説明

皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物

【課題】持続性と保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性であり、しかもベタツキがなく肌に馴染みの良い皮膚外用剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)成分:常温で固体の高級アルコールの1種以上 3〜15質量%、(B)成分:エステル型非イオン性界面活性剤の1種以上、(C)成分:ミツロウ 0.1〜4質量%を含有し、水中油滴型液晶構造を有する皮膚外用剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物に関する。更に詳しくは本発明は、特定の種類の高級アルコール及び界面活性剤を必須成分として構成される持続性に優れた水中油滴型液晶構造体を含み、保湿性に優れると共に低刺激性である皮膚保湿用液晶構造体と、この皮膚保湿用液晶構造体とミツロウとを組合せることで構成される、持続性と保湿性に優れると共に低刺激性であり、しかもベタツキがなく肌に馴染みの良い皮膚外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の皮膚外用剤においては、保湿成分、例えば尿素の配合により、保湿効果を付与してきた。しかし、尿素には刺激性があり、顔等の敏感な部位には適用できない場合が多い。そこで、例えば、皮膚外用剤に液晶構造を取り込むことにより、高い保湿効果を備えさせることが試みられている。
【0003】
一方、ワセリンを含有する皮膚外用剤には高い保湿効果とバリア力(閉塞性)を期待できる。しかしその場合、過度のベタ付きが生じるという問題があり、この問題を解消しようとする試みも行われている。
【0004】
下記の特許文献1は、常温で液状の高級アルコールおよび/または常温で液状の高級脂肪酸と、非イオン性で親水性の界面活性剤と、水溶性二価アルコール、及び水を混合してラメラ液晶相を形成させ、該ラメラ液晶を水性溶媒で希釈することによって得られる皮膚外用剤を開示している。この皮膚外用剤は、上記の構成から分かるように低粘度の液状皮膚外用剤であって、操作性(塗布の容易さ)と使用感(塗布後の感触)の良好なクリーム剤として調製することは困難である。
【0005】
下記の特許文献2は毛髪脱色剤組成物に関し、(a)揮発性アルカリ剤、(b)高級アルコール、(c)界面活性剤及び(d)水を含有して、成分(b)、(c)、(d)から形成される液晶構造内にアンモニア等の(a)成分を組み込むことにより、脱色剤組成物の刺激臭を低減させようとするものである。従って、液晶構造を有する組成物ではあるが、皮膚に対する保湿性や刺激性を評価していない。又、液晶構造の形成の目的は脱色剤適用時の刺激臭低減にあり、液晶構造の持続性を評価していない。
【0006】
下記の特許文献3は、(A)成分として30〜85重量%という多量の白色ワセリンを含有して皮膚を保護すると共に、(B)成分である無水ケイ酸等によって皮膚塗布後のベタツキ感や「てかり」を抑え、(C)成分であるホスホリルコリン類似基含有単量体の単独重合体等によって皮膚の保湿性向上を図る皮膚外用剤組成物を開示する。この組成物は乳化系ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−120857号公報
【特許文献2】特開2003−40750号公報
【特許文献3】特開2003−26608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、持続性に優れた水中油滴型液晶構造体を含み、保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性である皮膚保湿用液晶構造体と、この皮膚保湿用液晶構造体をミツロウと組合せることで構成される、持続性と保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性であり、しかもベタツキがなく、肌への馴染み(塗布し易い柔らかさ、成膜しない)の良い皮膚外用剤組成物を提供することを、解決すべき課題とする。
【0009】
本願発明者は、上記課題の解決手段を追求する過程で、特定の種類の高級アルコール及び界面活性剤を必須成分として液晶構造体を構成すると、微小な球状液晶を高い密度で含む水中油滴型液晶構造体が形成され、その水中油滴型液晶構造体は持続性と保湿性に優れると共に低刺激性であることを見出した。更にこの水中油滴型液晶構造体をミツロウと組合せることにより、上記特性を維持したままで、ベタツキがなく肌への馴染みの良い水中油滴型液晶構造体を形成できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、下記(A)成分及び(B)成分を必須成分として構成される水中油滴型液晶構造を含む、皮膚保湿用液晶構造体である。
【0011】
(A)常温で固体の高級アルコールの1種以上 3〜15質量%
(B)エステル型非イオン性界面活性剤の1種以上
