説明

皮膚保湿剤

【課題】安価且つ安全に皮膚保湿能を改善することができる素材の提供。
【解決手段】ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とする皮膚保湿剤、天然保湿因子産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、及びプロスタシン産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors; NMF)は、角質層においてケラトヒアリン顆粒に由来するタンパク質であるフィラグリン(filaggrin)から産生される、アミノ酸を主成分とする分子である。顆粒細胞内のケラトヒアリン顆粒には、フィラグリンの前駆物質であるプロフィラグリンが多量に存在し、プロフィラグリンは脱リン酸化とプロテアーゼの作用とを経てフィラグリンに分解される。フィラグリンは角質細胞の細胞質内でケラチン線維を凝集させたのち、角質層上層で天然保湿因子へと分解される。天然保湿因子は、皮膚角質層の水分保持に重要な役割を果たし、皮膚の保湿機能に貢献することが知られている。
【0003】
フィラグリンが皮膚の水分保持に重要な役割を果たすことが知られている。乾燥肌を伴う疾患、例えば、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症において、フィラグリン発現が減少し、また角質層中のアミノ酸が減少することが報告されている。乾燥環境下で飼育されたマウスでは、皮膚角質層の水分量が減少するとともに、フィラグリン発現量及び角質層アミノ酸量が低下することも報告されている。
【0004】
フィラグリンは、前駆物質であるプロフィラグリンがプロテアーゼにより分解されて生成される。プロフィラグリンの分解に関与するプロテアーゼの1つとして、プロスタシン(prostasin)/CAP1/Prss8が知られている。CAP1/Prss8をノックアウトしたマウスが重度の脱水状態に陥ること、当該ノックアウトマウスの皮膚ではプロフィラグリンからのフィラグリンモノマーの生成が障害されていることが報告されている(非特許文献1)。
フィラグリン又はプロスタシンの発現を促進させることによって、天然保湿因子の産生量を増大させ、皮膚の保湿機能を改善させることができる。
【0005】
従来、フィラグリン産生促進剤としては、例えば、カンゾウ抽出物(特許文献1)、天然植物中に含まれるフラバノン配糖体リクイリチン(特許文献2)、ワイルドタイム抽出物、チョウジ抽出物、サルビア抽出物、ローヤルゼリー抽出物、シイタケ抽出物、ジオウ抽出物、カミツレ抽出物、アルニカ抽出物、アロエ抽出物、オウゴン抽出物又はオウバク抽出物(特許文献3)、ベタイン化合物、ポリオール、アスコルビン酸、又はそれらの誘導体、ならびにセイヨウノコギリ、マジョラム、イブキジャコウ、イチヤクソウ、ラベンダー、ハマメリス、オウゴンリキッド、サクラリーフ、イザヨイバラ果実、及びパロアズル(palo azul)、カルクエジャ(carqueja)、マセラミスタ(macelamista)に由来する生薬(特許文献4)、Citrus属植物エキス又は酵母エキス(特許文献5)、糖脂質化合物(特許文献6)が知られている。
【0006】
安価且つ安全にフィラグリン、プロスタシン又は天然保湿因子の産生を促進し、皮膚保湿能を向上させることができる、さらなる物質の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−363054号公報
【特許文献2】特開2003−146886号公報
【特許文献3】特開2006−16337号公報
【特許文献4】国際公開第2002/053127号パンフレット
【特許文献5】特開2001−261568号公報
【特許文献6】特開2006−241095号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Leyvraz et al, J Cell Biol, 2005, 170(3):487-496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、皮膚保湿剤の提供に関する。本発明はまた、天然保湿因子産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、及びプロスタシン産生促進剤の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、皮膚保湿能を向上させることができる素材について検討したところ、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ又はそれらの抽出物により、フィラグリン産生及びプロスタシン産生が促進され、それによって皮膚の天然保湿因子(NMF)産生が促進され、皮膚保湿能を向上させることができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とする皮膚保湿剤。
(2)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(1)記載の皮膚保湿剤。
(3)ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とする天然保湿因子産生促進剤。
(4)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(3)記載の天然保湿因子産生促進剤。
(5)ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とするフィラグリン産生促進剤。
(6)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(5)記載のフィラグリン産生促進剤。
(7)ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とするプロスタシン産生促進剤。
