皮膚を横断するトランスジーン発現の制御
本発明は、シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの制御下でトランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物(例えばフロレチンなど)の使用、トランスアクチベーション又はトランスリプレッサードメインに融合されたレプレッサーTtgRについての遺伝子コードを含むベクター、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター及び内因性又は外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに言及するベクターを用いて一過性又は構成的にトランスフェクトされた哺乳動物細胞、ならびにナノ又はマイクロ容器中にそのような細胞を含む哺乳動物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用、ならびに対応するベクター及びそのようなトランスジーン発現を可能にするそのようなベクターを含む細胞に関する。
【0002】
発明の背景
合成の哺乳動物発現回路は、可逆的で調整可能なトランスジーン発現を可能にし、機能ゲノム研究、創薬、産生困難なタンパク質治療薬の製造、電気回路の複雑さに達する合成遺伝子ネットワークレプリカの設計、及び遺伝子治療への適用における最近の進歩のために必須である。
【0003】
今日まで、哺乳動物細胞及びトランスジェニック動物における使用のための多数の異種トランスジーン発現システムが記載されてきた(Weber W., Fussenegger M., 2007, Curr Opin Biotechnol 18(5): 399-410)。普及している設計は、原核生物リプレッサーを真核生物トランスアクチベーションドメインに融合させることにより操作された異種小分子応答性トランスアクチベーター及び最小真核生物プロモーターに連結されたマッチする原核生物オペレーターを含むトランスアクチベーター特異的プロモーターからなる。トランスアクチベーターのその同族プロモーターに対する親和性のインデューサー誘発性調整は、特定の標的遺伝子の調整可能で可逆的な転写をもたらす。近年において、そのような異種転写制御モダリティの一式が開発されており、それらは、種々のインデューサー分子、例えば抗生物質、ステロイドホルモン及びそれらのアナログ、クオラムセンシング分子、免疫抑制及び抗糖尿病薬物、ビオチン、Lアルギニンならびに揮発性アセトアルデヒドなどに応答性である(WO2005/021766)。簡単に吸入できる気体アセトアルデヒドは別として、全ての他のインデューサーは、経口で取り込まれる、又は、任意の将来の遺伝子治療適用における注射により投与する必要がある。インデューサー分子の経皮及び局所送達は、従来の注射ベース又は経口投与を上回る利点(例えば利便性、改善された患者コンプライアンス、及び肝臓での初回通過効果の除去など)を提供しうるが、まだ開発されていない。
【0004】
フロレチンは、抗細菌活性を伴う天然植物防御代謝物であり(Teran W., Krell T., Ramos J.L., Gallegos M.T., 2006, J Biol Chem 281(11): 7102-7109)、リンゴの木の根皮中ならびにリンゴ中に生じ、皮膚ベースの薬物送達のための可能な浸透エンハンサーとして試験されており、プロスタグランジンに拮抗することにより炎症を減弱させ、皮膚をUV光誘導性の光損傷から防御し、癌処置のための化学予防薬剤として評価される。植物根圏は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(DOT−T1E株)の天然生息場所の1つであるため、この原核生物は、多剤認識特性を伴うRNDファミリートランスポーターTtgABCを進化させており、それは、TtgRプロモーター(PTtgR)における特定のオペレーター(OTtgR)へのその同族リプレッサーTtgR結合により制御される。フロレチンは、TtgRオペレーター複合体に、TtgRの二量体当たり1つのエフェクター分子の化学量論比で結合し、OTtgRからTtgRを放出することが示されており、それは、TtgABC産生の誘導及びPプチダからのフラボノイドの効果的なポンプ媒介性排出をもたらす(Teran W. et al., loc. cit.)。
【0005】
発明の概要
本発明は、トランスジーン発現、特に、シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの制御下にあるトランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用に関する。本発明において使用される皮膚浸透化合物は、例えば、フラボノイド又はカルコン(例、フロリジン、フロレチンなど)、ブチルパラベン、又はその誘導体、特にフロレチンである。
【0006】
本発明は、さらに、トランスアクチベーション又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの遺伝子コードを含むベクター、特に、TtgRについての遺伝子コードならびにヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクターに関し、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになる。
【0007】
本発明は、また、対応するコードされるトランスアクチベーター及びトランスリプレッサータンパク質(例、タンパク質TtgA1)に関する。
【0008】
さらに、本発明は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、例えば、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)を含むベクター、ならびに両方の成分、即ち、トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたTtgRタンパク質についての遺伝子コード、内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含むベクターに関する。
【0009】
本発明は、また、言及するベクターを用いて一過性又は構成的にトランスフェクトされた哺乳動物細胞、ナノ又はマイクロ容器中のそのような哺乳動物細胞、及びそのような哺乳動物細胞を含む哺乳動物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】細胞増殖及びタンパク質産生に対するフロレチンの影響。構成的なSEAP発現のために操作されたCHO−K1を、異なるフロレチン濃度(0〜100μM)を添加した培養液中で培養し、SEAP産生(バー)ならびに最高細胞密度(ライン)を48時間後に評価する。略称:C.D.:細胞密度(106/mL);Phl:フロレチン(μM)
【図2】フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)の設計及び機能性。(A)発現ベクター。シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRタンパク質についての遺伝子コードを、ヘルペス単純ウイルスのVP16トランスアクチベーションドメインに融合させ、結果として得られるトランスアクチベーターTtgA1(TtgR−VP16)を、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)の制御下にクローン化する(pMG11)。フロレチン応答性プロモーター(PTtgR1; OTtgR−PhCMVmin)は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR、TtgR結合部位、下線)を含み、それは、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられ、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の発現を駆動するように設定される(pMG10)。選択された制限部位:A、AatII;B、BssHII;Ba、BamHI;E、EcoRI;H、HindIII;N、NotI;S、SbfI;X、XbaI;Xh、XhoI。(B)PEACE機能性の略図。フロレチンの非存在において、TtgA1は、その同族オペレーター部位に結合し、PTtgR1駆動SEAP発現を開始する。フロレチンの添加によって、TtgA1がPTtgR1から放出され、それがSEAP発現をスイッチオフする。(C)pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)を用いて一過性にトランスフェクトし、48時間にわたり異なるフロレチン濃度(0〜70μM)の存在において培養されたCHO−K1のSEAP発現プラファイル。略称:Phl:フロレチン(μM)
【図3】異なるPEACEトランスアクチベーター及びプロモーターの配置の設計及び組み合わせ特徴付け。異なるトランスアクチベーションドメインを持つPEACEトランスアクチベーター(A、TtgA1、VP16;pMG11)(B、TtgA2、p65;pMG18)(C、TtgA3、E2F4;pMG19)を、0(PTtgR1;pMG10)、2(PTtgR2;pMG20)、4(PTtgR3;pMG21)、6(PTtgR4;pMG22)、8(PTtgR5;pMG23)及び10(PTtgR6;pMG24)塩基対リンカーをTtgRオペレーターと最小プロモーターの間に含むSEAP駆動PEACEプロモーター変異体を用いてCHO−K1中にコトランスフェクトし、SEAP発現を、異なるフロレチン濃度を添加した培地中での48時間の培養後にプロファイル化する。
【図4】CHO−K1中での自己調節されたPEACE制御SEAP発現。SEAPを第1シストロン中に、及び、TtgA1を第2シストロン中に持つPTtgR1駆動ジシストロン発現単位をコードするpMG13を、CHO−K1中にトランスフェクトし、SEAP発現を、フロレチンの存在(50μM)及び非存在における培養後48時間目に評価する。略称:Phl:フロレチン
【図5】異なるフラボノイドに対するPEACE応答性。(A)フラボノイドの毒性CHO−K1を、pSEAP2−Controlを用いて一過性にトランスフェクトし、異なるフラボノイド(0、25、50μM)を添加した培地中で培養する。SEAPレベルを48時間後にスコア化する。(B)全てのPEACE成分(pMG10及びpMG11)を一過性に発現するCHO−K1細胞を、異なるフラボノイドの存在において培養し、SEAP発現を48時間後にプロファイル化する。略称:1:ベルベリン;2:ブチルパラベン;3:ゲニステイン;4:ルテオリン;5:βナフトール;6:ナリンゲニン;7:フロレチン;8:フロリジン;9:クエルセチン
【図6】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE細胞株の設計及び特徴付け。CHO−K1を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)を用いて安定的にコトランスフェクトし、個々のクローンを、フロレチン調整SEAP発現について、48時間の培養期間後に評価する。略称:Phl:フロレチン
【図7A】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(A)CHO−PEACE8の用量反応プロファイル。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図7B】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(B)72時間にわたり50μMフロレチンの存在及び非存在において培養されたCHO−PEACE8のSEAP発現動態。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図7C】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(C)CHO−PEACE8ベースのSEAP産生の可逆性。2×105個のCHO−PEACE8を、144時間にわたり、50μMフロレチンの存在及び非存在において培養した。48時間ごとに細胞密度を2×105個に再調整し、培養のフロレチン状態を逆転させる。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図8】十分に定義されたフロレチン分解プロファイルを使用したバイオリアクター中での自動的にプログラムされた産物遺伝子発現。2×103個細胞/mLのCHO−PEACE8を、60、80、又は100μMのいずれかのフロレチンが添加された1Lの培養液を含むバイオリアクター中で培養し、SEAP産生を211時間にわたりプロファイル化する。培養中での定められたフロレチン分解プロファイル及び40μMフロレチンの正確な誘導閾値のため、SEAP産生の開始が、非常に正確な時間点で、産生開始時での細胞密度及びフロレチン濃度を定めることにより生じるようにプログラムすることができる。略称:1:フロレチン(60μM);2:フロレチン(80μM);3:フロレチン(100μM);4:フロレチン分解(60μM);5:フロレチン分解(80μM);6:フロレチン分解(100μM);7:細胞数;V.C.:生細胞(106/mL)。
【図9】マウスにおけるPEACE制御トランスジーン発現。(A)マイクロカプセル化したCHO−PEACE8を、雌OF1マウス中に皮下移植する(2×106個細胞/マウス)。異なる量のフロレチン(0、5.25、10.5、21、及び42mg)を含む200μLのクリームを、移植部位近くの剪毛した皮膚面に適用する。SEAP血清レベルを移植後72時間目に定量化する。(B)インビトロで72時間にわたり異なるフロレチン濃度で培養されたマイクロカプセル化したCHO−PEACE8インプラントバッチのSEAP発現プロファイル。略称:Phl:フロレチン(μM)
【図10】ポジティブ調節のためのフロレチン調整可能制御エレメント(PEACE−ON)の設計及び機能性。(A)発現ベクター。シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRについての遺伝子コードを、ヒトKruppel関連ボックスタンパク質のKRABトランスリプレッションドメインに融合させ、結果として得られるトランスリプレッサータンパク質TtgK(TtgR−KRAB)を、構成的なサルウイルス40プロモーター(PSV40)の制御下にクローン化する(pMG28)。フロレチン応答性プロモーター(PTtgRON;PSV40−8xOTtgR)は8つのTtgK特異的オペレーター配列(8xOTtgR)を含み、それらは構成的PSV40の3’に位置づけられ、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の発現を駆動するように設定される(pMG27)。選択された制限部位:B、BssHII;Ba、BamHI;C、ClaI;E、EcoRI;H、HindIII;N、NotI;X、XbaI;(B)PEACE−ON機能性の略図。フロレチンの非存在において、TtgKはその同族オペレーター部位に結合し、PTtgRON駆動SEAP発現を阻害する。フロレチンの添加によって、TtgKがPTtgRONから放出され、SEAP発現をスイッチオンする。(C)pMG28(PSV40−TtgK−pA)及びpMG27(PTtgRON−SEAP−pA)を用いて一過性にトランスフェクトし、48時間にわたり異なるフロレチン濃度(0〜50μM)の存在において培養されたCHO−K1のSEAP発現プロファイル。
【0011】
発明の詳細な説明
PプチダDOT−T1Eのフロレチン応答性TtgR−OTtgR相互作用を利用する際、合成の哺乳動物フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)を組み立て、それは、フロレチン含有スキンローションを使用してマウスにおける細胞インプラントのトランスジーン発現を可逆的に微調整することができ、標準的なバイオリアクター操作において自動産物遺伝子発現のために産生細胞株をプログラムすることができる。
【0012】
フロレチンは化学式
【化1】