上記の第1発明に係る皮膚保湿用液晶構造体は、3〜15質量%の(A)成分:常温で固体の高級アルコールと(B)成分:エステル型非イオン性界面活性剤を水に加えて撹拌することにより得ることができる。第1発明において、「水中油滴型液晶構造」とは、水中油滴型のエマルションであって、その微小な油滴の一部又は全部が球状の液晶となっているものをいう。又、「常温で固体の高級アルコール」とは、25℃において固体状又は半固体状の(即ち、液体状ではない)高級アルコールをいう。
【0012】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、下記(A)成分〜(C)成分を含有し、水中油滴型液晶構造を有する、皮膚外用剤組成物である。
【0013】
(A)常温で固体の高級アルコールの1種以上 3〜15質量%
(B)エステル型非イオン性界面活性剤の1種以上
(C)ミツロウ 0.1〜4質量%
上記の第2発明に係る皮膚保湿用液晶構造体は、3〜15質量%の(A)成分:常温で固体の高級アルコール、(B)成分:エステル型非イオン性界面活性剤、及び0.1〜4質量%の(C)成分:ミツロウを水に加えて撹拌することにより得ることができる。第2発明において、「水中油滴型液晶構造」の意味は、第1発明の場合と同様である。「ミツロウ」とはミツバチの巣を構成するロウであってパルミチン酸ミリシルを主成分とするものをいう。
【0014】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第2発明に係る皮膚外用剤組成物において、(A)成分がセチルアルコール(セタノール)、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールから選ばれる1種以上である、皮膚外用剤組成物である。
【0015】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第2発明又は第3発明に係る皮膚外用剤組成物において、(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比(C)/(B)が0.01〜4の範囲内である、皮膚外用剤組成物である。
【0016】
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第2発明〜第4発明のいずれかに係る皮膚外用剤組成物が更に下記(D)成分を含有する、皮膚外用剤組成物である。
【0017】
(D)ワセリン
【発明の効果】
【0018】
第1発明の皮膚保湿用液晶構造体においては、その水中油滴型エマルションにおける微小な油滴が球状液晶となっている。この水中油滴型液晶構造を評価したところ、球状液晶の持続性に優れ(例えば、皮膚に塗布後、4時間を経過しても液晶構造を維持する)、保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性であることが分かった。従って、第1発明の液晶構造体は「皮膚保湿用」という新たな用途に好適であることが究明された。なお、「保湿性」とは、皮膚の水分を維持するという特性をいう。
【0019】
なお、高級アルコールは乳化(エマルション形成)に対する補助効果が高いが、常温で液体状の高級アルコールでは水中油滴型液晶構造が形成されない。又、界面活性剤として非イオン性界面活性剤を用いているため、良好な水中油滴型液晶構造が形成される。更に、非イオン性界面活性剤として、親油性の高いエステル型非イオン性界面活性剤を用いているため、少量の界面活性剤の使用で良好な水中油滴型液晶構造が構成され、そのことが液晶構造体の皮膚に対する低刺激性と関連していると考えられる。
【0020】
又、皮膚保湿用液晶構造体における(A)成分の含有量が3質量%未満である場合には水中油滴型エマルションの形成が不充分となり、ひいては良好な水中油滴型液晶構造を構成できず、その含有量が15質量%を超える場合はクリーム自体が固くなりすぎ、皮膚保湿用液晶構造体としての操作性が損なわれる。
【0021】
第2発明に係る皮膚外用剤組成物は、第1発明と同様の水中油滴型液晶構造を有し、従って水中油滴型液晶構造の持続性に優れ、保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性である。更に(C)成分としてミツロウを含有するため、皮膚外用剤における不快なベタ付きの防止に有効であり、かつ、肌に馴染みの良い皮膚外用剤、即ちクリーム等として柔らかいために塗布し易く、塗布状態において成膜しない皮膚外用剤となる。ミツロウは、多種類のロウ類中でも、これらの効果が特に優れている。一般的には、ミツロウは乳化され難い成分であるが、皮膚外用剤組成物が(B)成分:エステル型非イオン性界面活性剤を含有するため、ミツロウが良好に乳化される。
【0022】
なお、皮膚外用剤組成物における(A)成分の含有量が3質量%未満である場合には水中油滴型エマルションの形成が不充分となり、ひいては良好な水中油滴型液晶構造を構成できず、その含有量が15質量%を超える場合はクリーム自体が固くなりすぎ、皮膚外用剤としての操作性が損なわれる。又、皮膚外用剤組成物における(C)成分の含有量が0.1質量%未満である場合には上記した(C)成分の効果が確保されず、その含有量が4質量%を超える場合は肌への馴染みを確保できない。