(8)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(7)記載のプロスタシン産生促進剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィラグリン産生及びプロスタシン産生を促進することにより、皮膚の天然保湿因子量を増加させ、皮膚保湿能を向上させることができる。本発明は、皮膚の保湿や、乾燥肌を伴う疾患又は状態の改善等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0014】
本明細書において、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0015】
本明細書において、「ナギナタコウジュ」とは、シソ科ナギナタコウジュ属のElsholtzia ciliataを指し、「コウジュ」とは、和名ホソバヤマジソとも称され、シソ科イヌコウジュ属のMosla chinensis Maxim.を指し、「ホロピト」とは、シキミモドキ科プセウドウィンテラ属のPseudowintera colorataを指し、「Borotutu」とは、ベニノキ科コクロスペルムム属のCochlospermum angolensisを指し、「ムラサキヘイシソウ」とは、サラセニア科サラセニア属のSarracenia purpureaを指し、「黄花コウジュ」とは、シソ科ナギナタコウジュ属のElsholtzia eriostachyaを指す。
【0016】
上記に挙げた植物の抽出物は、特に限定されない限り、当該植物の任意の部位、例えば全草、葉、茎、芽、花、蕾、木質部、樹皮、根、根茎、種子、果実、若しくは樹脂等、又はそれらの組み合わせからの抽出物であればよい。抽出物を得るための好ましい部位は、ナギナタコウジュの場合は全草、コウジュの場合は全草、ホロピトの場合は葉、Borotutuの場合は樹皮、ムラサキヘイシソウの場合は全草、黄花コウジュの場合は全草である。上記に挙げた部位は、そのまま抽出工程に付されてもよく、又は粉砕、切断若しくは乾燥された後に抽出工程に付されてもよい。
【0017】
上記抽出物としては、市販されているものを利用してもよく、又は常法により得られる各種溶剤抽出物、又はその希釈液、その濃縮液、その乾燥末、ペースト若しくはその活性炭処理したものであってもよい。一例として、本発明における抽出物は、上記植物を室温若しくは加温下にて抽出するか、又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることができる。
【0018】
抽出のための溶剤には、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ならびにこれらの混合物が挙げられる。このうち、水、アルコール類、水−アルコール混合液、プロピレングリコール、ブチレングリコールを用いるのが好ましく、エタノール水溶液を用いるのがより好ましい。
【0019】
抽出溶剤が水−アルコール混合液である場合、液中のアルコール濃度は、95質量%未満の範囲であればよく、好ましくは90質量%またはそれ未満であり、より好ましくは80質量%またはそれ未満であり、さらに好ましくは70質量%またはそれ未満である。
本発明で用いられる抽出物を得るための抽出条件については、使用する溶剤によって異なり特に制限はない。
抽出物を得る抽出手段は、具体的には、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の手段を用いることができる。
抽出条件の例として、15〜25℃で7日間〜30日間、50〜70℃で5時間〜24時間、等が挙げられる。
また、抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出が望ましい。この固液抽出の好適な条件の一例としては、40〜100℃(好ましくは50〜70℃)下、100〜1000rpmで30〜300分間の攪拌が挙げられる。
抽出物の酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。
【0020】
後記実施例に示すように、上記植物又はその抽出物は、細胞のフィラグリン遺伝子発現及びプロスタシン遺伝子発現を有意に促進する作用を有する。従って、上記植物又はその抽出物は、フィラグリン産生促進剤及びプロスタシン産生促進剤として有用である。
【0021】
フィラグリンの前駆物質であるプロフィラグリンは、プロスタシン等の酵素によって分解されてフィラグリンとなり(Leyvraz et al, J Cell Biol, 2005, 170(3):487-496)、そのフィラグリンは、皮膚角質層でさらに分解されて、皮膚の水分保持に重要な役割を果たす、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors; NMF)成分の一つであるアミノ酸となる(Dale BA et al., Nature, 1978, 276: 729-731)。したがって、上記植物又はその抽出物は、フィラグリン産生及びプロスタシン産生を促進する作用を介して、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors; NMF)の産生を促進することができ、それによって皮膚保湿効果を発揮することができる。また上記植物又はその抽出物は、乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患の改善のために有用である。
【0022】
すなわち、上記植物又はその抽出物は、皮膚保湿のために使用することができる。また上記植物又はその抽出物は、天然保湿因子産生促進のために使用することができる。また上記植物又はその抽出物は、フィラグリン産生促進のために使用することができる。また上記植物又はその抽出物は、プロスタシン産生促進のために使用することができる。あるいは、上記植物又はその抽出物は、乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患の改善のために使用することができる。
当該植物又はその抽出物は、いずれか1種類が単独で使用されてもよく、あるいは任意の2種類以上が組み合わせて使用されてもよい。当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物、又はそれらに由来する組織、器官、細胞における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