3−[4−ヒドロキシフェニル]−1−[2,4,6−トリヒドロキシフェニル]−1−プロパノンである。
【0013】
本発明は、トランスジーン発現、特に、シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRの制御下でのトランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用に関する。本発明において使用される皮膚浸透化合物は、例えば、フラボノイド又はカルコン(例えばフロリジン、フロレチンなどである)、ブチルパラベン、又はその誘導体、特にフロレチンである。
【0014】
フラボノイドは、イソフラボノイド及びネオフラボノイドを含み、2−フェニルクロメン−4−オン(フラボン)、3−フェニルクロメン−4−オン(イソフラボン)、及び4−フェニル−クマリン(ネオフラボン)に由来する天然産物である。カルコンは、フラバノイド(flavanoid)に密接に関連し、o−ヒドロキシフェニルフェニルビニルケトンに由来する開鎖アナログを表す。誘導は、フラボンの2(3)炭素−炭素二重結合の還元(フラバノン(カルコンの閉環異性体)を与える)又はさらなる還元(及び環開裂)(o−(3−フェニル−プロパノイル)フェノール(ジヒドロカルコン)を与える)、ケト基の還元(フラバノールを与える)又はCH2基に対するさらなる還元、及び種々の位置でのヒドロキシル化(複数のヒドロキシル化を含む)、及びまた塩、メチルエーテル及びグリコシドエーテル誘導体、ならびに酢酸及びそのようなヒドロキシル化化合物の没食子酸エステルを含む。
【0015】
ブチルパラベンはブチル4−ヒドロキシベンゾエートである。フロリジンは、1−[2,4−ジヒドロキシ−6−[(2S,3R,4S,5S,6R)−3,4,5−トリヒドロキシ−6−(ヒドロキシメチル)オキサン−2−イル]オキシフェニル]−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−1−オン、即ち、フラボノイドグリコシドである。
【0016】
フロレチンの誘導体は、例えば、陽イオンを伴う塩、エーテル、及びエステルである。特定の塩は、一、二、三、又は四価塩、例えば、アルカリ塩、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩、アルカリ土類塩、例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩、アルミニウム塩、遷移金属塩、例えば、第一鉄塩又は第二鉄塩、アンモニウム塩、例えば、アンモニウム塩、メチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、又はテトラメチル−アンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩であって、それにおいて、アルキルは、例えば、C2−C20アルキル、特にC6−C20アルキル、例えば C12、C14、C16、又はC18アルキル、ヒドロキシエチルアンモニウム塩、ジ(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、又はトリ(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩である。
【0017】
特定のエーテルは、一、二、三、又は四価エーテル、例えば、メチル又はエチルエーテル、特にトリ及びテトラメチルエーテル、及びグリコシドである。特定のエステルは、一、二、三、又は四価エステル、例えば、アセチルエステル、特に、トリ及びテトラアセチルエステル、及び没食子酸エステルである。
【0018】
ブチルパラベンの誘導体は、同様に、塩(例、ナトリウム塩)、エーテル(例、ブチル4−メトキシベンゾエート)、又はエステル(例、ブチル4−アセトキシベンゾエート)である。
【0019】
フロリジンの誘導体は、同様に、塩(例、ナトリウム塩)、エーテル(例、メチル又はエチルエーテル)、又はエステル(例、酢酸)である。
【0020】
フラボノイド又はカルコン(例えばフロレチンなど)は、植物界において広く分布するポリフェノールであり、ヒトにより通常消費される果物及び植物中に存在する。フロレチン及びその誘導体の一部が、強力な抗炎症活性、抗酸化活性、及びさらに一部の抗癌活性を有するとの最近の知見は、一般的なことわざ「一日一個のリンゴ、医者知らず」についての化学的基礎を形成する。フロレチンは、また、経皮薬物送達のための浸透エンハンサーとして(Auner B.G., Valenta C., Hadgraft J., 2003, J Control Release 89(2): 321-328; Valenta C., Cladera J., O’Shea P., Hadgraft J., 2001, J Pharm Sci 90(4): 485-492)及び外部損傷、例えばUV照射(皮膚癌及び光による老化を誘発する)などに起因する皮膚防御減少酸化ストレスとして成功裏に評価されてきた。齧歯類における最近の試験では、フロレチンの皮膚投与が動物において全身的に広がること(Auner et al., loc. cit.)、及び、フロレチンがかなり短い半減期をインビボで有することが確認されている。上記の特徴の全てによって、フロレチンが高い代謝回転を伴う非毒性天然化合物であることが裏付けられ、それは、治療用トランスジーンの可逆的な経皮誘導のために理想的である。薬物の経皮及び局所送達ならびに分子の調節は、従来の経口又は注射ベースの投与を上回る利点(例えば利便性、改善された患者コンプライアンス、及び肝臓での初回通過効果の除去など)を提供する。しかし、大半の分子は、皮膚の優れたバリヤ特性のため、皮膚投与に適用可能ではなく、それは、浸透分子が、真皮乳頭層に達し、全身循環中へ毛細管壁を横断する前に、そのコンパクトな角質化細胞層を伴う角質層及び生きた表皮を通過することを必要とする。合成フロレチン応答性発現回路を持つ細胞インプラントを含むマウスの皮膚に置かれたフロレチン含有皮膚ローションは、動物において標的遺伝子発現を正確に微調整することができる。この先駆的な経皮転写制御システムによって、臨床的に許可を受けたデバイス中に含まれる細胞インプラントによりインサイチュで産生されるタンパク質医薬品の正確な患者制御投与が可能になる。この遺伝子治療に焦点を合わせたインビボの範囲でのフロレチン応答性トランスジーン発現の他、このシステムは、優れた調節性能(インビトロでの調整性及び可逆性を含む)を示す。培養中でのその短い半減期のため、バイオリアクター中で増殖させたフロレチン応答性産生培養物を、過剰なフロレチン濃度を用いた接種によるタイムリーな産生開始のために前もってプログラムすることができる。産生細胞培養物が増殖し、フロレチンレベルが正確な動態に従って減少し、産生を、定められた時間点で開始し、それは接種材料及び初期のフロレチン濃度の関数である。そのような時間遅延産生の概念は、特に、発現困難であるタンパク質治療法(増殖を損なう又は細胞傷害性であるものなど)のために貴重である。フロレチンが、ヒトにより通常消費され、皮膚ローション中での使用のために許可を受けている天然果物成分であるとの事実は、政府機関によるそのような生物医薬品製造プロトコールの承認を促す。
【0021】
哺乳動物細胞培養に対するフロレチンの安定性及び影響。培養液中でのフロレチンの安定性を評価し、哺乳動物細胞に対するその影響を評価するために、標準的ChoMaster(登録商標)HTS培地を、増加濃度のフロレチン(0、25、50、75、100μM)を用いて添加し、この培地を、構成的SEAP発現のために操作されたCHO−K1(pSEAP2−Control;PSV40−SEAP−pA,Clontech)の存在及び非存在においてインキュベートする。48時間後に培養物から採取されたサンプル中でのSEAPレベルは、フロレチンが異種タンパク質産生(代謝の完全性及び生存率についての主指標である)に対してネガティブな影響を有さないことを示す。生細胞密度の並行スコアリングによって、リンゴフラボノイドが、CHO−K1増殖を100μMまで損なわないことが確認される(図1)。64時間の期間にわたり無細胞培養液中で決定されたフロレチンレベルによって、このフラボノイドについて機能的な半減期70時間が確立される。
【0022】
本発明は、トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの遺伝子コードを含むベクターに関する。さらに、本発明は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0023】
合成の哺乳動物フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)の設計。植物根圏中で生き、シュードモナス・プチダDOT−T1Eは、種々の植物由来の抗菌剤に対する耐性を進化させており、それは、その標的プロモーターのオペレーター(OTtgR)からのTtgRタンパク質のフロレチン誘導性放出及び広く特異的なTtgABC排出ポンプの続く誘導により誘発される(Teran W. et al., loc. cit.)。TtgR(Teran W., et al., 2003, Antimicrob Agents Chemother 47(10): 3067-3072)をヘルペス単純由来のトランスアクチベーションドメインVP16(Triezenberg S.J., Kingsbury R.C., McKnight S.L., 1988, Genes Dev 2(6): 718-729)に融合させることにより、合成の哺乳動物トランスアクチベーター(TtgA1)を作製し、それは、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)に連結されたOTtgRを持つプロモーター(PTtgR1)に結合し、それからの転写をフロレチン応答性様式で活性化する(図2A及びB)。TtgA1特異的PTtgR1駆動SEAP発現単位をコードする構成的TtgA1発現ベクターpMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)のコトランスフェクションは、構成的PSV40駆動SEAP発現カセットを含むアイソジェニックベクター(pSEAP2−Control;21.4±1.0U/L)と比較し、高レベルSEAP発現(23.6±3.1U/L)をもたらす。pMG10及びpMG11コトランスフェクトCHO−K1細胞の培養への増加濃度のフロレチン(0〜70μM)の添加は、完全抑制までSEAP発現の用量依存的な低下をもたらす(図2C)。これらのデータは、PEACE制御トランスジーン発現が、調整可能であり、非毒性フロレチン濃度の範囲内で完全抑制を可能にすることを示す。
【0024】
特に、本発明は、TtgRについての遺伝子コード、ヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになるベクターに関する。同様に、本発明は、p65トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRについての遺伝子コード及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクター(TtgRとp65との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA2がPSV40の制御下にあるようになる)、及びe2f4トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRについての遺伝子コード及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクター(TtgRとE2F4との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA3がPSV40の制御下にあるようになる)に関する。考慮されるさらなるトランスアクチベーションドメインは、GAL4、CTF/NF1、AP2、ITF1、Oct1、及びSpIに由来する又はそれに関連するドメイン、及び、また、米国特許第6,287,813号に列挙されるものである。
【0025】
異なるフロレチン依存的トランスアクチベーター変異体の操作及びバリデーション。3つの異なるトランスアクチベーターを設計し、VP16(TtgA1;pMG11、TtgR−VP16)(Triezenberg S. J. et al., loc. cit.)、p65(TtgA2;pMG18、TtgR−p65)(Urlinger S., et al., 2000, Gene 247(1-2):103-110)、又はヒトE2F4(TtgA3;pMG19、TtgR−E2F4)(Akagi K., Kanai M., Saya H., Kozu T., Berns A., 2001, Nucleic Acids Res 29(4): e23)トランスアクチベーションドメインのいずれかを持つ。pMG11、pMG18、又はpMG19を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)と、CHO−K1、HEK−293ならびに初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイト中にコトランスフェクトし、SEAP発現を、48時間の培養後に、50μMフロレチンの存在又は非存在においてプロファイル化する。最高レベルのトランスジーン産生は、異なるトランスアクチベーターの間で有意に変動する:TtgA1は、全ての細胞株において最も高いトランスアクチベーションを可能にし、TtgA2は、ヒト初代細胞において最良の性能を示し、TtgA3活性は、全ての状況において劣る(表1)。全てのトランスアクチベーターが、フロレチンが培地中に存在する場合、類似の基礎発現レベルを媒介するが、しかし、それらの細胞型特異性及び段階的な最高転写開始能力のため、3つのトランスアクチベーターが、定義された発現ウィンドウの選択を提供する。
【0026】
【表1】
ケラチノサイトSEAP産生を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA;TtgR−VP16)、pMG18(PSV40−TtgA2−pA;TtgR−p65)又はpMG19(PSV40−TtgA3−pA;TtgR−E2F4)のいずれかの一過性コトランスフェクション後48時間目に定量化した。
a)検出不能
b)ヒト初代線維芽細胞
c)ヒト初代ケラチノサイト
【0027】
本発明は、特に、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられたTtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及び内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに、OTtgRがPhCMVminの5’末端に直接的に連結され、1〜20塩基対、好ましくは2、4、又は10塩基対がOTtgRとPhCMVminの5’末端の間に挿入されているそのようなベクターに関する。
【0028】
OTtgRと最小プロモーターの間の距離が異なるフロレチン応答性プロモーター変異体。オペレーター結合トランスアクチベーターと最小プロモーターの間のねじれ角及び距離は、転写開始機構の効率的な組み立てにおいて中心的な役割を果たす。PTtgR配置のための最適な設計を達成することを目標に、2bp増加のリンカーを、0〜10bpの範囲で、OTtgRとPhCMVminの間に操作し、SEAP発現ベクターを生成し、それは、pMG10(PTtgR1、pMG10、OTtgR−0bp−PhCMVmin;PTtgR2、pMG20、OTtgR−2bp−PhCMVmin;PTtgR3、pMG21、OTtgR−4bp−PhCMVmin;PTtgR4、pMG22、OTtgR−6bp−PhCMVmin;PTtgR5、pMG23、OTtgR−8bp−PhCMVmin;PTtgR6、pMG24、OTtgR−10bp−PhCMVmin)とアイソジェニックである(以下の表4を参照のこと)。フロレチン応答性プロモーター変異体を持つSEAP発現ベクターの各々を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)、pMG18(PSV40−TtgA2−pA)、又はpMG19(PSV40−TtgA3−pA)と、CHO−K1中にコトランスフェクトし、SEAP産生を、48時間にわたる、0、25、及び50μMフロレチンを含む培地中での培養後にプロファイル化する(図3A〜C)。OTtgRとPhCMVminの間に0bpを持つPTtgR1は、最高SEAP発現を駆動し、最も堅固な抑制を示す。pMG20、pMG21、及びpMG24は、2、4、及び10bpの増加を伴い、通常の性能を示す。しかし、6及び8bpの増加(pMG22及びpMG23)は、最高トランスジーン発現及び抑制に対して強いネガティブな効果を有する。全てのプロモーター変異体が、類似のTtgA特異的発現プロファイルを示し、トランスアクチベーター及びプロモーターの性能を非依存的に最適化することができることを示している(図3A〜C)。
