説明

皮膚バリア機能改善剤

【課題】 皮膚バリア機能改善に好適な、新規なTRPVリガンド、取り分け、TRPVを活性化するアゴニスト作用を有する成分を含有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】 皮膚バリア機能改善に好適な、新規なTRPVリガンド、取り分け、TRPVを活性化するアゴニスト作用を有するミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属に属する植物より得られる抽出物を含有する組成物を提供することにより、前記課題を解決することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚バリア機能改善用の組成物に関し、詳しくは、温度感受性受容体(TRPV:Transient receptor potential vanilloid)リガンドを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、熱や痛みなどの外部刺激を生体内に伝える働きに加え、水分の蒸散を防いだり、外部刺激や物理的刺激から体内を保護するバリア機能が存する。皮膚バリア機能は、生体の機能維持に重要な働きをしているが、温度、湿度、皮膚の過度の摩擦、生活リズムの変調、ストレスなどにより機能が低下することが知られており、この様な原因により、皮膚の乾燥が進み、刺激に対し過敏になり、刺激を受け易くなる。さらに、この状態が進めば、体外からの細菌や有害物質の侵入による直接的な障害、アレルギ−反応などを引き起こし、アトピ−性皮膚炎や皮脂欠乏性湿疹などの皮膚障害の発症に繋がる。また、皮膚は、人目に触れ、見た目の美しさに直接影響するため、多くの女性にとって大きな関心事であり、肌状態を健康に保つために、皮膚バリア機能改善剤(例えば、特許文献1を参照)、肌荒れ改善剤(例えば、特許文献2を参照)、セラミド合成促進剤(例えば、特許文献3を参照)等を含有する皮膚外用剤等の様々な試みがなされている。
【0003】
1989年にショウジョウバエの光受容器異常変異株の原因遺伝子として同定された非選択性陽イオンチャネルのTRP(Transient receptor potential)チャネルは、アミノ酸配列の相同性により少なくとも9種類のサブファミリ−に分類されている。TRPチャネルに属する温度感受性受容体は、初めてTRPV1の分子実体が解明され、現在に至るまで、哺乳類では、低温から高温までそれぞれの温度刺激により開口する9種類の温度感受性受容体(TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4、TRPM2、TRPM4、TRPM5、TRPM8、TRPA1)が報告されている。TRPV4は、当初、低侵透圧で活性化される浸透圧感受性受容体として発見され、感覚神経、視床下部、皮膚、腎臓、肺、内耳などの様々な組織で発現し、浸透圧刺激、機械刺激による痛みや炎症性の痛みの伝達に重要な役割を果たしている。また、細胞膜貫通型カルシウム流入チャネルとして機能するTRPV4は、前記の物理的な刺激に加え、内在性カンナビノイド、アラキドン酸代謝物、4α−ホルボ−ルエステルなどの化合物によっても活性化される。この様に、発現する組織や刺激応答の多様性から多くの生物活性を示すことが考えられ、刺激及び痛みの認識、自閉症をはじめとする神経疾患症状に深く関与する。また、これら以外の生物活性としては、TRPV4欠損マウスにおいて体重増加、総脂肪量及び内臓脂肪量の有意な抑制作用(例えば、特許文献4を参照)等のエネルギ−代謝関連の活性が報告されている。また、表皮細胞に存在するTRPV4に関する研究により、TRPVは、水分蒸散センサ−としての機能を有し、4α−ホルボ−ルエステル(4α−PDD)による活性化により、水分蒸散を抑制すること、皮膚バリア機能を亢進することが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)。
【0004】
TJ及びAJは、細胞の周囲にベルト状に存在し、隣り合った細胞同士を密着させることにより隙間を塞ぐと共に、連続的に細胞を繋ぎ止める細胞間接着構造体である。皮膚組織において、TJは、顆粒層の表皮細胞に存在しており、水や物質が細胞間隙を透過するのを防ぎ、皮膚バリア機能を維持するために重要な役割を果たしている(例えば、非特許文献3を参照)。また、AJの正常な形成がTJの形成に重要な役割を果たすことも知られている。しかしながら、TJ及びAJなどの細胞間接着構造体とTRPVの相互作用に関しては、これまで全く知られていなかった。このため、TRPVとTJ及びAJなどの細胞間接着構造体との相互作用、取り分け、TRPV4の活性化によりTJ及び/又はAJの形成が促進される作用を有する成分には、新たな作用機序を有する皮膚バリア機能改善剤として相加又は加乗効果が期待出来る。
【0005】
TRPV、特に、TRPV4に作用する物質としては、ビフェニル誘導体(例えば、特許文献2を参照)、1,4−ジアミン誘導体(例えば、特許文献3を参照)等のTRPV4アゴニスト、更には、ピペリジン及びピロリジン誘導体、チオフェン誘導体(例えば、特許文献4を参照)のTRPV4アゴニスト(例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7を参照)が、疼痛、間接リュウマチ、神経障害、痛覚過敏などの症状に緩和、改善に有効であることが知られている。しかしながら、TRPV4アゴニストに皮膚バリア機能改善作用が存することは、4α−ホルボ−ルエステルに(4α−PDD)よる活性化により、水分蒸散を抑制すること、皮膚バリア機能を亢進することが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)のみであり、その作用機序は解明されていなかった。また、細胞間接着構造体のTJ及びAJとTRPVに共に作用する成分、取り分け、表皮に存在するTRPV4を活性化することよりTJ及び/又はAJの形成を促進する作用を有する成分が、皮膚バリア機能を向上させ、肌荒れ改善に有効であることも知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−001914号公報