【0023】
従って、一態様として、本発明は、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分として含有する皮膚保湿剤を提供する。
別の態様として、本発明は、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分として含有する天然保湿因子産生促進剤を提供する。
また別の態様として、本発明は、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分として含有するフィラグリン産生促進剤を提供する。
また別の態様として、本発明は、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分として含有するプロスタシン産生促進剤を提供する。
一態様として、上記剤は、本質的に上記植物又はその抽出物のうちの少なくとも1から構成される。
【0024】
上記植物又はその抽出物は、皮膚保湿のため、天然保湿因子産生促進のため、フィラグリン産生促進のため、プロスタシン産生促進のため、あるいは乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患の改善のための組成物、医薬、医薬部外品、化粧料等の製造のために使用することができる。当該組成物、医薬、医薬部外品、化粧料等もまた、本発明の範囲内である。
【0025】
上記組成物、医薬、医薬部外品、化粧料等は、ヒト又は非ヒト動物用として製造され、又は使用され得る。上記植物若しくはその抽出物は、当該組成物、医薬、医薬部外品、化粧料等に配合され、皮膚保湿のため、天然保湿因子産生促進のため、フィラグリン産生促進のため、プロスタシン産生促進のため、あるいは乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患の改善のための有効成分であり得る。
【0026】
上記医薬又は医薬部外品は、上記植物若しくはその抽出物を有効成分として含有する。当該医薬又は医薬部外品は、任意の投与形態で投与され得る。投与は経口でも非経口でもよい。経口投与のための剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、ならびにエリキシロール、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与のための剤型としては、注射、輸液、局所、外用剤、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。
好ましくは、当該医薬又は医薬部外品は、皮膚外用剤の形態であり得る。
【0027】
上記医薬又は医薬部外品は、上記植物若しくはその抽出物を単独若しくは複数で含有していてもよく、又は薬学的に許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、滑沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、香料、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該医薬や医薬部外品は、上記植物又はその抽出物のフィラグリン産生やプロスタシン産生を促進する作用が失われない限り、他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。
【0028】
上記医薬又は医薬部外品は、上記植物若しくはその抽出物から、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や薬理成分を組みあわせて、常法により製造することができる。当該医薬又は医薬部外品における上記植物若しくはその抽出物の含有量は、例えば皮膚外用剤とする場合、当該抽出物の乾燥重量として、0.00001〜20質量%含まれるのが好ましく、0.0001〜10質量%含まれるのがより好ましい。
【0029】
上記化粧料は、上記植物若しくはその抽出物を有効成分として含有する。当該化粧料は、上記植物若しくはその抽出物を単独若しくは複数で含有していてもよく、又は化粧料として許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、滑沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、香料、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該化粧料は、上記植物又はその抽出物のフィラグリン産生やプロスタシン産生を促進する作用が失われない限り、他の有効成分や化粧成分、例えば、保湿剤、美白剤、紫外線保護剤、細胞賦活剤、洗浄剤、角質溶解剤、メークアップ成分(例えば、化粧下地、ファンデーション、おしろい、パウダー、チーク、口紅、アイメーク、アイブロウ、マスカラ、その他)等を含有していてもよい。化粧料とする場合の形態としては、クリーム、乳液、ローション、懸濁液、ジェル、パウダー、パック、シート、パッチ、スティック、ケーキ等、化粧料に使用され得る任意の形態が挙げられる。
好ましくは、上記化粧料は、皮膚保湿用化粧料であり得る。
【0030】
上記化粧料は、上記植物若しくはその抽出物から、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や化粧成分を組みあわせて、常法により製造することができる。当該化粧料における上記植物若しくはその抽出物の含有量は、当該抽出物の乾燥重量として、0.00001〜20質量%とするのが好ましく、0.0001〜10質量%含まれるのがより好ましい。
【0031】
また本発明は、細胞のフィラグリン産生を促進する方法を提供する。当該方法は、フィラグリン産生能を有し且つフィラグリン産生を促進させたい細胞に、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を添加する工程を含む。
また本発明は、細胞のプロスタシン産生を促進する方法を提供する。当該方法は、プロスタシン産生能を有し且つプロスタシン産生を促進させたい細胞に、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を添加する工程を含む。