【0029】
さらに、本発明は、トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRタンパク質をコードするポリヌクレオチド、内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)及びプロモーターを含むベクター、特に、プロモーターPTtgR1、トランスアクチベーターTtgA1、及びさらにポリオウイルス内部リボソーム進入部位(IRESPV)を含むベクターに関する。
【0030】
自動調節フロレチン誘導性トランスジーン発現。古典的な2ベクター設計(別々のプラスミド上にコードされるトランスアクチベーター及び応答性プロモーター)に加えて、合成フロレチン制御回路の自己調節バージョンを構築し、それによって、単一ベクターフォーマットにおいてトランスアクチベーター(TtgA1)及びトランスジーン(SEAP)の同時PTtgR1駆動発現が可能になる。CHO−K1中でのpMG13(PTtgR1−SEAP−IRESPV−TtgA1−pA)のトランスフェクションに続き、漏れやすいPTtgR1駆動転写物は、初期TtgA1のキャップ非依存的翻訳(ポリオウイルス内部リボソーム進入部位(IRESPV)により媒介される)に導き、それは、自己調節ポジティブフィードバックループにおいて、コシストロン的にコードされるSEAPと共にTtgA1の完全発現を誘発する。50μMフロレチンの存在において、ポジティブフィードバックループが中断される。なぜなら、TtgA1はもはやPTtgR1に結合せず、SEAPは完全に抑制されるからである(図4)。
【0031】
PEACE制御と他のトランスジーン調節回路との適合性。PEACEと、確立されたテトラサイクリン[TETOFF;Gossen M., Bujard H., 1992, Proc Natl Acad Sci USA 89(12): 5547-5551]及びマクロライド[EOFF;Weber W., et al., 2002, Nat Biotechnol 20(9): 901-907]応答性発現回路との機能的な適合性を評価するために、CHO−PEACE8を、TETOFF(pSAM200、PSV40−tTA−pA;pBP99、PhCMV*−1−SAMY−pA)又はEOFF(pWW35、PSV40−ET1−pA;pBP100、PETR3−SAMY−pA)システム(テトラサイクリン及びエリスロマインにそれぞれ応答するバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来の分泌αアミラーゼ(SAMY)を制御するために設定する)のいずれかを用いて、一過性にトランスフェクトする(フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである)。SEAP及びSAMY発現を、トランスフェクトされた集団の培養後48時間目に、インデューサー分子(フロレチン、テトラサイクリン、エリスロマイシン)の存在(50μM;2μg/mL)又は非存在においてスコア化する。交差調節の分析では、PEACE、TETOFF、及びEOFFシステムの間に干渉が示されない(表2A及びB)。
【0032】
【表2】
CHO−PEACE8を、(A)pSAM200(PSV40−tTA−pA)及びpBP99(PhCMV*−1−SAMY−pA)又は(B)pWW35(PSV40−ET1−pA)及びpBP100(PETR3−SAMY−pA)を用いてコトランスフェクトし、48時間にわたり、フロレチン(Phl、50μM)、エリスロマイシン(EM、2μg/mL)、又はテトラサイクリン(Tet、2μg/mL)の存在及び非存在において、SEAP及びSAMY産生を評価する前に増殖させた。
【0033】
フロレチンならびに他のフラボノイド及びカルコンの調節性能。PプチダのTtgRタンパク質が、いくつかの植物由来フラボノイド及びカルコンと、高親和性で結合するとの事実に基づき(Teran W. et al., loc. cit.)、哺乳動物細胞におけるそれらのPEACE制御能力が利用されてきた。CHO−K1を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)(通常の性能をスコア化するため)を用いて、又は、pSEAP2−Control(PSV40−SEAP−pA)(化合物関連の細胞毒性を評価するため)を用いて一過性に(コ)トランスフェクトし、次に、48時間にわたり、異なる濃度(0、25、50μM)の特定のフラボノイド型化合物(ベルベリン、ブチルパラベン、ゲニステイン、ルテオリン、βナフトール、ナリンゲニン、フロレチン、フロリジン、又はクエルセチン)を含む培地中で、SEAP産生をプロファイル化する前に培養する(図5A)。ゲニステイン、ルテオリン、βナフトール、ナリンゲニン、及びクエルセチンには、テストされた濃度範囲(ゲニステインは50μMのみ)内で細胞毒性があるのに対し、ベルベリン、ブチルパラベン、フロリジン、及びフロレチンは細胞生存率を低下させない。しかし、ベルベリンはPEACEを制御せず、ブチルパラベンならびにフロリジンはSEAP産生を調節できるが、しかし、完全には抑制しない(図5B)。従って、最高発現レベルならびに完全トランスジーン抑制を可能にするフロレチンが、好ましいPEACEインデューサーである。
【0034】
本発明は、さらに、言及するベクターを含む哺乳動物細胞(記載するベクターを用いて安定的に又は一過性にトランスフェクトされている)、及びナノ容器又はマイクロ容器中の(例、カプセル化形態中の)そのような哺乳動物細胞に関する。ナノ容器は、ウイルス、好ましくは弱毒化ウイルス、特にウイルスカプシド、合成又は半合成ナノ又はマイクロ粒子、例えば、哺乳動物細胞を取り込むための適した形状の球又はチューブなど、及び、例えば、アルギン酸−ポリ−L−リジンを用いた哺乳動物細胞のカプセル化によりインサイチュで形成されるナノ又はマイクロ容器でありうる。適したナノ又はマイクロ容器の特定の例は、商標名CELLMAX(登録商標)の下で製造されたホロー・ファイバーである。本発明は、さらに、記載する哺乳動物細胞、特に、ナノ又はマイクロ容器中の哺乳動物細胞を含む哺乳動物(ヒトを除く)に関する。
【0035】
フロレチン制御トランスジーン発現は、異なる哺乳動物細胞株及びヒト初代細胞において機能的である。その多用途性を実証するために、PEACEをいくつかの不死化させた哺乳動物細胞株ならびにヒト初代細胞においてテストする。pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)を、BHK−21、COS−7、HaCaT、HEK−293、HT−1080、及びNIH/3T3細胞株中に、ならびに、初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイト中にコトランスフェクトし、48時間にわたり、フロレチンの存在(50μM)及び非存在において培養し、SEAPレベルのスコア化が続く(表3)。PEACE制御トランスジーン発現は、全てのテストされた細胞株において機能的であり、この技術が広く適用可能であることを示す。
【0036】
【表3】
初代ヒトケラチノサイトSEAP産生を、示した細胞株及び初代細胞中へのpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)のコトランスフェクション後48時間目に定量化した。
* 検出不能
【0037】
安定なトランスジェニックCHO−K1細胞株におけるPEACE制御トランスジーン発現の発現動態、調節性、及び可逆性。CHO−K1中へのpMG11及びpMG10の連続トランスフェクション及びクローン選択により、5つのダブルトランスジェニック細胞株(CHO−PEACE)が生成され、それらの全てがフロレチン調節SEAP発現を示すが、しかし、それらの全体的な調節性能は異なる(最高及び漏れやすい発現レベル;図6)。CHO−PEACE8は、好ましい細胞株であり、(i)60日を超える長期培養における不変の最高SEAP発現レベル(0日、70.9±3.1U/L;60日、67.6±2.7U/L)、(ii)優れた調節性(図7A)、(iii)指数関数的なSEAP発現動態(図7B)、(iv)トランスジーン発現の完全可逆性(図7C)、及び(v)他のトランスジーン調節回路との最適な適合性を示す(表2)。
【0038】
プロトタイプ生物医薬品製造シナリオにおける産物遺伝子発現の時間遅延誘導。フロレチンは非毒性果物成分であるため、それは、生物医薬品製造シナリオのための理想的な産物インデューサーであり、それは、発現困難なタンパク質医薬品の正確なタイミング又は投与を必要とする。また、フロレチンは、決定された半減期70時間を哺乳動物細胞培養システムにおいて有するため、任意の産生培養をプログラムし、産物遺伝子発現を、事前に定められた時間点で、フロレチン濃度が抑制閾値レベル未満に降下する際に開始することができる。1L BioWave(登録商標)バイオリアクターを、2×103個のCHO−PEACE8及び異なるトランスジーン抑制フロレチン用量(60、80、又は100μM)を用いて接種する。CHO−PEACE8は、バイオプロセスの開始から指数関数的に増殖するが、SEAP産生は、一旦、フロレチンが非抑制レベルまで分解される場合、徐々に増加する(40μM;図8)。PEACEを使用し、哺乳動物産生培養を、実際に、任意のプロセス介入を伴わずに、産物遺伝子発現のタイムリーな誘導のためにプログラムすることができる。
【0039】
マウスにおける皮下インプラント中でのフロレチン媒介性の経皮遺伝子発現。フロレチンは、経皮薬物送達のための浸透エンハンサーとして示唆されており、局所的な皮膚ベース投与に続いて、齧歯類において全身的に伝播されることが示されているため(Auner B.G. et al., loc. cit.)、フロレチンは、潜在的な経皮的治療用トランスジーン発現インデューサーとして評価されてきた。CHO−PEACE8を、干渉性アルギン酸−PLL−アルギン酸中にマイクロカプセル化し、マウス中に皮下移植する。処置マウスの背中を部分的に剪毛し、異なる量のフロレチン(0〜42mg)を含むワセリンベースのスキンローション(200μL)を毎日塗る。移植後72時間目に処置マウスにおいて検出されたSEAPレベルは、培養され、インビトロでフロレチンに曝露された同じマイクロカプセル化インプラントバッチで観察されたものと類似のフロレチン依存的な用量反応特徴を示す(図9A及びB)。構成的SEAP発現についてトランスジェニックであるCHO−K1細胞を受けたコントロールマウスは、フロレチン含有スキンローションを用いた任意の処置に対して非感受性である(0mgフロレチン:6.2±0.43U/L;42mgフロレチン:6.02±0.58U/L)。
【0040】
本発明は、さらに、トランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRについての遺伝子コードを含むベクター、特に、TtgRについての遺伝子コードならびにヒトKruppel関連ボックスタンパク質のkrabトランスリプレッションドメイン及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとKRABとの融合に起因するトランスレプレッサーTtgKがPSV40の制御下にあるようになるそのようなベクターに関する。考慮される他のトランスリプレッサードメインは、例えば、v−erbAオンコジーン産物、甲状腺ホルモン受容体、Ssn6/Tup1タンパク質複合体、SIRIタンパク質、NeP1、TSF3、SF1、WT1、Oct−2.1、E4BP4、及びZF5、ならびに、また、米国特許第6,287,813号に列挙されるものに由来する又はそれらに関連するドメインである。同様に、本発明は、トランスレプレッサードメインに融合されたTtgRタンパク質、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異性オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含むベクターに関する。
【0041】
ポジティブ調節のためのPEACEシステムの設計(PEACE−ON)。TtgRをヒトKruppel関連ボックスタンパク質(KRAB)(Moosmann P., Georgiev O., Thiesen H.J., Hagmann M., Schaffner W., 1977, Biol Chem 378(7): 669-677)に融合することにより、合成の哺乳動物トランスリプレッサー(TtgK)を作製し、それは、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)の3’に位置づけられる8つのOTtgRエレメントを持つプロモーター(PTtgRON)に結合し、そこからの転写をフロレチン応答様式で阻害することができる(図10A及びB)。構成的TtgK発現ベクターpMG28(PSV40−TtgK−pA)及びpMG27(PTtgRON−SEAP−pA)(TtgK特異的PTtgRON駆動SEAP発現単位をコードする)のコトランスフェクションは、低レベルの基礎SEAP発現をもたらす(2.3±0.26U/L)。pMG27及びpMG28コトランスフェクトCHO−K1細胞の培養への増加濃度のフロレチン(0〜50μM)の添加は、SEAP発現の用量依存的な誘導をもたらした(図10C)。これらのデータは、PEACE制御トランスジーン発現が、フロレチンの添加により抑制される(PEACEシステムを参照のこと。図2A〜C)、又は、PEACE−ONセットアップに示される通りに誘導されることを示す(図10A〜C)。システムの基礎発現(漏れ性)を低下させるために、漏れ性を低下させるための共役させた転写及び翻訳戦略を用いることができる。(i)異なる構成的プロモーターの配置;(ii)プロモーターの3’方向でのオペレーター配列(OTtgR)の数における変動(1〜12のOTtgRリピート)及び/又は構成的プロモーターの5’方向でのオペレーター配列の付加(1〜12のOTtgRリピート);(iii)シストロンsiRNAを介した特異的にタグ付けされた目的の遺伝子(goi)の媒介性ノックダウン。
【0042】
実施例
発現ベクターの設計pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)は、フロレチン応答性SEAP発現単位を持ち、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)は、フロレチン依存的トランスアクチベーターの構成的発現をコードする。発現ベクターの設計及び使用されるプラスミドに関する詳細情報を、以下の表4に提供する。
【0043】
【表4】
参考文献:(a)Weber W., Kramer B.P., Fux C., Keller B., Fussenegger M., 2002, J Gene Med 4(6): 676-686.(b)Weber W., et al., 2002, Nat Biotechnol 20(9): 901-907.(c)Fussenegger M., Moser S., Mazur X., Bailey J.E., 1997, Biotechnol Prog 13(6): 733-740. (d)Moser S., et al., 2001, J Gene Med 3(6): 529-549.(e)Clontech, Palo Alto, CA, USA.(f)Schlatter S., Rimann M., Kelm J., Fussenegger M., 2002, Gene 282(1-2): 19-31.(g)Picoscript, Houston, TX, USA.
