説明

皮膚の透明感の簡易的な測定方法

【課題】 本発明においては、複雑な計測用機器を用いることなく、皮膚の透明感を簡易的に測定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラを用い、光源部に対するレンズ部の偏光フィルターの角度を平行させて撮影した皮膚画像と直交させて撮影した皮膚画像を画像演算処理することによって得られる皮膚画像の拡散反射光の輝度値を指標とすることにより、皮膚の透明感を簡易的に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の透明感の簡易的な測定方法に関する。さらに詳しくは、光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラにより撮影した画像を用いる皮膚の透明感の簡易的な測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の透明感は皮膚の美しさを表現する上で重要な要素の一つであり、皮膚の透明感の低下は一般的にくすみとして認識される。このため、皮膚の老化を防止する皮膚化粧料や皮膚色を調整して美しく装うためのメイクアップ化粧料の研究開発や販売において、これら化粧料の効果を検討するために皮膚の透明感を客観的に評価することは非常に重要である。
【0003】
皮膚の透明感を評価する方法としては、専門評価者による目視でのスコア化が一般的に行われている。しかし、この方法による場合は熟練した評価者が必要であり、多数の被験者を長期間にわたり客観的に評価することは非常に困難であった。
【0004】
このため、皮膚の透明感を客観的に評価する方法として機器を用いた評価方法も開発されている。例えば、測定器の中央部より皮膚表面に光を照射し、皮膚に浸透拡散させ、再び皮膚表面に出てくる光を一定距離の部位で受光する方法(非特許文献1参照)や、その改良法である測定用ヘッドの中央部よりグラスファイバーにて光を照射し、周囲に設置した光電池で受光する方法(非特許文献2参照)、大きさの異なる3本の入射光用光ファイバー束を同心円上に配置し、その中心部に受光用光ファイバー束を有する皮膚分光透明度計測用センサヘッドを用いる方法(非特許文献3参照)などが報告されている。また、皮膚の内部反射光や内部反射光の抽出方法に関しては、偏光を用いた測定方法が知られている(非特許文献4参照)。
【0005】
【非特許文献1】色彩研究 (1) 2 (1955) 川上ら
【非特許文献2】日本化粧品技術者会誌 16 (1) 15-18 (1982) 政野ら
【非特許文献3】日本化粧品技術者会誌 31 (4) 429-438 (1997) 金子ら
【非特許文献4】日本写真学会誌,264-269(1993) 小島ら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような機器による評価方法においては、複雑且つ高価な計測用機器を要し、皮膚の測定操作及び得られたデータの処理が複雑且つ煩雑で、かなりの熟練を要することが多かった。したがって、本発明においては、複雑な計測用機器を用いることなく簡易的に皮膚の透明感を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために種々の検討を行った結果、偏光フィルターを装着したデジタルカメラで撮影した皮膚画像を画像演算処理することにより、皮膚の透明感を簡易的に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラを用い、光源部に対するレンズ部の偏光フィルターの角度を平行させて撮影した皮膚画像と直交させて撮影した皮膚画像を画像演算処理することによって得られる皮膚画像の拡散反射光の輝度値を指標とする皮膚の透明感の測定方法に関する。
また、本発明は、光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラを用い、光源部に対するレンズ部の偏光フィルターの角度を平行させて撮影した皮膚画像と直交させて撮影した皮膚画像を画像演算処理することによって得られる皮膚画像の拡散反射光の輝度値若しくは表面反射光の輝度値を指標とする皮膚のつや感の測定方法に関する。
さらに、本発明は、前記の透明感の測定方法を用いて塗布前後の拡散反射光の輝度値を測定した場合の輝度値の差が1.0以上となる皮膚の透明感改善用の皮膚外用剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膚の透明感やつや感を客観的に測定することができる。また、本発明においては、デジタルカメラを用いて撮影した皮膚画像を用いるため、皮膚の透明感やつや感を簡易的に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、レンズ部の周りに円状に光源(フラッシュ部)の装着されている接写型のレンズ(ニコン社製メディカルニコン(R)等)を有するカメラ(ニコン社製ニコンD-1(R)等)を用いるのが便利である。写真撮影の光源は、カメラのストロボのみとし、ストロボ部とレンズ部にはそれぞれ別に偏光フィルターを装着し、表面反射を抽出した画像を得るときには、ストロボ部とレンズ部の偏光フィルターを平行(パラレル:p)にし、拡散反射を抽出した画像を得るときには、偏光フィルターを交差(クロス:c)させた状態で被験者の皮膚の撮影を行う(図1)。この際、シャッタースピード、絞り、被験者とカメラとの距離、及び角度は全て一定にし、被験者の顔の部分は動かないように固定する。