【0032】
本発明においてフィラグリン産生又はプロスタシン産生を促進する「細胞」は、天然又は遺伝子工学的に改変されたフィラグリン発現能、又はプロスタシン発現能を有する細胞であれば特に限定されない。好ましくは、細胞としては、上皮系由来細胞が挙げられ、より好ましくは表皮ケラチノサイトが挙げられる。
あるいは、当該「細胞」は、上記で挙げた細胞の細胞片または細胞分画物であってもよく、あるいは上記で挙げた細胞を含む組織又は上記で挙げた細胞に由来する培養物であってもよい。細胞が細胞培養物の場合、好ましくは、当該細胞は、上記植物又はそれらの抽出物の存在下で培養される。
添加される上記植物又はその抽出物の濃度は、細胞が細胞培養物の場合、培養物中での最終濃度として、当該抽出物の乾燥重量換算で、0.0001〜2%(w/v)であり、好ましくは0.0003〜0.5%(w/v)であり、より好ましくは0.0005〜0.1%(w/v)である。
【0033】
また本発明は、細胞の天然保湿因子産生を促進する方法を提供する。当該方法は、天然保湿因子産生能を有し且つ天然保湿因子産生を促進させたい細胞に、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を添加する工程を含む。好ましくは、当該細胞は、上記植物又はそれらの抽出物の存在下で培養される。
天然保湿因子産生能を有する細胞としては、フィラグリン及びプロスタシンを発現する能力を有する細胞であればよい。当該細胞の例、及び当該細胞に添加される上記植物又はその抽出物の濃度は、上述のフィラグリン産生又はプロスタシン産生を促進する方法の場合と同様である。
【0034】
また本発明において、ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1は、皮膚保湿のため、天然保湿因子産生促進のため、フィラグリン産生促進のため、プロスタシン産生促進のため、又は乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患の改善のために、それらを必要とする対象に有効量で投与され得る。
一態様において、当該投与は、健康増進又は美容目的により非治療的に行われる。
投与の対象としては、皮膚保湿能の向上を所望する動物が挙げられる。あるいは、投与の対象としては、乾燥肌に伴う疾患又は状態、例えば肌荒れ、皮膚の乾燥ジワ、及びアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、老人性乾皮症等の疾患を有する動物が挙げられる。動物は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0035】
好ましい投与量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得る。例えば、ヒトの皮膚に局所投与する場合、投与量は、上記植物の抽出物の乾燥重量換算で、成人(60kg)1人当たり、0.001〜1000mg/日とすることが好ましく、0.01〜100mg/日がより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0037】
製造例 植物抽出物の調製
(製造例1)ナギナタコウジュ水抽出物の調製
ナギナタコウジュの全草(Monteagle Herbs社製)50gを細切し、水500mLを加え、70℃、5時間の条件で抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物400mLを得た。得られた抽出物について、下記の方法で蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.05%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、10%エタノール水溶液で1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
<蒸発残分の算出>
ナギナタコウジュ抽出物1mlを105℃で6時間乾燥させたところ(乾燥機:DRY Thermo Unit DTU-1C(TAITEC CORPORATION社製)使用)、乾燥物10.5mgが得られた。この抽出物の蒸発残分を、10.5/1000×100=1.05%(w/v)と算出した。なお、下記の製造例においても、各抽出物の蒸発残分は同様にして算出されたものである。
【0038】
(製造例2)ナギナタコウジュ10%エタノール抽出物の調製
ナギナタコウジュの全草(Monteagle Herbs社製)10gを細切し、10%エタノール水溶液100mLを加え、室温・静置条件下で7日間抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物69mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.13%(w/v)であった。これを10%エタノール水溶液で1.13倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0039】
(製造例3)ナギナタコウジュ20%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で20%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物76mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.20%(w/v)であった。これを20%エタノール水溶液で1.20倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0040】
(製造例4)ナギナタコウジュ30%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で30%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物71mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.15%(w/v)であった。これを30%エタノール水溶液で1.15倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0041】
