説明

皮膚中濃度増加剤

【課題】安価で工業的に大量生産が可能な、生理活性成分の皮膚中濃度増加剤を提供する。
【解決手段】HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステル又はHLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする、生理活性成分の皮膚中濃度増加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に作用する生理活性成分の皮膚中濃度増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に作用して生理活性を示す成分としては、ビタミンC又はその誘導体、ビタミンE又はその誘導体、ビタミンA又はその誘導体、グリチルリチン酸又はその誘導体、トラネキサム酸又はその誘導体等の種々の保湿剤、種々の美白剤、抗炎症剤、抗にきび剤、抗しわ剤、抗酸化剤等の成分が知られており、これらは医薬部外品や化粧品に配合されている(非特許文献1)。これらの生理活性成分は、皮膚の細胞に作用するため、主に外用により局所的に用いられる。従って、皮膚に作用する成分については、皮膚中濃度を増加させる必要がある。生理活性成分の皮膚中濃度を増加させる成分については、セラミド(非特許文献3)、リン脂質(非特許文献4)が知られているが、これらはいずれも高価なものであり、工業的に大量生産するにはコストが高かった。
【0003】
一方、医薬品分野等における薬剤の効果を高めるために経皮吸収性の検討がなされ、中鎖脂肪酸モノグリセリドを用いる方法(非特許文献2)、モノグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸を用いる方法(特許文献1)、グリセロールモノラウレートを用いる方法(特許文献2)が見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO95/04551号公報
【特許文献2】特開昭63−227520号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】新化粧品ハンドブック、2006
【非特許文献2】Chem. Pharm. Bull., 37(5), 1375-1378, 1989
【非特許文献3】skin pharmacol physiol,2009,22,22-30
【非特許文献4】J. soc. cosmet. chem. jpn,27(3),216-226,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の経皮吸収性の検討は、いずれも皮膚を透過した後、どれだけの量が血液中に移行するのかを測定し、その血中移行性(皮膚透過性)を指標に行われており、これらの薬物が皮膚中にどれだけ残留しているのかについては全く検討されていない。
一方、皮膚に作用して生理活性を示す成分は、高い皮膚中濃度を保つことによって、十分な生理活性を示す。よって、従来の血中移行性による指標は直接採用できるものではない。
従って、本発明の課題は、安価で工業的に大量生産が可能な、生理活性成分の皮膚中濃度増加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究をした結果、特定のHLBを有するモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルが皮膚に作用する生理活性成分の皮膚中濃度を増加させることを見出し本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステル又はHLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする、生理活性成分の皮膚中濃度増加剤を提供するものである。
また本発明は、上記の皮膚中濃度増加剤と生理活性成分とを含有する皮膚外用剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚中濃度増加剤は、生理活性成分に対して優れた皮膚中濃度増加機能を有し、これを配合すれば優れた皮膚中濃度増加作用を示す皮膚外用剤組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モノグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。
【図2】ジグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。
【図3】ポリグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。
【図4】モノグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。
【図5】モノグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。図5中、TXAはトラネキサム酸を示し、C10Gは、モノカプリン酸グリセリルを示す。
【図6】モノグリセリン脂肪酸エステルによる皮膚中濃度増加効果を示す。図6中、APMはアスコルビン酸リン酸マグネシウムを示し、C8Gは、モノカプリル酸グリセリルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膚中濃度増加剤は、皮膚を通過して血中に移行する速度を増加させるのではなく、皮膚に適用された生理活性成分の皮膚中濃度を増加させるものであり、その有効成分は、HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステル又はHLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0012】
本発明で用いるモノグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、9〜12であり、ジグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、8〜11であり、特に10〜11が好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、11〜14であり、特に11が好ましい。またポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの平均重合度は3以上であり、3〜12が好ましく、4〜10が特に好ましい。