【0044】
略称:E2F4、ヒトE2F転写因子4のトランスアクチベーションドメイン;ET1、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−VP16);ET2、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−p65);ET3、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−E2F4);ETR、マクロライド依存的トランスアクチベーターに特異的なオペレーター;IRESPV、ポリオウイルス内部リボソーム進入部位;NF−κB、ヒト転写因子;OTtgR、TtgR特異的オペレーター;p65、NF−κBのトランスアクチベーションドメイン;pA、ポリアデニル化部位;PETR3−9、ETRとPhCMVminの間に異なるスペーサーを含むマクロライド応答性プロモーター;PhCMV、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター;PhCMVmin、最小PhCMV;PhCMV*−1、テトラサイクリン応答性プロモーター;PPIR3、ストレプトグラミン応答性プロモーター;PSV40、サルウイルス40プロモーター;PTtgR1−6、OTtgRとPhCMVminの間に異なるスペーサーを含むフロレチン応答性プロモーター;SEAP、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ;SAMY、バシラス・ステアロサーモフィラス由来の分泌αアミラーゼ;TtgR、シュードモナス・プチダDOT−T1E ABC多剤排出ポンプのリプレッサー;TtgA1、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−VP16);TtgA2、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−p65);TtgA3、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−E2F4);VP16、ヘルペス単純ウイルス由来トランスアクチベーションドメイン。
【0045】
細胞培養及びトランスフェクション。野生型チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1、ATCC:CCL−61)及びその派生体を標準的培地中で培養する:5%(v/v)ウシ胎児血清(FCS,PAN Biotech GmbH, Aidenbach, Germany, Cat. No. 3302, Lot No.P251110)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Sigma, St Louis, MO, USA, Cat. No.P4458)を添加したChoMaster(登録商標)HTS(Cell Culture Technologies, Gravesano, Switzerland)。ヒト胚性腎臓細胞(HEK-293, Mitta B., et al., 2002, Nucleic Acids Res 30(21): e113)、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS−7, ATCC: CRL−1651)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK−21, ATCC: CCL10)、ヒト線維肉腫細胞(HT−1080, ATCC: CCL−121)、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT(Boukamp P., et al., 1988, J Cell Biol 106(3): 761-771)、及びマウス線維芽細胞(NIH/3T3, ATCC: CRL−1658)を、10% FCS(v/v)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Invitrogen,Cat. No. 52100-39)中で培養する。初代ヒト包皮線維芽細胞を、20% FCS(v/v)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したDMEM中で培養し、初代ヒト包皮ケラチノサイトを、化学的に定義された無血清ケラチノサイト培地(Invitrogen, Cat. No. 10744019)中で培養する。全ての細胞型を、37℃で、5% CO2含有加湿空気中で培養する。CHO−K1の一過性トランスフェクションのために、1μgの全プラスミドDNA(等量の各プラスミドのコトランスフェクションのため)を、24ウェルプレートの1ウェル当たり50,000個の細胞中に、最適化されたリン酸カルシウムプロトコール(Greber D., Fussenegger M., 2007, Biotechnol Bioeng 96(5): 821-834)に従いトランスフェクトする。プラスミドDNAを、全容積25μLの0.5M CaCl2溶液に希釈させ、それを、25μLの2×HBS溶液(50mM HEPES、280mM NaCl、1.5mM Na2HPO4、pH 7.1)と混合する。15分間にわたる室温でのインキュベーション後、沈殿物を直ぐにウェルに加え、細胞上で遠心し(1,200xgで5分間)、トランスフェクション効率を増加させる。3時間後、細胞を0.5mLのグリセロール溶液(15%グリセロールを含むChoMaster(登録商標)HTS培地)を用いて60秒間にわたり処理する。リン酸緩衝食塩水(PBS、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水;Invitrogen, Cat. No. 21600-0069)を用いた1回の洗浄後、細胞を、0.5mLの標準的なChoMaster(登録商標)HTS培地中で、異なる濃度のフロレチンの存在又は非存在において培養する。BHK−21、COS−7、及びHEK−293のトランスフェクションのために、プラスミドDNA−Ca2PO4沈殿物を調製し、細胞に適用する(上に記載する通り)。HEK−293及びCOS−7細胞を、DNA−Ca2PO4沈殿物を用いた3時間のインキュベーション後にPBSを用いて1回洗浄し、続いて、標準的DMEM中で培養し、BHK−21細胞を、沈殿物を用いて一晩インキュベートし、次に、PBSを用いて1回洗浄した後、DMEM培地中で培養する。HaCaT、HT−1080、NIH/3T3ならびに初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイトを、Fugene(商標)6(Roche Diagnostics AG, Basel, Switzerland, Cat. No. 11814443001)を用いて、製造者のプロトコールに従ってトランスフェクトし、上で特定する細胞培養液中で培養する。トランスフェクション後、全ての細胞を、異なる濃度のフロレチンを添加したDMEM中で培養し、レポータータンパク質レベルをトランスフェクションから48時間後にプロファイル化する(別に示さない場合)。
【0046】
安定細胞株の構築。安定CHO−PEACE8細胞株(フロレチン制御SEAP発現についてトランスジェニックである)を2ステップで構築する:(i)CHO−K1細胞を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpSV2neo(Clontech, Cat. No. 6172-1)を比率20:1でコトランスフェクトし、クローン選択は細胞株CHO−TtgAをもたらす。(ii)CHO−TtgAを、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpPur(Clontech, Cat. No. 6156-1)(比率20:1)を用いてコトランスフェクトし、フロレチン応答性SEAP産生ダブルトランスジェニック細胞株CHO−PEACE8をクローン選択後に選ぶ。CHO−PEACE8のフロレチン依存的な用量反応特徴を、100,000個細胞/mLを、48時間にわたり、標準的ChoMaster(登録商標)HTS培地中で、異なるフロレチン濃度(0〜70μMの範囲)で培養することにより分析する。フロレチン媒介性SEAP産生の可逆性を、CHO−PEACE8(100,000個細胞/mL)を144時間にわたり培養することにより評価し、フロレチン濃度を0〜50μMで48時間ごとに変える。
【0047】
レポータータンパク質産生の定量化。ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の産生を、p−ニトロフェニルリン酸ベースの光吸収を使用して経時的に定量化する。バシラス・ステアロサーモフィラス由来の分泌αアミラーゼ(SAMY)レベルを、ブルースターチPhadebas(登録商標)アッセイ(Pharmacia Upjohn, Peapack, NJ, USA; Cat. No. 10-5380-32)を使用して評価する(Schlatter S., Rimann M., Kelm J., Fussenegger M., 2002, Gene 282(1-2): 19-31)。
【0048】
インビボ方法。CHO−PEACE8及びCHO−SEAP18(Fluri D.A., Kemmer C., Daoud-El Baba M., Fussenegger M., 2008, J Control Release 131(3): 211-219)を、アルギン酸−ポリ−(L−リジン)−アルギン酸ビーズ(400μM;200個細胞/カプセル)中に、Inotech Encapsulator Research IE-50R(Recipharm, Basel, Switzerland)を使用して、製造者の指示及び以下のパラメーターに従ってカプセル化する:0.2mmノズル、20mLシリンジ(流速405単位)、ノズル振動数1024Hz、及び900V(ビーズ分散用)。雌OF1マウス(oncins France souche 1, Charles River Laboratories, France)の背中を剪毛し、300μLのChoMaster(登録商標)HTS(2×106個のカプセル化CHO−PEACE8を含む)を皮下注射する。コントロールマウスを、マイクロカプセル化CHO−K1を用いて注射する。剪毛によって、フロレチン含有クリームと動物の皮膚との直接接触が確実となる。移植後1時間目、200μLのフロレチン含有クリームを、注射部位の周辺の皮膚に適用する。クリーム中のフロレチン量は0〜42mgの範囲である。クリームを、1日1回、最長3日間にわたり適用する。その後、マウスを屠殺し、血液サンプルを回収し、SEAPレベルを血清(製造者(Beckton Dickinson, Plymouth, UK)の指示に従い、microtainer SSTチューブを使用して単離される)中で定量化する。マウスを含む全ての実験を、European Community Councilの指令(86/609/EEC)に従って実施する。
【0049】
バイオリアクター操作。CHO−PEACE8(2×103個細胞/mLの接種材料)を、1L培養の最適pH及びDO制御について最適化された2L Wave Bag(登録商標)を備えたBioWave 20SPS-Fバイオリアクター(Wave Biotech AG, Tagelswangen, Switzerland)中で培養する。バイオリアクターを、ロッキング速度15分−1、ロッキング角度6°、及びエアレーション速度100mL/分で操作し、入り口ガス加湿(HumiCare(登録商標)200, Gruendler Medical, Freudenstadt, Germany)を伴い、培地の蒸発を予防する。培地(ChoMaster(登録商標)HTS、5% FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)に、60、80、又は100μMフロレチンを添加する。
【0050】
インデューサー化合物及びスキンローションの製剤化。ベルベリン(Acros, Geel, Belgium, Cat. No. 20425-0100)及びルテオリン(Alfa Aesar, Karlsruhe, Germany, Cat. No. L14186)を、1:5(v/v)DMSO/H2O中の10mMストック溶液として調製する。ブチルパラベン(ABCR, Karlsruhe, Germany, Cat. No. AV14043)、ゲニステイン(Axonlab, Baden, Switzerland, Cat. No. A2202.0050)、βナフトール(Sigma, Cat. No. 185507)、ナリンゲニン(Sigma, Cat. No. N5893)、フロレチン(Sigma, Cat. No. P7912)、フロリジン(Sigma, Cat. No. P3449)、及びケルセチン(Sigma, Cat. No. Q0125)を、DMSO中の50mMストック溶液として調製し、最終濃度50μMで使用する(別に示さない場合)。ワセリンベースのフロレチン含有クリームが専門的に製剤化され(Pharmacy Hoengg Ltd., Zurich, Switzerland)、25、12.5、6.25、及び3.125%(wt/wt)のフロレチンを含む。200μlのスキンローションを、マウス1匹当たり及び処置1回当たりに局所的に適用し、それは、用量当たりのそれぞれの全フロレチン量42、21、10.5、及び5.25mgに相当する。テトラサイクリン(Sigma, Cat. No. T7660)をH2O中の1mg/mLストック溶液として、エリスロマイシン(Fluka, Buchs, Switzerland, Cat. No. 45673)をエタノール中の1mg/mLストック溶液として調製する。両方の抗生物質を最終濃度2μg/mLで使用する。
【0051】
細胞培養液中のフロレチンを定量化するために、サンプルを5×104個のCHO−PEACE8に加え、SEAP定量化前に、48時間にわたりインキュベートする。フロレチンレベルを、SEAP産生を較正曲線(図7A)(同じパラメーター及び定義されたフロレチン濃度を使用して確立する)と比較することにより算出する。同様に、フロレチンの半減期を、細胞培養において観察される分解動力学に基づいて推定する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用、ならびに対応するベクター及びそのようなトランスジーン発現を可能にするそのようなベクターを含む細胞に関する。
【0002】
発明の背景
合成の哺乳動物発現回路は、可逆的で調整可能なトランスジーン発現を可能にし、機能ゲノム研究、創薬、産生困難なタンパク質治療薬の製造、電気回路の複雑さに達する合成遺伝子ネットワークレプリカの設計、及び遺伝子治療への適用における最近の進歩のために必須である。
【0003】
