説明

皮膚免疫力増強剤

【課題】新たな皮膚免疫力増強剤の提供。
【解決手段】ビタミンD3類を含有する皮膚免疫力増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外界からの刺激に対するバリアとしての皮膚免疫力増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は体の最も外側に存在しており、細菌などの外界からの刺激に対するバリアとしての役割を有している。皮膚においては、表皮細胞が基底細胞から有棘細胞、顆粒細胞、さらには角層細胞へと約4週間かけて変化(角化)し、これらの細胞中で細胞間脂質やNMF(天然保湿因子)、さらにはコーニファイドエンベローブを形成することによってバリア機能を成し遂げている。また皮膚中にはランゲルハンス細胞があり、抗原提示によって皮膚の免疫を担っている。しかし皮膚は紫外線を浴びることで、ランゲルハンス細胞が遊走し、免疫機能が低下することが知られている。
紫外線照射によって引き起こされる免疫機能低下に対する手段は、紫外線防御剤による予防が主であり、皮膚自体の免疫機能を向上させる皮膚免疫力強化剤は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、紫外線照射等によって低下した皮膚の免疫力を増強させるための薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者は、紫外線照射等によって低下した皮膚の免疫力を増強させる成分を探索すべく、皮膚が産生する抗菌タンパク質として知られているソラヤシン(S100A7)の発現量を指標とし、ソラヤシンの発現量を増加させる物質をスクリーニングした。その結果、全く意外にもビタミンD3類がソラヤシンの発現を顕著に増加させる作用を有し、皮膚免疫力増強剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、ビタミンD3類を含有する皮膚免疫力増強剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明皮膚免疫力増強剤は、紫外線照射等により皮膚組織中より遊走したランゲルハンス細胞の影響によって低下した皮膚免疫力を、皮膚中の抗菌物質であるソラヤシンの発現量の増強を介して増強する。またビタミンD3類は、安全性も高いので長期間使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられるビタミンD3類は、骨代謝に必要なビタミンであり、骨代謝異常症や副甲状腺機能低下症に用いられるが、ソラヤシンの発現増強作用や皮膚免疫に対する作用は知られていない。
【0008】
ビタミンD3類とは、プロビタミンD3(7−デヒドロコレステロール)、プレビタミンD3((6Z)−タカルシオール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、25−ヒドロキシビタミンD3、及び1,25−ジヒドロキシビタミンD3の総称である。
【0009】
後記実施例に示すように、ビタミンD3類を添加すると、皮膚由来細胞はソラヤシン遺伝子発現量を有意に増大する。ここで、ソラヤシンは、皮膚の角化とともにコーニファイドエンベローブの成分として生成されることが知られている抗菌性タンパク質であり、皮膚免疫機能の一部を担っている。従って、ビタミンD3類は、皮膚の抗菌作用を増強し、皮膚免疫力増強剤として有用である。
【0010】
本発明の皮膚免疫力増強剤は、経口、注射、外用のいずれでも薬効を発現するが、皮膚外用剤として用いるのが好ましい。皮膚外用剤には、皮膚化粧料、外用医薬部外品、医療用皮膚外用剤が含まれる。
【0011】
また、本発明の皮膚免疫力増強剤には、上記成分の他に医薬品や化粧品の各種製剤において使用されている界面活性剤、油性成分、保湿剤、高分子化合物、紫外線吸収剤、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、ビタミン類、色素、香料、水等を配合することができる。
【0012】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、天然、合成のいずれの界面活性剤も使用できるが、皮膚に対する刺激性を考慮すると非イオン性のものを使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド等が挙げられる。
【0013】
油性成分としては、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、精油類、シリコーン油類などを挙げることができる。油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等の合成トリグリセリド等が;ロウ類としては、例えばカルナバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が;炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、ブリスタン等が;高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が;高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等が;エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル等が;精油類としては、例えばハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等が;シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これら上述の油性成分は一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、このうち特にミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、オクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、ミリスチレン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル、ハッカ油、トウヒ油、ケイ皮油、ローズ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ピネン、リモネン、ジメチルポリシロキサンを使用することが好ましい。
【0014】
本発明の皮膚免疫力増強剤には、さらに下記のような成分を配合することができるが、その成分もこれらに限定されるものではない。
(a)色素類;黄色4号、青色1号、黄色202号等の厚生省令に定められたタール色素別表I及びIIの色素、クロロフィル、リボフラビン、クロシン、紅花、アントラキノン等の食品添加物として認められている天然色素等。
(b)ビタミン類;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等。
(c)その他;殺菌剤、防腐剤、その他製剤上必要な成分等。
【0015】
本発明の皮膚免疫力増強剤は、前記必須成分に必要に応じて前記任意成分を加え、常法に従って製造することができ、クリーム、乳液、化粧水等の形態とすることができる。
【0016】
本発明の皮膚免疫力増強剤中には、ビタミンD3類を成分1日投与量として0.01μg〜100mg、特に0.1μg〜10mg配合するのが好ましい。また、本発明の皮膚免疫力増強剤中に、ビタミンD3類は1μg〜1g/100g、特に10μg〜100mg/100g含有するのが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0018】
実施例1
<試験方法>
4系代目の人包皮由来ケラチノサイトを6ウェルのプレート1ウェルあたり2.25×105個播種し、3日間培養(37℃、95%Air、5%CO2)して70%コンフルエントにする。そして、ビタミンD3を加えて、24時間培養する。その後、上清を捨てて、細胞を完全に溶解する。全RNAを抽出し、RNAを逆転写してcDNAを作成し、定量リアルタイムPCRを用いてソラヤシンの遺伝子発現量を検出した。
<試験結果>
結果を図1に示す。
その結果、ビタミンD3を400nM加えることによって、ケラチノサイトのソラヤシンの遺伝子発現量を増加させることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ビタミンD3によるソラヤシン発現増強作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンD3類を含有する皮膚免疫力増強剤。
【請求項2】
紫外線照射により低下した皮膚免疫力を増強する薬剤である請求項1記載の皮膚免疫力増強剤。
【請求項3】
ソラヤシン増強剤である請求項1又は2記載の皮膚免疫力増強剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83837(P2010−83837A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257036(P2008−257036)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【Fターム(参考)】