【0013】
これらのモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、飽和でも不飽和でもまた直鎖でも分岐鎖でもよいが、その炭素数は8〜18が好ましく、モノグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は8〜12が特に好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステルの場合は12〜18が特に好ましく、12〜14がさらに好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合は12〜18が特に好ましく、16〜18がさらに好ましい。また、構成脂肪酸は不飽和脂肪酸よりも、飽和脂肪酸が好ましく、直鎖の飽和脂肪酸であるのが特に好ましい。特に好ましい構成脂肪酸は、モノグリセリン脂肪酸エステルの場合は、カプリル酸、カプリン酸又はラウリン酸であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの場合は、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合は、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸である。
【0014】
具体的なモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルの例としては、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、ラウリン酸ジグリセリル、ミリスチン酸ジグリセリル、ステアリン酸ジグリセリル、ラウリン酸デカグリセリル、ステアリン酸テトラグリセリルとパルミチン酸テトラグリセリルの混合物等が挙げられる。このうち、特に好ましいものとしてモノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノカプリル酸グリセリル、ラウリン酸ジグリセリル、ミリスチン酸ジグリセリル、又はステアリン酸テトラグリセリルとパルミチン酸テトラグリセリルの混合物を挙げることができ、本発明の皮膚中濃度増加剤はこれらを好適に用いることができる。
【0015】
これらのモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種又は2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、皮膚中濃度増加作用の点から、生理活性成分1質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましく、さらに0.05〜15質量部が好ましく、特に0.1〜10質量部が好ましい。
【0016】
本発明の皮膚中濃度増加剤の対象となる生理活性成分は、皮膚作用性生理活性成分であれば、特に制限されないが、水溶性の成分であるのが皮膚中濃度増加作用の点で好ましい。
【0017】
本発明に用いられる生理活性成分の例としては、保湿剤、美白剤、抗にきび剤、抗しわ剤、抗炎症剤、抗酸化剤等が挙げられるが、具体的には、ビタミンA、B、C、D、E、P、U等のビタミン類、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸塩、トラネキサム酸又はその塩等の美白剤、アミノ酸、糖、グリセリン等の保湿剤、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸、アラントイン、トラネキサム酸又はその塩等の抗炎症剤及び/又はそれらの誘導体などが挙げられる。さらに好ましいものとしてアスコルビン酸、アスコルビン酸グルコシド、グリチルリチン酸ジカリウム、アスコルビン酸リン酸マグネシウム(APM)、トラネキサム酸又はその塩、若しくはその誘導体を例示することができる。
【0018】
本発明の皮膚中濃度増加剤と皮膚作用性生理活性成分とを配合すれば、当該生理活性成分の皮膚中濃度が増加する皮膚外用剤組成物が得られる。当該皮膚外用剤組成物中の生理活性成分と皮膚中濃度増加剤との含有比は、前記と同様である。
モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルの皮膚外用剤組成物中の含有量は、0.01〜10質量%(以下、単に「%」という)が好ましく、特に0.1〜5%が好ましい。
【0019】
本発明の皮膚外用剤組成物の形態は、特に限定されず、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の頭髪用製品、入浴剤や石鹸などの浴用化粧品、ファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウなどのメーキャップ化粧料、日焼け止めなどの特殊化粧品等、種々の形態とすることができる。当該皮膚外用剤組成物には、前記成分以外に、界面活性剤、油脂成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、アミノ酸、水溶性高分子、発泡剤、顔料、植物抽出物、乳酸菌培養物又はその加工物などを配合することができる。なお、本発明の皮膚外用剤組成物において、組成物自体がゲル化することを防止するためにコレステロール等のステロール類を添加してもよい。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
〔試験例1〕
(試料の作成)
1%モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル及び0〜0.75%コレステロールとなるように試験管にそれぞれ秤量し、精製水を投入した。このものを室温〜70℃の条件下にて超音波分散(Bransonsonifer 250)した(A液)。
0.15%ウラニンとなるように20mMリン酸塩(pH=7.6)及び120mM塩化ナトリウムとなる溶液で溶解した(B液)。
A液とB液を等量混合し試料とした。最終濃度で0.075%ウラニン、0.5%グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルとなる。
【0022】
(実験方法)
ヘアレスラット(WBN/ILA−HT系、8週齢、オス)の腹部の皮膚を摘出し、真皮側の脂肪を取り除いた後−80℃にて凍結保存した。本実験ではこの凍結した皮膚を室温にて15分以上解凍し使用した。