【特許文献2】特開2008−044857号公報
【特許文献3】特開2006−232769号公報
【特許文献4】特開2006−199647号公報
【特許文献2】特開2009−084209号公報
【特許文献3】特表2009−507855号公報
【特許文献4】特表2008−512475号公報
【特許文献5】特開2009−527495号公報
【特許文献6】特表2009−519976号公報
【特許文献7】特表2009−523176号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Denda M. et. al.,J. Invest. Dermatol, 127(3),654−659(2007)
【非特許文献2】Denda M.,International Journal of Cosmetic Science,31,79−86(2009)
【非特許文献3】Kurasawa M. et. al.,Biochemical and Biophysical Reseach Communications,381,171−175(2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、皮膚バリア機能改善に好適な、新規なTRPVリガンドを含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な実情に鑑みて、本発明者等は、皮膚バリア機能改善に好適な、組成物を求めて、鋭意、努力を重ねた結果、新規なTRPVリガンドを含有する組成物が、その様な特性を備えていることを見出した、更に、詳細な検討を加えた結果、この様なTRPVリガンドとしては、特に、TRPVを活性化するアゴニスト作用を有するリガンドが好ましく、この様な成分としては、ミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属に属する植物より得られる植物抽出物にTRPV活性化作用が存することを見出し、発明を完成させるに至った。本発明は、以下に示す通りである。
<1> ミソハギ科サルスベリ属に属する植物、アカネ科カギカズラ属に属する植物より得られる抽出物よりなる温度感受性受容体(TRPV:Transient receptor potential vanilloid)リガンド。
<2> 前記ミソハギ科サルスベリ属に属する植物、アカネ科カギカズラ属に属する植物が、ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリ、アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルであることを特徴とする、<1>に記載のTRPVリガンド。
<3> 前記TRPVが、TRPV4であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載のTRPVリガンド。
<4> TRPVリガンドの作用が、TRPV4アゴニスト作用であることを特徴とする<1>〜<3>の何れか一項に記載のTRPVリガンド。
<5> TRPVリガンドは、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ:Tight-junction)及び/又はアドヘレンスジャンクション(AJ:Adherens-junction)の形成促進作用を有することを特徴とする、<1>〜<4>の何れか一項に記載のTRPVリガンド。
<6> <1>〜<5>の何れか一項に記載のTRPVリガンドを含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
<7> 皮膚バリア機能改善用であることを特徴とする、<6>に記載の皮膚外用剤。
<8> 化粧料、医薬部外品であることを特徴とする、<6>又は<7>の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
<9> ミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属に属する植物の抽出物を含有する、皮膚バリア機能改善のための化粧料の製造方法であって、ミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属の植物の植物体を極性溶媒で抽出し、所望により、溶媒除去、分画精製を行い、得られた抽出物のTRPVに対するリガンド作用を調べ、リガンド作用を有する抽出物、その溶媒除去又はその分画精製物を抽出候補として選択し、かかる抽出物候補に関し、表皮のTJ及び/又はAJへの作用を調べ、TJ及び/又はAJの形成促進作用を有するものを選択し、化粧品に配合することを特徴とする、皮膚バリア機能向上のための化粧料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮膚バリア機能改善に好適な、新規なTRPVリガンドを含有する組成物を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】TER値測定によるTRPV4活性化剤(4α−PDD)によるTJ及び/又はAJ形成促進作用を示す図である。
【図2】FITC-Dextran透過量測定によるTRPV4活性化剤(4α−PDD)によるTJ及び/又はAJ形成促進作用を示す図である。
【図3】si-RNAトランスフェクションによるTRPV4ノックダウン効率を示す図である。
【図4】TRPV4ノックダウンによる正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEKn)の細胞間接着関連遺伝子の発現量を示す図である。
【図5】TRPV4ノックダウンにおけるTER値の経時変化示す図である。
【図6】TRPV4ノックダウンにおけるFITC-Dextran透過量測定の結果を示す図である。