【0023】
(A)成分の種類は、第1発明における定義に該当する限りにおいて限定されないが、第3発明に規定するセチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールから選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0024】
皮膚外用剤組成物における(B)成分の含有量は特段に限定されず、(C)成分の含有量は0.1〜4質量%の範囲内であれば良いが、第4発明に規定するように(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比(C)/(B)が0.01〜4の範囲内であることが、特に好ましい。質量比(C)/(B)が0.01未満、即ちミツロウの含有量が相対的に過少である場合、前記(C)成分の効果が確保され難くなる恐れがある。又、質量比(C)/(B)が4を超える場合、即ちミツロウの含有量が相対的に過剰である場合、皮膚外用剤組成物の肌への馴染みを確保し難くなる恐れがある。
【0025】
前記特許文献3に記載するように、ワセリンは皮膚外用剤の保湿性を向上させることが知られている。従って、第5発明のように、皮膚外用剤組成物が更に(D)成分:ワセリンを含有する場合、その保湿性が一層向上する。又、ワセリンの配合は、皮膚外用剤組成物にバリア性を与え、更に皮膚外用剤組成物の皮膚に対する刺激性を一層低下させる。これらの利点の反面、一般的にワセリンを含有する組成物はベタ付きを伴うが、本発明の皮膚外用剤組成物は(C)成分であるミツロウを含有するため、このようなベタ付きを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例に係る水中油滴型液晶構造を示す偏向顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0028】
〔皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物〕
本発明の皮膚保湿用液晶構造体は、後述する(A)成分及び(B)成分を必須成分として構成される水中油滴型液晶構造を含むものである。即ち、少なくとも、3〜15質量%の(A)成分と、(B)成分とを水に加えて撹拌すると、水中油滴型のエマルションであって、その微小な油滴の一部又は全部が球状の液晶となっているものを調製することができる。その際の撹拌条件は特に限定されず、エマルション形成のための一般的な条件下で撹拌すれば良い。機械的な撹拌手段による乳化が、特に好ましい。水中油滴型液晶構造の確認は、偏光顕微鏡によって行うことができる。
【0029】
本発明の皮膚保湿用液晶構造体における微小な球状の液晶は、層状ラメラ液晶とは異なる。
【0030】
液晶構造を取り込んだ組成物が高い保湿効果を有することは知られているが、本発明の水中油滴型液晶構造における球状液晶は持続性に優れており、従って持続性に優れた保湿効果が得られる。又、本発明の皮膚保湿用液晶構造体は、「発明の効果」欄で述べた理由から、皮膚に対して低刺激性である。
【0031】
以上の理由から、本発明の液晶構造体は皮膚保湿用あるいは皮膚外用剤に好適である。
【0032】
本発明の皮膚外用剤組成物は、後述する(A)成分〜(C)成分を含有し、水中油滴型液晶構造を有するものである。ここでいう「水中油滴型液晶構造」は、(C)成分であるミツロウを0.1〜4質量%含有する点を除き、上記した皮膚保湿用液晶構造体の場合と同様である。(C)成分は、基本的に、水中油滴型エマルションにおける単純な油滴又は球状液晶中に含有される。
【0033】
皮膚保湿用液晶構造体、皮膚外用剤組成物の剤型は、水中油滴型のエマルションであれば良いが、乳液状、クリーム状又はゲルクリーム状が好ましく、特にクリーム状が好ましい。
【0034】
又、皮膚保湿用液晶構造体、皮膚外用剤組成物は、適用部位や使用目的に応じた各種成分を適宜配合することにより、例えば基礎化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ化粧品、頭髪用化粧品等として利用することができる。
【0035】
基礎化粧品としては、化粧水、乳液、モイスチュアクリーム、フォーム、美容液、パック、アフターシェーブローション等が挙げられる。
【0036】
メイクアップ化粧品としては、ファンデーション、頬紅、口紅等が挙げられ、こうしたメイクアップ化粧品は、顔の皮膚に対して保湿効果等を発揮する。
【0037】
ボディ化粧品としては、ボディローション、デオドラントスプレー、サンスクリーン剤等が挙げられ、こうしたボディ化粧品は、胴体、首、腕、足等の皮膚に対して保湿効果等を発揮する。
【0038】
頭髪用化粧品としては、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、育毛剤、染毛剤、脱色剤、脱染剤、パーマネントウエーブ用剤等が挙げられ、こうした頭髪用化粧品は、頭皮に対して保湿効果等を発揮する。
【0039】
本発明の皮膚保湿用液晶構造体、皮膚外用剤組成物は、手、塗布具等によって皮膚や頭髪部に塗布して使用される。これらが塗布されると、頭皮を包含する皮膚に対して低刺激性に、角質層等の水分が持続的に好適に保持され、しかもベタツキがなく肌に良好に馴染む。