ヘアレスラット皮膚を32℃の水を循環させた、レシーバーセル体積6.5cm3、有効拡散面積1.77cm2のフランツ型拡散セル(水平型)にセットした。真皮側のレシーバーセル及び角層側のドナーセルに10mMリン酸塩(pH=7.6)及び60mM塩化ナトリウムとなる溶液(溶液C)を満たし、1時間水和を行った後ドナーセルの溶液を取り除き試料を投入した。
【0023】
(皮膚中濃度の測定)
試料を投入してから22時間後の皮膚を取り出し、0.5mLの溶液Cで皮膚を洗浄した後、脱脂綿でふき取った。この作業を表裏3回行った。この皮膚を0.385cm2切り取りデシケータ内で乾燥し重量を測定し、5mLの等張リン酸緩衝液(PBS)にて48時間、室温で抽出しウラニンを定量した。検出されたウラニン量(g)/皮膚重量(g)を皮膚中濃度とした。
【0024】
(HLBの算出)
有機概念図より下記式にて算出し(新化粧品ハンドブック、2006)、さらに小数第1位を四捨五入した値を本発明におけるHLBとする。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
【0025】
(ウラニンの定量)
96ウェル(Black)プレートに400mMリン酸バッファー(pH=8.6)50μl、および抽出液270μlを滴下し、励起波長485nm、検出波長535nmにて蛍光強度(Molecular Devices社製、SPECTRA MAX GEMINI)を測定した。
【0026】
(結果)
モノグリセリン脂肪酸エステル(MG)を用いた試験結果を表1及び図1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1及び図1の結果から、HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステルは、ウラニンの皮膚中濃度を顕著に増加させることが示された。
【0029】
ジグリセリン脂肪酸エステル(DG)を用いた試験結果を表2及び図2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2及び図2の結果から、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステルはウラニンの皮膚中濃度を顕著に増加させることが示された。
【0032】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(PG)を用いた試験結果を表3及び図3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3及び図3の結果から、HLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルはウラニンの皮膚中濃度を顕著に増加させることが示された。
【0035】
〔試験例2〕
(試料の作成)
1%モノカプリン酸グリセリル及び0〜0.75%コレステロールとなるように試験管にそれぞれ秤量し、精製水を投入した。このものを室温〜70℃の条件下にて超音波分散(Bransonsonifer 250)した(D液)
6.0%アスコルビン酸リン酸マグネシウム(APM)となるように20mMリン酸塩(pH=7.6)、120mM塩化ナトリウム及び0.2%イミダゾールとなる溶液で溶解した(E液)。
D液とE液を等量混合し試料とした。最終濃度で3%APM、0.5%モノカプリン酸グリセリルとなる。
【0036】
(実験方法)
ヘアレスラット(WBN/ILA−HT系、8週齢、オス)の腹部の皮膚を摘出し、真皮側の脂肪を取り除いた後−80℃にて凍結保存した。本実験ではこの凍結した皮膚を室温にて15分以上解凍し使用した。
ヘアレスラット皮膚を32℃の水を循環させた、レシーバーセル体積6.5cm3、有効拡散面積1.77cm2のフランツ型拡散セル(水平型)にセットした。真皮側のレシーバーセル及び角層側のドナーセルに10mMリン酸塩(pH=7.6)、60mM塩化ナトリウム及び0.1%イミダゾールとなる溶液(溶液F)を満たし、1時間水和を行った後ドナーセルの溶液を取り除き試料を投入した。
【0037】
(皮膚中濃度の測定)
試料を投入してから22時間後の皮膚を取り出し、0.5mLの溶液Fで皮膚を洗浄した後、脱脂綿でふき取った。この作業を表裏3回行った。この皮膚を0.885cm3切り出し凍結乾燥させ、重量を測定し、5mLの等張リン酸緩衝液(PBS、0.1%イミダゾール入り)にて80℃にて20分加熱後、48時間、5℃にて抽出しAPMを定量した。検出されたAPM量(g)/皮膚重量(g)を皮膚中濃度とした。
【0038】
(HLBの算出)
有機概念図より下記式にて算出し(新化粧品ハンドブック、2006)、さらに小数第1位を四捨五入した値を本発明におけるHLBとする。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
【0039】
(アスコルビン酸リン酸マグネシウムの定量)
高速液体クロマトグラフィ(alliance Waters社製)を用い、下記の条件下で定量分析を行った。
移動相 :100mMリン酸バッファー(pH=2.05)
流量 :0.75mL/min
カラム温度 :30℃
検出波長(UV):238nm
カラム :Develosil RPAQUEOUS AR-3(4.6×250nm、野村化学社製)
【0040】
(結果)
試験結果を表4及び図4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4及び図4の結果から、HLBが10のモノグリセリン脂肪酸エステルであるモノカプリン酸グリセリルは、美白剤であるアスコルビン酸リン酸マグネシウムの皮膚中濃度を顕著に増加させることが示された。
【0043】
〔試験例3〕
(試料の作成)
1.0%モノカプリン酸グリセリル(C10G)となるように試験管にそれぞれ秤量し、精製水を投入した。このものを室温〜70℃の条件下にて超音波分散(Bransonsonifer 250)した(G液)。
10%トラネキサム酸(TXA)となるように20mMリン酸塩(pH=7.6)及び120mM塩化ナトリウムとなる溶液で溶解した(H液)。
G液若しくは精製水とH液を等量混合し試料とした。最終濃度で5%TXA、0若しくは0.5%モノカプリン酸グリセリルとなる。
【0044】
(実験方法)
ヘアレスラット(WBN/ILA−HT系、8週齢、オス)の腹部の皮膚を摘出し、真皮側の脂肪を取り除いた後−80℃にて凍結保存した。本実験ではこの凍結した皮膚を室温にて15分以上解凍し使用した。