同時に、硫酸バリウム白色板等の完全反射板と、黒色板等の完全無反射板についても、撮影を行い、これらを基準に画像レベルを統一化した。頬部の一定範囲内(小鼻の横より上の頬部4cm2)における輝度は、画像解析ソフトを用いて測定した。その一定範囲内における輝度値のヒストグラムから平均輝度値、標準偏差、最大輝度値、最小輝度値を測定した。小島らの報告(小島伸俊,化粧肌の質感推定(II)日本写真学会誌,1993年,pp264-269)を参考に偏光フィルターをパラレルに装着した場合には拡散反射の要素も含まれるため、偏光フィルターをクロスにして得られた画像を除去し、表面反射画像(S)とする。また、偏光フィルターをクロスにし、倍にして得られた画像を拡散反射画像(D)とする。各画像の輝度値は、次の式で示される演算を行い求めた。Iは計測された反射強度とし、c及びpは入射光及び受光側の偏光フィルターの方向を示している。
S=(Icc+Ipp)−(Icp+Ipc)
D=2(Icp+Ipc)
目視評価は、訓練された専門評価者により被験者の透明感、つや感について行う。透明感は、「色や凹凸のムラがなく、光が透けて通るようなうるおい感のある、白っぽい感じ」と定義し、5段階(1:ない,2:あまりない,3:普通,4:ややある,5:ある)で評価する。また、つや感は、「脂っぽくなく、みずみずしい感じが強く、はねかえるような光」と定義し、5段階(1:ない,2:少しある,3:ある,4:かなりある,5:非常にある)で評価する。
画像演算により得られる表面反射画像(S)及び拡散反射画像(D)の平均輝度値と目視評価の判定スコアとの相関関係は、スピアマンの順位相関を用いて算出し、相関係数により相関関係を求めることができる。
【実施例】
【0011】
以下、実験例により本願発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによって何ら限定されるものではない。
【0012】
[透明感の評価]
肌状態等を考慮せず、無作為に抽出した被験者50名を対象に訓練された専門評価者3名により被験者の透明感の目視評価を行った。透明感は、「色や凹凸のムラがなく、光が透けて通るようなうるおい感のある、白っぽい感じ」と定義し、5段階(1:ない,2:あまりない,3:普通,4:ややある,5:ある)で評価した。
次に、レンズ部の周りに円状に光源(フラッシュ部)の装着されている接写型のレンズ(ニコン社製メディカルニコン(R)等)を有するカメラ(ニコン社製ニコンD-1(R)等)を用いて被験者50名の写真撮影を行った。写真撮影の光源は、カメラのストロボのみとし、ストロボ部とレンズ部にはそれぞれ別に偏光フィルターを装着し、表面反射を抽出した画像を得るときには、ストロボ部とレンズ部の偏光フィルターを平行(パラレル:p)にし、拡散反射を抽出した画像を得るときには、偏光フィルターを交差(クロス:c)させた状態で被験者の皮膚の撮影を行った。この際、シャッタースピード、絞り、被験者とカメラとの距離、及び角度は全て一定にし、被験者の顔の部分は動かないように固定した。
その後、画像演算により得られる表面反射画像(S)及び拡散反射画像(D)の平均輝度値と目視評価の判定スコアとの相関関係をスピアマンの順位相関を用いて算出し、相関係数により相関関係を求めた。
その結果、拡散反射画像の平均輝度値と透明感の目視スコアとの相関係数rは、r=0.49であり、有意確率1%未満(p<0.01)の有意な相関関係を確認することができた(図2)。この相関関係から得られた回帰式y=5.482x+98.829に新たなパネルの拡散反射画像の輝度値を代入すると、得られる透明感は4.16となり、目視評価とほぼ同様の値であることが明らかとなった。
このことから、デジタルカメラにより撮影した拡散反射画像の輝度値から皮膚の透明感の測定が可能となることが分かった。
【0013】
[つや感の評価]
肌状態等を考慮せず、無作為に抽出した被験者50名を対象に訓練された専門評価者3名により被験者のつや感の目視評価を行った。つや感は、「脂っぽくなく、みずみずしい感じが強く、はねかえるような光」と定義し、5段階(1:ない,2:少しある,3:ある,4:かなりある,5:非常にある)で評価した。
次に、レンズ部の周りに円状に光源(フラッシュ部)の装着されている接写型のレンズ(ニコン社製メディカルニコン(R)等)を有するカメラ(ニコン社製ニコンD-1(R)等)を用いて被験者50名の写真撮影を行った。写真撮影の光源は、カメラのストロボのみとし、ストロボ部とレンズ部にはそれぞれ別に偏光フィルターを装着し、表面反射を抽出した画像を得るときには、ストロボ部とレンズ部の偏光フィルターを平行(パラレル:p)にし、拡散反射を抽出した画像を得るときには、偏光フィルターを交差(クロス:c)させた状態で被験者の皮膚の撮影を行った。この際、シャッタースピード、絞り、被験者とカメラとの距離、及び角度は全て一定にし、被験者の顔の部分は動かないように固定した。