【0040】
〔必須成分〕
次に、本発明の皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物における必須成分についての実施形態を順次説明する。
【0041】
((A)成分)
(A)成分は常温で固体の高級アルコールの1種以上である。「常温で固体の高級アルコール」とは、25℃において固体状又は半固体状の(即ち、液体状ではない)高級アルコールをいう。このような(A)成分としては下記のものが例示されるが、特に好ましいものはセチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールである。
【0042】
ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキルアルコール、バチルアルコール、キミルアルコール、ミリシルアルコール、セトステアリルアルコール、ラノリンアルコール。
【0043】
皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物における(A)成分の含有量は3〜15質量%であり、より好ましくは5〜12質量%である。
【0044】
((B)成分)
(B)成分はエステル型非イオン性界面活性剤の1種以上である。エステル型非イオン性界面活性剤としては下記のものが例示されるが、より好ましいものは、特に高親油性のエステル型非イオン性界面活性剤であり、具体的には親油型モノステアリン酸グリセリン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン等である。
【0045】
モノオレイン酸POEソルビタン(POEは「ポリオキシエチレン」を意味する)、モノステアリン酸POEソルビタン、モノパルミチン酸POEソルビタン、モノラウリン酸POEソルビタン、トリオレイン酸POEソルビタン、モノステアリン酸POEグリセリン、モノミリスチン酸POEグリセリン、テトラオレイン酸POEソルビット、ヘキサステアリン酸POEソルビット、モノラウリン酸POEソルビット、POEソルビットミツロウ、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、親油型モノオレイン酸グリセリン、親油型モノステアリン酸グリセリン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル。
【0046】
皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物における(B)成分の含有量は必ずしも限定されないが、皮膚刺激性を低減する点からは含有量がなるべく少ない方が望ましい。一方、次に述べる(C)成分との関係からは、両者の含有量の質量比(C)/(B)が0.01〜4の範囲内であること、特に0.02〜2の範囲内であることが好ましい。以上の点も踏まえて、(B)成分の含有量としては、特に1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
((C)成分)
(C)成分は「第2発明」の項で述べた通りのミツロウであり、皮膚外用剤組成物においては必須の成分であるが、皮膚保湿用液晶構造体においては必ずしも必須ではない。
【0048】
皮膚外用剤組成物における(C)成分の含有量は、0.1〜4質量%であり、より好ましくは1〜4質量%である。皮膚保湿用液晶構造体が(C)成分を含有する場合においても、その好ましい含有量は皮膚外用剤組成物の場合と同様である。又、(C)成分の含有量は、上記(B)成分の項で述べたように、質量比(C)/(B)が一定の範囲内となるように設定することが好ましい。
【0049】
(水)
本発明の皮膚保湿用液晶構造体、皮膚外用剤組成物においては、水中油滴型液晶構造を形成するために水が必要である。水の配合量は必要に応じて決定すれば良いが、好ましくは、皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物の50〜90質量%程度とすることができる。水の配合量が過度に少ない場合には、良好な水中油滴型液晶構造を構成し難い。水の配合量が過剰に多い場合には、水中油滴型エマルションの乳化安定性を確保し難い。
【0050】
〔その他の重要成分〕
本発明の皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物においては、上記した必須成分の他に重要成分として(D)成分:ワセリンを含有することが好ましい。(D)成分の含有量は限定されないが、皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物の0.1〜1.0質量%であることが好ましい。ワセリンの含有量が余りに少ないと第5発明に関して述べた効果を確保できず、そのように、皮膚外用剤組成物が更に(D)成分:ワセリンを含有する場合、その含有量が余りに多いと皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物のベタ付きを十分に防止できなくなる。