ヘアレスラット皮膚を32℃の水を循環させた、レシーバーセル体積6.5cm3、有効拡散面積1.77cm2のフランツ型拡散セル(水平型)にセットした。真皮側のレシーバーセル及び角層側のドナーセルに10mMリン酸塩(pH=7.6)及び60mM塩化ナトリウムとなる溶液(溶液I)を満たし、1時間水和を行った後ドナーセルの溶液を取り除き試料を投入した。
【0045】
(TXAの定量)
高速液体クロマトグラフィ(alliance Waters社製)を用い、下記の条件下で定量分析を行った。
移動相 :90mMリン酸バッファー(pH=2.5):アセトニトリル=70:30
流量 :1.0mL/min
カラム温度 :40℃
検出波長(UV):210nm
カラム :CAPCELL PAK SCX(4.6×250nm、SHISEIDO)
【0046】
(皮膚中濃度の測定)
試料を投入してから22時間後の皮膚を取り出し、0.5mLの溶液Iで皮膚を洗浄した後、脱脂綿でふき取った。この作業を表裏3回行った。この皮膚を0.885cm2切り出し凍結乾燥させ、重量を測定し、4mLの等張リン酸緩衝液(PBS)を加え、48時間、5℃にて抽出しTXAを定量した。検出されたTXA量(g)/皮膚重量(g)を皮膚中濃度とした。
【0047】
(結果)
試験結果を表5及び図5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5及び図5から、HLBが10のモノグリセリン脂肪酸エステルであるモノカプリン酸グリセリル(C10G)は、抗炎症剤であり、美白剤でもあるトラネキサム酸(TXA)の皮膚濃度を顕著に増加させる作用を有する。
【0050】
〔試験例4〕
(試料の作成)
1.0%モノカプリル酸グリセリル(C8G)となるように試験管にそれぞれ秤量し、精製水を投入した。このものを室温〜70℃の条件下にて超音波分散(Bransonsonifer 250)した(J液)。
6%アスコルビン酸リン酸マグネシウム塩(APM)となるように、20mMリン酸塩(pH=7.6)、120mM塩化ナトリウムおよび0.2%イミダゾールとなる溶液で溶解した(K液)。
J液若しくは精製水とK液を等量混合し試料とした。最終濃度で3%APM、0若しくは0.5%C8Gとなる。
【0051】
(実験方法)
ヘアレスラット(WBN/ILA−HT系、8週齢、オス)の腹部の皮膚を摘出し、真皮側の脂肪を取り除いた後−80℃にて凍結保存した。本実験ではこの凍結した皮膚を室温にて15分以上解凍し使用した。
ヘアレスラット皮膚を32℃の水を循環させた、レシーバーセル体積6.5cm3、有効拡散面積1.77cm2のフランツ型拡散セル(水平型)にセットした。真皮側のレシーバーセル及び角層側のドナーセルに10mMリン酸塩(pH=7.6)、60mM塩化ナトリウムおよび0.1%イミダゾールとなる溶液(溶液L)を満たし、1時間水和を行った後ドナーセルの溶液を取り除き試料を投入した。
【0052】
(APMの定量)
高速液体クロマトグラフィ(alliance Waters社製)を用い、下記の条件下で定量分析を行った。
移動相 :100mMリン酸バッファー(pH=2.05)
流量 :0.75mL/min
カラム温度 :30℃
検出波長(UV):238nm
カラム :Develosil RPAQEUOU
S AR−3(4.6×250nm、野村化学社製)
【0053】
(皮膚中濃度の測定)
試料を投入してから22時間後の皮膚を取り出し、0.5mLの溶液Lで皮膚を洗浄した後、脱脂綿でふき取った。この作業を表裏3回行った。この皮膚を0.885cm2切り出し凍結乾燥させ、重量を測定し、5mLの等張リン酸緩衝液(PBS、0.1%イミダゾール入り)を加え、48時間、5℃にて抽出しAPMを定量した。検出されたAPM量(g)/皮膚重量(g)を皮膚中濃度とした。
【0054】
(結果)
試験結果を表6及び図6に示す。
【表6】

【0055】
表6及び図6の結果から、HLBが12のモノグリセリン脂肪酸エステルであるモノカプリル酸グリセリルは、美白剤であるアスコルビン酸リン酸マグネシウムの皮膚中濃度を顕著に増加させることが示された。
【0056】
表1〜表6及び図1〜図6から明らかなように、HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステル又はHLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルは、生理活性成分の皮膚中濃度を顕著に増加させる作用を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが9〜12のモノグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8〜11のジグリセリン脂肪酸エステル又はHLBが11〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする、生理活性成分の皮膚中濃度増加剤。
【請求項2】
モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、炭素数8〜18の脂肪酸である請求項1記載の皮膚中濃度増加剤。
【請求項3】
モノグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が炭素数8〜12であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数が12〜18であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数が12〜18である請求項1又は2記載の皮膚中濃度増加剤。
【請求項4】
生理活性成分が、皮膚作用性生理活性成分である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮膚中濃度増加剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の皮膚中濃度増加剤と生理活性成分とを含有する皮膚外用剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106992(P2012−106992A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226163(P2011−226163)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】