(製造例5)ナギナタコウジュ40%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で40%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物71mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.25%(w/v)であった。これを40%エタノール水溶液で1.25倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0042】
(製造例6)ナギナタコウジュ50%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で50%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物50mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.44%(w/v)であった。これを50%エタノール水溶液で1.44倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0043】
(製造例7)ナギナタコウジュ60%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で60%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物67mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.38%(w/v)であった。これを60%エタノール水溶液で1.38倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0044】
(製造例8)ナギナタコウジュ70%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で70%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物69mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.45%(w/v)であった。これを70%エタノール水溶液で1.45倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0045】
(製造例9)ナギナタコウジュ80%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で80%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物68mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.14%(w/v)であった。これを80%エタノール水溶液で1.14倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0046】
(製造例10)ナギナタコウジュ90%エタノール抽出物の調製
製造例2と同様の条件で90%エタノール水溶液を使用して抽出を行った。その後、濾過して、ナギナタコウジュ抽出物69mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は0.80%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、90%エタノール水溶液で1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0047】
(製造例11)ホロピト水抽出物の調製
ホロピトの葉(Monteagle Herbs社製)50gを細切し、水500mLを加え、70℃、5時間の条件で抽出を行った。その後、濾過して、ホロピト抽出物400mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は2.71%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、10%エタノール水溶液で希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0048】
(製造例12)ホロピト50%エタノール抽出物の調製
ホロピトの葉(Monteagle Herbs社製)50gを細切し、50%エタノール水溶液500mLを加え、室温・静置条件下で15日間抽出を行った。その後、濾過して、ホロピト抽出物273mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.98%(w/v)であった。これを50%エタノール水溶液で1.98倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0049】
(製造例13)黄花コウジュ水抽出物の調製
黄花コウジュの全草(新和物産株式会社製)40gを細切し、水400mLを加え、70℃、5時間の条件で抽出を行った。その後、濾過して、黄花コウジュ抽出物228mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は0.47%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、10%エタノール水溶液で1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0050】
(製造例14)黄花コウジュ50%エタノール抽出物の調製