【0051】
〔任意的含有成分〕
本発明に係る皮膚保湿用液晶構造体あるいは皮膚外用剤組成物は、上記の各成分の他に、この種の皮膚外用剤に配合されることがある各種の成分を任意的に含有することができる。このような任意的含有成分として、上記(A)、(C)、(D)の各成分以外の油性成分、上記(B)成分以外の界面活性剤、多価アルコール、アミノ酸類、水溶性高分子、糖類、糖アルコール類、防腐剤、キレート剤、安定剤、pH調整剤、植物抽出物、ビタミン類、香料、紫外線吸収剤、美白剤、皮膚用柔軟化剤、殺菌剤、無機粉末、樹脂粉末、無機顔料、有機顔料、染料、抗炎症剤等を例示することができる。これらの任意的含有成分の含有量は必要に応じて適宜に決定すれば良い。これらの内の幾つかの任意的含有成分について以下に述べる。
【0052】
(油性成分)
常温で固体の高級アルコール、ミツロウ、ワセリン以外の油性成分として、常温で液状の高級アルコール、ミツロウ以外のロウ類、油脂、高級脂肪酸、アルキルグリセリルエーテル、エステル類、シリコーン類、炭化水素等が挙げられる。
【0053】
常温で液状の高級アルコールとしては、2−オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ホホバアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール等が挙げられる。
【0054】
ミツロウ以外のロウ類としては、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ホホバ油、ラノリン等が挙げられる。
【0055】
油脂としては、オリーブ油、ローズヒップ油、ツバキ油、シア脂、マカデミアナッツ油、アーモンド油、茶実油、サザンカ油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、牛脂、カカオ脂、トウモロコシ油、落花生油、ナタネ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、小麦胚芽油、ハトムギ油、ブドウ種子油、アボカド油、カロット油、マカダミアナッツ油、ヒマシ油、アマニ油、ヤシ油、ミンク油、卵黄油等が挙げられる。
【0056】
高級脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ウンデシレン酸、リノール酸、リシノール酸、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。
【0057】
アルキルグリセリルエーテルとしては、バチルアルコール(モノステアリルグリセリルエーテル)、キミルアルコール(モノセチルグリセリルエーテル)、セラキルアルコール(モノオレイルグリセリルエーテル)、イソステアリルグリセリルエーテル等が挙げられる。
【0058】
エステル類としては、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸−2−ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、イソオクタン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、セバシン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ステアリル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ミリスチン酸トリイソデシル、ミリスチン酸イソステアリル、パルミチン酸2−エチルへキシル、リシノール酸オクチルドデシル、脂肪酸(C10−30)(コレステリル/ラノステリル)、乳酸ラウリル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸オクチルドデシル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、カプリン酸セチル、トリカプリル酸グリセリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ラノリン誘導体等が挙げられる。
【0059】
シリコーン類としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、末端水酸基変性ジメチルポリシロキサン、脂肪酸変性ポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、グリセリン変性シリコーン、脂肪族アルコール変性ポリシロキサン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン等が挙げられる。
【0060】
炭化水素としては、α−オレフィンオリゴマー、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン、ポリブテン、パラフィン、ポリエチレン末、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン等が挙げられる。
【0061】
(界面活性剤)