【図7】TRPV4発現細胞における4α−PDDの細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図8】TRPV4発現細胞における本発明のアセンヤク抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図9】TRPV4発現細胞における本発明のオオバナサルスベリ抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図10】Mock細胞における本発明のアセンヤク抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図11】Mock細胞における本発明のオオバナサルスベリ抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図12】TRPV4発現細胞における細胞外カルシウムイオンフリ−環境における本発明のアセンヤク抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図13】TRPV4発現細胞における細胞外カルシウムイオンフリ−環境での本発明のオオバナサルスベリ抽出物の細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図14】Mock細胞における細胞外カルシウムイオンフリ−環境での本発明のアセンヤク抽出物の細胞内カルシウム濃度の増加作用を示す図である。
【図15】マウスTRPV4発現細胞に対する細胞外カルシウムイオンフリ−環境及びカルシウム存在環境でのアセンヤクエキスの細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用を示す図である。
【図16】本発明の植物抽出物のTER値測定(TJ及び/又はAJの形促進作用)の結果を示す図である。
【図17】本発明の植物抽出物のFITC-Dextran透過量測定((TJ及び/又はAJの機能向上作用)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の組成物の必須成分であるTRPVリガンド>
TRPチャネルは、低温から高温までそれぞれの温度刺激により開口する9種類の温度感受性受容体(TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4、TRPM2、TRPM4、TRPM5、TRPM8、TRPA1)が知られている。これらの内、TRPV1、TRPV3、TRPV4は、表皮細胞に存在することが報告されている。TRPVは、細胞膜貫通型のカルシウムイオンチャネルの分子実体であり、細胞内カルシウムイオン濃度を調整することにより、皮膚バリア機能に深く関与するとされている。特に、TRPV1及びTRPV4は、水分蒸散、皮膚バリア機能に深く関与していることが示唆されている。しかしながら、その作用機序は、詳細には解明されていない。本発明の組成物は、TRPVリガンドを含有することを特徴とする。本発明におけるTRPVリガンドは、TRPVに直接的又は間接的に作用するリガンドであれば、特段の限定なく適応出来る。前記TRPVリガンドの内、より好ましいものとしては、TRPV4に特異的に作用するリガンドが好適に例示出来る。また、TRPV、取り分け、TRPV4に作用するリガンドとしては、アゴニスト、アンタゴニスト、パ−シャルアゴニスト、インバ−スアゴニスト等のリガンドが好適に例示出来るが、これらの内、好ましいものとしては、アゴニスト、パ−シャルアゴニスト等の受容体を活性化する作用を有するリガンドが好ましい。前記の直接的又は間接的なTRPV活性化作用を有するリガンドは、細胞間脂質及び表皮細胞内におけるカルシウムイオン濃度を調整し、皮膚バリア機能を向上させる。また、本発明においては、TRPV4活性化作用を有するリガンドは、TRPV4に対し直接的又は間接的に作用することによりTJ及び/又はAJの形成促進作用を発揮し、皮膚バリア機能を向上させる。このため、TRPV4活性化作用を介しTJ及び/又はAJ形成促進作用を発揮する物質、若しくは、TRPV4活性化作用とTJ及び/又はAJ形成促進作用を有する成分を組み合わせることにより、相加又は相乗的な皮膚バリア機能向上作用が発現することが期待される。
【0013】
本発明の皮膚バリア機能向上作用を有する成分の鑑別方法におけるTRPVの活性化作用の評価方法としては、TRPVの活性化作用が評価可能な方法であれば、特段の限定なく適応することが出来るが、特に、細胞内カルシウムイオン濃度を指標としたTRPVの活性化作用の評価方法が好ましい。また、前記TRPVの活性化作用の評価方法の内、TRPV4の活性化作用を評価する方法が好ましい。これは、TRPV4が、表皮細胞に存することが確認されており、皮膚バリア機能への関与が期待されるためである。前記TRPVの活性化作用を評価する方法の内、さらに好ましいものとしては、TRPV4の発現が確認された細胞、より好ましくは、TRPV4を過剰発現した細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を指標としてTRPV4の活性化作用を判別する方法が好ましい。TRPV4の活性化作用を判別するための指標となる細胞内カルシウムイオン濃度を測定する方法としては、細胞内のカルシウムイオン濃度を測定する方法であれば特段の限定なく適応することが出来るが、操作の簡便性、測定感度及び精度などの面から、例えば、Sokabe T, Tsujiuchi S, Kadowaki T, Tominaga M.: Drosophila painless is a Ca2+-requiring channel activated by noxious heat.: J Neurosci., 2008 Oct 1;28(40):9929−38に記載のカルシウムイメ−ジング法又はパッチクランプ法が好ましい。
【0014】