今日まで、哺乳動物細胞及びトランスジェニック動物における使用のための多数の異種トランスジーン発現システムが記載されてきた(Weber W., Fussenegger M., 2007, Curr Opin Biotechnol 18(5): 399-410)。普及している設計は、原核生物リプレッサーを真核生物トランスアクチベーションドメインに融合させることにより操作された異種小分子応答性トランスアクチベーター及び最小真核生物プロモーターに連結されたマッチする原核生物オペレーターを含むトランスアクチベーター特異的プロモーターからなる。トランスアクチベーターのその同族プロモーターに対する親和性のインデューサー誘発性調整は、特定の標的遺伝子の調整可能で可逆的な転写をもたらす。近年において、そのような異種転写制御モダリティの一式が開発されており、それらは、種々のインデューサー分子、例えば抗生物質、ステロイドホルモン及びそれらのアナログ、クオラムセンシング分子、免疫抑制及び抗糖尿病薬物、ビオチン、Lアルギニンならびに揮発性アセトアルデヒドなどに応答性である(WO2005/021766)。簡単に吸入できる気体アセトアルデヒドは別として、全ての他のインデューサーは、経口で取り込まれる、又は、任意の将来の遺伝子治療適用における注射により投与する必要がある。インデューサー分子の経皮及び局所送達は、従来の注射ベース又は経口投与を上回る利点(例えば利便性、改善された患者コンプライアンス、及び肝臓での初回通過効果の除去など)を提供しうるが、まだ開発されていない。
【0004】
フロレチンは、抗細菌活性を伴う天然植物防御代謝物であり(Teran W., Krell T., Ramos J.L., Gallegos M.T., 2006, J Biol Chem 281(11): 7102-7109)、リンゴの木の根皮中ならびにリンゴ中に生じ、皮膚ベースの薬物送達のための可能な浸透エンハンサーとして試験されており、プロスタグランジンに拮抗することにより炎症を減弱させ、皮膚をUV光誘導性の光損傷から防御し、癌処置のための化学予防薬剤として評価される。植物根圏は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(DOT−T1E株)の天然生息場所の1つであるため、この原核生物は、多剤認識特性を伴うRNDファミリートランスポーターTtgABCを進化させており、それは、TtgRプロモーター(PTtgR)における特定のオペレーター(OTtgR)へのその同族リプレッサーTtgR結合により制御される。フロレチンは、TtgRオペレーター複合体に、TtgRの二量体当たり1つのエフェクター分子の化学量論比で結合し、OTtgRからTtgRを放出することが示されており、それは、TtgABC産生の誘導及びPプチダからのフラボノイドの効果的なポンプ媒介性排出をもたらす(Teran W. et al., loc. cit.)。
【0005】
発明の概要
本発明は、トランスジーン発現、特に、シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの制御下にあるトランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用に関する。本発明において使用される皮膚浸透化合物は、例えば、フラボノイド又はカルコン(例、フロリジン、フロレチンなど)、ブチルパラベン、又はその誘導体、特にフロレチンである。
【0006】
本発明は、さらに、トランスアクチベーション又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの遺伝子コードを含むベクター、特に、TtgRについての遺伝子コードならびにヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクターに関し、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになる。
【0007】
本発明は、また、対応するコードされるトランスアクチベーター及びトランスリプレッサータンパク質(例、タンパク質TtgA1)に関する。
【0008】
さらに、本発明は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、例えば、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)を含むベクター、ならびに両方の成分、即ち、トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたTtgRタンパク質についての遺伝子コード、内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含むベクターに関する。
【0009】
本発明は、また、言及するベクターを用いて一過性又は構成的にトランスフェクトされた哺乳動物細胞、ナノ又はマイクロ容器中のそのような哺乳動物細胞、及びそのような哺乳動物細胞を含む哺乳動物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】細胞増殖及びタンパク質産生に対するフロレチンの影響。構成的なSEAP発現のために操作されたCHO−K1を、異なるフロレチン濃度(0〜100μM)を添加した培養液中で培養し、SEAP産生(バー)ならびに最高細胞密度(ライン)を48時間後に評価する。略称:C.D.:細胞密度(106/mL);Phl:フロレチン(μM)
【図2】フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)の設計及び機能性。(A)発現ベクター。シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRタンパク質についての遺伝子コードを、ヘルペス単純ウイルスのVP16トランスアクチベーションドメインに融合させ、結果として得られるトランスアクチベーターTtgA1(TtgR−VP16)を、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)の制御下にクローン化する(pMG11)。フロレチン応答性プロモーター(PTtgR1; OTtgR−PhCMVmin)は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR、TtgR結合部位、下線)を含み、それは、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられ、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の発現を駆動するように設定される(pMG10)。選択された制限部位:A、AatII;B、BssHII;Ba、BamHI;E、EcoRI;H、HindIII;N、NotI;S、SbfI;X、XbaI;Xh、XhoI。(B)PEACE機能性の略図。フロレチンの非存在において、TtgA1は、その同族オペレーター部位に結合し、PTtgR1駆動SEAP発現を開始する。フロレチンの添加によって、TtgA1がPTtgR1から放出され、それがSEAP発現をスイッチオフする。(C)pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)を用いて一過性にトランスフェクトし、48時間にわたり異なるフロレチン濃度(0〜70μM)の存在において培養されたCHO−K1のSEAP発現プラファイル。略称:Phl:フロレチン(μM)
【図3】異なるPEACEトランスアクチベーター及びプロモーターの配置の設計及び組み合わせ特徴付け。異なるトランスアクチベーションドメインを持つPEACEトランスアクチベーター(A、TtgA1、VP16;pMG11)(B、TtgA2、p65;pMG18)(C、TtgA3、E2F4;pMG19)を、0(PTtgR1;pMG10)、2(PTtgR2;pMG20)、4(PTtgR3;pMG21)、6(PTtgR4;pMG22)、8(PTtgR5;pMG23)及び10(PTtgR6;pMG24)塩基対リンカーをTtgRオペレーターと最小プロモーターの間に含むSEAP駆動PEACEプロモーター変異体を用いてCHO−K1中にコトランスフェクトし、SEAP発現を、異なるフロレチン濃度を添加した培地中での48時間の培養後にプロファイル化する。
【図4】CHO−K1中での自己調節されたPEACE制御SEAP発現。SEAPを第1シストロン中に、及び、TtgA1を第2シストロン中に持つPTtgR1駆動ジシストロン発現単位をコードするpMG13を、CHO−K1中にトランスフェクトし、SEAP発現を、フロレチンの存在(50μM)及び非存在における培養後48時間目に評価する。略称:Phl:フロレチン
【図5】異なるフラボノイドに対するPEACE応答性。(A)フラボノイドの毒性CHO−K1を、pSEAP2−Controlを用いて一過性にトランスフェクトし、異なるフラボノイド(0、25、50μM)を添加した培地中で培養する。SEAPレベルを48時間後にスコア化する。(B)全てのPEACE成分(pMG10及びpMG11)を一過性に発現するCHO−K1細胞を、異なるフラボノイドの存在において培養し、SEAP発現を48時間後にプロファイル化する。略称:1:ベルベリン;2:ブチルパラベン;3:ゲニステイン;4:ルテオリン;5:βナフトール;6:ナリンゲニン;7:フロレチン;8:フロリジン;9:クエルセチン
【図6】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE細胞株の設計及び特徴付け。CHO−K1を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)を用いて安定的にコトランスフェクトし、個々のクローンを、フロレチン調整SEAP発現について、48時間の培養期間後に評価する。略称:Phl:フロレチン
【図7A】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(A)CHO−PEACE8の用量反応プロファイル。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図7B】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(B)72時間にわたり50μMフロレチンの存在及び非存在において培養されたCHO−PEACE8のSEAP発現動態。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図7C】フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである安定的なCHO−PEACE8細胞株の設計及び特徴付け。(C)CHO−PEACE8ベースのSEAP産生の可逆性。2×105個のCHO−PEACE8を、144時間にわたり、50μMフロレチンの存在及び非存在において培養した。48時間ごとに細胞密度を2×105個に再調整し、培養のフロレチン状態を逆転させる。略称:Phl:フロレチン(μM);t:時間(h)
【図8】十分に定義されたフロレチン分解プロファイルを使用したバイオリアクター中での自動的にプログラムされた産物遺伝子発現。2×103個細胞/mLのCHO−PEACE8を、60、80、又は100μMのいずれかのフロレチンが添加された1Lの培養液を含むバイオリアクター中で培養し、SEAP産生を211時間にわたりプロファイル化する。培養中での定められたフロレチン分解プロファイル及び40μMフロレチンの正確な誘導閾値のため、SEAP産生の開始が、非常に正確な時間点で、産生開始時での細胞密度及びフロレチン濃度を定めることにより生じるようにプログラムすることができる。略称:1:フロレチン(60μM);2:フロレチン(80μM);3:フロレチン(100μM);4:フロレチン分解(60μM);5:フロレチン分解(80μM);6:フロレチン分解(100μM);7:細胞数;V.C.:生細胞(106/mL)。
【図9】マウスにおけるPEACE制御トランスジーン発現。(A)マイクロカプセル化したCHO−PEACE8を、雌OF1マウス中に皮下移植する(2×106個細胞/マウス)。異なる量のフロレチン(0、5.25、10.5、21、及び42mg)を含む200μLのクリームを、移植部位近くの剪毛した皮膚面に適用する。SEAP血清レベルを移植後72時間目に定量化する。(B)インビトロで72時間にわたり異なるフロレチン濃度で培養されたマイクロカプセル化したCHO−PEACE8インプラントバッチのSEAP発現プロファイル。略称:Phl:フロレチン(μM)
【図10】ポジティブ調節のためのフロレチン調整可能制御エレメント(PEACE−ON)の設計及び機能性。(A)発現ベクター。シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRについての遺伝子コードを、ヒトKruppel関連ボックスタンパク質のKRABトランスリプレッションドメインに融合させ、結果として得られるトランスリプレッサータンパク質TtgK(TtgR−KRAB)を、構成的なサルウイルス40プロモーター(PSV40)の制御下にクローン化する(pMG28)。フロレチン応答性プロモーター(PTtgRON;PSV40−8xOTtgR)は8つのTtgK特異的オペレーター配列(8xOTtgR)を含み、それらは構成的PSV40の3’に位置づけられ、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の発現を駆動するように設定される(pMG27)。選択された制限部位:B、BssHII;Ba、BamHI;C、ClaI;E、EcoRI;H、HindIII;N、NotI;X、XbaI;(B)PEACE−ON機能性の略図。フロレチンの非存在において、TtgKはその同族オペレーター部位に結合し、PTtgRON駆動SEAP発現を阻害する。フロレチンの添加によって、TtgKがPTtgRONから放出され、SEAP発現をスイッチオンする。(C)pMG28(PSV40−TtgK−pA)及びpMG27(PTtgRON−SEAP−pA)を用いて一過性にトランスフェクトし、48時間にわたり異なるフロレチン濃度(0〜50μM)の存在において培養されたCHO−K1のSEAP発現プロファイル。
【0011】
発明の詳細な説明
PプチダDOT−T1Eのフロレチン応答性TtgR−OTtgR相互作用を利用する際、合成の哺乳動物フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)を組み立て、それは、フロレチン含有スキンローションを使用してマウスにおける細胞インプラントのトランスジーン発現を可逆的に微調整することができ、標準的なバイオリアクター操作において自動産物遺伝子発現のために産生細胞株をプログラムすることができる。
【0012】
フロレチンは化学式
【化1】
3−[4−ヒドロキシフェニル]−1−[2,4,6−トリヒドロキシフェニル]−1−プロパノンである。
【0013】
本発明は、トランスジーン発現、特に、シュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRの制御下でのトランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用に関する。本発明において使用される皮膚浸透化合物は、例えば、フラボノイド又はカルコン(例えばフロリジン、フロレチンなどである)、ブチルパラベン、又はその誘導体、特にフロレチンである。
【0014】
フラボノイドは、イソフラボノイド及びネオフラボノイドを含み、2−フェニルクロメン−4−オン(フラボン)、3−フェニルクロメン−4−オン(イソフラボン)、及び4−フェニル−クマリン(ネオフラボン)に由来する天然産物である。カルコンは、フラバノイド(flavanoid)に密接に関連し、o−ヒドロキシフェニルフェニルビニルケトンに由来する開鎖アナログを表す。誘導は、フラボンの2(3)炭素−炭素二重結合の還元(フラバノン(カルコンの閉環異性体)を与える)又はさらなる還元(及び環開裂)(o−(3−フェニル−プロパノイル)フェノール(ジヒドロカルコン)を与える)、ケト基の還元(フラバノールを与える)又はCH2基に対するさらなる還元、及び種々の位置でのヒドロキシル化(複数のヒドロキシル化を含む)、及びまた塩、メチルエーテル及びグリコシドエーテル誘導体、ならびに酢酸及びそのようなヒドロキシル化化合物の没食子酸エステルを含む。