黄花コウジュの全草(新和物産株式会社製)10gを細切し、50%エタノール水溶液100mLを加え、室温・静置条件下で7日間抽出を行った。その後、濾過して、黄花コウジュ抽出物58mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は0.40%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、50%エタノール水溶液で1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0051】
(製造例15)コウジュ水抽出物の調製
コウジュの全草(株式会社栃本天海堂製)40gを細切し、水400mLを加え、70℃、5時間の条件で抽出を行った。その後、濾過して、コウジュ抽出物229mLを得た。得られた抽出物について、下記の方法で蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.41%(w/v)であった。これを濃縮乾固させた後、10%エタノール水溶液で1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0052】
(製造例16)Borotutu50%エタノール抽出物の調製
Borotutuの樹皮(Monteagle Herbs社製)50gを細切し、50%エタノール水溶液500mLを加え、室温・静置条件下で15日間抽出を行った。その後、濾過して、Borotutu抽出物251mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は2.12%(w/v)であった。これを50%エタノール水溶液で2.12倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0053】
(製造例17)ムラサキヘイシソウ50%エタノール抽出物の調製
ムラサキヘイシソウの全草(American botanicals社製)40gを細切し、50%エタノール水溶液400mLを加え、室温・静置条件下で19日間抽出を行った。その後、濾過して、ムラサキヘイシソウ抽出物306mLを得た。得られた抽出物について、蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は1.65%(w/v)であった。これを50%エタノール水溶液で1.65倍希釈し、1.0%(w/v)(エキス固形分)抽出物を調製した。
【0054】
実施例1 フィラグリン産生に対する植物抽出物の効果
ヒト正常表皮細胞(NHEK)はEpiLife(登録商標)(Kuraboより購入)を用い、37℃、5%CO2条件下で培養した。細胞を6穴プレートに1×104個/cm2で播種し、24時間培養後、培地を血清無添加培地に交換するとともに、製造例に従って調製した表1に記載の植物抽出物を、最終濃度0.1%(v/v)(最終エキス分濃度0.001w/v%)となるように培地に添加した。48時間培養後、細胞からRNeasy(登録商標)Mini Kit (QIAGEN) を用いてtotal RNAを抽出した。total RNAの濃度を測定し、一定量のtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。逆転写反応にはHigh capacity RNA-to-cDNA Kit (Applied Biosystems)を用いた。
得られたcDNAから、Real−time RT−PCRにより、フィラグリン遺伝子発現の定量を行った。定量は、Taqman(登録商標)Probe (Applied Biosystems)を用い、PRISM 7500 (Applied Biosystems)で検出定量した。50μlの反応系にて、増幅条件は95℃、15秒の変性反応、60℃、1分のアニーリング、伸長反応にて行った。それぞれの遺伝子発現量はRPLP0発現量により補正し、エキス無添加(溶媒のみ)コントロールにおけるフィラグリンの発現量を1とした場合の相対値として示した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2 フィラグリン産生に対する植物抽出物の効果
製造例2〜10に従って調製したナギナタコウジュ抽出物を用いて実施例1と同様の手順でフィラグリン遺伝子発現の定量を行った。使用した植物抽出物及びフィラグリン発現量を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例3 プロスタシン産生に対する植物抽出物の効果
実施例1と同様の手順でプロスタシン遺伝子発現の定量を行った。使用した植物抽出物及びプロスタシン発現量を表3に示す。
【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とする皮膚保湿剤。
【請求項2】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である請求項1記載の皮膚保湿剤。
【請求項3】
ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とする天然保湿因子産生促進剤。
【請求項4】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である請求項3記載の天然保湿因子産生促進剤。
【請求項5】
ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とするフィラグリン産生促進剤。
【請求項6】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である請求項5記載のフィラグリン産生促進剤。
【請求項7】
ナギナタコウジュ、コウジュ、ホロピト、Borotutu、ムラサキヘイシソウ、黄花コウジュ及びそれらの抽出物からなる群より選択されるうちの少なくとも1を有効成分とするプロスタシン産生促進剤。
【請求項8】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である請求項7記載のプロスタシン産生促進剤。

【公開番号】特開2012−254942(P2012−254942A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127374(P2011−127374)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】