本発明のTRPV活性化作用を有する成分を評価するために用いる細胞としては、TRPV発現が確認されている細胞であれば、特段の限定なく適応することが出来るが、測定感度及び精度の面から、TRPV過剰発現細胞を使用することがより好ましい。特に、TRPV1過剰発現細胞の作製に関しては、例えば、特開2009−082053号公報に記載の方法に従い、また、TRPV4過剰発現細胞の作製に関しては、前記方法を基に、後記の方法によりTRPV4過剰発現細胞を作製することが出来る。
【0015】
本発明におけるTRPV4活性化作用の評価に使用するTRPV4の発現が確認されている細胞に関しては、TRPV4を発現している細胞であれば特段の限定なく適応出来、より好ましいものとしては、TRPV4発現ベクタ−を宿主細胞に導入することによりTRPVを過剰発現させた細胞が好ましい。また、TRPV4を過剰発現させる宿主細胞としては、細菌の細胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられ、より好ましくは、HEK293細胞、CHO細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞等が好適に例示出来る。前記宿主細胞としては、TRPV4発現ベクタ−を取り込み、効率的にTRPV4が発現され、且つ、培養が容易であることが好ましい。また、TRPV4発現ベクタ−の作製においては、TRPV4をコ−ドするcDNAであれば特段の限定なく使用することが出来、より好ましいものとしては、哺乳動物細胞用ベクタ−であるpcDNA3(インビトロジェン社製)にTRPV4をコ−ドした核酸をライゲ−トしたものが好適に例示出来る。前記TRPV4をコ−ドした核酸としては、全ての塩基配列をコ−ドしたものを、例えば、m-RNAを抽出し、これに逆転写酵素を作用させcDNAとしたものを使用することも出来るし、TRPV4主要機能をコ−ドした部分のみを適切なプライマ−を選択し、PCRにより増幅させて、これを用いてライゲ−トすることも出来る。特に好ましいものとしては、「配列表1に示すオリゴヌクレオチドが例示出来、かかる配列のオリゴヌクレオチドは、配列番号2(配列表2)と配列番号3(配列表3)のプライマーを用いて抽出されたDNA或いは、cDNAをPCR反応に付すことにより、得ることができる。
【0016】
本発明のTRPV活性化作用の評価に使用することが出来る前記TRPV4を過剰発現する細胞は、当該細胞におけるTRPV4の機能発現、蛋白質レベルでの発現、蛍光物質の共導入などを指標とし、選択することが出来る。前記TRPV4をコ−ドする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞の選択には、適切な選択培地を用いることが出来る。例えば、DMEMやRPMI培地にFBS等の増殖因子を加えたものなどが好適に例示出来る。
【0017】
前記TRPV4を過剰発現する細胞の培養に用いられる培地としては、当該TRPV4を過剰発現する細胞が生育するのに適した成分、例えば、グルコ−ス、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質)、血清(例えば、FBS、FCSなど)、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを成分とする培地であればよい。前記培地は、市販されている培地であってもよい。前記TRPV4を過剰発現する細胞の培養に用いられる培地としては、かかる細胞に適した培地であればよく、特に限定されないが、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地などが挙げられる。例えば、用いられる宿主細胞がHEK293細胞である場合、高グルコ−ス及び10質量%FBS含有DMEM培地などが用いられる。
【0018】
本発明におけるTRPVリガンドは、TRPV、取り分け、表皮細胞に存在するTRPV4を活性化することにより、TJ及び/又はAJの形成を促進することにより皮膚バリア機能向上作用を発現する。本発明におけるTRPV(特に、TRPV4)と細胞間接着構造体のTJ及び/又はAJとの皮膚バリア機能向上に関する相互作用は、以下の試験結果により確認される。即ち、TRPV4リガンドである4α−PDD(4α−ホルボ−ルエステル)によるTRPV4活性化により、TJ及び/又はAJ形成促進が確認された。即ち、TRPV4活性化作用を有する成分は、TJ及び/又はAJ形成促進により皮膚バリア機能向上作用を奏しているということが出来る。
【0019】
本発明のTRPVリガンドによるTJ及び/又はAJの形成促進作用を評価する方法としては、例えば、非特許文献3に記載された3次元表皮モデル又は生体皮膚を用いたビオチン標識拡散トレ−サ−による細胞間物質移動確認法、培養細胞シ−トを用いたFITC-dextran細胞間物質透過試験法、フリ−ズフラクチャ−法によるTJストランド観察によるストランドの出来具合で機能を類推する方法、更には、特開2007−174931号公報に記載の経上皮細胞電気抵抗値(TER:transepithelical electronic resistance)を測定する方法等が例示出来るが、操作の簡便性や測定精度等の面から、FITC-Dextran透過性試験法、経上皮細胞電気抵抗値(TER値)を測定する方法が好適に例示出来る。
【0020】
かかるTJ及び/又はAJの形成促進作用の評価方法によれば、支持体上で構築した表皮角化細胞層膜における細胞間物質移動の程度を、細胞間物質透過性又は経上皮細胞電気抵抗値(TER値)の測定などにより確認し、細胞間物質移動の程度が、被験物質非存在下に比して、被験物質存在下で抑制された場合、表皮角化細胞層膜のTJ及び/又はAJが緻密に構築されていると判断され、これによってin vivoの皮膚に適応した場合には、角層又は表皮顆粒層の物質透過抑制作用が向上し、以って、皮膚バリア機能が向上されると判定される。
【0021】
<試験例1:TRPVリガンドを用いたTER値測定試験>