エステル型非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤としては、エーテル型非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0062】
エーテル型非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、POEという。)セチルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POEオレイルエーテル、POEラウリルエーテル、POEオクチルドデシルエーテル、POEヘキシルデシルエーテル、POEイソステアリルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEオクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0063】
カチオン性界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0064】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩、POEラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ステアロイルメチルタウリンナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、POEラウリルエーテルリン酸及びその塩、N−ラウロイルグルタミン酸塩類、N−ラウロイルメチル−β−アラニン塩類等が挙げられる。
【0065】
両性界面活性剤としては、2−ウンデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、ココアミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0066】
(多価アルコール)
多価アルコールとしては、グリコール類、グリセリン類等が挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。グリセリン類としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等が挙げられる。多価アルコールは単独で配合しても良く複数種を組み合わせて配合しても良い。
【0067】
(アミノ酸類)
アミノ酸類としては、アミノ酸及びその塩が挙げられる。アミノ酸としては、グリシン、小麦アミノ酸、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、メチオニン等が挙げられる。アミノ酸類は単独で配合しても良く、複数種を組み合わせて配合しても良い。
【0068】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、デンプン、デキストラン、プルラン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例及び比較例によって限定されない。
【0070】
〔皮膚保湿用液晶構造体及び皮膚外用剤組成物の調製〕
末尾の表1、2に示す実施例1及び実施例12〜14に係るクリーム状の皮膚保湿用液晶構造体及び実施例2〜11に係るクリーム状の皮膚外用剤組成物を調製した。又、末尾の表3に示す比較例1〜比較例9に係る乳液状もしくはクリーム状の皮膚保湿用液晶構造体ないし皮膚外用剤組成物を調製した。
【0071】
表1〜表3において、各成分の含有量を示す数値は質量%単位で表記されている。又、表の左側欄外に「A」、「B」、「C」、「D」と記載した成分はそれぞれ本発明の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分であることを示し、同様に「A比」、「B比」と記載した成分はそれぞれ「(A)成分に対する比較用の成分」、「(B)成分に対する比較用の成分」であることを示す。更に、「C/B」の欄は、(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比(C)/(B)を表す。
【0072】
これらの皮膚保湿用液晶構造体や皮膚外用剤組成物の調製に当たり、その乳化はT.K.アヂホモミクサー(2M−03型)(特殊機化工業株式会社)を用いて乳化温度75℃、ホモミクサー回転数3000rpm、パドル回転数90rpmで行った。
【0073】
なお、比較例1〜3、8、9においては、上記の乳化を試みても油性成分と水が分離してしまい、皮膚保湿用液晶構造体もしくは皮膚外用剤組成物を形成できず、以下の各項目の評価を行うことができなかったため、評価項目は「−」と記入した。
【0074】
〔液晶形成評価〕
各例に係る調製後の皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物における液晶構造を偏光顕微鏡(OLYMPUS社製、システム生物顕微鏡BX51,総合倍率:×200(接眼レンズ:×10,対物レンズ:×20))により目視で確認した。10名のパネラーに「液晶構造が十分ある」、「液晶構造が不十分、又はない」の二者択一で評価させ、10名中、「十分ある」と回答したパネラーが10〜9名である場合が評価点5、8〜7名である場合が評価点4、6〜5名である場合が評価点3、4〜3名である場合が評価点2、2名以下である場合が評価点1とした。これらの評価点を表1、2の「液晶形成」の欄に示す。