【0015】
ブチルパラベンはブチル4−ヒドロキシベンゾエートである。フロリジンは、1−[2,4−ジヒドロキシ−6−[(2S,3R,4S,5S,6R)−3,4,5−トリヒドロキシ−6−(ヒドロキシメチル)オキサン−2−イル]オキシフェニル]−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−1−オン、即ち、フラボノイドグリコシドである。
【0016】
フロレチンの誘導体は、例えば、陽イオンを伴う塩、エーテル、及びエステルである。特定の塩は、一、二、三、又は四価塩、例えば、アルカリ塩、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩、アルカリ土類塩、例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩、アルミニウム塩、遷移金属塩、例えば、第一鉄塩又は第二鉄塩、アンモニウム塩、例えば、アンモニウム塩、メチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、又はテトラメチル−アンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩であって、それにおいて、アルキルは、例えば、C2−C20アルキル、特にC6−C20アルキル、例えば C12、C14、C16、又はC18アルキル、ヒドロキシエチルアンモニウム塩、ジ(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、又はトリ(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩である。
【0017】
特定のエーテルは、一、二、三、又は四価エーテル、例えば、メチル又はエチルエーテル、特にトリ及びテトラメチルエーテル、及びグリコシドである。特定のエステルは、一、二、三、又は四価エステル、例えば、アセチルエステル、特に、トリ及びテトラアセチルエステル、及び没食子酸エステルである。
【0018】
ブチルパラベンの誘導体は、同様に、塩(例、ナトリウム塩)、エーテル(例、ブチル4−メトキシベンゾエート)、又はエステル(例、ブチル4−アセトキシベンゾエート)である。
【0019】
フロリジンの誘導体は、同様に、塩(例、ナトリウム塩)、エーテル(例、メチル又はエチルエーテル)、又はエステル(例、酢酸)である。
【0020】
フラボノイド又はカルコン(例えばフロレチンなど)は、植物界において広く分布するポリフェノールであり、ヒトにより通常消費される果物及び植物中に存在する。フロレチン及びその誘導体の一部が、強力な抗炎症活性、抗酸化活性、及びさらに一部の抗癌活性を有するとの最近の知見は、一般的なことわざ「一日一個のリンゴ、医者知らず」についての化学的基礎を形成する。フロレチンは、また、経皮薬物送達のための浸透エンハンサーとして(Auner B.G., Valenta C., Hadgraft J., 2003, J Control Release 89(2): 321-328; Valenta C., Cladera J., O’Shea P., Hadgraft J., 2001, J Pharm Sci 90(4): 485-492)及び外部損傷、例えばUV照射(皮膚癌及び光による老化を誘発する)などに起因する皮膚防御減少酸化ストレスとして成功裏に評価されてきた。齧歯類における最近の試験では、フロレチンの皮膚投与が動物において全身的に広がること(Auner et al., loc. cit.)、及び、フロレチンがかなり短い半減期をインビボで有することが確認されている。上記の特徴の全てによって、フロレチンが高い代謝回転を伴う非毒性天然化合物であることが裏付けられ、それは、治療用トランスジーンの可逆的な経皮誘導のために理想的である。薬物の経皮及び局所送達ならびに分子の調節は、従来の経口又は注射ベースの投与を上回る利点(例えば利便性、改善された患者コンプライアンス、及び肝臓での初回通過効果の除去など)を提供する。しかし、大半の分子は、皮膚の優れたバリヤ特性のため、皮膚投与に適用可能ではなく、それは、浸透分子が、真皮乳頭層に達し、全身循環中へ毛細管壁を横断する前に、そのコンパクトな角質化細胞層を伴う角質層及び生きた表皮を通過することを必要とする。合成フロレチン応答性発現回路を持つ細胞インプラントを含むマウスの皮膚に置かれたフロレチン含有皮膚ローションは、動物において標的遺伝子発現を正確に微調整することができる。この先駆的な経皮転写制御システムによって、臨床的に許可を受けたデバイス中に含まれる細胞インプラントによりインサイチュで産生されるタンパク質医薬品の正確な患者制御投与が可能になる。この遺伝子治療に焦点を合わせたインビボの範囲でのフロレチン応答性トランスジーン発現の他、このシステムは、優れた調節性能(インビトロでの調整性及び可逆性を含む)を示す。培養中でのその短い半減期のため、バイオリアクター中で増殖させたフロレチン応答性産生培養物を、過剰なフロレチン濃度を用いた接種によるタイムリーな産生開始のために前もってプログラムすることができる。産生細胞培養物が増殖し、フロレチンレベルが正確な動態に従って減少し、産生を、定められた時間点で開始し、それは接種材料及び初期のフロレチン濃度の関数である。そのような時間遅延産生の概念は、特に、発現困難であるタンパク質治療法(増殖を損なう又は細胞傷害性であるものなど)のために貴重である。フロレチンが、ヒトにより通常消費され、皮膚ローション中での使用のために許可を受けている天然果物成分であるとの事実は、政府機関によるそのような生物医薬品製造プロトコールの承認を促す。
【0021】
哺乳動物細胞培養に対するフロレチンの安定性及び影響。培養液中でのフロレチンの安定性を評価し、哺乳動物細胞に対するその影響を評価するために、標準的ChoMaster(登録商標)HTS培地を、増加濃度のフロレチン(0、25、50、75、100μM)を用いて添加し、この培地を、構成的SEAP発現のために操作されたCHO−K1(pSEAP2−Control;PSV40−SEAP−pA,Clontech)の存在及び非存在においてインキュベートする。48時間後に培養物から採取されたサンプル中でのSEAPレベルは、フロレチンが異種タンパク質産生(代謝の完全性及び生存率についての主指標である)に対してネガティブな影響を有さないことを示す。生細胞密度の並行スコアリングによって、リンゴフラボノイドが、CHO−K1増殖を100μMまで損なわないことが確認される(図1)。64時間の期間にわたり無細胞培養液中で決定されたフロレチンレベルによって、このフラボノイドについて機能的な半減期70時間が確立される。
【0022】
本発明は、トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRの遺伝子コードを含むベクターに関する。さらに、本発明は、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0023】
合成の哺乳動物フロレチン調整可能制御エレメント(PEACE)の設計。植物根圏中で生き、シュードモナス・プチダDOT−T1Eは、種々の植物由来の抗菌剤に対する耐性を進化させており、それは、その標的プロモーターのオペレーター(OTtgR)からのTtgRタンパク質のフロレチン誘導性放出及び広く特異的なTtgABC排出ポンプの続く誘導により誘発される(Teran W. et al., loc. cit.)。TtgR(Teran W., et al., 2003, Antimicrob Agents Chemother 47(10): 3067-3072)をヘルペス単純由来のトランスアクチベーションドメインVP16(Triezenberg S.J., Kingsbury R.C., McKnight S.L., 1988, Genes Dev 2(6): 718-729)に融合させることにより、合成の哺乳動物トランスアクチベーター(TtgA1)を作製し、それは、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)に連結されたOTtgRを持つプロモーター(PTtgR1)に結合し、それからの転写をフロレチン応答性様式で活性化する(図2A及びB)。TtgA1特異的PTtgR1駆動SEAP発現単位をコードする構成的TtgA1発現ベクターpMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)のコトランスフェクションは、構成的PSV40駆動SEAP発現カセットを含むアイソジェニックベクター(pSEAP2−Control;21.4±1.0U/L)と比較し、高レベルSEAP発現(23.6±3.1U/L)をもたらす。pMG10及びpMG11コトランスフェクトCHO−K1細胞の培養への増加濃度のフロレチン(0〜70μM)の添加は、完全抑制までSEAP発現の用量依存的な低下をもたらす(図2C)。これらのデータは、PEACE制御トランスジーン発現が、調整可能であり、非毒性フロレチン濃度の範囲内で完全抑制を可能にすることを示す。
【0024】
特に、本発明は、TtgRについての遺伝子コード、ヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになるベクターに関する。同様に、本発明は、p65トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRについての遺伝子コード及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクター(TtgRとp65との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA2がPSV40の制御下にあるようになる)、及びe2f4トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRについての遺伝子コード及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含むベクター(TtgRとE2F4との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA3がPSV40の制御下にあるようになる)に関する。考慮されるさらなるトランスアクチベーションドメインは、GAL4、CTF/NF1、AP2、ITF1、Oct1、及びSpIに由来する又はそれに関連するドメイン、及び、また、米国特許第6,287,813号に列挙されるものである。
【0025】
異なるフロレチン依存的トランスアクチベーター変異体の操作及びバリデーション。3つの異なるトランスアクチベーターを設計し、VP16(TtgA1;pMG11、TtgR−VP16)(Triezenberg S. J. et al., loc. cit.)、p65(TtgA2;pMG18、TtgR−p65)(Urlinger S., et al., 2000, Gene 247(1-2):103-110)、又はヒトE2F4(TtgA3;pMG19、TtgR−E2F4)(Akagi K., Kanai M., Saya H., Kozu T., Berns A., 2001, Nucleic Acids Res 29(4): e23)トランスアクチベーションドメインのいずれかを持つ。pMG11、pMG18、又はpMG19を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)と、CHO−K1、HEK−293ならびに初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイト中にコトランスフェクトし、SEAP発現を、48時間の培養後に、50μMフロレチンの存在又は非存在においてプロファイル化する。最高レベルのトランスジーン産生は、異なるトランスアクチベーターの間で有意に変動する:TtgA1は、全ての細胞株において最も高いトランスアクチベーションを可能にし、TtgA2は、ヒト初代細胞において最良の性能を示し、TtgA3活性は、全ての状況において劣る(表1)。全てのトランスアクチベーターが、フロレチンが培地中に存在する場合、類似の基礎発現レベルを媒介するが、しかし、それらの細胞型特異性及び段階的な最高転写開始能力のため、3つのトランスアクチベーターが、定義された発現ウィンドウの選択を提供する。
【0026】
【表1】
ケラチノサイトSEAP産生を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA;TtgR−VP16)、pMG18(PSV40−TtgA2−pA;TtgR−p65)又はpMG19(PSV40−TtgA3−pA;TtgR−E2F4)のいずれかの一過性コトランスフェクション後48時間目に定量化した。
a)検出不能
b)ヒト初代線維芽細胞
c)ヒト初代ケラチノサイト
【0027】
本発明は、特に、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられたTtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及び内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに、OTtgRがPhCMVminの5’末端に直接的に連結され、1〜20塩基対、好ましくは2、4、又は10塩基対がOTtgRとPhCMVminの5’末端の間に挿入されているそのようなベクターに関する。
【0028】
OTtgRと最小プロモーターの間の距離が異なるフロレチン応答性プロモーター変異体。オペレーター結合トランスアクチベーターと最小プロモーターの間のねじれ角及び距離は、転写開始機構の効率的な組み立てにおいて中心的な役割を果たす。PTtgR配置のための最適な設計を達成することを目標に、2bp増加のリンカーを、0〜10bpの範囲で、OTtgRとPhCMVminの間に操作し、SEAP発現ベクターを生成し、それは、pMG10(PTtgR1、pMG10、OTtgR−0bp−PhCMVmin;PTtgR2、pMG20、OTtgR−2bp−PhCMVmin;PTtgR3、pMG21、OTtgR−4bp−PhCMVmin;PTtgR4、pMG22、OTtgR−6bp−PhCMVmin;PTtgR5、pMG23、OTtgR−8bp−PhCMVmin;PTtgR6、pMG24、OTtgR−10bp−PhCMVmin)とアイソジェニックである(以下の表4を参照のこと)。フロレチン応答性プロモーター変異体を持つSEAP発現ベクターの各々を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)、pMG18(PSV40−TtgA2−pA)、又はpMG19(PSV40−TtgA3−pA)と、CHO−K1中にコトランスフェクトし、SEAP産生を、48時間にわたる、0、25、及び50μMフロレチンを含む培地中での培養後にプロファイル化する(図3A〜C)。OTtgRとPhCMVminの間に0bpを持つPTtgR1は、最高SEAP発現を駆動し、最も堅固な抑制を示す。pMG20、pMG21、及びpMG24は、2、4、及び10bpの増加を伴い、通常の性能を示す。しかし、6及び8bpの増加(pMG22及びpMG23)は、最高トランスジーン発現及び抑制に対して強いネガティブな効果を有する。全てのプロモーター変異体が、類似のTtgA特異的発現プロファイルを示し、トランスアクチベーター及びプロモーターの性能を非依存的に最適化することができることを示している(図3A〜C)。