凍結正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社製)を解凍し、0.15mM−カルシウムイオン含有培養液(Humedia−KG2:倉敷紡績株式会社製)にて、37℃、5%二酸化炭素気流下にて培養した。Millicell Tissue Culture Plate(ミリポア社製)にトランズウェル(Corning社製、3460-Clear)をセットし、上層0.5 mL、下層1.5 mLの前記培養液を入れ、前記トランズウェル上層に前記NHEKを2.5×10cells/cmで播種し、37℃、5%二酸化炭素気流下にて24時間培養した。前記NHEKが120%コンフルエントまで増殖したことを確認し、1.5mM 塩化カルシウム添加Humedia−KG2培地に交換し、33℃、5%二酸化炭素気流下にて48〜72時間培養して、表皮角化細胞層膜を構築した。その後、10μM 4α−PDD(SIGMA社製)、3mM Camphor(control、SIGMA社製)又はメタノ−ル(vehicle、和光純薬株式会社製)をそれぞれ添加した1.5mM 塩化カルシウム添加Humedia−KG2培地に交換し、TRPV4/TRPV3不活性温度領域である24℃、5%二酸化炭素気流下にて培養した。各物質を含有する培地に交換後、0、3、6、9時間後にTER値を測定した。TER値は、サンプルをクリ−ンベンチ内で30分間馴化した後、Millicell ERS(Millipore会製)を用いて測定を行った。結果を図1に示す。
【0022】
皮膚バリア機能に深く関与する表皮細胞においては、TRPV3及びTRPV4の特異的な発現が確認されている。図1の結果より、TRPV4不活性温度領域において、TRPV4リガンドである4α−PDD存在下で培養したNHEKは、非存在下で培養したNHEKに比して、統計学的に有意なTER値の上昇が確認された。一方、TRPV3リガンドのCamphor存在下で培養したNHEKにおいては、非存在下に比して、TER値の上昇は認められなかった。TER値の上昇、即ち、TJ及び/又はAJ形成促進による皮膚バリア機能向上作用は、TRPV4の特異的な活性化により発揮されることが示された。
【0023】
<試験例2:TRPVリガンドを用いたFITC−Dextran物質透過試験>
前記のTER値測定試験において、測定に使用した培地交換後6時間後のサンプルの培地を除去した。前記トランズウェル上層に0.5 mLのApical Buffer(1.45mM CaCl、10mM glucose、1 mg/mL FITC−Dextranを含有するPBS)、下層に1.5 mLのBasolateral Bufer(1.45mM CaCl、10mM glucoseを含有するPBS)を添加し、3時間培養した。Basolateral Bufferを回収した後、96well plateにApical Bufferにより標準曲線群(100 mg/mL〜0 mg/mL)を作製する。回収したBasolateral Bufferを96wellに200mLずつ添加した後、分光光度計(励起485/535nm)にて測定した。結果を図2に示す。
【0024】
図2の結果より、TRPV4温度不活性化領域において、TRPV4リガンドである4α−PDD存在下で培養したNHEKは、非存在下で培養したNHEKに比して、統計学的に有意なFITC−Dextran透過量の抑制が確認された。一方、TRPV3リガンドのCamphor存在下においては、FITC−Dextran透過量の抑制は認められなかった。FITC−Dextran透過量の抑制、即ち、TJ及び/又はAJの形成促進による皮膚バリア機能向上作用は、TRPV4の特異的な活性化により発揮されることが示された。
【0025】
<試験例3:si−RNA トランスフェクション試験>
凍結正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社製)を解凍し、サブコンフルエントになるまで培養した後、トリプシンEDTAにより剥離、回収し、6 well plateに7.5×10cells/wellで播種し、37℃、5%二酸化炭素気流下にて2時間培養した。また、以下の手順に従い、si−RNAトランスフェクション(volumeは1 well分で記載)を行った。500μL Opti-MEMに、5μLの10μM si−RNA(On TargetTplus SMARTpool L-004195-00-0005、Human TRPV4、NM 147204、Target Sequence:配列表4、配列表5、配列表6及び配列表7の配列を有するsi−RNAの混合物)を加え、次に15μLのHiperFectを加えてボルテックスにより混合した後、室温で10分間静置した。ウェルに滴下し緩やかに拡散させた後、37℃、5%二酸化炭素気流下で24時間培養した後、1.5mM 塩化カルシウム含有−Humedia−KG2培地に交換し、経時的にTER値及びFITC-Dextran物質透過性を測定した。また、si−RNAによるTRPV4ノックダウン効率は、Hs TRPV4 1 SG QuantiTect Primer Assay(Qiagen: QT00077217、配列非公開)をプライマ−として、RT-PCRを行い、TRPV4 mRNA発現量を求め、これにより確認した。結果を図3〜図6に示す。尚、これらのsi−RNAのトランスフェクション試験は、市販のデザイン済みsi−RNA ON−TARGET plus SMART pool Human TRPV4(Thermo scientific社製)を使用し、行った。
【0026】
図3及び図4の結果より、NHEKにおけるsi−RNAトランスフェクションにより、極めて高いノックダウン効率でTRPV4 mRNAの発現を抑制し、その抑制作用は、TRPV4に特異的であった。また、図5及び図6の結果により、NHEKに比して、TRPV4をノックダウンしたNHEK(TRPV4/KD)は、統計学的に有意なTER値の抑制が確認された。さらに、TRPV4/KDは、統計学的に有意なFITC-Dextran透過性の増加が確認された。
