して、メラニン生成を減少させ、該薬物の有効成分が、以下の化学構造(I)または(II)の化合物、
【化1】


(I)リンデラノリドB
【化2】


(II)スバモリドA
およびその塩類、エステル類、または溶媒和物を含むことを特徴とする、利用方法。
【請求項6】
該個体が、動物またはヒトを含むことを特徴とする、請求項5に記載の利用方法。
【請求項7】
色素沈着を抑制する組成物であって、以下の化学構造(I)または(II)の化合物、
【化3】


(I)リンデラノリドB
【化4】


(II)スバモリドA
およびその塩類、エステル類、または溶媒和物を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項8】
チロシナーゼ活性を抑制する作用を有することを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
飲料、化粧品または医薬品に添加されることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
該飲料が各種ジュース、茶類、麺類、乳製品、または調味料を含み、該化粧品が化粧水、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、乳液、乳液状もしくはクリーム状のファンデーション、口紅、おしろい、洗顔フォーム、ヘアローションなど液体、固体、ゾル体、またはその他周知の方法で製造される化粧品を含み、該医薬品が粉、カプセル、噴霧剤、ゲル、軟膏、タブレット、座薬、顆粒、パッチ、丸薬、トローチ、注射薬、点滴薬、懸濁剤、静脈内乳剤、徐放製剤、放出制御製剤、またはその他周知の方法で製造される医薬品を含むことを特徴とする、請求項9に記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−178770(P2011−178770A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114619(P2010−114619)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(510137489)カオシュン メディカル ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】