【0029】
さらに、本発明は、トランスアクチベーションドメインに融合されたTtgRタンパク質をコードするポリヌクレオチド、内因性又は、好ましくは、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)及びプロモーターを含むベクター、特に、プロモーターPTtgR1、トランスアクチベーターTtgA1、及びさらにポリオウイルス内部リボソーム進入部位(IRESPV)を含むベクターに関する。
【0030】
自動調節フロレチン誘導性トランスジーン発現。古典的な2ベクター設計(別々のプラスミド上にコードされるトランスアクチベーター及び応答性プロモーター)に加えて、合成フロレチン制御回路の自己調節バージョンを構築し、それによって、単一ベクターフォーマットにおいてトランスアクチベーター(TtgA1)及びトランスジーン(SEAP)の同時PTtgR1駆動発現が可能になる。CHO−K1中でのpMG13(PTtgR1−SEAP−IRESPV−TtgA1−pA)のトランスフェクションに続き、漏れやすいPTtgR1駆動転写物は、初期TtgA1のキャップ非依存的翻訳(ポリオウイルス内部リボソーム進入部位(IRESPV)により媒介される)に導き、それは、自己調節ポジティブフィードバックループにおいて、コシストロン的にコードされるSEAPと共にTtgA1の完全発現を誘発する。50μMフロレチンの存在において、ポジティブフィードバックループが中断される。なぜなら、TtgA1はもはやPTtgR1に結合せず、SEAPは完全に抑制されるからである(図4)。
【0031】
PEACE制御と他のトランスジーン調節回路との適合性。PEACEと、確立されたテトラサイクリン[TETOFF;Gossen M., Bujard H., 1992, Proc Natl Acad Sci USA 89(12): 5547-5551]及びマクロライド[EOFF;Weber W., et al., 2002, Nat Biotechnol 20(9): 901-907]応答性発現回路との機能的な適合性を評価するために、CHO−PEACE8を、TETOFF(pSAM200、PSV40−tTA−pA;pBP99、PhCMV*−1−SAMY−pA)又はEOFF(pWW35、PSV40−ET1−pA;pBP100、PETR3−SAMY−pA)システム(テトラサイクリン及びエリスロマインにそれぞれ応答するバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来の分泌αアミラーゼ(SAMY)を制御するために設定する)のいずれかを用いて、一過性にトランスフェクトする(フロレチン応答性SEAP発現についてトランスジェニックである)。SEAP及びSAMY発現を、トランスフェクトされた集団の培養後48時間目に、インデューサー分子(フロレチン、テトラサイクリン、エリスロマイシン)の存在(50μM;2μg/mL)又は非存在においてスコア化する。交差調節の分析では、PEACE、TETOFF、及びEOFFシステムの間に干渉が示されない(表2A及びB)。
【0032】
【表2】
CHO−PEACE8を、(A)pSAM200(PSV40−tTA−pA)及びpBP99(PhCMV*−1−SAMY−pA)又は(B)pWW35(PSV40−ET1−pA)及びpBP100(PETR3−SAMY−pA)を用いてコトランスフェクトし、48時間にわたり、フロレチン(Phl、50μM)、エリスロマイシン(EM、2μg/mL)、又はテトラサイクリン(Tet、2μg/mL)の存在及び非存在において、SEAP及びSAMY産生を評価する前に増殖させた。
【0033】
フロレチンならびに他のフラボノイド及びカルコンの調節性能。PプチダのTtgRタンパク質が、いくつかの植物由来フラボノイド及びカルコンと、高親和性で結合するとの事実に基づき(Teran W. et al., loc. cit.)、哺乳動物細胞におけるそれらのPEACE制御能力が利用されてきた。CHO−K1を、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)(通常の性能をスコア化するため)を用いて、又は、pSEAP2−Control(PSV40−SEAP−pA)(化合物関連の細胞毒性を評価するため)を用いて一過性に(コ)トランスフェクトし、次に、48時間にわたり、異なる濃度(0、25、50μM)の特定のフラボノイド型化合物(ベルベリン、ブチルパラベン、ゲニステイン、ルテオリン、βナフトール、ナリンゲニン、フロレチン、フロリジン、又はクエルセチン)を含む培地中で、SEAP産生をプロファイル化する前に培養する(図5A)。ゲニステイン、ルテオリン、βナフトール、ナリンゲニン、及びクエルセチンには、テストされた濃度範囲(ゲニステインは50μMのみ)内で細胞毒性があるのに対し、ベルベリン、ブチルパラベン、フロリジン、及びフロレチンは細胞生存率を低下させない。しかし、ベルベリンはPEACEを制御せず、ブチルパラベンならびにフロリジンはSEAP産生を調節できるが、しかし、完全には抑制しない(図5B)。従って、最高発現レベルならびに完全トランスジーン抑制を可能にするフロレチンが、好ましいPEACEインデューサーである。
【0034】
本発明は、さらに、言及するベクターを含む哺乳動物細胞(記載するベクターを用いて安定的に又は一過性にトランスフェクトされている)、及びナノ容器又はマイクロ容器中の(例、カプセル化形態中の)そのような哺乳動物細胞に関する。ナノ容器は、ウイルス、好ましくは弱毒化ウイルス、特にウイルスカプシド、合成又は半合成ナノ又はマイクロ粒子、例えば、哺乳動物細胞を取り込むための適した形状の球又はチューブなど、及び、例えば、アルギン酸−ポリ−L−リジンを用いた哺乳動物細胞のカプセル化によりインサイチュで形成されるナノ又はマイクロ容器でありうる。適したナノ又はマイクロ容器の特定の例は、商標名CELLMAX(登録商標)の下で製造されたホロー・ファイバーである。本発明は、さらに、記載する哺乳動物細胞、特に、ナノ又はマイクロ容器中の哺乳動物細胞を含む哺乳動物(ヒトを除く)に関する。
【0035】
フロレチン制御トランスジーン発現は、異なる哺乳動物細胞株及びヒト初代細胞において機能的である。その多用途性を実証するために、PEACEをいくつかの不死化させた哺乳動物細胞株ならびにヒト初代細胞においてテストする。pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)を、BHK−21、COS−7、HaCaT、HEK−293、HT−1080、及びNIH/3T3細胞株中に、ならびに、初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイト中にコトランスフェクトし、48時間にわたり、フロレチンの存在(50μM)及び非存在において培養し、SEAPレベルのスコア化が続く(表3)。PEACE制御トランスジーン発現は、全てのテストされた細胞株において機能的であり、この技術が広く適用可能であることを示す。
【0036】
【表3】
初代ヒトケラチノサイトSEAP産生を、示した細胞株及び初代細胞中へのpMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpMG11(PSV40−TtgA1−pA)のコトランスフェクション後48時間目に定量化した。
* 検出不能
【0037】
安定なトランスジェニックCHO−K1細胞株におけるPEACE制御トランスジーン発現の発現動態、調節性、及び可逆性。CHO−K1中へのpMG11及びpMG10の連続トランスフェクション及びクローン選択により、5つのダブルトランスジェニック細胞株(CHO−PEACE)が生成され、それらの全てがフロレチン調節SEAP発現を示すが、しかし、それらの全体的な調節性能は異なる(最高及び漏れやすい発現レベル;図6)。CHO−PEACE8は、好ましい細胞株であり、(i)60日を超える長期培養における不変の最高SEAP発現レベル(0日、70.9±3.1U/L;60日、67.6±2.7U/L)、(ii)優れた調節性(図7A)、(iii)指数関数的なSEAP発現動態(図7B)、(iv)トランスジーン発現の完全可逆性(図7C)、及び(v)他のトランスジーン調節回路との最適な適合性を示す(表2)。
【0038】
プロトタイプ生物医薬品製造シナリオにおける産物遺伝子発現の時間遅延誘導。フロレチンは非毒性果物成分であるため、それは、生物医薬品製造シナリオのための理想的な産物インデューサーであり、それは、発現困難なタンパク質医薬品の正確なタイミング又は投与を必要とする。また、フロレチンは、決定された半減期70時間を哺乳動物細胞培養システムにおいて有するため、任意の産生培養をプログラムし、産物遺伝子発現を、事前に定められた時間点で、フロレチン濃度が抑制閾値レベル未満に降下する際に開始することができる。1L BioWave(登録商標)バイオリアクターを、2×103個のCHO−PEACE8及び異なるトランスジーン抑制フロレチン用量(60、80、又は100μM)を用いて接種する。CHO−PEACE8は、バイオプロセスの開始から指数関数的に増殖するが、SEAP産生は、一旦、フロレチンが非抑制レベルまで分解される場合、徐々に増加する(40μM;図8)。PEACEを使用し、哺乳動物産生培養を、実際に、任意のプロセス介入を伴わずに、産物遺伝子発現のタイムリーな誘導のためにプログラムすることができる。
【0039】
マウスにおける皮下インプラント中でのフロレチン媒介性の経皮遺伝子発現。フロレチンは、経皮薬物送達のための浸透エンハンサーとして示唆されており、局所的な皮膚ベース投与に続いて、齧歯類において全身的に伝播されることが示されているため(Auner B.G. et al., loc. cit.)、フロレチンは、潜在的な経皮的治療用トランスジーン発現インデューサーとして評価されてきた。CHO−PEACE8を、干渉性アルギン酸−PLL−アルギン酸中にマイクロカプセル化し、マウス中に皮下移植する。処置マウスの背中を部分的に剪毛し、異なる量のフロレチン(0〜42mg)を含むワセリンベースのスキンローション(200μL)を毎日塗る。移植後72時間目に処置マウスにおいて検出されたSEAPレベルは、培養され、インビトロでフロレチンに曝露された同じマイクロカプセル化インプラントバッチで観察されたものと類似のフロレチン依存的な用量反応特徴を示す(図9A及びB)。構成的SEAP発現についてトランスジェニックであるCHO−K1細胞を受けたコントロールマウスは、フロレチン含有スキンローションを用いた任意の処置に対して非感受性である(0mgフロレチン:6.2±0.43U/L;42mgフロレチン:6.02±0.58U/L)。
【0040】
本発明は、さらに、トランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサーTtgRについての遺伝子コードを含むベクター、特に、TtgRについての遺伝子コードならびにヒトKruppel関連ボックスタンパク質のkrabトランスリプレッションドメイン及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとKRABとの融合に起因するトランスレプレッサーTtgKがPSV40の制御下にあるようになるそのようなベクターに関する。考慮される他のトランスリプレッサードメインは、例えば、v−erbAオンコジーン産物、甲状腺ホルモン受容体、Ssn6/Tup1タンパク質複合体、SIRIタンパク質、NeP1、TSF3、SF1、WT1、Oct−2.1、E4BP4、及びZF5、ならびに、また、米国特許第6,287,813号に列挙されるものに由来する又はそれらに関連するドメインである。同様に、本発明は、トランスレプレッサードメインに融合されたTtgRタンパク質、外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異性オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含むベクターに関する。
【0041】
ポジティブ調節のためのPEACEシステムの設計(PEACE−ON)。TtgRをヒトKruppel関連ボックスタンパク質(KRAB)(Moosmann P., Georgiev O., Thiesen H.J., Hagmann M., Schaffner W., 1977, Biol Chem 378(7): 669-677)に融合することにより、合成の哺乳動物トランスリプレッサー(TtgK)を作製し、それは、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)の3’に位置づけられる8つのOTtgRエレメントを持つプロモーター(PTtgRON)に結合し、そこからの転写をフロレチン応答様式で阻害することができる(図10A及びB)。構成的TtgK発現ベクターpMG28(PSV40−TtgK−pA)及びpMG27(PTtgRON−SEAP−pA)(TtgK特異的PTtgRON駆動SEAP発現単位をコードする)のコトランスフェクションは、低レベルの基礎SEAP発現をもたらす(2.3±0.26U/L)。pMG27及びpMG28コトランスフェクトCHO−K1細胞の培養への増加濃度のフロレチン(0〜50μM)の添加は、SEAP発現の用量依存的な誘導をもたらした(図10C)。これらのデータは、PEACE制御トランスジーン発現が、フロレチンの添加により抑制される(PEACEシステムを参照のこと。図2A〜C)、又は、PEACE−ONセットアップに示される通りに誘導されることを示す(図10A〜C)。システムの基礎発現(漏れ性)を低下させるために、漏れ性を低下させるための共役させた転写及び翻訳戦略を用いることができる。(i)異なる構成的プロモーターの配置;(ii)プロモーターの3’方向でのオペレーター配列(OTtgR)の数における変動(1〜12のOTtgRリピート)及び/又は構成的プロモーターの5’方向でのオペレーター配列の付加(1〜12のOTtgRリピート);(iii)シストロンsiRNAを介した特異的にタグ付けされた目的の遺伝子(goi)の媒介性ノックダウン。
【0042】
実施例
発現ベクターの設計pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)は、フロレチン応答性SEAP発現単位を持ち、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)は、フロレチン依存的トランスアクチベーターの構成的発現をコードする。発現ベクターの設計及び使用されるプラスミドに関する詳細情報を、以下の表4に提供する。
【0043】
【表4】
参考文献:(a)Weber W., Kramer B.P., Fux C., Keller B., Fussenegger M., 2002, J Gene Med 4(6): 676-686.(b)Weber W., et al., 2002, Nat Biotechnol 20(9): 901-907.(c)Fussenegger M., Moser S., Mazur X., Bailey J.E., 1997, Biotechnol Prog 13(6): 733-740. (d)Moser S., et al., 2001, J Gene Med 3(6): 529-549.(e)Clontech, Palo Alto, CA, USA.(f)Schlatter S., Rimann M., Kelm J., Fussenegger M., 2002, Gene 282(1-2): 19-31.(g)Picoscript, Houston, TX, USA.