【0027】
前記の試験1〜3の結果は、TRPV、取り分け、TRPV4を活性化することにより、TJ及び/又はAJの形成が促進され、皮膚バリア機能が向上することを示している。この様に、TRPVリガンド作用を有する成分は、TJ及び/又はAJの形成促進作用を介し、皮膚バリア機能向上作用を発揮し、皮膚バリア機能改善剤として有用である。
【0028】
本発明のTRPVリガンドとしては、単純な化学物質、動植物由来の抽出物が好適に例示出来、かかる成分を唯1種のみ含有することも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。ここで、本発明の動植物由来の抽出物とは、動物又は植物由来の抽出物、具体的には、抽出物自体、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。かかる成分の内、好ましいものとしては、ミソハギ科サルスベリ属、アカネ科カギカズラ属に属する植物より得られる抽出物が好適に例示出来、より好ましくは、ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリ、アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルより得られる植物抽出物が好適に例示出来る。ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリは、熱帯アジア原産の常緑小高木であり、日本においては、沖縄及び九州などで多く栽培されている。また、オオバナサルスベリの葉を糖尿病薬に用いるほか、葉を乾燥させることによりバナバ茶を製造し、漢方、サプリメント等として使用されている。アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルは、マラッカ海峡沿岸地方を原産とする植物であり、ガンビ−ルの葉より得られる乾燥水製エキスをアセンヤク(阿仙薬)と呼び、抗線溶活性作用、抗血栓作用、抗腫瘍作用などが知られている。
【0029】
本発明における前記の植物より得られる抽出物は、日本においては、自生又は生育された植物、漢方生薬原料等として販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善株式会社などの植物抽出物を取り扱う会社より販売されている市販の抽出物を購入し、使用することも出来る。前記植物より得られる抽出物の作製に用いる植物部位には、特段の限定がなされず、全草を用いることが出来るが、勿論、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位のみを使用することも可能である。抽出に際し、植物体などの抽出に用いる部位は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物製造においては、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去することが出来る。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−などで分画精製し、所望の抽出物を得ることが出来る。
【0030】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ルなどのアルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル、ポリプロピレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。
【0031】
本発明のTRPVリガンドは、皮膚外用剤全量に対し、0.00001質量%〜10質量%、より好ましくは、0.0001質量%〜5質量%、さらに好ましくは、0.001質量〜3質量%含有させることが好ましい。これは、TRPVリガンドの含有量が、少なすぎるとTRPV活性化作用、並びに、TRPV活性化によるTJ及び/又はAJの形成促進作用を介した皮膚バリア機能向上作用が発揮されず、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。また、かかる成分は、TRPV、取り分け、TRPV4が存在する表皮細胞への作用、標的部位への集積性及び選択性に優れ、高い安全性及び安定性を有するために、医薬、食品、化粧料などへの使用が好ましい。
【0032】
<本発明のTRPVリガンドを含有する皮膚外用剤>
本発明の皮膚外用剤は、必須成分としてTRPVリガンドを含有することを特徴とする。本発明におけるTRPVリガンドは、TRPVに直接的又は間接的に作用するリガンドであれば、特段の限定なく使用することが出来る。前記TRPVリガンドの内、より好ましいものとしては、TRPV4リガンドが好適に例示出来る。また、TRPV、取り分け、TRPV4に作用するリガンドとしては、アゴニスト、パ−シャルアゴニスト等の受容体を活性化する作用を有するリガンドが好ましい。本発明のTRPVリガンドは、単純な化学物質、動植由来の抽出物とその分画生精製物などの混合精製物のいずれでもよい。本発明の皮膚外用剤には、前記TRPVリガンドを、唯1種含有させることも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。本発明の皮膚外用剤は、TRPVリガンドを配合することにより、TRPVを活性化させ、TJ及び/又はAJの形成を促進し、皮膚バリア機能向上効果を発揮する。
【0033】
本発明の皮膚外用剤においては、前記必須成分以外に、通常化粧料で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0034】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理し、ロ−ション、乳液、エッセンス、クリ−ム、パック化粧料、洗浄料などに加工することにより、本発明の皮膚外用剤は製造できる。皮膚に適応させることの出来る剤型であれば、いずれの剤型でも可能であるが、有効成分が皮膚に浸透して効果を発揮することから、皮膚への馴染みの良い、ロ−ション、乳液、クリ−ム、エッセンスなどの剤型がより好ましい。