【0075】
〔液晶安定性評価〕
各例に係る皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物の試料0.5gを被験者の前腕内側部の3cm四方の範囲に塗布した後、4時間を経過した時点で前腕内側部から採取し、再度、それらの液晶構造を偏光顕微鏡(OLYMPUS社製、システム生物顕微鏡BX51,総合倍率:×200(接眼レンズ:×10,対物レンズ:×20))により目視で確認した。液晶構造が「十分ある」場合を「○」、「ある」場合を「△」、「ない」場合を「×」とした。これらの評価結果を表1、2の「液晶安定性」の欄に示す。
【0076】
〔保湿性評価〕
実施例1に係る皮膚保湿用液晶構造体及び実施例2に係る皮膚外用剤組成物について保湿性評価を行った。即ち、被験者2名の前腕内側部の3cm四方の範囲について高感度角層膜厚・水分計ASA−MX(有限会社アサイバイオメッド社)装置を用いて予め角層水分を測定(予備測定)しておき、次いで1名の被験者の当該3cm四方の範囲に対しては、実施例1の皮膚保湿用液晶構造体の試料0.5gを、他の1名の被験者の当該3cm四方の範囲に対しては実施例2の皮膚外用剤組成物の試料0.5gを、それぞれ入浴後に毎日1回塗布するという操作を30日間継続した後、塗布を終了した。そして、塗布の終了後、1日を経過した時点で、これらの被験者の当該3cm四方の範囲の角層水分を再度測定(評価測定)した。
【0077】
その結果、実施例1の場合も、実施例2の場合も、予備測定の結果に対する評価測定の結果として角層水分量が20%向上しており、顕著な保湿性が確認された。
【0078】
〔皮膚刺激性評価〕
各例に係る皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物の試料0.5gを10名のパネラーの前腕内側部の3cm四方の範囲に塗布し、4時間の内に皮膚刺激があったか否かを評価した。各パネラーに「ある」、「ない」の二者択一で評価させ、10名中、「ない」と回答したパネラーが10〜7名である場合を「○」、6〜4名である場合を「△」、3名以下である場合を「×」とした。これらの評価結果を表1、2の「皮膚刺激性」の欄に示す。
【0079】
〔塗布感評価〕
各例に係る皮膚保湿用液晶構造体又は皮膚外用剤組成物の試料1gを10名のパネラーの手に取り、ハンドクリームを使用するように手に揉みこみ、塗布感(ベタつきのなさ及び肌への馴染み)を評価した。各パネラーに「塗布感が良い」、「塗布感が良くない」の二者択一で評価させ、10名中、「塗布感が良い」と回答したパネラーが10〜9名である場合が評価点5、8〜7名である場合が評価点4、6〜5名である場合が評価点3、4〜3名である場合が評価点2、2名以下である場合が評価点1とした。これらの評価結果を表1、2の「塗布感」の欄に示す。


【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、持続性と保湿性に優れると共に皮膚に対して低刺激性であり、しかもベタツキがなく肌に馴染みの良い皮膚外用剤組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分及び(B)成分を必須成分として構成される水中油滴型液晶構造を含むことを特徴とする皮膚保湿用液晶構造体。
(A)常温で固体の高級アルコールの1種以上 3〜15質量%
(B)エステル型非イオン性界面活性剤の1種以上
【請求項2】
下記(A)成分〜(C)成分を含有し、水中油滴型液晶構造を有することを特徴とする皮膚外用剤組成物。
(A)常温で固体の高級アルコールの1種以上 3〜15質量%
(B)エステル型非イオン性界面活性剤の1種以上
(C)ミツロウ 0.1〜4質量%
【請求項3】
前記(A)成分がセチルアルコール(セタノール)、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の含有量に対する前記(C)成分の含有量の質量比(C)/(B)が0.01〜4の範囲内であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項5】
前記皮膚外用剤組成物が更に下記(D)成分を含有することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の皮膚外用剤組成物。
(D)ワセリン

【図1】
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【公開番号】特開2013−49635(P2013−49635A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186982(P2011−186982)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】