【0044】
略称:E2F4、ヒトE2F転写因子4のトランスアクチベーションドメイン;ET1、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−VP16);ET2、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−p65);ET3、マクロライド依存的トランスアクチベーター(E−E2F4);ETR、マクロライド依存的トランスアクチベーターに特異的なオペレーター;IRESPV、ポリオウイルス内部リボソーム進入部位;NF−κB、ヒト転写因子;OTtgR、TtgR特異的オペレーター;p65、NF−κBのトランスアクチベーションドメイン;pA、ポリアデニル化部位;PETR3−9、ETRとPhCMVminの間に異なるスペーサーを含むマクロライド応答性プロモーター;PhCMV、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター;PhCMVmin、最小PhCMV;PhCMV*−1、テトラサイクリン応答性プロモーター;PPIR3、ストレプトグラミン応答性プロモーター;PSV40、サルウイルス40プロモーター;PTtgR1−6、OTtgRとPhCMVminの間に異なるスペーサーを含むフロレチン応答性プロモーター;SEAP、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ;SAMY、バシラス・ステアロサーモフィラス由来の分泌αアミラーゼ;TtgR、シュードモナス・プチダDOT−T1E ABC多剤排出ポンプのリプレッサー;TtgA1、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−VP16);TtgA2、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−p65);TtgA3、フロレチン依存的トランスアクチベーター(TtgR−E2F4);VP16、ヘルペス単純ウイルス由来トランスアクチベーションドメイン。
【0045】
細胞培養及びトランスフェクション。野生型チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1、ATCC:CCL−61)及びその派生体を標準的培地中で培養する:5%(v/v)ウシ胎児血清(FCS,PAN Biotech GmbH, Aidenbach, Germany, Cat. No. 3302, Lot No.P251110)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Sigma, St Louis, MO, USA, Cat. No.P4458)を添加したChoMaster(登録商標)HTS(Cell Culture Technologies, Gravesano, Switzerland)。ヒト胚性腎臓細胞(HEK-293, Mitta B., et al., 2002, Nucleic Acids Res 30(21): e113)、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS−7, ATCC: CRL−1651)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK−21, ATCC: CCL10)、ヒト線維肉腫細胞(HT−1080, ATCC: CCL−121)、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT(Boukamp P., et al., 1988, J Cell Biol 106(3): 761-771)、及びマウス線維芽細胞(NIH/3T3, ATCC: CRL−1658)を、10% FCS(v/v)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Invitrogen,Cat. No. 52100-39)中で培養する。初代ヒト包皮線維芽細胞を、20% FCS(v/v)及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したDMEM中で培養し、初代ヒト包皮ケラチノサイトを、化学的に定義された無血清ケラチノサイト培地(Invitrogen, Cat. No. 10744019)中で培養する。全ての細胞型を、37℃で、5% CO2含有加湿空気中で培養する。CHO−K1の一過性トランスフェクションのために、1μgの全プラスミドDNA(等量の各プラスミドのコトランスフェクションのため)を、24ウェルプレートの1ウェル当たり50,000個の細胞中に、最適化されたリン酸カルシウムプロトコール(Greber D., Fussenegger M., 2007, Biotechnol Bioeng 96(5): 821-834)に従いトランスフェクトする。プラスミドDNAを、全容積25μLの0.5M CaCl2溶液に希釈させ、それを、25μLの2×HBS溶液(50mM HEPES、280mM NaCl、1.5mM Na2HPO4、pH 7.1)と混合する。15分間にわたる室温でのインキュベーション後、沈殿物を直ぐにウェルに加え、細胞上で遠心し(1,200xgで5分間)、トランスフェクション効率を増加させる。3時間後、細胞を0.5mLのグリセロール溶液(15%グリセロールを含むChoMaster(登録商標)HTS培地)を用いて60秒間にわたり処理する。リン酸緩衝食塩水(PBS、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水;Invitrogen, Cat. No. 21600-0069)を用いた1回の洗浄後、細胞を、0.5mLの標準的なChoMaster(登録商標)HTS培地中で、異なる濃度のフロレチンの存在又は非存在において培養する。BHK−21、COS−7、及びHEK−293のトランスフェクションのために、プラスミドDNA−Ca2PO4沈殿物を調製し、細胞に適用する(上に記載する通り)。HEK−293及びCOS−7細胞を、DNA−Ca2PO4沈殿物を用いた3時間のインキュベーション後にPBSを用いて1回洗浄し、続いて、標準的DMEM中で培養し、BHK−21細胞を、沈殿物を用いて一晩インキュベートし、次に、PBSを用いて1回洗浄した後、DMEM培地中で培養する。HaCaT、HT−1080、NIH/3T3ならびに初代ヒト線維芽細胞及びケラチノサイトを、Fugene(商標)6(Roche Diagnostics AG, Basel, Switzerland, Cat. No. 11814443001)を用いて、製造者のプロトコールに従ってトランスフェクトし、上で特定する細胞培養液中で培養する。トランスフェクション後、全ての細胞を、異なる濃度のフロレチンを添加したDMEM中で培養し、レポータータンパク質レベルをトランスフェクションから48時間後にプロファイル化する(別に示さない場合)。
【0046】
安定細胞株の構築。安定CHO−PEACE8細胞株(フロレチン制御SEAP発現についてトランスジェニックである)を2ステップで構築する:(i)CHO−K1細胞を、pMG11(PSV40−TtgA1−pA)及びpSV2neo(Clontech, Cat. No. 6172-1)を比率20:1でコトランスフェクトし、クローン選択は細胞株CHO−TtgAをもたらす。(ii)CHO−TtgAを、pMG10(PTtgR1−SEAP−pA)及びpPur(Clontech, Cat. No. 6156-1)(比率20:1)を用いてコトランスフェクトし、フロレチン応答性SEAP産生ダブルトランスジェニック細胞株CHO−PEACE8をクローン選択後に選ぶ。CHO−PEACE8のフロレチン依存的な用量反応特徴を、100,000個細胞/mLを、48時間にわたり、標準的ChoMaster(登録商標)HTS培地中で、異なるフロレチン濃度(0〜70μMの範囲)で培養することにより分析する。フロレチン媒介性SEAP産生の可逆性を、CHO−PEACE8(100,000個細胞/mL)を144時間にわたり培養することにより評価し、フロレチン濃度を0〜50μMで48時間ごとに変える。
【0047】
レポータータンパク質産生の定量化。ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)の産生を、p−ニトロフェニルリン酸ベースの光吸収を使用して経時的に定量化する。バシラス・ステアロサーモフィラス由来の分泌αアミラーゼ(SAMY)レベルを、ブルースターチPhadebas(登録商標)アッセイ(Pharmacia Upjohn, Peapack, NJ, USA; Cat. No. 10-5380-32)を使用して評価する(Schlatter S., Rimann M., Kelm J., Fussenegger M., 2002, Gene 282(1-2): 19-31)。
【0048】
インビボ方法。CHO−PEACE8及びCHO−SEAP18(Fluri D.A., Kemmer C., Daoud-El Baba M., Fussenegger M., 2008, J Control Release 131(3): 211-219)を、アルギン酸−ポリ−(L−リジン)−アルギン酸ビーズ(400μM;200個細胞/カプセル)中に、Inotech Encapsulator Research IE-50R(Recipharm, Basel, Switzerland)を使用して、製造者の指示及び以下のパラメーターに従ってカプセル化する:0.2mmノズル、20mLシリンジ(流速405単位)、ノズル振動数1024Hz、及び900V(ビーズ分散用)。雌OF1マウス(oncins France souche 1, Charles River Laboratories, France)の背中を剪毛し、300μLのChoMaster(登録商標)HTS(2×106個のカプセル化CHO−PEACE8を含む)を皮下注射する。コントロールマウスを、マイクロカプセル化CHO−K1を用いて注射する。剪毛によって、フロレチン含有クリームと動物の皮膚との直接接触が確実となる。移植後1時間目、200μLのフロレチン含有クリームを、注射部位の周辺の皮膚に適用する。クリーム中のフロレチン量は0〜42mgの範囲である。クリームを、1日1回、最長3日間にわたり適用する。その後、マウスを屠殺し、血液サンプルを回収し、SEAPレベルを血清(製造者(Beckton Dickinson, Plymouth, UK)の指示に従い、microtainer SSTチューブを使用して単離される)中で定量化する。マウスを含む全ての実験を、European Community Councilの指令(86/609/EEC)に従って実施する。
【0049】
バイオリアクター操作。CHO−PEACE8(2×103個細胞/mLの接種材料)を、1L培養の最適pH及びDO制御について最適化された2L Wave Bag(登録商標)を備えたBioWave 20SPS-Fバイオリアクター(Wave Biotech AG, Tagelswangen, Switzerland)中で培養する。バイオリアクターを、ロッキング速度15分−1、ロッキング角度6°、及びエアレーション速度100mL/分で操作し、入り口ガス加湿(HumiCare(登録商標)200, Gruendler Medical, Freudenstadt, Germany)を伴い、培地の蒸発を予防する。培地(ChoMaster(登録商標)HTS、5% FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)に、60、80、又は100μMフロレチンを添加する。
【0050】
インデューサー化合物及びスキンローションの製剤化。ベルベリン(Acros, Geel, Belgium, Cat. No. 20425-0100)及びルテオリン(Alfa Aesar, Karlsruhe, Germany, Cat. No. L14186)を、1:5(v/v)DMSO/H2O中の10mMストック溶液として調製する。ブチルパラベン(ABCR, Karlsruhe, Germany, Cat. No. AV14043)、ゲニステイン(Axonlab, Baden, Switzerland, Cat. No. A2202.0050)、βナフトール(Sigma, Cat. No. 185507)、ナリンゲニン(Sigma, Cat. No. N5893)、フロレチン(Sigma, Cat. No. P7912)、フロリジン(Sigma, Cat. No. P3449)、及びケルセチン(Sigma, Cat. No. Q0125)を、DMSO中の50mMストック溶液として調製し、最終濃度50μMで使用する(別に示さない場合)。ワセリンベースのフロレチン含有クリームが専門的に製剤化され(Pharmacy Hoengg Ltd., Zurich, Switzerland)、25、12.5、6.25、及び3.125%(wt/wt)のフロレチンを含む。200μlのスキンローションを、マウス1匹当たり及び処置1回当たりに局所的に適用し、それは、用量当たりのそれぞれの全フロレチン量42、21、10.5、及び5.25mgに相当する。テトラサイクリン(Sigma, Cat. No. T7660)をH2O中の1mg/mLストック溶液として、エリスロマイシン(Fluka, Buchs, Switzerland, Cat. No. 45673)をエタノール中の1mg/mLストック溶液として調製する。両方の抗生物質を最終濃度2μg/mLで使用する。
【0051】
細胞培養液中のフロレチンを定量化するために、サンプルを5×104個のCHO−PEACE8に加え、SEAP定量化前に、48時間にわたりインキュベートする。フロレチンレベルを、SEAP産生を較正曲線(図7A)(同じパラメーター及び定義されたフロレチン濃度を使用して確立する)と比較することにより算出する。同様に、フロレチンの半減期を、細胞培養において観察される分解動力学に基づいて推定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用。
【請求項2】
トランスジーン発現がシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRの制御下にある、請求項1記載の使用。
【請求項3】
皮膚浸透化合物がフラボノイド、カルコン、及びブチルパラベン、ならびにその誘導体より選択される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
皮膚浸透化合物がフロレチンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項5】
トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRを含むベクター。
【請求項6】
TtgRについての遺伝子コード、ヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになる、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
TtgRについての遺伝子コード、ヒトKruppel関連ボックスタンパク質のkrabトランスリプレッションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとKRABとの融合に起因するトランスレプレッサーTtgKがPSV40の制御下にあるようになる、請求項5記載のベクター。
【請求項8】
TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は外因性のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられるOTtgRを含む、請求項8記載のベクターPTtgR1。
【請求項10】
外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドがSEAP発現をコードする配列である、請求項8又は9記載のベクター。
【請求項11】
トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたTtgR、内因性又は外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含む、請求項5記載のベクター。
【請求項12】
請求項5〜7のいずれか一項記載のベクターを用いて及び請求項8〜10のいずれか一項記載のベクターを用いてトランスフェクトされた哺乳動物細胞。
【請求項13】
請求項11記載のベクターを用いてトランスフェクトされた哺乳動物細胞。
【請求項14】
請求項12又は13記載のナノ容器又はマイクロ容器中の哺乳動物細胞。
【請求項15】
請求項12、13、又は14記載の哺乳動物細胞を含む哺乳動物(ヒトを除く)。
【請求項1】
トランスジーン発現を制御するための皮膚浸透化合物の使用。
【請求項2】
トランスジーン発現がシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRの制御下にある、請求項1記載の使用。
【請求項3】
皮膚浸透化合物がフラボノイド、カルコン、及びブチルパラベン、ならびにその誘導体より選択される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
皮膚浸透化合物がフロレチンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項5】
トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたシュードモナス・プチダDOT−T1E由来の細菌リプレッサータンパク質TtgRを含むベクター。
【請求項6】
TtgRについての遺伝子コード、ヘルペス単純ウイルスのvp16トランスアクチベーションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとVP16との融合に起因するトランスアクチベーターTtgA1がPSV40の制御下にあるようになる、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
TtgRについての遺伝子コード、ヒトKruppel関連ボックスタンパク質のkrabトランスリプレッションドメイン、及び構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)を含み、タンパク質TtgRとKRABとの融合に起因するトランスレプレッサーTtgKがPSV40の制御下にあるようになる、請求項5記載のベクター。
【請求項8】
TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、プロモーター、及び内因性又は外因性のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)の5’に位置づけられるOTtgRを含む、請求項8記載のベクターPTtgR1。
【請求項10】
外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドがSEAP発現をコードする配列である、請求項8又は9記載のベクター。
【請求項11】
トランスアクチベーションドメイン又はトランスリプレッサードメインに融合されたTtgR、内因性又は外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、TtgR特異的オペレーター配列(OTtgR)、及びプロモーターを含む、請求項5記載のベクター。
【請求項12】
請求項5〜7のいずれか一項記載のベクターを用いて及び請求項8〜10のいずれか一項記載のベクターを用いてトランスフェクトされた哺乳動物細胞。
【請求項13】
請求項11記載のベクターを用いてトランスフェクトされた哺乳動物細胞。
【請求項14】
請求項12又は13記載のナノ容器又はマイクロ容器中の哺乳動物細胞。
【請求項15】
請求項12、13、又は14記載の哺乳動物細胞を含む哺乳動物(ヒトを除く)。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【公表番号】特表2012−523220(P2012−523220A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503911(P2012−503911)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002103
【国際公開番号】WO2010/115583
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508139000)
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002103
【国際公開番号】WO2010/115583
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508139000)
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
【Fターム(参考)】
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