【0035】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0036】
<本発明のTRPVリガンド作用を有する植物抽出物の製造方法>
本発明の植物抽出物(ミツハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリ、アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルより得られる抽出物)は、医薬部外品原料規格2006に従い製造することも出来るし、丸善株式会社等により市販されている植物抽出物を購入し、使用することも出来る。本発明においては、丸善株式会社より購入した植物抽出物を使用した。
【実施例2】
【0037】
<試験例1:ヒトTRPV4を発現する細胞の作製>
下記の実験手順に従い、ヒトTRPV4発現細胞を作製した。ヒトTRPV4をコ−ドするcDNA〔配列表1:(GenBankアクセッション番号:NM 021625)の90bp〜2705bpのポリヌクレオチド〕を、配列表2及び配列表3のオリゴヌクレオチドをプライマ−として、PCRを行い、増幅し、哺乳動物細胞用ベクタ−である商品名:pcDNA3(インビトロジェン社製)のMCSのBamHIサイト及びXhoIサイトに挿入し、ヒトTRPV4発現ベクタ−を得た。得られたヒトTRPV4発現ベクタ−(0.5μg相当量)とDsRed(0.1μg相当量)、プラスリ−ジェント(商品名、カタログ番号:11514−015、インビトロジェン社製)6μL、OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021、インビトロジェン社製)100μLとを混合し、混合物1を得た。また、リポフェクタミン(登録商標、カタログ番号:18324−012、インビトロジェン社製) 4μLとOPTI−MEM 100μLとを混合し、混合物2を得た。一方、HEK293細胞(5×10個/直径35mmシャ−レ)を10質量%FBS含有DMEM培地にて、37℃、5%二酸化炭素気流下にて70%のコンフルエントまで培養した。その後、得られた細胞に、前記混合物1と混合物2との混合物を添加した。これにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPV4発現ベクタ−を導入し、TRPV4発現細胞を得た。また、同様の方法で、ヒトTRPV4を挿入していないベクタ−を作製し、これをHEK293細胞に導入してMock 細胞を作製した。
【実施例3】
【0038】
<TRPV活性化作用評価1:本発明における植物抽出物のカルシウムイメ−ジング法によるTRPV4活性化作用評価>
本発明の植物抽出物を、溶液A〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl、2mM CaCl、10mM グルコ−ス、10mM HEPES、(pH7.4)〕に添加し、試験液を作製した。各試験液中における植物抽出物の濃度は、0.1質量%とした。前記の実施例2に従い作製されたTRPV4発現細胞もしくはMock細胞を、1〜20μg/mlのFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を含む10%FBS含有DMEM培地中で60〜90分間インキュベ−ション(37℃、5%二酸化炭素気流下)して、TRPV4発現細胞もしくはMock細胞にFURA 2−AMを導入した。FURA 2−AM導入後のTRPV4発現細胞もしくはMock細胞を、カルシウムイメ−ジング装置倒立顕微鏡のチャンバ−(RC-26G; Warner Instruments)に入れ、溶液Aにて洗浄した。続いて、前記試験液をチャンバ−に入れて循環させながら、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度とを測定した。その後、前記試験液を用いた場合の励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比(340nmでの蛍光強度/380nmでの蛍光強度)を算出した。細胞内カルシウムイオン濃度の変化(カルシウムイオン濃度の増加)に対する被験物質による亢進作用は、IpLabソフトウェア(Scanalytics社製)により解析した。また、陽性対照としてTRPV4リガンドである4α−ホルボ−ルエステル(4α-PDD)を用いて同様の評価を実施した。結果を図7〜図9に示す。
【0039】
図7〜図9の結果より、陽性対照の4α-PDDは、顕著な細胞内カルシウムイオン濃度の増加が認められ、この評価系の客観性が確認された。また、本発明の植物抽出物は、TRPV4発現細胞において顕著な細胞内カルシウムイオン濃度の増加が確認された。一方、Mock細胞においては確認されなかった(図10及び11)。さらに、カルシウムイオンフリ−の溶液B〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl、5mM EGTA、10mM グルコ−ス、10mM HEPES、(pH7.4)〕に本発明の植物抽出物としてアセンヤク抽出物を添加したところ、TRPV4発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度の変化は確認されず(図12及び13)、Mock細胞においても確認されなかった(図14及び図15)。このことから、アセンヤクエキスによる細胞内カルシウムイオン濃度の増加作用は、TRPV4を介した細胞外からのカルシウムイオン流入であることがわかる。
【実施例4】
【0040】
<TJ及びAJの形成促進作用評価1:本発明における植物抽出物のTER値測定>