その後、画像演算により得られる表面反射画像(S)及び拡散反射画像(D)の平均輝度値と目視評価の判定スコアとの相関関係をスピアマンの順位相関を用いて算出し、相関係数により相関関係を求めた。
その結果、表面反射画像の平均輝度値とつや感の目視スコアとの相関係数rは、r=0.388であり、有意確率1%未満(p<0.01)の有意な相関関係を確認することができた(図3)。
このことから、デジタルカメラにより撮影した表面反射画像の輝度値から皮膚のつや感の測定が可能となることが分かった。
【0014】
[使用試験による透明感の測定]
被験者5名に処方例に示すファンデーションを塗布し、塗布前後の皮膚の写真撮影を前記透明感の評価に順じた方法で行った。その後、塗布前後の画像を演算処理して拡散反射画像の輝度値の差を測定した。
その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

表1の結果から、ファンデーションを塗布した場合には拡散反射画像の輝度値が高くなっており、透明感が向上していることが明らかとなった。このことから、本発明の測定方法を用いることにより、化粧品等を使用した際の透明感の測定を簡便に行うことができることが明らかとなった。
【0016】
[処方例1]ファンデーション 質量%
1. 合成金雲母 20
2. マイカ 14
3. 酸化チタン 12
4. タルク 10
5. セリサイト 6.2
6. スクワラン 5
7. ラウリン酸亜鉛 5
8. 無水ケイ酸 5
9. ポリアクリル酸アルキル 3.5
10.メチルフェニルポリシロキサン 3.4
11.パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 2
12.ポリアクリル酸ナトリウム 2
13.水酸化アルミニウム 1.7
14.モノイソステアリン酸ポリグリセリル 1.5
15.黄酸化鉄 1.5
16.コハク酸ジ2−エチルヘキシル 1.3
17.微粒子酸化チタン 1.2
18.パーフルオロアルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩 1
19.パラフィン 1
20.架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体 1
21.ベンガラ 0.8
22.黒酸化鉄 0.4
23.トリメチルシロキシケイ酸 0.3
24.メチルハイドロジェンポリシロキサン 0.2
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によれば、デジタルカメラを用いて撮影した皮膚画像の用いることで、皮膚の透明感やつや感を簡易的かつ客観的に測定することができるため、化粧品等の使用試験や店頭における肌状態の評価に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】偏光フィルターを装着したデジタルカメラによる写真撮影方法を示す図である。
【図2】拡散反射画像の平均輝度値と透明感の目視スコアとの相関を示す図である。
【図3】表面反射画像の平均輝度値とつや感の目視スコアとの相関を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラを用い、光源部に対するレンズ部の偏光フィルターの角度を平行させて撮影した皮膚画像と直交させて撮影した皮膚画像を画像演算処理することによって得られる皮膚画像の拡散反射光の輝度値を指標とする皮膚の透明感の測定方法。
【請求項2】
光源部とレンズ部にそれぞれ偏光フィルターを装着したデジタルカメラを用い、光源部に対するレンズ部の偏光フィルターの角度を平行させて撮影した皮膚画像と直交させて撮影した皮膚画像の2種類の皮膚画像を画像演算処理することにより得られる皮膚画像の拡散反射光の輝度値若しくは表面反射光の輝度値を指標とする皮膚のつや感の測定方法。
【請求項3】
請求項1記載の透明感の測定方法を用いて測定した場合に塗布前と塗布後における拡散反射光の輝度値の差が1.0以上となる皮膚の透明感改善用の皮膚外用剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−212189(P2008−212189A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49650(P2007−49650)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (発行者)第24回国際化粧品技術者会連盟大阪大会組織委員会、(刊行物名)第24回国際化粧品技術者会連盟大阪大会講演予稿集、(発行年月日)2006年10月16日 (掲載年月日)2006年10月12日、(掲載アドレス)http://www.noevir.co.jp/new/ir_info/per37/061012.pdf
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】