前記の試験例1に記載の試験方法に従い、本発明の植物抽出物のTER値を測定した。結果を図16に示す。図16において、縦軸は、TER値(Ωm)、横軸は、測定時間を表す。図16の結果より、本発明の植物抽出物は、顕著なTER値の増加を示す、TJ及び/又はAJの機能促進作用が認められた。
【実施例5】
【0041】
<TJ及びAJの形成促進作用評価2:本発明における植物抽出物のFITC-Dextran物質透過試験>
前記の試験例2に記載の試験方法に従い、本発明の植物抽出物のFITC-Dextran物質透過性を評価した。結果を図17に示す。図17の結果より、本発明の植物抽出物は、顕著なFITC-Dextran物質透過性の抑制が認められ、TJ及び/又はAJの形成促進作用が認められた。
【0042】
図16及び図17に示した結果より、本発明の植物抽出物は、前記のTJ及び/又はAJの形成促進作用評価(TER値測定及びFITC-Dextran物質透過試験)において、共にTJ及びAJ形成促進作用を示した。前記結果より、本発明の植物抽出物は、TRPV活性化作用、並びに、TJ及び/又はAJの形成促進作用を有し、TRPV活性化作用を介するTJ及び/又はAJの形成促進作用による皮膚バリア機能改善効果を有する。
【実施例6】
【0043】
<本発明の組成物>
<本発明の皮膚バリア機能向上作用を有する成分を含有する組成物(皮膚外用剤)の製造>
表1に示す処方に従って、本発明の皮膚バリア機能向上作用を有する成分を含有する組成物(皮膚外用剤)であるロ−ション化粧料を作製した。即ち、処方成分を80℃で攪拌し、可溶化し、しかる後に、攪拌下冷却して、ロ−ション化粧料(化粧料1又は化粧料2)を得た。また、同様の操作を行い本発明の組成物(皮膚外用剤)の「皮膚バリア機能向上作用を有する成分」を「水」に置換した比較例1も作製した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【実施例7】
【0046】
<本発明の皮膚外用剤の肌荒れ改善試験>
パネラ−を使用し、化粧料1、化粧料2、比較例1に付いて、テ−プストリッピングによって作成した肌荒れモデルでの、肌荒れ改善作用を評価した。即ち、左右の前腕に3cm×5cmの部位を4つずつ作成し、テ−プストリッピングを各部位15回行い、経皮的散逸水分量(TEWL)をインテグラル社製の「テヴァメ−タ−」で計測した。その後、一日一度検体を50μL塗布し、この作業を6日間続け、7日目に再度TEWLを計測した。最初の日のTEWL値から7日目のTEWL値を減じ、最初の日のTEWL値で除し、100を乗じてTEWL改善率(%)を算出した。n数は15とした。結果を表3に示す。これより、本発明の皮膚外用剤は肌荒れ改善作用に優れることがわかる。
【0047】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤に応用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミソハギ科サルスベリ属に属する植物、アカネ科カギカズラ属に属する植物より得られる抽出物よりなる温度感受性受容体(TRPV:Transient receptor potential vanilloid)リガンド。
【請求項2】
前記ミソハギ科サルスベリ属に属する植物、アカネ科カギカズラ属に属する植物が、ミソハギ科サルスベリ属オオバナサルスベリ、アカネ科カギカズラ属ガンビ−ルであることを特徴とする、請求項1に記載のTRPVリガンド。
【請求項3】
前記TRPVが、TRPV4であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のTRPVリガンド。
【請求項4】
TRPVリガンドの作用が、TRPV4アゴニスト作用であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のTRPVリガンド。
【請求項5】
TRPVリガンドは、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ:Tight-junction)及び/又はアドヘレンスジャンクション(AJ:Adherens-junction)の形成促進作用を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のTRPVリガンド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のTRPVリガンドを含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
【請求項7】
皮膚バリア機能改善用であることを特徴とする、請求項6に記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
化粧料、医薬部外品であることを特徴とする、請求項6又は7の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
ミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属に属する植物の抽出物を含有する、皮膚バリア機能改善のための化粧料の製造方法であって、ミソハギ科サルスベリ属、又は、アカネ科カギカズラ属の植物の植物体を極性溶媒で抽出し、所望により、溶媒除去、分画精製を行い、得られた抽出物のTRPVに対するリガンド作用を調べ、リガンド作用を有する抽出物、その溶媒除去又はその分画精製物を抽出候補として選択し、かかる抽出物候補に関し、表皮のTJ及び/又はAJへの作用を調べ、TJ及び/又はAJの形成促進作用を有するものを選択し、化粧品に配合することを特徴とする、皮膚バリア機能向上のための化粧料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−93830(P2011−93830A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248016(P2009−248016)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】